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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/41 20060101AFI20231114BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20231114BHJP
   B60B 35/02 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
F16C33/41
F16C19/18
B60B35/02 L
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019129115
(22)【出願日】2019-07-11
(65)【公開番号】P2021014872
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2022-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鎌本 繁夫
(72)【発明者】
【氏名】村田 順司
(72)【発明者】
【氏名】獅子原 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】孫 岳
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-090993(JP,A)
【文献】特開2018-173120(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00-19/56
F16C 33/30-33/66
B60B 35/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外方部材と、内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との間に配置される複数の玉と、前記複数の玉を保持する保持器と、を備えた車輪用軸受装置であって、
前記保持器は、前記玉の軸方向一方に位置する環状部と、当該環状部から軸方向他方に延びて設けられている複数の柱部と、を有し、前記環状部の軸方向他方であって周方向に隣り合う一対の前記柱部の間が、前記玉を収容するためのポケットであり、
前記保持器は、前記外方部材の凹円弧面形状の外側軌道面又は前記内方部材の凹円弧面形状の内側軌道面の一部である接触面に径方向から接触可能であって、当該接触によって当該保持器を径方向について位置決めするガイド部を有
前記保持器は、前記玉を前記ポケットに収容した状態でかつ前記外方部材と前記内方部材との間に取り付けられる前の状態で、当該ポケットに収容している当該玉と接触することで当該玉が当該ポケットから径方向へ脱落するのを防止する径方向抜け止め部を、径方向の内側及び外側それぞれに有し、
前記保持器が、前記玉を前記ポケットに収容した状態でかつ前記外方部材と前記内方部材との間に取り付けられた状態で、前記ガイド部が前記接触面に接触することで前記径方向抜け止め部と前記玉とは非接触となる、
車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記保持器が、前記玉を前記ポケットに収容した状態でかつ前記外方部材と前記内方部材との間に取り付けられた状態で、前記ガイド部と前記接触面との間の接触位置における径方向のクリアランスが、前記径方向抜け止め部と前記玉との間の径方向のクリアランスよりも小さく設定されている、
請求項に記載の車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の生産台数は、今後も増加することが予想されており、また、これまでよりも更に、消費燃料の低減が求められる。自動車には、車輪を支持するために車輪用軸受装置(ハブユニット)が用いられる。車輪用軸受装置においても、消費燃料の低減のために、低トルク化の取り組み、つまり、回転抵抗を低減する取り組みが行われている。
【0003】
車輪用軸受装置は、車体側に固定される外輪と、車輪を取り付けるフランジ部を有する内軸部材と、これら外輪と内軸部材との間に配置される複数の玉と、玉を収容するポケットを有する保持器とを備える。このような車輪用軸受装置は、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-31136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、車輪用軸受装置の場合、複数の玉は保持器によって保持されると共に、保持器の位置決めは玉によって行われる。つまり、車輪用軸受が回転すると、複数の玉は保持器と共に周方向に並んで回転し、保持器はその複数の玉によってガイドされる。このような保持器は「玉案内の保持器」と称される。
【0006】
車輪用軸受装置が回転し、玉が外輪及び内輪の軌道面に沿って回転(公転)すると、玉は保持器のポケット内で回転(自転)する。これにより、玉とポケットとの間に介在するグリースは、せん断される。玉案内の保持器の場合、ポケットは、玉よりも僅かに径の大きい球面に沿った形状を有することから、ポケットと玉との間の隙間は全体的に小さい。このため、玉とポケットとの間において、グリースが広い範囲でせん断され、そのせん断による抵抗が大きくなる。この抵抗は、車輪用軸受装置の回転抵抗となり、その回転抵抗は自動車の燃料消費に影響を及ぼす。
【0007】
そこで、本開示は、車輪用軸受装置における回転抵抗を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の車輪用軸受装置は、外方部材と、内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との間に配置される複数の玉と、前記複数の玉を保持する保持器と、を備えた車輪用軸受装置であって、前記保持器は、前記玉の軸方向一方に位置する環状部と、当該環状部から軸方向他方に延びて設けられている複数の柱部と、を有し、前記環状部の軸方向他方であって周方向に隣り合う一対の前記柱部の間が、前記玉を収容するためのポケットであり、前記保持器は、前記外方部材又は前記内方部材の一部である接触面に径方向から接触可能であって、当該接触によって当該保持器を径方向について位置決めするガイド部を有する。
【0009】
前記車輪用軸受装置によれば、保持器が径方向について変位すると、ガイド部が外方部材又は内方部材の一部の接触面と接触し、保持器は外方部材又は内方部材によって位置決めされる。このような保持器は「軌道輪案内の保持器」と称される。
これに対して、玉に接触して位置決めされる保持器は「玉案内の保持器」と称される。この場合、保持器のポケットに対する玉の回転速度は高くなり、両者間の相対速度(摺動速度)は高く、グリースがせん断されやすい。
しかし、本開示の軌道輪案内の保持器の場合、保持器は外方部材又は内方部材に接触して位置決めされる。外方部材又は内方部材と保持器との相対速度差は、ポケットと玉との相対速度差よりも小さい。このため、軌道輪案内の保持器の場合、玉案内の保持器と比較して、グリースがせん断され難い。つまり、前記ガイド部によれば、グリースのせん断による回転抵抗が小さくなる。この結果、車輪用軸受装置における回転抵抗を低減することが可能となる。
【0010】
また、車輪用軸受装置の組み立ては、複数の玉が保持器によって保持された状態とし、その複数の玉と保持器とによるユニットを、外方部材と内方部材との間に取り付けることにより、行われる。そこで、好ましくは、前記保持器は、前記玉を前記ポケットに収容した状態でかつ前記外方部材と前記内方部材との間に取り付けられる前の状態で、当該ポケットに収容している当該玉と接触することで当該玉が当該ポケットから径方向へ脱落するのを防止する径方向抜け止め部を、径方向の内側及び外側それぞれに有し、前記保持器が、前記玉を前記ポケットに収容した状態でかつ前記外方部材と前記内方部材との間に取り付けられた状態で、前記径方向抜け止め部と前記玉とは非接触となる。
この構成によれば、保持器が、玉をポケットに収容した状態でかつ外方部材と内方部材との間に取り付けられる前の状態で、径方向抜け止め部が玉に接触することでポケットから玉が径方向に脱落するのを防止することができる。このため、車輪用軸受装置の組み立てが容易となる。
そして、車輪用軸受装置が組み立てられた状態では、つまり、保持器が、複数の玉をポケットに収容した状態でかつ外方部材と内方部材との間に取り付けられた状態では、保持器が径方向に変位した場合に、径方向抜け止め部が玉に接触する前に、ガイド部が外方部材又は内方部材の前記接触面に接触し、径方向抜け止め部と玉とは接触しない。
すなわち、ポケットに玉を収容して構成された保持器のユニットを、外方部材と内方部材との間に取り付けて組み立てた後は、径方向抜け止め部は玉に接触しない。よって、保持器が径方向抜け止め部を有しているにも関わらず、その保持器は、前記のとおり軌道輪案内とされる。
【0011】
また、好ましくは、前記保持器が、前記玉を前記ポケットに収容した状態でかつ前記外方部材と前記内方部材との間に取り付けられた状態で、前記ガイド部と前記接触面との間の接触位置における径方向のクリアランスが、前記径方向抜け止め部と前記玉との間の径方向のクリアランスよりも小さく設定されている。この構成により、保持器が、玉をポケットに収容した状態でかつ外方部材と内方部材との間に取り付けられた状態で、径方向抜け止め部と玉とは非接触となる構成が得られる。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、車輪用軸受装置における回転抵抗が低減される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】車輪用軸受装置の一例を示す断面図である。
図2】玉及び保持器の斜視図である。
図3】保持器の中心線を含み、玉の中心を通過する面における断面図である。
図4】保持器の中心線を含み、柱部を通過する面における断面図である。
図5】玉及び保持器を、軸方向から見た場合であって、玉の中心を含む面における断面図である。
図6】玉及び保持器を、径方向から見た場合であって、玉の中心を含む面における断面図である。
図7】玉を保持する保持器の一部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔車輪用軸受装置の全体構成について〕
図1は、車輪用軸受装置の一例を示す断面図である。図1に示す車輪用軸受装置10(以下、「軸受装置10」とも称する。)は、車両(自動車)の車体に設けられている懸架装置(ナックル)に取り付けられ、車輪7を回転可能に支持する。軸受装置10はハブユニットとも称される。軸受装置10が車体側(懸架装置)に取り付けられた状態で、図1の左側が、車輪7側であり、車両アウタ側と称される。図1の右側が、車体中央側であり、車両インナ側と称される。
【0015】
本開示の軸受装置10では、軸受装置10の中心線C0に沿った方向が「軸方向」と定義される。軸受装置10の中心線C0を「軸受中心線C0」と称する。前記軸方向には、軸受中心線C0に平行な方向も含まれる。本開示の軸受装置10では、車両アウタ側が軸方向一方側となり、車両インナ側が軸方向他方側となる。軸受中心線C0に直交する方向が「径方向」と定義される。軸受中心線C0を中心とする軸受装置10の回転方向が「周方向」と定義される。
【0016】
軸受装置10は、外輪12(外輪部材、又は外方部材ともいう。)と、内軸部材(内方部材ともいう。)14と、外輪12と内軸部材14との間に設けられている複数の玉16と、玉16を保持する環状の保持器18とを備える。
【0017】
外輪12は、円筒形状である外輪本体部22と、外輪本体部22から径方向外方に向かって延びて設けられている固定用のフランジ部24とを有する。外輪本体部22の内周の軸方向一方側及び他方側それぞれに、外側軌道面26が形成されている。外側軌道面26は、軸受中心線C0を含む断面において、玉16よりも僅かに大きな半径を有する凹円弧面形状を有する。玉16と外側軌道面26とは点接触する。フランジ部24が車体側部材である懸架装置(図示せず)に取り付けられる。これにより、外輪12を含む軸受装置10が車体に固定される。
【0018】
内軸部材14は、軸状のハブ軸32(内軸)と、ハブ軸32の軸方向他方側に固定されている内輪34とを有する。ハブ軸32は、外輪12の径方向内方に設けられている軸本体部36と、フランジ部38とを有する。軸本体部36は、軸方向に長い部分である。フランジ部38は、軸本体部36の軸方向一方側から径方向外方に向かって延びて設けられている。フランジ部38に、ボルト穴39が形成されている。このボルト穴39に取り付けられるボルト8によって車輪7がフランジ部38に固定される。内輪34は、環状の部材であり、軸本体部36の軸方向他方側の一部40に外嵌して固定されている。
【0019】
軸本体部36の外周側に軸軌道面42が形成されていて、内輪34の外周面に内輪軌道面44が形成されている。軸方向一方側の外側軌道面26と軸軌道面42との間に複数の玉16が設けられている。軸方向他方側の外側軌道面26と内輪軌道面44との間に複数の玉16が設けられている。軸軌道面42及び内輪軌道面44それぞれは、軸受中心線C0を含む断面において、玉16よりも僅かに大きな半径を有する凹円弧面形状を有する。玉16と軸軌道面42とは点接触し、玉16と内輪軌道面44とは点接触する。
【0020】
軸方向一方側に配置されている複数の玉16の列に関して、各玉16と外側軌道面26との接触点を「P1」とし、その玉16と軸軌道面42との接触点を「P2」とし、これら接触点P1と接触点P2とを通過する仮想直線を「L1」とする。軸受中心線C0に直交し玉16の中心cを通る仮想平面K1に対して、仮想直線L1は傾斜している。つまり、軸方向一方側において、玉16は、外側軌道面26及び軸軌道面42に対して接触角を有して接触している。前記接触角は、仮想直線L1と仮想平面K1とが成す角度である。複数の玉16と、外側軌道面26を有する外輪12と、軸軌道面42を有する内軸部材14とにより、アンギュラ玉軸受が構成されている。
【0021】
軸方向他方側に配置されている複数の玉16の列に関して、各玉16と外側軌道面26との接触点を「P3」とし、その玉16と内輪軌道面44との接触点を「P4」とし、これら接触点P3と接触点P4とを通過する仮想直線を「L2」とする。軸受中心線C0に直交し玉16の中心cを通る仮想平面K2に対して、仮想直線L2は傾斜している。つまり、軸方向他方側において、玉16は、外側軌道面26及び内輪軌道面44に対して接触角を有して接触している。前記接触角は、仮想直線L2と仮想平面K2とが成す角度である。複数の玉16と、外側軌道面26を有する外輪12と、内輪軌道面44を有する内輪34を含む内軸部材14とにより、アンギュラ玉軸受が構成されている。
【0022】
軸方向一方側及び軸方向他方側の玉16の列それぞれにおいて、複数の玉16は保持器18によって保持されている。以上より、外輪12に対して内軸部材14が軸受中心線C0を中心として回転する。軸方向一方側の保持器18と軸方向他方側の保持器18とは、軸方向について反対向きで取り付けられているが、構成は同じである。以下において、車両インナ側となる軸方向他方側の保持器18及びその周囲の構成について説明する。
【0023】
〔保持器18について〕
図2は、玉16及び保持器18の斜視図である。図2は、説明のために、左側の玉16が一つ、保持器18から外された状態を示している。なお、玉16を保持する保持器18が外輪12と内軸部材14との間に設けられた状態では、保持器18の中心線C1は、軸受中心線C0と一致する。図3は、保持器18の中心線C1を含み、玉16の中心cを通過する面における断面図である。なお、図3では、玉16は断面として示されていない。
【0024】
保持器18は、円環状である環状部51と、複数の柱部52とを有する。環状部51は、複数の玉16の軸方向一方に位置する。各柱部52は、環状部51から軸方向他方に延びて設けられている。複数の柱部52は周方向について等間隔で配置されている。環状部51の軸方向他方であって周方向に隣り合う一対の柱部52,52の間が、玉16を収容するためのポケット53である。各柱部52は、外側軌道面26に接触可能であるガイド部56を有する。ガイド部56は、玉16に対する保持器18の位置決めを行う機能を有する。その機能については後に説明する。
【0025】
前記のとおり、玉16は、外輪12及び内輪34それぞれに点接触していて(図3参照)、外輪12及び内輪34に対して軸方向及び径方向に移動不能である。玉16とポケット53との間には全体として隙間が形成されていることから、保持器18は玉16に対して軸方向及び径方向に変位可能である。
【0026】
軸受装置10(内軸部材14)が回転すると、玉16は外輪12及び内軸部材14に沿って回転(公転)すると共に、玉16はポケット53内で回転中心線L3周りに回転(自転)する。回転中心線L3は、玉16と外側軌道面26との接触点P3と、玉16と内輪軌道面44との接触点P4とを通過する仮想直線L2に直交する。
【0027】
〔ポケット53について〕
図2及び図3に示すように、ポケット53は、(第一の)接触面部54と(第一の)非接触面部55とを有する。接触面部54は、保持器18が軸方向他方に変位すると、玉16の回転中心線L3上の点Qで、玉16と点接触する。本開示の接触面部54は、回転中心線L3に直交する平面により構成されている。非接触面部55は、接触面部54の隣りでありかつその周りに設けられている。本開示の非接触面部55は、玉16よりも径が大きな球面に沿った形状を有する。
【0028】
非接触面部55を構成する前記球面の中心が「ポケット53の中心」と定義される。玉16の中心cとポケット53の中心とが一致した状態で、ポケット53と玉16との間に全体として隙間が形成される。このため、保持器18は玉16に対して軸方向及び径方向に変位可能となる。ただし、後に説明するが、その変位は、接触面部54及び保持器18のガイド部56によって制限される。玉16の中心cとポケット53の中心とが一致した状態で、接触面部54と玉16との間に生じる隙間(点Qにおける隙間)は、非接触面部55と玉16との間に生じる隙間よりも小さい。その隙間について更に説明する。
【0029】
本開示において、ポケット53の中心と、玉16の中心cとが一致した状態を、中心一致状態と称する。図3に示すように、中心一致状態で、接触面部54と玉16との間の接触位置(点Q)における軸方向のクリアランスE1は、玉16と非接触面部55との間に形成される軸方向のクリアランスE2の最小値よりも小さい(E1<E2min)。このため、保持器18が軸方向他方に変位した場合に、非接触面部55が玉16に接触する前に接触面部54が玉16に点接触し、玉16と非接触面部55とは接触しない。つまり、非接触面部55は、保持器18が軸方向他方に変位しても、玉16と接触不能である。
【0030】
〔ガイド部56について〕
保持器18の柱部52が有するガイド部56について説明する。図4は、保持器18の中心線C1を含み、柱部52を通過する面における断面図である。図5は、玉16及び保持器18を、軸方向から見た場合であって、玉16の中心cを含む面における断面図である。つまり、図5は、図3に示す前記仮想平面K2における断面図である。図6は、玉16及び保持器18を、径方向から見た場合であって、玉16の中心cを含む面における断面図である。
【0031】
図4に示すように、本開示の柱部52は、環状部51から軸方向に延びて設けられていると共に、外輪12側(径方向外方)に向かって延びて設けられている。柱部52の径方向外側の部分が、外輪12に接触可能となるガイド部56である。ガイド部56は、外輪12の一部である外側軌道面26(接触面、又は、軌道輪接触面ともいう。)に径方向から接触可能である。ガイド部56と外側軌道面26とは点接触するように、ガイド部56の形状は設定されている。保持器18が径方向外方に変位すると、ガイド部56は、外側軌道面26に対して径方向から接触する。これにより、保持器18は外輪12によって径方向について位置決めされる。このような本開示の保持器18は「軌道輪案内の保持器」と称される。
【0032】
なお、本開示では、ガイド部56は、外側軌道面26に接触する場合について説明したが、内輪軌道面44に接触する構成であってもよい。以上より、ガイド部56は、外輪12又は内輪34の一部である接触面(外側軌道面26又は内輪軌道面44)に径方向から接触可能であって、その接触によって保持器18が径方向について位置決めされる。
【0033】
保持器18が、前記のとおり軌道輪案内とされるために、次のように構成されている。すなわち、前記中心一致状態において、外側軌道面26とガイド部56との間に形成される接触位置における径方向のクリアランスE3は(図4参照)、玉16とポケット53(図5参照)との間に形成される径方向のクリアランスE4の最小値よりも小さい(E3<E4min)。この構成により、保持器18が径方向外方に変位した場合に、ポケット53が玉16に接触する前にガイド部56が外側軌道面26に接触し、ポケット53は玉16に接触しない。
【0034】
前記のとおり、ガイド部56は、保持器18の径方向についての位置決めを行う機能を有する。本開示のガイド部56は、次に説明するように、保持器18の軸方向についての位置決めを行う機能も有する。すなわち、図4において、保持器18が軸方向一方に変位すると、ガイド部56は外側軌道面26に軸方向から接触することで、保持器18の軸方向一方の変位が規制される。ガイド部56と外側軌道面26とは点接触するように、ガイド部56の形状は設定されている。
【0035】
前記のように、保持器18が軸方向一方に変位した場合に、ガイド部56が外側軌道面26に接触し、ポケット53は玉16に接触しないようにするために、次のように構成されている。すなわち、外側軌道面26とガイド部56との間の接触位置における軸方向のクリアランスE5(図4参照)は、玉16とポケット53(図6参照)との間に形成される軸方向のクリアランスE6の最小値よりも小さい(E5<E6min)。
【0036】
反対に、保持器18が軸方向他方に変位すると、図3において、ポケット53の接触面部54が玉16と点接触することで、保持器18の軸方向他方の変位が規制される。保持器18が軸方向他方に変位した場合に、接触面部54が玉16に点接触し、ポケット53の接触面部54以外の面(例えば、非接触面部55)と玉16とが接触しないようにするために、次のように構成されている。すなわち、図3において、接触面部54と玉16との間の接触位置における軸方向のクリアランスE1は、ポケット53の接触面部54以外の面(非接触面部55)と玉16との間に形成される軸方向のクリアランスE7の最小値よりも小さい(E1<E7min)。
【0037】
〔外輪12及び内軸部材14それぞれと玉16との接触について〕
前記のとおり(図1参照)玉16が接触角を有して外輪12及び内軸部材14に接触するアンギュラ玉軸受を、軸方向一方側及び軸方向他方側それぞれに有して構成されている。軸方向一方側及び軸方向他方側それぞれの保持器18において(図2及び図3参照)、各ポケット53は、接触面部54と、非接触面部55とを有する。図3において、保持器18が軸方向他方に変位すると、接触面部54は、玉16の回転中心線L3上の点Qで、玉16と点接触する。非接触面部55は、接触面部54の隣りに設けられている面であり、保持器18が軸方向他方に変位しても、玉16と接触不能である。
【0038】
この軸受装置10によれば、図3に示すアンギュラ玉軸受を構成する部分において、保持器18が軸方向他方に変位する場合、接触面部54と玉16とが点接触する。このため、ポケット53と玉16との接触面積はゼロに近づく。つまり、ポケット53と玉16との間においてグリースがせん断される面の面積(グリースのせん断面積)が可及的に小さくなる。したがって、グリースのせん断抵抗を低減することが可能となる。
【0039】
しかも、玉16は、回転中心線L3上の点Qでポケット53の接触面部54に点接触する。その点接触する位置では、ポケット53と玉16との相対速度(摺動速度)はゼロに近づく。このため、玉16とポケット53とが接触する点Qでのグリースのせん断抵抗を更に低減することが可能となる。
【0040】
そして、ポケット53において、接触面部54の隣りに設けられている非接触面部55では、玉16と接触不能であり、これにより、非接触面部55と玉16との間に広いクリアランス(E2)が生じる。この広いクリアランス(E2)により、非接触面部55と玉16との間においてグリースはせん断され難く、回転抵抗が低減される。
【0041】
また、本開示の軸受装置10では、保持器18がガイド部56を有する(図4参照)。ガイド部56は、外輪12の一部である外側軌道面26に径方向から接触可能であって、その接触によって保持器18を径方向について位置決めすることができる。つまり、本開示の軸受装置10では、保持器18は「軌道輪案内の保持器」である。
【0042】
ガイド部56は、前記のとおり、保持器18の径方向の位置決めのために機能する他に、軸方向の位置決めのためにも機能する。すなわち、保持器18が軸方向一方に変位すると、ガイド部56が外側軌道面26に軸方向から接触することで、その変位が規制される。なお、本開示では、保持器18が軸方向他方に変位すると、接触面部54が玉16と点接触することで、その変位が規制される。
【0043】
以上のように、軸方向一方に変位する保持器18の位置決めは、外側軌道面26に接触するガイド部56によって行われる。ガイド部56(保持器18)と外輪12との相対速度差は、前記のとおり小さいので、グリースはせん断され難い。そして、軸方向他方に変位する保持器18の位置決めは、接触面部54(図3参照)によって行われる。接触面部54は玉16と接触するが、その接触態様は点接触である。このため、グリースのせん断面積は小さくなる。また、玉16の回転中心線L3上の点Qで、接触面部54と玉16とは点接触する。点Qでは、接触面部54と玉16との相対速度(摺動速度)はゼロに近づくことから、グリースのせん断抵抗は低減される。
【0044】
〔ポケット53の形状について〕
ポケット53の形状について更に説明する。図7は、玉16を保持する保持器18の一部を示す斜視図である。図7では、ポケット53の形状を説明するために、玉16が一つ外された状態にある。各柱部52は、ポケット53に含まれる周方向に向く側面59に、第二の接触面部57と、第二の接触面部57の隣りに設けられている非接触面部58とを有する。
【0045】
本開示では、第二の接触面部57の径方向外側の隣りに、第二の非接触面部58が設けられていて、第二の接触面部57の径方向内側の隣りに、第一の非接触面部55が設けられている。第二の接触面部57は、平面により構成されている。第二の接触面部57は、玉16と点接触可能な面である。第二の非接触面部58は、玉16と接触不能な面である。前記のとおり、第一の非接触面部55も、玉16と接触不能となる面である。
【0046】
前記のとおり、第二の接触面部57は、玉16と点接触可能な面であるのに対して、第二の非接触面部58は、玉16と接触不能な面である。この構成を得るために、次のように各部の形状は設定されている。すなわち、前記中心線一致状態において、第二の接触面部57と玉16との間の接触位置における周方向のクリアランスE9は、ポケット53の内の第二の接触面部57以外の面(第一の非接触面部55及び第二の非接触面部58)と玉16との間に形成される周方向のクリアランス(E10及びE11)の最小値よりも小さく設定されている。
【0047】
軸受装置10(内軸部材14)が回転すると、玉16は、周方向に進んで柱部52に接触する。この際、その玉16は柱部52の第二の接触面部57に点接触し、非接触面部55,58には非接触となる。軸受装置10が回転すると、各ポケット53の周方向に向く側面59に玉16が接触するが、側面59の内の第二の接触面部57に玉16が接触する。玉16が第二の接触面部57に接触する態様は、点接触である。このため、その接触位置における、グリースのせん断面積を可及的に小さくすることができる。
【0048】
〔保持器18が有する玉16の脱落防止の機能について〕
図1に示す軸受装置10は、次のようにして組み立てられる。まず、単体の保持器18の各ポケット53に玉16を収容し、保持器18のユニット19(図2参照)を得る。保持器18のユニット19は、二つ組み立てられる。外輪12に対して、その軸方向一方側から、一つのユニット19を軸本体部36と共に取り付ける。これら外輪12及び軸本体部36に対して、外輪12の軸方向他方側から、別のユニット19を内輪34と共に取り付ける。軸本体部36の端部36aを塑性変形させることで、内輪34が軸本体部36に固定される。以上のようにして軸受装置10は組み立てられる。
【0049】
図2に示すユニット19の状態で、ポケット53から玉16が脱落しないように、保持器18は、玉16の脱落を防止する部分を有する。つまり、保持器18は、ポケット53に収容した玉16が軸方向他方に脱落するのを防止する軸方向抜け止め部61を有する。軸方向抜け止め部61は、柱部52の軸方向他方側の端部に設けられている。ポケット53に収容されている玉16の直径よりも、そのポケット53の周方向両側にある軸方向抜け止め部61,61の間隔G1は小さい。このため、ポケット53から玉16は、軸方向に脱落しない。
【0050】
更に、保持器18は、ポケット53に収容した玉16が径方向外方に脱落するのを防止する外側の径方向抜け止め部62(図5参照)、及び、当該玉16が径方向内方に脱落するのを防止する内側の径方向抜け止め部63(図5参照)を有する。外側の径方向抜け止め部62は、柱部52の径方向外側の端部に設けられている。内側の径方向抜け止め部63は、柱部52の径方向内側の端部に設けられている。
【0051】
一つのポケット53に収容されている玉16の直径よりも、そのポケット53の周方向両側にある外側の径方向抜け止め部62,62の間隔G2は小さい。このため、ポケット53から玉16は、径方向外方に脱落しない。また、一つのポケット53に収容されている玉16の直径よりも、そのポケット53の周方向両側にある内側の径方向抜け止め部63,63の間隔G3は小さい。このため、ポケット53から玉16は、径方向内方に脱落しない。なお、玉16をポケット53に収容するためには、本開示の場合、玉16を保持器18の外周側からポケット53へ押し入れ、その際、外側の径方向抜け止め部63,63を弾性変形させる。
【0052】
以上のように(図2参照)保持器18は、軸方向抜け止め部61を有する。軸方向抜け止め部61は、玉16をポケット53に収容した状態で、かつ、外輪12と内輪34(軸本体部36)との間に取り付けられる前の状態で、ポケット53に収容している玉16と接触することで玉16がポケット53から軸方向他方へ脱落するのを防止する。
【0053】
なお、以下において、玉16をポケット53に収容した状態で、かつ、保持器18が外輪12と内輪34(軸本体部36)との間に取り付けられる前の状態(図2に示す状態)を、「取り付け前ユニット状態」と称する。これに対して、玉16をポケット53に収容した状態で、かつ、保持器18が外輪12と内輪34(軸本体部36)との間に取り付けられた状態(図1に示す状態)を、「取り付け後組み立て状態」と称する。
【0054】
図2に示す取り付け前ユニット状態では、保持器18からの玉16の脱落の防止のために、軸方向抜け止め部61,61に玉16が接触可能である。これに対して、取り付け後組み立て状態では、軸方向抜け止め部61,61と玉16とは非接触となるように構成されている。この構成とするために、前記中心一致状態において、ガイド部56と外側軌道面26との間の接触位置における軸方向のクリアランスE5(図4参照)が、軸方向抜け止め部61と玉16との間の軸方向のクリアランス(E6、図6参照)の最小値よりも小さくなる(E5<E6min)ように設定されている。
【0055】
以上より、取り付け後組み立て状態では、保持器18が軸方向一方に変位した場合に、軸方向抜け止め部61,61が玉16に接触する前に、ガイド部56が外側軌道面26に接触し、軸方向抜け止め部61,61と玉16とは接触しない。よって、取り付け後組み立て状態では、「玉案内の保持器」ではなく、前記のとおり、「軌道輪案内の保持器18」とされる。
【0056】
更に、保持器18は、図5に示すように、径方向について外側の径方向抜け止め部62を有し、更に、径方向について内側の径方向抜け止め部63を有する。外側の径方向抜け止め部62は、取り付け前ユニット状態で、ポケット53に収容している玉16と接触することで玉16がポケット53から径方向の外方へ脱落するのを防止する。内側の径方向抜け止め部63は、取り付け前ユニット状態で、ポケット53に収容している玉16と接触することで玉16がポケット53から径方向の内方へ脱落するのを防止する。
【0057】
前記のように、取り付け前ユニット状態では、玉16の脱落の防止のために、外側の径方向抜け止め部62,62に玉16が接触可能であり、また、内側の径方向抜け止め部63,63に玉16が接触可能である。これに対して、取り付け後組み立て状態では、外側の径方向抜け止め部62,62と玉16とは非接触となり、また、内側の径方向抜け止め部63,63と玉16とは非接触となるように構成されている。
【0058】
この構成とするために、前記中心一致状態において、ガイド部56と外側軌道面26との間の接触位置における径方向のクリアランスE3(図4参照)が、外側の径方向抜け止め部62,62と玉16との間の径方向のクリアランスE8(図5参照)の最小値よりも小さくなる(E3<E8min)ように設定されている。また、前記中心一致状態において、ガイド部56と外側軌道面26との間の接触位置における径方向のクリアランスE3(図4参照)が、内側の径方向抜け止め部63,63と玉16との間の径方向のクリアランスE4(図5参照)の最小値よりも小さくなる(E3<E4min)ように設定されている。
【0059】
以上より、取り付け後組み立て状態では、保持器18が径方向外方(内方)に変位した場合に、径方向抜け止め部62,62(63,63)が玉16に接触する前に、ガイド部56が外側軌道面26に接触し、径方向抜け止め部62,62(63,63)と玉16とは接触しない。よって、取り付け後組み立て状態では、「玉案内の保持器」ではなく、前記のとおり、「軌道輪案内の保持器18」とされる。
【0060】
〔本開示の車輪用軸受装置10に関して〕
本開示の車輪用軸受装置10が備える保持器18は(図4参照)、前記のとおり、ガイド部56を有する。ガイド部56は、外輪12の一部である外側軌道面26に径方向から接触可能であって、その接触によって保持器18を径方向について位置決めする。すなわち、保持器18は、径方向について変位すると、ガイド部56が外側軌道面26と接触し外輪12によって位置決めされる「軌道輪案内の保持器」である。
【0061】
これに対して、保持器が玉に接触して位置決めされる「玉案内の保持器」の場合、保持器のポケットに対する玉の回転速度は高くなり、両者間の相対速度(摺動速度)は高く、グリースがせん断されやすい。
【0062】
本開示のように、軌道輪案内の保持器18の場合、その保持器は外輪12に接触して位置決めされる。外輪12と保持器18との相対速度差は、ポケット53と玉16との相対速度差(ポケット53に対する玉16の回転速度)よりも小さい。このため、軌道輪案内の保持器18の場合、前記玉案内の保持器と比較して、グリースがせん断され難い。つまり、前記ガイド部56によれば、グリースのせん断による回転抵抗を小さくすることができる。この結果、軸受装置10における回転抵抗を低減することが可能となる。また、グリースがせん断され難いので、グリースの寿命を低下させ難い。
【0063】
更に、本開示の軸受装置10の組み立ては、図2に示すように、複数の玉16が保持器18によって保持された状態とし、その複数の玉16と保持器18とによるユニット19を、外輪12と内軸部材14との間に取り付けることにより、行われる。
そこで、保持器18は、径方向外側の径方向抜け止め部62、及び径方向内側の径方向抜け止め部63を有する。これら径方向抜け止め部62,63それぞれは、前記取り付け前ユニット状態で、ポケット53に収容している玉16と接触することで、その玉16がポケット53から径方向へ脱落するのを防止する。このため、車輪用軸受装置の組み立てが容易となる。更に、本開示では、保持器18は、軸方向抜け止め部61も有する。
【0064】
そして、前記取り付け後組み立て状態では、径方向抜け止め部62,63それぞれと玉16とは非接触となる。つまり、保持器18が径方向に変位した場合に、径方向抜け止め部62,63が玉16に接触する前に、ガイド部56が外輪12の外側軌道面26に接触し、径方向抜け止め部62,63と玉16とは接触しない。
【0065】
この構成を得るために、本開示の保持器18は、次のように構成されている。
すなわち、保持器18は、前記取り付け後組み立て状態で、ガイド部56と外輪12の外側軌道面26との間の接触位置における径方向のクリアランスE3(図4参照)が、径方向抜け止め部62と玉16との間の径方向のクリアランスE8(図5参照)よりも小さく設定されている(E3<E8min)。また、前記クリアランスE3(図4参照)は、径方向抜け止め部63と玉16との間の径方向のクリアランスE4よりも小さく設定されている(E3<E4min)。
【0066】
以上より、ポケット53に玉16を収容して構成された保持器18のユニット19を、外輪12と内軸部材14との間に取り付けて組み立てた後は、径方向抜け止め部62,63は玉16に接触しない。よって、保持器18が径方向抜け止め部62,63を有しているにも関わらず、その保持器18は、前記のとおり軌道輪案内とされる。軌道輪案内の保持器18では、玉案内の保持器と比較して、グリースがせん断され難く、グリースのせん断による回転抵抗を小さくすることができる。
【0067】
〔その他〕
以上の保持器18に関する説明は、図1に示す軸受装置10の軸方向他方側の保持器18についての説明である。前記のとおり、軸方向一方側の保持器18と軸方向他方側の保持器18とは、取り付けの向きが軸方向について反対であるが、構成は同じである。このため、軸方向他方側の保持器18に関する前記の各説明を、軸方向一方側の保持器18に当てはめる場合、軸方向についての一方と他方とを反対にして読み替えればよい。
【0068】
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の技術的範囲は前述の実施形態に限定されるものではなく、この技術的範囲には特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0069】
10:車輪用軸受装置 12:外輪(外方部材) 14:内軸部材(内方部材) 16:玉 18:保持器 51:環状部 52:柱部 53:ポケット 56:ガイド部 62:径方向抜け止め部 63:径方向抜け止め部 E1~E10:クリアランス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7