(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】車両の上部構造
(51)【国際特許分類】
H01Q 1/22 20060101AFI20231114BHJP
H01Q 1/32 20060101ALI20231114BHJP
H01Q 21/28 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
H01Q1/22 B
H01Q1/32 Z
H01Q21/28
(21)【出願番号】P 2019134569
(22)【出願日】2019-07-22
【審査請求日】2022-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】谷岡 泰仁
(72)【発明者】
【氏名】重田 一生
(72)【発明者】
【氏名】平佐 美明
(72)【発明者】
【氏名】志村 俊幸
(72)【発明者】
【氏名】沼元 正樹
(72)【発明者】
【氏名】三宅 弘一
【審査官】岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-134287(JP,A)
【文献】特開昭62-292004(JP,A)
【文献】特開平07-273526(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 1/22
H01Q 1/32
H01Q 21/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の上部構造であって、
車室空間の上部を覆うルーフと、
前記ルーフの上面に配設されたケーシング及び当該ケーシング内に収容された、電波を送受信するアンテナを含む
第1アンテナ装置と、
前記
第1アンテナ装置に隣接して配置された樹脂部材と、
前記樹脂部材に取り付けられて金属層を形成する金属部材と、
前記ルーフの後方に配置されて一部の領域が前記樹脂部材の下方に位置するリアウインドウと、
前記リアウインドウの前記一部の領域に備えられたアンテナを含む第2アンテナ装置と、を備え、
前記
第1アンテナ装置のアンテナは、前記ルーフの上面及び前記樹脂部材の上面に指向する電波を送受信するものであり、
前記金属部材は、前記樹脂部材の上面に指向する前記電波を反射させるように配置さ
れるとともに、前記樹脂部材のうち、車両平面視において前記第2アンテナ装置のアンテナと重ならない位置に取り付けられている、ことを特徴とする車両の上部構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の上部構造において、
前記金属部材は、前記樹脂部材の上面に取り付けられている、ことを特徴とする車両の上部構造。
【請求項3】
請求項2に記載の車両の上部構造において、
前記金属部材は、前記樹脂部材の上面に取り付けられた金属プレートからなる、ことを特徴とする車両の上部構造。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の車両の上部構造において、
前記
第1アンテナ装置は、前記ルーフの上面の車両後方側の領域に配設されている、ことを特徴とする車両の上部構造。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一項に記載の車両の上部構造において、
前記樹脂部材は、前記
第1アンテナ装置の車両後方側の領域に配設されている、ことを特徴とする車両の上部構造。
【請求項6】
請求項1に記載の車両の上部構造において、
前記樹脂部材は、上側樹脂層と下側樹脂層とを備え、
前記金属部材は、前記上側樹脂層と前記下側樹脂層との間に介設されている、ことを特徴とする車両の上部構造。
【請求項7】
請求項2又は6に記載の車両の上部構造において、
前記金属部材は、金属の表面処理層である、ことを特徴とする車両の上部構造。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか一項に記載の車両の上部構造において、
前記電波は、V2X通信で使用される周波数帯の電波である、ことを特徴とする車両の上部構造。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか一項に記載の車両の上部構造において、
前記樹脂部材は、リアウインドウスポイラである、ことを特徴とする車両の上部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両の上部構造に関し、特に車両のルーフ上にアンテナ装置を備えた車両の上部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車等の車両では、ルーフ上にアンテナ装置を装備することが行われている。アンテナ装置には、一乃至複数の車載通信機器のアンテナが内蔵されている。近年では、デザイン性から、例えば特許文献1に開示されるような、シャークフィン型のアンテナ装置がルーフの後端部分に備えられた車両が多く見られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アンテナは、従来、車両上空に向かっての電波の送受信を対象とするものであった。しかし、近年、車車間(V2V/Vehicle-to-Vehicle)通信や車路間(V2I/Vehicle-to-Roadside-Infrastructure)通信に代表されるV2X通信の進展により、アンテナ装置にV2X通信用のアンテナが内蔵される場合には、ルーフに沿った方向についても電波の送受信を適切に行うことが求められる。そのため、例えばリアゲートに樹脂製のリアウインドウスポイラ(リアウインドウディフレクタとも称す)が装着される車両や、ルーフ上に樹脂製のルーフレール等が装着されるタイプの車両については、次のような課題がある。
【0005】
これらの車両では、ルーフに沿ってアンテナ装置とリアウインドウスポイラ等とが近接して配置される。樹脂製のリアウインドウスポイラ等は電波を透過させることが可能であるが、完全に電波を透過させることは実際には困難であり、リアウインドウスポイラ等の上面に指向する電波が、当該リアウインドウスポイラ等の内部に入射し、当該内部で不規則に反射して電波干渉を誘発する場合がある。そのため、このような電波干渉が、電波の送受信性能の低下をもたらし、V2X通信の精度を確保する上で無視できない場合が生じる。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みて成されたものであり、ルーフ上にアンテナ装置を備えた車両において、アンテナ装置による電波の送受信性能を向上させることが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面に係る車両の上部構造は、車室空間の上部を覆うルーフと、前記ルーフの上面に配設されたケーシング及び当該ケーシング内に収容された、電波を送受信するアンテナを含む第1アンテナ装置と、前記第1アンテナ装置に隣接して配置された樹脂部材と、前記樹脂部材に取り付けられて金属層を形成する金属部材と、前記ルーフの後方に配置されて一部の領域が前記樹脂部材の下方に位置するリアウインドウと、前記リアウインドウの前記一部の領域に備えられたアンテナを含む第2アンテナ装置と、を備え、前記第1アンテナ装置のアンテナは、前記ルーフの上面及び前記樹脂部材の上面に指向する電波を送受信するものであり、前記金属部材は、前記樹脂部材の上面に指向する前記電波を反射させるように配置されるとともに、前記樹脂部材のうち、車両平面視において前記第2アンテナ装置のアンテナと重ならない位置に取り付けられているものである。
【0008】
ここで、上記「樹脂部材に取り付けられて金属層を形成する金属部材」との記載における「取り付けられ」とは、ボルトナット等による機械的な取り付けの他、接着、塗装、めっき等も含む意味である。
【0009】
この車両の上部構造によれば、樹脂部材の上面に指向する電波は金属部材で反射(正反射)する。そのため、樹脂部材の上面に指向する電波が樹脂部材の内部で不規則に反射して電波干渉を生じさせることが抑制され、その結果、アンテナ装置による電波の送受信性能が向上する。また、リアウインドウに備えられた第2アンテナ装置による電波の送受信を妨げることなく、第1アンテナ装置による電波の送受信性能を向上させることが可能となる。
【0010】
上記構造において、前記金属部材は、前記樹脂部材の上面に取り付けられているのが好適である。
【0011】
この構造よれば、樹脂部材の上面に金属部材による金属層が形成されているため、樹脂部材の上面に指向する電波が当該樹脂部材の内部に入射することが抑制される。そのため、当該電波が樹脂部材の内部で不規則に反射することによる電波干渉の発生を、より高度に抑制することが可能となる。
【0012】
この場合、前記金属部材は、前記樹脂部材の上面に取り付けられた金属プレートであるのが好適である。
【0013】
この構造によれば、樹脂部材の上面に金属プレートを取り付けた簡単かつ安価な構造で、上述の通りの作用効果を享受することが可能となる。
【0014】
上記各態様の車両の上部構造において、前記第1アンテナ装置は、前記ルーフの上面の車両後方側の領域に配設されている。
【0015】
近年、ルーフ上面の車両後方側の領域にシャークフィンタイプの第1アンテナ装置が設けられる合が多く見られる。車両の後方側の領域には、種々の樹脂部材が配置される場合があり、ルーフ上面の車両後方側の領域に第1アンテナ装置が配置される場合には、その送受信性能が樹脂部材の影響を受け易くなる。よって、上記各態様の車両の上部構造は、このように、前記第1アンテナ装置が、ルーフの上面の車両後方側の領域に配設されている場合に有用なものと言える。
【0016】
また、上記各態様の車両の上部構造において、前記樹脂部材は、前記第1アンテナ装置の車両後方側の領域に配設されている。
【0017】
このような構造では、例えば後続車との車車間通信において第1アンテナ装置の送受信性能が樹脂部材の影響を受け易くなると考えられる。よって、上記各態様の車両の上部構造は、このように、第1アンテナ装置の車両後方側の領域に樹脂部材が配設されている場合に有用なものと言える。
【0018】
また、前記樹脂部材が、上側樹脂層と下側樹脂層とを備える場合には、前記金属部材は、前記上側樹脂層と前記下側樹脂層との間に介設されていてもよい。
【0019】
この構造では、樹脂部材の上面に指向する電波は上側樹脂層に入射し得るが、当該電波は、下側樹脂層に入射することなく金属部材(金属層)で反射(正反射)する。そのため、金属部材が設けられていない場合に比べると、樹脂部材の内部で電波が不規則に反射することによる電波干渉の発生が抑制される。よって、この構造の場合も、第1アンテナ装置による電波の送受信性能を向上させることが可能となる。
【0020】
なお、前記金属部材は、金属の表面処理層であってもよい。
【0021】
この構造によれば、金属部材(金属層)の薄厚化及び低重量化を図ること、加えて金属部材と樹脂部材との一体化を高度に達成しながら、第1アンテナ装置による電波の送受信性能を向上させることが可能となる。
【0022】
上記各態様の車両の上部構造において、前記電波は、V2X通信で使用される周波数帯の電波である。
【0023】
V2X通信では、車車間通信や車路間通信などルーフパネルに沿った方向やそれよりも若干下向きの方向についても電波の送受信を適切に行うことが求められ、第1アンテナ装置に隣接して樹脂部材が配置される場合には、当該樹脂部材の上面に指向する電波の送受信の信頼性が、V2X通信の通信精度に影響する。よって、上記各態様の車両の上部構造は、前記電波がV2X通信で使用される周波数帯(700MHz帯、5.8GHz帯及び5.9GHz帯)の電波である場合に特に有用と言える。
【0026】
上記各態様の車両の上部構造において、前記樹脂部材は、リアウインドウスポイラである。
【0027】
例えばリアゲードを有するハッチバックタイプの車両では、走行性能の向上やデザイン性などの観点からリアゲートの前端部(上端部)にリアウインドウスポイラが設けられる。リアウインドウスポイラは、比較的面積が広く、第1アンテナ装置と樹脂製のリアウインドウスポイラとが隣接して配置されていると、リアウインドウスポイラの影響(上記電波干渉の影響)を受けて第1アンテナ装置による電波の送受信性能が低下するおそれがある。よって、上述した各態様の車両の上部構造は、前記樹脂部材としてリアウインドウスポイラを備えた車両の上部構造として特に有用である。
【発明の効果】
【0028】
上記の各態様に係る車両の上部構造によれば、ルーフ上にアンテナ装置を備えた車両において、アンテナ装置による電波の送受信性能を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る車両の上部構造が適用された車両(自動車)の後部斜視図である。
【
図4】前記車両の後部断面図(
図3のIV-IV線断面図)である。
【
図5】前記車両のアンテナ装置による受信強度特性を示す特性図である。
【
図6】比較例に係る車両のアンテナ装置による受信強度特性を示す特性図である。
【
図7】第2実施形態に係る車両の後部平面図である。
【
図8】前記車両の後部断面図(
図7のVIII-VIII線断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0031】
[第1実施形態]
図1は、本発明に係る車両の上部構造が適用された車両の後部斜視図であり、
図2は、前記車両の後部側面図である。
【0032】
図1及び
図2に示す車両1は、車室空間の上部を覆うルーフ3を備えた車両ボディ2と、この車両ボディ2に各々図外のヒンジを介して開閉可能に支持された、フロントドア(図示省略)、リアドア3及びリフトゲート4と、を備える5ドアのハッチバックタイプの自動車である。
【0033】
車両1の後部には、左右一対のリアコンビランプ6が備えられている。リアコンビランプ6は、ストップランプやターンシグナルランプとして機能するものである。当実施形態では、リアコンビランプ6は、車両ボディ2に組み付けられた外側ランプ6aと、リフトゲート4に組み付けられた内側ランプ6bとからなる分割構造を有する。
【0034】
車両1には、ECU(図示省略)とアンテナ装置10(本発明の「第1アンテナ装置」に相当する)とを含む車載無線通信装置が搭載されおり、ルーフ3の上面に前記アンテナ装置10が配置されている。この車載無線通信装置は、車車間(Vehicle-to-Vehicle)通信や車路間(Vehicle-to-Roadside-Infrastructure)通信を行う機能を備えている。なお、以下の説明では、これら車車間通信および車路間通信を纏めてV2X通信と称する。
【0035】
アンテナ装置10は、ルーフ3の上面、すなわち薄板鋼板等からなる金属製のルーフパネル3aの上面のうち、その後端部分の領域であってかつ車幅方向の中央部分に配置されている。
【0036】
アンテナ装置10は、シャークフィン型のルーフアンテナであり、ルーフ3の上面に固定された樹脂製のケーシング11aと、当該ケーシング11a内に収容された、V2X通信の電波を送受信するためのアンテナ11bとを備えている。
【0037】
V2X通信の電波の周波数帯は、当例では5.8GHz帯~5.9GHz帯(5.850GHz~5.925GHz)であり、従って、アンテナ11bは、この5.8GHz帯~5.9GHz帯の電波を送受信可能な電気長を有している。なお、V2X通信の電波の周波数帯としは、700MHz帯を使用することも可能である。
【0038】
ルーフ3の後方に、前記リフトゲート5が配置されている。リフトゲート5は、金属製のゲート本体12と、このゲート本体12に各々組み込まれた、リアウインドウ16、リアウインドウスポイラ18(本発明の「樹脂部材」に相当する)及び反射プレート22(本発明の「金属部材」に相当する)とを備えている。
【0039】
ゲート本体12は、その前端部(上端部)が、ルーフ3の後端部に設けられた図外のヒンジに連結されている。この構成により、リフトゲート5が、その前端部(ヒンジ)を支点として車両ボディ2に対して上下方向に揺動可能に支持されており、このリフトゲート5の揺動により、車両ボディ2の後部に設けられた開口部が開閉される。
【0040】
図3は、車両1の後部平面図であり、
図4は、車両1の後部断面図(
図3のIV-IV線断面図)である。これら
図3及び
図4に示すように、前記ゲート本体12は、薄板鋼板等から各々形成されたアウタパネル13aとインナパネル13bとが互いに接合されることにより構成されている。
【0041】
ゲート本体12のうち前端部(上端部)寄りの位置には、ウインドウ開口部14が設けられており、前記リアウインドウ16がこのウインドウ開口部14に組み付けられている。具体的には、ウインドウ開口部14の内縁部には、その全周に亘ってフランジ部14aが形成されており、このフランジ部14aに図外のシール部材を介してリアウインドウ16が重ねられると共に、フランジ部14a及びリアウインドウ16とシール部材とが接着剤により互いに接着されている。
【0042】
前記リアウインドウスポイラ18は、ゲート本体12の前端部分の上方に配置されている。リアウインドウスポイラ18は、ポリカーボネート樹脂やABS等の樹脂材料により各々形成された、アウタパネル19a(本発明の「上側樹脂層」に相当する)及びインナパネル19b(本発明の「下側樹脂層」に相当する)を有し、これらが一体に接合されることにより構成されている。なお、リアウインドウスポイラ18(アウタパネル19a及びインナパネル19b)は、ガラス繊維や炭素繊維を含有する繊維強化樹脂により形成されていてもよい。
【0043】
リアウインドウスポイラ18は、車幅方向に延在する平面視長方形状のセンタ部20aと、このセンタ部の20aの左右両端に連続する平面視三角形状の一対のサイド部20bとを有する。リアウインドウスポイラ18の幅(車幅方向における幅)は、ゲート本体12の前端部分の幅よりも若干広く、よって、
図1~
図3に示すように、各サイド部20bは、それらの一部が車幅方向においてゲート本体12よりも外側に位置している。
【0044】
センタ部20aは、ボルトナット等の図外の締結部材によりゲート本体12の前端部分に締結されている。これにより、リアウインドウスポイラ18は、リフトゲート5に固定されており、当該リフトゲート5と共に変位可能となっている。
【0045】
車幅方向におけるセンタ部20aの幅は、リアウインドウ16の前端部分における同方向の幅と同等又はそれよりも若干大きく設定されている。センタ部20aの前端は、ゲート本体12の前端と略同等の位置にあり、センタ部20aの後端は、リアウインドウ16の前端部分の領域の上方に位置している。つまり、リアウインドウスポイラ18(センタ部20a)は、リアウインドウ16の一部分(前端部分の一部の領域)を上方から覆っている。
【0046】
サイド部20bは、センタ部20aの左右端部から車両ボディ2のCピラー7に向かって垂下している。リフトゲート5の閉止状態において、各サイド部20bの先端(下端)とCピラー7との間には隙間が設けられており、従って、サイド部20bは、車両ボディ2(Cピラー7)に対して非接触に設けられている。
【0047】
反射プレート22は、リアウインドウスポイラ18にV2X通信の電波を反射させるための金属層を形成するものであり、リアウインドウスポイラ18の上面に積層状態で取り付けられている。具体的には、反射プレート22は、鉄、アルミニウム、銅等からなる金属製の薄厚プレートであり、平面視でリアウインドウスポイラ18のセンタ部20aよりも僅かに小さい当該センタ部20aの相似形の形状を有している。そして、センタ部20a(アウタパネル19a)の上面には、反射プレート22と同等の輪郭の凹部21が形成されており、この凹部21に反射プレート22が嵌入された状態で、当該反射プレート22とセンタ部20aとが接着剤で互いに固定されている。なお、反射プレート22とセンタ部20aとは、ボルトナット等の締結部材により固定されていてもよい。
【0048】
センタ部20aの上面と、反射プレート22の上面とは略面一とされており、
図4に示すように、反射プレート22の上面は、例えばルーフ3aの上面を車両後方に延長した仮想面内に位置するように設けられている。
【0049】
[作用効果]
以上説明した車両1(車両1の上部構造)は、車室空間の上部を覆うルーフ3と、ルーフ3の上面に配設されたケーシング11a及び当該ケーシング11a内に収容された、電波を送受信するアンテナ11bを含むアンテナ装置10と、このアンテナ装置10に隣接して配置されたリアウインドウスポイラ18と、リアウインドウスポイラ18に取り付けられて金属層を形成する反射プレート22と、を備えている。
【0050】
この車両1によれば、リアウインドウスポイラ18の上面に指向する電波は、反射プレート22(金属層)で反射(正反射)するため、リアウインドウスポイラ18に当該電波が入射することが抑制される。そのため、リアウインドウスポイラ18の内部で電波が不規則に反射して電波干渉を起こすことが効果的に抑制される。
【0051】
図5は、上記実施形態の車両1のアンテナ装置10による電波の受信強度特性を示した特性図であり、
図6は、比較例に係る車両、すなわち反射プレート(22)を備えていない点でのみ上記実施形態の車両1と構造が異なる車両のアンテナ装置10による受信強度特性を示した特性図である。何れも中心に近づくほど受信強度が弱いことを示している。
【0052】
これらの特性図に示す通り、比較例に係る車両では、車両1の主に後方、特に30°~150°の方向の範囲内で受信強度に大きなばらつきが見られる。一方、上記実施形態の車両1では、同範囲内(30°~150°)における受信強度に大きなばらつきは見られず、略一定の受信強度が保たれている。また、上記範囲(30°~150°)における受信強度を比べると、比較例に係る車両の受信強度は、実施形態の車両1の受信強度に比して相対的に弱くなっている。
【0053】
これは、比較例に係る車両では、リアウインドウスポイラ18の上面に指向する電波がその内部に入射し、当該電波の一部が不規則に反射することで電波干渉が生じているのに対して、実施形態に係る車両1では、そのような電波干渉の発生が抑制されているためと推察される。また、比較例に係る車両では、上記範囲内(30°~150°の範囲内)における受信強度が、実施形態の車両1の受信強度に比して相対的に弱くなっているが、これは上記電波干渉により受信強度を弱める効果が顕著に現れているためと推察される。
【0054】
このように、反射プレート22を備えている実施形態の車両1の構造によれば、リアウインドウスポイラ18による電波干渉の発生を効果的に抑制することができ、従って、反射プレート22を備えていない車両(比較例に係る車両)に比べて、アンテナ装置10による電波の送受信性能を向上させて、V2X通信における通信精度を高めることが可能となる。
【0055】
特に、上記実施形態の構造によれば、反射プレート22は、金属製の薄厚プレートであり、リアウインドウスポイラ18(アウタパネル19a)に形成された凹部21に嵌入されて接着剤で固定されている。そのため、非常に簡単かつ安価な構造で、上記のような作用効果を享受できるという利点もある。
【0056】
[第2実施形態]
図7は、本発明の第2実施形態に係る車両の上部構造が適用された車両1′の後部平面図であり、
図8は、車両1′の後部断面図である。
【0057】
第2実施形態に係る車両1′は、前記リアウインドウ16の上端部分の領域、すなわちリアウインドウスポイラ18により上方から覆われた領域(本発明の「一部の領域」に相当する)に、ラジオ(AM/FM)受信用のアンテナ装置25(本発明の第2アンテナ装置に相当する)を備えている。アンテナ装置25は、リアウインドウ16の室内側の面に印刷又は貼着され、若しくはリアウインドウ16に埋め込まれたガラスアンテナ25a(アンテナ25aと称す)を備えている。このアンテナ25aは、リアウインドウ16の上端部分の領域の幅方向(車幅方向)に亘って設けられている。
【0058】
このような車両1′では、第1実施形態のように、リアウインドウスポイラ18のセンタ部20aのほぼ全面に亘って反射プレート22が設けられていると、アンテナ装置25によるラジオの電波の受信が妨げられる可能性がある。そこで、第2実施形態の車両1′では、
図7及び
図8に示す通り、センタ部20aのうち、車両平面視においてアンテナ25aと重ならない位置、具体的にはセンタ部20aのうち前側半分の領域にのみ反射プレート22が設けられている。
【0059】
リアウインドウスポイラ18に対する反射プレート22の固定構造は第1実施形態と同等である。すなわち、センタ部20a(アウタパネル19a)の上面に形成された凹部21に反射プレート22が嵌入され、当該反射プレート22とセンタ部20aとが接着剤で互いに固定されている。
【0060】
このような第2実施形態の車両1′(車両1の上部構造)によれば、ラジオ(AM/FM)受信用のアンテナ装置25のアンテナ25aと重ならない位置に反射プレート22が備えられているため、ラジオの電波の受信を妨げることなく、V2X通信用のアンテナ装置10による電波の送受信性能を向上させることが可能となる。
【0061】
ここでは、リアウインドウ16にラジオ(AM/FM)受信用のアンテナ装置25(本発明の「第2アンテナ装置」に相当する)が備えられている例について説明したが、勿論、テレビ受信用のアンテナ装置や携帯電話用のアンテナ装置がリアウインドウ16に設けられる場合も、同様の構造を採用することで、テレビの電波の受信や携帯電話の電波の送受信を妨げることなく、V2X通信用のアンテナ装置10による電波の送受信性能を向上させることが可能となる。
【0062】
[変形例等]
以上説明した車両1、1′(車両1、1′の上部構造)は、本発明に係る車両の上部構造の好ましい実施形態の例示であって、その具体的な構造は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば以下の様な構造を採用することもできる。
【0063】
(1)上記各実施形態の車両1では、反射プレート22は、リアウインドウスポイラ18(センタ部20a)の上面に重ねて設けられている。しかし、反射プレート22は、
図9に示すように、リアウインドウスポイラ18(センタ部20a)のアウタパネル19aとインナパネル19bとの間に積層状態で設けられていてもよい。具体的には、アウタパネル19aとインナパネル19bとの対向面に各々凹部26a、26bが形成され、これら凹部26a、26bに各々嵌入された状態で反射プレート22が両パネル19a、19bの間に介設されている。
【0064】
この構造では、電波は、上側のアウタパネル19aには入射するが、下側のインナパネル19bには入射することなく反射プレート22で反射(正反射)される。そのため、反射プレート22を備えていない場合に比べると電波干渉の発生が抑制される。従って、このような構造の場合も、アンテナ装置10による電波の送受信性能の向上に寄与すると言える。
【0065】
(2)上記各実施形態では、本発明の「金属部材」の一例として、鉄、アルミニウム、銅等からなる金属製の薄厚プレート(反射プレート22)がリアウインドウスポイラ18に取り付けられているが、これに限定されるものではない。すなわち、本発明の「金属部材」は、リアウインドウスポイラ18(樹脂部材)に取り付けられて金属層を形成できるものであればよいため、例えば、金属による表面処理層、すなわち塗装,湿式めっき,乾式めっき(蒸着)等によってリアウインドウスポイラ18の上面(すなわちアウタパネル19aの少なくとも上面)や、リアウインドウスポイラ18の内部(すなわちインナパネル19bの少なくとも上面)に設けられたものであってもよい。
【0066】
これの構造によれば、「金属部材」が金属製の薄厚プレートからなる構造に比べて、「金属部材(金属層)」の薄厚化及び低重量化を図ること、加えて「金属部材」とリアウインドウスポイラとの一体化を高度に達成しながら、アンテナ装置10による電波の送受信性能を向上させることが可能となる。
【0067】
(3)上記各実施形態では、リアウインドウスポイラ18のうちセンタ部20aにのみ反射プレート22が設けられているが、サイド部20bについても同様に反射プレート22が設けられていてもよい。
【0068】
(4)車載無線通信装置は、V2X通信を行う機能に加えて、GNSS(Globl Navigation Satellite System)の航法衛星からの電波を受信する機能や、携帯電話通信を行う機能を備えていてもよい。この場合には、V2X通信用の電波を送受信するためのアンテナ11bに加えて、航法衛星からの電波を受信するGNSS用のアンテナや、携帯電話通信用の電波を送受信するアンテナがアンテナ装置10に備えられる。
【0069】
(5)上記各実施形態では、アンテナ装置10の後方にリアウインドウスポイラ18(樹脂部材)が備えられた車両1について本発明が適用されているが、本発明は、これ以外の車両についても適用可能である。例えば、ルーフに樹脂製のルーフレールが備えられているような場合にも本発明は適用可能である。この場合には、ルーフレールに対して金属製の薄厚プレート等からなる金属部材を積層状態で設けることにより、上記実施形態の構造と同様の作用効果を享受することが期待できる。
【符号の説明】
【0070】
1 車両
2 車両ボディ
3 ルーフ
5 リフトゲート
10 アンテナ装置(第1アンテナ装置)
11a ケーシング
11b アンテナ
12 ゲート本体
16 リアウインドウ
18 リアウインドウスポイラ(樹脂部材)
22 反射プレート(金属部材)
25 アンテナ装置(第2アンテナ装置)
25a アンテナ