(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】失読症の影響を低減するための点滅素子を備えた眼科用装置
(51)【国際特許分類】
G02C 11/04 20060101AFI20231113BHJP
G02C 7/10 20060101ALI20231113BHJP
【FI】
G02C11/04
G02C7/10
(21)【出願番号】P 2021515476
(86)(22)【出願日】2019-09-19
(86)【国際出願番号】 EP2019075099
(87)【国際公開番号】W WO2020064477
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-06-24
(32)【優先日】2018-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518007555
【氏名又は名称】エシロール・アンテルナシオナル
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ・ラヴィヨニエール
(72)【発明者】
【氏名】ギヨーム・ジロデ
【審査官】中村 説志
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許第02534531(EP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0060850(US,A1)
【文献】米国特許第05440359(US,A)
【文献】特開2012-215808(JP,A)
【文献】登録実用新案第3190587(JP,U)
【文献】中国実用新案第203311115(CN,U)
【文献】欧州特許出願公開第02590008(EP,A1)
【文献】特表2010-537380(JP,A)
【文献】国際公開第2013/074232(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/043975(WO,A1)
【文献】特開2016-161807(JP,A)
【文献】特表2010-503029(JP,A)
【文献】Albert Le Floch, et al.,"Left-right asymmetry of the Maxwell spot centroids in adults without and with dyslexia",PROCEEDINGS OF THE ROYAL SOCIETY B,2017年10月25日,Vol.284, No.1865,DOI: https://doi.org/10.1098/rspb.2017.1380, Online ISSN:1471-2954
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用者(20)の失読症の影響を低減するための眼科用装置(10)であって、
- 前記着用者(20)によって着用されることを意図されたフレーム(12)と、
- 前記着用者(20)によって見られている媒体(18)を明るくするために、前記着用者の頭部の前方で光を発するように構成された少なくとも1つの光源(16)を含む、前記フレーム(12)に結合された点滅素子(14)と、
- 前記フレーム(12)に結合され、且つ前記着用者(20)の目の前方にそれぞれ配置されるように構成された2つのレンズ(24)と、
- 前記2つのレンズ(24)の一方に適用され、且つ特定の光波長範囲を吸収するように構成されたカラーフィルタ(30)と、
を含み、
前記少なくとも1つの光源(16)は、前記点滅素子(14)がアクティブにされるとき、所定の周波数で連続的にスイッチを入れられ且つスイッチを切られるように構成されている、眼科用装置(10)。
【請求項2】
前記点滅素子(14)を選択的にアクティブにするように構成された選択的アクティブ化部材をさらに含む、請求項1に記載の眼科用装置(10)。
【請求項3】
前記選択的アクティブ化部材は、
- 前記フレーム(12)に配置され、且つ要求に応じて前記点滅素子(14)をアクティブにするように構成されたスイッチ、及び
- 前記点滅素子(14)を遠隔でアクティブにするように構成された制御端末、
のうちの少なくとも1つを含む、請求項2に記載の眼科用装置(10)。
【請求項4】
前記着用者(20)の読解状況を検知し、且つ読解状況が検知されると、前記点滅素子(14)をアクティブにするように構成された感知部材を含む自動アクティブ化部材をさらに含む、請求項2又は3に記載の眼科用装置(10)。
【請求項5】
前記感知部材は、前記着用者(20)の読解設定を表す前記着用者(20)の動き又は姿勢を検知する加速度計、視線追跡装置、ジャイロスコープ及び
遠隔測定装置のうちの1つ以上を含む、請求項4に記載の眼科用装置(10)。
【請求項6】
前記所定の周波数は、少なくとも50H
zである、請求項1~5のいずれか一項に記載の眼科用装置(10)。
【請求項7】
前記フレームは、眼鏡のフレーム(12)を形成し、且つ2つの開口部(22)であって、その中にレンズ(24)をそれぞれ受けるように構成された2つの開口部(22)を画定し、前記少なくとも1つの光源(16)は、前記2つの開口部(22)間の前記フレーム(12)の上部及び/又は前記2つの開口部(22)のうちの一方の周辺部に配置されている、請求項6に記載の眼科用装置(10)。
【請求項8】
前記少なくとも1つの光源(16)は、異なる発光スペクトルを選択的に提供するように構成されている、請求項6又は7に記載の眼科用装置(10)。
【請求項9】
前記少なくとも1つの光源(16)によって発された前記光の特定の色にそれぞれ対応する複数の位置を含む色選択スイッチをさらに含む、請求項8に記載の眼科用装置(10)。
【請求項10】
前記点滅素子(14)は、
- 前記少なくとも1つの光源(16)の前方に配置された収束レンズ、及び、
- コリメート光を提供するための、前記少なくとも1つの光源(16)の前方における集光グリッド、
のうちの1つにより、前記少なくとも1つの光源(16)によって発された光を、前記着用者(20)によって見られている媒体(18)に向かって収束させるように構成されている、請求項1~9のいずれか一項に記載の眼科用装置(10)。
【請求項11】
前記カラーフィルタ(30)は、390nm~790n
mの波長を有する光を吸収するように構成されている、請求項
1~10のいずれか一項に記載の眼科用装置(10)。
【請求項12】
前記カラーフィルタ(30)は、読解状況において前記着用者(20)によって使用されるレンズ(24)の所定の部分(32)のみに適用されている、請求項
1~11のいずれか一項に記載の眼科用装置(10)。
【請求項13】
前記カラーフィルタ(30)は、選択的に作動されるように構成されている、請求項11~
12のいずれか一項に記載の眼科用装置(10)。
【請求項14】
着用者の失読症の影響を低減するための眼科用装置(10)を製造する方法であって、
- 前記着用者(20)によって着用されることを意図されたフレーム(20)を提供するステップと、
- 前記着用者(20)によって見られている媒体(18)を明るくするために、前記着用者の頭部の前方で光を発するように構成された少なくとも1つの光源(16)を含む点滅素子(14)を提供するステップであって、前記少なくとも1つの光源(16)は、前記点滅素子(14)がアクティブにされるとき、所定の周波数で連続的にスイッチを入れられ且つスイッチを切られるように構成されている、ステップと、
- 前記フレーム(12)に前記点滅素子(14)を結合するステップと、
- 前記フレーム(12)に結合され、且つ前記着用者(20)の目の前方にそれぞれ配置されるように構成された2つのレンズ(24)を提供するステップと、
- 前記2つのレンズ(24)の一方に適用され、且つ特定の光波長範囲を吸収するように構成されたカラーフィルタ(30)を提供するステップと、
を備える方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、失読症の影響を低減するための眼科用装置に関する。特に、本発明は、失読症の影響を低減するための点滅素子を備えた眼科用装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発達性失読症は、正常な知的能力があり、精神障害又は神経障害がなく、通常の刺激のある社会文化的環境にあり、適切な教育を受けているにも関わらず、書き言葉を習得するのに永続的な困難があることとして定義される。この障害は、読解に関与する認知体系の機能不全を反映するものである。失読症は、学童の8~10%に影響を及ぼし、正常な自発性があるにも関わらず、個人の人生を通して存続する。発達性失読症は、脳損傷に起因する後天性失読症と区別する必要がある。失読症を有する多くの人々は、同じような間違いをすることが多い。そのような人々は、形態学的に類似の文字(p及びq、b及びdなど)を混同し、言葉について視覚的な間違いをする。そのような人々は、全体の言葉を把握することが困難であり、言葉を実際に読解するよりもむしろ推測することにより、解釈についての問題を克服することが多い。そのような人々は、書字音素規則(特に複雑な文字の組)についても困難があり、文字又はさらにシラブルを反転させることが多い。失読症は、口頭言語の障害(不全失語症)、書き言葉の障害(綴り字障害)、短期記憶障害、運動協調性障害などの他の障害又は視空間処理障害を伴っていることもある。算数障害又は注意欠陥多動性障害も含まれ得る。失読症は、このため、総合的な学習障害として考える必要がある。
【0003】
多くの眼科用装置、特に眼鏡は、失読症の着用者の読解力を向上させる支援となるように開発されてきた。最も周知の技術は、着用者が着用する眼鏡に、色フィルタを有する眼科用レンズを設けることを含む。特に、特許文献1、特許文献2又は特許文献3は、失読症又は読書障害を処置する眼科用レンズの特定の領域に設けられた色フィルタを開示している。
【0004】
しかし、近年、失読症の困難の原因は、対象者の各網膜内に1つずつある2つのマクスウェル中心間の非対称性の欠如から発生し得ることが認められている(非特許文献1)。マクスウェル中心は、中心窩又は青暗点とも呼ばれる。健康な対象者は、2つのマクスウェル中心に非対称性を有する。この非対称性により、健康な対象者が利き目を有し、読解する際に利き目が見ている像のみを対象者の脳が処理することが可能となる。このような失読症を有する対象者について認められてきた対称性は、対象者が利き目を発達させることを妨げ、これにより両目が同時に把握した像を脳が処理する方法に直接の影響をもたらす。このため、脳は、両目間でいずれの像を処理するべきかを選択できず、「b」及び「d」のような鏡像間で混同するという結果になる。
【0005】
この科学刊行物では、対象者によって見られている文字の書かれた媒体に点滅光を当てると、対象者の読解力を向上させることも認められている。この点滅光は、固定され、重量のある、実験のために構成された研究室の電力制御装置によって提供される。研究室の電力制御装置は、固定されるように意図されている。実際、この研究室の電力制御装置は、嵩張るものであり、移動が困難であるため、常用及び実用を考慮することが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許出願公開第2010/060850号明細書
【文献】米国特許第5,440,359号明細書
【文献】英国特許出願公開第2266786号明細書
【非特許文献】
【0007】
【文献】Le Floch A,Ropars G.,2017.Left-right asymmetry of the Maxwell spot centroids in adults without and with dyslexia.Proc.R.Soc.B 284:20171380
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このため、本発明が解決しようとする課題は、対象者の失読症の影響を低減することができる携帯型眼科用装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題を解決するため、本発明は、着用者の失読症の影響を低減するための眼科用装置であって、
- 着用者によって着用されることを意図されたフレームと、
- 着用者によって見られている媒体を明るくするために、着用者の頭部の前方で光を発するように構成された少なくとも1つの光源を含む、フレームに結合された点滅素子と、
を含み、前記少なくとも1つの光源は、点滅素子がアクティブにされるとき、所定の周波数で連続的にスイッチを入れられ且つスイッチを切られるように構成されている、眼科用装置を提供する。
【0010】
眼科用装置の着用可能な構成により、装置を容易に扱うことが可能となり、失読症の影響を低減することが常時可能である実用的な解決策を対象者にもたらすことが可能となる。持ち運びが容易で実用的である眼科用装置を提供することにより、定期的な使用がより容易になる。前記装置は、このため、自宅又は様々な状況において対象者自身によって使用され得る。
【0011】
眼科用装置の一実施形態によれば、それは、点滅素子を選択的にアクティブにするように構成された選択的アクティブ化部材をさらに含む。
【0012】
眼科用装置の一実施形態によれば、選択的アクティブ化部材は、
- フレームに配置され、且つ要求に応じて点滅素子をアクティブにするように構成されたスイッチ、及び
- 点滅素子を遠隔でアクティブにするように構成された制御端末、
のうちの少なくとも1つを含む。
【0013】
眼科用装置の一実施形態によれば、それは、着用者の読解状況を検知し、且つ読解状況が検知されると、点滅素子をアクティブにするように構成された感知部材を含む自動アクティブ化部材をさらに含む。
【0014】
眼科用装置の一実施形態によれば、感知部材は、着用者の読解設定を表す着用者の動き又は姿勢を検知する加速度計、視線追跡装置、ジャイロスコープ及びテレメータのうちの1つ以上を含む。
【0015】
眼科用装置の一実施形態によれば、前記所定の周波数は、少なくとも50Hz、好ましくは少なくとも70Hzである。
【0016】
眼科用装置の一実施形態によれば、前記フレームは、眼鏡のフレームを形成し、且つ2つの開口部であって、その中にレンズをそれぞれ受けるように構成された2つの開口部を画定し、前記少なくとも1つの光源は、2つの開口部間のフレームの上部及び/又は前記2つの開口部のうちの一方の周辺部に配置されている。
【0017】
眼科用装置の一実施形態によれば、前記少なくとも1つの光源は、異なる発光スペクトルを選択的に提供するように構成されている。
【0018】
眼科用装置の一実施形態によれば、それは、前記少なくとも1つの光源によって発された光の特定の色にそれぞれ対応する複数の位置を含む色選択スイッチをさらに含む。
【0019】
眼科用装置の一実施形態によれば、前記点滅素子は、
- 前記少なくとも1つの光源の前方に配置された収束レンズ、及び
- コリメート光を提供するための、前記少なくとも1つの光源の前方における集光グリッド、
のうちの1つにより、前記少なくとも1つの光源によって発された光を、着用者によって見られている媒体に向かって収束させるように構成されている。
【0020】
眼科用装置の一実施形態によれば、それは、
- フレームに結合され、且つ着用者の目の前方にそれぞれ配置されるように構成された2つのレンズと、
- 前記2つのレンズの一方に適用され、且つ特定の光波長範囲を吸収するように構成されたカラーフィルタと、
をさらに含む。
【0021】
眼科用装置の一実施形態によれば、前記カラーフィルタは、390nm~790nm、好ましくは390nm~490nmの波長を有する光を吸収するように構成されている。
【0022】
眼科用装置の一実施形態によれば、前記カラーフィルタは、読解状況において着用者によって使用されるレンズの所定の部分のみに適用されている。
【0023】
眼科用装置の一実施形態によれば、前記カラーフィルタは、選択的に作動されるように構成されている。
【0024】
本発明は、着用者の失読症の影響を低減するための眼科用装置を製造する方法であって、
- 着用者によって着用されることを意図されたフレームを提供するステップと、
- 着用者によって見られている媒体を明るくするために、着用者の頭部の前方で光を発するように構成された少なくとも1つの光源を含む点滅素子を提供するステップであって、前記少なくとも1つの光源は、点滅素子がアクティブにされるとき、所定の周波数で連続的にスイッチを入れられ且つスイッチを切られるように構成されている、ステップと、
- フレームに点滅素子を結合するステップと、
を備える、方法にも関する。
【0025】
本発明の好適な実施形態を表す図面により、本発明をより詳細に以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】読解状況において着用者が着用している眼科用装置を概略的に示す図であり、眼科用装置は、着用者が読む媒体に光を提供する。
【
図2】
図1の眼科用装置の一実施形態の概略的な斜視図である。
【
図3】
図1の眼科用装置の他の実施形態の概略的になの正面透視図である。
【
図4】
図1の眼科用装置の他の実施形態の概略的になの正面透視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1に示すように、着用者20の失読症の影響を低減するための眼科用装置10が提供される。特に、前記眼科用装置10は、上に定義したような発達性失読症の影響を低減するように構成されている。
【0028】
前記眼科用装置10は、着用者20によって着用されることを意図されたフレーム12と、フレーム12に結合させた点滅素子14とを含む。フレーム12は、着用者20の頭部で支持されるように構成されている。即ち、フレーム12の重量は、着用者の頭部で完全に支持されることが好ましい。フレーム12は、着用者の顔部の前方に置かれるように構成されることが好ましい。
【0029】
点滅素子14は、着用者の頭部の前方で光を発するように構成された光源16を含む。特に、前記光源16は、着用者20によって見られている媒体18を明るくするように構成されている。
図1に示した好適な実施形態では、前記光源16は、媒体18の領域に位置する底面24から着用者の頭部に収束する円錐23の形態で発光するように構成されている。即ち、前記光源16は、少なくとも40cm離れて着用者の目の前方に位置する「A4」のページ(21×29.7cm)を完全に照らすように構成されている。媒体18は、例えば、着用者20によって見られている書籍である。1つのみの光源16の代替として、点滅素子14は、複数の光源16を含み得る。即ち、点滅素子14は、少なくとも1つの光源16を含み得る。光源16は、発光ダイオード(LED)であることが好ましい。
【0030】
光源16は、点滅素子がアクティブにされるとき、所定の周波数で連続的にスイッチを入れられ且つスイッチを切られるように構成されている。即ち、光源16は、媒体18に向かって所定の周波数で点滅光を提供するように構成されている。前記所定の周波数は、好ましくは、少なくとも50Hz、最も好ましくは少なくとも70Hzである。着用者によって見られている媒体18に向かって発されるこの点滅光は、失読症の影響を低減させることにより、その読解力を向上させる。眼科用装置10は、所定の周波数で連続的に光源16のスイッチを入れ且つスイッチを切るように構成された制御装置(不図示)を含む。制御装置は、フレーム12に結合された電子回路によって形成され得る。
【0031】
前記光源16は、発光方向が着用者の頭部の向きによって決まるようにフレーム12に結合されていることが好ましい。このため、フレーム12が角度Aにおいて第1の向きから第2の向きに移動すると、発光方向についても同一角度Aにおいて第1の向きから第2の向きに移動する。点滅素子14は、このため、着用者からのいかなる操作も必要とせず、光源16が発する光を効率的に差し向ける。
【0032】
光源16は、所定の発光スペクトルを選択し得る。このため、媒体18に発される光について特定の色を選択し得る。媒体18に書かれた文字のより良好な色のコントラストがもたらされ、着用者の読解力を向上させ得る。特に、これにより、着用者は、周囲の明るさに応じて色のコントラストを適応させることが可能となる。さらに、光源16は、異なる発光スペクトルを選択的に提供するように構成され得る。即ち、媒体18に提供される光の色は、リアルタイムで色のコントラストを改善するように変更され得る。これを行うため、眼科用装置10は、前記光源16によって発された光の特定の色にそれぞれ対応する複数の位置を含む色選択スイッチをさらに含み得る。この色選択スイッチは、フレーム12に埋め込まれたスライドボタン、押圧毎にある所定の色から別の色に切り替える単一ボタン又はリモートコントロールボタンであり得る。
【0033】
光源16が発する光の散乱を防ぐため、点滅素子14は、光を媒体18に向かって収束させるために前記光源16の前方に配置された収束レンズを含み得る。収束レンズの代替として、点滅素子14は、前記光源の前方に、コリメート光を提供するための集光グリッドをさらに含み得る。このコリメート光は、光源16が発する光の散乱を防ぐことも可能にする。これらの2つの解決策、収束レンズ及び集光グリッドにより、所定の距離、好ましくは20cm~1mの距離にある読解媒体に光を集めることが可能となる。媒体と目との間の平均読解距離は、一般に、成人が約40cm、子どもが約30cmである。これにより、光源16の効率を高めつつ、外部の視聴者に迷惑をかけることを防ぐことが可能となる。
【0034】
フレーム12の好適な実施形態を
図2に示しており、ここで、フレーム12は、眼鏡のフレームの形態である。この好適な実施形態では、フレーム12は、2つの開口部22が形成された本体26を含む。各開口部22は、その中にレンズ24を受けるように構成されている。特に、レンズ24は、眼科用レンズであることが好ましい。「眼科用レンズ」は、フレーム12の開口部22内で受けるのに適した矯正レンズ又は非矯正レンズを意味する。各開口部22は、各レンズ24が着用者20の目の前方に配置されるように、着用者20の目と向かい合うように配置されている。
【0035】
フレーム12は、本体26から延び、それぞれ着用者の顔部の側部に接するように構成された2本の腕部28も含む。各腕部28は、フレーム12を支持するために着用者20の耳で受けるように構成された凹部を含むことが好ましい。
【0036】
眼科用装置10は、光源16に電力を供給するために腕部28の一方に埋め込まれたバッテリをさらに含む。より一般的には、1つ以上のバッテリがフレーム12の各腕部28に埋め込まれ得る。バッテリは、フレーム12に埋め込まれるか又は結合された、例えば感知部材及びスイッチなどの制御装置及びすべての電子部品にも電力を供給する。
【0037】
点滅素子14が1つの光源16を含む場合、それは、フレーム12の中央部に配置されることが好ましい。特に、光源16は、2つの開口部22間のフレーム12の上部に配置されることが好ましい。即ち、光源16は、2つの開口部22間に延びるアーチに配置されることが好ましい。点滅素子14が少なくとも2つの光源16を含む場合、少なくとも1つの光源16は、フレーム12の周辺部に配置される。好ましくは、前記2つの開口部22のうちの一方の周辺部に光源16が配置される。周辺部は、腕部28の端部29におけるフレーム12の側頭部側に対応することが好ましい。このため、2つ以上の光源16を備えた構成では、眼科用装置10は、着用者の顔部の各側面において少なくとも1つの光源16を含むことが好ましい。
【0038】
フレーム12が眼鏡の形態である場合、眼科用装置10は、着用者20の失読症の影響を低減する携帯可能且つ軽量な解決策となる。さらに、眼科用装置10は、レンズ24の特性を変化させることなく失読症の影響を低減させることを可能にする。このため、失読症の影響の低減及び矯正は、単一の眼鏡にすべてを設けた個々の独立した手段によって達成される。これは、レンズ24になされる通常の製造工程(例えば、研磨及びコーティング)をすべて可能にし、これにより完全な眼科的解決策を提供する。
【0039】
図2の好適な実施形態の代替として、フレーム12は、光源16が、着用者20によって見られている媒体18に向かって発光することを可能にするいかなる形状でもあり得る。
【0040】
眼科用装置10は、点滅素子14を選択的にアクティブにするように構成された選択的アクティブ化部材(不図示)又は選択的アクティブ化スイッチをさらに含み得る。選択的アクティブ化部材は、フレーム12に配置されたスイッチを含み得る。この場合、点滅素子14は、着用者の要求に応じてアクティブにされ得る。着用者がスイッチを押圧して点滅素子14をアクティブにできるように、スイッチは、フレーム12に結合されている。スイッチは、これにより、光源16の近接的なアクティブ化を提供する。
【0041】
選択的アクティブ化部材は、点滅素子14を遠隔でアクティブにするように構成された制御端末も含み得る。この制御端末は、適切なモバイルアプリケーション又はモバイルソフトウェアを使用して光源16を遠隔でアクティブにするように構成されたスマートフォン又はコンピュータであり得る。
【0042】
眼科用装置10は、着用者の読解状況を検知するように構成された感知部材を含む自動アクティブ化部材をさらに含み得る。自動アクティブ化部材は、読解状況が検知されると、点滅素子14をアクティブにするようにも構成されている。例えば、感知部材は、読解状況を表す着用者の姿勢又は動きを検知し得る。この検知を達成するため、感知部材は、着用者20の読解設定を表す着用者の動き又は姿勢を検知するための加速度計、視線追跡装置、ジャイロスコープ及びテレメータのうちの1つ以上を含む。視線追跡装置は、目の輻輳開散運動及び衝動性眼球運動のパターンを計測することにより、又は読解に関係することが知られているレンズの特定領域の使用(近視点など)により、着用者の注視方向を追跡して読解状況を決定し得る。
【0043】
図3に示すように、眼科用装置は、フレーム12に結合された2つのレンズ24と、前記2つのレンズ24の一方に適用されたカラーフィルタ30とをさらに含み得る。カラーフィルタ30は、着用者の脳を支援する特定の光波長範囲を吸収するように構成され、両目が把握したコントラストにバイアスを導入することにより、2つのマクスウェル中心間の非対称性の欠如を取り除く。前記特定の波長範囲は、好ましくは、390nm~790nm又はより一般的に400nm~800nmである。
【0044】
このバイアスは、マクスウェル中心における青錐体の光受容体の欠如を用いることによりなされ得る。この場合、カラーフィルタ30は、マクスウェル中心における残りの緑錐体及び赤錐体によって受ける光をカットするように設計されることが好ましい。これらの緑錐体及び赤錐体は、正常な目、即ち失読症を患っていない健康な対象者についてそれぞれ533nm、564nmの吸収ピークを有する。青錐体は、437nmの吸収ピークを有する。このため、特定の波長範囲は、最も好ましくは、青錐体の吸収スペクトルに適するために390~490nm又はより一般的に400nm~500nmである。この最も好適な波長範囲は、カラー30フィルタを最大で50nmの半値幅に設定することを可能にし、緑錐体と重複することを防ぐ。このように、レンズ24に設けられたこの青錐体吸収スペクトルフィルタは、赤錐体の光受容体及び緑錐体の光受容体についてそれぞれ赤色光及び緑色光を低減させ、これにより着用者の目の2つのマクスウェル中心間にコントラストの非対称性を作ることを可能にする。
【0045】
カラーフィルタ30は、着用者20の目と向き合うように意図されたレンズ24の内面、その内面と反対側にあるレンズの外面又は両方に適用され得る。カラーフィルタ30は、レンズ24に積層させた膜であり得る。
【0046】
非読解状況における色覚の歪みを防ぐために、カラーフィルタ30は、選択的に作動されるように構成され得る。即ち、カラーフィルタ30は、読解状況においてのみアクティブであり得る。
【0047】
カラーフィルタ30は、
図3の実施形態では、レンズ24の面を完全に被覆している。代わりに、カラーフィルタ30は、観察者の観点からの包括的な色覚の不快感及び表面的な色覚を低減するために、レンズ24の面を部分的にのみ被覆し得る。カラーフィルタ30がレンズ24の面を部分的に被覆する場合、カラーフィルタ30は、好ましくは、レンズ24の全面の最大で70%、最も好ましくは最大で60%を被覆している。
【0048】
図4に示すように、前記カラーフィルタ30は、レンズ24において、レンズ24の所定の部分32にのみ提供され得る。所定の部分は、読解時に目が探索する領域であることが好ましい。即ち、所定の部分32は、着用者20が読解状況にあるとき、着用者の目の視軸が走査する部分であるように選択される。特に、所定の部分32は、主に着用者20の鼻と目の光学中心Oとの間に配置される。所定の部分32は、レンズ24の中央視覚領域及び近隣視覚領域に対応し得る。所定の部分32は、読解時の着用者の注視によって用いられるレンズ24の領域を計測するために、周知の視線追跡装置を用いることによってカスタマイズした解決策を提供するようにより正確に計測することも可能である。この解決策の利点は、カラーフィルタリングが要求に応じて適用可能であり、有用な領域に限定可能であることにより、表面的な色覚と包括的な色覚との両方を維持していることである。
【0049】
図4の実施形態によれば、所定の部分32は、レンズ24の第1のレンズの軸Xに沿う幅の最大で90%、好ましくは最大で80%に沿って延びる上部34を含む。所定の部分32は、レンズ24の第1のレンズの軸Xに沿う幅の最大で40%、好ましくは最大で30%に沿って延びる下部36も含む。所定の部分32は、レンズ24の、第1のレンズの軸Xと直角をなす第2の軸Yに沿う高さの最大で90%に沿って延びることが好ましい。
【0050】
カラーフィルタ30は、読解作業中の個々の目-頭部の位置関係に応じてレンズのカスタマイズした部分にも適用され得る。
【0051】
図4の実施形態では、点滅素子14は、フレーム12の周辺部、即ち腕部28の端部29に配置された2つの光源16を含む。
【0052】
さらに、カラーフィルタ30の代替として、レンズ24の一方のレンズにRxシフトを導入することにより、着用者の一方の目が把握したコントラストを低下させ得る。これは、着用者の脳が2つのマクスウェル中心間の非対称性欠如を免れることを支援すると思われる。この屈折力のシフトは、0.25~0.50ディオプトリであり得る。好ましくは、屈折力のシフトは、2つのマクスウェル中心間の非対称性を再導入するための0.25~0.50ディオプトリの円柱度数のシフトに対応する。
【0053】
このシフトは、所定の部分32において追加の屈折力又は追加の円柱度数を作ることのできるアクティブな系をレンズ24に追加することにより達成され得る。この追加の光学系は、アクティブであり、フレーム12に埋め込まれたバッテリにリンクされ得る。系はまた、要求に応じてのみ(読解時)作動させるスイッチに接続され得るか、又は読解状況を検知して、そのときにのみシステムに電力を供給するための加速度計又は視線追跡装置のようなセンサに結合可能である。アクティブな光学系は、液晶を備えたアクティブパッドであり得る。このアクティブな光学系は、アクティブ時に約0.50Dの屈折力又は円柱度数を追加し得る。屈折力のシフトによって得られたこの非対称性は、レンズ24にフィルタがなくともコントラストを提供可能にするため、眼科用装置10は、着用者20にとって良い外見をもたらす。
【0054】
本発明は、着用者の失読症の影響を低減するための眼科用装置10を製造する方法にも関する。方法は、着用者20によって着用されることを意図されたフレーム12と、点滅素子14とを提供することを含む。前記点滅素子14は、着用者20によって見られている媒体18を明るくするために、着用者の頭部の前方で光を発するように構成された少なくとも1つの光源16を含む。前記少なくとも1つの光源16は、点滅素子14がアクティブにされるとき、所定の周波数で連続的にスイッチを入れられ且つスイッチを切られるように構成されている。方法は、フレーム12に点滅素子14を結合して眼科用装置10を得る工程をさらに含む。
【符号の説明】
【0055】
10 眼科用装置
12 フレーム
14 点滅素子
16 光源
18 媒体
20 着用者
22 開口部
23 円錐
24 レンズ
26 本体
28 腕部
29 端部
30 カラーフィルタ
32 所定の部分
34 上部
36 下部