(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】マイクロニードルデバイス
(51)【国際特許分類】
A61M 37/00 20060101AFI20231114BHJP
【FI】
A61M37/00 512
A61M37/00 516
A61M37/00 505
(21)【出願番号】P 2019121897
(22)【出願日】2019-06-28
【審査請求日】2022-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】旭井 亮一
【審査官】竹下 晋司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/016647(WO,A1)
【文献】特開2008-073062(JP,A)
【文献】特開2014-023697(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロニードルと、液体を保持可能な液体保持空間を有する収容体と、を備えるマイクロニードルデバイスであって、
前記マイクロニードルは、第1の面及び第2の面を有する基板と、前記基板の第1の面から突出する突起部と、を備え、前記基板には、前記第1の面と前記第2の面を連通する貫通孔が形成されており、
前記収容体は、外側から押圧すると少なくとも一部が変形し、前記液体保持空間に保持された前記液体が前記貫通孔を通り前記貫通孔の前記第1の面側の開口から放出されるように、前記基板の第2の面上に配置されており、
前記収容体のうち前記液体保持空間を形成する部分以外の部分は、前記基板の第2の面と接合しており、
さらに、前記収容体は、前記第2の面に対向する面とは反対側の面に窪みを有し、前記基板の第2の面の垂直方向から前記収容体を見た場合に、前記窪みは前記液体保持空間の中央に位置するように配されているマイクロニードルデバイス。
【請求項2】
前記突起部の前記基板の第1の面からの高さが50μm以上2mm以下の範囲内である請求項1に記載のマイクロニードルデバイス。
【請求項3】
前記液体保持空間内に多孔質材料製部材が配されており、前記多孔質材料製部材が前記液体の少なくとも一部を保持することが可能となっている請求項1又は請求項2に記載のマイクロニードルデバイス。
【請求項4】
前記基板の第2の面の垂直方向から前記収容体を見た場合に、前記窪みの開口部分の面積が0.4cm
2以上10cm
2以下の範囲内である請求項1~3のいずれか一項に記載のマイクロニードルデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロニードルデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
薬剤を人体に投与する方法としては、経口投与、注射器の穿刺による皮膚真皮層又は静脈への投与、皮膚表面への軟膏剤の塗布による局部真皮層への投与、皮膚表面への貼付けによる局部真皮層への投与などの方法が挙げられる。
これらの中で、貼り付け又はアプリケーターを用いて穿刺する方法によって体内に薬剤を投与する器具として、近年、複数の微小な針である突起部を備えたマイクロニードルの開発が進められてきた。マイクロニードルの材料には、針形状体の一部が穿刺によって折れて体内に残留しても悪影響がないように、生体内で溶解又は残留しても無害なものが選択されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2005/058162号
【文献】特開2006-334419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マイクロニードルを用いれば、微小な針である突起部を皮膚に穿刺した際に、穿刺箇所を通じて皮膚内に薬効成分を注入することができる。
本発明は、より簡便な方法で安定的にマイクロニードルを穿刺し皮膚内に薬効成分を注入することができるマイクロニードルデバイスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係るマイクロニードルデバイスは、マイクロニードルと、液体を保持可能な液体保持空間を有する収容体と、を備えるマイクロニードルデバイスであって、マイクロニードルは、第1の面及び第2の面を有する基板と、基板の第1の面から突出する突起部と、を備え、基板には、第1の面と第2の面を連通する貫通孔が形成されており、収容体は、外側から押圧すると少なくとも一部が変形し、液体保持空間に保持された液体が貫通孔を通り貫通孔の第1の面側の開口から放出されるように、基板の第2の面上に配置されており、さらに、収容体は、第2の面に対向する面とは反対側の面に窪みを有し、基板の第2の面の垂直方向から収容体を見た場合に、窪みは液体保持空間の中央に位置するように配されていることを要旨とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係るマイクロニードルデバイスによれば、より簡便な方法で安定的にマイクロニードルを穿刺し皮膚内に薬効成分を注入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の第一実施形態に係るマイクロニードルデバイスが備えるマイクロニードルの斜視図である。
【
図3】
図1及び
図2のマイクロニードルの変形例の斜視図である。
【
図5】本発明の第一実施形態に係るマイクロニードルデバイスの分解斜視図である。
【
図6】
図5のマイクロニードルデバイスの断面図である。
【
図7】本発明の第二実施形態に係るマイクロニードルデバイスの分解斜視図である。
【
図8】
図7のマイクロニードルデバイスの断面図である。
【
図9】本発明の第三実施形態に係るマイクロニードルデバイスの分解斜視図である。
【
図10】
図9のマイクロニードルデバイスの断面図である。
【
図11】
図5及び
図6のマイクロニードルデバイスの使用方法を説明する操作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の一実施形態について説明する。なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。また、本実施形態には種々の変更又は改良を加えることが可能であり、その様な変更又は改良を加えた形態も本発明に含まれ得る。
【0009】
まず、第一実施形態に係るマイクロニードルデバイスが備えるマイクロニードル1について、
図1の斜視図、
図2の断面図を参照しながら説明する。
マイクロニードル1は、第1の面12A及び第2の面12Bを有する基板12と、基板12の第1の面12Aから突出する突起部11と、を備える。
【0010】
基板12の形状は特に限定されるものではなく、円盤形であってもよいし、角板形であってもよい。基板12には、第1の面12Aと第2の面12Bを連通する貫通孔13が形成されている。貫通孔13は、後述する液体の通路となる。貫通孔13は、1個でもよいし、複数個でもよい。
【0011】
突起部11は、皮膚を穿孔するための針として作用する。突起部11は、1本でもよいし、複数本でもよい。突起部11の形状は、例えば、円錐形状であってもよいし、角錐形状であってもよい。また、突起部11は、例えば、円柱形状や角柱形状のように、先端が尖っていない形状であってもよい。さらに、突起部11は、例えば、円柱に円錐が積層された形状のように、2以上の立体が結合した形状であってもよい。要するに、突起部11の形状は、皮膚を刺すことが可能な形状であれば、特に限定されない。また、突起部11の側壁には、括れや段差が形成されていてもよいし、溝が形成されていてもよい。
【0012】
突起部11の高さHは、基板12の厚さ方向、すなわち、基板12の第1の面12Aと直交する方向における、第1の面12Aから突起部11の先端までの長さである。突起部11の高さHは、50μm以上2mm以下であることが好ましい。
突起部11の幅Dは、基板12の第1の面12Aに沿った方向、すなわち、第1の面12Aと平行な方向における突起部11の長さの最大値である。例えば、突起部11が正四角錐形状や正四角柱形状を有するときは、突起部11の底部によって区画された、基板12の第1の面12A上の正方形の対角線の長さが、突起部11の幅Dである。また、例えば、突起部11が円錐形状や円柱形状を有するときは、突起部11の底部によって区画された円の直径が、突起部11の幅Dである。突起部11の幅Dは、1μm以上1mm以下であることが好ましい。突起部11の幅Dに対する長さHの比であるアスペクト比A(A=H/D)は、1以上10以下であることが好ましい。
【0013】
マイクロニードル1が備える突起部11の数は、1以上であれば特に限定されない。マイクロニードル1が複数の突起部11を備える場合は、複数の突起部11は、基板12の第1の面12Aに規則的に並んでいてもよいし、不規則に並んでいてもよい。例えば、複数の突起部11は、格子状や同心円状に配列される。
【0014】
図3及び
図4に、
図1及び
図2のマイクロニードル1の変形例を示す。第一実施形態に係るマイクロニードルデバイスは、
図1及び
図2のマイクロニードル1の代わりに、
図3及び
図4に示す変形例のマイクロニードル1を備えていてもよい。
図3及び
図4に示すように、変形例のマイクロニードル1は、基板12の第1の面12A(突起部11の側壁面)と第2の面12Bを連通する貫通孔13を、突起部11に備えていてもよい。変形例のマイクロニードル1においても、貫通孔13は、1個でもよいし、複数個でもよい。
【0015】
次に、第一実施形態に係るマイクロニードルデバイスについて、
図5及び
図6を参照しながら説明する。
第一実施形態に係るマイクロニードルデバイスは、マイクロニードル1と、液体を保持可能な液体保持空間21を有する収容体2と、を備える。収容体2は、基板12の第2の面12B上に配置されており、外側から押圧すると少なくとも一部が変形し、液体保持空間21に保持された液体が貫通孔13を通り貫通孔13の第1の面12A側の開口から放出されるようになっている。
【0016】
さらに、収容体2は、基板12の第2の面12Bに対向する面とは反対側の面に窪み23を有し、基板12の第2の面12Bの垂直方向から収容体2を見た場合に、窪み23は液体保持空間21の中央に位置するように配されている。
収容体2の周縁部22が、全周にわたってマイクロニードル1の基板12の第2の面12Bと接合しており、収容体2の内部の液体保持空間21に液体を保持することが可能となっている。
【0017】
第一実施形態に係るマイクロニードルデバイスにあっては、基板12の第2の面12Bの垂直方向から収容体2を見た場合の、窪み23の開口部分の面積S(換言すると、窪み23の開口部分を第2の面12Bに投影した投影図形の面積)が、0.4cm2以上10cm2以下の範囲内であることが好ましい。このような構成であれば、第一実施形態に係るマイクロニードルデバイスを用いて穿刺・注入を行う際に、使用者のマイクロニードルデバイスの取り扱い性が良好となる。
【0018】
次に、第二実施形態に係るマイクロニードルデバイスについて、
図7及び
図8を参照しながら説明する。なお、第二実施形態に係るマイクロニードルデバイスの構成及び作用効果は、第一実施形態に係るマイクロニードルデバイスとほぼ同様であるので、同様の部分の説明は省略し、異なる部分のみ説明する。
【0019】
第二実施形態に係るマイクロニードルデバイスにあっては、収容体2とマイクロニードル1の基板12とによって形成される液体保持空間21内に、多孔質材料製部材3が配されていて、液体保持空間21内の液体の少なくとも一部を多孔質材料製部材3が保持することが可能になっている。マイクロニードルデバイスが多孔質材料製部材3を備えていれば、収容体2の液体保持空間21の不意の変形による貫通孔13を通じた液体の放出を防ぐことができる。
【0020】
次に、第三実施形態に係るマイクロニードルデバイスについて、
図9及び
図10を参照しながら説明する。なお、第三実施形態に係るマイクロニードルデバイスの構成及び作用効果は、第一実施形態に係るマイクロニードルデバイスとほぼ同様であるので、同様の部分の説明は省略し、異なる部分のみ説明する。
【0021】
第三実施形態に係るマイクロニードルデバイスにあっては、収容体2の周縁部22が、全周にわたってマイクロニードル1の基板12の第2の面12Bと接合しており、さらに、収容体2のうち窪み23の底部を形成する部分がマイクロニードル1の基板12の第2の面12Bと接合している。すなわち、収容体2のうち液体保持空間21を形成する部分以外の部分は、マイクロニードル1の基板12の第2の面12Bと接合している。収容体2のうち窪み23の底部を形成する部分が基板12の第2の面12Bと接合していることにより、穿刺と薬液の皮膚内への供給とをより確実なものとすることができる。
【0022】
次に、第一実施形態に係るマイクロニードルデバイスの使用方法を、
図11を参照しながら説明する。なお、第二実施形態及び第三実施形態に係るマイクロニードルデバイスについても、同様の方法で使用することができる。
図11の(A)は、突起部11が皮膚Zに対向するようにマイクロニードルデバイスを配置するステップを示している。
図11の(B)は、マイクロニードル1の突起部11を皮膚Zに穿刺するステップを示している。
図11の(C)は、マイクロニードル1の突起部11を皮膚Zに穿刺した状態で、収容体2に保持された液体を貫通孔13を通じて放出するステップを示している。
【0023】
まず、第一実施形態に係るマイクロニードルデバイスは、突起部11が皮膚Zに対向するように配置される(
図11の(A))。例えば、マイクロニードルデバイスの使用者は、マイクロニードルデバイスの基板12の側面を2本の指(例えば親指と中指)で挟み、1本の指(例えば人指し指)を窪み23の周辺に配置して、マイクロニードルデバイスを支持することができる。
【0024】
次に、マイクロニードル1の突起部11が皮膚Zに穿刺される(
図11の(B))。このとき、使用者は、突起部11の皮膚Zへの確実な穿刺のために、窪み23を利用することができる。
第一実施形態に係るマイクロニードルデバイスは、マイクロニードル1の突起部11を皮膚Zに穿刺するステップ(
図11の(B))と、マイクロニードル1の突起部11を皮膚Zに穿刺した状態で収容体2に保持された液体を貫通孔13を通じて放出するステップ(
図11の(C))との2つのステップにおいて、マイクロニードルデバイスの収容体2が皮膚Zに向かって押圧されることとなる。
【0025】
第一実施形態に係るマイクロニードルデバイスには、外側からの押圧によって少なくとも液体保持空間21の一部が変形する収容体2を用いている。そのため、収容体2の液体保持空間21の中央に窪み23がない場合には、使用者は、液体の放出前の穿刺のステップにおいて収容体2内の液体が貫通孔13を通じて放出することを防ぐために、十分な力で収容体2を押圧することができない場合があった。
【0026】
第一実施形態に係るマイクロニードルデバイスは、基板12の第2の面12Bの垂直方向から収容体2を見た場合に液体保持空間21の中央に位置するように窪み23が収容体2に配されているため、使用者は、収容体2内の液体の放出に注意しない状態で、マイクロニードル1の突起部11の皮膚Zへの穿刺の際に十分な押圧力で収容体2を押圧することができる。
【0027】
使用者は、窪み23を使って十分な押圧力でマイクロニードルデバイスの収容体2を押圧することができ、突起部11の皮膚Zへの穿刺を確実なものとすることができる。例えば、マイクロニードルデバイスの基板12の側面を2本の指(例えば親指と中指)で挟み、1本の指(例えば人指し指)を窪み23の周辺に配置して、マイクロニードルデバイスを支持して皮膚Zに穿刺した場合に、使用者は窪み23の周辺に配置した人差し指を使用してマイクロニードルデバイスの収容体2を十分に押圧することができる。
【0028】
また、使用者は、突起部11を皮膚Zに穿刺するにあたり、窪み23を押圧することにより、十分に突起部11を穿刺することができたという実感を得ることができる。第一実施形態に係るマイクロニードルデバイスにあっては、高さが低い突起部11を使用する。このため、不十分な押圧力では、使用者は突起部11を穿刺することができたという実感を得にくい。第一実施形態に係るマイクロニードルデバイスは、窪み23を介して押圧することにより、突起部11を皮膚Zに確実に穿刺することができたという実感を使用者が得ることができる。
【0029】
次に、マイクロニードル1の突起部11を皮膚Zに穿刺した状態で、収容体2を押圧することにより、液体保持空間21を変形させて収容体2に保持された液体を貫通孔13を通じて放出する。使用者は、収容体2の窪み23以外の部分を押圧することにより、マイクロニードル1の突起部11を皮膚Zに穿刺した状態で、収容体2に保持された液体を貫通孔13を通じて放出することができる。放出された液体は、突起部11により形成された皮膚Zの表面の穿刺孔を通じて、皮膚Z内に供給される。
最後に、第一実施形態に係るマイクロニードルデバイスを皮膚Zの表面から取り除く(図示せず)。
【0030】
以上のように、第一、第二、及び第三実施形態に係るマイクロニードルデバイスを用いれば、より簡便な方法で安定的にマイクロニードル1を穿刺し皮膚Z内に薬効成分を注入することができる。第一、第二、及び第三実施形態に係るマイクロニードルデバイスは、例えば、医療、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)デバイス、光学部材、創薬、化粧品、美容用途等に用いることができる。
【0031】
以下に、第一、第二、及び第三実施形態に係るマイクロニードルデバイス及びその製造方法について、さらに詳細に説明する。
〔マイクロニードル1の構成〕
第一、第二、及び第三実施形態に係るマイクロニードルデバイスのマイクロニードル1は、生体適合性を有する材料から形成されることが好ましい。マイクロニードル1を構成する材料としては、例えば、シリコンや、ステンレス鋼、チタン、マンガン等の金属や、医療用シリコーン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカーボネート、環状オレフィンコポリマー等の熱可塑性樹脂等を用いることができる。
【0032】
マイクロニードル1の基板12は、剛性を備えるように、材質・厚みを適宜調整することが好ましい。第一、第二、及び第三実施形態に係るマイクロニードルデバイスにあっては、収容体2の材料として、外側からの押圧によって少なくとも一部が変形する材料を使用するため、マイクロニードル1の基板12は十分な剛性を備えることが好ましい。
【0033】
また、マイクロニードル1は、突起部11の少なくとも一部が、水分によって溶解する材料、すなわち、水溶性材料から構成されていてもよい。水溶性材料としては、水溶性高分子や多糖類を用いることができる。水溶性高分子としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸系ポリマー、ポリアクリルアミド(PAM)、ポリエチレンオキシド(PEO)、プルラン、アルギン酸塩、ペクチン、キトサン、キトサンサクシナミド、オリゴキトサンが挙げられる。また、多糖類としては、トレハロースやマルトースが挙げられる。
【0034】
マイクロニードル1の基板12と突起部11は、各種の公知技術を用いて製造することができる。例えば、マイクロニードル1を構成する材料に応じて、ダイシングやドリル加工等の機械加工や、レーザー加工や、射出成形等の成形技術や、エッチング等によって形成することができる。また、こうした方法によってマイクロニードル1の原版を作製し、さらに、めっき法や樹脂を用いた型取り法によって原版の凹凸を反転させた凹版を作製し、作製された凹版を用いてマイクロニードル1を複製することができる。
【0035】
なお、第一、第二、及び第三実施形態に係るマイクロニードルデバイスは、マイクロニードル1の基板12の第1の面12Aの少なくとも一部に接着層を有してもよい。接着層を設けることにより、マイクロニードル1の突起部11を皮膚Zに穿刺するステップ(
図11の(B))から、マイクロニードル1の突起部11を皮膚Zに穿刺した状態で収容体2に保持された液体を貫通孔13を通じて放出するステップ(
図11の(C))までの動作を、使用者はスムーズに行うことができる。接着層としては、ウレタン材料、アクリル材料等を使用することができる。
【0036】
また、第一、第二、及び第三実施形態に係るマイクロニードルデバイスは、マイクロニードル1の基板12の第1の面12Aの少なくとも一部に、貫通孔13からの液体の放出を防ぐ保護シールを有してもよい。保護シールは、マイクロニードル1の突起部11を皮膚Zに穿刺するステップ(
図11の(B))の前に、使用者によって取り除かれる。
【0037】
〔収容体2の構成〕
収容体2は、外側からの押圧によって少なくとも一部が変形する。収容体2は、例えば、フィルム状又はシート状の熱可塑性樹脂によって形成される。熱可塑性樹脂によって形成される収容体2は、例えば、熱プレス成型によって作製することができる。例えば、収容体2の形成材料として、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ナイロン樹脂等の熱可塑性樹脂を選択することができる。
【0038】
収容体2は、外側からの押圧によって少なくとも一部が変形する必要があるため、厚み等は適宜調整される。また、収容体2は1種類の材料だけでなく、複数の材料で構成されていてもよい。例えば、積層フィルム、積層シートを収容体2の材料として使用することも可能である。さらには、収容体2は、外側からの押圧によって変形する部分と外側からの押圧によって変形しにくい部分とによって形成されていてもよい。
収容体2の内部に設けられる多孔質材料製部材3を構成する多孔質材料としては、例えば、スポンジ状の材料を使用することができる。例えば、ウレタン樹脂製のスポンジや、メラミン樹脂製のスポンジを使用することができる。
【0039】
〔マイクロニードルデバイスの構成〕
収容体2とマイクロニードル1の基板12の第2の面12Bを接合するにあっては、例えば、接着材料を介して接合することができる。接着材料としては、ウレタン材料、アクリル材料等を使用することができる。また、収容体2の形成材料とマイクロニードル1の基板12の形成材料を適宜変更することにより、収容体2とマイクロニードル1をヒートシールにより接合することも可能である。
【0040】
マイクロニードル1の収容体2の内部に収容する液体としては、水等を使用することが可能である。また、水には薬剤を加えてもよい。
第一、第二、及び第三実施形態に係るマイクロニードルデバイスは、皮膚に注入する薬剤を保持する。薬剤は、収容体2の内部の液体中に保持させることができる。このとき、液体を貫通孔13を通じて放出することにより、穿刺痕を通じて、薬剤を液体に溶解又は分散させた状態で皮膚内に供給することができる。
【0041】
また、第一、第二、及び第三実施形態に係るマイクロニードルデバイスは、マイクロニードル1の突起部11の表面に薬剤を保持することができる。このとき、マイクロニードルデバイス内に保持された液体を貫通孔13を通じて放出することにより、突起部11の表面に保持された薬剤は、液体に溶解又は分散した状態となる。そして、穿刺痕を通じて、薬剤を液体に溶解又は分散させた状態で皮膚内に供給することができる。
【0042】
また、第一、第二、及び第三実施形態に係るマイクロニードルデバイスは、マイクロニードル1の突起部11の形成材料として水分によって溶解する材料を用いた場合に、突起部11の内部に薬剤を保持することができる。このとき、マイクロニードルデバイス内に保持された液体(水)を貫通孔13を通じて放出することにより、突起部11の表面に保持された薬剤は、液体に溶解又は分散した状態となる。そして、穿刺痕を通じて、薬剤を液体に溶解又は分散させた状態で皮膚内に供給することができる。
【0043】
薬剤としては、各種タンパク質、薬理活性物質、化粧品組成物等を用いることができる。皮膚内へ送達する送達物の種類は、目的に応じて選択される。薬理活性物質としては、例えば、インフルエンザ等のワクチン、癌患者等のための痛み止め薬、生物製剤、遺伝子治療薬、注射剤、経口剤、皮膚適用製剤等が挙げられる。
【0044】
第一、第二、及び第三実施形態に係るマイクロニードルデバイスを用いた経皮投与では、皮膚に形成された穿刺孔に薬剤が供給される。そのため、第一、第二、及び第三実施形態に係るマイクロニードルデバイスを用いた経皮投与は、従来の経皮投与に用いられる薬理活性物質以外に、皮下注射が必要な薬理活性物質の投与にも利用できる。特に、第一、第二、及び第三実施形態に係るマイクロニードルデバイスは、投与の際に痛みを伴わないため、小児向けの薬剤の投与に適している。また、第一、第二、及び第三実施形態に係るマイクロニードルデバイスを用いた経皮投与は、投与の際に送達物を飲む必要がないため、経口剤を飲むことが困難な小児や高齢者に対する経口剤の投与に適している。
【0045】
化粧品組成物は、化粧品又は美容品として用いられる組成物である。化粧品組成物としては、例えば、保湿剤、色料、香料、生理活性物質等が挙げられる。生理活性物質としては、シワやニキビや妊娠線等に対する改善効果や脱毛に対する改善効果等の美容効果を示す生理活性物質が挙げられる。
【実施例】
【0046】
以下に、本発明の実施例を示す。
アルミナ基板の表面に線状溝を形成する研削加工を実施した。さらに、線状溝と直交する方向に同様の研削加工を行い、マイクロニードル原版を作製した。次に、マイクロニードル原版から凹版を作製した。具体的には、メッキ法によって、マイクロニードル原版の表面にニッケル膜を形成した。次に、ニッケル膜をマイクロニードル原版から剥離することにより、凹版を作製した。
【0047】
得られた凹版から、貫通孔を有しないポリグリコール酸製のマイクロニードルを作製した。得られたポリグリコール酸製のマイクロニードルに、レーザー加工により貫通孔を形成し、貫通孔を有するマイクロニードルを作製した。得られたポリグリコール酸製のマイクロニードルは、高さHが200μm、幅Dが50μmの突起部が格子状に4列×4行で配置されている。また、隣接する突起部の間の部分には貫通孔が形成されており、これら貫通孔は3列×3行で配置されている。
【0048】
厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートのフィルムを用いて、熱プレス法により収容体を作製した。得られた収容体は、内部に液体を保持する液体保持空間と、基板に接合された際に基板の第2の面に対向する面とは反対側の面に形成された窪みと、を有する構造である。この窪みは、基板に接合された際に基板の第2の面の垂直方向から収容体を見た場合に、液体保持空間の中央に位置するように配されている。基板の第2の面の垂直方向から収容体を見た場合の窪みの開口部分の面積Sは、2.3cm2であった。
【0049】
ウレタン接着剤を用い、得られた収容体の周縁部を全周にわたってマイクロニードルの基板の第2の面に接合し、実施例のマイクロニードルデバイスを得た。このとき、青色に着色した水を含浸させたウレタン樹脂からなるドーナツ状の多孔質材料製部材を、収容体の内部の液体保持空間内に配置した。そして、用意した人工皮膚に対して、実施例のマイクロニードルデバイスの穿刺試験及び穿刺注入試験を行った。
【0050】
(1)穿刺試験
実施例のマイクロニードルデバイスを人工皮膚に穿刺した。穿刺にあたっては、マイクロニードルデバイスの基板の側面を親指と中指で挟み、人指し指を窪みの周辺に配置して、マイクロニードルデバイスを支持しながら穿刺し、窪みに配置した人差し指で人工皮膚に向かってマイクロニードルデバイスを強く押し込んだ。押し込んだ後、マイクロニードルデバイスを取り除き人工皮膚を確認したところ、穿刺痕が確認された。一方、人工皮膚には青色の水は確認されなかった。
【0051】
(2)穿刺注入試験
実施例のマイクロニードルデバイスを人工皮膚に穿刺した。穿刺にあたっては、マイクロニードルデバイスの基板の側面を親指と中指で挟み、人指し指を窪み周辺に配置して、マイクロニードルデバイスを支持しながら穿刺し、窪みに配置した人差し指で人工皮膚に向かってマイクロニードルデバイスを強く押し込んだ。
【0052】
次に、マイクロニードルデバイスの収容体のうち窪み以外の部分(液体保持空間が位置している部分)を皮膚に向かって押し込み、収容体を変形させた。その後、マイクロニードルデバイスを取り除き人工皮膚を確認したところ、穿刺痕が確認され、さらに、人工皮膚の表面に青色の水が放出されている様子が確認された。
【符号の説明】
【0053】
1・・・マイクロニードル
2・・・収容体
3・・・多孔質材料製部材
11・・・突起部
12・・・基板
12A・・・第1の面
12B・・・第2の面
13・・・貫通孔
21・・・液体保持空間
22・・・周縁部
23・・・窪み