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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】常伝導電磁石システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20231113BHJP
   A61N 5/10 20060101ALI20231113BHJP
   H01F 7/20 20060101ALI20231113BHJP
【FI】
A61B5/055 331
A61B5/055 390
A61N5/10 M
H01F7/20 C
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020563985
(86)(22)【出願日】2018-11-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-14
(86)【国際出願番号】 US2018059245
(87)【国際公開番号】W WO2019221781
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2021-04-12
(31)【優先権主張番号】62/672,525
(32)【優先日】2018-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/677,546
(32)【優先日】2018-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512129837
【氏名又は名称】ビューレイ・テクノロジーズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ViewRay Technologies, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100126572
【弁理士】
【氏名又は名称】村越 智史
(72)【発明者】
【氏名】デンプシー, ジェイムズ エフ.
(72)【発明者】
【氏名】ダル フォルノ, マッシモ
(72)【発明者】
【氏名】シュワルツマン, シュマーリュ
(72)【発明者】
【氏名】レイナー, デビッド エル.
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-281934(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0174172(US,A1)
【文献】特表2014-519382(JP,A)
【文献】特開2008-130947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
A61N 5/00
H01F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気共鳴撮像(MRI)システムであって、
導体を有する全身MRI用の常伝導ソレノイド状電磁石と、
前記電磁石のエンベロープ内に設けられる強磁性材料と
を備える、システム。
【請求項2】
前記電磁石にはギャップが設けられている、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記電磁石は、前記電磁石内において、1つの周方向にのみ電流フローが発生するよう構成されている、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記導体は直接冷却され、銅であり、前記電磁石は磁場強度が少なくとも0.12テスラであり、電源は25kW未満であるか、または、前記電磁石は磁場強度が少なくとも0.2テスラであり、電源は55kW未満である、請求項2に記載のシステム。
【請求項5】
前記導体は直接冷却され、アルミニウムであり、前記電磁石は磁場強度が少なくとも0.12テスラであり、電源は40kW未満であるか、または、前記電磁石は磁場強度が少なくとも0.2テスラであり、電源は90kW未満である、請求項2に記載のシステム。
【請求項6】
前記導体は間接的に冷却され、銅であり、前記電磁石は磁場強度が少なくとも0.12テスラであり、電源は20kW未満であるか、または、前記電磁石は磁場強度が少なくとも0.2テスラであり、電源は45kW未満である、請求項2に記載のシステム。
【請求項7】
前記導体は間接的に冷却され、アルミニウムであり、前記電磁石は磁場強度が少なくとも0.12テスラであり、電源は35kW未満であるか、または、前記電磁石は磁場強度が少なくとも0.2テスラであり、電源は70kW未満である、請求項2に記載のシステム。
【請求項8】
前記電磁石は2つの部分に二分割されており、前記2つの部分は、固定構造によって離間されており、前記固定構造は実質的に非金属である、請求項2に記載のシステム。
【請求項9】
磁気共鳴撮像(MRI)システムであって、
磁場強度が少なくとも0.05テスラである、全身MRI用の常伝導ソレノイド状電磁石を備え、
前記電磁石は、
前記電磁石の主電磁場を生成する導体を有し、
前記主電磁場は、前記電磁石の長さの大部分にわたって延在するように構成される層状の導体によって生成される、システム。
【請求項10】
前記電磁石は10層未満の層状の導体を有する、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記電磁石のエンベロープの内部に設けられている強磁性材料をさらに備える、請求項9に記載のシステム。
【請求項12】
前記電磁石は、前記電磁石の内部において1つの周方向にのみ電流フローが発生するよう構成されている、請求項9に記載のシステム。
【請求項13】
前記層状の導体および金属の巻型を組み立てて剛体を形成する、請求項9に記載のシステム。
【請求項14】
前記導体は、直接冷却され、アルミニウムであり、前記電磁石は、磁場強度が少なくとも0.12テスラであり、電源は40kW未満であるか、または、前記電磁石は、磁場強度が少なくとも0.2テスラであり、電源は90kW未満である、請求項9に記載のシステム。
【請求項15】
前記層状の導体は、導体が前記ソレノイド状電磁石の軸に平行な方向に横断する部分を持つ層を少なくとも1つ有する、請求項9に記載のシステム。
【請求項16】
前記電磁石は2つの部分に二分割されており、前記2つの部分は、固定構造によって離間されており、前記固定構造は、実質的に非金属であり、前記システムは放射線治療装置をさらに備え、前記システムは、前記放射線治療装置が前記固定構造を通過して治療を行うよう方向付けられるよう構成されている、請求項9に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、米国特許仮出願第62/672,525号(出願日:2018年5月16日、発明の名称:「Resistive Electromagnet Systems and Methods」)および米国特許仮出願第62/677,546号(出願日:2018年5月29日、発明の名称:「Resistive Electromagnet Design and Construction」)に基づき優先権を主張し、両仮特許出願の利益を主張する。両仮特許出願の内容は全て、参照により本願に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴撮像(MRI)または核磁気共鳴撮像は、高周波パルス、強力な磁場(この強力な磁場に弱い勾配磁場を印加して修正し、位相および周波数を局所化し、エンコードまたはデコードする)、身体組織の相互作用を利用して、患者の体内の平面または立体の画像、スペクトル信号および投影像を取得する非侵襲の撮像技術である。磁気共鳴撮像は、軟組織の撮像において特に有用性が高く、疾患の診断に利用される場合がある。疾患を診断するために患者の体内の構造のうち動きがあるものを撮像する必要がある際に、リアルタイムMRIまたはシネMRIを用いる場合がある。リアルタイムMRIはまた、放射線治療または画像誘導外科手術等のインターベンショナル処置と共に、さらには、このような処置の計画を作成する際に利用される場合もある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
磁気共鳴撮像システムで利用され得る電磁石構成を開示する。特定の実施形態は、導体を有する全身MRI用の常伝導ソレノイド状電磁石と、電磁石のエンベロープ内に設けられる強磁性材料とを備えるとしてよい。電磁石はギャップが設けられているとしてよく、強磁性材料は鋼であるとしてよい。一部の変形例では、電磁石は、当該電磁石内で1つの周方向にのみ電流フローが発生するよう構成されているとしてよい。
【0004】
電磁石は、磁場強度が少なくとも0.05テスラの全身MRI用の常伝導ソレノイド状電磁石として構成されるとしてよい。当該電磁石は、電磁石の主電磁場を生成する導体を有している。主電磁場は、束状の導体が生成するものではない。一部の変形例では、主電磁場は、(例えば、10層未満の)層状の導体によって生成されるとしてよい。
【0005】
本明細書で開示する電磁石構成は、ファイバーグラス巻型等の、導体を支持する非金属巻型を利用するとしてよい。層状の導体および非金属巻型は、エポキシで固定することで組み立てて、剛体を形成するとしてよい。電磁石は、2つの部分に二分割されているとしてよく、2つの部分は固定構造によって離間させるとしてよく、当該固定構造はカーボンファイバーで形成するとしてよい。一実施形態において、利用される導体は、断面積が0.5平方センチメートルより大きいとしてよい。
【0006】
別の実施形態において、磁気共鳴撮像システムは、磁場強度が少なくとも0.05テスラで、全身MRI用の常伝導ソレノイド状電磁石を備えるとしてよい。当該電磁石は、電磁石のエンベロープの少なくとも50%をカバーする、電磁石の主電磁場を生成するための導体を有する。
【0007】
本明細書で開示する特定のシステムにおいて、常伝導電磁石に電力を供給する電源は、180Hz以上の周波数での電流変動が10000分の1(1パーミリアド)より大きいとしてよく、常伝導電磁石自身が実現するフィルタリング機能とは別個に電流フィルターを含むものではないとしてよい。電源は、シングルチャネル電源であってもよく、能動型電流制御を行わないとしてよい。特定の実施形態において、当該システムは、電池を備えるとしてよい。常伝導電磁石は、電池に接続されているとしてよく、当該システムは、電池が電源によって充電され得るように構成されているとしてよい。当該システムはさらに、燃料電池を備えるとしてよい。当該システムは、燃料電池が電源と常伝導電磁石との間に配置されるように構成されるとしてよい。
【0008】
現在の主題の実施例は、これらに限定されないが、本明細書で説明する内容と一致する方法、および、説明した特徴のうち1または複数を実装する処理を1または複数の機械(例えば、コンピュータ等)に実行させるよう構成されている有形で具現化された機械可読媒体を含む物品を含むとしてよい。同様に、1または複数のプロセッサと、当該1または複数のプロセッサに結合されている1または複数のメモリとを備えるコンピュータシステムも考案される。メモリは、コンピュータ可読記憶媒体を含み、本明細書で説明する処理のうち1または複数を、1または複数のプロセッサに実行させる1または複数のプログラムを含有、符号化、記憶等しているとしてよい。現在の主題の1または複数の実施例と一致するコンピュータ実装方法は、1または複数のデータプロセッサで実装するとしてよい。当該データプロセッサは、1つのコンピューティングシステムに、または、複数のコンピューティングシステムにわたって存在する。このような複数のコンピューティングシステムは、互いに接続するとしてよく、1または複数の接続部を介して、複数のコンピューティングシステムのうち1または複数同士を直接接続することによって、データおよび/もしくはコマンド、または、その他の命令等をやり取りするとしてよい。1または複数の接続部は、ネットワークを介した接続(例えば、インターネット、ワイヤレスワイドエリアネットワーク、ローカルエリアネットワーク、ワイドエリアネットワーク、有線ネットワーク等)、等を含むが、これらに限定されない。
【0009】
本明細書で説明する主題の1または複数の変形例の詳細については、添付図面および以下の説明に記載する。本明細書で説明する主題のその他の特徴および利点は、明細書および図面から、そして、請求項から明らかになるであろう。本願で開示する主題の特徴は特定の実施例に基づいて例示を目的として記載しているが、このような特徴に限定されるものではないと容易に理解されたい。本開示に続く特許請求の範囲は、保護を求める主題の範囲を定義するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
添付図面は、本明細書に組み込まれるとともにその一部を構成するが、本明細書で開示する主題の態様を図示すると共に、明細書と組み合わせることで、開示した実施例に対応付けられている原理の一部の説明となる。図面は以下の通りである。
【0011】
図1】本開示の特定の態様に応じた、磁気共鳴撮像システムの一例を示す簡略斜視図を示す。
【0012】
図2図1に示すようなギャップを持つソレノイド状磁石について主磁場を生成する電磁石の一例を示す簡略断面図である。
【0013】
図3】本開示の特定の態様に応じた電磁石が有する層を示す簡略断面図および簡略斜視図を示す。
【0014】
図4】本開示の特定の態様に応じた、フリンジ場を抑制する追加の強磁性材料を備える電磁石を示す簡略断面図である。
【0015】
図5】本開示の特定の態様に応じた、放射線治療用インターベンショナル装置の一例を組み込んでいる磁気共鳴撮像システムの一例を示す簡略斜視図を示す。
【0016】
図6】本開示の特定の態様に応じた、ギャップを持つソレノイド状電磁石を二分割した2つの部分の導体の例を2つ示す簡略斜視図である。
【0017】
図7A】本開示の特定の態様に応じた電磁石の一部分の構造の一例を簡略化して示す図である。
【0018】
図7B】本開示の特定の態様に応じた、蛇行チャネルを持つ間接冷却システムを有する電磁石を二分割した2つの部分のうち一方の簡略斜視図を示す。
【0019】
図7C】本開示の特定の態様に応じた、層状の電磁石の間に蛇行チャネルを有する間接冷却システムを示す簡略斜視図である。
【0020】
図8A】本開示の特定の態様に応じた電磁石の内部において隣接レベルにある導体についての配置の例を2つ示す図である。
【0021】
図8B】本開示の特定の態様に応じた、径方向S字屈曲部を持つ電磁石の一部分の構造の一例を簡略化して示す図である。
【0022】
図8C】本開示の特定の態様に応じた電磁石の構造の一例を簡略化して示す図である。
【0023】
図9】本開示の特定の態様に応じた電磁石の一部分の別の構造の一例を簡略化して示す図である。
【0024】
図10】本開示の特定の態様に応じた、電磁石および対応付けられているフィルタリング機能を持つ電源の一例を示す簡略回路図である。
【0025】
図11】本開示の特定の態様に応じた、電磁石に電力を供給する際に複数の電池を組み合わせて利用する実施例を簡略化して示す図である。
【0026】
図12】本開示の特定の態様に応じた、電磁石と電源との間に燃料電池が設けられている実施例を簡略化して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本開示は、電磁石と共に利用されるさまざまなシステム、装置、方法およびコンピュータソフトウェアで利用され得る技術に関する。本明細書で説明する技術の特定の実施形態は、磁気共鳴撮像(MRI)で利用される磁石と組み合わせて利用する際に有用性があるとしてよいが、これらの技術は他の用途の電磁石でも利用され得るものと考えられる。
【0028】
上記の技術を有効活用するものとして本明細書で説明する特定の種類のMRI用磁石は、ソレノイド状(つまり、円筒状)常伝導電磁石である(例えば、永久磁石、超電導電磁石、および、双極電磁石等の非ソレノイド状電磁石と区別する)。本明細書で磁石を説明する際に「ソレノイド」または「ソレノイド状」という用語を用いる場合、単に、特定のMRIのそのような名称が付けられた構成(つまり、円筒状)を意味する。完全なソレノイド(例えば、単らせん状に巻き回された導体)と通常説明される磁石構成に決して限定されるものではない。本明細書で説明するこれらの技術はどのようなサイズのMRI電磁石にも利用され得るが、本明細書で説明する主な実施例は全身MRIシステム用の磁石に関する。「全身」という用語は、本明細書で用いる場合、身体のうち特定部分を撮像するための小型MRI(例えば、Esaote社のO-Scan)、または、獣医学用途、研究用途のMRIではなく、通常サイズの磁気共鳴撮像システム(例えば、Siemens Healthineers社製のMagnetom AeraおよびGE社のSigna)を意味する。
【0029】
全身MRI用電磁石の場合、本明細書で説明する技術は任意のMRI磁場強度で利用可能であると考えられたい。しかし、0.05テスラ未満では撮像に悪影響が出る可能性があり、0.5テスラを超えると常伝導電磁石であるために必要電力が大きくなる可能性がある。本明細書で説明する常伝導ソレノイド状電磁石の具体的な2つの実施例では、磁場強度が0.12Tおよび0.2Tである。
【0030】
本開示に係る技術は、診断を目的として利用する従来のソレノイド状MRIシステムで利用することができるが、図1に図示しているシステムのように、ギャップを有するソレノイド状システムで特に有用性が高いとしてよい。 本開示で「ギャップを有する」磁石について言及する場合、「オープン」MRIシステムと通常呼ばれる双極磁石構成とは逆に、ギャップを有するソレノイド状電磁石(図1に図示している)を含むことを意図している。本明細書で説明するようなシステムである、ギャップを有するシステムは、MRI誘導放射線治療、MRI誘導外科手術等のインターベンショナルな用途での有用性が高いとしてよい。このような放射線治療システムの一例を図5に図示している。図5は、直線加速器の構成要素を含む、磁場シールド構造が取り付けられているガントリーがギャップ内に設けられている様子を示す。
【0031】
本明細書で説明する技術は主にMRIで利用される電磁石に適用されるが、これらの特徴は、目的に関係なく適切な磁石構成でも利用され得る。例えば、より汎用性の高い磁石システムとは、研究、産業または実用性の高い用途、例えば、磁力切り替え、モータ、発電機、中継器、スピーカー、磁気分離装置等で利用されているシステムを含むとしてよい。
【0032】
図1は、本開示の特定の態様に応じた、磁気共鳴撮像システム(MRI)100の一実施例を示す図である。図1において、MRI100は、主電磁石102と、傾斜磁場コイルアセンブリ104と、RFコイルシステム106とを備える。MRI100の内部には、人間である患者110が横たわるための患者カウチ108がある。
【0033】
MRI100の主電磁石102は、図1に示すように、ギャップ116を有し、バットレス114で離間させているギャップを有するソレノイド状電磁石であってよい。「ギャップ」という用語は、本明細書で用いる場合、図1および図2に図示している種類のソレノイド状磁石のギャップ116を意味する。患者を撮像のために配置する、双極磁石構成におけるオープンな空間を意味するものではない。本明細書で考慮する一実施例において、図1に図示するギャップ116は28cmである。
【0034】
傾斜磁場コイルアセンブリ104は、撮像データの空間エンコードを可能とするべく、主電磁石102の磁場に加えて弱い可変性の磁場を加えるために必要なコイルを含む。傾斜磁場コイルアセンブリ104は、連続的な円筒状アセンブリであってもよいし、図1に図示しているような分割された傾斜磁場コイルアセンブリであってもよいし、または、利用している特定のMRI構成で必要となりえるその他の構成であってもよい。
【0035】
RFコイルシステム106は、患者110の体内の水素プロトンのスピンを励起し、患者110からその後放出される信号を受信することを担う。このため、RFコイルシステム106は、RF送信機部分と、RF受信機部分とを含む。図1の実施例は、RF送信機能およびRF受信機能の両方を実行する単一のボリュームコイルを含む。これに代えて、RFコイルシステム106は、送信機能と受信機能とを、ボリュームコイルと、表面コイルとで分割するとしてもよいし、または、送信機能および受信機能の両方を表面コイル内で提供するとしてもよい。
【0036】
磁気共鳴撮像システムは、患者110からの磁気共鳴撮像データの取得および処理を、画像再構築を含めて、実行するよう構成されている制御システムを備える。このような制御システムは、数多くのサブシステム、例えば、傾斜磁場コイルアセンブリ104、RFコイルシステム106、これらのシステムの一部分の動作を制御するサブシステム、および、RFコイルシステム106から受信したデータを処理して画像再構築を実行するサブシステムを含むとしてよい。例えば、インターベンショナル装置(例えば、放射線治療装置)がMRI100と一体化されている場合には、追加の制御システム機能を含むとしてよい。
【0037】
図2は、ギャップ116を含む、図1に図示している主電磁石102の断面を簡略化して示す図である。傾斜磁場コイル104およびRFコイル106は、この図では図示していない。図2では主電磁石102について見える4つの断面全てを図示しており、これらの断面はMRI100のボア200および撮像エリアまたは視野(FOV)202を取り囲むように配置されている。
【0038】
図2は、本開示において具体的に「磁石エンベロープ」と呼ぶ重要な概念について図示している。「磁石エンベロープ」という用語は、本明細書で用いる場合、図2においてA、B、CおよびDという文字を参照して説明し得る。この用語は、電磁石の主磁場を発生させるために用いられる導体の外側境界を意味する。磁石の導体の外側境界が矩形形状でない場合、磁石エンベロープは導体の周囲を取り囲むために用いられ得る最小の矩形(または、不規則な形状の場合はぴったりと適合する凸多角形)を意味するものと理解されたい。例えば、電磁石102において「C」の参照符号を振った隅部の近傍では導体を利用していないが、磁石エンベロープは、導体の境界を正確に辿るというよりは、隅部「C」にまで延伸して矩形を形成する。磁石エンベロープは図において2次元の断面で示すが、磁石エンベロープは実際には、その断面に対応する3次元の立体全体(つまり、概して、ソレノイド状の磁石のZ軸を中心として一定の半径で断面を掃引することで画定される立体領域)を包含するものと理解されたい。
【0039】
ギャップを有する磁石において、図2に示すように、「磁石エンベロープ内」は磁石を二等分した2つの部分両方に含まれる導体が生成する磁石エンベロープの内部を意味する。図2に図示している例では、磁石エンベロープは、点A、B、C、Dが画定する領域を、そして点E、G、F、Hが画定する領域を包含するが、磁石のギャップ116内の領域は含まないものと理解されたい。図2の電磁石がギャップを有さない構成の場合、磁石エンベロープはE、B、FおよびDで画定される。
【0040】
図3は、図1および図2に図示している電磁石102の右半分に焦点を置いており、特に四分割したうち図2の右上部分を示している。この図では、X軸では磁石のZ軸に沿った中央の視野(FOV)からの距離、そして、Y軸ではソレノイド状磁石のZ軸からの径方向の距離を示すべく、実施例に次元を追加している。
【0041】
図3の構成例では、導体302は斜線で影を付けた領域で示し、強磁性材料304は黒く塗りつぶした領域で示し、導体または強磁性材料が存在しないことは白抜き306で示す。
【0042】
電磁石は、言うまでもなく、輪状の銅線等の導体で形成されている。本明細書で用いる場合、「導体」という用語は、任意の導電性の輪状部材、コイル、または、電磁石の主磁場を発生させるために用いられるその他の構造を意味する。本明細書で複数形で用いる場合、複数の導体(例えば、複数の別個のコイルまたは複数のワイヤ束)を意味することを意図するだけでなく、複数の「導体」は、技術的には1つの連続した導体であるが、例えば、複数の導電性の輪状部材、巻回部分、またはその他の構造を構成する構造も指すとしてもよい。
【0043】
本開示の有益な実施例を具体的に1つ挙げると、強磁性材料が電磁石のエンベロープの内部に含まれている。その例を強磁性材料304として図3に図示している。鉄、合金鋼およびマルテンサイト系ステンレス鋼(しかし、透磁率の低いオーステナイト系ステンレス鋼ではない)等の材料を含むとしてよい。例えば、初期の比透磁率が20を超える強磁性材料を利用することができる。マルテンサイト系ステンレス鋼およびフェライト系ステンレス鋼等、初期の比透磁率が低い強磁性材料も可能であるが、非ステンレス系の鋼(例えば、SAE1006鋼)等、初期の比透磁率が高い材料を利用することが好ましい。
【0044】
図3は、電磁石のエンベロープ内に強磁性材料を含む一の具体的な実施例を示す図である。この特定の磁石構成では、図3の上下にL1、L2、L3、L4、L5、L6と参照符号を振っている6層を含む。「層」は、磁石の軸から径方向に所与の距離で配置されている、電磁石を構成する複数の部分を意味するものと理解されたい。図3の例では、層L1からL6はそれぞれ高さが4cmになるように構成されている。このため、本例では、層L1、L2、L4、L5およびL6において4cm×4cmの導体が概して円筒形状になるように巻き付けられており、L4において概して円筒状の部材である4cmの厚さの強磁性材料(例えば、鋼)が設けられている(強磁性材料は図3の下半分では図示していない)。
【0045】
図3の例は比較的大型で等間隔に配置した導体を利用しているが、本明細書で説明する有益な技術は「束状」の導体を含む電磁石構成でも利用することができる。例えば、エンベロープ内の強磁性材料は、例えば、小型導体がひとまとめにされている束状の導体を10個有し、これらが所望の磁場を生成させるべく磁石内の特定の位置に配置されている構成の電磁石で有益であるとしてよい。
【0046】
本開示では、図3と同様の電磁石構成の複数の層は全て同じ高さである必要はないと考えており、強磁性材料層の高さは導体層のいずれかと同じ高さである必要はない。例えば、一実施形態において、導体層は高さが4cmであって、強磁性層の高さは2cmに過ぎないとしてもよい。
【0047】
本開示では、電磁石のエンベロープ内に設ける強磁性材料について多くの異なる構成を考案する。図3の例では完全な層として形成されている強磁性材料を一層含んでいるが、電磁石は、強磁性材料の複数の層を有するものとして同様に構成されるとしてもよいし、または、強磁性材料の層が部分的であるとしてもよい。上述した例では円筒形状の強磁性材料層を考えているが、電磁石エンベロープ内の強磁性材料は円筒形状を持つ必要はないと考えられたい。さらに、強磁性素子の一部分がエンベロープ内に配置され、その一部分がエンベロープの外部に延在する場合、このような構成は「エンベロープ内に設けられる強磁性材料」の構成を満たすものと考える。一部分がエンベロープ内にあり、期待する有益な結果が得られるためである。別の言い方をすると、図3の層3で図示している強磁性材料が磁石のZ軸に沿って、導体が画定するエンベロープを抜けてさらに外部に延伸している場合、このような実施例も本明細書において電磁石の「エンベロープ内」に強磁性材料を有するものとして理解する。
【0048】
本開示では特に、本開示に係る技術が、ヨークを持たない磁石構成および磁束戻りがない磁石構成で利用されるものと考える。本明細書で説明する「電磁石エンベロープ内に強磁性材料を有する」磁石構成は、磁束戻りおよびヨークとは区別可能である。例えば、ソレノイド状磁石(図2に図示しているもの)の場合、磁束戻りまたはヨークは、磁石の「エンベロープ内」(上述した参照符号A、B、C、D、E、F、G、Hで範囲を示す)ではなくむしろ、磁石のボア200の内部に配置される。同様に、磁束戻りまたはヨークを利用するのが一般的な双極磁石構成は、本開示の構成とは区別可能である。
【0049】
本開示はさらに、主磁場が主に1または複数の永久磁石によって生成される磁石を特に区別する。このようなシステムは磁石のエンベロープ内に強磁性材料を持つように思えるかもしれないが、本明細書で開示する技術とは別個である。本明細書で開示する技術は、電磁石に関するものであり、「エンベロープ内」を、電磁石の主磁場を生成するために用いられる導体のエンベロープ内と定義している。
【0050】
図3に図示する一構成例において、強磁性材料の量は電磁石の総体積の約1/6、または、導体の体積の約1/5であることが分かる。別の実施例では、強磁性層の高さは二分割されるとしてよく、強磁性材料の総体積は、導体の体積の約1/10にまで小さくなるとしてもよい。他の実施例では、強磁性材料の体積は、導体の体積の1/20に過ぎないとしてもよい。特に、強磁性材料の体積および構成は、多岐にわたるとしてよく、Comsol MultiPhysicsまたはFaraday (Integrated Engineering Solutions, Inc.社製)等のソフトウェアで具体的な磁石構成をモデル化して、(例えば、負の電流ループを駆動するための)電力を追加で必要とすることなく主磁場の均一性を改善するために十分な磁化電流が強磁性材料内で発生する構成に想到することによって決定するとしてよい。
【0051】
本明細書で提案している電磁石構成は追加の強磁性材料を電磁石エンベロープの外部に含むことに留意されたい。この追加の強磁性材料は、電磁石のフリンジ場を低減するよう構成されている。このようなフリンジ場を低減する材料402の一例を図4に示す。例えば、この追加の強磁性材料402は、L字形状の断面を持つ鋼製で厚みが1-2cmの構造として構成されているとしてよい。このような追加の受動型シールドが構成に含まれている場合、上述した磁石のモデル化の際に、電磁石のエンベロープ内の強磁性材料および導体と共にそのことを考慮されたい。
【0052】
強磁性材料を磁石内または磁石近傍に配置する必要があるインターベンショナル用途で電磁石が利用されている場合、構成および最適な均一性のためのモデル化の際はこのような材料も同様に考慮すべきであることにも留意されたい。図5は、このようなインターベンショナル用途を図示している。具体的には、MRI誘導放射線治療システムを図示している。電磁石102に加えて、図5は、直線加速器508の一部を電磁石の主磁場から保護するべく磁場シールドシェル504が搭載されているガントリー502を図示している。図示しているように、直線加速器の一部508は、RF導波路506を利用して接続されているとしてよい。このような構成例によると、磁場シールドシェル504は、電磁石のエンベロープ内に含まれる強磁性材料および導体と共に、電磁石を設計する際に考慮に入れるべき大量の強磁性材料を含む。
【0053】
このように実施される本開示の一実施形態は、導体を有する全身MRI用の常伝導ソレノイド状電磁石と、当該電磁石のエンベロープ内に設けられている強磁性材料とを備える磁気共鳴撮像(MRI)システムである。電磁石はギャップが設けられているとしてよく、強磁性材料は鋼を含むとしてよい。別の実施形態では、強磁性材料の体積は導体の体積の少なくとも1/6、または、導体の体積の少なくとも1/20であってよい。特定の構成では、電磁石は、複数の円筒状の層を含むとしてよく、強磁性材料はこれら複数の円筒状の層のうちの一の層を含むとしてよい。これに代えて、強磁性材料は、これら複数の円筒状の層のうちの一の層の一部分を含むとしてもよい。更に別の実施形態において、強磁性材料は、これら複数の円筒状の層のうち、複数の層を含むとしてもよいし、または、そのような複数の層の複数の部分を含むとしてもよい。
【0054】
多くの既存の磁石構成は、ギャップを有するソレノイド状磁石の構成は特に、磁場において所望の均一性を実現するためには電磁石において正の方向および負の方向に電流が流れる必要がある。本明細書で用いる場合、「正」の電流フローは、磁石の主磁場Boに正の寄与を与える流れ方向である(例えば、図1の正の流れ方向118および主磁場122を参照されたい)。「負」の電流フローは、磁石の主磁場Boに反対の流れである(例えば、図1の負の流れ方向120を参照されたい)。これらの周方向の流れパターンは、物理の右手の法則を鑑みれば、容易に理解され得る。
【0055】
主磁場の生成について束状の導体を利用する電磁石において、特定の束は正の電流フローを発生させ、他の束では負の電流フローを発生させるとしてよい。同様に、図3の下部に図示した電磁石構成については、組み込まれている導体のS字型屈曲部の多くの代わりにU字型屈曲部を設けることができるので、電流が負の方向に流れる。
【0056】
本開示の技術、例えば、強磁性材料を磁石エンベロープ内に含む磁石構成を利用すると、正の電流フローのみを含む磁石構成が可能になり、ギャップを有する磁石構成であっても、均一な磁場を満足のいくレベルで発生させることができる。
【0057】
本開示の一部の実施例において、磁場共鳴雑像システムはこのように、導体を有する全身MRI用の常伝導ソレノイド状電磁石と、電磁石のエンベロープ内に設けられている強磁性材料とを備えるとしてよい。当該システムは、ギャップを有するタイプであってよく、電磁石は磁石内で1つの周方向にのみ電流フローを発生させるよう構成されているとしてよい。例えば、主磁場を駆動する束状の導体はそれぞれ、電流の方向が正の方向であるとしてよく、または、束状以外の構成の場合、各導体(例えば、図3の下部に図示しているもの)は、正の流れの電流のみを発生させるよう構成、屈曲または形成されている。
【0058】
他の実施形態では、電磁石は負の電流フローが5%未満または10%未満となるよう構成されているとしてよい。例えば、図3の実施形態では、導体のうち5%未満または10%未満が負の電流フローを発生させるように構成または形成されているとしてよい。別の言い方をすると、電流ループのうち5%未満または10%未満は、負の電流フローを発生させるよう構成されている(例えば、1つのループは、磁石の外周を取り囲む1つの巻回部を表す)。
【0059】
負の電流フローを抑制または除去することで、特定の磁石構成では、電源に対する要件を下げることが可能になる。このようなシステムの特定の実施例を以下で説明し、電源のサイズの例を説明する。これらの特定のシステム構成および対応付けられている電源サイズは単に例示に過ぎず、他の構成および電源サイズまたはサイズ範囲も考慮されるものと理解されたい。
【0060】
本明細書で説明する磁気共鳴撮像システムの特定の実施例は、導体を有する全身MRI用常伝導ソレノイド状電磁石と、ギャップを有する電磁石のエンベロープ内に設けられている強磁性材料とを含むとしてよい。導体は銅で形成されている。このような実施例の一部では、導体は直接冷却され(例えば、冷却材が導体の中心を流れる)、磁場強度が少なくとも0.12テスラで、電源は30kW未満または45kW未満となるよう構成することが可能である。別の実施例では、磁場強度が少なくとも0.2テスラで、電源は100kW未満または145kW未満となるよう構成することが可能である。また別の実施例では、磁場強度が少なくとも0.3テスラで、電源は210kW未満または300kW未満となるよう構成することが可能である。導体が間接的に冷却される(例えば、冷却材が導体の周囲を流れる、または、導体は周囲環境によって自然に冷却される)実施例では、このような電磁石は、磁場強度が少なくとも0.12テスラで、電源は35kW未満または50kW未満となるよう構成することが可能である。別の実施例では、磁場強度が少なくとも0.2テスラで、電源は105kW未満または150kW未満となるよう構成することが可能である。また別の実施例では、磁場強度が少なくとも0.3テスラで、電源は230kW未満または330kW未満となるよう構成することが可能である。
【0061】
本明細書で説明する磁気共鳴撮像システムの他の実施例は、導体を有する全身MRI用常伝導ソレノイド状電磁石と、ギャップを有する電磁石のエンベロープ内に設けられている強磁性材料とを含むとしてよい。導体はアルミニウムで形成されている。このような実施例の一部では、導体は直接冷却され(例えば、冷却材が導体の中心を流れる)、磁場強度が少なくとも0.12テスラで、電源は45kW未満または65kW未満となるよう構成することが可能である。別の実施例では、磁場強度が少なくとも0.2テスラで、電源は155kW未満または220kW未満となるよう構成することが可能である。また別の実施例では、磁場強度が少なくとも0.3テスラで、電源は335kW未満または480kW未満となるよう構成することが可能である。導体が間接的に冷却される(例えば、冷却材が導体の周囲を流れる、または、導体は周囲環境によって自然に冷却される)実施例では、このような電磁石は、磁場強度が少なくとも0.12テスラで、電源は50kW未満または70kW未満となるよう構成することが可能である。別の実施例では、磁場強度が少なくとも0.2テスラで、電源は170kW未満または245kW未満となるよう構成することが可能である。また別の実施例では、磁場強度が少なくとも0.3テスラで、電源は365kW未満または520kW未満となるよう構成することが可能である。
【0062】
本開示に係る技術は、上述したように、必要な電力を小さくすることができ、結果として、ギャップを有するソレノイド状電磁石を二分割した2つの部分の間にかかる力を小さくすることができる。既存の技術では、ギャップを有するソレノイド状電磁石は、磁石を構成する2つの部分が非常に大きな力で引き合うが、それらを離間させておくために大規模な固定構造が必要である。しかも、同時に、磁場の均一性に影響を与え得る相対的な移動を回避しなければならない。
【0063】
大規模な固定構造の例は、図1に、バットレス114として図示している。この種のバットレスは通常、強固な材料、普通は鋼またはアルミニウム等の金属材料で形成される必要がある。しかし、本開示の技術によれば、導体を有する全身MRI用の常伝導ソレノイド状電磁石と、ギャップを有する電磁石のエンベロープ内に設けられている強磁性材料とを備える磁気共鳴撮像システムを実現することが可能である。電磁石を二分割した2つの部分は固定構造によって離間させられており、一部の実施形態では、固定構造は実質的に非金属製であるとしてよい。「実質的に」非金属とは、磁石を構成する2つの部分が発生させる力に対抗するべく非金属材料を主に利用する固定構造を意味するものと理解されたい。このような構造で金属材料を含むが負荷を主に負担するものではない限りにおいて、そのような構造は「実質的に非金属」という表現の範囲に含まれることを意図している。
【0064】
特定の実施例では、本明細書で提示する固定構造はカーボンファイバーまたはCTEがゼロのカーボンファイバーを含むとしてよい。
【0065】
上述した技術を放射線治療装置と組み合わせる場合、この複合システムは、放射線治療装置が固定構造を通して治療を行うよう方向付けられるよう構成されているとしてよい。例えば、固定構造は、磁石を構成する2つの部分の間に配置され、厚みが0.5cmの均一なカーボンファイバー製の円筒状部材であってよく、熱膨張係数は実質的にゼロであり、放射線治療用のビームに対する減衰が最小限に抑えられ均一である。
【0066】
さらに別の実施例では、固定構造は1つの円筒部材または連続的な巻型であってよく、磁石を構成する2つの部分の間に延在するだけでなく、電磁石アセンブリ自体の内部へも(例えば、複数の層状の導体の間に配置される巻型として)延在している。
【0067】
本開示の技術によれば、電磁石の電流に関する要件および加熱を緩和することができ、さらに、磁石の導体およびそれらを支持する構造に対して加わる力を小さくすることができる。このため、これらの技術により、特定の種類の有益な磁石構成および構築方法を実現し易くなるとしてよい。例えば、一の特定の実施例において、少なくとも0.05テスラの磁場強度を持つ全身MRI用の常伝導ソレノイド状電磁石を備える磁気共鳴撮像システムは、電磁石の主磁場を発生させる導体を備えるとしてよい。主磁場は、束状の導体が生成するのではなく、層状の導体が生成するとしてよい。
【0068】
円筒形状のMRIシステムは通常、束状の導体(つまり、ひとまとめにした複数の導体を、特定の複数の別個の位置に配置する)を利用して主磁場を発生させるが、本開示の特定の実施例では、より分散させて配置した導体、例えば、複数の層にわたって分散させた構成を実現する。このような層状の導体構成の一例を図3に示す。このような構成の詳細についてはさらに以下で説明する。このような層状の構成は、均一性の高い磁場を発生させることができ、有益な新規の製造方法を実現し易くなるので、束状の導体を利用して主磁場を発生させる構成に代わり得る。本開示で「主磁場は束状の導体によって生成されない」構成と記載する場合、これは、主磁場の全体が、または、主磁場が主に、より分散させた導体構成(例えば、図3を参照して説明した構成と同様)によって生成されることを意味する。それにもかかわらず、本開示は、少数の束状の導体をこれらの構成と共に利用することを提案している。このため、「主磁場は束状の導体によって生成されない」と本明細書で言う場合、束状のものを最低限利用することを考えており、例えば、束状のものを利用するが主磁場の生成についてその寄与は10%を超えないものとする。
【0069】
本開示で、「層」として構成されている導体を利用して主磁場を生成すると言及する場合、例えば、ループ状の導体またはコイルが、電磁石の半径の距離において概して円筒形状に配置され、電磁石の長さの大部分にわたって(または、ギャップを有する磁石の場合、電磁石の半分の長さの大部分にわたって)延在していることを意味する。図3は、ギャップを有するソレノイド状磁石の層状構成の一例を示す図である。当該構成において、複数の層として構成されている導体は磁石のZ軸に沿って約1メートルにわたって、撮像フィールドの中心から約0.2m離れた点から撮像フィールドの中心から約1.2m離れた点まで、延在または横断する。
【0070】
主磁場は、図3に図示しているように、複数の層状の導体によって生成され得る。この構成の電磁石は、同様に図3に図示しているように、そして、上述したように、磁石エンベロープ内に強磁性材料を有するとしてよい。
【0071】
図6は、図3の構成例を、反対側から見た図とともに示す図である。図6は、主磁場を生成するための5個の別個の層状の導体を示す図である。レベルL3は強磁性円筒部材を挿入するために確保してある。本開示は、さまざまな数の層を用いることを考慮し、層の数は例えば選択した特定の導体のサイズに応じて決まるものとする。図6の実施例では、比較的大きな導体を利用する(例えば、4cm×4cmで直接冷却するために開口したコアを持つ)。
【0072】
別の実施例では、2cm×2cmの導体を利用するとしてよい。磁場強度が少なくとも0.05テスラの全身MRI用の常伝導ソレノイド状電磁石および電磁石の主磁場を発生させる導体の一の具体的な実施例において、主磁場は層状の導体によって生成され、導体は断面積が0.50cm2よりも大きいか、または、0.75cm2よりも大きい。
【0073】
一部の実施例において、導体の一部分は断面積が他の導体の断面積よりも小さいとしてよい。例えば、比較的小型の導体の層は、断面積が、比較的大型の導体の層に比べて約半分であるとしてよい(例えば、一の層の導体は断面が40mm×40mmで、別の層の導体は断面が20mm×20mmであるとしてよい)。一部の実施例において、比較的小型の導体の層は、径方向外側の層に、もしくは、径方向外側の層の近傍に配置されるか、または、強磁性層(例えば、図6に示すL3)の近傍で、もしくは、強磁性層に隣接して配置されるとしてよい。
【0074】
本開示の技術を利用した層状の構成によれば、束状の構成および電流要件が高い構成で通常用いられる大型/強固な金属製巻型が不要になるとしてよい。このため、一部の実施例において、本明細書で提案する構成の導体は、ファイバーグラス製またはプラスチック製の円筒形状の巻型など、比較的低い強度の材料で支持されるとしてよい。例えば、層状の導体は、層同士の間に設けられる1mmの厚みの円筒形状のファイバーグラス製の巻型で支持するとしてよい。そして、層状の導体および巻型は、エポキシまたはその他の絶縁材料を利用して組み合わせることで、一体的な剛体とするとしてよい。
【0075】
図7Aは、一の特定の実施例の断面を示す図であり、導体層L1、L2、L4、L5、L6および強磁性材料層L3が巻型702によって分離されており、巻型702はガラス補強ポリマー等の非金属材料で構成されているとしてよい。図7Aは、電磁石がさらに、同様の非金属材料で形成されているサイドチーク704と、任意でより強度の高い金属材料、例えば、アルミニウムで形成されている外側巻型706とを有する実施例を示す。
【0076】
一の特定の実施例において、磁場強度が少なくとも0.05テスラの全身MRI用の常伝導ソレノイド状電磁石は、電磁石の主磁場を発生させる導体を備えるとしてよく、主磁場は層状の導体によって生成され、電磁石は非金属製の巻型、例えば、ファイバーグラス製の巻型を利用して導体を支持する。一の実施例は、非金属製の巻型で分離させている少なくとも2つのソレノイド状の導体層を含む。別の実施例は、有する導体層が10層未満であるとしてよい。さらに別の実施例では、導体層および非金属巻型は、例えば、エポキシで互いに固定することで組み立てて、剛体を形成するとしてよい。さらに別の実施例では、この剛体はさらに、傾斜磁場コイルの少なくとも一部分を含むとしてよい。例えば、スライス選択コイルのみを組み込むとしてもよいし、またはこれに代えて、傾斜磁場コイル全体を主磁石とエポキシ接合して一体的な剛体を形成するとしてもよい。
【0077】
図7Aは、コア710を有する導体708の例を示す図である。導体708は概して正方形状の断面を持ち、コア710は円筒形状で中空であり、直接冷却に利用することができる(例えば、コア710内に水または冷却材を流す)。
【0078】
図7Bは、蛇行冷却材チャネルが実現する間接冷却システムを持つ電磁石の一例を示す図である。一部の実施例において、間接冷却システムは電磁石に対して十分な冷却を行うことができるので、電磁石が有する導体のうち一部またはすべては、図7Aに図示している直接冷却の例のように中空のコア710を有するのではなく、中実な導体とすることができる。
【0079】
本開示は、例えば、鞍形状の円形ループ、らせん状ループ、蛇行形状等、さまざまな種類の冷却チャネルを有する間接冷却システムを提案している。図7Bに示すように、蛇行チャネル720は1または複数の直線部分722および1または複数の曲線部分724を含むとしてよく、組み合わせると「S字形状」または「蛇行」チャネル720を形成する。一部の実施例において、蛇行チャネル720は、導体または強磁性層のうち1または複数に隣接しているとしてよく(または巻き回されているとしてよく)、これによって間接冷却を行う。図7Cは、図7Bに図示したのと同様の間接冷却システムの一例を示す図であるが、蛇行チャネルが導体層および/または強磁性材料層の間に散在している。
【0080】
蛇行チャネル720は、当該チャネル内に冷却材を流すために吸入口および排出口(例えば726)がある。一部の実施例において、吸入口および/または排出口は、冷却のために連通させる上でよりアクセスしやすい電磁石の端部730に位置するとしてよい。例えば、吸入口および排出口は、電磁石のうち、患者側端部またはサービス提供側端部に位置するとしてよい。
【0081】
本開示でソレノイド状電磁石または電磁石内のソレノイド状導体層という場合、導体は完全なソレノイド(つまり、らせん状に均一に巻き回されたコイル)からはある程度外れたものであると考えられたい。例えば、一層の導体はS字形状の屈曲部を持つとしてよい(図6では要素602として図示している)。
【0082】
S字形状の屈曲部構成は、らせん形状構成に代わるものである。これらは、別の製造プロセスであることに加え、モデル化するために用いられるソフトウェアが電流ループを純粋なリング状の電流として簡略化する場合(この場合、S字形状の屈曲部構成は、らせん状の構成よりも、モデルに対する一致度が高くなる)、磁石を設計する際により効果的にモデル化され得る。
【0083】
本明細書で「S字形状の屈曲部」という場合、図中に示すように「S」を伸ばした状態の形状であるとしてもよいが、後続のループへの移行が緩やかまたは急(90度の折り返しも可能)で後続ループでの電流フローが継続して同じ周方向になることも含むことを意図している。S字形状の屈曲部は、らせん形状の構成とは区別され、U字形状の屈曲部からも区別される。U字形状の場合は、後続ループの電流フローが反対方向になる。
【0084】
上述したように、特定の電磁石構成は負の電流(つまり、主磁場の方向を打ち消す磁場を生成する電流)を含み得る。このような負の電流が必要になる場合、本開示のコイルではU字形状の屈曲部を利用して実現することができる。しかし、上述したように、負の電流は、電磁石のエンベロープ内に強磁性材料を設けることを含む本開示の技術を利用して発生を回避しているとしてよい。
【0085】
特定の実施例では、導体は、ソレノイド状電磁石の軸に平行な方向に層を横断するように配置されるとしてもよい。このような配置は、図6に604として図示しており、磁石のモデル化および構成で、その層の特定の軸位置において電流ループが必要ないと指示される際に利用されるとしてよい。その他の図示については、このような位置は図3の構成例に要素306として図示している。
【0086】
一の具体的な実施例において、磁場強度が少なくとも0.05テスラの全身MRI用の常伝導ソレノイド状電磁石は、電磁場の主磁場を発生させる導体を有するとしてよく、主磁場は層状の導体によって生成され、導体層は、一の導体がソレノイド状電磁石の軸に平行な方向に横断する一部分を持つ少なくとも1つの層を含み、この一の導体は断面積が0.50cm2よりも大きいか、または、0.75cm2よりも大きいとしてよい。
【0087】
一部の実施例において、層状の導体は、第1のらせん傾斜を持つらせん状に巻き付けられた導体である第1の層と、第1の層に隣接しており、第2のらせん傾斜を持つらせん状に巻き付けられた導体を含む第2の層とを含むとしてよい。第2のらせん傾斜は第1のらせん傾斜とは逆である。言い換えると、特定の実施例では、右に傾斜してらせん状に巻き付けられた導体である層を備えるとしてよく、この層のすぐ内側または外側にある層(つまり、次に小さい半径または次に大きい半径にある隣接した層)は、左に傾斜してらせん状に巻き回された導体である。
【0088】
均一磁場を生成し易くするよう同様に構成されている他の実施例では、層状の導体は、第1の方向に屈曲している第1のS字状屈曲部を持つ第1の巻き付け導体層と、第1の層に隣接しており、第2の方向に屈曲している第2のS字状屈曲部を持つ第2の巻き付け導体層を含むとしてよい。第1のS字状屈曲部と第2のS字状屈曲部とは重なり合っており、第2の方向は第1の方向とは逆である。このような構成の例は、図8Aの下部に図示しており、外側層808が一の方向に屈曲しているS字状屈曲部を持ち、隣接する層810は逆方向に屈曲しているS字状屈曲部を持ち、各層のS字状屈曲部は位置812において重なり合っている。別の構成を図8Aの上部に図示している。S字状屈曲部は重なり合っているが、逆方向に屈曲していない。
【0089】
図8Bは、本開示の特定の態様に応じた、径方向に屈曲しているS字状屈曲部を持つ電磁石の一部分の構造の一例を簡略化して示す図である。一部の実施例において、隣接し合う導体層は1または複数のS字状屈曲部826で(例えば、概して径方向に)つながっているとしてよい。このような構成の一例を図8Bに図示している。図8Bでは、隣接する二層の導体層を示しており、第1の巻き付け導体層820は、S字状屈曲部826によって、第2の巻き付け導体層822につながっている。S字状屈曲部である接続部分の拡大図824も図示している。一部の実施形態において、隣接する層のうち一方または両方が(例えば、軸方向に屈曲するS字状屈曲部を除いて)らせん状であってもよいし、または、らせんピッチの代わりに軸方向に屈曲するS字状屈曲部を含むとしてもよい。
【0090】
図8Cは、本開示の特定の態様に応じた電磁石の構成の一例を簡略化して示す図である。この構成例は、ギャップを有する電磁石構成を含み、このギャップに配置されている円筒状部材を図示している。これらの円筒状部材は、放射線治療用途で直線加速器の構成要素を保護するべく利用されるとしてよい。特定の実施例において、磁石を二分割した2つの部分(830、832)は、隣接する導体層同士の間の径方向接続部分834(例えば、S字形状の屈曲部)が同じ方位角に位置しないよう、「回転」させるとしてよい。これによって、径方向のS字形状の屈曲部である接続部分が発生させる残余方域調和関数が小さくなるという有益な効果が得られるとしてよい。図8Cに示す例で示すように、磁石を二分割した2つの部分は、互いに相対的に略180度回転させたものであるとしてよい。しかし、他の回転角度、例えば、30度、45度、60度、90度、135度、150度、165度等であってもよい。磁石を二分割した2つの部分のうち一方は、「患者端」とするとしてよく(患者はそこからMRIシステムのボア200に入る)、他方は「サービス提供側」とするとしてよい。一の実施例において、患者側の径方向接続部分834は最下部(つまり、患者側の磁石部分830のうち最も低い箇所)にあってよく、サービス提供側の径方向接続部分836は、最上部(つまり、サービス提供側の磁石部分832のうち最も高い箇所)にあってよい。他の実施例では、磁石を二分割した2つの部分の角度を異ならせるとしてもよく(例えば、鉛直に対して、総回転は30度、45度、60度、90度、135度、150度、165度であってよく、その結果、径方向接続部は最上部および最下部にはない)、その一方で磁石を二分割した2つの部分の径方向接続部分の間は略180度離間させた状態を維持する。
【0091】
本開示の磁石構成例において、複数の導体層(例えば、図3のL1、L2、L4、L5およびL6)を接続して、実質的に一の電流路を形成するとしてよい。このように、電磁石は一の供給電流で動作するよう構成されるとしてよい。層間接続は、電流フローがそれぞれの層において正になることによって各層が主磁場の生成に肯定的に寄与するように形成されるとしてよい。ギャップを有する磁石の場合、磁石を二分割した2つの部分は直列で接続するので、依然として一の供給電流で動作するとしてよい(それ以外の場合は、並列回路で動作するが、電流量は同じであるとしてよい)。このような有益な構成では、束毎に電流量を異ならせる必要があることが多い(そして、1または複数の束では負の電流が必要になることが多い)通常の束状の磁石構成とは対照的に、利用する電源を簡略化することができる。
【0092】
図9は、層状の導体を採用しないが、同じように主磁場の生成のために導体の配置をより分散させた別の電磁石構成を示す図である。このような構成の実施形態例では、導体が、例えば、磁石エンベロープの少なくとも40%、50%、60%または70%を被覆する。図9に図示している特定の実施例では、導体が磁石エンベロープの50%以上を被覆しており、主磁場を生成するうえで束状の導体902を利用している。束状の導体を利用して主磁場を生成する多くの電磁石構成では非常に小型の導体を利用し得るが、本開示では、束状の導体のサイズを大きくして利用することも提案する。図9に図示している一の具体例において、それぞれの導体904は断面が1cm×1cmである。
【0093】
このタイプの構成の実施例でも、前述したように、磁石エンベロープ内に強磁性材料を備えるとしてよい。その一例は、図9の強磁性材料906として図示されており、電流フローが磁石内で一の周方向にのみ流れるよう電磁石を構成することができる。例えば、主磁場を駆動する束はそれぞれ、正の電流方向であるとしてよい。他の実施形態では、電磁石は負の電流フローが5%未満または10%未満となるよう構成されているとしてよい。一の実施例において、導体束は互いに電磁石の軸に平行な方向に横断している導体によって接続されており、実質的に一の電流路を形成して、電磁石には一の供給電流で電力が供給され得るとしてよい。
【0094】
電磁石、特に磁気共鳴撮像で利用されるものは、非常に均一性の高い安定した磁場を生成することが要件となる。このような安定性は、非常に安定した電圧出力および電流出力(例えば、変動が約数ppmに過ぎない)を維持する高度なDC電源を利用することで実現し易くなることが多い。しかし、本開示に係る技術によれば、このような複雑な電源構成を必要とすることなく均一で安定した磁場を実現することができる。 これらの技術は、従来のソレノイド状(ギャップを有さない)磁石、ギャップを有するソレノイド状システム、双極型磁石等のさまざまな磁石構成に適用可能である。
【0095】
本開示で磁気共鳴撮像用の電磁石という場合、このような磁石および対応する電源は、MR撮像等で要件とされる撮像磁場の均一性および安定性(例えば、約数ppm)が得られるように構成されると仮定される。本明細書で「電源」という場合、この用語は、整流、フィルタリング、制御等を目的とした任意の関連する電子機器を含む、電磁石に必要な電力を供給する機能を担う電子機器を包含することを意図している。このような電子機器は、一のユニットとして存在するとしてもよいし、または、複数の異なる位置またはモジュールに分散しているとしてもよいと考えられる。また、電源は、一の電流を供給するよう構成され得るとしてもよいし、または、複数の、場合によっては異なる電流を供給するマルチチャネル電源であってもよいと本明細書において理解されたい。
【0096】
MRIシステム用の電源は通常、変動が約数ppmに過ぎないDC電流を供給するよう設計されるが、本開示の技術は、例えば、安定性が1パーミリアドしかない電源で、必要な磁場の均一性および安定性を実現し得る。一例を挙げると、この安定性のメトリックは、整流後に本来のAC周波数およびその高調波に存在するDC電流リップルに関係するとしてよい。例えば、本開示の実施例は、180Hz以上の周波数における、または、600Hz以上の周波数における電流変動が少なくとも1パーミリアドである電源を利用するとしてよい。他の実施例では、180Hz以上の周波数における、または、600Hz以上の周波数における電流変動が少なくとも1パーミルである電源でさえ利用し得る。
【0097】
このような電源では比較的電流変動が大きく、本明細書で開示するさまざまな電磁石構成における巻き回された金属製の導体の複素インピーダンスを利用して、実質的にフィルタリングで除去することができる。後述する一の具体例において、電磁石の一例は、600Hz超での15パーミリアドの電流変動をフィルタリングで-90dBにまで下げることができる。このように、本開示の実施例は、常伝導電磁石自体が実現するフィルタリング機能とは別個の電流フィルターが無い磁気共鳴撮像システムを含むとしてよい。言い換えると、このようなシステムは、電流変動を低減する目的で追加する追加構成要素(例えば、インダクタの追加)を含んでいない。
【0098】
別の実施例は、電流フィルターを含むが、このようなフィルターのインダクタンスは、例えば、5mH、2mHまたは1mH未満に限定されるとしてよい。このため、磁気共鳴撮像システムの一の具体的な実施例は、磁場強度が少なくとも0.05テスラの全身MRI用の常伝導電磁石と、180Hz以上の周波数で電流変動が少なくとも1パーミリアドである、電力を常伝導電磁石に供給する電源とを備え、常伝導電磁石自体が実現するフィルタリングと別個の電流フィルターは備えていないとしてもよいし、または、インダクタンスが2mH未満の電流フィルターを備えるとしてもよい。
【0099】
本明細書で説明する技術の特定の実施例によれば、シングルチャネル電源を利用することが可能である。例えば、本明細書で磁石エンベロープ内に強磁性材料を備えるものとして説明する特定の電磁石構成では、一の電流が供給され得る。上述したように、これらの磁石構成は、例えば、さまざまな電流量を供給しなければならない束状の導体および/または負の電流が不要になるよう、最適化することができる。この結果、複数の電力チャネルを互いに同期させるための複雑な制御システムを必要としない簡略なシングルチャネル電源を利用することができる。さらに、シングルチャネル電源の低周波数での電流変動は、マルチチャネル電源の変動に比べて、このような変動の原因となるMRI制御システムでの対処がより容易である。例えば、MRIの分光計を利用して、主磁場強度の修正によって、電流または電圧での低周波ドリフトを補償するとしてよい。
【0100】
特定の実施例において、これらの電源は、上述した例に係るギャップを有するソレノイド状磁石構成と組み合わせて利用することができる。例えば、直接冷却されるアルミニウム製の導体を利用する実施例において、電磁石は磁場強度が少なくとも0.12テスラであり、電源は45kW以下の電力を供給するよう構成され得る。あるいは、このような構成には155kW以下の電源を利用するとしてよく、磁場強度は少なくとも0.2テスラである。本明細書で教示または具体的に説明している他の構成を考える。
【0101】
MRI用のシングルチャネル電源でさえ通常は、電流および電圧の変動を最小限に抑えるべく複雑な制御システムを必要とするが、本開示は、能動型の電流制御を含まない電源の利用(例えば、電流フィードバックループの利用)を考える。
【0102】
本開示の実施例は、単純なフィルター、例えば、LCフィルターを追加して電圧変動を制御することを考える。一の実施例において、上述した構成と同様に、28cmのギャップを有し、全身MRIを実施するよう構成されており、磁場強度が少なくとも0.12テスラであるソレノイド状電磁石を考える。当該電磁石は、磁石エンベロープ内に強磁性材料が設けられており、直接冷却されるアルミニウム製の導体を有する。このような構成の場合のフィルターの一例を図10に示す。図10が示す本例は、抵抗が40mΩでありインダクタンスが40mHである電磁石である。利用されている電源は、40Vで1000Aを供給するよう構成され得ると共に、600Hzおよび57.6kHzでリップルが1760ppmであるとしてよい。本例において、Lin=1mH、Rin=1mΩ、Ct=50mFおよびRt=0.1mΩであるフィルターが利用されるとしてよい。このようなフィルター特性は、以下の式に基づいて決定するとしてよい。
【0103】
【数1】
【0104】
これらの式は、システムの伝達関数(動的応答)を表している。ゲインのボード線図は、周波数の関数としてゲイン応答を示すとしてよい(高周波成分は効果的にフィルタリングされる)。このような図(または、同等の伝達関数の算出)は、カットオフされる低周波数より高い望ましくない周波数におけるリップルの大きさを抑制するようフィルターを設計するための手段となり得る。
【0105】
別の実施例において、システムにおいて少なくとも部分的に電源の変動を限定するために1または複数の電池を利用するとしてよい。上述したフィルターに加えて、または、上述したフィルターに代えてこのような電池を利用するとしてよい。一の実施例において、電磁石は、電池に接続されるとしてよく、実質的に電池から電力供給を受けるとしてよく、システムは電池が電源によって充電され得るように構成されるとしてよい。
【0106】
電磁石において、電池を充電する電源によって生じ得る電力変動は、複数の電池(例えば、2以上)を利用する他の実施例では回避され得る。このような実施例において、電磁石への電力供給を担う電池は、磁石に電力を供給している間は充電を回避することができ、電磁石を電力供給している電池を充電する必要がある場合には、電磁石用の電源は、すでに充電が完了している別の電池に切り替えることができる。言い方を変えると、当該システムは、常伝導電磁石が複数の電池のうちいずれか1つに接続されている間、複数の電池のうち別の電池を電源で充電し得るように構成されているとしてよい。
【0107】
複数の電池を含む実施形態の別の例を図11に図示し、少なくとも3つの電池を利用する。図11の上部に示すように、スイッチを開閉して、一の電池に電磁石へと電力を供給させ(しかし、同時に充電は行わない)る一方、残りの電池は充電を行う。最初の電池を充電する必要がある場合には、電源からすでに切り離されている別の電池から電力供給を受けるよう電磁石を切り替えるように、スイッチ位置を変更するとしてよい。例えば、第2の電池を充電するべく接続しているスイッチを、第2の電池と電磁石との間のスイッチを磁石に電力を供給するべく閉じる前に、開くとしてよい。このため、3つ以上の電池を備えるこのようなシステムは、充電中でなく電源の変動の影響を受けていない2つの電池の間の移行が円滑に行いやすくなるよう構成することができる。言い方を変えると、当該システムは、少なくとも3つの電池を備えるとしてよく、常伝導電磁石は第1の電池に接続されている間、第2の電池は充電されるよう構成されているとしてよい。そして、当該システムはさらに、常伝導電磁石の接続は、この接続を切り替える際に、充電中でない第3の電池に切り替えられるよう構成されるとしてよい。
【0108】
所望される場合には、図11の下部に示すように、全ての電池を充電中として電磁石に接続して、電磁石を利用していない場合(例えば、次の患者までの間など、MRI撮像が行われていない場合)、電磁石を温かい状態に維持するとしてもよい。
【0109】
一または複数の電池は、電磁石が電源の変動の影響を受けないようにするために用いられるが、本開示はさらに、同様の方法で燃料電池を利用することを提案する。例えば、図12に図示するように、システムは、燃料電池が電源と常伝導電磁石との間に配置され、電源に発生する電圧変動をフィルタリングで実質的に除去するよう構成されるとしてよい。
【0110】
本明細書で説明した主題の1または複数の態様または特徴は、デジタル電子回路、集積回路、特別に設計された特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)コンピュータハードウェア、ファームウェア、ソフトウェアおよび/またはこれらの組み合わせで実現するとしてよい。これらのさまざまな態様または特徴は、特定用途型または汎用型にかかわらず少なくとも1つのプログラマブルプロセッサ、少なくとも1つの入力デバイスおよび少なくとも1つの出力デバイスを含むプログラマブルシステムで実行可能および/または解釈可能な1または複数のコンピュータプログラムにおける実装を含むとしてよい。当該プログラマブルプロセッサは、ストレージシステムからデータおよび命令を受け取り、当該ストレージシステムへデータおよび命令を送信するよう、結合されている。プログラマブルシステムまたはコンピューティングシステムは、クライアント側およびサーバ側を含むとしてよい。クライアントおよびサーバは通常、互いに離れた位置にあり、通信ネットワークを介してやり取りするのが普通である。クライアントとサーバの関係は、それぞれのコンピュータで実行されている、互いにクライアント―サーバ関係にあるコンピュータプログラムによって発生する。
【0111】
これらのコンピュータプログラムは、プログラム、ソフトウェア、ソフトウェアアプリケーション、アプリケーション、コンポーネントまたはコードとも呼ばれるが、プログラマブルプロセッサ用の機械命令を含み、高級プロシージャ言語、オブジェクト指向型プログラミング言語、機能プログラミング言語、論理プログラミング言語および/またはアセンブリ言語/機械語で実装され得る。本明細書で用いる場合、「機械可読媒体」(または「コンピュータ可読媒体」)という用語は、任意のコンピュータプログラム製品、装置および/またはデバイス、例えば、磁気ディスク、光ディスク、メモリおよびプログラマブルロジックデバイス(PLD)等を意味する。これらは、機械命令および/またはデータをプログラマブルプロセッサに提供するために用いられ、機械可読信号として機械命令を受信する機械可読媒体を含む。「機械可読信号」(または「コンピュータ可読信号」)という用語は、機械命令および/またはデータをプログラマブルプロセッサに提供するために用いられる任意の信号を意味する。機械可読媒体は、非一時的で機械可読型の媒体であってよく、このような機械命令を非一時的な方法、例えば、非一時的ソリッドステートメモリまたは磁気ハードドライブまたは任意の等価物となる記憶媒体等と同様の方法で格納することができる。機械可読媒体は、これに代えてまたはこれに加えて、このような機械命令を一時的に、例えば、プロセッサキャッシュ、または、1または複数の物理プロセッサコアに対応付けられているその他のランダムアクセスメモリ等と同様の方法で格納するとしてよい。
【0112】
ユーザとのやり取りを実現するべく、本明細書で説明する主題の1または複数の態様または特徴は、ディスプレイデバイス、例えば、ユーザに情報を表示する陰極線管(CRT)または液晶ディスプレイ(LCD)または発光ダイオード(LED)モニタと、ユーザがコンピュータに入力を行うためのキーボードおよびポインティングデバイス、例えば、マウスまたはトラックボール等とを含むコンピュータで実装され得る。他の種類のデバイスを利用してユーザとのやり取りを実現するとしてもよい。例えば、ユーザに与えられるフィードバックは、任意の形式のセンサフィードバックであってよく、例えば、視覚フィードバック、聴覚フィードバック、または、触覚フィードバック等である。ユーザからの入力は、これらに限定されないが、音響入力、音声入力または触覚入力等の任意の形式で受信するとしてよい。他の可能な入力デバイスとしては、これらに限定されないが、タッチスクリーンまたはその他のタッチセンサ式デバイス、例えば、シングルポイント型またはマルチポイント型の抵抗膜方式トラックパッドまたは静電容量方式トラックパッド、音声認識用のハードウェアおよびソフトウェア、光スキャナ、光ポインタ、デジタルイメージキャプチャデバイスおよび対応する解釈ソフトウェア等が含まれる。
【0113】
上記の記載および特許請求の範囲において、「~のうち少なくとも1つ」または「~のうち1または複数」等の表現の後に、複数の要素または特徴が接続詞と共に並べられることがある。「および/または」という用語も、2つ以上の要素または特徴が列挙される際に記載される場合がある。これらの表現は、使用されている文脈において暗示的または明示的に相反する記載がない限り、列挙した要素または特徴のうちいずれかを個別に、または、記載した要素または特徴のうちいずれかと残りの要素または特徴の何れかとを組み合わせたものを意味することを意図しているものである。例えば、「AおよびBのうち少なくとも1つ」、「AおよびBのうち1または複数」および「Aおよび/またはB」という表現はそれぞれ、「Aのみ」、「Bのみ」または「AおよびB」を意味することを意図している。3つ以上が列挙されている場合も同様の解釈をするものとする。例えば、「A、BおよびCのうち少なくとも1つ」、「A、BおよびCのうち1または複数」および「A、Bおよび/またはC」という表現はそれぞれ、「Aのみ」、「Bのみ」、「Cのみ」、「AおよびB」、「AおよびC」、「BおよびC」または「AおよびBおよびC」を意味することを意図している。「~に基づき」という用語を上記の説明および特許請求の範囲で用いる場合、記載していない特徴または要素も考慮され得るように、「~に少なくとも部分的に基づいて」を意味することを意図する。
【0114】
本明細書で説明する主題は、所望の構成に応じて、システム、装置、方法、コンピュータプログラムおよび/または物品で具現化され得る。添付図面で図示する、および/または、本明細書で説明する任意の方法またはロジックフローは、所望の結果を実現するために必ずしも図示している特定の順序または逐次順序が必要なわけではない。上記の説明に記載した実施例は、本明細書で説明する主題に一致した全ての実施例を代表するものではない。そうではなく、説明している主題に関するさまざまな態様に一致している一部の例に過ぎない。上記でいくつか変形例を詳細に説明したが、他の点で変形または追加をすることも可能である。具体的には、本明細書で記載した内容に加えてさらなる特徴および/または変形を行うこともできる。上述した実施例は、開示した特徴のさまざまなコンビネーションおよびサブコンビネーション、および/または、上述したさらなる特徴のコンビネーションおよびサブコンビネーションに関するとしてよい。さらに、利点を上記で説明したが、これらの利点のうちいずれかまたはすべてを実現するプロセスおよび構造に請求項の適用を限定することを意図したものではない。
【0115】
これに加えて、各セクションのタイトルは、本開示に基づく請求項に記載されている発明を限定または特徴付けるものではない。さらに、「背景技術」に記載した技術の説明は、当該技術が本開示の発明に対する先行技術と認めたものと解釈されるべきではない。「発明の概要」の記載もまた、請求項に記載されている本発明を特徴付けるものと解釈されるべきではない。さらに、本開示に全体的に言及する場合、または、「発明」という用語を単数形で使用する場合、以下に記載する請求項の範囲に対する限定を暗示していることを意図するものではない。本開示に基づく複数の請求項の限定事項にしたがって複数の発明を記載するとしてよい。したがってこれらの請求項は、保護すべき複数の発明およびそれらの複数の均等物を定義する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
図9
図10
図11
図12