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特許7384016希土類系永久磁石の製造方法、及び希土類系永久磁石の製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】希土類系永久磁石の製造方法、及び希土類系永久磁石の製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20231114BHJP
   H01F 1/057 20060101ALI20231114BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20231114BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/057 170
B22F3/00 F
B22F3/24 K
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019223067
(22)【出願日】2019-12-10
(65)【公開番号】P2021093448
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】増澤 清幸
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-078275(JP,A)
【文献】実開昭63-098768(JP,U)
【文献】特開2007-101758(JP,A)
【文献】特開平03-008463(JP,A)
【文献】特開平10-066911(JP,A)
【文献】特開2021-040010(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
H01F 1/057
B22F 3/00
B22F 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重希土類元素を磁石の表面に付着させる付着工程と、
前記重希土類元素が付着した前記磁石を加熱することにより、前記重希土類元素を前記磁石内へ拡散させる拡散工程と、
を備え、
前記付着工程に用いられる付着装置が、複数の柱状部材を有しており、
前記付着工程は、
前記重希土類元素を含む塗料を、複数の前記柱状部材其々の先端部に付着させる第一付着工程と、
前記塗料が付着した複数の前記柱状部材其々の前記先端部を、前記磁石の表面に接触させることにより、前記塗料を前記磁石の表面に付着させる第二付着工程と、
を含み、
前記塗料が、前記重希土類元素、バインダ、及び溶剤を含むペーストである、
希土類系永久磁石の製造方法。
【請求項2】
前記柱状部材は、前記柱状部材が延びる方向において伸縮し、
前記第二付着工程において、前記先端部を前記磁石の表面に接触させることにより、前記柱状部材が縮む、
請求項1に記載の希土類系永久磁石の製造方法。
【請求項3】
前記柱状部材は、弾性体を含み、
前記弾性体の弾性により、前記柱状部材は、前記柱状部材が延びる方向において弾性的に伸縮し、
前記第二付着工程において、前記先端部を前記磁石の表面に接触させることにより、前記柱状部材が縮む、
請求項1又は2に記載の希土類系永久磁石の製造方法。
【請求項4】
前記塗料が付着する前記磁石の表面の少なくとも一部が、曲面である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の希土類系永久磁石の製造方法。
【請求項5】
付着装置を備え、
前記付着装置が、複数の柱状部材を有し、
重希土類元素を含む塗料が、複数の前記柱状部材其々の先端部に付着し、
前記塗料が付着した複数の前記柱状部材其々の前記先端部を、磁石の表面に接触させることにより、前記塗料が前記磁石の表面に付着し、
前記塗料が、前記重希土類元素、バインダ、及び溶剤を含むペーストである、
希土類系永久磁石の製造装置。
【請求項6】
前記柱状部材は、前記柱状部材が延びる方向において伸縮し、
前記先端部を前記磁石の表面に接触させることにより、前記柱状部材が縮む、
請求項5に記載の希土類系永久磁石の製造装置。
【請求項7】
前記柱状部材は、弾性体を含み、
前記弾性体の弾性により、前記柱状部材は、前記柱状部材が延びる方向において弾性的に伸縮し、
前記先端部を前記磁石の表面に接触させることにより、前記柱状部材が縮む、
請求項5又は6に記載の希土類系永久磁石の製造装置。
【請求項8】
前記塗料が付着する前記磁石の表面の少なくとも一部が、曲面である、
請求項5~7のいずれか一項に記載の希土類系永久磁石の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類系永久磁石の製造方法、及び希土類系永久磁石の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類元素R(ネオジム等)と、遷移金属元素T(鉄等)と、ホウ素Bとを含有するR‐T‐B系永久磁石は、優れた磁気特性を有する。R‐T‐B系永久磁石の磁気特性を表す指標としては、一般的に、残留磁束密度Br(残留磁化)及び保磁力HcJが用いられる。
【0003】
R‐T‐B系永久磁石は、ニュークリエーション型の永久磁石である。磁化方向と反対の磁場がニュークリエーション型の永久磁石へ印加されることにより、永久磁石を構成する多数の結晶粒子(主相粒子)の粒界近傍において磁化反転の核が発生し易い。この磁化反転の核により、永久磁石の保磁力が減少する。またR‐T‐B系永久磁石の保磁力は、温度の上昇に伴って減少する。モータ又は発電機等に使用されるR‐T‐B系永久磁石には、高温の環境下においても高い保磁力を有することが要求される。
【0004】
R‐T‐B系永久磁石の保磁力を向上させるために、ジスプロシウム等の重希土類元素がR‐T‐B系永久磁石へ添加される。重希土類元素の添加により異方性磁界が向上し、磁化反転核が発生し難くなるので、保磁力が増加する。近年では、より少ない量の重希土類元素で高い保磁力を得るために、粒界拡散法が利用されている。粒界拡散法では、磁石表面から、重希土類元素を粒界に沿って拡散させる。その結果、異方性磁界が粒界近傍において局所的に大きくなり易く、磁化反転の核が粒界近傍において発生し難くなり、保磁力が増加する。
【0005】
例えば、下記特許文献1に記載のR‐T‐B系永久磁石の製造方法では、重希土類元素及び有機溶剤を含む塗料が、ノズルから磁石の表面へ面状に吹き付けられる。塗料が付着した磁石の加熱により、塗料中の重希土類元素が磁石内へ拡散する。
【0006】
下記特許文献2に記載のR‐T‐B系永久磁石の製造方法では、重希土類元素及び有機溶剤を含む塗料が、ノズルから磁石の表面へ点状又は線状に吹き付けられる。スラリーが付着した磁石の加熱により、塗料中の重希土類元素が磁石内へ拡散する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-65218号公報
【文献】特開2018-78275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
磁石の組成及び磁気特性のばらつきを抑制するためには、磁石の表面の単位面積当たりの塗料の付着量のばらつきを抑制する必要がある。磁石の表面の単位面積当たりの塗料の付着量がばらつく場合、塗料中の重希土類元素が磁石内へ均一に拡散し難い。その結果、磁石の組成及び磁気特性がばらつき、磁石の保磁力が十分に向上しない。例えば、上記特許文献1及び2に記載の方法のように、塗料がノズルから磁石の表面へ供給される場合、ノズルが塗料で詰まり易く、磁石の表面の単位面積当たりの塗料の付着量がばらつき易い。ノズルの詰まりを抑制するために塗料の粘度が低減される場合、余分な塗料がノズルから磁石の表面へ垂れ易く、また塗料が磁石の表面の所定の位置から流動し易い。したがって、塗料の粘度が低減された場合であっても、単位面積当たりの塗料の付着量がばらつきを十分に抑制することは困難である。
【0009】
本発明の目的は、重希土類元素を含む塗料を磁石の表面に付着させる工程において、磁石の表面の単位面積当たりの塗料の付着量のばらつきを抑制する希土類系永久磁石の製造方法、及び希土類系永久磁石の製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面に係る希土類系永久磁石の製造方法は、重希土類元素を磁石の表面に付着させる付着工程と、重希土類元素が付着した磁石を加熱することにより、重希土類元素を磁石内へ拡散させる拡散工程と、を備え、付着工程に用いられる付着装置が、複数の柱状部材を有しており、付着工程は、重希土類元素を含む塗料を、複数の柱状部材其々の先端部に付着させる第一付着工程と、塗料が付着した複数の柱状部材其々の先端部を、磁石の表面に接触させることにより、塗料を磁石の表面に付着させる第二付着工程と、を含む。
【0011】
柱状部材は、柱状部材が延びる方向において伸縮してよく、第二付着工程において、先端部を磁石の表面に接触させることにより、柱状部材が縮んでよい。
【0012】
柱状部材は、弾性体を含んでよく、弾性体の弾性により、柱状部材は、柱状部材が延びる方向において弾性的に伸縮してよく、第二付着工程において、先端部を磁石の表面に接触させることにより、柱状部材が縮んでよい。
【0013】
塗料が付着する磁石の表面の少なくとも一部が、曲面であってよい。
【0014】
本発明の一側面に係る希土類系永久磁石の製造装置は、付着装置を備え、付着装置が、複数の柱状部材を有し、重希土類元素を含む塗料が、複数の柱状部材其々の先端部に付着し、塗料が付着した複数の柱状部材其々の先端部を、磁石の表面に接触させることにより、塗料が磁石の表面に付着する。
【0015】
上記製造装置において、柱状部材は、柱状部材が延びる方向において伸縮してよく、先端部を磁石の表面に接触させることにより、柱状部材が縮んでよい。
【0016】
上記製造装置において、柱状部材は、弾性体を含んでよく、弾性体の弾性により、柱状部材は、柱状部材が延びる方向において弾性的に伸縮してよく、先端部を磁石の表面に接触させることにより、柱状部材が縮んでよい。
【0017】
上記製造装置において、塗料が付着する磁石の表面の少なくとも一部が、曲面であってよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、重希土類元素を含む塗料を磁石の表面に付着させる工程において、磁石の表面の単位面積当たりの塗料の付着量のばらつきを抑制する希土類系永久磁石の製造方法、及び希土類系永久磁石の製造装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る希土類系永久磁石の製造装置に備わる付着装置の斜視図である。
図2図2は、図1に示される付着装置に備わる柱状部材の内部構造を示す模式図である。
図3図3は、塗料が付着する前の板状の磁石の斜視図である。
図4図4中の(a)は、塗料が付着する前のアークセグメント型の磁石の斜視図であり、図4中の(b)は、図4中の(a)中に示される磁石の断面図である。
図5図5中の(a)、図5中の(b)、図5中の(c)及び図5中の(d)は、第一付着工程に用いられる塗料の供給手段の概要を示す。
図6図6中の(a)、図6中の(b)、及び図6中の(c)は、第一付着工程の概要を示す。
図7図7中の(a)、図7中の(b)、及び図7中の(c)は、図3に示される板状の磁石を用いた第二付着工程の概要を示す。
図8図8中の(a)、図8中の(b)、及び図8中の(c)は、図4中の(a)及び(b)に示されるアークセグメント型の磁石を用いた第二付着工程の概要を示す。
図9図9中の(a)は、塗料が付着した板状の磁石の表面の模式的な正面図であり、図9中の(b)は、塗料が付着した板状の磁石の表面の変更例の模式的な正面図である。
図10図10中の(a)及び図10中の(b)は、塗料が付着した板状の磁石の表面の変更例の模式的な正面図である。
図11図11中の(a)、図11中の(b)、図11中の(c)及び図11中の(d)は、柱状部材の先端部の変更例の斜視図である。
図12図12は、柱状部材の先端部の変更例の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態が説明される。図面において、同等の構成要素には同等の符号が付される。本発明は下記実施形態に限定されるものではない。以下に記載の「永久磁石」は、「希土類系永久磁石」の一種であるR‐T‐B系永久磁石を意味する。
【0021】
[原料合金の調製工程]
原料合金の調製工程では、永久磁石を構成する各元素を含む金属原料から、合金材が作製される。原料合金は、ストリップキャスティング法、ブックモールド法、又は遠心鋳造法によって作製されてよい。金属原料は、例えば、希土類元素の単体(金属単体)、希土類元素を含む合金、純鉄、フェロボロン、又はこれらを含む合金であってよい。これらの金属原料は、所望の永久磁石の組成に略一致するように秤量される。原料合金として、組成が異なる二種以上の合金が作製されてもよい。
【0022】
原料合金は、少なくとも希土類元素R、遷移金属元素T、及びホウ素(B)を含む。
【0023】
原料合金に含まれる少なくとも一部のRは、ネオジム(Nd)である。原料合金は、他のRとして、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群より選ばれる少なくとも一種を更に含んでよい。上記の希土類元素のうち、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)は、重希土類元素である。上記の希土類元素のうち重希土類元素を除く元素は、軽希土類元素である。原料合金はPrを含んでよい。原料合金はPrを含まなくてもよい。原料合金はTb及びDyのうち一方又は両方を含んでよい。原料合金はTb及びDyのうち一方又は両方を含まなくてもよい。
【0024】
原料合金に含まれる少なくとも一部の遷移金属元素Tは、鉄(Fe)である。Tは、Fe及びコバルト(Co)であってもよい。全てのTがFeであってよい。全てのTが、Fe及びCoであってよい。原料合金は、Fe及びCo以外の他の遷移金属元素を更に含んでよい。以下に記載のTは、Feのみ、又はFe及びCoを意味する。
【0025】
原料合金は、R、T及びBに加えて他の元素を更に含んでよい。例えば、原料合金は、他の元素として、銅(Cu)、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、マンガン(Mn)、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)、カルシウム(Ca)、ニッケル(Ni)、ケイ素(Si)、塩素(Cl)、硫黄(S)及びフッ素(F)からなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでもよい。
【0026】
[粉砕工程]
粉砕工程では、上記の原料合金を非酸化的雰囲気中で粉砕することにより、合金粉末が調製されてよい。原料合金は、粗粉砕工程(cоarse pulverizatiоn step)及び微粉砕工程(fine pulverizatiоn step)の二段階で粉砕されてよい。粗粉砕工程では、例えば、スタンプミル、ジョークラッシャー、又はブラウンミル等の粉砕方法が用いられてよい。粗粉砕工程は、不活性ガス雰囲気中で行われてよい。水素を原料合金へ吸蔵させた後、原料合金が粉砕されてよい。つまり、粗粉砕工程として水素吸蔵粉砕が行われてもよい。粗粉砕工程においては、原料合金は、その粒径が数百μm程度となるまで粉砕されてよい。粗粉砕工程に続く微粉砕工程では、粗粉砕工程を経た原料合金は、その平均粒径が数μmとなるまで更に粉砕されてよい。微粉砕工程では、例えば、ジェットミルが用いられてよい。原料合金は、一段階の粉砕工程のみによって粉砕されてもよい。例えば、微粉砕工程のみが行われてもよい。複数種の原料合金が用いられる場合、各原料合金が別々に粉砕された後、各原料合金が混合されてもよい。合金粉末は、脂肪酸、脂肪酸エステル及び脂肪酸の金属塩(金属石鹸)からなる群より選ばれる少なくとも一種の潤滑剤(粉砕助剤)を含んでいてよい。換言すれば、原料合金は粉砕助剤と共に粉砕されてよい。
【0027】
[成形工程]
成形工程では、上記の合金粉末を磁場中で成形することにより、磁場に沿って配向した合金粉末を含む成形体が得られてよい。例えば、金型内の合金粉末に磁場を印加しながら、合金粉末を金型で加圧することにより、成形体が得られてよい。金型が合金粉末に及ぼす圧力は、20MPa以上300MPa以下であってよい。合金粉末に印加される磁場の強さは、950kA/m以上1600kA/m以下であってよい。
【0028】
[焼結工程]
焼結工程(sintering step)では、上述の成形体を真空又は不活性ガス雰囲気中で焼結することにより、焼結体が得られてよい。焼結条件は、目的とする永久磁石の組成、原料合金の粉砕方法及び粒度等に応じて、適宜設定されてよい。焼結温度は、例えば、1000℃以上1200℃以下であってよい。焼結時間は、1時間以上20時間以下であってよい。
【0029】
[時効処理工程]
時効処理工程(aging step)では、焼結体が焼結温度よりも低温で加熱されてよい。時効処理工程では、焼結体が真空又は不活性ガス雰囲気中で加熱されてよい。後述される拡散工程が時効処理工程を兼ねていてよい。その場合、拡散工程とは別の時効処理工程は実施されなくてよい。時効処理工程は、第一時効処理と、第一時効処理に続く第二時効処理とから構成されていてよい。第一時効処理は、焼結体が700℃以上900℃以下の温度で加熱されてよい。第一時効処理の時間は、1時間以上10時間以下であってよい。第二時効処理では、焼結体が500℃以上700℃以下の温度で加熱されてよい。第二時効処理の時間は、1時間以上10時間以下であってよい。
【0030】
以上の工程により、焼結体が得られる。焼結体は、後述される付着工程及び拡散工程に用いられる磁石である。以下では、永久磁石の完成品との区別のために、付着工程及び拡散工程に用いられる磁石(焼結体)が、「磁石基材」と表記される。磁石基材は、互いに焼結された複数の主相粒子を備える。主相粒子は、少なくともNd、Fe及びBを含む。主相粒子は、R14Bの結晶を含んでよく、少なくとも一部のRがNdであってよく、少なくとも一部のTがFeであってよい。主相粒子の一部又は全体は、R14Bの結晶(単結晶又は多結晶)のみからなっていてよい。R14Bは、例えば、NdFe14Bであってよい。NdFe14B中のNdの一部が、Pr、Tb及びDyのうち少なくとも一種で置換されていてよい。NdFe14B中のFeの一部が、Coで置換されていてよい。主相粒子は、R、T及びBに加えて上記の元素(原料合金に含まれ得る元素)を含んでもよい。磁石基材は、主相粒子の間に形成された粒界を備える。磁石基材は、粒界として複数の粒界三重点を備える。粒界三重点とは、少なくとも三つの主相粒子に囲まれた粒界である。磁石基材は、粒界として複数の二粒子粒界も備える。二粒子粒界は、隣り合う二つの主相粒子の間に位置する粒界である。粒界は、少なくともNdを含んでよく、粒界中のNdの含有量は主相粒子中のNdの含有量よりも大きくてよい。つまり粒界はNd‐rich相を含んでよい。粒界は、Ndに加えて、Fe及びBのうち少なくとも一種を含んでよい。
【0031】
主相粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、例えば、1.0μm以上10.0μm以下であってよい。磁石基材における主相粒子の体積の割合の合計値は、特に限定されないが、例えば、75体積%以上100体積%未満であってよい。
【0032】
拡散工程に用いられる磁石基材は予め所定の寸法及び形状に加工されてよい。また、磁石基材の表面の清浄化を目的として、酸洗浄等の前処理が行われてよい。
【0033】
[付着工程]
本実施形態に係る永久磁石の製造方法は、上記の工程に加えて、少なくとも付着工程及び拡散工程を備える。付着工程では、重希土類元素を磁石基材の表面に付着させる。重希土類元素は、例えば、Tb及びDyのうち少なくとも一つの元素であってよい。拡散工程では、重希土類元素が付着した磁石を加熱することにより、重希土類元素を磁石基材内へ拡散させる。拡散工程の詳細は、後述される。
【0034】
本実施形態に係る永久磁石の製造装置は、付着工程に用いられる付着装置を備える。付着装置は、複数の柱状部材を有している。付着工程は、第一付着工程と、第一付着工程に続く第二付着工程を含む。第一付着工程では、重希土類元素を含む塗料が、複数の柱状部材其々の先端部に付着する。塗料は、重希土類元素、バインダ及び溶剤を含むペーストであってよい。塗料の組成の詳細は後述される。第二付着工程では、塗料が付着した複数の柱状部材其々の先端部を、磁石基材の表面に接触させることにより、塗料が磁石基材の表面に付着する。各図面を参照しながら、付着工程及び付着装置の詳細が以下に説明される。
【0035】
図1に示されるように、付着装置20は、複数の柱状部材10と、板状の固定部14と、を有している。各柱状部材10は、固定部14に固定されている。各柱状部材10の長さは、互いに等しい。図1及び図2に示されるように、各柱状部材10は、筒部11と、柱部12と、柱部12の先端に位置する先端部13と、を有している。筒部11の形状は円筒であり、柱部12の形状は円柱である。柱部12は、筒部11に嵌合している。各柱状部材10の筒部11は、固定部14を貫通している。各柱状部材10は、柱部12が筒部11から抜け落ちないような構造を有している。先端部13の端面は、半球状の凸面である。先端部13の端面が半球状の凸面である場合、磁石基材の表面の単位面積当たりの塗料の付着量のばらつきを抑制し易い。図1に示される柱状部材10の数は、5×5本である。複数の柱状部材10其々が延びる方向Dは、互いに略平行である。柱状部材10が延びる方向Dは、柱状部材10の長手方向Dと言い換えられてよい。複数の柱状部材10は、柱状部材10が延びる方向Dに垂直な平面内において、等間隔で格子状に配置されている。つまり、柱状部材10が延びる方向Dに垂直な平面に属する一つの直線が、第一直線と表され、柱状部材10が延びる方向Dに垂直な上記平面に属し、且つ第一直線と直交する直線が、第二直線と表され、平行な5本の第一直線其々の上に5本の柱状部材10が並び、平行な5本の第二直線其々の上に5本の柱状部材10が並び、第一直線上において隣り合う柱状部材10の間隔は、第二直線上において隣り合う柱状部材10の間隔と等しい。複数の柱状部材10が等間隔で配置されている場合、磁石基材の表面の単位面積当たりの塗料の付着量のばらつきを抑制し易い。柱状部材10が延びる方向Dに垂直な平面内における柱状部材10の間隔の調整により、磁石基材の表面の単位面積当たりの塗料の付着量を制御することができる。換言すれば、柱状部材10が延びる方向Dに垂直な平面内における柱状部材10の密度の調整により、磁石基材の表面の単位面積当たりの塗料の付着量を制御することができる。全ての柱状部材10其々の先端部13は、柱状部材10が延びる方向Dに垂直な同一平面に接するように配置されている。柱状部材10が付着工程に耐え得る機械的強度を有する限り、筒部11、柱部12及び先端部13其々の材質は限定されない。例えば、筒部11、柱部12及び先端部13其々は、金属からなっていてよい。
【0036】
付着装置20が複数の柱状部材10を備える限りにおいて、付着装置20の構造は、上記の構造に限定されない。例えば、柱状部材10の数及び配置は、限定されない。柱状部材10の数及び配置は、柱状部材10の太さ、磁石基材の形状、磁石基材の表面の面積、磁石基材の表面において塗料が付着する必要がある箇所、及び磁石基材の表面の単位面積当たりの塗料の付着量に応じて調整されてよい。複数の柱状部材10が互いに干渉しない限りにおいて、複数の柱状部材10其々が延びる方向Dは、互いに平行でなくてもよい。全ての柱状部材10其々の先端部13は、柱状部材10が延びる方向Dに垂直な同一平面に接するように配置されていなくてもよい。例えば、全ての柱状部材10其々の先端部13は、柱状部材10が延びる方向Dに垂直な方向に沿って広がる同一曲面(例えば、凹面又は凸面)に接するように配置されていてよい。柱状部材10の構造は、上記の構造に限定されない。後述されるように、先端部13の端面の形状は、半球状の凸面に限定されない。
【0037】
柱部12は筒部11に嵌合しているので、柱部12は柱状部材10の長手方向Dにおいて可逆的に移動する。つまり、各柱状部材10は、柱状部材10が延びる方向Dにおいて自在に伸縮することができる。したがって、第二付着工程では、全ての柱状部材10の先端部13が磁石基材の表面に確実に接触するまで、各柱状部材10が磁石基材の表面の形状に倣って縮むことができる。つまり、磁石基材の表面が平面でない場合であっても、各柱状部材10が磁石基材の表面の形状に倣って縮むので、全ての柱状部材10の先端部13が磁石基材の表面に確実に接触する。その結果、各柱状部材10の先端部13に付着した塗料が、磁石基材の表面へ確実に付着し易く、磁石基材の表面の単位面積当たりの塗料の付着量のばらつきを抑制し易い。柱状部材10の長手方向Dにおける柱部12の可動域は、磁石基材の表面の形状(例えば、磁石基材の表面の曲率)に応じて設計されてよい。
【0038】
各柱状部材10は弾性体を含んでよい。この弾性体の弾性により、柱状部材10が長手方向Dにおいて弾性的に伸縮してよい。例えば、図2に示されるように、各柱状部材10は、弾性体として、ばね15を有する。ばね15の一端は、筒部11の内側の底部に固定されており、ばね15の他端は、筒部11に挿入された柱部12の端部に固定されている。第二付着工程において、柱状部材10が磁石基材の表面に倣って弾性的に縮むことに因り、各柱状部材10の先端部13は、磁石基材の表面に対して弾性力を及ぼす。したがって、各柱状部材10が弾性体を備えない場合に比べて、各柱状部材10の先端部13が磁石基材の表面に確実に接触し易い。その結果、各柱状部材10の先端部13に付着した塗料が、磁石基材の表面へ確実に付着し易く、磁石基材の表面の単位面積当たりの塗料の付着量のばらつきを抑制し易い。弾性体は、ばね15に限定されない。例えば、弾性体はエラストマー(例えばゴム)であってもよい。弾性体はスポンジであってもよい。
【0039】
磁石基材2の形状は限定されない。例えば、図3に示されるように、磁石基材2は、厚みが均一である板であってよい。第二付着工程において塗料が付着する磁石基材2の表面2sの全体は、平面であってよい。図4中の(a)に示されるように、磁石基材2の形状は、アークセグメントであってもよい。つまり、磁石基材2は、一定の方向において湾曲した矩形の板であってよい。第二付着工程において塗料が付着する磁石基材2の表面2sの全体は、凸状の曲面であってよい。図4中の(b)に示される磁石基材2の断面は、磁石基材2が湾曲する方向に平行であり、且つ磁石基材2の表面2sに垂直である。rоは、表面2sの曲率半径である。Lоは、曲率半径rоに対応する弧の長さである。Lоは、磁石基材2が湾曲する方向における表面2sの幅と言い換えられてよい。θоは、表面2sの開き角であり、Lо/rо(単位:radian)と定義される。rは、表面2sの裏面(凹状の曲面)の曲率半径である。Lは、曲率半径rに対応する弧の長さである。Lは、磁石基材2が湾曲する方向における表面2sの裏面の幅と言い換えられてよい。θは、表面2sの裏面の開き角であり、L/r(単位:radian)と定義される。図4中の(b)では、θо及びθが一致しているが、θо及びθは一致しなくてよい。換言すれば、曲率半径rоに対応する円の中心は、曲率半径rに対応する円の中心と一致しなくてよい。第二付着工程において塗料が付着する磁石基材2の表面の数、位置及び形状は、限定されない。例えば、磁石基材2の形状が板である場合、第一付着工程及び第二付着工程を繰り返すことにより、塗料が、磁石基材2の平坦な表面2sだけではなく、磁石基材2の平坦な裏面にも付着してよい。磁石基材2の形状がアークセグメントである場合、第一付着工程及び第二付着工程を繰り返すことにより、塗料が、磁石基材2の凸状の表面2sだけではなく、磁石基材2の凹状の裏面にも付着してよい。
【0040】
磁石基材2の形状は、板又はアークセグメントに限定されない。磁石基材2の表面2sは、平面又は凸状の曲面に限定されない。例えば、磁石基材2の表面2sは、凹状の曲面であってもよい。磁石基材2の表面2sの一部分のみが曲面であってもよく、他の部分が平面であってもよい、磁石基材2の表面2sの一部分が、凹部及び凸部のうち少なくともいずれかの形状を有していてもよい。
【0041】
図5中の(a)、図5中の(b)、図5中の(c)、図5中の(d)、図6中の(a)、図6中の(b)及び図6中の(c)は、第一付着工程の概要を示す。永久磁石の製造装置は、柱状部材10其々の先端部13へ塗料4を供給する手段を備えてよい。例えば、先端部13へ塗料4を供給する手段として、凹版6が用いられる。凹版6の表面6sに形成された凹部6aの形状及び寸法は、磁石基材2の表面2sの形状及び寸法に対応している。図5中の(a)及び図5中の(b)に示されるように、インキプレート3を凹版6の表面6sに沿って移動させることにより、塗料4が凹版6の凹部6a内へ充填される。図5中の(c)及び図5中の(d)に示されるように、塗料4が凹版6の凹部6a内へ充填された後、凹版6の表面6sのうち凹部6a以外の部分に付着した塗料4が、ブレード5によって除去される。凹版6は、鋼等の金属から形成されていてよい。ただし、凹版6の材質は限定されない。
【0042】
ブレード5によって凹版6の表面6sから回収された塗料4は、再利用されてよい。塗料4は高価な重希土類元素を含む。したがって、第一付着工程において余分な塗料4を回収及び再利用することにより、永久磁石の製造コストが低減される。インクジェット法又はスプレー法によって塗料4が磁石基材2の表面2sへ直接供給される場合、磁石基材2の表面2sに付着しなかった塗料4を回収して再利用することは困難である。
【0043】
図6中の(a)に示されるように、第一付着工程では、各柱状部材10の先端部13が、凹版6の凹部6a内の塗料4に対面するように、付着装置20及び凹版6其々の位置が調整される。図6中の(b)に示されるように、第一付着工程では、全ての柱状部材10の先端部13を、塗料4へ押し当てる。その結果、図6中の(c)に示されるように、塗料4が、全ての柱状部材10の先端部13に付着する。第一付着工程では、各柱状部材10が少し縮む程度に、各柱状部材10の先端部13を凹部6aの底へ押し当てることが好ましい。先端部13を凹部6aの底へ押し当てることなく、先端部13を塗料4のみへ押し当てる場合、柱状部材10の長さのばらつき等に因り、各柱状部材10の先端部13に付着する塗料4の量がばらつくことがある。一方、各柱状部材10の先端部13を凹部6aの底へ押し当てる場合、各柱状部材10の先端部13に付着する塗料4の量がばらつき難い。各柱状部材10の先端部13を凹部6aの底へ押し当てる場合、凹部6aの深さの変更により、各柱状部材10の先端部13に付着する塗料4の量を所望の量へ確実に変更し易い。
【0044】
先端部13に付着する塗料4の量は、先端部13の端面の形状及び表面積、凹版6の凹部6a内における塗料4の厚み、先端部13の凹部6a内への侵入距離、先端部13が凹部6a内の塗料4へ及ぼす圧力、先端部13と塗料4との接触時間、凹版6から離れる付着装置20の上昇速度、並びに塗料4の粘度等に基づき、制御されてよい。凹部6a内における塗料4の厚みは、凹部6aの深さに基づき制御されてよい。塗料4の粘度は、塗料4の温度及び組成(例えば、塗料4中の重希土類元素、バインダ及び溶剤其々の含有量)に基づき制御されてよい。
【0045】
第一付着工程では、凹版6が固定され、付着装置20が自在に移動してよい。または、付着装置20が固定され、凹版6が自在に移動してもよい。凹版6及び付着装置20の両方が自在に移動してもよい。
【0046】
先端部13へ塗料4を供給する手段は、凹版6に限定されない。例えば、先端部13へ塗料4を供給する手段として、凸版又は平版が用いられてよい。凹版6の代わりに凸版が用いられる場合、凸版の表面に形成された凸部が、磁石基材2の表面2sの寸法及び形状に対応する所定のパターンを有してよい。塗料4を版の凸部の表面に付着させることにより、塗料4からなるパターンが形成されてよい。例えば、塗料4が凸版の凸部の表面に塗布されてよい。または、凸版の凸部の表面を、液溜めに容れられた塗料4へ接触させてもよい。凹版6の代わりに平版が用いられる場合、スクリーン印刷により、塗料4からなるパターンが平版の表面に形成されてよい。つまり、スクリーン印刷に用いるスクリーンマスクが、磁石基材2の表面2sの寸法及び形状に対応する所定のパターンを有していてよい。
【0047】
図7中の(a)、図7中の(b)及び図7中の(c)は、板状の磁石基材2を用いた第二付着工程の概要を示す。図7中の(a)に示されるように、永久磁石の製造装置は、磁石基材2を保持する保持手段7を更に有してよい。保持手段7としては、例えば、溝7aが形成された固定具が用いられる。磁石基材2が固定具の溝7aへ嵌合することにより、磁石基材2の位置が固定される。第二付着工程では、磁石基材2の表面2s(平面)が、柱状部材10の先端部13に付着した塗料4に対面するように、磁石基材2及び付着装置20其々の位置が調整される。第二付着工程では、付着装置20が固定され、磁石基材2の保持手段7が自在に移動してもよい。磁石基材2の保持手段7が固定され、付着装置20が自在に移動してもよい。付着装置20及び磁石基材2の保持手段7の両方が自在に移動してもよい。磁石基材2を保持することができる限り、保持手段7の具体的構造は限定されない。
【0048】
図7中の(b)に示されるように、第二付着工程では、塗料4が付着した各先端部13の端面を、磁石基材2の表面2sに押し当てる。その結果、各柱状部材10が縮み、全ての柱状部材10の先端部13が、塗料4を介して磁石基材2の表面2sに接触する。磁石基材2の表面2sは平面であるので、柱状部材10a、10b、10c、10d及び10e其々が同程度に縮む。図7中の(c)に示されるように、各先端部13を磁石基材2の表面2sから離すことにより、塗料4が各先端部13から磁石基材2の表面2sに付着し、塗料4からなる複数のドットが磁石基材2の表面2sに形成される。磁石基材2の表面2sから離れた各柱状部材10は、柱部12の自重又は弾性体(ばね15)の弾性に因って伸び、各柱状部材10の長さが元の長さに戻る。
【0049】
図8中の(a)、図8中の(b)及び図8中の(c)は、アークセグメント型の磁石基材2を用いた第二付着工程の概要を示す。図8中の(a)に示されるように、第二付着工程では、磁石基材2の表面2s(曲面)が、柱状部材10の先端部13に付着した塗料4に対面するように、磁石基材2及び付着装置20其々の位置が調整される。図8中の(b)に示されるように、第二付着工程では、塗料4が付着した各先端部13の端面を、磁石基材2の表面2sに押し当てる。その結果、各柱状部材10が磁石基材2の表面2sの形状に倣って縮み、全ての柱状部材10の先端部13が、塗料4を介して磁石基材2の表面2sに接触する。複数の柱状部材10のうち、中央に位置する柱状部材10cが、磁石基材2の表面2sにおいて最も突出した部分に接触する。したがって、中央に位置する柱状部材10cは、他の柱状部材10a、10b、10d及び10eよりも縮む。図8中の(c)に示されるように、各先端部13を磁石基材2の表面2sから離すことにより、塗料4が各先端部13から磁石基材2の表面2sに付着し、塗料4からなる複数のドットが磁石基材2の表面2sに形成される。磁石基材2の表面2sから離れた各柱状部材10は、柱部12の自重又は弾性体(ばね15)の弾性に因って伸び、各柱状部材10の長さが元の長さに戻る。第二付着工程では、全ての柱状部材10が縮んでよく、一部の柱状部材10のみが縮んでもよい。
【0050】
図9中の(a)は、板状の磁石基材2の平坦な表面2sにおける塗料4(ドット)の配置を示す。つまり、図7中の(a)、図7中の(b)及び図7中の(c)に示される第二付着工程により、塗料4(ドット)が図9中の(a)に示されるように配置される。図1及び図9中の(a)に示されるように、磁石基材2の表面2sにおける塗料4(ドット)の配置は、付着装置20における先端部13の配置と一致する。図9中の(a)に示されるように、塗料4からなる複数のドットは、磁石基材2の表面2sにおいて、等間隔で格子状に配置されている。つまり、磁石基材2の表面2sの一辺に平行な線分が、第一線分L1と表され、磁石基材2の表面2sにおいて第一線分L1に直交する線分が、第二線分L2と表され、平行な5本の第一線分L1其々の上に5個のドット(塗料4)が並び、平行な5本の第二線分L2其々の上に5個のドット(塗料4)が並び、第一線分L1上において隣り合うドットの間隔は、第二線分L2上において隣り合うドット(塗料4)の間隔と等しい。塗料4からなる複数のドットが等間隔で配置されている場合、磁石基材2の表面2sの単位面積当たりの塗料4の付着量のばらつきを抑制し易い。隣り合うドット(塗料4)は、互いに接していてよい。磁石基材2の表面2sの単位面積当たりの塗料4の付着量のばらつきが抑制される限りにおいて、隣り合うドット(塗料4)が一体化されていてもよい。
【0051】
後述される拡散工程(粒界拡散法)では、ドット(塗料4)中の重希土類元素が磁石基材2の表面2sから全方位に向かって拡散する。つまり、重希土類元素は、磁石基材2の表面2sに垂直な方向(深さ方向)のみならず、表面2sと平行な方向においても拡散する。例えば、磁石基材2の表面2sが平面である場合、重希土類元素は、ドット(塗料4)から磁石基材2の内部に向かって、略同心半球状に拡散する。一方で、塗料4の付着量、拡散工程の実施条件にも依るが、重希土類元素の有効な拡散距離は、最大でも例えば10mm程度までに限られる。拡散距離が限られることを考慮して、ドット(塗料4)間の距離dを設定することにより、拡散工程後の磁石基材2における重希土類元素の濃度分布をより均一にすることができる。ドット(塗料4)間の距離dは、例えば、10mm以下、5mm以下、2mm以下又は1mm以下であってよい。拡散工程後の磁石基材2における重希土類元素の濃度分布をより均一にするために、磁石基材2の端部からのドット(塗料4)の距離は、例えば、5mm以下、2.5mm以下、1mm以下又は0mmであってよい。上述の通り、単位面積当たりの塗料4の付着量を制御し、さらに重希土類元素の拡散距離を考慮してドット間の距離dを設定することにより、拡散工程後の磁石基材2の組成のばらつきが抑制され易い。
【0052】
磁石基材2の表面2sにおけるドット(塗料4)の配置は、図9中の(a)に示される配置に限定されない。磁石基材2の表面2sにおけるドット(塗料4)の配置は、磁石に要求される特性、磁石基材の寸法及び形状に応じて設計及び決定される。図9中の(b)は、板状の磁石基材2の平坦な表面2sにおける塗料4(ドット)の配置の変更例を示す。図9中の(b)に示されるように、4つのドット(塗料4)の中心に、別のドット(塗料4a)が配置されてよい。このようなドットの配置により、磁石基材2の表面2sにおけるドットの密度が高まる。つまり、磁石基材2の表面2sの単位面積当たりのドット(塗料4)の数が増加する。磁石基材2の表面2sにおけるドット(塗料4)の配置は、付着装置20における先端部13の配置と一致する。したがって、付着装置20における先端部13の配置の変更により、磁石基材2の表面2sにおけるドット(塗料4)の密度が調整されてよい。
【0053】
図8中の(a)、図8中の(b)及び図8中の(c)に示されるように、磁石基材2の表面2sが曲面(凸面)であり、且つ柱状部材10の間隔が一定である場合、磁石基材2の表面2sの端部におけるドット(塗料4)の密度は、磁石基材2の表面2sの中央におけるドット(塗料4)の密度よりも低い傾向がある。曲面におけるドット(塗料4)の密度をより均一にするために、磁石基材2の表面2sの傾斜度の変化に応じて、柱状部材10の間隔が徐々に変わってよい。ただし、磁石基材2の表面2sが曲面である場合であっても、本実施形態によれば、従来の方法(インクジェット法等)に比べて、磁石基材2の表面2sの単位面積当たりの塗料4の付着量のばらつきを抑制することができる。
【0054】
第二付着工程において磁石基材2の表面2sに付着する塗料4の量は、第一付着工程において先端部13に付着する塗料4の量に基づいて制御されてよい。第二付着工程において各先端部13から磁石基材2に付着する塗料4の量を制御するために、先端部13の端面の形状及び表面積、先端部13が磁石基材2の表面2sに及ぼす圧力、先端部13と磁石基材2との接触時間、磁石基材2から離れる付着装置20の上昇速度、及び塗料4の粘度等が制御されてよい。塗料4の粘度は、塗料4の温度及び組成に基づき制御されてよい。磁石基材2の表面2sに付着する塗料4の厚みは、乾燥後において、例えば、1μm以上200μm以下であってよい。磁石基材2の厚みは、塗料4の厚みよりもはるかに大きい。磁石基材2の厚みは、例えば、0.5mm以上25mm以下であってよい。磁石基材2の表面2sの単位面積当たりの塗料4の付着量がばらつかない限りにおいて、各柱状部材10が磁石基材2の表面2sから離れた後、塗料4の一部が先端部13に残存してもよい。
【0055】
先端部13が磁石基材2の表面2sに確実に接触し易いことから、先端部13のうち少なくとも磁石基材2の表面2sに接触する部分は、エラストマー(例えばゴム)からなっていてよい。エラストマーは、例えば、シリコーン(silicоne)ゴムであってよい。先端部13のうち少なくとも磁石基材2の表面2sに接触する部分がシリコーンゴムから形成されている場合、第二付着工程において、塗料4が先端部13から剥がれ易く、塗料4が磁石基材2の表面2sに付着し易い。先端部13のうち少なくとも磁石基材2の表面2sに接触する部分は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂からなっていてもよい。その場合、第二付着工程において、塗料4が先端部13から剥がれ易く、塗料4が磁石基材2の表面2sに付着し易い。先端部13の材質は、以下の事項に基づいて、適宜選定されてよい。
磁石基材2の形状。
第一付着工程における先端部13への塗料4の付着の容易性。
第二付着工程における先端部13から磁石基材2への塗料4の付着の容易性。
先端部13の耐久性。
先端部13から磁石基材2への塗料4の付着の容易性は、塗料4中の溶剤と先端部13の端面との親和性に依って変化するので、塗料4の性状に合わせて、先端部13の端面の材質が選定されてよい。
【0056】
本実施形態では、塗料4が付着した各柱状部材10其々の先端部13が、磁石基材2の表面2sに直接接触するので、塗料4が磁石基材2の表面2sにおける所定の位置に確実に付着する。その結果、磁石基材2の表面2sの単位面積当たりの塗料4の付着量が均一に制御される。単位面積当たりの塗料4の付着量が均一に制御されるので、拡散工程において塗料4中の重希土類元素が磁石基材2内へ均一に拡散し、永久磁石の組成及び磁気特性のばらつきが抑制され、永久磁石の保磁力が増加する。磁石基材2の表面2sの単位面積当たりの塗料4の付着量は、磁石基材2の表面2sの単位面積当たりの塗料4の質量と言い換えられてよい。
【0057】
仮に塗料4がノズルから磁石基材2の表面2sへ噴射される場合、ノズルが塗料4で詰まり易く、塗料4が磁石基材2の表面2sの所定の位置へ供給されない可能性がある。したがって、ノズルを用いる方法(例えばインクジェット法)の場合、磁石基材2の表面2sの単位面積当たりの塗料の付着量がばらつき易い。ノズルの詰まりを抑制するために塗料4の粘度が低減される場合、余分な塗料4がノズルから磁石基材2の表面2sへ垂れ易く、塗料4が磁石基材2の表面2sの所定の位置から流動し易い。特に磁石基材2の表面2sが曲面である場合、塗料4は重力に因り表面2sにおいて流動し易い。磁石基材2の表面2sに付着した塗料4が加熱により乾燥される場合であっても、温度上昇に伴って塗料4の粘度が低下し易く、乾燥中に塗料4が流動することがある。これらの理由により、塗料4の粘度が低減され、ノズルの詰まりが抑制された場合であっても、磁石基材2の表面2sの塗料4の付着量のばらつきを、ノズルを用いる方法によって抑制することは困難である。塗料4がスプレー法によって磁石基材2の表面2sへ直接噴霧される場合も、塗料4の粘度が低く、塗料4が磁石基材2の表面2sにおいて流動し易く、磁石基材2の表面2sの単位面積当たりの塗料4の付着量がばらつき易い。磁石基材2が塗料4中へ浸漬される場合も、塗料4が磁石基材2の表面2sにおいて流動し易く、磁石基材2の表面2sの単位面積当たりの塗料4の付着量がばらつき易い。
【0058】
一方、本実施形態の第二工程では、そもそもノズルが用いられないので、ノズルの詰まりに起因する上記問題が起きない。また本実施形態では、ノズルの詰まりを抑制するために塗料4の粘度を低減する必要がない。したがって、本実施形態では、塗料4の低い粘度に起因する上記問題が起き難く、第一工程に用いる塗料4の粘度を広範囲において調整することができる。さらに本実施形態によれば、適切に粘度を調整した塗料4を用いることで、磁石基材2の表面2sが曲面である場合であっても、磁石基材2の表面2sにおける塗料4の流動が抑制され、磁石基材2の表面2sの単位面積当たりの塗料4の付着量が均一に制御され、磁石基材2の表面2sにおける塗料4(ドット)の形状の変化も抑制される。
【0059】
インクジェット法では、吐出素子(空気式アクチュエータ又は電磁ソレノイド式アクチュエータ)を用いた非接触式ノズルによって、塗料4からなる微細な液滴が磁石基材2の表面2sへ直接供給される。単位時間あたりにノズルから吐出される塗料4は少ない。したがって、インクジェット法の場合、十分な量の塗料4からなる複数のドットを磁石基材2の表面2sに形成することに時間を要する。つまり、インクジェット法における塗料4の塗布速度は遅い。一方、本実施形態の第二付着工程では、塗料4からなる複数のドットが磁石基材2の表面2sにおいて瞬時に形成される。その結果、永久磁石の製造時間が短縮される。同様の目的のために、複数の付着装置20を用いて、第一付着工程及び第二付着工程が同時に並行して実施されてよい。
【0060】
インクジェット法では、塗料4の吐出量及びノズルの位置の制御のために複雑な制御機構が必要である。したがって、インクジェット法に用いる製造装置は高価である。一方、本実施形態に係る永久磁石の製造装置では、インクジェット法のような複雑な制御機構は要求されない。したがって、本実施形態に係る永久磁石の製造装置は、インクジェット法に用いる製造装置に比べて安価である。
【0061】
磁石の形状又は用途によっては、敢えて重希土類元素を磁石基材2内へ不均一に拡散させる必要がある。なぜなら、磁石の形状又は用途によっては、磁石の磁化が局所的に反転し易く、磁化が反転し易い部位では他の部位よりも高い保磁力が必要となり、磁化が反転し易い部位が多量の重希土類元素を含む必要があるからである。例えば、磁化方向における厚みが他の部位よりも小さい部位では、反磁界が局所的に強い傾向がある。その結果、磁化方向における厚みが小さい部位では、磁化反転が起き易い。また、磁石の用途によっては、外部磁場の変化に因り、渦電流が磁石内で発生する。渦電流に伴うジュール熱に因る温度上昇のため、磁石の保磁力が局所的に低下することがある。以上の理由から、重希土類元素を、磁化が反転し易い部位へ確実に拡散させ、磁石における重希土類元素の濃度分布を制御してよい。したがって、第二付着工程では、塗料4を、磁石基材2の表面2sのうち特定の部分のみに付着させてよい。つまり、磁石基材2の表面2sの特定の部分における単位面積当たりの塗料の付着量が、均一に制御されてよい。例えば、付着装置20における先端部13の配置の変更により、ドット(塗料4)が磁石基材2の表面2sの特定の部分のみに形成されてよい。その結果、拡散工程において、重希土類元素を、磁化反転が起き易い部位(減磁が起き易い部位)へ確実に拡散させることができる。例えば、図10中の(a)に示されるように、磁石基材2の表面2sの外縁に沿って、複数のドット(塗料4)が等間隔で形成されてよい。ドット(塗料4)を図10中の(a)のように配置するために、等間隔で環状に配置された複数の柱状部材10を備える付着装置20が用いられてよい。図10中の(b)に示されるように、磁石基材2の表面2sにおいて対向する一対の辺に沿って、複数のドット(塗料4)が等間隔で形成されてよい。ドット(塗料4)を図10中の(b)のように配置するためには、平行な2つの線分上において等間隔で配置された複数の柱状部材10を備える付着装置20が用いられてよい。
【0062】
第一付着工程及び第二付着工程の繰り返しによって、磁石基材2の表面2sの単位面積当たりの塗料4の付着量が制御されてよい。柱状部材10の数、構造又は配置において異なる複数の付着装置20を用いて第一付着工程及び第二付着工程を繰り返すことにより、磁石基材2の表面2sの単位面積当たりの塗料4の付着量が制御されてよい。柱状部材10の数、構造又は配置において異なる複数の付着装置20を用いて第一付着工程及び第二付着工程を繰り返すことにより、磁石基材2の表面2sの部分毎に、単位面積当たりの塗料4の付着量が変更されてよい。このような第一付着工程及び第二付着工程の繰り返しにより、重希土類元素を、磁化が反転し易い部位へ確実に拡散させ、磁石における重希土類元素の濃度分布を制御することができる。
【0063】
上述の通り、塗料4は、重希土類元素、バインダ及び溶剤を含むペーストであってよい。以下に記載の「拡散材」とは、少なくとも重希土類元素を含む化学物質を意味する。拡散材は、粒子又は粉末であってよい。拡散材の粒径は、上述された粗粉砕工程及び微粉砕工程と同様の手段によって調整されてよい。拡散材のメジアン径D50は、例えば0.5μm以上15μm以下であってよい。塗料4は、以下の方法によって調製されてよい。
【0064】
バインダ及び溶剤を所定の比率で攪拌及び混合し、バインダを溶解することにより、ラッカーが調製される。バインダは、熱可塑性樹脂であってよい。バインダは、例えば、エチルセルロース樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂及びアクリル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物であってよい。複数種のバインダが用いられてよい。溶剤は、バインダが溶解する液体である限り限定されない。溶剤は有機溶剤であってよい。溶剤は、例えば、エタノール、ブタノール、オクタノール、メチルエチルケトン、キシレン、ブチルカルビトール、ターピネオール、及びジヒドロターピネオールならなる一種の化合物であってよい。複数種の溶剤が用いられてよい。拡散材をラッカーへ添加した後、これらが混合される。必要に応じて、可塑剤及び分散剤の一方又は両方がラッカーへ更に添加されてよい。続いて拡散材及びラッカーの混合物の分散処理が行われる。分散処理の手段は、自転公転ミキサー、三本ロール、高圧ホモジナイザー、又は超音波ホモジナイザーであってよい。複数の手段を用いて、分散処理が行われてよい。
【0065】
拡散材は、例えば、重希土類元素の単体、重希土類元素を含む合金、又は重希土類元素を含む化合物であってよい。重希土類元素を含む化合物は、例えば、水素化物、フッ化物及び酸化物からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。重希土類元素の単体は、Tbの単体、及びDyの単体のうち一方又は両方であってよい。重希土類元素を含む合金は、Tb及びFeからなる合金、Dy及びFeからなる合金、及び、TbとDyとFeとからなる合金からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。重希土類元素の水素化物は、例えば、TbH、TbH、Tb及びFeからなる合金の水素化物、DyH、DyH、Dy及びFeからなる合金の水素化物、及び、TbとDyとFeとからなる合金の水素化物からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。拡散材は、Nd、Pr及びCuからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を更に含んでよい。例えば、拡散材は、Ndの単体、Prの単体、Nd及びPrを含む合金、NdH、NdH、PrH、PrH、Nd及びPrを含む合金の水素化物、Cuの単体、Cuを含む合金、CuH、CuO及びCuOからなる群より選ばれる少なくとも一種を更に含んでよい。
【0066】
以上の方法により、拡散材、バインダ及び溶剤を含む塗料4が調製される。塗料4中の拡散材の含有量は、磁石基材2の厚み、永久磁石の設計上の組成、塗料4の所望の粘度、柱状部材10の先端部13への塗料4の付着性、磁石基材2への塗料4の付着性を考慮して、適宜調整されてよい。塗料4中のバインダの含有量は、塗料4の所望の粘度、塗料4を乾燥して得られる塗膜の磁石基材2への付着強度を考慮して、適宜調整されてよい。塗料4の濾過により、粗大粒及び凝集物が塗料4から除去されてよい。塗料4中の拡散材の含有量は、例えば、40質量%以上85質量%以下であってよい。塗料4中のバインダの含有量は、例えば、1質量%以上15質量%以下であってよい。塗料4中の溶剤の含有量は、例えば、10質量%以上59質量%以下であってよい。
【0067】
永久磁石の製造方法は、付着工程の後、拡散工程の前に、磁石基材2に付着した塗料4に含まれる溶剤の少なくとも一部を除去するための乾燥工程を更に備えてよい。複数回の付着工程が繰り返される場合、一回の付着工程毎に乾燥工程が行われてよい。複数回の付着工程の後に一回の乾燥工程が行われてもよい。
【0068】
[拡散工程]
拡散工程では、重希土類元素(拡散材)を含む塗料4が付着した磁石基材2が加熱される。拡散工程における塗料4及び磁石基材2の加熱により、塗料4中の重希土類元素が磁石基材2の表面から磁石基材2の内部へ拡散する。磁石基材2の内部では、重希土類元素が、粒界を介して主相粒子の表面近傍へ拡散する。主相粒子の表面近傍において、一部の軽希土類元素(Nd等)が重希土類元素で置換される。重希土類元素が主相粒子の表面近傍及び粒界に局在することにより、異方性磁界が粒界の近傍において局所的に大きくなり、磁化反転の核が粒界の近傍において発生し難くなる。その結果、永久磁石の保磁力が増加する。
【0069】
拡散工程では、塗料4及び磁石基材2が、真空中又は不活性ガス中で加熱されてよい。不活性ガスは、アルゴン(Ar)等の希ガスであってよい。拡散工程では、800℃以上950℃以下である温度(拡散温度)で、塗料4及び磁石基材2が加熱されてよい。塗料4及び磁石基材2が上記拡散温度で加熱される時間は、1時間以上50時間以下であってよい。上記拡散温度において塗料4及び磁石基材2を加熱する前に、拡散温度よりも低温で塗料4を加熱することにより、塗料4中のバインダを焼失させてよい。つまり拡散工程の前段階として、脱バインダ処理が行われてよい。
【0070】
[熱処理工程]
拡散工程を経た磁石基材2は、永久磁石の完成品として用いられてよい。拡散工程の後、熱処理工程が行われてもよい。熱処理工程では、磁石基材2が真空又は不活性ガス雰囲気中で加熱されてよい。熱処理工程では、磁石基材2が450℃以上600℃以下で加熱されてよい。熱処理工程では、1時間以上10時間以下の間、磁石基材2が上記の温度で加熱されてよい。熱処理工程により、永久磁石の磁気特性(特に保磁力)が向上し易い。
【0071】
拡散工程又は熱処理工程の後、切削及び研磨等の加工方法により磁石基材2の寸法及び形状が調整されてよい。
【0072】
以上の方法により、永久磁石が完成される。
【0073】
磁石基材及び永久磁石其々の組成は、例えば、エネルギー分散型X線分光(EDS)法、蛍光X線(XRF)分析法、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法、不活性ガス融解‐非分散型赤外線吸収法、酸素気流中燃焼‐赤外吸収法及び不活性ガス融解‐熱伝導度法等の分析方法によって特定されてよい。
【0074】
永久磁石の寸法及び形状は、永久磁石の用途に応じて様々であり、特に限定されない。永久磁石の形状は、例えば、直方体、立方体、矩形(板)、多角柱、扇、環状扇形(annular sector)、球、円板、円柱、リング、又はカプセルであってよい。永久磁石の断面の形状は、例えば、多角形、円弧(円弦)、弓状、アーチ、又は円であってよい。磁石基材2の寸法及び形状も、永久磁石と同様であってよい。
【0075】
永久磁石は、ハイブリッド自動車、電気自動車、ハードディスクドライブ、磁気共鳴画像装置(MRI)、スマートフォン、デジタルカメラ、薄型TV、スキャナー、エアコン、ヒートポンプ、冷蔵庫、掃除機、洗濯乾燥機、エレベーター及び風力発電機等の様々な分野で利用されてよい。永久磁石は、モータ、発電機又はアクチュエータを構成する材料として用いられてよい。
【0076】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、本発明の種々の変更が可能であり、これ等の変更例も本発明に含まれる。
【0077】
例えば、各柱状部材10は、柱状部材10が延びる方向Dにおいて自在に伸縮しなくてもよい。磁石基材2の表面2sが平面である場合、第二付着工程において、各柱状部材10が伸縮することなく、各柱状部材10の先端部13に付着した塗料が、磁石基材の表面へ付着することができる。ただし、磁石基材2の表面2sが平面である場合であっても、各柱状部材10は、柱状部材10が延びる方向Dにおいて自在に伸縮したほうがよい。
【0078】
先端部13の形状は、上述された形状に限定されない。先端部13の形状の変更により、第一付着工程において先端部13に付着する塗料4の量が変更されてよい。先端部13の形状の変更により、第二付着工程において磁石基材2に付着する塗料4の量が変更されてよい。例えば、図11中の(a)に示されるように、先端部13全体が円柱であってよく、先端部13の端面は、平坦な円であってよい。図11中の(b)に示されるように、先端部13全体が円柱であってよく、先端部13の端面は、凹状の曲面であってよい。図11中の(c)に示されるように、先端部13は、円柱と、円柱に連続する円錐であってよい。図11中の(d)に示されるように、4つの尖った凸部が、円柱状の先端部13に形成されていてよい。換言すれば、円柱状の先端部13の端部に、直交する2つのV字型の溝が形成されていてよい。図12に示されるように、プラス(+)型の溝に嵌合するような4つの凸部が、円柱状の先端部13に形成されていてよい。換言すれば、プラスドライバー(cross slot screwdriver)のように、4つの溝が円柱状の先端部13に形成されていてよい。先端部13全体は多角柱であってよく、先端部13の端面は多角形であってよい。例えば、先端部13の端面は、三角形(正三角形等)、四角形(正方形等)、又は六角形(正六角形等)であってよい。これらの多角形の端面において、一つ以上の溝が形成されていてもよい。
【0079】
付着工程及び拡散工程に用いられる磁石基材は、焼結体ではなく、熱間加工磁石であってよい。熱間加工磁石は、以下のような製法によって作製されてよい。
【0080】
熱間加工磁石の原料は、焼結体の作製に用いられる原料合金と同様の合金であってよい。この合金を溶融し、更に急冷することにより、合金からなる薄帯が得られる。薄帯の粉砕により、フレーク状の合金粉末が得られる。合金粉末の冷間プレス(室温での成形)により、成形体が得られる。成形体の予熱後、成形体の熱間プレスにより、等方性磁石が得られる。等方性磁石の熱間塑性加工により、異方性磁石が得られる。異方性磁石の時効処理により、熱間加工磁石からなる磁石基材が得られる。熱間加工磁石からなる磁石基材は、上記の焼結体と同様に、互いに結着された多数の主相粒子を含む。
【0081】
希土類系永久磁石は、R‐T‐B系永久磁石に限定されない。希土類系永久磁石(又は磁石基材)は、例えば、サマリウムコバルト磁石、又はプラセオジム磁石であってもよい。希土類系永久磁石(又は磁石基材)の主相は、例えば、SmCo,SmCo17,又はPrCoであってよい。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明に係る希土類系永久磁石の製造方法によれば、例えば、ハイブリッド車又は電気自動車に搭載されるモータ又は発電機へ適用される希土類系永久磁石が得られる。
【符号の説明】
【0083】
2…磁石基材(磁石)、2s…磁石基材(磁石)の表面、3…インキプレート、4,4a…重希土類元素を含む塗料、5…ブレード、6…凹版、6a…凹版の凹部、6s…凹版の表面、7…磁石基材の保持手段(固定具)、7a…保持手段(固定具)の溝、10,10a,10b,10c,10d,10e…柱状部材、11…筒部、12…柱部、13…先端部、14…固定部、20…付着装置、D…柱状部材が延びる方向(柱状部材の長手方向)、L1…第一線分、L2…第二線分。

図1
図2
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図12