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特許7383764ポリイミド前駆体、樹脂組成物および樹脂フィルムの製造方法
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  • 特許-ポリイミド前駆体、樹脂組成物および樹脂フィルムの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】ポリイミド前駆体、樹脂組成物および樹脂フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20231113BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20231113BHJP
   C08K 5/54 20060101ALI20231113BHJP
【FI】
C08G73/10
C08L79/08
C08K5/54
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022100555
(22)【出願日】2022-06-22
(62)【分割の表示】P 2020109828の分割
【原出願日】2016-09-21
(65)【公開番号】P2022128480
(43)【公開日】2022-09-01
【審査請求日】2022-07-22
(31)【優先権主張番号】P 2015186730
(32)【優先日】2015-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2015218783
(32)【優先日】2015-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016055476
(32)【優先日】2016-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016124849
(32)【優先日】2016-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】米谷 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】清水 建樹
(72)【発明者】
【氏名】金田 隆行
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/122032(WO,A1)
【文献】特開2014-9305(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G73/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a1)下記一般式(1):
【化1】
{式中、Xは炭素数4~32の4価の基を表す。R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。nは0または1を表す。そしてaとbとcは0~4の整数である。}
で表される構造単位を有するポリイミド前駆体(ただし、前記ポリイミド前駆体において、下記式で表される構造単位を有するものを除く。
【化2】
(式中、Arは芳香族テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の芳香族基を示し、R5及びR6は独立に、炭素数2~6のラジカル重合性の不飽和結合を有する1価の有機基を示す。))
を含み、
更に、(c)界面活性剤、および(d)アルコキシシラン化合物、からなる群から選択される少なくとも1種を含み、
フレキシブルディスプレイに用いられる、樹脂組成物(ただし、前記ポリイミド前駆体が、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(H-PMDA)、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-ビシクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸2,3:5,6-二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸―1,4:2,3-二無水物、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-C]フラン-1,3-ジオン及びビシクロ[3,3,0]オクタン-2,4,6,8-テトラカルボン酸二無水物から選択される少なくとも一つの脂環式テトラカルボン酸二無水物に由来する構造を含まない。)
【請求項2】
前記ポリイミド前駆体の重量平均分子量が30,000以上、300,000以下である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
樹脂組成物の製造方法であって、
テトラカルボン酸二無水物と、
下記一般式(6):
【化3】
(式中、R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。nは0または1を表す。そしてaとbとcは0~4の整数である。)
で表されるジアミンと、の重縮合反応によりポリイミド前駆体を含むワニスを得る工程と、
前記重縮合反応により得られたワニスに(d)アルコキシシラン化合物を添加する工程と、を含み、
前記樹脂組成物は、フレキシブルディスプレイに用いられる、樹脂組成物の製造方法(ただし、前記ポリイミド前駆体が、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(H-PMDA)、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-ビシクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸2,3:5,6-二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸―1,4:2,3-二無水物、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-C]フラン-1,3-ジオン及びビシクロ[3,3,0]オクタン-2,4,6,8-テトラカルボン酸二無水物から選択される少なくとも一つの脂環式テトラカルボン酸二無水物に由来する構造を含まない。)
【請求項4】
樹脂組成物の製造方法であって、
テトラカルボン酸二無水物と、
下記一般式(6):
【化4】
(式中、R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。nは0または1を表す。そしてaとbとcは0~4の整数である。)
で表されるジアミンとの重縮合反応によりポリイミド前駆体を含むワニスを得る工程、及び、
前記工程により得られたワニスに(c)界面活性剤を添加する工程を含む、樹脂組成物の製造方法(ただし、前記ポリイミド前駆体が、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(H-PMDA)、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-ビシクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸2,3:5,6-二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸―1,4:2,3-二無水物、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-C]フラン-1,3-ジオン及びビシクロ[3,3,0]オクタン-2,4,6,8-テトラカルボン酸二無水物から選択される少なくとも一つの脂環式テトラカルボン酸二無水物に由来する構造を含まない。)
【請求項5】
下記一般式(11):
【化5】
{式中、X1、は炭素数4~32の4価の基を表す。R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。nは0または1を表す。そしてaとbとcは0~4の整数である。Yは下記一般式(3)、および(4)からなる群から選択される少なくとも1種である。l、mはそれぞれ独立に1以上の整数を表し、0.01≦l/(l+m)≦0.99を満たす。}
で表される構造単位を有するポリイミド
【化6】
【化7】
(ただし、前記ポリイミドにおいて、下記式で表される構造単位を有するポリイミド前駆体をイミド化して得られるものを除く。
【化8】
(式中、Arは芳香族テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の芳香族基を示し、R5及びR6は独立に、炭素数2~6のラジカル重合性の不飽和結合を有する1価の有機基を示す。))及び
(c)界面活性剤、を含む、ポリイミドフィルム。
【請求項6】
下記一般式(11):
【化9】
{式中、X1、は炭素数4~32の4価の基を表す。R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。nは0または1を表す。そしてaとbとcは0~4の整数である。Yは下記一般式(3)、および(4)からなる群から選択される少なくとも1種である。l、mはそれぞれ独立に1以上の整数を表し、0.01≦l/(l+m)≦0.99を満たす。}
で表される構造単位を有するポリイミド
【化10】
【化11】
(ただし、前記ポリイミドにおいて、下記式で表される構造単位を有するポリイミド前駆体をイミド化して得られるものを除く。
【化12】
(式中、Arは芳香族テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の芳香族基を示し、R5及びR6は独立に、炭素数2~6のラジカル重合性の不飽和結合を有する1価の有機基を示す。))
を含むポリイミドフィルムであって、
残留応力が25MPa以下である、ポリイミドフィルム。
【請求項7】
下記一般式(11):
【化13】
{式中、X1、は炭素数4~32の4価の基を表す。R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。nは0または1を表す。そしてaとbとcは0~4の整数である。Yは下記一般式(3)、および(4)からなる群から選択される少なくとも1種である。l、mはそれぞれ独立に1以上の整数を表し、0.01≦l/(l+m)≦0.99を満たす。}
【化14】
【化15】
で表される構造単位を有するポリイミド(ただし、前記ポリイミドにおいて、下記式で表される構造単位を有するポリイミド前駆体をイミド化して得られるものを除く。
【化16】
(式中、Arは芳香族テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の芳香族基を示し、R5及びR6は独立に、炭素数2~6のラジカル重合性の不飽和結合を有する1価の有機基を示す。))
を含むポリイミドフィルムであって、
膜厚0.1ミクロンの時の308nmの吸光度が0.6以上2.0以下である、ポリイミドフィルム。
【請求項8】
請求項5~7のいずれか1項に記載のポリイミドフィルムを含む、フレキシブルディスプレイ。
【請求項9】
下記一般式(13):
【化17】
{式中、Xは炭素数4~32の4価の基を表す。R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。nは0または1を表す。そしてaとbとcは0~4の整数である。}
で表されるポリイミド(ただし、前記ポリイミドにおいて、下記式で表される構造単位を有するポリイミド前駆体をイミド化して得られるものを除く。
【化18】
(式中、Arは芳香族テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の芳香族基を示し、R5及びR6は独立に、炭素数2~6のラジカル重合性の不飽和結合を有する1価の有機基を示す。))、並びに、
(c)界面活性剤、および(d)アルコキシシラン化合物、からなる群から選択される少なくとも1種を含む、ポリイミドフィルムを含むフレキシブルディスプレイ(ただし、前記ポリイミドが、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(H-PMDA)、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-ビシクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸2,3:5,6-二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸―1,4:2,3-二無水物、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-C]フラン-1,3-ジオン及びビシクロ[3,3,0]オクタン-2,4,6,8-テトラカルボン酸二無水物から選択される少なくとも一つの脂環式テトラカルボン酸二無水物に由来する構造を含まない。)
【請求項10】
低温ポリシリコンTFT層又は、IGZO(InGaZnO)TFT層から選択される少なくとも一つを含む、請求項9に記載のフレキシブルディスプレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、フレキシブルデバイスのための基板の製造に用いられる、ポリイミド前駆体、樹脂組成物および樹脂フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、高耐熱性が要求される用途には、樹脂フィルムとしてポリイミド樹脂のフィルムが用いられる。一般的なポリイミド樹脂は、芳香族カルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを溶液重合することによりポリイミド前駆体を製造した後、これを高温で熱イミド化して、又は、触媒を用いて化学イミド化して、製造される高耐熱樹脂である。
【0003】
ポリイミド樹脂は、不溶、不融の超耐熱性樹脂であり、耐熱酸化性、耐熱特性、耐放射線性、耐低温性、耐薬品性等に優れた特性を有している。このため、ポリイミド樹脂は、電子材料を含む広範囲な分野で用いられている。電子材料分野におけるポリイミド樹脂の適用例としては、例えば、絶縁コーティング剤、絶縁膜、半導体の保護膜、TFT-LCDの電極保護膜等を挙げることができる。最近は、ディスプレイ材料の分野で従来使用されていたガラス基板に代わり、その軽さ、柔軟性を利用した無色透明フレキシブル基板としての採用が検討されている。
【0004】
フレキシブル基板としてのポリイミド樹脂フィルムを製造する場合、適当な支持体上に、ポリイミド前駆体を含有する組成物を塗布して塗膜を形成した後、熱処理を行ってイミド化することにより、ポリイミド樹脂フィルムを得る。前記支持体としては、例えばガラス、シリコン、窒化ケイ素、酸化ケイ素、金属等が使用されている。このような支持体上にポリイミド膜を有する積層体を製造する時には、ポリイミド前駆体の乾燥及びイミド化のために、250℃以上の高温における加熱処理を要する。この加熱処理により、前記積層体に残留応力が発生し、反り、剥離等の深刻な問題が生じる。これは、前記の支持体を構成する材料と比べ、ポリイミドの線熱膨張係数が大きいためである。
【0005】
熱膨張係数の小さいポリイミド材料としては、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とパラフェニレンジアミンとから形成されるポリイミドが最もよく知られている。膜厚及び作製条件に依存するものの、このポリイミド膜は非常に低い線熱膨張係数を示すことが報告されている(非特許文献1)。
また、分子鎖中にエステル構造を有するポリイミドが、適度な直線性及び剛直性を有するため、低い線熱膨張係数を示すことが報告されている(特許文献1)。
【0006】
しかし、上記の文献に記載されたポリイミドを含め、一般的なポリイミド樹脂は、高い芳香環密度により茶色又は黄色に着色するため、可視光線領域における光透過率が低く、従って透明性が要求される分野に用いることは困難である。例えば、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とパラフェニレンジアミンとから得られる上記非特許文献1のポリイミドは、膜厚10μmにおける黄色度(YI値)が40以上と高く、透明性の点では不十分である。
フィルムの黄色度については、例えばフッ素原子を有するモノマーを用いたポリイミドが、極めて低い黄色度を示すことが知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4627297号明細書
【文献】特表2010-538103号公報
【文献】特許第3079867号明細書
【非特許文献】
【0008】
【文献】最新ポリイミド 日本ポリイミド研究会編 エヌ・ティー・エス
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、ポリイミド樹脂を無色透明フレキシブル基板として適用するためには、透明性の他に、優れた伸度、破断強度等の機械的物性も求められている。特に最近では、TFTのデバイスタイプがLTPS(低温ポリシリコンTFT)になることに伴い、従来以上の熱履歴においても、上記の物性を発揮するフィルムが望まれている。
しかし、公知の透明ポリイミドの物性特性は、ディスプレイ用の耐熱性無色透明基板として用いるのに十分ではない。
更に、本発明者が確認したところ、特許文献1に記載されたポリイミド樹脂は、低い線熱膨張係数を示したものの、剥離後のポリイミド樹脂フィルムの黄色度(YI値)が大きいことの他、残留応力が高い、伸度が低い、破断強度が低いという課題があることが分かった。
黄色度については、特許文献2に記載のポリイミドフィルムでは、300℃程度の温度領域では低い黄色度を示すが、400℃以上の高温領域では、黄色度(YI値)が著しく悪化することが分かった。
【0010】
また、線膨張係数を下げたポリイミドとして、4,4’-ジアミノジフェニルエーテルと4,4’-ジアミノジフェニルエステルからなるポリイミドが開示されている(特許文献3)。
しかしながら、本発明者が確認したところ、特許文献3に記載されたポリイミド樹脂は、フレキシブル基板として適用するためには膜が非常に脆く、高温での黄色度には改善の余地があった。
【0011】
本発明は、上記説明した問題点に鑑みてなされたものである。従って、本発明は、残留応力が低く、反りが少なく、黄色度(YI値)が小さく、伸度が高い、ポリイミド樹脂フィルム及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下の通りのものである。
[1]
(a1)下記一般式(1):
【化1】
{式中、Xは炭素数4~32の4価の基を表す。R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。nは0または1を表す。そしてaとbとcは0~4の整数である。}で示される構造単位Lと、
下記一般式(2):
【化2】
{式中、Xは炭素数4~32の4価の基を表す。Yは下記一般式(3)である。}で示される構造単位Mを、
1/99≦(構造単位Lのモル数/構造単位Mのモル数)≦99/1
で含むことを特徴とする、ポリイミド前駆体。
【化3】
{式中、R~Rはそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。d~eは0~4の整数である。}
[2]
(a1)下記一般式(1):
【化4】
{式中、Xは炭素数4~32の4価の基を表す。R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。nは0または1を表す。そしてaとbとcは0~4の整数である。}で示される構造単位Lと、
下記一般式(2):
【化5】
{式中、Xは炭素数4~32の4価の基を表す。Yは下記一般式(4)である。}で示される構造単位Mを、
1/99≦(構造単位Lのモル数/構造単位Mのモル数)≦99/1
で含むことを特徴とする、ポリイミド前駆体。
【化6】
{式中、R~Rはそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。f~iは0~4の整数である。また、Zは、それぞれ独立に単結合、メチレン基、エチレン基、エーテルおよびケトンからなる群から選択される1種である。}
[3]
前記一般式(1)におけるnが0である、[1]または[2]に記載のポリイミド前駆体。
[4]
(a2)下記一般式(10):
【化7】
で示される構造単位を有し、そして、重量平均分子量が30,000以上、300,000以下であることを特徴とするポリイミド前駆体。
{式中、Xは4,4’-オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、およびビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)からなる群から選択される少なくとも1種に由来する4価の基を表す。R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。nは0または1を表す。そしてaとbとcは0~4の整数である。}
[5]
前記(a2)ポリイミド前駆体における、重量平均分子量1,000未満の分子の含有量が5質量%未満である、[4]に記載のポリイミド前駆体。
[6]
一般式(10)におけるnが0である、[4]または[5]に記載のポリイミド前駆体。
[7]
(a1)下記一般式(1):
【化8】
{式中、Xは炭素数4~32の4価の基を表す。R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。nは0または1を表す。そしてaとbとcは0~4の整数である。}で示される構造単位Lと、
下記一般式(2):
【化9】
{式中、Xは炭素数4~32の4価の基を表す。Yは下記一般式(3)、(4)および(5)からなる群から選択される少なくとも1種である。}で示される構造単位Mを、
1/99≦(構造単位Lのモル数/構造単位Mのモル数)≦99/1
で含み、
【化10】
【化11】
【化12】
{式中、R~R11はそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。d~kは0~4の整数である。また、一般式(4)中のZは、それぞれ独立に単結合、メチレン基、エチレン基、エーテルおよびケトンからなる群から選択される1種である。}
前記X1、が、4,4’-オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、およびビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、からなる群から選択される少なくとも1種に由来する4価の有機基であるポリイミド前駆体。
[8]
[1]~[7]のいずれかに記載のポリイミド前駆体と、(b)有機溶剤と、を含有することを特徴とする、樹脂組成物。
[9]
更に、(c)界面活性剤、および(d)アルコキシシラン化合物、からなる群から選択される少なくとも1種を含む、[8]に記載の樹脂組成物。
[10]
下記一般式(11):
【化13】
{式中、X1、は炭素数4~32の4価の基を表す。R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。nは0または1を表す。そしてaとbとcは0~4の整数である。Yは下記一般式(3)、および(4)からなる群から選択される少なくとも1種である。l、mはそれぞれ独立に1以上の整数を表し、0.01≦l/(l+m)≦0.99を満たす。}で表される構造単位を有することを特徴とする、ポリイミド。
【化14】
【化15】
{式中、R~Rはそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。d~iは0~4の整数である。また、一般式(4)中のZは、それぞれ独立に単結合、メチレン基、エチレン基、エーテルおよびケトンからなる群から選択される1種である。}
[11]
下記一般式(12):
【化16】
{式中、Xは4,4’-オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、およびビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)からなる群から選択される少なくとも1種に由来する4価の基を表す。R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。nは0または1を表す。そしてaとbとcは0~4の整数である。}で表される構造単位を有し、伸度が15%以上であることを特徴とする、ポリイミド。
[12]
支持体の表面上に、[8]または[9]に記載の樹脂組成物を塗布することにより塗膜を形成する工程と、
前記支持体及び前記塗膜を加熱することにより、該塗膜に含まれるポリイミド前駆体をイミド化してポリイミド樹脂膜を形成する工程と、
前記ポリイミド樹脂膜を前記支持体から剥離する工程と、
を含むことを特徴とする、樹脂フィルムの製造方法。
[13]
支持体の表面上に、樹脂組成物を塗布することにより塗膜を形成する工程と、
前記支持体及び前記塗膜を加熱することにより、該塗膜に含まれるポリイミド前駆体をイミド化してポリイミド樹脂膜を形成する工程と、
前記ポリイミド樹脂膜を前記支持体から剥離する工程と、を含み、
前記ポリイミド樹脂膜を前記支持体から剥離する工程に先立って、前記支持体側からレーザーを照射する工程を行う、樹脂フィルムの製造方法であって、
前記樹脂組成物が、
(a1)下記一般式(1):
【化17】
{式中、Xは炭素数4~32の4価の基を表す。R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。nは0または1を表す。そしてaとbとcは0~4の整数である。}で示される構造単位Lと、
下記一般式(2):
【化18】
{式中、Xは炭素数4~32の4価の基を表す。Yは下記一般式(3)、(4)および(5)からなる群から選択される少なくとも1種である。}で示される構造単位Mを、
1/99≦(構造単位Lのモル数/構造単位Mのモル数)≦99/1で含む、ポリイミド前駆体と、
【化19】
【化20】
【化21】
{式中、R~R11はそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。d~kは0~4の整数である。また、一般式(4)中のZは、それぞれ独立に単結合、メチレン基、エチレン基、エーテルおよびケトンからなる群から選択される1種である。}
(b)有機溶剤と、を含有することを特徴とする、樹脂フィルムの製造方法。
[14]
前記樹脂組成物が、更に、(c)界面活性剤、および(d)アルコキシシラン化合物、からなる群から選択される少なくとも1種を含む、[13]に記載の樹脂フィルムの製造方法。
[15]
支持体の表面上に、[8]または[9]に記載の樹脂組成物を塗布することにより塗膜を形成する工程と、
前記支持体及び前記塗膜を加熱することにより、該塗膜に含まれるポリイミド前駆体をイミド化してポリイミド樹脂膜を形成する工程と、
を含むことを特徴とする、積層体の製造方法。
[16]
支持体の表面上に、樹脂組成物を塗布することにより塗膜を形成する工程と、
前記支持体及び前記塗膜を加熱することにより、該塗膜に含まれるポリイミド前駆体をイミド化してポリイミド樹脂膜を形成する工程と、
前記ポリイミド樹脂膜上に素子又は回路を形成する工程と、
前記素子又は回路が形成されたポリイミド樹脂膜を前記支持体から剥離する工程と、
を含む、ディスプレイ基板の製造方法であって、
前記樹脂組成物が、
(a1)下記一般式(1):
【化22】
{式中、Xは炭素数4~32の4価の基を表す。R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。nは0または1を表す。そしてaとbとcは0~4の整数である。}で示される構造単位Lと、
下記一般式(2):
【化23】
{式中、Xは炭素数4~32の4価の基を表す。Yは下記一般式(3)、(4)および(5)からなる群から選択される少なくとも1種である。}で示される構造単位Mを、
1/99≦(構造単位Lのモル数/構造単位Mのモル数)≦99/1で含む、ポリイミド前駆体と、
【化24】
【化25】
【化26】
{式中、R~R11はそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。d~kは0~4の整数である。また、一般式(4)中のZは、それぞれ独立に単結合、メチレン基、エチレン基、エーテルおよびケトンからなる群から選択される1種である。}
(b)有機溶剤と、を含有することを特徴とする、ディスプレイ基板の製造方法。
[17]
前記樹脂組成物が、更に、(c)界面活性剤、および(d)アルコキシシラン化合物、からなる群から選択される少なくとも1種を含む、[16]に記載のディスプレイ基板の製造方法。
[18]
下記一般式(12):
【化27】
{式中、Xは4,4’-オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、およびビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)からなる群から選択される少なくとも1種であり、R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。nは0または1を表す。そしてaとbとcは0~4の整数である。}
で表されるポリイミドを含むことを特徴とする、ディスプレイ用ポリイミドフィルム。
[19]
下記一般式(13):
【化28】
{式中、Xは炭素数4~32の4価の基を表す。R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。nは0または1を表す。そしてaとbとcは0~4の整数である。}で表されるポリイミドを含むポリイミドフィルム層と、前記ポリイミド層上に形成された低温ポリシリコンTFT層と、を含む、フレキシブルディスプレイであって、
前記ポリイミドフィルム層は、
下記一般式(12):
【化29】
{式中、Xは4,4’-オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、およびビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)からなる群から選択される少なくとも1種であり、R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。nは0または1を表す。そしてaとbとcは0~4の整数である。}
で表されるポリイミド、又は、
下記一般式(11):
【化30】
{式中、X1、は炭素数4~32の4価の基を表す。R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。nは0または1を表す。そしてaとbとcは0~4の整数である。Yは下記一般式(3)、(4)、(5)からなる群から選択される少なくとも1種である。l、mはそれぞれ独立に1以上の整数を表し、0.01≦l/(l+m)≦0.99を満たす。}で表される構造単位を有するポリイミド
【化31】
【化32】
【化33】
{式中、R~R11はそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。d~kは0~4の整数である。また、一般式(4)中のZは、それぞれ独立に単結合、メチレン基、エチレン基、エーテルおよびケトンからなる群から選択される1種である。}から選択される少なくとも1つのポリイミドを含むことを特徴とする、フレキシブルディスプレイ。
[20]
支持体の表面上に、樹脂組成物を塗布することにより塗膜を形成する工程と、
前記支持体及び前記塗膜を加熱することにより、該塗膜に含まれるポリイミド前駆体をイミド化してポリイミド樹脂膜を形成する工程と、
前記ポリイミド樹脂膜を前記支持体から剥離する工程と、を含み、
前記ポリイミド樹脂膜を前記支持体から剥離する工程に先立って、前記支持体側からレーザーを照射する工程を行う、樹脂フィルムの製造方法であって、
前記樹脂組成物は、
(a)下記一般式(1)で表されるポリイミド前駆体と、
(b)有機溶剤と、
(c)界面活性剤および(d)アルコキシシラン化合物からなる群から選択される少なくとも1種と、
を含み、
【化34】
{式中、Xは炭素数4~32の4価の基を表す。R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。nは0または1を表す。そしてaとbとcは0~4の整数である。}
前記ポリイミド樹脂膜は、
下記一般式(12):
【化35】
{式中、Xは4,4’-オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、およびビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)からなる群から選択される少なくとも1種であり、R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。nは0または1を表す。そしてaとbとcは0~4の整数である。}
で表されるポリイミド、又は、
下記一般式(11):
【化36】
{式中、X1、は炭素数4~32の4価の基を表す。R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。nは0または1を表す。そしてaとbとcは0~4の整数である。Yは下記一般式(3)、(4)からなる群から選択される少なくとも1種である。l、mはそれぞれ独立に1以上の整数を表し、0.01≦l/(l+m)≦0.99を満たす。}で表される構造単位を有するポリイミド
【化37】
【化38】
{式中、R~Rはそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。d~iは0~4の整数である。また、一般式(4)中のZは、それぞれ独立に単結合、メチレン基、エチレン基、エーテルおよびケトンからなる群から選択される1種である。}から選択される少なくとも1つのポリイミドを含むことを特徴とする、樹脂フィルムの製造方法。
[21]
支持体の表面上に、樹脂組成物を塗布することにより塗膜を形成する工程と、
前記支持体及び前記塗膜を加熱することにより、該塗膜に含まれるポリイミド前駆体をイミド化してポリイミド樹脂膜を形成する工程と、
前記ポリイミド樹脂膜上に素子又は回路を形成する工程と、
前記素子又は回路が形成されたポリイミド樹脂膜を前記支持体から剥離する工程と、
を含む、ディスプレイ基板の製造方法であって、
前記樹脂組成物は、
(a)下記一般式(1)で表されるポリイミド前駆体と、
(b)有機溶剤と、
(c)界面活性剤および(d)アルコキシシラン化合物からなる群から選択される少なくとも1種と、
を含み、
【化39】
{式中、Xは炭素数4~32の4価の基を表す。R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。nは0または1を表す。そしてaとbとcは0~4の整数である。}
前記ポリイミド樹脂膜は、
下記一般式(12):
【化40】
{式中、Xは4,4’-オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、およびビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)からなる群から選択される少なくとも1種であり、R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。nは0または1を表す。そしてaとbとcは0~4の整数である。}
で表されるポリイミド、又は、
下記一般式(11):
【化41】
{式中、X1、は炭素数4~32の4価の基を表す。R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。nは0または1を表す。そしてaとbとcは0~4の整数である。Yは下記一般式(3)、(4)、(5)からなる群から選択される少なくとも1種である。l、mはそれぞれ独立に1以上の整数を表し、0.01≦l/(l+m)≦0.99を満たす。}で表される構造単位を有するポリイミド
【化42】
【化43】
【化44】
{式中、R~R11はそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。d~kは0~4の整数である。また、一般式(4)中のZは、それぞれ独立に単結合、メチレン基、エチレン基、エーテルおよびケトンからなる群から選択される1種である。}から選択される少なくとも1つのポリイミドを含むことを特徴とする、ディスプレイ基板の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかるポリイミド前駆体及び樹脂組成物から得られるポリイミドフィルムは、残留応力が低く、反りが少なく、黄色度(YI値)が小さく、伸度が高い。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例および比較例で作製した有機EL基板の構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の例示の実施の形態(以下、「実施の形態」と略記する。)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。また、本開示で記載する特性値は、特記がない限り、[実施例]の項において記載する方法又はこれと同等であることが当業者に理解される方法で測定される値であることを意図する。
【0016】
<樹脂組成物>
本発明の一態様が提供する樹脂組成物は、(a)ポリイミド前駆体、及び(b)有機溶媒を含有する。
以下、各成分を順に説明する。
【0017】
[ポリイミド前駆体]
本実施の第一の態様としてのポリイミド前駆体は、
(a1)下記一般式(1):
【化45】
{式中、Xは炭素数4~32の4価の基を表す。R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。nは0または1を表す。そしてaとbとcは0~4の整数である。}で示される構造単位Lと、
下記一般式(2):
【化46】
{式中、Xは炭素数4~32の4価の基を表す。Yは下記一般式(3)、(4)および(5)からなる群から選択される少なくとも1種である}で示される構造単位Mとを
1/99≦(構造単位Lのモル数/構造単位Mのモル数)≦99/1で含むことを特徴とする、ポリイミド前駆体である。
【化47】
【化48】
【化49】
{式中、R~R11はそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。d~kは0~4の整数である。}
本実施の第一の態様のポリイミド前駆体は、ポリイミドフィルムとしたときに残留応力が低く、反りが少なく、黄色度(YI値)が小さく、伸度が高い。また、本実施の第一の態様のポリイミド前駆体は、ポリイミドフィルムとしたときに、高温領域での黄色度(YI値)が小さい。
ここで、R~Rはそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基であれば限定されない。このような有機基として、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基、トリフルオロメチル基などのハロゲン含有基、メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基、などが挙げられる。この中で、高温領域でのYIの観点から、メチル基が好ましい。
ここで、a、b、c、dは0~4の整数であれば限定されない。この中で、YI、残留応力の観点から0~2の整数が好ましく、高温領域でのYIの観点から、0が特に好ましい。
ここで、nは0または1である。この中で、高温領域でのYIの観点から、0が好ましい。
【0018】
また、構造単位Lと構造単位Mのモル比(構造単位Lのモル数/構造単位Mのモル数)の下限は、5/95でもよく、10/90でもよく、20/80でもよく、30/70でもよく、40/60でもよい。構造単位Lと構造単位Mのモル比(構造単位Lのモル数/構造単位Mのモル数)の上限は、95/5でもよく、90/10でもよく、80/20でもよく、70/30でもよく、60/40でもよい。
、Xはそれぞれ独立に炭素数4~32の4価の基であり、同一であっても異なっていてもよい。下記のテトラカルボン酸二無水物に由来する4価の有機基が例示される。
上記テトラカルボン酸二無水物としては、具体的には、炭素数が8~36の芳香族テトラカルボン酸二無水物、炭素数が6~36の脂肪族テトラカルボン酸二無水物、及び炭素数が6~36の脂環式テトラカルボン酸二無水物から選択される化合物を例示することができる。この中で、高温領域での黄色度の観点から炭素数が8~36の芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましい。ここでいう炭素数には、カルボキシル基に含まれる炭素の数も含む。
【0019】
さらに具体的には、炭素数が8~36の芳香族テトラカルボン酸二無水物として、例えば4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(以下、6FDAとも記す)、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロ-3-フラニル)-3-メチル-シクロヘキセン-1,2ジカルボン酸無水物、ピロメリット酸二無水物(以下、PMDAとも記す)、1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、BPDAととも記す)、3,3’,4,4’―ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、メチレン-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,1-エチリデン-4,4’-ジフタル酸二無水物、2,2-プロピリデン-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,2-エチレン-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,3-トリメチレン-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,4-テトラメチレン-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,5-ペンタメチレン-4,4’-ジフタル酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物(以下、ODPAとも記す)、p-フェニレンビス(トリメリテート酸無水物)(以下、TAHQとも言う)チオ-4,4’-ジフタル酸二無水物、スルホニル-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ベンゼン二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,3-ビス[2-(3,4-ジカルボキシフェニル)-2-プロピル]ベンゼン二無水物、1,4-ビス[2-(3,4-ジカルボキシフェニル)-2-プロピル]ベンゼン二無水物、ビス[3-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]メタン二無水物、ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]メタン二無水物、2,2-ビス[3-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジメチルシラン二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8-フェナントレンテトラカルボン酸二無水物等を例示することができる。
【0020】
炭素数が6~50の脂肪族テトラカルボン酸二無水物として、例えばエチレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物等を;
炭素数が6~36の脂環式テトラカルボン酸二無水物として、例えば1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン-1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物(以下、CHDAと記す)、3,3’,4,4’-ビシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物、カルボニル-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、メチレン-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、1,2-エチレン-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、1,1-エチリデン-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、2,2-プロピリデン-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、オキシ-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、チオ-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、スルホニル-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、ビシクロ[2,2,2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、rel-[1S,5R,6R]-3-オキサビシクロ[3,2,1]オクタン-2,4-ジオン-6-スピロ-3’-(テトラヒドロフラン-2’,5’-ジオン)、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-1,2-ジカルボン酸無水物、エチレングリコール-ビス-(3,4-ジカルボン酸無水物フェニル)エーテル等が、それぞれ挙げられる。
【0021】
CTE、耐薬品性、Tgと高温領域での黄色度のバランスの観点から、PMDA、BPDA、TAHQ、ODPAが好ましく、BPDA、TAHQがより好ましい。
【0022】
実施の態様におけるポリイミド前駆体は、その性能を損なわない範囲で、上述のテトラカルボン酸二無水物に加えてジカルボン酸を使用することにより、ポリアミドイミド前駆体としてもよい。このような前駆体を使用することにより、得られるフィルムにおいて、機械伸度の向上、ガラス転移温度の向上、黄色度の低減等の諸性能を調整することができる。そのようなジカルボン酸として、芳香環を有するジカルボン酸及び脂環式ジカルボン酸が挙げられる。特に炭素数が8~36の芳香族ジカルボン酸、及び炭素数が6~34の脂環式ジカルボン酸からなる群から選択される少なくとも1つの化合物であることが好ましい。ここでいう炭素数には、カルボキシル基に含まれる炭素の数も含む。
これらのうち、芳香環を有するジカルボン酸が好ましい。
【0023】
具体的には、例えばイソフタル酸、テレフタル酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、3,4’-ビフェニルジカルボン酸、3,3’-ビフェニルジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-スルホニルビス安息香酸、3,4’-スルホニルビス安息香酸、3,3’-スルホニルビス安息香酸、4,4’-オキシビス安息香酸、3,4’-オキシビス安息香酸、3,3’-オキシビス安息香酸、2,2-ビス(4-カルボキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-カルボキシフェニル)プロパン、2,2’-ジメチル-4,4’-ビフェニルジカルボン酸、3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェニルジカルボン酸、2,2’-ジメチル-3,3’-ビフェニルジカルボン酸、9,9-ビス(4-(4-カルボキシフェノキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(3-カルボキシフェノキシ)フェニル)フルオレン、4,4’-ビス(4-カルボキシフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-カルボキシフェノキシ)ビフェニル、3,4’-ビス(4-カルボキシフェノキシ)ビフェニル、3,4’-ビス(3-カルボキシフェノキシ)ビフェニル、3,3’-ビス(4-カルボキシフェノキシ)ビフェニル、3,3’-ビス(3―カルボキシフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(4-カルボキシフェノキシ)-p-ターフェニル、4,4’-ビス(4-カルボキシフェノキシ)-m-ターフェニル、3,4’-ビス(4-カルボキシフェノキシ)-p-ターフェニル、3,3’-ビス(4-カルボキシフェノキシ)-p-ターフェニル、3,4’-ビス(4-カルボキシフェノキシ)-m-ターフェニル、3,3’-ビス(4-カルボキシフェノキシ)-m-ターフェニル、4,4’-ビス(3-カルボキシフェノキシ)-p-ターフェニル、4,4’-ビス(3-カルボキシフェノキシ)-m-ターフェニル、3,4’-ビス(3-カルボキシフェノキシ)-p-ターフェニル、3,3’-ビス(3-カルボキシフェノキシ)-p-ターフェニル、3,4’-ビス(3-カルボキシフェノキシ)-m-ターフェニル、3,3’-ビス(3-カルボキシフェノキシ)-m-ターフェニル、1,1-シクロブタンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、4,4’-ベンゾフェノンジカルボン酸、1,3-フェニレン二酢酸、1,4-フェニレン二酢酸等;及び
国際公開第2005/068535号パンフレットに記載の5-アミノイソフタル酸誘導体等が挙げられる。これらジカルボン酸をポリマーに実際に共重合させる場合には、塩化チオニル等から誘導される酸クロリド体、活性エステル体等の形で使用してもよい。
【0024】
本実施の形態におけるポリイミド前駆体の重量平均分子量(Mw)は、10,000~300,000が好ましく、30,000~200,000が特に好ましい。重量平均分子量が10,000より大きいと、伸度、破断強度等の機械的特性に優れ、残留応力が低く、YIが低くなる。重量平均分子量が300,000よりも小さいと、ポリアミド酸の合成時に重量平均分子量をコントロールし易くなり、適度な粘度の樹脂組成物を得ることができ、樹脂組成物の塗布性が良くなる。本開示において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCともいう)を用いて、標準ポリスチレン換算値として求められる値である。
本実施の形態におけるポリイミド前駆体は、分子量1,000未満の分子の含有量は、ポリイミド前駆体の全量に対して、5質量%未満であることが好ましく、1質量%未満であることが更に好ましい。このようなポリイミド前駆体を用いて得られる樹脂組成物から形成されるポリイミドフィルムは残留応力が低いものとなり、該ポリイミドフィルム上に形成した無機膜のHazeが低くなるとの観点から、好ましい。
ポリイミド前駆体の全量に対する分子量1,000未満の分子の含有量は、該ポリイミド前駆体を溶解した溶液を用いてGPC測定を行って得られるピーク面積から算出することができる。
【0025】
本実施の形態における一般式(1)で表される構造単位に用いられるジアミンとしては、下記一般式(6)で表されるジアミンを例示することができる。
【化50】
(式中、R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。nは0または1を表す。そしてaとbとcは0~4の整数である。)
、Rとしては、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基、トリフルオロメチル基などのハロゲン含有基、メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基、などが挙げられる。この中で、高温領域でのYIの観点から、メチル基が好ましい。
ここで、a、bは0~4の整数であれば限定されない。この中で、YI、残留応力の観点から0~2の整数が好ましく、高温領域でのYIの観点から、0が特に好ましい。
より具体的には、nが0の場合は、4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート(APAB)、2-メチル-4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート(ATAB)、4-アミノフェニル-3-アミノベンゾエート(4,3-APAB)などを例示することができる。
nが1の場合は、[4-(4-アミノベンゾイル)オキシフェニル]4-アミノベンゾエートなどを例示することができる。
本実施の形態における一般式(3)で表される構造単位に用いられるジアミンとしては、下記一般式(7)で表されるジアミンを例示することができる。
【化51】
(式中、R4、はそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。d、eは0~4の整数である。)
ここで、R4、はそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基であれば限定されない。このような有機基として、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基、トリフルオロメチル基などのハロゲン含有基、メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基、などが挙げられる。この中で、高温領域でのYIの観点から、メチル基が好ましい。
ここで、c、dは0~4の整数であれば限定されない。この中で、YI、残留応力の観点から0~2の整数が好ましく、高温領域でのYIの観点から、0が特に好ましい。
より具体的には、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホンを例示することができる。
本実施の形態における一般式(4)で表される構造単位に用いられるジアミンとしては、下記一般式(8)で表されるジアミンを例示することができる。
【化52】
ここで、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基であれば限定されない。このような有機基として、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;トリフルオロメチル基等のハロゲン含有基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;等が挙げられる。この中で、高温領域でのYIの観点から、メチル基が好ましい。
とRはそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基、水酸基、又はハロゲン原子であれば限定されない。上記の有機基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;トリフルオロメチル基等のハロゲン含有基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;等が挙げられる。ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
f、g、h、及びiはそれぞれ独立に0~4の整数であれば限定されない。この中で、YI、残留応力の観点から0~2の整数が好ましく、高温領域でのYIの観点から、0が特に好ましい。
Zは単結合、メチレン基、エチレン基、エーテル、ケトンなどが例示できる。この中で、高温領域でのYIの観点から、単結合がより好ましい。
より具体的には、9,9-ビス(アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン等を例示することができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することが好ましい。
【0026】
本実施の形態における一般式(5)で表される構造単位に用いられるジアミンとしては、下記一般式(9)で表されるジアミンを例示することができる。
【化53】
ここで、R10及びR11はそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基であれば限定されない。このような有機基として、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;トリフルオロメチル基等のハロゲン含有基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;等が挙げられる。この中で、高温領域でのYIの観点から、メチル基が好ましい。
また、j、kはそれぞれ独立に0~4の整数であれば限定されない。この中で、YI、残留応力の観点から0~2の整数が好ましく、高温領域でのYIの観点から、0が特に好ましい。
より具体的には、2、2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンなどを例示することができる。
本実施の第一の態様のポリイミド前駆体から形成されるポリイミドフィルムは、残留応力が低く、反りが少なく、高温領域での黄色度(YI値)が小さく、伸度が高い。
【0027】
本実施の第二の態様として、
(a2)下記一般式(10):
【化54】
で示される構造単位を有し、そして、重量平均分子量が30,000以上、300,000以下であるポリイミド前駆体を提供することができる。
{式中、Xは4,4’-オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、及びp-フェニレンビス(トリメリテート酸無水物)(TAHQ)、から選択される少なくとも1種に由来する4価の基を表す。R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。nは0または1を表す。そしてaとbとcは0~4の整数である。}
ここでXはODPA,BPDA、TAHQから選択される少なくとも1種に由来する4価の有機基であれば限定されないが、CTEおよびTgの観点から、BPDA、TAHQが好ましい。
ここで、R~Rはそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基であれば限定されない。このような有機基として、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基、トリフルオロメチル基などのハロゲン含有基、メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基、などが挙げられる。この中で、高温領域でのYIの観点から、メチル基が好ましい。
ここで、a、b、c、dは0~4の整数であれば限定されない。この中で、YI、残留応力の観点から0~2の整数が好ましく、高温領域でのYIの観点から、0が特に好ましい。
ここで、nは0または1である。この中で、高温領域でのYIの観点から、0が好ましい。
【0028】
前述の一般式(10)で表される構造のためのジアミンとしては、前述の一般式(6)で用いられるジアミンを用いることができる。
第二の態様におけるポリイミド前駆体の重量平均分子量(Mw)は、30,000~300,000である。重量平均分子量が30,000より大きいと、伸度、破断強度等の機械的特性に優れ、残留応力が低く、YIが低くなる。重量平均分子量が300,000よりも小さいと、ポリアミド酸の合成時に重量平均分子量をコントロールし易くなり、適度な粘度の樹脂組成物を得ることができ、樹脂組成物の塗布性が良くなる。この中で、重量平均分子量(Mw)は35000以上250000以下がより好ましく、40000以上230000以下が特に好ましい。
【0029】
本実施の第二の態様におけるポリイミド前駆体は、分子量1,000未満の分子の含有量は、ポリイミド前駆体の全量に対して、5質量%未満であることが好ましく、1質量%未満であることが更に好ましい。このようなポリイミド前駆体を用いて得られる樹脂組成物から形成されるポリイミドフィルムは残留応力が低いものとなり、該ポリイミドフィルム上に形成した無機膜のHazeが低くなるとの観点から、好ましい。
ポリイミド前駆体の全量に対する分子量1,000未満の分子の含有量は、該ポリイミド前駆体を溶解した溶液を用いてGPC測定を行って得られるピーク面積から算出することができる。
本実施の第二の態様のポリイミド前駆体は、保存安定性に優れ、塗工性に優れる。また、本実施の第二の態様のポリイミド前駆体から形成されるポリイミドフィルムは、残留応力が低く、反りが少なく、黄色度(YI値)が小さく、伸度が高く、破断強度が高い。
【0030】
第一の態様および第二の態様におけるポリイミド前駆体には、伸度、強度、応力、及び黄色度等を損なわない範囲で、前述した一般式(6)~(9)で表されるジアミン、の他に、他のジアミンを用いることができる。
その他のジアミンとしては、例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノビフェニル、3,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、4,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、1,4-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、9,10-ビス(4-アミノフェニル)アントラセン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,4-ビス(3-アミノプロピルジメチルシリル)ベンゼン、等を挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することが好ましい。
全ジアミン中の、上記その他ジアミンの含有量は、20モル%以下が好ましく、10モル%以下が特に好ましい。
【0031】
[ポリイミド前駆体の製造]
本発明のポリイミド前駆体(ポリアミド酸)は、テトラカルボン酸二無水物と、前述の一般式(1)で表される構造単位に用いられるジアミン(例えばAPAB)と、前述の一般式(2)で表される構造単位に用いられるジアミン(例えば4,4’-DAS)とを、重縮合反応させることにより、合成することができる。この反応は、適当な溶媒中で行うことが好ましい。具体的には、例えば、溶媒に所定量のAPABおよび4,4’-DASを溶解させた後、得られたジアミン溶液に、テトラカルボン酸二無水物を所定量添加し、撹拌する方法が挙げられる。
ジアミン成分中、一般式(1)で表される構造単位に用いられるジアミンと、一般式(2)で表される構造単位に用いられるジアミンとのモル比は99/1~1/99であれば限定されない。ジアミン成分中、一般式(2)で表される構造単位に用いられるジアミンが1モル%以上であれば、黄色度が良好な傾向にあり、一般式(1)で表される構造単位に用いられるジアミンが1モル%以上であれば、得られるポリイミドフィルム上に無機膜を形成した後の反りが良好な傾向にある。一般式(1)で表される構造単位に用いられるジアミンと、一般式(2)で表される構造単位に用いられるジアミンとのモル比は95/5~50/50が好ましく、90/10~50/50がより好ましい。一般式(1)で表される構造単位に用いられるジアミンと、一般式(2)で表される構造単位に用いられるジアミンとのモル比は、80/20~50/50でもよく、70/30~50/50でもよい。一般式(1)で表される構造単位に用いられるジアミンのモル比を一般式(2)で表される構造単位に用いられるジアミンとのモル比以上にすることが好ましい。
また、本実施の第二の態様のポリイミド前駆体は、テトラカルボン酸二無水物(例えばTAHQ)と、前述の一般式(6)で表される構造単位に用いられるジアミン(例えばAPAB)とを、重縮合反応させることにより、合成することができる。この反応は、適当な溶媒中で行うことが好ましい。具体的には、例えば、溶媒に所定量のAPABを溶解させた後、得られたジアミン溶液に、TAHQを所定量添加し、撹拌する方法が挙げられる。
【0032】
前記ポリイミド前駆体を合成する時の、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分の比(モル比)は、得られる樹脂フィルムの熱線膨張率、残留応力、伸度、及び黄色度(以下、YIともいう)を所望の範囲にコントロールするとの観点から、テトラカルボン酸二無水物:ジアミン=100:90~100:110(テトラカルボン酸二無水物1モル部に対してジアミン0.90~1.10モル部)の範囲とすることが好ましく、100:95~100:105(酸二無水物1モル部に対してジアミン0.95~1.05モル部)の範囲とすることが更に好ましい。
本実施の態様において、好ましいポリイミド前駆体であるポリアミド酸を合成する際には、分子量を、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分との比の調整、及び末端封止剤の添加によってコントロールすることが可能である。酸二無水物成分とジアミン成分との比が1:1に近いほど、及び末端封止剤の使用量が少ないほど、ポリアミド酸の分子量を大きくすることができる。
テトラカルボン酸二無水物成分及びジアミン成分として、高純度品を使用することが推奨される。その純度としては、それぞれ、98質量%以上とすることが好ましく、99質量%以上とすることがより好ましく、99.5質量%以上とすることが更に好ましい。複数種類の酸二無水物成分又はジアミン成分を併用する場合には、酸二無水物成分又はジアミン成分の全体として上記の純度を有していれば足りるが、使用する全種類の酸二無水物成分及びジアミン成分が、それぞれ上記の純度を有していることが好ましい。
【0033】
反応の溶媒としては、テトラカルボン酸二無水物成分及びジアミン成分、並びに生じたポリアミド酸を溶解することができ、高分子量の重合体が得られる溶媒であれば特に制限はされない。このような溶媒の具体例としては、例えば、非プロトン性溶媒、フェノ-ル系溶媒、エーテル及びグリコ-ル系溶媒等が挙げられる。これらの具体例としては、
前記非プロトン性溶媒として、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N-メチルカプロラクタム、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、テトラメチル尿素、下記一般式(13):
【化55】
式中、R12=メチル基で表されるエクアミドM100(商品名:出光興産社製)、及び、R12=n-ブチル基で表されるエクアミドB100(商品名:出光興産社製)等のアミド系溶媒;
γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等のラクトン系溶媒;
ヘキサメチルホスホリックアミド、ヘキサメチルホスフィントリアミド等の含りん系アミド系溶媒;
ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶媒;
シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン系溶媒;
ピコリン、ピリジン等の3級アミン系溶媒;
酢酸(2-メトキシ-1-メチルエチル)等のエステル系溶媒
等が:
前記フェノ-ル系溶媒として、例えば、フェノ-ル、o-クレゾ-ル、m-クレゾ-ル、p-クレゾ-ル、2,3-キシレノ-ル、2,4-キシレノ-ル、2,5-キシレノ-ル、2,6-キシレノ-ル、3,4-キシレノ-ル、3,5-キシレノ-ル等が:
前記エ-テル及びグリコ-ル系溶媒として、例えば、1,2-ジメトキシエタン、ビス(2-メトキシエチル)エ-テル、1,2-ビス(2-メトキシエトキシ)エタン、ビス[2- (2-メトキシエトキシ)エチル]エ-テル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等が、
それぞれ挙げられる。
【0034】
ポリアミド酸の合成に用いられる溶媒の常圧における沸点は、60~300℃が好ましく、140~280℃がより好ましく、170~270℃が特に好ましい。溶媒の沸点が300℃より高いと、乾燥工程が長時間必要となる。一方で溶媒の沸点が60℃より低いと、乾燥工程中に、樹脂膜の表面における荒れの発生、樹脂膜中への気泡の混入等が起こり、均一なフィルムが得られない場合がある。
このように、好ましくは沸点が170~270℃であり、より好ましくは20℃における蒸気圧が250Pa以下である溶媒を使用することが、溶解性及び塗工時エッジはじきの観点から好ましい。より具体的には、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、前記一般式(11)で表される化合物から成る群より選択される1種以上を使用することが好ましい。
溶媒中の水分含量は、3000質量ppm以下が好ましい。
これらの溶媒は、単独で又は2種類以上混合して用いてもよい。
【0035】
本実施の態様における(a)ポリイミド前駆体は、分子量1,000未満の分子の含有量が5質量%未満であることが好ましい。
(a)ポリイミド前駆体中に、この分子量1,000未満の分子が存在するのは、合成時に使用する溶媒の水分量が関与しているためと考えられる。すなわち、一部の酸二無水物モノマーの酸無水物基が水分によって加水分解してカルボキシル基になり、高分子量化することなく低分子の状態で残存することによると考えられる。従って、上記の重合反応に使用する溶媒の水分量は、可及的に少ない方がよい。この溶媒の水分量は、3,000質量ppm以下とすることが好ましく、1,000質量ppm以下とすることがより好ましい。
【0036】
溶媒の水分量は、使用する溶媒のグレード(脱水グレード、汎用グレード等)、溶媒容器(ビン、18L缶、キャニスター缶等)、溶媒の保管状態(希ガス封入の有無等)、開封から使用までの時間(開封後すぐ使用するか、開封後経時した後に使用するか等)等が関与すると考えられる。また、合成前の反応器の希ガス置換、合成中の希ガス流通の有無等も関与すると考えられる。従って、(a)ポリイミド前駆体の合成時には、原料として高純度品を用い、水分量の少ない溶媒を用いるとともに、反応前および反応中に系内に環境からの水分が混入しないような措置を講ずることが推奨される。
【0037】
溶媒中に各モノマー成分を溶解させるときには、必要に応じて加熱してもよい。
(a)ポリイミド前駆体合成時の反応温度は、0℃~120℃とすることが好ましく、より好ましくは40℃~100℃であり、更に好ましくは60~100℃である。この温度で重合反応を行うことにより、重合度の高いポリイミド前駆体が得られる。重合時間は、1~100時間とすることが好ましく、2~10時間とすることがより好ましい。重合時間を1時間以上とすることによって均一な重合度のポリイミド前駆体となり、100時間以下とすることによって重合度の高いポリイミド前駆体を得ることができる。
【0038】
本実施の形態の好ましい態様において、(a1)ポリイミド前駆体および(a2)ポリイミド前駆体は以下の特性を有する。
(a)ポリイミド前駆体を溶媒(例えばN-メチル-2-ピロリドン)に溶解して得られる溶液を支持体の表面に塗布した後、該溶液を窒素雰囲気下(例えば酸素濃度2,000ppm以下の窒素中)、300~550℃(例えば430℃)で加熱(例えば1時間)することによって該ポリイミド前駆体をイミド化して得られる樹脂において、10μm膜厚における黄色度が30以下である。
(a)ポリイミド前駆体を溶媒(例えばN-メチル-2-ピロリドン)に溶解して得られる溶液を支持体の表面に塗布した後、該溶液を窒素雰囲気下(例えば酸素濃度2,000ppm以下の窒素中)、300~550℃(例えば430℃)で加熱(例えば1時間)することによって該ポリイミド前駆体をイミド化して得られる樹脂において、残留応力が25MPa以下である。
【0039】
本実施の形態にかかるポリイミド前駆体は、必要に応じて、本発明の所望の性能を損なわない範囲で、下記一般式(14):
【化56】
{一般式(14)中、複数存在するR13は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~20の一価の脂肪族炭化水素、又は一価の芳香族基であり、
は炭素数4~32の四価の有機基であり、
Yは炭素数4~32の二価の有機基である。ただし、
前記一般式(1)および前記一般式(6)に相当する構造単位を除く。}で表される構造を有するポリイミド前駆体を更に含有してもよい。
【0040】
一般式(14)において、R13は、好ましくは水素原子である。またXは、耐熱性、YI値の低減、及び全光線透過率の観点から、好ましくは四価の芳香族基である。またYは、耐熱性、YI値の低減、及び全光線透過率の観点から、好ましくは二価の芳香族基又は脂環式基である。
【0041】
本実施の形態にかかる(a)ポリイミド前駆体における一般式(14)で表される構造単位を有するポリイミド前駆体の質量割合は、(a)ポリイミド前駆体の全部に対して、80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることが、YI値及び全光線透過率の酸素依存性の低下の観点から、より好ましい。
【0042】
本実施の形態の好ましい態様において、(a1)ポリイミド前駆体および(a2)ポリイミド前駆体は、その一部がイミド化されていてもよい。この場合のイミド化率は、80%以下とすることが好ましく、50%以下とすることがより好ましい。この部分イミド化は、上記の(a)ポリイミド前駆体を加熱して脱水閉環することにより得られる。この加熱は、好ましくは120~200℃であり、より好ましくは150~180℃の温度において、好ましくは15分~20時間であり、より好ましくは30分~10時間行うことができる。
また、上述の反応によって得られたポリアミド酸に、N,N-ジメチルホルムアミドジメチルアセタール又はN,N-ジメチルホルムアミドジエチルアセタールを加えて加熱し、カルボン酸の一部又は全部をエステル化したうえで、本実施の形態における(a)ポリイミド前駆体として用いることにより、室温保管時の粘度安定性が向上された樹脂組成物を得ることもできる。これらエステル変性ポリアミド酸は、他に、上述の酸二無水物成分を、酸無水物基に対して1当量の1価のアルコール、及び塩化チオニル、ジシクロヘキシルカルボジイミド等の脱水縮合剤と順次に反応させた後、ジアミン成分と縮合反応させる方法によっても得ることができる。
【0043】
本実施形態の樹脂組成物における(a)ポリイミド前駆体(好ましくはポリアミド酸)の割合は、塗膜形成性の観点から3~50質量%が好ましく、5~40質量%が更に好ましく、10~30質量%が特に好ましい。
【0044】
<樹脂組成物>
本発明の別の態様は、前述した(a)ポリイミド前駆体及び(b)有機溶剤を含有する樹脂組成物を提供する。この樹脂組成物は、典型的にはワニスである。
【0045】
[(b)有機溶剤]
本実施の形態における(b)有機溶剤は、前述した(a)ポリイミド前駆体及び任意的に使用されるその他の成分を溶解できるものであれば特に制限はない。このような(b)有機溶剤としては、(a)ポリイミド前駆体の合成時に用いることのできる溶媒として上述したものを用いることができる。好ましい有機溶媒も、上記と同様である。本実施の形態の樹脂組成物における(b)有機溶剤は、(a)ポリイミド前駆体の合成に用いられる溶媒と同一でも異なってもよい。
(b)有機溶媒は、樹脂組成物の固形分濃度が3~50質量%となる量とすることが好ましい。また、樹脂組成物の粘度(25℃)が、500mPa・s~100,000mPa・sとなるように、(b)有機溶媒の構成及び量を調整したうえで、加えることが好ましい。
【0046】
[その他の成分]
本実施の形態の樹脂組成物は、上記(a)及び(b)成分の他に、(c)界面活性剤、(d)アルコキシシラン化合物等を、更に含有していてもよい。
本実施態様に係る樹脂組成物は、(a)ポリイミド前駆体と、(b)有機溶剤と、(c)界面活性剤および(d)アルコキシシラン化合物からなる群から選択される少なくとも1種と、を含む。
ポリイミド前駆体の骨格は、第一の態様および第二の態様で上述した骨格に限定しない。すなわち、ポリイミド前駆体の骨格は以下の一般式(1)で表される骨格であれば特に限定は無い。
【化57】
{式中、Xは炭素数4~32の4価の基を表す。R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。nは0または1を表す。そしてaとbとcは0~4の整数である。}
【0047】
((c)界面活性剤)
本実施の形態の樹脂組成物に、界面活性剤を添加することによって、該樹脂組成物の塗布性を向上することができる。具体的には、塗工膜におけるスジの発生を防ぐことができる。
このような界面活性剤は、例えば、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、これら以外の非イオン界面活性剤等を挙げることができる。これらの例としては、
シリコーン系界面活性剤として、例えば、オルガノシロキサンポリマーKF-640、642、643、KP341、X-70-092、X-70-093、(以上、商品名、信越化学工業社製)、SH-28PA、SH-190、SH-193、SZ-6032、SF-8428、DC-57、DC-190(以上、商品名、東レ・ダウコーニング・シリコーン社製)、SILWET L-77,L-7001,FZ-2105,FZ-2120,FZ-2154,FZ-2164,FZ-2166,L-7604(以上、商品名、日本ユニカー社製)、DBE-814、DBE-224、DBE-621、CMS-626、CMS-222、KF-352A、KF-354L、KF-355A、KF-6020、DBE-821、DBE-712(Gelest)、BYK-307、BYK-310、BYK-378、BYK-333(以上、商品名、ビックケミー・ジャパン製)、グラノール(商品名、共栄社化学社製)等が;
フッ素系界面活性剤として、例えば、メガファックF171、F173、R-08(大日本インキ化学工業株式会社製、商品名)、フロラードFC4430、FC4432(住友スリーエム株式会社、商品名)等が;
これら以外の非イオン界面活性剤として、例えば、ポリオキシエチレンウラリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェノールエーテル等が、それぞれ挙げられる。
【0048】
これらの界面活性剤の中でも、樹脂組成物の塗工性(スジ抑制)の観点から、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤が好ましく、キュア工程時の酸素濃度によるYI値及び全光線透過率への影響の観点から、シリコーン系界面活性剤が好ましい。
(c)界面活性剤を用いる場合、その配合量は、樹脂組成物中の(a)ポリイミド前駆体100質量部に対して、0.001~5質量部が好ましく、0.01~3質量部がより好ましい。
【0049】
(d)アルコキシシラン化合物
本実施の形態にかかる樹脂組成物から得られる樹脂フィルムを、フレキシブルデバイス等の製造プロセスにおいて支持体との間に十分な密着性を示すものとするために、該樹脂組成物は、(a)ポリイミド前駆体100質量%に対して、アルコキシシラン化合物を0.01~20質量%を含有することができる。ポリイミド前駆体100質量%に対するアルコキシシラン化合物の含有量が0.01質量%以上であることにより、支持体との間に良好な密着性を得ることができる。またアルコキシシラン化合物の含有量が20質量%以下であることが、樹脂組成物の保存安定性の観点から好ましい。アルコキシシラン化合物の含有量は、ポリイミド前駆体100質量部に対して、0.02~15質量%であることがより好ましく、0.05~10質量%であることが更に好ましく、0.1~8質量%であることが特に好ましい。
本実施の形態にかかる樹脂組成物の添加剤としてアルコキシシラン化合物を用いることにより、上記の密着性の向上に加えて、更に樹脂組成物の塗工性(スジムラ抑制)を向上するとともに、得られる硬化膜のYI値のキュア時酸素濃度依存性を低下させることができる。
【0050】
アルコキシシラン化合物としては、例えば、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、ビス(2-ヒドロキシエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリプロポキシシラン、γ-アミノプロピルトリブトキシシラン、γ-アミノエチルトリエトキシシラン、γ-アミノエチルトリプロポキシシラン、γ-アミノエチルトリブトキシシラン、γ-アミノブチルトリエトキシシラン、γ-アミノブチルトリメトキシシラン、γ-アミノブチルトリプロポキシシラン、γ-アミノブチルトリブトキシシラン、フェニルシラントリオール、トリメトキシフェニルシラン、トリメトキシ(p-トリル)シラン、ジフェニルシランジオール、ジメトキシジフェニルシラン、ジエトキシジフェニルシラン、ジメトキシジ-p-トリルシラン、トリフェニルシラノール及び下記構造のそれぞれで表されるアルコキシシラン化合物等を挙げることができ、これらから選択される1種以上を使用することが好ましい。
【0051】
【化58】
【0052】
本実施の形態における樹脂組成物の製造方法は、特に限定されるものではない。例えば、以下の方法によることができる。
(a)ポリイミド前駆体を合成した際に用いた溶媒と、(b)有機溶剤とが同一の場合には、合成したポリイミド前駆体溶液をそのまま樹脂組成物とすることができる。また、必要に応じて、室温(25℃)~80℃の温度範囲で、ポリイミド前駆体に(b)有機溶剤及びその他の成分の1種以上を添加して、攪拌混合したうえで、樹脂組成物として用いてもよい。この攪拌混合は、撹拌翼を備えたスリーワンモータ(新東化学株式会社製)、自転公転ミキサー等の適宜の装置を用いることができる。また必要に応じて40~100℃の熱を加えてもよい。
【0053】
一方、(a)ポリイミド前駆体を合成した際に用いた溶媒と、(b)有機溶剤とが異なる場合には、合成したポリイミド前駆体溶液中の溶媒を、例えば再沈殿、溶媒留去等の適宜の方法により除去して(a)ポリイミド前駆体を単離した後に、室温~80℃の温度範囲で、(b)有機溶剤及び必要に応じてその他の成分を添加して、攪拌混合することにより、樹脂組成物を調製してもよい。
【0054】
上述のように樹脂組成物を調製した後、該組成物溶液を例えば130~200℃において例えば5分~2時間加熱することにより、ポリマーが析出を起こさない程度にポリイミド前駆体の一部を脱水イミド化してもよい。ここで、加熱温度及び加熱時間をコントロールすることにより、イミド化率を制御することができる。ポリイミド前駆体を部分イミド化することにより、樹脂組成物の室温保管時の粘度安定性を向上することができる。イミド化率の範囲としては、5%~70%とすることが、樹脂組成物溶液へのポリイミド前駆体の溶解性と溶液の保存安定性とのバランスをとる観点から好ましい。
【0055】
本実施の形態にかかる樹脂組成物は、その水分量が3,000質量ppm以下であることが好ましい。
樹脂組成物の水分量は、該樹脂組成物を保存する時の粘度安定性の観点から、1,000質量ppm以下であることがより好ましく、500質量ppm以下であることが更に好ましい。
【0056】
本実施の形態にかかる樹脂組成物の溶液粘度は、25℃において、500~200,000mPa・sが好ましく、2,000~100,000mPa・sがより好ましく、3,000~30,000mPa・sが特に好ましい。この溶液粘度は、E型粘度計(東機産業株式会社製、VISCONICEHD)を用いて測定できる。溶液粘度が300mPa・sより低いと膜形成の際の塗布がし難く、200,000mPa・sより高いと合成の際の撹拌が困難になるという問題が生じるおそれがある。
(a)ポリイミド前駆体を合成する際に、溶液が高粘度になったとしても、反応終了後に溶媒を添加して撹拌することにより、取扱い性のよい粘度の樹脂組成物を得ることが可能である。
【0057】
本実施の形態の樹脂組成物は、好ましい態様において以下の特性を有する。
樹脂組成物を支持体の表面に塗布して塗膜を形成した後、該塗膜を、窒素雰囲気下(例えば酸素濃度2,000ppm以下の窒素中)、300℃~550℃において加熱することによって、前記塗膜に含まれるポリイミド前駆体をイミド化して得られる樹脂フィルムは、10μm膜厚における黄色度YIが30以下である。
【0058】
樹脂組成物を支持体の表面に塗布して塗膜を形成した後、該塗膜を、窒素雰囲気下(例えば酸素濃度2,000ppm以下の窒素中)、300℃~550℃において加熱することによって、前記塗膜に含まれるポリイミド前駆体をイミド化して得られる樹脂フィルムは、残留応力が25MPa以下である。
【0059】
本実施の形態にかかる樹脂組成物は、例えば、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、電子ペーパー等の表示装置の透明基板を形成するために好適に用いることができる。具体的には、薄膜トランジスタ(TFT)の基板、カラーフィルタの基板、透明導電膜(ITO、IndiumThinOxide)の基板等を形成するために用いることができる。
本実施形態の樹脂前駆体は、残留応力が25MPa以下であるようなポリイミドフィルムを形成し得るため、無色透明ポリイミド基板上にTFT素子装置を備えたディスプレイ製造工程に適用し易い。
【0060】
<樹脂フィルム>
本発明の別の態様は、前述の樹脂前駆体から形成された樹脂フィルムを提供する。
また、本発明の更に別の態様は、前述の樹脂組成物から樹脂フィルムを製造する方法を提供する。
本実施の形態における樹脂フィルムは、
支持体の表面上に前述の樹脂組成物を塗布することにより塗膜を形成する工程(塗布工程)と、
前記支持体及び前記塗膜を加熱することにより、該塗膜に含まれるポリイミド前駆体をイミド化してポリイミド樹脂膜を形成する工程(加熱工程)と、
前記ポリイミド樹脂膜を該支持体から剥離する工程(剥離工程)と、
を含むことを特徴とする。
【0061】
ここで、支持体は、その後の工程の加熱温度における耐熱性を有し、剥離性が良好であれば、特に限定されない。例えば、ガラス(例えば、無アルカリガラス)基板;
シリコンウェハー;
PET(ポリエチレンテレフタレート)、OPP(延伸ポリプロピレン)、ポリエチレングリコールテレフタレート、ポリエチレングリコールナフタレート、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリフェニレンスルフィド等の樹脂基板;
ステンレス、アルミナ、銅、ニッケル等の金属基板
等が用いられる。
【0062】
膜状のポリイミド成形体を形成する場合には、例えば、ガラス基板、シリコンウェハー等が好ましく、フィルム状又はシート状のポリイミド成形体を形成する場合には、例えば、PET(ポリエチレンテレフタラート)、OPP(延伸ポリプロピレン)等からなる支持体が好ましい。
【0063】
塗布方法としては、例えば、ドクターブレードナイフコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、ロータリーコーター、フローコーター、ダイコーター、バーコーター等の塗布方法、スピンコート、スプレイコート、ディップコート等の塗布方法;スクリーン印刷及びグラビア印刷等に代表される印刷技術等を適用することができる。
塗布厚は、所望の樹脂フィルムの厚さと樹脂組成物中のポリイミド前駆体の含有量に応じて適宜調整されるべきものであるが、好ましくは1~1,000μm程度である。塗布工程は、室温における実施で足りるが、粘度を下げて作業性をよくする目的で、樹脂組成物を40~80℃の範囲で加温して実施してもよい。
【0064】
塗布工程に続き、乾燥工程を行ってもよいし、乾燥工程を省略して直接次の加熱工程に進んでもよい。この乾燥工程は、有機溶剤除去の目的で行われる。乾燥工程を行う場合、例えば、ホットプレート、箱型乾燥機、コンベヤー型乾燥機等の適宜の装置を利用することができる。乾燥工程は、80~200℃で行うことが好ましく、100~150℃で行うことがより好ましい。乾燥工程の実施時間は、1分~10時間とすることが好ましく、3分~1時間とすることがより好ましい。
【0065】
上記のようにして、支持体上にポリイミド前駆体を含有する塗膜が形成される。
続いて、加熱工程を行う。加熱工程は、上記の乾燥工程で塗膜中に残留した有機溶剤の除去を行うとともに、塗膜中のポリイミド前駆体のイミド化反応を進行させ、ポリイミドから成る膜を得る工程である。
この加熱工程は、例えば、イナートガスオーブン、ホットプレート、箱型乾燥機、コンベヤー型乾燥機等の装置を用いて行うことができる。この工程は前記乾燥工程と同時に行っても、両工程を逐次的に行ってもよい。
【0066】
加熱工程は、空気雰囲気下で行ってもよいが、安全性と、得られるポリイミドフィルムの透明性及びYI値と、の観点から、不活性ガス雰囲気下で行うことが推奨される。不活性ガスとしては、例えば、窒素、アルゴン等が挙げられる。
加熱温度は、(b)有機溶剤の種類に応じて適宜に設定されてよいが、250℃~550℃が好ましく、300~450℃がより好ましい。250℃以上であればイミド化が十分となり、550℃以下であれば得られるポリイミドフィルムの透明性の低下、耐熱性の悪化等の不都合がない。加熱時間は、0.5~3時間程度とすることが好ましい。
本実施の形態では、上記の加熱工程における周囲雰囲気の酸素濃度は、得られるポリイミドフィルムの透明性及びYI値の観点から、2,000質量ppm以下が好ましく、100質量ppm以下がより好ましく、10質量ppm以下が更に好ましい。酸素濃度が2,000質量ppm以下の雰囲気中で加熱を行うことにより、得られるポリイミドフィルムのYI値を30以下にすることができる。
【0067】
ポリイミド樹脂膜の使用用途・目的によっては、上記加熱工程の後、支持体から樹脂膜を剥離する剥離工程が必要となる。この剥離工程は、支持体上の樹脂膜を、室温~50℃程度まで冷却した後に、実施することが好ましい。
この剥離工程としては、例えば下記の(1)~(4)の態様が挙げられる。
【0068】
(1)前記方法により、ポリイミド樹脂膜/支持体を含む構成体を作製した後、該構造体の支持体側からレーザーを照射して、支持体とポリイミド樹脂膜との界面をアブレーション加工することにより、ポリイミド樹脂を剥離する方法。レーザーの種類としては、固体(YAG)レーザー、ガス(UVエキシマー)レーザー等が挙げられる。波長308nm等のスペクトルを用いることが好ましい(特表2007-512568公報、特表2012‐511173公報等を参照)。
(2)支持体に樹脂組成物を塗工する前に、支持体に剥離層を形成し、その後ポリイミド樹脂膜/剥離層/支持体を含む構成体を得て、ポリイミド樹脂膜を剥離する方法。剥離層としては、パリレン(登録商標、日本パリレン合同会社製)、酸化タングステンを用いる方法;植物油系、シリコーン系、フッ素系、アルキッド系等の離型剤を用いる方法等が挙げられる。(特開2010-67957公報、特開2013-179306公報等を参照)。
この方法(2)と前記(1)のレーザー照射とを併用してもよい。
【0069】
(3)支持体としてエッチング可能な金属基板を用いて、ポリイミド樹脂膜/支持体を含む構成体を得た後、エッチャントで金属をエッチングすることにより、ポリイミド樹脂フィルムを得る方法。金属としては、例えば、銅(具体例としては、三井金属鉱業株式会社製の電解銅箔「DFF」)、アルミニウム等を使用することができる。エッチャントとしては、銅に対しては塩化第二鉄等を、アルミニウムに対しては希塩酸等を使用することができる。
(4)前記方法により、ポリイミド樹脂膜/支持体を含む構成体を得た後、ポリイミド樹脂膜表面に粘着フィルムを貼り付けて、支持体から粘着フィルム/ポリイミド樹脂膜を分離し、その後粘着フィルムからポリイミド樹脂膜を分離する方法。
【0070】
これらの剥離方法の中でも、得られるポリイミド樹脂フィルムの表裏の屈折率差、YI値、及び伸度の観点から、方法(1)又は(2)が適切であり、得られるポリイミド樹脂フィルムの表裏の屈折率差の観点から方法(1)がより適切である。
なお、方法(3)において、支持体として銅を用いた場合は、得られるポリイミド樹脂フィルムのYI値が大きくなり、伸度が小さくなる傾向が見られる。これは、銅イオンの影響であると考えられる。
【0071】
上記の方法によって得られる樹脂フィルムの厚さは、特に限定されないが、1~200μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは5~100μmである。
【0072】
本実施の形態にかかる樹脂フィルムは、10μm膜厚における黄色度YIが30以下であることができる。また、残留応力が25MPa以下であることができる。特に、10μm膜厚における黄色度YIが30以下であり、かつ、残留応力が25MPa以下であることができる。このような特性は、例えば、本開示の樹脂前駆体を、窒素雰囲気下(例えば酸素濃度2,000ppm以下の窒素中)、好ましくは300℃~550℃、より好ましくは350℃~450℃においてイミド化することにより、良好に実現される。
本実施の形態にかかる樹脂フィルムは、更に、引張伸度が15%以上であることができる。樹脂フィルムの引張伸度は、更に20%以上であることができ、特には30%以上であることができる。この引張伸度は、10μm膜厚の樹脂フィルムを試料として、市販の引張試験機を用いて測定することができる。
【0073】
本実施の形態にかかる樹脂フィルムは、前述の樹脂組成物に含有されていた(a1)ポリイミド前駆体が熱イミド化されたポリイミドから成るフィルムである。従って、下記一般式(11):
【化59】
{式中、X1、は炭素数4~32の4価の基を表す。R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。nは0または1を表す。そしてaとbとcは0~4の整数である。Yは前記一般式(3)、(4)および(5)からなる群から選択される少なくとも1種である。l、mはそれぞれ独立に1以上の整数を表し、0.01≦l/(l+m)≦0.99を満たす。}で表される構造単位を有する。
l/(l+m)の下限は、0.05でもよく、0.10でもよく、0.20でもよく、0.30でもよく、0.40でもよい。
l/(l+m)の上限は、0.95でもよく、0.90でもよく、0.80でもよく、0.70でもよく、0.60でもよい。
前述のように、好ましくは、残留応力が25MPa以下であり、YIが30以下であり、ガラス転移温度が400℃以上であり、伸度が15%以上であり、そして破断強度が250MPa以上である。
【0074】
また、第二の態様としては、前述の樹脂組成物に含有されていた(a2)ポリイミド前駆体が熱イミド化されたポリイミドから成るフィルムである。従って、下記一般式(12):
【化60】
{式中、Xは4,4’-オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、及びp-フェニレンビス(トリメリテート酸無水物)(TAHQ)、から選択される少なくとも1種に由来する4価の基を表す。R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。nは0または1を表す。そしてaとbとcは0~4の整数である。}で表される構造単位を有し、伸度が15%以上である、樹脂フィルムであり、好ましくは残留応力が25MPa以下であり、YIが30以下であり、ガラス転移温度が400℃以上であり、そして破断強度が250MPa以上である。
【0075】
<積層体>
本発明の別の態様は、支持体と、該支持体の表面上に前述の樹脂組成物から形成されたポリイミド樹脂膜とを含む、積層体を提供する。
また本発明の更に別の態様は、上記積層体の製造方法を提供する。
本実施の形態における積層体は、
支持体の表面上に、前述の樹脂組成物を塗布することにより塗膜を形成する工程(塗布工程)と、
前記支持体及び前記塗膜を加熱することにより、該塗膜に含まれるポリイミド前駆体をイミド化してポリイミド樹脂膜を形成する工程(加熱工程)と、
を含む、積層体の製造方法によって得ることができる。
上記の積層体の製造方法は、例えば、剥離工程を行わないことの他は、前述の樹脂フィルムの製造方法と同様にして実施することができる。
【0076】
この積層体は、例えば、フレキシブルデバイスの製造に好適に用いることができる。
更に詳細に説明すると、以下のとおりである。
フレキシブルディスプレイを形成する場合、ガラス基板を支持体として用いて、その上にフレキシブル基板を形成し、更にその上にTFT等の形成を行う。フレキシブル基板上にTFT等を形成する工程は、典型的には、150~650℃の広い範囲の温度で実施される。しかし、現実に所望される性能を具現するためには、250℃~450℃付近の高温において、無機物材料を用いて、TFT-IGZO(InGaZnO)酸化物半導体又はTFT(a-Si-TFT、poly-Si-TFT)を形成することを要する。
一方で、これら熱履歴により、ポリイミドフィルムの諸物性(特に黄色度や伸度)は低下する傾向にあり、400℃を超えると特に、黄色度や伸度は低下する。ところが、本発明に係るポリイミド前駆体から得られるポリイミドフィルムは、400℃以上の高温領域でも、黄色度や伸度の低下が極めて少なく、当該領域で良好に用いることができる。
【0077】
更に、本実施の形態では、下記一般式(13)で表されるポリイミドを含むポリイミドフィルム層と、LTPS(低温ポリシリコンTFT)層と、を含む積層体を提供することができる。
【化61】
{式中、Xは炭素数4~32の4価の基を表す。R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基を表す。nは0または1を表す。そしてaとbとcは0~4の整数である。}
当該積層体の製造方法としては前述の支持体と、該支持体の表面上に前述の樹脂組成物から形成されたポリイミド樹脂膜とを含む、積層体を製造した後に、アモルファスSi層を形成し、400~450℃で0.5~3時間程度脱水素アニールを行った後に、エキシマレーザー等で結晶化することによりLTPS層を形成することができる。その後、レーザー剥離などでガラスとポリイミドフィルムを剥離することによって、上記積層体を得ることができる。
【0078】
一般式(13)で表されるポリイミドを含むポリイミドフィルム層と、LTPS(低温ポリシリコンTFT)層と、を含む積層体は、ヒートサイクル試験後の剥がれや膨れが少なく、基板反りが少ない。
また、フレキシブル基板とポリイミド樹脂膜とに生じる残留応力が高ければ、両者から成る積層体が高温のTFT工程において膨張した後、常温冷却時に収縮する際、ガラス基板の反り及び破損、フレキシブル基板のガラス基板からの剥離等の問題が生じ得る。一般的に、ガラス基板の熱膨張係数は樹脂に比較して小さいため、該ガラス基板とフレキシブル基板との間に残留応力が発生する。本実施形態にかかる樹脂フィルムは、上述のとおり、ガラス基板との間に生じる残留応力を25MPa以下とすることができるため、フレキシブルディスプレイの形成に好適に使用することができる。
【0079】
更に、本実施の形態にかかるポリイミドフィルムは、10μm膜厚における黄色度YIを30以下とすることができ、引張伸度を15%以上とすることができる。このことにより、本実施の形態にかかる樹脂フィルムは、フレキシブル基板を取り扱う際の破断強度に優れ、従ってフレキシブルディスプレイを製造する時の歩留まりを向上させることができる。
【0080】
また、別の態様として、400℃以上で加熱した後の膜厚10ミクロンにおける黄色度が20以下であり、膜厚0.1ミクロンの時の308nmの吸光度が0.6以上2.0以下であり、そして伸度が15%以上である、ポリイミドフィルムを提供することができる。
YIを20以下とすることにより、ディスプレイとした時の画質を落とさずに、フレキシブル基板を作製することができる。
より好ましくは18以下であり、特に16以下であることが好ましい。
膜厚0.1ミクロンの時の308nmの吸光度が0.6以上2.0以下かつ伸度15%以上とすることにより、例えばガラス基板からポリイミドフィルムをレーザーで容易に剥がすことができる。レーザー剥離後のアッシュを抑える観点から、0.6以上1.5以下かつ伸度20%以上が好ましく、例えば有機EL素子の性能を落とさない観点から、0.6以上1.0以下かつ伸度20%以上が特に好ましい。
伸度の上限は特にないが、80%以下でもよく、70%以下でもよく、60%以下でもよく、50%以下でもよく、40%以下でもよい。
尚、レーザー剥離時にレーザー光でポリイミドフィルムが燃えてしまうことがあり、その燃え残りがアッシュである。
【0081】
従って、本発明の別の態様は、ディスプレイ基板を提供する。
また本発明の更に別の態様は、上記ディスプレイ基板を製造する方法を提供する。
本実施の形態におけるディスプレイ基板の製造方法は、
支持体の表面上に前述の樹脂組成物を塗布することにより塗膜を形成する工程(塗布工程)と、
前記支持体及び前記塗膜を加熱することにより、該塗膜に含まれるポリイミド前駆体をイミド化してポリイミド樹脂膜を形成する工程(加熱工程)と、
前記ポリイミド樹脂膜上に素子又は回路を形成する工程(素子・回路形成工程)と、
前記素子又は回路が形成されたポリイミド樹脂膜を前記支持体から剥離する工程(剥離工程)と
を含むことを特徴とする。
【0082】
上記方法において、塗布工程、加熱工程、及び剥離工程は、それぞれ、上述した樹脂フィルムの製造方法と同様にして行うことができる。
素子・回路形成工程は、当業者に公知の方法によって実施することができる。
【0083】
上記物性を満たす本実施の形態にかかる樹脂フィルムは、既存のポリイミドフィルムが有する黄色により使用が制限された用途、特にフレキシブルディスプレイ用無色透明基板、カラーフィルタ用保護膜等の用途に好適に使用される。更には、例えば、保護膜、TFT-LCD等における散光シート及び塗膜(例えば、TFT-LCDのインターレイヤー、ゲイト絶縁膜、液晶配向膜等)、タッチパネル用ITO基板、スマートフォン用カバーガラス代替樹脂基板等の、無色透明性、かつ低複屈折が要求される分野においても使用可能である。液晶配向膜として本実施の形態にかかるポリイミドを適用すると、開口率が高く、コントラスト比の高いTFT-LCDの製造が可能となる。
【0084】
本実施の形態にかかるポリイミド前駆体、樹脂前駆体を用いて製造される樹脂フィルム及び積層体は、例えば、半導体絶縁膜、TFT-LCD絶縁膜、電極保護膜等として適用できる他、フレキシブルデバイスの製造において、特に基板として好適に利用することができる。ここで、本実施の形態にかかる樹脂フィルム及び積層体を適用可能なフレキシブルデバイスとしては、例えば、フレキシブルディスプレイ、フレキシブル太陽電池、フレキシブルタッチパネル電極基板、フレキシブル照明、フレキシブルバッテリー等を挙げることができる。
【実施例
【0085】
以下、本発明について、実施例に基づき更に詳述するが、これらは説明のために記述されるものであって、本発明の範囲が下記実施例に限定されるものではない。
実施例及び比較例における各種評価は次のとおりに行った。
【0086】
<重量平均分子量の測定>
重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて、下記の条件により測定した。
溶媒として、N,N-ジメチルホルムアミド(和光純薬工業社製、高速液体クロマトグラフ用、測定直前に24.8mmol/Lの臭化リチウム一水和物(和光純薬工業社製、純度99.5%)及び63.2mmol/Lのリン酸(和光純薬工業社製、高速液体クロマトグラフ用)を加えて溶解したもの)を使用した。重量平均分子量を算出するための検量線は、スタンダードポリスチレン(東ソー社製)を用いて作成した。
【0087】
カラム:Shodex KD-806M(昭和電工社製)
流速:1.0mL/分
カラム温度:40℃
ポンプ:PU-2080Plus(JASCO社製)
検出器:RI-2031Plus(RI:示差屈折計、JASCO社製)及びUV‐2075Plus(UV-VIS:紫外可視吸光計、JASCO社製)
【0088】
<分子量1,000未満の分子の含有量(低分子量体含有量)の評価>
樹脂における分子量1,000未満の分子の含有量は、上記で得られたGPCの測定結果を用いて、分子量1,000未満の成分の占めるピーク面積が分子量分布全体のピーク面積に占める割合(百分率)として算出した。
【0089】
<水分量の評価>
合成溶剤及び樹脂組成物(ワニス)の水分量は、カールフィッシャー水分測定装置(微量水分測定装置AQ-300、平沼産業社製)を用いて測定を行った。
【0090】
<樹脂組成物の粘度安定性の評価>
実施例及び比較例のそれぞれで調製した樹脂組成物につき、
調製後に室温で3日間静置したサンプルを調製後のサンプルとして23℃における粘度測定を行い;
その後更に室温で2週間静置したサンプルを2週間後のサンプルとして、再度23℃における粘度測定を行った。これらの粘度測定は、温調機付粘度計(東機産業械社製TV-22)を用いて行った。
上記の測定値を用いて、下記数式により室温2週間粘度変化率を算出した。
室温2週間粘度変化率(%)=[(2週間後のサンプルの粘度)-(調製後のサンプルの粘度)]/(調製後のサンプルの粘度)×100
室温2週間粘度変化率は、下記基準で評価した。
◎:粘度変化率が5%以下(保存安定性「優良」)
○:粘度変化率が5超10%以下(保存安定性「良好」)
×:粘度変化率が10%超(保存安定性「不良」)
【0091】
<ワニス塗布性の評価>
実施例及び比較例のそれぞれで調製した樹脂組成物を、無アルカリガラス基板(サイズ37×47mm、厚さ0.7mm)上にバーコーターを用いて、キュア後膜厚15μmになるように塗布した後、140℃において60分間プリベークした。
ワニスの塗布性を、段差計(Tencor社製、型式名P-15)を用いて塗膜表面の段差を測定して評価した。
◎:表面の段差が0.1um以下(塗布性「優良」)
○:表面の段差が0.1超0.5um以下(塗布性「良好」)
×:表面の段差が0.5um超(塗布性「不良」)
【0092】
<残留応力の評価>
予め「反り量」を測定しておいた、厚み625μm±25μmの6インチシリコンウェハー上に、各樹脂組成物をスピンコーターにより塗布し、100℃において7分間プリベークした。その後、縦型キュア炉(光洋リンドバーグ社製、型式名VF-2000B)を用いて、庫内の酸素濃度が10質量ppm以下になるように調整して、430℃において1時間の加熱硬化処理(キュア処理)を施し、硬化後膜厚10μmのポリイミド樹脂膜のついたシリコンウェハーを作製した。
このウェハーの反り量を、残留応力測定装置(テンコール社製、型式名FLX-2320)を用いて測定し、シリコンウェハーと樹脂膜との間に生じた残留応力を評価した。
◎:残留応力が-5超15MPa以下(残留応力の評価「優良」)
○:残留応力が15超25MPa以下(残留応力の評価「良好」)
×:残留応力が25MPa超(残留応力の評価「不良」)
【0093】
<無機膜を形成したポリイミド樹脂膜の反り評価>
実施例及び比較例のそれぞれで調製した樹脂組成物を、表面にアルミ蒸着層を設けた6インチシリコンウェハー基板に、硬化後膜厚が10μmになるようにスピンコートし、100℃にて7分間プリベークした。その後、縦型キュア炉(光洋リンドバーグ社製、型式名VF-2000B)を用いて、庫内の酸素濃度が10質量ppm以下になるように調整して、430℃で1時間の加熱硬化処理を施し、ポリイミド樹脂膜が形成されたウェハーを作製した。このウェハーを用いて、ポリイミド樹脂膜上に、CVD法により、無機膜である窒化ケイ素(SiNx)膜を350℃において100nmの厚さで形成し、無機膜/ポリイミド樹脂が形成された積層体ウェハーを得た。
【0094】
上記で得られた積層体ウェハーを希塩酸水溶液に浸漬し、無機膜及びポリイミドフィルムの二層を一体としてウェハーから剥離することにより、表面に無機膜が形成されたポリイミドフィルムのサンプルを得た。このサンプルを用いて、ポリイミド樹脂膜の反りを評価した。
◎:反りがないもの(反り「優良」)
○:少ししか反りのないもの(反り「良好」)
×:反りによりフィルムが丸まっているもの(反り「不良」)
【0095】
<黄色度(YI値)の評価>
上記<無機膜を形成したポリイミド樹脂膜の反り評価>と同様にしてウェハー(無機膜が形成されていないもの)を作製した。該ウェハーを希塩酸水溶液に浸漬し、ポリイミド樹脂膜を剥離することにより、樹脂フィルムを得た。
得られたポリイミド樹脂フィルムにつき、日本電色工業(株)製(Spectrophotometer:SE600)にてD65光源を用いてYI値(膜厚10μm換算)を測定した。
【0096】
<伸度及び破断強度の評価>
上記<無機膜を形成したポリイミド樹脂膜の反り評価>と同様にしてウェハー(無機膜が形成されていないもの)を作製した。ダイシングソー(株式会社ディスコ製 DAD 3350)を用いて該ウェハーのポリイミド樹脂膜に3mm幅の切れ目を入れた後、希塩酸水溶液に一晩浸して樹脂膜片を剥離し、乾燥させた。これを、長さ50mmにカットし、サンプルとした。
上記のサンプルにつき、TENSILON(オリエンテック社製 UTM-II-20)を用いて、試験速度40mm/min、初期加重0.5fsにて伸度及び破断強度を測定した。
<ポリイミド樹脂膜の308nmにおける吸光度測定>
石英ガラス基板上に上記ワニスをそれぞれをスピンコートし、窒素雰囲気下、430℃において1時間加熱することにより、膜厚0.1μmのポリイミド樹脂膜をそれぞれ得た。これらのポリイミド膜について、UV-1600(島津社製)を用いて308nmにおける吸光度を測定した。
【0097】
[実施例1]
窒素置換した500mlセパラブルフラスコに、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を96g入れ、4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート(APAB)を17.71g(77.6mmol)および4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(DAS)を4.82g(19.4mmol)、入れ、撹拌してAPABおよびDASを溶解させた。その後、ビフェニル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物(BPDA)を29.42g(100mmol)加え、窒素フロー下で80℃において3時間撹拌下に重合反応を行った。その後、室温まで冷却し、前記NMPを加えて溶液粘度が51,000mPa・sになるように調整することにより、ポリアミド酸のNMP溶液(以下、ワニスともいう)P-1を得た。得られたポリアミド酸の重量平均分子量(Mw)は65,000であった。
【0098】
[実施例2~21及び比較例1~5]
上記合実施例1において、原料の仕込み量(モル比)、使用溶媒の種類、重合温度、及び重合時間を、それぞれ、表1に記載のとおりに変更した他は、実施例1と同様にして、ワニスP-2~P-26を得た。
各ワニスに含有されるポリアミド酸の重量平均分子量(Mw)を、表1に合わせて示した。
【0099】
【表1】
【0100】
表1における各成分の略称は、それぞれ、以下の意味である。
BPDA:3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
PMDA:ピロメリット酸二無水物
TAHQ:p-フェニレンビス(トリメリテート酸無水物)
APAB:4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート
ATAB:2-メチル-4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート
BABB:[4-(4-アミノベンゾイル)オキシフェニル]4-アミノベンゾエート
BAFL:9,9-ビス(アミノフェニル)フルオレン
BFAF:9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン
TFMB:2、2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン
DAS:4,4’-ジアミノジフェニルスルホン
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
DMF:N,N-ジメチルホルムアミド
DMAc:N,N-ジメチルアセトアミド
【0101】
上記実施例及び比較例で得られたワニスP-1~P-26を、そのまま樹脂組成物として用い、上述の方法に従って評価を行った。評価結果は表2に示した。
【0102】
【表2】
【0103】
表1および表2から明らかなように、一般式(1)で示される構造単位のみを含む、比較例1、2で得られたポリイミドフィルムは、フィルムが脆く、伸度等の物性評価ができなかった。また、残留応力も高い結果となった。また、一般式(2)で示される構造単位のみを含む、比較例3で得られたポリイミドフィルムは、残留応力が高く、無機膜を形成した後に反りが発生し、伸度も低かった。
一方、一般式(1)で示される構造単位と、一般式(2)で示される構造単位とを、モル比99/1~1/99で含む、実施例1~21から得られたポリイミドフィルムは、黄色度が20以下と低く、残留応力も25MPa以下と低く、伸度は20%以上と高い結果となった。また、無機膜を形成した後の反りも発生しないか、または発生したとしてもごく僅かであった。
上記表2の結果から、本発明にかかる樹脂組成物から得られるポリイミド樹脂フィルムは、黄色度が小さく、残留応力が低く、機械的物性に優れた樹脂フィルムであることが確認された。
具体的には、本発明では、残留応力が25MPa以下であり、黄色度YIが30以下であり、伸度が15%以上である樹脂フィルムが得られる。
【0104】
[実施例22]
窒素置換した500mlセパラブルフラスコに、18L缶開封直後のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)(水分量250質量ppm)を、固形分含有量17wt%に相当する量を入れ、4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート(APAB、純度99.5%、日本純良薬品株式会社製)5.71g(25.0mmol)を入れ、撹拌してAPABを溶解させた。その後、ビフェニル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物(BPDA、純度99.5%、マナック株式会社製)を7.36g(25.0mmol)加え、窒素フロー下で80℃において3時間撹拌下に重合反応を行った。その後、室温まで冷却し、前記NMPを加えて溶液粘度が51,000mPa・sになるように調整することにより、ポリアミド酸のNMP溶液(以下、ワニスともいう)P-27を得た。得られたポリアミド酸の重量平均分子量(Mw)は128,000であり、分子量1,000未満の分子の含有量は0.01質量%であった。
【0105】
[実施例23~33及び比較例6~11]
上記実施例22において、原料の種類、原料の仕込み量、使用溶媒の種類、重合温度、及び重合時間を、それぞれ、表3に記載のとおりに変更した他は、合成例1と同様にして、ワニスP-28~P-44を得た。
各ワニスに含有されるポリアミド酸の重量平均分子量(Mw)を、表3に合わせて示した。
【0106】
【表3】
【0107】
表3における各成分の略称は、それぞれ、以下の意味である。
BPDA:ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、純度99.5%、三菱化学株式会社製
TAHQ:p-フェニレンビス(トリメリテート酸無水物)、純度99.5%、マナック株式会社製
PMDA:ピロメリット酸二無水物
APAB:4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート、純度99.5%
4,3-APAB:4-アミノフェニル-3-アミノベンゾエート、純度99.5%
ATAB:2-メチル-4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート
BABB:[4-(4-アミノベンゾイル)オキシフェニル]4-アミノベンゾエート
NMP1:18L缶開封直後のもの、水分量250ppm
NMP2:500mlビン入り品を開封後一か月放置したもの、水分量3,070ppm
DMF:500mlビン入り開封後のもの、水分量3510ppm
DMAc:500mlビン入り開封後のもの、水分量3430ppm
【0108】
[実施例22~33及び比較例6~11]
上記実施例及び比較例で得られたワニスP-27~P-44を、そのまま樹脂組成物として用い、上述の方法に従って評価を行った。評価結果は表4に示した。
【0109】
【表4】
【0110】
表3及び表4から明らかなように、ポリイミド前駆体(ワニス)の重量平均分子量が3,0000以下の比較例6(P-39)、比較例7(P-40)、比較例8(P-41)、比較例10(P-43)および比較例11(P-44)では、残留応力が大きく、反りも大きかった。また黄色度が大きく、伸度および破断強度も小さかった。特に、水分量の多かった比較例10,11では、膜が非常に脆かった。
一方、ポリイミド前駆体の重量平均分子量が30,0000以上の比較例9(P-42)では、残留応力、反りは小さく、黄色度も低く、伸度および破断強度も大きかったが、塗布性が悪くなってしまった。
これに対し、重量平均分子量が30,000以上、300,000以下のポリイミド前駆体P-27~P-38を用いた実施例22~実施例33では、残留応力が低く、反りも小さく、黄色度が低く、伸度および破断強度も大きい、いずれの特性でも優れた結果が得られた。
【0111】
上記表4の結果から、本発明にかかる樹脂組成物から得られるポリイミド樹脂フィルムは、黄色度が小さく、残留応力が低く、機械的物性に優れた樹脂フィルムであることが確認された。
具体的には、本発明では、残留応力が25MPa以下であり、黄色度YIが20以下であり、ガラス転移温度が400℃以上であり、伸度が15%以上であり、そして破断強度が250MPa以上である樹脂フィルムが得られる。
【0112】
つぎに示す実施例34~実施例45では、樹脂組成物に界面活性剤及びアルコキシシラン化合物から成る群より選択される少なくとも一種を添加した場合の効果について実験を行った。
[実施例34]
先ず、上記実施例22で得られたワニスP-27を樹脂組成物としてそのまま用いて、以下の手順によって塗工スジの評価を行った。
<塗工スジの評価(塗工性)>
上記の樹脂組成物を、無アルカリガラス基板(サイズ37×47mm、厚さ0.7mm)上にバーコーターを用いて、キュア後膜厚15μmになるように塗工した。塗工後、室温において10分間放置した後、得られた塗膜に塗工スジが発生していないかを目視で確認した。同じ樹脂組成物を用いて3回の塗工を行い、各塗膜について塗工スジの本数を調べ、その平均値を用いて下記基準により評価を行った。
◎:幅1mm以上、長さ1mm以上の連続した塗工スジが0本(塗工スジの評価「優良」)
○:上記塗工スジが1又は2本(塗工スジの評価「良好」)
△:上記塗工スジが3~5本(塗工スジの評価「可」)
評価結果は表5に示した。
【0113】
[実施例35~45]
上記実施例22で得られたワニスP-27に、追加添加剤として表5に示した種類及び量の界面活性剤又はアルコキシシラン化合物をそれぞれ添加した後、0.1μmのフィルターで濾過することにより、樹脂組成物を調製した。
上記樹脂組成物を用いて、実施例34と同様にして塗工スジの評価を行った。結果を表5に示した。
【0114】
【表5】
【0115】
表5における各成分の略称は、それぞれ以下の意味である。表5におけるこれらの成分の使用量は、それぞれ、ワニスに含有されるポリイミド前駆体100質量部に対する配合量(使用量)である。実施例39および45においては、界面活性剤1とアルコキシシラン化合物1とを併用した。
界面活性剤1:DBE-821、製品名、シリコーン系界面活性剤、Gelest製
界面活性剤2:メガファックF171、製品名、フッ素系界面活性剤、DIC製
アルコキシシラン化合物1:下記一般式(AS-1)で表される化合物
アルコキシシラン化合物2:下記一般式(AS-2)で表される化合物
【化62】
【0116】
表5から明らかなように、界面活性剤またはアルコキシシラン化合物を含有した実施例35~実施例39、および実施例41~45では、含有しない実施例34および40に比べて塗工スジの発生が抑えられ、表面平滑性に優れたポリイミド樹脂膜が得られることがわかった。
【0117】
[実施例46]
ワニスP-27を無アルカリガラス基板(サイズ37×47mm、厚さ0.7mm)上にバーコーターを用いて、キュア後膜厚10μmになるように塗布した後、140℃において60分間プリベークした。続いて縦型キュア炉(光洋リンドバーグ社製、型式名VF-2000B)を用いて、庫内の酸素濃度が10質量ppm以下になるように調整して、430℃で1時間の加熱硬化処理を施し、ポリイミド樹脂膜が形成されたガラス基板を作製した。このポリイミドフィルム上にアモルファスシリコン層を形成し、430℃で1時間脱水素アニールを行い、続いてエキシマレーザーを照射することにより、LTPS層を形成した。エキシマレーザー(波長308nm、繰り返し周波数300Hz)によりガラス基板を剥離し、ポリイミドフィルムと、LTPS層と、を含む積層体を得た。
この積層体は反りがなく黄色度も20以下であった。
【0118】
[実施例47]
ワニスP-1を用いる以外は、実施例46と同様の方法で積層体を得た。この積層体は反りがなく黄色度も20以下であった。
【0119】
[比較例12]
ワニスP-24を用いる以外は、実施例46と同様の方法で積層体を得た。この積層体は反りが大きく、ポリイミドフィルムの一部に亀裂が入った。
【0120】
[合成例]
ディーンシュタルク装置及び還流器を装着したセパラブルフラスコに、窒素雰囲気下、APABを2.24g(9.8mmol)、NMPを16.14g及びトルエンを50g入れ、撹拌下にAPABを溶解させた。そこに、H-PMDAを2.24g(10.0mmol)加えて、180℃において2時間還流した後、3時間かけて共沸溶媒であるトルエンを除去した。フラスコの内容物を40℃まで冷却し、IRよりアミド結合に由来する1,650cm-1付近の吸収(C=O)が消失していることを確認した。その後、APABを8.95g(39.2mmol)、NMPを121.6g、PMDAを6.54g(30.0mmol)および6FDAを4.44g(10.0mmol)加えて80℃において4時間撹拌することにより、ポリイミド―ポリアミド酸重合体のワニスを得た(P-45)。得られたポリイミド―ポリアミド酸重合体の重量平均分子量(Mw)は82,000であった。
【0121】
[実施例48~53、比較例13]
図1に示すような有機EL基板を作製した。
ポリイミド前駆体ワニス(P-1、P-11、P-20、P-22、P-27、P-33、P-45)をマザーガラス基板(厚さ0.7mm)上にバーコーターを用いて、キュア後膜厚10μmになるように塗布した後、140℃において60分間プリベークした。続いて縦型キュア炉(光洋リンドバーグ社製、型式名VF-2000B)を用いて、庫内の酸素濃度が10質量ppm以下になるように調整して、430℃で1時間の加熱硬化処理を施し、ポリイミド樹脂膜が形成されたガラス基板を作製した。
続いてCVD(Chemical Vapor Deposition)法によりSiN層を厚さ100nmで成膜した。
【0122】
続いてチタンをスパッタリング法により成膜し、その後、フォトリソグラフィ法によりパターニングを行い、走査信号線を形成した。
次に、走査信号線が形成されたガラス基板全体に、CVD法によりSiN層を厚さ100nmで成膜した。(ここまでを下部基板2aとする)
続いて下部基板2a上にアモルファスシリコン層256を形成し、430℃で1時間脱水素アニールを行い、続いてエキシマレーザーを照射することにより、LTPS層を形成した。
その後に下部基板2aの全面にスピンコート法にて感光性のアクリル樹脂をコートし、フォトリソグラフィ法により露光、現像を行い複数のコンタクトホール257を備えた258を形成した。このコンタクトホール257により、各LTPS256の一部が露出された状態とした。
次に層間絶縁膜258が形成された下部基板2aの全面にスパッタ法にてITO膜を成膜し、フォトリソグラフィ法により露光、現像を行い、エッチング法によりパターニングを行い、各LTPSと対をなすように下部電極259を形成した。
なお、各コンタクトホール257において、層間絶縁膜258を貫通する下部電極252とLTPS256とを電気的に接続した。
次に隔壁251を形成した後に、隔壁251で区画された各空間内に、正孔輸送層253、発光層254を形成した。また、発光層254および隔壁251を覆うように上部電極255を形成した。上記工程により有機EL基板25を作製した。
次に、ガラス基板と本実施形態のポリイミドフィルムとSiN層がこの順に形成された封止基板2bの周辺に紫外線硬化樹脂をコートし、アルゴンガス雰囲気中で封止基板2bと有機EL基板とを接着させることにより、有機EL素子を封入した。これにより、各有機EL素子と封止基板2bとの間には中空部261を形成した。
【0123】
このように形成した積層体の下部基板2a側、および封止基板2b側からエキシマレーザー(波長308nm、繰り返し周波数300Hz)を照射し、全面を剥離するのに必要な最小エネルギーにて剥離をおこなった。
の積層体について、剥離後の基板反り、点灯試験、積層体の白濁評価、の有無の評価を行った。また、ヒートサイクル試験についても実施した。結果を表6に示す。
<基板反り>
◎:反りがないもの
○:少ししか反りの無いもの
△:反りにより丸まっているもの
<点灯試験>
○:点灯したもの
×:点灯しなかったもの
<積層体白濁評価>
積層体を形成した後に、デバイス全体が透明なものを○、やや白濁しているものを△、白濁したものを×とした。
<ヒートサイクル試験>
エスペック製ヒートサイクル試験機を用い、-5℃と60℃をそれぞれ30分(槽の移動時間1分)で1000サイクル試験した後の外観観察を行った。
剥がれや膨れがないものを○、試験後に剥がれや膨れがごく一部観察されたものを△、試験後に全面的に剥がれや膨れが観察されたものを×とした。
【0124】
【表6】
【0125】
[実施例54~58、比較例14]
ポリイミド前駆体ワニス(P-1、P-11、P-20、P-22、P-27、P-33、P-45)を用い上記の積層体製造の際に、LTPSをIGZOにした以外は積層体製造を行い、上記試験を行った。結果を表7に示す。
【0126】
【表7】
【0127】
[実施例59~63、比較例15]
YIが20以下、膜厚0.1ミクロンの時の308nmの吸光度が0.6以上2.0以下であり、伸度が15%以上を与えるポリイミド前駆体ワニス(P-1、P-11、P-20、P-27、P-33、P-45)について、上記のレーザー剥離時のレーザー剥離に要する最小エネルギー、および最小エネルギーに10mJ/cmを加えたエネルギーで照射したときのアッシュ(灰分)について評価を行った。アッシュが全く発生しなかったものを○、淵に少しアッシュが観察されたものを△、全面的にアッシュが観察されたものを×、とした。結果を表8に示す。
【0128】
【表8】
【0129】
本発明は上記実施の形態に限定されず、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明のポリイミド前駆体から形成される樹脂フィルムは、例えば、半導体絶縁膜、TFT-LCD絶縁膜、電極保護膜等に適用できる他、フレキシブルディスプレイの製造、タッチパネルITO電極用基板等において、特に基板として好適に利用することができる。
図1