(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】カバーガラス
(51)【国際特許分類】
G02B 1/115 20150101AFI20231114BHJP
G02B 5/00 20060101ALI20231114BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20231114BHJP
C03C 17/34 20060101ALI20231114BHJP
C03C 17/36 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
G02B1/115
G02B5/00 B
G09F9/00 302
C03C17/34 Z
C03C17/36
(21)【出願番号】P 2019221422
(22)【出願日】2019-12-06
【審査請求日】2022-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐原 啓一
(72)【発明者】
【氏名】北村 圭市
(72)【発明者】
【氏名】今村 努
【審査官】植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-92388(JP,A)
【文献】特開2017-2338(JP,A)
【文献】特開2014-170182(JP,A)
【文献】特開平8-36171(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/10- 1/18
G02B 5/00- 5/136
C03C17/34-17/36
G09F 9/00
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像装置に用いられ、かつ遮光部及び透光部を有するカバーガラスであって、
対向し合う第1の主面及び第2の主面を有するガラス基板と、
前記遮光部において、前記ガラス基板の前記第1の主面上に設けられている遮光膜と、
前記遮光膜上に設けられている反射防止膜と、
を備え、
前記遮光膜が
、前記ガラス基板の前記第1の主面側に設けられているクロム層と、
前記クロム層上に設けられている窒化クロム層と
、前記窒化クロム層上に設けられている酸窒化クロム層とを含み、
前記反射防止膜が、高屈折率層及び低屈折率層が積層された誘電体多層膜であり、前記高屈折率層が、酸化ニオブ、酸化チタン、又は酸化タンタルにより構成されており、前記低屈折率層が、酸化ケイ素により構成されている、カバーガラス。
【請求項2】
前記高屈折率層が、酸化ニオブにより構成されている、請求項1に記載のカバーガラス。
【請求項3】
前記窒化クロム層が第1の窒化クロム層であり、
前記遮光膜が、前記第1の窒化クロム層とは別の第2の窒化クロム層をさらに含み、
前記第2の窒化クロム層が、前記クロム層と前記ガラス基板との間に設けられている、請求項1又は2に記載のカバーガラス。
【請求項4】
前記反射防止膜が、前記透光部における前記ガラス基板の前記第1の主面上にも設けられている、請求項1~3のいずれか一項に記載のカバーガラス。
【請求項5】
前記反射防止膜が第1の反射防止膜であり、
前記遮光部及び前記透光部において、前記ガラス基板の前記第2の主面上に設けられている、第2の反射防止膜をさらに備える、請求項1~4のいずれか一項に記載のカバーガラス。
【請求項6】
前記遮光膜が第1の遮光膜であり、前記反射防止膜が第1の反射防止膜であり、
前記遮光部において、前記ガラス基板の前記第2の主面上に設けられている第2の遮光膜と、
前記ガラス基板の前記第2の遮光膜上に設けられている第2の反射防止膜と、
をさらに備え、
前記第2の遮光膜がクロム層と、窒化クロム層とを含み、
前記第2の遮光膜の前記クロム層と前記第2の反射防止膜との間に前記第2の遮光膜の前記窒化クロム層が設けられている、請求項1~4のいずれか一項に記載のカバーガラス。
【請求項7】
前記第2の遮光膜が、前記窒化クロム層と前記反射防止膜との間に設けられている酸窒化クロム層をさらに含む、請求項6に記載のカバーガラス。
【請求項8】
前記第2の反射防止膜が、前記透光部において、前記ガラス基板の前記第2の主面上にも設けられている、請求項6又は7に記載のカバーガラス。
【請求項9】
表示素子を含むファインダを有する撮像装置における、前記表示素子に用いられる、請求項1~8のいずれか一項に記載のカバーガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像装置に用いられるカバーガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、筐体にイメージセンサが内蔵された撮像素子が広く用いられている。イメージセンサが、撮像素子の筐体内を反射した光等の不要な光を受光した場合には、フレアやゴースト等の不具合が生じることがある。このような問題を防ぐため、遮光膜を形成したカバーガラス等が用いられることがある。この場合には、撮像素子における、光を届かせることが不要な部分において遮光することができる。
【0003】
特許文献1には、遮光膜を有する光学フィルタ部材の一例が開示されている。この光学フィルタ部材においては、基体の上面における周囲領域に遮光膜が形成されている。基体の上面及び遮光膜は、光学多層膜により覆われている。光学多層膜においては、可視光の透過率が高く、赤外線の透過率が低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されたような光学フィルタ部材においては、遮光膜の遮光性が高いだけでなく、遮光膜の反射率も高いという問題がある。そのため、例えば、光がカバーガラスから斜めに入射した場合等には、遮光膜の下面と筐体との間において光が反射し、結果としてイメージセンサに不要な光が入射するおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、所望の領域において遮光性に優れ、かつ反射率が低い、カバーガラスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るカバーガラスは、撮像装置に用いられ、かつ遮光部及び透光部を有するカバーガラスであって、対向し合う第1の主面及び第2の主面を有するガラス基板と、遮光部において、ガラス基板の第1の主面上に設けられている遮光膜と、遮光膜上に設けられている反射防止膜と、を備え、遮光膜がクロム層と、窒化クロム層とを含み、クロム層と反射防止膜との間に窒化クロム層が設けられていることを特徴とする。
【0008】
遮光膜が、窒化クロム層と反射防止膜との間に設けられている酸窒化クロム層をさらに含むことが好ましい。
【0009】
窒化クロム層が第1の窒化クロム層であり、遮光膜が、第1の窒化クロム層とは別の第2の窒化クロム層をさらに含み、第2の窒化クロム層が、クロム層とガラス基板との間に設けられていることが好ましい。
【0010】
反射防止膜が、透光部におけるガラス基板の第1の主面上にも設けられていることが好ましい。
【0011】
反射防止膜が第1の反射防止膜であり、遮光部及び透光部において、ガラス基板の第2の主面上に設けられている、第2の反射防止膜をさらに備えることが好ましい。
【0012】
遮光膜が第1の遮光膜であり、反射防止膜が第1の反射防止膜であり、遮光部において、ガラス基板の第2の主面上に設けられている第2の遮光膜と、ガラス基板の第2の遮光膜上に設けられている第2の反射防止膜と、をさらに備え、第2の遮光膜がクロム層と、窒化クロム層とを含み、第2の遮光膜のクロム層と第2の反射防止膜との間に第2の遮光膜の窒化クロム層が設けられていることが好ましい。この場合、第2の遮光膜が、窒化クロム層と反射防止膜との間に設けられている酸窒化クロム層をさらに含むことがより好ましい。また、第2の反射防止膜が、透光部において、ガラス基板の第2の主面上にも設けられていることがさらに好ましい。
【0013】
表示素子を含むファインダを有する撮像装置における、表示素子に用いられてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、所望の領域において遮光性に優れ、かつ反射率が低い、カバーガラスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るカバーガラスの模式的断面図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係るカバーガラスの拡大模式的断面図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係るカバーガラスを有する撮像装置の模式的正面断面図である。
【
図4】比較例のカバーガラスを有する撮像装置の模式的正面断面図である。
【
図5】本発明の第2の実施形態に係るカバーガラスの模式的正面断面図である。
【
図6】本発明の第2の実施形態に係るカバーガラスの、遮光膜付近を示す拡大模式的正面断面図である。
【
図7】本発明の第2の実施形態に係るカバーガラスを有する撮像装置の模式的正面断面図である。
【
図8】本発明の第3の実施形態に係るカバーガラスの模式的正面断面図である。
【
図9】実施例1の、波長と透光部における反射率との関係を示す図である。
【
図10】実施例1及び比較例1~5の、波長と遮光部における反射率との関係を示す図である。
【
図11】実施例2及び実施例3のカバーガラスにおいて測定した、各反射率を説明するための模式的正面断面図である。
【
図12】実施例2の、波長とカバーガラスの反射率との関係を示す図である。
【
図13】実施例3の、波長とカバーガラスの反射率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0017】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係るカバーガラスの模式的断面図である。
図2は、本発明の第1の実施形態に係るカバーガラスの拡大模式的断面図である。
【0018】
図1に示すカバーガラス1は撮像装置に用いられる。カバーガラス1は遮光部1A及び透光部1Bを有する。遮光部1Aにおいては、撮像装置内に入射する光は遮断される。これにより、撮像装置のイメージセンサが不要な光を受光することを抑制する。
【0019】
カバーガラス1は、ガラス基板2と、遮光膜3と、反射防止膜4とを備える。ガラス基板2は、対向し合う第1の主面2a及び第2の主面2bを有する。遮光膜3及び反射防止膜4は、ガラス基板2の第1の主面2a上に設けられている。以下、カバーガラス1の具体的な構成を示す。
【0020】
ガラス基板2は、第1の領域2Aと、第2の領域2Bとを有する。第1の領域2Aはカバーガラス1の遮光部1Aに位置し、第2の領域2Bはカバーガラス1の透光部1Bに位置する。本実施形態においては、第1の領域2Aは第2の領域2Bを囲んでいる周囲領域である。なお、第1の領域2A及び第2の領域2Bの位置関係は上記に限定されない。ガラス基板2に用いられるガラスとしては、特に限定されないが、例えば、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、アルミノシリケートガラス等を用いることができる。本実施形態において、ガラス基板2は、略矩形板状の形状を有する。もっとも、ガラス基板2は、略円板状の形状を有していてもよく、形状は特に限定されない。
【0021】
ガラス基板2の厚みは、光透過率などに応じて適宜設定することができる。ガラス基板2の厚みは、例えば、0.2mm~1.2mm程度とすることができる。なお、ガラス基板2の厚みは上記に限定されない。
【0022】
遮光膜3は、ガラス基板2の第1の領域2Aにおいて、第1の主面2a上に設けられている。反射防止膜4は、遮光膜3上に設けられている。ここで、
図2に示すように、遮光膜3においては、ガラス基板2側から、クロム層3c、窒化クロム層3d及び酸窒化クロム層3eがこの順序で積層されている。酸窒化クロム層3e上に反射防止膜4が設けられている。よって、クロム層3cと反射防止膜4との間に窒化クロム層3dが設けられている。なお、遮光膜3は酸窒化クロム層3eを必ずしも有していなくともよい。あるいは、遮光膜3においては、クロム層3cとガラス基板2との間に、別の窒化クロム層や酸窒化クロム層等が積層されていてもよい。
【0023】
遮光膜3におけるクロム層3cの厚みは、例えば、50nm~250nm程度とすることができる。窒化クロム層3dの厚みは、例えば、15nm~60nm程度とすることができる。酸窒化クロム層3eの厚みは、例えば、10nm~70nm程度とすることができる。なお、遮光膜3における各層の厚みは上記に限定されない。
【0024】
反射防止膜4は、遮光膜3を覆っており、かつガラス基板2の第2の領域2Bにおいて、第1の主面2a上に直接的に設けられている。なお、反射防止膜4は、第2の領域2Bにおいて、ガラス基板2の第1の主面2a上に必ずしも設けられていなくともよい。反射防止膜4は遮光膜3を覆っていればよい。反射防止膜4は、高屈折率層4a及び低屈折率層4bが積層された誘電体多層膜である。
【0025】
高屈折率層4aの材料としては、例えば、酸化ニオブ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化タンタル、窒化ケイ素または窒化アルミニウムを挙げることができる。低屈折率層4bの材料としては、例えば、酸化ケイ素または酸化アルミニウムを挙げることができる。
【0026】
高屈折率層4aの厚みは、例えば、1.5nm~150nm程度とすることができる。低屈折率層4bの厚みは、例えば、1.5nm~150nm程度とすることができる。なお、反射防止膜4における各層の厚みは上記に限定されない。
【0027】
本実施形態の特徴は、ガラス基板2上に設けられている遮光膜3を反射防止膜4が覆っており、遮光膜3のクロム層3cと反射防止膜4との間に、遮光膜3の窒化クロム層3dが配置されていることにある。それによって、カバーガラス1においては、第1の領域2Aにおいて遮光性に優れ、かつ反射率を低くすることができる。このカバーガラス1を撮像装置に用いた場合においては、撮像装置のイメージセンサに不要な光が入射することを効果的に抑制することができる。この詳細を以下において説明する。
【0028】
図3は、本発明の第1の実施形態に係るカバーガラスを有する撮像装置の模式的正面断面図である。
図3に示すように、撮像装置10は、本実施形態のカバーガラス1と、筐体5と、イメージセンサ6とを備える。筐体5は、底部5aと、側壁5bとを有する。側壁5bは底部5a上に設けられている。側壁5b上に、筐体5の内部空間を封止するように、カバーガラス1が設けられている。イメージセンサ6は、筐体5の底部5a上に配置されている。
【0029】
図3に示すように、ガラス基板2の第1の主面2a及び第2の主面2bのうち、遮光膜3が設けられた第1の主面2aがイメージセンサ6側の主面である。このように、遮光膜3は、ガラス基板2におけるイメージセンサ6側の主面上に設けられていることが好ましい。ここで、
図4において比較例のカバーガラスを示す。
【0030】
図4は、比較例のカバーガラスを有する撮像装置の模式的正面断面図である。比較例のカバーガラス101においては、ガラス基板2の第1の領域2Aにおいて遮光膜103が配置されている。遮光膜103はクロム層のみからなる。なお、カバーガラス101は反射防止膜を有しない。
図4に示すように、カバーガラス101の遮光部においては、遮光膜103により光Bが反射されることによって遮光される。しかしながら、カバーガラス101の透光部に不要な光Aが斜めから入射することにより、撮像装置100に上記光Aが入射することがある。この場合には、筐体5の底部5a及び側壁5bと、遮光膜103との間において、光Aが反射する。そのため、イメージセンサ6に不要な光Aが入射し、フレア等が生じるおそれがある。
【0031】
図3に示す本実施形態においては、遮光膜3におけるクロム層3cが光Bを反射し、不要な光Bが撮像装置10内に入射することを抑制することができる。第1の領域2Aを遮光部1Aとすることにより、第1の領域2Aにおいて遮光性を高めることができる。しかしながら、比較例と同様に、不要な光Aが斜めから撮像装置10内に入射することはある。これに対して、カバーガラス1においては、遮光膜3が反射防止膜4により覆われている。それによって、光Aがカバーガラス1の遮光部1Aから筐体5の内部空間側に反射することを抑制でき、撮像装置10内における光Aの反射を抑制することができる。
【0032】
さらに、本実施形態においては、遮光膜3が、クロム層3cだけでなく窒化クロム層3dを有する。窒化クロム層3dは、クロム層3cと反射防止膜4との間に設けられている。この窒化クロム層3dが反射率調整層として機能する。具体的には、窒化クロム層3dは低屈折率層として働き、クロム層3c(高屈折率層)と合わせて光学干渉することによって、光Aがカバーガラス1の遮光部1Aから筐体5の内部空間側に反射することをより一層抑制できる。このように、カバーガラス1においては、遮光性及び低反射性の双方において優れる。従って、撮像装置10に用いた場合において、イメージセンサ6に不要な光が入射することを効果的に抑制することができる。
【0033】
遮光膜3は、窒化クロム層3dと反射防止膜4との間に設けられている酸窒化クロム層3eを有することが好ましい。この場合には、窒化クロム層3dに加えて酸窒化クロム層3eも反射率調整層として機能するため、カバーガラス1の遮光部1Aにおける反射率をより一層低くすることができる。
【0034】
反射防止膜4は、本実施形態のように、第2の領域2Bにおいて、ガラス基板2の第1の主面2a上に設けられていることが好ましい。これにより、光がカバーガラス1の透光部1Bから筐体5の内部空間側に反射することを抑制できる。よって、イメージセンサ6に不要な光が入射することをより一層抑制することができる。さらに、透光部1Bにおいて入射光の反射を抑制することができるため、撮像に必要な光がイメージセンサ6に入射し易い。
【0035】
上記においては、撮像装置10における受光に係る部分にカバーガラス1を用いる例を示した。なお、本発明に係るカバーガラスは、撮像装置における発光に係る部分にも用いることができる。例えば、撮像装置がファインダを有する場合においては、該ファインダにはディスプレイ等の表示素子が用いられることがある。本発明に係るカバーガラスは、例えば、撮像装置における表示素子等に用いることもできる。
【0036】
表示素子に上記カバーガラス1を用いた場合には、遮光部1Aにおいて、遮光膜3による高い遮光性によって不要な光の出射を抑制することができ、かつ外部から配線部等の不要な部分を見えないようにすることができる。加えて、カバーガラス1においては、遮光部1Aにおける反射率が低い。これにより、遮光部1Aにおいて光が反射し難いため、不要な光が表示素子内において反射されることによって透光部1Bから出射されることを抑制できる。よって、表示素子における光の均一性等を高めることもできる。
【0037】
(第2の実施形態)
図5は、本発明の第2の実施形態に係るカバーガラスの模式的正面断面図である。
図5に示すように、カバーガラス21は、第1の反射防止膜24Aを備える。第1の反射防止膜24Aは、第1の実施形態における反射防止膜4と同様の膜である。本実施形態は、第2の反射防止膜24Bを備える点において第1の実施形態と異なる。なお、遮光膜23の構成も第1の実施形態と異なる。
【0038】
第2の反射防止膜24Bは、ガラス基板2の第1の領域2A及び第2の領域2Bにおいて、第2の主面2b上に直接的に設けられている。第2の反射防止膜24Bは、第1の反射防止膜24Aと同様に、高屈折率層及び低屈折率層が積層された誘電体多層膜である。
【0039】
図6は、本発明の第2の実施形態に係るカバーガラスの、遮光膜付近を示す拡大模式的正面断面図である。
図6に示すように、遮光膜23においては、ガラス基板2側から、酸窒化クロム層23a、窒化クロム層23b、クロム層23c、窒化クロム層23d及び酸窒化クロム層23eがこの順序で積層されている。なお、窒化クロム層23dは本発明における第1の窒化クロム層であり、窒化クロム層23bは本発明における第2の窒化クロム層である。本実施形態においても、遮光膜23を第1の反射防止膜24Aが覆っており、遮光膜23のクロム層23cと第1の反射防止膜24Aとの間に、遮光膜23の窒化クロム層23dが配置されている。よって、第1の実施形態と同様に、カバーガラス21においては、第1の領域2Aにおいて遮光性に優れ、かつ反射率が低い。
【0040】
図7は、本発明の第2の実施形態に係るカバーガラスを有する撮像装置の模式的正面断面図である。
図7に示すように、撮像装置20は、鏡筒26及びレンズ27を有する。鏡筒26はカバーガラス21におけるガラス基板2の第2の主面2b上に設けられている。具体的には、鏡筒26は、第2の主面2b上に、第2の反射防止膜24Bを介して間接的に設けられている。なお、鏡筒26は、カバーガラス21上に直接的に設けられていなくともよく、他の保持部材等により保持されていてもよい。鏡筒26内において、レンズ27が保持されている。鏡筒26、レンズ27及びカバーガラス21の構成以外においては、撮像装置20は
図3に示した撮像装置10と同様の構成を有する。
【0041】
本実施形態のカバーガラス21においては、ガラス基板2の第2の主面2b上に第2の反射防止膜24Bが設けられている。これにより、光Bがカバーガラス21からレンズ27側に反射することを抑制できる。よって、カバーガラス21から反射された光Bがさらにレンズ27側から反射され、不要な光がイメージセンサ6に入射するということを抑制できる。
【0042】
さらに、
図6に示すように、カバーガラス21においては、遮光膜23のガラス基板2側の窒化クロム層23bが、クロム層23cとガラス基板2との間に配置されている。それによって、
図7に示すように、第2の反射防止膜24B及びガラス基板2を透過した光Bの、遮光膜3による反射をも抑制することができる。従って、カバーガラス21は、ガラス基板2の第2の主面2b側から見たときの低反射性においてより一層優れる。
【0043】
なお、本実施形態においては、ガラス基板2の第2の主面2b側に遮光膜を形成しなくとも上記効果を得ることができる。従って、カバーガラス21は、生産性を損なわずして、ガラス基板2の第1の主面2a側及び第2の主面2b側から見たいずれの場合においても、遮光部の低反射性に優れる。もっとも、ガラス基板2の第2の主面2b側に遮光膜を形成してもよい。この例を第3の実施形態において示す。
【0044】
(第3の実施形態)
図8は、本発明の第3の実施形態に係るカバーガラスの模式的正面断面図である。
図8に示すように、カバーガラス31は、第1の遮光膜33Aを備える。第1の遮光膜33Aは、第1の実施形態における遮光膜3と同様の膜である。本実施形態は、第2の遮光膜33Bと、第3の反射防止膜34Bとを備える点において第1の実施形態と異なる。
【0045】
第2の遮光膜33Bは、ガラス基板2の第1の領域2Aにおいて、第2の主面2b上に設けられている。第2の遮光膜33Bにおいては、第1の実施形態における遮光膜3と同様に、ガラス基板2側から、クロム層、窒化クロム層及び酸窒化クロム層がこの順序で積層されている。なお、第1の遮光膜33A及び第2の遮光膜33Bは、必ずしも酸窒化クロム層を有していなくともよい。
【0046】
本実施形態では、第3の反射防止膜34Bは、第2の遮光膜33Bを覆っており、かつガラス基板2の第2の領域2Bにおいて、第2の主面2b上に直接的に設けられている。第2の遮光膜33Bにおけるクロム層と第3の反射防止膜34Bとの間に、第2の遮光膜33Bの窒化クロム層が設けられている。よって、ガラス基板2の第1の主面2a側及び第2の主面2b側の双方において、遮光膜を反射防止膜が覆っており、かつクロム層と反射防止膜との間に窒化クロム層が設けられている。従って、カバーガラス31においては、遮光性及び低反射性がより一層優れる。
【0047】
本実施形態のカバーガラス31を
図7に示すような撮像装置に用いた場合には、光がカバーガラス31から筐体の内部空間側に反射することを抑制できる。加えて、光がカバーガラス31からレンズ側に反射することをより一層抑制できる。なお、遮光部において、不要な光が筐体の内部空間に入射することを抑制することもできる。
【0048】
[実施例]
以下に示す実施例1及び比較例1~5のカバーガラスを用意し、遮光部における反射率を比較した。さらに、実施例2及び実施例3のガラスカバーの反射率を評価した。
【0049】
(実施例1)
図1に示した構成を有する、実施例1のカバーガラスを作製した。まず、ガラス基板の第1の主面上に、リフトオフ法によって、枠状の遮光膜を形成した。具体的には、ガラス基板の第1の主面上にレジストパターンを形成した。次に、レジストパターンを覆うように、第1の主面上に、クロム(Cr)層、窒化クロム(CrN)層及び酸窒化クロム(CrON)層をこの順序で、スパッタリング法により積層した。その後、レジストパターンを剥離することにより、遮光膜を形成した。Cr層の厚みは150nmとし、CrN層の厚みは50.6nmとし、CrON層の厚みは31.4nmとした。
【0050】
次に、カバーガラスの遮光部に相当する部分において、遮光膜を覆うように反射防止膜を形成した。同時に、透光部に相当する部分において、ガラス基板の第1の主面上に直接的に反射防止膜を形成した。
【0051】
反射防止膜の形成に際し、遮光膜を覆うように、ガラス基板の第1の主面上に、高屈折率層、低屈折率層の順序で繰り返し積層した。具体的には、高屈折率層を2層、低屈折率層を2層とし、合計4層とした。各層はスパッタリング法により積層した。本実施例においては、各高屈折率層は酸化ニオブ(Nb2O5)層とし、Nb2O5層の厚みを、ガラス基板側から4.1nm及び102.3nmとした。各低屈折率層は酸化ケイ素(SiO2)層とし、SiO2層の厚みを、ガラス基板側から、15.2nm及び77.9nmとした。以上により、カバーガラスを得た。
【0052】
(比較例1)
遮光膜をCr層のみとし、反射防止膜を設けなかったこと以外は、実施例1と同様にしてカバーガラスを得た。
【0053】
(比較例2)
遮光膜をCr層のみとしたこと以外は、実施例1と同様にしてカバーガラスを得た。
【0054】
(比較例3)
遮光膜をCr層及びCrON層のみとして、遮光膜においてCrN層を設けず、さらに反射防止膜を設けなかったこと以外は、実施例1と同様にしてカバーガラスを得た。
【0055】
(比較例4)
遮光膜をCr層及びCrON層のみとして、遮光膜においてCrN層を設けなかったこと以外は、実施例1と同様にしてカバーガラスを得た。
【0056】
(比較例5)
反射防止膜を設けなかったこと以外は、実施例1と同様にしてカバーガラスを得た。
【0057】
(評価)
実施例1及び比較例の遮光部における反射率を比較した。なお、遮光部における反射率は、日立ハイテクノロジーズ社製の分光光度計U-4100を用い、入射角5°で測定した。
【0058】
実施例1及び比較例1~5の各条件及び430nm~680nmにおける遮光部の平均反射率並びに実施例1の430nm~680nmにおける透光部の平均反射率を表1に示す。
【0059】
【0060】
図9は、実施例1の、波長と透光部における反射率との関係を示す図である。
図10は、実施例1及び比較例1~5の、波長と遮光部における反射率との関係を示す図である。
【0061】
図9に示すように、実施例1においては、透光部に反射防止膜が配置されているため、透光部における反射率は低い。
【0062】
図10に示すように、比較例1~5においては、いずれも遮光部における反射率が高い。特に、比較例2及び比較例4においては、遮光部において反射防止膜が設けられているが、反射率を十分に低くできていないことがわかる。これらに対して、実施例1においては、遮光部における反射率を効果的に低くできていることがわかる。
【0063】
なお、比較例3と比較例5との違いは、比較例5の遮光膜がCrN層を有することにある。同様に、実施例1と比較例4との違いも、実施例1の遮光膜がCrN層を有することにある。ここで、表1に示すように、比較例5における遮光部の平均反射率は、比較例3における遮光部の平均反射率よりも高くなっている。これに関わらず、実施例1における遮光部の平均反射率は、比較例4における遮光部の平均反射率よりも低くなっている。このように、実施例1においては、CrN層がCr層と反射防止膜との間に配置されていることによる特有の効果が奏されていることがわかる。
【0064】
(実施例2)
図5に示した構成を有する、実施例2のカバーガラスを作製した。ガラス基板の第1の主面上に、リフトオフ法によって、枠状の遮光膜を形成した。具体的には、ガラス基板の第1の主面上にレジストパターンを形成した。次に、レジストパターンを覆うように、第1の主面上に、酸窒化クロム(CrON)層、窒化クロム(CrN)層、クロム(Cr)層、窒化クロム(CrN)層及び酸窒化クロム(CrON)層をこの順序で、スパッタリング法により積層した。その後、レジストパターンを剥離することにより、遮光膜を形成した。CrON層の厚みは、ガラス基板側から30.4nm及び31.4nmとした。CrN層の厚みは、ガラス基板側から41.7nm及び50.6nmとした。Cr層の厚みは150nmとした。
【0065】
次に、カバーガラスの遮光部に相当する部分において、遮光膜を覆うように第1の反射防止膜を形成した。同時に、透光部に相当する部分において、ガラス基板の第1の主面上に直接的に第1の反射防止膜を形成した。
【0066】
第1の反射防止膜の形成に際し、遮光膜を覆うように、ガラス基板の第1の主面上に、高屈折率層、低屈折率層の順序で繰り返し積層した。具体的には、高屈折率層を3層、低屈折率層を3層とし、合計6層とした。各層はスパッタリング法により積層した。第1の反射防止膜においては、各高屈折率層は酸化ニオブ(Nb2O5)層とし、厚みをガラス基板側から5.1nm、40.8nm及び29.1nmとした。各低屈折率層は酸化ケイ素(SiO2)層とし、厚みをガラス基板側から22.9nm、1.9nm及び88nmとした。
【0067】
次に、カバーガラスの遮光部及び透光部に相当する部分において、ガラス基板の第2の主面上に直接的に第2の反射防止膜を形成した。
【0068】
第2の反射防止膜の形成に際し、ガラス基板の第2の主面上に、高屈折率層、低屈折率層の順序で繰り返し積層した。具体的には、高屈折率層を3層、低屈折率層を3層とし、合計6層とした。各層はスパッタリング法により積層した。第2の反射防止膜においては、各高屈折率層は酸化ニオブ(Nb2O5)層とし、厚みをガラス基板側から5.1nm、40.8nm及び29.1nmとした。各低屈折率層は酸化ケイ素(SiO2)層とし、厚みをガラス基板側から22.9nm、1.9nm及び88nmとした。以上により、カバーガラスを得た。
【0069】
(実施例3)
第1の反射防止膜及び第2の反射防止膜の層の構成を異ならせたこと以外は、実施例2と同様にしてカバーガラスを得た。
【0070】
第1の反射防止膜においては、高屈折率層を2層、低屈折率層を2層とし、合計4層とした。各高屈折率層は酸化ニオブ(Nb2O5)層とし、厚みをガラス基板側から3.1nm及び102.1nmとした。各低屈折率層は酸化ケイ素(SiO2)層とし、厚みをガラス基板側から17.1nm及び80.6nmとした。
【0071】
第2の反射防止膜においては、高屈折率層を2層、低屈折率層を2層とし、合計4層とした。各高屈折率層は酸化ニオブ(Nb2O5)層とし、厚みをガラス基板側から3.1nm及び102.1nmとした。各低屈折率層は酸化ケイ素(SiO2)層とし、厚みをガラス基板側から17.1nm及び80.6nmとした。
【0072】
(評価)
実施例2及び実施例3のカバーガラスの反射率を、実施例1と同様にして測定した。ここで、カバーガラスを、ガラス基板2の第1の主面側から見たときの遮光部及び透光部における反射率並びに、第2の主面側から見たときの遮光部及び透光部における反射率を測定した。
【0073】
図11は、実施例2及び実施例3のカバーガラスにおいて測定した、各反射率を説明するための模式的正面断面図である。
図11に示すように、カバーガラスを、ガラス基板の第1の主面側から見たときの遮光部における反射率を、反射率Xとする。カバーガラスを、ガラス基板の第2の主面側から見たときの遮光部における反射率を、反射率Yとする。カバーガラスを、ガラス基板の第1の主面側から見たときの透光部における反射率を、反射率Z1とし、第2の主面側から見たときの透光部における反射率を、反射率Z2とする。反射率Z1及び反射率Z2の平均値を、反射率Zとする。なお、実施例2及び実施例3の条件を表2に示す。
【0074】
【0075】
図12は、実施例2の、波長とカバーガラスの反射率との関係を示す図である。
図13は、実施例3の、波長とカバーガラスの反射率との関係を示す図である。
図12及び
図13に示すように、実施例2及び実施例3においても、実施例1と同様に、透光部における反射率Zは低くなっていることがわかる。
【0076】
実施例2及び実施例3においては、約400nm以上、約720nm以下の、可視光の広い領域において、遮光部における反射率Xが5%以下と低くなっている。実施例3においては、約420nm以上、約670nmにおいて、反射率Xが2%以下とより一層低い。なお、実施例2においても、約420nm以上、約670nmにおける大部分において、反射率Xが2%以下となっている。
【0077】
さらに、実施例2及び実施例3においては、約400nm以上、約760nm以下の、可視光の広い領域において、遮光部における反射率Yも5%以下と低くなっている。加えて、実施例2及び実施例3において、約450nm以上、約660nm以下において、反射率Yが2%とより一層低い。このように、実施例2及び実施例3のカバーガラスは、ガラス基板の第1の主面側及び第2の主面側から見たいずれの場合においても、遮光部の低反射性に優れることがわかる。
【符号の説明】
【0078】
1…カバーガラス
1A…遮光部
1B…透光部
2…ガラス基板
2A…第1の領域
2B…第2の領域
2a…第1の主面
2b…第2の主面
3…遮光膜
3c…クロム層
3d…窒化クロム層
3e…酸窒化クロム層
4…反射防止膜
4a…高屈折率層
4b…低屈折率層
5…筐体
5a…底部
5b…側壁
6…イメージセンサ
10…撮像装置
20…撮像装置
21…カバーガラス
23…遮光膜
23a…酸窒化クロム層
23b…窒化クロム層
23c…クロム層
23d…窒化クロム層
23e…酸窒化クロム層
24A…第1の反射防止膜
24B…第2の反射防止膜
26…鏡筒
27…レンズ
31…カバーガラス
33A…第1の遮光膜
33B…第2の遮光膜
34B…第3の反射防止膜
100…撮像装置
101…カバーガラス
103…遮光膜