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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】半導体装置および半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/60 20060101AFI20231114BHJP
【FI】
H01L21/60 301N
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019005565
(22)【出願日】2019-01-16
(65)【公開番号】P2020113721
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】西村 武義
【審査官】今井 聖和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/063744(WO,A1)
【文献】特開2009-246218(JP,A)
【文献】特開2013-004779(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0249082(US,A1)
【文献】特開2017-034212(JP,A)
【文献】特開平08-255911(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板に設けられた半導体素子と、
前記半導体基板の第1主面に設けられ、前記半導体素子の所定領域と電気的に接続された表面電極と、
前記半導体基板の第2主面を接合した実装基板と、
一方の端部が前記表面電極に接合され、他方の端部が前記実装基板の導電体部に接合されたワイヤと、
を備え、
前記表面電極は、
前記半導体基板の第1主面に設けられた金属電極と、
前記金属電極の表面に設けられた、前記金属電極よりも導電性の高い金属層と、を順に積層した積層構造を有し、
前記金属電極を覆う保護膜をさらに備え、
前記金属層は、前記金属電極の、前記保護膜の開口部に露出する部分の表面に、前記保護膜から離れて設けられており、
前記金属電極は、アルミニウム合金層であり、
前記金属層は、アルミニウム層、または、前記金属電極および前記ワイヤよりもアルミニウムの含有量の多いアルミニウム合金層であり、
前記ワイヤは、アルミニウム合金ワイヤであることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記金属層の厚さは、5μm超50μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記金属層の厚さは、前記ワイヤの径の1/5以下の厚さであることを特徴とする請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記金属電極に覆われた、前記半導体素子の活性領域と、
前記半導体基板に設けられて前記活性領域の周囲を囲む終端領域と、をさらに備え、
前記開口部の開口端から前記活性領域と前記終端領域との境界までの距離は、10μm以上200μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記表面電極の厚さは5μm以上であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の半導体装置。
【請求項6】
前記金属層の厚さは、前記金属電極の厚さよりも厚いことを特徴とする請求項1~5のいずれか一つに記載の半導体装置。
【請求項7】
前記金属層は、前記金属電極よりも表面積が小さく、かつ前記金属電極よりも柔らかいことを特徴とする請求項1~6のいずれか一つに記載の半導体装置。
【請求項8】
前記実装基板はリードフレームのダイパッドであり、
前記実装基板の導電体部はリードフレームのリード部であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項9】
半導体基板に半導体素子を形成する第1工程と、
前記半導体基板の第1主面に、前記半導体素子の所定領域と電気的に接続された表面電極を形成する第2工程と、
前記半導体基板の第2主面を実装基板に接合する第3工程と、
ワイヤの一方の端部を前記表面電極にボンディングし、他方の端部を前記実装基板の導電体部にボンディングする第4工程と、
を含み、
前記第2工程は、
前記表面電極として、スパッタリングにより、前記半導体基板の第1主面に金属電極を形成する第5工程と、
前記表面電極として、前記金属電極の表面に、前記金属電極よりも導電性の高い金属層を接合する第6工程と、を行い、
前記第5工程の後、前記第6工程の前に、
前記金属電極を保護膜で覆う工程と、
前記保護膜に開口部を形成し、当該開口部に前記金属電極の一部を露出させる工程と、
を含み、
前記第6工程では、前記金属電極の、前記開口部に露出する部分の表面に、前記保護膜から離して前記金属層を接合し、
前記金属電極は、アルミニウム合金層であり、
前記金属層は、アルミニウム層、または、前記金属電極および前記ワイヤよりもアルミニウムの含有量の多いアルミニウム合金層であり、
前記ワイヤは、アルミニウム合金ワイヤであることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記表面電極の厚さは5μm以上よりも厚いことを特徴とする請求項9に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項11】
前記第6工程では、前記金属層を超音波により接合することを特徴とする請求項9または10に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項12】
前記第6工程では、前記金属電極の、前記開口部に露出する部分の表面に、前記金属層と同じ寸法の金属片を載置し、当該金属片を超音波により接合することで、前記金属層を形成することを特徴とする請求項11に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項13】
前記第6工程では、
前記金属電極の、前記開口部に露出する部分の表面に、前記金属層と同じ厚さのリボンワイヤの端部を載置し、当該リボンワイヤの端部をワイヤボンディングする工程と、
前記リボンワイヤを切断して、前記リボンワイヤの、前記金属電極にボンディングされた部分を前記金属層として前記金属電極の表面に残す工程と、を行うことを特徴とする請求項11に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項14】
前記金属層の厚さは、前記金属電極の厚さよりも厚いことを特徴とする請求項9~13のいずれか一つに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項15】
前記金属層は、前記金属電極よりも表面積が小さく、かつ前記金属電極よりも柔らかいことを特徴とする請求項9~14のいずれか一つに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項16】
前記実装基板はリードフレームのダイパッドとし、
前記実装基板の導電体部はリードフレームのリード部とすることを特徴とする請求項9に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体装置および半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細加工技術やトレンチゲート技術、超接合(SJ:Super Junction)技術により、半導体素子(半導体チップ)自体のオン抵抗は従来よりも1桁近く低減されている。SJ技術とは、ドリフト層を、n型領域とp型領域とを半導体基板の主面に平行な方向に交互に繰り返し配置した並列pn構造とする技術である。半導体素子が実装されたデバイス(半導体装置)のオン抵抗に占める、当該半導体素子自体のオン抵抗の比率は低い。デバイスのオン抵抗低減には、パッケージ抵抗の低減が不可欠となってきている。
【0003】
パッケージ抵抗の低減には、リードフレームの抵抗(電気抵抗や熱抵抗)を低減する以外に、半導体素子の表面電極に接合されるボンディングワイヤの抵抗を低減することが挙げられる。ボンディングワイヤの抵抗を低減する方法として、半導体素子の表面電極とリードフレームのリードとの間に複数のボンディングワイヤを並列接続したり、ボンディングワイヤを太線化したり、極細のボンディングワイヤに代えて、ボンディングワイヤよりも幅広のリボンワイヤや銅(Cu)クリップを用いることが知られている。
【0004】
従来の半導体素子の構造について、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor:金属-酸化膜-半導体の3層構造からなる絶縁ゲートを備えたMOS型電界効果トランジスタ)を例に説明する。図14~16は、従来の半導体素子の構造の一例を示す断面構造である。図14に示す従来の半導体素子(半導体チップ)121は、半導体基板110に複数の単位セル(素子の構成単位)115を備える。
【0005】
半導体素子121の単位セル115は、半導体基板110のおもて面側にp型ベース領域102、n+型ソース領域103、p+型コンタクト領域104およびトレンチゲート部105を有する。トレンチゲート部105は、ゲートトレンチ106、ゲート絶縁膜107およびゲート電極108で構成されている。トレンチゲート部105は、半導体基板110のおもて面に平行な方向に並列に配置されている。隣り合うトレンチゲート部105の中心間の各部で、半導体素子121の1つの単位セル115が構成される。
【0006】
半導体基板110のおもて面上には、ソース電極となる表面電極111として、アルミニウム(Al)を含む金属電極112のみが設けられている。金属電極112には、層間絶縁膜109のコンタクトホールを介して、半導体素子121のすべての単位セル115のn+型ソース領域103およびp+型コンタクト領域104が電気的に接続されている。半導体素子121がパッケージ(不図示)に実装されたときに、半導体素子121の金属電極112にボンディングワイヤ122が接合される。
【0007】
金属電極112は、ボンディングワイヤ122を介してリードフレームのリード(不図示)に電気的に接続されている。ボンディングワイヤ122の、金属電極112との接合部(以下、単に接合部とする)122aは、深さ方向に、半導体素子121の一部(ここでは2つ)の単位セル115に対向する。半導体素子121のオン時、各単位セル115で発生したドレイン・ソース間電流は、金属電極112へ伝わり、金属電極112を通ってボンディングワイヤ122からリードへと流れる。
【0008】
ドレイン・ソース間電流の経路となる金属電極112、ボンディングワイヤ122およびリードでそれぞれ発生する抵抗の総和と、半導体素子121自体のオン抵抗Rsiと、の総和が、半導体素子121が実装されたデバイスのオン抵抗となる。半導体素子121の単位セル115あたりのオン抵抗Rsiは、同一のメサ領域内においてゲートトレンチ106に沿った部分に形成されるチャネル抵抗Rchを並列接続した合成抵抗と、n-型ドリフト領域101の不純物濃度で決まる基板抵抗Rsubと、を直列接続した合成抵抗である。なお、基板抵抗Rsubは、n-型ドリフト領域101の抵抗が支配的であるが、n+型ドレイン領域113の抵抗成分も含まれる。
【0009】
図15に示す従来の半導体素子121’が図14に示す従来の半導体素子121と異なる点は、表面電極111が金属電極112およびめっき層116を順に積層した積層構造である点である。半導体素子121’がパッケージ(不図示)に実装されたときに、半導体素子121’のめっき層116にボンディングワイヤ122’が接合される。半導体素子121’が実装されたデバイスのオン抵抗は、金属電極112、めっき層116、ボンディングワイヤ122’およびリードでそれぞれ発生する抵抗の総和と、半導体素子121’自体のオン抵抗Rsiと、の総和となる。
【0010】
図16に示す従来の半導体素子123が図15に示す従来の半導体素子121’と異なる点は、表面電極111が金属電極112、めっき層116およびはんだ層117を順に積層した積層構造であり、かつボンディングワイヤ122’に代えて、板状の銅部材である銅クリップ124を用いた点である。半導体素子123がパッケージ(不図示)に実装されたときに、半導体素子123のはんだ層117の全面に、銅クリップ124が接合される。半導体素子123が実装されたデバイスのオン抵抗は、金属電極112、めっき層116、はんだ層117、銅クリップ124およびリードでそれぞれ発生する抵抗の総和と、半導体素子123自体のオン抵抗Rsiと、の総和となる。
【0011】
符号I101は、ドレイン電極114からn+型ドレイン領域113、n-型ドリフト領域101およびn型の反転層(チャネル)を通ってn+型ソース領域103へ向かって流れる電流である。符号I102は、半導体基板110から金属電極112へ流れ込み、金属電極112内をボンディングワイヤ122へ向かって流れる電流である。符号I103は、金属電極112からめっき層116へ流れ込み、めっき層116内をボンディングワイヤ122へ向かって流れる電流である。符号I104は、めっき層116からはんだ層117へ流れ込み、はんだ層117内を銅クリップ124へ向かって流れる電流である。
【0012】
従来の半導体素子の実装方法について、図14に示す半導体素子121を例に説明する。図17は、一般的なボンディングワイヤの形状を示す説明図である。図18は、従来の半導体装置の組立途中の状態を示す断面図である。図18に示すように、半導体素子121のドレイン電極114(図14参照)をはんだ層125を介して実装基板126上に接合することで、半導体素子121を実装基板126に実装する。実装基板126は、例えば、リードフレームのダイパッドでもよい。また、実装基板126は、例えば、絶縁基板表面の回路パターンであってもよい。
【0013】
次に、ワイヤボンディング装置のクランパー152にボンディングワイヤ141を通し、端部を露出させた状態でボンディングワイヤ141をクランパー152で保持する。ボンディングワイヤ141は、所定の直径を有する金属細線である(図17)。次に、半導体素子121の表面電極111の所定位置にボンディングワイヤ141の端部を接触させる。表面電極111に対するボンディングワイヤ141の位置はクランパー152により維持される。
【0014】
次に、ワイヤボンディング装置のツール151による超音波振動により、ボンディングワイヤ141の端部を表面電極111に接合(ボンディング)する。次に、ボンディングワイヤ141に対するクランパー152の位置を移動させ、ボンディングワイヤ141をループ状にして実装基板126からの高さを確保した状態で、リード127にボンディングワイヤ141の一部を接触させる。リード127は、例えば、リードフレームのリードでもよい。また、リード127は、例えば、絶縁基板表面の回路パターンであってもよい。
【0015】
次に、ツール151により、ボンディングワイヤ141と表面電極111との接合と同様に、ボンディングワイヤ141とリード127とを接合する。その後、半導体素子121の表面電極111とリード127とを電気的に接続するループ状の部分(図14のボンディングワイヤ122に相当)を残してボンディングワイヤ141を切断することで、半導体素子121を実装した半導体装置が完成する。
【0016】
パッケージ抵抗を低減させた半導体装置として、半導体基板の側面が接続材料を介して絶縁基板の電極パッドに接続され外部接続用端子として機能する導電膜で構成され、当該導電膜に、半導体基板の裏面のドレイン電極が電気的に接続された縦型MOSFETが提案されている(例えば、下記特許文献1参照。)。下記特許文献1では、半導体基板の裏面のドレイン電極は絶縁基板のリードフレームであり、当該ドレイン電極の厚さを厚くすることで、パッケージ抵抗を低減させている。
【0017】
また、半導体素子の実装方法として、導電性部材にワイヤボンディング(接合)されたワイヤの、導電性部材との接合領域以外の部分をハーフカットして切れ込みを形成し、当該切れ込みを振動させて、切れ込み位置でワイヤを切断する方法が提案されている(例えば、下記特許文献2参照。)。下記特許文献2では、ワイヤ切断時に導電性部材に対する損傷が低減される。また、ワイヤが切れ込みから破断されることにより切断されるため、ワイヤの切断面での尖りの発生が抑制される。
【0018】
また、半導体素子の実装方法として、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、銅-モリブデン(Cu-Mo)および銅-タングステン(Cu-W)のいずれか一つの導電材料で形成された導電体の上面を銅(Cu)めっき膜で覆い、当該導電体の上面の銅めっき膜に銅またはアルミニウム(Al)の導電板の一端を超音波接合する方法が提案されている(例えば、下記特許文献3参照。)。この方法では、当該導電体の下面を銅めっき膜またはニッケル(Ni)めっき膜で覆い、当該めっき膜に半導体基板をはんだ接合する。
【0019】
また、半導体素子の実装方法として、半導体素子の金属電極の表面にアルミニウム-銅の0.3mm程度の厚さのリボンワイヤをワイヤボンディング(超音波接合)し、当該リボンワイヤの切断後に、金属電極の表面のリボンワイヤ上に銅ワイヤをワイヤボンディングする方法が提案されている(例えば、下記特許文献4参照。)。下記特許文献4では、リボンワイヤに代えて、あらかじめ切断された個片状のクラッド材を用いることや、リボンワイヤの切断箇所にあらかじめV字溝を形成しておくことが開示されている。
【0020】
また、半導体素子の実装方法として、半導体素子の表面の、アルミニウムよりも硬い金属からなる電極パッド上に、アルミニウム膜からなる3μm~5μm程度の厚さの金属層を形成し、当該金属層に銅を主成分とするワイヤをワイヤボンディング(超音波接合)する方法が提案されている(例えば、下記特許文献5参照。)。下記特許文献5では、アルミニウム膜からなる金属層によってワイヤボンディング時の衝撃が緩衝されるため、ワイヤボンディング時に電極パッド下方の半導体素子に損傷が生じない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【文献】特許第6368921号公報
【文献】特開2016-058666号公報
【文献】特許第4645406号公報
【文献】国際公開第2016/063744号
【文献】特開2013-004779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
上述したように、図14~16に示す従来の半導体素子121,121’,123のいずれかの半導体素子が実装されたデバイスでは、デバイスのオン抵抗に占める、半導体素子121,121’,123自身のオン抵抗Rsi以外の抵抗成分の比率が高い。デバイスのオン抵抗に占める比率の高い抵抗成分のうち、特に、半導体素子121,121’,123の表面電極111の抵抗の比率が無視できないほど高くなっている。
【0023】
例えば、図14,15に示す半導体素子121,121’では、表面電極111のシート抵抗がデバイスのオン抵抗に影響する。各単位セル115からボンディングワイヤ122,122’の接合部122a,122a’までの距離が長いほど、ドレイン・ソース間電流の電流経路の抵抗が高くなる。このため、各単位セル115から表面電極111へ流れ込む電流I102,I103の電流値が小さくなる。図14,15には、電流I102,I103の電流値の大小を矢印の幅の広狭で示している(図16においても同様)。
【0024】
具体的には、図14に示す半導体素子121の複数の単位セル115のうち、ボンディングワイヤ122の接合部122aに深さ方向に対向する単位セル(以下、直下の単位セルとする。ここでは2つ)115aから金属電極112内へ流れ込む電流Ia’は半導体基板110からボンディングワイヤ122の接合部122aへ向かって半導体基板110のおもて面に垂直(以下、縦方向とする)に流れるため、その電流値は金属電極112を通過してもほぼ低下しない。
【0025】
直下の単位セル115aを流れる電流Ia’の電流経路の抵抗値Ra’は、単位セル115あたりのオン抵抗Rsiと、金属電極112の、単位セル115あたりのシート抵抗R100(枠112aで囲む部分)と、の総和となる(Ra’=Rsi+R100)。単位セル115はすべて同じゲート構造を有しているため、単位セル115あたりのオン抵抗Rsiはすべての単位セル115で等しい。
【0026】
一方、直下の単位セル115a以外の単位セル115を流れる電流は、当該単位セル115からボンディングワイヤ122の接合部122aへ向かって、金属電極112内を半導体基板110のおもて面に平行な方向(以下、横方向とする)に流れる。その電流値は、金属電極112内を横方向に流れた距離分だけ、金属電極112のシート抵抗R100の影響を受けて、直下の単位セル115aを流れる電流Ia’よりも小さくなる。
【0027】
例えば、直下の単位セル115aから3つ分だけ離れた単位セル115bは、金属電極112の、単位セル115あたりのシート抵抗R100の3つ分(枠112bで囲む部分)の影響を受ける。当該単位セル115bを流れる電流Ib’の電流経路の抵抗値Rb’は、単位セル115あたりのオン抵抗Rsiと、金属電極112の、単位セル115あたりのシート抵抗R100の3つ分と、の総和となる(Rb’=Rsi+R100×3)。
【0028】
図15に示す半導体素子121’の電流経路が図14に示す半導体素子121の電流経路と異なる点は、単位セル115を流れた電流が金属電極112およびめっき層116を通ってボンディングワイヤ122’の接合部122a’へ流れる点である。図15に示す半導体素子121’の単位セル115を流れる電流は、めっき層116内を横方向に流れる。このため、その電流値は、めっき層116内を横方向に流れた距離分だけ、めっき層116のシート抵抗R101の影響を受ける。
【0029】
具体的には、図15に示す半導体素子121’では、直下の単位セル115aを流れる電流Ia’の電流経路の抵抗値Ra’は、単位セル115あたりのオン抵抗Rsiと、金属電極112の、単位セル115あたりのシート抵抗R100(枠112aで囲む部分)と、めっき層116の、単位セル115あたりのシート抵抗R100(枠116aで囲む部分)と、の総和となる(Ra’=Rsi+R100+R101)。
【0030】
直下の単位セル115aから3つ分だけ離れた単位セル115bを流れる電流Ib’の電経路の抵抗値Rb’は、単位セル115あたりのオン抵抗Rsiと、金属電極112の、単位セル115あたりのシート抵抗R100(枠112bで囲む部分)と、めっき層116の、単位セル115あたりのシート抵抗R101の3つ分(枠116bで囲む部分)と、の総和となる(Rb’=Rsi+R100+R101×3)。
【0031】
これら図14,15に示す半導体素子121,121’の表面電極111の抵抗低減には、金属電極112の厚さt101を厚くすればよい。金属層の抵抗Rは、金属層の抵抗率ρ、長さLおよび断面積Aとしたときに、R=ρ×L/Aであらわされ、金属層の断面積Aに反比例して小さくなるからである。金属電極112の厚さt101を厚くすることで、金属電極112の断面積が大きくなるため、金属電極112の抵抗を低くすることができる。
【0032】
しかしながら、金属電極112の厚さt101を厚くするほど、スパッタリング装置やドライエッチング装置等の製造装置の能力不足や、ドライエッチングによる加工精度の低下により、生産能力が低下する。また、ドライエッチングに代えて、ウェットエッチングにより金属電極112をパターニングする場合、金属電極112のエッチングが等方的に横方向にも進行するため、設計変更が生じる。
【0033】
また、表面電極111の抵抗を低減するには、ボンディングワイヤ122,122’の本数を増やして、ボンディングワイヤ122,122’と表面電極111との接合面積を増加させればよい(図14,15参照)。しかしながら、ボンディングワイヤ122,122’の本数を増やしたり、ボンディングワイヤ122,122’に代えてリボンワイヤ(不図示)を用いる場合、リードフレームの大幅な変更が必要となる。
【0034】
図16に示す半導体素子123では、ボンディングワイヤ122,122’に代えて銅クリップ124を用いることで、表面電極111の表面全体に銅クリップ124が接触し、銅クリップ124と表面電極111との接合面積が増加する。すべての単位セル115が銅クリップ124に深さ方向に対向するため、単位セル115を流れる電流Ia’の電流経路の抵抗値Ra’はすべての単位セル115で等しくなる。
【0035】
しかしながら、図16に示す半導体素子123では、表面電極111を、金属電極112、めっき層116およびはんだ層117を順に積層した積層構造とする必要がある。表面電極111内を流れる電流Iaの均一性はよくなるが、めっき層116およびはんだ層117の抵抗が金属電極112の抵抗と比べて2桁近く高いため、銅クリップ124と表面電極111との接合面積を増加させたことによるオン抵抗低減効果は小さく、特に低耐圧デバイスで低オン抵抗化が難しい。
【0036】
図16に示す半導体素子123の各単位セル115を流れる電流Ia’の電流経路の抵抗値Ra’は、単位セル115あたりのオン抵抗Rsiと、金属電極112の、単位セル115あたりのシート抵抗R100(枠112aで囲む部分)と、めっき層116の、単位セル115あたりのシート抵抗R101(枠116aで囲む部分)と、はんだ層117の、単位セル115あたりのシート抵抗R102(枠117aで囲む部分)と、の総和となる(Ra=Rsi+R100+R101+R102)。
【0037】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、半導体素子(半導体チップ)を実装した半導体装置のオン抵抗を低減させることができる半導体装置および半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0038】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる半導体装置は、次の特徴を有する。半導体基板に、半導体素子が設けられている。前記半導体基板の第1主面に、表面電極が設けられている。前記表面電極は、前記半導体素子の所定領域と電気的に接続されている。前記半導体基板の第2主面は、実装基板に接合されている。ワイヤの一方の端部は前記表面電極に接合され、他方の端部は前記実装基板の導電体部に接合されている。前記表面電極は、前記半導体基板の第1主面に設けられた金属電極と、前記金属電極の表面に設けられた、前記金属電極よりも導電性の高い金属層と、を順に積層した積層構造を有する。前記金属電極は、保護膜に覆われている。前記金属層は、前記金属電極の、前記保護膜の開口部に露出する部分の表面に、前記保護膜から離れて設けられている。
【0039】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記金属電極は、アルミニウム合金層である。前記金属層は、アルミニウム層、または、前記金属電極および前記ワイヤよりもアルミニウムの含有量の多いアルミニウム合金層である。前記ワイヤは、アルミニウム合金ワイヤであることを特徴とする。また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記金属層の厚さは、5μm超50μm以下であることを特徴とする。
【0040】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記金属層の厚さは、前記ワイヤの径の1/5以下の厚さであることを特徴とする。また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記金属電極に覆われた、前記半導体素子の活性領域と、前記半導体基板に設けられて前記活性領域の周囲を囲む終端領域と、をさらに備える。前記開口部の開口端から前記活性領域と前記終端領域との境界までの距離は、10μm以上200μm以下であることを特徴とする。また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記表面電極の厚さは5μm以上であることを特徴とする。
【0041】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記金属層の厚さは、前記金属電極の厚さよりも厚いことを特徴とする。
【0042】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記金属層は、前記金属電極よりも表面積が小さく、かつ前記金属電極よりも柔らかいことを特徴とする。
【0044】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記実装基板はリードフレームのダイパッドであり、前記実装基板の導電体部はリードフレームのリード部であることを特徴とする。
【0045】
また、上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、次の特徴を有する。半導体基板に半導体素子を形成する第1工程を行う。前記半導体基板の第1主面に、前記半導体素子の所定領域と電気的に接続された表面電極を形成する第2工程を行う。前記半導体基板の第2主面を実装基板に接合する第3工程を行う。ワイヤの一方の端部を前記表面電極にボンディングし、他方の端部を前記実装基板の導電体部にボンディングする第4工程を行う。前記第2工程は、第5,6工程を行う。前記第5工程は、前記表面電極として、スパッタリングにより、前記半導体基板の第1主面に金属電極を形成する。前記第6工程は、前記表面電極として、前記金属電極の表面に、前記金属電極よりも導電性の高い金属層を接合する。前記第5工程の後、前記第6工程の前に、前記金属電極を保護膜で覆う工程と、前記保護膜に開口部を形成し、当該開口部に前記金属電極の一部を露出させる工程と、を含む。前記第6工程では、前記金属電極の、前記開口部に露出する部分の表面に、前記保護膜から離して前記金属層を接合する。
【0046】
また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記表面電極の厚さは5μm以上よりも厚いことを特徴とする。
【0047】
また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記第6工程では、前記金属層を超音波により接合することを特徴とする。
【0048】
また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記第6工程では、前記金属電極の、前記開口部に露出する部分の表面に、前記金属層と同じ寸法の金属片を載置し、当該金属片を超音波により接合することで、前記金属層を形成することを特徴とする。
【0049】
また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記第6工程は、前記金属電極の、前記開口部に露出する部分の表面に、前記金属層と同じ厚さのリボンワイヤの端部を載置し、当該リボンワイヤの端部をワイヤボンディングする工程を行う。前記リボンワイヤを切断して、前記リボンワイヤの、前記金属電極にボンディングされた部分を前記金属層として前記金属電極の表面に残す工程を行うことを特徴とする。
【0050】
また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記金属層の厚さは、前記金属電極の厚さよりも厚いことを特徴とする。
【0051】
また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記金属層は、前記金属電極よりも表面積が小さく、かつ前記金属電極よりも柔らかいことを特徴とする。
【0052】
また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記金属電極を、アルミニウム合金層とする。前記金属層を、アルミニウム層、または、前記金属電極および前記ワイヤよりもアルミニウムの含有量の多いアルミニウム合金層とする。前記ワイヤを、アルミニウム合金ワイヤとすることを特徴とする。
【0053】
また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記実装基板はリードフレームのダイパッドとし、前記実装基板の導電体部はリードフレームのリード部とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0054】
本発明にかかる半導体装置および半導体装置の製造方法によれば、半導体素子を実装した半導体装置のオン抵抗を低減させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1】実施の形態1にかかる半導体装置の一部を半導体基板のおもて面側から見たレイアウトを示す断面図である。
図2】実施の形態1にかかる半導体装置の一部を半導体基板のおもて面側から見たレイアウトの別の一例を示す断面図である。
図3図1の一部を拡大して示す平面図である。
図4図1の切断線A-A’における断面構造である。
図5図4の半導体素子(半導体チップ)の活性領域を拡大して示す断面図である。
図6】実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法で用いる材料の一例を示す断面図である。
図7】実施の形態1にかかる半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。
図8】実施の形態2にかかる半導体装置の構造途中の状態を示す断面図である。
図9】実施の形態2にかかる半導体装置の構造途中の状態の別の一例を示す断面図である。
図10】実施の形態2にかかる半導体装置の構造途中の状態の別の一例を示す断面図である。
図11】実施の形態2にかかる半導体装置の構造途中の状態の別の一例を示す断面図である。
図12】実施の形態2にかかる半導体装置の製造方法で用いる材料の一例を示す断面図である。
図13】実施の形態2にかかる半導体装置の製造方法で用いる材料の一例を示す断面図である。
図14】従来の半導体素子の構造の一例を示す断面構造である。
図15】従来の半導体素子の構造の一例を示す断面構造である。
図16】従来の半導体素子の構造の一例を示す断面構造である。
図17】一般的なボンディングワイヤの形状を示す説明図である。
図18】従来の半導体装置の組立途中の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる半導体装置および半導体装置の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および-は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0057】
(実施の形態1)
実施の形態1にかかる半導体装置の構造について説明する。図1は、実施の形態1にかかる半導体装置の一部を半導体基板のおもて面側から見たレイアウトを示す断面図である。図2は、実施の形態1にかかる半導体装置の一部を半導体基板のおもて面側から見たレイアウトの別の一例を示す断面図である。図3は、図1の一部を拡大して示す平面図である。図4は、図1の切断線A-A’における断面構造である。
【0058】
図1,2には、実施の形態1にかかる半導体装置(デバイス)20のうち、実装基板24(図4参照)上の半導体素子21および当該半導体素子21の表(ひょう)面電極11に接合されたボンディングワイヤ22を示す。図3には、ボンディングワイヤ22の、薄膜金属層16との接合部(以下、単に接合部とする)22aを示す。図4には、実装基板24上に実装された1つ以上の構成部のうちの半導体素子21のみを示す。
【0059】
図1~4に示す実施の形態1にかかる半導体装置20は、半導体素子(半導体チップ)21を実装基板24に実装したパッケージ構造を備える。半導体素子21は、半導体基板10のおもて面側に例えばトレンチゲート部5(図5参照)を有する縦型のトレンチゲート型MOSFETである。半導体基板10は、略矩形状の平面形状を有する。半導体基板10には、活性領域31およびエッジ終端領域32が設けられている。
【0060】
活性領域31は、半導体素子21がオン状態のときに、半導体素子21のドレイン・エミッタ間電流が流れる領域である。半導体基板10は、例えば略矩形状の平面形状を有する。活性領域31において半導体基板10のおもて面には、半導体素子21の表面電極11およびゲートパッド17が互いに離れて設けられている。表面電極11は、金属電極12および薄膜金属層16を順に積層した積層構造を有する。
【0061】
金属電極12は、活性領域31のうち、ゲートパッド17が配置された領域を除く領域のほぼ全面を覆う。金属電極12は、例えば、一部を内側に凹ませた凹部を有する略矩形状の平面形状であってもよいし(図1,2)、略矩形状の平面形状であってもよい(不図示)。金属電極12は半導体素子21のソース電極である。金属電極12は、アルミニウム層、またはアルミニウム-シリコン(AlSi)やアルミニウム-銅(AlCu)等のアルミニウム合金層である。金属電極12は、スパッタリングにより形成される。
【0062】
金属電極12の厚さt1の上限値は、例えば、スパッタリング装置による積層精度の限界の厚さ、または、ドライエッチング装置による加工能力の限界の厚さである例えば5μm以下程度であり、設計条件等に応じて決定される。金属電極12の厚さt1は可能な限り厚いことが好ましく、金属電極12の厚さt1を厚くするほど、半導体素子21のオン抵抗を低減させることができる。
【0063】
薄膜金属層16は、後述するパッシベーション膜18の開口部18a(図4)内に、パッシベーション膜18から離れて配置されている。薄膜金属層16は、金属電極12よりも小さい表面積を有し、その全面が金属電極12に接合されている。薄膜金属層16の下面には金属電極12が接合されているため、表面電極11は、薄膜金属層16を配置した部分で金属電極12よりも厚さ(総厚さt0)が厚い。電流経路として表面電極11の断面積を比較した場合、金属電極12しかないエッジ終端領域32側の活性領域31の断面積よりも、薄膜金属層16の下面に金属電極12を備えた活性領域31の内側の断面積の方が大幅に大きくなる。電流経路の抵抗(シート抵抗)は断面積の逆数となるので、薄膜金属層16の下面に金属電極12を備えた活性領域31の内側の抵抗(シート抵抗)は低くなる。また、金属電極12しかないエッジ終端領域32側の活性領域31の抵抗(シート抵抗)は高くなる。
【0064】
また、局所的にアバランシェが発生した場合、アバランシェにより発生した電流がアバランシェの発生箇所の周辺から金属電極12および薄膜金属層16を通ってボンディングワイヤ22に流れ込む。エッジ終端領域32側の活性領域31でアバランシェが発生すると大きな面積を持つエッジ終端領域32からも活性領域31に電流が流れ込む。そのため、活性領域31に流れ込む電流が大きくなり半導体素子21が破壊し易くなる。発生したアバランシェ電流は表面電極11を伝わりボンディングワイヤ22に流れる。金属電極12しかないエッジ終端領域32側の活性領域31の抵抗(シート抵抗)は高いため、エッジ終端領域32側の活性領域31でアバランシェ電流が発生しても活性領域31に流れ込む電流を抑制する効果がある。
【0065】
薄膜金属層16の表面積を金属電極12の表面積よりも小さくすることで、半導体素子21の外周(エッジ終端領域32側の活性領域31)で局所的な電流集中による耐量低下を低減させることができる。また、薄膜金属層16は、パッシベーション膜18の開口部18aよりも若干小さい表面積を有する。パッシベーション膜18の開口部18a内に薄膜金属層16を備えることで、金属電極12と薄膜金属層16を接合する際に位置決めが容易になる。薄膜金属層16は、例えば略矩形状の平面形状を有する。

【0066】
薄膜金属層16は、例えば、パッシベーション膜18の開口部18aと略同じ平面形状である(図1)。薄膜金属層16は、パッシベーション膜18の開口部18aよりも表面積が大幅に小さくてもよいし、パッシベーション膜18の開口部18aと異なる平面形状であってもよい(図2)。薄膜金属層16は、ボンディングワイヤ22の接合部22aとの接合面よりも大きい表面積を有する。
【0067】
薄膜金属層16は、ボンディングワイヤ22が接合される電極パッドとして機能する。薄膜金属層16は、金属電極12よりも柔らかい(硬度が低い)金属で形成されている。これにより、後述するようにボンディングにより薄膜金属層16を金属電極12に接合する際に、当該ボンディングによる半導体素子21へのダメージが低減される。また、薄膜金属層16は、ボンディングワイヤ22よりも柔らかい金属で形成されることがよい。
【0068】
具体的には、薄膜金属層16は、例えば純度99.9%を超える含有率でアルミニウムを含む純アルミニウム層である。また、薄膜金属層16は、例えば金属電極12およびボンディングワイヤ22よりもアルミニウムの含有率の高いアルミニウム合金層であってもよい。薄膜金属層16は、例えば93.0%以上99.9%以下程度の含有率でアルミニウムを含むアルミニウム合金層であってもよい。
【0069】
薄膜金属層16は、1つの金属で構成されていることが好ましい。その理由は、次の通りである。薄膜金属層16が例えば銅(Cu)膜やアルミニウム膜など複数金属を含む合金(金属間化合物)層である場合、時効硬化により薄膜金属層16の硬度が高くなることで、薄膜金属層16が脆くなるからである。これにより、熱サイクル(H/C:Heat Cycle)試験等において薄膜金属層16の脆弱性が高まる虞がある。
【0070】
また、薄膜金属層16が1つの金属で構成された場合と比べて、薄膜金属層16の抵抗が増加するからである。また、薄膜金属層16の厚さt2が増えると薄膜金属層16の引張強度が低下し、薄膜金属層16が剥離しやすくなるからである。また、温湿度バイアス(THB:Temperature Humidity Bias)試験等の耐湿性試験で異種金属接触腐食が起こり、薄膜金属層16の腐食の進行が速くなるからである。
【0071】
薄膜金属層16の材料の形状は、後述する金属片41(図6参照)であってもよいし、後述するリボンワイヤ42,42’(図12,13)であってもよい。薄膜金属層16の厚さt2は、パッシベーション膜18の厚さt3(図4参照)よりも厚くてもよい。この場合、後述するように超音波を用いて薄膜金属層16を金属電極12に接合する際に、薄膜金属層16のみに超音波振動を加えやすい。
【0072】
薄膜金属層16の厚さt2は可能な限り厚いことが好ましいが、薄膜金属層16の厚さt2を厚くするほど、薄膜金属層16を金属電極12に高圧力で押し付けて接合する必要がある。このため、半導体素子21に傷やダメージが生じたり、圧力が足りずに薄膜金属層16が金属電極12に接合されない虞が生じる。このような問題が生じない程度に可能な範囲で、薄膜金属層16の厚さt2を厚くすることが好ましい。
【0073】
薄膜金属層16の厚さt2を厚くすることで、金属電極12の厚さt1が薄い場合であっても、表面電極11の総厚さt0が厚くなり、表面電極11の断面積を増加させることができる。これによって、表面電極11の抵抗を低減させることができるため、各単位セル15(図5参照)から表面電極11を通ってボンディングワイヤ22に至るまでの間に、金属電極12および薄膜金属層16を流れる電流I2,I3(図5参照)の電流値はほぼ低下しない。
【0074】
また、薄膜金属層16の厚さt2を厚くすることで、ワイヤボンディングにより薄膜金属層16から半導体素子21へ伝達されるダメージを低減させることができる。ボンディングワイヤ22を大径化するほど、ワイヤボンディングにより薄膜金属層16から半導体素子21へ伝達されるダメージが大きくなるため、薄膜金属層16の厚さt2を厚くすることで、ボンディングワイヤ22の大径化により半導体素子21の電流能力を高くする場合に有用である。
【0075】
薄膜金属層16の厚さt2は、金属電極12の厚さt1よりも厚い。このため、薄膜金属層16は金属電極12よりも導電性が高く、薄膜金属層16のシート抵抗R1は金属電極12のシート抵抗R0と比べて微小である(図5参照)。それに加えて、薄膜金属層16の厚さt2は、ボンディングワイヤ22の径w1(厚さ)よりも薄い。具体的には、薄膜金属層16の厚さt2は、ボンディングワイヤ22の径w1の1/5以下程度の厚さであってもよい。より具体的には、薄膜金属層16の厚さt2は、例えば4μm以上50μm以下程度であってもよい。
【0076】
薄膜金属層16を上記厚さt2とすることで、例えば、薄膜金属層16をリボンワイヤ42,42’で形成する場合に、カッター等の切断手段を用いる必要がなく、リボンワイヤ42,42’を千切ることで、リボンワイヤ42,42’の、薄膜金属層16となる部分を金属電極12上に残すことができる。このため、金属電極12に傷やダメージが生じることを低減させることができる。
【0077】
ゲートパッド17は、例えば、略矩形状の平面形状を有する。ゲートパッド17は、金属電極12が一部を内側に凹ませた凹部を有する場合、金属電極12の凹部内に配置され、その3辺が金属電極12に対向し、残りの1辺がエッジ終端領域32に対向する。ゲートパッド17は、金属電極12が略矩形状の平面形状である場合、その1辺が金属電極12に対向し、その対辺がエッジ終端領域32に対向する。
【0078】
ゲートパッド17は、例えば、金属電極12と同じ金属材料で形成される。ゲートパッド17は、例えば金属電極12と同時に形成され、金属電極12と同一階層に配置されている。ゲートパッド17は、ポリシリコン(poly-Si)からなるゲートランナーを介して、半導体素子21のすべてのゲート電極8(図5参照)が電気的に接続されている。ゲートランナー(不図示)は、エッジ終端領域32に配置され、活性領域31の周囲を囲む。
【0079】
エッジ終端領域32は、活性領域31と半導体基板10の端部との間の領域であり、活性領域31の周囲を囲む。エッジ終端領域32は、半導体基板10のおもて面側の電界を緩和して耐圧(耐電圧)を保持する領域であり、フィールドリミッティングリング(FLR:Field Limiting Ring)などの所定の耐圧構造(不図示)が配置される。耐圧とは、半導体素子21が誤動作や破壊を起こさない限界の電圧である。
【0080】
パッシベーション膜18は、活性領域31からエッジ終端領域32にわたって半導体素子21のおもて面を覆う保護膜である。パッシベーション膜18は、例えばポリイミドで形成されている。パッシベーション膜18は、活性領域31において、金属電極12の表面の、薄膜金属層16が配置されていない部分を覆う。活性領域31の、薄膜金属層16が配置された部分は、パッシベーション膜18に覆われていない。
【0081】
すなわち、パッシベーション膜18の開口部18aに、薄膜金属層16が露出されている。パッシベーション膜18の開口部18aは、例えば略矩形状の平面形状であってもよいし(図1)、金属電極12と略同じ平面形状であってもよい(図2)。また、パッシベーション膜18の開口部18a,18a’は、金属電極12よりも表面積が小さい。図1,2には、パッシベーション膜18の開口部18a,18a’を破線で示す。
【0082】
パッシベーション膜18の開口部18a,18a’は可能な限り広いことが好ましい。その理由は、次の通りである。薄膜金属層16の表面積を広げて、金属電極12と薄膜金属層16との接合面積を、ボンディングワイヤ22と薄膜金属層16との接合面積よりも広くすることができるからである。金属電極12と薄膜金属層16とは超音波を用いて接合される。金属電極12と薄膜金属層16との間には薄膜金属層の接合部19を備え、金属電極12と薄膜金属層16との接合面積を広くすることによって、薄膜金属層16が金属電極12から剥離することを抑制することができる。
【0083】
また、パッシベーション膜18の開口部18a,18a’を広くすることで、薄膜金属層16を形成する際に、パッシベーション膜18の開口部18a,18a’に露出された金属電極12の表面に、薄膜金属層16の材料となる金属片41やリボンワイヤ42,42’を載置しやすくなる。このため、表面電極11の総厚さt0(=t1+t2)を厚くしやすくなる。これによって、スパッタリングのみで表面電極11を同じ総厚さt0にする場合と比べて、表面電極11の総厚さt0を容易に厚くすることができる。
【0084】
パッシベーション膜18の開口部18a,18a’の開口端から、活性領域31とエッジ終端領域32との境界までの距離w3は、例えば10μm以上200μm以下程度であってもよく、好ましくは50μm以下程度であることがよい。その理由は、表面電極11の抵抗(シート抵抗)を低減し、半導体素子21の活性領域31の面積に見合ったオン抵抗の低減ができるからである。
【0085】
パッシベーション膜18の厚さt3は、例えば、5μm以上100μm以下程度であってもよく、好ましくは20μm以下程度であることがよい。その理由は、半導体素子21の表面保護の効果を得るにはパッシベーション膜18の厚さt3は厚い方が良い。しかしながら、パッシベーション膜18の厚さt3が厚くなると半導体素子21に大きな応力がかかり、応力によって半導体素子21の特性が悪化するなどの影響を及ぼす可能性があるからである。
【0086】
半導体基板10の裏面の全面にわたって、半導体素子21のドレイン電極14が設けられている。半導体素子21のドレイン電極14がはんだ層23を介して実装基板24に接合されることで、半導体素子21が実装基板24のおもて面上に実装される。はんだ層23に代えて、半導体素子21のドレイン電極14が導電性接着剤により実装基板24に接合されていてもよい。
【0087】
実装基板24は、例えば、リードフレームであり、リードフレームのダイパッド上に半導体素子1がはんだ層、または導電性接着剤で接合されている。また、実装基板24は、例えば、セラミックス基板の両面それぞれに例えば銅箔による導電性板により回路パターンが形成されたDCB(Direct Copper Bond)基板であってもよく、実装基板24の周縁には、ケースが接着されている。実装基板24は、例えば、内部にアルミニウムからなる板状の金属層を有する金属ベース基板であってく、実装基板24の周縁には、ケースが接着されている。
【0088】
ボンディングワイヤ22の一端はワイヤボンディングにより薄膜金属層16に接合され、他端はワイヤボンディングによりリードフレームのリード25(図7参照)に接合されている。ボンディングワイヤ22は、例えばニッケル(Ni)を含むアルミニウム合金ワイヤである。ボンディングワイヤ22の径w1は、例えば100μm以上500μm以下程度であり、可能な限り大きいことがよい。
【0089】
ボンディングワイヤ22を大径化することで、ボンディングワイヤ22と薄膜金属層16との接合面積が増えるため、半導体素子21の電流経路の抵抗が低くなり、半導体素子21のオン抵抗を低減させることができる。薄膜金属層16とリード25との間に、複数のボンディングワイヤ22が並列に接続されていてもよいが、半導体素子21のオン抵抗低減には、大きい径w1のボンディングワイヤ22を少ない本数で接続することがよい。
【0090】
ボンディングワイヤ22の接合部22aは、ワイヤボンディングにより薄膜金属層16に圧着されることで押し潰されている。これによって、ボンディングワイヤ22の接合部22aは、ボンディングワイヤ22の径w1に対して1.5倍以上2倍以下程度の幅w2に広がっている(図3)。実装基板24とリード25との間には、半導体素子21およびボンディングワイヤ22を覆うように、エポキシ樹脂などの熱硬化性の樹脂で覆われている。なお、実装基板24にケースが接着されている場合は、ケースと実装基板との間に半導体素子21およびボンディングワイヤ22を覆うように、エポキシ樹脂などの封止材が充填されている。
【0091】
次に、半導体素子21の断面構造について説明する。図5は、図4の半導体素子(半導体チップ)の活性領域を拡大して示す断面図である。図5に示すように、半導体素子21は、半導体基板10のおもて面に複数の単位セル(素子の構成単位)15を備える。半導体素子21の単位セル15は、半導体基板10のおもて面側に、p型ベース領域2、n+型ソース領域3、p+型コンタクト領域4およびトレンチゲート部5からなる一般的なトレンチゲート構造を備える。
【0092】
すべての単位セル15は、同一のトレンチゲート構造を備える。トレンチゲート部5は、ゲートトレンチ6、ゲート絶縁膜7およびゲート電極8で構成される。トレンチゲート部5は、半導体基板10のおもて面に平行な方向に並列に配置されている。隣り合うトレンチゲート部5の中心間の各部で、半導体素子21の1つの単位セル15が構成される。ゲートトレンチ6は、半導体基板10のおもて面から所定深さに達する。ゲート電極8は、ゲートトレンチ6の内部にゲート絶縁膜7を介して設けられている。
【0093】
隣り合うゲートトレンチ6間(メサ領域)に、p型ベース領域2、n+型ソース領域3およびp+型コンタクト領域4がそれぞれ選択的に設けられている。n+型ソース領域3およびp+型コンタクト領域4は、半導体基板10のおもて面とp型ベース領域2との間に、p型ベース領域2に接して設けられている。n+型ソース領域3およびp+型コンタクト領域4は、半導体基板10のおもて面に露出されている。
【0094】
p型ベース領域2およびn+型ソース領域3は、ゲートトレンチ6の側壁において、ゲート絶縁膜7を挟んでゲート電極8に対向する。半導体基板10のおもて面からp型ベース領域2よりも深い位置に、p型ベース領域2に接して、n-型ドリフト領域1が設けられている。半導体素子21のオン時、p型ベース領域2の、n-型ドリフト領域1とn+型ソース領域3とに挟まれた部分に、n型の反転層(チャネル)が形成される。
【0095】
半導体基板10のおもて面上には、表面電極11が設けられている。表面電極11は、金属電極12および薄膜金属層16を順に積層した積層構造を有する。金属電極12は、層間絶縁膜9のコンタクトホールを埋め込むように、活性領域31のほぼ全面に設けられている。金属電極12には、コンタクトホールを介して、半導体素子21のすべての単位セル15のn+型ソース領域3およびp+型コンタクト領域4が電気的に接続されている。
【0096】
薄膜金属層16は、金属電極12の表面に設けられている。半導体素子21がパッケージ(不図示)に実装されたときに、半導体素子21の薄膜金属層16にボンディングワイヤ22が接合される。薄膜金属層16は、ボンディングワイヤ22を介してリードフレームのリード25(図7参照)に電気的に接続される。ボンディングワイヤ22の、薄膜金属層16との接合部22aは、深さ方向に、半導体素子21の一部(ここでは2つ)の単位セル15に対向する。
【0097】
次に、半導体素子21を実装した半導体装置20のオン抵抗について説明する。半導体素子21のオン時、各単位セル15のドレイン・ソース間を流れる電流I1は、ドレイン電極14からn+型ドレイン領域13、n-型ドリフト領域1、n型の反転層(チャネル)およびn+型ソース領域3を通って金属電極12へ流れ込む。このように単位セル15のドレイン・ソース間に流れる電流I1の電流値は、すべての単位セル15で等しい。
【0098】
この電流I1は、金属電極12へ伝わり、金属電極12および薄膜金属層16を通ってボンディングワイヤ22からリード25へと流れる。図5には、ドレイン・ソース間に流れる電流I1の電流値がすべての単位セル15で等しいことを同じ幅の矢印で示している。また、半導体基板10内から金属電極12へ流れ込んだ電流および金属電極12から薄膜金属層16に流れ込んだ電流をそれぞれ符号I2,I3で示す。
【0099】
半導体素子21の単位セル15あたりのオン抵抗Rsiは、同一のメサ領域内においてゲートトレンチ6に沿った部分に形成されるチャネル抵抗Rchを並列接続した合成抵抗と、n-型ドリフト領域1の不純物濃度で決まる基板抵抗Rsubと、を直列接続した合成抵抗である。この合成抵抗で、半導体素子21の単位セル15あたりのドレイン・ソース間に流れる電流I1の電流値が決まる。
【0100】
半導体素子21のすべての単位セル15は同じ構造を備えるため、同じオン抵抗Rsiを有する。半導体素子21の複数の単位セル15のうち、ボンディングワイヤ22の接合部22aに深さ方向に対向する単位セル(直下の単位セル。ここでは2つ)15aから表面電極11内へ流れ込む電流Iaは半導体基板10からボンディングワイヤ22の接合部22aへ向かって半導体基板10のおもて面に垂直(縦方向)に流れる。
【0101】
したがって、直下の単位セル15aを流れる電流Iaの電流値は、表面電極11を通過してもほぼ変化しない。直下の単位セル15aを流れる電流Iaの電流経路の抵抗値Raは、単位セル15あたりのオン抵抗Rsiと、金属電極12の、単位セル15あたりのシート抵抗R0(枠12aで囲む部分)と、薄膜金属層16の、単位セル15あたりのシート抵抗R1(枠16aで囲む部分)と、の総和となる(Ra=Rsi+R0+R1)。
【0102】
一方、直下の単位セル15aから例えば3つ分だけ離れた単位セル15bを流れる電流Ibの電流経路の抵抗値Rbは、単位セル15あたりのオン抵抗Rsiと、金属電極12の、単位セル15あたりのシート抵抗R0(枠12bで囲む部分)と、薄膜金属層16の、単位セル15あたりのシート抵抗R1の3つ分(枠16bで囲む部分)と、の総和となる(Rb=Rsi+R0+R1×3)。
【0103】
このように直下の単位セル15aから離れた単位セル15bを流れる電流Ibは、当該単位セル15bからボンディングワイヤ22の接合部22aへ向かって、薄膜金属層16内を半導体基板10のおもて面に平行な方向(横方向)に流れるため、上式のように、薄膜金属層16内を横方向に流れた分だけ、薄膜金属層16のシート抵抗R1の影響を受けるが、直下の単位セル15aを流れる電流Iaの電流経路の抵抗値Raとほぼ同じ抵抗値となる。
【0104】
その理由は、上述したように薄膜金属層16のシート抵抗R1が金属電極12のシート抵抗R0に比べて微小であることで(R0≫R1)、薄膜金属層16のシート抵抗R1の影響を受けにくく、薄膜金属層16内に電流I3が均一に流れるからである。また、薄膜金属層16の厚さt2を厚くすることで、金属電極12および薄膜金属層16からなる表面電極11全体のシート抵抗も低くなるため、従来構造(図14,15)よりも金属電極12内においても電流I2を均一に流すことができる。
【0105】
半導体素子21が実装された半導体装置20のオン抵抗は、金属電極12、薄膜金属層16、ボンディングワイヤ22およびリード25でそれぞれ発生する抵抗の総和と、半導体素子21自体のオン抵抗Rsiと、の総和であるが、上述したように金属電極12および薄膜金属層16からなる表面電極11のシート抵抗の影響を受けにくい。このため半導体素子21が実装された半導体装置20のオン抵抗を従来構造よりも低減させることができる。
【0106】
次に、実施の形態1にかかる半導体装置20の製造方法について説明する。図6は、実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法で用いる材料の一例を示す断面図である。図6には、半導体素子21の薄膜金属層16となる金属片41を示す。図7は、実施の形態1にかかる半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。
【0107】
まず、半導体基板10の内部に所定領域を形成する。次に、スパッタリングにより、半導体基板10のおもて面および裏面にそれぞれ金属電極12およびドレイン電極14を形成する。ここまでの工程により、おもて面および裏面にそれぞれスパッタリングにより金属電極12およびドレイン電極14が形成された半導体素子(半導体チップ)21が作製される(図1,2,5参照)。
【0108】
次に、半導体素子21のおもて面の全面をパッシベーション膜18で覆う。次に、パッシベーション膜18に開口部18aを形成し、金属電極12の一部を露出させる。パッシベーション膜18の開口部18aには、薄膜金属層16の形成領域に対応する部分を露出させる。パッシベーション膜18の開口部18aは、後述する金属片41の側面41bがパッシベーション膜18に接触しない開口幅とする。
【0109】
例えば、パッシベーション膜18の開口部18aを、薄膜金属層16よりも表面積が若干広く、薄膜金属層16と同じ矩形状の平面形状で開口する。次に、半導体素子21の裏面のドレイン電極14を、はんだ層23を介して実装基板24に接合することにより、半導体素子21を実装基板24に実装する。
【0110】
次に、半導体素子21のパッシベーション膜18の開口部18aに露出された金属電極12上に、一方の平坦面41aを金属電極12側にして金属片41(図6)を載置する。この金属片41は、半導体素子21の薄膜金属層16(図1,2,5)と同じ材料で形成された、薄膜金属層16と同じ厚さt2および薄膜金属層16と同じ平面形状の平坦面41aを有する金属箔である。
【0111】
次に、超音波接合装置のツール51を金属片41の平坦面41aに接触させて、金属片41を金属電極12に押し付ける。次に、ツール51を介して金属片41に超音波振動を加えて、金属片41を発熱させ、かつ金属片41を金属電極12に叩きつけることで、金属片41を金属電極12に圧着させる。この金属片41を金属電極12に接合するための超音波接合は、後述する金属片41にボンディングワイヤ22を接合するワイヤボンディングよりも低い超音波エネルギーで行う。
【0112】
金属片41と金属電極12との接合面積は、少なくとも金属片41と後述するボンディングワイヤ22との接合面積よりも大きくする。好ましくは、金属片41の平坦面41aの全面が金属電極12に接合されることがよい。例えば、図7に示すように、金属片41の平坦面41aの全面に接触して、当該金属片41の平坦面41aの全面に超音波振動を加えることが可能なツール51を用いればよい。この金属電極12上に接合された金属片41が薄膜金属層16となる。
【0113】
次に、ワイヤボンディング装置のクランパー(不図示)にボンディングワイヤを通し、端部を露出させた状態でボンディングワイヤをクランパーで保持する。ボンディングワイヤは、所定の直径を有する金属細線である(例えば図17参照)。次に、金属片41の所定位置(例えば中央部)にボンディングワイヤの端部を接触させる。このとき、ボンディングワイヤの位置はクランパーにより維持される。
【0114】
次に、ワイヤボンディング装置のツール(不図示)をボンディングワイヤ22の端部に接触させて、ボンディングワイヤの端部を金属片41に押し付ける。次に、ツールを介してボンディングワイヤの端部に超音波振動を加えて、ボンディングワイヤ22の端部を発熱させ、かつボンディングワイヤの端部を薄膜金属層16に応力を加えることで、ボンディングワイヤの端部を金属片41に圧着させる(例えば図18参照)。
【0115】
このボンディングワイヤを金属片41に接合するためのワイヤボンディングにより、金属片41と金属電極12と接合面内のうち、金属片41とボンディングワイヤとの接合部に深さ方向に対向する部分で、金属片41と金属電極12との接合強度が高くなる。
【0116】
次に、ボンディングワイヤに対するクランパーの位置を移動させ、ボンディングワイヤをループ状にして実装基板24からの高さを確保した状態で、リード25にボンディングワイヤの一部を接触させる。次に、金属片41へのワイヤボンディングと同様に、ボンディングワイヤとリード25とを接合する。その後、金属片41とリード25とを電気的に接続するループ状の部分(図1,2,5のボンディングワイヤ22に相当)を残してボンディングワイヤを切断することで、半導体装置20が完成する。
【0117】
以上、説明したように、実施の形態1によれば、スパッタリングにより形成される金属電極の表面に、金属片またはリボンワイヤの切断片を材料とした薄膜金属層は超音波を用いて接合する。これにより、半導体素子の表面電極が、スパッタリングにより形成した金属電極と、金属片を金属電極に超音波を用いて接合した薄膜金属層と、を順に積層した積層構造となる。これにより、スパッタリングにより形成する金属電極の厚さを変えることなく、半導体素子の表面電極の厚さを厚くすることができる。
【0118】
また、半導体素子の表面電極の厚さが厚くなることで、表面電極の抵抗が低減される。この表面電極は、半導体素子の実装時にワイヤがボンディングされ、半導体素子を流れる電流の電流経路となる。このため、上述したように表面電極の抵抗が低減されることで、スパッタリング装置やドライエッチング装置等の能力や加工精度に依らず、かつ設計変更を伴わずに、半導体素子を実装した半導体装置のオン抵抗を低減させることができる。
【0119】
また、実施の形態1によれば、表面電極の抵抗が低減されることで、表面電極に部分的に電流が集中することを抑制することができるため、半導体素子の発熱も抑制することができる。
【0120】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2にかかる半導体装置の製造方法について説明する。図8は、実施の形態2にかかる半導体装置の構造途中の状態を示す断面図である。図9~11は、実施の形態2にかかる半導体装置の構造途中の状態の別の一例を示す断面図である。図12,13は、実施の形態2にかかる半導体装置の製造方法で用いる材料の一例を示す断面図である。図12,13には、半導体素子21の薄膜金属層16となるリボンワイヤ42,42’を示す。
【0121】
実施の形態2にかかる半導体装置の製造方法が実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法と異なる点は、薄膜金属層16の材料を、薄膜金属層16と同じ寸法の金属片に代えて、リボンワイヤ42(図12)を用いる点である。リボンワイヤ42は、半導体素子21の薄膜金属層16(図1,2,5)と同じ材料で形成された、薄膜金属層16と同じ厚さt2を有するリボン状の導電体である。実施の形態2にかかる半導体装置の構造は、実施の形態1にかかる半導体装置20と同様である(図1~5)。
【0122】
具体的には、実施の形態2にかかる半導体装置の製造方法においては、実施の形態1と同様に、半導体素子(半導体チップ)21の作製、パッシベーション膜18の形成、およびパッシベーション膜18の開口部18aの形成を順に行う。次に、ワイヤボンディング装置のクランパー52にリボンワイヤ42(図12)を通し、端部を露出させた状態でリボンワイヤ42をクランパー52で保持する。
【0123】
次に、半導体素子21のパッシベーション膜18の開口部18aに露出された金属電極12上に、クランパー52によりリボンワイヤ42を移動し、一方の平坦面42aを金属電極12側にしてリボンワイヤ42の端部42cを載置する。次に、ワイヤボンディング装置のツール51による超音波振動により、実施の形態1と同様に、リボンワイヤ42の端部42cを金属電極12に接合(ボンディング)する。
【0124】
そして、図8に示すように、リボンワイヤ42の、金属電極12に接合された端部42cを金属電極12上に残すように、金属電極12に接合された端部42cとクランパー52との間でリボンワイヤ42を切断する。このリボンワイヤ42の、金属電極12上に残る端部42cが薄膜金属層16となる。その後、金属電極12上に残したリボンワイヤ42(42c)に、実施の形態1と同様に、ボンディングワイヤ22を接合することで、半導体装置20が完成する。
【0125】
リボンワイヤ42の端部42cを、ステッチボンディングにより金属電極12に接合してもよい。この場合、図9,10に示すように、製品完成後の薄膜金属層16と金属電極12との接合面よりも狭い面積でリボンワイヤ42に接触するツール51’を用いる。ツール51’による超音波振動により、リボンワイヤ42の端部42cの一部を金属電極12に接合ボンディングする。
【0126】
そして、ツール51’を移動させ、リボンワイヤ42の端部42cの、すでに金属電極12に接合された部分に隣接する部分にツール51’を接触させる。図9の符号53は、ツール51’の移動方向である。そして、ツール51’による超音波振動により、さらに、リボンワイヤ42の端部42cの一部を金属電極12に接合ボンディングする。このようにリボンワイヤ42の端部42cを一部分ずつ接合していくことを、製品完成後の薄膜金属層16と金属電極12との接合面の全面が接合されるまで行う。
【0127】
次に、図11に示すように、リボンワイヤ42の、金属電極12に接合された端部42cを金属電極12上に残すように、金属電極12に接合された端部42cとクランパー52との間でリボンワイヤ42を切断する。次に、金属電極12上に残したリボンワイヤ42(42c)に、実施の形態1と同様に、ボンディングワイヤ22を接合することで、半導体装置20が完成する。
【0128】
図13に示すように、実施の形態2にかかる半導体装置の製造方法において、切断箇所に例えばミシン目状の切断線43が予め入ったリボンワイヤ42’を用いてもよい。図12,13において、符号42a,42a’は、リボンワイヤ42,42’の平坦面である。符号42b、42b’は、それぞれリボンワイヤ42,42’の側面である。
【0129】
以上、説明したように、実施の形態2によれば、半導体素子の表面電極を構成する薄膜金属層の材料として、金属片に代えて、リボンワイヤを用いたとしても、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0130】
以上において本発明は、上述した実施の形態に限らず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、半導体素子の素子構造は、仕様等に応じて種々設定される。また、本発明は、導電型(n型、p型)を反転させても同様に成り立つ。
【産業上の利用可能性】
【0131】
以上のように、本発明にかかる半導体装置および半導体装置の製造方法は、電力変換装置や種々の産業用機械などの電源装置などに使用されるパワー半導体装置に有用である。
【符号の説明】
【0132】
1 n-型ドリフト領域
2 p型ベース領域
3 n+型ソース領域
4 p+型コンタクト領域
5 トレンチゲート部
6 ゲートトレンチ
7 ゲート絶縁膜
8 ゲート電極
9 層間絶縁膜
10 半導体基板
11 表面電極
12 金属電極
13 n+型ドレイン領域
14 ドレイン電極
15,15a,15b 半導体素子の単位セル
16 薄膜金属層
17 ゲートパッド
18 パッシベーション膜
18a,18a' パッシベーション膜の開口部
19 薄膜金属層の接合部
20 半導体装置
21 半導体素子
22 ボンディングワイヤ
22a ボンディングワイヤの接合部
23 はんだ層
24 実装基板
25 リード
31 活性領域
32 エッジ終端領域
41 金属片
41a 金属片の平坦面
41b 金属片の側面
42,42' リボンワイヤ
42a,42a’ リボンワイヤの平坦面
42c リボンワイヤの端部
43 リボンワイヤの切断線
51,51' ワイヤボンディング装置のツール
52 ワイヤボンディング装置のクランパー
I1~I3,Ia,Ib 電流
R0 金属電極のシート抵抗
R1 薄膜金属層のシート抵抗
ch チャネル抵抗
sub 基板抵抗
t0 表面電極の総厚さ
t1 金属電極の厚さ
t2 薄膜金属層の厚さ
t3 パッシベーション膜の厚さ
w1 ボンディングワイヤの径
w2 ボンディングワイヤの接合部の幅
w3 パッシベーション膜の開口端から、活性領域とエッジ終端領域との境界までの距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18