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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】インバーター装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20231114BHJP
【FI】
H02M7/48 Z ZHV
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019147107
(22)【出願日】2019-08-09
(65)【公開番号】P2021029058
(43)【公開日】2021-02-25
【審査請求日】2022-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183689
【弁理士】
【氏名又は名称】諏訪 華子
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 直樹
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 公伸
(72)【発明者】
【氏名】晒野 文明
(72)【発明者】
【氏名】森本 陽介
【審査官】町田 舞
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-110672(JP,A)
【文献】特開2008-118753(JP,A)
【文献】特開2018-113815(JP,A)
【文献】特開2017-184523(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0061504(US,A1)
【文献】特開2013-212049(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/42-7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の左右輪を駆動する左モーター及び右モーターに駆動用電力を供給するインバーター装置であって、
冷媒が流通する冷却通路を内蔵するベースプレートと、
前記ベースプレートの一面に取り付けられるコンデンサーと、
前記ベースプレートの他面に取り付けられる半導体モジュールと、を備え、
前記半導体モジュールは、前記左モーター及び前記右モーターの一方に駆動電力を供給する第一モジュールと、前記第一モジュールに並置されて他方に駆動電力を供給する第二モジュールと、を有し、
前記ベースプレートは、前記第一モジュールと前記第二モジュールとの各々の位置に対応して設けられ、前記冷媒が流入する複数の入口穴と前記冷媒が流出する複数の出口穴とを有し、
前記複数の入口穴に接続され前記冷却通路に前記冷媒を流入させる入口路と複数の前記出口穴に接続され前記冷却通路から前記冷媒を流出させる出口路とを内蔵し、前記ベースプレートの一面または他面のうち前記左モーター及び前記右モーターが位置する面において、前記コンデンサーまたは前記半導体モジュールを覆うように取り付けられるカバー部材を備え、
前記入口路は、上面視で前記コンデンサーまたは前記半導体モジュールの一側に沿って延設され、前記出口路は、上面視で前記コンデンサーまたは前記半導体モジュールの他側に沿って延設される
ことを特徴とする、インバーター装置。
【請求項2】
前記入口路から前記複数の入口穴へと分岐する冷媒の流路長が、前記複数の出口穴から前記出口路へと合流する冷媒の流路長よりも短い
ことを特徴とする、請求項記載のインバーター装置。
【請求項3】
前記冷却通路が、上面視で前記第一モジュールに重なる位置に配置される第一冷却通路と、上面視で前記第二モジュールに重なる位置に配置される第二冷却通路とを有する
ことを特徴とする、請求項1または2記載のインバーター装置。
【請求項4】
前記第一モジュール及び前記第二モジュールが、上面視で前後に配置され、
前記第一冷却通路及び前記第二冷却通路が、上面視で前後対称に配置される
ことを特徴とする、請求項記載のインバーター装置。
【請求項5】
前記第一冷却通路及び前記第二冷却通路が、上面視で四角形に形成され、
前記入口穴及び前記出口穴が、前記第一冷却通路及び前記第二冷却通路の各々において上面視で対角の位置に配置される
ことを特徴とする、請求項3または4記載のインバーター装置。
【請求項6】
前記入口路が、上面視で前記複数の入口穴の中心から前記カバー部材の端部に向かって延設され、
前記出口路が、上面視で前記複数の出口の中心から前記カバー部材の端部に向かって延設される
ことを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載のインバーター装置。
【請求項7】
前記インバーター装置は、前記左モーター及び前記右モーターの各々が内装される左右のモーターハウジングの間に前記左モーター及び前記右モーターのトルクを前記左右輪の各々に伝達する歯車機構を内蔵するギアボックスを備える駆動装置の上部に設けられ、
前記ギアボックスは、前記モーターハウジングに対して前記左モーター及び前記右モーターの径方向に前方かつ下方にオフセットして配置され、
前記ベースプレートは、前記他面が前記ギアボックス側を向いて左右の前記モーターハウジングの間に橋架された状態で固定され、
前記半導体モジュールは、前記ベースプレートの前記一面に取り付けられ、
前記コンデンサー及び前記コンデンサーを覆うように取り付けられる前記カバー部材は、前記ベースプレートの前記他面に取り付けられるとともに、前記左右のモーターハウジングと前記ギアボックスとで囲まれた凹部に配置され、
前記入口路及び出口路は、前記カバー部材の前端部に向かって延設されて前記入口路の上流端及び前記出口路の下流端で冷媒配管と接続される
ことを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載のインバーター装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の左右輪を駆動する左モーター及び右モーターに駆動用電力を供給するインバーター装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の左右輪を駆動する二つのモーター(電動機)に駆動用電力を供給するインバーター装置が知られている。例えば、左右輪の各々に個別のモーターを接続し、左右輪を互いに独立して駆動できるようにしたものが提案されている。このような駆動装置が搭載された車両においては、左右のモーターの駆動力を相違させることで、左右輪に回転数差やトルク差を生じさせることができる。これにより、車両の旋回性能や旋回時の車体安定性が改善されうる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-184523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術では、インバーター装置を減速機やモーターのケースと一体化させた構造を採用している。このような構造は、モーターやインバーター装置で発生した熱が駆動装置内にこもりやすく、駆動装置の冷却性を向上させにくいという課題がある。このような課題に対し、インバーター装置をモーターから離隔した位置に配置し、各々で発生した熱を分散させることで冷却性を向上させることも考えられる。しかしながら、インバーター装置とモーターとの間を接続する給電ライン(例えば給電ケーブルやバスバーなど)が長くなり、電気抵抗が増加してしまう。また、装置全体のサイズが大きくなり、空間利用効率が低下してしまう。
【0005】
本件の目的の一つは、上記のような課題に鑑みて創案されたものであり、コンパクトかつ簡素な構成で冷却性を改善できるようにしたインバーター装置を提供することである。なおこの目的に限らず、後述する「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用効果であって、従来の技術では得られない作用効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けることができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示のインバーター装置は、車両の左右輪を駆動する左モーター及び右モーターに駆動用電力を供給するものである。このインバーター装置は、冷媒が流通する冷却通路を内蔵するベースプレートを備える。また、ベースプレートの一面に取り付けられるコンデンサーと、ベースプレートの他面に取り付けられる半導体モジュールとを備える。さらに、半導体モジュールは、左モーター及び右モーターの一方に駆動電力を供給する第一モジュールと、第一モジュールに並置されて他方に駆動電力を供給する第二モジュールとを有し、ベースプレートは、第一モジュールと第二モジュールとの各々の位置に対応して設けられ、冷媒が流入する複数の入口穴と冷媒が流出する複数の出口穴とを有する。また、前記複数の入口穴に接続され前記冷却通路に前記冷媒を流入させる入口路と複数の前記出口穴に接続され前記冷却通路から前記冷媒を流出させる出口路とを内蔵し、前記ベースプレートの一面または他面のうち前記左モーター及び前記右モーターが位置する面において、前記コンデンサーまたは前記半導体モジュールを覆うように取り付けられるカバー部材を備える。前記入口路は、上面視で前記コンデンサーまたは前記半導体モジュールの一側に沿って延設され、前記出口路は、上面視で前記コンデンサーまたは前記半導体モジュールの他側に沿って延設される。
【発明の効果】
【0007】
冷媒が流通する冷却通路が内蔵されたベースプレートの両面にコンデンサーと半導体モジュールとを分けて取り付けることで、インバーター装置の冷却性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態としてのインバーター装置を含む駆動装置の分解斜視図である。
図2】駆動装置の正面図である。
図3】駆動装置の内部構造を説明するための断面図である。
図4】インバーター装置のベースプレート及び下面カバーの分解斜視図である。
図5】ベースプレート内における冷媒の流れを説明するための上面図である。
図6】下面カバー内における冷媒の流れを説明するための上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[1.構成]
以下、図面を参照して実施形態としてのインバーター4を含む車両の駆動装置10について説明する。この駆動装置10は、車両の左右輪間に介装される。駆動装置10は、左右輪の駆動/制動力(駆動/制動トルク)の大きさを能動的に制御することでヨーモーメントの大きさを調節し、車両の姿勢を安定させる機能を持つ。図1図3に示すように、駆動装置10には、左モーター1,右モーター2,ギアボックス3,インバーター4(インバーター装置)が含まれる。なお、図中の前後左右上下は、駆動装置10が搭載された車両の運転者を基準にして定められる方向を表す。
【0010】
左モーター1は車両の左輪に駆動力を伝達する電動機であり、右モーター2は車両の右輪に駆動力を伝達する電動機である。左モーター1は、少なくとも左輪軸27に繋がる動力伝達経路に接続(または介装)される。同様に、右モーター2は、少なくとも右輪軸28に繋がる動力伝達経路に接続(または介装)される。左モーター1及び右モーター2は、他の駆動用モーターやエンジンが搭載される電気自動車及びハイブリッド自動車においては、少なくとも左右輪の駆動/制動力を増減させることで旋回力を発生させるヨーモーメント生成源として機能する。他の駆動用モーターが搭載されない電気自動車においては、上記の機能に加えて、車両の駆動源としての機能を併せ持つ。
【0011】
以下、左モーター1と右モーター2とを区別する必要がない場合には、単にモーター1,2とも表記する。本実施形態のモーター1,2はシンクロナスモーター(同期型交流電動機)であり、互いに独立して作動しうる。また、モーター1,2は、電動機だけでなく発電機としての機能を併せ持つ。モーター1,2を作動させるための電力は、車両に搭載される走行用バッテリーや車載発電システム(ジェネレーター,燃料電池,ディーゼル発電システムなど)から供給される。なお、同期モーターの代わりに、他の交流モーター(誘導モーター,整流子モーター)や直流モーターを使用してもよい。
【0012】
図2図3に示すように、左右のモーター1,2は車両の正面視で左右対称な構造を持つ。右モーター2の内部構造は、左モーター1と左右対称であることを除いてほぼ同一である。モーター1,2の外装はモーターハウジング11とモーターカバー12との二部材に分割されている。それぞれのモーター1,2の回転軸Cは同軸とされる。また、モーター1,2の内部には、ステーター23,ローター24,モーター軸25が内蔵される。
【0013】
ステーター23は、例えば絶縁鋼板を積層してなる積層鉄心にコイルを巻き付けた構造を持ち、モーターハウジング11に固定される固定子である。ステーター23は、円筒面をなすように、所定の軸を中心として複数箇所に分散して配置される。ローター24は、例えば絶縁鋼板を積層してなる積層鉄心に永久磁石を内挿した円筒状の回転子である。ローター24は、ステーター23の回転軸Cと同心の状態でその内側に遊挿され、軸状のモーター軸25に固定される。モーター軸25は、モーターハウジング11やモーターカバー12に対してベアリング(不図示)を介して軸支される。ステーター23に通電される交流電力の周波数を変更することで、ステーター23の内側における磁界の回転速度が変化し、ローター24及びモーター軸25の角速度が変更される。モーター軸25の一端は、ギアボックス3に内蔵された歯車機構26に接続される。
【0014】
モーターハウジング11は、ステーター23やローター24など、モーター1,2の主要部品を収容するものである。モーターハウジング11の形状は、ステーター23やローター24が内装されうる筒状であって、二つの開口部を有する形状とされる。モーターハウジング11は、二つの開口部が左右を向く姿勢でギアボックス3に取り付けられる。また、モーターハウジング11は、ギアボックス3に取り付けられたときに、ギアボックス3の上端よりも上方に突出する形状とされる。これにより、ギアボックス3の上方には、左右のモーター1,2とギアボックス3とで囲まれた凹部8が形成される。二つの開口部のうち、駆動装置10の左右両端側に位置する片方は、モーターカバー12が取り付けられて閉塞される。もう片方の開口部は、ギアボックス3の内部と連通状態になるようにギアボックス3の側面に接合される。
【0015】
モーターカバー12は、モーターハウジング11の開口部のうち、車両の幅方向外側の側面(左モーター1の左側面と右モーター2の右側面)を閉塞するものである。モーターカバー12の取付構造には、公知の取付構造を採用することができる。例えば、図2図3に示すようにフランジ19,20を形成し、これらを接合させて固定してもよい。フランジ19,20は、モーターハウジング11及びモーターカバー12の開口端から開口面に沿って外側に延設される。フランジ19,20を面接触させた状態で締結固定(または溶接固定)することで、モーターハウジング11に対するモーターカバー12の取付箇所における、モーター1,2の密封性が向上する。
【0016】
ギアボックス3は、左モーター1と右モーター2との間に挟装される駆動力伝達装置である。ギアボックス3は、外装をなすギアボックスハウジング13とこれに内蔵された歯車機構26とを有する。さらに、ギアボックス3は、モーターハウジング11に対して、モーター1,2の径方向に前方かつ下方にオフセットして配置される。歯車機構26は、左モーター1や右モーター2のトルクを増幅する機構である。本実施形態の歯車機構26には、左輪軸27と右輪軸28との間に駆動/制動力差を生じさせるための機構(例えば差動歯車機構や遊星歯車機構など)が含まれる。また、歯車機構26には、車両の左輪に繋がる左輪軸27と、右輪に繋がる右輪軸28とが接続される。
【0017】
モーターハウジング11及びギアボックスハウジング13の取付構造は、モーターハウジング11及びモーターカバー12と同様の構造を採用することができる。例えば、図2図3に示すようにフランジ21,22を形成し、これらを接合させて固定してもよい。フランジ21,22は、モーターハウジング11及びギアボックスハウジング13の開口端から開口面に沿って外側に延設される。フランジ21,22を面接触させた状態で締結固定(または溶接固定)することで、これらの接合面における密封性が向上する。
【0018】
インバーター4は、直流回路の電力(直流電力)とモーター1,2が介装される交流回路の電力(交流電力)とを相互に変換する変換器(DC-ACインバーター)である。インバーター4は、直流電力を交流電力に変換することで左モーター1及び右モーター2の双方に駆動用電力を供給する機能を持つ。モーター1,2の力行時には、直流電力がインバーター4で交流電力に変換されて、モーター1,2に供給される。モーター1,2の発電時には、モーター1,2側で生成される交流電力がインバーター4で直流電力に変換される。インバーター4とモーター1,2との間は、三相交流の導電部材(給電ケーブルやバスバーなどの給電ライン)で接続される。
【0019】
インバーター4には、ベースプレート5,コンデンサー6,半導体モジュール7が含まれる。ベースプレート5は、左モーター1,右モーター2の各々に固定される矩形板状の部材(土台板,base plate)である。ベースプレート5は、熱抵抗の低い素材で形成される。コンデンサー6及び半導体モジュール7は、ベースプレート5に対して取り付けられる。図1に示す例では、コンデンサー6がベースプレート5の下面側に固定されるとともに、半導体モジュール7がベースプレート5の上面側に固定されている。
【0020】
コンデンサー6は、モーター1,2に供給される電力を平滑化するための電子部品である。インバーター4が電流制御型のインバーターである場合、コンデンサー6は、例えばインバーター4で変換された交流電力の給電ラインに介装される。コンデンサー6が介装された回路で三相交流の給電ラインの各相を連結することで、それぞれのコンデンサー6が一種のフィルターとして機能し、電流が安定する。インバーター4が電圧制御型のインバーターである場合には、直流電力の入力側にコンデンサー6を並列に介装させることで、電圧が安定する。
【0021】
半導体モジュール7は、基板(電子回路用基板,substrate)上に複数のスイッチング素子やダイオードなどを含む三相ブリッジ回路を形成してなるパワーモジュールである。各スイッチング素子の接続状態を断続的に切り替えることで、三相の交流電力が生成される。スイッチング素子には、サイリスタ,IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor),パワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field-Effect Transistor)などの半導体素子が用いられる。
【0022】
図1に示すように、インバーター4に内蔵される半導体モジュール7には、前方モジュール29(第一モジュール)と後方モジュール30(第二モジュール)とが含まれる。前方モジュール29は、右モーター2に供給される交流電力を生成し、後方モジュール30は、左モーター1に供給される交流電力を生成する。前方モジュール29及び後方モジュール30の機能は交換可能である。例えば、前方モジュール29を左モーター1の駆動源とし、後方モジュール30を右モーター2の駆動源としてもよい。これらのモジュール29,30は個別に動作しうる半導体モジュール7であり、ベースプレート5の上面において、上面視で前後に対をなすように並置される。後方モジュール30は、前方モジュール29とほぼ同一形状であり、上下方向に延在する所定の鉛直軸Vについて前方モジュール29と二回対称の回転対称位置に配置される。
【0023】
ベースプレート5の上面には上面カバー14が取り付けられ、下面には下面カバー15が取り付けられる。図3に示すように、上面カバー14は、内部に半導体モジュール7を収容しうる大きさの容器状に形成され、半導体モジュール7を覆うように取り付けられる。また、下面カバー15は、内部にコンデンサー6を収容しうる大きさの容器状に形成され、コンデンサー6を覆うように取り付けられる。半導体モジュール7は、ベースプレート5と上面カバー14とで囲まれる空間内に配置される。また、コンデンサー6は、ベースプレート5と下面カバー15とで囲まれる空間内に配置される。これらの上面カバー14,下面カバー15は、熱抵抗の低い素材で形成される。
【0024】
ベースプレート5の内部には、冷媒が流通する二つの冷却通路31,33が内蔵される。また、下面カバー15(カバー部材)の壁体内部にも、これらの冷却通路31,33に連通する入口路35,出口路37が内蔵される。入口路35は冷却通路31,33に冷媒を流入させる部位であり、冷却通路31,33よりも上流側の流路となる。一方、出口路37は冷却通路31,33から冷媒を流出させる部位であり、冷却通路31,33よりも下流側の流路となる。
【0025】
二つの冷却通路31,33のうち、前方側に位置する前方冷却通路31(第一冷却通路)は、インバーター4の上面視において、少なくとも前方モジュール29に重なる位置に配置される。また、二つの冷却通路31,33のうち、後方側に位置する後方冷却通路33(第二冷却通路)は、インバーター4の上面視において、少なくとも後方モジュール30に重なる位置に配置される。前方冷却通路31及び後方冷却通路33は上面視で互いに前後対称となるように配置される。前後対称の対称面は、例えば図5に示す鉛直軸Vとモーター1,2の回転軸Cとを含む平面(図5の紙面に対して垂直な平面)である。
【0026】
上記のような構造により、前方モジュール29の下面側が前方冷却通路31を流れる冷媒によって効率的に冷却されるとともに、後方モジュール30の下面側が後方冷却通路33を流れる冷媒によって効率的に冷却される。本実施形態の通路31,33は、上面視で四角形に形成される。言い換えれば、冷却通路31,33は、ベースプレート5に内蔵された直方体の空洞として形成される。冷媒流路の構造(冷却通路31,33,入口路35,出口路37)については後述する。
【0027】
インバーター4は、左モーター1と右モーター2との間に橋架された状態で固定される。例えば図2図3に示すように、インバーター4は、車両の幅方向左端部を左モーター1の上に載置し、かつ、右端部を右モーター2の上に載置した姿勢で取り付けられる。インバーター4は、左右のモーター1,2が内装される左右のモーターハウジング11の間に橋渡しされた状態となる。ベースプレート5で左右のモーターハウジング11を固定することで、モーター1,2の制振性や静粛性が向上する。
【0028】
インバーター4の一部は、左モーター1と右モーター2とギアボックス3とで囲まれた凹部8の内側において、少なくともギアボックス3に対して所定の間隔をあけて配置される。好ましくは、モーター1,2との固定箇所以外の部分に対しても間隔をあけて配置される。これにより、インバーター4は、ギアボックス3の上方に浮いた状態となる。ギアボックス3とインバーター4とに挟まれた空間には、車両の走行時に走行風が通過しうる。したがって、モーター1,2,ギアボックス3,インバーター4が空冷されやすくなり、駆動装置10の冷却性能が向上する。
【0029】
図2図3に示す例では、凹部8の内側にコンデンサー6と下面カバー15とが配置される。これにより、コンデンサー6が効率よく冷却されることになり、モーター1,2に供給される交流電力の電流や電圧が安定しやすくなる。また、下面カバー15の内部を流れる冷媒が効率的に冷却されることから、ベースプレート5や半導体モジュール7についても効率よく冷却され、モーター1,2に供給される交流電力の電流や電圧が安定しやすくなる。
【0030】
図2図3に示すように、インバーター4は、正面視において左右のフランジ19,20の間に配置される。左モーター1のフランジ19,20は、左モーター1に内蔵されたステーター23及びローター24の車幅方向の中心位置よりも左側に配置される。同様に、右モーター2のフランジ19,20は、右モーター2に内蔵されたステーター23及びローター24の車幅方向の中心位置よりも右側に配置される。これにより、既存の駆動装置10と比較して、フランジ19,20の位置が車幅方向の外側に移動し、インバーター4を取り付けるためのスペースが確保される。また、左右のフランジ19,20間にインバーター4を配置することで、駆動装置10の高さ寸法がコンパクトになり、車両搭載性が改善される。
【0031】
本実施形態のインバーター4は、モーター1,2の上面に対して複数のボス9を介して固定具(例えばボルト,圧入ピンなど)で締結固定される。ボス9は、モーター1,2の各々において、モーターハウジング11の外表面から上方に向かって突設される。ボス9の概形は上下方向に延在する筒軸を有する円筒状とされ、その頂面には固定具と嵌合する軸穴が設けられる。複数のボス9を設けることで、モーターハウジング11の外表面に載置されるインバーター4の固定姿勢が安定する。なお、ボス9の数は少なくともモーター1,2の各々に一つ以上設ければよいが、安定性を考慮してモーター1,2の各々に二つ以上設けてもよい。
【0032】
図4図6に示すように、下面カバー15の壁内内部に形成される入口路35及び出口路37は、前後方向かつほぼ水平に下面カバー15の前端に向かって延設される。入口路35の上流端及び出口路37の下流端は、下面カバー15の前面(または後面)で開放され、これらに冷媒配管39が接続される。入口路35及び出口路37の形状は、ほぼ直線状とされる。これにより、冷媒が短い距離で冷却通路31,33まで供給されることになり、インバーター4の冷却性が向上する。
【0033】
入口路35の下流端は、下面カバー15の上面において溝状に凹設された入口分岐路36に開放される。入口分岐路36の延在方向は前後方向である。また、出口路37の上流端も、下面カバー15の上面において溝状に凹設された出口合流路38に開放されている。出口合流路38の延在方向は前後方向である。入口路35は、入口分岐路36における前後方向の中心部近傍に接続され、出口路37は、出口合流路38における前後方向の中心部近傍に接続される。
【0034】
図4図5に示すように、ベースプレート5の下面には、一対の入口穴32と一対の出口穴34とが穿孔される。一対の入口穴32は、前方冷却通路31と後方冷却通路33との各々に対して一つずつ接続される。一対の出口穴34も、前方冷却通路31と後方冷却通路33との各々に対して一つずつ接続される。冷媒は、入口穴32から冷却通路31,33の各々へと分岐して流入した後に合流し、出口穴34から流出する。これらの入口穴32,出口穴34は、前方モジュール29及び後方モジュール30の各々の位置に対応して設けられる。
【0035】
入口穴32の位置は、入口分岐路36の両端部近傍であって、冷却通路31,33の四隅近傍に設定される。同様に、出口穴34の位置は、出口合流路38の両端部近傍であって、冷却通路31,33の四隅近傍に設定される。好ましくは、図5に示すように、入口穴32と出口穴34とが前方冷却通路31及び後方冷却通路33の各々において上面視で対角状(対角の位置)に配置される。ここでいう対角状の配置とは、対角線をなすように、四角形の隣り合っていない頂点の近傍に入口穴32と出口穴34とを配置することを意味する。このような配置により冷媒が対角線に沿った方向に流通しやすくなり、冷媒の運動に乱れや渦が生じにくくなる。
【0036】
入口路35を通過した冷媒は、入口分岐路36の延在方向に沿って前後方向に分岐した後に、ベースプレート5の冷却通路31,33の内部へと流通する。前方冷却通路31の内部においては、図5中に白抜き矢印で示すように、冷媒が右上から左下へとよどみなく流れる。また、後方冷却通路33の内部においては、冷媒が左上から右下へとよどみなく流れる。これらの冷却通路31,33を通過した冷媒は、出口合流路38の延在方向に沿って合流した後、出口路37から排出される。
【0037】
図6に示すように、入口路35と入口分岐路36との接続箇所は、上面視で複数の入口穴32の中心(入口分岐路36の中心部近傍)に配置される。これにより、接続箇所から二つの入口穴32までの距離が等しくなり、冷媒が二つの通路31,33に対して均等に流れやすくなる。また、出口路37と出口合流路38との接続箇所は、上面視で複数の出口穴34の中心(出口合流路38の中心部近傍)に配置される。これにより、二つの出口穴34から接続箇所までの距離が等しくなり、冷媒が均等に流れやすくなる。
【0038】
本実施形態では、入口路35の長さL1と出口路37の長さL3とが同一になるように、入口路35及び出口路37が形成される。一方、入口路35から二つの入口穴32へと分岐する冷媒の流路長の合計L2は、二つの出口穴34から出口路37へと合流する冷媒の流路長の合計L4よりも短く形成される。言い換えれば、図6に示すように、入口分岐路36が出口合流路38よりも短く形成される。これにより、冷媒の流通方向を逆にした場合と比較して、より低温の冷媒が冷却通路31,33の内部に供給されることになり、インバーター4の冷却性が向上する。
【0039】
[2.作用・効果]
(1)上述の実施形態では、冷媒の冷却通路31,33が内蔵されたベースプレート5の両面にコンデンサー6と半導体モジュール7とが分けて取り付けられる。これにより、コンデンサー6と半導体モジュール7との両方を効率よく冷却することができ、モーター1,2に供給される交流電力の電流や電圧の安定性を向上させることができる。また、ベースプレート5の片面にコンデンサー6と半導体モジュール7とをまとめて取り付けた場合と比較して、ベースプレート5の板面の面積を半減させることができ、上面視におけるインバーター4のサイズを小さくすることができる。したがって、コンパクトかつ簡素な構成で、インバーター4の冷却性を改善することができる。また、駆動装置10のダウンサイジングが容易となることがら、駆動装置10の車両搭載性を向上させることもできる。
【0040】
図4に示すように、ベースプレート5には、複数の入口穴32と複数の出口穴34とが設けられる。このような構造により、冷却通路31,33の出入口における冷媒の圧力損失を減少させることができ、インバーター4の冷却性を高めることができる。また、冷媒の流れを複数の入口穴32に分散させ、かつ、複数の出口穴34からの冷媒の流れを一つに集合させることができる。つまり、ベースプレート5の内部で複数系統の冷媒の流れを形成することができる。
【0041】
また、複数の入口穴32と複数の出口穴34とが前方モジュール29と後方モジュール30との各々に対応して設けられるため、各々の半導体モジュール7を同時に効率よく冷却することができる。したがって、個別に動作しうる前方モジュール29と後方モジュール30とのそれぞれに対して容易に冷媒を供給することができ、インバーター4の冷却性を向上させることができる。
【0042】
(2)上述の実施形態では、ベースプレート5の上面及び下面のうち、モーター1,2が位置する面(例えば図2図3の下面)に取り付けられる下面カバー15に入口路35と出口路37とが内蔵される。このような構造により、ベースプレート5だけでなくコンデンサー6の周囲をも効率よく冷却することができ、インバーター4の冷却性を改善することができる。
【0043】
また、モーター1,2やギアボックス3と下面カバー15との間には隙間が確保されているため、車両の走行中に下面カバー15を効率よく空冷することができる。これにより、入口路35や出口路37の内部を流通する冷媒を効率よく冷却することができる。さらに、下面カバー15に入口路35,出口路37を設けることで、モーター1,2とインバーター4との間に熱をこもりにくくすることができ、インバーター4の冷却性をさらに高めることができる。
【0044】
(3)上述の実施形態では、入口路35から二つの入口穴32へと分岐する冷媒の流路長の合計L2が、二つの出口穴34から出口路37へと合流する冷媒の流路長の合計L4よりも短く形成される。このような構成により、冷媒の流通方向を逆にした場合と比較して、入口路35から冷却通路31,33までの距離を短縮することができ、より低温の冷媒を冷却通路31,33の内部に供給することができる。したがって、インバーター4の冷却性を向上させることができる。
【0045】
(4)上述の実施形態では、図5に示すように、インバーター4の上面視において前方モジュール29,後方モジュール30の各々に重なる位置に前方冷却通路31,後方冷却通路33が配置される。このように、二つの半導体モジュール7(前方モジュール29,後方モジュール30)に対応する位置に冷媒の冷却通路31,33を設けることで、各々の半導体モジュール7を同時に効率よく冷却することができ、インバーター4の冷却性を高めることができる。
【0046】
(5)また、前方モジュール29と後方モジュール30とを上面視で前後に配置し、前方冷却通路31と後方冷却通路33とを上面視で前後対称に配置することで、冷媒の流れの形状を対称形状にすることができ、各々の半導体モジュール29,30に対して均等に冷媒を供給することができる。したがって、インバーター4の冷却性を高めることができる。また、ベースプレート5の構造がシンプルであることから、製造時のコストや手間を削減することができ、製品の生産性を改善することができる。
【0047】
(6)上述の実施形態では、前方冷却通路31,後方冷却通路33が上面視で四角形に形成される。また、冷却通路31,33の各々に設けられる入口穴32及び出口穴34は、上面視で対角の位置に配置される。これにより、冷却通路31,33内で冷媒をよどみなく流通させることができる。また、冷却通路31,33の周囲を均等に冷却することができ、インバーター4の冷却性を高めることができる。
【0048】
(7)上述の実施形態では、入口路35が、上面視で複数の入口穴32の中心から下面カバー15の端部に向かって直線状に延設されている。同様に、出口路37は上面視で複数の出口穴34の中心から下面カバー15の端部に向かって直線状に延設されている。このような構成により、冷媒を二つの冷却通路31,33に対して均等に流通させることができ、インバーター4の冷却性を高めることができる。
【0049】
(8)上述の実施形態では、ギアボックス3が、モーターハウジング11に対して、モーター1,2の径方向に前方かつ下方にオフセットして配置される。また、入口路35及び出口路37が、下面カバー15の前端部に向かって延設されている。このような構成により、ギアボックス3及びモーターハウジング11によって形成されたスペース(凹部8)に入口路35及び出口路37を延設することができ、空間利用効率を向上させることができる。
【0050】
[3.変形例]
上記の実施形態はあくまでも例示に過ぎず、本実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0051】
上述の実施形態では、モジュール29,30(第一モジュール、第二モジュール)を前後に配置した半導体モジュール7を例示したが、モジュール29,30(第一モジュール、第二モジュール)は左右に配置されてもよいし、並置されていればよい。この場合、冷却通路31,33(第一冷却通路、第二冷却通路)は、上面視でモジュール29,30(第一モジュール、第二モジュール)に重なる位置に設ければよい。
【0052】
上述の実施形態では、二つの冷却通路31,33が設けられたベースプレート5を例示したが、冷却通路数は一つであってもよいし、三つ以上であってもよい。同様に、入口穴32,出口穴34が二つずつ設けられたベースプレート5を例示したが、入口穴32,出口穴34の個数は一つでもよいし、三つ以上でもよい。少なくとも、冷媒の冷却通路を内蔵したベースプレート5の両面にコンデンサー6と半導体モジュール7とを分けて取り付けることで、上述の実施形態と同様の効果を奏するものとなる。
【0053】
なお、上述の実施形態では、左モーター1の回転軸Cと右モーター2の回転軸Cとが同軸である駆動装置10を例示したが、これらの回転軸Cを同軸とする必要はない。また、上述の実施形態では、左右のモーター軸25が歯車機構26に接続された駆動装置10を例示したが、左輪の動力伝達経路と右輪の動力伝達経路とを分離してもよい。あるいは、ギアボックス3を省略することも可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 左モーター
2 右モーター
3 ギアボックス
4 インバーター
5 ベースプレート
6 コンデンサー
7 半導体モジュール
10 駆動装置
11 モーターハウジング
15 下面カバー(カバー部材)
29 前方モジュール(第一モジュール)
30 後方モジュール(第二モジュール)
31 第一冷却通路(冷却通路)
32 入口穴
33 第二冷却通路(冷却通路)
34 出口穴
35 入口路
36 入口分岐路
37 出口路
38 出口合流路
39 冷媒配管
図1
図2
図3
図4
図5
図6