(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】産業用車両
(51)【国際特許分類】
B60L 7/12 20060101AFI20231114BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20231114BHJP
B66F 9/24 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
B60L7/12 Q
B60L15/20 J
B60L15/20 M
B66F9/24 W
(21)【出願番号】P 2019148570
(22)【出願日】2019-08-13
【審査請求日】2021-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【氏名又は名称】中山 浩光
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】久保谷 岳央
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-239605(JP,A)
【文献】特開2014-011882(JP,A)
【文献】特開2016-130105(JP,A)
【文献】特開2015-019521(JP,A)
【文献】特開2008-054441(JP,A)
【文献】特開2002-186105(JP,A)
【文献】国際公開第2013/084682(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 7/12
B60L 15/20
B66F 9/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行制御モードとして、目標速度に応じた車速で車両の走行を制御する通常走行モードと、最高車速値よりも小さい車速制限値を定めて当該車速制限値未満の車速で車両の走行を制御する車速制限モードと、を有する産業用車両において、
運転者の操作により車両の加速を指示するアクセル操作部材と、
前記アクセル操作部材の操作量をもとに車両の前記目標速度を算出する目標速度算出部と、
運転者の操作により車両の走行方向を指示する方向指示部材と、
前記方向指示部材の操作位置をもとに車両の指示走行方向を算出する方向算出部と、
車両の実速度を算出する車速算出部と、
回生制動制限の許可と禁止を切り替える切替部と、
車両の走行を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
回生制動制限が許可されているときに車速制限モードへ移行した時に、回生制動制限状態となり、
前記車速制限モードであり、且つ、前記回生制動制限が許可されているときにおいて、前記回生制動制限を行う回生制動制限状態と、前記回生制動制限を無しとする回生制動制限無し状態と、を切替可能に構成されており、
所定の条件が満たされることにより、前記回生制動制限状態と前記回生制動制限無し状態とを切り替える制御パターンを少なくとも一つ有し、
前記車速制限モードでは、前記運転者の前記アクセル操作部材の操作がなくても、前記車両が坂道で外力を受けて走行可能であり、
前記制御パターンは、前記所定の条件として、
前記回生制動制限状態であり、且つ、前記指示走行方向が変化したこと、
及び、
前記回生制動制限状態であり、且つ、前記実速度がゼロとなったこと、の少なくとも一方が満たされた場合、
回生制限値の変化率を所定の値よりも大きな値として、前記回生制動制限状態から前記回生制動制限無し状態へ切り替えるパターンである、産業用車両。
【請求項2】
走行制御モードとして、目標速度に応じた車速で車両の走行を制御する通常走行モードと、最高車速値よりも小さい車速制限値を定めて当該車速制限値未満の車速で車両の走行を制御する車速制限モードと、を有する産業用車両において、
運転者の操作により車両の加速を指示するアクセル操作部材と、
前記アクセル操作部材の操作量をもとに車両の前記目標速度を算出する目標速度算出部と、
運転者の操作により車両の走行方向を指示する方向指示部材と、
前記方向指示部材の操作位置をもとに車両の指示走行方向を算出する方向算出部と、
車両の実速度を算出する車速算出部と、
回生制動制限の許可と禁止を切り替える切替部と、
車両の走行を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
回生制動制限が許可されているときに車速制限モードへ移行した時に、回生制動制限状態となり、
前記車速制限モードであり、且つ、前記回生制動制限が許可されているときにおいて、前記回生制動制限を行う回生制動制限状態と、前記回生制動制限を無しとする回生制動制限無し状態と、を切替可能に構成されており、
所定の条件が満たされることにより、前記回生制動制限状態と前記回生制動制限無し状態とを切り替える制御パターンを少なくとも一つ有し、
前記車速制限モードでは、前記運転者の前記アクセル操作部材の操作がなくても、前記車両が坂道で外力を受けて走行可能であり、
前記制御パターンは、前記所定の条件として、
前記回生制動制限状態であり、車両
の実走行方向と車両の前記指示走行方向が一致し、且つ、前記目標速度が前記実速度よりも大きくなることで前記車速制限モードから前記通常走行モードへ移行したこと、
及び、
前記回生制動制限状態であり、且つ、前記目標速度が実速度よりも小さくなる前記アクセル操作部材の操作状態が非操作状態に移行することで前記車速制限モードから前記通常走行モードへ移行したこと、の少なくとも一方が満たされた場合、
回生制限値の変化率を所定の値よりも小さな値として、前記制限状態から前記回生制動制限無し状態へ切り替えるパターンである、産業用車両。
【請求項3】
前記制御パターンは、前記所定の条件として、前記回生制動制限が許可から禁止に切り替えられたことが満たされた場合、前記回生制動制限状態から前記回生制動制限無し状態へ切り替えるパターンである、請求項1または2に記載の産業用車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に記載されるような産業用車両が知られている。特許文献1に記載された産業用車両は、走行制御モードとして、目標速度に応じた車速で車両の走行を制御する通常走行モードと、最高車速値よりも小さい車速制限値を定めて当該車速制限値未満の車速で車両の走行を制御する車速制限モードと、を有する。産業用車両は、運転者のアクセル操作による目標速度の変化態様や、方向指示部材の操作による指示走行方向の変化態様などに基づいて、通常走行モードと走行制限モードとを切り替える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような産業用車両においては、運転者が加減速や停止を指令する操作時に、想定した動作と実際の動作との違いによって感じる違和感を低減することで、官能性能を更に高めることが求められている。従って、本発明の目的は、操作の官能性能を向上できる産業用車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る産業用車両は、走行制御モードとして、目標速度に応じた車速で車両の走行を制御する通常走行モードと、最高車速値よりも小さい車速制限値を定めて当該車速制限値未満の車速で車両の走行を制御する車速制限モードと、を有する産業用車両において、運転者の操作により車両の加速を指示するアクセル操作部材と、アクセル操作部材の操作量をもとに車両の目標速度を算出する目標速度算出部と、運転者の操作により車両の走行方向を指示する方向指示部材と、方向指示部材の操作位置をもとに車両の指示走行方向を算出する方向算出部と、車両の実速度を算出する車速算出部と、回生制動制限の許可と禁止を切り替える切替部と、車両の走行を制御する制御部と、を備え、制御部は、車速制限モードであり、且つ、回生制動制限が許可されているときにおいて、回生制動制限を行う回生制動制限状態と、回生制動制限を無しとする回生制動制限無し状態と、を切替可能に構成されており、所定の条件が満たされることにより、回生制動制限状態と回生制動制限無し状態とを切り替える制御パターンを少なくとも一つ有する。
【0006】
産業用車両は、回生制動制限の許可と禁止を切り替える切替部を備える。また、制御部は、車速制限モードであり、且つ、回生制動制限が許可されているときにおいて、回生制動制限を行う回生制動制限状態と、回生制動制限を無しとする回生制動制限無し状態と、を切替可能に構成されている。このような構成により、回生制動制限が許可されているときには、車速制限モードにおいて回生制動を制限することで回生性能を抑制することができ、且つ、必要に応じて当該回生制動制限を解除することができる。これに対し、制御部は、所定の条件が満たされることにより、回生制動制限状態と回生制動制限無し状態とを切り替える制御パターンを少なくとも一つ有する。この場合、運転者の操作などに基づいた適切な条件を設定することで、制御部は、運転者の意図に従った態様で、回生制動制限状態と回生制動制限無し状態とを切り替えることができる。以上により、産業用車両の操作の官能性能を向上することができる。
【0007】
制御パターンは、所定の条件として、回生制動制限状態であり、且つ、指示走行方向が変化したこと、及び、回生制動制限状態であり、且つ、実速度がゼロとなったこと、の少なくとも一方が満たされた場合、回生制限値の変化率を所定の値よりも大きな値として、回生制動制限状態から回生制動制限無し状態へ切り替えるパターンであってよい。例えば、降坂中に指示走行方向を変化させたときは、運転者に降坂動作をやめさせる意図があると考えられる。従って、制御部は、上記制御パターンを実行することで、回生制動制限を速やかに解除し、回生制動性能を高めて、産業用車両を予め減速させることができる。また、例えば、降坂後に平坦路に到達したら、産業用車両は、回生制動制限状態を継続したまま停止する。停止して実速度がゼロとなった場合、回生制動力が発生していないため、制御部は、上記制御パターンを実行することで、回生制動制限を速やかに解除しても、動作に影響がない。これにより、運転者が次の操作を行う時に、制御部は当該意図に従った走行制御を速やかに行うことができる。
【0008】
制御パターンは、所定の条件として、回生制動制限状態であり、車両の実走行方向と車両の指示走行方向が一致し、且つ、目標速度が実速度よりも大きくなることで車速制限モードから通常走行モードへ移行したこと、及び、回生制動制限状態であり、且つ、目標速度が実速度よりも小さくなるアクセル操作部材の操作状態が非操作状態に移行することで車速制限モードから通常走行モードへ移行したこと、の少なくとも一方が満たされた場合、回生制限値の変化率を所定の値よりも小さな値として、制限状態から回生制動制限無し状態へ切り替えるパターンであってよい。例えば、降坂中に大きなアクセル操作を行うことで目標速度が大きくなった場合、運転者には降坂方向(すなわち実走行方向)に加速させたい意図があると考えられる。制御部は、当該意思の通りに通常走行モードへ移行させることができる。このとき、制御部は、上記制御パターンを実行することで、回生制動制限をゆるやかに解除し、回生制動力の振動や意図しない減速などを抑制した状態で、加速させることができる。また、例えば、降坂中にアクセル操作部材を非操作状態とした場合、運転者には停止させたいという意図があると考えられる。制御部は、当該意思の通りに通常走行モードへ移行させて、停止させることができる。ただし、当該操作は、指示走行方向を変化させるときよりは減速の意図が少ないと考えられる。従って、制御部は、上記制御パターンを実行することで、回生制動制限をゆるやかに解除し、回生制動力の振動や意図しない減速などを抑制することができる。
【0009】
制御パターンは、所定の条件として、回生制動制限が許可から禁止に切り替えられたことが満たされた場合、回生制動制限状態から回生制動制限無し状態へ切り替えるパターンであってよい。この場合、制御部は、上記制御パターンを実行することで、回生制動制限が禁止された場合には、速やかに回生制動制限無しの状態とすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、操作の官能性能を向上できる産業用車両が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る産業用車両のフォークリフトのブロック構成を示す概略図である。
【
図3】通常走行モード中の制御内容を示すフローチャートである。
【
図4】車速制限モード中の制御内容を示すフローチャートである。
【
図5】各制御パターンの一例を示すフローチャートである。
【
図6】制御パターン1の処理内容の一例を示す図である。
【
図7】制御パターン2の処理内容の一例を示す図である。
【
図8】制御パターン2の処理内容の一例を示す図である。
【
図9】制御パターン3の処理内容の一例を示す図である。
【
図10】制御パターン3の処理内容の一例を示す図である。
【
図11】フォークリフトの走行状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、図面において、同一または同等の要素には同じ符号を付し、重複する説明を省略する。
【0013】
図1に示すように、産業用車両としてのフォークリフト10は、コントローラ11と、アクセルペダル12と、アクセルセンサ13と、ディレクションレバー14と、ディレクションスイッチ15と、モータドライバ16と、走行用モータ17と、車載バッテリ18と、切替部20と、を備えている。
【0014】
コントローラ11は、フォークリフト10全体を制御する制御部であり、プロセッサ、メモリ、及びストレージを備えて構成されている。プロセッサは、CPU(Central Processing Unit)などの演算器である。メモリは、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの記憶媒体である。ストレージは、HDD(Hard Disk Drive)などの記憶媒体である。プロセッサは、メモリ、ストレージ、通信インターフェース及びユーザインターフェースを統括し、後述するコントローラ11の機能を実現する。コントローラ11では、例えば、ROMに記憶されているプログラムをRAMにロードし、RAMにロードされたプログラムをCPUで実行することにより各種の機能を実現する。
【0015】
コントローラ11には、車両に装備されるとともに運転者の操作により車両の加速を指示するアクセル操作部材としてのアクセルペダル12の操作量(アクセル開度)を検出するアクセルセンサ13が接続されている。アクセルセンサ13は、アクセルペダル12の操作量に応じた電気信号をコントローラ11に送信する。そして、目標速度算出部としてのコントローラ11は、アクセルペダル12の操作量をもとに車両の目標速度を算出する。また、コントローラ11には、車両に装備されるともに運転者の操作により車両の走行方向を指示する方向指示部材としてのディレクションレバー14の操作位置を検出するディレクションスイッチ15が接続されている。ディレクションスイッチ15は、ディレクションレバー14の操作位置に応じた電気信号をコントローラ11に送信する。そして、方向算出部として機能するコントローラ11は、ディレクションレバー14の操作位置をもとに車両の指示走行方向を算出する。
【0016】
コントローラ11は、切替部20を備えている。切替部20はメモリやストレージ等の記憶媒体に記録されたプログラムであり、コントローラ11に接続されたアクセルセンサ13やディレクションスイッチ15からの信号に基づき、回生制動制限の許可と禁止を切り替える。回生制動制限が許可されているときは、回生制動制限を無しとする必要があるとき以外は、回生制動が制限される。回生制動制限が禁止されているときは、回生制動が制限されることなく回生制動が実行される。なお、回生制動制限の詳細については、後述する。
【0017】
また、コントローラ11には、モータドライバ16を介して車両に走行力を付与する走行用モータ17が接続されている。走行用モータ17には、モータドライバ16を介して車載バッテリ18から電力が供給される。本実施形態のフォークリフト10は、走行用モータ17の動力で走行するバッテリ式(電気式)とされている。
【0018】
コントローラ11からモータドライバ16には、加減速指令や回転数指令などの各種電気信号が送信される。そして、モータドライバ16は、コントローラ11が送信した電気信号を受信し、走行用モータ17を駆動する。一方、モータドライバ16からコントローラ11には、走行用モータ17の実回転などの各種電気信号が送信される。そして、車速算出部としてのコントローラ11は、モータドライバ16が送信した実回転を車両の実速度に変換する。また、コントローラ11は、実回転をもとに車両が実際に走行している実走行方向を算出する。
【0019】
本実施形態において制御部として機能するコントローラ11は、車両の走行状態に応じて
図2に示す走行制御モードを選択し、当該モードの制御内容にしたがって車両の走行を制御する。走行制御モードには、通常走行モードM1と車速制限モードM2がある。そして、コントローラ11は、通常走行モードM1の滞在中に移行条件Xが成立すると、走行制御モードを車速制限モードM2に移行させる。一方、コントローラ11は、車速制限モードM2の滞在中に移行条件Yが成立すると、走行制御モードを通常走行モードM1に移行させる。通常走行モードM1は、運転者のアクセル操作にしたがって、そのアクセル開度に応じた速度で車両を走行させるモードである。すなわち、通常走行モードM1は、目標速度に応じた車速で車両の走行を制御するモードである。通常走行モードM1では、走行用モータ17の力行動作及び回生動作(回生制動を行う動作)が許容される。一方、車速制限モードM2は、運転者のアクセル操作がなくても車両が外力を受けて走行可能なモードである。例えば、車両が受ける外力としては、坂道における重力などがある。車速制限モードM2では、車速制限値を定めて当該車速制限値未満の車速となるように走行を制御する。車速制限値は、車両の最高車速値よりも小さい値であり、例えば、2~4km/hに設定される。そして、車速制限モードM2では、走行用モータ17の回生動作が許容されており、その走行用モータ17の回生動作を利用して車速制限値未満の車速に制御される。
【0020】
まず、
図3及び
図4を参照して、各走行制御モードにおけるコントローラ11の制御内容を説明する。
図3に示すように、通常走行モードM1においてコントローラ11は、目標速度が「0(零)」で、かつ実速度が「0(零)」であるか否かを判定する(ステップS10)。このステップS10では、運転者が車両を停止させたいという意思があり、かつ実際に車両が停止しているかを判定する。目標速度を「0」とする場合には、アクセル操作が行われていない場合、又はアクセル操作を行っているが、その操作量が極めて小さい場合がある。操作量が極めて小さい場合とは、アクセル開度が予め定めた不感帯領域に入っている場合である。
【0021】
ステップS10の判定結果が否定(目標速度>0又は実速度>0)の場合、コントローラ11は、アクセル開度に応じて設定される目標速度で車両を走行させるように制御する(ステップS11)。一方、ステップS10の判定結果が肯定(目標速度=0かつ実速度=0)の場合、コントローラ11は、目標速度が「0」となってからの時間が予め定めた時間を経過したか否かを判定する(ステップS12)。この判定結果が否定の場合、コントローラ11は、ステップS10の処理に戻る。一方、ステップS12の判定結果が肯定の場合、コントローラ11は、走行制御モードを車速制限モードM2へ移行させる。上記のように、本実施形態では、ステップS10,S12を肯定判定すること、すなわち目標速度が「0」であること、実速度が「0」であること、及びこれらの状態が所定時間経過したことを、通常走行モードM1から車速制限モードM2への移行条件Xとしている。このようなモード移行によれば、例えば、坂道の降坂中にアクセル非操作とした場合に、一度車両を確実に停止させてから車速制限モードM2へ移行し、坂道での降坂を許容し得る。
【0022】
図4に示すように、車速制限モードM2においてコントローラ11は、目標速度が「0」よりも大きいか否かを判定する(ステップS20)。このステップS20では、車速制限モードM2において運転者がアクセル操作を行っているか否かを判定する。そして、ステップS20の判定結果が肯定(目標速度>0)の場合、コントローラ11は、車両の指示走行方向と実走行方向が一致するか否かを判定する(ステップS21)。この判定結果が肯定(方向一致)の場合、コントローラ11は、目標速度と実速度を比較し、実速度が目標速度以上であるか否かを判定する(ステップS22)。この判定結果が肯定(目標速度≦実速度)の場合、コントローラ11は、車速制限モードM2を維持し、その車速制限モードM2による走行の制御を継続する(ステップS23)。一方、ステップS21の判定結果が否定(方向不一致)の場合、コントローラ11は、車速制限モードM2による走行の制御を中止し、走行制御モードを通常走行モードM1へ移行させる(ステップS24)。また、ステップS22の判定結果が否定(目標速度>実速度)の場合、コントローラ11は、車速制限モードM2による走行の制御を中止し、走行制御モードを通常走行モードM1へ移行させる(ステップS24)。
【0023】
車速制限モードM2では、前述のように走行用モータ17の回生動作を許容する一方で、力行動作を禁止している。つまり、車速制限モードM2では、走行駆動力は出力されない。一方、演算部としてのコントローラ11は、車速制限モードM2中にアクセル操作が行われることによって目標速度を算出するとともに、その目標速度に到達させるために必要な制御情報(加速度演算値など)を演算する。このため、本実施形態においてリセット部となるコントローラ11は、ステップS24で通常走行モードM1へ移行させる場合、車速制限モードM2中の演算結果をリセットする。なお、車速制限モードM2中の演算結果に基づく制御情報は、モータドライバ16に送信されるが、モータドライバ16はその制御情報に基づいて走行用モータ17を駆動させない。
【0024】
図4の説明に戻り、ステップS20の判定結果が否定(目標速度=0)の場合、コントローラ11は、アクセル操作の状態からアクセル非操作の状態へ移行したか否かを判定する(ステップS25)。この判定結果が肯定の場合、コントローラ11は、車速制限モードM2による走行の制御を中止し、走行制御モードを通常走行モードM1へ移行させる(ステップS24)。一方、ステップS25の判定結果が否定の場合、コントローラ11は、車速制限モードM2を維持し、その車速制限モードM2による走行の制御を継続する(ステップS26)。
【0025】
上記のように、本実施形態では、ステップS20を肯定判定し、かつステップS21を否定判定すること、すなわち目標速度が「0」よりも大きく、かつ指示走行方向と実走行方向が一致しないことを、車速制限モードM2から通常走行モードM1への移行条件Yとしている。また、本実施形態では、ステップS20,S21を肯定判定し、かつステップS22を否定判定すること、すなわち目標速度が「0」よりも大きく、指示走行方向と実走行方向が一致し、かつ目標速度が実速度よりも大きいことを、車速制限モードM2から通常走行モードM1への移行条件Yとしている。また、本実施形態では、ステップS20を否定判定し、かつステップS25を肯定判定すること、すなわち目標速度が「0」であり、アクセル操作の状態からアクセル非操作の状態へ移行したことを、車速制限モードM2から通常走行モードM1への移行条件Yとしている。
【0026】
その一方、本実施形態では、ステップS20,S21,S22を肯定判定すること、すなわち目標速度が「0」よりも大きく、指示走行方向と実走行方向が一致し、かつ目標速度が実速度以下であることを、車速制限モードM2を維持する条件としている。
【0027】
次に、回生制動制限について、
図5~
図11を参照して、詳細に説明する。コントローラ11は、車速制限モードM2であり、且つ、回生制動制限が許可されているときにおいて、回生制動制限を行う回生制動制限状態と、回生制動制限を無しとする回生制動制限無し状態と、を切替可能に構成されている。コントローラ11は、回生制動制限が許可されているときに車速制限モードM2へ移行すると、基本的に回生制動制限状態とする。回生制動制限状態では、回生制限値が、回生制動制限無し状態における値よりも、低い値に設定される。回生制限値とは、実回生値(実際に生じている回生制動力の大きさ)をそれ以上大きくすることができない上限値を定める値である。回生制動制限状態での回生制限値をどの程度の値に設定するかは特に限定されるものではなく、車載バッテリ18の容量などに応じて適宜設定されてよい。例えば燃料電池フォークリフトのように、容量の小さいキャパシタを採用するシステムである場合、回生制動制限によってキャパシタの電圧の上昇を防ぐことができるような要求値に回生制限値を設定してよい。回生制動制限無し状態では、制限無しで回生が行われるため、回生制限値は最大回生制動性能とする値に設定される。
【0028】
例えば、
図6~
図10に示すように、「モータ力行/回生状態」の項目では、回生制動制限状態のときに回生制限値が「回生制動制限中の値」に設定され、回生制動制限無し状態のときに回生制限値が「回生制動制限無しの値」に設定される。なお、
図6~10において、「回生制動制限許可」という項目は、回生制動制限が許可されているか、禁止されているかを示す。「ディレクション」という項目は、車両の指示走行方向を定めるディレクションレバー14が前、中立、または後のいずれであるかを示している。「アクセル」という項目は、アクセルペダル12の操作の大きさ、すなわち目標速度の大きさを示している。「実速度」という項目は、実車速方向及び当該実車速方向への実速度の大きさを示している。「モード」という項目は、走行制御モードが通常走行モードM1と車速制限モードM2のどちらに設定されているかを示す。
【0029】
また、コントローラ11は、所定の条件が満たされることにより、回生制動制限状態と回生制動制限無し状態とを切り替える制御パターンを少なくとも一つ有する。本実施形態では、コントローラ11は、三つの制御パターン1~3にて、切替を行う。また、コントローラ11は、回生制動制限状態を維持する制御パターン4を有する。制御パターン1の内容は
図6に示され、制御パターン2の内容は
図7,8に示され、制御パターン3の内容は
図9,10に示される。
【0030】
図5に示す制御内容について説明する。
図5は、コントローラ11によって、どのような判定が行われることで制御パターン1~4が実行されるかの一例を示すフローチャートである。
図5のフローチャートは、走行制御モードが車速制限モードM2に設定されており、且つ、回生制動制限が許可されている状態であって、回生制動制限状態に設定されている状態から開始され、リターンに到達後はすぐにスタートに戻るループを繰り返しているものとする。
図5に示すように、コントローラ11は、回生制動制限が許可されているか否かを判定する(判定1:ステップS30)。このステップS30では、切替部20において、回生制動制限が許可と禁止のどちらに設定されているかが判定される。ステップS30の判定結果が否定(回生制動制限が禁止)の場合、コントローラ11は、制御パターン1を実行する(ステップS33)。
【0031】
制御パターン1は、所定の条件として、回生制動制限が許可から禁止に切り替えられたことが満たされた場合(ステップS30の判定1が否定の場合)、回生制限状態から回生制動制限無し状態へ切り替えるパターンである。
図6に示すように、コントローラ11は、「回生制動制限許可」の項目に示すグラフが「許可」から「禁止」へ切り替わったタイミングにて、「モータ力行/回生状態」の項目に示す回生制限値を「回生制動制限中の値」から「回生制動制限無しの値」へ急速に立ち上げる。なお、
図6の「モータ力行/回生状態」の項目には、実際の回生値を示す実回生値を破線で示している。実回生値の立ち上がりは、走行制御モード、ディレクション、目標速度、実速度などに依存して、回生制限値の範囲内(回生制限値を超えない範囲内)で推移する。なお、
図6において「問わない」と記載されている項目は、制御パターン1に関与しない項目であるため、どのような状態であってもよい。すなわち、後述の制御パターン2,3が制御パターン1よりも先に実行されるような操作以外であれば、アクセルペダル12やディレクションレバー14が適宜操作されてもよく、走行制御モードが適宜切り替わってもよい。以降の
図7~
図10においても同様である。ステップS33に示す制御パターン1の処理が終了したら、
図5に示す制御が終了する。そして、次に走行制御モードが車速制限モードM2に設定され、且つ、回生制動制限が許可されている状態であって、回生制動制限状態に設定されている状態となったら、再びステップS30から処理が繰り返される。
【0032】
ステップS30の判定が肯定であった場合、コントローラ11は、指示走行方向と実車速方向が同一方向であるか否かを判定する(判定2:ステップS31)。ディレクションレバー14の操作によって指示走行方向が変化したり、実速度がゼロとなった場合、コントローラ11は、指示走行方向と実車速方向が同一方向ではなくなったと判定する。このように、ステップS31の判定結果が否定の場合、コントローラ11は、制御パターン2を実行する(ステップS34)。
【0033】
制御パターン2は、所定の条件として、「回生制動制限状態であり、且つ、指示走行方向が変化したこと」及び「回生制動制限状態であり、且つ、実速度がゼロとなったこと」の少なくとも一方が満たされた場合、回生制限値の変化率を所定の値よりも大きな値として、回生制動制限状態から回生制動制限無し状態へ切り替えるパターンである。回生制限値の変化率が所定の値よりも大きなレートとされた状態とは、回生制限値の変化率が後述の制御パターン3(
図9,10)での変化率よりも大きい状態である。当該状態では、回生制限値が、制限中の値から例えば0.2秒で最大回生制動性能の値まで上昇する。なお、このような大きなレートを「解除レート大」と称する場合がある。ステップS34に示す制御パターン2の処理が終了したら、
図5に示す制御が終了する。そして、次に走行制御モードが車速制限モードM2に設定され、且つ、回生制動制限が許可されている状態であって、回生制動制限状態に設定されている状態となったら、再びステップS30から処理が繰り返される。
【0034】
図7は、「回生制動制限状態であり、且つ、指示走行方向が変化したこと」という条件が満たされた場合の制御パターン2の内容を示している。例えば、フォークリフト10が坂道を降坂するように前進しているときに(
図11(a)参照)、ディレクションレバー14の指示走行方向が「前」から、「後(中立でもよい)」に切り替えられた場合、「指示走行方向が変化した」という条件が満たされる。このとき、コントローラ11は、「モータ力行/回生状態」の項目に示す回生制限値を「回生制動制限中の値」から「回生制動制限無しの値」へ解除レート大として立ち上げる。この場合、「実速度」の項目に示すように、実速度は、前進の方向へ所定の大きさであったものが、回生制限値の上昇により回生制動力及び車速制限の能力が向上することにより、減速する。
【0035】
図8は、「回生制動制限状態であり、且つ、実速度がゼロとなったこと」という条件が満たされた場合の制御パターン2の内容を示している。例えば、フォークリフト10が坂道を降坂するように前進している状態から平坦路へ移行することで停止した場合(
図11(b)参照)、「実速度」のグラフの「A1」に示すように速度が低下して、「A2」に示すように実速度がゼロとなる。このとき、「実速度がゼロとなった」という条件が満たされる。このとき、コントローラ11は、「モータ力行/回生状態」の項目に示す回生制限値を「回生制動制限中の値」から「回生制動制限無しの値」へ解除レート大として立ち上げる。
【0036】
ステップS31の判定が肯定であった場合、コントローラ11は、走行制御モードが車速制限モードであるか否かを判定する(判定3:ステップS32)。車両の実走行方向と車両の指示走行方向が一致し、且つ、目標速度が実速度よりも大きくなったり(
図4のステップS22での否定)、目標速度が実速度よりも小さくなるアクセルペダル12の操作状態が非操作状態に移行することで(
図4のステップS25での肯定)、通常走行モードM1に移行すると、コントローラ11は、走行制御モードが車速制限モードM2ではないと判定する。このように、ステップS32の判定結果が否定の場合、コントローラ11は、制御パターン3を実行する(ステップS36)。
【0037】
制御パターン3は、所定の条件として、「回生制動制限状態であり、車両の実走行方向と車両の指示走行方向が一致し、且つ、目標速度が実速度よりも大きくなることで車速制限モードから通常走行モードへ移行したこと」及び「回生制動制限状態であり、且つ、目標速度が実速度よりも小さくなるアクセル操作部材の操作状態が非操作状態に移行することで車速制限モードから通常走行モードへ移行したこと」の少なくとも一方が満たされた場合、回生制限値の変化率を所定の値よりも小さな値として、回生制限状態から回生制動制限無し状態へ切り替えるパターンである。回生制限値の変化率が所定の値よりも小さな値とされた状態とは、回生制限値の変化率が前述の制御パターン2(
図7,8)での変化率よりも小さい状態である。当該状態では、回生制限値が、制限中の値から例えば1秒で最大回生制動性能の値まで上昇する。なお、このような大きなレートを「解除レート小」と称する場合がある。解除レート大の場合の変化率と解除レート小の場合の変化率との関係は特に限定されるものではなく、解除レート小の場合は、解除レート大の場合よりも、所定の倍率の時間で最大回生制動性能の値に戻してよい。ステップS36に示す制御パターン3の処理が終了したら、
図5に示す制御が終了する。そして、次に走行制御モードが車速制限モードM2に設定され、且つ、回生制動制限が許可されている状態であって、回生制動制限状態に設定されている状態となったら、再びステップS30から処理が繰り返される。
【0038】
図9は、「回生制動制限状態であり、車両の実走行方向と車両の指示走行方向が一致し、且つ、目標速度が実速度よりも大きくなることで車速制限モードから通常走行モードへ移行したこと」という条件が満たされた場合の制御パターン3の内容を示している。例えば、アクセルペダル12の操作が小さい状態(操作無しでもよい)でフォークリフト10が坂道を降坂するように前進している(
図11(a)参照)ときに、アクセルペダル12の操作を大きくして目標速度が実速度よりも大きくなると、走行制御モードが車速制限モードM2から通常走行モードM1へ移行する。このとき、「車両の実走行方向と車両の指示走行方向が一致し、且つ、目標速度が実速度よりも大きくなることで前記車速制限モードから前記通常走行モードへ移行したこと」という条件が満たされる。このとき、コントローラ11は、「モータ力行/回生状態」の項目に示す回生制限値を「回生制動制限中の値」から「回生制動制限無しの値」へ解除レート小として立ち上げる。
【0039】
図10は、「回生制動制限状態であり、且つ、目標速度が実速度よりも小さくなるアクセル操作部材の操作状態が非操作状態に移行することで車速制限モードから通常走行モードへ移行したこと」という条件が満たされた場合の制御パターン3の内容を示している。例えば、アクセルペダル12の操作が小さい状態でフォークリフト10が坂道を降坂するように前進している(
図11(a)参照)ときに、アクセルペダル12の操作を無しとすると、走行制御モードが車速制限モードM2から通常走行モードM1へ移行する。このとき、「目標速度が実速度よりも小さくなるアクセル操作部材の操作状態が非操作状態に移行することで車速制限モードから通常走行モードへ移行した」という条件が満たされる。このとき、コントローラ11は、「モータ力行/回生状態」の項目に示す回生制限値を「回生制動制限中の値」から「回生制動制限無しの値」へ解除レート小として立ち上げる。
【0040】
ステップS32の判定が肯定であった場合、コントローラ11は、制御パターン4を実行する(ステップS37)。制御パターン4は、所定の条件として、「回生制動制限状態であり、車両の実走行方向と車両の指示走行方向が一致し、且つ、車速制限モードである」という条件を満たすときに、回生制限値を「回生制動制限中の値」に維持するパターンである。ステップS37に示す制御パターン4の処理が終了したら、
図5に示す制御が終了する。そして、制御パターン4が実行された状態は、走行制御モードが車速制限モードM2に設定され、且つ、回生制動制限が許可されている状態であって、回生制動制限状態に設定されている状態であるため、再びステップS30から処理が繰り返される。
【0041】
次に、本実施形態に係る産業用車両であるフォークリフト10の作用・効果について説明する。
【0042】
フォークリフト10は、回生制動制限の許可と禁止を切り替える切替部20を備える。また、コントローラ11は、車速制限モードM2であり、且つ、回生制動制限が許可されているときにおいて、回生制動制限を行う回生制動制限状態と、回生制動制限を無しとする回生制動制限無し状態と、を切替可能に構成されている。このような構成により、回生制動制限が許可されているときには、車速制限モードM2において回生制動を制限することで回生性能を抑制することができ、且つ、必要に応じて当該回生制動制限を解除することができる。これに対し、コントローラ11は、所定の条件が満たされることにより、回生制動制限状態と回生制動制限無し状態とを切り替える制御パターン1~3を有する。この場合、運転者の操作などに基づいた適切な条件を設定することで、コントローラ11は、運転者の意図に従った態様で、回生制動制限状態と回生制動制限無し状態とを切り替えることができる。以上により、フォークリフト10の操作の官能性能を向上することができる。
【0043】
制御パターン2は、所定の条件として、「回生制動制限状態であり、且つ、指示走行方向が変化したこと」及び「回生制動制限状態であり、且つ、実速度がゼロとなったこと」の少なくとも一方が満たされた場合、回生制限値の変化率を所定の値よりも大きな値として、回生制動制限状態から回生制動制限無し状態へ切り替えるパターンである。例えば、降坂中に指示走行方向を変化させたときは(ディレクションレバー14を登坂方向である後側へ操作したり、中立へ操作するとき)、運転者に降坂動作をやめさせる意図があると考えられる。従って、コントローラ11は、上記制御パターン2を実行することで、回生制動制限を速やかに解除し、車速制限モードM2を継続しつつ、回生制動性能を高めて、フォークリフト10を予め減速させることができる。
【0044】
また、例えば、降坂後に平坦路に到達したら、フォークリフト10は、回生制動制限状態を継続したまま停止する。停止して実速度がゼロとなった場合、回生制動力が発生していないため、コントローラ11は、上記制御パターン2を実行することで、回生制動制限を速やかに解除しても、動作に影響がない。これにより、運転者が次の操作を行う時に、コントローラ11は当該意図に従った走行制御を速やかに行うことができる。なお、
図9の破線に示すように、実回生値は平坦路に到達することで徐々に小さくなる。このように、解除レート大として速やかに回生制動制限を解除しても、特段動作には影響が及ぼされない。このとき、コントローラ11が制御パターン3のように解除レート小として回生制動制限を解除すると、解除までに時間がかかり過ぎて、次の動作を行うときに、不要に回生制動制限の影響が出る可能性がある。その一方、制御パターン1のように回生制限値が急激に立ち上がるように解除した場合、万が一フォークリフト10に外力が作用したとき、実回生値の変動が大きくなりすぎる。以上より、解除レート大とすることで、これらの影響を低減することができる。
【0045】
制御パターン3は、所定の条件として、「回生制動制限状態であり、車両の実走行方向と車両の指示走行方向が一致し、且つ、目標速度が実速度よりも大きくなることで車速制限モードから通常走行モードへ移行したこと」及び「回生制動制限状態であり、且つ、目標速度が実速度よりも小さくなるアクセル操作部材の操作状態が非操作状態に移行することで車速制限モードから通常走行モードへ移行したこと」の少なくとも一方が満たされた場合、回生制限値の変化率を所定の値よりも小さな値として、制限状態から回生制動制限無し状態へ切り替えるパターンである。例えば、降坂中に大きなアクセル操作を行うことで目標速度が大きくなった場合、運転者には降坂方向(すなわち実走行方向)に加速させたい意図があると考えられる。コントローラ11は、当該意思の通りに通常走行モードM1へ移行させることができる。このとき、コントローラ11は、上記制御パターン3を実行することで、回生制動制限をゆるやかに解除し、回生制動力の振動や意図しない減速など(例えば、
図9のBを参照)を抑制した状態で、加速させることができる。
【0046】
また、例えば、降坂中にアクセルペダル12を非操作状態とした場合、運転者には停止させたいという意図があると考えられる。コントローラ11は、当該意思の通りに通常走行モードM1へ移行させて、停止させることができる。ただし、当該操作は、指示走行方向を変化させるとき(例えば、
図7に示す場合)よりは減速の意図が少ないと考えられる。従って、コントローラ11は、上記制御パターン3を実行することで、回生制動制限をゆるやかに解除し、回生制動力の振動や意図しない減速など(例えば、
図10のCを参照)を抑制することができる。
【0047】
制御パターン1は、所定の条件として、回生制動制限が許可から禁止に切り替えられたことが満たされた場合、回生制動制限状態から回生制動制限無し状態へ切り替えるパターンである。この場合、コントローラ11は、上記制御パターン1を実行することで、回生制動制限が禁止された場合には、速やかに回生制動制限無しの状態とすることができる。
【0048】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0049】
例えば、上述の実施形態では、コントローラ11は、制御パターン1~3を全て有していたが、少なくとも一つを有していればよく、採用しない制御パターンが存在していてもよい。また、制御パターン1~3のための判定1~3の順序は特に限定されず、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更してもよい。
【0050】
また、通常走行モードM1と車速制限モードM2との間の移行の条件は特に限定されるものではない。例えば、走行中にアクセル操作からアクセル非操作に移行したことによって、通常走行モードM1から車速制限モードM2へ移行させても良い。そして、この場合の車速制限モードM2における車速制限値を、アクセル非操作移行時の実速度に設定しても良い。この構成によれば、移行後の車速制限モードM2の実速度(車速制限値)は、その車速制限モードM2への移行直前の通常走行モードM1における実速度となり、その実速度(車速制限値)を超えた速度による走行が制限される。従って、車速制限モードM2の車速制限値を事前設定していなくても、車速制限モードM2において車両の走行を制御できる。また、このように、通常走行モードM1から車速制限モードM2へ移行するときに、実速度を保ったまま、車両を停止させることなく降坂させる動作において、本発明に係る制御パターンを採用してもよい。この場合、通常走行モードM1でディレクションレバー14が中立以外であり、且つ、アクセル操作中は通常走行モードM1が継続するため、本発明による回生制動制限が行われず、他の車速制御(例えば、旋回半径に基づいて車速を変化させる車両安定化制御)により減速させたい場合は、最大回生性能で減速させることができる。従って、運転者にとっては、他の速度制御が本発明の制御による影響を受けないことで、操作に対する動作の再現性を高く感じ、官能性能が良くなる。そして、アクセルオフすることで車速制限モードM2に移行したら、アクセルオフのみ回生性能を抑制することになるため、運転者が減速のためにブレーキを積極的に使用することとなり、アクセルオフ時の動作も再現性を高く感じ、違和感を低減することができる。
【0051】
切替部20はプログラムに限らず、コントローラ11に対して接続されたスイッチや操作パネルなどによって、運転者が切替操作可能に構成されていてもよい。この場合、次に述べる2つの例ように構成してもよい。1つ目に、官能よりも動作(ここでは制動性能)優先させる状況の場合に、回生制動制限を禁止にソフトウェアで切替えて制動させるようにしてもよい。2つ目に、電源の回生量の制約がない状況(電源温度や電源電圧などの条件が通常使用領域で性能制限する必要がない状況など)の場合には、回生制動制限を禁止にしておくことで、回生制動制限を無しにして最大回生制動力を通常時は使用し、制約がある状況になれば回生制動制限を許可にして、性能制限を開始するという使い方をしてもよい。
【符号の説明】
【0052】
10…フォークリフト(産業用車両)、11…コントローラ(制御部、目標速度算出部、方向算出部、車速算出部)、12…アクセルペダル(アクセル操作部材)、14…ディレクションレバー(方向指示部材)、20…切替部。