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特許7383868コンクリート添加剤、コンクリート組成物及びコンクリート硬化体の自己修復方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】コンクリート添加剤、コンクリート組成物及びコンクリート硬化体の自己修復方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 24/00 20060101AFI20231114BHJP
   C04B 22/00 20060101ALI20231114BHJP
   C04B 24/24 20060101ALI20231114BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
C04B24/00
C04B22/00
C04B24/24 Z
C04B28/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019218592
(22)【出願日】2019-12-03
(65)【公開番号】P2021088472
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】西岡 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】小島 正朗
(72)【発明者】
【氏名】小川 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】國岡 潤
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-43960(JP,A)
【文献】特開平7-101759(JP,A)
【文献】特開2009-18966(JP,A)
【文献】特開平1-261250(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B7/00-32/02
C04B40/00-40/06
C04B103/00-111/94
E04G23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸水性高分子及び水和反応性を有する無機粉体を含む内包成分と、
前記内包成分の表面を被覆し、コンクリート組成物に添加して、コンクリート組成物中の成分及び機械的応力の少なくともいずれかの作用により、所定時間で少なくとも一部が除去される被覆材層と、を有するコンクリート添加剤。
【請求項2】
水和反応性を有する無機粉体及び吸水性高分子を含む内包成分と、内包成分の表面を被覆し、コンクリート組成物に添加して、コンクリート組成物中の成分及び機械的応力の少なくともいずれかの作用により、所定時間で少なくとも一部が除去される被覆材層と、を有するコンクリート添加剤を含有するコンクリート組成物。
【請求項3】
水和反応性を有する無機粉体及び吸水性高分子を含む内包成分と、内包成分の表面を被覆し、コンクリート組成物に添加して、コンクリート組成物中の成分及び機械的応力の少なくともいずれかの作用により、所定時間で少なくとも一部が除去される被覆材層と、を有するコンクリート添加剤を含有するコンクリート組成物を用いてコンクリート硬化体を得る工程を含む、コンクリート硬化体の自己修復方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート添加剤、コンクリート組成物及びコンクリート硬化体の自己修復方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート硬化体は、建築物、土木構造体など耐久性を必要とされる構造物の用途に適用されている。近年では、コンクリート構造物の強度向上が求められ、緻密な構造体が形成されている。
しかし、コンクリート構造物には、施工時、その後のコンクリート構造物の供用中の経時等により、ひび割れが生じることがある。ひび割れの原因は、コンクリートの乾燥収縮、大面積のコンクリート構造物における温度応力、地震等の外的な応力など、要因は様々である。
コンクリート構造物にひび割れが生じると、耐久性、美観、漏水の発生など、品質の点で問題となるため、近年、コンクリート構造物のひび割れ抑制を目的として、コンクリート硬化体の自己治癒に関する検討が種々行なわれている。
コンクリート硬化体の自己治癒とは、経時によりコンクリート硬化体にひび割れが発生した場合、コンクリート硬化体に含まれる成分に起因して、発生したひび割れを埋める現象をいう。コンクリート硬化体の自己治癒により、コンクリート硬化体に発生したひび割れからの漏水の抑制、ひび割れからのコンクリート硬化体内部への、水分の浸透抑制、炭酸ガスの侵入抑制、塩化物の浸透遅延などが達成される。
【0003】
特許文献1には、止水材が被覆層であるマイクロカプセルに内包されたコンクリート混和剤が開示されている。止水材としては、水と反応して発泡する発泡性ポリウレタンが例示されている。
【0004】
特許文献2には、セメントに添加する吸水性高分子を含むセメント混和剤であり、水に接触してから実質上吸水を開始するまでの時間が10分~120分の間の任意の時間である吸水性高分子物質を添加する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-18966号公報
【文献】特開平01-261250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術によれば、止水材はコンクリートが硬化するまではマイクロカプセル壁により保護される。特許文献1に記載の技術によれば、止水材として用いられる水と反応して発泡する発泡性ポリウレタンが空隙内の水と接触してマイクロカプセルが膨張することで空隙を埋め、これにより水漏れなどに対する止水効果はある程度発現される。しかし、コンクリート硬化体に対する自己修復機能を有するものではない。
特許文献2に記載の技術は、ひび割れ修復ではなく、コンクリート組成物の硬化時に発生するブリード水を吸収することにより、コンクリート硬化体の均一性、外観の保持に寄与することが課題である。従って、コンクリート組成物の混練時には吸水性高分子が保護されるが、セメント硬化前に吸水性高分子が露出し膨潤した状態となる。吸水性高分子は、経時による乾燥で再び縮むため、経時した後のコンクリート硬化体におけるひび割れの発生時に、再度水が浸入してきても、その水を吸水することで硬化前の膨潤した状態に戻るだけである。従って、吸水性高分子が吸水して膨潤しても、発生したひび割れを埋めることはできず、漏水を防止することは担保されない。
既述のように、従来の技術では、経時後のひび割れに対し、十分な吸水性、止水性が担保されていない。従って、例えば、0.2mm以下の微細なひび割れに対しては、ある程度の吸水能により対応し得る場合があっても、0.2mmを超える、より大きなひび割れでは、漏水の抑制が充分に得られず、保水効果による充分な自己修復効果が得られない場合がある。
【0007】
本発明の一実施形態の課題は、コンクリート硬化体に0.2mmを超えるひび割れが生じた場合でも、漏水を防止し、且つ、ひび割れを効果的に自己治癒することができるコンクリート添加剤及びコンクリート添加剤を含む、自己治癒性が良好なコンクリート硬化体を形成できるコンクリート組成物を提供することである。
また、本発明の別の実施形態の課題は、0.2mmを超えるひび割れに対しても、漏水を防止し、且つ、ひび割れを効果的に自己治癒することができるコンクリート硬化体の自己修復方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための具体的手段には、下記の実施形態が含まれる。
【0009】
[1] 吸水性高分子を含む内包成分と、前記内包成分の表面を被覆し、コンクリート組成物に添加して、コンクリート組成物中の成分及び機械的応力の少なくともいずれかの作用により、所定時間で少なくとも一部が除去される被覆材層と、を有するコンクリート添加剤。
[2] さらに、水和反応性を有する無機粉体を含む[1]に記載のコンクリート添加剤。
【0010】
[3] 水和反応性を有する無機粉体及び吸水性高分子を含む内包成分と、内包成分の表面を被覆し、コンクリート組成物に添加して、コンクリート組成物中の成分及び機械的応力の少なくともいずれかの作用により、所定時間で少なくとも一部が除去される被覆材層と、を有するコンクリート添加剤を含有するコンクリート組成物。
【0011】
[4] 水和反応性を有する無機粉体及び吸水性高分子を含む内包成分と、内包成分の表面を被覆し、コンクリート組成物に添加して、コンクリート組成物中の成分及び機械的応力の少なくともいずれかの作用により、所定時間で少なくとも一部が除去される被覆材層と、を有するコンクリート添加剤を含有するコンクリート組成物を用いてコンクリート硬化体を得る工程を含む、コンクリート硬化体の自己修復方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一実施形態によれば、コンクリート硬化体に0.2mmを超えるひび割れが生じた場合でも、漏水を防止し、且つ、ひび割れを効果的に自己治癒することができるコンクリート添加剤及びコンクリート添加剤を含む、自己治癒性が良好なコンクリート硬化体を形成できるコンクリート組成物が提供される。
本発明の別の実施形態によれば、0.2mmを超えるひび割れに対しても、漏水を防止し、且つ、ひび割れを効果的に自己治癒することができるコンクリート硬化体の自己修復方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本開示のコンクリート添加剤、コンクリート組成物、及びコンクリート硬化体の自己修復方法について詳細に説明する。以下の記載は、本開示における実施形態の例を示すものであり、発明の趣旨を超えない限り、種々の変型例を実施できることはいうまでもない。
【0014】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
【0015】
本開示において水和反応性を有する無機粉体とは、水と接触した場合に水和反応を生起して緻密な組織を有する硬化物を形成することができる無機粉体を指す。
水和反応性を有する無機粉体の代表的な例としては、コンクリート組成物、セメント組成物及びモルタル組成物に含まれる結合材が挙げられる。
本開示において、水和反応性を有する無機粉体を、特定無機粉体と称することがある。
【0016】
<コンクリート添加剤>
本開示のコンクリート添加剤は、吸水性高分子を含む内包成分と、内包成分の表面を被覆し、コンクリート組成物に添加して、コンクリート組成物中の成分及び機械的応力の少なくともいずれかの作用により、所定時間で少なくとも一部が除去される被覆材層と、を有する。
【0017】
本開示の作用は明確ではないが、以下のように考えている。
本開示のコンクリート添加剤は、吸水性高分子が、被覆材層に内包され、被覆材層の機能により、コンクリート組成物に添加剤され、コンクリート組成物に水を添加して一定の条件下で練り混ぜた場合でも、吸水性高分子と水との接触が抑制される。このため、コンクリート組成物の配合及び打込み時には、被覆材層の機能により、内包成分である吸水性高分子の吸水と、吸水による膨潤を抑制することができる。
その後、コンクリート添加剤は、経時によりコンクリート組成物中の成分及び機械的応力の少なくともいずれかの作用により被覆材層の少なくとも一部が除去された状態で、コンクリート硬化体に保持される。
被覆材層の少なくとも一部が除去された状態のコンクリート添加剤は、内包される吸水性高分子が露出して、周辺部の成分と直接接触しうる状態で、コンクリート硬化体に保持される。ここで、コンクリート硬化体にひび割れが生じ、水分が浸入した場合、浸入した水分と吸水性高分子とが接触すると、吸水性高分子が水を吸収し、膨潤して体積が膨張することで、まずひび割れの空隙を塞ぎ、ひび割れからの漏水を防ぐ。被覆材層に内包されていた吸水性高分子は、殆ど水と接触していない状態でコンクリート硬化体に保持される。このため、充分な吸水性能が維持され、ひび割れから浸入した水分と接触した場合、速やかに水を吸収し、吸収により取り込んだ水分に起因する体積膨張が充分に行なわれ、ひび割れの空隙を効果的に閉塞することができる。
さらに、吸水性高分子が保持した水分が周辺にあるセメント成分を溶出させ、空気中の二酸化炭素と水和反応を生じることで、徐々に自己治癒が開始され、ひび割れが水和反応の反応生成物である炭酸カルシウムなどにより充填され、自己治癒されると考えられる。
なお、上記作用機構は、推定であり、本開示を限定的に解釈するものではない。
【0018】
(吸水性高分子を含む内包成分)
本開示のコンクリート添加剤は、被覆材層に内包された吸水性高分子を含む。
吸水性高分子には特に制限はなく、公知の吸水性高分子を適宜、選択して使用することができる。
吸水性高分子は、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、(株)日本触媒の高吸水性樹脂 アクアリック(登録商標)CA、耐塩性吸水性樹脂 アクアリック(登録商標)CS、園芸用保水材 アクリホープ(登録商標)、三洋化成工業(株)の農業・園芸用保水剤 サンフレッシュ、住友精化(株)のアクアキープ、などが挙げられる。
内包成分としての吸水性高分子は、ひび割れからの漏水をまず、吸水によって、より有効に抑制することができ、その後、自己治癒のための水和反応に必要な水分をより効果的に供給し得るという観点から、吸水量が自重の50倍~1000倍程度のものが好ましく、100倍~1000倍程度のものがより好ましく、150倍~1000倍程度のものがさらに好ましい。
【0019】
本開示における吸水性高分子の吸水量は、JIS K 7223(1996年)高吸水性樹脂の吸水量試験方法のティーバッグ法に準じて行うことができる。具体的には、吸水性高分子1gを量り取り、ティーバックに入れ、20℃の室内で、セメントコンクリート中の余剰水を想定してアルカリ水中(KOHの1質量%水溶液)に、1時間、3時間、24時間浸漬し、各時間後に10分間水切りした後に、重さを測定することで得ることができる。
【0020】
吸水性樹脂が吸水した後の体積膨張率は、吸水性樹脂のみかけ密度が0.5~0.7g/ml程度であることから、吸水性樹脂が吸った水の質量=容積とし、これにみかけ密度を乗じて求めればよい。
吸水時の膨張率は、まず、水を吸収する前の吸水性高分子を光学顕微鏡、マイクロスコープ等で撮影し、画像中の粒子のうちランダムに10個以上を選択して粒子径を測定し、算術平均にて平均粒子径を得る。その後、吸水量の測定と同様にして水を吸収して膨潤した吸水性高分子の平均粒子径を同様にして測定し、平均粒子径から球換算の体積を算出して、吸水前の体積との比較により膨潤率を測定することもできる。
【0021】
コンクリート硬化体からのひび割れに起因する漏水をより効果的に防止し、自己修復をより効率よく行なうことができるという観点から、コンクリート組成物の固形分の全量に対する吸水性高分子の含有量は、質量比で、0.02%~0.5%の範囲が好ましく、0.03%~0.4%の範囲がより好ましく、0.05%~0.3%の範囲がさらに好ましい。
上記含有量を好ましいとした根拠は以下の考え方による。
吸水性高分子が、直方体のコンクリート硬化体中に、均等に、即ち、直方体の長さ方向、幅方向、及び高さ方向に均一に分布していると仮定する。その場合、ある破断面を考えると、立方体なので吸水性高分子の含有量は、体積比=面積比とすることができる。
吸水性高分子の単位体積当たりの吸水率をy(%)とし、吸水性高分子のコンクリート組成物の全固形分に対する体積比換算の含有量をx%とする。
本開示の目標とするコンクリート硬化体に発生した幅0.5mmのひび割れの修復性を考慮すれば、幅0.5mmの隙間を埋めることができる場合を考えると、以下の式が成り立つ。
吸水性樹脂の面積:〔1000×1000×x(%)〕/100
吸水性樹脂の膨張量:〔1000×1000×x(%)〕/〔100×y〕=A
埋める隙間体積:〔1000×1000×0.5〕=B
隙間体積Bを、膨張した吸水性高分子の体積Aで、完全に埋めることができる場合には、A=Bとなるため、x(%)=〔0.5×100〕/y=50/y
ここで、吸水率が300倍の吸水性高分子を用いた場合、y=300であり、この吸水性高分子を用いた場合、上記式にy=300を代入すると、x=0.17体積%となる。
上記試算によれば、コンクリート組成物に対する吸水性高分子の体積比換算の含有量を0.17体積%とすれば、理論上、0.5mmのひび割れを埋めることができる。
同様に試算すると、吸水率が100倍の吸水性高分子を用いた場合の好ましい吸水性高分子の含有率は0.5体積%、吸水率が500倍の吸水性高分子を用いた場合、0.1体積%、吸水率が1000倍の吸水性高分子を用いた場合、0.05体積%とすればよい。
このように、使用する吸水性高分子の吸水率と膨潤率と使用量とを制御することで、予想される種々のひび割れに対応するコンクリート添加剤を設計できる。
【0022】
(その他の内包成分)
本開示のコンクリート添加剤においては、内包成分として吸水性高分子以外の成分を含んでもよい。
吸水性高分子に加えて用い得る内包成分としては、水和反応性を有する無機粉体、架橋剤、着色剤、エポキシ樹脂、接着剤、乳酸カルシウムとバクテリア(例えば、Bacillus Pasteurii:バシラス属のバクテリアであるパスツーリ)などが挙げられる。
なかでも、コンクリート添加剤は、内包成分として水和反応性を有する無機粉体(特定無機粉体)を含むことが好ましい。
【0023】
-水和反応性を有する無機粉体(特定無機粉体)-
コンクリート添加剤に用い得る特定無機粉体は、水と接触した場合に水和反応を生起して緻密な組織を有する硬化物を形成することができれば特に制限はなく、公知のコンクリート組成物等に含まれる結合材が代表的なものとして挙げられる。
より具体的には、ポルトランドセメント等のセメント、カルシウムサルフォアルミネート系材料、酸化カルシウム等の膨張材、フライアッシュ、シリカフューム、結晶質のシリカを微粉砕したシリカ微粉末、火山ガラス質微粉末などの天然ポゾラン、高炉スラグ微粉末などのスラグ、石灰石微粉末、フライアッシュ、フライアッシュ起源超微粉末、メタカオリンなどが挙げられる。
【0024】
内包成分として特定無機粉体を用いることで、自己治癒に寄与する特定無機粉体が吸水性高分子の近傍に存在することになり、コンクリート硬化体に含まれるセメント成分を用いる場合よりも自己治癒がより効率よく進行すると考えられる。
例えば、コンクリート添加剤がセメントを含む場合、吸水性高分子から供給される水分によりセメントと水和反応を生じ、コンクリート硬化体に含まれるセメント成分の溶出よりも早く、効率的に水和反応が生じるため、自己修復機能がより向上する。また、コンクリート添加剤がケイ素質材料であるシリカフュームを含む場合、シリカフュームが隣接する吸水性高分子から供給される水分によりコンクリート硬化体に含まれる水酸化カルシウムとポゾラン反応を生じ、ひび割れ内に形成される組織がより緻密な構造となり、自己修復機能がより向上する。
【0025】
内包成分として特定無機粉体を用いる場合には、既述の吸水性高分子と特定無機粉体との混合物を内包させる方法、吸水性高分子表面に被覆材層を形成するに先立って、吸水性高分子表面に特定無機粉体をまぶす方法をとることができる。
内包成分が特定無機粉体を含む場合の、特定無機粉体の含有量は、吸水性高分子100質量部に対して、20質量部~200質量部の範囲であることが、自己治癒性向上の観点から好ましい。また、特定無機粉体の含有量は、組成物全体に対して、0.5kg/m~10kg/mの範囲であることが、自己治癒性向上の観点から好ましい。
【0026】
(被覆材層)
本開示のコンクリート添加剤では、上記吸水性高分子は、被覆材層に内包されて含まれる。被覆材層を有することで、吸水性高分子は、コンクリート組成物の配合、混練時には、コンクリート組成物中の水分とは直接接触しないため、所望されない吸水、及び膨潤が抑制される。
被覆材層は、保存時は、内包成分の表面を被覆し、内包成分である吸水性高分子を保護している。被覆材層は、コンクリート添加剤をコンクリート組成物に添加した場合、内包成分を被覆した状態を保持する。しかし、経時により、或いは、温度の上昇により、コンクリート組成物中の成分及び機械的応力の少なくともいずれかの作用により、所定時間で少なくとも一部が除去される。
被覆材層は、コンクリート組成物が水和反応によりある程度硬化して、コンクリート組成物中の水分の多くが消尽されるまでの時間、被覆状態を維持することが好ましい。そして、所定時間、好ましくは8時間以上、より好ましくは8時間~24時間程度は、コンクリート組成物中の成分及び機械的応力の少なくともいずれかの作用により除去されないことが好ましい。
ここで、被覆材層が除去されるとは、例えば、機械的な応力等により被覆材層の少なくとも一部が剥離されること、及び、加温などにより被覆材層の少なくとも一部が溶解されることのいずれをも含む。
【0027】
被覆材層を構成する材料としては、コンクリート組成物の混練時の温度では固体であり、硬化時の温度履歴により溶解しうる油脂類、ある程度の耐アルカリ性を有するアルカリ可溶性樹脂、耐摩耗性が比較的低い、軟質な樹脂類などが挙げられる。
【0028】
油脂類は、コンクリート組成物の硬化時における水和熱によって溶解が開始されるものが好ましく、具体的には、パラフィン、硬化油等が好適である。パラフィン又は硬化油の融点は、使用時期、使用目的によって適宜選択すればよい。例えば、夏季には、融点が40℃以上、春季又は秋季には融点が30℃以上、冬に期は融点が20℃以上のパラフィン及び硬化油から選ばれる少なくとも1種を選択することが好ましい。
油脂類で構成する被覆層の厚みを調整することによっても、被覆材層が除去される迄の時間を制御することができる。
【0029】
パラフィン、硬化油等の油脂類により被覆材層を形成する場合の被覆材のコーティング量は、所定時間、好ましくは8時間以上、吸水性高分子と外部の水分との接触を抑えることができる量であればよい。具体的には、例えば、被覆量として吸水性高分子の平均粒径が100μm程度以下の場合は、0.1g/g~0.5g/g程度が好ましく、吸水性高分子の平均粒径が100μmを超える場合は、表面積が小さくなるので少なくてよく、例えば平均径が300μm程度の場合は、0.03g/g~0.1g/g程度が好ましい。
被覆材層の平均厚みは、内包成分からなる粒子のサイズによって適宜選択できる。一般的には、平均厚みとして、0.5μm~10μmが好ましく、1.5μm~5μmがより好ましい。
【0030】
コンクリート組成物中の強アルカリ環境で被覆材層が分解し、剥離される樹脂類(以下、アルカリ溶解性樹脂と称することがある)を選択する方法も有効である。強アルカリ環境下で剥離しうる樹脂としては、例えば、ポリ乳酸、ポリアセタール、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ある種のシリコーン樹脂、ポリイミド、アクリル系のポリメタクリル酸メチル、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、プロピオン酸セルロース樹脂、硝酸セルロース樹脂などが挙げられる。
【0031】
アルカリ溶解性樹脂を被覆材層の形成に用いる場合は、アルカリ溶解性樹脂の溶解速度と厚み、コンクリート組成物のpH、想定する開放時期等を考慮して選択することができ、所定時間、好ましくは8時間以上、吸水性高分子と外部の水分との接触を抑えることができる量であればよい。
被覆材層の平均厚みは、内包成分からなる粒子のサイズ及び被覆材層を構成するアルカリ可溶性樹脂の種類によって適宜選択できる。予め測定したアルカリ可溶性樹脂を含む被覆材層の溶解速度が5Å/秒であれば、8時間(28800秒)被覆材層を維持させるには、被覆材層の厚みは14μmとすればよい。被覆材層の平均厚みは、分解性樹脂の溶解速度で任意に選定すれば良いが、厚すぎないことが重要である。一般的には、平均厚みとして、1μm~100μmが好ましく、5μm~50μmがより好ましい。
【0032】
内包成分の表面に被覆材層を形成する方法には特に制限はなく、公知のコーティング方法、カプセル化方法を適用することができる。
なかでも、内包成分である吸水性高分子の吸水性が維持されやすいという観点からは、公知の乾式コーティング装置、ペレッター装置を用いることが好ましい。
被覆材層の形成に用いられる装置としては、中央機構(株)のレディゲミキサー、チヨダ(株)のプレスペレッター、ダルトン社のファインディスクペレッターなどが挙げられる。プレスペレッターは粒径3mm以上のペレットの作成に有用であり、ダルトン社のファインディスクペレッター粒径0.4mm~8mmのペレットの作成に有用であり、目的に応じて適宜選択することができる。
【0033】
被覆層の形成方法としては、例えば、融点60℃程度の硬化油又はパラフィンワックスを加温して液状にして、粉体状の吸水性高分子に対し、3質量%~50質量%を噴霧しながら攪拌できるレディゲミキサー等を用いてコーティングする方法が挙げられる。レディゲミキサー等のコーティング装置は、コーティング時に、加温した硬化油又はパラフィンワックスが、攪拌中に冷めて固着しないように、攪拌ドラムを加温できる装置が好ましい。
コーティング方法はこれに限らず、例えば、吸水性高分子の粒径が大きくなれば、例えば単純なニーダーミキサを用いてコーティングしてもよい。
【0034】
<コンクリート組成物>
本開示のコンクリート組成物は、水和反応性を有する無機粉体及び吸水性高分子を含む内包成分と、内包成分の表面を被覆し、コンクリート組成物に添加して、コンクリート組成物中の成分及び機械的応力の少なくともいずれかの作用により、所定時間で少なくとも一部が除去される被覆材層と、を有するコンクリート添加剤を含有する。
本開示のコンクリート組成物は、既述の本開示のコンクリート添加剤を含むことで、自己修復性が良好なコンクリート硬化体を形成することができる。
なお、本開示における「コンクリート組成物」の文言は、骨材として細骨材のみを含み、粗骨材を含まない「セメント組成物」及び骨材を含まない「モルタル組成物」をも包含する意味で用いられる。
【0035】
本開示のコンクリート組成物は、既述の被覆材層を有する吸水性高分子に加え、コンクリート組成物に用いられる公知の成分を含むことができる。
公知の成分としては、セメントなどの結合材、骨材などが挙げられる。
【0036】
(結合材)
-セメント-
本開示のコンクリート組成物は、結合材を含む。結合材としては、セメントが挙げられる。
【0037】
セメントには特に制限はなく、目的に応じて、各種セメント類の中から、適宜選択することができる。セメントとしては、普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメントなどの公知のセメントはいずれも好適に使用しうる。好ましくは、低熱ポルトランドセメントが良い。
また、予めシリカフュームを含有するポルトランドセメントを用いてもよい。シリカフュームを含有するポルトランドセメントは市販品としても入手可能であり、例えば、宇部三菱セメント社製、商品名:シリカフュームセメントスーパー、シリカフュームセメント、太平洋セメント社製:シリカフュームプレミックスセメント等が挙げられる。
【0038】
-その他の結合材-
セメントと併用しうるその他の結合材としては、効果を損なわない限りにおいて、調製されるコンクリート組成物の用途に応じて、その他の結合材を適宜選択して、適切な使用量で使用してもよい。
その他の結合材としては、シリカフューム、結晶質のシリカを微粉砕したシリカ微粉末、高炉スラグ微粉末などのスラグ、石灰石微粉末、フライアッシュなどが挙げられる。
セメント以外の結合材の含有量は、全結合材の10質量%以下であることが好ましい。
【0039】
--シリカフューム--
シリカフュームは、二酸化ケイ素(SiO)を質量比で80%以上含有するものが好ましい。SiOの含有量が80質量%以上であることで、既述のポゾラン反応性が充分に得られ、強度向上効果が充分に発現される。
【0040】
--高炉スラグ微粉末--
高炉スラグ微粉末としては、例えば、JIS A 6206:2013に規格されている高炉スラグ微粉末3000、高炉スラグ微粉末4000、高炉スラグ微粉末6000、高炉スラグ微粉末8000が挙げられる。
【0041】
[骨材]
本開示のコンクリート組成物は、骨材を含んでいてもよい。
【0042】
-細骨材-
細骨材としては、天然砂、砕砂、加工砂が挙げられる。細骨材としては、良質で堅固な天然砂が好ましい。細骨材として砕砂又は加工砂を使用する場合は、角を処理した砕砂又は加工砂、粒度を調整した砕砂又は加工砂が好ましい。細骨材の種類と含有量は、目標とする水硬性硬化体の機械的強度に応じて、水硬性材料を水と混合してなる組成物の流動性を確保できる範囲から選択すればよい。
【0043】
-粗骨材-
粗骨材の岩種としては、硬質砂岩、安山岩、流紋岩などが挙げられる。粗骨材の寸法としては、最大寸法(最大粒径)20mm以下が好ましく、最大寸法(最大粒径)15mm以下がより好ましい。粗骨材の岩種と含有量とは、目標とする水硬性硬化体の機械的強度に応じて、水硬性材料を水と混合してなる組成物の流動性を確保できる範囲から選択すればよい。
【0044】
[その他の材料]
本開示のコンクリート組成物は、結合材、骨材以外のその他の材料を、効果を損なわない範囲で、目的に応じて含んでいてもよい。その他の材料としては、公知の化学混和剤;遅延剤;硬化促進剤;有機繊維;炭素繊維、ガラス繊維、バサルト繊維などの非金属無機繊維;金属繊維;などが挙げられる。
【0045】
本開示のコンクリート組成物は、本開示のコンクリート添加剤を含有する他は、公知のコンクリート組成物と同様であり、調製方法も公知の方法を適用できる。
本開示のコンクリート組成物において、水との混合物(即ち、フレッシュ状態のコンクリート組成物)における水/結合材比(質量基準)は、特に制限されず、目的に応じて選択される。
一般的な圧縮強度の硬化体を得る場合には、水結合材比は、質量基準で30%~60%が好ましく、35%~55%がより好ましく、40%~50%が更に好ましい。
また、例えば、60N/mmを超えるような高圧縮強度のコンクリート硬化体を得る場合には、水結合材比は、質量基準で30%以下が好ましく、100N/mmを超えるような超高圧縮強度のコンクリート硬化体を得る場合には、水結合材比は、質量基準で20%以下が好ましい。
【0046】
<コンクリート硬化体の自己修復方法>
本開示のコンクリート硬化体の自己修復方法は、水和反応性を有する無機粉体及び吸水性高分子を含む内包成分と、内包成分の表面を被覆し、コンクリート組成物に添加して、コンクリート組成物中の成分及び機械的応力の少なくともいずれかの作用により、所定時間で少なくとも一部が除去される被覆材層と、を有するコンクリート添加剤を含有するコンクリート組成物を用いてコンクリート硬化体を得る工程を含む。
【0047】
コンクリート硬化体の自己修復方法では、まず、水和反応性を有する無機粉体及び吸水性高分子を含む内包成分と、内包成分の表面を被覆し、コンクリート組成物に添加して、コンクリート組成物中の成分及び機械的応力の少なくともいずれかの作用により、所定時間で少なくとも一部が除去される被覆材層と、を有するコンクリート添加剤を含有するコンクリート組成物、即ち、既述の本開示のコンクリート組成物を用いてコンクリート硬化体を得る。
【0048】
コンクリート硬化体を得る工程は、本開示のコンクリート組成物に水を加え、混練する工程、混練した流動状のコンクリート硬化体を型枠内に投入する工程、及び型枠内でコンクリート組成物を硬化させる工程を含むことができる。
粉体の混合方法、コンクリート組成物の配合方法、混練方法などは、いずれも公知のコンクリート組成物と同様の方法が適用できる。
【0049】
コンクリート硬化体を型枠に投入した後、機械的強度を高める観点から、コンクリート硬化体に養生を施すことが好ましい。養生方法としては、例えば、温度を20±3℃に維持した、水中、湿砂中又は飽和蒸気中で行う標準養生が挙げられる。
コンクリート硬化体の機械的強度を高める観点から、標準養生に他の養生を1種類以上組み合わせて実施することも好ましい。他の養生としては、70℃~100℃の温度範囲で2時間~72時間蒸気養生する蒸気養生、100℃~400℃の温度範囲で2時間~72時間加熱する高温養生、オートクレーブ等による高温高圧養生が挙げられる。
得られたコンクリート硬化体は、硬化時に被覆材層の一部が剥離して露出した内包成分である吸水性高分子を含む。
【0050】
本開示のコンクリート硬化体の自己修復方法の進み方は以下の通りであると考えられる。
即ち、コンクリート組成物が硬化した後、コンクリート組成物中のアルカリ成分、打込み時などの物理的な応力などによって被覆材層の少なくとも一部が剥離したり、コンクリート硬化体にひび割れが発生したりするときに、応力により被覆材層の少なくとも一部が除去される。
コンクリート硬化体に発生したひび割れに沿って、外部から雨水や地下水などの水分がひび割れないに浸入する。
コンクリート硬化体の内部に存在する吸水性高分子が、浸入した水分と接触して、水分を吸水し、膨潤することで、体積が増加してひび割れを閉塞する。このため、膨潤した吸水性高分子により、ひび割れ内の水が、止水されるか、または、水流が抑えられる。
ひび割れ内において、水分等によりコンクリート組成物から溶出したカルシウム、及び、吸水性高分子とともに被覆材層に内包された特定無機粉体が含むカルシウムの少なくともいずれかが、大気中の二酸化炭素と反応して、炭酸カルシウムが生成し、生成した炭酸カルシウムによって徐々にひび割れが閉塞して、コンクリート硬化体の自己修復がなされる。
このようにして、コンクリート硬化体に生じたひび割れが、炭酸カルシウムにより充填される。
【0051】
本開示のコンクリート硬化体の自己修復方法によれば、コンクリート硬化体に発生するひび割れが0.2mmを超えるサイズであっても、本開示のコンクリート添加剤により、ひび割れからの漏水が抑制され、発生したひび割れは緻密な構造の炭酸カルシウム等に充填されることにより自己修復されるため、コンクリート構造物など、種々の用途で使用されるコンクリート硬化体の耐久性向上等に有用である。
【実施例
【0052】
以下、実施例を挙げて、本開示をより詳細に説明するが、実施例は本開示の一つの実施形態にすぎず、本開示が以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
以下の実施例において、特に断らない限り、「%」及び「部」は質量基準である。
【0053】
〔実施例1~実施例15〕
<コンクリート添加剤の調製>
吸水性高分子として以下の試料を準備した。
・SAP(A)(商品名:耐塩性吸水性樹脂 アクアリック(登録商標)CS、(株)日本触媒、平均粒子径17μm、吸水量:103g/g(1%KOH水溶液、24時間)
・SAP(B)(商品名:高吸水性樹脂CP-1、ケミカルテクノス、液状廃棄物処理用、平均粒子径(D50):100μm、吸水量:66g/g(1%KOH水溶液、24時間)
・SAP(C)(商品名:アクアキープ、住友精化(株)、粒子径300~380μm、吸水量:60g/g(1%KOH水溶液、24時間)
・SAP(D)(商品名:サンフレッシュ、三洋化成(株)、粒子径106~850μm、吸水量:58g/g(1%KOH水溶液、24時間)
【0054】
被覆材層の形成用材料として、豚脂極度硬化油A(融点:59℃)、パラフィンワックスA(融点:57℃)又はパラフィンワックスB(融点:46℃)を用いた。
吸水性高分子100質量部に対し、下記表1に示す被覆材層形成用材料を、下記表1に示量で添加した混合物を、以下に示す装置を用いてコーティングし、実施例1~実施例15のコンクリート添加剤を得た。
粉体状のコンクリート添加剤作製には、中央機構(株)のレディゲミキサー(表1には「L」と記載)を用いた。
ペレット状のコンクリート添加剤作製には、ダルトン社のファインディスクペレッター(表1には「F」と記載)を用いた。
また、まず、ファインディスクペレッターで吸水性高分子:被覆材層形成用材料を100:15の条件でペレット状にした後、レディゲミキサーでさらに被覆材層形成用材料をコーティングして、最終的に吸水性高分子:被覆材層形成用材料を100:35にしたコンクリート添加剤を作製した。(表1には「F→L」と記載)。
【0055】
〔比較例1、比較例2、比較例3、比較例4及び対照例〕
実施例で用いた吸水性高分子であるSAP(A)、SAP(B)、SAP(C)及びSAP(D)に被覆材層を形成しなかったものを、それぞれ比較例1、比較例2、比較例3、及び比較例4とした。また、コンクリート添加剤を何も使用していない普通のモルタルを対照例とした。
【0056】
【表1】
【0057】
<コンクリート組成物の調製>
得られた実施例1~実施例15、比較例1~比較例4のコンクリート添加剤を含むコンクリート組成物を調整した。
セメントとして、普通ポルトランドセメント〔密度:3.16g/cm、太平洋セメント社製〕を用い、コンクリート添加剤の配合量は0.2体積%とした。
水/結合材比は0.5とし、砂/結合材比は3とした。
【0058】
材料の練り混ぜにはターボミキサ(容量50L)を用いた。ターボミキサに粗骨材、結合材及び細骨材を投入し、30秒間空練りを行い、次いで水及び化学混和剤を投入し、60秒間練り混ぜた。そこにコンクリート添加剤を投入し、さらに15秒間練り混ぜた。
【0059】
〔コンクリート組成物及びコンクリート硬化体の性能評価〕
各コンクリート組成物のモルタルフロー値(15打:mm〕及び空気量(%)を測定した。結果を下記表2~表4に示す。
モルタルフロー値は、JIS R 5201(2015年)セメントの物理試験方法に準拠して測定した。空気量は、JIS A 1128(2014年)フレッシュコンクリートの空気量の圧力による試験方法 空気室圧力方法に準拠して測定した。
【0060】
各コンクリート組成物をφ10cm×20cmの円柱に打込み、硬化させてコンクリート硬化体を製造した。打込み3日後から温度60℃で6時間の蒸気養生を行ったのち脱型して、材齢28週まで乾燥養生させた。
得られた材齢28週のコンクリート硬化体の圧縮強度を、JIS A 1108(2018年)コンクリートの圧縮強度試験方法に準拠して測定した。結果を下記表2~表4に示す。なお、それぞれの表に対照例の結果を併記した。
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
被覆材層を有しない比較例1、比較例2、比較例3及び比較例4のコンクリート添加剤を配合したコンクリート組成物は、練り混ぜ水を吸水して膨潤し、空気量が大きくなった。これは実際に空気を巻き込んでいるわけではなく、空気量を圧力法(JIS A 1128)にて測定しているために、吸水性高分子が膨潤したゲルが、見かけ上の空気量として測定されていると推察される。これに対し、実施例1~実施例15のコンクリート添加剤を配合したコンクリート組成物は、空気量は小さくなっており、被覆材層の形成により、練り混ぜ時の吸水性高分子の吸水が抑制されていると推察される。
【0065】
スランプフローの測定結果より、実施例1~実施例15のコンクリート添加剤を配合した場合、コンクリート添加剤を添加しないコンクリート組成物(対照例)、比較例1、比較例2、比較例3及び比較例4のコンクリート添加剤を用いたコンクリート組成物に対し、流動性は、やや良好な場合、やや低下している場合などがあるが、流動性が大きく損なわれるようなことはなく、従来汎用のコンクリート組成物と同様の施工性が達成できる範囲の値が得られている。
さらに、コンクリート組成物の空気量がより小さくなることから、その効果として実施例1~実施例15のコンクリート添加剤を配合した場合、得られたコンクリート硬化体の圧縮強度は、コンクリート添加剤を添加しないコンクリート組成物(対照例)、比較例1、比較例2、比較例3及び比較例4のコンクリート添加剤を用いたコンクリート硬化体に対し、より向上した。このことから、得られたコンクリート硬化体はコンクリート添加剤の配合により圧縮強度がより向上することがわかる。
【0066】
(自己修復性の確認)
実施例1のコンクリート添加剤を含むコンクリート組成物を、中心部にD13異形鉄筋を配置した10×10×40cmの型枠に打ち込み、硬化させた後、最外縁のひび割れ幅が0.5mmとなるように制御して曲げひび割れを導入した。導入したひび割れ幅が閉じないように固定した状態で、雨掛りのある屋外に3か月放置した。この間の降水量1mm以上の日数は、30日であった。
経時後のコンクリート組成物を切断し、断面をマイクロスコープ(光学顕微鏡、キーエンス製、倍率:100倍)で観察したところ、最大で0.5mmのひび割れが白色の炭化カルシウムにより充填されていることが確認された。このことから、実施例1のコンクリート添加剤を含むコンクリート組成物の硬化体は、自己修復性が良好に行なわれたことがわかる。