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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】プレス硬化方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/00 20060101AFI20231113BHJP
   C21D 1/18 20060101ALI20231113BHJP
   C21D 1/26 20060101ALI20231113BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20231113BHJP
   C22C 18/00 20060101ALI20231113BHJP
   C22C 18/04 20060101ALI20231113BHJP
   C22C 19/03 20060101ALI20231113BHJP
   C22C 19/05 20060101ALI20231113BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20231113BHJP
   C22C 21/02 20060101ALI20231113BHJP
   C22C 21/06 20060101ALI20231113BHJP
   C22C 21/10 20060101ALI20231113BHJP
   C22C 23/00 20060101ALI20231113BHJP
   C22C 27/06 20060101ALI20231113BHJP
   C22C 28/00 20060101ALI20231113BHJP
   C23C 2/06 20060101ALI20231113BHJP
   C23C 2/12 20060101ALI20231113BHJP
   C23C 2/26 20060101ALI20231113BHJP
   C23C 28/02 20060101ALI20231113BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20231113BHJP
   C22C 38/60 20060101ALN20231113BHJP
【FI】
C21D9/00 A
C21D1/18 C
C21D1/26 D
C21D9/46 J
C21D9/46 U
C22C18/00
C22C18/04
C22C19/03 G
C22C19/05 B
C22C21/00 M
C22C21/02
C22C21/06
C22C21/10
C22C23/00
C22C27/06
C22C28/00 A
C23C2/06
C23C2/12
C23C2/26
C23C28/02
C22C38/00 301T
C22C38/00 301W
C22C38/60
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022525331
(86)(22)【出願日】2020-10-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-11
(86)【国際出願番号】 IB2020059838
(87)【国際公開番号】W WO2021084377
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-06-21
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2019/059286
(32)【優先日】2019-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グリゴリーバ,ライサ
(72)【発明者】
【氏名】ドゥミニカ,フローリン
(72)【発明者】
【氏名】ナビ,ブラヒム
(72)【発明者】
【氏名】ドリエ,パスカル
(72)【発明者】
【氏名】スチューレル,ティエリー
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-518136(JP,A)
【文献】特表2019-506523(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/00- 9/44
C21D 9/50
C21D 1/02- 1/84
C23C 2/00- 2/40
B21D 22/00-26/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス硬化方法であって、以下のステップ:
A.防食目的のための亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングでプレコーティングされた熱処理用鋼板の提供ステップと、
B.10~550nmの厚さにわたる水素バリアプレコーティングの堆積ステップと、
C.当該亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングと鋼板との間でプレ合金化された鋼板を得るための不活性雰囲気中での前記プレコーティングされた鋼板のバッチ焼鈍ステップと、
D.ブランクを得るための前記プレ合金化された鋼板の切断ステップと、
E.鋼中に完全オーステナイト微細構造を得るための前記ブランクの熱処理ステップと、
F.前記ブランクのプレスツールへの移送ステップと、
G.部品を得るための前記ブランクの熱間成形ステップと、
H.マルテンサイト若しくはマルテンサイト-ベイナイトであるか、又は体積分率で少なくとも75%の等軸フェライト、5~20体積%のマルテンサイト及び10体積%以下の量のベイナイトで作製される鋼中の微細構造を得るためのステップG)で得られた前記部品の冷却ステップと、
を含む、プレス硬化方法。
【請求項2】
ステップB)において、水素バリアプレコーティングが、ニッケル、クロム、マグネシウム、アルミニウム及びイットリウムの中から選択される少なくとも1つの元素を含む、請求項1に記載のプレス硬化方法。
【請求項3】
ステップB)において、水素バリアプレコーティングが、ニッケル及びクロム、又はニッケル及びアルミニウム、又はマグネシウム、又はクロム、又はニッケル、アルミニウム及びイットリウムからなる、請求項1又は2に記載のプレス硬化方法。
【請求項4】
ステップA)において、亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングが、亜鉛をベースとし、かつ6.0%未満のAl、6.0%未満のMgを含み、残りがZnである、請求項1~3のいずれか一項に記載のプレス硬化方法。
【請求項5】
ステップA)において、亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングが、アルミニウムをベースとし、かつ15%未満のSi、5.0%未満のFe、任意に0.1~8.0%のMg及び任意に0.1~30.0%のZnを含み、残りがAlである、請求項1~3のいずれか一項に記載のプレス硬化方法。
【請求項6】
ステップC)において、バッチ焼鈍が、450~750℃の温度で実行される、請求項1~5のいずれか一項に記載のプレス硬化方法。
【請求項7】
ステップC)において、バッチ焼鈍の加熱速度が、5000℃.h-1以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載のプレス硬化方法。
【請求項8】
ステップC)において、冷却速度が、100℃.h-1以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載のプレス硬化方法。
【請求項9】
ステップC)において、バッチ焼鈍が、1~100時間の間実行される、請求項1~8のいずれか一項に記載のプレス硬化方法。
【請求項10】
不活性ガスが、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、窒素、水素又はそれらの混合物から選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載のプレス硬化方法。
【請求項11】
ステップE)において、雰囲気が、互いに独立して、不活性であるか、又は1体積%の酸素からなる雰囲気の酸化力以上及び50体積%の酸素からなる雰囲気の酸化力以下の酸化力を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載のプレス硬化方法。
【請求項12】
ステップE)において、雰囲気が、-10℃以下の露点を有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ステップE)において、熱処理が、800~970℃の温度で実行される、請求項1~12のいずれか一項に記載のプレス硬化方法。
【請求項14】
ステップG)中に、600~830℃の温度でブランクを熱間成形する、請求項1~13のいずれか一項に記載のプレス硬化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防食目的のためのプレコーティングでコーティングされた鋼板であって、水素吸収をより良好に抑制する水素バリアプレコーティング及び遅れ亀裂に対する優れた耐性を有する部品によって直接上部が覆われる、鋼板を提供することを含む、プレス硬化方法に関する。本発明は、自動車車両の製造に特によく適している。
【背景技術】
【0002】
プレス硬化用のコーティングされた鋼板は、「プレコーティング」と呼ばれることがあり、この接頭語は、プレコーティングの性質の変質がスタンピング前の熱処理中に起こることを示す。2つ以上のプレコーティングが存在し得る。本発明は、2つのプレコーティングを開示する。
【0003】
特に自動車分野における特定の用途では、衝撃の場合に金属構造体をさらに軽量化及び強化すること、並びに良好な延伸性も必要であることが知られている。この目的のために、改善された機械的特性を有する鋼が通常使用され、そのような鋼は、コールド及びホットスタンピングによって形成される。
【0004】
しかしながら、遅れ亀裂に対する感受性は、特に特定の冷間成形又は熱間成形操作後に機械的強度とともに増加することが知られており、これは、変形後に高い残留応力が残りやすいためである。鋼板中に存在する可能性のある原子状水素と組み合わせて、これらの応力は、遅れ亀裂、すなわち変形自体の一定時間後に発生する亀裂をもたらしやすい。水素は、マトリックス/介在物界面、双晶境界及び粒界などの結晶格子欠陥への拡散によって徐々に蓄積し得る。後者の欠陥では、水素が一定時間後に臨界濃度に達すると有害になり得る。この遅れは、残留応力分布場及び水素拡散の動力学から生じ、室温での水素拡散係数は低い。加えて、粒界に局在する水素は、それらの凝集を弱め、遅れ粒間亀裂の出現を促進する。
【0005】
いくつかの部品は、アルミニウム系のコーティングされた鋼板をプレ合金化し、次いでコーティングされたプレ合金化鋼板を熱間成形することによって生成される。通常、これらの部品は、バッチ焼鈍中及びホットスタンピング中の水素吸収に関して非常に悪い挙動を有する。実際、バッチ焼鈍は、数時間実行されるため、バッチ焼鈍中に大量の水素を特に吸収する可能性がある。
【0006】
欧州特許出願公開第3396010明細書は、熱間成形用のAl-Fe合金でコーティングされた鋼板を製造する方法を開示しており、Al-Fe合金でコーティングされた鋼板は、水素遅れ破壊及びコーティング層分離に対する高い耐性並びに高い溶接性を有し、方法は、
-母鋼板の表面上にAl-Siコーティング層を形成することと、
-露点が-10℃未満の雰囲気が存在する加熱炉内で、Al-Siでコーティングされた母鋼板を、1℃/hr~500℃/hrの加熱速度で、450℃~750℃の範囲の熱処理最高温度に加熱することと、
-Al-Siでコーティングされた母鋼板を熱処理最高温度で1時間~100時間維持することにより、母鋼板の表面上にAl-Fe合金コーティング層を形成することと、
を含む。
【0007】
バッチ焼鈍工程の雰囲気及び熱処理条件は、水素遅れ破壊を防止するためのAl-Feの特定の微細構造及び特徴を得るように調整される。
【0008】
実際、この特許出願は、水素遅れ破壊及びコーティング層分離に対する高い耐性並びに高い溶接性を有する、熱間成形用のアルミニウム-鉄(Al-Fe)合金でコーティングされた鋼板を開示し、Al-Fe合金でコーティングされた鋼板は、母鋼板及び母鋼板と酸化物層との間に形成された合金コーティング層を備え、該合金コーティング層が、
母鋼板上に形成され、かつビッカース硬さが200Hv~800HvのAl-Fe合金層Iと、
Al-Fe合金層I上に形成され、かつビッカース硬さが700Hv~1200HvのAl-Fe合金層IIIと、
Al-Fe合金層III中に鋼板の長さ方向に連続又は不連続に形成され、かつビッカース硬さが400Hv~900HvのAl-Fe合金層IIと、を備え、
酸化物層の表面から0.1μmの深さにおける平均酸素含有量は、20重量%以下である。
【0009】
しかしながら、実際には、特定の微細構造及び特徴を有するアルミニウム-鉄合金でコーティングされた鋼板を得ることは非常に困難である。実際、広範囲の露点及び加熱速度が開示されている。したがって、特定のAl-Fe合金コーティングが全範囲で得られず、正しいパラメータを見つけるための重要な研究努力をもたらすリスクがある。
【0010】
欧州特許出願公開第2312005号明細書は、一辺当たりのアルミニウムめっき析出量が30~100g/mであるアルミニウムめっき鋼板を、保持時間及び焼鈍温度をそのX軸及びY軸とし、X軸が対数的に表現されるXY平面において、5点の座標(600℃、5時間)、(600℃、200時間)、(630℃、1時間)、(750℃、1時間)及び(750℃、4時間)を頂点とする五角形の辺を含む内側領域において、保持時間と焼鈍温度とを組み合わせて焼鈍するコイル状態のまま、ボックス焼鈍炉内で焼鈍することを特徴とする、急速加熱ホットスタンピング用のアルミニウムめっき鋼板の生成方法を開示している。また、本特許出願は、上記方法により得られた急速加熱ホットスタンピング用アルミニウムめっき鋼板も開示する。
【0011】
この特許は、鋼中の水素を低減するために、大気雰囲気中で600~750℃でバッチ焼鈍を実行する条件を推奨している。しかしながら、バッチ焼鈍中に吸収される水素の量は、依然として多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】欧州特許出願公開第3396010号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2312005号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明の目的は、プレ合金化されたアルミニウム系鋼板への、つまり、プレス硬化部品への水素吸収が防止される、容易に実施可能なプレス硬化方法を提供することである。熱間成形を含む該プレス硬化方法によって得られる遅れ亀裂に対する優れた耐性を有する部品を利用可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的は、以下のステップ:
A.防食目的のための亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングでプレコーティングされた熱処理用鋼板の提供ステップと、
B.10~550nmの厚さにわたる水素バリアプレコーティングの堆積ステップと、
C.プレ合金化された鋼板を得るための不活性雰囲気中でのプレコーティングされた鋼板のバッチ焼鈍ステップと、
D.ブランクを得るためのプレ合金化された鋼板の切断ステップと、
E.鋼中に完全オーステナイト微細構造を得るためのブランクの熱処理ステップと、
F.ブランクのプレスツールへの移送ステップと、
G.部品を得るためのブランクの熱間成形ステップと、
H.マルテンサイト若しくはマルテンサイト-ベイナイトであるか、又は体積分率で少なくとも75%の等軸フェライト、5~20体積%のマルテンサイト及び10体積%以下の量のベイナイトで作製される鋼中の微細構造を得るためのステップG)で得られた部品の冷却ステップと、
を含むプレス硬化方法を提供することによって達成される。
【0015】
実際、いかなる理論にも束縛されるものではないが、本発明者らは、驚くべきことに、鋼板が水素バリアプレコーティングでプレコーティングされ、バッチ焼鈍が不活性雰囲気中で実行される場合、鋼板への水素の吸収が減少することを見出した。実際、水素バリアプレコーティングのおかげで、熱力学的に安定な酸化物が水素バリアプレコーティングの表面上に低い拡散動力学で形成されると考えられる。これらの熱力学的に安定な酸化物は、H吸収を減少させる。さらに、バッチ焼鈍の雰囲気が酸化性でない場合、プレコーティングがプレコーティングされた鋼板の表面で拡散及び酸化するため、水素の吸収をさらに防止することができると思われる。したがって、亜鉛系又はアルミニウム系及び水素バリアプレコーティングは、プレコーティングされた鋼板の表面で酸化し、両方とも水素に対するバリアのように作用する。
【0016】
ステップA)において、使用される鋼板は、欧州規格EN 10083に記載されている熱処理用鋼で作製される。それは、熱処理前又は熱処理後に、500MPaを超える、有利には500~2000MPaの引張抵抗を有することができる。
【0017】
鋼板の重量組成は、好ましくは以下:0.03%≦C≦0.50%、0.3%≦Mn≦3.0%、0.05%≦Si≦0.8%、0.015%≦Ti≦0.2%、0.005%≦Al≦0.1%、0%≦Cr≦2.50%、0%≦S≦0.05%、0%≦P≦0.1%、0%≦B≦0.010%、0%≦Ni≦2.5%、0%≦Mo≦0.7%、0%≦Nb≦0.15%、0%≦N≦0.015%、0%≦Cu≦0.15%、0%≦Ca≦0.01%、0%≦W≦0.35%の通りであり、残りは鉄及び鋼の製造からの不可避の不純物である。
【0018】
例えば、鋼板は、以下の組成:0.20%≦C≦0.25%、0.15%≦Si≦0.35%、1.10%≦Mn≦1.40%、0%≦Cr≦0.30%、0%≦Mo≦0.35%、0%≦P≦0.025%、0%≦S≦0.005%、0.020%≦Ti≦0.060%、0.020%≦Al≦0.060%、0.002%≦B≦0.004%を有する22MnB5であり、残りは鉄及び鋼の製造からの不可避の不純物である。
【0019】
鋼板は、以下の組成:0.24%≦C≦0.38%、0.40%≦Mn≦3%、0.10%≦Si≦0.70%、0.015%≦Al≦0.070%、0%≦Cr≦2%、0.25%≦Ni≦2%、0.020%≦Ti≦0.10%、0%≦Nb≦0.060%、0.0005%≦B≦0.0040%、0.003%≦N≦0.010%、0.0001%≦S≦0.005%、0.0001%≦P≦0.025%を有するUsibor(R)2000であり得、チタン及び窒素の含有量は、Ti/N>3.42を満たし、炭素、マンガン、クロム、及びケイ素の含有量は、以下を満たすことが理解され、
【0020】
【数1】
【0021】
組成物は、任意に、以下:0.05%≦Mo≦0.65%、0.001%≦W≦0.30%、0.0005%≦Ca≦0.005%のうちの1つ以上を含み、残りは鉄及び鋼の製造からの不可避の不純物である。
【0022】
例えば、鋼板は、以下の組成:0.040%≦C≦0.100%、0.80%≦Mn≦2.00%、0%≦Si≦0.30%、0%≦S≦0.005%、0%≦P≦0.030%、0.010%≦Al≦0.070%、0.015%≦Nb≦0.100%、0.030%≦Ti≦0.080%、0%≦N≦0.009%、0%≦Cu≦0.100%、0%≦Ni≦0.100%、0%≦Cr≦0.100%、0%≦Mo≦0.100%、0%≦Ca≦0.006%を有するDuctibor(R)500であり、残りは鉄及び鋼の製造からの不可避の不純物である。
【0023】
鋼板は、所望の厚さに応じて熱間圧延及び任意に、冷間圧延によって得ることができ、これは例えば0.7mm~3.0mmであり得る。
【0024】
任意に、ステップA)において、水素バリアプレコーティングは、Sr、Sb、Pb、Ti、Ca、Mn、Sn、La、Ce、Cr、Zr又はBiから選択される任意元素を含み、各追加の元素の重量含有率は、0.3重量%に及ばない。
【0025】
好ましくは、ステップA)において、水素バリアプレコーティングは、ニッケル、クロム、アルミニウム、マグネシウム及びイットリウムの中から選択される少なくとも1つの元素を含む。
【0026】
好ましくは、ステップA)において、水素バリアプレコーティングは、ニッケル及びクロムからなり、すなわち、バリアプレコーティングは、ニッケル、クロム及び不可避の不純物を含む。有利には、重量比Ni/Crは、1.5~9である。実際、いかなる理論にも束縛されるものではないが、この特定の比は、オーステナイト化処理中の水素吸収をさらに減少させると考えられる。
【0027】
別の好ましい実施形態では、水素バリアプレコーティングは、ニッケル及びアルミニウムからなり、すなわち、水素バリアプレコーティングは、Ni、Al及び不可避の不純物を含む。
【0028】
別の好ましい実施形態では、水素バリアプレコーティングは、50重量%又は75重量%又は90重量%のクロムからなる。より好ましくは、それはクロムからなり、すなわち水素バリアプレコーティングは、Cr及び不可避の不純物のみを含む。
【0029】
別の好ましい実施形態では、水素バリアプレコーティングは、50重量%又は75重量%又は90重量%のマグネシウムからなる。より好ましくは、それはマグネシウムからなり、すなわち水素バリアプレコーティングは、Mg及び不可避の不純物のみを含む。
【0030】
別の好ましい実施形態では、水素バリアプレコーティングは、ニッケル、アルミニウム及びイットリウムからなり、すなわち、水素バリアプレコーティングは、Ni、Al及びY並びに不可避の不純物を含む。
【0031】
好ましくは、ステップA)において、水素バリアプレコーティングは、10~90nm又は150~250nmの厚さを有する。例えば、水素バリアプレコーティングの厚さは、50、200又は400nmである。
【0032】
いかなる理論にも束縛されるものではないが、水素バリアプレコーティングが10nm未満である場合、水素バリアプレコーティングが鋼板を十分に覆わないため、鋼中に水素を吸収するリスクがあると思われる。水素バリアプレコーティングが550nmを超える場合、水素バリアプレコーティングがより脆くなり、バリアコーティングの脆性に起因して水素吸収が始まるリスクがあると思われる。
【0033】
好ましい実施形態では、亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングは、アルミニウムをベースとし、15%未満のSi、5.0%未満のFe、任意に0.1~8.0%のMg、及び任意に0.1~30.0%のZnを含み、残りはAlである。例えば、亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングは、AluSi(R)である。
【0034】
別の好ましい実施形態では、亜鉛又はアルミニウムプレコーティングは、亜鉛をベースとし、6.0%未満のAl、6.0%未満のMgを含み、残りはZnである。例えば、亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングは、以下の製品:Usibor(R)GIを得るための亜鉛コーティングである。
【0035】
亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングはまた、不純物及び残留元素、最大5.0重量%、好ましくは3.0重量%の含有量のそのような鉄を含むことができる。
【0036】
好ましくは、ステップA)のプレコーティングは、物理蒸着、電気亜鉛めっき、溶融亜鉛めっき又はロールコーティングによって堆積される。好ましくは、水素バリアプレコーティングは、電子ビーム誘起堆積又はロールコーティングによって堆積される。好ましくは、亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングは、溶融亜鉛めっきによって堆積される。
【0037】
任意に、プレコーティングの堆積後、スキンパスを実現することができ、プレコーティングされた鋼板を加工硬化し、その後の成形を容易にする粗さを与えることを可能にする。例えば接着結合又は耐食性を改善するために、脱脂及び表面処理を施すことができる。
【0038】
好ましくは、ステップC)において、バッチ焼鈍は、450~750℃、好ましくは550~750℃の温度で実行される。
【0039】
好ましくは、ステップC)において、不活性ガスは、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、窒素、水素又はそれらの混合物から選択される。
【0040】
有利には、ステップC)において、バッチ焼鈍の加熱速度は、5000℃.h-1以上、より好ましくは10000~15000℃.h-1又は20000~35000℃.h-1である。
【0041】
好ましくは、ステップC)において、冷却速度は、100℃.h-1以下である。好ましくは、冷却速度は、1℃.h-1~100℃.h-1まで変動する3つの冷却速度を有する。
【0042】
好ましくは、ステップC)において、バッチ焼鈍は、1~100時間の間実行される。
【0043】
その後、プレ合金化された鋼板を切断してブランクを得る。
【0044】
熱処理は、不活性雰囲気の炉内でブランクに施される。
【0045】
好ましくは、ステップC)及び/又はE)において、露点は-10℃以下、より好ましくは-30~-60℃である。実際、いかなる理論にも束縛されるものではないが、露点が上記範囲にある場合、熱力学的に安定な酸化物の層は、熱処理中のH吸収をよりさらに減少させると考えられる。
【0046】
好ましくは、熱処理は、800~970℃の温度で実行される。より好ましくは、熱処理は、通常840~950℃、好ましくは880~930℃のオーステナイト化温度Tmで実行される。有利には、該ブランクは、1~12分、好ましくは3~9分の滞留時間tmの間維持される。熱間成形前の熱処理中に、プレコーティングは、腐食、摩耗、摩擦及び疲労に対して高い耐性を有する合金層を形成する。
【0047】
周囲温度では、鋼への水素の吸収機構は、高温、特にオーステナイト化処理とは異なる。実際、通常、高温では、炉内の水は、鋼板の表面で水素及び酸素に解離する。いかなる理論にも束縛されるものではないが、水素バリアプレコーティング及びバッチ焼鈍の不活性雰囲気は、水素バリアプレコーティング表面での水解離を防止することができ、両方のプレコーティングを通る水素拡散を防止することができると考えられる。
【0048】
次いで、熱処理後、ブランクを熱間成形ツールに移送し、600~830℃の温度で熱間成形する。熱間成形は、ホットスタンピング又はロール成形であり得る。好ましくは、ブランクは、ホットスタンプされる。次いで、部品は、熱間成形ツールで、又は特定の冷却ツールへの移送後に冷却される。
【0049】
冷却速度は、熱間成形後の最終微細構造が主にマルテンサイトを含み、好ましくはマルテンサイト、又はマルテンサイト及びベイナイトを含有し、又は少なくとも75%の等軸フェライト、5~20%のマルテンサイト及び10%以下の量のベイナイトで作製されるように、鋼組成に応じて制御される。
【0050】
これにより、本発明による遅れ亀裂に優れた耐性を有する硬化部品が熱間成形により得られる。
【0051】
好ましくは、部品は、亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングでプレコーティングされた鋼板を備え、この第1のコーティング層は、水素バリアコーティング及び熱力学的に安定な酸化物を含む酸化物層によって直接上部が覆われ、そのような水素バリアコーティングは、亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングとの拡散によって合金化され、亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングは鋼板と合金化される。実際、いかなる理論にも束縛されるものではないが、鋼板からの鉄は、熱処理中に水素バリアプレコーティングの表面に拡散すると思われる。
【0052】
好ましくは、熱力学的に安定な酸化物は、それぞれCr、FeO、NiO、Fe、Fe、MgO、Y又はそれらの混合物を含むことができる。
【0053】
亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングが亜鉛をベースとする場合、酸化物は、ZnOも含むことができる。亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングがアルミニウムをベースとする場合、酸化物は、Al及び/又はMgAlも含むことができる。
【0054】
好ましくは、酸化物層の厚さは、10~550nmである。
【0055】
好ましくは、部品は、フロントレール、シートクロス部材、サイドシル部材、ダッシュパネルクロス部材、フロントフロアリーンフォース、リアフロアクロス部材、リアレール、Bピラー、ドアリング又はショットガンである。
【0056】
自動車用途では、リン酸塩処理ステップ後、部品は、eコーティング浴に浸漬される。通常、ホスフェート層の厚さは、1~2μmであり、eコーティング層の厚さは、15~25μmであり、好ましくは20μm以下である。電気泳動層は、腐食に対する追加の保護を保証する。eコーティングステップ後、他の塗料層、例えば、塗料のプライマーコート、ベースコート層及びトップコート層を堆積させることができる。
【0057】
部品上にeコーティングを施す前に、電気泳動の付着を確実にするために、部品を予め脱脂し、リン酸塩処理する。
【0058】
ここで、本発明を、情報のみを目的として行われた試行において説明する。それらは、限定的ではない。
【実施例
【0059】
すべての試料について、使用される鋼板は、22MnB5である。鋼の組成は以下の通りである:C=0.2252%、Mn=1.1735%、P=0.0126%、S=0.0009%、N=0.0037%、Si=0.2534%、Cu=0.0187%、Ni=0.0197%、Cr=0.180%、Sn=0.004%、Al=0.0371%、Nb=0.008%、Ti=0.0382%、B=0.0028%、Mo=0.0017%、As=0.0023%、et V=0.0284%。
【0060】
すべての鋼板は、以下「AluSi(R)」と呼ばれる防食目的のための第1のプレコーティングでプレコーティングされる。このプレコーティングは、9重量%のケイ素、3重量%の鉄を含み、残りはアルミニウムである。それは、溶融亜鉛めっきによって堆積される。
【0061】
次いで、2つの試行品を、マグネトロンスパッタリングによって堆積させた80%のNi及び20%のCrを含む第2のプレコーティングでプレコーティングした。
【0062】
[実施例1]:水素試験:
この試験を使用して、プレス硬化方法のオーステナイト化熱処理中に吸収される水素の量を決定する。
【0063】
試行品1は、AluSi(R)(25μm)である第1のプレコーティングでプレコーティングされた鋼板である。次いで、650℃の温度で5時間のバッチ焼鈍を実行した。加熱速度は、10800℃.h-1であった。バッチ焼鈍の雰囲気は、窒素であった。バッチ焼鈍後の冷却は、85℃.h-1の速度で2時間20分間、19℃.h-1の速度で17時間及び2.5℃.h-1の速度で8時間実行した。
【0064】
試行品2は、AluSi(R)(25μm)である第1のプレコーティング及び80%のNi及び20%のCrを含む第2のプレコーティングでプレコーティングされた鋼板である。次いで、650℃の温度で5時間のバッチ焼鈍を実行した。加熱速度は、10800℃.h-1であった。バッチ焼鈍の雰囲気は、窒素であった。バッチ焼鈍後の冷却は、85℃.h-1の速度で2時間20分間、19℃.h-1の速度で17時間及び2.5℃.h-1の速度で8時間実行した。
【0065】
試行品3は、AluSi(R)(25μm)である第1のプレコーティングでプレコーティングされた鋼板である。次いで、650℃の温度で5時間のバッチ焼鈍を実行した。加熱速度は、10800℃.h-1であった。バッチ焼鈍の雰囲気は、空気であったバッチ焼鈍後の冷却は、85℃.h-1の速度で2時間20分間、19℃.h-1の速度で17時間及び2.5℃.h-1の速度で8時間実行した。
【0066】
試行品4は、AluSi(R)(25μm)である第1のプレコーティング及び80%のNi及び20%のCrを含む第2のプレコーティングでプレコーティングされた鋼板である。次いで、650℃の温度で5時間のバッチ焼鈍を実行した。加熱速度は、10800℃.h-1であった。バッチ焼鈍の雰囲気は、空気であった。バッチ焼鈍後の冷却は、85℃.h-1の速度で2時間20分間、19℃.h-1の速度で17時間及び2.5℃.h-1の速度で8時間実行した。
【0067】
その後、すべての試行品を切断し、3分間の滞留時間中に900℃の温度で加熱した。熱処理中の雰囲気は、空気であった。ブランクをプレスツールに移行し、可変厚さを有する部品を得るためにホットスタンピングした。次いで、温水への浸漬試行によって部品を冷却し、マルテンサイト変態による硬化を得た。
【0068】
最後に、熱処理中に試行によって吸着された水素量を、TDA又は熱脱着分析装置を使用して熱脱着によって測定した。この目的のために、各試行品を石英室に入れ、窒素流下で、赤外線炉内でゆっくりと加熱した。放出された水素/窒素混合物を漏れ検出器でピックアップし、質量分析計で水素濃度を測定した。結果を以下の表1に示す:
【0069】
【表1】
【0070】
本発明による試行品2は、比較例と比較して有意に少量の水素を放出する。