IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アルセロールミタルの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】プレス硬化方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/00 20060101AFI20231113BHJP
   C21D 1/18 20060101ALI20231113BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20231113BHJP
   C22C 18/00 20060101ALI20231113BHJP
   C22C 18/04 20060101ALI20231113BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20231113BHJP
   C22C 21/02 20060101ALI20231113BHJP
   C22C 21/06 20060101ALI20231113BHJP
   C22C 21/10 20060101ALI20231113BHJP
   C23C 2/02 20060101ALI20231113BHJP
   C23C 2/06 20060101ALI20231113BHJP
   C23C 2/12 20060101ALI20231113BHJP
   C23C 2/26 20060101ALI20231113BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20231113BHJP
   C22C 38/60 20060101ALN20231113BHJP
   C22C 38/32 20060101ALN20231113BHJP
   C22C 38/58 20060101ALN20231113BHJP
   C22C 19/05 20060101ALN20231113BHJP
【FI】
C21D9/00 A
C21D1/18 C
C21D9/46 J
C21D9/46 U
C22C18/00
C22C18/04
C22C21/00 M
C22C21/02
C22C21/06
C22C21/10
C23C2/02
C23C2/06
C23C2/12
C23C2/26
C22C38/00 301T
C22C38/00 301W
C22C38/60
C22C38/32
C22C38/58
C22C19/05 B
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022525330
(86)(22)【出願日】2020-10-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-11
(86)【国際出願番号】 IB2020059842
(87)【国際公開番号】W WO2021084379
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-06-22
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2019/059288
(32)【優先日】2019-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グリゴリーバ,ライサ
(72)【発明者】
【氏名】ドゥミニカ,フローリン
(72)【発明者】
【氏名】ナビ,ブラヒム
(72)【発明者】
【氏名】ドリエ,パスカル
(72)【発明者】
【氏名】スチューレル,ティエリー
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-518136(JP,A)
【文献】特開2014-132110(JP,A)
【文献】特表2018-528324(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/00- 9/44
C21D 9/50
C21D 1/02- 1/84
C23C 2/00- 2/40
B21D 22/00-26/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス硬化方法であって、以下のステップ:
A.任意選択的に亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングでコーティングされた、熱処理用鋼板の提供ステップと、
B.可変厚さを有する鋼板を得るための圧延方向での前記鋼板のフレキシブル圧延ステップと、
C.テーラードロールドブランクを得るための前記圧延鋼板の切断ステップと、
D.10~550nmの厚さにわたる水素バリアプレコーティングの堆積ステップと、
ここで、水素バリアプレコーティングが、ニッケル、クロム、マグネシウム、アルミニウム及びイットリウムの中から選択される少なくとも1つの元素を含み、
E.鋼中に完全オーステナイト微細構造を得るための前記テーラードロールドブランクの熱処理ステップと、ここで、熱処理が、800~970℃の温度で、1~12分の滞留時間中に実行され、
F.前記テーラードロールドブランクのプレスツールへの移送ステップと、
G.可変厚さを有する部品を得るための前記テーラードロールドブランクの熱間成形ステップと、
H.マルテンサイト若しくはマルテンサイト-ベイナイトであるか、又は体積分率で少なくとも75%の等軸フェライト、5~20体積%のマルテンサイト及び10体積%以下の量のベイナイトで作製される鋼中の微細構造を得るためのステップG)で得られた前記可変厚さを有する部品の冷却ステップと、
を含む、プレス硬化方法。
【請求項2】
任意選択的に、ステップA)において、任意選択の亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングが、アルミニウムをベースとし、かつ15%未満のSi、5.0%未満のFe、任意選択的に0.1~8.0%のMg及び任意選択的に0.1~30.0%のZnを含み、残りがAlである、請求項1に記載のプレス硬化方法。
【請求項3】
任意選択的に、ステップA)において、任意選択の亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングが、亜鉛をベースとし、かつ6.0%未満のAl、6.0%未満のMgを含み、残りがZnである、請求項1に記載のプレス硬化方法。
【請求項4】
ステップB)において、フレキシブル圧延が、熱間圧延又は冷間圧延ステップである、請求項1~3のいずれか一項に記載のプレス硬化方法。
【請求項5】
ステップD)において、水素バリアプレコーティングが、ニッケル及びクロム、又はニッケル及びアルミニウム、又はクロム、又はマグネシウム、又はニッケル、アルミニウム及びイットリウムからなる、請求項1~4のいずれか一項に記載のプレス硬化方法。
【請求項6】
ステップD)の水素バリアプレコーティングが、物理蒸着、電気亜鉛めっき又はロールコーティングによって堆積される、請求項1~のいずれか一項に記載のプレス硬化方法。
【請求項7】
ステップE)において、雰囲気が、不活性であるか、又は1体積%の酸素からなる雰囲気の酸化力以上及び50体積%の酸素からなる雰囲気の酸化力以下の酸化力を有する、請求項1~のいずれか一項に記載のプレス硬化方法。
【請求項8】
ステップE)において、雰囲気が、-30~+30℃の露点を有する、請求項に記載の方法。
【請求項9】
ステップG)中に、600~830℃の温度でブランクの熱間成形が実行される、請求項1~のいずれか一項に記載のプレス硬化方法。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項に記載の方法から得られる部品であって、可変厚さを有する鋼板と、均一な厚さを有し、かつ前記鋼板からの鉄の拡散によって合金化される水素バリアプレコーティングとを備え、前記鋼板からの鉄の酸化物及び前記水素バリアプレコーティングからの他の元素の酸化物を含有する酸化物層によって上部が覆われ、かかる酸化物層が1μm以下の厚さを有する、部品。
【請求項11】
請求項1~のいずれか一項に記載の方法から得られる部品であって、いずれも可変厚さを有する亜鉛系プレコーティングでプレコーティングされた鋼板と、均一な厚さを有し、かつ前記鋼板からの鉄の拡散並びに前記亜鉛系プレコーティングからの亜鉛及び他の元素の拡散によって合金化される水素バリアプレコーティングとを備え、前記鋼板からの鉄の酸化物並びに前記プレコーティングからの亜鉛及び他の元素の酸化物を含有する酸化物層によって上部が覆われ、かかる酸化物層が1,5μm以下の厚さを有する、部品。
【請求項12】
請求項1~のいずれか一項に記載の方法から得られる部品であって、いずれも可変厚さを有するアルミニウム系プレコーティングでプレコーティングされた鋼板と、均一な厚さを有し、かつ前記鋼板からの鉄の拡散並びに前記アルミニウム系プレコーティングからのアルミニウム及び他の元素の拡散によって合金化される水素バリアプレコーティングとを備え、前記鋼板からの鉄の酸化物並びに前記プレコーティングからのアルミニウム及び他の元素の酸化物を含有する酸化物層によって上部が覆われ、かかる酸化物層が1,5μm以下の厚さを有する、部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素バリアプレコーティングを用いた熱処理用鋼板からプレス硬化部品を製造するための方法に関する。これらの部品は、可変厚さも特徴としながら、遅れ破壊に対する顕著な耐性を有するべきである。
【背景技術】
【0002】
プレス硬化用のコーティングされた鋼板は、「プレコーティング」と呼ばれることがあり、この接頭語は、プレコーティングの性質の変質がスタンピング前の熱処理中に起こることを示す。2つ以上のプレコーティングが存在し得る。本発明は、1つのプレコーティング、任意選択的に2つのプレコーティングを開示する。
【0003】
プレス硬化は、水素吸収にとって重要であることが知られており、遅れ破壊に対する感度を高める。吸収は、オーステナイト化熱処理時に起こり得る。そして、これは、熱間プレスがそれ自体を形成する前の加熱ステップである。鋼中への水素の飽和は、実際に冶金相に依存する。さらに、高温では、炉内の水は、鋼板の表面で水素及び酸素に解離する。
【0004】
加えて、可変厚さを有する部品は、標準部品よりもオーステナイト化熱処理中により多くの水素を吸収することが知られている。可変厚さを有する部品は、通常、連続的なフレキシブル圧延によって生成され、圧延後に得られる板厚は、圧延方向に可変である。これは、欧州特許第1074317号明細書に記載されているように、圧延プロセスにローラを通してシートに加えられた荷重に関連して発生する。フレキシブル圧延は、圧延動作中にロールギャップを意図的に変化させることを特徴とする。フレキシブル圧延の目的は、荷重及び重量が最適化された断面を有する圧延シートを生成することである。厚さは、1~50%まで変動し得る圧延率から継承される。可変厚さを有するストリップから切断されたブランクは、テーラーロールドブランクとして一般に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】欧州特許第1074317号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、テーラードロールドブランクとへの水素吸収が防止されるプレス硬化方法を提供することである。熱間成形を含む該プレス硬化方法によって得られる遅れ破壊に対する優れた耐性を有する部品を利用可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、以下のステップ:
A.任意選択的に亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングでプレコーティングされた、熱処理用の鋼製シートの提供ステップと、
B.可変厚さを有する鋼板を得るための圧延方向での鋼板のフレキシブル圧延ステップと、
C.テーラードロールドブランクを得るための圧延鋼板の切断ステップと、
D.10~550nmの厚さにわたる水素バリアプレコーティングの堆積ステップと、
E.鋼中に完全オーステナイト微細構造を得るためのテーラードロールドブランクの熱処理ステップと、
F.テーラードロールドブランクのプレスツールへの移送ステップと、
G.可変厚さを有する部品を得るためのテーラードロールドブランクの熱間成形ステップと、
H.マルテンサイト若しくはマルテンサイト-ベイナイトであるか、又は体積分率で少なくとも75%の等軸フェライト、5~20体積%のマルテンサイト及び10体積%以下の量のベイナイトで作製される鋼中の微細構造を得るためのステップG)で得られた可変厚さを有する部品の冷却ステップと、
を含むプレス硬化方法によって達成される。
【0008】
実際、本発明者らは、驚くべきことに、フレキシブル圧延後及び熱処理前に鋼板が水素バリアプレコーティングでプレコーティングされると、プレコーティングのバリア効果が高度に改善され、鋼板への水素の吸収をさらに防止することを見出した。
【0009】
さらに、熱処理中に、熱力学的に安定な酸化物が低い動力学でバリアプレコーティングの表面に形成されると思われる。これらの熱力学的に安定な酸化物は、水素吸収をさらに減少させる。
【0010】
ステップA)において、使用される鋼板は、欧州規格EN 10083に記載されている熱処理用鋼で作製される。それは、熱処理前又は熱処理後に、500MPaを超える、有利には500~2000MPaの引張抵抗を有することができる。
【0011】
鋼板の重量組成は、好ましくは以下:0.03%≦C≦0.50%、0.3%≦Mn≦3.0%、0.05%≦Si≦0.8%、0.015%≦Ti≦0.2%、0.005%≦Al≦0.1%、0%≦Cr≦2.50%、0%≦S≦0.05%、0%≦P≦0.1%、0%≦B≦0.010%、0%≦Ni≦2.5%、0%≦Mo≦0.7%、0%≦Nb≦0.15%、0%≦N≦0.015%、0%≦Cu≦0.15%、0%≦Ca≦0.01%、0%≦W≦0.35%の通りであり、残余は鉄及び鋼の製造に起因する不可避的不純物である。
【0012】
例えば、鋼板は、以下の組成:0.20%≦C≦0.25%、0.15%≦Si≦0.35%、1.10%≦Mn≦1.40%、0%≦Cr≦0.30%、0%≦Mo≦0.35%、0%≦P≦0.025%、0%≦S≦0.005%、0.020%≦Ti≦0.060%、0.020%≦Al≦0.060%、0.002%≦B≦0.004%を有する22MnB5であり、残余は鉄及び鋼の製造に起因する不可避的不純物である。
【0013】
鋼板は、以下の組成:0.24%≦C≦0.38%、0.40%≦Mn≦3%、0.10%≦Si≦0.70%、0.015%≦Al≦0.070%、0%≦Cr≦2%、0.25%≦Ni≦2%、0.020%≦Ti≦0.10%、0%≦Nb≦0.060%、0.0005%≦B≦0.0040%、0.003%≦N≦0.010%、0.0001%≦S≦0.005%、0.0001%≦P≦0.025%を有するチタン及び窒素の含有量は、Ti/N>3.42を満たし、炭素、マンガン、クロム、及びケイ素の含有量は、以下を満たすことが理解され、
【0014】
【数1】
【0015】
組成物は、任意選択的に、以下:0.05%≦Mo≦0.65%、0.001%≦W≦0.30%、0.0005%≦Ca≦0.005%のうちの1つ以上を含み、残余は鉄及び鋼の製造に起因する不可避的不純物であるUsibor(R)2000であり得る。
【0016】
鋼板は、以下の組成:0.040%≦C≦0.100%、0.80%≦Mn≦2.00%、0%≦Si≦0.30%、0%≦S≦0.005%、0%≦P≦0.030%、0.010%≦Al≦0.070%、0.015%≦Nb≦0.100%、0.030%≦Ti≦0.080%、0%≦N≦0.009%、0%≦Cu≦0.100%、0%≦Ni≦0.100%、0%≦Cr≦0.100%、0%≦Mo≦0.100%、0%≦Ca≦0.006%を有するDuctibor(R)500であり得、残余は鉄及び鋼の製造に起因する不可避的不純物である。
【0017】
鋼板は、所望の厚さに応じて熱間圧延及び任意選択に、冷間圧延によって得ることができ、これは例えば0.7mm~3.0mmであり得る。
【0018】
任意選択的に、ステップA)において、鋼板は、防食目的のために亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングによって直接上部を覆うことができる。
【0019】
好ましい実施形態では、亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングは、アルミニウムをベースとし、15%未満のSi、5.0%未満のFe、任意選択的に0.1~8.0%のMg及び任意選択的に0.1~30.0%のZnを含み、残りはAlである。例えば、亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングは、AluSi(R)である。
【0020】
別の好ましい実施形態では、亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングは、亜鉛をベースとし、6.0%未満のAl、6.0%未満のMgを含み、残りはZnである。例えば、亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングは、以下の製品:Usibor(R)GIを得るための亜鉛コーティングである。
【0021】
亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングはまた、不純物及び残留元素、最大5.0重量%、好ましくは3.0重量%の含有量のそのような鉄を含むことができる。
【0022】
亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングは、当業者に知られた任意の方法、例えば溶融亜鉛めっき法、ロールコーティング、電気亜鉛めっき法、ジェット蒸着などの物理蒸着、マグネトロンスパッタリング又は電子ビーム誘起蒸着によって堆積させることができる。
【0023】
任意選択的に亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングの堆積後、スキンパスを実現することができ、コーティングされた鋼板を加工硬化し、その後の成形を容易にする粗さを与えることを可能にする。例えば、接着結合又は耐食性を改善するために、脱脂及び表面処理を施すことができる。
【0024】
任意選択的に亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングでプレコーティングされた、熱処理用鋼板を提供した後、鋼板は可変厚さを得るために圧延される。
【0025】
好ましくは、ステップB)において、フレキシブル圧延は、熱間圧延又は冷間圧延ステップである。好ましくは、圧延率は、1~50%である。次いで、シートを切断して、テーラードロールドブランクを得る。
【0026】
任意選択的に、ステップD)において、水素バリアプレコーティングは、Sr、Sb、Pb、Ti、Ca、Mn、Sn、La、Ce、Cr、Zr又はBiから選択される元素を含み、各追加の元素の重量含有率は、0.3重量%に及ばない。
【0027】
好ましくは、ステップD)において、水素バリアプレコーティングは、以下:ニッケル、クロム、マグネシウム、アルミニウム及びイットリウムの中から選択される少なくとも1つの元素を含む。
【0028】
好ましくは、ステップD)において、水素バリアプレコーティングは、ニッケル及びクロムからなり、すなわち、水素バリアプレコーティングは、ニッケル、クロム及び任意元素を含む。有利には、Ni/Cr重量比は、1.5~9である。実際、いかなる理論にも束縛されるものではないが、この特定の比は、オーステナイト化熱処理中の水素吸収をさらに減少させると考えられる。
【0029】
別の好ましい実施形態では、水素バリアプレコーティングは、ニッケル及びアルミニウムからなり、すなわち、水素バリアプレコーティングは、Ni、Al及び追加の元素を含む。
【0030】
別の好ましい実施形態では、水素バリアプレコーティングは、クロムからなり、すなわち、水素バリアプレコーティングは、Cr及び追加の元素のみを含む。
【0031】
別の好ましい実施形態では、水素バリアプレコーティングは、マグネシウムからなり、すなわち、水素バリアプレコーティングは、Mg及び追加の元素のみを含む。
【0032】
別の好ましい実施形態では、水素バリアプレコーティングは、ニッケル、クロム、アルミニウム及びイットリウムからなり、すなわち、水素バリアプレコーティングは、Ni、Al及びY並びに追加の元素を含む。
【0033】
好ましくは、ステップD)において、水素バリアプレコーティングは、10~550nm、好ましくは10~90又は150~250nmの厚さを有する。例えば、水素バリアプレコーティングの厚さは、50、200又は400nmである。
【0034】
いかなる理論にも束縛されるものではないが、水素バリアプレコーティングが10nm未満である場合、水素バリアプレコーティングが鋼板を十分に覆わないため、鋼中に水素を吸収するリスクがあると思われる。水素バリアプレコーティングが550nmを超える場合、水素バリアプレコーティングがより脆くなり、水素バリアプレコーティングの脆性に起因して水素吸収が始まるリスクがあると思われる。
【0035】
より好ましくは、ステップD)において、鋼板は、フレキシブル圧延の前に亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングによって直接上部が覆われ、この圧延された亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティング層は、水素バリアプレコーティングよって直接上部が覆われる。
【0036】
好ましくは、ステップD)の水素バリアプレコーティングは、物理蒸着、電気亜鉛めっき又はロールコーティングによって堆積される。好ましくは、水素バリアプレコーティングは、電子ビーム誘起堆積又はロールコーティングによって堆積される。
【0037】
炉内でテーラードロールドブランクに熱処理を施す。好ましくは、ステップE)において、雰囲気は、不活性であるか、又は1体積%の酸素からなる雰囲気の酸化力以上及び50体積%の酸素からなる雰囲気の酸化力以下の酸化力を有する。雰囲気は、特に、N若しくはAr、又は窒素若しくはアルゴンとガス酸化剤との混合物、例えば酸素、COとCOとの混合物又はHとHOとの混合物などで作製され得る。不活性ガスを添加せずに、COとCOとの混合物又はHとHとの混合物を使用することも可能である。
【0038】
好ましくは、ステップE)において、雰囲気は、10体積%の酸素からなる雰囲気の酸化力以上及び30体積%の酸素からなる雰囲気の酸化力以下の酸化力を有する。例えば、雰囲気は、空気であり、すなわち約78%のN、約21%のO並びに希ガス、二酸化炭素及びメタンなどの他のガスからなる。
【0039】
好ましくは、ステップE)において、露点は、-30℃~+30℃、より好ましくは-20℃~+20℃、有利には-15℃~+15℃である。実際、いかなる理論にも束縛されるものではないが、露点が上記範囲にある場合、熱力学的に安定な酸化物の層は、熱処理中のH吸着をよりさらに減少させると考えられる。
【0040】
好ましくは、熱処理は、800~970℃の温度で実行される。より好ましくは、熱処理は、通常840~950℃、好ましくは880~930℃のオーステナイト化温度Tmで実行される。有利には、該ブランクは、1~12分、好ましくは3~9分の滞留時間tmの間維持される。熱間成形前の熱処理中に、プレコーティングは、腐食、摩耗、摩擦及び疲労に対して高い耐性を有する合金層を形成する。
【0041】
次いで、熱処理後、ブランクを熱間成形ツールに移し、600~830℃の温度で熱間成形する。熱間成形は、ホットスタンピング又はロール成形であり得る。好ましくは、ブランクは、ホットスタンプされる。次いで、部品は、熱間成形ツールで、又は特定の冷却ツールへの移送後に冷却される。
【0042】
冷却速度は、熱間成形後の最終微細構造が大部分がマルテンサイトを含み、好ましくはマルテンサイト、又はマルテンサイト及びベイナイトを含有し、又は少なくとも75%の等軸フェライト、5~20%のマルテンサイト及び10%以下の量のベイナイトで作製されるように、鋼組成に応じて制御される。
【0043】
部品は、水素バリアプレコーティングでコーティングされた可変厚さを有する鋼板と、熱力学的に安定な酸化物を含む酸化物層とを備え、そのような水素バリア再コーティングは、鋼板との拡散によって合金化される。
【0044】
好ましくは、部品は亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングによって直接上部が覆われる鋼板を含み、両方とも可変厚さを有する。この亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティング層は、水素バリア鉱石コーティング及び熱力学的に安定な酸化物を含む酸化物層によって直接上部が覆われる。水素バリアプレコーティングは、亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングとの拡散によって合金化される。亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングも鋼板と合金化される。いかなる理論にも束縛されるものではないが、鋼からの鉄は、熱処理中に水素バリアプレコーティングの表面に拡散すると思われる。
【0045】
好ましくは、熱力学的に安定な酸化物は、それぞれCr、FeO、NiO、Fe、Fe、MgO、Y又はそれらの混合物を含むことができる。
【0046】
亜鉛系プレコーティングが存在する場合、酸化物は、ZnOも含むことができる。アルミニウム系プレコーティングが存在する場合、酸化物は、Al及び/又はMgAlも含むことができる。
【0047】
好ましくは、部品は、フロントレール、シートクロス部材、サイドシル部材、ダッシュパネルクロス部材、フロントフロアリーンフォース、リアフロアクロス部材、リアレール、Bピラー、ドアリング又はショットガンである。
【0048】
自動車用途では、リン酸塩処理ステップ後、部品は、電着浴に浸漬される。通常、リン酸塩層の厚さは、1~2μmであり、電着層の厚さは、15~25μmであり、好ましくは20μm以下である。電気泳動層は、腐食に対する追加の保護を保証する。電着ステップ後、他の塗料層、例えば、塗料のプライマーコート、ベースコート層及びトップコート層を堆積させることができる。
【0049】
部品上に電着を施す前に、電気泳動の付着を確実にするために、部品を予め脱脂し、リン酸塩処理する。
【0050】
ここで、本発明を、情報のみを目的として実施された試験例において説明する。それらは、限定的ではない。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0051】
すべての試料について、使用される鋼板は、22MnB5である。鋼の組成は以下の通りである:C=0.2252%、Mn=1.1735%、P=0.0126%、S=0.0009%、N=0.0037%、Si=0.2534%、Cu=0.0187%、Ni=0.0197%、Cr=0.180%、Sn=0.004%、Al=0.0371%、Nb=0.008%、Ti=0.0382%、B=0.0028%、Mo=0.0017%、As=0.0023%、et V=0.0284%。
【0052】
いくつかの鋼板は、以下「AluSi(R)」と呼ばれる第1のプレコーティングでコーティングされる。このプレコーティングは、9重量%のケイ素、3重量%の鉄を含み、残りはアルミニウムである。それは、溶融亜鉛めっきによって堆積される。
【0053】
いくつかの鋼板は、マグネトロンスパッタリングによって堆積された第2のプレコーティングでプレコーティングされる。
【0054】
[実施例1]:水素試験:
この試験を使用して、プレス硬化方法のオーステナイト化熱処理中に吸着される水素の量を決定する。
【0055】
試験品1は、AluSi(R)(25μm)である第1のプレコーティングでコーティングされた鋼板である。試験品1では、フレキシブル圧延を実行した。次いで、試験品1を切断して、テーラードロールドブランクを得る。
【0056】
試験品2は、AluSi(R)(25μm)である第1のコーティング及び80%のNi及び20%のCrを含む第2のプレコーティングでプレコーティングされた鋼板である。次いで、試験品2では、フレキシブル圧延を実行した。試験品2を切断して、テーラードロールドブランクを得た。この場合、水素バリアプレコーティングは、フレキシブル圧延の前に堆積された。
【0057】
試験品3は、AluSi(R)(25μm)である第1のプレコーティング及び80%のNi及び20%のCrを含む第2のプレコーティングでプレコーティングされた鋼板である。試験品3は、最初にAluSi(R)の第1のプレコーティングでコーティングした。次いで、50%圧延のフレキシブル圧延を実行した後、切断してテーラードロールドブランクを得た。その後、80%のNi及び20%のCrを含む第2のプレコーティングを試験品3で堆積させた。この場合、水素バリアプレコーティングは、フレキシブル圧延後に堆積させた。
【0058】
その後、すべての試験品を、5~10分で変動する滞留時間の間、900℃の温度で加熱した。熱処理中の雰囲気は、空気であった。ブランクをプレスツールに移し、可変厚さを有する部品を得るためにホットスタンピングした。次いで、温水に浸漬することによって部品を冷却し、マルテンサイト変態による硬化を得た。
【0059】
最後に、熱処理中に鋼板によって吸収された水素量を、熱脱着分析装置又すなわちTDAを使用して熱脱着によって測定した。この目的のために、各試験品を石英室に入れ、窒素流下で赤外線炉内でゆっくりと加熱した。放出された水素/窒素混合物を漏れ検出器でピックアップし、質量分析計で水素濃度を測定した。
【0060】
結果を以下の表1に示す:
【0061】
【表1】
【0062】
本発明による試験品3は、非常に少量の水素を放出する。
【0063】
熱処理及び熱間成形後、試験品3の表面を分析した。それは、表面上に以下の酸化物:Cr、NiO、Fe、Fe及びAlを含む。
【0064】
鋼板から外面まで、試験品3の部品は、以下の層:
・鋼板からの鉄、アルミニウム、ケイ素及び他の元素を含み、10~15μmの厚さを有する相互拡散層と、
・鋼板からのアルミニウム、ケイ素及び鉄を、下の層及び他の元素より少ない量で含有し、20~35μmの厚さを有する合金層と、
・下の層よりも少ない鉄及び多くの酸化物を含有し、100~300nmの厚さを有する薄層と、
・下の層、特にNi、Cr及びAl酸化物と比較して、最大量の酸化物を含有し、表面の真下に位置し、50~150nmの厚さを有するより薄い層と、
を備える。