(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】摩擦締結装置
(51)【国際特許分類】
F16D 25/12 20060101AFI20231114BHJP
F16D 25/0638 20060101ALI20231114BHJP
F16D 28/00 20060101ALI20231114BHJP
F16D 121/04 20120101ALN20231114BHJP
F16D 121/28 20120101ALN20231114BHJP
F16D 123/00 20120101ALN20231114BHJP
【FI】
F16D25/12 B
F16D25/0638
F16D28/00 Z
F16D121:04
F16D121:28
F16D123:00
(21)【出願番号】P 2019076147
(22)【出願日】2019-04-12
【審査請求日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2018160559
(32)【優先日】2018-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100197561
【氏名又は名称】田中 三喜男
(72)【発明者】
【氏名】上田 和彦
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-054044(JP,A)
【文献】特表2006-520180(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 25/12
F16D 25/0638
F16D 28/00
F16D 121:04
F16D 121:28
F16D 123:00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材と第2部材の間に設けられ、前記第1部材と前記第2部材に交互に係合する複数の摩擦板と、該摩擦板を軸方向に押圧して前記第1部材と前記第2部材を締結する押圧ピストンとを備えた摩擦締結装置であって、
前記押圧ピストンを押圧するための油圧発生手段を備え、
前記油圧発生手段は、
前記押圧ピストンが作動する押圧ピストン作動室に油圧供給路を介して接続された油圧発生室と、
前記油圧発生室に設けられた油圧発生ピストンと、
前記油圧発生ピストンを押圧する高分子アクチュエータと、
前記高分子アクチュエータを収容し、該高分子アクチュエータの容積変化により油圧を供給する油圧供給室と、
前記油圧供給室と前記油圧供給路を連通する油圧導入路とから構成されていることを特徴とする摩擦締結装置。
【請求項2】
前記高分子アクチュエータは、ピストン軸を介して前記油圧発生ピストンを押圧するように構成され、前記油圧発生ピストンと前記ピストン軸とは相対移動可能に設けられ、前記高分子アクチュエータの容積変化により低圧の油圧を供給している間は前記油圧発生ピストンが停止して前記ピストン軸が移動し、低圧の油圧の供給を終えると前記油圧発生ピストンと前記ピストン軸が同時に移動するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の摩擦締結装置。
【請求項3】
前記油圧供給室に油圧供給ピストンが設けられ、
前記油圧供給ピストンは、前記油圧発生ピストンと連結されて該油圧発生ピストンと連動するように構成され、
前記高分子アクチュエータは、前記油圧供給ピストンと前記油圧供給室の内壁との間に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の摩擦締結装置。
【請求項4】
前記油圧導入路に、前記油圧供給室から前記油圧供給路への油圧の導入を許容するワンウェイバルブが設けられている請求項
1又は2に記載の摩擦締結装置。
【請求項5】
前記油圧導入路に、前記油圧供給室から前記油圧供給路への油圧の導入を許容するワンウェイバルブが設けられている請求項3に記載の摩擦締結装置。
【請求項6】
前記ワンウェイバルブと前記油圧供給室の間の前記油圧導入路と前記油圧発生室とを連通する連通路が設けられ、
前記連通路は、前記複数の摩擦板がクリアランスゼロとなるまで前記油圧発生ピストンが移動する間は、前記油圧発生ピストンの加圧側と連通し、前記複数の摩擦板がクリアランスゼロとなったときに、前記油圧ピストンによって塞がれ、前記複数の摩擦板がクリアランスゼロを超えて前記油圧発生ピストンが移動する間は、前記油圧発生ピストンの非加圧側と連通するように構成されていることを特徴とする請求項4に記載の摩擦締結装置。
【請求項7】
前記ワンウェイバルブと前記油圧供給室の間の前記油圧導入路と前記油圧発生室とを連通する連通路が設けられ、
前記連通路は、前記複数の摩擦板がクリアランスゼロとなるまで前記油圧発生ピストンが移動する間は、前記油圧発生ピストンの加圧側と連通し、前記複数の摩擦板がクリアランスゼロとなったときに、前記油圧ピストンによって塞がれ、前記複数の摩擦板がクリアランスゼロを超えて前記油圧発生ピストンが移動する間は、前記油圧発生ピストンの非加圧側と連通するように構成されていることを特徴とする請求項5に記載の摩擦締結装置。
【請求項8】
前記高分子アクチュエータの変位により低圧の油圧を供給する低油圧供給室と、該低油圧供給室と前記油圧導入路とを連通する低油圧導入路とをさらに備えることを特徴とする請求項
1、2、4又は6のいずれかに記載の摩擦締結装置。
【請求項9】
前記高分子アクチュエータの変位により低圧の油圧を供給する低油圧供給室と、該低油圧供給室と前記油圧導入路とを連通する低油圧導入路とをさらに備えることを特徴とする請求項
3、5又は7のいずれかに記載の摩擦締結装置。
【請求項10】
前記低油圧供給室に低油圧供給ピストンが設けられ、
前記低油圧供給ピストンは、前記油圧供給ピストンと前記油圧発生ピストンと連結されて前記油圧供給ピストンと前記油圧発生ピストンと連動するように構成され、
前記高分子アクチュエータは、前記油圧供給ピストンと前記油圧供給室の内壁との間に設けられていることを特徴とする請求項
9に記載の摩擦締結装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車の自動変速機におけるクラッチ、ブレーキに適用される摩擦締結装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の自動変速機のクラッチ、ブレーキ等の摩擦締結装置は、油圧ポンプによる油圧により駆動されるので、駆動抵抗が大きいうえ、自動変速機の重量を増大し、大型化していた。摩擦締結装置の駆動抵抗の低減、自動変速機の軽量化及びコンパクト化を図るには、電気的アクチュエータを用いることにより油圧ポンプレスとすることが有効である。
【0003】
従来、特許文献1には、導電性高分子チューブを束ねて螺旋状に巻回したアクチュエータエレメントを円筒状のシリンダと円筒状のピストンとで区画される空間に収納した高分子アクチュエータを用いたクラッチ装置が提案されている。しかし、導電性高分子チューブの伸縮力をアクチュエータの作動力に効果的に変換することが難しいうえ、部品点数が増加し、構造が複雑であるとう問題がある。
【0004】
特許文献2、3には、ゲル状の電場応答性体積相転移高分子と電解質が封入された弾性容器をシリンダとピストンとの間に収納した高分子アクチュエータを用いたクラッチ装置が提案されている。しかし、このものはゲル状の高分子と電解質を弾性容器に封入しているため、耐久性に欠けるという問題がある。
【0005】
このような従来の問題から、摩擦締結装置への電気的アクチュエータの利用は実用化されていない。電気的アクチュエータには、圧電式(圧電セラミック)と誘電式(高分子アクチュエータ)とがある。圧電式は、押力は大きいが、変位が少なく、誘電式は、変位量が大きいが、押力は小さいという欠点がある。このため、クラッチやブレーキ等の摩擦締結装置に適用するには、圧電式アクチュエータには変位を拡大する機構が要求され、誘電式アクチュエータには倍力機構が要求される。
【0006】
近年、誘電式アクチュエータとして、誘電層を2層の電極層で挟持し、電極間に電圧を印加したときにクーロン力で誘電層が収縮するときの収縮力を利用する高分子アクチュエータが注目されている。この高分子アクチュエータの収縮力を摩擦締結装置のピストンに作用させて摩擦板を押圧する場合、押力を大きくしたいという要求がある。また、摩擦板間のクリアランスが無くなって所謂ゼロタッチになるまでは、さほど押力は必要ないが、ゼロタッチになった後は、摩擦板を締結させるために大きな押力を要する。このように、高分子アクチュエータを利用する場合には、ゼロタッチの前後で押力を変化させたいという要求がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-83466号公報
【文献】特開2005-155871号公報
【文献】特開2011-106564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前述の従来の問題に鑑みてなされたもので、高分子アクチュエータの押力を大きくするとともに、摩擦板のゼロタッチの前後で押力を変化させることができる摩擦締結装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は以下の手段を講じている。
【0010】
請求項1の発明は、第1部材と第2部材の間に設けられ、前記第1部材と前記第2部材に交互に係合する複数の摩擦板と、該摩擦板を軸方向に押圧して前記第1部材と前記第2部材を締結する押圧ピストンとを備えた摩擦締結装置であって、
前記押圧ピストンを押圧するための油圧発生手段を備え、
前記油圧発生手段は、
前記押圧ピストンが作動する押圧ピストン作動室に油圧供給路を介して接続された油圧発生室と、
前記油圧発生室に設けられた油圧発生ピストンと、
前記油圧発生ピストンを押圧する高分子アクチュエータと、
前記高分子アクチュエータを収容し、該高分子アクチュエータの容積変化により油圧を供給する油圧供給室と、
前記油圧供給室と前記油圧供給路を連通する油圧導入路とから構成されている。
【0012】
請求項2の発明は、前記高分子アクチュエータは、ピストン軸を介して前記油圧発生ピストンを押圧するように構成され、前記油圧発生ピストンと前記ピストン軸とは相対移動可能に設けられ、前記高分子アクチュエータの容積変化により低圧の油圧を供給している間は前記油圧発生ピストンが停止して前記ピストン軸が移動し、低圧の油圧の供給を終えると前記油圧発生ピストンと前記ピストン軸が同時に移動するように構成されている。
【0013】
請求項3の発明は、前記油圧供給室に油圧供給ピストンが設けられ、
前記油圧供給ピストンは、前記油圧発生ピストンと連結されて該油圧発生ピストンと連動するように構成され、
前記高分子アクチュエータは、前記油圧供給ピストンと前記油圧供給室の内壁との間に設けられている。
【0014】
請求項4の発明は、前記油圧導入路に、前記油圧供給室から前記油圧供給路への油圧の供給を許容するワンウェイバルブが設けられている。
【0015】
請求項5の発明は、前記ワンウェイバルブと前記油圧供給室の間の前記油圧導入路と前記油圧発生室とを連通する連通路が設けられ、
前記連通路は、前記複数の摩擦板がクリアランスゼロとなるまで前記油圧発生ピストンが移動する間は、前記油圧発生ピストンの加圧側と連通し、前記複数の摩擦板がクリアランスゼロとなったときに、前記油圧ピストンによって塞がれ、前記複数の摩擦板がクリアランスゼロを超えて前記油圧発生ピストンが移動する間は、前記油圧発生ピストンの非加圧側と連通するように構成されている。
【0016】
請求項6,7の発明は、前記高分子アクチュエータの変位により低圧の油圧を供給する低油圧供給室と、該低油圧供給室と前記油圧導入路とを連通する低油圧導入路とをさらに備える。
【0017】
請求項8の発明は、前記低油圧供給室に低油圧供給ピストンが設けられ、
前記低油圧供給ピストンは、前記油圧供給ピストンと前記油圧発生ピストンと連結されて前記油圧供給ピストンと前記油圧発生ピストンと連動するように構成され、
前記高分子アクチュエータは、前記油圧供給ピストンと前記油圧供給室の内壁との間に設けられている。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明によれば、高分子アクチュエータにより油圧発生室の油圧発生ピストンを押圧して油圧発生室に油圧を発生させ、この油圧により押圧ピストン押圧する。このため、従来の油圧ポンプに比べて摩擦締結装置の重量が低減し、駆動抵抗が減少するとともに、油圧発生ピストンより高分子アクチュエータの面積を大きくすることで、押力を増大することができる。
【0019】
また、油圧発生ピストンによる油圧発生室内の容積変化に加えて、高分子アクチュエータの容積変化により油圧を発生させるので、押圧ピストンの移動量と押力を確保することができる。
【0020】
請求項2の発明によれば、低圧の油圧を供給して摩擦板のクリアランス詰めを行っている間、油圧発生ピストンは移動しないので、油圧発生ピストンの非加圧側が負圧にならない。このため、油圧発生ピストンの移動を妨げる方向の力は生じないので、高分子アクチュエータの作動力を小さくすることができる。
【0021】
請求項3の発明によれば、油圧発生ピストンと油圧発生ピストンの連動により、油圧供給ピストンによる油圧供給室内の油圧を、油圧発生ピストンによる油圧発生室の油圧と同じタイミングで油圧供給路に供給することができる。
【0022】
請求項4の発明によれば、油圧発生ピストンによる油圧発生室の油圧が油圧導入路を経て油圧供給室に逆流するのを防止することができる。
【0023】
請求項5の発明によれば、摩擦板のゼロタッチの前後で押力を変化させることができる。また、ワンウェイバルブで閉じられる油圧導入路の圧力上昇を防止することができる。
【0024】
請求項6,7の発明によれば、低油圧供給室の作動油の量で摩擦板のクリアランス詰めを行うための作動油の容量を確保することができ、高分子アクチュエータを小型化することができる。
【0025】
請求項8の発明によれば、1つの高分子アクチュエータにより、低油圧供給ピストンと油圧供給ピストンと油圧発生ピストンと連動させることができるので、装置を小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の摩擦締結装置が適用される自動変速機の概略図である。
【
図2】第1クラッチと第1ブレーキの摩擦締結装置の断面図。
【
図3】摩擦締結装置の油圧発生装置の第1実施形態を示す断面図。
【
図4】高分子アクチュエータの電圧印加前(a)及び電圧印加後(b)を示す断面図。
【
図6】摩擦締結装置の油圧発生装置の開放(a)から作動油充填(b)までの動作を示す断面図。
【
図7】摩擦締結装置の油圧発生装置の締結(a)から開放(b)までの動作を示す断面図。
【
図8】摩擦締結装置の油圧発生装置の油圧発生ピストンの時間的推移と発生力の関係を示す図。
【
図10】
図9の油圧発生装置の開放(a)から作動油充填(b)までの動作を示す断面図。
【
図11】
図9の油圧発生装置の締結(a)から開放(b)までの動作を示す断面図。
【
図12】油圧発生装置の油圧発生ピストンの変形例を示す断面図。
【
図13】油圧発生装置の第3実施形態を示す断面図。
【
図14】油圧発生装置の第4実施形態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を添付図面に従って説明する。
【0028】
<自動変速機の構成>
まず、本発明の摩擦締結装置が用いられる一例の自動変速機の構成を
図1に基づいて説明する。この自動変速機1は、フロントエンジンフロントドライブ車等のエンジン横置き式自動車に適用されるもので、主たる構成要素として、エンジン出力軸2に取り付けられたトルクコンバータ3と、該トルクコンバータ3の出力回転が入力軸4を介して入力される変速機構5とを有し、該変速機構5が入力軸4の軸心上に配置された状態で、変速機ケース6に収納されている。
【0029】
そして、該変速機構5の出力回転が、同じく入力軸4の軸心上において該入力軸4の中間部に配置された出力ギヤ7からカウンタドライブ機構8を介して差動装置9に伝達され、左右の車軸9a、9bが駆動されるようになっている。
【0030】
前記トルクコンバータ3は、エンジン出力軸2に連結されたケース3aと、該ケース3a内に固設されたポンプ3bと、該ポンプ3bに対向配置されて該ポンプ3bにより作動油を介して駆動されるタービン3cと、該ポンプ3bとタービン3cとの間に介設され、かつ、前記変速機ケース6にワンウェイクラッチ3dを介して支持されてトルク増大作用を行うステータ3eと、前記ケース3aとタービン3cとの間に設けられ、該ケース3aを介してエンジン出力軸2とタービン3cとを直結するロックアップクラッチ3fとで構成されている。そして、タービン3cの回転が前記入力軸4を介して変速機構5に伝達されるようになっている。
【0031】
一方、変速機構5は、第1、第2、第3プラネタリギヤセット(以下、単に「第1、第2、第3ギヤセット」という)10、20、30を有し、これらが変速機ケース6内における前記出力ギヤ7の反トルクコンバータ側において、トルクコンバータ側から順に配置されている。
【0032】
また、変速機構5を構成する摩擦要素として、前記出力ギヤ7のトルクコンバータ側に、第1クラッチ40及び第2クラッチ50が配置されていると共に、出力ギヤ7の反トルクコンバータ側には、第1ブレーキ60、第2ブレーキ70及び第3ブレーキ80がトルクコンバータ側から順に配置されており、さらに、第1ブレーキ60に並列にワンウェイクラッチ90が配置されている。
【0033】
前記第1、第2、第3ギヤセット10、20、30は、いずれもシングルピニオン型のプラネタリギヤセットであって、サンギヤ11、21、31と、これらのサンギヤ11、21、31にそれぞれ噛み合った各複数のピニオン12、22、32と、これらのピニオン12、22、32をそれぞれ支持するキャリヤ13、23、33と、ピニオン12、22、32にそれぞれ噛み合ったリングギヤ14、24、34とで構成されている。
【0034】
そして、前記入力軸4が第3ギヤセット30のサンギヤ31に連結されていると共に、第1ギヤセット10のサンギヤ11と第2ギヤセット20のサンギヤ21、第1ギヤセット10のリングギヤ14と第2ギヤセット20のキャリヤ23、第2ギヤセット20のリングギヤ24と第3ギヤセット30のキャリヤ33が、それぞれ連結されている。そして、第1ギヤセット10のキャリヤ13に前記出力ギヤ7が連結されている。
【0035】
また、第1ギヤセット10のサンギヤ11及び第2ギヤセット20のサンギヤ21は、前記第1クラッチ40を介して入力軸4に断接可能に連結されており、第2ギヤセット20のキャリヤ23は、前記第2クラッチ50を介して入力軸4に断接可能に連結されている。
【0036】
さらに、第1ギヤセット10のリングギヤ14及び第2ギヤセット20のキャリヤ23は、並列に配置された前記第1ブレーキ60及びワンウェイクラッチ90を介して変速機ケース6に断接可能に連結されており、第2ギヤセット20のリングギヤ24及び第3ギヤセット30のキャリヤ33は、前記第2ブレーキ70を介して変速機ケース6に断接可能に連結されており、さらに、第3ギヤセット30のリングギヤ34は、前記第3ブレーキ80を介して変速機ケース6に断接可能に連結されている。
【0037】
以上の構成により、この変速機構5によれば、第1、第2クラッチ40、50及び第1、第2、第3ブレーキ60、70、80の締結状態の組み合わせにより、前進6速と後退速とが得られるようになっている。なお、第1ブレーキ60はエンジンブレーキを作動させる1速でのみ締結され、エンジンブレーキを作動させない1速では、ワンウェイクラッチ90がロックすることにより1速を形成する。
【0038】
<摩擦締結装置の構成>
続いて、前記自動変速機1の第1クラッチ40、第2クラッチ50、第1ブレーキ60、第2ブレーキ70、第3ブレーキ80に適用される摩擦締結装置100の実施形態について説明する。第1クラッチ40、第2クラッチ50は基本的に同じ構造であり、第1ブレーキ60、第2ブレーキ70、第3ブレーキ80も基本的に同じ構造であるため、第1クラッチ40と第1ブレーキ60の構造と、これらに適用される摩擦締結装置100を
図2に基づいて説明する。
【0039】
第1クラッチ40は、本発明の第1部材であるドラム41と、本発明の第2部材であるハブ42とを有する。ドラム41は、入力軸4に連結された軸部41aと、径方向に延びるプレート部41bとを有し、該入力軸4と一体に回転する。ハブ42は、ドラム41より小径で、ドラム41の内側に該ドラム41と同心に配置されている。ハブ42は、第1ギヤセット10、第2ギヤセット20のサンギヤ11、21に連結された軸部42aを有し、サンギヤ11、21と一体に回転する。
【0040】
ドラム41とハブ42の間には、摩擦締結装置100が設けられている。摩擦締結装置100は、複数の摩擦板101a、101bと、該摩擦板101a、101bを押圧する押圧ピストン102と、押圧ピストン作動室103と、油圧発生装置104とで構成されている。
【0041】
複数の摩擦板101a、101bのうち、ドラム41の内側に配設された複数の摩擦板101aは、ドラム41にスプライン結合されて軸方向に移動可能に、且つドラム41と一体に回転可能に配置されている。ハブ42の外側に配設された複数の摩擦板101bは、ハブ42にスプライン結合されて軸方向に移動可能に、且つハブ42と一体に回転可能に配置されている。ドラム41の摩擦板101aとハブ42の摩擦板101bは、交互に配置され、互いに対向している。複数の摩擦板101a、101bは、軸方向の一側で、スナップリング101cによりドラム41に軸方向の移動が拘束されたリテーナ101dと対向し、軸方向の他側で押圧ピストン102と対向している。
【0042】
押圧ピストン102は、軸方向に移動可能に設けられ、反締結方向に図示しないリターンスプリングにより付勢され、先端で摩擦板101a、101bを押圧するようになっている。
【0043】
押圧ピストン作動室103は、押圧ピストン102とドラム41のプレート部41bとの間に形成されている。
【0044】
油圧発生装置104については、後に詳細に説明する。
【0045】
第1ブレーキ60は、本発明の第1部材であるドラム61が変速機ケース6と一体で回転しないこと、本発明の第2部材であるハブ62が第1ギヤセット10のリングギヤ14であること、押圧ピストン作動室103が押圧ピストン102と変速機ケース6との間に形成されていることを除いて、前述した第1クラッチ40と同様の構成を有しているので、対応する部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0046】
<油圧発生装置の第1実施形態>
図3は、第1クラッチ40、第1ブレーキ60の油圧発生装置104を示す。油圧発生装置104は、油圧シリンダ105と、油圧発生ピストン106と、油圧供給ピストン107と、高分子アクチュエータ108と、制御装置109とからなっている。
【0047】
油圧シリンダ105は、内部に油圧発生室110を形成する円筒状の第1シリンダ105aと、内部に油圧供給室111を形成する円筒状の第2シリンダ105bとからなる。第2シリンダ105bは第1シリンダ105aより径が大きく、中間壁105cを介して第1シリンダ105aに連続している。中間壁105cの内面には、固定板112が固定されている。固定板112の中心には貫通穴112aが形成されている。
【0048】
油圧発生ピストン106は、第1シリンダ105aの油圧発生室110に収容されている。油圧発生ピストン106の外周面には、第1シリンダ105aの内壁面との間を封止するシール106aが設けられている。
【0049】
油圧供給ピストン107は、第2シリンダ105bの油圧供給室111に収容されている。油圧供給ピストン107の外周面には、第2シリンダ105bの内壁面との間を封止するシール107aが設けられている。油圧発生ピストン106と油圧供給ピストン107は、固定板112の貫通穴112aを貫通して中心軸上に設けられたピストン軸113により連結されている。
【0050】
高分子アクチュエータ108は、第2シリンダ105bの油圧供給ピストン107と、中間壁105cの固定板112との間に配設されている。高分子アクチュエータ108は、ピストン軸113を囲むような円環状を有し、外径は第2シリンダ105bの内径より小さく、内径はピストン軸113の外径より大きい。高分子アクチュエータ108は、周方向に複数個に分割されたものでもよい。
【0051】
第1シリンダ105aの油圧発生室110の加圧側は、油圧供給路114を介して
図2に示す押圧ピストン作動室103に連通している。油圧発生室110の非加圧側は、固定板112の貫通穴112aを介して、第2シリンダ105bの油圧供給室111の加圧側に連通している。第2シリンダ105bの油圧供給室111の加圧側は、油圧導入路115を介して油圧供給路114に接続されている。第2シリンダ105bの油圧供給室111の非加圧側は、通気口116を介して大気に解放されている。油圧導入路115には、油圧供給室111から油圧供給路114への油圧の導入を許容するワンウェイバルブ117が配設されている。ワンウェイバルブ117と油圧供給室111の間の油圧導入路115と、油圧発生室110との間には、両者を連通する連通路118が設けられている。
【0052】
油圧シリンダ105の内部のうち、第1シリンダ105aの油圧発生ピストン106の加圧側及び非加圧側、及び第2シリンダ105bの油圧供給ピストン107の加圧側に、作動油が収容されている。第2シリンダの105bの容積のうち、高分子アクチュエータ108の容積を除く容積(以下、「隙間容積」という。)は、第1シリンダ105aの容積より大きく形成されている。このため、第1シリンダ105aの油圧発生ピストン106が加圧側に移動している間、第2シリンダ105bから油圧発生ピストン106の非加圧側に作動油が流入するが、この作動油の流入量を隙間容積から差し引いた量の作動油が油圧導入路115を介して供給される。
【0053】
高分子アクチュエータ108は、
図4に示すように、第1電極板121と、第2電極板122と、第1電極板121と第2電極板122の間に挟持された高分子部材123とが積層されて構成されている。
【0054】
高分子アクチュエータ108の第1電極板121は固定板112に電気的に絶縁された状態で結合され、固定板112に設けた第1接点119とのみ電気的に接続されている。同様に、高分子アクチュエータ108の第2電極板122は、電気的に絶縁された状態で油圧供給ピストン107に結合されているが、固定板112に設けた第2接点120とのみ電気的に接続されている。
【0055】
高分子部材123は、高い誘電率と弾性を有するアクリル、シリコン等のエラストマー123aと中間電極123bとを軸方向に積層したものである。対向する中間電極123bの一方は第1電極板121に接続され、他方は第2電極板122に接続されている。第1電極板121と第2電極板122の間に電圧を印加すると、
図4(a)の状態から、
図4(b)に示すように厚み方向に収縮するとともに面方向に伸長し、電圧を解放すると、固有の弾性により
図4(a)の状態に復帰する。
【0056】
図3に戻ると、高分子アクチュエータ108の第1電極板121は、第1接点119から固定板112を経て、制御装置109に接続され、同様に、高分子アクチュエータ108の第2電極板122は、第2接点120から、固定板112を経て、制御装置109に接続されている。
【0057】
図5は、油圧発生装置104の制御装置109を示す。高分子アクチュエータ108の第1電極板121は、電源124の電圧を昇圧するDC/DCコンバータ125の第1出力端子125aに第1スイッチ126を介して接続されるとともに、第2スイッチ127及び電圧低下用抵抗128を介して接地されている。高分子アクチュエータ108の第2電極板122は、DC/DCコンバータ125の第2出力端子125bに接続されるとともに、接地されている。
【0058】
<摩擦締結装置の動作>
次に、第1クラッチ40の摩擦締結装置の動作について説明する。
【0059】
図2を参照すると、第1クラッチ40の非締結時には、ドラム41及びその摩擦板101a、押圧ピストン102は、入力軸4とともに回転し、ハブ42及びその摩擦板101bは停止している。押圧ピストン102は、図示しないリターンスプリングにより反摩擦板側に付勢されている。一方、
図6(a)に示すように、油圧発生装置104の油圧発生ピストン106と油圧供給ピストン107は、高分子アクチュエータ108により、非加圧側端(図において上端)に移動している。
【0060】
第1クラッチ40の締結指令により第1スイッチ126がオンすると、電源124の電圧が高分子アクチュエータ108に印加される。これにより、
図6(a)に示すように、高分子アクチュエータ108が軸方向に収縮し、径方向に拡張する。
【0061】
図6(b)に示すように、高分子アクチュエータ108が収縮すると、油圧発生ピストン106と油圧供給ピストン107が連動して移動する。油圧発生ピストン106の移動により、油圧発生室110の加圧側の容積が減少し、内部の作動油が油圧供給路114を介して押圧ピストン作動室103に充填される。これと同時に、油圧供給ピストン107の移動と高分子アクチュエータ108の径方向の拡張とにより、油圧供給室111の加圧側の容積が減少し、内部の作動油が油圧導入路115を介して油圧供給路114に導入される。
【0062】
油圧供給路114を介して
図2に示す押圧ピストン作動室103に作動油が充填されると、押圧ピストン102が摩擦板側に向かって移動し、ドラム41の摩擦板101a及びハブ42の摩擦板101bを押圧する。これにより、摩擦板101a、101bが移動し、摩擦板101a、101b間のクリアランスが詰められてゆく。
【0063】
図6(b)に示すように、油圧発生ピストン106と油圧供給ピストン107の移動により油圧発生ピストン106のシール106aが連通路118を塞いだ時点で、押圧ピストン作動室103への作動油の充填が完了し、摩擦板101a、101bはゼロタッチとなる。
【0064】
図7(a)に示すように、油圧発生ピストン106と油圧供給ピストン107がさらに移動し、油圧発生ピストン106のシール106aが連通路118を超えると、油圧発生ピストン106の非加圧側の負圧により、連通路118を介して油圧導入路115内の作動油が油圧発生ピストン106に非加圧側に流入するので、ワンウェイバルブ117が閉じ、連通路118が閉じる。この結果、油圧発生ピストン106がさらに移動することにより、押圧ピストン作動室103の油圧が上昇する。一方、ワンウェイバルブ117が閉じ、連通路118が閉じているので、油圧供給室111内の油圧上昇が防止される。
【0065】
図2に示す押圧ピストン作動室103の油圧が上昇することにより、押圧ピストン102がさらに摩擦板101a、101bを押圧するので、第1クラッチ40が締結され、ハブ42及びその摩擦板101bは、ドラム41及びその摩擦板101aとともに回転し、ドラム41の回転力がハブ42を介して第1、第2ギヤセット10、20のサンギヤ11、21に伝達される。
【0066】
第1クラッチ40の解放指令により第1スイッチ126がオフすると、高分子アクチュエータ108への電圧の印加が解消され、
図7(b)に示すように、高分子アクチュエータ108の高分子部材123が固有の弾性により復帰する。押圧ピストン作動室103内の作動油は、油圧供給路114を介して油圧発生室110に戻るとともに、連通路118及び油圧導入路115を介して油圧供給室111に戻る。この結果、押圧ピストン102が図示しないリターンスプリングの付勢力により反摩擦板側に向かって移動し、
図2の状態に復帰する。これにより、ドラム41の摩擦板101a及びハブ42の摩擦板101bの押圧が無くなるので、第1クラッチ40が解放され、ハブ42及びその摩擦板101bは、ドラム41及びその摩擦板101aとの回転同期から開放され、ドラム41からハブ42への回転力が遮断される。
【0067】
制御装置109の第1スイッチ126をオフしても、高分子アクチュエータ108には電荷が残っており、摩擦締結装置100の作動状態が保持されることがある。そこで、制御装置109の第1スイッチ126をオフしたときに第2スイッチ127をオンすることで、高分子アクチュエータ108に残った電荷をグランドに落として、摩擦締結装置100の作動状態を開放することができる。
【0068】
一方、第1ブレーキ60の摩擦締結装置100の動作は、第1ブレーキ60の締結により、ハブ62及びその摩擦板101bはその回転を停止し、第1ブレーキ60の解放により、ハブ62及びその摩擦板101bはその回転を再開する以外は、第1クラッチ40の摩擦締結装置100の動作と同様であるので、説明を省略する。
【0069】
図8は、摩擦締結装置100の油圧発生ピストン106の移動変位に基づく発生力と時間との関係を示す。a点で第1スイッチ126をオンしてからb点までのクリアランス領域は、摩擦板101a、101bのクリアランスを詰めている間であり、発生力は小さくてよい。クリアランス領域では、高分子アクチュエータ108の押圧力に基づく油圧発生ピストン106と油圧供給ピストン107の移動による油圧シリンダ105の容積変化と、高分子アクチュエータ108の径方向の拡張に基づく高分子アクチュエータ108と第2シリンダ105bの間の隙間容積の変化を利用する。b点において、摩擦板101a、101bのクリアランスが無くなりゼロタッチになると、油圧発生ピストン106の移動により油圧を上昇させて発生力を増大させ、c点で締結を完了する。c点で第1スイッチ126をオフしても、高分子アクチュエータ108に電荷が残っているので、締結状態は保持される。d点で第2スイッチ127をオンすると、高分子アクチュエータ108の電荷がグランドに落とされるので、e点まで発生力が減少してゆき、f点に至ると摩擦板101a、101bのクリアランスが元に戻る。したがって、第1スイッチ126をオフした後、第2スイッチ127をオンするタイミングを変更することで、摩擦締結装置100の締結状態を制御することができる。
【0070】
前記実施形態による摩擦締結装置100では、高分子アクチュエータ108により油圧発生室110の油圧発生ピストン106を押圧して油圧発生室110に油圧を発生させ、この油圧により押圧ピストン102を押圧する。このため、従来の油圧ポンプに比べて摩擦締結装置100の重量が低減し、駆動抵抗が減少する。また、油圧発生ピストン106より高分子アクチュエータ108の面積を大きくすればするほど、押力を増大することができる。
【0071】
また、油圧発生ピストン106による油圧発生室110内の容積変化に加えて、高分子アクチュエータ108の容積変化により油圧を発生させるので、押圧ピストン102の移動量と押力を確保することができる。
【0072】
さらに、油圧発生ピストン106と油圧供給ピストン107の連動により、油圧供給ピストン107による油圧供給室111内の油圧を、油圧発生ピストン106による油圧発生室110の油圧と同じタイミングで油圧供給路114に供給することができる。
【0073】
以上説明した摩擦締結装置100の油圧発生装置104は、小型で軽量の高分子アクチュエータとシリンダからなるので、従来のオイルポンプを用いた油圧発生装置と比べて1個当たりの重量が小さく、またクラッチ又はブレーキ1個当たりの重量も小さいので、油圧系全重量を軽量化することができる。
【0074】
次に本発明の他の実施形態について説明するが、特記以外は前記第1実施形態の油圧発生装置104と同一又は実質的に同一の構成と作用を有するので、対応する部分には同一符号を附して説明を省略する。
【0075】
<油圧発生装置の第2実施形態>
図9の油圧発生装置200は、内部に低油圧供給室201を形成する円筒状の第3シリンダ105dを有している。第3シリンダ105dは、第1シリンダ105aと第2シリンダ105bの間に設けられ、第2シリンダ105bより大きい径を有している。第1シリンダ105a、第2シリンダ105b、第3シリンダ105dの径をそれぞれ、D1,D2,D3とすると、D3>D2>D1の関係がある。第3シリンダ105dの容量は、第2シリンダの前記隙間容積と合わせて、摩擦板101a、101bのクリアランス詰めに必要な容量以上あればよい。第3シリンダ105dと第1シリンダ105aとの間に第1中間壁105eが設けられ、第3シリンダ105dと第2シリンダ105bとの間に第2中間壁105fが設けられている。
【0076】
第3シリンダ105dの低油圧供給室201には、低油圧供給ピストン202が収容されている。低油圧供給ピストン202の外周面には、第3シリンダ105dの内壁面との間を封止するシール202aが設けられている。低油圧供給ピストン202は、第1中間壁105eを貫通する第1ピストン軸113aにより油圧発生ピストン106と連結されるとともに、第2中間壁105fを貫通し第1ピストン軸113aと同軸の第2ピストン軸113bにより油圧供給ピストン107と連結されている。
【0077】
第1ピストン軸113aは、第1軸封部材203aにより第1中間壁105eに対して摺動可能に封止され、第2ピストン軸113bは、第2軸封部材203bにより第2中間壁105fに対して摺動可能に封止されている。第3シリンダ105dの低油圧供給ピストン202の加圧側は、低油圧導入路204を介して、ワンウェイバルブ117と油圧供給室111の間の油圧導入路115に連通し、低油圧供給ピストン202の非加圧側は、通気口205を介して図示しないオイルパンの油中又は大気に解放されている。
【0078】
第3シリンダ105dの低油圧供給ピストン202の加圧側には、第1シリンダ105aと第2シリンダ105bと同様に、作動油が収容されている。第1シリンダ105aの油圧発生ピストン106と、第2シリンダ105bの油圧供給ピストン107と、第3シリンダ105dの低油圧供給ピストン202が加圧側に移動している間、第2シリンダ105bの前記隙間容積に第3シリンダ105dの加圧側の容積を加えた大容量の作動油が油圧導入路115を介して供給される。
【0079】
なお、第3シリンダ105dの通気口205を設けずに、第3シリンダ105dの低油圧供給ピストン202の非加圧側と第2シリンダ105bの油圧供給ピストン107の加圧側を連通させてもよい。この場合、第1シリンダ105aの油圧発生ピストン106が加圧側に移動している間、第2シリンダ105bから第3シリンダ105dの低油圧供給ピストン202の非加圧側に作動油が流入するが、この作動油の流入量を隙間容積から差し引いた量の作動油が第2シリンダ105bから油圧導入路115を介して供給される。
【0080】
【0081】
図10(a)に示すように、高分子アクチュエータ108が電圧の印加により収縮すると、油圧発生ピストン106、低油圧供給ピストン202、及び油圧供給ピストン107が連動して移動する。油圧発生ピストン106の移動により、油圧発生室110の加圧側の容積が減少し、内部の作動油が油圧供給路114を介して押圧ピストン作動室103に充填される。これと同時に、油圧供給ピストン107の移動と高分子アクチュエータ108の径方向の拡張とにより、油圧供給室111の加圧側の容積が減少し、内部の作動油が油圧導入路115を介して油圧供給路114に導入される。また、低油圧供給ピストン202の移動により、低油圧供給室201の加圧側の容積が減少し、内部の作動油が低油圧導入路204を介して油圧導入路115に流入し、油圧供給室111の作動油とともに、油圧導入路115を介して油圧供給路114に導入される。これにより、摩擦板101a、101bが移動し、摩擦板101a、101b間のクリアランスが詰められてゆく。
【0082】
図10(b)に示すように、油圧発生ピストン106、油圧供給ピストン107、及び低油圧供給ピストン202の移動により油圧発生ピストン106のシール106aが連通路118を塞いだ時点で、押圧ピストン作動室103への作動油の充填が完了し、摩擦板101a、101bはゼロタッチとなる。
【0083】
図11(a)に示すように、油圧発生ピストン106、油圧供給ピストン107、及び低油圧供給ピストン202がさらに移動し、油圧発生ピストン106のシール106aが連通路118を超えると、油圧発生ピストン106の非加圧側の負圧により、連通路118を介して油圧導入路115内の作動油が油圧発生ピストン106に非加圧側に流入するので、ワンウェイバルブ117が閉じ、連通路118が閉じる。この結果、油圧発生ピストン106がさらに移動することにより、押圧ピストン作動室103の油圧が上昇する。一方、ワンウェイバルブ117が閉じ、連通路118が閉じているので、油圧供給室111内の油圧上昇が防止される。
【0084】
押圧ピストン作動室103の油圧が上昇することにより、押圧ピストン102がさらに摩擦板101a、101bを押圧するので、第1クラッチ40が締結される。
【0085】
高分子アクチュエータ108への電圧の印加が解消されると、
図11(b)に示すように、高分子アクチュエータ108が固有の弾性により復帰する。押圧ピストン作動室103内の作動油は、油圧供給路114を介して油圧発生室110に戻るとともに、連通路118、低油圧導入204、及び油圧導入路115を介して低油圧供給室201と油圧供給室111に戻る。
【0086】
この結果、押圧ピストン102が図示しないリターンスプリングの付勢力により反摩擦板側に向かって移動し、ドラム41の摩擦板101a及びハブ42の摩擦板101bの押圧が無くなるので、第1クラッチ40が解放される。
【0087】
前記第2実施形態では、低油圧供給室201を設けたので、油圧供給室111からの作動油の容量に低油圧供給室201の作動用の容量を付加した大容量の作動油を供給し、摩擦板101a,101bのクリアランスを迅速に詰めてゼロタッチにすることができる。
【0088】
また、摩擦板101a、101bのクリアランス詰めに必要な容量の大部分を第3シリンダ105dで確保するようにすれば、第2シリンダ105bと高分子アクチュエータ108の大きさを小さくすることができ、油圧発生装置200の小型化と軽量化を図ることができる。
【0089】
<第1シリンダにおける油圧発生ピストンの変形例>
図12は、前記第1実施形態及び前記第2実施形態における油圧発生室110の油圧発生ピストン106の変形例である。この油圧発生ピストン106には、ピストン軸113が相対移動可能に設けられている。すなわち、油圧発生ピストン106には、ピストン軸113の一端に形成された小径の摺動部206が軸封部材207を介して摺動可能に貫通する中心孔208が設けられている。また、油圧発生ピストン106の加圧側には、油圧発生ピストン106を非加圧側に付勢する復帰ばね209が収容されている。油圧発生ピストン106の非加圧側には、油圧発生室110の中間壁105cに当接する肩部210が油圧発生ピストン106と一体に設けられ、これにより油圧発生ピストン106とピストン軸113の一端との間にピストン軸113の移動を許容する隙間寸法sが確保されている。
【0090】
この変形例の油圧発生ピストン106の動作を説明すると、電圧の印加による高分子アクチュエータ108(
図3、
図9参照)の容積変化により低圧の油圧を供給して摩擦板101a、101bのクリアランス詰を行っている間は、
図12(a)から
図12(b)に示すように、油圧発生ピストン106が停止してピストン軸113のみが移動する。低圧の油圧の供給を終えると、
図12(c)に示すように、復帰ばね209の付勢力に抗して油圧発生ピストン106とピストン軸113が同時に移動する。これにより、高圧の油圧が油圧供給路114を介して供給される。電圧の印加の解消により高分子アクチュエータ108が復帰すると、ピストン軸113と油圧発生ピストン106が復帰ばね209の付勢力により復帰し、作動油が油圧発生室110内に戻る。
【0091】
このように、低圧の油圧を供給して摩擦板101a、101bのクリアランス詰めを行っている間、油圧発生ピストン106は移動しないので、油圧発生ピストン106の非加圧側が負圧にならない。このため、油圧発生ピストン106の移動を妨げる方向の力は生じないので、高分子アクチュエータ108の作動力を小さくすることができる。
【0092】
<油圧発生装置の第3実施形態>
図13に示す油圧発生装置300は、前記第1実施形態の油圧発生装置104のワンウェイバルブ117及び連通路118を無くし、第1シリンダ105aと第2シリンダ105bを同径にして構造を単純化し、制御装置301による高分子アクチュエータ108の電圧制御により、摩擦板101a、101bのクリアランス詰めと押圧力発生の両方を油圧発生ピストン106と油圧供給ピストン107の2つのピストンで行うものである。
【0093】
具体的には、
図13の油圧発生装置300は、制御装置301により、高分子アクチュエータ108に印加される電圧が制御される。すなわち、摩擦板101a、101bのクリアランス詰めを行う間は、電圧を時間に比例して所定の第1電圧まで立ち上げ、クリアランス詰めが完了すると、第1電圧より高い第2電圧を印加して、摩擦板101a、101bに対する押圧力を発生させる。
【0094】
なお、第3実施形態の油圧発生装置300において、ピストン軸113を中間壁105cに対して軸封し、
図2の構造を採用することができる。この場合、高分子アクチュエータ108の外側と内側が連通するように油圧供給ピストン107に溝302を設けて、高分子アクチュエータ108の内側の作動油を当該溝302を介して高分子アクチュエータ108の外側に逃がすことが好ましい。
【0095】
<油圧発生装置の第4実施形態>
図14に示す油圧発生装置400は、前記第3実施形態の油圧発生装置300の油圧導入路115と油圧供給ピストン107を無くして、構造をさらに単純化したものである。すなわち、油圧発生装置400の高分子アクチュエータ108は前記第3実施形態のような油圧供給室111ではなく、油圧シリンダ105と一体に設けられたケーシング401のアクチュエータ収容室402に収容されている。アクチュエータ収容室402は油圧発生室110と中間壁401aを隔てて対向している。高分子アクチュエータ108の第2電極板122は、前記第3実施形態における油圧供給ピストン107の代わりに、可動板403に電気的に絶縁された状態で結合され、可動板403はピストン軸113を介して油圧発生ピストン106に連結されている。油圧発生ピストン106の非加圧側は、通気口404を介してオイルポンプの油中又は大気に解放されている。アクチュエータ収容室402は、通気口405を介して大気に解放されている。ピストン軸113は、中間壁401aに対して軸封部材406を介して摺動可能に封止されている。
【0096】
図14の油圧発生装置400は、制御装置407により、第3実施形態と同様に、高分子アクチュエータ108に印加される電圧が制御される。
【0097】
本発明は前記実施形態に限るものではなく、種々変更することができる。例えば、前記実施形態では第1シリンダ105aと第2シリンダ105bは一体であるが、別箇に構成してもよい。また、高分子アクチュエータ108は周方向に複数に分割してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0098】
以上のように、本発明に係る摩擦締結装置は、自動車の変速機のクラッチ、ブレーキに
好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0099】
1 自動変速装置
40 第1クラッチ
41 ドラム(第1部材)
42 ハブ(第2部材)
50 第2クラッチ
60 第1ブレーキ
61 ドラム(第1部材)
62 ハブ(第2部材)
70 第2ブレーキ
80 第3ブレーキ
100 摩擦締結装置
101a 摩擦板
101b 摩擦板
102 押圧ピストン
103 押圧ピストン作動室
104 油圧発生装置
105 油圧シリンダ
106 油圧発生ピストン
107 油圧供給ピストン
108 高分子アクチュエータ
109 制御装置
110 油圧発生室
111 油圧供給室
112 固定板
113 ピストン軸
114 油圧供給路
115 油圧導入路
116 通気口
117 ワンウェイバルブ
118 連通路
126 第1スイッチ
127 第2スイッチ
200 油圧発生装置
201 低油圧供給室
202 低油圧供給ピストン
204 低油圧導入路
205 通気口
206 摺動部
209 復帰ばね
210 肩部
300 油圧発生装置
301 制御装置
400 油圧発生装置
401 ケーシング
402 アクチュエータ収容室
403 可動板
404 通気口
405 通気口
407 制御装置