(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】ベーカリー食品用生地、ベーカリー食品用生地の製造方法、ベーカリー食品の製造方法、及びベーカリー食品
(51)【国際特許分類】
A21D 2/18 20060101AFI20231113BHJP
A21D 13/16 20170101ALI20231113BHJP
A21D 8/02 20060101ALI20231113BHJP
A21D 13/80 20170101ALI20231113BHJP
A23L 29/262 20160101ALI20231113BHJP
A23G 3/42 20060101ALI20231113BHJP
A23G 3/34 20060101ALI20231113BHJP
【FI】
A21D2/18
A21D13/16
A21D8/02
A21D13/80
A23L29/262
A23G3/42
A23G3/34
(21)【出願番号】P 2023086197
(22)【出願日】2023-05-25
【審査請求日】2023-06-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】301046396
【氏名又は名称】株式会社ホ-ライ
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大橋 翼
(72)【発明者】
【氏名】中村 洋
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0024416(US,A1)
【文献】特開2021-073872(JP,A)
【文献】特開2018-113910(JP,A)
【文献】特開2016-131559(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00 - 17/00
A23D 7/00 - 9/06
A23G 1/00 - 9/52
A23L 2/00 - 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生地中に、小麦粉を含有する小麦粉生地層と、油脂層とが形成され
、前記小麦粉生地層と、前記油脂層とが交互に重なって多層構造になったベーカリー食品用生地であって、熱ゲル化性のあるセルロース誘導体が前記小麦粉生地層中に分散されて含有されて
おり、
前記セルロース誘導体が、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1つを含み、
前記セルロース誘導体のゲル化温度が50℃以上であり、
動的粘弾性測定装置を使用し、前記セルロース誘導体の1.3質量%水溶液を、昇温速度3.5℃/分で20℃から90℃まで昇温し、せん断応力1%、周波数1Hz、治具として直径25mm、ギャップ1mmのパラレルプレートで、温度分散測定法により貯蔵弾性率と損失弾性率を測定し、当該貯蔵弾性率と損失弾性率の交点となる温度が当該ゲル化温度であることを特徴とするベーカリー食品用生地。
【請求項2】
前記ベーカリー食品が、パイ、デニッシュ、クロワッサン、及びミルフィーユからなる群から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする、請求項1に記載されたベーカリー食品用生地。
【請求項3】
前記セルロース誘導体の前記生地中の含有量が0.5~5質量%の範囲であることを特徴とする、請求項1
又は2に記載されたベーカリー食品用生地。
【請求項4】
生地中に、小麦粉を含有する小麦粉生地層と、油脂層とが形成され
、前記小麦粉生地層と、前記油脂層とが交互に重なって多層構造になったベーカリー食品用生地の製造方法であって、
前記小麦粉生地層の原料中に熱ゲル化性のあるセルロース誘導体を混合して、前記小麦粉生地層を形成する工程、及び
前記小麦粉生地層に油脂組成物を混合又は挟み込んで前記油脂層を形成する油脂層形成工程を含
み、
前記セルロース誘導体が、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1つを含み、
前記セルロース誘導体のゲル化温度が50℃以上であり、
動的粘弾性測定装置を使用し、前記セルロース誘導体の1.3質量%水溶液を、昇温速度3.5℃/分で20℃から90℃まで昇温し、せん断応力1%、周波数1Hz、治具として直径25mm、ギャップ1mmのパラレルプレートで、温度分散測定法により貯蔵弾性率と損失弾性率を測定し、当該貯蔵弾性率と損失弾性率の交点となる温度が当該ゲル化温度であることを特徴とするベーカリー食品用生地の製造方法。
【請求項5】
前記ベーカリー食品が、パイ、デニッシュ、クロワッサン、及びミルフィーユからなる群から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする、請求項4に記載されたベーカリー食品用生地の製造方法。
【請求項6】
請求項
4又は
5の方法で得られたベーカリー食品用生地を焼成する焼成工程を含むことを特徴とするベーカリー食品の製造方法。
【請求項7】
請求項
6に記載されたベーカリー食品の製造方法により製造された、熱ゲル化性のあるセルロース誘導体を含むベーカリー食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーカリー食品用生地、ベーカリー食品用生地の製造方法、ベーカリー食品の製造方法、及びベーカリー食品に関する。
【背景技術】
【0002】
油脂層を備える生地を焼成し、当該生地を層状に膨化させ調理される、パイ、デニッシュ、クロワッサン、ミルフィーユ等のベーカリー食品が知られている。
【0003】
引用文献1には、加熱ゲル化剤、分離大豆蛋白質から選ばれる1種類以上をパイ生地に塗布して折り込み、当該パイ生地を半焼成する、電子レンジ調理用パイの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、油脂層を備える生地を焼成した際、浮き(膨化度合い)がより大きくなる、ベーカリー食品用生地が希求されるようになってきた。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、油脂層を備える生地を焼成した際、浮きがより大きくなる、ベーカリー食品用生地を提供することである。本発明が解決しようとする別の課題は、前記ベーカリー食品用生地の製造方法、前記ベーカリー食品の製造方法、及び前記ベーカリー食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題に鑑み検討を重ね、熱ゲル化性のあるセルロース誘導体が分散されている小麦粉生地層と、油脂層とが形成されているベーカリー食品用生地を焼成した際、浮きがより大きくなることを見出した。本発明はこれらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0008】
本発明は、生地中に、小麦粉を含有する小麦粉生地層と、油脂層とが形成され、前記小麦粉生地層と、前記油脂層とが交互に重なって多層構造になったベーカリー食品用生地であって、熱ゲル化性のあるセルロース誘導体が前記小麦粉生地層中に分散されて含有されており、前記セルロース誘導体が、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1つを含み、前記セルロース誘導体のゲル化温度が50℃以上であり、動的粘弾性測定装置を使用し、前記セルロース誘導体の1.3質量%水溶液を、昇温速度3.5℃/分で20℃から90℃まで昇温し、せん断応力1%、周波数1Hz、治具として直径25mm、ギャップ1mmのパラレルプレートで、温度分散測定法により貯蔵弾性率と損失弾性率を測定し、当該貯蔵弾性率と損失弾性率の交点となる温度が当該ゲル化温度であるベーカリー食品用生地に関する。
前記ベーカリー食品は、好ましくはパイ、デニッシュ、クロワッサン、及びミルフィーユからなる群から選ばれる少なくとも1つである。
前記セルロース誘導体の前記生地中の含有量は、好ましくは0.5~5質量%の範囲である。
【0009】
本発明は、生地中に、小麦粉を含有する小麦粉生地層と、油脂層とが形成されているベーカリー食品用生地の製造方法であって、前記小麦粉生地層の原料中に熱ゲル化性のあるセルロース誘導体を混合して、前記小麦粉生地層を形成する工程、及び、前記小麦粉生地層に油脂組成物を混合又は挟み込んで前記油脂層を形成する油脂層形成工程を含み、前記セルロース誘導体が、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1つを含み、前記セルロース誘導体のゲル化温度が50℃以上であり、動的粘弾性測定装置を使用し、前記セルロース誘導体の1.3質量%水溶液を、昇温速度3.5℃/分で20℃から90℃まで昇温し、せん断応力1%、周波数1Hz、治具として直径25mm、ギャップ1mmのパラレルプレートで、温度分散測定法により貯蔵弾性率と損失弾性率を測定し、当該貯蔵弾性率と損失弾性率の交点となる温度が当該ゲル化温度であるベーカリー食品用生地の製造方法に関する。
前記ベーカリー食品は、好ましくはパイ、デニッシュ、クロワッサン、及びミルフィーユからなる群から選ばれる少なくとも1つである。
【0010】
本発明は、前記ベーカリー食品用生地の製造方法で得られたベーカリー食品用生地を焼成する焼成工程を含むベーカリー食品の製造方法に関する。
【0011】
さらに本発明は、前記ベーカリー食品の製造方法により製造された、熱ゲル化性のあるセルロース誘導体を含むベーカリー食品に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のベーカリー食品用生地は、焼成した際、浮きがより大きくなるベーカリー食品用生地を提供する。本発明のベーカリー食品用生地の製造方法は、焼成した際、浮きがより大きくなるベーカリー食品用生地の製造方法を提供する。本発明のベーカリー食品の製造方法は、浮きがより大きいベーカリー食品の製造方法を提供する。さらに本発明のベーカリー食品は、前記ベーカリー食品を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】各種セルロース誘導体が小麦粉生地層中に含まれるパイ生地から調理されたパイの浮きを示す図。
【
図2】メチルセルロースのパイ生地への添加方法が異なるパイ生地から調理されたパイの浮きを示す図。
【
図3】ゲル化温度が異なるメチルセルロースが小麦粉生地層中に含まれるパイ生地から調理されたパイの浮きを示す図。
【
図4】ゲル化温度が異なるヒドロキシプロピルメチルセルロースが小麦粉生地層中に含まれるパイ生地から調理されたパイの浮きを示す図。
【
図5】各種セルロース誘導体のパイ生地への添加方法が異なるパイ生地から調理されたパイの浮きを示す図。
【
図6】小麦粉生地層中のメチルセルロースの含有量が異なるパイ生地から調理されたパイの浮きを示す図。
【
図7】メチルセルロースのパイ生地への添加方法が異なるパイ生地から調理されたパイの浮きを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明について更に詳細に説明する。
なお、数値範囲の「~」は、断りがなければ、以上から以下を表し、両端の数値をいずれも含む。また、数値範囲を示したときは、上限値および下限値を適宜組み合わせることができ、それにより得られた数値範囲も開示したものとする。
【0015】
<ベーカリー食品用生地>
小麦粉を含有する小麦粉生地層と油脂層が、本発明のベーカリー食品用生地に形成されている。本発明のベーカリー食品用生地は、従来のベーカリー食品用生地と同様、小麦粉生地層と油脂層が交互に重なって多層構造になった生地であってよい。
【0016】
(小麦粉生地層)
小麦粉生地層としては、従来のベーカリー食品用生地と同様、薄力粉、中力粉、強力粉等の小麦粉、澱粉、を主原料とし、脱脂粉乳、卵、砂糖、食塩、バター、マーガリン、ショートニング等の油脂製品等の副原料が添加されたものを使用できる。
【0017】
(熱ゲル化性のあるセルロース誘導体)
本発明の特徴は、上記小麦粉生地層中に、熱ゲル化性のあるセルロース誘導体を混合して、分散した状態で含有させた点にある。前記セルロース誘導体は、好ましくはセルロースエーテルを含み、より好ましくはセルロースエーテルである。カルボキシメチルセルロース等の熱ゲル化性のないセルロース誘導体は、小麦粉生地層中に分散させて含有させても、焼成時の膨化による浮きが大きくならない。
【0018】
熱ゲル化性のあるセルロースエーテルは、より好ましくはメチルセルロース(MC)、及びヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)からなる群から選ばれる少なくとも1つである。
【0019】
前記セルロース誘導体のゲル化温度は、好ましくは50℃以上であり、より好ましくは50~80℃である。前記ゲル化温度が50℃以上である場合、本発明のベーカリー食品用生地を焼成した際の浮きがより大きくなる。
【0020】
前記ゲル化温度は、次のような方法で求める。セルロース誘導体の1.3質量%水溶液を、昇温速度3.5℃/分で20℃から90℃まで昇温し、せん断応力1%、周波数1Hzで、温度分散測定法により測定した貯蔵弾性率と損失弾性率の交点となる温度をゲル化温度とした(
図8参照)。昇温時、サンプルの蒸発を防ぐため、側面をシリコンオイルで覆い、治具として直径25mmのパラレルプレート(ギャップ1mm)を使用する。
【0021】
前記セルロース誘導体の前記生地中の含有量(小麦粉生地層と油脂層とを合わせた生地全体中の含有量)は、好ましくは0.5~5質量%の範囲であり、より好ましくは0.5~2質量%の範囲である。前記含有量が前記範囲であると、本発明のベーカリー食品用生地を焼成した際の浮きが大きくなると共に、本発明のベーカリー食品の食感が良くなる。
【0022】
(油脂層)
前記油脂層は、小麦粉生地層の間に挟み込まれたり、小麦粉生地層中にチップ状で混合されたりしやすいように、前記油脂層を構成する油脂は、可塑性のある油脂組成物であることが好ましく、特にマーガリン、ファットスプレッドなどの可塑性油中水型乳化組成物であることがより好ましい。前記油脂組成物の原料として用いられる油脂は、飲食可能とされる油脂であればよく、特に制限はない。前記原料として用いられる油脂として、菜種油、大豆油、パーム油、コーン油、オリーブ油、ゴマ油、アマニ油、えごま油、紅花油、ヒマワリ油、綿実油、米油、落花生油、シア脂、サル脂、カカオ脂、パーム核油、ヤシ油、グレープシード油、マカダミアナッツオイル、ココナッツオイル、月見草油などの植物油脂;牛脂、豚脂、乳脂、鶏油、魚油等の動物油脂;中鎖脂肪酸トリグリセリドなどの合成油脂などが挙げられる。
【0023】
<ベーカリー食品用生地の製造方法>
本発明のベーカリー食品用生地の製造方法は、前記小麦粉生地層の原料中に前記熱ゲル化性のあるセルロース誘導体を混合して、前記小麦粉生地層を形成する工程を含む。
【0024】
前記主原料、及び必要に応じて添加される副原料と混合される前記熱ゲル化性のあるセルロース誘導体は粉体であってもよく、水溶液であってもよい。
【0025】
さらに本発明のベーカリー食品用生地の製造方法は、前記小麦粉生地層に油脂組成物を混合又は挟み込んで前記油脂層を形成する油脂層形成工程を含む。前記油脂層は、前記小麦粉生地層を圧延して折り畳む際に、小麦粉生地層の間に油脂組成物を挟み込むようにして形成されてもよい。さらに前記油脂層は、チップ状の可塑性油脂組成物が小麦粉生地層に練りこまれ、小麦粉生地層が圧延されて折り畳まれる際に、チップ状の可塑性油脂組成物も薄く伸ばされて、小麦粉生地層中に層状となって含有されるようにしてもよい。なお、本発明のベーカリー食品用生地の前記油脂層を形成する油脂組成物中には、前記熱ゲル化性のあるセルロース誘導体を含有させる必要はなく、むしろ前記熱ゲル化性のあるセルロース誘導体は前記油脂層中には含有されない方が好ましい。
【0026】
<ベーカリー食品>
本発明のベーカリー食品は、好ましくは、パイ、デニッシュ、クロワッサン、及びミルフィーユからなる群から選ばれる少なくとも1つであり、より好ましくはパイである。
【0027】
本発明のベーカリー食品の製造方法は、前記ベーカリー食品用生地を焼成する焼成工程を含む。焼成は、例えばガスオーブン、電気オーブン、コンベクションオーブン、電子レンジオーブンなどを用いて、常法に従って行えばよい。焼成温度、焼成時間は、特に限定されないが、例えば150~250℃で10~60分が好ましい。
焼成することにより、小麦粉生地中の水分が蒸発して生地が膨化すると共に、小麦粉生地の間に形成された油脂層を介して、小麦粉生地どうしが剥離して膨張するため、層状の空隙を介して複数層をなして浮き上がったベーカリー食品となる。
本発明においては、小麦粉生地層中に分散して含有された熱ゲル化性のあるセルロース誘導体が、焼成の最中にゲル化して小麦粉生地層を強化するので、水蒸気の放出を適度に抑制して、前記小麦粉生地層が浮き上がりやすくなると考えられる。
こうして得られたベーカリー食品は、歯ざわりがソフトで、サク味があり、焼成による香ばしさも増大して、従来のものより一層美味しい食品となる。
【0028】
(不可能・非実際的事情)
メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の多糖類をパイ生地に塗布して折り込み、当該パイ生地を焼成して調理される、特許文献1に記載されているパイの生地中には、当該多糖類が局在していると考えられる。一方、本発明のベーカリー食品の製造方法は、前記小麦粉生地層の原料中に前記熱ゲル化性のあるセルロース誘導体を混合して、前記小麦粉生地層を形成する工程を含んでいるので、前記熱ゲル化性のあるセルロース誘導体は本発明のベーカリー食品中に均一に分布していると考えられる。しかしながら、前記熱ゲル化性のあるセルロース誘導体の本発明のベーカリー食品中の分布状態の定量的測定は不可能、ないし非実際的である。
上述の通り、本発明のベーカリー食品を構造又は特性により直接特定することは不可能又は非実際的であるので、本発明のベーカリー食品は、本発明のベーカリー食品の製造方法により特定されるべきである。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0030】
実施例及び比較例において、各種物性は以下のとおりに測定ないし算出された。
<セルロース誘導体の熱ゲル化温度>
1.3gの各セルロース誘導体を50~60℃の水100mlに添加し、ホイッパーで攪拌して当該セルロース誘導体を水中に分散させる。調製された前記セルロース誘導体の水分散液を氷水で冷却してダマが消失するまで冷却し、前記セルロース誘導体を水に溶解する。調製された水溶液を、昇温速度3.5℃/分にて20℃から90℃への昇温、せん断応力1%、周波数1Hzの条件で、サンプルの蒸発を防ぐため、側面をシリコンオイルで覆い、治具として直径25mmのパラレルプレート(ギャップ1mm)、測定装置として株式会社アントンパール・ジャパン製動的粘弾性測定装置MCRを使用して、温度分散測定法により測定した貯蔵弾性率と損失弾性率の推移から、それらの交点となる温度をゲル化温度として算出した(
図8参照)。
【0031】
実施例及び比較例において使用されたセルロース誘導体とそのゲル化温度は以下の通りである。
MC1:ユニテックフーズ株式会社製ヒートゲル(登録商標)堅、ゲル化温度55.9℃
MC2:ユニテックフーズ株式会社製ヒートゲル(登録商標)堅SL、ゲル化温度54.0℃
MC3:ユニテックフーズ株式会社製ヒートゲル(登録商標)超、ゲル化温度53.3℃
MC4:ユニテックフーズ株式会社製ヒートゲル(登録商標)極、ゲル化温度36.5℃
HPMC1:信越化学工業株式会社製SFE4000、ゲル化温度64.7℃
HPMC2:ユニテックフーズ株式会社製ヒートゾル(登録商標)柔、ゲル化温度61.2℃
HPMC3:ユニテックフーズ株式会社製ヒートゾル(登録商標)緩MH、ゲル化温度72.9℃
HPMC4:ユニテックフーズ株式会社製ヒートゾル(登録商標)緩、ゲル化温度65.7℃
カルボキシメチルセルロース(CMC):日本製紙株式会社製SLD-F1、ゲル化温度なし
【0032】
実施例1
以下の配合及び製法によりブロック状パイ生地を作製した。
パイ生地配合
強力粉 60質量部
薄力粉 40質量部
食塩 0.8質量部
ショートニング1) 6質量部
pH調整剤2) 0.3質量部
水 54質量部
MC1 3.2質量部
1)月島食品工業株式会社製T-ショートW
2)コービオンジャパン株式会社製発酵乳酸50%(PURAC HS50)
【0033】
薄力粉、強力粉、ショートニング、水、及びpH調整剤と、食塩とMC1の粉体を低速で2分間、中速で2分間ミキシングし、調製された生地玉を2~5℃の冷蔵庫で2時間から1日やすませた。次に前記生地玉2kgに対して、品温が15~18℃の折り込み用油脂のシートマーガリン(月島食品工業株式会社製プロスパーシートV-1000)1kg(対パイ生地33.3質量%)を前記生地で包み、4ッ折りで2回折り込み後、1時間冷蔵庫で休ませ、4ッ折りを1回行って冷蔵庫で一晩休ませた。翌日、幅100mm、長さ100mm、質量30gに成形した。
【0034】
成形されたパイ生地を190℃で22~26分間焼成してパイを調理した。前記パイの浮きをノギスで計測した。結果を
図1に示す。
【0035】
実施例2
MC1に代えて、HPMC1を使用した以外、実施例1と同様にしてパイを調理した。結果を
図1に示す。
【0036】
比較例1
MC1に代えて、CMCを使用した以外、実施例1と同様にしてパイを調理した。結果を
図1に示す。
【0037】
対照例1
MC1を使用しなかった以外、実施例1と同様にしてパイを調理した。結果を
図1に示す。
【0038】
ゲル化温度を有しないCMCをセルロース誘導体として含む小麦粉生地層を備えるパイ生地から調理された比較例1のパイの浮きは、セルロース誘導体を含まない小麦粉生地層を備えるパイ生地から調理された対照例1のパイの浮きと同程度であった。一方、熱ゲル化性のあるセルロース誘導体が分散されている小麦粉生地層を備えるパイ生地から調理された実施例1及び2のパイの浮きは、対照例1のパイの浮きより大きかった。
【0039】
実施例3
実施例1と同一の配合でブロック状パイ生地を作製した。薄力粉、強力粉、ショートニング、水、及びpH調整剤と、食塩とMC1の粉体を低速で2分間、中速で2分間ミキシングし、調製された生地玉を2~5℃の冷蔵庫で2時間から1日やすませた。次に前記生地玉2kgに対して、品温が15~18℃の折り込み用油脂のシートマーガリン(月島食品工業株式会社製ラブールガトーシートV)1kg(対パイ生地33.3質量%)を前記生地で包み、3ッ折りで2回折り込み後、1時間冷蔵庫で休ませ、3ッ折りを1回、4ッ折りを1回行って冷蔵庫で一晩休ませた。翌日、幅100mm、長さ100mm、質量20gに成形した。
【0040】
成形されたパイ生地を190℃で16~20分間焼成してパイを調理した。前記パイの浮きをノギスで計測した。結果を
図2に示す。
【0041】
比較例2
MC1を前記シートマーガリンに挟み込んだ以外、実施例3と同じ条件でパイ生地を焼成し、パイを調理した。結果を
図2に示す。
【0042】
対照例2
MC1を使用しない以外、実施例3と同じ条件でパイ生地を焼成し、パイを調理した。結果を
図2に示す。
【0043】
MC1が分散されていない前記小麦粉生地層とMC1を挟み込んだ油脂層が形成されているパイ生地から調理された比較例2のパイの浮きは、セルロース誘導体を含まない小麦粉生地層を備えるパイ生地から調理された対照例2のパイの浮きとほぼ同じであった。一方、MC1が分散されている小麦粉生地層を備えるパイ生地から調理された実施例3のパイの浮きは、対照例2のパイの浮きより大きかった。
【0044】
実施例4~7
実施例1と同一の配合でブロック状パイ生地を作製した。薄力粉、強力粉、ショートニング、水、及びpH調整剤と、食塩とMC1の粉体を低速で2分間、中速で2分間ミキシングし、調製された生地玉を2~5℃の冷蔵庫で2時間から1日やすませた。次に前記生地玉2kgに対して、品温が15~18℃の折り込み用油脂のシートマーガリン(月島食品工業株式会社製プロスパーシートV-1000)1kg(対パイ生地33.3質量%)を前記生地で包み、3ッ折りで2回折り込み後、1時間冷蔵庫で休ませ、3ッ折りを1回、4ッ折りを1回行って冷蔵庫で一晩休ませた。翌日、幅100mm、長さ100mm、質量20gに成形した。
【0045】
成形されたパイ生地を190℃で16~20分間焼成してパイを調理した。前記パイの浮きをノギスで計測した。(実施例4)。さらにMC1に代えて、MC2~4を使用した以外、実施例4と同様にしてパイを調理した(実施例5~7)。結果を
図3に示す。
【0046】
対照例3
MC1を使用しない以外、実施例4と同じ条件でパイ生地を焼成し、パイを調理した。結果を
図3に示す。
【0047】
熱ゲル化性のあるセルロース誘導体MC1~4が分散されている小麦粉生地層を備えるパイ生地から調理された実施例4~7のパイの浮きは、対照例3のパイの浮きより大きかった。特にゲル化温度が50℃以上のセルロース誘導体MC1~3が分散されている小麦粉生地層を備えるパイ生地から調理された実施例4~6のパイの浮きは、ゲル化温度が50℃未満のセルロース誘導体MC4が分散されている小麦粉生地層を備えるパイ生地から調理された実施例7のパイの浮きより大きかった。
【0048】
実施例8~11
MC1に代えて、HPMC1~4を使用した以外、実施例4と同様にしてパイを調理した。結果を
図4に示す。
【0049】
対照例4
MC1を使用しない以外、実施例4と同じ条件でパイ生地を焼成し、パイを調理した。結果を
図4に示す。
【0050】
熱ゲル化性のあるセルロース誘導体HPMC1~4が分散されている小麦粉生地層を備えるパイ生地から調理された実施例8~11のパイの浮きは、対照例4のパイの浮きより大きかった。
【0051】
実施例12及び比較例3~6
実施例1と同一の組成のパイ生地を、実施例4と同じ条件で焼成し、パイを調理した(実施例12)。さらにMC1を使用せず、5質量%のMC2の水溶液を48.5g、10質量%のMC2の水溶液を86.8g、1質量%のHPMC2の水溶液を34.4g、2質量%のHPMC2の水溶液を49.0gのそれぞれを最後の4つ折り工程時に生地へ塗布し折り込んだ以外、実施例4と同じ条件でパイ生地を焼成し、パイを調理した(比較例3~6)。結果を
図5に示す。
【0052】
対照例5
MC1を使用しない以外、実施例12と同じ条件でパイ生地を焼成し、パイを調理した。結果を
図5に示す。
【0053】
熱ゲル化性のあるセルロース誘導体が分散されていない前記小麦粉生地層と、熱ゲル化性のあるセルロース誘導体を塗布した前記小麦粉生地層と、油脂層とで形成されているパイ生地から調理された比較例3~6のパイの浮きは、セルロース誘導体を含まない小麦粉生地層を備えるパイ生地から調理された対照例5のパイの浮きとほぼ同程度であった。一方、MC1が分散されている小麦粉生地層を備えるパイ生地から調理された実施例12のパイの浮きは、対照例5のパイの浮きより非常に大きかった。
【0054】
実施例13~15
パイ生地中のMC1の含有量が0.5質量%、1質量%、又は1.3質量%となるようにして、実施例4と同様にしてパイを調理した。結果を
図6に示す。
【0055】
対照例6
MC1を使用しない以外、実施例13~15と同じ条件でパイ生地を焼成し、パイを調理した。結果を
図6に示す。
【0056】
MC1が分散されている小麦粉生地層を備えるパイ生地から調理された実施例13~15のパイの浮きは、対照例6のパイの浮きより非常に大きかった。パイ生地中のMC1の含有量が大きくなるほど、パイの浮きが大きくなっていた。
【0057】
実施例16~21
パイ生地中のMC1の含有量が0.5質量%となるようにして、実施例4と同じ条件で焼成し、パイを調理した(実施例16)。
パイ生地中のMC1の含有量が0.5質量%となるようにして、MC1を水に溶かして混合した以外実施例4と同じ条件で焼成し、パイを調理した(実施例17)。
パイ生地中のMC1の含有量が1質量%となるようにして、実施例4と同じ条件で焼成し、パイを調理した(実施例18)。
パイ生地中のMC1の含有量が1質量%となるようにして、MC1を水に溶かして混合した以外実施例4と同じ条件で焼成し、パイを調理した。(実施例19)。
実施例1と同一の組成のパイ生地を、実施例4と同じ条件で焼成し、パイを調理した(実施例20)。
実施例1と同一の組成のパイ生地を、MC1を水に溶かして混合した以外、実施例4と同じ条件で焼成し、パイを調理した(実施例21)。
結果を
図7に示す。
【0058】
対照例7
MC1を使用しない以外、実施例16と同じ条件でパイ生地を焼成し、パイを調理した。結果を
図7に示す。
【0059】
パイ生地の原材料としてのMC1が水溶液であっても粉体であっても、MC1が分散されている小麦粉生地層を備えるパイ生地から調理された実施例16~21のパイの浮きは、対照例7のパイの浮きより非常に大きかった。
【要約】
【課題】油脂層を備える生地を焼成した際、浮きがより大きくなるベーカリー食品用生地、その製造方法、このベーカリー食品の製造方法、及びこのベーカリー食品を提供する。
【解決手段】ベーカリー食品用生地が、この生地中に、小麦粉を含有する小麦粉生地層と、油脂層とが形成されていて、熱ゲル化性のあるセルロース誘導体がこの小麦粉生地層中に分散されて含有されている。ベーカリー食品用生地の製造方法が、この小麦粉生地層の原料中に熱ゲル化性のあるセルロース誘導体を混合して、この小麦粉生地層を形成する工程、及び、この小麦粉生地層に油脂組成物を混合又は挟み込んでこの油脂層を形成する油脂層形成工程を含む。ベーカリー食品の製造方法が、このベーカリー食品用生地を焼成する焼成工程を含む。ベーカリー食品が、ベーカリー食品の製造方法により製造され、熱ゲル化性のあるセルロース誘導体を含む。
【選択図】なし