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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】二次元材料を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/455 20060101AFI20231113BHJP
   C23C 16/34 20060101ALI20231113BHJP
   C30B 29/62 20060101ALI20231113BHJP
   C30B 25/02 20060101ALI20231113BHJP
【FI】
C23C16/455
C23C16/34
C30B29/62 Q
C30B25/02
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021129739
(22)【出願日】2021-08-06
(62)【分割の表示】P 2018527020の分割
【原出願日】2016-07-01
(65)【公開番号】P2021181629
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2021-09-06
(31)【優先権主張番号】1514542.8
(32)【優先日】2015-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】1519182.8
(32)【優先日】2015-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】1523083.2
(32)【優先日】2015-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】1610467.1
(32)【優先日】2016-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】518048167
【氏名又は名称】パラグラフ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】トーマス,サイモン チャールズ スチュアート
【審査官】西田 彩乃
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-207736(JP,A)
【文献】特開平08-279506(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0033688(US,A1)
【文献】国際公開第2014/097280(WO,A1)
【文献】特開2013-177273(JP,A)
【文献】特開2012-082093(JP,A)
【文献】Zheng Han et al.,Homogeneous optical and electronic properties of graphen due to suppression of multilayer patches during cvd on copper foils,Advanced functional materials,2014年,Vol. 24,pp. 964-970
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/455
C23C 16/34
C30B 29/62
C30B 25/02
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a. 少なくとも1つの前駆体入口点を有する反応チャンバー内に、核形成サイトを有する基板を用意することと;
b. 前記少なくとも1つの前駆体入口点を冷却することと;
c. 気相である、および/または気体中に浮遊している前駆体を、前記少なくとも1つの前駆体入口点において前記反応チャンバーに導入することと;
d. 前記基板を、前記前駆体の分解範囲内の温度であって、前記前駆体の分解から放出された化学種からの二次元結晶材料を形成可能な温度に加熱することと;
を含む、二次元結晶材料を製造する方法であって、
製造される前記二次元結晶材料の下に接する前記基板の表面と、前記前駆体がチャンバーに入る点との間の距離が100mm未満であり;
前記二次元結晶材料がグラフェンであり、かつ前記化学種が炭素であるか、または前記二次元結晶材料がシリセンであり、かつ化学種がシリコンであり、
前記基板は、製造される前記二次元結晶材料の下に接する非金属表面を備え、
前記方法は、加熱された基板上で前駆体の流れをパルス化させることを含み、
前記パルス化は、少なくとも2サイクルを含み、各サイクルは、前駆体が、加熱された基板上に流れる「オン」の期間とそれに続く「減少した流れ」の期間の組み合わせである、
方法。
【請求項2】
前記反応チャンバー内の気相中で反応する前駆体の分画が、前記前駆体の分解から放出される化学種から二次元結晶材料が形成されることが可能になるように、前記二次元結晶材料が形成される前記基板の表面と前記少なくとも1つの前駆体入口点との間が小さな間隔で分離されており、かつ、前記基板の表面と前記少なくとも1つの前駆体入口点との間の熱勾配が1メートル当り1000℃以上の温度降下である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記熱勾配が、1メートル当り10000℃以上である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
パルス化は、22サイクル以上及び/又は35サイクル以下を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記「オン」の期間が10秒以上であり、前記「減少した流れ」の期間が5秒以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記「オン」の期間と前記「減少した流れ」の期間で、前記基板の温度及び/又は反応の圧力及び/又は前駆体の流速が異なる、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記「減少した流れ」の期間において、前記反応チャンバーにパージガスを導入する、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記前駆体入口点は、水冷により冷却される、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
製造される前記二次元結晶材料の下に接する前記基板の表面と、前駆体が前記反応チャンバーに入る点との距離が10mmより小さい、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記基板が、製造される前記二次元結晶材料の下に接する結晶表面を備える、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
記反応チャンバー内にドーピング元素を導入することと、前記基板の温度、前記反応チャンバーの圧力、およびガス流量を選択することとを含んで、ドープされた二次元結晶材料を製造する、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の方法を用いて、二次元結晶材料またはドープされた二次元結晶材料の第1の層を製造し;続いて、前記基板の温度を変更して、および/または前記反応チャンバーの圧力を変更して、および/または前駆体の流量を変更して、前記二次元結晶材料またはドープされた二次元結晶材料の第1の層上にさらなる二次元結晶材料層またはドープされた二次元結晶材料層を形成することを含む、多層積層二次元結晶材料層を製造する方法。
【請求項13】
前記前駆体が:炭化水素、水素化物、ハロアルカンおよびハロアミド含むハロ炭素、メタロセン、有機金属、アルキルアミンを含むアミン、有機溶媒、およびアゾ化合物、ならびに随意にアジド、イミド、スルフィド、およびリン化物の群のうちいずれか一つまたは複数から得られる一つまたは複数の化合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
第2の層との間に界面を有する二次元結晶材料を含むヘテロ構造を製造する方法であって:
第1の組の反応器条件とともに請求項1~13のいずれか一項に記載の方法を使用して、反応チャンバー内で基板上に二次元結晶材料を製造することと;
第2の組の反応器条件の下、第2の前駆体を導入して、前記基板上に前記第2の層を形成することと、
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次元材料、特にグラフェンおよびシリセンであるがこれらには限定されない二次元材料を製造する方法に関する。本発明はまた、二次元材料を含むヘテロ構造を製造する方法に関する。
【0002】
グラフェンは、この材料の理論的な並はずれた特性に触発されて提案された非常の多くの応用を有する周知の材料である。そのような特性および応用の好例は、「’The Rise of Graphene’, A. K. Geim and K.S. Novoselev, Nature Materials, vol. 6, March 2007, 183-191」に詳述されている。
【0003】
それでも、これらの所望の材料特性および応用を実現するには、グラフェンが以下のような多くの特性を有することが不可欠であることは充分に理解されており、それらの特性には:
i. 非常に良好な結晶品質、すなわち、グラフェン構造格子がすべての軸まわりにきわめて均一であり、全単層にわたって対称性の繰り返し性が高く、最小限の格子形成不良を示すこと;
ii. 材料グレインサイズが大きいことにより、成長したグラフェンのグレイン構造が、個々のグレイン寸法≧10μm×10μmを示すこと;
iii. 欠陥が、結晶格子破壊、中断(interruption)、結晶への他の元素からの原子または分子汚染、または、酸化等による貧弱なグラフェン単層表面条件を含むものであるとする材料欠陥が、最小限であること;
iv. 大きいシートサイズ、すなわち3cm×3cmより大きく、好ましくは数10センチメートルの程度;および
v. 基板上に製造された、上記ivで与えられたサイズの完全なシートが、そこからそのまま取り外し可能なように自立していること;
が挙げられる。
【0004】
従来のグラフェン製造の方法論では、前述の特性をすべて有するグラフェンを製造することができなかった。その結果、グラフェンに予想されていた性能特性とデバイス応用は、いまだ実現されていない。
【0005】
グラフェン製造の従来方法はいくつかの存在し幅広く使用されており;それらの例は以下に記載されている:
● 米国特許第20130156678A1号 - 金属性基板上または膜上での、溶液を用いたグラフェンの電気泳動であり、これにより、炭素を含む溶液に浸した導電性基板に電位を印加する。この結果は、印加電場による基板表面への炭素輸送であり、その時点で、グラフェン「シート」中への炭素の自己整合が生じる;
● 米国特許第8147791B2号 - グラフェン酸化物の還元機構であり、これによりグラフェン酸化物が、水および溶媒の溶液に導入され、中程度(<300℃)の温度にまで加熱される結果、酸素が解離して、おそらくグラフェン結晶構造配置での炭素のアマルガム化が生じる;そして、
● 国際公開第2014110170A1号 - 触媒反応により促進される化学気相成長(CVD)法であり、これによって、加熱された銅基板を、標準的なCVDチャンバーにおいて触媒性表面として使用して炭化水素を分解させる結果、炭素が金属性表面に残る。
【0006】
上記の重要な材料特性を現状達成できない上に、これらの従来技術にはさらなる制限が存在する。
【0007】
グラフェン形成を促進する特別な犠牲金属触媒基板の必要性から、製造工程パラメータに制限が課せられる。これらの制限の例には、金属基板の相変化に影響を与えない温度の使用、金属基板表面を劣化させない非還元性のガスおよび前駆体の使用が挙げられる。このように製造変数に柔軟性のないせいで、特定の工程では、良好なグラフェン成長が達成しがたいということ、そして意図しない汚染またはドーパントを除去できないという結果が生じている。
【0008】
現状工程では、形成されたグラフェングレインは、いったん基板から取り外すと、シートの形態を維持できるほどの充分な接着性を有していない。したがって、グラフェンは、フレークもしくは粉末の形態、またはグレインどうしを一つにくっつけて保持する保護固定剤を含むシートの形態で入手できるのが最も一般的である。保護固定剤のせいで、このシートは電子デバイス構築には不適となる。
【0009】
従来の製造方法論に伴うさらに2つの問題が次の必要性から生じ、それらは:
a) 電子デバイスを作製するために、製造されたグラフェンを装置から取り出さなければならず、よってグラフェンを外部環境に暴露し、その結果として、電子デバイスの製造に必要なさらなる工程に悪影響を及ぼす表面汚染が生じること;そして
b) グラフェン材料を汚染する化学薬品または物理的工程を必要とする触媒金属系基板からグラフェンを分離させなければならないこと
である。
【0010】
グラフェンの提案以来、さらなる二次元(2D)層が考えられていて、単層材料と呼ばれることが多く、現在ではグラフェンに向けた研究を上回る速度で広範囲に研究されている。このような材料には、シリセン、ホスホレン、ボロフェン、ゲルマネン、ならびにそれぞれシリコン、リン、ホウ素、ゲルマニウム、および炭素のグラフィン同素体が挙げられる。グラフェンと同様にこれらの材料は、「’Electronics based on two-dimensional materials’, Nature Nanotechnology, 2014(9), 768-779」に概説されているとおり、次世代エレクトロニクスに特に適した並はずれた特性を理論的には示すであろう。
【0011】
すべての場合において、これらの材料の実現とそれゆえの効率的な製造は依然として理論的段階にとどまっているが、「’Progress, Challenges, and Opportunities in two-Dimensional Materials Beyond Graphene’ (ACS Nano, 2013, 7 (4), 2898-2926」に記載のとおり、いくつかのアプローチが見つかっている可能性がある。これらの課題は、グラフェン製造について上に詳述されているものとほぼ同様であるが、他の2D材料は、グラフェンとは異なり、空気中では本質的に不安定であり、不活性環境での製造が必要である。
【0012】
これまで、窒素環境においてバルク材料から単一の単層を剥離した以外に、他の2D材料を製造する方法は存在せず、制御された不活性環境の外で存在し得る層または構造で製造に成功したものは一つもない。
【0013】
2D材料用に主にターゲットとなる応用は、エレクトロニクス、ならびにフォトニック構造およびデバイスにおける、これらの単層と半導体または誘電体材料との組み合わせにある。多くの可能な発明が理論化され考えられており、さらに「’Science and Technology Roadmap for Graphene, Related two-Dimensional Crystals, and hybrid systems’, Nanoscale 11, 2015」に詳述されている。
【0014】
いくつかのプロトタイプ構造が、非常に小さい1cm未満の個々のグラフェン試料と半導体材料試料を手作業により組み合わせることによって物理的に実現されているが、こうした構造の性能は、グラフェンの貧弱な品質、手作業により組み合わせ技術、および組み立て手順に起因して生じる固有の汚染のせいで、予想された特性よりもかなり低いものである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記の問題を克服する、または少なくとも改善することを目的として考えられた。
【0016】
本発明の第1の態様によれば、二次元結晶材料を製造する方法が提供され、この方法は:反応チャンバー内で、核形成サイトを有する表面を有する基板を用意することを含む。この方法はまた、気相にある、および/または気体中に浮遊している前駆体を反応チャンバーに導入すること;および、前駆体の分解範囲内の温度であって、分解前駆体から放出される構成成分から二次元結晶材料を形成できる温度にまで基板を加熱することを含んでいてもよい。この方法は、好ましくは前駆体入口点の冷却を含む。反応チャンバーは密結合反応チャンバー(close coupled reaction chamber)であってもよい。形成される二次元結晶材料の下に接する基板表面と、前駆体が反応チャンバーに入る点との間に充分に小さい間隔、および基板表面と、前駆体が反応チャンバーに入る点との間に充分急峻な熱勾配を設けて、反応チャンバー内の気相中で反応する前駆体の割合が充分低くなるようにし、二次元結晶材料を形成できるようにしてもよい。
【0017】
本発明のさらなる態様によれば、二次元結晶材料を製造する方法が提供され、この方法は、密結合反応チャンバー内で、核形成サイトを有する基板を用意することと;
気相にある、および/または気体中に浮遊している前駆体を密結合反応チャンバーに導入することと;
前駆体の分解範囲内の温度であって、分解前駆体から放出される化学種から二次元結晶材料を形成できる温度にまで基板を加熱することと、を含む。
【0018】
密結合反応チャンバーは、形成される二次元結晶材料の下に接する基板表面と、前駆体が密結合反応チャンバーに入る入口点との間に充分に小さい間隔を設け、密結合反応チャンバー内の気相中で反応する前駆体の割合が充分低くなるようにして、二次元結晶材料を形成できるようにしてある。間隔の上限は、選択した前駆体、基板温度、および密結合反応チャンバー内の圧力によって異なる場合がある。
【0019】
標準的なCVD系のチャンバーと比較して、前述の間隔距離を設けた密結合反応チャンバーを使用すると、基板への前駆体の供給を高度に制御することが可能になる。すなわち;形成される二次元結晶材料の下に接する基板表面と、前駆体が密結合反応チャンバーに入る流入口との間に設けられた小さな距離によって、急峻な熱勾配が生じ、これによって、前駆体の分解を高度に制御することができる。
【0020】
多くの実例では、形成される二次元結晶材料の下に接する基板表面と、基板表面に直に向かい合うチャンバー壁との間の間隔は、基板表面と、前駆体が密結合反応チャンバーに入る点との間の間隔に実質的に等しいことになる。それにもかかわらず、これは必ずしも当てはまらない場合があり、例えば、密結合反応チャンバーが備える前駆体用の流入口が、チャンバー内に位置する/延在する場合、または水平導入型チャンバーを使用する場合である。
【0021】
密結合反応チャンバーによって設けられた基板表面とチャンバー壁との間の比較的小さい間隔は、標準的なCVD系に設けられた比較的大きな間隔と比較して:
1)前駆体入口点と基板表面との間の急峻な熱勾配;
2)前駆体入口点と基板表面との間の短い流路;そして
3)前駆体入口点と二次元結晶材料形成点との近接性を実現できる。
【0022】
これらの利点により、基板表面への前駆体の送達速度と基板表面にわたる流れの力学とを制御できる程度に及ぼす、基板表面温度、チャンバー圧力、および前駆体流束を含む堆積パラメータの有する効果が強化される。
【0023】
これらの利点と、これらの利点がもたらすさらに大きな制御により、二次元結晶材料の堆積に有害なチャンバー内での気相反応を最小限に抑えることができ;前駆体分解速度の高度の柔軟性により、基板表面への化学種の効率的な送達が可能になり;標準的なCVD技術では不可能な基板表面で原子配置の制御ができる。
【0024】
密結合反応チャンバーの使用を通じて実現できる、基板表面上またはその周囲の環境の精密制御により、例えば気相エピタキシー(VPE)を使用する二次元結晶材料の堆積が可能になる。これと、急峻な熱勾配によって得られる利点とにより、金属性触媒基板を使用する必要性なしに二次元結晶材料の堆積が可能になる。
【0025】
金属性触媒基材の必要性が除かれることにより、二次元結晶材料を製造するのに使用できる工程条件にさらに高い柔軟性が与えられる。これにより今度は、意図しないドーピングを制限し、グレインサイズを増加させる可能性が得られる。また、二次元結晶材料があまり良好に接着しない、すなわち接着性の乏しい基板の使用を選択することで、さらに直截的で速やかな工程により、二次元結晶材料の分離し易くすることができ、こうした工程により、二次元結晶材料の汚染が最小限になる、または汚染のない結果が得られる。
【0026】
一つの好ましい実施形態では、二次元結晶層はグラフェンであり、前駆体は炭素含有前駆体であり、化学種は炭素である。
【0027】
本発明の方法を使用して、既知の方法に勝る実質的に改良された特性、例えば、6インチ径の基板の98%を占める、20μmより大きいグレインサイズ、基板の>95%での層均一性、450Ω/sq未満のシート抵抗、および2435cm/Vsより大きい電子移動度を有するグラフェンを製造することが可能になった。本発明の方法を使用して製造されたグラフェン層の最近の試験では、温度および圧力についての標準的な条件で試験した全層にわたって、>8000cm/Vsの電子移動度が実証されている。本方法により、標準的なラマンおよびAFMマッピング技術ではミクロンスケールまで検出不可能な不連続性を有するグラフェン層を、6インチ(15cm)の基板全面に製造成することができた。本方法はまた、基板全面に均一なグラフェン単層と積層された均一なグラフェン層とを製造することができ、この均一な単層の最上部、または最上層の均一な単層に、さらなる層断片、個々の炭素原子または炭素原子群の形成はないということも示した。
【0028】
別の実施形態では、二次元結晶層はシリセンであり、前駆体はシリコン含有前駆体であり、化学種はシリコンである。
【0029】
基板が加熱される好ましい温度は、選択される前駆体に依存する。選択される温度は、化学種を放出させるためには、前駆体が少なくとも部分的に分解できるほどには充分高くなければならないが、好ましくは、基板表面から離れた場所における気相中で再結合速度の増加を促進するほど、よって不要な副生成物が生成するほど高くてはならない。前駆体が100%分解される完全分解温度は、典型的には、前駆体の供給元から知ることができ、また多くのオンラインデータベースの一つから見つけることができる。再結合速度は、他の工程条件、例えば反応チャンバー圧力、および前駆体流量が選択されれば、当技術分野で当業者に知られている周知の方法を用いて理論的に計算することができる。それにもかかわらず、選択される温度は、基板表面動力学の向上を促進し、良好な結晶品質の二次元結晶材料の形成を促すために、完全分解温度よりも高くてもよい。さらに高い再結合速度、よって二次元結晶材料成長速度の低下を代償にして良好な結晶品質を提供する温度を選択することにトレードオフが生じる可能性がある。特定の前駆体にとって最良の温度または好ましい温度範囲は、直接的な経験的実験を通じて決定することが可能である。
【0030】
密結合反応器中で二次元結晶材料を堆積させるための温度範囲は、選択される基板材料、前駆体を含む(および/またはドーパント前駆体が適用可能な)選択される化学種、および所望のグラフェンの最終特性に依存する。VPE二次元結晶材料堆積温度は、分解温度が低く高度に揮発性の前駆体を使用する場合には200℃から、他の前駆体化合物については最高1500℃までの範囲にわたり得る。
【0031】
基板表面と前駆体の導入点との間に熱勾配が存在するためには、流入口が基板より低い温度のものでなければならないことは暗黙の内に了解されている。固定間隔の場合、温度差が大きいほど、より急峻な温度勾配が得られる。このように、前駆体が導入される少なくともチャンバーの壁、より好ましくはチャンバーの全壁を冷却することが好ましい。冷却は、例えば、流体、好ましくは液体、最も好ましくは水による冷却を使用する冷却系を使用して実現してもよい。反応器の壁を、水冷によって一定の温度に維持してもよい。冷却用流体を流入口の周囲に流すことによって、延在する流入口が貫通する反応器壁の内面の温度、ひいては前駆体が流入口を通って反応室に入るときの前駆体それ自体の温度が、実質的に基板温度よりも低く、有利には200℃以下となることを保証するようにしてもよく、170℃以下がより好ましい。
【0032】
有意な量だけチャンバーに突出している導管によって流入口が画定されている配置では、その突出部内の前駆体が流入口から出るまで冷却された状態を保つためには、突出した導管壁の外部および/または内部を通して冷却用流体を流すことによって流体冷却を行うことが必要となる可能性が高い。これにより複雑さが増す結果として、突出した導管を含む配置は好ましくない。
【0033】
基板の加熱と、流入口において基板表面に直に向かい合う反応器の壁の冷却とを同時に行うことにより、急峻な熱勾配を形成することができ、これによって温度は基板表面で最高であり、流入口に向かって急速に低下する。これにより、基板表面上方の反応器体積が基板表面それ自体よりも大幅に低い温度を有することが保証され、前駆体が基板の表面に近接するまで、有用な気相でない中での前駆体反応の確率を大幅に下げられる。
【0034】
空きのさしわたしの温度プロファイルは、実際には線形ではないものの、基板と前駆体流入口の間の温度差は、メートルあたり約1000℃よりも大きい、(t-t)/s≧1000℃m-1の直線勾配と同等であることが好ましく、ここでtは基板表面の温度、tは流入口の温度、sはメートル単位での空きである。
【0035】
このような勾配は、例えば、流入口と基板との間の約30mmの空きにわたって30℃の温度降下を使用すれば得られる可能性がある。より好ましくは、例えば500℃の基板温度、200℃の流入口温度(温度差300℃)で100mmの空きを使用して、温度差はメートルあたり3000℃以上である。さらに有利には、この差は10,000超であることであり、これは、約14,500℃m-1に等しくなる、1100℃の基板温度、200℃の流入口温度、および60mmの空きを使用して実現し得る、または500℃の基板温度、200℃の流入口温度(温度差300℃)、および10mmの空き(30,000℃m-1)を使用して実現し得る。
【0036】
好ましい実施形態では、本方法は、気相であってもよい前駆体を、加熱された基板上に通すことを含む。考慮すべき2つの変数があり、それらは:密結合反応チャンバー内の圧力とチャンバー内へのガス流量である。
【0037】
選択される好ましい圧力は、選択される前駆体に依存する。一般的に言えば、より複雑な分子の前駆体を使用する場合、より低い圧力、例えば500ミリバール未満を使用すると、二次元結晶材料品質と製造速度が向上することが観察されている。理論的には、圧力は低いほど良いが、非常に低い圧力(例えば、200ミリバール未満)により得られるこの恩恵は、非常にゆっくりとした二次元結晶材料形成速度によって相殺される。
【0038】
逆に、あまり複雑でない分子前駆体にとっては、より高い圧力が好ましい。例えば、メタンをグラフェン製造用の前駆体として使用する場合、600ミリバール以上の圧力が好適である場合がある。通常は、基板表面動力学の有害な影響と系にかかる機械的応力とのため、大気圧よりも高い圧力を使用することは想定されていない。好適な圧力は、どんな前駆体についても簡単な経験的実験を通じて選択することができ、この実験では、例えば、50ミリバール、950ミリバールの各圧力を使用し、最初の2回と同じ間隔を空けてさらに3回の、5回の試行を行なってもよい。ついで、最も好適な範囲を最も絞り込むためのさらなる試行を、1回目の試行において最も好適であると特定されたその区間内での圧力で、実施することができる。
【0039】
前駆体流量は、二次元結晶材料堆積速度の制御に使用することができる。選択される流量は、前駆体内の化学種の量と、製造される層の面積に依存する。前駆体ガス流量は、基板表面上でコヒーレントな二次元結晶材料層形成を可能にするように充分高い必要がある。流れが、高い方の閾値流量以上である場合には、バルク材料、例えばグラファイトの形成が概して生じることになるか、または、気相反応の増加が発生して、その結果、二次元結晶材料形成に有害な、および/または二次元結晶材料層を汚染する可能性のある、気相中に浮遊する固体微粒子が生じることになる。最低閾値流量は、当技術分野で当業者に知られている方法を用いて理論的に計算することができ、これは、層形成するため基板表面で充分な原子濃度が得られるよう保証するために基板に供給されなければならない化学種の量を評価することによって行う。所与の圧力と温度の最低および高い方の閾値流量の間で、流量と二次元結晶材料層の成長速度とは線形関係にある。
【0040】
ターゲット基板上の化学種の初期核形成、二次元結晶材料層の最終的な製造のためのプリフォーマー(pre-former)は、基板と前駆体選択によっては、最終的なターゲット二次元結晶材料を実現するのに必要な条件とは異なる表面条件を必要とし得る。基板表面への化学種の吸着の開始を促進するために、ターゲット基板上で非常に異なる表面動力学を有することが望ましい場合が多い。表面動力学、前駆体分解、および表面反応速度は、基板温度、反応器圧力、前駆体流量、および希釈ガスの存在によって容易に制御される場合がある。
【0041】
そのようなものとして、好ましい方法は、基板への初期の化学種吸着を促進する第1の組の反応器条件を提供し、続いて、反応チャンバーから基板を除去し、そして好ましくは除去せずに、二次元結晶材料層の形成と合体を促進する第2の組の反応器条件を提供することを含む。最も単純な形態では、この実施形態は、二段階工程であり、これによると、一組の条件:例えば、反応チャンバー内の第1の圧力、基板の第1の温度、および基板上の第1の前駆体流れを使用して、基板に化学種が初期に接着するのを促進し、続いて第2の組の条件、例えば、第2の圧力、第2の温度、および第2の流量を使用して、基板表面上の初期の化学種の位置から二次元結晶材料層が形成および合体するのを促進する。例えば、ただ1つの特性のみ、例えば温度のみを変更する必要がある場合があり、他の実例では、複数の特性を変更することが望ましい場合がある。さらに、二組以上の反応器条件の間を巡回することを含む、好ましい変形例の方法を使用して、最適化された二次元結晶材料層が製造されている。
【0042】
さらに精密化された工程では、さらなる組の反応器条件を使用したさらなるステップを含むことが有益である場合もある。また、形成後の二次元結晶材料を処理する、例えばアニールするさらなるステップを含むことが有益である場合もある。
【0043】
好ましい実施形態では、本方法は、二次元結晶材料製造に先立って、基板の表面条件を改善するため、前駆体を導入する前の基板準備工程を含む。正確な準備の必要性は、選択される基板材料と、反応チャンバー内に置かれた場合のその表面条件とに依存する。最も一般的には、基板準備工程は、基板の熱処理を行って、自然酸化物および/または炭化水素などの一般的な表面汚染を除去することを含み、これに、大気圧力を下回るまで反応チャンバー内の圧力を下げる、および/または反応チャンバー内に還元性環境、例えば水素環境での低圧力工程を用意することを組み合わせる。他の場合には、二次元結晶材料の堆積にとってより好適な状態を提供するために基板表面の終端を変えることが好ましい場合がある。これは、二次元結晶材料堆積工程に先立って、反応チャンバーにおいて、基板の表面状態を変化させることになるガスまたは前駆体に基板を露出させることによって実現してもよく、露出には例えば、アンモニアを用いて、サファイア基板を窒素終端させてもよい。さらなる準備工程を、言及したもの対して使用してもよいことが想定される。
【0044】
好ましい実施形態では、本方法は、加熱された基板上で前駆体の流れをパルス化させることを含む。基板上の前駆体の、減少した流量、例えば、検知できる程度の二次元結晶材料成長に必要な最低流量以下の流量、またはゼロ流量の期間があることによって、表面動力学が支援され原子表面拡散が促進されて、基板表面上で好ましい単層配置に化学種が配置される。
【0045】
基板上の前駆体の流れを生じる「オン」の期間とそれに続く「オフ」および/または「減少した流れ」の期間の組み合わせを、1サイクルと定義する。堆積工程を改善するために必要なサイクルの数は、前駆体、基板、および二次元結晶材料層の所望の最終特性によって異なる場合がある。初期の実験では、2から22サイクルの間のいずれを使用しても、改善された結果が示された。さらなる実験では、この既知の範囲を35サイクルにまで拡げたが、この上側の値は、特定の前駆体および/または反応チャンバー条件にとってはもっと大きいことが予想される。特定の条件では、100サイクルもの多くのサイクルが依然として有益である可能性があると考えられる。
【0046】
同様に、オン時間とオフ時間の好ましい長さも、前駆体と基板によって変わる。グラフェンを製造する限られた数の前駆体を用いたこれまでの実験に基づいて、好ましい「オン」時間は10秒以上であり、好ましい「オフ」および/または「減少した流れ」時間は5秒以上である。これらの時間は、他の二次元層の製造については異なっている場合があり、例えば、前駆体としてボランを使用するボロフェンの製造では、10秒よりも大幅に少なくて済む場合がある。
【0047】
「オン」期間および「オフ」または「減少した流れ」期間に対して、異なる工程条件を適用することが好ましい場合もあり、これは例えば、基板表面温度、および/または反応チャンバー圧力、および/または前駆体流量を変更することによって行う。さらに、サイクルごとに異なる工程条件を使用する方が望ましい場合もあり、これは例えば、前駆体流量を変更することを含む。
【0048】
さらに代替の実施形態では、「オフ」期間にパージガスを反応チャンバーへ導入して、前駆体または基板表面からの前駆体副生成物を積極的に除去してもよく、これらの前駆体副生成物は、そうしないと前駆体「オフ」期間に基板上での炭素の表面拡散にとって障壁となるかもしれないものである。好適なパージガスの非限定的な例には、水素および/または窒素が挙げられる。
【0049】
代替の実施形態では、本方法は、前駆体を導入した後に密結合反応チャンバーを密閉して、密結合反応チャンバー内へのまたはその外への前駆体の流れを最小限にする、および/または防止することを含む。これによって、前駆体への基板表面の露出が制限され、基板表面に近傍で分解した前駆体からの化学種の流れが減少することによって二次元結晶材料形成が支援される場合がある。この表面で使用可能な化学種の量は、二次元結晶材料結晶の品質を決定することになるものであり、密結合反応チャンバー内の圧力を制御することによって、および/またはこの反応チャンバー内での希釈ガスの使用を通じて制御してもよい。基板は、前駆体の導入前、導入後、または導入中のいずれにおいて加熱してもよい。
【0050】
形成される二次元結晶材料の下に接する基板表面と基板表面直上の反応器の壁との間の空きは、反応器熱勾配に大きな影響を与える。熱勾配は可能な限り急峻であることが好ましく、これは、可能な限り小さい好ましい空きと相関している。空きが小さいほど、基板表面での界面層条件が変化し、この基板表面が今度は、二次元結晶材料層形成の均一性を向上させる。また空きが小さいほど、工程変数の精密なレベルでの制御、例えば、入力される流束を少なくすることによる前駆体消費の削減、より低い反応器温度、よってより低い基板温度が可能になるので非常に好ましく、基板温度が低いと、基板中の応力および非均一性が減少し、その結果、基板表面上でより均一な二次元結晶材料が製造されることになり、よってほとんどの場合、工程時間が大幅に削減される。
【0051】
実験からは、形成される二次元結晶材料の下に接する基板表面と前駆体の入口点(基板表面と、基板直上の壁との間の間隔に等しくてもよい)との間の、約100mmの空きが、グラフェン形成に必要な条件が得られるほぼ上限に達しており;これは、約110mmまでわずかに増加する場合もあるが、その場合、前駆体用の流入口は壁を越えてチャンバー内に突出し、基板表面から約100mmだけ離間するようになっている。しかし、より信頼性の高いより良好な品質の二次元結晶材料は、約20mm以下のはるかに小さい空きを使用して製造されており;約10mm以下の空きでは、基板表面近くでのさらに強い熱流の形成が促進され、これによって生成効率が高まる。
【0052】
比較的低い分解温度を有する前駆体を使用し、前駆体流入口の温度での前駆体の分解が無視できない可能性が高いような場合、前駆体が基板に到達するのに必要な時間を最小限にするため、10mmを下回る空きが強く好まれる。
【0053】
この方法に向いた好適な反応チャンバーには、基板と直に向かい合う流入口から対象物に向けてガスが注入される垂直型導入系と、これよりは少ないが、流れをチャンバーに導入する位置が基板から横方向に離れたところにある水平型導入系が挙げられる。本方法を実行するために使用できる好適な装置の一般的な例は、気相エピタキシー(VPE)系、および金属有機化学気相成長(MOCVD)反応器である。
【0054】
使用する装置の形態に関係なく、急峻な熱勾配を得るために、装置は好ましくは、形成されることになる二次元結晶材料の下に接する基板表面に直に向かい合うチャンバー壁、そしてより有利にはチャンバーのすべての壁を、加熱された基板の温度より実質的に低い温度に維持する手段を含む。これは、例えば、水冷によって実現することができる。
【0055】
反応器は、低温壁の反応器であるのが好ましく、その中の基板に結合したヒーターが、チャンバーへの主要な、そして好ましくは唯一の熱源である。
【0056】
垂直型導入系に関しては、そして、それほど好ましくはないが、前駆体の導入点がチャンバー内にまで延在する場合には、基板に直に向かい合う流入口の端部と、基板に直に向かい合うチャンバーの壁との間の空きの差分は、約10mm未満であってもよい。
【0057】
水平型反応器配置の場合には、基板に直に向かい合うチャンバー壁と基板との間の空きと比較して、前駆体導入点と基板表面の間の顕著に大きな空きを使用することが可能であり、そしてなお、基板表面上に二次元結晶材料を製造することが可能である。基板表面と前駆体導入点との間の水平方向の空きは、約400mmまで、基板表面上で二次元結晶材料を製造できることが実験によりわかっている。
【0058】
通常、反応器の天井は、製造される二次元結晶材料の下に接する基板表面と直に向かい合う壁となるが;しかしながら基板を、そうならないように反応器内に配置してもよいことが理解されよう。
【0059】
製造される二次元結晶材料の下に接する結晶表面を基板が備えていることが好ましいが、これは、規則的な結晶格子サイトにより、良好な二次元結晶材料の結晶過成長の形成を促進する規則的な配列の核形成サイトが得られるからである。最も好ましい基板によれば、高密度の核形成サイトが得られる。半導体堆積に使用される基板の規則的で周期的な結晶格子が理想的であり、原子レベルのステップ表面により拡散障壁が得られる。
【0060】
それにもかかわらず、変更された成長条件では、結晶でない、多結晶質、またはアモルファスの材料を二次元結晶材料成長の基板として使用することが可能である。この工程は、それほど効率が良くないかもしれないが、そのような基板は、他方で、例えば、コスト、層の取り外しの容易さで有益である場合がある。
【0061】
結晶でない基板により、表面の不規則性、表面形態、または欠陥を通じて、好適な核形成サイトが得られる場合がある。さらに、表面改質、例えば形状加工またはパターン形成を、例えばウェットエッチングまたはドライエッチング技術を使用して実行することにより、基板は材料堆積にとってさらに好ましいものとすることができる。これに代えて、またはこれに加えて、特定の基板、例えばプラスチック、およびセラミックスは、核形成サイトが得られる望ましい表面仕上げにより予備成形しておいてもよい。
【0062】
この工程は金属基板と併用することができるものの、好ましくはない。むしろ、基板は、製造される二次元結晶材料の下に接する非金属表面を備えていることが好ましい。これにより、金属基板に付随する工程条件の制約が回避され、形成された二次元結晶材料層をそうした基板から取り外すことに付随する問題が回避される。
【0063】
好適な基板の非限定的な例には:
●半導体単結晶ウェーハ、例えば、シリコン(Si)、シリコンカーバイド(SiC)、ヒ化ガリウム(GaAs)、リン化インジウム(InP)、窒化ガリウム(GaN)、酸化亜鉛(ZnO)、またはアンチモン化インジウム(InSb);
●絶縁性材料、例えば、サファイア(Al)、ケイ石(SiO );
●化合物半導体のホモおよびヘテロ構造の構造、例えば、InP/CdTe、GaN/InGaN/AlGaN、Si/AlN/GaN、GaAs/AlInGaP、GaN/BN、シリコン・オン・インシュレータ(SOI);
●セラミックス、例えば、二酸化ジルコニウム、アルミノケイ酸塩、シリコンナイトライド(Si)、炭化ホウ素(BC);
●ガラス、例えば、石英、溶融石英ガラス、ボロフロート;
●プラスチックおよびポリマー、例えば高性能プラスチック、例えばポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテル・エーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリフェニレン・スルフィド(PPS);
●複合材料、例えば、繊維強化ポリマー、ガラス強化マトリクス、および炭素複合材;
●ナノマテリアル、例えばナノチューブ、ナノ粒子;
●有機基材、例えば有機ポリマー、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、またはポリカーボネート(PC)が挙げられる。
【0064】
概して、二次元結晶材料製造中に基板全体の熱均一性を保証するために、可能な限り薄い基板を有することが好ましい。
しかしながら、基板の最小厚は、基材の機械的特性、および基板を加熱することになる最高温度によって部分的には決まってしまう。
【0065】
基板の最大面積は、密結合反応チャンバーのサイズによって決まる。
【0066】
多種多様な化合物を前駆体として使用することができ、その最低限の要件は、そうした化合物が、所望の化学種を含み、気相でおよび/または気体中に浮遊させて密結合反応チャンバーに供給され得ること、そしてその化合物が、反応器の動作可能な最高温度以下の温度で分解されることである。多くの市販の反応器では、最高温度は1200℃と1500℃の間にあるが、ただし将来の反応器はさらに高い温度を使用できる能力を備えるものと考えられる。
【0067】
グラフェンの製造のために、前駆体は、群:炭化水素、水素化物、ハロアルカンおよびハロアミドを含むハロ炭素、メタロセン、有機金属、アミン含むアルキルアミン、有機溶媒、およびアゾ化合物、ならびに随意に、アジド、イミド、スルフィド、およびリン化物のいずれか一つまたは複数から得られる一つまたは複数の化合物を含んでいてもよい。これらの群により前駆体は、グラフェン内への取り込みや堆積工程との干渉なしに反応チャンバーから除去することができる生成物によって、非炭素分解することが可能となる。前駆体は、上記の群の一つまたは複数から得られる複数の炭素含有化合物を含んでいてもよい。
【0068】
前駆体は有利には群:ハロ炭素、炭化水素、アゾ、およびメタロセン、ならびに随意に有機金属のいずれか一つまたは複数から得られる一つまたは複数の化合物を含む、そしてより有利にはそれらから成るが、その理由は、それらの化合物が比較的容易に取り扱え、広く入手可能であることにある。
【0069】
前駆体は最も有利には、ブロモメタン、メタン、エタン、シクロペンタジエニルマグネシウム、四臭化炭素、アゾメタン、アゾエタン、および/またはアセチレンのうちの1つまたは複数を含むまたはそれらから成る。
【0070】
メタン、エタン、およびアセチレンは特に好適であり、その理由は、これらが高純度の形態で市販されており、必要な炭素を含む分子構造を有することにあり;他の構成成分、水素(そしてアゾ化合物の場合には窒素)は、グラフェン堆積工程に干渉しない。アゾメタンとアゾエタンはさらに、フリーラジカル炭素基を与える分子構造を有し、この炭素基から炭素が容易に遊離する。
【0071】
ハロ炭素は、特に好適な前駆体であると考えられているが、その理由は、これらが概して揮発性で、気相で反応器に送達することが容易であり、容易に解離して炭素およびハロゲンを放出し、このハロゲンそれ自体が揮発性で、チャンバーから排出するのが容易なことにある。
【0072】
ブロモメタンが特に有利であり、その理由は、その高い揮発性から2つの利点が得られることにある。チャンバー内圧力が臭素の蒸気圧よりも低い一組の工程条件下で、臭素は、グラフェン層との相互作用なしに反応チャンバーから容易に除去することができる。反応チャンバー内の圧力が臭素の蒸気圧よりも高い第2の組の工程条件では、臭素をドーパントとしてグラフェンに取り込むことができる。
【0073】
ハロ炭素の群のうち他の化合物は、同様の特性を示であろうことが推測され、純粋なグラフェン源とドープされたグラフェン源の両方に好適なものとなっている。この群の内で考えられている化合物の例には、ブロモエタン、ヨウ化メチル、および塩化メチルが挙げられる。また、特定の非ハロ炭素化合物が、純粋なグラフェン源およびドープされたグラフェン源の両方として好適であると考えられており、例えばシクロペンタジエニルマグネシウム、四臭化炭素、そして随意にトリエチルボランがそうである。
【0074】
シリセンの製造の場合、前駆体は、シラン、シリコンを含有する有機金属またはオルガノシリコン分子の群から得られる一つまたは複数の化合物を含んでいてもよい。これらの群は、所望のシリコンと、シリセン成長工程に影響を与えずに反応チャンバーから容易に除去することができる分解副生成物を含有する非シリコンとを含む前駆体を与える。好ましい前駆体化合物には:シラン、ジシラン、メチルシラン、四塩化ケイ素、およびオルトケイ酸テトラメチルまたはオルトケイ酸テトラエチルのうちの一つまたは複数が挙げられるが、これらに限定されない。前駆体は、上記の群の一つまたは複数から得られる複数のシリコン含有化合物を含む可能性がある。
【0075】
ボロフェンの製造については、前駆体は、ボラン、有機ホウ素、またはホウ素含有有機金属分子の群から得られる一つまたは複数の化合物を含んでいてもよい。これらの群は、所望のホウ素と、ボロフェン成長工程に影響を与えずに反応チャンバーから容易に除去することができる分解副生成物を含有する非ホウ素とを含む前駆体を与える。好ましい前駆体化合物には:ボラン、ジボラン、トリメチルホウ素およびトリエチルホウ素のうちの一つまたは複数が挙げられる。前駆体は、上記の群の一つまたは複数から得られる複数のホウ素含有化合物を含む可能性がある。
【0076】
ゲルマネンの製造の場合、前駆体は、ゲルマンまたは有機金属分子の群から得られる一つまたは複数の化合物を含んでいてもよい。これらの群は、所望のゲルマニウムと、ゲルマネン成長工程に影響を与えずに反応チャンバーから容易に除去することができる分解副生成物を含有する非ゲルマニウムとを含む前駆体を与える。好ましい前駆体化合物には:ゲルマン、(CGe、および(n-CGeのうちの一つまたは複数が挙げられる。前駆体は、上記の群の一つまたは複数から得られる複数のゲルマニウム含有化合物を含む可能性がある。
【0077】
特定の好ましい実施形態では、前駆体と希釈ガスとの混合物を、密結合反応チャンバー内の加熱された基板上に通す。希釈ガスを使用すると、炭素供給速度をさらに精密に制御することが可能になる。
【0078】
希釈ガスは、水素、窒素、アルゴン、およびヘリウムの一つまたは複数を含むことが好ましい。これらのガスが選択されるのは、典型的な反応器条件下では、多くの入手可能な前駆体と容易には反応しないし、グラフェン層にも含まれないからである。それにもかかわらず、水素は特定の前駆体と反応する場合がある。さらに窒素は、特定の条件下でグラフェン層に取り込まれる可能性がある。そうして実例では、他の担体ガスの一つを使用することができる。
【0079】
これらの潜在的な問題にもかかわらず、水素および窒素は、MOCVDおよびVPE系で使用される標準的なガスであるため、特に好ましい。
【0080】
一つの好ましい変形例の実施形態では、本方法は、形成された二次元結晶材料を、密結合チャンバー内で熱処理すること(半導体製造分野では「アニーリング」と称されることが多い)を含む。概して、アニーリング温度は、形成温度以上になることが予想されるが、場合によってはそれを下回る場合もある。例えば、1100℃より高い温度では、格子再秩序化を生じグラフェン構造を改善することが示されている。シリセンの場合、約150℃という低い加熱処理温度が層の脱水素反応を誘発し、その結果、電気的特性が改善されることが示されている。アニーリング工程は、異なる温度に二次元結晶材料を維持する多段階、例えば不純物の除去を容易にするよう温度が低い第1段階、および格子構造を改善するよう温度がさらに高い第2段階を含んでいてもよい。
【0081】
上に示唆したように、本発明によって提供される反応条件の柔軟性により、制御可能にドープされた二次元結晶材料構造の製造が可能になる。この目的のために、本発明の好ましいさらなる実施形態は、密結合反応チャンバー内にドーピング元素を導入し、基板の温度、反応チャンバーの圧力、およびガス流量を選択して、ドープされた二次元結晶材料を製造することを含む。直接的な経験的実験を使用し、上記の指針を使用してこれらの変数を決定することができる。この工程は、希釈ガスの有無にかかわらず使用できる。
【0082】
この方法の一変形例では、二次元結晶材料成長に使用される前駆体分子は、ドーピング元素を含む。
【0083】
別の変形例では、前駆体含有化学種と、ドーピング元素を含む第2の前駆体とを、密結合反応チャンバー内の基板に導入するが、第2の前駆体は気体である、または気体中に浮遊している。特定の実施形態では、第2の前駆体の流れをパルス化させることにより、二次元結晶材料層が優先的に基板表面上に形成される時間的余地を与える。さらなる変形例では、例えば第3の前駆体を含ませることにより、および/または第2の前駆体とともにドーピング元素を含む第1の前駆体を使用することにより、複数のドーピング元素を導入してもよい。
【0084】
導入してもよいドーピング元素については、とりたてて制限はない。グラフェンの製造に一般に使用されるドーパント元素には、シリコン、マグネシウム、亜鉛、ヒ素、酸素、ホウ素、臭素、および窒素が挙げられる。シリセンについては、有利なドーピング元素には、酸素、銅、銀、金、イリジウム、および白金が挙げられる。ボロフェンの場合には、有利なドーピング元素には、炭素および窒素が挙げられる。
【0085】
多種多様な化合物をドーパント前駆体として使用することができるが、最小限の要件は、そうした化合物を密結合チャンバーに気相でまたは気体の流れに浮遊させて送達できること、そして選択した前駆体を用いて二次元結晶材料を成長させるのに使用する条件で、化合物が分解して必要なドーパントを放出することである。
【0086】
ドーパント前駆体源として好適である可能性のある、一般的に入手可能な化合物には、以下の群:水素化物、有機金属、メタロセン、およびハロ炭素のうちにあるものが挙げられる。
【0087】
本発明によって可能となる反応工程の柔軟性により、層形成の合間および/またはそのさなかに反応器条件を変更することが可能となる。これにより、複数の層、および/または層ごとに様々な特性を有する層を堆積させることができる。よって、さらに好ましい実施形態によれば、本方法は、反応器条件、例えば、基板の温度、および/または反応チャンバーの圧力すなわち前駆体の流量を変更して、二次元結晶材料またはドープされた二次元結晶材料の第1の層の上方(例えばその最上部)に、さらなる二次元結晶材料層またはドープされた二次元結晶材料層を形成し、その結果として二次元結晶材料へテロ構造を得るステップをさらに含んでいてもよい。あるいはこの方法は、第2の前駆体を導入すること、または第1および第2の積層二次元結晶材料層の形成の合間に前駆体を変更して、第2の層が第1の層とは異なる材料特性を有するようにすることを含んでいてもよい。
【0088】
層相互の汚染または層間の分子または元素拡散なしに、連続的な個別の二次元層を累積的に製造することができれば、際立った構造特性を有するヘテロ構造を、二次元材料層を組み合わせることによって製造できる可能性が開かれる。成長パラメータの制御に注意を払い、先に形成されている二次元層を安定に保つのに必要な条件と併せて、今回形成しようとする二次元層成長の堆積特性を評価して、二次元材料へテロ構造を製造してもよい。
【0089】
本発明はまた、ヘテロ構造、よって当然の結果として、少なくとも一層の二次元結晶材料層(ドープされた、あるいはそうでないもの)と少なくとも一層の非二次元結晶材料層、例えば、半導体材料および/または誘電体材料の層を含む電子デバイスを、密結合反応チャンバーにおいてインサイチュで、すなわち、次層を追加する前にチャンバーから第1の形成層を除去する必要なしに製造する可能性が得られる。これにより、ヘテロ構造の各層の形成用に異なる工程条件を用意するため異なる堆積チャンバー間でこの構造を転送させる必要がある従来技術の方法では悩みの種であった、周囲環境汚染の問題が克服される。
【0090】
上記の技術の組み合わせを用いて、いかなる所望の構成のヘテロ構造でも、例えば単純な二層または三層の積層接合デバイスから複雑な超格子構造まで形成することができる。
【0091】
上記の方法により、新規構造を有するグラフェン材料の製造が可能になり、したがって本発明の第2の態様によれば、平均グレインサイズが20マイクロメートル以上の二次元結晶材料(好ましくはグラフェン)シートが得られると考えられる。
【0092】
既存のグラフェン材料と比較して平均グレインサイズが顕著に大きいため、グラフェンシートの機械的強度は充分高まっているので、自立可能であり、よって基板上に形成されると、ほとんどまたはまったく自壊せずにその基板から除去することが可能となる。
【0093】
本発明のさらなる態様によれば、第2の層との界面を有する二次元結晶材料を含むヘテロ構造を製造する方法が提供され、この方法は:第1の組の反応器条件を使用して、密結合反応チャンバー内で基板上に二次元結晶材料を製造すること;そして
第2の組の反応器条件の下に第2の前駆体を導入して、基板上に第2の層を形成すること、
を含む。
【0094】
二次元結晶材料が形成されて、その上に第2の層が堆積される、またはその逆となる。これにより、どちらの層が最初に形成されても、それをチャンバー内に留めること可能であり、よって、次層を堆積させる前に汚染物がつくことがない状態で留めることが可能である。
【0095】
第2の層は、第1の層の最上部上に直接形成されてもよく、または第1の層は、第2層の最上部上に直接形成されてもよい。
【0096】
第2の層は、別の二次元結晶材料層または非二次元結晶材料層であってもよい。第2の層は、例えば半導体であってもよい。
【0097】
一例では、第2の層は、以下の:GaN、BN、AlN、AlGaN、SiNのうちの少なくとも一つを含む。
【0098】
個々の層の最良の形成を促進するために、基板と前駆体流入口との間の間隔(これは、基板と、基板の直上にある反応器チャンバーの天井との間の間隔と等しくてもよい)を、二次元結晶材料層の形成と非二次元結晶層の形成との合間に変更することが好ましい。
【0099】
本発明のさらなる態様によれば、第2の層との界面を有する二次元結晶材料を含むヘテロ構造材料が提供され、この界面は、材料全面にわたり連続している。好ましくは、ヘテロ構造は1cmより大きい広さを有する。
【0100】
以下に本発明を、以下の図を参照しつつ例示により記載する。
【図面の簡単な説明】
【0101】
図1】二次元材料を製造するのに使用する垂直型反応器の概略図である;
図2】実施例1の方法にしたがって図1の反応器内で気相エピタキシーを使用して製造したグラフェンのラマンスペクトルである;そして
図3】基板上に形成したヘテロ構造の概略断面図であり、一つまたは複数の二次元材料層と、一つまたは複数の半導体層または誘電体材料層との組み合わせを含む。
図4】基板上に形成したヘテロ構造の概略断面図であり、一つまたは複数の二次元材料層と、一つまたは複数の半導体層または誘電体材料層との組み合わせを含む。
図5】基板上に形成したヘテロ構造の概略断面図であり、一つまたは複数の二次元材料層と、一つまたは複数の半導体層または誘電体材料層との組み合わせを含む。
図6】基板上に形成したヘテロ構造の概略断面図であり、一つまたは複数の二次元材料層と、一つまたは複数の半導体層または誘電体材料層との組み合わせを含む。
【発明を実施するための形態】
【0102】
図1の反応器は、気相エピタキシー(VPE)法により基板上に一層または複数層の二次元材料層を堆積させるために構築されており、その中には前駆体が導入され、基板近傍そしてその上で熱的に、化学的に、そして物理的に相互作用して、単一層または多層二次元材料膜を形成する。
【0103】
この装置は、壁1Aを貫通して設けられた一つまたは複数の流入口3と、少なくとも一つの排出口4とを有するチャンバー2を有する密結合反応器1を含む。サセプター5は、チャンバー2内に配置されている。サセプター5は、一つまたは複数の基板6を保持するための一つまたは複数の凹部5Aを含む。この装置は、チャンバー2内でサセプター5を回転させる手段;および例えば、サセプター5に結合され基板6を加熱する抵抗加熱素子、またはRF誘導コイルを含むヒーター7をさらに含む。ヒーター7は、基板6の良好な熱均一性を実現するのに必要な単一または複数の素子を含んでいてもよい。チャンバー2内の一つまたは複数のセンサー(図示せず)を、コントローラ(図示せず)ととともに使用して、基板6の温度を制御する。
【0104】
反応器1の壁の温度は、水冷によって実質的に一定温度に維持する。
【0105】
反応器の壁により、一つまたは複数の内部通路および/またはプレナム(plenum)8が画定され、これらは、壁1Aの内面1Bを含む反応器壁の内面に実質的に隣接して(典型的には数ミリメートル離れて)延在する。
【0106】
動作中、ポンプ9を用いて、水を通路/プレナム8に通して循環させ、壁1Aの内面1Bを200℃未満に維持する。流入口3の径が比較的狭いことも一部理由となって、前駆体(典型的には、内面1Bの温度をかなり下回る温度で保存されている)の温度は、前駆体が壁1Aを貫通する流入口3を通ってチャンバー1入ると、壁1Aの内面1Bの温度と実質的に同じかそれより低くなる。
【0107】
流入口3は、一つまたは複数の基板6の面積に実質的に等しいかそれより大きい面積にわたり配列を成して配置され、流入口3に面する一つまたは複数の基板6の表面6Aの実質的に全面にわたって、実質的に均一な体積流量を与える。
【0108】
チャンバー2内の圧力は、流入口3を通る前駆体ガスの流れ、および排出口4を通る排出ガスの制御によって制御する。この方法論を通じて、チャンバー2内の、そして基板表面6Aにわたるガスの速度、そしてさらに流入口3から基板表面6Aまでの分子の平均自由行程を制御する。希釈ガスを使用する場合、こうした制御も使用して、流入口3を介して圧力を制御してもよい。
【0109】
サセプター5は、堆積に必要な温度、前駆体、および希釈ガスに耐性のある材料を含む。サセプター5は通常、基板6が均一に加熱されるのを保証する、均一に熱伝導する材料で構築する。好適なサセプター材料の例には、グラファイト、シリコンカーバイド、またはそれら2つの組み合わせが挙げられる。
【0110】
基板6は、チャンバー2内でサセプター5により支持され、図1中、Xで表示される1mm~100mmの間隔で壁1Aに向かい合うようにしてあるが、この間隔は、概して小さいほどよい。流入口3がチャンバー2内に突出する、またはその中に配置される場合、問題の間隔は、基板6と流入口3の出口との間で測定される。
【0111】
基板6と流入口3との間の空きは、サセプター5、基板6、およびヒーター7を動かすことによって変更することができる。
【0112】
好適な密結合反応器の例は、AIXTRON(登録商標) CRIUS MOCVD反応器、またはAIXTRON(登録商標) R&D CCSシステムである。
【0113】
ガスの形態またはガス流中に浮遊する分子の形態をとった前駆体は、流入口3を通じてチャンバー2に導入し(矢印Yで表される)、基板表面6A上に衝突するまたはその上を流れるようにする。互いに反応する可能性のある前駆体は、異なる流入口3を通じて導入することによって、チャンバー2に入るまで分離された状態を保つ。チャンバー2への前駆体またはガス流束/流量は、フローコントローラ(図示せず)、例えばガスマスフローコントローラを介して、外部から制御する。
【0114】
希釈ガスを一つまたは複数の流入口3を通じて導入し、チャンバー2内のガスの動力学、分子濃度、および流速を修正してもよい。希釈ガスは通常、二次元材料の成長工程に影響を与えないように、工程または基板6の材料に応じて選択する。一般に用いられる希釈ガスには、窒素、水素、アルゴン、およびこれらほどではないがヘリウムが挙げられる。
【0115】
以下に、一つまたは複数の二次元層、および一つまたは複数の他の半導体もしくは誘電体材料から、二次元材料層および二次元層ヘテロ構造を成功裡に製造した前述の装置を使用する工程の実施例を記載する。すべての実施例において、6枚の2インチ(50mm)ターゲット基板を有する径250mmの密結合垂直型反応器を使用した。代替寸法および/または異なるターゲット基板面積の反応器については、前駆体およびガス流量を、理論上の計算および/または経験的実験を通じて拡大縮小することによって、同じ結果を実現することができる。
【実施例1】
【0116】
グラフェン単層は、密結合反応チャンバーの標準的な操作パラメータの範囲内で選択された基板上で、VPEを介して製造することができる。グラフェン前駆体と基板の種類とを慎重に選択し、好適な反応チャンバーのパラメータに合わせることで、基板表面上にグラフェンを堆積させることができる。
【0117】
例えば、メタロセンであるCpMgまたはCpFeを工程前駆体として選択し、基板(ここではシリコンまたはサファイア)の表面が、前駆体の必要な分解温度または完全分解温度より高く、ここでは>500℃となるような温度に反応器を加熱する。反応器圧力を、不要な工程副生成物の排出を保証するのに好適な真空レベルにまで低下させるが、この例におけるメタロセンでは、<200ミリバールの圧力でうまく行くことがわかっている。続いて、メタロセンと水素の希釈流れとを、反応器に、よって基板表面に、流入口を通じて好適な流量で導入するが、この例では700sccmのメタロセンおよび、1300sccmの水素が理想的である。基板表面上での完全で均一なグラフェン単層が形成可能となる期間、前駆体を反応器の中に流すが、この例では、シリコン基板には545秒、そしてサファイア基板には380秒が理想的である。層が完成した後、メタロセンの流れを止め、継続的に低圧で、2000sccmの継続的な水素の流れの下で反応器を冷却して、グラフェン表面が適切に冷却されて理想的には<100℃になるまでグラフェン表面を維持する。
【0118】
この工程によって形成され、その結果得られたグラフェンのラマンスペクトルを図2に例示する。
【実施例2】
【0119】
CHBrを工程前駆体として使用したグラフェン単層膜の製造。基板、ここではサファイアが、前駆体の完全分解温度より高く、ここでは>350℃となるような温度に反応器を加熱する。不要な分解物および反応副生成物の排出を保証し、基板表面の炭素生成物の滞留時間が充分高まりグラフェンを形成しやすくなるのに好適な真空レベルにまで反応器圧力を低下させる。CHBrについては、600ミリバールの圧力が理想的であるとわかっているが、これは、主に生じる不要な副生成物Brが、選択された堆積温度よりも高い蒸気圧を有するからである。次に、前駆体と窒素ガスの希釈流れとを、反応器、よって基板に、チャンバー流入口を通して好適な流量で導入するが、この例ではCHBrついては1000sccm、そして窒素については2000sccmが理想的である。この工程では窒素を使用して、考えられるHBrの形成を制限するようにしている。基板表面上での完全で均一なグラフェン単層が形成可能となる期間、前駆体と希釈ガスの流れとを反応器を通じて流すが、この例では、320秒が理想的である。層が完成した後、前駆体の流れを止め、継続的な窒素の流れの下、反応チャンバーを冷却して、基板およびグラフェン層を好適に低い温度、理想的には<100℃にする。
【実施例3】
【0120】
工程前駆体としてCHを用いたグラフェン単層の製造。基板、ここではサファイアが前駆体の初期分解温度より高く、ここでは>1100℃となるような温度に反応器を加熱する。反応器圧力を、基板表面近傍で有利なガス速度を保証するのに好適な真空レベルに設定するが、CHの場合には800~900ミリバールの圧力が好適であって、これは、CH分解の副生成物が、成長中の材料に悪影響を及ぼさないからであり、この利点はここでは、より高い反応器圧力で前駆体材料の滞留時間を増加させ、高い堆積速度を促進し、グラフェンを堆積物させるのに必要な時間を著しく短縮させることである。次に、前駆体と水素の希釈ガスとを、反応器、よって基板表面に、チャンバー流入口を通じて好適な流量で導入するが、この例ではCHついては1000sccm、そして水素については2000sccmが理想的である。基板表面上での完全で均一なグラフェン単層が形成可能となる期間、前駆体の流れを基板表面全体にわたり流すが、この例では、320秒が理想的である。層が完成した後、前駆体の流れを止め、水素の希釈流れを3000sccmに増加させ、続いて、継続的な水素の流れの下、反応チャンバーを冷却して、基板およびグラフェン層が適切に冷却されて理想的には<100℃になるようにする。
【実施例4】
【0121】
異なる基板上でのグラフェン製造は、グラフェン成長の前に基板の準備または調整の技術を適用することで改善され、前駆体を導入してグラフェン堆積を開始する前に、基板表面が最も好ましい状態となることが保証される。
【0122】
例えば、シリコン基板上にグラフェンを成長させる場合、前駆体を導入する前にシリコン表面を調整することにより、グラフェン単層の品質が顕著に向上する。概して、そしてこの場合には、シリコン基板を1050℃の表面温度にまで、100ミリバールの反応器圧力で、5000sccmの水素ガスの流れの下で加熱すると、基板表面上での不要な表面汚染が自然酸化物を含めて除去されて、純粋なシリコン表面が現れる。
【0123】
引き続くグラフェンの堆積は、この好ましい表面の上で、工程条件;反応器温度900℃、反応器圧力200ミリバール、CpMg前駆体流量700sccm、および水素希釈流量1300sccmを用いて容易に達成することができ、その結果として、基板調整手順を適用せずに実現したグラフェンを凌駕する著しく向上したグラフェン結晶構造が得られる。再びこの場合には、基板とグラフェンが好適に低い温度、理想的には<100℃になるまで、水素の流れを用いた反応器冷却が望ましい。
【0124】
以下の実施例では、使用した基板はシリコンまたはサファイアのいずれかであった。シリコン基板の場合、実施例4に概説した調整工程をグラフェン堆積工程の前に適用する。
【実施例5】
【0125】
グラフェン堆積の工程のために希釈ガスの流れを変更することは、特定の前駆体または基板にとっては好ましい可能性があり、基板表面への炭素送達の速度を同じに維持しつつグラフェン層形成をさらに制御することが可能になる。さらにこれは、場合によっては、良好な材料形成を保証する上で基本的に重要となり得る。
【0126】
例えば、四臭化炭素(CBr)の前駆体を、シリコンまたはサファイア基板とともに1025℃の温度、および400ミリバールの反応器圧力で使用すると、1000sccmの前駆体流量により、グラフェン単層堆積は、小さなグレインサイズと、格子間点欠陥形成に概ね起因する高い欠陥レベルとを伴う望ましくない微細構造を示すことになる。水素(H)希釈を前駆体流れに、例えば2000sccm、すなわち2:1のH:CBr比で導入し、他の工程パラメータを同じにすると、グラフェン層材料が顕著に向上する。堆積工程中に水素が存在する結果、前駆体分解および希釈ガス反応による非常に高い蒸気圧の副生成物であるHBrが形成されるが、これは容易に排出されて基板表面の寄生相互作用を軽減する。流れの比を約12:1まで上げると、この前駆体(CBr)についてはグラフェン層がさらに向上する。比が12:1を超えると、反応器内の希釈化学種、すなわち水素の濃度が、基板表面への炭素の到達力に悪影響を及ぼし、コヒーレントな層堆積が阻害され、結果としてグラフェンが製造できない状態となる。
【実施例6】
【0127】
前駆体内に含まれていてグラフェン層に組み込まれることになる他の原子種からの、グラフェン層へのドーピングを可能にすることによって、様々な、または予め決められた特性を有するグラフェンが製造される。
【0128】
例えば前駆体CpMgを870℃の基板温度、前駆体流量800sccm、300ミリバールの反応器圧力で使用して、基板が所望の温度に達すると、流入口を通じて前駆体を導入し、500秒間流す。これにより、グラフェン格子内へのMgの安定な取り込みが可能になり、ドープされたグラフェン層が製造される。圧力および/または温度の修正によりドーピングレベルを制御することができるが、ただし、ドーピングには有利でも良好なグラフェン形成の範囲外にある反応器堆積条件を適用することによってグラフェンの品質が損なわれることのないように、注意を払う必要がある。この技術を適用することによって、ただし前駆体および基板特性も考慮して、グラフェンの電気的および機械的性能を所望のとおりに実現することが可能である。
【実施例7】
【0129】
第2の前駆体を導入してグラフェン層を能動的にドープすることにより、様々な特性を有するグラフェンが製造される。
【0130】
例えば、グラフェンを製造するために、CHの前駆体を、基板温度1250℃、反応器圧力720ミリバール、前駆体流量1000sccmで使用して、第2の好ましいドーパント、好ましい前駆体を導入して材料構築を補うことができる。例えば、TEZnを、25sccmの流量でグラフェン層の亜鉛ドープに使用すると、好ましい抵抗特性を有する均一で大きなグレインサイズのグラフェンが製造されることになる。
【実施例8】
【0131】
グラフェンは、反応器の前駆体導入点から基板表面までの空きを制御する(この実施例では縮小する)ことにより、さらに効率的に製造される。
【0132】
例えば、CHBrの前駆体を、流量800sccm;基板温度1000℃;チャンバー圧力650ミリバール、そして前駆体導入点から基板までの間隔12mmで使用すると、グラフェンを360秒の成長時間で容易に堆積させることができる。
【0133】
前駆体導入点から基板までの間隔を10mmの距離まで減少させると、12mmの間隔を用いて360秒かけて製造される得るものと同一のグラフェンを実現するのに、同一条件を適用して315秒という成長時間の短縮が可能になる。
【0134】
あるいは、間隔の縮小により、CHBrを800sccmの流量に、チャンバー圧力を650ミリバールに、そして堆積時間を360sに維持しつつ、基板温度を970°Cまで下げて同一のグラフェンを実現することが可能となる。この場合には温度を下げたことにより熱膨張が減少したことが原因で、基板の変形が少なくなり、その結果、基板表面全面にさらに均一なグラフェン層が得られる。同様に、基板表面への前駆体導入間隔を5mmに縮小することにより、他の工程変数は同じ値に維持しつつ表面温度をさらに下げること、この例では920℃にすることが可能になる。
【0135】
この方法論は、他のパラメータの変形例にも適用でき、例えば前駆体CHBrを、流量800sccm;基板温度1000℃;チャンバー圧力650ミリバール、および天井から基板までの間隔12mmで使用して、グラフェンを360秒の成長時間で堆積させることができることに留意されたい。天井から基板表面までの間隔を5mmに減少させることにより、基板温度1000℃、チャンバー圧力650ミリバール、および堆積時間360sを維持しつつ、前駆体流量を550sccmに下げて、同一グラフェン層の結果を実現することができる。
【実施例9】
【0136】
グラフェン層材料特性は、単純な流れを「パルス化」することによって修正することができる。
【0137】
例えば、前駆体CpMg、基板温度1000℃、および反応器チャンバー圧力200ミリバールを使用して、CpMgを1000sccmの流量で20秒間、反応器に導入し、その後、この流れを20秒間止め、その後、この流れをさらに20秒間再開させ、その後再び、引き続き20秒間止める。この方法論を何回か、この例では10サイクル繰り返すことにより、グラフェン層に取り込まれるMgの量を大幅に増加させて層の最終的な電気的特性を変更できることが示されている。
【実施例10】
【0138】
グラフェン層構造は、前駆体流量の「パルス化」によって修正することができる。実施例9のパルス化された流れというアプローチを、この場合では高流量および低流量の手順を適用することによって修正し、これによって前駆体を、ある期間、成長のために最低流量閾値より高いレベルで基板表面に導入し、続いてある期間、成長速度がゼロまたは実質的にゼロになる最低流量閾値未満のレベルにまで減少させて、複数サイクルのあいだ繰り返す。この方法では低流量のステップは、標準的なパルス化におけるような、前駆体がオフとなる期間とは対照的に、この時間中に表面からの炭素脱離を低減させる助ける役割がある。
【0139】
例えば、成長前駆体CHBrを基板温度850℃、およびチャンバー圧力550ミリバールで使用して、前駆体を1000sccmの流量で15秒間、反応チャンバーに導入し、その後、この流量を20秒間、200sccmの流量にまで下げ、その後、流量をさらに15秒間、再び初期の1000sccmに上げる。この段階的な流れ手順を、サイクルの所望の回数、通常5から10期間、繰り返して、良好な層秩序を実現する。この工程により、グラフェンのグレインサイズが大幅に向上し、サイクル数を制御することによって、グラフェン材料構造の効果的な制御が可能となることが示された。
【実施例11】
【0140】
グラフェン層構造特性は、前駆体/希釈ガスの切り替え、または「パルス化」によって修正することができる。実施例9のパルス化された堆積工程のさらなる修正は、前駆体と、非侵襲性または非反応性の流入ガスを含む非炭素パージガスとの間の切り替えにより、前駆体が流れていない期間に基板表面またはその近傍から前駆体を速やかに除去することを含む。この場合には前駆体を、ある期間流した後に止め、パージガスを、ある期間流し始めた後にパージガスの流れを止め、そして前駆体の流れを再開し、この手順を複数サイクル、繰り返す。
【0141】
例えば、前駆体メタンを基板温度1220°C、およびチャンバー圧力800ミリバールで使用して、この前駆体を流量1000sccmで10秒間、反応チャンバーに導入し、続いて前駆体の流れを止めて、1000sccmのHパージガスの流れを10秒間、開始し、その後、前駆体流れを10秒間、再導入し、以下、選択された回数のサイクルだけこれを行う。8サイクルで、グラフェン層の欠陥密度が低減することが示されている。
【実施例12】
【0142】
実施例11の改良において、パルス化堆積手順のさらなる修正例は、希釈ガスを継続的に流し、前駆体ガスのみをオン/オフ切り替して、基板表面上に継続する流れが常時存在するよう保証するものである。
【0143】
例えば、炭素源として前駆体メタンを基板温度1220℃、チャンバー圧力800ミリバールで使用して、前駆体を流量1000sccmで、そしてそれと同時にHの希釈ガスを1000sccmの流量で10秒間、反応チャンバーに導入し、続いて前駆体流れを止めて、希釈ガスを10秒間、流し続けたままにする。これが1サイクルを構成する。その後、前駆体流れを、さらに10秒間、再導入し、以下、選択された回数のサイクルだけこれを行う。24回のサイクルを使用することにより、グラフェン層の欠陥密度が大幅に低減することが示された。
【実施例13】
【0144】
グラフェン製造の効率は、「密閉体積」工程の適用によって向上させることができる。この工程では、充分な前駆体を反応器に導入して、消費される前駆体の量を大幅に制限しつつ基板表面上でのグラフェン形成を可能にする。この工程は、環境が前駆体の分解を引き起こさないように反応チャンバーを前駆体で充填し、続いて基板表面温度を上げて反応を開始させることを含む。
【0145】
例えば、前駆体CHBrを使用して、反応チャンバーを低圧、典型的には1~5ミリバールに下げて、排出口を密封する。前駆体を、流入口を通じて反応器に導入し、体積を900ミリバールの圧力に再充填し、前駆体豊富な静的環境を作り出す。基板が900℃の温度に達するように、反応器を急速に、5℃/sで充分であるが、加熱して、ある期間、この例では10分間、この温度に保つ。前駆体循環が熱対流によって誘起され、前駆体の分解が基板の近傍で発生することにより、グラフェンを基板表面で製造することが可能となる。10分後、発熱素子をオフに切り替えて、反応器を室温にできるだけ速やかに冷却する。反応器チャンバーおよび基板の温度が、いったん前駆体の分解温度を下回るまで下がると、反応器を排気し、続いてパージガス、この例では窒素を使用してパージする。
【0146】
この工程は、全堆積期間の間、基板表面で利用可能な最大量の前駆体を制限することにより、ターゲット基板に堆積する炭素の量をきわめて良好に制御することが可能な方法を提供する。前駆体のモル濃度は、初期再充填圧力の変更を通じて容易に修正することができる。周囲からのチャンバー冷却が工程に大きな影響を与えるため、標準的な反応チャンバーではこの工程の完全な制御は難しい可能性があることに留意されたい。
【実施例14】
【0147】
実施例13の密閉容積工程の若干の変形例であって、チャンバーを排気し、続いて水素などのパージガスを流量5000sccmで5分間パージした後、反応器をできるだけ速やかに室温にまで冷却するもの。これは、冷却ステップ中のグラフェン表面汚染を限定的にする手助けとなることが示されている。
【実施例15】
【0148】
実施例13の密閉容積工程のさらなる変形例であって、基板をまず、前駆体分解温度を超える温度に加熱してから、チャンバーを排気し、続いて前駆体を導入するもの。この手順は、グラフェン単層の欠陥密度を低減することが示されている。
【実施例16】
【0149】
グラフェンを、堆積後の加工技術を適用することを通じて精製してグラフェン構造を修正することにより、グラフェン構造の欠陥を低減させるとともに、不要な原子種および分子種、そうでなければグラフェン単層を変形させてグラフェン材料特性に悪影響をおよぼす可能性のあるそれらの化学種からなる格子汚染の放出を促進させる。
【0150】
前駆体CpFeを、流量750sccm、基板温度960℃、および反応器圧力175ミリバールで使用してグラフェンを堆積させると、顕著にドープされたグラフェンが560秒以内で製造されることが示された。この形態のグラフェンは、いくつかの応用に好適であるが、堆積後の加熱とガス処理により、異なる特性を持つように修正することができる。堆積工程完了の後、流量10000sccmで導入された水素ガスの下、基板温度を1200℃に30分間、上げると、グラフェン層に顕著な変化が見られる結果となる。
【実施例17】
【0151】
最適化されたグラフェン層は、前述の実施例の二つ以上の組み合わせと、さらなる有益な工程ステップの追加によって製造することができる。
【0152】
例えば、まずサファイア基板を、10000sccmの水素ガスの流れの下、50ミリバールの圧力で、反応チャンバー内で少なくとも5分間、1100℃の基板表面温度に加熱することにより準備して、凝集した汚染物質または化学種を基板表面から除去する。その後、基板を975℃の温度に冷却し、それと同時に、NHを流量3000sccmで反応器チャンバー内に60秒という第2の期間、導入して、基板表面を窒化物または窒素終端する。NHの流れを止めて、前駆体、この場合にはCHを200sccmの流量で、7000sccmのHの希釈ガスの流れとともに60秒間、導入する。基板を1220℃の温度に加熱し、反応器圧力を700ミリバールに上げ、前駆体流れを800sccmの流量に上げるとともに、希釈ガスの流れをH流量10000sccmに上げる。1220℃のターゲット基板温度に達した後、前駆体であるCHの導入を、オンが10秒、そしてオフが5秒の1サイクルを15サイクルだけパルス化させる。以降の各サイクルでは、前駆体流量を5sccmだけ下げる。15サイクルの完了時には、反応器温度を1250℃に上げ、60秒間維持した後、反応器圧力を30ミリバールに下げて、60秒間維持する。その後、反応器圧力をさらに60秒間700ミリバールに戻し、これら2つの圧力間での繰り返しと60秒間の維持を10回実行する。その後、継続したH流れの下、反応器を可能な限り速やかに冷却する。
【0153】
同一の工程構造を、圧力、温度、および流量の点で修正して、いかなる好適な前駆体および可能な基板にも適用して、高品質のグラフェンを製造することができる。
【実施例18】
【0154】
工程変数を変えることにより、多層グラフェンを製造して、さらなるグラフェン層を最初の単層上に堆積させることができる。グラフェンは概して、格子構築において自己制御的であるため、VPEを通じて高品質な形態で製造される場合、前層の上に続いてグラフェンの高品質単層を形成するためには、表面エネルギー状態に打ち勝つ必要がある。これは、さらなるグラフェン層の形成の間に反応チャンバー条件を変更することによって実現される。
【0155】
例えば、好適な炭化水素を工程前駆体、ここではCHとして、基板温度1120℃;反応器圧力800ミリバール、そして流量1000sccmで使用して、グラフェンをサファイア基板表面上に容易に形成することができる。これらの条件を続けると、高品質多層グラフェンではなく、別の炭素ポリタイプ、例えばアモルファス炭素が製造されることになる。反応器圧力を600ミリバール下げること、および/または反応器温度を1310℃に上げること、および前駆体流れを400sccmに低下させることによって、最初のグラフェン単層上へのさらなるグラフェン層の形成を容易にすることが可能である。この技術は、前層表面のポテンシャルエネルギー障壁に打ち勝ち、さらに、グラフェンとは対照的にバルク炭素、例えばグラファイトの形成を阻害すると考えられる。
【実施例19】
【0156】
シリセン単層は、VPEを通じて、密結合反応チャンバーの標準的な操作パラメータの範囲内で選択された基板上に製造することができる。シリセン前駆体と基板の種類とを慎重に選択し、好適な反応チャンバーのパラメータに合わせることで、基板表面上にシリセンを堆積させることができる。
【0157】
例えば、水素中100ppm濃度を有するシランを工程前駆体として選択し、基板(ここではシリコンまたはサファイア)の表面が、前駆体の必要な分解温度または完全分解温度よりも高く、シリセン結晶構造を形成する表面動力学を促進するのに有利となるような温度、ここでは約920℃となるまで、反応器を加熱する。反応器圧力を、不要な工程副生成物の排出を保証するのに好適な真空レベルにまで下げるが、この例におけるシランについては、<500ミリバールの圧力で好結果が得られることが分かっている。続いてシランと水素の希釈流れとを、反応器に、したがって基板表面に流入口を通じて好適な流量で導入するが、この例ではシラン2000sccmおよび水素10000sccmが理想的である。基板表面上への完全で均一なシリセン単層が形成可能となる期間、前駆体を反応器内に流すが、この例では、シリコン基板については800秒、そしてサファイア基板ついては600秒が理想的である。層の完成の後、シランの流れを止め、継続的に低圧で5000sccmの継続的な窒素の流れの下、反応器を冷却して、シリセン表面を適切に、理想的には<100℃に冷却されるまで維持する。
【0158】
シリセン単層は、不活性環境内に留まっている間は、基板表面上で形成時の状態をそのまま保つことになるが、不活性環境においてこの材料をチャンバーから容器に移送することができて容器周囲が不活性である場合、この不活性環境は反応器チャンバーまたは補助容器であってもよい。
【実施例20】
【0159】
シリセンを反応チャンバーの外で使用できるようにするため、シリセン層を空気周囲において安定な材料でキャップすることができる。外部周囲への露出からシリセン層を保護する、シリセン最上部のキャップ層を、シリコン系合金を使用することによって成長させることが可能である。
【0160】
実施例19に記載の方法を使用して、シリセンをサファイアまたはシリコンの基板上に製造することができる。シリセン層の完成時には、反応器パラメータを変更し、窒素前駆体源、ここではNHを導入することにより、さらなるシリコンナイトライド(SiN)層を製造することができる。シリセン層を完成した後にシラン前駆体を止め、SiN層の堆積中に気相反応を制限するために、この例では200ミリバールにまで反応器圧力を下げつつ、高品質のSiNの形成を可能にする温度、ここでは1050℃にまで反応器温度を変更する。反応器条件が安定化されると、シランをNHと同時に反応チャンバーに再導入する。NH流量は、シリセン表面上へのSiNの効率的な形成を可能にするような、NHに対するシランの比を実現するように、ここでは3000sccmに設定する。いったん反応チャンバーからシリセンを取り出した場合にこれを保護し保管するのに充分に厚く連続的なSiN層がシリセンの最上部に得られるだけ期間、この場合には600秒間、前駆体を流したままにする。その後、前駆体を止めて、継続的な水素の流れの下、反応器を冷却して、SiN表面を理想的には温度<100℃に維持する。
【実施例21】
【0161】
2Dシリセン結晶構造へのドーパント元素の導入を通じて、シリセンの固有の電気的、熱的、および機械的特性を修正することができる。これは、シリセンを製造しつつ堆積工程にドーピング化学物質源を導入することによって、容易に実現することができる。
【0162】
例えば、実施例19のとおり、酸素を用い、水素中100ppm濃度を有するシランを工程前駆体として選択してシリセンにドープし、基板(ここではシリコンまたはサファイア)の表面が、前駆体の所望の分解温度または完全分解温度よりも高く、シリセン結晶構造を形成する表面動力学を促進するのに有利となるような温度、ここでは約920℃となるまで、反応器を加熱する。反応器圧力を、不要な工程副生成物の排出を保証する好適な真空レベルにまで下げる。純粋なシリセン製造と異なり、工程へのドーピング源の追加は注意深く考慮しなければならないが、ここでは水蒸気を、HOの形態で酸素源として使用するが、この場合には<250ミリバールの圧力で好結果が得られることがわかっている。シラン、ドーピング源、および水素の希釈流れを、反応器、よって基板表面に流入口を通じて好適な流量で導入するが、この例では2000sccmのシラン、150sccmのHO、そして10000sccmの水素が理想的である。基板表面上での完全で均一なシリセン単層が形成可能となる期間、前駆体、ドーピング源、および希釈ガスを反応器内に流すが、この例では、シリコン基板については920秒、そしてサファイア基板ついては690秒が理想的である。層の完成の後、シランの流れおよびドーピングの流れを止め、継続的に低圧で5000sccmの窒素の流れの下、反応器を冷却して、シリセン表面を適切に、理想的には<100℃に冷却されるまで維持する。
【実施例22】
【0163】
先に詳述した実施例の工程のうちの一つ、ここではCHBrを使用する実施例2を使用して、例えば基板、ここではサファイアの表面上にグラフェン層を堆積させることにより、単一の製造工程においてグラフェンおよびシリセンの2D層を組み合わせて2D多層構造を形成することが可能である。グラフェン層の完成後、圧力を100ミリバールに下げ、窒素流量を600秒間、10000sccmに上げて、反応器をパージし、この間に反応器温度を下げて、シリセン前駆体の分解に好適な基板温度を実現するように、そして先に形成されたグラフェン層の表面でのシリセンの形成に有利な製造条件が生じるように、ここでは1015℃にする。パージの完了の後、反応チャンバー圧力を変更して、グラフェン表面上でのシリセン形成に有利な条件を達成するように、そして均一なシリセン堆積を中断させるかもしれない気相反応および表面反応の生じる可能性を制限するように、この例では575ミリバールにする。その後、窒素の流れを、5000sccmの水素パージの流れに600秒間、置換する。水素中の濃度100ppmを有するシランと、水素の希釈ガスとを、それぞれ2500sccm、12000sccmの流量で反応チャンバーに導入する。シランおよび希釈ガスを、グラフェン表面上でのシリセンの層が形成可能となる期間、この実施例では540秒間、流したままにするが、この間、反応器圧力は100ミリバールの最終的圧力にまで下げる。この期間の後、シランの流れを止めて、反応チャンバーを低圧で継続的な水素の流れにより冷却する。
【0164】
図1の装置を使用して、2D材料を堆積させて単層と多層の両方の形態にし得ることにより、2D材料層を半導体および/または誘電体材料と組み合わせて単純なヘテロ構造を製造することができる。図3は、基板上に形成されたヘテロ構造であって、半導体または誘電体層11を含み、その上に2D材料層12が形成されたものを例示する。
【実施例23】
【0165】
窒化ホウ素(BN)とグラフェンの単純なヘテロ構造は、単一の連続的な堆積工程で製造することができる。例えば、トリエチルホウ素(TEB)およびアンモニアガス(NH)などの前駆体を選択し、基板、ここではシリコンまたはサファイアの表面が、前駆体の必要な分解温度または完全分解温度、ここで>700℃となるような温度にまで反応器を加熱する。反応器圧力を、不要な工程副生成物または気相反応副生成物の排出を保証するような好適な真空レベルにまで下げる。これらの前駆体については、<100mbarの圧力で好結果が得られることがわかっている。続いて、TEBと、NHと、水素の希釈流れとを、反応器に、よって基板表面に流入口を通じて好適な流量で導入する。この例では、1500sccmのNH、40sccmのTEB、および2500sccmの水素が理想的である。所望の厚さに窒化ホウ素が形成可能となる期間、前駆体を反応器に流す。この例では、窒化ホウ素の50nmの堆積には4時間が好適である。
【0166】
窒化ホウ素層の完成の後、水素の流れを維持しながら、TEB流れ、およびNHの流れを止める。2D材料、この場合はグラフェンの成長には、好適な炭化水素前駆体、例えばメタン(CH)を選択する。窒化ホウ素材料の表面が2D材料前駆体の必要な分解温度、または完全分解温度より高く、ここで>1100℃になるように、反応チャンバー温度を変更する。また、反応器圧力を、2D成長手順からの不要な工程副生成物の排出を保証する好適なレベルに変更する。この炭化水素前駆体については、<200ミリバールの圧力で好結果が得られることがわかっている。次に前駆体流れを、水素の希釈流れとともに、それぞれ1000sccmおよび2000sccmに設定する。窒化ホウ素表面上でのグラフェンの完全で均一な単層が形成可能となる期間、前駆体および希釈ガスを反応器中に流すが;この実施例では、450秒が理想的である。
【0167】
グラフェン層の完成の後、メタン前駆体の流れを止めて、継続的に低圧力で2000sccmの継続的な水素の流れの下、反応器を冷却し、グラフェン表面を好適に、理想的には<100℃に冷却されるまで維持する。
【実施例24】
【0168】
実施例23と同様な工程では、同一の工程において、選択された基板上の窒化アルミニウム(AlN)上に2D材料単層を製造することができる。
【0169】
例えば、トリメチルアルミニウム(TMA1)およびアンモニアガス(NH)などの前駆体を選択して、基板(ここではシリコンまたはサファイアまたはシリコンカーバイド)の表面が、前駆体の必要な分解温度または完全分解温度よりも高く、ここでは>700℃になるような温度にまで反応器を加熱する。反応器圧力を、不要な工程副生成物の排出を保証するような好適な真空レベルにまで下げる。これらの前駆体については、<100ミリバールの圧力で好結果が得られることがわかっている。TMAlと、NHと、水素の希釈流れとを、反応器、よって基板表面に流入口を通じて好適な流量で導入する。この実施例では、50sccmのNH、50sccmのTMAl、および10000sccmの水素が理想的である。窒化アルミニウムを所望の厚さに形成可能とする期間、前駆体を反応器内に流す。この実施例では、窒化アルミニウムを300nm堆積させるには1時間が好適である。
【0170】
窒化アルミニウム層の完成の後、水素の流れを維持しつつ、TMAlの流れおよびNHの流れを止める。2D材料、この場合はグラフェンの成長には炭化水素前駆体、例えばメタン(CH)を選択する。反応チャンバー温度を、窒化アルミニウム材料の表面が前駆体の必要な分解温度、または完全分解温度より高く、ここでは>1100℃となるように変更しつつ、反応器圧力は、不要な工程副生成物の排出を保証する好適なレベルに変更する。この炭化水素前駆体については、このヘテロ構造工程では、<200ミリバールの圧力で好結果が得られることがわかっている。1000sccmおよび2000sccmの前駆体流量および水素の希釈流量がそれぞれ確定するので、窒化アルミニウム表面上でのグラフェンの完全で均一な単層が形成可能となる期間、チャンバー、よって窒化アルミニウム表面に前駆体および水素を導入するが;この実施例では、450秒が理想的である。
【0171】
グラフェン層の完成の後、メタン前駆体の流れを止めて、継続的に低圧で2000sccmの継続的な水素の流れの下、反応器を冷却して、グラフェン表面を好適に、理想的には<100℃に冷却されるまで維持する。
【実施例25】
【0172】
実施例23と同様な工程において、窒化ガリウム(GaN)上に2D材料単層を製造することができる。
【0173】
例えば、トリメチルガリウム(TMGa)およびアンモニアガス(NH)などの前駆体を選択して、基板(ここではサファイアまたは自立GaN)の表面が、前駆体の必要な分解温度または完全分解温度よりも高く、ここでは>500℃となるような温度にまで反応器を加熱する。反応器圧力を、不要な工程副生成物の排出を保証する好適な真空レベルにまで下げる。これらの前駆体では、<600ミリバールの圧力で好結果が得られることがわかっている。TMGa、NH、および水素の希釈流れを、反応器、よって基板表面に流入口を通じて好適な流量で導入する。この例では、5000sccmのNH、100sccmのTMGa、15000sccmの水素が理想的である。窒化ガリウム材料を所望の厚さに形成可能とする期間、前駆体を反応器内に流す。この実施例では、1.5μmの窒化ガリウムを堆積させるには1時間が好適である。
【0174】
窒化ガリウム層の完成の後、TMGaの流れを止める一方、NHの流れおよび水素の流れは継続させる。2D材料、この場合はグラフェンの成長には、炭化水素前駆体、例えばメタン(CH)を選択する。反応チャンバー温度を変更して、窒化ガリウム材料の表面が、2D材料前駆体の必要な分解温度または完全分解温度より高く、ここでは>1100℃となるようにする。反応器圧力を、不要な工程副生成物または気相反応副生成物の排出を保証する好適なレベルにまで下げる。このヘテロ構造製造工程におけるこの炭化水素前駆体については、<200ミリバールの圧力で好結果が得られることがわかっている。次に前駆体流れを、水素の希釈流れとともに1000sccmおよび2000sccmにそれぞれ設定する。窒化ガリウム表面上へのグラフェンの完全で均一な単層が形成可能となる期間、前駆体を、チャンバー、よって窒化ガリウム表面に導入するが;この実施例では、320秒が理想的である。
【0175】
グラフェン層の完成の後、メタン前駆体の流れを止めて、継続的に低圧力で2000sccmの継続的な水素の流れ、および5000sccmのアンモニアの流れの下、反応器を冷却して、グラフェン表面を好適に、理想的には<100℃に冷却されるまで維持する。
【0176】
実施例23~25と同様の方法論を使用し、他のグラフェン前駆体を使用して、半導体材料表面上にグラフェンを製造することができる。
【実施例26】
【0177】
実施例23と同一の方法論を使用して、窒化ホウ素を基板上に容易に製造することができる。その後、グラフェンは、ハロ炭素前駆体、例えばCHBrを使用して、BN表面の最上部に製造することができる。
【0178】
BN層の完成の後、水素の希釈ガスは、実施例23のように、前述した2000sccmで反応チャンバー内に流し続ける。反応チャンバー温度を変更して、窒化ホウ素材料の表面が、前駆体の必要な分解温度または完全分解温度よりも高く、ここでは>350℃となるようにする。また、不要な工程副生成物の排出を保証するのに好適なレベルであって、グラフェンが形成されるように窒化ホウ素表面の炭素生成物の滞留時間を適切にしやすくするのに充分高いレベルにまで、反応器圧力を変更する。このハロ炭素前駆体については、600ミリバールの圧力で好結果が得られることがわかっており、これは、選択された分解温度で、主に不要な副生成物のBrがこれよりも高い蒸気圧を有するからである。希釈ガスを、水素から窒素に切り替え、続いて前駆体と希釈ガスを、反応器、よって基板にチャンバー流入口を通じて好適な流量で導入するが、この実施例では、CHBrについては1000sccm、窒素については2000sccmが理想的である。この工程では窒素を使用して、考えられるHBrの形成を制限するようにしている。前駆体と希釈ガスの流れは、基板表面上に完全で均一なグラフェン単層が形成可能となる期間、反応器を通して流れるが、この実施例では420秒が理想的である。この層の完成の後、前駆体の流れを止めて、継続的な窒素の流れの下、反応チャンバーを冷却して、基板とグラフェン層を好適な低い温度、理想的には<100℃にする。
【実施例27】
【0179】
実施例26と同一の方法論を同様に使用し、好適なメタロセン前駆体、例えばCpMgまたはCpFeを炭素源として使用して、グラフェンをBN表面に形成することができる。BN層の完成の後、グラフェンを堆積させるために反応器条件を変更し、これによって、基板温度を、前駆体の分解に好適なレベルであってグラフェン形成に好適な表面動力学に有利なレベル、ここでは>500℃に設定し、反応チャンバー圧力を、グラフェン形成に有利なレベル、ここでは<200ミリバールに設定する。前駆体の流れと希釈流れは、それぞれ700sccmと1300sccmに設定し、続いてガス流入口を通じて反応チャンバー、よってBN材料表面に導入する。前駆体および希釈ガスは、完全なグラフェン層が形成可能となる期間、流すが、ここでは380秒が理想的であり、その後、前駆体流れを止める。継続的な水素の流れの下、反応チャンバーを冷却して、基板とグラフェン層を好適に低い温度、理想的には<100℃にする。
【実施例28】
【0180】
実施例24と同一の方法論を使用して、窒化アルミニウムを形成することができる。その後、グラフェンは、ハロ炭素前駆体、例えばCHBrを使用して、AlN表面の最上部に製造することができる。
【0181】
AlN層の完成の後、水素の希釈ガスを、実施例24のとおりに、前述した2000sccmで反応チャンバーに流し続ける。反応チャンバー温度を変更して、窒化アルミニウム材料の表面が、前駆体の必要な分解温度、または完全分解温度よりも高く、ここでは>350℃となるようにする。反応器圧力もまた変更して、不要な工程副生成物の排出を保証するのに好適なレベルであって、グラフェンが形成されるように窒化アルミニウム表面の炭素生成物の滞留時間を適切にしやすくするのに充分高いレベルにする。このハロ炭素前駆体については、600ミリバールの圧力で好結果が得られるのがわかっている。希釈ガスを水素から窒素に切り替え、次に前駆体と希釈ガスを、反応器、よって基板にチャンバー流入口を通じて好適な流量で導入するが、この例では、CHBrについては1000sccm、窒素について2000sccmが理想的である。前駆体と希釈ガスの流れは、基板表面上に完全で均一なグラフェン単層が形成可能となる期間、反応器の中に流すが、この実施例では320秒が理想的である。層の完成の後、前駆体流れを止めて、連続的な窒素の流れの下、反応チャンバーを冷却し、基板とグラフェン層を好適な低い温度、理想的には<100℃にする。
【実施例29】
【0182】
実施例28の方法論を使用し、好適なメタロセン前駆体例えばCpMgまたはCpFeを炭素源として使用して、AlN表面上にグラフェンを形成することができる。AlN層の完成の後、グラフェンを堆積させるために反応器条件を変更し、これによって、基板表面温度を、前駆体の分解に好適なレベルであってグラフェン形成に好適な表面動力学に有利なレベル、ここでは>500℃に設定し、反応チャンバー圧力を、グラフェン形成に有利なレベル、ここでは<200ミリバールに設定する。前駆体流れと希釈流れは、それぞれ700sccmと1300sccmに設定し、ガス流入口を通じて反応チャンバーに、よってAlN材料表面に導入する。前駆体および希釈ガスは、完全なグラフェン層が形成可能となる期間、流すが、ここで380秒が理想的であり、その後、前駆体流れを止める。継続的な水素の流れの下、反応チャンバーを冷却して、基板とグラフェン層を好適に低い温度、理想的には<100℃にする。
【実施例30】
【0183】
実施例25と同一の方法論を使用して、窒化ガリウムを形成することができる。グラフェンは、ハロ炭素前駆体、例えばCHBrを使用して、GaN表面の最上部に製造することができる。
【0184】
GaN層の完成の後、水素の希釈ガスおよびNHを、実施例25のとおりに、前述したそれぞれ2000sccmおよび5000sccmで反応チャンバーに流し続ける。反応チャンバー温度を変更して、窒化ガリウム材料の表面が、前駆体の必要な分解温度または完全分解温度より高く、ここでは>350℃となるようにする。また、反応器圧力を変更して、不要な工程副生成物の排出を保証するのに好適なレベルであって、グラフェンを形成するために窒化ガリウム表面上での炭素生成物の滞留時間を適切にしやすくするのに充分高いレベルにする。このハロ炭素前駆体については、600ミリバールの圧力で好結果が得られることがわかっている。希釈ガスの流れを2000sccmに下げ、次に前駆体と希釈ガスを、反応器、よって基板にチャンバー流入口を通じて好適な流量で導入するが、この実施例ではCHBrについては1000sccmが理想的である。前駆体および希釈ガスは、基板表面上に完全で均一なグラフェン単層が形成可能となる期間、反応器を通じて流すが、この実施例では320秒が理想的である。この層の完成の後、前駆体の流れを止めて、継続的な希釈ガスの流れの下、反応チャンバーを冷却して、基板とグラフェン層を好適な低い温度、理想的には<100℃にする。
【実施例31】
【0185】
実施例30と同一の方法論を同様に使用し、好適なメタロセン前駆体、例えばCpMgまたはCpFeを炭素源として使用して、グラフェンをGaN表面に形成することができる。GaN層の完成の後、グラフェンを堆積させるために反応器条件を変更し、これによって、反応チャンバー温度を、前駆体の分解に好適なレベルでグラフェン形成に有利な表面動力学に有利なレベル、ここでは>500℃に設定し、反応チャンバー圧力を、グラフェン形成に有利なレベル、ここでは<200ミリバールに設定する。前駆体流れと希釈流れは、それぞれ700sccmと1300sccmに設定し、ガス流入口を通じて反応チャンバーに、よってBN材料表面に導入する。前駆体および希釈ガスは、完全なグラフェン層が形成可能となる期間、流すが、ここで380秒が理想的であり、その後、前駆体流れを止める。継続的な水素とNHの流れの下、反応チャンバーを冷却して、基板とグラフェン層を好適に低い温度、理想的には<100℃にする。
【0186】
上記の実施例23~31と同様の方法で、2D材料層を、多層半導体ヘテロ構造の製造の直後にこの多層ヘテロ構造の最上部に生成して、図4に概略的に示すとおり、半導体デバイスの表面層を形成することができるが、この図では、基板20の上に、半導体または誘電体材料22のn倍層を2D材料表面層23とともに含むヘテロ構造が形成されている。随意に核形成層21を、基板20と第1の半導体または誘電体層22との間に設けてもよい。個々の各半導体または誘電体材料層は、隣接する層と同じまたは異なる特性を有していてもよい。
【0187】
2D材料の堆積は、先に形成されている半導体構造を考慮して、2D層の堆積に使用する工程条件が下層の半導体材料またはそれらの界面に悪影響を及ぼさないように保証する必要がある。
【実施例32】
【0188】
固体発光デバイス用の表面コンタクト層は、この構造の製造直後に、そして同一の工程において、半導体構造の最上部に2D層を成長させることによって製造することができる。
【0189】
例えば、グラフェンコンタクト層は、半導体デバイス構造の完成の直後にGaN系LED構造上に堆積させることができる。サファイアおよびシリコン基板上にGaN系LED構造を堆積させることは周知で広く利用できるものあり、その方法論は長々とした手順であるため、本明細書には記載しない。
【0190】
GaN系構造の堆積を完了した後には、この材料の表面を保存することが原則であり、よって反応チャンバーへのNHの流れを、ここでは4000sccmに維持して、表面安定性を保証する。この継続的なNH流れの下で、反応チャンバー条件を変更して、選択されたグラフェン前駆体を考慮した、グラフェンの堆積にとって好適なものとなるようにする。グラフェン前駆体CHBrを使用し、反応チャンバー圧力を550ミリバールに設定し、温度は、構造の最上部表面温度850℃が得られるように設定する。実施例10におけるように、続いてグラフェンを、上記のパルス化された成長技術を使用してLED構造の表面上に堆積させ、これによってCHBrおよび希釈ガス、この例では窒素を、それぞれ1000sccmおよび5000sccmの流量で15秒間、反応器に導入する。その後、CHBr流れを、窒素流束を維持しつつ20秒間、一時的に止める。パルス化は複数回繰り返して、均一で連続したグラフェン層の形成が可能となるようにするが、しかしながら、サイクルの数は、GaNデバイス最上層の初期条件に高度に依存し、この条件は高度に変更可能である。典型的には5~8サイクルが良好であるが、これは実質的にそれ以上とすることができる。所望の結果を繰り返し実現するには、実時間での工程修正と組み合わせて、堆積のインサイチュ表面モニタリング、例えばスペクトルの反射率測定が奨励される。グラフェン層の完成の後、混合された窒素NH流れの下、前述のレベルで反応器を冷却して、<450℃の反応器温度にし、この時点でNHの流れを止めて、唯一窒素の流れの下、反応器を周囲温度まで冷却する。
【実施例33】
【0191】
半導体デバイスの製造と同一の工程において最終的デバイス構造の最上部に2D材料を堆積させることにより、この2D層を半導体デバイス用の熱散逸層として使用することができる。2D層を堆積させる場合には、半導体デバイス、構造、または個々の層に工程が悪影響を及ぼすことのないように考慮する必要がある。
【0192】
例えば多層グラフェンを、GaN系ソリッドステート高耐圧電子デバイスの最上面に適用して、ヒートシンクとして作用させることができる。サファイアおよびシリコンの基板上へのVPEによるGaN系ソリッドステート電子デバイスの堆積は周知で、その方法論は広く利用できものであり、長々とした手順であるため、本明細書には記載しない。半導体デバイスの完成の後、NHの流れは、この実施例では4000sccmで継続させて、GaN表面を維持し、圧力および温度を変更して、デバイス最上面上へのグラフェンの堆積に好適な条件、この実施例では前駆体CHについては600ミリバールおよび1150℃にする。実施例11のように、反応器へのCHをパルス化させる手順を用い、これによって、1000sccmの流れを15秒間導入し、次いで20秒間止めるが、しかしながら、CHを「オフ」する期間では、パージガス、この場合は水素を5000sccmの流量で導入する。これを12サイクルだけ繰り返し、続いて反応器圧力を300ミリバールに下げ、CH流れを1500sccmに上げる。その後、パルスサイクルをさらに12回繰り返して、幾層かのグラフェン層、この例では3層を堆積させる。その後、NHと水素混合物の組み合わせの下、反応器を450℃まで冷却し、その時点でNHを止めて、反応器を周囲温度にまで冷却する。
【0193】
この手順には、半導体デバイス最上面の初期条件、デバイス構造それ自体、例えば、デバイス構造を維持するために必要な温度制限があること、そしてその構造に最適なグラフェン層数を考慮した修正が必要である。
【0194】
図5に、本発明の方法を使用して基板30上に製造することができるヘテロ構造の形態の変形例を示す。ヘテロ構造は、2D材料層31を含み、その材料層上に半導体または誘電体材料32が形成される。
【0195】
2D材料上への半導体成長は、横方向過成長を促進する必要性があるため複雑であるが、しかしながら、高度に不整合な基板上に半導体を堆積させるのに使用される最先端の技術の変形例を適用して、2D層上に高品質の半導体および誘電体材料を製造することが可能である。
【実施例34】
【0196】
誘電体窒化ホウ素を、BNおよびグラフェンの格子不整合を克服する初期表面堆積工程を使用して、グラフェン表面上に堆積させてもよい。
【0197】
例えばグラフェンを、先の実施例の一つ、この実施例では実施例12で概説した方法を使用してサファイア表面上に製造することができる。グラフェン層を完成させた後、反応チャンバー温度および圧力を変更して、核形成工程の堆積に好適な条件、この例ではそれぞれ基板表面1150℃および500ミリバールが得られるようにする。前駆体NHおよびトリエチルホウ素(TEB)を使用し、核形成、合体、およびバルク層成長の3段階工程を前駆体のV:III比(またはNH:TEB比)によって制御して、窒化ホウ素を成功裡に堆積することができる。最初にNHおよびTEB(10:1の比)を、それぞれ1000sccmおよび100sccmの流量で、350秒間、反応チャンバーに導入する。その後、V:III比を350秒間、750に上げるととに、成長温度も1220℃に上げる。その後、V:III比を3600秒間、さらに1500まで上げると、かなりの厚さのBN層、ここでは約25nmが得られる。前駆体の流れを止め、水素パージの流れの下、反応器を冷却して、周囲温度に達するまで材料表面を維持する。
【実施例35】
【0198】
実施例34の同様な方法において、半導体窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)をグラフェン層に堆積させることができる。
【0199】
例えばグラフェンを、実施例12において概説した方法論を使用して製造し、グラフェンの完成の後に、反応チャンバー条件を変更して、グラフェン表面上での半導体核形成層の製造に有利な条件、この例では温度1120℃および圧力250ミリバールにする。AlGaNは、まずAlN核形成層または中間層をグラフェン上に堆積させることにより、成功裡に成長させることができる。トリメチルアルミニウム(TMAl)およびNHを、水素の希釈流れとともに、それぞれ50sccm、50sccm、および10000sccmで330秒間、反応チャンバーに導入して、好適な核形成層厚さ、ここでは約10nmが堆積されるようにする。核形成層の完成後、さらにトリメチルガリウム(TMGa)を、所望のAlのモル比でAlGaNを製造するのに好適な流量で反応チャンバーに導入するが、ここでは75sccmのTMGaを使用する。前駆体流れを、所望の厚さのAlGaNが堆積可能となる期間、ここでは7200秒間、反応チャンバー中に流して、約1μmの材料を得る。次に、前駆体をオフに切り替え、水素パージの流れの下、反応器を冷却する。
【実施例36】
【0200】
実施例34および35と同様な方法において、半導体窒化ガリウムをグラフェン層上に堆積させることができる。
【0201】
例えば、実施例12に概説された方法論を用いて、グラフェン完成の後に、多段階工程の適用によって窒化ガリウムをグラフェン上に製造することができる。まず、反応チャンバー条件を変更して、濡れ層の堆積に有利なもの、この例では、圧力400ミリバール、および温度1050℃にする。次いでTMAlを、20sccmの流量で200秒間、導入し、その後、50sccmのNHの流れを導入し、温度を300秒間、1150℃にまで上げる。次いで、反応器を1000℃に冷却し、TMGaの流れ100sccmを加える。反応器は1000℃で600秒間、保持し、次いで温度を1050℃に上げるとともに、圧力を100ミリバールに下げ、TMAlの流れを止めて、NHの流れを9000sccmに上げる。所望のGaN膜厚さを達成するため、ある期間だけ、この実施例では約2μmを達成するために3600秒間、TMGaおよびNHを反応チャンバー内に流す。次に、TMGaを止めて、反応器を<450°に冷却し、その時点でNHを止めて、水素周囲下で冷却を完了する。
【0202】
図6は、基板40と、その上に形成された2D層41と半導体または誘電体層42とを含むヘテロ構造を例示する。この配置はn回繰り返されて;ヘテロ構造は、HEMT、LED、またはFETなどの電子デバイスを形成するためのさらなる最上部2D層41を含む。
【0203】
複数の半導体または誘電体層42、および2D層41のそれぞれは、層ごとに異なる特性を含むn倍層で構成されている。
【実施例37】
【0204】
グラフェンをGaN系LED発光装置構造に使用して、最終デバイス用の高性能コンタクト層を製造することができ、これによりグラフェンは、この構造堆積における最初と最後の層として製造される。
【0205】
例えばグラフェンを、実施例12において概説した方法論を使用することによって製造し、グラフェンの完成後、実施例36で概説した多段階工程を用いてグラフェン上に窒化ガリウムを製造することができる。しかしこの実施例では、GaNを600秒間、堆積して、薄く安定したGaN膜を製造し、その上にそれ以降の構造を製造することができる。この層の完了の後、LED構造は、グラフェン最上層と組み合わせて、実施例32において概説した方法論を用いて容易に製造することができる。
【0206】
グラフェン下層が存在することにより、基板からこの構造を比較的簡単に取り外すことができ、その結果、必要な電気的界面に透明なコンタクト層を有するLED発光装置が得られる。
【0207】
2D層と半導体/誘電体層の順序が逆になっている図6の構造の変形例が以下に続く。
【実施例38】
【0208】
グラフェンを、トランジスタ構造の一部として高品質の形態で製造した場合、デバイス中の活性チャネルとして使用することができる。
【0209】
例えばグラフェンを、実施例29で概説した方法論を使用して、AlN表面上に製造することができる。その後、実施例34において概説した技術を用いて、窒化ホウ素をグラフェン表面上に製造することができ、その結果として、理想的なグラフェンチャネルを使用したトランジスタデバイス構造が得られる。
【0210】
この方法論により、1012/cmのキャリア濃度で453Ω/sqのシート抵抗および8000cm/Vsを超えるホール(Hall)移動度のチャネル特性を有する単純なトランジスタを製造した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6