(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】結晶性が増加し、かつ高密度の改善されたコーティングを生成するための方法
(51)【国際特許分類】
C23C 4/134 20160101AFI20231113BHJP
【FI】
C23C4/134
(21)【出願番号】P 2021574883
(86)(22)【出願日】2020-09-10
(86)【国際出願番号】 US2020050168
(87)【国際公開番号】W WO2021118664
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2021-12-15
(32)【優先日】2019-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500092413
【氏名又は名称】プラクスエア エス.ティ.テクノロジー、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スウィート、マーシャル、エル.
(72)【発明者】
【氏名】オコナー、モリー、エム.
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05356674(US,A)
【文献】中国実用新案第206173426(CN,U)
【文献】中国特許出願公開第106521482(CN,A)
【文献】特開2004-253793(JP,A)
【文献】Vukoman Jokanovic et al.,Enhanced Adhesion Properties, Structure and Sintering Mechanism of Hydroxyapatite Coatings Obtained by Plasma Jet Deposition,Plasma Chemistry and Plasma Processing,2015年01月,Vol.35,No.1,p.1-19,doi:10.1007/s11090-014-9599-0
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/00-4/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
修正された層流プラズマプルームプロセスを使用して、溶射されたままの状態の改善された高密度かつ結晶質のコーティングを基材上に生成する方法であって、前記修正された層流プラズマプルームプロセスは、
カスケードトーチを提供する工程と、
前記カスケードトーチの出口から前記基材まで測定される3インチ以上のコーティングプロセススタンドオフ距離を確立する工程と、
前記基材と接触する層流プラズマプルームを生成する工程であって、前記層流プラズマプルームは、前記層流プラズマプルームの長手方向軸に沿って実質的に円柱形状の構造として特徴付けられ、前記層流プラズマプルームは、前記コーティングプロセススタンドオフ距離に実質的に等しい長手方向長さを有する、工程と、
前記基材を前記層流プラズマプルームで予熱して、加熱基材を形成する工程と、
前記基材の予熱後に、前記加熱基材上に粉末粒子を供給する工程と、
前記粉末粒子を加熱して、溶融粉末粒子を形成する工程と、
前記溶融粉末粒子を前記カスケードトーチの出口から前記層流プラズマプルーム内に方向付ける工程と、
前記溶融粉末粒子を前記加熱基材上に衝突させる工程と、
前記粉末粒子を結晶化させて、前記改善された高密度かつ結晶質のコーティングを形成する工程であって、前記結晶化させることは、補助加熱又は後熱処理工程を使用せずに行われる、工程と
を含む、方法。
【請求項2】
前記層流プラズマプルーム内の熱エネルギーを前記加熱基材に向かって移すために、実質的に円柱形状の構造のプラズマプルームを方向付けて実質的に単一方向の熱フラックスを形成する工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記層流プラズマプルームからの半径方向の熱損失を最小化することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記基材を前記コーティングのガラス転移温度以上の温度に予熱する方法である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記溶射されたままの状態の前記改善された高密度かつ結晶質のコーティングが、X線回折によって測定されるとき、乱流プラズマプルームによって生成された対応するコーティングよりも高い結晶化度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記加熱基材に衝突する際の前記溶融粉末粒子が、従来の乱流プラズマプルームプロセスによって調製されたコーティングと比較して低い冷却速度で冷却を受ける、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記粉末粒子を導入する工程が、前記層流プラズマプルームの実質的な破壊を伴わずに行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記層流プラズマプルームの前記実質的に円柱形状の構造の安定性を維持することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記溶射されたままの状態の前記改善された高密度かつ結晶質のコーティングが、200~500倍の倍率の光学顕微鏡法によって視覚的に観察されるとき、乱流プラズマプルームによって生成された対応するコーティングよりも高い密度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
層流プラズマフローレジームを使用して、改善された高密度かつ結晶質のコーティングを
基材上に作り出す方法であって、
カソード及びアノード、並びにアーク安定性を提供するための前記カソードと前記アノードとの間にある1つ以上の内部電極インサートを含む、カスケードトーチを提供することと、
前記カスケードトーチの出口から前記基材の表面まで測定される所定のコーティングプロセススタンドオフ距離を確立することと、
前記カスケードトーチの前記出口から前記基材まで延在する層流プラズマプルームの長手方向軸に沿った長手方向長さによって少なくとも部分的に画定される前記層流プラズマプルームを生成することであって、前記層流プラズマプルームが、実質的に円柱形として特徴付けられる、ことと、
前記基材の前記表面を前記層流プラズマプルームで局所堆積スポット温度に予熱して、加熱基材を形成することと、
前記層流プラズマプルームを実質的に破壊することなく粉末
粒子を導入することであって、前記粉末
粒子を前記加熱基材上に導入することは前記基材の予熱後に行う、前記粉末
粒子を導入することと、
前記粉末粒子を加熱して、溶融粉末粒子を形成することと、
前記溶融粉末粒子を前記カスケードトーチの出口から前記層流プラズマプルーム内に、及び前記加熱基材に向かって方向付けることと、
前記溶融粉末粒子を前記加熱基材上に衝突させることと、
前記粉末粒子を結晶化させて、前記改善された高密度かつ結晶質のコーティングを形成することであって、前記結晶化させることは、補助加熱又は後熱処理工程を使用せずに行われる、ことと、を含む、方法。
【請求項11】
前記コーティングを、乱流プラズマプルームによって生成された対応するコーティングと比較して、アモルファス相の形成を低減又は最小化するのに十分な冷却速度で冷却することを更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記所定のコーティングプロセススタンドオフ距離が、3インチ以上である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記所定のコーティングプロセススタンドオフ距離に実質的に等しくなるように、前記層流プラズマプルームの前記長手方向長さを作り出し、それを維持することを更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記層流プラズマプルームの半径方向における前記層流プラズマプルームからの熱損失を最小化するように、前記カスケードトーチを動作させることを更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記粉末粒子を前記層流プラズマプルーム内に直接的に更に導入する、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記層流プラズマプルーム内への大気巻き込みを最小化することを更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
更に、前記基材の前記局所堆積スポット温度が、前記コーティングのガラス転移温度以上である、請求項10に記載の方法。
【請求項18】
前記層流プラズマプルーム
の半径方向に沿って前記層流プラズマプルームの実質的な均一性を維持することを更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項19】
前記層流プラズマプルームの前記長手方向軸に実質的に平行な方向で前記層流プラズマプルームから前記基材に熱エネルギーを移すために、実質的に円柱形状の構造のプラズマプルームを方向付けて実質的に単一方向の熱フラックスを形成することを更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項20】
前記改善された高密度かつ結晶質のコーティングの形成中に前記基材との前記層流プラズマプルームの接触を維持することを更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項21】
前記加熱基材を形成するための前記局所堆積スポット温度が、乱流プラズマプルームによって作り出された対応する局所堆積スポット温度よりも大きい、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶性が増加し、かつ高密度のコーティングを生成するための方法に関する。より具体的には、本発明は、修正された層流プラズマプルームレジームを利用して、補助加熱又は後熱処理を使用せずに溶射されたままの状態の、結晶性が増加し、かつ高密度のコーティングを形成するための新規なプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンエンジンの高温部分の構成要素は、過酷さを増す動作環境に曝されている。過酷な動作環境は、タービンエンジンの劣化及び損傷をもたらし得る。
【0003】
そのような損傷を修復するために、コーティングは、多くの場合、ガスタービンエンジンの表面に適用されて、熱的、環境的、又は化学的保護を提供する。関心があるのは、セラミックマトリックス複合材料(CMC)構成要素の表面をタービンガス流中の高温水蒸気の存在下で酸化及び揮発から保護するためのコーティングの開発である。例えば、炭化ケイ素構成要素が水蒸気の存在下で高温に曝されると、炭化ケイ素は酸化によって分解し、水酸化ケイ素種の形態で材料の最終的な揮発をもたらす。
【0004】
耐環境コーティング(EBC)は、一般に、下地構成要素に水蒸気バリアを提供するために、タービンエンジン構成要素の表面に適用される。EBCは、典型的には、大気プラズマ溶射などの熱溶射プロセスによって適用される。従来の大気プラズマ溶射中、コーティングは、有意な量のアモルファス相又は他の非平衡相の保持につながる急速な冷却速度に曝される。これらの保持された相は、構成要素の加熱及び冷却(すなわち、熱サイクル)時のEBCの亀裂をもたらし得る、熱サイクル時の体積変化を起こしやすい。アモルファス相は、周期的構造又は結晶格子を欠く、原子の非常に不規則な配置を特徴とする構造を有する。非平衡相は、熱曝露時に、より低いエネルギー構成への原子の再配置を呈する相である。コーティングがアモルファス相で堆積された場合、使用中にもたらされるようなその後の熱曝露は、材料の平衡及び非平衡構造へのアモルファス相の結晶化をもたらし得る。結晶化プロセスは、コーティングにおける有意な応力の発展、並びに保護コーティング層の欠陥、亀裂、層間剥離、及び/又は最終的な破砕の生成をもたらし得る、材料中の原子の質量再配置を伴う。
【0005】
コーティングの性能を高めるために、アモルファス構造は、実際の使用に入る前に結晶化させることができる。熱溶射されたEBCの結晶化プロセス中の応力及び欠陥の発生を最小化又は排除するために、いくつかの方法が開発されてきた。使用される方法の中でも主要なものは、結晶化中に誘発された応力が発展し、次いで、単一の熱曝露でコーティングから熱的にアニールされるように、コーティングがゆっくりと結晶化することを可能にする、広範な堆積後熱処理の適用である。これらの熱処理スケジュールは、50時間を超えることがあり、費用がかかる。
【0006】
高結晶性コーティングの作製のための別の方法は、堆積中の構成要素への補助加熱の適用である。この方法は、構成要素が高温炉の内部で加熱されている間にコーティングをプラズマ溶射によって適用すること、及び堆積プロセス中に構成要素を抵抗的又は誘導的に加熱することなどの技術を含む。これらの方法は、プラズマ溶射プロセス中に結晶化を開始するために必要な熱エネルギーを提供し得るが、補助加熱は、堆積プロセスのコストを増加させ得る。更に、補助加熱は、不均一な加熱を形成して、複雑な形状の部品領域の局所的な過熱及び溶融をもたらすので、広範囲の部品サイズ及び形状をコーティングするプロセスの柔軟性を制限し得る。
【0007】
結果として、補助加熱又は後熱処理を使用せずに、プラズマ溶射プロセス中の結晶化に必要な熱エネルギーを提供するコーティングプロセスが望ましい。本発明の他の利点及び用途は、当業者に明らかになるであろう。
【発明の概要】
【0008】
本発明の第1の態様では、修正された層流プラズマプルームプロセスを使用して、溶射されたままの状態の改善された高密度かつ結晶質のコーティングを基材上に生成する方法であって、上記修正された層流プラズマプルームプロセスは、カスケードトーチを提供する工程と、カスケードトーチの出口から基材まで測定される3インチ以上のコーティングプロセススタンドオフ距離を確立する工程と、基材と接触する層流プラズマプルームを生成する工程であって、層流プラズマプルームは、層流プラズマプルームの長手方向軸に沿って実質的に円柱形状の構造として特徴付けられ、層流プラズマプルームは、コーティングプロセススタンドオフ距離に実質的に等しい長手方向長さを有する、工程と、基材を層流プラズマプルームで予熱して、加熱基材を形成する工程と、粉末粒子を供給する工程と、粉末粒子を加熱して、溶融粉末粒子を形成する工程と、溶融粉末粒子をカスケードトーチの出口から層流プラズマプルーム内に方向付ける工程と、溶融粉末粒子を加熱基材上に衝突させる工程と、粉末粒子を結晶化させて、改善された高密度かつ結晶質のコーティングを形成する工程であって、上記結晶化させることは、補助加熱又は後熱処理工程を使用せずに行われる、工程と、を含む、方法。
【0009】
本発明の第2の態様では、層流プラズマフローレジームを使用して、改善された高密度かつ結晶質のコーティングを作り出す方法であって、カソード及びアノード、並びにアーク安定性を提供するためのカソードとアノードとの間にある1つ以上の内部電極インサートを含む、カスケードトーチを提供する工程と、カスケードトーチの出口から基材の表面まで測定される所定のコーティングプロセススタンドオフ距離を確立する工程と、カスケードトーチの出口から基材まで延在する層流プラズマプルームの長手方向軸に沿った長手方向長さによって少なくとも部分的に画定される層流プラズマプルームを生成する工程であって、層流プラズマプルームが、実質的に円柱形として特徴付けられる、工程と、基材の表面を層流プラズマプルームで局所堆積スポット温度に予熱して、加熱基材を形成する工程と、層流プラズマプルームを実質的に破壊することなく粉末材料を導入する工程と、粉末粒子を加熱して、溶融粉末粒子を形成する工程と、溶融粉末粒子をカスケードトーチの出口から層流プラズマプルーム内に、かつ加熱基材に向かって方向付ける工程と、溶融粉末粒子を加熱基材上に衝突させる工程と、粉末粒子を結晶化させて、改善された高密度かつ結晶質のコーティングを形成する工程であって、上記結晶化させることは、補助加熱又は後熱処理工程を使用せずに行われる、工程と、を含む、方法。
【0010】
本発明は、本明細書に開示される様々な組み合わせ及び実施形態における態様のいずれかを含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本発明の目的及び利点は、全体を通して同じ番号が同じ特徴を示す添付図面と関連して、その好ましい実施形態の以下の詳細な説明からより良く理解される。
【0012】
【
図1】本発明の一態様によるプロセス概略図を示す。
【0013】
【
図2】本発明の一態様によるブロックフロー図を示す。
【0014】
【
図3a】乱流プラズマプルームの代表的な熱流束プロファイルを示す。
【0015】
【
図3b】半径方向の位置又は
図3aの関数としての熱エンタルピープロファイルを示す。
【0016】
【
図3c】
図3aの乱流プラズマプルームのエネルギープロファイルの断面図を示す。
【0017】
【
図4a】本発明の原理による、層流プラズマプルームの例示的な熱流束プロファイルを示す。
【0018】
【
図4b】
図4aの半径方向の位置の関数としての熱エンタルピープロファイルを示す。
【0019】
【
図4c】
図4aの層流プラズマプルームのエネルギープロファイルの断面図を示す。
【0020】
【
図5a】
図3a、
図3b及び
図3cに示される従来の乱流プラズマプルームによって調製されたコーティングにおけるアモルファス相のX線回折データを示す。
【0021】
【
図5b】
図5aのコーティングの倍率200倍での光学顕微鏡画像を示す。
【0022】
【
図6a】
図4a、
図4b及び
図4cに示される層流プラズマプルームによって調製されたコーティングにおけるX線回折データを示す。
【0023】
【
図6b】
図6aのコーティングの倍率200倍での光学顕微鏡画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の目的及び利点は、関連するその実施形態の以下の詳細な説明からより良く理解されるであろう。本開示は、結晶化度及び密度の増加を伴う改善されたコーティングを生成するための新規なコーティングプロセスに関する。本開示は、様々な実施形態において、かつ本発明の様々な態様及び特徴を参照して、本明細書に記載される。
【0025】
本発明の様々な要素の関連性及び機能は、以下の「発明を実施するための形態」によってより良好に理解される。詳細な説明は、本開示の範囲内のものとして様々な置換及び組み合わせの特徴、態様、及び実施形態を想到している。本開示は、これらの特定の特徴、態様、及び実施形態のそのような組み合わせ及び置換のうちのいずれか、又はそれらのうちの選択された1つ以上を備えるように、それらからなるように、又はそれらから本質的になるように更に指定され得る。
【0026】
本発明の出現前は、熱溶射によるコーティングの堆積における主要な課題は、本質的に非平衡であるプロセスを使用して、所望の構造の熱溶射コーティングを作製することであった。耐環境コーティングに使用される希土類二ケイ酸塩系セラミックなどの材料系の場合、比較的急速な冷却速度は、コーティングを、アモルファスコーティング構造を完全又は部分的に含む望ましくない準安定結晶構造に陥らせ得る。次いで、結果として得られたこれらのいわゆる「ガラス質コーティング」は、高温での使用時に平衡結晶構造に結晶化する望ましくない傾向があり、最終的にコーティングの亀裂及び破壊につながる可能性がある。
【0027】
上述の課題を克服するために、本発明は、乱流プラズマプルームフローレジームを利用する従来のプラズマコーティングプロセスから顕著に逸脱する解決策を提供する。特に、本発明者らは、考察されるような特定の属性を有する層流プラズマプルームを使用して、基材を十分な温度まで予熱し、続いて、層流プラズマプルームを破壊することなく粉末粒子を完全な層流プラズマプルーム内に最適に導入することができることを発見した。粒子は、層流プラズマプルームによって加熱され、コーティングされる部品又は構成要素の表面に向かって加速する。「層流プラズマプルーム」という用語は、本明細書で全体を通して使用されるとき、トーチの半径方向軸に沿って実質的に等エンタルピーであり、それによって、従来の乱流プラズマプルームと比較した場合にプラズマパラメータの半径方向勾配の排除又は有意な減少をもたらすプラズマプルームを意味することを意図している。層流プラズマプルームによって供給される熱エネルギー及び運動エネルギーは、所与の用途に対して有意に高密度かつ結晶質のコーティングを堆積することができる。
【0028】
本発明のプロセスの間、従来のプロセスと比較して、層流プルームの軸に沿った比較的高い熱流束によって、コーティング及び基材は、堆積される材料のガラス転移温度以上の温度まで制御された方法で加熱される。ガラス転移温度を作り出し、維持することは、希土類二ケイ酸塩及びアルミノケイ酸塩の耐環境コーティングと同様に平衡相の結晶化が急速冷却によって歴史的に抑制されてきた材料の高品質コーティングの堆積にとって特に重要である。乱流プラズマプルームを利用する従来のプロセスとは異なり、コーティングが層流プラズマプルームに沿って蓄積する間、層流プラズマプルームによって繰り返される方向付けされた加熱を基材に適用することは、熱溶射されたコーティングの各パス又は層の堆積中に、コーティング中のアモルファス相の形成を制限又は排除しながら、所望の平衡相の結晶の核形成及び成長の両方を引き起こすのに必要な熱エネルギーが存在することを確実にする。特定の特性を有するように本発明によって具体的に作り出されるような層流プラズマの使用は、結果として生じるコーティング中のアモルファス相又は構造の除去又は減少した量の結果として部品又は構成要素のその後の熱処理の必要性を低減及び/又は排除する。対照的に、従来のプラズマプロセスによって生成されたコーティングは、有意にアモルファスであり、使用時にコーティングを損傷させるようにして起こる結晶化を受ける。
【0029】
本発明の例示的な実施形態は、
図1、
図2、
図4a及び
図4bに関して論じられる。本発明は、層流プラズマプルームレジームを利用して、増加した結晶化度及び増加した密度を有する改善されたコーティングを作り出す。
図1を参照すると、一実施形態では、コーティングプロセス100は、タービンブレードなどの基材101をコーティングするために使用される。プロセス100は、プラズマトーチ、好ましくは米国特許第7,750,265号、同第9,150549号、及び同第9,376,740号(「Belashchenko特許」)でより詳細に説明されるようなカスケードトーチ102を提供することを含み、これらの特許のそれぞれは、その内容全体が、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。カスケードトーチ102は、少なくとも1つのカソードを有するカソードモジュールと、パイロットインサートモジュールと、アノードモジュールと、アーク安定性を提供するための少なくとも1つの電極間インサートモジュール(IEI)とを含み得る。アノードアークルートの領域から出てくるプラズマ流の速度プロファイルを成形及び/又は制御するために、形成モジュールが、アノードアークルートの下流に配置され得る。明確にするために、カスケードトーチ102の構造的詳細は、本発明の原理による、層流プラズマプルームを使用してより高い結晶化度及び密度を有する改善されたコーティングを作り出す原理をより良好に例示するために省略されている。トーチへのガス入口は、プラズマプロセスガスとキャリアガスとの組み合わせを提供する。
【0030】
最小の3インチ又はそれよりも大きいコーティングプロセススタンドオフ距離が確立される。本明細書で全体を通して使用されるとき、「コーティングプロセススタンドオフ距離」という用語は、カスケードトーチ102の出口から基材101(例えば、タービンブレード)まで測定された距離である。これに関して、コーティングされる基材101は、プラズマトーチ102の出口から3インチ以上である層流プラズマプルーム105のほぼ終端(すなわち、遠位端)に位置する。
【0031】
電源(図示せず)が、カスケードトーチ102に電力を供給するように動作可能に接続されている。プラズマガス104は、カスケードトーチ102の入口に供給される。プラズマガス104は、トーチ102内でイオン化されて、層流プラズマプルーム105を生成する。層流プラズマプルーム105は、トーチ102(
図4a及び
図4b)の半径方向軸に沿って実質的に等エンタルピーであり、それにより、プラズマパラメータの半径方向勾配の排除、又は、トーチ102の半径方向軸で著しく変化するエンタルピープロファイルを有する従来の乱流プラズマプルームと比較して著しく小さい半径方向勾配をもたらす(
図3a及び
図3b)。層流プラズマプルーム105は、具体的には、トーチ102の出口から延びて、コーティングされる基材101の表面に接触するように作り出されており、それにより、コーティングプロセススタンドオフ距離に実質的に等しい長手方向長さを有する。プロセス100は、
図3a及び
図3bのプロセスと比較して、渦を最小化又は排除し、層流プラズマプルーム105への大気巻き込みを最小化する。層流プラズマプルーム105における渦を
図3aに示される乱流プルームの渦と比較して最小化することにより、層流プラズマプルーム105のエンタルピー及び関連する熱含有量は、基材101に向かってより効果的であるが、基材101上に熱損傷が発生するような過度の熱を与えない方法で、集束することができる。層流プラズマプルーム105からの熱エネルギーは、層流プラズマプルーム105の長手方向軸に実質的に平行な方向で、基材101に向かって、制御された方法で移される。
【0032】
層流プラズマプルーム105は、結果として生じる堆積されるコーティングのガラス転移温度以上の温度に基材を予熱する。特に重要かつ有利であるのは、基材101を予熱するときに補助加熱源が排除されることである。基材101及びその上に蓄積されるコーティングをガラス転移温度以上に保持することによって、結果として生じる形成の結晶形成に有利となる条件が確立される。具体的には、基材101に衝突する際の粉末粒子106は、
図3a及び
図3bの乱流プラズマプルームによって生成されるコーティングと比較して、アモルファス相の形成を低減又は最小化するのに好適な冷却速度を受ける。
【0033】
基材101が層流プラズマプルーム105で予熱され、かつ遠位端が基材101に接触している層流プラズマプルーム105が構造的に完全な状態になると、粉末粒子を導入することができる。ホッパー103は、粉末粒子106を層流プルーム105に導入することができる。粉末を導入するための構成の一例を
図1に示す。粉末粒子106は、トーチ102の下流の所定の位置で層流プラズマプルーム105内へと半径方向に注入されるように示されている。キャリアガスは、ガス入口でプラズマトーチ102に導入される。粉末粒子106の導入は、キャリアガス流量で、かつ層流プラズマプルーム105を破壊しない注入角度で行われる。キャリアガスは、
図1に示されるように、層流プルーム105内の粉末粒子106を巻き込み、この巻き込みもまた、層流プラズマプルーム105を破壊しない。半径方向注入が示されているが、例えば好適な不活性キャリアガスによる粉末粒子106の軸方向注入を含む、他の注入構成が企図されることを理解されたい。
【0034】
粉末粒子106は、実質的に全ての粒子106が溶融状態になるように、層流プラズマプルーム105内で加熱される。そのような溶融状態の粉末粒子106は、基材101に向かって加速される。電力粒子(power particles)は基材101に衝突し、結晶化して、増加した結晶化度及び密度を有する、結果として生じるコーティングを形成する。層流プラズマプルーム105の完全性は、コーティングの形成中に維持される。更に、層流プラズマプルーム105は、基材101上に蓄積するコーティングが、結果として生じるコーティングのガラス転移温度以上の温度で十分に加熱及び維持されることを確実にするように、基材101と接触した状態であり続ける。結果として生じるコーティングは、後熱処理も補助加熱も必要とされない、十分な結晶化度を有する。
【0035】
プロセス100に関して上述したような、一態様における本発明の主要な工程を表す高レベルのブロックフロー図を
図2に示す。プロセス100は、層流プラズマプルームを生成すること(工程201)と、コーティングされる部品/基材をコーティング材料のガラス転移温度以上の温度に予熱すること(工程202)と、プラズマプルーム105の層流性を維持しながら、粉末を層流プラズマプルーム105に注入すること(工程203)と、コーティング温度をコーティング材料のガラス転移温度以上に維持しながら、部品/基材をコーティングすること(工程204)とを必要とする。
【0036】
本発明の技術を使用して、増加した結晶化度及び密度を有する様々な改善されたコーティングを生成することができる。例えば、本発明の別の実施形態では、従来の乱流プラズマフロープロセスと比較して比較的長いスタンドオフ距離での層流フローレジームの高エンタルピープラズマトーチを使用することによって、補助加熱又は堆積後熱処理を使用せずに、有意に高いレベルの高温安定性結晶相を有する希土類二ケイ酸塩のコーティングを堆積させることが可能であることが見出されている(
図3a及び
図3b)。そのような堆積のための方法は、本発明の方法論、すなわち、(i)層流プラズマプルームが内部に作り出される層流フローレジームで動作するように、一連の内部電極インサートを有するプラズマカスケードトーチを動作させる工程と、(ii)層流プラズマプルームを使用して基材を予熱する工程と、(iii)粉末供給原料を層流プラズマプルームに巻き込ませて、層流プラズマプルームを破壊することなく粉末粒子をその融解温度を超えて加熱する工程と、(iv)粉末粒子を基材の表面に向かって加速させる工程と、(v)層流プラズマプルームが、基材の表面と接触したままであり、かつ同時に基材を加熱している間、粒子を基材の表面上に衝突させる工程であって、その結果、衝突した溶融粒子が、従来のプロセスと比較してアモルファス相の形成を低減、排除、又は最小化する速度で冷却され、ガラス化(例えば、非晶質のアモルファス材料の形成)が優勢に抑制される、工程と、を利用することを含む。
【0037】
ここで
図4a及び
図4bに関して説明するように、本発明によって利用される層流プラズマプルーム105は、改善されたコーティングを作り出すのに好ましい特定の出力及び熱伝達特性を有するように作り出される。
図4aは、層流プラズマプルーム105が、渦を取り込まず、プラズマプルームの軸に沿ってほとんど一方向の熱流を有するかなり長いプラズマプルーム105をもたらすことを示す。次いで、プルーム105は、コーティングされる部品101が層流プラズマプルーム105の遠位端又はその近くにあるように、位置付けることができ、堆積中に部品101への有意な熱伝達をもたらす。
【0038】
層流プラズマプルーム105は、カスケードトーチ102の出口から基材101まで延在する層流プラズマプルーム105の長手方向軸に沿った長手方向長さによって少なくとも部分的に画定される。長手方向長さは、プロセス100中に実質的に一定のままであり、スタンドオフ距離に実質的に等しく、スタンドオフ距離は、最小の3インチであるか、又はそれよりも大きい。
図4aに見られるように、層流プラズマプルーム105は、構造において円柱状として更に特徴付けることができる。円柱状構造は、エンタルピープロファイル(
図4b)及び関連する熱含有量(
図4a)が、一定のままであり、トーチ102の半径方向に沿って均一に分布することを可能にする。層流プラズマプルーム105に関連するエンタルピー及び熱含有量は、トーチ102の前に局所化されない。更に、
図4cの層流プラズマプルーム105の断面は、半径方向外向きの熱損失の大きさが、
図3cの断面で示す乱流プラズマプルームの熱損失の大きさと比較して小さいことを示している。
【0039】
対照的に、
図3a、
図3b及び
図3cを参照すると、強い渦が乱流プラズマプルームの周囲及び内部に示されており、これにより、プラズマプルームが切り詰められ、観察されるプルームが著しく短くなり、プルームの軸から半径方向外側への熱伝達が劇的に増加している。これは、プラズマプルームの断面図及び位置対エンタルピーの曲線に示されており、これらは両方とも、半径方向においてプラズマプルームからエネルギー及び熱が除去されていることを示す。
【0040】
本発明によって作り出される層流プラズマプルーム105の特性は、全体として、
図3a及び
図3bの従来のプラズマ乱流プラズマプルームによって作り出された対応する局所堆積スポット温度よりも大きくなる、加熱基材101の局所堆積スポット温度を形成することに寄与し、それにより、結晶性が増加し、かつ高密度化したコーティングの形成を可能にする。高結晶性コーティングを作製するための層流プラズマプルーム105の使用は、トーチの軸に沿って、制御された方法でプラズマからの熱流を優先的に方向付ける、主に一方向に配向された熱流を有する円柱状化されたプラズマを作り出す、層流プラズマプルーム105の能力に基づく。次いで、この濃度の熱エネルギーを、コーティングされる部品に方向付けることができる。
【0041】
プロセスの好ましい実施形態を上に記載してきたが、以下の実施例は、本発明を他のコーティングプロセスと比較するための基礎を提供することが意図されており、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。以下の実施例に記載されるように、本発明によって堆積された溶射されたままのコーティング断面のX線回折及び光学顕微鏡撮像を実施し、従来の最新技術によって生成されたコーティングに対するものと比較した。
比較例1(乱流プラズマプルームの従来のプロセス)
【0042】
図3a、
図3b及び
図3cに示されるような従来の乱流プラズマプルームを利用して、希土類二ケイ酸塩(RE2Si2O7)を生成した。乱流プラズマプルームは、F4プラズマトーチ(Metcoから市販されている)を典型的な動作パラメータで使用して作り出した。4インチのコーティングプロセススタンドオフ距離を作り出した。コーティングが適用される前に、トーチを使用して基材を予熱した。乱流プラズマプルームは、非等エンタルピーであり、安定していなかった。このプルームは、比較的短く(実施例1のものと比較して)、三角形状であった。乱流プラズマプルームは、コーティング中に基材表面に接触しなかった。乱流プラズマプルームは乱流渦を呈することがわかった。
【0043】
コーティングに対してX線回折データを得て、結果を
図5aに報告した。X線回折データは、コーティング中に存在する非晶質の材料を示す有意なX線帯域特性を示した。結果は、その後の後熱処理又は補助加熱を必要とする許容できないほど高レベルのアモルファス相を示した。
【0044】
倍率200倍のコーティングの光学顕微鏡画像を得て、
図5bに示した。光学顕微鏡画像は、許容できないほど高い量の未溶融粒子及び孔隙の存在を示し、それらは両方とも、コーティングの有効性を損なう。
実施例1(層流プラズマプルームの発明)
【0045】
図4a、
図4b及び
図4cに示されるような層流プラズマプルームを利用して、溶射されたままの状態の希土類二ケイ酸塩(RE2Si2O7)コーティングを生成した。3インチを超えるコーティングプロセススタンドオフ距離を作り出した。層流プラズマプルームは、カスケードトーチを使用して作り出した。層流プラズマプルームは、
図4aに示されるような円柱状構造を有した。このプルームは、乱流プラズマプルームのものよりも長い長手方向長さを有した。基材の温度を、コーティングのガラス転移温度以上の温度に予熱した。このプルームは等エンタルピーであった。層流プラズマプルームの安定性は、コーティングプロセス全体を通して維持されることが観察された。渦の存在は検出されなかった。
【0046】
コーティングに対してX線回折データを得て、結果を
図6aに報告した。X線回折データは、C型希土類二ケイ酸塩結晶構造を特定する主に明確かつ狭い半値全幅の結晶ピークを示した。
図6aのX線回折データは、比較例1の乱流プラズマプルームによって生成されたものと比較して、コーティング内で有意に低い大きさのアモルファスX線帯域を示した。この回折データは、コーティング中のアモルファス相の量の顕著な減少を示した。したがって、このコーティングは、比較例1で生成されたものよりも高い結晶化度を有すると結論付けられた。このコーティングは、その後の補助加熱又は後熱処理工程を必要としなかった。
【0047】
倍率200倍のコーティングの光学顕微鏡画像を得て、
図6bに示した。このコーティング断面の顕微鏡写真は、比較例1のものと比較して、より密度の高いコーティングを示した。未溶融粒子を含まないことが視覚的に観察された。コーティング内の亀裂及び通気孔は、最小限であることが観察された。
【0048】
本発明の特定の実施形態と見なされるものを示し、説明してきたが、当然ながら、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態又は詳細の様々な修正及び変更を容易に行うことができることが理解されるであろう。したがって、本発明は、本明細書において示され、説明される正確な形態及び詳細に限定されず、本明細書において開示され、以下に特許請求される本発明の全範囲に満たない、いかなるものにも限定されないことを意図する。