(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】挟持具
(51)【国際特許分類】
B65D 81/24 20060101AFI20231113BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20231113BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20231113BHJP
【FI】
B65D81/24
C12M1/00 A
C12M3/00 Z
(21)【出願番号】P 2020561484
(86)(22)【出願日】2019-12-18
(86)【国際出願番号】 JP2019049530
(87)【国際公開番号】W WO2020130015
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2018236020
(32)【優先日】2018-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】車 陽介
(72)【発明者】
【氏名】水本 健太
(72)【発明者】
【氏名】竹内 稔和
(72)【発明者】
【氏名】竹内 涼平
【審査官】杉田 剛謙
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/041593(WO,A1)
【文献】特開2013-039103(JP,A)
【文献】国際公開第2013/176106(WO,A1)
【文献】特開2013-128457(JP,A)
【文献】国際公開第2016/208018(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/082261(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/017466(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 81/24
C12M 1/00
C12M 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器および該容器のための蓋部材を挟み込むように装着して用いる挟持具であって、容器を設置するベース部材と、蓋部材を覆うカバー部材とを含み、ベース部材およびカバー部材は、中央部に開口を有し、カバー部材とベース部材とを互いに係合させて、容器と蓋部材とを上下から押圧して挟持できるように構成されており、
ベース部材は、その載置面上に蓋部材の側面を固定してベース部材に対する蓋部材の位置決めを行うための環状または半環状の突設壁を有する、前記挟持具。
【請求項2】
複数の突設壁が間隙を空けて設けられる、請求項
1に記載の挟持具。
【請求項3】
突設壁の一部に切り欠きが設けられている、請求項
1または
2に記載の挟持具。
【請求項4】
ベース部材が、その載置面上に容器の下端を取り囲みベース部材に対する容器の位置決めを行うための環状または半環状の突条部を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の挟持具。
【請求項5】
突設壁が突条部の外側に設けられる、請求項1~4のいずれか一項に記載の挟持具。
【請求項6】
ベース部材が、作業面への張り付きを防止するための溝部を下面に有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の挟持具。
【請求項7】
カバー部材が、カバー部材を把持するためのグリップ部を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の挟持具。
【請求項8】
容器および蓋部材が、光透過性の材料で構成されている、請求項1~7のいずれか一項に記載の挟持具。
【請求項9】
容器と蓋部材との間に弾性のシール部材が介在している、請求項1~8のいずれか一項に記載の挟持具。
【請求項10】
容器に収容する収容物が、シート状細胞培養物である、請求項1~9のいずれか一項に記載の挟持具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、挟持具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、重症心不全治療の解決策として新しい再生医療の開発が進められている。その一例として、重症心筋梗塞等において組織工学を応用した温度応答性培養皿を用いて作製したシート状細胞培養物を心臓表面に適用する手法などが試みられている。シート状細胞培養物を用いる手法は、大量の細胞を広範囲に安全に移植することが可能であり、例えば、心筋梗塞(心筋梗塞に伴う慢性心不全を含む)、拡張型心筋症、虚血性心筋症、収縮機能障害(例えば、左室収縮機能障害)を伴う心疾患(例えば、心不全、特に慢性心不全)などの治療にとくに有用である。
【0003】
このようなシート状細胞培養物を臨床応用するには、例えば、作製されたシート状細胞培養物を保存液と共に容器内に収容し、移植が行われる集中治療室などに移送する必要がある。しかしながら、シート状細胞培養物は絶対的な物理的強度が低く、容器を移送する際などに生じる振動で、皺、破れ、破損などが生じることから、この移送作業には高度な技術が要求され、かつ細心の注意を払う必要がある。
【0004】
このようなニーズに応えるために、種々の方法や容器が開発されている。例えば、下記特許文献1に記載された膜状組織の保存輸送容器は、収容部内を気体層が形成されることがない程度に保存液で満たすことで、保存液が波打ったり流動したりせず、結果的に、膜状組織に振動が伝わらず、膜状組織の破損を防止できるようになっている。さらに、容器本体と蓋部材とを弾性的に挟圧するクリップ形状の結合機構で、結合をより簡易に行うことができる工夫がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のようなクリップ機構では、蓋部材と容器と安定的に密着させることができないなどの問題がある。
【0007】
本発明はこのような点を考慮してなされたものであり、簡便な機構と、簡単な作業で効率よく確実に容器と蓋とを密着させることができる挟持具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、以下に関する。
[1]容器および該容器のための蓋部材を挟み込むように装着して用いる挟持具であって、容器を設置するベース部材と、蓋部材を覆うカバー部材とを含み、ベース部材およびカバー部材は、中央部に開口を有し、カバー部材とベース部材とを互いに係合させて、容器と蓋部材とを上下から押圧して挟持できるように構成されている、前記挟持具。
【0009】
[2]ベース部材が、ベース部材に対する容器の位置決めを行うための環状または半環状に配置された突条部を有する、[1]に記載の挟持具。
[3]ベース部材が、ベース部材に対する蓋部材の位置決めを行うための環状または半環状に配置された突設壁を有する、[1]または[2]に記載の挟持具。
【0010】
[4]ベース部材が、作業面への張り付きを防止するための溝部を下面に有する、[1]~[3]のいずれか一つに記載の挟持具。
[5]カバー部材が、カバー部材を把持するためのグリップ部を有する、[1]~[4]のいずれか一つに記載の挟持具。
【0011】
[6]容器および蓋部材が、光透過性の材料で構成されている、[1]~[5]のいずれか一つに記載の挟持具。
[7]容器と蓋部材との間に弾性のシール部材が介在している、[1]~[6]のいずれか一つに記載の挟持具。
[8]容器に収容する収容物が、シート状細胞培養物である、[1]~[7]のいずれか一つに記載の挟持具。
【発明の効果】
【0012】
本発明の挟持具によれば、簡便な機構と、簡単な作業で効率よく容器と蓋とを密着させることができるため、作業性や製造コストの点において大きなメリットがある。また、容器内の収容物を外側から視認できるため、収容物の状態や異物の混入などを簡単に確認することができる。さらに、容器と蓋部材との相対的な位置関係を正確に合わせることができるため、密閉性が高まる。特に、容器と蓋部材との間に弾性のシール部材を介在させる場合は、シール部材を正確に押圧することができるため、密閉性がより高まる。
【0013】
本発明の挟持具によれば、容器と蓋部材とを確実に密着させて固定できるため、移送中に蓋部材が容器から外れるなどの問題を防止できる。特に、収容物がシート状細胞培養物の積層体である場合に、容器内を確実に液密状態にして移送することができ、容器内に気泡が入り込んで移動し、積層体がズレたり欠損したりすることが防止でき、その形状を保持して変形を防止しつつ、長期保存することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る挟持具7の斜視図である。
【
図2】
図2は、第2実施形態に係る挟持具7Aの斜視図である。
【
図3】
図3は、第3実施形態に係る挟持具7Bの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明における脆弱物とは、物理的強度が低く、液体の揺れなどによって、破れ、破損、変形などが生じ得る物体をいう。かかる物体の形状としては、薄肉部を有する物体、帯形状を有する物体、シート形状を有する物体などが挙げられる。かかるシート形状を有する物体としては、とくに限定されないが、シート状構造物、例えば、シート状細胞培養物などの、生体由来材料からなる平膜状の膜組織や、プラスチック、紙、織布、不織布、金属、高分子、脂質といった種々の材質のフィルム等が含まれる。これらのうち、液体中で難分解性のもの、液体中で難崩壊性のものなどが好ましい。シート状構造物は、多角形や円形などであってもよく、幅、厚み、直径などは一様であってもなくてもよい。本発明におけるシート状構造物は、1枚のみを単層の状態で使用してもよいし、2枚以上を重ねた積層体の状態で使用してもよい。後者の場合、積層体の各層は互いに連結していても、連結していなくてもよく、連結している場合は、重なり合っている部分が全て連結していても、部分的に連結していてもよい。また、本発明において脆弱とは、例えば、液体外で物体のつかみ具への固定がなされる従来の引張試験機(例えば、JIS K 7161等に記載のもの)での引張特性の評価が、その脆弱性のために困難であるか、実質的に不可能であることを指す。かかる脆弱な物体としては、例えば、引張特性の各数値が小さく、従来の引張試験機では正確に測定することが困難な物体などが挙げられる。かかる脆弱物としては、引張試験において、例えば、10N(ニュートン)未満、5N未満、2N未満、1N未満、0.5N未満、0.1N未満、0.05N未満の破断荷重を示すものが挙げられる。また、従来の引張試験の測定限界は、破断荷重として一般に1N程度であるため、本発明の一態様においては、これを下回る破断荷重(例えば、0.5N未満)を示すものが脆弱物として好ましい。
【0016】
本発明において、移植片とは、比較的に物理的強度が低い生体由来の脆弱物をいう。移植片は培養した細胞(例えば細胞培養物など)や採取された細胞を含む。移植片はさらに細胞が産生した産生物を含むことがある。移植片は細胞および/または細胞の産生物のほかに、生体の所定部(例えば患部等)を補填および/または支持するための材料(補填材料や支持材料)なども含むことができる。移植片はシート状、膜状、塊状、柱状等の種々の形状をとることができる。移植片は生体への移植などに用いられる。移植片の一例としては、3次元細胞組織(オルガノイド、スフェロイド等)、2次元細胞組織(シート状細胞培養物等)などが挙げられる。
本発明において、シート状細胞培養物とは、細胞が互いに連結してシート状になったものをいう。細胞同士は、直接(接着分子などの細胞要素を介するものを含む)および/または介在物質を介して、互いに連結していてもよい。介在物質としては、細胞同士を少なくとも物理的(機械的)に連結し得る物質であれば特に限定されないが、例えば、細胞外マトリックスなどが挙げられる。介在物質は、好ましくは細胞由来のもの、特に、シート状細胞培養物を構成する細胞に由来するものである。細胞は少なくとも物理的(機械的)に連結されるが、さらに機能的、例えば、化学的、電気的に連結されてもよい。シート状細胞培養物は、1の細胞層から構成されるもの(単層)であっても、2以上の細胞層から構成されるもの(多層体)であってもよい。また、シート状細胞培養物は、細胞が明確な層構造を示すことなく、細胞1個分の厚みを超える厚みを有する3次元構造を有してもよい。例えば、シート状細胞培養物の垂直断面において、細胞が水平方向に均一に整列することなく、不均一に(例えば、モザイク状に)配置された状態で存在していてもよい。シート状細胞培養物は、独立して形成された単一の(一枚の)シート状細胞培養物として存在してもよく、また独立した単一の(一枚の)シート状細胞培養物が二以上積層されて形成された積層体として存在してもよい。積層体は、例えばシート状細胞培養物が2層(2枚)、3層(3枚)、4層(4枚)、5層(5枚)、または6層(6枚)積層された積層体であってよい。
【0017】
本発明におけるシート状細胞培養物は、上記の構造を形成し得る任意の細胞から構成される。かかる細胞の例としては、限定されずに、接着細胞(付着性細胞)を含む。接着細胞は、例えば、接着性の体細胞(例えば、心筋細胞、線維芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、肝細胞、膵細胞、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞、滑膜細胞、軟骨細胞など)および幹細胞(例えば、筋芽細胞、心臓幹細胞などの組織幹細胞、胚性幹細胞、iPS(induced pluripotent stem)細胞などの多能性幹細胞、間葉系幹細胞等)などを含む。体細胞は、幹細胞、特にiPS細胞から分化させたものであってもよい。シート状細胞培養物を形成し得る細胞の非限定例としては、例えば、筋芽細胞(例えば、骨格筋芽細胞など)、間葉系幹細胞(例えば、骨髄、脂肪組織、末梢血、皮膚、毛根、筋組織、子宮内膜、胎盤、臍帯血由来のものなど)、心筋細胞、線維芽細胞、心臓幹細胞、胚性幹細胞、iPS細胞、滑膜細胞、軟骨細胞、上皮細胞(例えば、口腔粘膜上皮細胞、網膜色素上皮細胞、鼻粘膜上皮細胞など)、内皮細胞(例えば、血管内皮細胞など)、肝細胞(例えば、肝実質細胞など)、膵細胞(例えば、膵島細胞など)、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞等が挙げられる。本明細書においては、単層の細胞培養物を形成するもの、例えば、筋芽細胞または心筋細胞などが好ましく、とくに好ましくは骨格筋芽細胞またはiPS細胞由来の心筋細胞である。
【0018】
細胞は、細胞培養物による治療が可能な任意の生物に由来し得る。かかる生物には、とくに限定されないが、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジなどが含まれる。また、シート状細胞培養物の形成に用いる細胞は1種類のみであってもよいが、2種類以上の細胞を用いることもできる。本発明の好ましい態様において、細胞培養物を形成する細胞が2種類以上ある場合、最も多い細胞の比率(純度)は、細胞培養物製造終了時において、例えば骨格筋芽細胞の場合、65%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上である。
【0019】
本発明におけるシート状細胞培養物は、スキャフォールド(細胞培養時の足場)に細胞を播種し、培養することによって得られるシート形状の培養組織などでもよいが、好ましくは、細胞培養物を構成する細胞由来の物質のみからなり、それら以外の物質を含まない。
シート状細胞培養物は、任意の既知の手法によって製造されたものであってよい。
【0020】
本発明の一態様において、シート状細胞培養物は、シート状骨格筋芽細胞培養物である。これは、シート状骨格筋芽細胞培養物は、その一部をつかむと自重で破断するほど脆弱であるがゆえに、従来単体で移送することができないばかりか、一度折り重なると元の形状に戻すことが極めて困難なため、液中でシート形状を維持することに大きな意義があるからである。
【0021】
本発明において、容器は、内部に脆弱物、液体などを収容でき、液体が漏出しないものであればとくに限定されず、市販の容器を含む任意のものを用いることができる。容器の材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ナイロン6,6、ポリビニルアルコール、セルロース、シリコン、ポリスチレン、ガラス、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、金属(例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、真鍮)等が挙げられるがこれに限定されない。また、容器は、脆弱物の形状を維持するための少なくとも1つの平坦な底面を有することが好ましく、例えば、シャーレ、細胞培養皿、細胞培養ボトルなどが挙げられるがこれに限定されない。平坦な底面の面積は、特に限定されないが、典型的には、9.1~78.5cm2、1.13~78.5cm2、好ましくは12.6~78.5cm2、より好ましくは9.1~60.8cm2である。
【0022】
本発明において、容器内の液体は、少なくとも1種の成分から構成され、その成分としてはとくに限定されないが、例えば、水、水溶液、非水溶液、懸濁液、乳液などの液体から構成される。
本明細書における液または液体とは、全体として流動性を有する流体であればよく、細胞足場などの固形物質や気泡などその他非液体成分を含んでもよい。
【0023】
容器内の液体を構成する成分は、脆弱物に与える影響が少ないものであればとくに限定されない。脆弱物が生体由来材料からなる膜である場合、容器内の液体を構成する成分は、生物学的安定性や長期保存可能性の観点から、生体適合性のもの、すなわち、生体組織や細胞に対して炎症反応、免疫反応、中毒反応などの望まない作用を起こさないか、少なくともかかる作用が小さいものが好ましく、例えば、水、生理食塩水、生理緩衝液(例えば、HBSS、PBS、EBSS、Hepes、重炭酸ナトリウム等)、培地(例えば、DMEM、MEM、F12、DMEM/F12、DME、RPMI1640、MCDB、L15、SkBM、RITC80-7、IMDM等)、糖液(スクロース溶液、Ficoll-paque(登録商標)PLUS等)、海水、血清含有溶液、レノグラフィン(登録商標)溶液、メトリザミド溶液、メグルミン溶液、グリセリン、エチレングリコール、アンモニア、ベンゼン、トルエン、アセトン、エチルアルコール、ベンゾール、オイル、ミネラルオイル、動物脂、植物油、オリーブ油、コロイド溶液、流動パラフィン、テレピン油、アマニ油、ヒマシ油などが挙げられる。
【0024】
脆弱物がシート状細胞培養物である場合、容器内の液体を構成する成分は、細胞を安定して保存することができ、細胞生存に必要な最低限の酸素や栄養等を含み、細胞を浸透圧等により破壊しないものが好ましく、例えば、生理食塩水、生理緩衝液(例えば、HBSS、PBS、EBSS、Hepes、重炭酸ナトリウム等)、培地(例えば、DMEM、MEM、F12、DMEM/F12、DME、RPMI1640、MCDB、L15、SkBM、RITC80-7、IMDM等)、糖液(スクロース溶液、Ficoll-paque PLUS(登録商標)等)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
容器内の液体の量は、蓋部材を容器に取り付けた状態で脆弱物を保持できる程度であって、容器の底部と蓋部材との間に形成される液嵩が、脆弱物が液中で揺動しない(揺れ動かない)程度の高さであればとくに限定されない。すなわち、液面と蓋部材との間に空間が生じると、液体(液面)が揺れ動き、脆弱物が液中で揺れ動きやすくなるため、液面と蓋部材との間に空間が生じないように液嵩を調整することが好ましい。本発明の一態様において、シート状細胞培養物の直径は約35~55mmであり、面積は6cm2以上、または10cm2以上である。上記液嵩は、シート状細胞培養物の直径に関わらず、例えば、1.0mm~20.0mmとすることができる。
【0026】
本発明において、蓋部材は、容器を密閉できるものであればとくに限定されない。蓋部材の材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ナイロン6,6、ポリビニルアルコール、セルロース、シリコン、ポリスチレン、ガラス、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、金属(例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、真鍮)等が挙げられるがこれに限定されない。
【0027】
本発明において、蓋部材および容器の形状は、蓋部材と容器とが係合可能で、かかる係合により密閉空間が形成され得る限り、特に限定されない。例えば、容器が汎用シャーレである場合は、蓋部材の形状を円形にすることが好ましい。また、蓋部材および/または容器を光透過性の材料で構成することで、容器に収容されている脆弱物の状態や、液体中の気泡の有無を確認できるようにしてもよい。
【0028】
本発明において、脆弱物は液体が収容された容器内の液体中に保持される。脆弱物の液体中での位置は、特に限定されないが、蓋部材を容器に取り付けて密閉空間を形成した状態で、蓋部材と脆弱物とが接触しない位置に配置される(または接触してもよい)。好ましくは、脆弱物は、容器の液体中で、容器の底面上、底面付近などに配置される。
【0029】
本発明において、シール部材とは、容器と蓋部材との間に介在して容器の密閉性を高めるための部材をいい、例えば、パッキンリングなどが挙げられる。
シール部材は、容器や蓋部材の製造公差などを吸収し、容器の密閉性を高めるために、弾性材料で構成することが好ましい。弾性材料としては、天然ゴム、エラストマー、ニトリルゴム、シリコンゴム等が挙げられるが、これに限定されない。
【0030】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る挟持具7の斜視図、
図2は、本発明の第2実施形態に係る挟持具7Aの斜視図、
図3は、本発明の第3実施形態に係る挟持具7Bの斜視図である。なお、本願における各図において、説明を容易とするため、各部材の大きさは、適宜強調されており、図示の各部材は、実際の大きさを示すものではない。また、
【0031】
〔第1実施形態〕
図1に示すように、本実施形態に係る挟持具7は、ベース部材8およびカバー部材9を含む。挟持具7は、容器2および容器2を密閉するための蓋部材3を含むデバイス1を上下から挟み込むように押圧して挟持することができる。容器2は、開口を取り囲む縁部21を有する市販のシャーレ形状を有し、収容物S(例えば、脆弱物)を収容できる収容空間を構成する。蓋部材3は、天板部32と、天板部32の周縁から垂下する筒状スカート壁34とを含み、容器2に係着して密閉空間を形成できるように構成されている。
【0032】
ベース部材8およびカバー部材9は、共に円形形状を有しており、デバイス1を上下から適切に押圧することができる。ベース部材8は、開口部81、底部82、螺合部(係合部)83、載置部84および突条部85を含む。本実施形態において係合は螺合である。載置部84は、容器2を載置することができる載置面を上面に有し、中央部には開口部81が設けられている。載置部84は、容器2を載置面に載置した際に容器2の下端を取り囲む環状の突条部85(細長いリッジ)を有し、ベース部材8に対する容器2の設置位置を画定することができる。載置部84は、底部82から上方に突出する円盤形状を有しており、その側周面には螺合部83が設けられている。底部82は、載置部84の外径より大きな外径を有しており、テーブルなどにベース部材8を設置する際の底部としての役割を果たす。
【0033】
カバー部材9は、開口部91、天部92、螺合部(係合部)93、筒状スカート壁94およびグリップ部95を含む。天部92は、蓋部材3の上面を覆うことができるカバー面を有し、中央部には開口部91が設けられている。天部92は、天部92の周縁から垂下する筒状スカート壁94を含み、天部92、筒状スカート壁94および載置部84で、デバイス1を取り囲むようにして挟持することができる。筒状スカート壁94下端部の内周面には螺合部93(図示せず)が設けられており、かかる螺合部93をベース部材8の螺合部83と螺合させることにより、カバー部材9をベース部材8に螺着させることができる。任意に、筒状スカート壁94の少なくとも一部(例えば、筒状スカート壁94上端部の内周面)の内径を、蓋部材3の外径と合わせることにより、挟持具7に対する蓋部材3の設置位置を画定させることもできる。
【0034】
挟持具7を使用する際は、収容物Sが収容された容器2に蓋部材3を被せる。この際に、任意に、容器2内を液体Lで満たした状態で蓋部材3を被せることで、液密空間を形成することもできる。また、任意に、容器2の縁部21と蓋部材3の天板部32との間にシール部材6を介在させたり、容器2と蓋部材3との間の好適な位置に、他のシール部材(図示せず)を介在させたりして、密閉性を高めることもできる。次に、容器2をベース部材8に設置するが、この際に、突条部85を利用して容器2を載置部84の中央に位置決めすることができる。また、ベース部材8の螺合部83は、載置部84より下側に設けられている、すなわち、螺合部83が容器2の側面を取り囲む構造ではないため、容器2を載置部84に設置/除去する際に、容器2を横方向にスライドさせることで振動を抑えることができる。次に、カバー部材9をベース部材8に取り付けるが、この際に、筒状スカート壁94を利用して蓋部材3をカバー部材9(およびベース部材8)の中央に位置決めすることもできる。
【0035】
このように、挟持具7は、ベース部材8の突条部85と、カバー部材9の筒状スカート壁94とを利用して、容器2と蓋部材3との相対位置を画定することができる。デバイス1を挟持する際には、ベース部材8の螺合部83と、カバー部材9の螺合部93とを螺合させる。この際に、筒状スカート壁94の外周面に突出部(溝部でもよい)として設けられているグリップ部95を把持して螺合作業を行うことにより、容器2と蓋部材3とを上下から強い力で締め付けることができる。これは、例えば、容器2が汎用シャーレのような螺合部を有さない容器である場合の使用に適しており、汎用性が高い。そして、特に、弾性のシール部材を介在させている場合に、正確に相対位置が確定された容器2と蓋部材3との間で、シール部材が正確に圧縮されて密閉性が高まるため有利である。カバー部材9は、ベース部材8の螺合部83の高さ分だけ螺合させればよく、挟持作業が容易である上に、挟持圧力を容易に調節できるため、デバイス1を破壊するなどの問題を防止することができる。
【0036】
ベース部材8およびカバー部材9は、共に中央部に開口部81、開口部91を有しているため、デバイス1の固定位置や、デバイス1内に収容されている液体Lや収容物Sなどの状態を常時観察することができる。これは、容器2および蓋部材3が、光透過性の材料で構成されている場合に、特に有利である。そして、収容物Sが、シート状細胞培養のような視認性が低い物であっても、一方の開口部から光を放射し、他方の開口部からシート状細胞培養を視認できるため、有利である。また、上記のように液密空間を形成する場合は、開口部91を介して容器2内に気泡や異物などが混入していないかを確認しながら、蓋部材3を容器2に押し付けることができる。次に、デバイス1を移送するが、デバイス1は、挟持具7で強固に挟持されているため、移送中の揺れなどによって蓋部材3が容器2から外れるなどの問題を防止でき、周囲が挟持具7で取り囲まれているため、外部からの衝撃から保護される。最後に、移送先でデバイス1から挟持具7を取り外して使用する。
【0037】
本発明を図示の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、螺合部83および螺合部93は、スライド係合(例えば、特開2006-315757参照)、フランジ嵌合(例えば、特開2006-001582参照)、突条係合(例えば、特開2016-203985参照)など、デバイス1を上下方向から押圧する機能を有する他の係合手段に置き換えることができる。環状の突条部85は、環状に配置された複数の突起など、容器2を載置面上で位置決めできる他の手段に置き換えることができる。収容物Sとして、例えば、脆弱物(例えば、シート状細胞培養の積層体)を収容することもでき、この場合は、容器2内を液密にすることで脆弱物の形状を保持しながら移送することもできる。
【0038】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態について説明する。以下、第1実施形態との相違点について詳細に説明し、同様の事項については、説明を省略する。なお、本願における各図において、説明を容易とするため、各部材の大きさは、適宜強調されており、図示の各部材は、実際の大きさを示すものではない。
【0039】
図2に示すように、本実施形態に係る挟持具7Aは、ベース部材8Aおよびカバー部材9Aを含む。本実施形態において、ベース部材8Aは、突設壁86、溝部87および切り欠き部88をさらに含む。突設壁86は、突条部85の外側に複数設けられる、載置部84から容器2の高さを越えて突設された壁である。ベース部材8Aの底部82下面には、溝部87が設けられており、ベース部材8Aをテーブルなどに設置した際に、ベース部材8Aが作業面に張り付くことを防止することができる。
【0040】
挟持具7Aを使用する際は、容器2(図示せず)を突条部85を利用してベース部材8の中央に位置決めする。次に、容器2に蓋部材3(図示せず)を被せる際に、蓋部材3を突設壁86に沿わせることで、蓋部材3をベース部材8の中央に位置決めすることができる。すなわち、作業者は、ベース部材8Aの突条部85と突設壁86とを利用して、容器2と蓋部材3との相対位置を画定することができる。これは、特に、容器2と蓋部材3との間に環状のシール部材を介在させている場合に、シール部材を正確に押圧できるため有利である。
【0041】
次に、デバイス1(図示せず)を挟持するが、この際に、カバー部材9Aから放射状に突出する突出部として構成されているグリップ部95と、ベース部材8Aの底部82側面に設けられている切り欠き部88とを把持することで螺合作業を容易に行うことができる。デバイス1を使用する際は、カバー部材9Aの螺合を解除してデバイス1をベース部材8Aから取り外すが、この際に、複数の突設壁86の隙間からデバイス1が露出しているためデバイス1を掴みやすい。また、複数の突設壁86は、容器2を取り囲むように配置されているため、蓋部材3を容器2に対して正確に位置決めすることができる。
【0042】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態について説明する。以下、第1実施形態および第2実施形態との相違点について詳細に説明し、同様の事項については、説明を省略する。なお、本願における各図において、説明を容易とするため、各部材の大きさは、適宜強調されており、図示の各部材は、実際の大きさを示すものではない。
【0043】
図3に示すように、本実施形態に係る挟持具7Bは、カバー部材(図示せず)と、ベース部材8Bとを含む。ベース部材8Bは、載置部84B、突条部85Bおよび突設壁86Bを含む(他の構成の説明は省略)。突条部85Bは、載置部84B上に半環状に配置されている。突設壁86Bは、突条部85Bの外側に半環状に配置されており、一部に切り欠き(隙間)Cが設けられている(2以上の突設壁86Bを半環状に隙間を設けて配置してもよい)。すなわち、本実施形態において、載置部84Bの載置面の片側半分(突条部85Bおよび突設壁86Bの反対側半分)は、平坦な面として構成されている。
【0044】
挟持具7Bを使用する際は、容器2(図示せず)を突条部85Bおよび突設壁86Bの反対側から横方向(突条部85Bおよび突設壁86Bの方向)にスライドさせるようにして設置する。この際に、容器2を載置部84Bの平坦な面上で滑らせることで、容器2の不用意な振動を抑えることができる。次に、蓋部材3(図示せず)を容器2に取り付けるが、この際に、蓋部材3をベース部材8Bの突設壁86Bに押し付けることで、蓋部材3を容器2に対して正確に位置決めすることができる。デバイス1(図示せず)を使用する際は、デバイス1をベース部材8Aから取り外すが、この際に、切り欠きCから露出しているデバイス1(容器2および/または蓋部材3)の側面を押し込むことで、デバイス1を平坦な面上でスライドさせるようにして取り外すことができる。デバイス1をベース部材8A上でスライドさせる際のスライド方向が分かりやすいように、載置部84B上の切り欠きCと対向する側に目印となる突起部89を設けてもよい。これにより、デバイス1を突起部89と切り欠きCとの間でスライドさせるだけで、デバイス1を載置部84B上に正確に位置決めすることができる。また、突起部89を突条部85Bの延長線上に、切り欠きCと対向するように配置し、デバイス1の側面が突起部89で係止されるように構成することで、デバイス1がズレないようにすることもできる。
【0045】
以上、本願発明の第1~3実施形態に係る挟持具によれば、簡便な機構と、簡単な作業で効率よく容器と蓋とを密着させることができるため、作業性や製造コストの点において大きなメリットがある。また、容器内の収容物を外側から視認できるため、収容物の状態や異物の混入などを簡単に確認することができる。さらに、容器と蓋部材との相対的な位置関係を正確に合わせることができるため、密閉性が高まる。特に、容器と蓋部材との間に弾性のシール部材を介在させる場合は、シール部材を正確に押圧することができるため、密閉性がより高まる。
【0046】
また、本発明の挟持具によれば、容器と蓋部材とを確実に密着させて固定できるため、移送中に蓋部材が容器から外れるなどの問題を防止できる。特に、収容物がシート状細胞培養物の積層体である場合に、容器内を確実に液密状態にして移送することができ、容器内に気泡が入り込んで移動し、積層体がズレたり欠損したりすることが防止でき、その形状を保持して変形を防止しつつ、長期保存することができる。
【0047】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、当業者は、上記の実施形態1~3に係る挟持具の各構成およびその形状を好適に組み合わせて、異なる構成や形状を有する挟持具を実現することができる。例えば、カバー部材9またはカバー部材9Aを、ベース部材8、ベース部材8Aまたはベース部材8Bと組み合わせてもよいし、突条部85、突条部85B、突設壁86または突設壁86Bを、ベース部材8、ベース部材8Aまたはベース部材8Bと組み合わせてもよい。
本発明においては、各構成は、同様の機能を発揮し得る任意のものと置換することができ、あるいは、任意の構成を付加することもできる。
【符号の説明】
【0048】
1 デバイス
2 容器
21 縁部
3 蓋部材
32 天板部
34 筒状スカート壁
【0049】
6 シール部材
7,7A,7B 挟持具
8,8A,8B ベース部材
81 開口部
82 底部
83 係合部
84 載置部
85,85B 突条部
86,86B 突設壁
87 溝部
88 切り欠き部
89 突起部
【0050】
9,9A カバー部材
91 開口部
92 天部
93 係合部
94 筒状スカート壁
95 グリップ部