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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 17/12 20060101AFI20231114BHJP
   F16H 57/04 20100101ALI20231114BHJP
   H02K 7/116 20060101ALI20231114BHJP
   H02K 9/26 20060101ALI20231114BHJP
   H02K 9/19 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
B60K17/12
F16H57/04 F
F16H57/04 J
H02K7/116
H02K9/26 A
H02K9/19 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019022139
(22)【出願日】2019-02-08
(65)【公開番号】P2020128794
(43)【公開日】2020-08-27
【審査請求日】2021-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148301
【弁理士】
【氏名又は名称】竹原 尚彦
(74)【代理人】
【識別番号】100176991
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 由布子
(72)【発明者】
【氏名】上原 弘樹
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-226397(JP,A)
【文献】特開2011-133017(JP,A)
【文献】特開2013-148123(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0119793(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 17/12
F16H 57/04
H02K 7/116
H02K 9/26
H02K 9/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ室に設けられたモータと、
ギア室に設けられ、前記モータの下流に配置された減速ギアと、
前記モータ室と前記ギア室とを区切る壁部と、を有し、
前記壁部は、前記モータ室側に位置する第1壁部と、前記減速ギアの外周側に位置する第2壁部と、前記モータ室と前記ギア室とを連通するフィルタ付き貫通孔と、を有し、
前記モータ室と、前記ギア室とは、前記モータのモータシャフトの回転軸の径方向から見て一部がオーバーラップし、
前記フィルタ付き貫通孔は、前記モータ室と前記ギア室が前記オーバーラップする位置であって、前記モータのステータコアの内径側に対向する位置に設けられ、
前記減速ギアは、前記第1壁部、前記第2壁部、及び前記第1壁部と反対側に設けられた第3壁部と、に囲まれており、
前記減速ギアと前記第3壁部との隙間は、前記減速ギアと前記第1壁部との隙間よりも狭いことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記フィルタ付き貫通孔の出口は、前記ステータコアに向けて開口していることを特徴とする動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には電気車両向けの動力伝達装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-221566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の動力伝達装置は、モータを備えている。モータの冷却方式としては水冷方式、空冷方式、油冷方式がある。
油冷方式のモータを備えた動力伝達装置では、モータの潤滑性向上及びモータのコンタミネーション抑制を両立させる必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
モータ室に設けられたモータと、
ギア室に設けられ、前記モータの下流に配置された減速ギアと、
前記モータ室と前記ギア室とを区切る壁部と、を有し、
前記壁部は、前記モータ室側に位置する第1壁部と、前記減速ギアの外周側に位置する第2壁部と、前記モータ室と前記ギア室とを連通するフィルタ付き貫通孔と、を有し、
前記モータ室と、前記ギア室とは、前記モータのモータシャフトの回転軸の径方向から見て一部がオーバーラップし、
前記フィルタ付き貫通孔は、前記モータ室と前記ギア室が前記オーバーラップする位置であって、前記モータのステータコアの内径側に対向する位置に設けられ、
前記減速ギアは、前記第1壁部、前記第2壁部、及び前記第1壁部と反対側に設けられた第3壁部と、に囲まれており、
前記減速ギアと前記第3壁部との隙間は、前記減速ギアと前記第1壁部との隙間よりも狭い構成の動力伝達装置とした。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、油冷方式のモータを用いた動力伝達装置において、モータの潤滑性向上及びモータのコンタミネーション抑制を両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本実施形態にかかる動力伝達装置を説明する図である。
図2】動力伝達装置の減速機構周りの拡大図である。
図3】動力伝達装置の減速機構周りの拡大図である。
図4】第1の変形例にかかる動力伝達装置を説明する図である。
図5】第2の変形例にかかる動力伝達装置を説明する図である。
図6】第2の変形例にかかる動力伝達装置を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の動力伝達装置を、電気車両EVが備える動力伝達装置1に適用した場合を例に挙げて説明する。
図1は、本実施形態にかかる動力伝達装置1を説明する図である。
図2は、動力伝達装置1の減速機構3(第1遊星減速ギア4、第2遊星減速ギア5)周りの拡大図である。
図3は、図2におけるA領域の拡大図である。
ここで、図面中、上下方向とは、動力伝達装置1の電気車両EVでの設置状態を基準とした鉛直線VL方向に対して上、下を意味するものとして説明する。
【0009】
動力伝達装置1は、モータ2と、モータ2の出力回転を減速して差動装置6に入力する減速機構3(第1遊星減速ギア4、第2遊星減速ギア5)と、ドライブシャフト8(8A、8B)と、を有している。
【0010】
動力伝達装置1では、モータ2の出力回転の伝達経路に沿って、減速機構3(第1遊星減速ギア4、第2遊星減速ギア5)と、差動装置6と、ドライブシャフト8(8A、8B)と、が設けられている。
モータ2の出力回転は、減速機構3で減速されて差動装置6に入力された後、ドライブシャフト8(8A、8B)を介して、動力伝達装置1が搭載された車両の左右の駆動輪(図示せず)に伝達される。図1では、ドライブシャフト8Aが、動力伝達装置1を搭載した車両の左輪に回転伝達可能に接続されていると共に、ドライブシャフト8Bが、右輪に回転伝達可能に接続されている。
【0011】
ここで、第1遊星減速ギア4は、モータ2の下流に接続されており、第2遊星減速ギア5は、第1遊星減速ギア4の下流に接続されている。差動装置6は、第2遊星減速ギア5の下流に接続されており、ドライブシャフト8は、差動装置6の下流に接続されている。
【0012】
モータ2は、円筒状のモータシャフト20と、モータシャフト20に外挿された円筒状のロータコア21と、ロータコア21の外周を所定間隔で囲むステータコア25とを、有している。
【0013】
モータシャフト20は、ドライブシャフト8Bに外挿された状態で、ドライブシャフト8Bに対して相対回転可能に設けられている。
モータシャフト20では、長手方向の一端20a側と他端20b側の外周に、ベアリングB1、B1が外挿されて固定されている。
モータシャフト20の一端20a側は、ベアリングB1を介して、後記する中間ケース12の円筒状のモータ支持部121で回転可能に支持されている。
モータシャフト20の他端20b側は、ベアリングB1を介して、カバー11の円筒状のモータ支持部111で回転可能に支持されている。
【0014】
モータ2は、ロータコア21の外周を所定間隔で囲むモータハウジング10を有している。本実施形態では、モータハウジング10の一端10aに、中間ケース12が接合されており、モータハウジング10の他端10bに、カバー11が接合されている。
【0015】
モータハウジング10の一端10aと他端10bには、シールリングS、Sが設けられている。モータハウジング10の一端10aは、当該一端10aに設けたシールリングSにより、中間ケース12に隙間なく接合されている。
モータハウジング10の他端10bは、当該他端10bに設けたシールリングSにより、カバー11の環状の接合部110に隙間なく接合されている。
【0016】
カバー11では、接合部110とモータ支持部111とが、回転軸X方向で位置をずらして設けられている。
本実施形態では、カバー11をモータハウジング10の他端10bに固定すると、モータ支持部111が、モータハウジング10の内側に挿入されるようになっている。
【0017】
この状態においてモータ支持部111は、後記するコイルエンド253bの内径側で、ロータコア21の他端部21bに、回転軸X方向の隙間をあけて対向して配置される。
そして、接合部110と、カバー11の側壁部113とを接続する接続部115は、コイルエンド253bと後記する支持筒112との接触を避けて設けられている。
【0018】
モータハウジング10の内側では、カバー11側のモータ支持部111と、中間ケース12側のモータ支持部121との間に、ロータコア21が配置されている。
【0019】
ロータコア21は、複数の珪素鋼板を積層して形成したものであり、珪素鋼板の各々は、モータシャフト20との相対回転が規制された状態で、モータシャフト20に外挿されている。
モータシャフト20の回転軸X方向から見て、珪素鋼板はリング状を成しており、珪素鋼板の外周側では、図示しないN極とS極の磁石が、回転軸X周りの周方向に交互に設けられている。
【0020】
回転軸X方向におけるロータコア21の一端部21aは、モータシャフト20の大径部203で位置決めされている。ロータコア21の他端部21bは、モータシャフト20に圧入されたストッパ23で位置決めされている。
【0021】
ステータコア25は、複数の電磁鋼板を積層して形成したものであり、電磁鋼板の各々は、モータハウジング10の内周に固定されたリング状のヨーク部251と、ヨーク部251の内周からロータコア21側に突出するティース部252を、有している。
本実施形態では、巻線253を、複数のティース部252に跨がって分布巻きした構成のステータコア25を採用しており、ステータコア25は、回転軸X方向に突出するコイルエンド253a、253bの分だけ、ロータコア21よりも回転軸X方向の長さが長くなっている。
【0022】
なお、ロータコア21側に突出する複数のティース部252の各々に、巻線253を集中巻きした構成のステータコアを採用しても良い。
【0023】
モータシャフト20では、大径部203よりも一端20a側の領域の外周に、ベアリングB1が圧入されている。
図2に示すように、ベアリングB1のインナレースB1aは、回転軸X方向の一方の側面が、モータシャフト20の外周に設けた段部204に当接している。インナレースB1aは、他方の側面に、モータシャフト20の外周に圧入されたリング状のストッパ205が当接している。
ストッパ205によりベアリングB1は、インナレースB1aを、段部204に当接させた位置で位置決めされている。
【0024】
モータシャフト20の一端20aは、ストッパ205よりも差動装置6側(図中、左側)に位置している。回転軸X方向において一端20aは、第1遊星減速ギア4のサンギア41の側面41aに、間隔をあけて対向している。
【0025】
図2、3に示すように、中間ケース12では、環状の基部120と、当該基部120より小径の環状のモータ支持部121とが、回転軸X方向で位置をずらして設けられている。基部120とモータ支持部121とは、リング状の接続部123で接続されている。
本実施形態では、基部120をモータハウジング10の一端10aに固定すると、モータ支持部121が、モータハウジング10の内径側の空間Sa(以下、単に空間Saと標記する)内に挿入されるようになっている。
【0026】
図3に示すように、モータハウジング10と基部120と接続部123とモータ支持部121とで囲まれた領域は、モータ2から離れる方向に窪んでおり、中間ケース12の内径側に及んでいる。この領域は、空間Saに開口しており、ステータコア25のコイルエンド253aが、空間Sa側から収容されている。
【0027】
図2に示すように、モータ支持部121は、コイルエンド253aの内径側で、ロータコア21の一端部21aに、回転軸X方向の隙間をあけて対向して配置されている。
モータ支持部121のロータコア21側の端面121aには、ベアリングリテーナ125が固定されている。
【0028】
ベアリングリテーナ125は、回転軸X方向から見てリング状を成している。ベアリングリテーナ125の内径側は、モータ支持部121で支持されたベアリングB1のアウタレースB1bの側面に回転軸X方向から当接している。ベアリングリテーナ125は、モータ支持部121からのベアリングB1の脱落を阻止している。
【0029】
モータ支持部121のベアリングリテーナ125と反対側の端面121bには、モータ支持部121の開口を全周に亘って囲む円筒壁122が設けられている。
円筒壁122は、モータ支持部121から差動装置6側に延出している。円筒壁122の先端122aは、第1遊星減速ギア4のサンギア41の側面41aに間隔をあけて対向している。
【0030】
円筒壁122は、モータシャフト20の外周を所定間隔で囲んでおり、円筒壁122とモータシャフト20との間には、リップシールRSが設置されている。
リップシールRS、モータ支持部121及び接続部123は、空間Saと、中間ケース12の内径側の空間Sb(以下、単に空間Sbと標記する)とを、区画している。
【0031】
空間Sbは、後記する差動装置6を収容するケース13内の空間Scと連絡しており、差動装置6の潤滑油OLが封入されている(図1における破線参照)。リップシールRSは、円筒壁122の内部から空間Saへの潤滑油OLの流入を阻止するために設けられている。
【0032】
図3に示すように、接続部123とモータ支持部121と円筒壁122とで囲まれた領域は、モータ2に近づく方に窪んでおり、この領域は、基部120の内径側の空間Sbに開口している。
【0033】
空間Sbには第1遊星減速ギア4が収容される。この状態において、第1遊星減速ギア4のキャリア45の側板部452は、モータ支持部121との間に隙間CL1をあけて設けられている。
【0034】
空間Saと空間Sbとは、中間ケース12によって隔てられている。
中間ケース12の内径側のモータハウジング10寄りの領域では、空間Saと空間Sbとが、回転軸Xの径方向で、接続部123を挟んでオーバーラップしている。
【0035】
接続部123には、当該接続部123を回転軸Xに対して所定角度傾いた直線Lmに沿って貫通する貫通孔124が形成されている。直線Lmは、ステータコア25のコイルエンド253aと、キャリア45の側板部452とを最短距離で結ぶ直線である。
【0036】
貫通孔124は、空間Saと空間Sbとを連絡する。貫通孔124は、接続部123の鉛直線VL方向における回転軸Xよりも上側の領域に形成されている。
【0037】
図3に示すように、直線Lm方向における空間Sa側にはステータコア25のコイルエンド253aが位置している。つまり、接続部123において、貫通孔124はステータコア25の内径側でコイルエンド253aに対向する位置で開口している。
また、直線Lm方向における空間Sb側にはキャリア45の側板部452が位置している。つまり、接続部123において、貫通孔124はキャリア45(第1遊星減速ギア4)の外径側で側板部452に対向する位置で開口している。
【0038】
貫通孔124内にはフィルタFが設けられている。フィルタFには、不織布や金属製のメッシュ材が用いられている。
【0039】
図2に示すように、モータシャフト20の一端20a側の領域202は、ロータコア21が外挿された領域201よりも大きい内径で形成されている。
この一端20a側の領域202の内側には、サンギア41の円筒状の連結部411が挿入されている。この状態において、モータシャフト20の一端20a側の領域202と、サンギア41の連結部411とが、相対回転不能にスプライン嵌合している。
【0040】
そのため、モータ2の出力回転が、モータシャフト20を介して、第1遊星減速ギア4のサンギア41に入力されて、サンギア41がモータ2の回転駆動力で、回転軸X回りに回転する。
【0041】
サンギア41は、内径側の側面41aから回転軸X方向に延びる連結部411を有している。連結部411は、サンギア41と一体に形成されており、サンギア41の内径側と連結部411の内径側とに跨がって、貫通孔410が形成されている。
サンギア41は、貫通孔410を貫通したドライブシャフト8Bの外周で回転可能に支持されている。
【0042】
回転軸Xの径方向におけるサンギア41の外径側には、中間ケース12の基部120内周に固定されたリングギア42が位置している。回転軸Xの径方向において、サンギア41とリングギア42の間では、ピニオン軸44で回転可能に支持されたピニオンギア43が、サンギア41の外周と、リングギア42の内周に噛合している。
【0043】
ピニオンギア43は、ニードルベアリングNBを介して、ピニオン軸44の外周で回転可能に支持されている。ピニオン軸44は、ピニオンギア43を回転軸Xに沿う軸線X1方向に貫通している。ピニオン軸44の長手方向の一端と他端は、キャリア45の一対の側板部451、452で支持されている。
【0044】
側板部451、452は、回転軸X方向に間隔をあけて互いに平行に設けられている。
側板部451、452の間では、複数のピニオンギア43が回転軸X周りの周方向に所定間隔で複数(例えば、4つ)設けられている。
【0045】
差動装置6側に位置する側板部451には、円筒状の連結部453が設けられている。
側板部451において連結部453は、回転軸Xに対して同心に配置されていると共に、回転軸Xに沿って、差動装置6に近づく方向(図中、左方向)に突出している。
【0046】
図2、3に示すように、中間ケース12から見て差動装置6側には、リング状の中間カバー14が位置している。
この状態において、キャリア45の側板部451と中間カバー14との間には隙間CL2が形成されている(図3参照)。
本実施形態では、回転軸X方向の隙間CL2の長さL2が、隙間CL1の長さL1よりも短くなるように設定されており(L1>L2)、隙間CL2の容積が、隙間CL1の容積よりも小さくなるように設定されている。
【0047】
第1遊星減速ギア4の外径側は、中間ケース12(基部120、接続部123及びモータ支持部121)と、中間カバー14とに囲まれている。
具体的には、第1遊星減速ギア4の側板部452は、回転軸X方向におけるモータ2側(図中、右側)で、中間ケース12の接続部123及びモータ支持部121と対向している。
第1遊星減速ギア4のリングギア42は、回転軸Xの径方向で中間ケース12の基部120と対向している。第1遊星減速ギア4の側板部451は、回転軸X方向における差動装置6側(図中、左側)で、中間カバー14と対向している。
【0048】
図2に示すように、側板部451の内径側に設けられた連結部453は、中間カバー14の中央の開口140を、モータ2側から差動装置6側の左方に貫通している。
連結部453の先端453aは、中間カバー14に取り付けられたケース13内に位置している。回転軸X方向において連結部453の先端453aは、第2遊星減速ギア5のサンギア51の側面51aに、間隔をあけて対向している。
【0049】
連結部453の内側には、サンギア51から延びる円筒状の連結部511が挿入されてスプライン嵌合しており、第1遊星減速ギア4側の連結部453と、第2遊星減速ギア5側の連結部511とが、相対回転不能に連結されている。
【0050】
サンギア51は、内径側の側面51aから回転軸X方向に延びる連結部511を有している。連結部511は、サンギア51と一体に形成されており、サンギア51の内径側と連結部511の内径側とに跨がって、貫通孔510が形成されている。
サンギア51は、貫通孔510を貫通したドライブシャフト8Bの外周で回転可能に支持されている。
【0051】
サンギア51の差動装置6側の側面51bは、後記するデフケース60の筒状の支持部601に、回転軸X方向の隙間をあけて対向しており、側面51bと支持部601との間には、ニードルベアリングNBが介在している。
【0052】
サンギア51は、前記した第1遊星減速ギア4側の連結部453の延長上で、段付きピニオンギア53の大径歯車部531に噛合している。
【0053】
段付きピニオンギア53は、サンギア51に噛合する大径歯車部531と、大径歯車部531よりも小径の小径歯車部532とを有している。
段付きピニオンギア53は、大径歯車部531と小径歯車部532が、回転軸Xに平行な軸線X2方向で並んで、一体に設けられたギア部品である。
【0054】
段付きピニオンギア53は、大径歯車部531と小径歯車部532の内径側を軸線X2方向に貫通した貫通孔530を有している。
段付きピニオンギア53は、貫通孔530を貫通したピニオン軸54の外周で、ニードルベアリングNBを介して回転可能に支持されている。
ピニオン軸54の長手方向の一端と他端は、デフケース60と一体に形成された側板部651と、この側板部651に間隔をあけて配置された側板部551で支持されている。
【0055】
側板部651、551は、回転軸X方向に間隔をあけて互いに平行に設けられている。
側板部651、551の間では、複数の段付きピニオンギア53が回転軸X周りの周方向に所定間隔で複数(例えば、3つ)設けられている。
【0056】
小径歯車部532の各々は、リングギア52の内周に噛合している。リングギア52は、ケース13の内周にスプライン嵌合しており、リングギア52は、ケース13との相対回転が規制されている。
【0057】
側板部551の内径側には、第1遊星減速ギア4側に延びる筒状部552が設けられている。筒状部552は、中間カバー14の中央の開口140を、差動装置6側からモータ2側(図中、右側)に貫通している。回転軸X方向において筒状部552の先端552aは、第1遊星減速ギア4のキャリア45の側板部451に、間隔をあけて対向している。
【0058】
筒状部552は、第1遊星減速ギア4側の連結部453と、第2遊星減速ギア5側の連結部511との噛み合い部分の径方向外側に位置している。筒状部552の外周には、中間カバー14の開口140の内周に固定されたベアリングB2が接触している。側板部551の筒状部552は、ベアリングB2を介して、中間カバー14で回転可能に支持されている。
【0059】
第2遊星減速ギア5では、キャリア55を構成する側板部551と側板部651のうちの一方の側板部651は、差動装置6のデフケース60と一体に形成されている。
【0060】
第2遊星減速ギア5では、第1遊星減速ギア4で減速されたモータ2の出力回転が、サンギア51に入力される。
サンギア51に入力された出力回転は、サンギア51に噛合する大径歯車部531を介して、段付きピニオンギア53に入力されて、段付きピニオンギア53が軸線X2回りに回転する。
【0061】
そうすると、大径歯車部531と一体に形成された小径歯車部532は、大径歯車部531と一体に軸線X2周りに回転する。
ここで、小径歯車部532は、ケース13の内周に固定されたリングギア52に噛合している。そのため、小径歯車部532が軸線X2回りに回転すると、段付きピニオンギア53は、軸線X2回りに自転しながら、回転軸X周りに回転する。
【0062】
そうすると、ピニオン軸54の一端が、デフケース60と一体に形成された側板部651に支持されているので、段付きピニオンギア53の回転軸X周りの周方向の変位に連動して、デフケース60が回転軸X回りに回転する。
【0063】
ここで、段付きピニオンギア53では、小径歯車部532の外径R1が大径歯車部531の外径R2よりも小さくなっている(R1<R2:図2参照)。
そして、第2遊星減速ギア5では、サンギア51が、モータの出力回転の入力部となっており、段付きピニオンギア53を支持するキャリア55が、入力された回転の出力部となっている。
そうすると、第2遊星減速ギア5のサンギア51に入力された回転は、段付きピニオンギア53により大きく減速されたのちに、キャリア55の側板部651が一体に形成されたデフケース60に出力される。
【0064】
図1に示すように、デフケース60は、シャフト61と、かさ歯車62A、62Bと、サイドギア63A、63Bとを、内部に収納する中空状に形成されている。
デフケース60では、回転軸X方向(図中、左右方向)の両側部に、筒状の支持部601、602が設けられている。支持部601、602は、シャフト61から離れる方向に、回転軸Xに沿って延出している。
【0065】
支持部602の外周には、ベアリングB2のインナレースB2aが圧入されている。
ベアリングB2のアウタレースB2bは、ケース13のリング状の支持部135で保持されており、デフケース60の支持部602は、ベアリングB2を介して、ケース13で回転可能に支持されている。
【0066】
支持部602には、ケース13の開口部130を貫通したドライブシャフト8Aが、回転軸X方向から挿入されており、ドライブシャフト8Aは、支持部602で回転可能に支持されている。
開口部130の内周には、リップシールRSが固定されており、リップシールRSの図示しないリップ部が、ドライブシャフト8Aの外周に弾発的に接触することで、ドライブシャフト8Aの外周と開口部130の内周との隙間が封止されている。
【0067】
支持部601には、カバー11の開口部114を貫通したドライブシャフト8Bが、回転軸方向から挿入されている。
ドライブシャフト8Bは、モータ2のモータシャフト20と、第1遊星減速ギア4のサンギア41と、第2遊星減速ギア5のサンギア51の内径側を回転軸X方向に横切って設けられており、ドライブシャフト8Bの先端側が、支持部601で回転可能に支持されている。
【0068】
カバー11の開口部114の内周には、リップシールRSが固定されており、リップシールRSの図示しないリップ部が、ドライブシャフト8Bの外周に弾発的に接触することで、ドライブシャフト8Bの外周と開口部114の内周との隙間が封止されている。
【0069】
デフケース60の内部では、ドライブシャフト8A、8Bの先端部の外周に、サイドギア63A、63Bがスプライン嵌合しており、サイドギア63A、63Bとドライブシャフト8A、8Bとが、回転軸X周りに一体回転可能に連結されている。
【0070】
デフケース60には、回転軸Xに直交する方向に貫通した軸孔60a、60bが、回転軸Xを挟んで対称となる位置に設けられている。
軸孔60a、60bは、回転軸Xに直交する軸線Y上に位置しており、シャフト61の一端61a側および他端61b側が挿入されている。
【0071】
シャフト61の一端61a側および他端61b側は、ピンPでデフケース60に固定されており、シャフト61は、軸線Y回りの自転が禁止されている。
デフケース60の下部側は、ケース13内の潤滑油OLに浸っている。
本実施形態では、シャフト61の一端61aまたは他端61bが最も下部側に位置した際に、シャフト61の一端61aまたは他端61bが少なくとも潤滑油OL内に位置する高さまで、ケース13内の空間Scに潤滑油OLが貯留されている(図1における破線参照)。
【0072】
シャフト61は、デフケース60内において、サイドギア63A、63Bの間に位置しており、軸線Yに沿って配置されている。
【0073】
デフケース60内においてシャフト61には、かさ歯車62A、62Bが外挿して回転可能に支持されている。
かさ歯車62A、62Bは、シャフト61の長手方向(軸線Yの軸方向)で間隔を空けて2つ設けられており、かさ歯車62A、62Bは、互いの歯部を対向させた状態で配置されている。シャフト61においてかさ歯車62A、62Bは、当該かさ歯車62A、62Bの軸心を、シャフト61の軸心と一致させて設けられている。
【0074】
デフケース60内において、回転軸Xの軸方向におけるかさ歯車62A、62Bの両側には、サイドギア63A、63Bが位置している。
サイドギア63A、63Bは、互いの歯部を対向させた状態で、回転軸Xの軸方向に間隔を空けて2つ設けられており、かさ歯車62A、62Bとサイドギア63A、63Bとは、互いの歯部を噛合させた状態で組み付けられている。
【0075】
[作用効果]
モータ2の出力回転は、モータシャフト20を介して、第1遊星減速ギア4のサンギア41に入力される。これにより、サンギア41は、回転軸X回りに回転する。リングギア42は中間ケース12に固定されているので、サンギア41が回転すると、ピニオンギア43が軸線X1回りに自転しながら、回転軸X周りに回転する。
【0076】
ピニオンギア43の回転軸X周りの回転によって、キャリア45は回転軸X回りに連れ回る。キャリア45の回転は、連結部453を介して、第2遊星減速ギア5側のサンギア51に出力される。この際に、モータ2の出力回転は減速されて、第2遊星減速ギア5に入力される。
第1遊星減速ギア4から第2遊星減速ギア5に入力された回転は、さらに減速されたのち、差動装置6に入力される。
【0077】
差動装置6では、第2遊星減速ギア5側から入力された回転で、デフケース60が回転軸X回りに回転して、空間Sc内の潤滑油OLを掻き上げる。
さらに、第1遊星減速ギア4のピニオンギア43およびキャリア45も、回転軸X回りに回転して、空間Sb内の潤滑油OLを掻き上げる。
掻き上げられた潤滑油OLは、遠心力によって中間ケース12(接続部123、モータ支持部121及び基部120)と、中間カバー14とで囲まれた第1遊星減速ギア4の外周側領域に集まる(図3参照)。
【0078】
中間ケース12の内径側では、第1遊星減速ギア4の構成要素(サンギア41、リングギア42、ピニオンギア43、キャリア45)と、接続部123とが、回転軸Xの径方向でオーバーラップした位置関係で設けられている。
そのため、掻き上げられた潤滑油OLは、接続部123が位置する外径側に集まることになる。
【0079】
潤滑油OLが継続的に第1遊星減速ギア4の外径側領域に集まると、その領域の圧力が上がる。圧力が高まった潤滑油OLは、接続部123に形成された貫通孔124を通って空間Sa側へ噴出される。
空間Sa側へ噴出された潤滑油OLは、ステータコア25のコイルエンド253aに衝突する(図中、矢印参照)。これにより、潤滑油OLによってステータコア25が冷却される。
【0080】
ここで、空間Sb内の潤滑油OLには、減速機構3や差動装置6の回転によって発生する金属の摩耗粉(コンタミネーション)が含まれている。本実施形態では、貫通孔124にフィルタFが設けられているため、空間Sb側から貫通孔124を通って、空間Sa側へ潤滑油OLが移動する際に濾過される。これにより、空間Sa側に金属の摩耗粉が入り込むことが抑制されている。
【0081】
また、隙間CL1の容積は、隙間CL2の容積よりも大きく設定されている。
よって、中間ケース12(接続部123、モータ支持部121及び基部120)と、中間カバー14とで囲まれた領域に集まる潤滑油OLの多くは、隙間CL1側に流れる。これにより、より多くの潤滑油OLが貫通孔124から、ステータコア25に噴射されるので、より効果的にステータコア25が冷却される。
【0082】
本実施形態にかかる動力伝達装置の一例として挙げた電気車両EVの動力伝達装置1は、以下の構成を有している。
(1)空間Sa内(モータ室)に設けられたモータ2と、
空間Sb内(ギア室)に設けられ、モータ2の下流に配置された第1遊星減速ギア4(減速ギア)と、
空間Saと空間Sbとを区切る中間ケース12(壁部)と、を有する。
第1遊星減速ギア4の外周側に、空間Saと連通するフィルタF付き貫通孔124(油路)が設けられている。
【0083】
空間Sa(モータ室)と空間Sb(ギア室)とを連通させる貫通孔124を中間ケース12に設けて、第1遊星減速ギア4の回転により外周方向に飛散する潤滑油OLを、空間Sa(モータ室)側に供給して、モータ2の冷却を促進する。
しかしながら、空間Sb(ギア室)内の潤滑油OLには、金属の摩耗粉などが含まれる場合があるので、上記のように構成して、フィルタF付き貫通孔124とすることで、摩耗粉などの空間Sa(モータ室)側への流入を防ぐことで、コンタミネーションの抑制を図ることができる。
【0084】
本実施形態にかかる動力伝達装置の一例として挙げた電気車両EVの動力伝達装置1は、以下の構成を有している。
(2)フィルタF付き貫通孔124の出口は、モータ2のステータコア25に向けて開口している。
【0085】
このように構成すると、ステータコア25に向かって直接潤滑油OLが噴射されるのでモータ冷却が効率的にできる。
【0086】
本実施形態にかかる動力伝達装置の一例として挙げた電気車両EVの動力伝達装置1は、以下の構成を有している。
(3)第1遊星減速ギア4は、空間Sa側に位置する中間ケース12のモータ支持部121(第1壁部)と、外周側に位置する中間ケース12の基部120(第2壁部)と、接続部123及びモータ支持部121と反対側に設けられた中間カバー14(第3壁部)と、に囲まれている部分を有する。
【0087】
このように構成すると、第1遊星減速ギア4の外径側(外周側)は、モータ支持部121と、基部120と、中間カバー14の3方向で囲まれた状態となる。
第1遊星減速ギア4の回転による遠心力で、掻き上げられた潤滑油OLが、上記3方向で囲まれた領域に溜まりやすくなる。接続部123に設けた貫通孔124は、この3方向で囲まれた領域に開口しているので、貫通孔124を通って、空間Sa(モータ室)側に流入する潤滑油OLの量が多くなる。これにより、空間Sa(モータ室)側へ効率的に潤滑油OLを供給することができる。
【0088】
本実施形態にかかる動力伝達装置の一例として挙げた電気車両EVの動力伝達装置1は、以下の構成を有している。
(4)第1遊星減速ギア4と中間カバー14との隙間CL2は、第1遊星減速ギア4とモータ支持部121との隙間CL1よりも狭い。
【0089】
このように構成すると、中間カバー14側の隙間CL2に流れる潤滑油量を制限して、モータ支持部121側の隙間CL1に流れる潤滑油量を多くすることができる。これにより、フィルタF付き貫通孔124へ多くの潤滑油OLが供給されるので、モータ2を効果的に潤滑することができる。
【0090】
本実施形態にかかる動力伝達装置の一例として挙げた電気車両EVの動力伝達装置1は、以下の構成を有している。
(5)貫通孔124は、接続部123の鉛直線VL方向における回転軸Xよりも上側の領域の形成されている。
【0091】
このように構成すると、潤滑油OLの行き届き難いモータ2の上側を効果的に冷却することが出来る。
【0092】
本実施形態にかかる動力伝達装置の一例として挙げた電気車両EVの動力伝達装置1は、以下の構成を有している。
(6)貫通孔124は、ステータコア25のコイルエンド253aと、キャリア45の側板部452とを最短距離で結ぶ直線Lmに沿って形成されている。
【0093】
このように構成すると、より効率的に潤滑油OLをステータコア25に噴射することが出来る。
【0094】
[第1の変形例]
図4は、第1の変形例にかかる動力伝達装置1Aを説明する図である。
なお、以下の説明では、本実施形態にかかる動力伝達装置1との相違点のみ説明する。
【0095】
前記した実施形態では、空間Sa(モータ室)と空間Sb(ギア室)とを連通させる貫通孔124が、中間ケース12における基部120とモータ支持部121とを接続する接続部123に設けられている場合を例示した。
【0096】
貫通孔を設ける位置は、この態様にのみ限定されない。例えば、図4に示すように、中間ケース12Aの基部120内に、貫通孔124Aを設けた構成としても良い。
図4に示すように、貫通孔124Aは、回転軸Xに平行な直線Lpに沿って形成された第1貫通部124aと、回転軸Xに直交する直線Lqに沿って形成された第2貫通部124bとから構成されている。
【0097】
第1貫通部124aの直線Lp方向における一端と、第2貫通部124bの直線Lq方向における一端は交差しており、基部120内において貫通孔124Aは、屈曲して形成されている。
【0098】
基部120の内周には、回転軸X方向に延びるスプライン溝120cが、回転軸X回りの周方向の全周に亘って、所定間隔で形成されている。
基部120の内周には、リングギア42の外周がスプライン嵌合しており、第2貫通部124bの他端は、基部120の内周のスプライン溝120cに開口している。
【0099】
第1貫通部124aの他端は、空間Sa(モータ室)に開口している。
直線Lp方向において、第1貫通部124aの開口は、ステータコア25のコイルエンド253aと対向している。開口にはフィルタFが設けられている。
【0100】
第1遊星減速ギア4のキャリア45及びピニオンギア43が回転軸X回りに回転すると、空間Sb内の潤滑油OLが掻き上げられる。掻き上げられた潤滑油OLは、中間ケース12Aと、中間カバー14とで囲まれた第1遊星減速ギア4の外周側領域に集まる(図4参照)。
【0101】
潤滑油OLが継続的に第1遊星減速ギア4の外周側領域に集まると、その領域の圧力が上がる。圧力が高まった潤滑油OLは、貫通孔124Aを通って空間Sa側へ噴出される。
空間Sa側へ噴出された潤滑油OLは、ステータコア25のコイルエンド253aに衝突する(図中、矢印参照)。これにより、潤滑油OLによってステータコア25が冷却される。
【0102】
第1の変形例にかかる動力伝達装置1Aでは、第1貫通部124aにフィルタFが設けられている。
これにより、潤滑油OLが、貫通孔124AにおけるフィルタFが設けられた領域を通過する際に、潤滑油OLに金属の摩耗粉などが含まれている場合には、摩耗粉などがフィルタに取り込まれて、潤滑油OLが濾過される。
よって、空間Sa側に金属の摩耗粉が入り込むことが抑制される。
【0103】
第1の変形例にかかる動力伝達装置の一例として挙げた電気車両EVの動力伝達装置1Aは、以下の構成を有している。
(7)空間Sa(モータ室)内に設けられたモータ2と、
空間Sb(ギア室)内に設けられ、モータ2の下流に配置された第1遊星減速ギア4と、
空間Saと空間Sbとを区切る中間ケース12Aと、を有する。
第1遊星減速ギア4の外周側に空間Saと連通するフィルタF付き貫通孔124Aが設けられている。
【0104】
空間Sa(モータ室)と空間Sb(ギア室)とを連通させる貫通孔124Aを中間ケース12に設けて、第1遊星減速ギア4の回転により外周方向に飛散する潤滑油OLを空間Sa(モータ室)に供給する貫通孔124Aを設けることでモータ2の冷却を促進する。
しかしながら、空間Sb(ギア室)内の潤滑油OLには金属の摩耗粉などが含まれる場合があるので、上記のように構成して、フィルタF付き貫通孔124Aとすることで、摩耗粉などの空間Sa(モータ室)側への流入を防ぐことで、コンタミネーションの抑制を図ることができる。
【0105】
[第2の変形例]
図5は、第2の変形例にかかる動力伝達装置1Bを説明する図である。
図6は、動力伝達装置1Bの遊星減速ギア5A周りの拡大図である。
なお、以下の説明では、本実施形態にかかる動力伝達装置1との相違点のみ説明する。
【0106】
前記した実施形態では、モータ2の出力回転の伝達経路上に、2つの遊星減速ギア(第1遊星減速ギア4、第2遊星減速ギア5)が直列に配置されている場合を例示した。
本発明はこの態様にのみ限定されない。例えば図5に示すように、モータ2の出力回転の伝達経路上に、1つの遊星減速ギア5Aが設けられている構成としても良い。
【0107】
図5に示すように、動力伝達装置1Bは、モータ2と、モータ2の出力回転を減速して差動装置6に入力する遊星減速ギア5Aと、ドライブシャフト8(8A、8B)と、を有している。
【0108】
動力伝達装置1Bでは、モータ2の出力回転の伝達経路に沿って、遊星減速ギア5Aと、差動装置6と、ドライブシャフト8(8A、8B)と、が設けられている。
遊星減速ギア5Aは、モータ2の下流に接続されており、差動装置6は、遊星減速ギア5Aの下流に接続されており、ドライブシャフト8(8A、8B)は、差動装置6の下流に接続されている。
【0109】
モータ2の出力回転は、遊星減速ギア5Aで減速されて差動装置6に入力された後、ドライブシャフト8(8A、8B)を介して、動力伝達装置1Bが搭載された車両の左右の駆動輪(図示せず)に伝達される。
【0110】
動力伝達装置1Bでは、モータハウジング10と、カバー11と、中間ケース12Bと、ケース13とで、本体ケース9を構成している(図5参照)。
本体ケース9の内部空間は、中間ケース12Bを境にして、モータハウジング10側の空間Saが、モータ2を収容するモータ室となっている。そして、ケース13側の空間Sbが、遊星減速ギア5Aと差動装置6を収容するギア室となっている。
【0111】
図6に示すように、モータ2側から延びるモータシャフト20の一端20aは、ストッパ205よりも差動装置6側(図中、左側)に位置している。回転軸X方向において一端20aは、遊星減速ギア5Aのサンギア51と、段付きピニオンギア53の大径歯車部531との噛み合い部分に、間隔をあけて対向している。
【0112】
モータシャフト20の一端20a側では、モータシャフト20の径方向外側に、中間ケース12Bの円筒壁122が位置している。円筒壁122は、モータ支持部121から差動装置6側(図中、左側)に突出している。
【0113】
円筒壁122の外径側では、接続部123との間に、遊星減速ギア5A側(図6における左側)に開口した凹部129が形成されている。
凹部129の接続部123側(外径側)には、ベアリングB3のアウタレースB3bを位置決めする段部123aが設けられている。凹部129内において、ベアリングB3のインナレースB3aは、モータ支持部121との接触を避けて設けられており、インナレースB3aは、後記する筒状部552の外周を支持している。
【0114】
接続部123の外径側にはリング状の基部120Aが設けられている。基部120Aには、貫通孔124Bが形成されている。貫通孔124Bは、回転軸Xに平行な直線Lxに沿って基部120Aを貫通している。直線Lx方向から見て、遊星減速ギア5Aの大径歯車部531と、貫通孔124Bと、ステータコア25のコイルエンド253aとは、互いにオーバーラップしている。貫通孔124BにはフィルタFが設けられている。
【0115】
モータシャフト20の一端20a側では、モータシャフト20の径方向内側に、サンギア51の円筒状の連結部511が挿入されている。この状態において、モータシャフト20の一端20a側と、サンギア51の連結部511とが、相対回転不能にスプライン嵌合している。
【0116】
そのため、モータ2の出力回転が、モータシャフト20を介して、遊星減速ギア5Aのサンギア51に入力されて、サンギア51がモータ2の回転駆動力で、回転軸X回りに回転する。
【0117】
サンギア51は、内径側の側面51aから回転軸X方向に延びる連結部511を有している。連結部511は、サンギア51と一体に形成されおり、サンギア51の内径側と連結部511の内径側とに跨がって、貫通孔510が形成されている。
サンギア51は、貫通孔510を貫通したドライブシャフト8Bの外周で回転可能に支持されている。
【0118】
サンギア51は、前記したモータシャフト20の延長上で、段付きピニオンギア53の大径歯車部531に噛合している。
大径歯車部531と一体に形成された小径歯車部532は、リングギア52の内周に噛合している。リングギア52は、後記するケース13の中径筒部132の内周にスプライン嵌合しており、リングギア52は、ケース13との相対回転が規制されている。
【0119】
段付きピニオンギア53のピニオン軸54を支持する側板部551は、当該側板部551の内径側に、回転軸X方向におけるモータ2側に延びる筒状部552が設けられている。筒状部552は、中間ケース12Bの凹部129に、回転軸X方向から挿入されている。凹部129内において、筒状部552は、モータ支持部121との接触を避けて設けられている。
【0120】
筒状部552は、モータシャフト20と、遊星減速ギア5A側の連結部511との噛み合い部分の径方向外側に位置している。筒状部552の外周には、ベアリングB3のインナレースB3aが接触している。筒状部552は、ベアリングB3を介して、中間ケース12Bで回転可能に支持されている。
【0121】
図6に示すように、中間ケース12Bから見て差動装置6側には、ケース13が位置している。ケース13は筒状部材であり、回転軸X方向で中間ケース12Bから離れるにつれて内径が段階的に小さくなっている。
具体的には、回転軸X方向における中間ケース12B側から差動装置6側に向かって、大径筒部131、中径筒部132、小径筒部133となっている。
【0122】
大径筒部131の内径R4は、大径歯車部531の外側の軌跡半径R3より大径であり、中径筒部132の内径R5は、大径歯車部531の外側の軌跡半径R3より小径である(R4>R3>R5)。また、回転軸X方向における大径筒部131の長さL10は、ピニオンギア53の大径歯車部531の長さL11よりも長く設定されている(L10>L11)。
【0123】
大径筒部131と中径筒部132との境界は段部134が形成されている。段部134は回転軸X方向に直交する平坦面である。
遊星減速ギア5Aが空間Sbに収容された状態において、大径歯車部531の外径側は中間ケース12Bの基部120Aと、ケース13の大径筒部131と段部134に囲まれている。
【0124】
具体的には、大径歯車部531は、回転軸X方向におけるモータ2側(図中、右側)で、中間ケース12Bの基部120Aと対向している。大径歯車部531における基部120Aとの対向面531aには、リング溝531bが開口している。リング溝531bと基部120Aとの間には隙間CL4が形成されている。直線Lx方向から見て、隙間CL4は、前記した貫通孔124Bとオーバーラップしている。
【0125】
大径歯車部531は、回転軸Xの径方向外側(図中、上側)で、ケース13の大径筒部131と対向している。大径歯車部531と大径筒部131との間には隙間CL5が形成されている。
大径歯車部531は、回転軸X方向における差動装置6側(図中、左側)で、ケース13の段部134と対向している。大径歯車部531における段部134との対向面531cは、回転軸Xに直交する平坦面である。対向面531cと段部134との間には隙間CL6が形成されている。
【0126】
この状態において、動力伝達装置1Bでは、隙間CL5、CL6の容積が、隙間CL4の容積よりも小さくなるように、ケース13に対して大径歯車部531が位置決めされている。
【0127】
遊星減速ギア5Aでは、モータ2の出力回転が、サンギア51に入力される。
サンギア51に入力された出力回転は、サンギア51に噛合する大径歯車部531を介して、段付きピニオンギア53に入力されて、段付きピニオンギア53が軸線X1回りに回転する。
【0128】
そうすると、大径歯車部531と一体に形成された小径歯車部532は、大径歯車部531と一体に軸線X1周りに回転する。
ここで、小径歯車部532は、ケース13の中径筒部132の内周に固定されたリングギア52に噛合している。そのため、小径歯車部532が軸線X1回りに回転すると、段付きピニオンギア53は、軸線X1回りに自転しながら、回転軸X回りに回転する。
【0129】
段付きピニオンギア53が軸線X1回りに自転しながら回転軸X回りに回転すると、空間Sb内の潤滑油OLは掻き上げられる。掻き上げられた潤滑油OLの多くは、大径歯車部531の外周側領域に集まる(図6参照)。
【0130】
大径歯車部531の外径側(外周側)は、基部120Aと大径筒部131と段部134の3方向で囲まれている。大径歯車部531と基部120A、大径筒部131及び段部134との間には隙間CL4、CL5、CL6が形成されている。
よって、段付きピニオンギア53の回転によって掻き上げられた潤滑油OLは、隙間CL4、CL5、CL6に溜まる。隙間CL4には貫通孔124Bが開口しているので、掻き上げられた潤滑油OLは貫通孔124Bを通って、空間Sa(モータ室)側に流入する。
【0131】
さらに、隙間CL4の容積は、隙間CL5、CL6の容積よりも大きく設定されている。
よって、掻き上げられた潤滑油OLの多くは、隙間CL4側に集まる。これにより、より多くの潤滑油OLが貫通孔124Bからステータコア25に噴射されて、効果的にステータコア25を冷却できる。
【0132】
ここで、空間Sb内の潤滑油OLには、遊星減速ギア5Aや差動装置6の回転によって発生する金属の摩耗粉(コンタミネーション)が含まれている。動力伝達装置1Bでも、貫通孔124BにフィルタFが設けられているため、空間Sb側から貫通孔124Bを通って、空間Sa側へ潤滑油OLが移動する際に濾過される。これにより、空間Sa側に金属の摩耗粉が入り込むことが抑制されている。
【0133】
第2の変形例にかかる動力伝達装置として挙げた電気車両EVの動力伝達装置1Bは、以下の構成を有している。
(8)空間Sa内(モータ室)に設けられたモータ2と、
空間Sb内(ギア室)に設けられ、モータ2の下流に配置された遊星減速ギア5A(減速ギア)と、
空間Saと空間Sbとを区切る中間ケース12B(壁部)と、を有する。
遊星減速ギア5Aの外周側に、空間Saと連通するフィルタF付き貫通孔124B(油路)が設けられている。
【0134】
空間Sa(モータ室)と空間Sb(ギア室)とを連通させる貫通孔124Bを中間ケース12Bに設けて、遊星減速ギア5Aの回転により外周方向に飛散する潤滑油OLを、空間Sa(モータ室)側に供給して、モータ2の冷却を促進する。
しかしながら、空間Sb(ギア室)内の潤滑油OLには、金属の摩耗粉などが含まれる場合があるので、上記のように構成して、フィルタF付き貫通孔124Bとすることで、摩耗粉などの空間Sa(モータ室)側への流入を防ぐことで、コンタミネーションの抑制を図ることができる。
【0135】
第2の変形例にかかる動力伝達装置として挙げた電気車両EVの動力伝達装置1Bは、以下の構成を有している。
(9)フィルタF付き貫通孔124Bの出口は、モータ2のステータコア25に向けて開口している。
【0136】
このように構成すると、ステータコア25に向かって直接潤滑油OLが噴射されるのでモータ冷却が効率的にできる。
【0137】
第2の変形例にかかる動力伝達装置として挙げた電気車両EVの動力伝達装置1Bは、以下の構成を有している。
(10)遊星減速ギア5Aは、空間Sa側に位置する中間ケース12Bの基部120A(第1壁部)と、外周側に位置するケース13の大径筒部131(第2壁部)と、基部120Aと反対側に設けられた段部134(第3壁部)と、に囲まれている部分を有する。
【0138】
このように構成すると、遊星減速ギア5Aの外径側(外周側)は、基部120Aと、大径筒部131と、段部134の3方向で囲まれた状態となる。
遊星減速ギア5Aの回転による遠心力で、掻き上げられた潤滑油OLが、上記3方向で囲まれた領域に溜まりやすくなる。基部120Aに設けた貫通孔124Bは、この3方向で囲まれた領域に開口しているので、貫通孔124Bを通って、空間Sa(モータ室)側に流入する潤滑油OLの量が多くなる。これにより、空間Sa(モータ室)側へ効率的に潤滑油OLを供給することができる。
【0139】
第2の変形例にかかる動力伝達装置として挙げた電気車両EVの動力伝達装置1Bは、以下の構成を有している。
(11)遊星減速ギア5Aの大径歯車部531と、ケース13の段部134との隙間CL6は、遊星減速ギア5Aの大径歯車部531と、中間ケース12Bの基部120Aとの隙間CL4よりも狭い。
【0140】
このように構成すると、隙間CL6の容積を小さくして隙間CL6に流れる潤滑油量を制限し、隙間CL4に流れる潤滑油量を多くすることができる。これにより、フィルタF付き貫通孔124Bへ多くの潤滑油OLが供給されるので、モータ2を効果的に潤滑することができる。
【0141】
ここで、本明細書における用語「下流に接続」とは、上流に配置された部品から下流に配置された部品へと動力が伝達される接続関係にあることを意味する。
例えば、モータ2の下流に接続された第1遊星減速ギア4という場合は、モータ2から第1遊星減速ギア4へと動力が伝達されることを意味する。モータ2の下流に接続された遊星減速ギア5Aという場合は、モータ2から遊星減速ギア5Aへと動力が伝達されることを意味する。
また、本明細書における用語「直接接続」とは、他の減速機構、増速機構、変速機構などの減速比が変換される部材を介さずに部材同士が動力伝達可能に接続されていることを意味する。
【0142】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は、これら実施形態に示した態様のみに限定されるものではない。発明の技術的な思想の範囲内で、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0143】
1、1A、1B 動力伝達装置
2 モータ
3 減速機構
4 第1遊星減速ギア
5 第2遊星減速ギア
5A 遊星減速ギア
6 差動装置
8 ドライブシャフト
9 本体ケース
10 モータハウジング
11 カバー
12、12A、12B 中間ケース
120、120A 基部
121 モータ支持部
122 円筒壁
123 接続部
124、124A、124B 貫通孔
124a 第1貫通部
124b 第2貫通部
125 ベアリングリテーナ
129 凹部
13 ケース
131 大径筒部
132 中径筒部
133 小径筒部
134 段部
14 中間カバー
20 モータシャフト
203 大径部
21 ロータコア
25 ステータコア
253 巻線
253a コイルエンド
41 サンギア
42 リングギア
43 ピニオンギア
44 ピニオン軸
45 キャリア
51 サンギア
52 リングギア
53 段付きピニオンギア
531 大径歯車部
532 小径歯車部
54 ピニオン軸
55 キャリア
60 デフケース
61 シャフト
62A、62B かさ歯車
63A、63B サイドギア
B1、B2、B3 ベアリング
CL1 隙間
CL2 隙間
CL4 隙間
CL5 隙間
CL6 隙間
F フィルタ
NB ニードルベアリング
OL 潤滑油
RS リップシール
Sa 空間(モータ室)
Sb 空間(ギア室)
Sc 空間
X 回転軸
X1 軸線
X2 軸線
Y 軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6