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  • 特許-正極活物質及び電気化学装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】正極活物質及び電気化学装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20231113BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20231113BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20231113BHJP
   H01M 4/1315 20100101ALN20231113BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
H01M4/1315
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022522741
(86)(22)【出願日】2021-11-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-15
(86)【国際出願番号】 CN2021128709
(87)【国際公開番号】W WO2022100507
(87)【国際公開日】2022-05-19
【審査請求日】2022-04-14
(31)【優先権主張番号】202011243565.4
(32)【優先日】2020-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】513054978
【氏名又は名称】寧徳新能源科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】Ningde Amperex Technology Limited
【住所又は居所原語表記】No.1 Xingang Road, Zhangwan Town, Jiaocheng District, Ningde City, Fujian Province, 352100, People’s Republic of China
(74)【代理人】
【識別番号】100177426
【弁理士】
【氏名又は名称】粟野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】呉 霞
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/165207(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第110323432(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103094523(CN,A)
【文献】特開2016-025010(JP,A)
【文献】特開2018-018789(JP,A)
【文献】国際公開第2018/061298(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/115025(WO,A1)
【文献】特表2012-508444(JP,A)
【文献】特開2020-115461(JP,A)
【文献】特開2020-087810(JP,A)
【文献】特開2000-128539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質であって、前記正極活物質はP6mc結晶構造を有し、
前記正極活物質は、CoとR元素を含み、そして選択的M元素を含むリチウム遷移金属複合酸化物であり、
M元素はAl、Mg、Ti、Mn、Fe、Ni、Zn、Cu、Nb、Cr、Y及びZrの少なくとも一種を含み、
R元素はF、Clの少なくとも一種を含み、
前記R元素モル含有量はnであり、前記Co及びM元素のモル含有量の合計はnCo+Mであり、前記n 前記nCo+M に対する比は0<δ≦0.01であり、
前記正極活物質の表面から深さ50nmまでの領域内のR元素の濃度の、前記正極活物質のその他の領域内のR元素の濃度に対する比は、(1~10):1であり、前記正極活物質の前記その他の領域の任意の2点間におけるR元素の濃度の差は5%未満であり、ここで、R元素の濃度は前記n の前記n Co+M に対する比である、ことを特徴とする、正極活物質。
【請求項2】
請求項1に記載の正極活物質であって、以下のa~cの少なくとも一つの条件を満たすことを特徴とする正極活物質、
a.前記正極活物質は、Li元素をさらに含み、前記Li元素のモル含有量はnLiであり、前記nLi 前記nCo+M に対する比は0.6<x<0.95であり、
b.前記正極活物質は、Na元素をさらに含み、前記Na元素のモル含有量はnNaであり、前記nNa 前記nCo+M に対する比は0<z<0.03であり、
c.前記M元素のモル含有量はnであり、前記n 前記nCo+M に対する比は0≦y<0.15であり、前記Co元素のモル含有量はnCoであり、前記nCo 前記nCo+M に対する比は1-yである。
【請求項3】
請求項1に記載の正極活物質であって、X線光電子分光法により分析して、前記正極活物質のXPSスペクトルにおいて530eV~535eVの範囲内にO1sピークを有することを特徴とする、正極活物質。
【請求項4】
請求項1に記載の正極活物質であって、以下のd~fの少なくとも一つの条件を満たすことを特徴とする正極活物質、
d.前記正極活物質は粒子の表面に存在する孔及び/又は粒子の内部に存在する隙間を含み、
e.前記正極活物質の平均粒子径Dv50は10μm~25μmであり、
f.前記正極活物質の比表面積は0.1m/g~3m/gであり、前記正極活物質の比表面積は、窒素ガス吸着法による比表面積測定により測定し、かつ、BET(Brunauer Emmett Teller)法により算出され、ここで、窒素ガス吸着法による比表面積測定は、米国Micromeritics社製のTri Star II型比表面積及び孔隙分析装置によって行われる
【請求項5】
請求項2に記載の正極活物質であって、前記正極活物質の化学一般式はLiNaCo1-y2-δδであり、x、y、z、δが、それぞれ、0.6<x<0.95、0≦y<0.15、0≦z<0.03、0<δ≦0.01を満たすことを特徴とする、正極活物質。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載の正極活物質を含む正極活物質層を含むことを特徴とする、電気化学装置。
【請求項7】
請求項に記載の電気化学装置であって、前記電気化学装置は、満放電された状態で容量が180mAh/g以上である場合、X線回折法により分析して、前記正極活物質のXRDスペクトルにおいてメインピークが18°~19°の範囲内にあり、前記メインピークの半値全幅が0°~0.5°の間にあり、
前記X線回折法による分析は、ドイツ Brucker AxS社製のBrucker D8A_A25型X線回折装置を使用し、CuKα線を放射線源とし、線の波長λ=1.5418A、走査する2θ角の範囲は10°~90°であり、走査速度は4°/minである、ことを特徴とする、電気化学装置。
【発明の詳細な説明】
【優先権主張】
【0001】
本出願は、2020年11月10日に中国特許庁に出願した、出願番号が202011243565.4で、発明の名称が「正極活物質及び電気化学装置」である中国特許出願に基づく優先権を主張し、前記中国特許出願に記載された全ての内容を援用するものである。
【技術分野】
【0002】
本発明は正極材料技術分野に関し、具体的に、正極活物質及び電気化学装置に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン電池は、高いエネルギー密度、サイクル特性に優れ、環境にやさしく、安全で且つメモリー効果なしなどの利点を有するため、ポータブル電子製品、電気輸送、防衛航空、エネルギー貯蔵などの分野で広く使用されている。社会開発の需要を満たすために、より高いエネルギー密度と電力密度を備えたリチウムイオン電池の探索は、解決すべき緊急の問題になり、従って、より高い比容量とより高い電圧プラットフォームを有する正極材料が必要である。
【0004】
より高い比エネルギーを得るために、正極活物質は高電圧に向かって発達されている。従来の正極活物質では、電圧の上昇に伴い、大量のLiが放出され、材料の結晶構造には一連の不可逆的な相転移(O3からH1-3、H1-3からO1)が発生するため、材料のサイクル特性と安全性能を大幅に低下させる。そして、高電圧下で界面の副反応が急激になり、例えば、LiCoO材料のCo金属の溶出が深刻になる一方、高電圧に適合する電解液技術の開発が困難になる。一般的な電解液は、高電圧下で分解が加速し、失効が早い、従って、容量の減衰は非常に深刻になる。材料の結晶相の構造安定性を向上させるために、金属カチオンをドープすることで不可逆的な相転移を遅らせることができるが、この方法では、電圧が4.6Vを超えると、構造に対する安定化効果は明らかではない。また、ドープの量が多くなると、理論容量の損失が大きくなる。
【0005】
したがって、高い比容量、高い電圧プラットフォーム、構造の可逆性に優れ、かつ高電圧下で界面が安定した正極活物質を見つけることが急務である。
【発明の概要】
【0006】
これに鑑みて、本発明は、正極活物質及び電気化学装置を提供し、前記正極活物質は、P6mc結晶構造を有し、結晶構造が安定しており、且つHCP酸素構造を有し、高電圧で酸素活性が低く、リチウムイオン電池の容量、サイクル安定性を向上させることができる。
【0007】
第一の態様では、本発明は、正極活物質を提供し、前記正極活物質はP6mc結晶構造を有し、前記正極活物質は、CoとR元素を含み、そして選択的にM元素を含むリチウム遷移金属複合酸化物である。M元素はAl、Mg、Ti、Mn、Fe、Ni、Zn、Cu、Nb、Cr、Y及びZrの少なくとも一種を含み、R元素はF、Clの少なくとも一種を含み、前記R元素的モル含有量はnであり、前記Co及びM元素のモル含有量の合計はnCo+Mであり、前記nと前記nCo+Mとの比は0<δ≦0.01である。
【0008】
第二の態様では、本発明は、電気化学装置を提供し、本発明の第一の態様による正極活物質を含む正極活物質層を含み、前記正極活物質層の圧縮密度(compaction density)は3.0g/cm~4.4g/cmであり、好ましくは4.12g/cm~4.22g/cmである。
【0009】
先行技術に対し、本発明は少なくとも以下の有用な効果を有する:
【0010】
本発明に提供される正極活物質はP6mc結晶構造を有し、結晶構造の安定性が高いため、粒子の破碎、結晶構造の破損の確率が低減されることにより、電気化学装置のサイクル特性及び熱安定性が改善される。
【0011】
本発明の正極活物質は、カチオンとアニオンを共ドープし、カチオンとしてCo元素及びM元素が選択され、アニオンとしてR元素が選択される。ここで、MがOとM-O結合を形成し、M-O結合及びアニオンRにより酸素のバンド構造を低下させることで、Coと酸素のバンドのオーバーラップを低減させ、格子の酸素放出を遅くして、正極活物質における酸素を安定にすることにより、正極活物質は比較的に高い比容量及び電圧プラットフォームを有することができ、さらに高電圧での正極活物質の界面副反応の低減、界面安定性の向上に有利である。
【0012】
したがって、本発明の電気化学装置も高い比容量、高い電圧プラットフォームを有し、且つ高電圧での界面が安定で、サイクル安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、(a)が比較例1に提供された正極活物質のXPSスペクトルであり、及び(b)が実施例3に提供された正極活物質のXPSスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下は本発明の実施例の好ましい実施形態であり、注意すべき点として、当業者にとって、本発明の実施例の原理を逸脱しない上で、若干の改善及び添削を行うことができるが、これらの改善及び添削も本発明の実施例の保護範囲に含まれる。
【0015】
簡単にするために、本明細書にはいくつかの数値範囲しか明確に開示されていない。しかし、任意の下限は、任意の上限と組み合わせて明記していない範囲を形成することができ、及び、任意の下限は、他の下限と組み合わせて明記していない範囲を形成することができ、同様に、任意の上限は、任意の他の上限と組み合わせて明記していない範囲を形成することができる。また、明記していないが、範囲の端点の間の各点又は単独の数値もその範囲内に含まれる。したがって、各点又は単独の数値は自体が下限又は上限となり、任意の他の点又は単独の数値と組み合わせ、又は、他の下限又は上限と組み合わせて、明記していない範囲を形成することができる。
【0016】
なお、本明細書の記載において、別に断らない限り、「以上」、「以下」はその前の数字も含み、「一種又は多種」における「多種」の意味は二つ以上である。
【0017】
本発明の上記の発明内容は、本発明において開示されたすべての実施方式又はすべての実現形態を説明することを意図するものではない。以下の記載において、例を挙げて、例示的な実施形態をより具体的に説明する。本出願の全体の複数の箇所で、一連の実施例により指導を提供し、これらの実施例はさまざまな組み合わせで使用することができる。各実例において、列挙は代表的な群に過ぎず、網羅的なリストと解釈されるべきではない。
【0018】
正極活物質
まずは本発明の第一の態様に提供される正極活物質を説明する。前記正極活物質はP6mc結晶構造を有し、前記正極活物質はCoとR元素を含み、そして選択的にM元素を含むリチウム遷移金属複合酸化物である。M元素はAl、Mg、Ti、Mn、Fe、Ni、Zn、Cu、Nb、Cr、Y及びZrの少なくとも一種を含み、R元素はF、Clの少なくとも一種を含み、前記R元素的モル含有量はnであり、前記Co及びM元素のモル含有量の合計はnCo+Mであり、前記nと前記nCo+Mとの比は0<δ≦0.01である。
【0019】
本発明に提供される正極活物質はP6mc結晶構造を有し、具体的に、前記正極活物質は六方密充填の結晶構造を有し、結晶構造の安定性がより高いため、粒子の破碎、結晶構造の破損の確率がより低く、リチウムイオン放出、吸蔵による構造変化が比較的に小さく、且つ空気及び水中での安定性が比較的に高い。それによって、リチウムイオン電池のサイクル特性及び熱安定性の改善に有利である。
【0020】
本発明の正極活物質において、カチオンとアニオンを共ドープし、カチオンとしてCo元素及びM元素が選択され、アニオンとしてR元素が選択される。M-O結合及びアニオンRにより酸素のバンド構造を低下させることで、Coと酸素のバンドのオーバーラップを低減させ、格子の酸素放出を遅らせることにより、電池サイクル過程で正極活物質における酸素を安定にし、正極活物質と電解液との間の界面を安定にすることができる。それによって、サイクル安定性を向上させ、正極活物質がより高い比容量およびより電圧プラットフォームを有するようにすることができ、さらに高電圧での正極活物質の界面副反応の低減、界面安定性の向上に有利である。カチオンとアニオンを共ドープする具体的な方法は、特に限定されず、前駆体が共沈する段階で湿式ドープを行ってもよく、焼結段階で乾式ドープを行ってもよい。
【0021】
好ましくは、カチオンのドープ元素MはAl、Mg、Ti、Mn、Yの少なくとも一種を含む。アニオンのドープ元素RはF、Clの少なくとも一種を含み、より好ましくはFである。Fは、正極活物質の構造をより安定にすることができ、電池が繰り返して使用される過程で正極活物質と電解液との間の界面を安定にすることができ、リチウムイオン電池のサイクル特性の改善に有利である。
【0022】
好ましくは、前記M元素のモル含有量がnであり、前記nと前記nCo+Mとの比は0≦y<0.15であり、前記Co元素のモル含有量はnCoであり、前記nCoと前記nCo+Mとの比は1-yである。
【0023】
本発明のいくつかの実施形態において、前記正極活物質はさらにLi元素を含み、前記Li元素のモル含有量はnLiであり、前記nLiと前記nCo+Mとの比は0.6<x<0.95である。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態において、前記正極活物質はさらにNa元素を含み、前記Na元素のモル含有量はnNaであり、前記nNaと前記nCo+Mとの比は0<z<0.03である。
【0025】
本発明の具体的な実施形態において、前記正極活物質の化学一般式はLiNaCo1-y2-δδであり、x、y、z、δがそれぞれ、0.6<x<0.95、0≦y<0.15、0≦z<0.03、0<δ≦0.01を満たす。
【0026】
X線光電子分光法による分析により、前記正極活物質のXPSスペクトルにおいて530eV~535eVの範囲内にO1sピークを有する。図1に示されたように、XPSスペクトルにおいて、Oの特徴的なピークが結合エネルギーの高い方にシフトし、CoとOのバンドのオーバーラップを低減させ、格子の酸素放出を遅くして、正極活物質における酸素を安定にすることで、正極活物質と電解液との間の界面を安定にし、サイクル安定性を向上させる。
【0027】
本発明のいくつかの実施形態において、正極活物質は、
Li0.63Na0.019Co0.990.011.9990.001
Li0.9Na0.015Co0.990.011.9980.002
Li0.73Na0.012Co0.9880.0121.9950.005
Li0.73Na0.01Co0.9850.0151.9950.005
Li0.73Na0.004Co0.9740.0261.9930.007
Li0.73Na0.002Co0.970.031.990.01
Li0.73Na0.012Co0.9880.0121.9980.002
Li0.73Na0.01Co0.9850.0151.9950.005
Li0.73Na0.01Co0.9850.0151.9950.005
Li0.73Na0.004Co0.9740.0261.9930.007などを含むが、それらに限定されなく、ここで、MはAl、Mg、Ti、Mn、Fe、Ni、Zn、Cu、Nb、Cr、Y及びZrの少なくとも一種を含み、RはF、Clの少なくとも一種を含む。
【0028】
さらに好ましくは、正極活物質は
Li0.9Na0.015Co0.99Al0.011.9980.002
Li0.73Na0.012Co0.988Al0.0121.9950.005
Li0.73Na0.004Co0.974Al0.0261.993Cl0.007、又は
Li0.73Na0.01Co0.985Mg0.0151.9950.005を含むが、それらに限定されなく
【0029】
Oのバンドを低下させるために、電気陰性度が大きいアニオン、カチオンを選択してドープする。本発明のいくつかの実施形態において、前記M元素のカチオンの電気陰性度とCo元素のカチオンの電気陰性度との比は1~2であり、好ましくは1.05~1.64である。具体的に、電気陰性度の比は、特に限定されず、例えば、1.64、1.58、1.05、1.23等であってもよい。
【0030】
本発明のいくつかの実施形態において、前記正極活物質の表面におけるR元素の濃度は、前記正極活物質の内部におけるR元素の濃度より高い。ここで、R元素の濃度は、n(R元素のモル含有量)とnCo+M(Co及びM元素のモル含有量の合計)との比である。R元素が正極活物質の表面に集中することで、材料の表面の活性化酸素の数量を低下させ、酸素の脱出量を低減し、正極活物質の電解液での酸化を遅らせることができる。
【0031】
好ましくは、前記正極活物質の表面から深さ50nmまでの領域内のR元素の濃度と前記正極活物質のその他の領域内のR元素の濃度との比は(1~10):1である。比が10:1超であると、正極活物質の表面におけるR元素がドープされた濃度は、内部におけるR元素がドープされた濃度よりはるかに高く、材料の表面にCEIが堆積して、又はCo-Rが表面に堆積して、それにより抵抗が悪化することを引き起こし、さらに電気化学装置の性能を悪化させる。
【0032】
好ましくは、前記正極活物質のその他の領域内の任意位置におけるR元素の濃度の差は5%未満である。R元素が均一に正極活物質の内部に分布することで、各部分の遷移金属の原子価及びリチウムの含有量の割合が同様になることができる。それにより各部分の酸素を均一且つ安定にするだけでなく、局所的な過充電又は過剰吸蔵を引き起こすこともなく、各部分の酸化還元反応が均一に行われ、リチウムイオンの移動が均一に行われることができる。
【0033】
さらに、本願の正極活物質は孔及び/又は隙間を含む。好ましくは、正極活物質は孔及び隙間を含む。正極活物質粒子の表面の孔に対して、SEMを使用して粒子の画像を測定し、粒子の表面に孔の有無を観察する。粒子内部の隙間に対して、CP(断面研磨、cross-section polishing)技術を採用し、粒子を切開し、そしてSEMを使用して、画像を測定し、粒子の内部に隙間の有無を観察する。
【0034】
本発明のいくつかの実施形態において、正極活物質の平均粒子径Dv50は10μm~25μmである。平均粒子径が大きすぎると、リチウムイオンは、粒子径の大きい粒子において拡散経路が比較的に長く、且つ拡散は大きい抵抗を克服する必要があり、吸蔵過程で生じた正極活物質の結晶変形と体積膨張は蓄積し続けるため、吸蔵過程がだんだんと難しくなる。正極活物質の粒子径を25μm以下に制御することで、充放電過程での電気化学的動力学的性能及びレート特性が向上し、分極現象が低減し、電池は、比較的に高い比容量、クーロン効率、及びサイクル特性を有するようにすることができる。平均粒子径が小さすぎると、正極活物質の比表面積は、通常、比較的に大きく、表面の副反応が多くなる。正極活物質の粒子径を10μm以上にすることで、正極活物質の粒子径が小さすぎないことを保証し、材料の表面での副反応を低減させ、且つ粒子径の小さすぎる正極活物質の粒子間の凝集を効果的に抑制し、電池が比較的に高いレート特性及びサイクル特性を有することを保証することができる。
【0035】
前記正極活物質の比表面積は0.1m/g~3m/gである。正極活物質の比表面積を上記の範囲内にすることにより、正極活物質の空気、水及び二酸化炭素に対する安定性を向上させ、正極活物質の表面の電解液の反応活性を低下させることができる。それによって、上記の効果をよりよく発揮させ、正極の充放電容量の発揮、サイクル特性及び安全性能を向上させる。好ましくは、本発明の正極活物質の比表面積は0.72m/g~2.5m/gである。
【0036】
なお、正極活物質の結晶構造はX線粉末回折装置で測定することができる。イツ Brucker AxS社製のBrucker D8A_A25型X線回折装置を使用し、CuKα線を放射線源とし、線の波長λ=1.5418A、走査する2θ角の範囲は10°~90°であり、走査速度は4°/minである。
【0037】
正極活物質の比表面積は当分野での公知の意味であり、当分野での公知の装置及び方法により測定することができる。素ガス吸着法による比表面積測定により測定し、かつ、BET(Brunauer Emmett Teller)法により算出されることができ、ここで、窒素ガス吸着法による比表面積測定は、米国Micromeritics社製のTri Star II型比表面積及び孔隙分析装置によって行われることができる。
【0038】
正極活物質の平均粒子径Dv50は当分野での公知の意味であり、当分野での公知の装置及び方法により測定することができる。例えば、レーザー粒子径分布測定装置を使用して便利に測定することができ、例えば、英国 Malvern Panalytical Ltd製のMastersizer 3000型レーザー粒子径分布測定装置である。
【0039】
正極活物質におけるR元素の濃度は当分野での公知の電子エネルギー損失スペクトルにより分析することができる。正極活物質の電子エネルギー損失スペクトルにより、表面から深さ50nmまでの領域内のドープされた原子の種類及びドープされた原子の数量を分析する。同じ方法に従って、その他の区域内のドープされた原子の種類及びドープされた原子の数量を分析し、正極活物質におけるR元素の深さ方向に縦方向分布が得られる。
【0040】
正極極片
本発明の第二の態様は、正極集電体及び正極集電体の少なくとも一つの表面に設けられた正極活物質層を含む正極極片を提供する。
【0041】
正極集電体は金属箔材料、カーボンコート箔材料又は多孔質金属シートを採用してもよく、アルミニウム箔を採用することが好ましい。
【0042】
正極活物質層は、本発明の第一の態様の正極活物質を含む。選択的に、正極活物質層における正極活物質はLiNaCo1-y2-δδである。
【0043】
前記正極活物質層の圧縮密度は3.0g/cm~4.4g/cmであり、好ましくは、前記正極活物質層の圧縮密度は4.12g/cm~4.22g/cmである。正極活物質層の圧縮密度が上記の範囲内にあることで、電池の比容量及びエネルギー密度を向上させることに有利であり、且つ電池のレート特性及びサイクル特性を向上させる。
【0044】
正極活物質の圧縮密度は当分野での公知の装置及び方法により測定することができ、例えば、圧力試験機で便利に測定することができ、例えば、UTM7305型圧力試験機である。
【0045】
さらに、正極活物質層は、さらにバインダー及び導電剤を含む。
【0046】
前記バインダーは、スチレンブタジエンゴム(SBR)、水性アクリル樹脂、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、及びポリビニルアルコール(PVA)のうちの一種又は多種であってもよい。
【0047】
前記導電剤は、超伝導カーボン、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンドット、カーボンナノチューブ、グラフェン、及びカーボンナノファイバーのうちの一種又は多種であってもよい。
【0048】
当分野での通常の方法に従って、上記の正極極片を調製することができる。一般的に、正極活物質、選択可能な導電剤及びバインダーを溶媒(例えばN-メチルピロリドン、NMPと略称する)に分散させ、均一な正極スラリーを形成し、正極スラリーを正極集電体に塗工し、乾燥、冷間圧延等の工程を経て、正極極片が得られる。
【0049】
本発明の正極極片は、本発明の第一の態様の正極活物質を採用したため、比較的に高い電気化学の総合特性及び安全性能を有する。
【0050】
電気化学装置
本発明の第三の態様は、本発明の第一の態様の正極活物質を含む電気化学装置を提供する。
【0051】
前記正極活物質層の圧縮密度は3.0g/cm~4.4g/cmであり、好ましくは、前記正極活物質層の圧縮密度は4.12g/cm~4.22g/cmである。正極活物質層の圧縮密度が上記の範囲内にあることで、電池の比容量及びエネルギー密度を向上させることに有利であり、且つ電池のレート特性及びサイクル特性を向上させる。
【0052】
正極活物質の圧縮密度は当分野での公知の装置及び方法により測定することができ、例えば、圧力試験機で便利に測定することができ、例えば、UTM7305型圧力試験機である。
【0053】
さらに、前記電気化学装置は、満放電された状態で容量が180mAh/g以上であると、X線回折法により分析したところ、前記正極活物質はXRDスペクトルにおけるメインピークが18°~19°の範囲内にあり、前記メインピークの半値全幅が0°~0.5°の間にある。正極活物質は、サイクルをした後、メインピークの位置及び半値全幅が変わらない。それは、正極活物質全体の層状構造に明らかな変化が発生していなく、正極活物質の構造が可逆性に優れることを示す。
【0054】
本発明のいくつかの実施例において、電気化学装置はさらに負極極片、セパレータ及び電解液を含む。
【0055】
負極極片は、負極集電体及び負極集電体上に設けられた負極活物質層を含むものであってもよい。例えば、負極集電体は、二つの対向する表面を含み、負極活物質層は、負極集電体の二つの表面のいずれか一方又は両方の上に積層して設けられる。負極集電体は金属箔材料、カーボンコート箔材料又は多孔質金属シートなどの材料を採用してもよく、銅箔を採用することがが好ましい。
【0056】
負極活物質層は、一般的に、負極活性材料、任意の選択可能な導電剤、バインダー及び増粘剤を含む。負極活物質は、天然黒鉛、人工黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、ハードカーボン及びソフトカーボンのうちの一種又は多種であってもよく、導電剤は超伝導カーボン、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンドット、カーボンナノチューブ、グラフェン、及びカーボンナノファイバーのうちの一種又は多種であってもよく、バインダーはスチレンブタジエンゴム(SBR)、水性アクリル樹脂、及びカルボキシメチルセルロース(CMC)のうちの一種又は多種であってもよく、増粘剤はカルボキシメチルセルロース(CMC)であってもよい。
【0057】
本発明は、これらの材料に限定されるものではなく、本発明は、さらに、リチウムイオン電池負極活物質、導電剤、バインダー、増粘剤として用いられ得る他の材料を使用してもよい。
【0058】
当分野での通常の方法に従って、上記の負極極片を調製することができる。一般的に、負極活物質、任意の選択可能な導電剤、バインダー、及び増粘剤を、脱イオン水であってもよい溶媒に分散させて、均一な負極スラリーを形成し、負極スラリーを負極集電体に塗工し、乾燥、冷間圧延等の工程を経て、負極極片が得られる。
【0059】
上記のセパレータは、特に限定されず、任意の公知の電気化学的安定性及び化学的安定性を有する多孔質構造のセパレータを選択してもよく、例えば、ガラス繊維、不織布、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリフッ化ビニリデンのうちの一種又は多種の単層又は多層フィルムであってもよい。
【0060】
上記の電解液はリチウム塩及び有機溶媒を含む。ここで、リチウム塩及び有機溶媒の具体的な種類及び組成は、いずれも具体的に制限されなく、実際の必要に応じて選択してもよい。好ましくは、リチウム塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウムのうちの一種又は多種を含んでもよく、有機溶媒は環状カーボネート、鎖状カーボネート、カルボン酸エステルのうちの一種又は多種を含んでもよい。前記電解液は、さらに、例えば、ビニレンカーボネート、硫酸ビニル、プロパンスルトン、フルオロエチレンカーボネートなどの機能性添加剤を含んでもよい。
【0061】
本発明の電気化学装置は、本発明の第一の態様の正極活物質を採用したため、比較的に高い比容量、高い電圧プラットフォームを有し、且つ高いサイクル特性及び安全性を兼備し、高電圧での界面が安定で、構造の可逆性に優れる。
【0062】
第四の態様では、本発明は、さらに以下のステップS10~S30を含む正極活物質の調製方法を提供する。
【0063】
S10:M元素を含有する塩及びコバルト塩を用いて、液相沈殿法により共沈物を調製し、且つ共沈物を焼結し、M元素がドープされた(Co1-y(0≦y<0.15)粉体が得られる。
【0064】
S20:(Co1-y、NaCO及びLiR(0<a<3)を化学量論比で混合してなる混合粉体を、酸素ガス雰囲気で焼結し、P6mc結晶構造を有するNaCo1-y2-δδ(0.6<m<1)が得られる。
【0065】
S30:NaCo1-y2-δδ及びリチウム含有溶融塩を、Na元素とLi元素とのモル比が0.01~0.2の割合となるように混合し、かつ、空気雰囲気でイオン交換反応を行い、反応生成物を洗浄し、乾燥させて、正極活物質LiNaCo1-y2-δδが得られる。ここで、MはAl、Mg、Ti、Mn、Fe、Ni、Zn、Cu、Nb、Cr、Y及びZrの少なくとも一種を含み、RはF、Clの少なくとも一種を含み、x、y、z、δがそれぞれ0.6<x<0.95、0≦y<0.15、0≦z<0.03、0<δ≦0.01を満たす。
【0066】
本発明において、液相共沈及び焼結法によりM元素がドープされた(Co1-y(ここで、0≦y<0.15)前駆体粉体を調製し、そして、固相焼結法により、前駆体粉体と、炭酸ナトリウムとリチウム塩とを焼結し、P6mc結晶構造を有するNaCo1-y2-δδが得られ、最後にイオン交換法によりP6mc結晶構造を有する正極活物質LiNaCo1-y2-δδを合成する。調製過程は安全で制御可能であるため、調製された正極活物質は、本発明の前記の特定の化学組成及び構造を有するようにすることができ、正極活物質の電気化学的特性を大幅に高めることができ、それによって、電気化学装置は、比較的に高い比容量、高い電圧プラットフォームを有し、且つ比較的に高いサイクル特性及び安全性を兼備し、高電圧での界面が安定で、構造の可逆性に優れる。
【0067】
具体的に、ステップS10において、M元素を含有する塩及びコバルト塩を用いて、液相沈殿法により共沈物を調製する具体的なステップは、以下の内容を含む。
【0068】
S11:M元素を含有する塩及びコバルト塩を、Co元素とM元素とのモル比が(1-y):yの割合となるように混合し、溶媒に入れ、混合液が得られる。
【0069】
S12:沈殿剤と錯化剤を混合液に入れ、反応液を得、且つ反応液のpH値を既定の範囲に調整し、反応液を既定の温度及び撹拌速度で共沈反応させ、共沈物が得られる。
【0070】
いくつかの好ましい実施例において、ステップS10において、コバルト塩は硝酸コバルト、塩化コバルト、硫酸コバルト、及び酢酸コバルトの少なくとも一種であり、M元素を含有する塩は、M元素を含有する硝酸塩、塩化塩、硫酸塩、酢酸塩の少なくとも一種である。
【0071】
溶媒は脱イオン水、メタノール、エタノール、アセトン、イソプロパノール及びn-ヘキサノールの少なくとも一種である。
【0072】
いくつかの好ましい実施例において、ステップS12において、沈殿剤は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、及び炭酸カリウムの少なくとも一種である。なお、沈殿剤を混合液に入れる前に、沈殿剤を予め沈殿剤溶液に調製しておいてもよい。沈殿剤溶液を調製するための溶媒は脱イオン水、メタノール、エタノール、アセトン、イソプロパノール及びn-ヘキサノールの少なくとも一種であってもよい。
【0073】
さらに、沈殿剤溶液における沈殿剤の濃度は0.1mol/L~3mol/Lであることが好ましく、1mol/L~3mol/Lであることがより好ましい。
【0074】
いくつかの好ましい実施例において、ステップS12において、錯化剤は、アンモニア水、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、尿素、ヘキサメチレンテトラミン、エチレンジアミン四酢酸、クエン酸、及びアスコルビン酸の少なくとも一種である。なお、錯化剤を混合液に入れる前に、錯化剤を予め錯化剤溶液に調製しておいてもよい。錯化剤溶液を調製するための溶媒は脱イオン水、メタノール、エタノール、アセトン、イソプロパノール及びn-ヘキサノールの少なくとも一種であってもよい。
【0075】
さらに、錯化剤溶液における錯化剤の濃度は0.1mol/L~3mol/Lであることが好ましく、0.5mol/L~1.5mol/Lであることがより好ましい。
【0076】
反応液のpH値は、各金属イオンの沈殿速度に影響を与え、それにより、遷移金属源の結晶核の形成及び成長速度に直接影響を与えることで、遷移金属源の化学組成及び構造に影響を与え、最終的に正極活物質の化学組成及び構造に影響を与える。本発明の正極活物質を達成するために、ステップS12において、反応液のpH値を5~9に制御し、例えば、5、6、7、8、9に制御してもよく、勿論、上記の範囲内の他のデータであってもよい。具体的な実施形態において、沈殿剤及び/又は錯化剤の種類及び含有量を調整することで、反応液のpH値を調整することができる。
【0077】
なお、反応液の温度は化学反応の速度及び反応の収率に直接影響を与え、反応時間は反応生成物の成長過程に影響を与え、それによって、反応生成物の化学組成及び構造に影響を与える。好ましくは、ステップS12において、反応温度は25℃~100℃であり、反応時間は2時間~30時間である。
【0078】
選択的に、ステップ10は、さらに、適切な量の洗剤で共沈物を洗浄して乾燥させることを含んでもよい。なお、本発明において、洗浄に用いられる洗剤及び洗浄の回数は、特に制限されず、共沈物の表面の余剰のイオンを除去できれば、実際の必要に応じて選択してもよい。例えば、洗剤は脱イオン水であってもよい。
【0079】
ステップS10において、前記共沈物の焼結温度及び時間は反応生成物の比表面積、粒子径、形態及び結晶構造に影響を与える。好ましくは、ステップS10において、前記共沈物の焼結温度は400℃~800℃であり、より好ましくは450℃~600℃であり;前記共沈物の焼結時間は5h~20hであり、好ましくは12h~15hである。
【0080】
ステップS10において、焼結処理は、空気又は酸素ガス雰囲気で行ってもよい。
【0081】
いくつかの好ましい実施例において、ステップS20において、(Co1-y、NaCO及びLiRを、Na、Co、M、Rのモル比が0.7:(1-y):y:δであるように、NaとCoとのモル比が(0.5~0.8):1であり、好ましくは、NaとCoとのモル比が0.74:1であるように混合する。
【0082】
ステップS20において、焼結処理の温度及び時間は反応生成物の比表面積、粒子径、形態及び結晶構造に影響を与える。好ましくは、ステップS20において、焼結処理の温度は700℃~1000℃であり、より好ましくは800℃~900℃であり、焼結処理の時間は、好ましくは36h~56hであり、より好ましくは40h~50hである。焼結処理は、空気又は酸素ガス雰囲気で行ってもよい。
【0083】
いくつかの好ましい実施例において、ステップS30において、リチウム含有溶融塩は硝酸リチウム、塩化リチウム、水酸化リチウムの少なくとも一種を含む。
【0084】
ステップS30において、NaCo1-y2-δδとリチウム含有溶融塩を、Na元素とLi元素とのモル比が(0.01~0.2):1の割合となるように、好ましくは、Na元素とLi元素とのモル比が0.03:1となるように混合する。
【0085】
ステップS30において、焼結処理の温度及び時間は反応生成物の比表面積、粒子径、形態及び結晶構造に影響を与える。好ましくは、ステップS30において、焼結処理の温度は200℃~400℃であり、より好ましくは250℃~350℃であり、焼結処理の時間は、好ましくは2h~8hであり、より好ましくは4h~6hである。焼結処理は、空気又は酸素ガス雰囲気で行ってもよい。
【0086】
選択的に、ステップS30は、さらに適量の洗剤で焼結生成物を洗浄して乾燥させることを含む。なお、本発明において、洗浄に用いられる洗剤及び洗浄の回数は、特に制限されることなく、焼結生成物の表面の溶融塩を除去できれば、実際の必要に応じて選択してもよい。例えば、洗剤は脱イオン水であってもよい。
【0087】
なお、最終生成物である正極活物質LiNaCo1-y2-δδはP6mc結晶構造を有するが、最終生成物にR-3m結晶構造を有する正極活物質が存在することが無論なことである。
【0088】
本発明の正極活物質の調製の過程において、反応物の種類及び含有量、pH値、沈殿剤の種類及び濃度、錯化剤の種類及び濃度、焼結温度及び時間等を総合的に調整することで、正極活物質は、本発明の前記の特定の化学組成及び構造を有するようにすることができ、正極活物質の電気化学的特性を大幅に高めることができ、且つリチウムイオン電池の比容量、サイクル特性及び安全性能を向上させる。
【0089】
以下では、具体的な実施例を参照しつつ、本発明をさらに説明する。これらの実施例は、本発明を説明するためにのみ使用され、本発明の範囲を制限するものではないことを理解すべきである。
【0090】
正極活物質の調製
S10:M元素を含有する硫酸塩及び塩化コバルトを、Co元素とM元素とのモル比が(1-y):yの割合となるように混合し、脱イオン水に入れ、混合液が得られる。沈殿剤及び錯化剤を混合液に入れ、反応液が得られ、且つ反応液のpH値を6に調整し、反応液を撹拌しながら共沈反応させ、共沈物が得られる。共沈物を600℃~700℃下に置き、焼結し、M元素がドープされた(Co1-y(0≦y<0.15)粉体が得られた。
【0091】
S20:(Co1-y粉体、NaCO粉末及びLiR粉末を、Naと、Coと、Mと、Rとのモル比が0.7:(1-y):y:δとなるように混合し、混合粉体が得られ、混合粉体を酸素ガス雰囲気で800℃~900℃に置き、48h焼結し、P6mc結晶構造を有するNaCo1-y2-δδ(0.6<m<1)が得られた。
【0092】
S30:NaCo1-y2-δδ及び塩化リチウムを、Na元素とLi元素とのモル比が0.01~0.2の割合となるように混合し、且つ空気雰囲気で250℃~350℃に加熱し、イオン交換反応を6h行い、反応生成物を洗浄し、乾燥させて、正極活物質LiNaCo1-y2-δδが得られた。ここで、MはAl、Mg、Ti、Mn、Fe、Ni、Zn、Cu、Nb、Cr、Y及びZrの少なくとも一種を含み、RはF、Clの少なくとも一種を含み、x、y、z、δが、それぞれ、0.6<x<0.95、0≦y<0.15、0≦z<0.03、0<δ≦0.01満たす。
【0093】
実施例1-10及び比較例1-6の正極活物質は、いずれも上記の反応条件に従って調製し、調製された正極活物質は表1に示された通りであった。
【0094】
【表1】
【0095】
リチウムイオン電池の調製
1)正極極片の調製
上記調製した正極活物質、導電性カーボンブラック(Super P)、バインダーであるポリフッ化ビニリデン(PVDF)を、95:2:3の重量比で適切な量のN-メチルピロリドン(NMP)に十分に撹拌、混合し、均一な正極スラリーに形成させ、当該正極スラリーを12μmのアルミニウム箔上に塗布し、乾燥させ、冷間圧延して、そしてカッティングし、タブを溶接して、正極が得られた。
【0096】
2)負極極片の調製
人工黒鉛、スチレンブタジエンゴム及びカルボキシメチルセルロースナトリウムを、96:2:2の重量比で脱イオン水と混合し、均一に撹拌し、負極スラリーが得られた。当該負極スラリーを12μmの銅箔上に塗布し、乾燥させ、冷間圧延して、そしてカッティングし、タブを溶接して、負極が得られた。
【0097】
3)セパレータはポリエチレン(PE)製の多孔質ポリマーフィルムを採用した。
【0098】
4)電解液の調製
乾燥なアルゴンガス雰囲気で、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、及びジエチルカーボネート(DEC)を、1:1:1の重量比で混合し、LiPFを添加し、均一に混合し、電解質を形成した。ここで、LiPFの濃度は1.15mol/Lであった。
【0099】
5)上記の正極極片、セパレータ、負極極片を順に積層し、巻回して、外装箔に置き、注液口を保留した。注液口から電解液を注ぎ、パッケージし、そしてフォーメーションし、容量グレーディング等の工程を経て、リチウムイオン電池を製造した。
【0100】
性能測定:
(1)容量の発揮及びサイクル特性測定
45℃、常圧(0.1MPa)で、実施例及び比較例で調製されたリチウムイオン電池を、0.1Cの定電流で電圧が4.7Vになるまで充電し、そして4.7Vの定電圧で電流が0.05Cになるまで充電し、この際の充電容量をリチウムイオン電池の1サイクル目の充電容量とし、そして5min静置し、さらに0.1Cの定電流で電圧が3.0Vになるまで放電し、5min静置する。上記操作を一つのサイクル充放電過程とする。この際の放電容量をリチウムイオン電池の1サイクル目の放電容量とし、即ち、リチウムイオン電池の初期容量であった。リチウムイオン電池を上記の方法に従い、充放電サイクルを50回繰り返し、50サイクル目の放電容量を測定した。リチウムイオン電池の50サイクル後の容量維持率(%)=50サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量×100%。
【0101】
表2は、実施例1-10及び比較例1-6の正極活物質に対して、X線光電子分光法により分析して得られた上記の正極活物質のXPSスペクトルにおけるO1sメインピークの位置、及び、上記の正極活物質から調製されたリチウムイオン電池の性能パラメータを示す。
【0102】
【表2】

【0103】
表2のデータの比較から分かるように、比較例1~4で得られた正極活物質はAl、Mgようなカチオンのみがドープされたため、高電圧(>4.6V)で、比較例1~4における1サイクル目の放電容量は実施例3、6、7、8のものと類似であるが、カチオンのみがドープされたため、O1sメインピークの位置が比較的に低く、つまり酸素構造が十分に安定ではなく、従って同様にP6mc結晶構造であっても、正極活物質の高圧下での表層の相転移を減少することができず、相転移が内部に広がり続けるにつれて、リチウム電池容量の急速な減衰をもたらす。それに対して、実施例3、6、7、8では、少量のR元素がドープされたため、得られた正極活物質が比較的に高いO1sメインピークの位置を有し、つまり酸素の活性を低減することができ、それによって、正極活物質の高温高圧下での結晶安定性を大幅に向上させる。しかし、比較例5-6から分かるように、ドープされたR元素の量が多すぎてはならない。R元素の量が多すぎると、45℃での1サイクル目の放電容量及び50サイクルの容量維持率はいずれも大幅に低下してしまう。それは、R元素は、正極活物質の表面に一定の濃度を超えると、活性リチウムと大量に結合し、緻密なLiF層を形成し、界面の抵抗を悪化させ、さらに容量損失をもたらすからです。
【0104】
さらに、上記の調製方法により実施例11、実施例12及び比較例7を調製して、前記正極活物質におけるM元素の電気陰性度とCo元素の電気陰性度との比を測定して表3に示され、また、上記の正極活物質から調製されたリチウムイオン電池の性能パラメータは表3に示された。
【0105】
【表3】
【0106】
表3のデータの比較から分かるように、実施例3では、カチオンMはAl3+であり、実施例11では、カチオンMはMg2+であり、実施例12では、カチオンMはTi3+であり、カチオンM元素の電気陰性度とCo3+との比は1~2の間にあることに対して、比較例7では、カチオンMはSr2+であり、Sr2+とCo3+の電気陰性度の比は0.57に過ぎない。比較例7で調製された電池の1サイクル目の放電容量及び50サイクルの容量維持率はいずれも著しく低下し、且つサイクル安定性が急激に悪化した。それは、Coより高い電気陰性度を有するM元素のカチオンから形成したM-O結合は、酸素のバンド構造を低下させ、Coと酸素のバンドのオーバーラップを低減させ、さらに酸素の活性を低減させ、酸素を安定にすることができ、それによって、正極活物質は高温高圧下でより高い安定性を有するようにすることができるからです。
【0107】
さらに、上記の調製方法により実施例13~16を調製した。実施例3、13~16で調製された正極活物質は成分が同じで、Li0.73Na0.012Co0.988Al0.0121.9950.005である。XPSにより分析し、粒子表面におけるR元素の濃度、粒子内部におけるR元素の濃度、粒子表面から深さ50nmまでの領域内のR元素の濃度とその他の領域内のR元素の濃度の比、及びその他の領域内の任意位置におけるR元素の濃度の差を測定した。また、上記の正極活物質から調製されたリチウムイオン電池の性能パラメータは表4に示された。
【0108】
【表4】
【0109】
表4のデータの比較から分かるように、正極活物質の粒子表面から深さ50nmまでの領域内のR元素の濃度とその他の領域内のR元素の濃度との比が(1~10):1であり、且つその他の領域内の任意位置におけるR元素の濃度の差が5%未満の範囲内にある場合、リチウム電池の1サイクル目の放電容量及び50サイクルの容量維持率は、いずれも比較的に高い程度に維持することができる。正極活物質の粒子表面から深さ50nmまでの領域内のR元素の濃度とその他の領域内のR元素の濃度との比が10:1超である場合、又はその他の領域内の任意位置におけるR元素の濃度の差が5%超である場合、リチウム電池の1サイクル目の放電容量及び50サイクルの容量維持率はいずれもある程度に低下した。それは、正極活物質の表面におけるR元素がドープされた濃度は内部におけるR元素がドープされた濃度よりはるかに高く、材料の表面にCEIが堆積して、又はCo-Rが表面に堆積することで、抵抗が悪化することを引き起こし、前記正極活物質内のR元素の濃度が均一でなく、局所的な過充電又は過剰吸蔵を引き起こしやすく、リチウム電池の1サイクル目の放電容量及びサイクルの容量維持率に影響を与えるからです。
【0110】
さらに、上記の調製方法により実施例17~19を調製した。実施例3、17~19で調製された正極活物質は、成分が同じで、Li0.73Na0.012Co0.988Al0.0121.9950.005であり、電子顕微鏡により分析し、粒子表面の孔、及び内部の隙間を観察し、また、上記の正極活物質から調製されたリチウムイオン電池の性能パラメータは表5に示された。
【0111】
【表5】
【0112】
表5から分かるように、実施例3で調製された正極活物質は孔及び隙間を含み、実施例3から調製された電池は、1サイクル目の放電容量が235mAh/gとなり、50サイクルの容量維持率が91%となることができる。それに対して、実施例17~19から調製された電池の1サイクル目の放電容量及び50サイクルの容量維持率はいずれもある程度に低下した。それは、粒子が有する孔及び隙間ような構造は、サイクル過程における活物質の表面及び/又は内部で生じた応力とひずみを放出するに有利であり、正極活物質と電解液との間の界面を安定にすることで、サイクルの容量維持率を向上させ、高電圧でのサイクル安定性を向上させるからです。
【0113】
さらに、上記の調製方法により実施例20~22を調製した。実施例20~22で調製された正極活物質は、成分が同じで、Li0.73Na0.012Co0.988Al0.0121.9950.005であり、測定された正極活物質の比表面積は表6に示され、また、上記の正極活物質から調製されたリチウムイオン電池の性能パラメータは表6に示された。
【0114】
【表6】
【0115】
表6から分かるように、実施例3、20及び21の比表面積は0.72m/g~2.5m/gの範囲内にある。比表面積が大きすぎることないため、正極活物質の空気、水及び二酸化炭素に対する安定性を向上させ、正極活物質の表面の電解液の反応活性を低下させることができ、それによって、サイクルの容量維持率を向上させ、高電圧でのサイクル安定性を向上させる。実施例22の比表面積は3.2m/gに達し、比表面積が大きすぎて、正極活物質の表面の電解液の反応活性が増加し、材料の表面の副反応が増加し、サイクルの容量維持率及び高電圧下のサイクル安定性はいずれもある程度に低下した。
【0116】
さらに、上記の調製方法により実施例23~24を調製した。実施例3及び実施例23~24で調製された正極活物質は、成分が同じで、Li0.73Na0.012Co0.988Al0.0121.9950.005であり、上記の正極活物質から調製されたリチウムイオン電池の性能パラメータは表7に示される。電池は満放電された状態で、容量が180mAh/g以上である場合、X線回折法により分析して、前記正極活物質のXRDスペクトルにおけるメインピークの範囲及びメインピークの半値全幅は表7に示された。
【0117】
【表7】
【0118】
表7から分かるように、実施例3、23及び24の正極活物質はXDRスペクトルにおけるメインピークが18°~19°の範囲内にあり、前記メインピークの半値全幅は0°~0.5°の間にあり、これでわかるように、正極活物質のメインピークの半値全幅が0°~0.5°の間にある場合、正極活物質の結晶構造がより安定であることにより、正極活物質の空気、水及び二酸化炭素に対する安定性を向上させ、正極活物質の表面の電解液の反応活性を低下させることができ、それによって、サイクルの容量維持率を向上させ、高電圧でのサイクル安定性を向上させることが分かる。
【0119】
本発明は、好ましい実施例に基づく開示されたが、当該好もしい実施例は、請求項を限定するためのものではなく、当業者が、本発明の構想を逸脱しない上で、若干の可能な変更及び修正を行うことができるため、本発明の保護範囲は、本発明の請求の範囲により決められた範囲に従うべきである。
図1