(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】電磁弁
(51)【国際特許分類】
F16K 31/06 20060101AFI20231114BHJP
【FI】
F16K31/06 305A
F16K31/06 305D
(21)【出願番号】P 2019104474
(22)【出願日】2019-06-04
【審査請求日】2022-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】藤田 かおり
(72)【発明者】
【氏名】森田 徹平
(72)【発明者】
【氏名】上垣内 俊吾
【審査官】笹岡 友陽
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-038910(JP,A)
【文献】特開2005-251915(JP,A)
【文献】特開2019-065929(JP,A)
【文献】特開2014-066178(JP,A)
【文献】特開2016-009793(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/06-31/11
H01F 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のポートが形成された筒状のスリーブ、及び前記スリーブに形成された弁孔内で軸方向に移動することにより前記複数のポート間における流体の流路面積を変化させるスプールを有するバルブ部と、
前記スプールを前記弁孔内で軸方向に移動させるソレノイド部とを備え、
前記ソレノイド部は、コイル巻線を樹脂により保持してなる円筒状のコイル部を有する電磁コイルユニットと、前記電磁コイルユニットの磁力によって前記スプールと共に移動するプランジャと、前記コイル部及び前記プランジャを収容するソレノイドハウジングとを備え、
前記ソレノイドハウジングは、前記コイル部の内周面と前記プランジャの外周面との間に配置された軟磁性体からなる円筒状の円筒部と、前記円筒部との間に空間を挟んで前記円筒部と軸方向に並んで配置された軟磁性体からなる環状部とを有し、
前記円筒部は、その外周面のうち前記コイル部の内周面に向かい合う部位に環状溝が形成されており、
前記環状溝に、前記空間から前記円筒部と前記コイル部との隙間に流入した流体の軸方向への流れを遮る軸方向シール部材が収容されて
おり、
前記ソレノイドハウジングは、前記コイル部の軸方向両端部のうち前記スリーブ側の一端部及び前記スリーブとは反対側の他端部をそれぞれ覆う第1及び第2の覆い部を有し、
前記コイル部の前記一端部と前記第1の覆い部との間に、前記空間から前記コイル部と前記第1の覆い部との隙間に流入した流体の径方向外方への流れを遮る径方向シール部材が収容されており、
前記ソレノイドハウジングは、前記円筒部を有する第1部材と、前記環状部及び前記第1の覆い部を一体に有する第2部材と、前記コイル部の外周を覆うカバー部を前記第2の覆い部と一体に有する第3部材とを組わせてなり、
前記第1部材と前記第3部材との間からの流体の漏出が前記軸方向シール部材によって抑止され、前記第2部材と前記第3部材との間からの流体の漏出が前記径方向シール部材によって抑止されており、
前記第2の覆い部は、中心部に空洞が形成された環状であり、
前記第1部材は、前記スリーブとは反対側の端部が前記第2の覆い部の内側に配置され、当該端部の外径が前記第2の覆い部の内径よりも小さく形成されており、
前記プランジャが前記スリーブから軸方向に最も離間したとき、前記環状溝よりも前記第2の覆い部側で前記プランジャの外周面が前記円筒部の内周面と向かい合う対向面積が、前記第1部材の前記端部の外周面が前記第2の覆い部の内周面と向かい合う対向面積よりも大きい、
電磁弁。
【請求項2】
前記プランジャが前記スリーブから軸方向に最も離間したとき、前記環状溝よりも前記スリーブとは反対側で前記プランジャの外周面が前記円筒部の内周面と向かい合う軸方向長さが、第1及び第2の覆い部における軸方向の厚みが最も薄い部分の厚みよりも長い、
請求項1に記載の電磁弁。
【請求項3】
前記第1部材と前記第2部材とが、前記コイル部の内側に配置された円筒状の非磁性体からなる連結部材によって連結され、
前記連結部材の一端部に前記第1部材の前記円筒部の一部が圧入されると共に、前記連結部材の他端部に前記環状部を含む前記第2部材の一部が圧入されており、
前記第1部材の前記円筒部は、前記環状溝よりも前記第2部材側の一部が前記連結部材に圧入されている、
請求項
1又は
2に記載の電磁弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のポートが形成された筒状のスリーブと、スリーブに形成された弁孔内で軸方向に移動することにより複数のポート間における流体の流路面積を変化させるスプールと、スプールを弁孔内で軸方向に移動させるソレノイド部とを備えた電磁弁が、例えば自動車のトランスミッションの油圧アクチュエータ等を制御するために用いられている。
【0003】
特許文献1に記載の電磁弁(ソレノイドバルブ)は、バルブスリーブの内部にスプール部が往復動自在に備えられたバルブ部と、スプール部を軸方向に移動させるソレノイド部とを備えている。ソレノイド部は、ボビンに巻かれた巻線からなるコイルと、コイルに給電を行う端子をインサートモールドしたコネクタ部材と、磁性材からなるセンターポストと、コイルへの通電によってセンターポストに磁気的に吸引される磁性材からなるプランジャ部と、プランジャ部をガイドするシリンダと、一対のシール部材と、これらを収容するケースとを備えている。コネクタ部材は、コイルと軸方向に並び、ケースからバルブ部とは反対側に突出している。一対のシール部材のうち一方のシール部材は、コイルのバルブ部側にコイルと軸方向に並んで配置され、他方のシール部材はコネクタ部材の内側に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された電磁弁は、一対のシール部材がコイルの軸方向の一方側及び他方側にそれぞれ配置されているので、ソレノイド部が軸方向に長くなってしまう。このため、特に自動車のトランスミッションに用いられる電磁弁の場合には他の部材との干渉が発生しやすく、搭載上の問題が発生しやすい。また、ソレノイド部の軸方向長さを短くするために何れかのシール部材の配置を変更する場合には、その配置位置によってはコイルへの通電によって発生する磁束の磁路における磁気抵抗が大きくなってしまう。
【0006】
そこで、本発明の目的は、シール部材を配置することによるソレノイド部の軸方向長さの増大を抑制することが可能な電磁弁を提供することにある。また、本発明のさらなる目的は、シール部材を配置することによるソレノイド部における磁路の磁気抵抗の増大を抑制することが可能な電磁弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の目的を達成するため、複数のポートが形成された筒状のスリーブ、及び前記スリーブに形成された弁孔内で軸方向に移動することにより前記複数のポート間における流体の流路面積を変化させるスプールを有するバルブ部と、前記スプールを前記弁孔内で軸方向に移動させるソレノイド部とを備え、前記ソレノイド部は、コイル巻線を樹脂により保持してなる円筒状のコイル部を有する電磁コイルユニットと、前記電磁コイルユニットの磁力によって前記スプールと共に移動するプランジャと、前記コイル部及び前記プランジャを収容するソレノイドハウジングとを備え、前記ソレノイドハウジングは、前記コイル部の内周面と前記プランジャの外周面との間に配置された軟磁性体からなる円筒状の円筒部と、前記円筒部との間に空間を挟んで前記円筒部と軸方向に並んで配置された軟磁性体からなる環状部とを有し、前記円筒部は、その外周面のうち前記コイル部の内周面に向かい合う部位に環状溝が形成されており、前記環状溝に、前記空間から前記円筒部と前記コイル部との隙間に流入した流体の軸方向への流れを遮る軸方向シール部材が収容されており、前記ソレノイドハウジングは、前記コイル部の軸方向両端部のうち前記スリーブ側の一端部及び前記スリーブとは反対側の他端部をそれぞれ覆う第1及び第2の覆い部を有し、前記コイル部の前記一端部と前記第1の覆い部との間に、前記空間から前記コイル部と前記第1の覆い部との隙間に流入した流体の径方向外方への流れを遮る径方向シール部材が収容されており、前記ソレノイドハウジングは、前記円筒部を有する第1部材と、前記環状部及び前記第1の覆い部を一体に有する第2部材と、前記コイル部の外周を覆うカバー部を前記第2の覆い部と一体に有する第3部材とを組わせてなり、前記第1部材と前記第3部材との間からの流体の漏出が前記軸方向シール部材によって抑止され、前記第2部材と前記第3部材との間からの流体の漏出が前記径方向シール部材によって抑止されており、前記第2の覆い部は、中心部に空洞が形成された環状であり、前記第1部材は、前記スリーブとは反対側の端部が前記第2の覆い部の内側に配置され、当該端部の外径が前記第2の覆い部の内径よりも小さく形成されており、前記プランジャが前記スリーブから軸方向に最も離間したとき、前記環状溝よりも前記第2の覆い部側で前記プランジャの外周面が前記円筒部の内周面と向かい合う対向面積が、前記第1部材の前記端部の外周面が前記第2の覆い部の内周面と向かい合う対向面積よりも大きい、電磁弁を提供する。
【0008】
また、本発明は、上記の電磁弁において、前記プランジャが前記スリーブから軸方向に最も離間したとき、前記環状溝よりも前記スリーブとは反対側で前記プランジャの外周面が前記円筒部の内周面と向かい合う軸方向長さが、第1及び第2の覆い部における軸方向の厚みが最も薄い部分の厚みよりも長い、電磁弁を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る電磁弁によれば、シール部材を配置することによるソレノイド部の軸方向長さの増大を抑制することが可能となる。また、本発明に係る電磁弁によれば、シール部材を配置することによるソレノイド部における磁路の磁気抵抗の増大を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る電磁弁の構成例をバルブボディと共に示す断面図である。
【
図2】(a)は、電磁弁のソレノイド部を示す拡大図であり、(b)は、ソレノイド部を軸方向から見た
図1のA矢視図である。
【
図3】本発明の第2の実施の形態に係る電磁弁の構成例をバルブボディと共に示す断面図である。
【
図4】(a)は、電磁弁のソレノイド部を示す拡大図であり、(b)は、ソレノイド部を軸方向から見た
図3のB矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1実施の形態]
本発明の第1実施の形態について、
図1及び
図2を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0012】
図1は、本実施の形態に係る電磁弁の構成例をバルブボディと共に示す断面図である。
図2(a)は、電磁弁のソレノイド部を示す拡大図であり、
図2(b)は、ソレノイド部を軸方向から見た
図1のA矢視図である。
【0013】
電磁弁1は、バルブボディ10に形成された収容穴100に収容されるバルブ部11と、バルブボディ10の外部に配置されるソレノイド部12とを有している。バルブボディ10は、自動車のトランスミッションケースに取り付けられており、ソレノイド部12はエンジンルーム内で大気中に露出している。電磁弁1は、トランスミッションのアクチュエータを制御するコントロールバルブとして用いられる。トランスミッションがベルト式無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)である場合、電磁弁1は、例えばベルトを挟圧するプーリを動作させる油圧アクチュエータに作動油を出力する。
【0014】
バルブ部11は、複数のポートが形成された筒状のスリーブ2、及びスリーブ2に形成された弁孔20内で軸方向に移動することにより複数のポート間における流体の流路面積を変化させるスプール3を有している。ソレノイド部12は、スプール3を弁孔20内で軸方向に移動させる。本実施の形態では、スリーブ2に、供給ポート21、出力ポート22、及び排出ポート23が形成されている。
【0015】
供給ポート21には、流体としての作動油が供給される。出力ポート22は、スプール3の軸方向一側への移動によって供給ポート21と連通し、作動油を制御対象に出力する。排出ポート23は、スプール3の軸方向他側への移動によって出力ポート22と連通し、作動油を排出する。供給ポート21、出力ポート22、及び排出ポート23は、スリーブ2の周方向の一部において内外周面を貫通している。
図1及び
図2では、弁孔20の中心軸線Oを一点鎖線で示し、中心軸線Oよりも図面下側にスプール3が軸方向一側に移動した状態を示し、中心軸線Oよりも図面上側にスプール3の軸方向他側に移動した状態を示している。
【0016】
スリーブ2は、ソレノイド部12とは反対側の端部が栓体24によって閉塞されており、この栓体24に対向するスプール3の端部と栓体24との間にコイルばね25が配置されている。栓体24は、スリーブ2の内面に形成された雌ねじへの螺合によってスリーブ2に固定されている。コイルばね25は、軸方向に圧縮されており、その復元力によってスプール3をソレノイド部12側に付勢している。また、スリーブ2の外周面には、三つのOリング261~263が嵌着されている。
【0017】
スプール3は、ソレノイド部12側から順に第1乃至第4ランド31~34を有している。本実施の形態では、電磁弁1の非通電状態において出力ポート22と排出ポート23とが連通し、供給ポート21と出力ポート22との連通が第2ランド32によって遮断される。一方、電磁弁1に電流が供給されると、コイルばね25が圧縮される方向にスプール3が移動して出力ポート22と排出ポート23との連通が第3ランド33によって遮断され、供給ポート21と出力ポート22とが連通する。スプール3は、弁孔20内で軸方向に移動することにより、供給ポート21と出力ポート22との間の作動油の流路面積、及び出力ポート22と排出ポート23との間の作動油の流路面積を変化させる。これにより、出力ポート22から出力される作動油の圧力が変化する。
【0018】
バルブボディ10には、図略のオイルポンプから作動油が供給される供給通路101と、作動油を油圧アクチュエータ等の制御対象に導く出力通路102と、作動油を図略のドレンタンクに導くドレン通路103とが形成されている。供給通路101、出力通路102、及びドレン通路103は、スリーブ2の供給ポート21、出力ポート22、及び排出ポート23にそれぞれ連通している。
【0019】
ソレノイド部12は、通電により磁力を発生させるコイル部41を有する電磁コイルユニット4と、電磁コイルユニット4の磁力によってスプール3と共に移動するプランジャ5と、コイル部41及びプランジャ5を収容するソレノイドハウジング6と、プランジャ5とスプール3との間に配置されたシャフト7と、ソレノイドハウジング6から外部への作動油の漏出を防ぐ軸方向シール部材81及び径方向シール部材82とを備えている。
【0020】
電磁コイルユニット4は、コイル巻線411をホルダ部412により保持してなる円筒状のコイル部41と、コイル巻線411の両端部がそれぞれ接続された一対の端子421,422(
図2(b)に示す)及び樹脂からなる嵌合部423を有するコネクタ部42と、コイル部41とコネクタ部42を一体に連結する連結部43とを有している。ホルダ部412及び嵌合部423は、一体の樹脂からなる。コイル巻線411には、コネクタ部42に嵌合される図略の相手側コネクタ及びケーブルを介して、図略の制御装置から励磁電流が供給される。
【0021】
プランジャ5は、鉄等の軟磁性体からなる円柱状の部材であり、中心軸線Oに沿って軸方向に進退移動する。コイル巻線411に通電されると、プランジャ5がシャフト7を介してスプール3を栓体24に向かって軸方向一側に押圧し、コイル巻線411への通電が遮断されると、コイルばね25の復元力によってスプール3及びプランジャ5が軸方向他側に移動する。
【0022】
シャフト7は、その一方の端部がスプール3の端面3aに当接し、他方の端部がプランジャ5におけるスプール3側の端面5bに当接している。以下、説明の容易化のため、中心軸線Oに沿ったソレノイド部12の軸方向におけるスリーブ2側(
図1及び
図2(a)の左側)を前方といい、その反対側を後方という。
【0023】
ソレノイドハウジング6は、ヨーク61、コア62、及びカバー63を組み合わせてなる。ヨーク61、コア62、及びカバー63は、鉄等の軟磁性体からなり、本発明の第1部材、第2部材、及び第3部材にそれぞれ相当する。また、ソレノイドハウジング6は、オーステナイト系ステンレス等の非磁性体からなる連結部材64及びストッパ体65を有している。連結部材64は、ヨーク61とコア62とを連結している。ストッパ体65は、中心部にシャフト7が挿通されたリング状である。
【0024】
ヨーク61は、円筒状の円筒部611と、円筒部611の後方側の端部を閉塞する蓋部612とを一体に有する有底円筒状である。円筒部611は、コイル部41の内周面41aとプランジャ5の外周面5aとの間に配置されている。円筒部611の内周面611aはプランジャ5の外周面5aに向かい合っている。ヨーク61は、前方に向かって開口しており、プランジャ5の前方側の端部がヨーク61から突出している。プランジャ5の後方側の端面5cは、蓋部612に対向している。プランジャ5の後方側への移動は、端面5cが蓋部612の当接面612aに当接することで規制される。
【0025】
コア62は、ヨーク61の円筒部611との間に空間60を挟んで円筒部611と軸方向に並んで配置された環状部621と、コイル部41の軸方向両端部のうち前方側の一端部を覆う第1の覆い部622と、環状部621と第1の覆い部622との間の筒状の胴部623とを一体に有している。環状部621は、後方側の端部ほど外径が小さくなるテーパ状である。環状部621の内径は、ヨーク61の円筒部611の内径よりも僅かに大きく形成されている。環状部621の内周面621aは中心軸線Oと平行であり、プランジャ5が前方に移動したとき、プランジャ5の外周面5aと対向する。
【0026】
胴部623の内径は、プランジャ5の外径よりも小さく、かつシャフト7の外径よりも大きく形成されている。コア62には、前方に向かって開口する嵌合穴620が形成されており、この嵌合穴620にスリーブ2の一端部が圧入嵌合されている。胴部623の中心部には、シャフト7が挿通されており、スリーブ2の弁孔20からソレノイド部12に流入した作動油が胴部623とシャフト7との間を流動可能である。
【0027】
ストッパ体65は、胴部623の後方側の端面623aと軸方向に対向するように配置されており、プランジャ5の前方側への移動は、プランジャ5の前方側の端面5bがストッパ体65に当接することで規制される。端面5bがストッパ体65に当接した位置は、プランジャ5の前進端である。
【0028】
プランジャ5には、軸方向の両端面5b,5c間を貫通する複数の貫通孔50が形成されており、これらの貫通孔50を作動油が流動可能である。これにより、プランジャ5が軸方向に移動する際に作動油から受ける抗力が緩和されている。
図1及び
図2(a)では、複数の貫通孔50のうち一つの貫通孔50を破線で示している。
【0029】
カバー63は、コイル部41の外周を覆うカバー部631と、コイル部41の軸方向両端部のうち後方側の他端部を覆う第2の覆い部632とを一体に有している。カバー部631の前方側の端部の内側には、コア62の第1の覆い部622が嵌入しており、カバー部631と第1の覆い部622とが複数の加締め部601により加締め固定されている。第2の覆い部632には、ソレノイド部12の組み立て時に電磁コイルユニット4のコネクタ部42を挿通させるための切り欠き632aが形成されている。
【0030】
連結部材64は、円筒状であり、コイル部41の内側に配置されている。ヨーク61とコア62とは、それぞれの一部が連結部材64に圧入されることにより心出しされている。連結部材64の一端部にはヨーク61の円筒部611の一部が圧入され、連結部材64の他端部には環状部621を含むコア62の一部が圧入されている。連結部材64の内側の空間60に流れ込んだ作動油は、コイル部41側への流出が連結部材64によって抑制されるものの、連結部材64とヨーク61及びコア62との間の微細な空隙からコイル部41側に滲出する。
【0031】
本実施の形態では、カバー63の第2の覆い部632が、中心部に空洞630が形成された環状である。ヨーク61は、円筒部611の後方側の端部が第2の覆い部632の内側に配置され、当該端部の外径が第2の覆い部632の内径よりも僅かに小さく形成されている。すなわち、ヨーク61の外周面61aと第2の覆い部632の内周面630aとの間には、僅かな隙間が形成されている。
【0032】
また、ヨーク61の外周面61aとコイル部41の内周面41aとの間、及びカバー63のカバー部631の内周面631aとコイル部41の外周面41bとの間にも、僅かな隙間が形成されている。そして、これらの構成により、連結部材64によるヨーク61とコア62との心出しがカバー63やコイル部41によって阻害されることがなく、ヨーク61とコア62とが高い同心性を以って連結されている。なお、中心軸線Oに垂直な径方向におけるこれらの隙間の寸法は、作動油が流動可能な程度の寸法である。
【0033】
ヨーク61の円筒部611は、その外周面61aのうちコイル部41の内周面41aに向かい合う部位に環状溝610が形成されており、この環状溝610に軸方向シール部材81が収容されている。軸方向シール部材81は、環状溝610の溝底面610a及びコイル部41の内周面41aに弾接し、空間60から円筒部611とコイル部41との隙間に流入した作動油の軸方向後方側への流れを遮っている。円筒部611は、環状溝610よりも前方側の一部が連結部材64に圧入されている。
【0034】
また、コイル部41の前方側の端部と第1の覆い部622との間に、空間60からコイル部41と第1の覆い部622との隙間に流入した作動油の径方向外方への流れを遮る径方向シール部材82が収容されている。本実施の形態では、コイル部41の前方側の端部に環状溝624が第1の覆い部622に向かって開口して形成されており、この環状溝624に径方向シール部材82が収容されている。径方向シール部材82は、環状溝624の溝底面624a及び第1の覆い部622の軸端面622aに弾接している。
【0035】
ヨーク61とカバー63及び電磁コイルユニット4との間からの作動油の漏出は、軸方向シール部材81によって抑止されており、カバー63とコア62及び電磁コイルユニット4との間からの作動油の漏出は、径方向シール部材82によって抑止されている。なお、本実施の形態では、軸方向シール部材81及び径方向シール部材82が共にゴム等の弾性体からなる断面円形状のOリングであるが、これに限らず、例えば断面十字状のXリングであってもよい。
【0036】
コイル部41のコイル巻線411に通電されると、
図2(a)に示すように、ヨーク61の円筒部611、プランジャ5、コア62の環状部621、胴部623、第1の覆い部622、カバー63のカバー部631、及び第2の覆い部632を含む磁路Mに磁束が発生し、プランジャ5が前方に移動してスプール3を栓体24に向かって押圧する。また、コイル巻線411の通電が遮断されると、コイルばね25の復元力によってスプール3及びプランジャ5が後方に移動し、プランジャ5の後方側の端面5cがヨーク61の蓋部612の当接面612aに当接する。端面5cが蓋部612の当接面612aに当接した位置は、プランジャ5の後退端である。
【0037】
プランジャ5がスリーブ2から軸方向に最も離間した後退端にあるときに、環状溝610よりも後方側でプランジャ5の外周面5aが円筒部611の内周面611aと向かい合う軸方向長さをL
1とすると、この長さL
1は、第1の覆い部622及び第2の覆い部632における軸方向の厚みが最も薄い部分の厚みよりも長い。
図2(b)では、第1の覆い部622における軸方向の厚みが最も薄い部分の厚みをT
1で示し、第2の覆い部632における軸方向の厚みが最も薄い部分の厚みをT
2で示している。
【0038】
ヨーク61の円筒部611は、環状溝610が形成された部分において中心軸線Oに垂直な断面における断面積が狭くなり、この部分で磁気抵抗が大きくなる。また、空間60をプランジャ5を経由することなく軸方向に通過する漏れ磁束は、プランジャ5を軸方向に移動させる移動力に寄与しないので、このような漏れ磁束を極力小さくすることが望ましい。したがって、ヨーク61の円筒部611とプランジャ5との間では、環状溝610よりも後方側(第2の覆い部632側)にあたる部分を磁束が流れることが好ましい。しかし、この部分の幅が狭いと、磁路Mにおける磁気抵抗が増大してしまうので、本実施の形態では、上記のようにL1>T1かつL1>T2となるようにソレノイド部12を構成している。
【0039】
なお、プランジャ5がスリーブ2に最も接近した前進端にあるときにも、環状溝610よりも後方側でプランジャ5の外周面5aが円筒部611の内周面611aと向かい合う軸方向長さ(
図2(a)に示すL
2)が、第1の覆い部622及び第2の覆い部632における軸方向の厚みが最も薄い部分の厚みよりも長いことが望ましい。すなわち、L
2>T
1かつL
2>T
2であることが望ましく、本実施の形態ではこのようにソレノイド部12を構成している。
【0040】
また、本実施の形態では、プランジャ5が後退端にあるときに環状溝610よりも後方側でプランジャ5の外周面5aが円筒部611の内周面611aと向かい合う対向面積をS1とし、ヨーク61の後方側の端部における外周面61aが第2の覆い部632の内周面630aと向かい合う対向面積をS2としたとき、S1>S2となるようにソレノイド部12を構成している。これにより、環状溝610を設けることによる磁路Mにおける磁気抵抗の増大を抑制している。
【0041】
なお、対向面積S1は、プランジャ5の直径をD1としたとき、S1=D1×π×L1の演算式により求められる。対向面積S2は、ヨーク61の後方側の端部における直径をD2としたとき、S2=D2×π×T2の演算式により求められる。また、プランジャ5が前進端にあるときにも、上記の関係が成り立つことがより望ましい。すなわち、D1×π×L2の積が対向面積S2よりも大きいことが望ましく、本実施の形態ではこのようにソレノイド部12を構成している。
【0042】
(第1の実施の形態の作用及び効果)
以上説明した本発明の第1の実施の形態によれば、ヨーク61の円筒部611における外周面61aのうちコイル部41の内周面41aに向かい合う部位に環状溝610を形成し、この環状溝610に軸方向シール部材81を収容したので、軸方向シール部材81を配置することによるソレノイド部12の軸方向長さの増大を抑制することが可能となる。また、上記の不等式を満たすようにソレノイド部12が構成されているので、軸方向シール部材81を配置することによる磁路Mにおける磁気抵抗の増大を抑制することが可能となる。
【0043】
またさらに、ヨーク61とコア62とが連結部材64によって高い同心性を以って連結される。これにより、プランジャ5の外周面5aと環状部621の内周面621aとの間の偏心を抑制することができ、磁力が偏ることによるプランジャ5の外周面5aと環状部621との摺動抵抗を小さくすることが可能となる。
【0044】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について、
図3及び
図4を参照して説明する。第2の実施の形態に係る電磁弁1Aは、主としてカバー63の形状が第1の実施の形態に係る電磁弁1と相違し、他の構成は同様である。
図3及び
図4において、第1の実施の形態に係る電磁弁1の構成要素と共通する構成要素については、
図1及び
図2に付したものと同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0045】
図3は、第2の実施の形態に係る電磁弁1Aの構成例をバルブボディ10と共に示す断面図である。
図4(a)は、電磁弁1Aのソレノイド部12を示す拡大図であり、
図4(b)は、ソレノイド部12を軸方向から見た
図3のB矢視図である。
【0046】
第1の実施の形態に係る電磁弁1では、カバー63の第2の覆い部632の中心部に形成された空洞630内にヨーク61の後方側の端部が配置された場合について説明したが、本実施の形態に係る電磁弁1Aでは、カバー63の第2の覆い部632の径方向の内側に底壁部633が設けられており、この底壁部633にヨーク61の蓋部612が対向している。また、カバー63には、第2の覆い部632及び底壁部633のそれぞれの一部にわたり、電磁コイルユニット4の嵌合部423を挿通させる挿通孔634が形成されている。
【0047】
この第2の実施の形態に係る電磁弁1Aによっても、第1の実施の形態と同様の作用及び効果が得られる。また、磁束の一部がカバー63の底壁部633からヨーク61に流れるので、磁路Mにおける磁気抵抗をより小さくすることができる。
【0048】
なお、
図3及び
図4(a)の図示例では、カバー63の第2の覆い部632の厚みと底壁部633の厚みとが同じ場合について示しているが、これらの厚みが異なっていてもよい。また、ヨーク61の蓋部612とカバー63の底壁部633との間に隙間が形成されていてもよい。
【0049】
(付記)
以上、本発明を第1及び第2実施の形態に基づいて説明したが、この実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0050】
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で、一部の構成を省略し、あるいは構成を追加もしくは置換して、適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記第1及び第2実施の形態では、電磁コイルユニット4のコネクタ部42がコイル部41と軸方向に並ぶように設けられた場合について説明したが、コネクタ部42をコイル部41の径方向外側に配置してもよい。また、シャフト7は、スプール3又はプランジャ5と一体に形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0051】
1,1A…電磁弁 11…バルブ部
12…ソレノイド部 2…スリーブ
20…弁孔 21…供給ポート
22…出力ポート 23…排出ポート
3…スプール 4…電磁コイルユニット
41…コイル部 41a…内周面
5…プランジャ 5a…外周面
6…ソレノイドハウジング 60…空間
61…ヨーク(第1部材) 610…環状溝
611…円筒部 61a…外周面
62…コア(第2部材) 621…環状部
622…第1の覆い部 63…カバー(第3部材)
631…カバー部 632…第2の覆い部
64…連結部材 81…軸方向シール部材
82…径方向シール部材