(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】画像形成装置及び画像形成方法
(51)【国際特許分類】
D06B 11/00 20060101AFI20231114BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20231114BHJP
B41J 2/21 20060101ALI20231114BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20231114BHJP
D06C 23/00 20060101ALI20231114BHJP
D06P 5/12 20060101ALI20231114BHJP
D06P 5/30 20060101ALI20231114BHJP
D06P 7/00 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
D06B11/00 A
B41J2/01 123
B41J2/01 125
B41J2/01 401
B41J2/01 451
B41J2/21
B41M5/00 100
B41M5/00 114
B41M5/00 120
B41M5/00 132
D06C23/00
D06P5/12 Z
D06P5/30
D06P7/00
(21)【出願番号】P 2019180441
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104178
【氏名又は名称】山本 尚
(72)【発明者】
【氏名】岡田 吾郎
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-530269(JP,A)
【文献】特開2019-065421(JP,A)
【文献】特開2019-065422(JP,A)
【文献】特開2011-110790(JP,A)
【文献】特開2016-117975(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06B 1/00 - 23/30
B41J 2/01
B41J 2/21
B41M 5/00
D06C 3/00 - 29/00
D06P 1/00 - 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被印刷媒体を構成する化学繊維を染色している染料、または顔料が、前記被印刷媒体に形成される印刷面へ移動することを抑制する移染防止剤を、前記被印刷媒体に吐出する吐出部であって、前記被印刷媒体が載置されるプラテン、または前記吐出部の少なくとも何れかが移動可能に設けられた前記吐出部と、
前記移染防止剤が吐出された領域に前記印刷面を形成するインクを吐出するインクジェットヘッドと
、
制御部と
を備え、
前記制御部は、前記被印刷媒体の材質、または、前記印刷面における位置に基づき、前記吐出部から吐出する前記移染防止剤の量を変更することを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記吐出部は、樹脂成分を含むまたは有色の前記移染防止剤を、前記インクジェットヘッドが前記インクを吐出する領域に吐出すること
を特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記インクジェットヘッドは、
白インクを吐出する白ヘッドと、
カラーインクを吐出するカラーヘッドと
を備え、
前記吐出部が前記移染防止剤を吐出する前又は後に、少なくとも前記白ヘッドから前記白インクが吐出される領域に、前処理剤を吐出する前処理剤吐出部を備えること
を特徴とする請求項1又は2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記被印刷媒体に対して熱処理を行う熱処理部を備え、
前記熱処理部は、前処理剤の吐出後に前記熱処理を行わず、前記移染防止剤の吐出後に前記熱処理を行うこと
を特徴とする請求項1から3の何れかに記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記吐出部は前記移染防止剤を吐出する移染防止剤ヘッドを備え、
前記移染防止剤ヘッドと前記インクジェットヘッドとを搭載するキャリッジを備えること
を特徴とする請求項1から4の何れかに記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記移染防止剤は、吸着特性を有した微粒子を含むこと
を特徴とする請求項1から5の何れかに記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記移染防止剤は、活性炭を含むこと
を特徴とする請求項6の何れかに記載の画像形成装置。
【請求項8】
前記被印刷媒体に対して熱処理を行う熱処理部と、
制御部とを備え、
前記制御部は、
前記白ヘッドから前記被印刷媒体に前記白インクを吐出する前に前記熱処理部により前記被印刷媒体に予備加熱処理を行い、
前記予備加熱処理の後に前記インクジェットヘッドから前記被印刷媒体に前記カラーインクを吐出し、その後、前記予備加熱処理よりも時間が長い本加熱処理を行うこと
を特徴とする請求項3に記載の画像形成装置。
【請求項9】
前記制御部は、
前記インクジェットヘッドから吐出する前記インクにより形成される画像の色が所定の濃さより濃さの値が大きい、または所定の明るさより明るさの値が小さい位置は、前記移染防止剤を前記吐出部から前記被印刷媒体に吐出する量を所定量以下に減少すること
を特徴とする請求項
1から8の何れかに記載の画像形成装置。
【請求項10】
被印刷媒体を構成する化学繊維を染色している染料、または顔料が、前記被印刷媒体に形成される印刷面へ移動することを抑制する移染防止剤を、前記被印刷媒体に吐出する吐出部であって、前記被印刷媒体が載置されるプラテン、または前記吐出部の少なくとも何れかが移動可能に設けられた前記吐出部と、
前記印刷面を形成するインクを吐出するインクジェットヘッドと、
制御部とを備えた画像形成装置によって実行される画像形成方法であって、
前記移染防止剤を、前記被印刷媒体に前記吐出部から吐出させる移染防止剤吐出ステップと、
前記移染防止剤が吐出された領域に前記印刷面を形成するインクを前記インクジェットヘッドから吐出させるインク吐出ステップとを備え
、
前記移染防止剤吐出ステップにおいて、前記被印刷媒体の材質、または、前記印刷面における位置に基づき、前記吐出部から吐出する前記移染防止剤の量を変更することを特徴とする画像形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置及び画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
染色済みの化学繊維が用いられる布へのインクによる印刷時に、インク定着のために熱処理が行われる。この時、染料がインク層へ移動する昇華移染が生じる場合がある。昇華移染を防止するために、活性炭を含む昇華移染防止層が布上にスクリーン印刷により形成され、その上にインクが吐出され、その後、熱処理が行われる画像形成方法が特許文献1で提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スクリーン印刷により昇華移染防止層が形成される場合には、印刷される異なる画像毎に、スクリーン印刷用の版を作る必要がある。従って、版を作る工数、費用が掛かるという問題点があった。
【0005】
本発明の目的は、昇華移染の影響を低減しつつ、多様なデザインの画像を印刷することが出来る画像形成装置及び画像形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一態様の画像形成装置は、被印刷媒体を構成する化学繊維を染色している染料、または顔料が、前記被印刷媒体に形成される印刷面へ移動することを抑制する移染防止剤を、前記被印刷媒体に吐出する吐出部であって、前記被印刷媒体が載置されるプラテン、または前記吐出部の少なくとも何れかが移動可能に設けられた前記吐出部と、前記移染防止剤が吐出された領域に前記印刷面を形成するインクを吐出するインクジェットヘッドとを備えることを特徴とする。
【0007】
画像形成装置では、吐出部が被印刷媒体に移染防止剤を吐出することにより、化学繊維を染色している染料、または顔料が、被印刷媒体に形成される印刷面へ移動することを抑制でき、且つ、多様な画像が印刷できる。
【0008】
前記吐出部は、樹脂成分を含むまたは有色の前記移染防止剤を、前記インクジェットヘッドが前記インクを吐出する領域に吐出してもよい。この場合、移染防止剤はインクが吐出される領域に吐出されるので、インクが吐出されない領域に移染防止剤が吐出されない。従って、移染防止剤が樹脂成分を含んでいる場合、または移染防止剤が有色である場合において、移染防止剤の塗布跡の目立ちが低減する。
【0009】
前記インクジェットヘッドは、白インクを吐出する白ヘッドと、カラーインクを吐出するカラーヘッドとを備え、前記吐出部が前記移染防止剤を吐出する前又は後に、少なくとも前記白ヘッドから前記白インクが吐出される領域に、前処理剤を吐出する前処理剤吐出部を備えてもよい。この場合、白インクが吐出される領域に前処理剤が吐出され、移染防止剤も吐出されるので、化学繊維を染色している染料、または顔料が、白インクへ移動することを抑制できる。従って、白インクを吐出する場合においても鮮明な画像が印刷される。
【0010】
また、前記画像形成装置は、前記被印刷媒体に対して熱処理を行う熱処理部を備え、前記熱処理部は、前処理剤の吐出後に前記熱処理を行わず、前記移染防止剤の吐出後に前記熱処理を行ってもよい。この場合、熱処理による前処理剤の造膜と移染防止剤の定着とを同じタイミングで行うことができる。従って、前処理剤の造膜と移染防止剤の定着を別々に熱処理で行う場合よりも処理時間が短縮する。
【0011】
また、前記画像形成装置は、前記吐出部は前記移染防止剤を吐出する移染防止剤ヘッドを備え、前記移染防止剤ヘッドと前記インクジェットヘッドとを搭載するキャリッジを備えてもよい。この場合、移染防止剤ヘッドとインクジェットヘッドとは同じキャリッジに搭載されるので、移染防止剤の吐出領域とインクの吐出領域との位置ズレが低減する。
【0012】
前記移染防止剤は、吸着特性を有した微粒子を含んでもよい。この場合、吸着特性を有した微粒子により、染料、または顔料を補捉して、被印刷媒体に形成される印刷面へ染料、または顔料が移動することを抑制することができる。
【0013】
前記移染防止剤は、活性炭を含んでもよい。この場合、コストの安い活性炭により移染防止剤のコストを低減することができる。
【0014】
また、前記画像形成装置は、前記被印刷媒体に対して熱処理を行う熱処理部と、制御部とを備え、前記制御部は、前記白ヘッドから前記被印刷媒体に前記白インクを吐出する前に前記熱処理部により前記被印刷媒体に予備加熱処理を行い、前記予備加熱処理の後に前記インクジェットヘッドから前記被印刷媒体に前記カラーインクを吐出し、その後、前記予備加熱処理よりも時間が長い本加熱処理を行ってもよい。この場合、予備加熱処理、および長時間の本加熱処理を行うことで、画質を向上しつつ、移染防止部材により化学繊維を染色している染料、または顔料が、白インクへ移動することを抑制できる。
【0015】
また、前記画像形成装置は、制御部を備え、前記制御部は、前記被印刷媒体の材質に基づき、前記吐出部から吐出する前記移染防止剤の量を変更してもよい。この場合、染料、または顔料が被印刷媒体に形成される印刷面へ移動しにくい材質から被印刷媒体が構成されている場合には、移染防止剤の量を低減する。従って、必要以上に移染防止剤を吐出する可能性を低減できる。
【0016】
また、前記画像形成装置は、制御部を備え、前記制御部は、前記印刷面における位置により、前記移染防止剤を前記吐出部から前記被印刷媒体に吐出する量を変更してもよい。この場合、印刷面における位置に応じて移染防止剤の吐出量を減らすことが可能なので、移染防止剤の量を節約でき、コストを低減できる。
【0017】
前記制御部は、前記インクジェットヘッドから吐出する前記インクにより形成される画像の色が所定の濃さより濃さの値が大きい、または所定の明るさより明るさの値が小さい位置は、前記移染防止剤を前記吐出部から前記被印刷媒体に吐出する量を所定量以下に減少するようにしてもよい。この場合、印刷される色の濃い部分、または暗い部分は、昇華移染の見た目による影響が比較的小さいので、移染防止剤の量を減らすことで、コストを低減できる。
【0018】
本発明の第二態様の画像形成方法は、被印刷媒体を構成する化学繊維を染色している染料、または顔料が、前記被印刷媒体に形成される印刷面へ移動することを抑制する移染防止剤を、前記被印刷媒体に吐出する吐出部であって、前記被印刷媒体が載置されるプラテン、または前記吐出部の少なくとも何れかが移動可能に設けられた前記吐出部と、前記印刷面を形成するインクを吐出するインクジェットヘッドと、制御部とを備えた画像形成装置によって実行される画像形成方法であって、前記移染防止剤を、前記被印刷媒体に前記吐出部から吐出させる移染防止剤吐出ステップと、前記移染防止剤が吐出された領域に前記印刷面を形成するインクを前記インクジェットヘッドから吐出させるインク吐出ステップとを備えたことを特徴とする。
【0019】
上記画像形成方法では、吐出部が被印刷媒体に移染防止剤を吐出することにより、化学繊維を染色している染料、または顔料が、被印刷媒体に形成される印刷面へ移動することを抑制でき、且つ、多様な画像が印刷できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】印刷装置1の熱処理部4の内部構造を示す背面図である。
【
図4】印刷装置1の概略的な電気的構成を示すブロック図である。
【
図6】キャリッジ13と布帛3の配置を示す平面図である。
【
図7】第二実施形態のキャリッジ13と布帛3の配置を示す平面図である。
【
図9】第一移染防止剤吐出処理のサブルーチンである。
【
図10】第二移染防止剤吐出処理のサブルーチンである。
【
図11】第三実施形態のキャリッジ13と布帛3の配置を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図面を参照し、本発明の第一実施形態である印刷装置1を説明する。以下説明は図中に矢印で示す左右、前後、上下を使用する。前から後ろへの方向は、以下、「搬送方向」と言う。
【0022】
<印刷装置1の構造>
図1を参照し、印刷装置1の構造を説明する。印刷装置1は、印刷部2、インクカートリッジ収容部(図示略)、及び熱処理部4等を備えている。印刷部2の筐体9の前壁には、プラテン31及びプラテン31に載置された布帛等の記録媒体が入出可能な開口部10が設けられている。
【0023】
印刷部2の筐体9に覆われた部分には、記録媒体に印刷を行う印刷領域11が設けられている。印刷領域11には、印刷ヘッド12、キャリッジ13が設けられ、ガイドロッド14,15が左右方向(紙面に手前方向及び奥方向)に架設されている。
図3に示すように印刷ヘッド12は、前処理剤ヘッド121、白ヘッド122、及びカラーヘッド123を備えている。前処理剤ヘッド121は、図に「P」とも示す。白ヘッド122は図中「W」とも示す。カラーヘッド123は図中「C」とも示す。
【0024】
前処理剤ヘッド121、白ヘッド122、およびカラーヘッド123は、ノズル配列を、主走査方向(左右方向)に複数備える。前処理剤ヘッド121のノズル配列は、後述する前処理剤の液滴を吐出する複数のノズル(不図示)が副走査方向(前後方向)に配列されたものである。白ヘッド122のノズル配列は、後述する白色インク(ホワイト(W))の液滴を吐出する複数のノズル(不図示)が副走査方向(前後方向)に配列されたものである。カラーヘッド123のノズル配列は、後述するブラック(K)、イエロー(Y)、シアン(C)、及びマゼンタ(M)のカラーインクの液滴を吐出する複数のノズル(不図示)が副走査方向(前後方向)に配列されたものである。
図3に示すように、キャリッジ13は、副走査方向の上流側から下流側に向けて前処理剤ヘッド121、白ヘッド122、及びカラーヘッド123を搭載する。第一実施形態では、前処理剤に後述する移染防止剤が混入されている。
【0025】
図1に示すように、印刷領域11の右端部(紙面方向の奥側の部分)には、キャリッジモータ18が設けられている。キャリッジモータ18は、一例として、キャリッジ13を主走査方向(左右方向)へ往復駆動するステッピングモータである。キャリッジ13は、ガイドロッド14,15と平行に掛けられたベルト(図示略)に連結されている。ベルトは、キャリッジモータ18に連結されたプーリ(図示略)と印刷領域11の左端部に設けられたプーリ(図示略)とに掛装されている。キャリッジモータ18を駆動することにより、印刷ヘッド12を搭載したキャリッジ13は、ガイドロッド14,15に沿って主走査方向(左右方向)に移送される。
【0026】
インクカートリッジ収容部は、複数のインクカートリッジを収容する。各インクカートリッジは、夫々、移染防止剤を含む前処理剤、白インク、及びカラーインクを貯留する。インクカートリッジに貯留されている前処理剤、白インク、及びカラーインクは、チューブ(図示略)を介して夫々前処理剤ヘッド121、白ヘッド122、及びカラーヘッド123に供給される。
【0027】
印刷領域11、及び後述する加熱領域21の左右方向中央部には、ガイドレール(図示略)が前後方向に列設されている。ガイドレールは、プラテン31を支持するプラテン支持部61を前後方向に案内する。プラテン31は、上面視において、前後方向に長尺な板状である。
【0028】
ガイドレールの前端部付近には、プラテンモータ26が設けられている。プラテンモータ26は、一例として、ステッピングモータである。プラテンモータ26の出力軸には、プーリ16が固定されている。プーリ16よりも前側の底部にプーリ24が回転可能に支持されている。ベルト17は、プーリ16、及びプーリ24に掛装されている。加熱領域21の下方に、プーリ28が回転可能に支持されている。ベルト25は、プーリ24、及びプーリ28に掛装されている。ベルト25には、プラテン支持部61が連結されている。プラテンモータ26の回転駆動によって、プーリ16が回転する。プーリ16の回転は、ベルト17を介してプーリ24を回転させる。プーリ24の回転は、ベルト25に伝達し、プラテン支持部61はガイドレールに沿って副走査方向(前後方向)に移送される。
【0029】
印刷部2の後方には熱処理部4が設けられている。熱処理部4の筐体20の内部には、加熱領域21が設けられている。加熱領域21には、加熱機構30が設けられている。加熱機構30は、例えば、記録媒体に印刷された画像を定着させる為に、記録媒体を加熱する。
【0030】
図1及び
図2に示すように、加熱機構30は、水平姿勢の中板40、ヒートプレス板34、弾性支持機構55、及び昇降駆動機構56等を備えている。
【0031】
ヒートプレス板34は、ヒートシート部32、及び断熱板33等を備えている。断熱板33は、ヒートシート部32の上面に固定されている。断熱板33は、一例として、シリコンゴム発泡体製の板である。ヒートシート部32は、ヒートシート32A、及び蓄熱材(図示略)を備える。ヒートシート32Aは、内部にニクロム線が配設されている発熱体である。蓄熱材は、ヒートシート32Aが発熱した熱を蓄熱し、ヒートシート32Aを挟むように配置された鉄製の部材である。
【0032】
弾性支持機構55は、中板40に対してヒートプレス板34を上下方向に摺動可能に弾性支持する。弾性支持機構55は、断熱板33の四隅に夫々設けられている。昇降駆動機構56は、プラテン31に載置されている記録媒体の表面に対してヒートプレス板34を接離可能に昇降駆動する。昇降駆動機構56は、ヒートプレスモータ47(
図2参照)の回転駆動力により、昇降駆動する。ヒートプレスモータ47は、一例として、ステッピングモータである。
【0033】
<印刷装置1の電気的構成>
図4に示す様に、印刷装置1は、CPU81、ROM82、RAM83、記憶装置84、操作部85、表示部86、入出力部87、通信部88、駆動回路90~97等を備え、バスを介して互いに接続されている。CPU81は、印刷装置1を制御し、ROM82から各種のプログラムを読み出し、RAM83をワーキングメモリとして使用し、各種の処理を実行する。
【0034】
記憶装置84は、フラッシュメモリ、HDD等の不揮発性の記憶装置である。記憶装置84は、後述する第一印刷処理、第二印刷処理、第一移染防止剤吐出処理、第二移染防止剤吐出処理等のプログラム、各種の設定画面のデータ、及びパラメータ等を記憶している。操作部85は、操作パネル等(図示略)を備えている。操作パネルは、例えば、ボタン等を備えている。従って、操作部85を介して、操作者の指示がCPU81に入力される。表示部86は、周知のディスプレイ装置等で構成される。表示部86は、タッチパネル(図示略)を備え、操作部85として機能してもよい。入出力部87は、SDメモリカードスロット、及びUSB(登録商標)ポート等を備えている。入出力部87には、PC(パーソナルコンピュータ)100、及びカメラ101等が接続されてもよい。
【0035】
通信部88は、無線モジュール(図示略)と有線モジュール(図示略)の内の少なくとも一方を有し、端末装置等の外部装置(図示略)とネットワーク(図示略)を介して接続可能である。印刷装置1は、通信部88に代えて、USBポートに接続可能な無線モジュールにより、外部装置とネットワークを介して接続されてもよい。
【0036】
駆動回路90は、前処理剤ヘッド121に接続しており、CPU81の制御の下、ノズルから移染防止剤を含んだ前処理剤の液滴を吐出する。駆動回路91は、白ヘッド122に接続しており、CPU81の制御の下、白ヘッド122の各第ノズルから白インクの液滴を吐出する。駆動回路92は、カラーヘッド123に接続しており、CPU81の制御の下、カラーヘッド123の各ノズルからカラーインクの液滴を吐出する。駆動回路93は、キャリッジモータ18に接続しており、CPU81の制御の下、キャリッジモータ18を駆動する。駆動回路94は、プラテンモータ26に接続しており、CPU81の制御の下、プラテンモータ26を駆動する。駆動回路95は、ヒートプレスモータ47に接続しており、CPU81の制御の下、ヒートプレスモータ47を駆動する。駆動回路96は、ヒートシート32Aに接続しており、CPU81の制御の下、ヒートシート32Aを発熱する。尚、第一実施形態の場合には、駆動回路97及び移染防止剤ヘッド124は不要である。後述する第二実施形態の場合には、前処理剤に移染防止剤が含まれておらず、印刷装置1は、上記電気的構成に加えて、駆動回路97、及び移染防止剤ヘッド124を備える。移染防止剤ヘッド124は駆動回路97に接続しており、CPU81の制御の下、ノズルから移染防止剤を含んだ前処理剤の液滴を吐出する。
【0037】
<前処理剤>
前処理剤は、被印刷媒体である布帛3(
図6及び
図7参照)にインクが塗布される前に塗布されるベースコート剤である。一例として、二価の金属塩(一例としてCaCl
2またはCa(NO
2)
2など)を含み、インクの発色を鮮やかにする。
【0038】
<昇華移染>
染色済みの化学繊維、特にポリエステル繊維が用いられる布へのインクによる印刷時に、インク定着のために熱処理が行われる。この時、熱処理により繊維を染色している染料に昇華現象が生じ、染料がインク層へ移動する昇華移染が生じる場合がある。この問題を解決するために、熱処理の温度を下げて定着する方法が考えられる。しかし、熱処理の温度が下がると、定着の不十分になるなどしてインクの塗膜面の耐擦性が低下するという新たな問題が発生する。従って、本実施例では、移染防止剤を布帛3に吐出する。
【0039】
<移染防止剤>
第一実施形態では、昇華汚染を防止するために、移染防止剤を含んだ前処理剤を布帛3に前処理剤ヘッド121から吐出する。移染防止剤は、一例として、多孔質部材、樹脂成分、グリコール類、水、及び界面活性剤を含んでいる。多孔質部材の一例は、活性炭、ゼオライト、又はMOF(METAL Organic Frameworks)等である。活性炭は、多孔質であるために、体積の割に広い表面積を持ち、多くの物質を吸着する吸着特性を有する。ゼオライトも多孔質構造であり、極微少な連続した空洞を有しているので、吸着特性を有する。MOFは人工的に合成された多孔質体であり、優れた吸着特性を有する。移染防止剤中に於ける多孔質部材の含有量は、一例として5%から20%である。従って、移染防止剤は有色である。一例として、活性炭を含む移染防止剤はグレイ色である。また、ゼオライトを含む移染防止剤は乳白色である。また、MOFを含む多孔質部材は、MOFが銅又は鉄を含む場合には青色である。移染防止剤に含まれる多孔質部材は、昇華汚染が生じた場合に、繊維を染色している染料を吸着して、インク面に染料が移動するのを防止する。また、多孔質部材は繊維を染色している顔料が印刷面へ移動することも抑制できる。多孔質部材が活性炭の場合の活性炭の平均粒子径の一例を説明する。例えば、国際公開番号WO2019/131209号公報の[0051]段落には、平均粒子径が20μm以下の活性炭が開示されている。活性炭の平均粒子径は、前処理剤ヘッド121のノズル径以下であればよい。樹脂成分の一例はバインダー樹脂である。移染防止剤中に於けるバインダー樹脂の量は5%から20%である。バインダー樹脂は、吐出された移染防止剤が布帛3の洗濯により剥離することを防止する洗濯耐性を高める。バインダー樹脂の一例は、ウレタン、アクリル、又はスチレン等である。バインダー樹脂は、水溶性のエマルジョンでもよい。グリコール類の一例はグリセリンである。前処理剤は布帛3の毛羽を抑えると共にインクの滲みを抑える。
【0040】
<第一印刷処理>
図5を参照して、印刷装置1の第一印刷処理について説明する。第一印刷処理では、
図6に示すように、キャリッジ13上には、前処理剤ヘッド121、白ヘッド122、及びカラーヘッド123が副走査方向に配置され、前処理剤ヘッド121は、移染防止剤を含んだ前処理剤の液滴を吐出することが前提である。初めに
図1に示すセット位置P1に、プラテン31の前端部が位置しているときに、操作者は、プラテン31に被印刷媒体の一例の布帛3をセットする。布帛3の一例は、ポリエステル製のシャツである。CPU81は、操作者により操作部85を介し所定の操作が行われたことを検出すると、CPU81は、ROM82から第一印刷処理プログラムを読み出して、第一印刷処理を実行する。また、CPU81が、PC100から印刷開始の指示を受信検出した場合にも、CPU81は第一印刷処理を開始する。
【0041】
図5に示すように、CPU81は、初めに、駆動回路94を介してプラテンモータ26を駆動し、布帛3が載置されたプラテン31をセット位置P1(
図1参照)から印刷位置P2(
図1参照)に搬送する(S1)。印刷位置P2は、プラテン31の前端部が到達する位置である。
図6に示すように、布帛3は、プラテン31の予め定められた位置に載置されている。一例として、布帛3上においてP11,P12,P13,P14を頂点とする矩形の領域3Aに画像が印刷されるものとする。この場合には、白インクが吐出される領域は領域3Aである。また、カラーインクの吐出される領域も領域3Aである。
【0042】
次に、CPU81は、前処理剤及び移染防止剤の吐出処理を実行する(S2)。一例として、CPU81は、前処理剤ヘッド121による前処理剤の吐出開始位置である位置P11を含む走査位置L1にプラテン31を移動する。この時、前処理剤ヘッド121の前端121Aが走査位置L1に位置する。次いで、CPU81は、キャリッジ13を右方向に移動させ、前処理剤及び移染防止剤の塗布が必要な領域3Aに対して前処理剤ヘッド121から移染防止剤を含んだ前処理剤を吐出する。CPU81は、前処理剤の吐出をプラテン31の副走査方向(前側から後側方向)への移動により行う。CPU81は、順次後方にプラテン31を移動させると共に、キャリッジ13を主走査方向(左右方向)に往復移動させ、前処理剤ヘッド121から前処理剤を吐出する。CPU81は、位置P14まで前処理剤の吐出が完了したときに、前処理剤ヘッド121から前処理剤の吐出を終了する。前処理剤に含まれる移染防止剤の吐出量は予め定められた規定量である。尚、移染防止剤の吐出量を変更する後述の第一移染防止剤吐出処理(
図9参照)又は第二移染防止剤吐出処理(
図10)を行う指示が操作部85から入力されていた場合には、CPU81がS2の処理で、第一移染防止剤吐出処理、又は、第二移染防止剤吐出処理のサブルーチンを実行する。
【0043】
次に、CPU81は、加熱位置P3にプラテン31を搬送する(S4)。
図1に示すように、加熱位置P3は、熱処理部4内において、プラテン31の前端が到達する位置である。CPU81は、プラテン31が加熱位置に到達した場合に、予備加熱処理を行う(S5)。予備加熱処理は前処理剤及び移染防止剤を定着させる処理である。一例として、CPU81は、駆動回路95(
図4参照)を介して、ヒートプレスモータ47(
図4参照)を駆動して、ヒートプレス板34(
図2参照)をプラテン31方向に押し下げ、ヒートプレス板34を布帛3(
図6参照)に当接する。CPU81は、駆動回路96を介してヒートシート32Aを予備加熱の所定時間発熱させる。所定時間の一例は、30秒以内である。その後、CPU81は、ヒートプレスモータ47(
図4参照)を駆動して、ヒートプレス板34(
図2参照)を上方に移動させる。
【0044】
次に、CPU81は、プラテンモータ26を駆動して、プラテン31を加熱位置P3(
図1参照)から印刷位置P2(
図1参照)に搬送する(S6)。次いで、CPU81は、白インクの吐出処理を実行する(S7)。一例として、CPU81は、白ヘッド122による白インクの吐出開始位置である位置P11を含む走査位置L1に白ヘッド122の前端部122Aが一致する位置までプラテン31を移動する。次いで、CPU81は、キャリッジ13を右方向に移動させ、白インクを領域3Aに対して白ヘッド122から白インクを吐出する(S7)。従って、CPU81は、白インクの吐出をプラテン31の副走査方向(前側から後側方向)への移動により行う。CPU81は、順次後方にプラテン31を移動させると共に、キャリッジ13を主走査方向(左右方向)に往復移動させ、白ヘッド122によって白インクを吐出する。CPU81は、位置P14まで白インクの吐出が完了したときに、白ヘッド122から白インクの吐出を終了する。
【0045】
次いで、CPU81は、カラーインクの吐出処理を実行する(S8)。一例として、CPU81は、カラーヘッド123によるカラーインクの吐出開始位置である位置P11を含む走査位置L1にカラーヘッド123の前端部123Aが一致する位置までプラテン31を移動する。次いで、CPU81は、キャリッジ13を右方向に移動させ、カラーインクを領域3Aに対してカラーヘッド123からカラーインクを吐出する(S8)。従って、CPU81は、カラーインクの吐出をプラテン31の副走査方向(前側から後側方向)への移動により行う。CPU81は、順次後方にプラテン31を移動させると共に、キャリッジ13を主走査方向(左右方向)に往復移動させ、カラーヘッド123によってカラーインクを吐出する。CPU81は、位置P14までカラーインクの吐出が完了したときに、カラーヘッド123からカラーインクの吐出を終了する。尚、
図6に示す走査位置L1にカラーヘッド123の前端部123Aが到達してから走査位置L2に白ヘッド122の前端部122Aが到達するまでの間は、CPU81は、白インク吐出処理(S7)及びカラーインク吐出処理(S8)を同時に行ってもよい。
【0046】
次に、CPU81は、加熱位置P3にプラテン31を搬送する(S9)。S9の処理はS4の処理と同様の処理であるので、説明は省略する。CPU81は、プラテン31が加熱位置に到達した場合に、本加熱処理を行う(S10)。本加熱処理は、布帛3に吐出された白インク及びカラーインクを定着させる処理である。一例として、CPU81は、駆動回路95(
図2参照)を介して、ヒートプレスモータ47(
図4参照)を駆動して、ヒートプレス板34(
図2参照)をプラテン31方向に押し下げ、ヒートプレス板34を布帛3に当接する。CPU81は、駆動回路96を介してヒートシート32Aを予備加熱処理よりも時間が長い本加熱の所定時間発熱させる。所定時間の一例は、10分である。その後、CPU81は、ヒートプレスモータ47(
図4参照)を駆動して、ヒートプレス板34(
図2参照)を上方に移動させる。
【0047】
次に、CPU81は、プラテンモータ26を駆動して、セット位置P1にプラテン31を搬送する(S11)。作業者は、セット位置P1では、作業者がプラテン31から布帛3を取り外す。
【0048】
<第二実施形態>
次に、
図7及び
図8を参照して、本発明の第二実施形態について説明する。第二実施形態では、前処理剤に移染防止剤が含まれていない。従って、前処理剤は、
図7に示す前処理剤ヘッド121から吐出される。また、移染防止剤は移染防止剤を吐出するノズルを備えた移染防止剤ヘッド124から吐出される。例えば、
図7に示すように、キャリッジ13は、副走査方向の上流側から下流側に向けて前処理剤ヘッド121、移染防止剤ヘッド124、白ヘッド122、及びカラーヘッド123を搭載する。移染防止剤ヘッド124は図中「A」とも示す。
【0049】
CPU81は、操作者により操作部85を介し所定の操作が行われたことを検出すると、CPU81は、ROM82から第二印刷処理プログラムを読み出して、第二印刷処理を実行する。また、CPU81が、PC100から印刷開始の指示を受信検出した場合にも、CPU81は第二印刷処理を開始する。
【0050】
<第二印刷処理>
第二印刷処理は第一印刷処理と異なるのは、S2及びS3の処理のみであり、他のS1,S4~S11の処理は、第一印刷処理のS1,S4~S11の処理と同じであるので、異なるS2及びS3の処理のみを説明する。CPU81は、プラテン31を印刷位置P2(
図1参照)に搬送すると(S1)、前処理剤吐出処理を実行する(S2)。一例として、CPU81は、前処理剤ヘッド121による前処理剤の吐出開始位置である位置P11を含む走査位置L1にプラテン31を移動する。この時、前処理剤ヘッド121の前端121Aが走査位置L1に位置する。次いで、CPU81は、キャリッジ13を右方向に移動させ、領域3Aに対して前処理剤ヘッド121から前処理剤を吐出する。従って、CPU81は、前処理剤の吐出をプラテン31の副走査方向(前側から後側方向)への移動により行う。CPU81は、順次後方にプラテン31を移動させると共に、キャリッジ13を主走査方向(左右方向)に往復移動させ、前処理剤ヘッド121から前処理剤を吐出する。CPU81は、位置P14まで前処理剤の吐出が完了したときに、前処理剤ヘッド121から前処理剤の吐出を終了する。
【0051】
次に、CPU81は、移染防止剤吐出処理を実行する(S3)。一例として、CPU81は、移染防止剤ヘッド124による移染防止剤の吐出開始位置である位置P11を含む走査位置L1に移染防止剤ヘッド124の前端部124Aが一致する位置までプラテン31を移動する。次いで、CPU81は、キャリッジ13を右方向に移動させ、領域3Aに対して移染防止剤ヘッド124から移染防止剤を吐出する。従って、CPU81は、移染防止剤の吐出をプラテン31の副走査方向(前側から後側方向)への移動により行う。CPU81は、順次後方にプラテン31を移動させると共に、キャリッジ13を主走査方向(左右方向)に往復移動させ、移染防止剤ヘッド124から移染防止剤を吐出する。CPU81は、位置P14まで移染防止剤を吐出が完了したときに、移染防止剤ヘッド124から移染防止剤の吐出を終了する。移染防止剤の吐出量は予め定められた規定量である。尚、移染防止剤の吐出量を変更する後述の第一移染防止剤吐出処理(
図9参照)又は第二移染防止剤吐出処理(
図10)を行う指示が操作部85から入力されていた場合には、CPU81がS3の処理で、第一移染防止剤吐出処理、又は、第二移染防止剤吐出処理のサブルーチンを実行する。
【0052】
次に、移染防止剤の吐出量が変更される場合である、
図9に示す第一移染防止剤吐出処理、及び
図10に示す第二移染防止剤吐出処理について説明する。第一移染防止剤吐出処理、及び第二移染防止剤吐出処理は、第一印刷処理のS2の処理、及び、第二印刷処理のS3の処理に於いて、吐出される移染防止剤の吐出量を変更する処理である。CPU81は、第一移染防止剤吐出処理、及び第二移染防止剤吐出処理の少なくも1つを第一印刷処理のS2の処理、及び、第二印刷処理のS3のサブルーチンとして実行してもよい。CPU81は、S26を除く第一移染防止剤吐出処理、及びS36を除く第二移染防止剤吐出処理の少なくも1つを第一印刷処理、または第二印刷処理の前にあらかじめ実行してもよい。
【0053】
CPU81は、
図9に示す第一移染防止剤吐出処理を開始すると、初めに、布帛3の材質の情報取得処理(S21)を実行する。一例として、CPU81は、操作部85から入力された被印刷媒体の材質の情報を取得する。材質の情報の一例は、材質の種類、材質の色、材質の染色方法等である。材質の種類の一例としては、ポリエステル、ナイロン、アクリル、その他の化学繊維、綿、その他の天然繊維等である。昇華移染の起こり易い材質の一例は、ポリエステルである。昇華移染の起こりにくい材質の一例は、綿、又はその他の天然繊維である。また、材質の色の一例は、昇華移染の起こり易い色、また、その他色である。昇華移染の起こり易い色の一例は、赤色、又は黒色である。材質の染色方法の一例は、カチオン染め、その他染色法である。カチオン染めは昇華移染の起こりにくい染色法である。記憶装置84は、作業者により予め入力された昇華移染の起こりにくい材質の種類、材質の色、及び材質の染色方法、及び昇華移染の起こり易い材質の種類、材質の色、及び材質の染色方法を記憶している。
【0054】
次に、CPU81は、S21の処理で取得した情報に基づいて、布帛3が昇華移染しにくい材質かを判断する(S22)。一例として、S22の判断処理に於いて、CPU81は、S21の処理で取得した材質の種類が、記憶装置84に昇華移染しにくい材質として記憶されているかを判断する。CPU81は、昇華移染しにくい材質と判断した場合には(S22:YES)、移染防止剤の量を既定量よりも低減する(S23)。低減する量は予め定められている。CPU81は、低減後の移染防止剤の吐出量を規定量とする(S25)。また、CPU81は、昇華移染しにくい材質と判断しない場合には(S22:NO)、移染防止剤の量を既定値のままにする(S24)。その後、CPU81は移染防止剤の吐出処理を実行し(S26)、第一移染防止剤吐出処理を終了する。
【0055】
次に、
図10を参照して、第二移染防止剤吐出処理について説明する。初めに、CPU81は、RAM83に記憶している印字データに基づいて、布帛3の領域3Aに形成される画像の色が所定の濃さより濃さの値が大きい、または所定の明るさより明るさの値が小さい位置を抽出する(S31)。印字データは、第一印刷処理及び第二印刷処理の前にCPU81が予め入出力部87に接続されたPC100又は外部メモリから受信し、RAM83に記憶されている。印字データは、布帛3に印刷される画像のデータである。濃さの値は、例えば彩度が用いられればよい。明るさの値は、明度(L値)が用いられればよい。CPU81は、濃さの値が大きい、または明るさの値が小さい位置が有った場合には(S32:YES)、その位置への移染防止剤の吐出量を既定値よりも低減する(S33)。低減する量は予め定められている。CPU81は、低減後の移染防止剤の吐出量を規定量とする(S35)。また、CPU81は、CPU81は、濃さの値が大きい、または明るさの値が小さい位置が有ったと判断しない場合には(S32:YES)、移染防止剤の量を既定量のままにする(S34)。その後、CPU81は移染防止剤の吐出処理を実行し(S36)、第二移染防止剤吐出処理を終了する。従って、吐出処理(S26,S36)において、CPU81は、P11~P14を頂点とする領域3Aにおける移染防止剤の各吐出タイミングにて、移染防止剤の吐出量を変更することができる。
【0056】
<第三実施形態>
次に、
図11を参照して、本発明の第三実施形態について説明する。第三実施形態では、キャリッジ13上のヘッドの配列が
図7に示す第二実施形態と異なっている。
図11に示すように、第三実施形態のキャリッジ13は、副走査方向の上流側から下流側に向けて移染防止剤ヘッド124、前処理剤ヘッド121、白ヘッド122、及びカラーヘッド123を搭載する。従って、第三実施形態では、布帛3の領域3Aに最初に、移染防止剤ヘッド124から移染防止剤が吐出され、次に、領域3Aに前処理剤ヘッド121から前処理剤が吐出され、次に、領域3Aに白ヘッド122から白インクが吐出され、領域3Aにカラーヘッド123からカラーインクが吐出される。他の処理は、第二実施形態と同じである。尚、キャリッジ13上における移染防止剤ヘッド124、前処理剤ヘッド121の位置関係は、必ずしも
図11に記載のものに限られない。例えば、副走査方向の上流側から下流側に向けて白ヘッド122、カラーヘッド123、移染防止剤ヘッド124、前処理剤ヘッド121の順でもよい。また、白ヘッド122、カラーヘッド123、前処理剤ヘッド121、移染防止剤ヘッド124の順でもよい。また、前処理剤ヘッド121、白ヘッド122、カラーヘッド123、及び移染防止剤ヘッド124の順でもよい。また、移染防止剤ヘッド124、白ヘッド122、カラーヘッド123、及び前処理剤ヘッド121の順でもよい。
【0057】
<実施形態の効果>
本発明の第一態様の印刷装置1は、布帛3を構成する化学繊維を染色している染料、または顔料が、前記布帛3に形成される印刷面へ移動することを抑制する移染防止剤含む前処理剤を布帛3に吐出する前処理剤ヘッド121を備えている。また、移染防止剤が吐出された領域3Aに印刷面を形成するインクを吐出する白ヘッド122、及びカラーヘッド123を備えている。従って、印刷装置1では、前処理剤ヘッド121が布帛3に移染防止剤を吐出することにより、化学繊維を染色している染料、または顔料が、布帛3に形成される印刷面へ移動する昇華移染を抑制でき、且つ、多様な画像が印刷できる。また、本発明の第二態様の印刷装置1は、布帛3を構成する化学繊維を染色している染料、または顔料が、前記布帛3に形成される印刷面へ移動することを抑制する移染防止剤を布帛3に吐出する移染防止剤ヘッド124を備えている。また、移染防止剤が吐出された領域3Aに印刷面を形成するインクを吐出する白ヘッド122、及びカラーヘッド123を備えている。従って、印刷装置1では、移染防止剤ヘッド124が布帛3に移染防止剤を吐出することにより、化学繊維を染色している染料、または顔料が、布帛3に形成される印刷面へ移動する昇華移染を抑制でき、且つ、多様な画像が印刷できる。
【0058】
前処理剤ヘッド121は、樹脂成分を含むまたは有色の前記移染防止剤を、白ヘッド122、カラーヘッド123がインクを吐出する領域3Aに吐出する。従って、移染防止剤はインクが吐出される領域3Aに吐出されるので、インクが吐出されない領域3A以外の領域に移染防止剤が吐出されない。従って、移染防止剤が樹脂成分を含んでいる場合、または移染防止剤が有色である場合において、移染防止剤の塗布跡の目立ちが低減する。
【0059】
第二実施形態の印刷装置1は、白ヘッド122と、カラーヘッド123とを備え、移染防止剤ヘッド124が移染防止剤を吐出する前に、少なくとも白ヘッド122から白インクが吐出される領域3Aに、前処理剤を吐出する前処理剤ヘッド121を備えている。従って、領域3Aに移染防止剤が吐出される前に前処理剤が吐出され、その後移染防止剤が吐出されるので、化学繊維を染色している染料、または顔料が、白インクへ移動することを抑制できる。従って、白インクを吐出する場合においても鮮明な画像が印刷される。また、第三実施形態の印刷装置1は、白ヘッド122と、カラーヘッド123とを備え、移染防止剤ヘッド124が移染防止剤を吐出する後に、領域3Aに、前処理剤を吐出する前処理剤ヘッド121を備えている。従って、領域3Aに移染防止剤が吐出された後に前処理剤が吐出されるので、上記第二実施形態の印刷装置1と同様の効果を奏することができる。
【0060】
また、第二実施形態の印刷装置1は、布帛3に対して熱処理を行う熱処理部4を備え、熱処理部4は、前処理剤の吐出後に熱処理を行わず、移染防止剤の吐出後に熱処理を行っている。この場合、熱処理による前処理剤の造膜と移染防止剤の定着とを同じタイミングで行うことができる。従って、前処理剤の造膜と移染防止剤の定着を別々に熱処理で行う場合よりも処理時間が短縮する。
【0061】
また、印刷装置1は、移染防止剤を吐出する移染防止剤ヘッド124を備え、移染防止剤ヘッド124と白ヘッド122、カラーヘッド123とを搭載するキャリッジ13を備えている。従って、移染防止剤ヘッド124と白ヘッド122、カラーヘッド123とは同じキャリッジ13に搭載されるので、移染防止剤の吐出領域とインクの吐出領域との位置ズレが低減する。
【0062】
移染防止剤は、吸着特性を有した多孔質の微粒子(一例として、活性炭、ゼオライト、又はMOF)を含んでいる。この場合、吸着特性を有した微粒子により、染料、または顔料を補捉して、昇華移染を抑制することができる。
【0063】
移染防止剤は、活性炭を含んでいるので、コストの安い活性炭により移染防止剤のコストを低減することができる。
【0064】
また、印刷装置1は、布帛3に対して熱処理を行う熱処理部4と、制御部としてのCPU81を備え、CPU81は、白ヘッド122から布帛3に白インクを吐出する前に熱処理部4により布帛3に予備加熱処理(S5)を行い、予備加熱処理の後にカラーヘッド123から布帛3にカラーインクを吐出し、その後、予備加熱処理よりも時間が長い本加熱処理(S10)を行っている。従って、予備加熱処理、および長時間の本加熱処理を行うことで、画質を向上しつつ、移染防止部材により化学繊維を染色している染料、または顔料が、白インク層へ移動することを抑制できる。
【0065】
また、印刷装置1のCPU81は、布帛3の材質に基づき、移染防止剤ヘッド124から吐出する移染防止剤の量を変更する。この場合、染料、または顔料が布帛3に形成される印刷面へ移動しにくい材質から布帛3が構成されている場合には、移染防止剤の量を低減する。従って、必要以上に移染防止剤を吐出する可能性を低減できる。
【0066】
また、印刷装置1のCPU81は、第二移染防止剤吐出処理において、布帛3の領域3Aに形成される画像の色が所定の濃さより濃さの値が大きい位置を抽出して、印刷面における位置により、移染防止剤を移染防止剤ヘッド124から布帛3に吐出する量を変更する。この場合、印刷面における位置に応じて移染防止剤の吐出量を減らすことが可能なので、移染防止剤の量を節約でき、コストを低減できる。
【0067】
印刷装置1CPU81は、カラーインクにより形成される画像の色が所定の濃さの値より大きい、または明るさの値が所定の明るさより小さい位置は、移染防止剤を移染防止剤ヘッド124から布帛3に吐出する量を所定量以下に減少するようにしてもよい。この場合、印刷される色の濃い部分、または暗い部分は、昇華移染の見た目による影響が比較的小さいので、移染防止剤の量を減らすことで、コストを低減できる。
【0068】
本発明の印刷装置1によって実行される画像形成方法は、移染防止剤を、布帛3に移染防止剤ヘッド124から吐出させる移染防止剤吐出処理(S3)のステップと、移染防止剤が吐出された領域3Aに印刷面を形成するカラーインクをカラーヘッド123から吐出させるカラーインク吐出処理(S8)のステップとを備えている。従って、上記画像形成方法では、移染防止剤ヘッド124が布帛3に移染防止剤を吐出することにより、化学繊維を染色している染料、または顔料が、布帛3に形成される印刷面へ移動することを抑制でき、且つ、多様な画像が印刷できる。
【0069】
上記の実施形態では、印刷装置1が本発明の「画像形成装置」の一例である。布帛3が本発明の「被印刷媒体」の一例である。領域3Aが本発明の「領域」の一例である。プラテン31が本発明の「プラテン」の一例である。CPU81が本発明の「制御部」の一例である。白ヘッド122及びカラーヘッド123が本発明の「インクジェットヘッド」の一例である。前処理剤ヘッド121、移染防止剤ヘッド124が本発明の「前処理剤吐出部」の一例である。前処理剤及び移染防止剤吐出処理(S2)、又は移染防止剤吐出処理(S3)が本発明の「移染防止剤吐出ステップ」の一例である。白インク吐出処理(S7)及びカラーインク吐出処理(S8)が本発明の「インク吐出ステップ」の一例である。
【0070】
本発明は上記実施形態に限定されることなく、種々の変更が可能である。例えば、
図9に示す第一移染防止剤吐出処理の被印刷媒体の材質情報の取得処理(S21)は、操作部85から入力された被印刷媒体の材質の情報の取得に限られず、デジタル式のカメラ101(
図4参照)から入力された布帛3を撮影した画像データをCPU81がAI(Artificial Intelligence)等を用いて、布帛3の材質を判別してもよい。また、CPU81が印刷データに含まれる布帛3の材質情報を取得してもよい。
【0071】
また、第二印刷処理において、移染防止剤吐出処理(S3)が、前処理剤吐出処理(S2)の前に行われてもよい。第一印刷処理及び第二印刷処理において、加熱処理は予備加熱処理(S5)及び本加熱処理(S10)の2回行っているが、必ずしも2回に限られない。プラテンの搬送(S4)及び予備加熱処理(S5)は必ずしも行わなくてもよい。本加熱処理(S10)の1回のみにしてもよい。この場合には、作業時間が短縮し、生産性が向上する。また、加熱処理は、前処理剤の吐出、移染防止剤の吐出、白インクの吐出、及びカラーインクの吐出の後に夫々行ってもよい。この場合には、各々の液体が定着して画質が向上する。
【0072】
また、キャリッジ13上の前処理剤ヘッド121、移染防止剤ヘッド124、白ヘッド122、及びカラーヘッド123の副走査方向における配列は、第一実施例から第三実施例のものに限られない。例えば、前処理剤ヘッド121は、カラーヘッド123の後方にあっても構わない。ヘッドの配列が第一実施例から第三実施例と異なる場合には、CPU81がヘッドの配列に応じて、プラテン31を移動させて、各ヘッドから布帛3の領域3Aに前処理剤、移染防止剤、及びインクを吐出すればよい。また、各ヘッド121~124が別々のキャリッジに搭載されても構わない。白インク及びカラーインクを吐出する印刷部2と別に布帛3に前処理を行う前処理部を設け、前処理部と印刷部2との間に熱処理部4があっても構わない。
【0073】
また、
図9に示す第一移染防止剤吐出処理のS24の処理、及び、
図10に示す第二移染防止剤吐出処理のS34の処理で、吐出する移染防止剤の量を既定値よりも増量してもよい。この場合には、昇華移染を防止する効果を向上することができる。また、カラーヘッド123は、ブラック(K)、イエロー(Y)、シアン(C)、及びマゼンタ(M)の4色に限られない。他の色を吐出するノズルを備えてもよい。また、カラーヘッド123は、イエロー(Y)、シアン(C)、及びマゼンタ(M)の三色でもよい。また、カラーヘッド123は、任意の一色、又は副数色のヘッドでもよい。また、熱処理部4は、ヒートプレスに限られずオーブン、熱風ブロア等でもよい。また、移染防止剤ヘッド124からの移染防止剤の吐出に代えて、ポッティング、ドーミング、ディスペンサ塗布等でもよい。また、移染防止剤の含む多孔質の微粒子は、活性炭、ゼオライト、又はMOFに限られない、吸着特性を有する微粒子であればよい。また、移染防止剤は、複数種類の多孔質の微粒子を含んでもよい。
【0074】
尚、第一実施形態~第三実施形態では、プラテン31が副走査方向に移動し、印刷ヘッド12を搭載したキャリッジ13が主走査方向に移動しているが、必ずしもこれに限られない。プラテン31が移動せず、キャリッジ13が主走査方向及び副走査方向に移動してもよい。また、キャリッジ13が移動せず、プラテン31が主走査方向及び副走査方向に移動してもよい。また、キャリッジ13及びプラテン31が互いに相対移動してもよい。また、プラテン31は必ずしも平板に限られない。また、移染防止剤は、必ずしも樹脂成分を含まなくてもよい。移染防止剤は、必ずしも有色で無くてもよい。吸着特性を有した微粒子に透明なものも用いてもよい。この場合には、移染防止剤が吐出される領域3Aは、布帛3の全域でもよい。また、布帛3の全域にインクが吐出される場合にも、移染防止剤が吐出される領域3Aは、布帛3の全域でもよい。また、CPU81は、
図9に示すS21~S25の処理と、
図10に示すS31~S35の処理とを併せて行い、移染防止剤の吐出量を変更してもよい。また、S33の移染防止剤の吐出量の低減処理は、カラーヘッド123が吐出するインクの濃度に応じて変更するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0075】
1 印刷装置
3 布帛
3A 領域
4 熱処理部
9 筐体
13 キャリッジ
81 CPU
82 ROM
83 RAM
101 カメラ
121 前処理剤ヘッド
122 白ヘッド
123 カラーヘッド
124 移染防止剤ヘッド