(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】抗菌剤およびそれを用いた外用剤および抗菌フィルム
(51)【国際特許分類】
A61K 31/11 20060101AFI20231114BHJP
A61K 31/045 20060101ALI20231114BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20231114BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20231114BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20231114BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20231114BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20231114BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20231114BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20231114BHJP
A01N 31/02 20060101ALI20231114BHJP
A01N 35/02 20060101ALI20231114BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20231114BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
A61K31/11
A61K31/045
A61P17/02
A61K9/06
A61K9/10
A61K9/12
A61K9/14
A61K9/70 401
A61P17/00 171
A01N31/02
A01N35/02
A01P3/00
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2019160232
(22)【出願日】2019-09-03
【審査請求日】2022-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉山 祐樹
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-231058(JP,A)
【文献】特開2019-081862(JP,A)
【文献】Molecules,2008年,Vol.13,pp.3069-3076
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00-43/00
A01N 1/00-65/48
A01P 1/00-23/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シンナムアルデヒドとファルネソールとを含有する抗菌剤であり、前記
シンナムアルデヒドが前記抗菌剤に対して390~2000ppm含まれ、前記ファルネソールが前記抗菌剤に対して
2000~10000ppm含まれることを特徴とする抗菌剤。
【請求項2】
前記ファルネソールが前記抗菌剤に対して
2000~7000ppm含まれることを特徴とする請求項1に記載の抗菌剤。
【請求項3】
請求項1
または2のいずれかに記載の抗菌剤を含むことを特徴とする外用剤。
【請求項4】
請求項1
または2のいずれかに記載の抗菌剤を含むことを特徴とする抗菌フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗菌剤およびそれを用いた外用剤および抗菌フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
シトラールやゲラニオールなどの精油成分が抗菌活性を有することは既に知られており、これらの精油成分と他の化学物質を組み合わせて使用することで抗菌活性が相乗的に増幅されることがあるということも知られている(特許文献1参照)。
【0003】
また、精油成分同士を組み合わせることでも、抗菌活性が相乗的に高まるといった提案がされている(特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、精油成分は揮発性を持つため、時間経過とともに大気中へ放散する。そのため抗菌剤中の精油成分量が減少、不足して抗菌活性が消滅してしまうため、あらかじめ多量の抗菌剤を用意しておかなければならなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-40156号公報
【文献】特開2008-231058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明の課題は、時間経過による精油成分の揮発を抑制し、長期間にわたり、抗菌活性を保持できる抗菌剤およびそれを用いた外用剤およびそれを含有する抗菌フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に係る発明は、シンナムアルデヒドとファルネソールとを含有する抗菌剤であり、前記シンナムアルデヒドが前記抗菌剤に対して390~2000ppm含まれ、前記ファルネソールが前記抗菌剤に対して2000~10000ppm含まれることを特徴とする抗菌剤である。
【0008】
また、本発明の請求項2に係る発明は、前記ファルネソールが前記抗菌剤に対して2000~7000ppm含まれることを特徴とする請求項1に記載の抗菌剤である。
【0010】
また、本発明の請求項3に係る発明は、請求項1または2のいずれかに記載の抗菌剤を含むことを特徴とする外用剤である。
【0011】
また、本発明の請求項4に係る発明は、請求項1または2のいずれかに記載の抗菌剤を含むことを特徴とする抗菌フィルムである。
【発明の効果】
【0012】
上記のように複数の化合物を組み合わせ、その含有量を調節することで、本発明の抗菌
剤は、精油成分単体よりも高い抗菌活性を有し、その効果の持続性を持つことができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の抗菌剤は、炭素数9~10のアルデヒド類または炭素数9~10のアルコール類からなる群から選択される1種類の化合物とファルネソールとを含有する。用いることができるアルデヒド類またはアルコール類の非制限的な例は、シンナムアルデヒド(炭素数9のアルデヒド)、シトラール(炭素数10のアルデヒド)、シトロネラール(炭素数10のアルデヒド)、2-ノナノール(炭素数9のアルコール)、ゲラニオール(炭素数10のアルコール)、リナロール(炭素数10のアルコール)、オイゲノール(炭素数10のアルコール)である。炭素数が9より少ない場合や10より多い場合は、ファルネソールとの組み合わせで相乗効果を得ることができない。より好ましいアルデヒド類またはアルコール類は、シンナムアルデヒド、シトラール、ゲラニオールおよびオイゲノールである。これらの化合物を用いることで、より相乗的な効果を得ることができる。
【0014】
本発明の抗菌剤において、炭素数9~10のアルデヒド類または炭素数9~10のアルコール類からなる群から選択される1種類の化合物の含有量は本発明の抗菌剤に対して390~2000ppmである。この範囲内の含有量にすることで優れた相乗効果を発現することができる。含有量が390ppmより少ないと相乗効果が得られない。また、2000ppmを超えてもそれ以上の効果の増大は見込めない。
【0015】
また、本発明の抗菌剤は、前述のアルデヒド類またはアルコール類に加えて、ファルネソールを本発明の抗菌剤に対して390~10000ppm含む。この範囲内の含有量にすることで優れた抗菌活性と効果の持続性を両立させることができる。含有量が390ppmより少ないと十分な抗菌活性が得られない。また、10000ppmを超えると、逆に抗菌活性が低下してしまう。より好ましくは、780~7000ppmを含む。この範囲内の含有量にすることで、より相乗的な効果とより優れた持続性を得ることができる。
【0016】
効果の持続性に関しては、ファルネソールの蒸気圧の低さが効いている可能性がある。蒸気圧は、分子を構成する原子の種類や数にもよるが、分子量が大きいほど低くなる傾向にある。炭素数9~10のアルデヒド類またはアルコール類の分子量が、シンナムアルデヒド(分子量132.16)、シトラール(分子量152.23)、ゲラニオール(分子量154.25)、オイゲノール(分子量164.2)などであるのに対して、ファルネソールは分子量222.37であり、分子量が大きいことが分かる。そのため、ファルネソールを加えることで他の化合物の揮発が抑えられていると考えられる。
【0017】
本発明の抗菌剤の実施形態としては、外用剤を挙げることができる。例えば、皮膚上の傷口や火傷箇所に用いることで、目的箇所の治癒を早めることが可能となる。外用剤としての製品形態は、具体的には、ゲル剤や乳液剤、クリーム剤、スプレー剤、粉末剤、軟膏剤などがある。また、剤の形態や用途等によってその他の成分を含有することができる。具体的には、剤として成形しやすいように、炭酸カルシウム、蒸留水、デンプン等の液体または固体の賦形剤または増量剤を加えてもよい。また、酸化防止剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、色材種等を加えてもよい。
【0018】
また、その他の実施形態としては、抗菌フィルムが挙げられる。抗菌フィルムは、単層フィルムや複数の樹脂を積層した積層フィルムなど、任意の製品形態をとることができる。本発明の抗菌剤をフィルムに保持させる方法としては、樹脂への練り込みやコーティング、接着剤への添加など、当該技術において知られている任意の方法を用いることができる。また、フィルムに微細な穴を開けてガス透過性を付与してもよい。さらには、追加の層として、着色層、遮光層、ガスバリア層、水蒸気透過層、UV吸収層、保香層、遮熱層などを含んでもよい。
【実施例】
【0019】
化合物の抗菌活性と相乗効果
(MICの測定)
化合物の抗菌活性はMIC(minimum inhibitory concentration)を測定することで評価できる。まず、PDA培地(15g)に蒸留水(400ml)を加えたものをオートクレーブにかけて滅菌した。その後、直径5cmのシャーレに滅菌したPDA培地を流し込み、培地が固化する前に、エタノールで希釈したゲラニオールを添加してよくかき混ぜてから固化させた。そこに、クロコウジカビ(Aspergillus niger)の胞子を1.0×103個/mlの濃度で含む胞子液を塗布し、25℃の条件で3日間にわたって培養した。
【0020】
培養終了時の培地の状態を確認し、視覚的に生育が全く観察されなかった最小濃度をMICとした。濃度は培地中の化合物の濃度を表しており、12500ppmを上限として、そこから2倍ずつ希釈していき評価を行った。シトラール、シンナムアルデヒド、オイゲノール、ウンデカナール、2-フェニルエタノール、ファルネソールも同様にしてMICを測定した。得られた評価結果を表1に示す。
【0021】
(実施例1)
複数の薬剤を併用した際の併用効果はFIC(fractional inhibitory concentration)indexを求めることで評価できる。FIC indexは以下の式から求めることができ、FIC indexが0.75以下の時に相乗効果とした。
【0022】
FIC index = MICa1/MICa0 + MICb1/MICb0
MICa0:化合物a単独のMIC
MICa1:化合物aと化合物b併用時の化合物aのMIC
MICb0:化合物b単独のMIC
MICb1:化合物aと化合物b併用時の化合物bのMIC
【0023】
まず、前述のMIC測定の際と同様にPDA培地を滅菌した。次に、ゲラニオールとファルネソールが培地中でそれぞれのMICの半分以下になるように調製したエタノール溶液を準備した。その後、直径5cmのシャーレに滅菌したPDA培地を流し込み、培地が固化する前に前述のように調製したエタノール溶液を添加して、よくかき混ぜてから固化させた。そこに、クロコウジカビ(Aspergillus niger)の胞子を1.0×103個/mlの濃度で含む胞子液を塗布し、25℃の条件で3日間にわたって培養した。培養終了時の培地の状態を確認し、視覚的に生育が全く観察されなかった最小濃度を併用時のMICとしてFIC indexを求めた。得られた評価結果を表1に示す。
【0024】
(実施例2)
実施例1のゲラニオールをシトラールに変更したことを除いて、実施例1の手順を繰り返した。得られた評価結果を表1に示す。
【0025】
(実施例3)
実施例1のゲラニオールをシンナムアルデヒドに変更したことを除いて、実施例1の手順を繰り返した。得られた評価結果を表1に示す。
【0026】
(実施例4)
実施例1のゲラニオールをオイゲノールに変更したことを除いて、実施例1の手順を繰り返した。得られた評価結果を第1表に示す。
【0027】
(比較例1)
実施例1のゲラニオールをウンデカナールに変更したことを除いて、実施例1の手順を繰り返した。得られた評価結果を表1に示す。
【0028】
(比較例2)
実施例1のゲラニオールを2-フェニルエタノールに変更したことを除いて、実施例1の手順を繰り返した。得られた評価結果を表1に示す。
【0029】
(比較例3)
実施例1のゲラニオールをシトラールに変更したこと、および実施例1のファルネソールをオイゲノールに変更したことを除いて、実施例1の手順を繰り返した。得られた評価結果を表1に示す。
【0030】
効果の持続性
(実施例5)
まず、前述のMIC測定の際と同様にPDA培地を滅菌した。その後、直径5cmのシャーレに滅菌したPDA培地を流し込んで固化させた。次に、シンナムアルデヒドを390ppmとファルネソールを390ppm含まれるように調製したエタノール溶液を準備し、固化させた培地に塗布した。そこに、クロコウジカビ(Aspergillus niger)の胞子を1.0×103個/mlの濃度で含む胞子液を塗布し、25℃の条件で3日間にわたって培養した。
【0031】
抗菌効果は、培養終了時の培地の状態を確認し、視覚的に生育が全く観察されなかった場合を「○」、視覚的に生育が表面積の1/2以下で見られた場合を「△」、視覚的に生育が表面積の1/2より広範囲で観察された場合を「×」と評価した。得られた評価結果を表2に示す。観察が終わった後、シャーレの蓋を開けてさらに25℃の条件で培養を継続し、抗菌効果を維持していた期間を持続期間として評価した。得られた評価結果を表2に示す。
【0032】
(実施例6)
実施例5のファルネソールの濃度を780ppmに変更したことを除いて、実施例5の手順を繰り返した。得られた評価結果を表2に示す。
【0033】
(実施例7)
実施例5のファルネソールの濃度を2000ppmに変更したことを除いて、実施例5の手順を繰り返した。得られた評価結果を表2に示す。
【0034】
(実施例8)
実施例5のファルネソールの濃度を7000ppmに変更したことを除いて、実施例5の手順を繰り返した。得られた評価結果を表2に示す。
【0035】
(実施例9)
実施例5のファルネソールの濃度を10000ppmに変更したことを除いて、実施例5の手順を繰り返した。得られた評価結果を表2に示す。
【0036】
(比較例4)
実施例5のシンナムアルデヒドの濃度を200ppmに変更したことを除いて、実施例5の手順を繰り返した。得られた評価結果を表2に示す。
【0037】
(比較例5)
実施例5のファルネソールの濃度を200ppmに変更したことを除いて、実施例5の手順を繰り返した。得られた評価結果を表2に示す。
【0038】
(比較例6)
実施例5のファルネソールの濃度を12000ppmに変更したことを除いて、実施例5の手順を繰り返した。得られた評価結果を表2に示す。
【0039】
【0040】
【0041】
表1の実施例1から4より、ファルネソールと組み合わせることで、炭素数9~10のアルデヒド類またはアルコール類は390~2000ppmの含有量で相乗効果を発揮することが分かった。比較例2でも同様に、炭素数9より少ない化合物ではファルネソールと併用しても抗菌効果は表れなかった。また、比較例3では、炭素数9~10のアルデヒド類またはアルコール類でもファルネソールを使用しなければ、相乗効果が得られないことが分かった。
【0042】
表2の比較例4より、ファルネソールと組み合わせても炭素数9~10のアルデヒド類またはアルコール類が390ppmより少ないと抗菌効果が表れないことが分かった。比較例5では、炭素数9~10のアルデヒド類またはアルコール類とファルネソールを併用しても、ファルネソールが390ppmより少ないと抗菌効果が表れないことが分かった。また、比較例6では、ファルネソールが10000ppmを超えても、抗菌効果が表れないことが分かった。
【0043】
以上を総合すると、炭素数9~10のアルデヒド類またはアルコール類からなる群から選択される1種類の化合物とファルネソールとを併用し、アルデヒド類またはアルコール類を抗菌剤に対して390~2000ppm、ファルネソールを390 ~10000ppm含まれるようにすることで、抗菌活性を相乗的に高めることができるうえに、効果を持続させることが可能になることが明らかになった。
以下に、当初の特許請求の範囲に記載していた発明を付記する。
[1]
炭素数9~10のアルデヒド類または炭素数9~10のアルコール類からなる群から選択される1種類の化合物とファルネソールとを含有する抗菌剤であり、前記アルデヒド類またはアルコール類が前記抗菌剤に対して390~2000ppm含まれ、前記ファルネソールが前記抗菌剤に対して390~10000ppm含まれることを特徴とする抗菌剤。
[2]
前記ファルネソールが前記抗菌剤に対して780~7000ppm含まれることを特徴とする項1に記載の抗菌剤。
[3]
前記炭素数9~10のアルデヒド類または炭素数9~10のアルコール類がシンナムアルデヒド、シトラール、ゲラニオール、およびオイゲノールのいずれかであることを特徴とする項1または2のいずれかに記載の抗菌剤。
[4]
項1から3のいずれかに記載の抗菌剤を含むことを特徴とする外用剤。
[5]
項1から3のいずれかに記載の抗菌剤を含むことを特徴とする抗菌フィルム。