(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】流向流速測定装置
(51)【国際特許分類】
G01P 13/00 20060101AFI20231114BHJP
G01P 5/12 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
G01P13/00 E
G01P5/12 C
(21)【出願番号】P 2019153775
(22)【出願日】2019-08-26
【審査請求日】2022-07-28
(31)【優先権主張番号】P 2019009115
(32)【優先日】2019-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】島津 侑宜
【審査官】岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】特表平11-505929(JP,A)
【文献】特開2018-54528(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104316721(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P 5/00- 5/26
G01P13/00-13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、
前記筐体と対向する流路板と、前記流路板と前記筐体の間を接続する複数の支柱とを有し、前記筐体と前記流路板の間に流体が流れる流路を形成する流路形成部と、
前記流路内に配置されて流向又は流速を検出するセンサ素子と、を備え、
前記複数の支柱は、前記センサ素子を中心とする円周上に、10°以下の間隔で等間隔に配置され
、
前記複数の支柱は、前記センサ素子を中心とする第1半径の円周上に配置された第1の支柱と、前記第1半径より小さい第2半径の円周上に配置された第2の支柱とを有する流向流速測定装置。
【請求項2】
筐体と、
前記筐体と対向する流路板と、前記流路板と前記筐体の間を接続する複数の支柱とを有し、前記筐体と前記流路板の間に流体が流れる流路を形成する流路形成部と、
前記流路内に配置されて流向又は流速を検出するセンサ素子と、を備え、
前記複数の支柱は、前記センサ素子を中心とする円周上に、10°以下の間隔で等間隔に配置され
、
前記流路形成部の前記筐体と対向する流路形成面に、前記流路形成面の外周部が形成する流路よりも、前記センサ素子上の流路を狭くする絞り部が設けられ、
前記絞り部は、前記流体の入り口の高さに対して前記センサ素子上の高さが約1/6となるように前記流路形成面から前記筐体側に突出している流向流速測定装置。
【請求項3】
前記複数の支柱の各々は、少なくとも1つの円環状部によって接続されている請求項
2に記載の流向流速測定装置。
【請求項4】
前記センサ素子は、発熱抵抗体を中心として、第1軸に沿って一対の第1軸温度検出体が配置され、前記第1軸とは直交する第2軸に沿って一対の第2軸温度検出体が配置されており、
前記複数の支柱は、前記第1軸及び前記第2軸のそれぞれに対して線対称に配置されている請求項1
ないし3いずれか1項に記載の流向流速測定装置。
【請求項5】
前記複数の支柱の太さは、0.5mm以下である請求項1
ないし4いずれか1項に記載の流向流速測定装置。
【請求項6】
前記支柱の横断面形状は、円形である請求項1ないし
5いずれか1項に記載の流向流速測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流向流速測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、空気等の流体の流向や流速を測定するセンサ素子を搭載した流向流速測定装置が知られている。このような流向流速測定装置では、流体の乱れを抑制して検出精度を向上することが求められている。
【0003】
このような流向流速測定装置として、センサ素子が実装された基板を保持する筐体と、外周部が複数の支柱により筐体に固定された流路板とを有するものが知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-54528号公報
【文献】特開平4-295768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の流向流速測定装置では、流体の流れが支柱により乱されるので、センサ素子から見て支柱が存在する方向から流体が流入する場合と、支柱が存在しない方向から流体が流入する場合とで、流速に差異が生じる。
【0006】
特許文献1には、流体の流入方向に依存した流速の測定誤差を低減するために、支柱の本数が少なくすることが記載されている。また、特許文献2には、流体の流れを乱さないように支柱(スペーサ)の太さと本数を決めることが記載されている。
【0007】
しかしながら、支柱の本数を少なくすると、支柱が存在する特定の流入方向に対する測定誤差が大きくなるので、流入方向に依存した測定誤差が局所的に発生してしまう。
【0008】
開示の技術は、上記の点に鑑みてなされたものであって、流体の流入方向に依存した測定誤差を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
開示の技術は、筐体と、前記筐体と対向する流路板と、前記流路板と前記筐体の間を接続する複数の支柱とを有し、前記筐体と前記流路板の間に流体が流れる流路を形成する流路形成部と、前記流路内に配置されて流向又は流速を検出するセンサ素子と、を備え、前記複数の支柱は、前記センサ素子を中心とする円周上に、10°以下の間隔で等間隔に配置され、前記複数の支柱は、前記センサ素子を中心とする第1半径の円周上に配置された第1の支柱と、前記第1半径より小さい第2半径の円周上に配置された第2の支柱とを有する流向流速測定装置である。
【発明の効果】
【0010】
開示の技術によれば、流体の流入方向に依存した測定誤差を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態に係る流向流速測定装置を上面側から見た斜視図である。
【
図2】第1実施形態に係る流向流速測定装置を下面側から見た斜視図である。
【
図3】第1実施形態に係る流向流速測定装置を上方から見た平面図である。
【
図4】第1実施形態に係る流向流速測定装置を
図3中のA-A線に沿って切断した断面を示す縦断面図である。
【
図9】支柱の配置に関する変形例を示す流路形成部の底面図である。
【
図10】支柱を10°間隔で配置した場合における流速のコンター図である。
【
図11】支柱を6°間隔で配置した場合における流速のコンター図である。
【
図12】比較例として、支柱を30°間隔で配置した場合における流速のコンター図である。
【
図13】第1変形例に係る流路形成部を示す図である。
【
図14】第2変形例に係る流路形成部を示す図である。
【
図15】第3変形例に係る流路形成部を示す図である。
【
図16】第2実施形態に係る流向流速測定装置を例示する縦断面図である。
【
図17】チルト角度と流速換算との関係を例示する図である。
【
図18】流向と流体速度の測定誤差との関係を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0013】
<第1実施形態>
[流向流速測定装置の全体構造]
図1は、第1実施形態に係る流向流速測定装置を上面側から見た斜視図である。
図2は、第1実施形態に係る流向流速測定装置を下面側から見た斜視図である。
図3は、第1実施形態に係る流向流速測定装置を上方から見た平面図である。
図4は、第1実施形態に係る流向流速測定装置を
図3中のA-A線に沿って切断した断面を示す縦断面図である。
【0014】
なお、本実施の形態では、便宜上、流向流速測定装置100の流路板131側を上側、外部接続端子127側を下側とする。また、各部位の流路板131側の面を上面、外部接続端子127側の面を下面とする。
【0015】
図1~
図4において、流向流速測定装置100は、筐体110と、基板120と、流路形成部130とを有している。
【0016】
筐体110は、ほぼ円筒状の外枠111と、開口部112xが形成された環状の基板固定部112と、ほぼ円盤状の底蓋113とを有する。基板固定部112は、外枠111の上端部から内側に延在している。例えば、外枠111と基板固定部112とは、一体成形されている。底蓋113は、外枠111の下端部に接続されている。底蓋113には、後述する外部接続端子127が挿通される複数の貫通孔113aが形成されている。
【0017】
基板120は、基板固定部112の下面に、開口部112xを覆うように位置決めされた状態で固定されている。基板固定部112と基板120との固定は、樹脂等の接着剤により行われている。
【0018】
開口部112xから露出した基板120の上面側の中央には、空気等の流体の流向又は流速を検出するセンサ素子1が実装されている。センサ素子1の実装は、例えば、樹脂等の接着剤を用いてダイボンドにより行われる。
【0019】
センサ素子1は、銅や金等の金属線であるボンディングワイヤ(図示せず)を介して、基板120に設けられた電極パッドと電気的に接続されている。但し、センサ素子1は、ボンディングワイヤを用いずに、貫通配線を介して基板120の電極パッドと電気的に接続されてもよい。センサ素子1は、基板固定部112の開口部112x内に配置されている。
【0020】
基板120の下面側には、複数の電子部品(図示せず)が実装されている。電子部品は、抵抗、コンデンサ、インダクタ等である。電子部品には、集積回路等の能動部品が含まれていてもよい。
【0021】
基板120の下面側の外周部には、複数の外部接続端子127が接続されている。各外部接続端子127は、基板120から下側に伸びる線状の金属部材である。本実施形態では、Y方向に配列された3本の外部接続端子127が、X方向に離間して平行に2組設けられている。
【0022】
開口部112xのセンサ素子1以外の領域には、樹脂125が充填されている。これにより、基板固定部112、樹脂125、及びセンサ素子1の各上面は、ほぼ同一平面を形成している。仮に、基板固定部112とセンサ素子1との間に段差が存在すると、流体が段差により乱されて渦巻き流等の乱流が発生する可能性があるが、上述のように樹脂125、及びセンサ素子1の各上面をほぼ同一平面とすることにより、乱流の発生が抑制される。
【0023】
樹脂125は、未硬化時には低粘度であって、硬化すると比較的高硬度のものであることが好ましい。樹脂125として、エポキシ系樹脂等が用いられる。
【0024】
センサ素子1の上面は、樹脂125から露出しているため、フッ素コーティング等の防湿コーティングを施すことが好ましい。この場合、センサ素子1の特性に影響のない薄さでコーティングする必要がある。
【0025】
基板120のセンサ素子1が実装されている部分の下側には、大気導入用の貫通孔120xが設けられている。貫通孔120xは、センサ素子1を基板120に接着する際に、接着樹脂を硬化するときの温度でセンサ素子1の内圧が上昇し、センサ素子1が傾いて実装されることを防止する機能を有する。すなわち、貫通孔120xを設けることで、センサ素子1を基板120に接着する際のセンサ素子1の内圧の上昇が抑制される。
【0026】
筐体110上には、流路形成部130が固着されている。流路形成部130は、基板120の上面と対向する流路板131と、流路板131の外周部に設けられた複数の支柱132とを有する。複数の支柱132は、流路板131と筐体110との間を接続する。流路板131と基板固定部112との間に、流体が流れる流路150が構成されている。
【0027】
流路板131の上面には、センサ素子1の検出軸方向を示すマーク133a及び133bが形成されている。マーク133a及び133bは、流路板131の外周において、上面を凹状とすることにより形成されている。一対のマーク133aは、センサ素子1において、後述する一対のX軸温度検出体(第1軸温度検出体)30及び31が配列される方向であるX軸(第1軸)AXを示している。一対のマーク133bは、一対のY軸温度検出体(第2軸温度検出体)32及び33が配列される方向であるY軸(第2軸)AYを示している。
【0028】
また、流路板131の上面には、長手方向がX軸AXに平行である矩形状の2つの溝134が形成されている。各溝134には、例えば、文字等(図示せず)が刻印される。溝134により、いずれの方向がX軸AXであるのかを認識することができる。
【0029】
図5は、流路形成部130を示す図であり、
図5(a)は側面図、
図5(b)は底面図である。
図6は、流路形成部130を下面側から見た斜視図である。
図7は、筐体110を上面側から見た斜視図である。
【0030】
支柱132は、センサ素子1の中央を中心Cとする円周上に、角度θごとに等間隔で配置されている。角度θは、10°以下である。支柱132が配列された円周の半径Rは、10mm以下である。各支柱132の横断面形状は円形であり、太さ(円周方向への幅)Wは、0.5mm以下である。本実施形態では、θ=10°としている。すなわち、本実施形態では、円周上に36本の支柱132が配列されている。円周の半径R及び支柱132の太さWは、例えばR=9mm、W=0.5mmとされる。
【0031】
複数の支柱132のうち2本の支柱132a以外は、同じ長さである。2本の支柱132aは、他の支柱132より全長が長く、流路形成部130を筐体110上に取り付ける際に、位置決め用の支柱として用いられる。
【0032】
各支柱132は、流路板131と一体成形されている。位置決め用の支柱132a以外の支柱132の下面は、熱硬化性の樹脂を介して、外枠111の上面に形成された円弧状の溝112aに固着される。
【0033】
外枠111の上面には、溝112aと同一の円周上に、位置決め用の2つの穴112bが形成されている。2つの穴112bは、位置決め用の2本の支柱132aに対応する位置に形成されている。流路形成部130を筐体110上に取り付ける際に、位置決め用の支柱132aの先端部を穴112bに挿入することにより、筐体110と流路形成部130とを容易に位置決めすることができる。
【0034】
2本の支柱132a及び2つの穴112bは、センサ素子1の中央(中心C)に対して180°の回転対称とならない位置に配置されているので、流路形成部130がセンサ素子1に対して反対方向(180°異なる方向)に取り付けられることが防止される。
【0035】
[センサ素子の構造]
図8は、センサ素子1の構成を例示する図であり、
図8(a)は平面透視図、
図8(b)は
図8(a)中のA-A線に沿う断面図である。
【0036】
センサ素子1は、半導体基板10と、メンブレン部20と、X軸温度検出体30及び31と、Y軸温度検出体32及び33と、発熱抵抗体40と、測温抵抗体50と、配線60~69と、ダミー配線70及び71と、パッド80~89(ボンディングパッド)とを有する。
【0037】
センサ素子1は、発熱抵抗体40を発熱させた状態で、夫々の温度検出体(X軸温度検出体30及び31、Y軸温度検出体32及び33)の温度検出結果に基づいて、温度検出体上を流れる流体の流向や流速を検出するセンサチップである。
【0038】
半導体基板10は、開口部10xを備えた枠状(額縁状)に形成されている。半導体基板10としては、例えば、シリコン(Si)基板やSOI(Silicon on Insulator)基板等を用いることができる。
【0039】
メンブレン部20は、絶縁膜21~25が順次積層された構造であり、開口部10xを塞ぐように半導体基板10上に設けられている。メンブレン部20の平面形状は、例えば、正方形である。メンブレン部20において、半導体基板10と接していない領域(開口部10xを塞いでいる領域)を特に薄膜構造体部20tと称する。薄膜構造体部20tの平面形状は、例えば、正方形である。薄膜構造体部20tは、半導体基板10と接していないため熱容量が小さく、温度が上昇し易い構造とされている。
【0040】
なお、
図8では、メンブレン部20の上面20aの4つの縁辺20eの1つに平行な軸をX軸、メンブレン部20の上面20aと平行な面内でX軸と直交する軸をY軸、メンブレン部20の厚さ方向をZ軸としている。X軸、Y軸、及びZ軸は、互いに直交している。ここで、平面視とは、対象物をメンブレン部20の上面20aの法線方向から見ることをいう。また、平面形状とは、対象物をメンブレン部20の上面20aの法線方向から見たときの形状をいう。
【0041】
図8(b)では、便宜上、半導体基板10の厚さT
1とメンブレン部20の厚さT
2とを同程度に描いているが、実際には、半導体基板10の厚さT
1は比較的厚く、メンブレン部20の厚さT
2は比較的薄い。半導体基板10の厚さT
1は、例えば、50~500μm程度とすることができる。また、メンブレン部20の厚さT
2は、例えば、0.5~5μm程度とすることができる。
【0042】
メンブレン部20において、絶縁膜22上には、X軸温度検出体30及び31、並びにY軸温度検出体32及び33が設けられている。X軸温度検出体30及び31並びにY軸温度検出体32及び33は、保護膜として機能する絶縁膜23に被覆されている。絶縁膜23上には、発熱抵抗体40及び測温抵抗体50が、例えばつづら状に形成されている。なお、発熱抵抗体40及び測温抵抗体50をつづら状に形成するのは、発熱抵抗体40及び測温抵抗体50の抵抗値を大きくするためである。発熱抵抗体40及び測温抵抗体50は、保護膜として機能する絶縁膜24に被覆されている。
【0043】
絶縁膜24上には、配線60~69、ダミー配線70及び71、並びにパッド80~89が設けられている。配線60~69中の所定の配線と、発熱抵抗体40、X軸温度検出体30及び31、Y軸温度検出体32及び33、並びに測温抵抗体50とは、絶縁膜23及び24に形成された垂直配線(図示せず)を介して接続されている。配線60~69、ダミー配線70及び71、並びにパッド80~89は、保護膜として機能する絶縁膜25に被覆されている。但し、パッド80~89の上面の少なくとも一部は、絶縁膜25に設けられた開口部25x内に露出し、センサ素子1と基板120との接続を可能としている。
【0044】
X軸温度検出体30及び31は、X軸に平行な線上に形成されている。Y軸温度検出体32及び33は、Y軸に平行な線上に形成されている。X軸温度検出体30及び31はX軸方向の温度変化を検出する部分であり、Y軸温度検出体32及び33はY軸方向の温度変化を検出する部分である。X軸温度検出体30及び31、並びにY軸温度検出体32及び33は、例えば、酸化バナジウムから形成することができる。各温度検出体に酸化バナジウムを用いることにより、検出感度を向上することができると共に、発熱抵抗体の低消費電力化及び温度検出体の小型化が可能となる。
【0045】
X軸温度検出体30の一端は配線62を介してパッド83と接続され、他端は配線63を介してパッド82と接続されている。また、X軸温度検出体31の一端は配線64を介してパッド84と接続され、他端は配線65を介してパッド85と接続されている。
【0046】
パッド82とパッド84は、センサ素子1の外部で接続される。また、パッド83はセンサ素子1の外部でGND(又は電源)と接続され、パッド85はセンサ素子1の外部で電源(又はGND)と接続される。これにより、X軸温度検出体30とX軸温度検出体31とがGNDと電源との間に直列に接続され、パッド82とパッド84との接続部から中間電位を得ることができる。
【0047】
Y軸温度検出体32の一端は配線67を介してパッド87と接続され、他端は配線66を介してパッド86と接続されている。また、パッド86は配線69を介してY軸温度検出体33の一端と接続され、Y軸温度検出体33の他端は配線68を介してパッド88と接続されている。つまり、Y軸温度検出体32とY軸温度検出体33とは、配線66及び69を介して直列に接続されている。
【0048】
パッド87はセンサ素子1の外部でGND(又は電源)と接続され、パッド88はセンサ素子1の外部で電源(又はGND)と接続される。これにより、Y軸温度検出体32とY軸温度検出体33とがGNDと電源との間に直列に接続され、パッド86から中間電位を得ることができる。
【0049】
発熱抵抗体40の一端は配線60を介してパッド80に接続され、他端は配線61を介してパッド81に接続されている。パッド80とパッド81との間に電圧を印加すると発熱抵抗体40に電流が流れて発熱する。
【0050】
なお、発熱抵抗体40の材料と配線60及び61の材料に異種材料を使用し、発熱抵抗体40の比抵抗が配線60及び61の比抵抗より大きくなる材料を選択すると好適である。これにより、発熱抵抗体40に電力が集中し、発熱抵抗体40の温度上昇が大きくなるため、上流の温度検出体と下流の温度検出体の検出する温度差が大きくなり、検出感度を向上することができる。
【0051】
発熱抵抗体40は、例えば、白金(Pt)、ニクロム(NiCr)、ポリシリコン(p-Si)等から形成することができる。この場合、配線60及び61の材料として、これらより比抵抗の小さいアルミニウム(Al)や金(Au)等を用いることが好ましい。
【0052】
測温抵抗体50の一端はパッド80に接続され、他端はパッド89に接続されている。測温抵抗体50は、パッド80及び89を介して、センサ素子1の外部の抵抗ブリッジ回路に接続され、ブリッジを構成する抵抗の1つとなる。この回路構成により、測温抵抗体50の抵抗変化に基づいて、流体の温度を検出することができる。測温抵抗体50は、例えば、白金(Pt)、ニクロム(NiCr)、ポリシリコン(p-Si)等から形成することができる。
【0053】
ここで、薄膜構造体部20tにおける、X軸温度検出体30及び31、Y軸温度検出体32及び33、発熱抵抗体40、配線60~69、並びにダミー配線70及び71のレイアウトの特徴について説明する。
【0054】
薄膜構造体部20tにおいて、平面視において、X軸温度検出体30及び31、Y軸温度検出体32及び33、及び配線60~69、ダミー配線70及び71は、発熱抵抗体40に対して点対称に配置されている。言い換えれば、薄膜構造体部20t内の各要素を点対称とするために、ダミー配線70及び71を設けたともいえる。これにより、発熱抵抗体40からの熱が薄膜構造体部20tに均等に伝わり、流体の流れる向き(流向)に対して温度分布のばらつきが少なくなるため、検出感度を向上することができる。
【0055】
なお、ここでいう点対称は、完全に点対称である場合のみではなく、検出感度向上という本発明の効果を損なわない範囲内で略点対称な場合も含むものとする。直交、平行、中心、正方形、円形、対角線上等の文言についても同様である。
【0056】
具体的には、発熱抵抗体40は、メンブレン部20の中心(薄膜構造体部20tの中心)に配置されている。また、X軸温度検出体30及び31、Y軸温度検出体32及び33は、発熱抵抗体40の周囲に均等に配置されている。つまり、X軸温度検出体30及び31、Y軸温度検出体32及び33は、発熱抵抗体40から等距離に配置されている。また、発熱抵抗体40を挟んで互いに対向するX軸温度検出体30及び31はX軸と平行な方向に配置されている。また、発熱抵抗体40を挟んで互いに対向するY軸温度検出体32及び33はY軸と平行な方向に配置されている。
【0057】
また、発熱抵抗体40の一端から引き出された配線60及び他端から引き出された配線61は、メンブレン部20の1つの対角線上に配置されている。
【0058】
そして、X軸温度検出体30から引き出された配線63と、Y軸温度検出体33から引き出された配線69は、発熱抵抗体40から引き出された配線61の両側に、配線61と平行に配置されている。配線61と配線63との間隔と、配線61と配線69との間隔は、略同一である。
【0059】
同様に、X軸温度検出体31から引き出された配線64と、Y軸温度検出体32から引き出された配線67は、発熱抵抗体40から引き出された配線60の両側に、配線60と平行に配置されている。配線60と配線64との間隔と、配線60と配線67との間隔は、略同一である。
【0060】
また、メンブレン部20の他の1つの対角線上において、発熱抵抗体40の両側にダミー配線70及び71が配置されている。
【0061】
そして、X軸温度検出体30から引き出された配線62と、Y軸温度検出体32から引き出された配線66は、ダミー配線70の両側に、ダミー配線70と平行に配置されている。ダミー配線70と配線62との間隔と、ダミー配線70と配線66との間隔は、略同一である。
【0062】
同様に、X軸温度検出体31から引き出された配線65と、Y軸温度検出体33から引き出された配線68は、ダミー配線71の両側に、ダミー配線71と平行に配置されている。ダミー配線71と配線65との間隔と、ダミー配線71と配線68との間隔は、略同一である。
【0063】
なお、発熱抵抗体40の一端及び他端から引き出された配線を発熱抵抗体配線、各温度検出体から引き出された配線を温度検出体配線と称する場合がある。発熱抵抗体配線と温度検出体配線とを互いに平行に配置することにより、発熱抵抗体40から発生した熱が薄膜構造体部20t上に分布しやすくなり、上流の温度検出体と下流の温度検出体の検出する温度差が大きくなる。これにより、検出感度を向上することができる。
【0064】
このように、配線60、64、及び67と、配線61、63、及び69とがメンブレン部20の1つの対角線上に配置され、ダミー配線70、配線62、及び配線66と、ダミー配線71、配線65、及び配線68とがメンブレン部20の他の1つの対角線上に配置されている。
【0065】
これらの配線を対角線上に配置する理由は、流体はX軸上とY軸上を主に流れるが、配線上を流体が流れたときに、配線から発熱抵抗体の熱が放熱し難くするためである。言い換えれば、配線の方向をX軸又はY軸(流体の流れる方向)に平行にすると、配線上を流体が流れ、配線から発熱抵抗体の熱が放熱してしまうので、配線が延びる方向が流体の流れ(X軸上、Y軸上)と一致しないようにしている。
【0066】
薄膜構造体部20tへの熱応力は、薄膜構造体部20tの各縁辺(半導体基板10の上面内縁部と接する部分)の中央部を含む4つの領域(
図8に示す4つの応力集中部B)に集中することが確認されている。
【0067】
そこで、センサ素子1において、配線60~69、並びにダミー配線70及び71は、4つの応力集中部Bを除く領域に配置されている。前述のように、配線を対角線上に配置しているので、応力集中部Bを避けて配置することが容易となる。薄膜構造体部20tの応力集中部Bに配線を配置しないことにより、薄膜構造体部20tへの熱応力による影響が緩和され、配線と薄膜構造体部の機械的強度を向上することができる。
【0068】
薄膜構造体部20t上の配線の幅は、応力緩和のため、薄膜構造体部20tの周囲(半導体基板10上)の配線よりも細く、1~10μm程度である。配線幅の細い薄膜構造体部20t上の配線を、応力集中部Bを避けて配置することにより、熱応力により断線するおそれを低減できる。
【0069】
[流向流速測定装置の動作]
次に、流向流速測定装置100の動作について説明する。ここでは、流向流速測定装置100のセンサ素子1が所定の制御回路に接続されているものとする。制御回路は、測温抵抗体50の抵抗変化に基づいて流体の温度を検出して発熱抵抗体40の好適な発熱量を算出し、それに基づいた電圧をパッド80とパッド81との間に印加して発熱抵抗体40に電流を流して発熱させることができる。
【0070】
また、制御回路との接続により、前述のように、X軸温度検出体30とX軸温度検出体31とがGNDと電源との間に直列に接続され、パッド82とパッド84との接続部から中間電位(中間電位Xとする)を得ることができる。また、Y軸温度検出体32とY軸温度検出体33とがGNDと電源との間に直列に接続されパッド86から中間電位(中間電位Yとする)を得ることができる。
【0071】
発熱抵抗体40に電流を流して発熱させると、薄膜構造体部20tの温度が上昇する。このとき、検知対象となる流体(例えば、空気やガス等)が流れていない場合には、X軸温度検出体30とX軸温度検出体31の出力がバランスしているため、中間電位XとしてGNDと電源の中間の電位(初期値X0とする)が得られる。同様に、Y軸温度検出体32とY軸温度検出体33の出力がバランスしているため、中間電位YとしてGNDと電源の中間の電位(初期値Y0とする)が得られる。
【0072】
一方、流向流速測定装置100において、流路150を流体が流れている場合には、センサ素子1の表面側に温度分布が生じる(上流側が下流側よりも低温となる)。そのため、上流側に配置された温度検出体の抵抗値と、下流側に配置された温度検出体の抵抗値とのバランスが崩れ、中間電位X及びYが変化する。
【0073】
制御回路は、中間電位X及びYが初期値X0及びY0に対してGND側か電源側の何れの方向に変化したかにより、流体の流れている方向を360°検出することができる。又、制御回路は、中間電位X及びYが初期値X0及びY0に対してどれだけ変化したかにより、流速や流量を測定することができる。なお、中間電位X及びYが変化した方向や変化した量と、流向や流速との関係は、例えば、テーブルとして制御回路内に記憶しておくことができる。
【0074】
流向流速測定装置100では、支柱132は、センサ素子1を中心とする円周上に、10°以下の間隔(角度θ)で等間隔に配置されている。支柱132を、センサ素子1を中心とする円周上に10°以下の間隔で等間隔に配置することで、360°のいずれの方向から流路150に流体が流入した場合の流速ばらつきを抑制することが可能となり、流入方向に依る測定誤差を低減することができる。
【0075】
なお、本実施形態では、
図5(b)に示すように、いずれの支柱132もX軸AX及びY軸AY上に配置されていないが、
図9に示すように、支柱132をX軸AX及びY軸AY上に配置してもよい。すなわち、支柱132は、X軸AX及びY軸AYのそれぞれに対して線対称に配置されていればよい。支柱132を、X軸AX及びY軸AYのそれぞれに対して線対称に配置することにより、流入方向に依る測定誤差をさらに低減することができる。
【0076】
例えば、支柱132を、センサ素子1を中心とする円周上に8°の間隔で等間隔に配置した場合には、X軸AX及びY軸AYのそれぞれに対して線対称とすることはできない。支柱132の間隔は、10°、9°、6°、5°、4°等の角度であることが好ましい。
【0077】
[シミュレーション結果]
以下に、流路150における流速のシミュレーション結果を例示する。
図10は、支柱132を10°間隔で配置した場合における流速のコンター図である。
図11は、支柱132を6°間隔で配置した場合における流速のコンター図である。
図12は、比較例として、支柱132を30°間隔で配置した場合における流速のコンター図である。
【0078】
図10~
図12中の符号Dは、流向流速測定装置100に入射する流体の向きを示している。
図10(a)、
図11(a)、及び
図12(a)は、支柱132が存在しない方向から中心Cに向かって流体が流れる場合のシミュレーション結果を示している。
図10(b)、
図11(b)、及び
図12(b)は、支柱132が存在する方向から中心Cに向かって流体が流れる場合のシミュレーション結果を示している。
【0079】
いずれの場合も、支柱132の太さWを0.5mmとし、支柱132が配列された円周の半径Rを9mmとしている。
【0080】
図10(a)と
図10(b)とを比較すると、センサ素子1が存在する中心C付近の流速はほぼ同一であることが分かる。同様に、
図11(a)と
図11(b)とを比較すると、センサ素子1が存在する中心C付近の流速はほぼ同一であることが分かる。一方、
図12(a)と
図12(b)とを比較すると、センサ素子1が存在する中心C付近の流速が大きく異なる。具体的には、
図12(a)に示すように支柱132が存在しない方向から中心Cに向かって流体が流れる場合の流速は、
図12(b)に示すように支柱132が存在する方向から中心Cに向かって流体が流れる場合の流速よりも大きい。
【0081】
このように、支柱132を10°以下の間隔で等間隔に配置することにより、中心C付近に流れ込む流体の流速が均一化し、流入方向に依る測定誤差が低減することが確認できる。なお、支柱132の間隔が狭くなればなるほど流路150内の流速が均一化するが、流路150内の流速が低下してしまう。これにより、実際の流速に対する測定値の線形性が低下する。このため、支柱132の間隔は、10°、9°、6°程度とすることが好ましい。
【0082】
同様に、支柱132の太さWを大きくすると、隣接する支柱132間の隙間が狭くなるので、流路150内の流速が低下し、実際の流速に対する測定値の線形性が低下する。このため、支柱132の太さWは、小さいほうがよい。しかし、支柱132の太さWを小さくしすぎると、支柱132の強度が低下するので、太さWは0.5mm程度であることが好ましい。
【0083】
<変形例>
次に、流路形成部に対する各種変形例について説明する。
【0084】
[第1変形例]
図13は、第1変形例に係る流路形成部130aを示す図であり、
図13(a)は斜視図、
図13(b)は底面図である。第1実施形態では、支柱132がセンサ素子1の中央を中心Cとする円周上に配置されているのに対して、本第1変形例では、支柱132を、センサ素子1の中心Cからの半径が異なる2つの円周上に配置している。
【0085】
具体的には、支柱132は、中心Cからの半径がR1(第1半径)である第1円周上と、中心Cからの半径がR2(第2半径)である第2円周上とに配置されている。ここで、R2<R1である。支柱132は、第1円周上と第2円周上とに交互に配置されている。第1円周上に配置された支柱132(第1の支柱)と、これに隣接する第2円周上に配置された支柱132(第2の支柱)との間隔(角度θ)は、第1実施形態と同様に10°以下である。支柱132の間隔や太さは、第1実施形態と同様に変更可能である。
【0086】
第1変形例に係る流路形成部130aを有する流向流速測定装置は、第1実施形態に係る流向流速測定装置100と同様の効果を奏する。
【0087】
[第2変形例]
図14は、第2変形例に係る流路形成部130bを示す図であり、
図14(a)は斜視図、
図14(b)は底面図である。第1実施形態では、支柱132の横断面形状が円形であるのに対して、本第2変形例では、支柱132の横断面形状はオーバル形状である。支柱132の横断面形状は、長手方向がセンサ素子1の中心Cに向いており、支柱132が配列される円周の半径方向に沿っており、太さWは、第1実施形態と同様の太さである。また、支柱132との間隔(角度θ)は、第1実施形態と同様に10°以下である。
【0088】
第2変形例に係る流路形成部130bは、支柱132の横断面形状が異なること以外は、第1実施形態に係る流路形成部130と同様の構成である。
【0089】
第2変形例に係る流路形成部130bを有する流向流速測定装置は、第1実施形態に係る流向流速測定装置100と同様の効果を奏する。さらに、支柱132の横断面形状はオーバル形状とすることにより、支柱132の強度が向上する。
【0090】
なお、支柱132の横断面形状は、オーバル形状に限られず、楕円流線形状、涙滴形状等、種々の形状に変更可能である。
【0091】
[第3変形例]
図15は、第3変形例に係る流路形成部130cを示す図であり、
図15(a)は斜視図、
図15(b)は側面図、
図15(c)は底面図である。第1実施形態では、各支柱132が孤立しているのに対して、本第3変形例では、各支柱132が連結されている。具体的には、第3変形例では、各支柱132は、基端部132bと、中央部132cと、先端部132dとを有する。基端部132b、中央部132c、及び先端部132dは、同一の横断面形状(例えば円形)を有する。
【0092】
基端部132bと中央部132cとの間には、円環状の第1円環状部135aが設けられている。中央部132cと先端部132dとの間には、円環状の第2円環状部135bが設けられている。基端部132bは、一端が流路板131に接続されており、他端が第1円環状部135aに接続されている。中央部132cは、一端が第1円環状部135aに接続されており、他端が第2円環状部135bに接続されている。先端部132dは、第2円環状部135bに接続されている。
【0093】
基端部132b、中央部132c、先端部132d、第1円環状部135a、及び第2円環状部135bは、
図15(b)に示すように、全体として格子状(メッシュ状)となっている。支柱132の間隔や太さは第1実施形態と同様である。
【0094】
第3変形例に係る流路形成部130cを有する流向流速測定装置は、第1実施形態に係る流向流速測定装置100と同様の効果を奏する。さらに、支柱132を、第1円環状部135a及び第2円環状部135bに接続して格子状とすることにより、支柱132の強度が向上する。なお、円環状部の個数は2個に限られず、1個や3個以上としてもよい。
【0095】
<第2実施形態>
第2実施形態では、流路板に絞り形状を追加する例を示す。なお、第2実施形態において、既に説明した実施形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0096】
図16は、第2実施形態に係る流向流速測定装置を例示する縦断面図であり、
図4に対応する断面を示している。
【0097】
図16を参照すると、流向流速測定装置100Aは、流路形成部130が流路形成部130dに置換された点が、流向流速測定装置100(
図1~
図4等参照)と相違する。
【0098】
流路形成部130dは、基板固定部112の上面と対向する流路形成面を備えた流路板131と、流路板131の流路形成面の外周部に設けられた複数の支柱132と、流路板131の流路形成面に設けられた絞り部138とを有している。流路板131及び支柱132については、流向流速測定装置100で説明した通りである。
【0099】
絞り部138は、流路板131の流路形成面の外周部が形成する流路よりも、センサ素子1上の流路を狭くするために設けられている。絞り部138は、例えば、流路板131の流路形成面において各々の支柱132の内側に設けることができる。絞り部138は、例えば、逆円錐台状とすることができる。
【0100】
流向流速測定装置100Aにおいて、流路150は、360°の何れの方向から流体が流れ込む場合も、入口及び出口が広く、その途中が絞り部138により狭くなるように形成されている。
【0101】
センサ素子1の検出感度を向上する観点と、流路150の入口を広くして流路150に取込める流量を確保する観点から、絞り部138の下面の直径は、流路板131の下面の直径の半分程度とすることが好ましい。又、乱流の発生を抑制する観点から、絞り部138の側面の傾斜角は45度以下とすることが好ましい。
【0102】
図16において、L
1は、流体の入り口の高さ(基板固定部112の上面から流路板131の流路形成面までのZ方向長さ)を示している。又、L
2は、センサ素子1上の流路の高さ(基板固定部112の上面から絞り部138の下面までのZ方向長さ)を示している。
【0103】
発明者らは、鋭意検討したところ、絞り部138は、流体の入り口の高さに対してセンサ素子1上の高さが約1/6となるように流路形成面から筐体側に突出していることが好ましいことを見出した。つまり、センサ素子1上の流路の高さL2を、流体の入り口の高さL1の約1/6にすると、後述の効果(チルト角度が変化した場合及び流向が変化した場合の流速の測定誤差を低減する効果)を得るうえで好適であることを見出した。
【0104】
ここで、約1/6の『約』は、同一の設計に基づいて製造された物の製造上の誤差程度は許容されることを意味する。具体的には、約1/6は、1/6に対して±0.1mmの誤差を許容する意味合いである。例えば、流体の入り口の高さL1=3mmであれば、センサ素子1上の流路の高さL2=0.5mmのときにL2/L1=1/6となるが、このとき、L2=0.4~0.6mmが約1/6の範囲である。
【0105】
図17は、チルト角度と流速換算との関係を例示する図である。具体的には、流速が1m/s、2m/s、3m/sの各々の場合に、流向流速測定装置の流路形成面がXY平面に対して傾いた時のチルト角度と、流向流速測定装置で測定された流速(
図17の縦軸の流速換算の値である)との関係を示している。なお、流体はXY平面に平行に流れているものとする。
【0106】
図17(a)は流向流速測定装置100のデータであり、
図17(b)は流向流速測定装置100Aのデータである。
【0107】
図17(a)に示すように、流向流速測定装置100では、チルト角度が0付近では、流速が1m/s、2m/s、3m/sの何れの場合も精度よく流速を測定できているが、チルト角度が大きくなるにつれて、流速の測定誤差が大きくなっている。特に、流速が速くなるほど、測定誤差が大きくなっている。言い換えれば、流速が低くなるほど、チルト角度の影響による流速の測定誤差が生じ難くなる。
【0108】
これに対して、
図17(b)に示すように、流向流速測定装置100Aでは、チルト角度が±10度変化しても、流速が1m/s、2m/s、3m/sの何れの場合も精度よく流速を測定できている。特に、流速が速い場合の測定誤差の改善が顕著である。
【0109】
すなわち、絞り部138を設けた流向流速測定装置100Aは、絞り部138を設けていない流向流速測定装置100よりも、チルト角度が変化した場合の流速の測定誤差が小さく、特に、流速が速い場合の測定誤差の改善が顕著である。
【0110】
これは、流向流速測定装置100では、入り口の流速とセンサ素子1上の流速が略同一であるが、流向流速測定装置100Aでは、絞り部138を設けてセンサ素子1上の流路を狭くしたことで、センサ素子1上の流速が入口の流速よりも弱まり、チルト角度の影響を受け難くなったためである。
【0111】
又、流向流速測定装置100Aでは、絞り部138を設けてセンサ素子1上の流路を狭くしたことで、流体がセンサ素子1上に誘導されるので、入り口では流体が傾いている場合でも、センサ素子1上では流体が傾いていない場合に近くなるためである。
【0112】
なお、流向流速測定装置100Aの検出する流速は、流向流速測定装置100Aの出力を補正して得るため、センサ素子1上の流速が入口の流速よりも弱まっても測定誤差とはならない。
【0113】
図18は、流向と流体速度の測定誤差との関係を例示する図である。具体的には、流速が2m/sの場合に、流体が流向流速測定装置に入る角度を変えたときの(すなわち流向を変えたときの)流体速度の測定誤差を示している。なお、流向流速測定装置のチルト角度は0度であり、流体はXY平面に平行に流れているものとする。
【0114】
図18(a)に示すように、流向流速測定装置100では、何れの角度(何れの流向)においても流速の測定誤差が大きくなっている。なお、
図18(a)において正弦波状に大きく変動しているのは、円周上に配列された36本の支柱132の影響である。
【0115】
これに対して、
図18(b)に示すように、流向流速測定装置100Aでは、何れの角度(何れの流向)においても精度よく流速を測定できている。
【0116】
すなわち、絞り部138を設けた流向流速測定装置100Aは、絞り部138を設けていない流向流速測定装置100よりも、流向が変化した場合の流速の測定誤差が小さい。
【0117】
これは、流向流速測定装置100では、支柱132の影響により特に流速が速い場合に流速の測定誤差が大きくなるが、流向流速測定装置100Aでは、絞り部138を設けたことで支柱132の影響が緩和されたためである。
【0118】
これは、流向流速測定装置100では、入り口の流速とセンサ素子1上の流速が略同一であるが、流向流速測定装置100Aでは、絞り部138を設けてセンサ素子1上の流路を狭くしたことで、センサ素子1上の流速が入口の流速よりも弱まり、支柱132により生じた乱流の影響を低減できるためである。
【0119】
このように、流向流速測定装置100Aでは、絞り部138を設けたことで、チルト角度が変化した場合の流速の測定誤差、及び流向が変化した場合の流速の測定誤差を、絞り部138を設けない場合に比べて低減することができる。
【0120】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳説したが、本発明は、上述した実施の形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態に種々の変形及び置換を加えることができる。例えば、各実施の形態や変形例は、適宜組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0121】
1 センサ素子、10 半導体基板、30 X軸温度検出体(第1軸温度検出体)、31 X軸温度検出体(第1軸温度検出体)、32 Y軸温度検出体(第2軸温度検出体)、33 Y軸温度検出体(第2軸温度検出体)、40 発熱抵抗体、100 流向流速測定装置、110 筐体、111 外枠、112 基板固定部、112a 溝、112b 穴、112x 開口部、113 底蓋、113a 貫通孔、120 基板、120x 貫通孔、125 樹脂、127 外部接続端子、130 流路形成部、131 流路板、132 支柱、132b 基端部、132c 中央部、132d 先端部、133a,133b マーク、134 溝、135a 第1円環状部、135b 第2円環状部、138 絞り部、150 流路