IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セイコーエプソン株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】物理量センサー、電子機器および移動体
(51)【国際特許分類】
   G01P 15/08 20060101AFI20231114BHJP
   G01P 15/125 20060101ALI20231114BHJP
   G01P 15/18 20130101ALI20231114BHJP
   H01L 29/84 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
G01P15/08 102E
G01P15/08 101B
G01P15/125 Z
G01P15/18
H01L29/84 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019192806
(22)【出願日】2019-10-23
(65)【公開番号】P2021067546
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】田中 悟
【審査官】岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-132492(JP,A)
【文献】特開2019-45172(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0302142(US,A1)
【文献】特開2013-40856(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P15/00-15/18
H01L29/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直交する3つの方向を第1方向、第2方向および第3方向としたとき、
基板と、
前記基板と空隙を隔てて前記第3方向に対向し、前記基板に対して前記第3方向に変位する可動体と、を有し、
前記空隙は、第1空隙と、前記第1空隙よりも前記基板と前記可動体との離間距離が大きい第2空隙と、前記第2空隙よりも前記基板と前記可動体との離間距離が大きい第3空隙と、を有し、
前記可動体は、前記第3方向からの平面視で前記第1空隙と重なる第1部分前記第2空隙と重なる第2部分および前記第3空隙と重なる第3部分と、前記第1部分前記第2部分および前記第3部分に配置され、前記第3方向に貫通し、前記第3方向から見たときの開口形状が正方形である複数の貫通孔と、を有し、
前記第3方向からの平面視で、前記第2部分の前記貫通孔の一辺の長さは、前記第1部分の前記貫通孔の一辺の長さよりも長く、前記第3部分の前記貫通孔の一辺の長さは、前記第2部分の前記貫通孔の一辺の長さよりも長く、
前記第3方向からの平面視で、前記第1部分と重なる第1領域前記第2部分と重なる第2領域および前記第3部分と重なる第3領域で、
【数1】
の関係を満たすことを特徴とする物理量センサー。
ただし、
前記貫通孔の前記第3方向の長さをH、
前記可動体の前記第1方向に沿った長さの1/2の長さをa、
前記可動体の前記第2方向に沿った長さをL、
前記空隙の前記第3方向の長さをh、
前記貫通孔の一辺の長さをS0、
隣り合う前記貫通孔同士の間隔をS1、
前記空隙内にある気体の粘性抵抗をμ、
前記可動体に生じるダンピングをCとしたとき、
【数2】
であり、前記式(1)において、
【数3】
を満たすときのCをCminとする。
【請求項2】
前記基板に固定されている固定部と、
前記可動体と前記固定部とを接続し、前記第1方向に沿う回転軸を形成している支持梁と、を有し、
前記可動体は、前記回転軸まわりに変位可能であり、
前記第3方向からの平面視で、
前記回転軸に対して、前記第2方向の一方の側に位置している第1質量部と、他方の側に位置し、前記回転軸まわりの回転モーメントが前記第1質量部よりも大きい第2質量部と、を有し、
前記第2質量部は、前記第1部分と、前記第1部分よりも前記回転軸から遠位に位置している前記第2部分と、前記第2部分よりも前記回転軸から遠位に位置している前記第3部分と、を有する請求項1に記載の物理量センサー。
【請求項3】
前記第1質量部は、前記第1部分と、前記第1部分よりも前記回転軸から遠位に位置している前記第2部分と、を有し、
前記第3方向からの平面視で、前記第1質量部の前記第1部分および前記第2部分と前記第2質量部の前記第1部分および前記第2部分とは、前記回転軸に対して対称的に配置されている請求項に記載の物理量センサー。
【請求項4】
前記第1領域および前記第2領域の少なくとも一方で、
【数4】
を満たす請求項1ないしのいずれか1項に記載の物理量センサー。
【請求項5】
前記第1領域および前記第2領域の少なくとも一方で、
【数5】
を満たす請求項に記載の物理量センサー。
【請求項6】
前記第1領域および前記第2領域の少なくとも一方で、
【数6】
を満たす請求項に記載の物理量センサー。
【請求項7】
前記第1領域および前記第2領域の少なくとも一方で、
【数7】
を満たす請求項1ないしのいずれか1項に記載の物理量センサー。
【請求項8】
前記第1領域および前記第2領域の少なくとも一方で、
【数8】
を満たす請求項に記載の物理量センサー。
【請求項9】
前記第1領域および前記第2領域の少なくとも一方で、
【数9】
を満たす請求項に記載の物理量センサー。
【請求項10】
請求項1ないしのいずれか1項に記載の物理量センサーと、
前記物理量センサーから出力された検出信号に基づいて制御を行う制御回路と、を含むことを特徴とする電子機器。
【請求項11】
請求項1ないしのいずれか1項に記載の物理量センサーと、
前記物理量センサーから出力された検出信号に基づいて制御を行う制御回路と、を含むことを特徴とする移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理量センサー、電子機器および移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に記載された加速度センサーは、基板と、基板に固定された固定部と、固定部に梁を介して接続された可動体と、基板に配置され、可動体との間に生じる静電容量を検出する固定検出電極と、を有する。そして、可動体と固定検出電極とが重なる方向から加速度が加わると、可動体が梁を回転軸として揺動し、それに伴って可動体と固定検出電極との間の間隔が変化するので静電容量が変化する。そのため、特許文献1に記載された加速度センサーは、静電容量の変化に基づいて加速度を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2003-519384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された加速度センサーでは、可動体に形成された貫通孔によって可動体と固定検出電極との間で生じる静電容量が小さくなることと、可動体の揺動時に生じる空気抵抗と、によって加速度の検出感度が低下してしまうという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の物理量センサーは、互いに直交する3つの方向を第1方向、第2方向および第3方向としたとき、
基板と、
前記基板と空隙を隔てて前記第3方向に対向し、前記基板に対して前記第3方向に変位する可動体と、を有し、
前記空隙は、第1空隙と、前記第1空隙よりも前記基板と前記可動体との離間距離が大きい第2空隙と、を有し、
前記可動体は、前記第3方向からの平面視で前記第1空隙と重なる第1部分および前記第2空隙と重なる第2部分と、前記第1部分および前記第2部分に配置され、前記第3方向に貫通し、前記第3方向から見たときの開口形状が正方形である複数の貫通孔と、を有し、
前記第3方向からの平面視で、前記第1部分と重なる第1領域および前記第2部分と重なる第2領域の少なくとも一方で、
【数1】
の関係を満たす。
ただし、
前記貫通孔の前記第3方向の長さをH、
前記可動体の前記第1方向に沿った長さの1/2の長さをa、
前記可動体の前記第2方向に沿った長さをL、
前記空隙の前記第3方向の長さをh、
前記貫通孔の一辺の長さをS0、
隣り合う前記貫通孔同士の間隔をS1、
前記空隙内にある気体の粘性抵抗をμ、
前記可動体に生じるダンピングをCとしたとき、
【数2】
であり、前記式(1)において、
【数3】
を満たすときのCをCminとする。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本発明の第1実施形態に係る物理量センサーを示す平面図である。
図2図1中のA-A線断面図である。
図3図1に示す物理量センサーに印加する電圧を示す図である。
図4】ダンピングを説明するための模式図である。
図5】S0とダンピングとの関係を示すグラフである。
図6】S1/S0と感度比およびダンピング比との関係を示すグラフである。
図7】構造体厚みと孔サイズとの関係を示すグラフである。
図8】構造体厚みと孔サイズとの関係を示すグラフである。
図9】構造体厚みと孔サイズとの関係を示すグラフである。
図10】構造体厚みと孔サイズとの関係を示すグラフである。
図11】構造体厚みと孔サイズとの関係を示すグラフである。
図12】構造体厚みと孔サイズとの関係を示すグラフである。
図13】構造体厚みと孔サイズとの関係を示すグラフである。
図14】構造体厚みと孔サイズとの関係を示すグラフである。
図15】構造体厚みと孔サイズとの関係を示すグラフである。
図16】S0min、S1minとH、hとの関係を示すグラフである。
図17】S0min、S1minとH、hとの関係を示すグラフである。
図18】S0min、S1minとH、hとの関係を示すグラフである。
図19】S1min/S0minとH、hとの関係を示すグラフである。
図20】S1min/S0minとH、hとの関係を示すグラフである。
図21】S1min/S0minとH、hとの関係を示すグラフである。
図22】S1min/S0minとH、hとの関係を示すグラフである。
図23図1の物理量センサーの変形例を示す断面図である。
図24図1の物理量センサーの変形例を示す断面図である。
図25】第2実施形態に係る物理量センサーを示す断面図である。
図26】第3実施形態に係る物理量センサーを示す断面図である。
図27】第4実施形態に係る物理量センサーを示す平面図である。
図28図27中のB-B線断面図である。
図29】第5実施形態に係る物理量センサーを示す平面図である。
図30図29中のC-C線断面図である。
図31】第6実施形態に係る物理量センサーを示す断面図である。
図32】第7実施形態に係る電子機器としてのスマートフォンを示す平面図である。
図33】第8実施形態に係る電子機器としての慣性計測装置を示す分解斜視図である。
図34図33に示す慣性計測装置が有する基板の斜視図である。
図35】第9実施形態に係る電子機器としての移動体測位装置の全体システムを示すブロック図である。
図36図35に示す移動体測位装置の作用を示す図である。
図37】第10実施形態に係る移動体を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の物理量センサー、電子機器および移動体を添付図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0008】
<第1実施形態>
まず、本発明の第1実施形態に係る物理量センサーについて説明する。
【0009】
図1は、本発明の第1実施形態に係る物理量センサーを示す平面図である。図2は、図1中のA-A線断面図である。図3は、図1に示す物理量センサーに印加する電圧を示す図である。図4は、ダンピングを説明するための模式図である。図5は、S0とダンピングとの関係を示すグラフである。図6は、S1/S0と感度比およびダンピング比との関係を示すグラフである。図7ないし図15は、それぞれ、構造体厚みと孔サイズとの関係を示すグラフである。図16ないし図18は、それぞれ、S0min、S1minとH、hとの関係を示すグラフである。図18ないし図22は、それぞれ、S0min、S1minとH、hとの関係を示すグラフである。図23および図24は、それぞれ、図1の物理量センサーの変形例を示す断面図である。
【0010】
なお、以下では、説明の便宜上、互いに直交する3つの軸をX軸、Y軸およびZ軸とし、X軸に平行な方向を第2方向としてのX軸方向、Y軸に平行な方向を第1方向としてのY軸方向、Z軸に平行な方向を第3方向としてのZ軸方向とも言う。また、各軸の矢印方向先端側を「プラス側」とも言い、反対側を「マイナス側」とも言う。また、Z軸方向プラス側を「上」とも言い、Z軸方向マイナス側を「下」とも言う。また、Z軸方向からの平面視を、単に、「平面視」とも言う。
【0011】
また、本願明細書において、「直交」とは、90°で交わっている場合の他、90°から若干傾いた角度、例えば、80°~100°程度で交わっている場合も含む。具体的には、X軸がYZ平面の法線方向に対して-10°~+10°程度傾いている場合、Y軸がXZ平面の法線方向に対して-10°~+10°程度傾いている場合、Z軸がXY平面の法線方向に対して-10°~+10°程度傾いている場合、についても「直交」に含まれるものとする。
【0012】
図1に示す物理量センサー1は、Z軸方向の加速度Azを測定することのできる加速度センサーである。このような物理量センサー1は、基板2と、基板2上に配置されている素子部3と、素子部3を覆うように、基板2に接合されている蓋体5と、を有する。以下、これら各部について、順に詳細に説明する。
【0013】
(基板)
図1に示すように、基板2は、板状をなし、上面側に開口する凹部21を有する。また、Z軸方向からの平面視で、凹部21は、素子部3を内側に内包するように、素子部3よりも大きく形成されている。凹部21は、素子部3と基板2との接触を防止するための逃げ部として機能する。また、図2に示すように、凹部21は、第1凹部211と、第1凹部211のX軸方向両側に位置し、第1凹部211よりも深い第2凹部212と、第2凹部212のX軸方向プラス側に位置し、第2凹部212よりも深い第3凹部213と、を有する。そのため、基板2と素子部3との間にある空隙Qは、第1凹部211と重なる第1空隙Q1と、第2凹部212と重なり、第1空隙Q1よりもZ軸方向の長さが長く、基板2と素子部3との離間距離が大きい第2空隙Q2と、第3凹部213と重なり、第2空隙Q2よりもZ軸方向の長さが長く、基板2と素子部3との離間距離が大きい第3空隙Q3と、を有することとなる。なお、Z軸方向の平面視で、第1凹部211は、後述する回転軸Jに対して対称的に配置されている。
【0014】
また、図2に示すように、基板2は、第1凹部211の底面に設けられた突起状のマウント部22を有する。そして、マウント部22の上面に素子部3の固定部31が接合されている。これにより、素子部3を、凹部21の底面と離間させた状態で基板2に固定することができる。また、また、図1に示すように、基板2は、上面側に開放する溝部25、26、27を有している。
【0015】
基板2としては、例えば、アルカリ金属イオン(Na等の可動イオン)を含むガラス材料(例えば、パイレックスガラス(登録商標)、テンパックスガラス(登録商標)のような硼珪酸ガラス)で構成されたガラス基板を用いることができる。ただし、基板2としては、特に限定されず、例えば、シリコン基板やセラミックス基板を用いてもよい。
【0016】
また、図1に示すように、基板2は、電極8を有する。電極8は、凹部21の底面に配置されている第1固定電極81、第2固定電極82およびダミー電極83を有する。また、基板2は、溝部25、26、27に配置されている配線75、76、77を有する。配線75、76、77の一端部は、それぞれ、蓋体5の外側に露出し、外部装置との電気的な接続を行う電極パッドPとして機能する。また、配線75は、素子部3とダミー電極83とに電気的に接続され、配線76は、第1固定電極81と電気的に接続され、配線77は、第2固定電極82と電気的に接続されている。
【0017】
(蓋体)
図2に示すように、蓋体5は、板状をなし、下面側に開口する凹部51を有している。蓋体5は、凹部51内に素子部3を収納するようにして、基板2の上面に接合されている。そして、蓋体5および基板2によって、その内側に、素子部3を収納する収納空間Sが形成されている。収納空間Sは、気密空間である。また、収納空間Sは、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスが封入されて、使用温度、例えば、-40℃~120℃程度で、ほぼ大気圧となっている。ただし、収納空間Sの雰囲気は、特に限定されず、例えば、減圧状態であってもよいし、加圧状態であってもよい。
【0018】
蓋体5としては、例えば、シリコン基板を用いることができる。ただし、蓋体5としては、特に限定されず、例えば、ガラス基板やセラミックス基板を用いてもよい。また、基板2と蓋体5との接合方法としては、特に限定されず、基板2や蓋体5の材料によって適宜選択すればよく、例えば、陽極接合、プラズマ照射によって活性化させた接合面同士を接合させる活性化接合、ガラスフリット等の接合材による接合、基板2の上面および蓋体5の下面に成膜した金属膜同士を接合する拡散接合等を用いることができる。本実施形態では、低融点ガラスであるガラスフリット59を介して基板2と蓋体5とが接合されている。
【0019】
なお、蓋体5は、グランドに接続するのが好ましい。これにより、蓋体5の電位を一定に保つことができ、例えば、蓋体5と素子部3との間の静電容量の変動を低減することができる。凹部51の底面と素子部3との離間距離としては、特に限定されないが、例えば、15μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、25μm以上であることがさらに好ましい。これにより、蓋体5と素子部3との間の静電容量を十分に小さくすることができ、より精度よく、加速度Azを検出することができる。
【0020】
(素子部)
図1に示すように、素子部3は、マウント部22の上面に接合されている固定部31と、固定部31に対して変位可能な板状の可動体32と、固定部31と可動体32とを接続している支持梁33と、を有する。物理量センサー1に加速度Azが作用すると、可動体32が支持梁33を回転軸Jとして、支持梁33を捩り変形させながら回転軸Jまわりに揺動する。
【0021】
このような素子部3は、例えば、リン(P)、ボロン(B)、砒素(As)等の不純物がドープされた導電性のシリコン基板をドライエッチングによってパターニングすることで形成されている。ただし、素子部3の形成方法としては、特に限定されない。また、素子部3は、陽極接合によって基板2の上面に接合されている。ただし、素子部3の材料や、素子部3と基板2との接合方法は、特に限定されない。
【0022】
可動体32は、平面視で、X軸方向に沿った長手形状をなし、特に本実施形態では、X軸方向を長辺とする長方形状となっている。そして、可動体32は、回転軸Jに対してX軸方向のマイナス側に位置する第1質量部321と、回転軸Jに対してX軸方向のプラス側に位置する第2質量部322と、第1質量部321と第2質量部322とを連結する連結部323と、を有し、連結部323において支持梁33と接続されている。
【0023】
また、第2質量部322は、第1質量部321よりもX軸方向に長く、加速度Azが加わったときの回転モーメントすなわちトルクが第1質量部321よりも大きい。この回転モーメントの差によって、加速度Azが加わると、可動体32が回転軸Jまわりに揺動する。なお、以下では、第2質量部322の基端部であって、回転軸Jに対して第1質量部321と対称な部分を「基部322’」とも言い、第2質量部322の先端部であって、回転軸Jに対して第1質量部321と非対称な部分を「トルク発生部322”」とも言う。なお、これら基部322’とトルク発生部322”との境界部分にはY軸方向に延在する開口325が形成されている。
【0024】
また、可動体32は、第1質量部321と第2質量部322との間に開口324を有し、開口324内に固定部31および支持梁33が配置されている。このような形状とすることにより、素子部3の小型化を図ることができる。また、支持梁33は、Y軸方向に沿って延在し、回転軸Jを形成している。ただし、固定部31や支持梁33の配置は、特に限定されず、例えば、可動体32の外側に位置していてもよい。
【0025】
ここで、電極8の説明に戻る。図2に示すように、第1固定電極81は、第1凹部211および第2凹部212に配置され、Z軸方向からの平面視で、第1質量部321と対向して配置されている。また、第2固定電極82は、第1凹部211および第2凹部212に配置され、Z軸方向からの平面視で、第2質量部322の基部322’と対向して配置されている。これら第1、第2固定電極81、82は、Z軸方向からの平面視で、回転軸Jに対して対称的に配置されている。また、ダミー電極83は、第2凹部212および第3凹部213に配置され、Z軸方向からの平面視で、第2質量部322のトルク発生部322”と対向して配置されている。
【0026】
物理量センサー1の駆動時には、例えば、図3に示すような駆動電圧V1が素子部3に印加され、第1固定電極81および第2固定電極82は、それぞれ、QVアンプ(電荷電圧変換回路)に接続される。そして、第1固定電極81と第1質量部321との間には静電容量Caが形成され、第2固定電極82と第2質量部322の基部322’との間には静電容量Cbが形成される。
【0027】
物理量センサー1に加速度Azが加わると、第1、第2質量部321、322の回転モーメントの異なりから、可動体32が支持梁33を捩り変形させながら回転軸Jを中心にして揺動する。このような可動体32の揺動により、第1質量部321と第1固定電極81のギャップおよび第2質量部322の基部322’と第2固定電極82のギャップがそれぞれ逆相で変化し、これに応じて静電容量Ca、Cbが逆相で変化する。そのため、静電容量Ca、Cbの変化量、より具体的には静電容量Ca、Cbの差分に基づいて、加速度Azを検出することができる。
【0028】
ここで、前述したように、凹部21は、Z軸方向からの平面視で回転軸Jと重なる第1凹部211と、第1凹部211のX軸方向両側に位置し、第1凹部211よりも深い第2凹部212と、第2凹部212のX軸方向プラス側に位置し、第2凹部212よりも深い第3凹部213と、を有する。つまり、図2に示すように、凹部21は、回転軸Jから遠ざかるほど、深さすなわち可動体32との離間距離が大きくなる。これにより、揺動時の可動体32と基板2との接触を抑制しつつ、可動体32と第1、第2固定電極81、82との離間距離を小さくすることができる。第1、第2固定電極81、82との離間距離を小さくすることができれば、その分、静電容量Ca、Cbを大きくすることができ、加速度Azの検出精度が向上する。
【0029】
なお、以下では、Z軸方向からの平面視で、第1、第2質量部321、322の第1凹部211と重なっている部分を第1部分32Aとも言い、第2凹部212と重なっている部分を第2部分32Bとも言い、第3凹部213と重なっている部分を第3部分32Cとも言う。また、Z軸方向からの平面視で、第1部分32Aと重なっている領域を第1領域R1とも言い、第2部分32Bと重なっている領域を第2領域R2とも言い、第3部分32Cと重なっている領域を第3領域R3とも言う。
【0030】
本実施形態では、第1質量部321および第2質量部322が共に第1部分32Aおよび第2部分32Bを有し、第2質量部322だけが第3部分32Cを有する。また、第2質量部322では、第1、第2部分32A、32Bによって基部322’が構成され、第3部分32Cによってトルク発生部322”が構成されている。このように、第1質量部321および基部322’を第1部分32Aおよび第2部分32Bで構成することにより、言い換えると、凹部21の底面の第1、第2固定電極81、82が配置されている部分を多段化することにより、第1固定電極81と第1質量部321との平均離間距離および第2固定電極82と第2質量部322の基部322’との平均離間距離をより小さくすることができる。そのため、静電容量Ca、Cbをより大きくすることができ、加速度Azの検出精度が向上する。
【0031】
また、本実施形態では、Z軸方向からの平面視で、第1質量部321の第1部分32Aと第2質量部322の第1部分32Aとが回転軸Jに対して対称的に配置されており、第1質量部321の第2部分32Bと第2質量部322の第2部分32Bとが回転軸Jに対して対称的に配置されている。これにより、第1固定電極81と重なる部分と第2固定電極82と重なる部分とが回転軸Jに対して対称的に配置される。そのため、加速度Azが加わっていない自然状態において静電容量Ca、Cbを等しくすることができる。その結果、自然状態が出力ゼロとなる「ゼロ点」となり、ゼロ点を自然状態に合わせるゼロ点補正が不要となる。そのため、物理量センサー1の装置構成が簡単なものとなる。
【0032】
また、第1質量部321および第2質量部322には、それぞれ、可動体32をそのZ軸に沿った厚さ方向に貫通する複数の貫通孔30が形成されている。複数の貫通孔30は、それぞれ、平面視での開口形状が正方形であり、X軸方向に延在する一対の辺と、Y軸方向に延在する一対の辺と、を有する。
【0033】
複数の貫通孔30は、第1部分32Aの全域に亘って均一に配置されている。また、複数の貫通孔30は、平面視で規則的に配置され、特に、本実施形態ではX軸方向とY軸方向とに並ぶ行列状に配置されている。また、第1部分32Aに配置されている複数の貫通孔30は、互いに同じ大きさとなっている。
【0034】
また、複数の貫通孔30は、第2部分32Bの全域に亘って均一に配置されている。また、複数の貫通孔30は、平面視で規則的に配置され、特に、本実施形態ではX軸方向とY軸方向とに並ぶ行列状に配置されている。また、第2部分32Bに配置されている複数の貫通孔30は、互いに同じ大きさとなっている。
【0035】
また、複数の貫通孔30は、第3部分32Cの全域に亘って均一に配置されている。また、複数の貫通孔30は、平面視で規則的に配置され、特に、本実施形態ではX軸方向とY軸方向とに並ぶ行列状に配置されている。また、第3部分32Cに配置されている複数の貫通孔30は、互いに同じ大きさとなっている。
【0036】
なお、前記「均一」とは、X軸方向およびY軸方向に隣り合う貫通孔30同士の離間距離が、全ての貫通孔30で等しいことの他、製造上生じ得る誤差等を加味して、一部の離間距離が他の離間距離から若干、例えば、10%以内程度ずれている場合も含まれる意味である。同様に、前記「正方形」とは、実質的に正方形であることを意味し、正方形と一致する場合の他、正方形から若干くずれた形状、例えば、製造上生じ得る誤差等を加味して、四隅が角となっておらず面取りやR付けがなされていたり、少なくとも1つの角部が90°から±10°程度の範囲内でずれていたり、少なくとも1つの辺の長さが他の辺の長さと多少異なっていたり、さらに、開口のアスペクト比が1:1.1~1.1:1程度の範囲内であったりするものも含む意味である。
【0037】
次に、貫通孔30の設計について具体的に説明する。貫通孔30は、可動体32が揺動する際の気体のダンピングをコントロールするために設けられている。図4に示すように、ダンピングは、貫通孔30内を通過する気体の孔中ダンピングと、可動体32と基板2との間でのスクイズフィルムダンピングと、により構成されている。
【0038】
貫通孔30を大きくするほど、貫通孔30内を気体が通り易くなるため、孔中ダンピングを低減することができる。また、貫通孔30の占有率を高くするほど、可動体32と基板2との対向する面積が減少するため、スクイズフィルムダンピングを低減することができる。しかし、同時に、可動体32と第1、第2固定電極81、82との対向面積の減少と、トルク発生部322”の質量の低下が生じるため、加速度Azの検出感度が低下する。反対に、貫通孔30を小さくするほど、すなわち、占有率を低くするほど、可動体32と第1、第2固定電極81、82との対向面積が増加し、トルク発生部322”の質量が増加するため、加速度Azの検出感度は向上するが、ダンピングが増大してしまう。このように、検出感度とダンピングとは、トレードオフの関係にあるため、従来では、これらを両立することが極めて困難であった。
【0039】
このような問題に対して、物理量センサー1では、貫通孔30の設計を工夫することにより、検出感度とダンピングとの両立を図っている。このことについて、以下、具体的に説明する。物理量センサー1の検出感度は、(A)可動体32と第1、第2固定電極81、82との離間距離をhとしたときの1/h、(B)可動体32と第1、第2固定電極81、82との対向面積、(C)支持梁33のばね剛性(構造体の厚さが均一の場合、貫通孔30のZ軸方向の長さHに比例する)、および、(D)トルク発生部322”の質量に比例する。物理量センサー1では、まず、ダンピングを無視した状態で、必要な検出感度を得るために必要な、H、hおよび可動体32の第1、第2固定電極81、82との対向する面積、言い換えると第1質量部321および基部322’における貫通孔30の占有率を決定する。これにより、必要な大きさの静電容量Ca、Cbが形成され、物理量センサー1は、十分な検出感度を得られる。
【0040】
ここで、第1部分32A、第2部分32Bおよび第3部分32Cにおける複数の貫通孔30の占有率としては、特に限定されないが、例えば、75%以上であることが好ましく、78%以上であることがより好ましく、82%以上であることがさらに好ましい。これにより、検出感度とダンピングとの両立が図り易くなる。
【0041】
このように、第1質量部321および基部322’における貫通孔30の占有率を決定したら、次いで、凹部21の底面と素子部3との離間距離hが異なる第1領域R1、第2領域R2および第3領域R3ごとに、それぞれ、独立してダンピングについての設計を行う。感度を変えずにダンピングを最小にする新たな技術思想として、物理量センサー1では、図4に示した孔中ダンピングとスクイズフィルムダンピングとの差がなるべく小さくなるように、好ましくは、孔中ダンピングとスクイズフィルムダンピングとが等しくなるように複数の貫通孔30を設計している。このように、孔中ダンピングとスクイズフィルムダンピングとの差をなるべく小さくすることにより、ダンピングを低減することができ、孔中ダンピングとスクイズフィルムダンピングとが等しい場合に、ダンピングが最小となる。そのため、物理量センサー1によれば、検出感度を十分に高く維持しつつ、ダンピングを効果的に低減することができる。
【0042】
なお、第1領域R1、第2領域R2および第3領域R3におけるダンピング設計の方法は、互いに同様であるため、以下では、第1領域R1のダンピング設計について代表して説明し、第2領域R2および第3領域R3のダンピング設計については、その説明を省略する。
【0043】
第1部分32Aに配置されている貫通孔30のZ軸の長さ(可動体32の厚さ)をH〔μm〕、第1、第2質量部321、322の第1部分32AのY軸方向に沿った長さの1/2の長さをa〔μm〕、X軸方向に沿った長さをL〔μm〕、基板2が有する電極8と第1部分32Aとの離間距離すなわち第1空隙Q1のZ軸方向の長さをh〔μm〕、第1部分32Aに配置されている貫通孔30の正方形の一辺の長さをS0〔μm〕、第1部分32A内において、X軸方向またはY軸方向に隣り合う貫通孔30同士の間隔をS1〔μm〕、第1空隙Q1内にある気体すなわち収納空間S内に充填されている気体の粘性抵抗(粘性係数)をμ〔kg/ms〕、第1部分32Aに生じるダンピングをCとしたとき、Cは、以下の式(2)で表される。なお、式(2)は、上述した式(1)と同様である。なお、X軸方向に隣り合う貫通孔30同士の間隔と、Y軸方向に隣り合う貫通孔30同士の間隔と、が異なる場合は、S1は、それらの平均値とすることができる。
【0044】
【数4】
ただし、式(2)で用いているパラメータは、下記式(3)~(9)で表される。
【0045】
【数5】
【0046】
【数6】
【0047】
【数7】
【0048】
【数8】
【0049】
【数9】
【0050】
【数10】
【0051】
【数11】
【0052】
ここで、式(2)に含まれる孔中ダンピング成分は、下記式(10)で表され、スクイズフィルムダンピング成分は、下記式(11)で表される。
【0053】
【数12】
【0054】
【数13】
【0055】
したがって、上記式(10)と上記式(11)が等しくなる、つまり下記式(12)を満たすH、h、S0、S1の寸法を用いることにより、ダンピングCが最小となる。
【0056】
【数14】
【0057】
ここで、上記式(12)を満足する貫通孔30の一辺の長さS0をS0min、隣り合う貫通孔30同士の間隔S1をS1minとし、これらS0minおよびS1minを上記式(2)に代入したときのダンピングC、すなわち、ダンピングCの最小値をCminとする。物理量センサー1に求められる精度にもよるが、H、hを一定としたときのS0、S1の範囲が下記式(13)を満たすことにより、十分にダンピングを低減することができる。すなわち、ダンピングの最小値Cmin+50%以内のダンピングであれば、十分にダンピングを低減することができるため、所望の帯域内での検出感度の維持を可能とし、ノイズを低減することができる。さらに、下記式(14)を満たすことが好ましく、下記式(15)を満たすことがより好ましく、下記式(16)を満たすことがさらに好ましい。これにより、上述の効果をより顕著に発揮することができる。
【0058】
【数15】
【0059】
【数16】
【0060】
【数17】
【0061】
【数18】
【0062】
図5は、貫通孔30の一辺の長さS0とダンピングとの関係を示すグラフである。なお、H、hは一定とし、感度が一定となるようにS1/S0比は1とした。これは、S0の大きさを変えても開口率は変わらないということを示す。このグラフから上記式(2)のダンピングは上記式(11)のスクイズフィルムダンピングと、上記式(10)の孔中のダンピングに分離でき、S0がS0minより小さい領域では孔中ダンピングが支配的であり、S0がS0minより大きい領域ではスクイズフィルムダンピングが支配的であることが分かる。上記式(13)を満足するS0は、S0minよりも小さい側のS0’からS0minよりも大きい側のS0”までの範囲となる。S0minからS0’の範囲は、S0minとS0”の範囲と比較すると、S0の寸法ばらつきに対するダンピングの変化が大きいために寸法精度が要求されるため、寸法精度が緩和できるS0minからS0”までの範囲でS0を採用するのがよい。上記式(14)~(16)を満たす場合についても同様である。
【0063】
また、S0、S1の関係としては、特に限定されないが、下記式(17)を満たすことが好ましく、下記式(18)を満たすことがより好ましく、下記式(19)を満たすことがさらに好ましい。このような関係を満たすことにより、可動体32にバランスよく貫通孔30を形成することができる。また、図6は、S1/S0と感度比および最小ダンピング比との関係を示すグラフである。なお、感度比とは、S1/S0=1のときの感度との比であり、最小ダンピング比とは、S1/S0=1のときの最小ダンピングとの比である。同図から分かるように、S1/S0>3では感度比の増加率は飽和傾向にあり、かつ、最小ダンピング比は大幅な増加傾向にあることから、式(17)~式(19)を満たすことにより、検出感度を十分に高くしつつ、ダンピングを十分に低減することができる。
【0064】
【数19】
【0065】
【数20】
【0066】
【数21】
【0067】
ここで、上記式(17)ないし(19)の範囲が導出される過程での寸法比S1/S0に係るシミュレーションや実験検証について以下に詳細に説明する。図7ないし図15は、Hを5~80μm、hを1.0~3.5μm、S1/S0を0.25~3.0μmの範囲におけるS0min、S1minとなる孔サイズ、孔間距離の値をプロットしたものを示す。そして、図7ないし図15で得られたS0min、S1minに基づいて、横軸S0、縦軸S1として、グラフにまとめると図16のグラフのようになる。また、一例として、S1/S0=0.25、H=5μmとし、h=1.0~3.5μmとしたときのS0min、S1minを図17に示し、S1/S0=0.25、H=80μmとし、h=1.0~3.5μmとしたときのS0min、S1minを図18に示す。図17および図18から、Hまたはhがそれぞれ大きくなる程、S0min、S1minの寸法が大きくなる傾向にあることが分かる。
【0068】
ここで、図19にHを5~80μm、hを1.0~3.5μm、S1/S0を0.25~3.0の範囲での全てのS0min、S1minの点の範囲を示す。矢印A方向はS1/S0、矢印B方向はH、hの範囲で決まる。また、一例として、S1min/S0min=0.25~3、H=20μm、h=1.0~3.5μmのときのS0min、S1minの条件は、図20のようになる。また、図21に、H=5~80μm、h=1.0~3.5μmとし、S1min/S0minを上記式(17)~(19)の範囲で限定した領域をそれぞれ示す。
【0069】
ここまでは、S0min、S1minについて説明したが、上記式(13)~(16)の範囲となるS0、S1については、例えば、イメージとして、H=20μm、h=3.5μmの場合、S0min、S1minの周辺まで含まるので、図22の範囲となり、全体でみると2辺のみが広がった範囲となる。
【0070】
以上、第1領域R1におけるダンピング設計について説明した。第2領域R2のダンピング設計についても同様であり、上記式(13)を満たすように各部の寸法が設計されている。これにより、第2領域R2でのダンピングを十分に低減することができる。さらに、第2領域R2のダンピング設計では、上記式(14)を満たすことが好ましく、上記式(15)を満たすことがより好ましく、上記式(16)を満たすことがさらに好ましい。これにより、上述の効果をより顕著に発揮することができる。また、第2領域R2のダンピング設計でも、式(17)~式(19)を満たすことが好ましい。これにより、検出感度を十分に高くしつつ、第2領域R2でのダンピングを十分に低減することができる。
【0071】
なお、第2領域R2の場合には、第2部分32Bに配置されている貫通孔30のZ軸の長さをH〔μm〕、第1、第2質量部321、322の第2部分32BのY軸方向に沿った長さの1/2の長さをa〔μm〕、X軸方向に沿った長さをL〔μm〕、基板2が有する電極8と第2部分32Bとの離間距離すなわち第2空隙Q2のZ軸方向の長さをh〔μm〕、第2部分32Bに配置されている貫通孔30の正方形の一辺の長さをS0〔μm〕、第2部分32B内において隣り合う貫通孔30同士の間隔をS1〔μm〕、第2空隙Q2内にある気体すなわち収納空間S内に充填されている気体の粘性抵抗(粘性係数)をμ〔kg/ms〕、第2部分32Bに生じるダンピングをC、とそれぞれ読み替えればよい。
【0072】
また、第3領域R3のダンピング設計についても同様であり、上記式(13)を満たすように各部の寸法が設計されている。これにより、第3領域R3でのダンピングを十分に低減することができる。さらに、第3領域R3のダンピング設計では、上記式(14)を満たすことが好ましく、上記式(15)を満たすことがより好ましく、上記式(16)を満足することがさらに好ましい。これにより、上述の効果をより顕著に発揮することができる。また、第3領域R3のダンピング設計でも、式(17)~式(19)を満たすことが好ましい。これにより、検出感度を十分に高くしつつ、第3領域R3でのダンピングを十分に低減することができる。
【0073】
なお、第3領域R3の場合には、第3部分32Cに配置されている貫通孔30のZ軸の長さをH〔μm〕、第2質量部322の第3部分32CのY軸方向に沿った長さの1/2の長さをa〔μm〕、X軸方向に沿った長さをL〔μm〕、基板2が有する電極8と第3部分32Cとの離間距離すなわち第3空隙Q3のZ軸方向の長さをh〔μm〕、第3部分32Cに配置されている貫通孔30の正方形の一辺の長さをS0〔μm〕、第3部分32C内において隣り合う貫通孔30同士の間隔をS1〔μm〕、第3空隙Q3内にある気体すなわち収納空間S内に充填されている気体の粘性抵抗(粘性係数)をμ〔kg/ms〕、第3部分32Cに生じるダンピングをC、とそれぞれ読み替えればよい。
【0074】
本実施形態では、空隙QのZ軸方向の長さhが、第1領域R1<第2領域R2<第3領域R3の関係となっているため、それに応じて、貫通孔30の一辺の長さS0が、第1領域R1<第2領域R2<第3領域R3となっており、隣り合う貫通孔30同士の間隔S1が、第1領域R1<第2領域R2<第3領域R3となっている。
【0075】
このように、第1領域R1、第2領域R2および第3領域R3の全てにおいて、上記式(12)を満たすことが好ましい。これにより、第1領域R1、第2領域R2および第3領域R3のそれぞれの領域、つまり、可動体32のほぼ全域においてダンピングを十分に低減することができるため、全体としてダンピングを効果的に低減することができる。そのため、優れた検出感度を有しつつ、所望の周波数帯域を確保することのできる物理量センサー1が得られる。
【0076】
ただし、物理量センサー1としては、これに限定されず、第1領域R1、第2領域R2および第3領域R3の少なくとも1つの領域において、上記式(13)を満たしていればよい。このように、第1領域R1、第2領域R2および第3領域R3の一部の領域が上記式(13)を満たしている場合、上記式(13)を満たしている領域に、少なくとも第1領域R1が含まれていることが好ましい。空隙Qの長さhが短いほどダンピングの影響が顕著となるため、第1領域R1、第2領域R2および第3領域R3の中で空隙Qの長さhが最も短い第1領域R1において上記式(13)を満たしていれば、全体のダンピングを効果的に低減することができる。
【0077】
なお、第1、第2、第3領域R1、R2、R3のそれぞれの領域において、貫通孔30のZ軸方向の長さH、つまり、可動体32の厚さとしては、特に限定されないが、例えば、5.0μm以上、80.0μm以下であることが好ましい。これにより、機械的強度を保ちつつ、十分に薄い可動体32が得られる。そのため、物理量センサー1の小型化を図ることができる。また、空隙Qの長さhとしては、特に限定されないが、例えば、1.0μm以上、3.5μm以下であることが好ましい。これにより、可動体32の可動域を十分に確保しつつ、静電容量Ca、Cbを十分に大きくすることができる。また、長さS0としては、特に限定されず、長さa、Lによっても異なるが、例えば、5μm以上、40μm以下であることが好ましく、10μm以上、30μm以下であることがより好ましい。
【0078】
以上、物理量センサー1について説明した。このような物理量センサー1は、前述したように、互いに直交する3つの方向を第1方向であるY軸方向、第2方向であるX軸方向および第3方向であるZ軸方向としたとき、基板2と、基板2と空隙Qを隔ててZ軸方向に対向し、基板2に対してZ軸方向に変位する可動体32と、を有する。また、空隙Qは、第1空隙Q1と、第1空隙Q1よりも基板2と可動体32との離間距離が大きい第2空隙Q2と、を有する。また、可動体32は、Z軸方向からの平面視で、第1空隙Q1と重なる第1部分32Aおよび第2空隙Q2と重なる第2部分32Bと、第1部分32Aおよび第2部分32Bに配置され、Z軸方向に貫通し、Z軸方向から見たときの開口形状が正方形である複数の貫通孔30と、を有する。そして、Z軸方向からの平面視で、第1部分32Aと重なる第1領域R1および第2部分32Bと重なる第2領域R2の少なくとも一方で、前述した式(13)を満たす。これにより、複数の貫通孔30の設計が適切なものとなり、優れた検出感度を有しつつ、ダンピングを十分に低減することができる。したがって、優れた検出感度を有しつつ、所望の周波数帯域を確保することのできる物理量センサー1が得られる。
【0079】
また、前述したように、物理量センサー1は、少なくとも第1領域R1において、前述した式(13)を満たす。空隙Qの長さhが短いほどダンピングの影響が顕著となるため、第1領域R1、第2領域R2および第3領域R3の中で空隙Qの長さhが最も短い第1領域R1において上記式(13)を満たしていれば、全体のダンピングをより効果的に低減することができる。
【0080】
また、前述したように、物理量センサー1は、第1領域R1および第2領域R2の両方で、前述した式(13)を満たす。これにより、上述の効果がより顕著となり、ダンピングをさらに効果的に低減することができる。
【0081】
また、前述したように、素子部3は、基板2に固定されている固定部31と、可動体32と固定部31とを接続し、Y軸方向に沿う回転軸Jを形成している支持梁33と、を有する。また、可動体32は、回転軸Jまわりに変位可能であり、Z軸方向からの平面視で、回転軸Jに対して、X軸方向の一方の側に位置している第1質量部321と、他方の側に位置し、回転軸Jまわりの回転モーメントが第1質量部321よりも大きい第2質量部322と、を有する。また、第2質量部322は、第1部分32Aと、第1部分32Aよりも回転軸Jから遠位に位置している第2部分32Bと、を有する。このように、回転軸Jから近い側に長さhが小さい第1部分32Aを配置し、それよりも回転軸Jから遠い側に長さhが大きい第2部分32Bを配置することにより、可動体32が回転軸Jまわりに回転した際の、可動体32と基板2との接触を効果的に抑制することができる。
【0082】
また、前述したように、第1質量部321は、第1部分32Aを有する。また、Z軸方向からの平面視で、第1質量部321の第1部分32Aと第2質量部322の第1部分32Aとは、回転軸Jに対して対称的に配置されている。これにより、物理量センサー1の装置構成が容易となる。
【0083】
また、前述したように、物理量センサー1は、第1領域R1および第2領域R2の少なくとも一方で、前述した式(14)を満たすことが好ましく、式(15)を満たすことがより好ましく、式(16)を満たすことがさらに好ましい。これにより、上述した効果をより顕著に発揮することができ、優れた検出感度を有しつつ、所望の周波数帯域を確保することのできる物理量センサー1が得られる。
【0084】
また、前述したように、物理量センサー1は、第1領域R1および第2領域R2の少なくとも一方で、前述した式(17)を満たすことが好ましく、式(18)を満たすことがより好ましく、式(19)を満たすことがさらに好ましい。これにより、検出感度を十分に高くしつつ、ダンピングを十分に低減することができる。
【0085】
なお、本実施形態では、貫通孔30の設計について、貫通孔30の横断面形状が正方形の場合について説明したが、貫通孔30の横断面形状が円形の場合も同じ効果が得られる。詳細には、上記式(9)を半径とした円形の貫通孔、上記式(8)の値を2倍にした貫通孔中心間距離の形状の場合である。また、貫通孔30の横断面が最適条件(S0=S0minの場合)における正方形の面積に対して±25%以内の面積変化での多角形、例えば、三角形、正方形以外の四角形、五角形以上の多角形であっても、同様の効果が得られる。
【0086】
また、本実施形態では、空隙Qが、互いに長さhの異なる第1空隙Q1、第2空隙Q2および第3空隙Q3を有しているが、互いに長さhの異なる第1空隙Q1および第2空隙Q2を有していれば、特に限定されない。
【0087】
例えば、図23に示すように、空隙Qが、互いに長さhの異なる第1空隙Q1および第2空隙Q2を有しており、第1空隙Q1が第1質量部321と第2質量部322の基部322’とに重なり、第2空隙Q2が第2質量部322のトルク発生部322”と重なっている構成であってもよい。そして、Z軸方向からの平面視で、第1、第2質量部321、322の第1空隙Q1と重なっている部分を第1部分32Aと言い、第2空隙Q2と重なっている部分を第2部分32Bと言い、第1部分32Aと重なっている領域を第1領域R1と言い、第2部分32Bと重なっている領域を第2領域R2と言うとき、領域R1、R2ごとに、上記式(13)を満たすように各部の寸法を設計すればよい。
【0088】
また、図24に示すように、空隙Qが、互いに長さhの異なる第1空隙Q1、第2空隙Q2、第3空隙Q3および第4空隙Q4を有しており、第1、第2空隙Q1、Q2が第1質量部321と第2質量部322の基部322’とに重なり、第3、第4空隙Q3、Q4が第2質量部322のトルク発生部322”と重なっている構成であってもよい。そして、Z軸方向からの平面視で、第1、第2質量部321、322の第1空隙Q1と重なっている部分を第1部分32Aと言い、第2空隙Q2と重なっている部分を第2部分32Bと言い、第3空隙Q3と重なっている部分を第3部分32Cと言い、第4空隙Q4と重なっている部分を第4部分32Dと言い、第1部分32Aと重なっている領域を第1領域R1と言い、第2部分32Bと重なっている領域を第2領域R2と言い、第3部分32Cと重なっている領域を第3領域R3と言い、第4部分32Dと重なっている領域を第4領域R4と言いうとき、領域R1、R2、R3、R4ごとに、上記式(13)を満たすように各部の寸法を設計すればよい。
【0089】
空隙Qが有する互いに長さhの異なる空隙の数が多い程、凹部21の底面に形成される段差が小さくなり、この段差での電極8の成膜時におけるカバレッジが向上する。そのため、電極8の断線等を効果的に抑制することができる。その一方、凹部21の形成工程が増え、物理量センサー1の高コスト化を招くおそれがある。これに対して、空隙Qが有する互いに長さhの異なる空隙の数が少ない程、凹部21の形成工程が減り、物理量センサー1の低コスト化を図ることができる。その一方で、凹部21の底面に形成される段差が大きくなり、この段差での電極8の成膜時におけるカバレッジが低下する。そのため、電極8の断線等が生じ易くなるおそれがある。そのため、空隙Qが有する互いに長さhの異なる空隙の数としては、3~6つ程度であることが好ましい。これにより、カバレッジの向上と低コスト化とをバランスよく両立することができる。
【0090】
<第2実施形態>
図25は、第2実施形態に係る物理量センサーを示す断面図である。
【0091】
本実施形態は、電極8の構成が異なること以外は、前述した第1実施形態と同様である。なお、以下の説明では、本実施形態に関し、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項に関してはその説明を省略する。また、図25において、前述した第1実施形態と同様の構成については、同一符号を付している。
【0092】
図25に示すように、本実施形態の物理量センサーでは、凹部51は、第1凹部511と、第1凹部511のX軸方向両側に位置し、第1凹部511よりも深い第2凹部512と、第2凹部512のX軸方向プラス側に位置し、第2凹部512よりも深い第3凹部513と、を有する。また、第1凹部511は、可動体32に対して第1凹部211と対称的に配置され、第2凹部512は、可動体32に対して第2凹部212と対称的に配置され、第3凹部513は、可動体32に対して第3凹部213と対称的に配置されている。
【0093】
また、電極8は、凹部51の底面に配置されている第1固定電極810、第2固定電極820およびダミー電極830を有する。第1固定電極810は、可動体32に対して第2固定電極82と対称的に配置され、第2固定電極820は、可動体32に対して第1固定電極81と対称的に配置され、ダミー電極830は、可動体32に対してダミー電極83と対称的に配置されている。
【0094】
そして、第1固定電極81、810同士が電気的に接続されており、第2固定電極82、820同士が電気的に接続されており、ダミー電極83、830同士が電気的に接続されている。そのため、可動体32と第1固定電極810との間にも静電容量Caが形成され、可動体32と第2固定電極820との間にも静電容量Cbが形成される。
【0095】
このような構成によれば、可動体32と電極8との間に形成される静電容量Ca、Cbが、前述した第1実施形態と比べて2倍に増える。また、可動体32と凹部51の底面との間にある気体に起因するダンピングCについても、より効果的に低減することができる。そのため、物理量センサー1の加速度Azの検出精度がより向上する。
【0096】
このような第2実施形態によっても、前述した第1実施形態と同様の効果を発揮することができる。
【0097】
<第3実施形態>
図26は、第3実施形態に係る物理量センサーを示す断面図である。
【0098】
本実施形態は、素子部3の構成が異なること以外は、前述した第1実施形態と同様である。なお、以下の説明では、本実施形態に関し、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項に関してはその説明を省略する。また、図26において、前述した第1実施形態と同様の構成については、同一符号を付している。
【0099】
図26に示すように、本実施形態の物理量センサー1では、可動体32が厚さ、すなわちZ軸方向の長さの異なる部分を有する。具体的には、可動体32のうち、第2質量部322のトルク発生部322”の厚さが他の部分すなわち基部322’、第1質量部321および連結部323の厚さよりも厚い。これにより、例えば、前述した第1実施形態と比べて、トルク発生部322”の質量が大きくなり、加速度Azの検出感度が向上する。
【0100】
このような第3実施形態によっても、前述した第1実施形態と同様の効果を発揮することができる。
【0101】
<第4実施形態>
図27は、第4実施形態に係る物理量センサーを示す平面図である。図28は、図27中のB-B線断面図である。
【0102】
本実施形態は、基板2にストッパーが設けられていること以外は、前述した第1実施形態と同様である。なお、以下の説明では、本実施形態に関し、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項に関してはその説明を省略する。また、図27および図28において、前述した第1実施形態と同様の構成については、同一符号を付している。
【0103】
図27および図28に示すように、本実施形態の物理量センサー1は、基板2の凹部21の底面から可動体32側に突出する突起6を有する。本実施形態では、突起6を複数本有し、それぞれが基板2と一体形成されている。
【0104】
突起6は、可動体32に過度な揺動が生じた際に可動体32と接触することにより、可動体32のそれ以上の揺動を規制するストッパーとして機能する。このような突起6を設けることにより、互いに電位が異なる可動体32と第1、第2固定電極81、82との過度な接近または広面積での接触を抑制することができ、可動体32と第1、第2固定電極81、82との間に生じる静電引力によって可動体32が第1、第2固定電極81、82に引き付けられたまま戻らなくなる「スティッキング」の発生を効果的に抑制することができる。
【0105】
突起6は、Z軸方向からの平面視で、第1質量部321と重なって設けられている突起61と、第2質量部322と重なって設けられている突起62と、を有する。また、突起61、62は、それぞれ、Y軸方向に離間して一対設けられている。また、一対の突起61と一対の突起62とは、Z軸方向からの平面視で、回転軸Jに対して対称的に配置されている。これらのうち、突起61が可動体32と第1固定電極81との過度な接近を抑制する機能を有し、突起62が可動体32と第2固定電極82との過度な接近を抑制する機能を有する。これら突起61、62は、互いに同様の構成であり、Z軸方向からの平面視で、回転軸Jに対して対称的に設けられている。
【0106】
また、各突起61、62は、可動体32と同電位であるダミー電極83に覆われている。これにより、基板2中のアルカリ金属イオンの移動に伴う各突起61、62の表面の帯電を抑制することができる。そのため、突起61、62と可動体32との間に可動体32の誤作動、特に、検出対象である加速度Az以外の外力による変位に繋がるような意図しない静電引力が生じるのを効果的に抑制することができる。そのため、加速度Azをより精度よく検出することのできる物理量センサー1となる。
【0107】
このような第4実施形態によっても、前述した第1実施形態と同様の効果を発揮することができる。
【0108】
<第5実施形態>
図29は、第5実施形態に係る物理量センサーを示す平面図である。図30は、図29中のC-C線断面図である。
【0109】
本実施形態は、素子部3および基板2の構成が異なること以外は、前述した第1実施形態と同様である。なお、以下の説明では、本実施形態に関し、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項に関してはその説明を省略する。また、図29および図30において、前述した第1実施形態と同様の構成については、同一符号を付している。
【0110】
図29に示すように、本実施形態の物理量センサー1では、素子部3は、可動体32と、基板2に固定されている4つの固定部31と、各固定部31と可動体32とを連結している4つの支持梁33と、を有し、可動体32が基板2に対してZ軸方向に平行移動するように構成されている。一方、図30に示すように、基板2は、凹部21が第1凹部211と、第1凹部211の周囲を囲む枠状をなし、第1凹部211よりも深い第2凹部212と、を有する。そして、第1凹部211の底面に固定電極80が配置されており、この固定電極80と可動体32との間に静電容量Ccが形成されている。加速度Azが加わると、可動体32がZ軸方向に平行移動し、これにより、静電容量Ccが変化する。そのため、静電容量Ccの変化に基づいて、加速度Azを検出することができる。
【0111】
Z軸方向からの平面視で、第1凹部211は、可動体32の中央部と重なり、第2凹部212は、可動体32の縁部と重なっている。そのため、可動体32の第1凹部211と重なっている中央部が第1部分32Aとなり、可動体32の第2凹部212と重なっている縁部が第2部分32Bとなる。そして、Z軸方向からの平面視で、第1部分32Aと重なる第1領域R1および第2部分32Bと重なる第2領域R2のそれぞれにおいて、前述した式(13)を満たすように、各部の寸法が設計されている。
【0112】
このような第5実施形態によっても、前述した第1実施形態と同様の効果を発揮することができる。
【0113】
<第6実施形態>
図31は、第6実施形態に係る物理量センサーを示す断面図である。
【0114】
本実施形態は、素子部3および基板2の構成が異なること以外は、前述した第1実施形態と同様である。なお、以下の説明では、本実施形態に関し、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項に関してはその説明を省略する。また、図31において、前述した第1実施形態と同様の構成については、同一符号を付している。
【0115】
図31に示すように、本実施形態の物理量センサー1では、基板2の凹部21の底面は平坦面である。そのため、凹部21の底面と素子部3との間の空隙Qは、その全域において長さhが等しい。
【0116】
可動体32は、前述した第3実施形態と同様の構成であり、厚さ、すなわちZ軸方向の長さの異なる部分を有する。具体的には、可動体32のうち、第2質量部322のトルク発生部322”の厚さが他の部分すなわち基部322’、第1質量部321および連結部323の厚さよりも厚い。これにより、例えば、前述した第1実施形態と比べて、トルク発生部322”の質量が大きくなり、加速度Azの検出感度が向上する。この場合、基部322’、第1質量部321が第1部分32Aであり、トルク発生部322”が第2部分32Bであり、Z軸方向の平面視で、第1部分32Aと重なる領域が第1領域R1、第2部分32Bと重なる領域を第2領域R2である。そして、第1領域R1および第2領域R2において、それぞれ、前述した式(13)を満たすように、各部の寸法が設計されている。
【0117】
以上、本実施形態の物理量センサー1について説明した。このような物理量センサー1は、前述したように、互いに直交する3つの方向を第1方向であるY軸方向、第2方向であるX軸方向および第3方向であるZ軸方向としたとき、基板2と、基板2と空隙Qを隔ててZ軸方向に対向し、基板2に対してZ軸方向に変位する可動体32と、を有する。また、可動体32は、第1部分32Aおよび第1部分32AよりもZ軸方向の長さが長い第2部分32Bと、第1部分32Aおよび第2部分32Bに配置され、Z軸方向に貫通し、Z軸方向から見たときの開口形状が正方形である複数の貫通孔30と、を有する。そして、Z軸方向からの平面視で、第1部分32Aと重なる第1領域R1および第2部分32Bと重なる第2領域R2の少なくとも一方で、前述した式(13)を満たす。これにより、複数の貫通孔30の設計が適切なものとなり、優れた検出感度を有しつつ、ダンピングを十分に低減することができる。したがって、優れた検出感度を有しつつ、所望の周波数帯域を確保することのできる物理量センサー1が得られる。
【0118】
<第7実施形態>
図32は、第7実施形態に係る電子機器としてのスマートフォンを示す平面図である。
【0119】
図32に示すスマートフォン1200は、本発明の電子機器を適用したものである。スマートフォン1200には、物理量センサー1と、物理量センサー1から出力された検出信号に基づいて制御を行う制御回路1210と、が内蔵されている。物理量センサー1によって検出された検出データは、制御回路1210に送信され、制御回路1210は、受信した検出データからスマートフォン1200の姿勢や挙動を認識して、表示部1208に表示されている表示画像を変化させたり、警告音や効果音を鳴らしたり、振動モーターを駆動して本体を振動させることができる。
【0120】
このような電子機器としてのスマートフォン1200は、物理量センサー1と、物理量センサー1から出力された検出信号に基づいて制御を行う制御回路1210と、を有する。そのため、前述した物理量センサー1の効果を享受でき、高い信頼性を発揮することができる。
【0121】
なお、本発明の電子機器は、前述したスマートフォン1200の他にも、例えば、パーソナルコンピューター、デジタルスチールカメラ、タブレット端末、時計、スマートウォッチ、インクジェットプリンター、ラップトップ型パーソナルコンピューター、テレビ、スマートグラス、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)等のウェアラブル端末、ビデオカメラ、ビデオテープレコーダー、カーナビゲーション装置、ドライブレコーダー、ページャ、電子手帳、電子辞書、電子翻訳機、電卓、電子ゲーム機器、玩具、ワードプロセッサー、ワークステーション、テレビ電話、防犯用テレビモニター、電子双眼鏡、POS端末、医療機器、魚群探知機、各種測定機器、移動体端末基地局用機器、車両、鉄道車輌、航空機、ヘリコプター、船舶等の各種計器類、フライトシミュレーター、ネットワークサーバー等に適用することができる。
【0122】
<第8実施形態>
図33は、第8実施形態に係る電子機器としての慣性計測装置を示す分解斜視図である。図34は、図33に示す慣性計測装置が有する基板の斜視図である。
【0123】
図33に示す電子機器としての慣性計測装置2000(IMU:Inertial Measurement Unit)は、自動車や、ロボットなどの被装着装置の姿勢や、挙動を検出する慣性計測装置である。慣性計測装置2000は、3軸加速度センサーおよび3軸角速度センサーを備えた6軸モーションセンサーとして機能する。
【0124】
慣性計測装置2000は、平面形状が略正方形の直方体である。また、正方形の対角線方向に位置する2ヶ所の頂点近傍に固定部としてのネジ穴2110が形成されている。この2ヶ所のネジ穴2110に2本のネジを通して、自動車などの被装着体の被装着面に慣性計測装置2000を固定することができる。なお、部品の選定や設計変更により、例えば、スマートフォンや、デジタルカメラに搭載可能なサイズに小型化することも可能である。
【0125】
慣性計測装置2000は、アウターケース2100と、接合部材2200と、センサーモジュール2300と、を有し、アウターケース2100の内部に、接合部材2200を介在させて、センサーモジュール2300を挿入した構成となっている。アウターケース2100の外形は、前述した慣性計測装置2000の全体形状と同様に、平面形状が略正方形の直方体であり、正方形の対角線方向に位置する2ヶ所の頂点近傍に、それぞれネジ穴2110が形成されている。また、アウターケース2100は、箱状であり、その内部にセンサーモジュール2300が収納されている。
【0126】
センサーモジュール2300は、インナーケース2310と、基板2320と、を有する。インナーケース2310は、基板2320を支持する部材であり、アウターケース2100の内部に収まる形状となっている。また、インナーケース2310には、基板2320との接触を防止するための凹部2311や後述するコネクター2330を露出させるための開口2312が形成されている。このようなインナーケース2310は、接合部材2200によってアウターケース2100に接合されている。また、インナーケース2310の下面は接着剤によって基板2320が接合されている。
【0127】
図34に示すように、基板2320の上面には、コネクター2330、Z軸まわりの角速度を検出する角速度センサー2340z、X軸、Y軸およびZ軸の各軸方向の加速度を検出する加速度センサー2350などが実装されている。また、基板2320の側面には、X軸まわりの角速度を検出する角速度センサー2340xおよびY軸まわりの角速度を検出する角速度センサー2340yが実装されている。そして、例えば、加速度センサー2350として、本発明の物理量センサーを用いることができる。
【0128】
また、基板2320の下面には、制御IC2360が実装されている。制御IC2360は、MCU(Micro Controller Unit)であり、慣性計測装置2000の各部を制御する。記憶部には、加速度および角速度を検出するための順序と内容を規定したプログラムや、検出データをデジタル化してパケットデータに組込むプログラム、付随するデータなどが記憶されている。なお、基板2320にはその他にも複数の電子部品が実装されている。
【0129】
<第9実施形態>
図35は、第9実施形態に係る電子機器としての移動体測位装置の全体システムを示すブロック図である。図36は、図35に示す移動体測位装置の作用を示す図である。
【0130】
図35に示す移動体測位装置3000は、移動体に装着して用い、当該移動体の測位を行うための装置である。なお、移動体としては、特に限定されず、自転車、自動車、自動二輪車、電車、飛行機、船等のいずれでもよいが、本実施形態では移動体として四輪自動車、特に農業用トラクターを用いた場合について説明する。
【0131】
移動体測位装置3000は、慣性計測装置3100(IMU)と、演算処理部3200と、GPS受信部3300と、受信アンテナ3400と、位置情報取得部3500と、位置合成部3600と、処理部3700と、通信部3800と、表示部3900と、を有する。なお、慣性計測装置3100としては、例えば、前述した慣性計測装置2000を用いることができる。
【0132】
慣性計測装置3100は、3軸の加速度センサー3110と、3軸の角速度センサー3120と、を有する。演算処理部3200は、加速度センサー3110からの加速度データおよび角速度センサー3120からの角速度データを受け、これらデータに対して慣性航法演算処理を行い、移動体の加速度および姿勢を含む慣性航法測位データを出力する。
【0133】
また、GPS受信部3300は、受信アンテナ3400でGPS衛星からの信号を受信する。また、位置情報取得部3500は、GPS受信部3300が受信した信号に基づいて、移動体測位装置3000の位置(緯度、経度、高度)、速度、方位を表すGPS測位データを出力する。このGPS測位データには、受信状態や受信時刻等を示すステータスデータも含まれている。
【0134】
位置合成部3600は、演算処理部3200から出力された慣性航法測位データおよび位置情報取得部3500から出力されたGPS測位データに基づいて、移動体の位置、具体的には移動体が地面のどの位置を走行しているかを算出する。例えば、GPS測位データに含まれている移動体の位置が同じであっても、図36に示すように、地面の傾斜θ等の影響によって移動体の姿勢が異なっていれば、地面の異なる位置を移動体が走行していることになる。そのため、GPS測位データだけでは移動体の正確な位置を算出することができない。そこで、位置合成部3600は、慣性航法測位データを用いて、移動体が地面のどの位置を走行しているのかを算出する。
【0135】
位置合成部3600から出力された位置データは、処理部3700によって所定の処理が行われ、測位結果として表示部3900に表示される。また、位置データは、通信部3800によって外部装置に送信されるようになっていてもよい。
【0136】
<第10実施形態>
図37は、第10実施形態に係る移動体を示す斜視図である。
【0137】
図37に示す自動車1500は、本発明の移動体を適用した自動車である。この図において、自動車1500は、エンジンシステム、ブレーキシステムおよびキーレスエントリーシステムの少なくとも何れかのシステム1510を含んでいる。また、自動車1500には、物理量センサー1が内蔵されており、物理量センサー1によって車体の姿勢を検出することができる。物理量センサー1の検出信号は、制御回路1502に供給され、制御回路1502は、その信号に基づいてシステム1510を制御することができる。
【0138】
このように、移動体としての自動車1500は、物理量センサー1と、物理量センサー1から出力された検出信号に基づいて制御を行う制御回路1502と、を有する。そのため、前述した物理量センサー1の効果を享受でき、高い信頼性を発揮することができる。
【0139】
なお、物理量センサー1は、他にも、カーナビゲーションシステム、カーエアコン、アンチロックブレーキシステム(ABS)、エアバック、タイヤ・プレッシャー・モニタリング・システム(TPMS:Tire Pressure Monitoring System)、エンジンコントロール、ハイブリッド自動車や電気自動車の電池モニター等の電子制御ユニット(ECU:electronic control unit)に広く適用できる。また、移動体としては、自動車1500に限定されず、例えば、鉄道車輌、飛行機、ヘリコプター、ロケット、人工衛星、船舶、AGV(無人搬送車)、エレベーター、エスカレーター、二足歩行ロボット、ドローン等の無人飛行機、ラジコン模型、鉄道模型、その他玩具等にも適用することができる。
【0140】
以上、本発明の物理量センサー、電子機器および移動体を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置換することができる。また、本発明に他の任意の構成物が付加されていてもよい。また、前述した実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【0141】
また、前述した実施形態では、物理量センサーが加速度を検出する構成について説明したが、物理量センサーが検出する物理量としては、特に限定されず、例えば、角速度、圧力等であってもよい。
【符号の説明】
【0142】
1…物理量センサー、2…基板、21…凹部、211…第1凹部、212…第2凹部、213…第3凹部、22…マウント部、25、26、27…溝部、3…素子部、30…貫通孔、31…固定部、32…可動体、32A…第1部分、32B…第2部分、32C…第3部分、32D…第4部分、321…第1質量部、322…第2質量部、322’…基部、322”…トルク発生部、323…連結部、324、325…開口、33…支持梁、5…蓋体、51…凹部、511…第1凹部、512…第2凹部、513…第3凹部、59…ガラスフリット、6、61、62…突起、75、76、77…配線、8…電極、80…固定電極、81、810…第1固定電極、82、820…第2固定電極、83、830…ダミー電極、1200…スマートフォン、1208…表示部、1210…制御回路、1500…自動車、1502…制御回路、1510…システム、2000…慣性計測装置、2100…アウターケース、2110…ネジ穴、2200…接合部材、2300…センサーモジュール、2310…インナーケース、2311…凹部、2312…開口、2320…基板、2330…コネクター、2340x、2340y、2340z…角速度センサー、2350…加速度センサー、2360…制御IC、3000…移動体測位装置、3100…慣性計測装置、3110…加速度センサー、3120…角速度センサー、3200…演算処理部、3300…GPS受信部、3400…受信アンテナ、3500…位置情報取得部、3600…位置合成部、3700…処理部、3800…通信部、3900…表示部、Az…加速度、Ca、Cb、Cc…静電容量、J…回転軸、P…電極パッド、Q…空隙、Q1…第1空隙、Q2…第2空隙、Q3…第3空隙、Q4…第4空隙、R1…第1領域、R2…第2領域、R3…第3領域、R4…第4領域、S…収納空間、V1…駆動電圧、θ…傾斜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37