IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】積層フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20231114BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20231114BHJP
   C09D 167/00 20060101ALI20231114BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20231114BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20231114BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20231114BHJP
   C09D 1/00 20060101ALI20231114BHJP
   B28B 1/30 20060101ALI20231114BHJP
   C08J 7/04 20200101ALI20231114BHJP
【FI】
B32B27/36
B32B27/00 L
C09D167/00
C09D133/00
C09D175/04
C09D7/65
C09D1/00
B28B1/30 101
C08J7/04 Z CER
C08J7/04 CEZ
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019536328
(86)(22)【出願日】2019-07-01
(86)【国際出願番号】 JP2019026059
(87)【国際公開番号】W WO2020017289
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2018133897
(32)【優先日】2018-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018164177
(32)【優先日】2018-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018242783
(32)【優先日】2018-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】青野 春樹
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】澤本 恵子
(72)【発明者】
【氏名】阿部 悠
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-144046(JP,A)
【文献】特開2015-139925(JP,A)
【文献】特開2009-138101(JP,A)
【文献】特開2012-021201(JP,A)
【文献】特開2015-164797(JP,A)
【文献】特開2009-231031(JP,A)
【文献】国際公開第2016/136759(WO,A1)
【文献】特開2007-137940(JP,A)
【文献】特開2003-191384(JP,A)
【文献】特開2017-144713(JP,A)
【文献】特開平09-324172(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00- 43/00
B05D 1/00- 7/26
C09D 1/00- 10/00,
101/00-201/10
B28B 1/00- 1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、樹脂層を有する積層フィルムであり、前記樹脂層が少なくとも一方の表層にあり、前記樹脂層の水接触角が85°以上100°以下であり、前記積層フィルムのヘイズをH1(%)、前記積層フィルムを溶媒浸漬・擦過試験した後のヘイズをH2(%)とした際、|H2-H1|≦1.0(%)であり、
前記樹脂層が、離型剤(A)と、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物から選ばれる少なくとも1種類の架橋剤(B)と、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1種類の樹脂(C)を含有する塗料組成物から形成され、
前記離型剤(A)が、炭素数12以上25以下のアルキル基を有する樹脂を含み、
前記塗料組成物が、前記架橋剤(B)と前記樹脂(C)の合計を100質量部とした時、前記離型剤(A)を5~50質量部含有し、
前記塗料組成物における、前記架橋剤(B)と前記樹脂(C)の質量比が2/98~50/50の範囲である積層フィルム。
<溶媒浸漬・擦過試験>
前記積層フィルムをメチルエチルケトンに10分間浸漬させた後、学振型摩擦試験機を用いて、前記樹脂層の表面を綿布(小津産業(株)製、ハイゼガーゼNT-4)により荷重1kgで10往復擦過させる。
【請求項2】
飛行時間型2次イオン質量分析により前記樹脂層の表面を分析した際、最大強度で検出されるフラグメントのピーク強度(K)に対する、ジメチルシロキサンに由来するフラグメントのピーク強度(P)の比(P/K)[-]が0.01未満である請求項1に記載の積層フィルム
【請求項3】
前記炭素数12以上25以下のアルキル基を有する樹脂が、ポリメチレンの主鎖に炭素数12以上25以下のアルキル基の側鎖を有する樹脂である請求項1または2に記載の積層フィルム
【請求項4】
前記塗料組成物が、式(1)の構造を有する化合物(X)を含む請求項1~3のいずれかに記載の積層フィルム。
-(CH-CH-O)- 式(1)
(ここでnは3以上の整数を表す)
【請求項5】
前記化合物(X)の重量平均分子量が1000以上20000以下である請求項に記載の積層フィルム。
【請求項6】
前記塗料組成物が、離型剤(A)を100質量部とした際、化合物(X)を15~100質量部含有する請求項またはに記載の積層フィルム。
【請求項7】
前記樹脂層の膜厚が10nmより大きく80nm未満である請求項1~のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項8】
前記樹脂層の表面自由エネルギーが20mN/m以上30mN/m以下である請求項1~のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項9】
前記樹脂層の表面に、セラミックスラリーを塗布し、固化させた後、剥離する用途に用いられる請求項1~のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項10】
前記セラミックスラリーが、フェライトを含む請求項に記載の積層フィルム。
【請求項11】
結晶配向が完了する前のポリエステルフィルムの少なくとも片面に、離型剤(A)を含有する塗料組成物を塗布した後、少なくとも一軸方向に延伸し、次いで熱処理を施して、該ポリエステルフィルムの結晶配向を完了させる工程を含む請求項1~10のいずれかに記載の積層フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に樹脂層を有する積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
二軸延伸ポリエステルフィルムは、機械的性質、電気的性質、寸法安定性、透明性、耐薬品性などに優れた性質を有することから磁気記録材料、包装材料などの多くの用途において基材フィルムとして広く使用されている。特に近年、粘着製品における粘着材層の保護フィルムや、各種工業製品の加工工程におけるキャリアフィルムとして、離型性に優れたフィルムの需要が高まっている。離型性に優れるフィルムとしては、工業的な生産性や耐熱性の点から、シリコーン化合物を樹脂層に含有せしめたフィルムが最も一般的に使用されている(例えば特許文献1参照)。しかし、シリコーン化合物を樹脂層に含有せしめる場合、樹脂層の表面自由エネルギーが低くなるため、被着体の塗布性が不良となる場合がある。
【0003】
特に、樹脂層を有するポリエステルフィルムを積層インダクタ素子の製造に用いられる工程フィルムとして用いる場合、ポリエステルフィルムの樹脂層上にセラミックスラリーを作製した後、このグリーンシートに、導体ペーストを用いて、スクリーン印刷などによりコイルパターンを形成したのち、該セラミックグリーンシートをポリエステルフィルムから剥離するという工程を経る。このとき、樹脂層にシリコーン化合物を含有すると、樹脂層にセラミックスラリーを塗布する際、シリコーン化合物がハジキ、あるいはピンホールの発生といった問題を引き起こす場合がある。また塗工上、大きな問題が発生しない場合でもシリコーン化合物が製品側に移行、徐々に気化し、電子部品の電気接点部付近で発生するアーク等により、電気接点部の表面に堆積して導電不良を起こすなど、その性能に悪影響を与えることが課題となっている。
【0004】
このような課題に対して、シリコーン化合物を含まない離型剤(以下、非シリコーン離型剤と記載する)として、長鎖アルキル基含有樹脂、オレフィン樹脂、フッ素化合物、ワックス系化合物、中でも長鎖アルキル基含有樹脂を用いる検討が行われている(例えば特許文献2~5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-155459号公報
【文献】特開2004-351626号公報
【文献】特開2014-151481号公報
【文献】特開2004-230772号公報
【文献】特開2015-199329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非シリコーン離型剤はシリコーン化合物を含有する離型剤に比べて、剥離するために大きな力が必要になりやすい(以降、剥離するために大きな力が必要になることを重剥離化という)という課題がある。例えば、特許文献2に記載の非シリコーン離型剤を含有する樹脂層を有するフィルムについて、本発明者らが検証したところ、当該フィルムの樹脂層表面にセラミックスラリーを塗布したところ、樹脂層中にセラミックスラリーが浸透し、セラミックスラリーの剥離力が重剥離化することが判った。また、特許文献3や4に記載のフィルムのように、樹脂層に用いる離型剤として長鎖アルキル基含有樹脂と架橋剤を併用する方法であっても使用する架橋剤や加工条件によっては、樹脂層の架橋度が十分高くならず、樹脂層上に設けたセラミックスラリーに対する剥離力が重剥離化するという課題を有していることを確認した。一方、特許文献5のように、樹脂層に用いる離型剤として長鎖アルキルアクリレート樹脂とメラミン樹脂を併用する方法では、樹脂層を高架橋にすることはできるものの、樹脂層の表面自由エネルギーが高くなりすぎてしまうため、十分な離型性を付与することができず、セラミックスラリーに対する剥離が困難になるという課題があることが判った。また、長鎖アルキル基含有樹脂は強い疎水性を有し、その水分散体は不安定で凝集しやすいことから、樹脂層中に凝集物が含まれやすくなる傾向があり、凝集物による粗大突起が塗布によって設けられる層に転写する結果、塗布によって設けられる層の表面粗さが大きくなる場合があった。そのため、樹脂層を有するポリエステルフィルムを、例えば積層インダクタ素子の製造に用いられる工程フィルムとして用いる際、積層インダクタ素子に導電不良が生じやすくなる課題があった。
【0007】
そこで、本発明では上記欠点を解消し、セラミックスラリーに代表される塗布によって設けられる層を形成する塗料組成物の塗布性、及び塗布によって設けられる層の剥離性に優れ、特に樹脂層中の凝集物が少なく、転写性や平滑性に優れた積層フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、特定の物理特性を有する積層フィルムを用いることにより、当該積層フィルム上に、セラミックスラリーに代表される塗布によって設けられる層を形成する塗料組成物の塗布性、及び塗布によって設けられる層の剥離性に優れた積層フィルムとなし得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明は次の構成からなる。すなわち、
[I]ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、樹脂層を有する積層フィルムであり、前記樹脂層が少なくとも一方の表層にあり、前記樹脂層の水接触角が85°以上100°以下であり、前記積層フィルムのヘイズをH1(%)、前記積層フィルムを溶媒浸漬・擦過試験した後のヘイズをH2(%)とした際、|H2-H1|≦1.0(%)である積層フィルム、
[II]飛行時間型2次イオン質量分析により前記樹脂層の表面を分析した際、最大強度で検出されるフラグメントのピーク強度(K)に対する、ジメチルシロキサンに由来するフラグメントのピーク強度(P)の比(P/K)[-]が0.01未満である[I]に記載の積層フィルム、
[III]前記樹脂層が、離型剤(A)と、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物から選ばれる少なくとも1種類の架橋剤(B)と、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1種類の樹脂(C)を含有する塗料組成物から形成される[I]または[II]記載の積層フィルム、
[IV]前記離型剤(A)が、炭素数12以上のアルキル基を有する樹脂を含む[III]に記載の積層フィルム、
[V]前記炭素数12以上のアルキル基を有する樹脂が、ポリメチレンの主鎖に、炭素数12以上のアルキル基の側鎖を有する樹脂である[IV]に記載の積層フィルム、
[VI]前記塗料組成物が、架橋剤(B)と樹脂(C)の合計100質量部に対して離型剤(A)を5~50部含有する[III]~[V]のいずれかに記載の積層フィルム、
[VII]前記塗料組成物における、架橋剤(B)と樹脂(C)の質量比が5/95~50/50の範囲である[III]~[VI]のいずれかに記載の積層フィルム、
[VIII]前記塗料組成物が、式(1)の構造を有する化合物(X)を含む[III]~「VII」のいずれかに記載の積層フィルム、
[IX]前記化合物(X)の重量平均分子量が1000以上20000以下である[VIII]に記載の積層フィルム、
[X]前記塗料組成物が、離型剤(A)を100質量部とした際、化合物(X)を15~100質量部含有する[VIII]または[IX]に記載の積層フィルム、
[XI]前記樹脂層の膜厚が10nmより大きく80nm未満である[I]~[X]のいずれかに記載の積層フィルム、
[XII]前記樹脂層の表面自由エネルギーが20mN/m以上30mN/m以下である[I]~[XI]のいずれかに記載の積層フィルム、
[XIII]前記樹脂層の表面に、セラミックスラリーを塗布し、固化させた後、剥離する用途に用いられる[I]~[XII]のいずれかに記載の積層フィルム、
[XIV]前記セラミックスラリーが、フェライトを含む[XIII]に記載の積層フィルム、
[XV]結晶配向が完了する前のポリエステルフィルムの少なくとも片面に、離型剤(A)を含有する塗料組成物を塗布した後、少なくとも一軸方向に延伸し、次いで熱処理を施して、該ポリエステルフィルムの結晶配向を完了させる工程を含む[I]~[XIV]のいずれかに記載の積層フィルムの製造方法、
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、本発明の積層フィルムの樹脂層上にセラミックスラリーに代表される塗布によって設けられる層を形成する塗料組成物の塗布性、及び塗布によって設けられる層の剥離性に優れ、樹脂層中の凝集物が少なく、転写性や平滑性に優れた積層フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の積層フィルムは、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、樹脂層を有する積層フィルムであり、前記樹脂層が少なくとも一方の表層にあり、前記樹脂層の水接触角が85°以上100°以下であり、前記積層フィルムのヘイズをH1(%)、前記積層フィルムを溶媒浸漬・擦過試験した後のヘイズをH2(%)とした際、|H2-H1|≦1.0(%)である積層フィルムである。初めにこれらの物理特性の意味と制御方法の例について説明する。
【0012】
本発明において水接触角とは、JIS R3257:1999年に記載の静滴法にて求められるものである。固体表面上に水滴を乗せ、その雰囲気下で平衡になっているとき、下式により求めることができる値であり、一般には、その固体表面の塗れ性を判断する指標となるものである。すなわち、水接触角の値が小さいほど前記固体表面は塗れ性が良好、値が大きいほど塗れ性が不良であることを表す。
【0013】
γS = γLcosθ + γSL
(上記式において、γSは固体の表面張力、γLは液体の表面張力、γSLは固体/液体の界面張力、θは接触角を示す)。
【0014】
上記の式を「ヤングの式」と言い、液体表面と固体表面のなす角度を「接触角」と定義している。水接触角は、広く市販されている装置により測定することができ、例えば、Contact Angle Meter(協和界面科学社製)により測定することができる。具体的な水接触角の数値範囲、及び測定方法については後述する。
【0015】
本発明においてヘイズとは、JIS K7136:2000年に記載の方法で測定することができるものである。一般には光学部材の透明性や隠ぺい性の指標として用いられるが、本発明者らが鋭意検討した結果、擦過前後の微細なキズや層の剥離の度合いを評価する指標として用いることができることが判った。
【0016】
本発明の積層フィルムは、初期のヘイズをH1(%)、前記積層フィルムを溶媒浸漬・擦過試験した後のヘイズをH2(%)とした際、|H2-H1|を1.0%以下に制御することで、塗布などによって樹脂層上に設けられる層(以降、本発明の積層フィルムの樹脂層の表面に塗布などによって設けられる層を表面層と称する場合がある)を形成する塗料組成物の塗布性及び剥離性を両立することができる。
<溶媒浸漬・擦過試験>
前記積層フィルムをメチルエチルケトンに10分間浸漬させた後、学振型摩擦試験機を用いて、前記樹脂層の表面を綿布(小津産業(株)製、ハイゼガーゼNT-4)により荷重1kgで10往復擦過させる。
【0017】
前述したとおり、樹脂層を有するポリエステルフィルムは、各種工業製品の加工工程におけるキャリアフィルムとして用いられる場合がある。このとき、例えば、樹脂層を有するポリエステルフィルムを積層インダクタ素子の製造に用いられる工程フィルムとして用いる場合は、ポリエステルフィルムの樹脂層上にセラミックスラリーを作製した後、このグリーンシートに、導体ペーストを用いて、スクリーン印刷などによりコイルパターンを形成したのち、該セラミックグリーンシートをポリエステルフィルムから剥離するという工程を経る。積層フィルムの樹脂層に、表面層を形成するセラミックスラリーなどを塗布すると、セラミックスラリー中の成分が樹脂層へ浸透する場合がある。上記の溶媒浸漬・擦過試験において、積層フィルムをメチルエチルケトンに10分間浸漬させることは、樹脂層にセラミックスラリーを塗布した際、セラミックスラリー中のバインダー成分が、溶媒に溶けた状態で樹脂層にどの程度浸透していくかを測る加速試験である。メチルエチルケトンは比較的分子量、分子サイズが小さい脂肪族ケトンであるため、樹脂層に浸透する性能が高い溶媒である。
【0018】
学振型摩擦試験機を用いて、前記樹脂層の表面を綿布(小津産業(株)製、ハイゼガーゼNT-4)により荷重1kgで10往復擦過させることは、樹脂層に溶媒が浸透した後、物理的な力(樹脂層-表面層に生じる界面応力に相当)によって樹脂層に剥がれが起きるかを確認する加速試験である。例えば、樹脂層中にメチルエチルケトン(セラミックスラリー中のバインダー成分に相当)が多量に浸透するほど、樹脂層に剥がれが生じることとなる。樹脂層に剥がれが生じるとヘイズが上昇するため、擦過試験によってどれだけ剥がれが生じているかは擦過試験前後のヘイズ値の差である|H2-H1|によって確認できる。すなわち溶媒浸漬・擦過試験前後のヘイズ差(|H2-H1|)が小さいということは、樹脂層への表面層成分の浸透や樹脂層-表面層に生じる界面応力による樹脂層の破壊が抑制されていることを表す。|H2-H1|を前述の範囲とすることによって本発明の積層フィルムの樹脂層上に塗布などによって表面層を形成する塗料組成物の塗布性及び剥離性を両立することができる。ここで学振型摩耗試験機とはJISL-0849(2017年)に規定されている摩擦試験機II形(学振形)に準拠した装置を指し、以下の特性を有するものである。
試験片台:金属製台で、表面半径 200mm のかまぼこ形
摩擦子:表面半径45mmの円筒状の曲面、たて約20mm、よこ約20mm
水平往復運動装置:クランク、ハンドルなどで試験片台を毎分30回往復の速度で120mmの間を水平に往復運動。
【0019】
本発明の積層フィルムの水接触角及びヘイズ差|H2-H1|を制御する方法としては、例えば後述する樹脂層を構成する成分や塗料組成物や製造方法を挙げることができる。それぞれの好ましい範囲については後述するが、課題となる機能を得る上で好ましい物理特性について、以下に説明する。
【0020】
水接触角に寄与する物理特性は最表面の構成成分と表面形状である。これに対してヘイズ差|H2-H1|に寄与する特性は、樹脂層の表面から内層までの平均的な硬度などである。一般にシリコーンまたは非シリコーンの離型剤は、低表面エネルギーであるために、樹脂層中で表面方向に偏在しやすい傾向がある。しかしながら、樹脂層中を構成する塗料組成物中に相溶性を付与する添加剤を含有させたり、樹脂層の製造方法を制御することにより、樹脂層の厚み方向に対する弾性率の変化を小さくしたり、または厚み方向の構成材料の分布が均一になるよう制御すると、ヘイズ差|H2-H1|は小さくすることができ、剥離力や塗工性を良好にすることができる。厚み方向の弾性率分布については、例えば原子間力顕微鏡法(Atomic Force Microscopy)を、厚み方向の構成材料の分布については例えば飛行時間型2次イオン質量分析(GCIB-TOF-SIMS)を用いて評価することができる。
【0021】
以下、水接触角及びヘイズ差|H2-H1|の具体的な数値範囲について記載する。本発明の積層フィルムの樹脂層は、水接触角が85°以上100°以下であることが必要である。本発明の積層フィルムにおいて、樹脂層の水接触角を85°以上とすることで、積層フィルムに良好な離型性を付与することができる。樹脂層の水接触角が85°未満である場合、離型性が不良となり、例えば樹脂層にセラミックスラリーを塗布し、固化させた後、剥離しようとする際、セラミックスラリーの剥離力が重剥離化する。
【0022】
また、本発明の積層フィルムにおいて、樹脂層の水接触角を100°以下とすることで、セラミックスラリーの塗布性を良好なものとすることができ、樹脂層上に設けられたセラミックスラリーが樹脂層から自然剥離するのも防ぐことができる。樹脂層の水接触角が100°より大きい場合、セラミックスラリーをハジキやピンホールといった欠点なく塗布することが困難になる上、セラミックスラリーの一部が樹脂層から脱落するなど品位の低下が発生する。より好ましくは92°以上100°以下である。
【0023】
一方、本発明の積層フィルムは、積層フィルムのヘイズをH1(%)、前記積層フィルムを溶媒浸漬・擦過試験した後のヘイズをH2(%)とした際、|H2-H1|≦1.0(%)であることが必要である。より好ましくは|H2-H1|≦0.5(%)、さらに好ましくは|H2-H1|≦0.2(%)である。|H2-H1|≦1.0(%)であることは、前記樹脂層の架橋度が高く、かつ弾性率分布や構成材料の分布が小さいことを意味するため、樹脂層にセラミックスラリーを塗布した際、セラミックスラリーの樹脂層への浸透が起こりにくく、セラミックスラリーの剥離性を良好なものとすることが可能になる。|H2-H1|>1.0(%)である場合、前記樹脂層の架橋度が低いか、弾性率分布や構成材料の分布が大きいため、樹脂層の上にセラミックスラリーを塗布した際、セラミックスラリーが樹脂層に浸透し、樹脂層とセラミックスラリーの間でアンカー効果が生じる結果、セラミックスラリーの剥離性が不良となる。一方|H2-H1|の下限については特に限定されないが、実用的な測定装置においては0.02%程度である。
【0024】
以下、本発明の積層フィルムについて詳細に説明する。
<ポリエステルフィルム>
本発明の積層フィルムにおいて、基材フィルムとなるポリエステルフィルムについて詳しく説明する。ポリエステルとは、エステル結合を主鎖の主要な結合鎖とする高分子の総称であって、エチレンテレフタレート、プロピレンテレフタレート、エチレン-2,6-ナフタレート、ブチレンテレフタレート、プロピレン-2,6-ナフタレート、エチレン-α,β-ビス(2-クロロフェノキシ)エタン-4,4-ジカルボキシレートなどから選ばれた少なくとも1種の構成成分を主要構成成分とするものを好ましく用いることができる。本発明では、ポリエステルフィルムとしてポリエチレンテレフタレートを用いることが好ましい。またポリエステルフィルムに熱や収縮応力などが作用する場合には、耐熱性や剛性に優れたポリエチレン-2,6-ナフタレートが特に好ましい。
【0025】
また、このポリエステル中には、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機系易滑剤、顔料、染料、有機又は無機の粒子、充填剤、帯電防止剤、核剤などがその特性を悪化させない程度に添加されていてもよい。
【0026】
上記ポリエステルフィルムは、二軸配向されたものであるのが好ましい。二軸配向ポリエステルフィルムとは、一般に、未延伸状態のポリエステルシート又はフィルムを長手方向及び長手方向に直行する幅方向に各々2.5~5倍程度延伸し、その後、熱処理を施して、結晶配向を完了させたものであり、広角X線回折で二軸配向のパターンを示すものをいう。ポリエステルフィルムが二軸配向していない場合には、積層フィルムの熱安定性、特に寸法安定性や機械的強度が不十分であったり、平面性の悪いものとなったりする場合がある。
【0027】
また、本発明で用いられるポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルム自身が2層以上の積層構造体であってもよい。積層構造体としては、例えば、内層部と表層部と有する複合体フィルムであって、内層部に実質的に粒子を含有せず、表層部に粒子を含有させた層を設けた複合体フィルムを挙げることができ、内層部と表層部が化学的に異種のポリマーであっても同種のポリマーであってもよい。
【0028】
ポリエステルフィルムの厚みは特に限定されるものではなく、用途や種類に応じて適宜選択されるが、機械的強度、ハンドリング性などの点から、通常は好ましくは10~500μm、より好ましくは23~125μm、最も好ましくは38~75μmである。また、ポリエステルフィルムは、共押出しによる複合フィルムであってもよいし、得られたフィルムを各種の方法で貼り合わせたフィルムであっても良い。
【0029】
<樹脂層>
本発明の積層フィルムにおける樹脂層とは、前述のポリエステルフィルムの少なくとも片面に有するものである。本発明の積層フィルムの樹脂層上に粘着テープやセラミクスラリーなどを積層後、積層フィルムから後述の表面層を剥離させる工程において、剥離が容易に行われるために必要な層である。
【0030】
本発明の積層フィルムの樹脂層は、飛行時間型2次イオン質量分析(GCIB-TOF-SIMS)において、最大強度で検出されるフラグメントのピーク強度(K)に対する、ジメチルシロキサンに由来するフラグメントのピーク強度(P)の比(P/K)[-]が0.01未満であることが好ましい。測定方法の詳細は後述するが、ピーク強度の比が0.01未満である場合、樹脂層がジメチルシロキサンに由来する成分が少ないため、本発明の積層フィルムを電子部品製造用の工程フィルムとして使用した際、製品側へのシリコーン化合物(特にジメチルシロキサン)の移行がなく、導電不良などのトラブルを防ぐことができる。
【0031】
本発明の積層フィルムの樹脂層は、膜厚が10nmより大きく80nm未満であることが好ましく、30nm以上70nm以下がより好ましく、40nm以上60nm以下が特に好ましい。樹脂層の膜厚を10nmより大きく80nm未満とすることで、ポリエステルフィルム上に均一な塗布性、離型性を有する樹脂層を設けることが容易となり、樹脂層の弾性率、構成材料の分布を小さくすることができるため、|H2-H1|を小さくすることが容易となる。樹脂層の膜厚が厚すぎると、製造コストが高くなる他、樹脂層の塗布時にムラやスジが発生しやすくなり、積層フィルムの品位が低下する場合がある。一方、樹脂層の膜厚が薄すぎると、前述の樹脂層の架橋度を高める効果が得にくくなり、離型性が低下する場合がある。
【0032】
本発明の積層フィルムの溶媒浸漬・擦過試験前後におけるヘイズ変化(|H2-H1|)を1.0(%)以下にする方法としては、特に限定されることはないが、代表的な方法としては、前記樹脂層が、離型剤(A)と、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物から選ばれる少なくとも1種類の架橋剤(B)と、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1種類の樹脂(C)を含有する塗料組成物から形成する方法がある。詳細は塗料組成物の項に記載する。
【0033】
本発明の積層フィルムは、樹脂層の表面自由エネルギーが20mN/m以上30mN/m以下であることが好ましい。樹脂層の表面自由エネルギーを20mN/m以上とすることで、樹脂層の上に表面層をハジキやピンホールなく塗布することができる上に、表面層の自然剥離を抑制することができる。また、樹脂層の表面自由エネルギーを30mN/m以下とすることで、表面層の剥離力を小さくすることができる。より好ましくは25mN/m以上30mN/m以下である。
【0034】
また、本発明の積層フィルムの樹脂層は、表面自由エネルギーが20mN/m以上30mN/m以下であると、樹脂層に表面層を形成するセラミックスラリーを塗布し固化させた際に、表面層中のバインダー成分が樹脂層側に偏在させる形で相分離を起こさせることが可能となるため好ましい。表面層の相分離性の測定方法については後述する。表面層がかかる相分離を起こし表面層中のバインダー成分が一方に偏在する構成となると、表面層を本発明の積層フィルムの樹脂層から剥離し、剥離した表面層同士を複数枚重ね合わせる用途(例えば、フェライトを含むセラミックスラリーを重ね合わせての焼成など)に用いる際、該表面層同士の接着性を良好なものとすることができる。本発明の積層フィルムの樹脂層において、表面自由エネルギーを20mN/m以上30mN/m以下とする方法としては、例えば後述する樹脂層を構成する成分や塗料組成物や製造方法を挙げることができる。
【0035】
<表面層>
本発明の積層フィルムは樹脂層の上に表面層を形成し、使用されることが好ましい。ここで表面層とは積層フィルムの樹脂層を有する面の上に形成された樹脂、金属、セラミックなどを含む層状の成型体を指す。表面層の作成方法については特に限定されないが、例えば塗布、蒸着、貼合などの方法によって、樹脂層の表面に形成することができる。表面層の作成に溶媒成分を有する塗液を使用する場合、また表面層が反応性の活性部位を反応させて成る硬化層の場合には、未乾燥の状態及び未硬化の状態を含め、表面層と記載する場合がある。本発明の特に好ましい用途における表面層は、セラミックスラリーを含む塗料組成物を塗工する工程を経て形成されるセラミックシートである。
【0036】
<塗料組成物>
本発明の積層フィルムの樹脂層を形成するための好ましい塗料組成物について記載する。
【0037】
本発明の積層フィルムの樹脂層は、離型剤(A)と、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物から選ばれる少なくとも1種類の架橋剤(B)と、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1種類の樹脂(C)を含有する塗料組成物から形成されることが好ましい。かかる構成とすることで、樹脂層の水接触角を85°以上100°以下とし、かつ、積層フィルムのヘイズをH1(%)、前記積層フィルムを溶媒浸漬・擦過試験した後のヘイズをH2(%)とした際、|H2-H1|≦1.0(%)となるような樹脂層、すなわち架橋度が高い樹脂層として、表面層に対する剥離性を良好なものとすることが容易になる。
【0038】
<離型剤(A)>
本発明でいう離型剤(A)とは、塗料組成物に含有することにより、塗布層の表面に離型性(すなわち樹脂の表面自由エネルギーを低下させたり、樹脂の静止摩擦係数を低下させたりする特性)を付与する化合物を示す。本発明において用いることのできる離型剤(A)としては、長鎖アルキル基含有樹脂、オレフィン樹脂、フッ素化合物、ワックス系化合物などが挙げられる。中でも、長鎖アルキル基含有樹脂は、良好な剥離性を付与できる点で好ましい。
【0039】
長鎖アルキル基含有化合物は市販されているものを使用してもよく、具体的には、アシオ産業社製の長鎖アルキル系化合物である“アシオレジン”(登録商標)シリーズ、一方社油脂社製の長鎖アルキル化合物である“ピーロイル”シリーズ、中京油脂社製の長鎖アルキル系化合物の水性分散体である“レゼム”シリーズなどを使用することができる。前記離型剤(A)は、炭素数12以上のアルキル基を有することが好ましく、炭素数16以上のアルキル基を有することがより好ましい。アルキル基の炭素数を12以上にすることで、疎水性が高まることとなり、離型剤(A)として十分な離型性能を発現させることができる。アルキル基の炭素数が12未満であると、離型性能を高めるという効果が不十分な場合がある。アルキル基の炭素数の上限は特に限定されるものではないが、25以下であると製造が容易であるため好ましい。
【0040】
前記炭素数12以上のアルキル基を有する樹脂は、ポリメチレンの主鎖に炭素数12以上のアルキル基の側鎖を有する樹脂であることがより好ましい。主鎖がポリメチレンであることで、樹脂全体の親水基が少なくなるため、離型剤(A)の離型効果をより優れたものとすることができる。
【0041】
<架橋剤(B)>
本発明において用いることのできる架橋剤(B)としては、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物から選ばれる少なくとも1種類が挙げられる。中でも、メラミン樹脂は、樹脂層の架橋度を高くすることが容易であり、表面層に対する剥離力を軽剥離としやすいため好ましい。
【0042】
架橋剤(B)として用いることができるエポキシ樹脂としては、例えば、ソルビトールポリグリシジルエーテル系架橋剤、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル系架橋剤、ジグリセロールポリグリシジルエーテル系架橋剤及びポリエチレングリコールジグリシジルエーテル系架橋剤などを用いることができる。エポキシ樹脂として、市販されているものを使用してもよく、例えば、ナガセケムテック株式会社製エポキシ化合物“デナコール”(登録商標)EX-611、EX-614、EX-614B、EX-512、EX-521、EX-421、EX-313、EX-810、EX-830、EX-850など)、坂本薬品工業株式会社製のジエポキシ・ポリエポキシ系化合物(SR-EG、SR-8EG、SR-GLGなど)、大日本インキ工業株式会社製エポキシ架橋剤“EPICLON”(登録商標)EM-85-75W、あるいはCR-5Lなどを好適に用いることができ、中でも、水溶性を有するものが好ましく用いられる。
【0043】
架橋剤(B)として用いることができるメラミン樹脂としては、例えば、メラミン、メラミンとホルムアルデヒドを縮合して得られるメチロール化メラミン誘導体、メチロール化メラミンに低級アルコールを反応させて部分的あるいは完全にエーテル化した化合物、及びこれらの混合物などを用いることができる。また、メラミン樹脂としては、単量体または2量体以上の多量体からなる縮合物のいずれでもよく、これらの混合物でもよい。エーテル化に用いられる低級アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール及びイソブタノールなどを用いることができる。官能基としては、イミノ基、メチロール基、あるいはメトキシメチル基やブトキシメチル基等のアルコキシメチル基を1分子中に有するもので、イミノ基型メチル化メラミン樹脂、メチロール基型メラミン樹脂、メチロール基型メチル化メラミン樹脂及び完全アルキル型メチル化メラミン樹脂などである。その中でも、メチロール化メラミン樹脂が最も好ましく用いられる。
【0044】
また、架橋剤(B)として用いることができるオキサゾリン化合物は、該化合物中に官能基としてオキサゾリン基を有するものであり、オキサゾリン基を含有するモノマーを少なくとも1種以上含み、かつ、少なくとも1種の他のモノマーを共重合させて得られるオキサゾリン基含有共重合体からなるものが好ましい。
【0045】
オキサゾリン基を含有するモノマーとしては、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-メチル-2-オキサゾリン及び2-イソプロペニル-5-エチル-2-オキサゾリンなどを用いることができ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することもできる。中でも、2-イソプロペニル-2-オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。
【0046】
オキサゾリン化合物において、オキサゾリン基を含有するモノマーに対して用いられる少なくとも1種の他のモノマーは、該オキサゾリン基を含有するモノマーと共重合可能なモノマーであり、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、メタクリル酸-2-エチルヘキシルなどのアクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステル類、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸などの不飽和カルボン酸類、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル類、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミドなどの不飽和アミド類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類、エチレン、プロピレンなどのオレフィン類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニルなどの含ハロゲン-α,β-不飽和モノマー類、スチレン及びα-メチルスチレンなどのα,β-不飽和芳香族モノマー類などを用いることができ、これらは1種または2種以上の混合物を使用することもできる。
【0047】
また、架橋剤(B)として用いることができるカルボジイミド化合物は、該化合物中に官能基としてカルボジイミド基、またはその互変異性の関係にあるシアナミド基を分子内に1個または2個以上有する化合物である。このようなカルボジイミド化合物の具体例としては、ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミド、テトラメチルキシリレンカルボジイミド及びウレア変性カルボジイミド等を挙げることができ、これらは1種または2種以上の混合物を使用することもできる。
【0048】
また、架橋剤(B)として用いることができるイソシアネート化合物は、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、メタキシリレンジイソシア
ネート、ヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネート、1,6-ジイソシアネートヘキサン、トリレンジイソシアネートとヘキサントリオールの付加物、トリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンの付加物、ポリオール変性ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、カルボジイミド変性ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、3,3’-ビトリレン-4,4’ジイソシアネート、3,3’ジメチルジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0049】
さらに、イソシアネート基は水と反応し易いため、塗剤のポットライフの点で、イソシアネート基をブロック剤などでマスクしたブロックイソシアネート系化合物などを好適に用いることができる。この場合、ポリエステルフィルムに塗料組成物を塗布した後の乾燥工程において熱がかかることで、ブロック剤が解離し、イソシアネート基が露出する結果、架橋反応が進行することになる。また、イソシアネート基は単官能タイプでも多官能タイプでもよいが、多官能タイプのブロックポリイソシアネート系化合物の方が樹脂層の架橋度を上げやすく、表面層に対する剥離力を軽剥離としやすいため好ましい。
【0050】
<樹脂(C)>
本発明において用いることのできる樹脂(C)としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1種類の樹脂が挙げられる。樹脂(C)は、前記架橋剤(B)の架橋点となる官能基を含んでいることが好ましい。架橋点となる官能基を含んでいることで、架橋剤(B)との架橋反応が効率的に行われるようになり、樹脂層の架橋度がより高くなる結果、表面層に対する剥離性を良好なものとすることが容易になる。
【0051】
樹脂(C)として用いることができるポリエステル樹脂は、主鎖あるいは側鎖にエステル結合を有するもので、ジカルボン酸とジオールから重縮合して得られるものが好ましい。
【0052】
該ポリエステル樹脂の原料となるジカルボン酸としては、芳香族、脂肪族、脂環族のジカルボン酸が使用できる。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、フタル酸、2,5-ジメチルテレフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,2-ビスフェノキシエタン-p-p’-ジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸などを用いることができる。脂肪族及び脂環族のジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸など、及びそれらのエステル形成性誘導体を用いることができる。
【0053】
該ポリエステル樹脂の原料となるジオール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、2,4-ジメチル-2-エチルヘキサン-1,3-ジオール、ネオペンチルグリコール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-イソブチルー1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2,2,4,4-テトラメチル-1、3-シクロブタンジオール、4,4’-チオジフェノール、ビスフェノールA、4、4’-メチレンジフェノール、4、4’-(2-ノルボルニリデン)ジフェノール、4,4’-ジヒドロキシビフェノール、o-、m-、及びp-ジヒドロキシベンゼン、4,4’-イソプロピリデンフェノール、4,4’-イソプロピリデンビンジオール、シクロペンタン-1、2-ジオール、シクロヘキサン-1,2’-ジオール、シクロヘキサン-1、2-ジオール、シクロヘキサン-1,4-ジオールなどを用いることができる。
【0054】
また、該ポリエステル樹脂として、変性ポリエステル共重合体、例えば、アクリル、ウレタン、エポキシなどで変性したブロック共重合体、グラフト共重合体などを用いることも可能である。
【0055】
樹脂(C)として用いることができるアクリル樹脂は、特に限定されることはないが、アルキルメタクリレート及び/またはアルキルアクリレートから構成されるものが好ましい。
【0056】
アルキルメタクリレート及び/またはアルキルアクリレートとしては、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、マレイン酸、イタコン酸、アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミドなどを用いるのが好ましい。これらは1種もしくは2種以上を用いることができる。
【0057】
一方、樹脂(C)として用いることができるアクリル樹脂は、前述の架橋剤(B)との反応性を有する官能基を側鎖に含むことが好ましい。反応性の側鎖を有することで、樹脂層の架橋度がより高くなる結果、表面層に対する剥離性を良好なものとすることが容易になる。反応性の側鎖としては、特に限定されないが、例えば、水酸基、カルボキシル基、3級アミノ基、4級アンモニウム塩基、スルホン酸基、または、リン酸基などが上げられる。このうち塗料組成物の分散安定性の観点から、水酸基を有する(メタ)アクリレートを含むことが特に好ましい。水酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2、3-ジヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどの多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのモノエステル化物、あるいは、該モノエステル化物にε-カプロラプトンを開環重合した化合物などが挙げられ、特に2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0058】
樹脂(C)として水酸基を有する(メタ)アクリレートを含む場合、その含有量は、樹脂(C)全体に対して0.5重量%以上10重量%以下であることが好ましく、より好ましくは1重量%以上5重量%以下である。水酸基を有する(メタ)アクリレートの含有量を上記の範囲とすることで、樹脂層の架橋度がより高くなり、表面層に対する剥離性を向上する効果を得やすくなる。
【0059】
樹脂(C)として用いるウレタン樹脂は、ポリヒドロキシ化合物とポリイソシアネート化合物を、乳化重合、懸濁重合などの公知のウレタン樹脂の重合方法によって反応させて得られる樹脂であることが好ましい。
【0060】
ポリヒドロキシ化合物としては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレン・プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、テトラメチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリカプトラクトン、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリヘキサメチレンセバケート、ポリテトラメチレンアジペート、ポリテトラメチレンセバケート、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、ポリカーボネートジオール、グリセリンなどを挙げることができる。
【0061】
ポリイソシアネート化合物としては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートとトリメチレンプロパンの付加物、ヘキサメチレンジイソシアネートとトリメチロールエタンの付加物などを用いることができる。
【0062】
さらに、本発明の積層フィルムの樹脂層は、架橋触媒(D)を含んでいてもよい。架橋触媒(D)を含んでいることで、熱処理時の前記架橋剤(B)と樹脂(C)の架橋反応が効率的に行われるようになり、樹脂層の架橋度がより高くなる結果、樹脂層に表面層を塗布した際、表面層の樹脂層への浸透がより起こりにくくなり、表面層に対する剥離性を良好なものとすることが容易になる。架橋触媒(D)としては、例えば、p-トルエンスルホン酸などの酸性触媒や、アミン塩系の触媒などを用いることができる。
【0063】
本発明の積層フィルムの樹脂層は、離型剤(A)と、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物から選ばれる少なくとも1種類の架橋剤(B)と、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1種類の樹脂(C)を含有する塗料組成物から形成されることが好ましく、当該塗料組成物は、架橋剤(B)と樹脂(C)の合計100質量部に対して、離型剤(A)を5~50質量部含有することが好ましい。より好ましくは10~30質量部である。離型剤(A)を5質量部以上とすることで、樹脂層に十分な剥離性を付与することができる。また、離型剤(A)を50質量部以下とすることで、樹脂層の水接触角を100°以下とすることが容易になり、表面層塗布時のハジキやピンホールといった欠点が抑制されるだけでなく、塗料組成物中の架橋剤(B)と樹脂(C)が占める割合が十分大きくなる結果、樹脂層の架橋度が高くなり、特に表面層に対する剥離性を良好なものとすることができる。
【0064】
本発明の積層フィルムの樹脂層をなす塗料組成物は、架橋剤(B)と樹脂(C)の質量比が5/95~50/50の範囲であることが好ましい。より好ましくは10/90~30/70の範囲である。かかる範囲とすることで、樹脂(C)の架橋点と架橋剤(B)が十分に架橋反応を起こす結果、樹脂層の架橋度が高くなり、特に表面層に対する剥離性を良好なものとすることができる。
【0065】
また、本発明の塗料組成物は、以下の式(1)の構造を有する化合物(X)を含んでいることが好ましい。離型剤(A)は強い疎水性を有し、凝集しやすい傾向があるが、式(1)の構造を有する化合物(X)を併用することで、離型剤(A)の凝集を抑制することができ、樹脂層中の凝集物も減らすことができる結果、樹脂層の表面平滑性を向上させることができる。
【0066】
-(CH-CH-O)- 式(1)
(ここでnは3以上の整数を表す)
また、本発明の塗料組成物は、式(1)の構造を有する化合物(X)を含むと、前記離型剤(A)、前記架橋剤(B)および前記樹脂(C)の相溶性を高めることが出来る。樹脂層中での各成分の分布を抑制することができるため、|H2-H1|を小さくすることが容易となる結果、特に表面層に対する剥離性が良好な樹脂層を得やすくなる。
【0067】
式(1)の構造を有する化合物(X)としては、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。市販されているものを用いてもよく、具体的には、Pluronic(R)PE3100,PE3500,PE4300,PE6100,PE6120,PE6200,PE6400,PE6800,PE7400,PE8100,PE9200,PE9400,PE10100,PE10300,PE10400,PE10500(以上ビーエーエスエフジャパン(株)製)、アデカ(R)プルロニックL-23,L-31,L-33,L-34,L-35,F-38,L-42,L-43,L-44,L-61,L-62,L-64,P-65,F-68,L-71,L-72,P-75,P-77,L-81,P-84,P-85,F-88,L-92,P-94,F-98,L-101,P-103,P-104,P-105,F-108,L-121,L-122,P-123,F-127(以上(株)ADEKA製)、ニューポールPE-34,PE-61,PE-62,PE-64,PE-68,PE-71,PE-74,PE-75,PE-78,PE-108,PE-128(以上三洋化成工業(株)製)などを用いることができる。
【0068】
塗料組成物に式(1)の構造を有する化合物(X)が含まれるかは、後述の測定条件において、飛行時間型2次イオン質量分析(GCIB-TOF-SIMS)を用いて測定を行うことが可能である。
【0069】
前記化合物(X)の重量平均分子量は、1000以上20000以下であることが好ましい。より好ましくは2000以上16000以下、さらに好ましくは6000以上16000以下であり、特に好ましくは11000以上16000以下である。重量平均分子量を1000以上とすることで、離型剤(A)の分散安定性を向上させ、樹脂層に十分な表面平滑性を付与することが可能になるとともに、セラミックスラリーに代表される表面層への化合物(X)の転写を抑制することができる。また、重量平均分子量を20000以下とすることで、樹脂層の水接触角を85°以上とし、かつ樹脂層の架橋度を高くすることが容易となり、セラミックスラリーに代表される表面層の剥離性を良好なものとすることができる。一方重量平均分子量が1000に満たない場合には、離型剤(A)の分散安定性を向上させる効果が不十分となり、凝集物の形成により、表面の平滑性が維持できない場合やセラミックスラリーに代表される表面層への化合物(X)の転写が生じる場合がある。反対に、重量平均分子量が20000を超える場合には、樹脂層の水接触角が85°を下回る、もしくは十分な架橋度が得られない場合があり、結果としてセラミックスラリーに代表される表面層の剥離力が重剥離化する場合がある。
【0070】
本発明において、塗料組成物に含まれる前記化合物(X)の重量平均分子量は、後述する方法において、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)を用いて測定を行うことにより求められるものである。具体的には、以下の測定条件にて、標準ポリメチルメタクリレート換算の重量平均分子量として算出される。
【0071】
装置:東ソー(株)製のGPC装置(HLC-8220)
カラム:TSK GEL SuperH1000、TSK GEL SuperH2000、
TSK GEL SuperH3000(いずれも東ソー(株)製)
溶媒:水/エタノール
流速:0.5mL/min
試料濃度:1mg/mL
注入量:0.1mL。
【0072】
本発明の塗料組成物において、前記化合物(X)は、離型剤(A)の含有量を100質量部とした際、15質量部以上100質量部以下であることが好ましい。より好ましくは30質量部以上90質量部以下、さらに好ましくは45質量部以上80質量部以下である。化合物(X)の含有量を、離型剤(A)100質量部に対し15質量部以上とすることで、離型剤(A)の分散安定性を向上させ、樹脂層に十分な表面平滑性を付与したり、樹脂層の弾性率分布や構成成分の分布を小さくすることができる。また、化合物(X)の含有量を100質量部以下とすることで、樹脂層の水接触角を85°以上とし、かつ樹脂層の架橋度を高くすることが容易となり、セラミックスラリーに代表される表面層の剥離性を良好なものとすることができる。
【0073】
15質量部に満たない場合には、離型剤(A)の分散安定性を向上させる効果が不十分となり、凝集物の形成により、表面の平滑性が維持できない場合やセラミックスラリーに代表される表面層への化合物(X)の転写が生じる場合がある。一方、100質量部を得る場合には樹脂層の水接触角が85°を下回る、もしくは十分な架橋度が得られない場合があり、結果としてセラミックスラリーに代表される表面層の剥離力が重剥離化する場合がある。
【0074】
<セラミックスラリー>
本発明の積層フィルムの特に好ましい用途としては、樹脂層の表面に、セラミックスラリーを塗布し、セラミックスラリーを固化させた後、当該固化させたものを剥離する工程用の工程フィルムが挙げられる。ここでセラミックスラリーとは、セラミック、バインダー樹脂、溶媒からなるものである。
セラミックスラリーを構成するセラミックの原料としては、特に限定されるものではなく、各種誘電体材料が使用できる。例えば、チタン、アルミ、バリウム、鉛、ジルコニウム、珪素、イットリウム等の金属からなる酸化物、チタン酸バリウム、Pb(Mg1/3,Nb2/3)O、Pb(Sm1/2,Nb1/2)O、Pb(Zn1/3,Nb2/3)O、PbThO、PbZrOなどを用いることができる。これらは単体で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
セラミックスラリーを構成するバインダー樹脂としては、ポリウレタン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラールなどの高分子などを用いることができる。これらは単体で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
セラミックスラリーの溶媒は、水であっても有機溶剤であっても構わない。有機溶剤の場合、トルエン、エタノール、メチルエチルケトン、イソプロピルアルコール、γ-ブチルラクトンなどを用いることができる。これらは単体で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、セラミックスラリーには、必要に応じて可塑剤、分散剤、帯電防止剤、界面活性剤などを添加してもよい。
【0075】
さらに、本発明の積層フィルムは、前記セラミックスラリーがフェライトを含む場合に特に好適に用いることができる。フェライトとしては、銅、亜鉛、ニッケル、マンガンなどの重金属を含有するフェライトや、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含有する軽金属フェライトが好ましい。フェライトを含有するセラミックスラリーは、フェライトを含有しないセラミックスラリーと比べ、表面張力が大きい特徴があるため、従来の離型性を有する樹脂層に塗布すると、ハジキやピンホールといった塗布欠陥を生じやすいという問題が起きていた。本発明の積層フィルムの樹脂層は表面層の剥離性に優れる一方で、水接触角が100°以下であり、表面層の塗布性にも優れるため、表面層として前述のようなフェライトを有するセラミックスラリーを塗布した場合であっても、ハジキやピンホールといった欠陥を抑制することが可能であるため好ましい。
【0076】
<製造方法>
本発明の積層フィルムにおいて、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に樹脂層を設ける方法は、インラインコート法、オフコート法のどちらでも用いることができるが、好ましくはインラインコート法である。インラインコート法とは、ポリエステルフィルムの製造の工程内で塗布を行う方法である。具体的には、ポリエステル樹脂を溶融押し出ししてから二軸延伸後熱処理して巻き上げるまでの任意の段階で塗布を行う方法を指し、通常は、溶融押出し後・急冷して得られる実質的に非晶状態の未延伸(未配向)ポリエステルフィルム(Aフィルム)、その後に長手方向に延伸された一軸延伸(一軸配向)ポリエステルフィルム(Bフィルム)、またはさらに幅方向に延伸された熱処理前の二軸延伸(二軸配向)ポリエステルフィルム(Cフィルム)の何れかのフィルムに塗布する。
【0077】
一方、オフラインコート法とは、上記Aフィルムを一軸又は二軸に延伸し、加熱処理を施しポリエステルフィルムの結晶配向を完了させた後のフィルム、またはAフィルムに、フィルムの製膜工程とは別工程で樹脂組成物を塗布する方法である。
【0078】
本発明では、インラインコート法によって積層フィルムを製造することが好ましい。インラインコート法によって製造することで、例えば二軸延伸されたPETフィルム上にオフコートによって樹脂層を形成させるよりも、より低コストで積層フィルムを製造できるだけでなく、オフコートでは実質的に不可能である200℃以上の高温熱処理を施すことにより、樹脂層の架橋を促進し、スラリー剥離力を小さくすることができる。特に、結晶配向が完了する前のポリエステルフィルムの少なくとも片面に、離型剤(A)を含有する塗料組成物を塗布した後、少なくとも一軸方向に延伸し、次いで熱処理を施して、該ポリエステルフィルムの結晶配向を完了させる製造方法によって製造されることが好ましい。
【0079】
<塗布方式>
ポリエステルフィルムへの樹脂組成物の塗布方式は、公知の塗布方式、例えばバーコート法、リバースコート法、グラビアコート法、ダイコート法、ブレードコート法等の任意の方式を用いることができる。
【0080】
ここで、ポリエステルフィルムと樹脂層の密着性について説明する。
【0081】
通常のオフコート法でポリエステルフィルム上に樹脂層を設けると、低表面エネルギーである樹脂層はフィルムとの密着性に乏しいため、フィルムロールの巻き直しなどを行った場合に樹脂層が削れてしまい、剥離力が悪化するといった問題が生じる場合がある。しかし、インラインコート法によって樹脂層を積層した場合には、結晶配向完了前のポリエステルフィルムへ塗料組成物を塗布することで、ごく微量の塗料組成物がポリエステルフィルムへ浸透するため、樹脂層と熱可塑性樹脂フィルムの密着性を付与することができる。その結果、優れた剥離力を維持することができる。
【0082】
<樹脂層の形成方法>
本発明では、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、塗料組成物を塗布した後、乾燥せしめることにより樹脂層を形成させることが好ましい。本発明において、塗料組成物に溶媒を含有せしめる場合は、溶媒として水系溶媒を用いることが好ましい。水系溶媒を用いることで、乾燥工程での溶媒の急激な蒸発を抑制でき、均一な樹脂層を形成できるだけでなく、環境負荷の点で優れる。
【0083】
ここで、水系溶媒とは、水、または水とメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類など水に可溶である有機溶媒が任意の比率で混合させているものを指す。
【0084】
塗料組成物のフィルムへの塗布方法は、前述したとおり、インラインコート法であることが好ましい。具体的には、ポリエステル樹脂を溶融押し出ししてから二軸延伸後熱処理して巻き上げるまでの任意の段階で塗布を行う方法を指し、通常は、溶融押出し後・急冷して得られる実質的に非晶状態の未延伸(未配向)フィルム(Aフィルム)、その後に長手方向または幅方向に延伸された一軸延伸(一軸配向)フィルム(Bフィルム)、またはさらに幅方向または長手方向に延伸された熱処理前の二軸延伸(二軸配向)フィルム(Cフィルム)の何れかのフィルムに塗布する。
【0085】
本発明では、結晶配向が完了する前の上記Aフィルム、Bフィルム、の何れかのフィルムに、塗料組成物を塗布し、その後、フィルムを一軸方向又は二軸方向に延伸し、溶媒の沸点より高い温度で熱処理を施しフィルムの結晶配向を完了させるとともに樹脂層を設ける方法を採用することが好ましい。この方法によれば、フィルムの製膜と、塗料組成物の塗布乾燥(すなわち、樹脂層の形成)を同時に行うことができるために製造コスト上のメリットがある。
【0086】
中でも、長手方向に一軸延伸されたフィルム(Bフィルム)に、塗料組成物を塗布し、その後、幅方向に延伸し、熱処理する方法が優れている。未延伸フィルムに塗布した後、二軸延伸する方法に比べ、延伸工程が1回少ないため、延伸による樹脂層の欠陥や亀裂が発生しづらく、平滑性に優れた樹脂層を形成できるためである。また、先述の通り、結晶配向完了前のフィルムへ塗料組成物を塗布することで、樹脂層とポリエステルフィルムとの密着性を付与することができる。
【0087】
従って、本発明において好ましい樹脂層の形成方法は、水系溶媒を用いた塗料組成物を、ポリエステルフィルム上にインラインコート法を用いて塗布し、乾燥、熱処理することによって形成する方法である。またより好ましくは、一軸延伸後のBフィルムに塗料組成物をインラインコートする方法である。本発明の積層フィルムの製造方法において、乾燥は塗料組成物の溶媒の除去を完了させるために、80~130℃の温度範囲で実施することができる。また、熱処理はポリエステルフィルムの結晶配向を完了させるとともに塗料組成物の熱硬化を完了させ樹脂層の形成を完了させるために、160~240℃の温度範囲で実施することができる。
【0088】
さらに塗料組成物の固形分濃度は40質量%以下であることが好ましい。固形分濃度を40質量%以下とすることにより、塗料組成物に良好な塗布性を付与でき、均一な樹脂層を有する積層フィルムを製造することができる。
【0089】
なお、固形分濃度とは、塗料組成物の質量に対して、塗料組成物の質量から溶媒の質量を除いた質量が占める割合を表す(すなわち、[固形分濃度]=[(塗料組成物の質量)-(溶媒の質量)]/[塗料組成物の質量]である)。
【0090】
<積層フィルムの製造方法>
次に、本発明の積層フィルムの製造方法について説明する。以下ではポリエステルフィルムとしてポリエチレンテレフタレートを用いた例を示すが、本発明はかかる例に限定されるものではない。
【0091】
まず、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略す。)のペレットを十分に真空乾燥した後、押出機に供給し、約280℃でシート状に溶融押し出し、冷却固化せしめて未延伸(未配向)PETフィルム(Aフィルム)を作製する。このフィルムを80~120℃に加熱したロールで長手方向に2.5~5.0倍延伸して一軸配向PETフィルム(Bフィルム)を得る。このBフィルムの片面に所定の濃度に調製した離型剤を塗布する。この時、塗布前にPETフィルムの塗布面にコロナ放電処理等の表面処理を行ってもよい。コロナ放電処理等の表面処理を行うことで、樹脂組成物のPETフィルムへの濡れ性を向上させ、樹脂組成物のハジキを防止し、均一な塗布厚みを達成することができる。
【0092】
塗布後、PETフィルムの端部をクリップで把持して80~130℃の熱処理ゾーン(予熱ゾーン)へ導き、塗料組成物の溶媒を乾燥させる。乾燥後幅方向に1.1~5.0倍延伸する。引き続き150~250℃の加熱ゾーン(熱処理ゾーン)へ導き1~30秒間の熱処理を行い、結晶配向を完了させるとともに、樹脂層の形成を完了させる。この加熱工程(熱処理工程)により、樹脂層の架橋が促進されると考えている。なお、この加熱工程(熱処理工程)で、必要に応じて幅方向、あるいは長手方向に3~15%の弛緩処理を施してもよい。
【0093】
<特性の測定方法及び効果の評価方法>
本発明における特性の測定方法、及び効果の評価方法は次の通りである。
【0094】
(1)ヘイズ
東洋精機(株)製直読ヘイズメーターを用いて、積層フィルムの23℃でのヘイズ(%)を3回測定し、平均値をH1(%)とした。また、以下の条件で溶媒浸漬・擦過試験を実施した後、積層フィルムの23℃でのヘイズ(%)を3回測定し、平均値をH2(%)とした。
<溶媒浸漬・擦過試験>
積層フィルムをメチルエチルケトンに10分間浸漬させた後、学振型摩擦試験機(株式会社大栄科学精機製作所製)を用いて、前記樹脂層の表面を綿布(小津産業(株)製、ハイゼガーゼNT-4)により荷重1kgで10往復擦過した。
【0095】
(2)樹脂層表面の組成の分析方法
GCIB-TOF-SIMS(GCIB:ガスクラスターイオンビーム、TOF-SIMS:飛行時間型二次イオン質量分析法)を用いて、積層フィルムの樹脂層表面の組成を分析した。測定条件は、下記の通りであった。
<スパッタリング条件>
イオン源:アルゴンガスクラスターイオンビーム
<検出条件>
1次イオン:Bi3++(25keV)
2次イオン極性:Negative
質量範囲:m/z 0~1000
測定範囲:200×200μm
最大強度で検出されるフラグメントのピーク強度をK、ジメチルシロキサンに由来するフラグメント(SiCH フラグメントイオン(M/Z=43))のピーク強度をPとし、その比P/Kを算出した。P/K<0.01の場合、樹脂層は実質的にシリコーン化合物を含んでいないと判断した。
【0096】
また、式(1)の構造の繰り返し構造に由来するフラグメント(-(CH-CH-O-CH-CH-O-CH-CH-O-)-(M/Z=132))のピーク強度をQとし、Q/K≧0.02の場合、樹脂層は式(1)の構造を有する化合物(X)を含んでいると判断した。
【0097】
(3)水接触角、及び表面エネルギーの算出方法
まず、積層フィルムを室温23℃相対湿度65%の雰囲気中に24時間放置後する。その後、同雰囲気下で、積層フィルムの樹脂層の表面側に対して、純水、エチレングリコール、ホルムアミド、ジヨードメタンの4種の溶液のそれぞれの接触角を、接触角計CA-D型(協和界面科学(株)社製)により、それぞれ5点測定する。5点の測定値の最大値と最小値を除いた3点の測定値の平均値をそれぞれの溶液の接触角とする。
【0098】
次に、得られた4種類の溶液の接触角を用いて、畑らによって提案された「固体の表面自由エネルギー(γ)を分散力成分(γ )、極性力成分(γ )、及び水素結合力成分(γ )の3成分に分離し、Fowkes式を拡張した式(拡張Fowkes式)」に基づく幾何平均法により、本発明の分散力、極性力、水素結合力及び分散力と極性力の和である表面エネルギーを算出する。
【0099】
具体的な算出方法を示す。各記号の意味について下記する。γ は固体と液体の界面での張力である場合、数式(イ)が成立する。
【0100】
γ : 樹脂層と表に記載の既知の溶液の表面エネルギー
γ: 樹脂層の表面エネルギー
γ: 表に記載の既知の溶液の表面エネルギー
γ : 樹脂層の表面エネルギーの分散力成分
γ : 樹脂層の表面エネルギーの極性力成分
γ : 樹脂層の表面エネルギーの水素結合力成分
γL : 表に記載の既知の溶液の表面エネルギーの分散力成分
γL : 表に記載の既知の溶液の表面エネルギーの極性力成分
γL : 表に記載の既知の溶液の表面エネルギーの水素結合力成分
γ =γ+γ-2(γ ・γ )1/2-2(γ ・γp)1/2-2(γ ・γ )1/2 ・・・ 数式(イ)。
【0101】
また、平滑な固体面と液滴が接触角(θ)で接しているときの状態は次式で表現される(Youngの式)。
【0102】
γ=γ +γcosθ ・・・ 数式(ロ)。
【0103】
これら数式(イ)、数式(ロ)を組み合わせると、次式が得られる。
・γ )1/2+(γ ・γ )1/2+(γ ・γ )1/2=γ(1+cosθ)/2 ・・・ 数式(ハ)。
【0104】
実際には、水、エチレングリコール、ホルムアミド、及びジヨードメタンの4種類の溶液に接触角(θ)と、既知の溶液の表面張力の各成分(γL 、γL 、γL )を数式(ハ)に代入し、4つの連立方程式を解く。その結果、固体の表面エネルギー(γ)、分散力成分(γ )、極性力成分(γ )、及び水素結合力成分(γ )が算出される。
【0105】
(4)スラリー剥離力
スラリー剥離力については、下記組成に混合したセラミックスラリーを、アプリケータを用いて最終厚み3μmとなるように本発明の積層フィルムの樹脂層上に塗布した後、熱風オーブンで100℃×3分乾燥を行い、セラミックシートを形成した。該セラミックシートを、島津(株)製万能試験機「オートグラフAG‐1S」及び50Nロードセルを用いて、剥離速度300mm/minにて、180°剥離試験を行った。測定により得られた、剥離力(N)‐試験時間(sec)のグラフから、5~10secにおける剥離力の平均値を算出した。この測定を5回行い、最大値と最小値を省いた3回の平均を積層フィルムの剥離力とし、以下の評価を行った。A以上のものを良好とし、Bは実用上問題ないレベルとした。
【0106】
S:20mN/cm未満
A:20mN/cm以上40mN/cm未満
B:40mN/cm以上80mN/cm未満
C:80mN/cm以上
<セラミックスラリーの組成>
・BaTiO(堺化学工業(株)製)85質量部
・ポリビニルブチラール(積水化学工業(株)製“エスレック(登録商標)”BM-2)15質量部
・フタル酸ジオクチル(関東化学(株)製)5質量部
・トルエン150質量部
・エタノール(東京化成(株)製)150質量部。
【0107】
(5)樹脂層の厚み
積層フィルムをRuO及び/またはOsOを用いて染色した。次に、積層フィルムを凍結せしめ、フィルム厚み方向に切断し、樹脂層断面観察用の超薄切片サンプルを10点(10個)得た。それぞれのサンプル断面をTEM(透過型電子顕微鏡:(株)日立製作所製H7100FA型)にて1万~100万倍で観察し、断面写真を得た。その10点(10個)のサンプルの樹脂層厚みの測定値を平均して、積層フィルムの樹脂層厚みとした。
【0108】
(6)スラリー塗布性
「(4)スラリー剥離力」の項で示した組成のセラミックスラリーを、アプリケータを用いて3種類の最終厚み(3μm、1μm、300nm)で本発明の積層フィルムの樹脂層上に塗布した後、熱風オーブンで100℃×3分乾燥を行い、セラミックシートを形成した。該セラミックシートのハジキの有無について、目視評価を行った。なお一般に、セラミックスラリーの塗布厚みを小さくするほど、ハジキが発生しやすくなる傾向がある。
【0109】
S:いずれの塗布厚みでもハジキが見られない。
【0110】
A:塗布厚み3μm、1μmではハジキが見られないが、300nmではハジキが見られる。
【0111】
B:塗布厚み3μmではハジキが見られないが、1μm、300nmではハジキが見られる。
【0112】
C:すべての塗布厚みにおいてハジキが見られる。
A以上のものをスラリー塗布性が良好とし、Bは実用上問題ないレベルとした。
【0113】
(7)表面層の相分離性
まず、「(4)スラリー剥離力」の項で示した組成のセラミックスラリーを、アプリケータを用いて最終厚み3μmで本発明の積層フィルムの樹脂層上に塗布した後、熱風オーブンで100℃×3分の乾燥を行い、セラミックシートを形成した。次に、島津(株)製万能試験機「オートグラフAG・1S」を用いて、剥離速度300mm/min、剥離角度180°にて、セラミックスラリーを本発明の積層フィルムの樹脂層から剥離した。剥離後のセラミックスラリーについて、「(3)水接触角、及び表面エネルギーの算出方法」の項で示した測定方法により、樹脂層と接していた側の面の水接触角θ1、樹脂層と接していなかった側の面の水接触角θ2をそれぞれ測定し、θ2―θ1の値に応じて、以下の判定を行った。なお、セラミックスラリー中のバインダー成分であるプリビニルブチラールは、セラミックスラリー中の他の成分より親水的、すなわち水接触角が小さいため、θ2―θ1の値が大きいほど、表面層のバインダー成分が本発明の積層フィルムの樹脂層側に偏在する形で、表面層が大きく相分離していると判断することができる。
S:6°≦θ2―θ1
A:4°≦θ2―θ1<6°
B:2°≦θ2―θ1<4°
C:θ2―θ1<2°
A以上のものを表面層の相分離性が良好とし、Bは実用上問題ないレベルとした。
【0114】
(8)転写防止性
転写防止性については、貼り付け/剥離した後の粘着テープ剥離力(P1)/初期粘着テープ剥離力(P0)×100の値をもとに判定した。以下に各剥離力の測定方法を述べる。
【0115】
(8-1)初期粘着テープ剥離力(P0)
ステンレス板(SUS304番)に粘着テープ(日東電工社製ポリエステルテープNo.31B、幅19mm)を5kgのゴムローラーを1往復させて圧着し、23℃/65%RHの環境で24時間静置した後、島津(株)製万能試験機「オートグラフAG-1S」及び50Nロードセルを用いて、剥離速度300mm/minにて180°剥離試験を行った。測定により得られた、剥離力(N)―試験時間(sec)のグラフから、5~10secにおける剥離力の平均値を算出した。この測定を5回行い、最大値と最小値を省いた3回の平均を、初期粘着テープ剥離力(P0)とした。
【0116】
(8-2)貼り付け/剥離した後の粘着テープ剥離力(P1)
本発明の積層フィルムの樹脂層側に粘着テープ(日東電工社製ポリエステルテープNo.31B、幅19mm)を5kgのゴムローラーを1往復させて圧着し、23℃/65%RHの環境で24時間静置した後、島津(株)製万能試験機「オートグラフAG-1S」及び50Nロードセルを用いて、剥離速度300mm/minにて180°剥離試験を実施し、粘着テープを剥離した。その後、剥離した粘着テープを、ステンレス板(SUS304番)に貼り付け、23℃/65%RHの環境で24時間静置した後、島津(株)製万能試験機「オートグラフAG-1S」及び50Nロードセルを用いて、剥離速度300mm/minにて180°剥離試験を行った。測定により得られた、剥離力(N)―試験時間(sec)のグラフから、5~10secにおける剥離力の平均値を算出した。この測定を5回行い、最大値と最小値を省いた3回の平均を、初期粘着テープ剥離力(P1)とした。
【0117】
(8-1)、(8-2)で得られた剥離力について、貼り付け/剥離した後の粘着テープ剥離力(P1)/初期粘着テープ剥離力(P0)×100の値をもとに転写防止性を判定した。A以上のものを良好とし、Bは実用上問題ないレベルとした。
【0118】
S:95%以上
A:90%以上95%未満
B:85%以上90%未満
C:85%未満。
【0119】
(9)表面平滑性
3次元粗さ計を用いて積層フィルムの樹脂層表面を観察し、0.1mm以上の異物個数をカウントした。それをフィルムの面積(m)で割り、フィルム1mあたりの異物個数として算出した。A以上の物を表面平滑性が良好とし、Bは実用上問題ないレベルとした。
【0120】
S:0~4個/m
A:5~19個/m
B:20~49個/m
C:50個以上/m
【実施例
【0121】
以下、具体的な実施例に基づいて、本発明の積層フィルムを詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。但し、以下、実施例6、14、17、18、35、36は参考例とする。
【0122】
(実施例1)
・離型剤(A):長鎖アルキル基含有樹脂(a―1)
4つ口フラスコにキシレン200部、オクタデシルイソシアネート600部を加え、攪拌下に加熱した。キシレンが還流し始めた時点から、平均重合度500、ケン化度88モル%のポリビニルアルコール100部を少量ずつ10分間隔で約2時間にわたって加えた。ポリビニルアルコールを加え終わってから、さらに2時間還流を行い、反応を終了した。反応混合物を約80℃まで冷却してから、メタノール中に加えたところ、反応生成物が白色沈殿として析出したので、この沈殿を濾別し、キシレン140部を加え、加熱して完全に溶解させた後、再びメタノールを加えて沈殿させるという操作を数回繰り返した後、沈殿をメタノールで洗浄し、乾燥粉砕することで、長鎖アルキル基含有樹脂(a―1:ポリメチレンを主鎖として側鎖に炭素数18のアルキル基を有する)を得た。これを水で希釈し、20質量%に調整した。
【0123】
・架橋剤(B):メラミン樹脂(b-1:メチロール化メラミン)
(株)三和ケミカル製、“ニカラック”(登録商標)MW-035(固形分濃度70質量%、溶媒:水)を用いた。
【0124】
・樹脂(C):アクリル樹脂(c-1)
ステンレス反応容器に、メタクリル酸メチル(α)、メタクリル酸ヒドロキシエチル(β)、ウレタンアクリレートオリゴマー(根上工業(株)製、アートレジン(登録商標)UN-3320HA、アクリロイル基の数が6)(γ)を(α)/(β)/(γ)=94/1/5の質量比で仕込み、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを(α)~(γ)の合計100質量部に対して2質量部を加えて撹拌し、混合液1を調製した。次に、攪拌機、環流冷却管、温度計及び滴下ロートを備えた反応装置を準備した。上記混合液1を60質量部と、イソプロピルアルコール200質量部、重合開始剤として過硫酸カリウム5質量部を反応装置に仕込み、60℃に加熱し、混合液2を調製した。混合液2は60℃の加熱状態のまま20分間保持させた。次に、混合液1の40質量部とイソプロピルアルコール50質量部、過硫酸カリウム5質量部からなる混合液3を調製した。続いて、滴下ロートを用いて混合液3を2時間かけて混合液2へ滴下し、混合液4を調製した。その後、混合液4は60℃に加熱した状態のまま2時間保持した。得られた混合液4を50℃以下に冷却した後、攪拌機、減圧設備を備えた容器に移した。そこに、25%アンモニア水60質量部、及び純水900質量部を加え、60℃に加熱しながら減圧下にてイソプロピルアルコール及び未反応モノマーを回収し、純水に分散されたアクリル樹脂(c-1)を得た。
【0125】
・塗料組成物:
離型剤(A)、架橋剤(B)、樹脂(C)を固形分質量比で(A)/(B)/(C)=20/20/80となるように混合した。さらに、ポリエステルフィルムへの塗布性を向上するために、フッ素系界面活性剤(互応化学工業(株)製“プラスコート”RY-2)を、上記の混合した塗料組成物全体100質量部に対して0.1質量部になるように添加した。
・ポリエステルフィルム:
2種類の粒子(1次粒径0.3μmのシリカ粒子を4質量%、1次粒径0.8μmの炭酸カルシウム粒子を2質量%)を含有したPETペレット(極限粘度0.64dl/g)を十分に真空乾燥した後、押出機に供給して280℃で溶融し、T字型口金よりシート状に押し出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度25℃の鏡面キャスティングドラムに巻き付けて冷却固化せしめた。この未延伸フィルムを90℃に加熱して長手方向に3.1倍延伸し、一軸延伸フィルム(Bフィルム)とした。
・積層フィルム
一軸延伸フィルムに空気中でコロナ放電処理を施した後、表に示す塗料組成物をバーコートを用いて塗布厚み約6μmで塗布した。続いて、塗料組成物を塗布した一軸延伸フィルムの幅方向の両端部をクリップで把持して予熱ゾーンに導いた。予熱ゾーンの雰囲気温度は90~100℃にし、塗料組成物の溶媒を乾燥させた。引き続き、連続的に100℃の延伸ゾーンで幅方向に3.6倍延伸し、続いて240℃の熱処理ゾーンで20秒間熱処理を施し、樹脂層を形成せしめ、さらに同温度にて幅方向に5%の弛緩処理を施し、ポリエステルフィルムの結晶配向の完了した積層フィルムを得た。得られた積層フィルムにおいてPETフィルムの厚みは50μm、樹脂層の厚みは60nmであった。
【0126】
得られた積層フィルムの特性等を表に示す。セラミックスラリーの塗布性、剥離性ともに良好であった。
【0127】
(実施例2)
触媒(D)として下記のメラミン架橋触媒(d-1)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。セラミックスラリーの塗布性、剥離性ともに良好であった。
・メラミン架橋触媒(d-1):DIC(株)製、キャタリストPTS
(実施例3~4)
離型剤(A)、架橋剤(B)、樹脂(C)の質量比を表に記載の質量比に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。セラミックスラリーの塗布性、剥離性ともに良好であった。
【0128】
(実施例5~6)
離型剤(A)、架橋剤(B)、樹脂(C)の質量比を表に記載の質量比に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。実施例1と比べるとスラリー剥離力が大きかったが、セラミックスラリーの塗布性、剥離性ともに良好であった。
【0129】
(実施例7)
架橋剤(B)として下記のオキサゾリン化合物(b-2)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。実施例1と比べると、スラリー剥離力が大きかったが、セラミックスラリーの塗布性、剥離性ともに良好であった。
・オキサゾリン化合物(b-2):(株)日本触媒製、“エポクロス”(登録商標)WS-500(固形分濃度40質量%、溶媒:水)
(実施例8)
架橋剤(B)として下記のカルボジイミド化合物(b-3)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。実施例1と比べると、スラリー剥離力が大きかったが、セラミックスラリーの塗布性、剥離性ともに良好であった。
・カルボジイミド化合物(b-3):(株)日清紡ケミカル(株)製、“カルボジライト”(登録商標)V-04(固形分濃度40質量%、溶媒:水)
(実施例9)
架橋剤(B)として下記のエポキシ樹脂(b-4)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。実施例1と比べると、スラリー剥離力が大きかったが、セラミックスラリーの塗布性、剥離性ともに良好であった。
・エポキシ樹脂(b-4):ナガセケムテック(株)製“デナコール”(登録商標)EX-512(固形分濃度50質量%、溶媒:水))を用いた。
【0130】
(実施例10)
架橋剤(B)として下記のイソシアネート化合物(b-5)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。実施例1と比べると、スラリー剥離力が大きかったが、セラミックスラリーの塗布性、剥離性ともに良好であった。
・イソシアネート化合物(b-5):第一工業製薬(株)製“エラストロン”(登録商標) E-37(固形分濃度28%、溶媒:水)を用いた。
【0131】
(実施例11)
樹脂(C)として下記のポリエステル樹脂(c-2)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。実施例1と比べると、スラリー塗布性が低かったが、セラミックスラリーの塗布性、剥離性ともに良好であった。
・ポリエステル樹脂(c-2):下記の共重合組成からなるポリエステル樹脂の水分散体を調整した。
<共重合成分>
(ジカルボン酸成分)
2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル:88モル%
5-スルホイソフタル酸ジメチルナトリウム:12モル%
(ジオール成分)
ビスフェノールS1モルに対してエチレンオキサイド2モルを付加した化合物:86モル%
1,3-プロパンジオール:14モル%
なお、このポリエステル樹脂(c-2)を含む塗料組成物を測定方法の項に示すGCIB-TOF-SIMSで分析した際には、式(1)の構造に由来するM/Z=132のフラグメントは検出されなかった。
【0132】
(実施例12)
樹脂(C)として下記のウレタン樹脂(c-3)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。実施例1と比べると、スラリー剥離力が大きかったが、セラミックスラリーの塗布性、剥離性ともに良好であった。
・ウレタン樹脂(c-3):DIC(株)製“ハイドラン”(登録商標)AP-40(固形分濃度40質量%)を用いた。
【0133】
(実施例13)
まず、実施例1のポリエステルフィルムの製法において、一軸延伸フィルム(Bフィルム)の時点で塗料組成物の塗布を行わない以外は、実施例1と同様にして、結晶配向の完了したポリエステルフィルムを得た。次に、このポリエステルフィルムの上に、表に示す塗料組成物をバーコーターを用いて塗布厚み約6μmで塗布した。その後、100℃オーブンで20秒間乾燥させ、次いで240℃オーブンで20秒間熱処理を施し、樹脂層を形成せしめ、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。実施例1と比べるとスラリー剥離力が大きかったが、セラミックスラリーの塗布性、剥離性ともに良好であった。
【0134】
(実施例14)
離型剤(A)として下記のオレフィン系樹脂(a―2)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。実施例1と比べると樹脂層の表面自由エネルギーが大きく、スラリー剥離力が大きかったが、セラミックスラリーの塗布性、剥離性ともに良好であった。
・オレフィン系樹脂(a-2):三井化学(株)製、“ケミパール”(登録商標)XEP800H
(実施例15~16)
離型剤(A)の含有量を表に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。セラミックスラリーの塗布性、剥離性ともに良好であった。
【0135】
(実施例17)
離型剤(A)の含有量を表に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。実施例1と比べると樹脂層の表面自由エネルギーが大きく、スラリー剥離力が大きかったが、セラミックスラリーの塗布性、剥離性ともに良好であった。
【0136】
(実施例18)
離型剤(A)の含有量を表に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。実施例1と比べるとスラリー剥離力が大きかったが、セラミックスラリーの塗布性、剥離性ともに良好であった。
【0137】
(実施例19)
化合物(X)として下記の化合物(x-1:式(1)の構造を有する)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。実施例1と比べると表面平滑性が良好なものとなった。
・化合物(x-1):(株)ADEKA製 アデカ(R)プルロニックF-108(重量平均分子量15500)
(実施例20)
化合物(X)として下記の化合物(x-2:式(1)の構造を有する)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。実施例1と比べると表面平滑性が良好なものとなった。
・化合物(x-2):(株)ADEKA製 アデカ(R)プルロニックF-88(重量平均分子量10800)
(実施例21)
化合物(X)として下記の化合物(x-3:式(1)の構造を有する)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。実施例1と比べると表面平滑性が良好なものとなった。
・化合物(x-3):(株)ADEKA製 アデカ(R)プルロニックF-68(重量平均分子量8350)
(実施例22)
化合物(X)として下記の化合物(x-4:式(1)の構造を有する)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。実施例1と比べると表面平滑性が良好なものとなった。
・化合物(x-4):日信化学工業(株)製、サーフィノール485(重量平均分子量1500)
(実施例23)
化合物(X)の含有量を表に記載の通りに変更した以外は、実施例19と同様の方法で、
積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。表面平滑性は実施例1と同等レベルであった。
【0138】
(実施例24、25)
化合物(X)の含有量を表に記載の通りに変更した以外は、実施例19と同様の方法で、
積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。実施例1と比べると表面平滑性が良好なものとなった。
【0139】
(実施例26、27)
化合物(X)の含有量を表に記載の通りに変更した以外は、実施例19と同様の方法で、
積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。実施例1と比べると表面平滑性が良好なものとなったが、スラリー剥離力が大きかった。
【0140】
(実施例28)
化合物(X)として下記の化合物(x-5:式(1)の構造を有する)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。実施例1と比べると表面平滑性が良好なものとなったが、転写防止性が不良であった。
・化合物(x-5):日信化学工業(株)製、サーフィノール465(重量平均分子量600)
(実施例29)
化合物(X)として下記のPVA(x-6:式(1)の構造を有さない)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。表面平滑性は実施例1と同等レベルであった。
・PVA(x-6):(株)クラレ製PVA-103(重量平均分子量13000)
(実施例30~33)
化合物(X)の含有量を表に記載の通りに変更した以外は、実施例29と同様の方法で、
積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。実施例1と比べると表面平滑性が良好なものとなったが、スラリー剥離力が大きかった。
【0141】
(実施例34)
化合物(X)として下記のPVA(x-7:式(1)の構造を有さない)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。実施例1と比べると表面平滑性が良好なものとなったが、スラリー剥離力が大きかった。
・PVA(x-7):(株)クラレ製PVA-105(重量平均分子量22000)
(実施例35)
離型剤(A)として下記のシリコーン系樹脂(a―3)を用い、離型剤(A)、架橋剤(B)を質量比で(A)/(B)=70/30となるように混合した以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。実施例1と比べると樹脂層の表面自由エネルギーが小さかったが、セラミックスラリーの塗布性、剥離性ともに良好であった。
・シリコーン系樹脂(a―3):
信越化学工業(株)製のシリコーン成分を含む塗剤、型番X-62-7655と信越化学工業(株)製のシリコーン成分を含む塗剤、型番X-62-7622と信越化学工業(株)製の触媒、型番CAT―7605を質量比95:5:1で混合した。
【0142】
(実施例36)
離型剤(A)として下記の長鎖アルキル基含有樹脂(a―4)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。実施例1と比べると樹脂層の水接触角が小さく、スラリー剥離力が大きかったが、セラミックスラリーの塗布性、剥離性ともに良好であった。
・長鎖アルキル基含有樹脂(a―4)
オクタデシルイソシアネートの代わりにオクチルイソシアネートを使用した以外は、長鎖アルキル基含有樹脂(a-1)と同様の製法で合成し、長鎖アルキル基含有樹脂(a―4:ポリメチレンを主鎖として側鎖に炭素数8のアルキル基を有する)を得た。
【0143】
(実施例37)
離型剤(A)として下記の長鎖アルキル基含有樹脂(a―5)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。実施例1と比べると樹脂層の水接触角が小さく、スラリー剥離力が大きかったが、セラミックスラリーの塗布性、剥離性ともに良好であった。
・長鎖アルキル基含有樹脂(a―5)
オクタデシルイソシアネートの代わりにドデシルイソシアネートを使用した以外は、長鎖アルキル基含有樹脂(a-1)と同様の製法で合成し、長鎖アルキル基含有樹脂(a―5:ポリメチレンを主鎖として側鎖に炭素数12のアルキル基を有する)を得た。
【0144】
(実施例38、39)
樹脂層の厚みを表2に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。スラリー剥離力が大きかったが、セラミックスラリーの塗布性、剥離性ともに良好であった。
【0145】
(実施例40、41)
・樹脂(C):アクリル樹脂(c-4)
ステンレス反応容器に、メタクリル酸メチル(α)、メタクリル酸ヒドロキシエチル(β)、ウレタンアクリレートオリゴマー(根上工業(株)製、アートレジン(登録商標)UN-3320HA、アクリロイル基の数が6)(γ)を(α)/(β)/(γ)=94.5/0.5/5の質量比で仕込み、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを(α)~(γ)の合計100質量部に対して2質量部を加えて撹拌し、混合液1を調製した。次に、攪拌機、環流冷却管、温度計及び滴下ロートを備えた反応装置を準備した。上記混合液1を60質量部と、イソプロピルアルコール200質量部、重合開始剤として過硫酸カリウム5質量部を反応装置に仕込み、60℃に加熱し、混合液2を調製した。混合液2は60℃の加熱状態のまま20分間保持させた。次に、混合液1の40質量部とイソプロピルアルコール50質量部、過硫酸カリウム5質量部からなる混合液3を調製した。続いて、滴下ロートを用いて混合液3を2時間かけて混合液2へ滴下し、混合液4を調製した。その後、混合液4は60℃に加熱した状態のまま2時間保持した。得られた混合液4を50℃以下に冷却した後、攪拌機、減圧設備を備えた容器に移した。そこに、25%アンモニア水60質量部、及び純水900質量部を加え、60℃に加熱しながら減圧下にてイソプロピルアルコール及び未反応モノマーを回収し、純水に分散されたアクリル樹脂(c-4)を得た。
【0146】
樹脂(C)として上記(c-4)を使用し、離型剤(A)の含有量を表1に記載の通りに変更し、樹脂層の厚みを表2に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。
【0147】
(実施例42、43)
・樹脂(C):アクリル樹脂(c-4)
ステンレス反応容器に、メタクリル酸メチル(α)、メタクリル酸ヒドロキシエチル(β)、ウレタンアクリレートオリゴマー(根上工業(株)製、アートレジン(登録商標)UN-3320HA、アクリロイル基の数が6)(γ)を(α)/(β)/(γ)=90/5/5の質量比で仕込み、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを(α)~(γ)の合計100質量部に対して2質量部を加えて撹拌し、混合液1を調製した。次に、攪拌機、環流冷却管、温度計及び滴下ロートを備えた反応装置を準備した。上記混合液1を60質量部と、イソプロピルアルコール200質量部、重合開始剤として過硫酸カリウム5質量部を反応装置に仕込み、60℃に加熱し、混合液2を調製した。混合液2は60℃の加熱状態のまま20分間保持させた。次に、混合液1の40質量部とイソプロピルアルコール50質量部、過硫酸カリウム5質量部からなる混合液3を調製した。続いて、滴下ロートを用いて混合液3を2時間かけて混合液2へ滴下し、混合液4を調製した。その後、混合液4は60℃に加熱した状態のまま2時間保持した。得られた混合液4を50℃以下に冷却した後、攪拌機、減圧設備を備えた容器に移した。そこに、25%アンモニア水60質量部、及び純水900質量部を加え、60℃に加熱しながら減圧下にてイソプロピルアルコール及び未反応モノマーを回収し、純水に分散されたアクリル樹脂(c-5)を得た。
【0148】
樹脂(C)として上記(c-5)を使用し、離型剤(A)の含有量を表1に記載の通りに変更し、樹脂層の厚みを表2に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。
【0149】
(実施例44、45)
実施例44は、化合物(X)として下記のジエチレングリコール(x-8:式(1)の構造を有さない)を用い、樹脂層の厚みを表2に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。
【0150】
(比較例1)
架橋剤(B)、樹脂(C)を使用しない以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの物性等を表に示す。水接触角が100°より大きく、セラミックスラリーの塗布性が不良であった。また、実施例1と比較して、セラミックスラリーの剥離性が不良であった。
【0151】
(比較例2)
樹脂(C)を使用せず、離型剤(A)と架橋剤(B)を(A)/(B)=100/50となるように混合した以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの物性等を表に示す。水接触角が100°より大きく、セラミックスラリーの塗布性が不良であった。また、実施例1と比較してセラミックスラリーの剥離性が不良であった。
【0152】
(比較例3)
架橋剤(B)を使用しない以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの物性等を表に示す。水接触角が100°より大きく、セラミックスラリーの塗布性が不良であった。また、実施例1と比較してセラミックスラリーの剥離性が不良であった。
【0153】
(比較例4)
架橋剤(B)としてメチロール化メラミン(b-1)、オキサゾリン化合物(b-2)の2種を併用した以外は、比較例2と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの物性等を表に示す。セラミックスラリーの剥離性は良好であったが、水接触角が100°より大きく、セラミックスラリーの塗布性が不良であった。
【0154】
(比較例5)
離型剤(A)として下記の長鎖アルキルアクリレート化合物(a―6)を用いた以外は、比較例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの物性等を表に示す。水接触角が100°以下であり、セラミックスラリーの塗布性は良好であったが、実施例1と比較してセラミックスラリーの剥離性が不良であった。
・長鎖アルキルアクリレート化合物(a―6)
攪拌機、温度計、コンデンサーを備えた温度調整可能な反応器中に、トルエン500質量部、ステアリルメタクリレート(アルキル鎖の炭素数18)80質量部、メタクリル酸15質量部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート5質量部、アゾビスイソブチロニトリル1部を滴下器に入れ、反応温度85℃にて4時間で滴下して重合反応を行った。その後、同温度で2時間熟成して反応を完了させ得られた化合物を、イソプロピルアルコール5質量%とn-ブチルセロソルブ5質量%を含む水に溶解させ、長鎖アルキルアクリレート化合物(a-6)を含む溶液を得た。
【0155】
(比較例6)
離型剤(A)として長鎖アルキルアクリレート化合物(a―6)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの物性等を表に示す。水接触角が85°より小さく、セラミックスラリーの剥離性が不良であった。
【0156】
(比較例7)
離型剤(A)を使用しない以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの物性等を表に示す。水接触角が85°より小さく、セラミックスラリーの剥離性が不良であった。
【0157】
(比較例8)
離型剤(A)の含有量を表に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。水接触角が100°より大きく、セラミックスラリーの塗布性が不良であった。
【0158】
【表1】
【0159】
【表2】
【0160】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0161】
本発明の積層フィルムは、セラミックスラリーに代表される表面層の塗布性、及び剥離性に優れ、積層型セラミック電子部品、特にインダクタ素子の製造工程用の工程フィルムとして好適に用いることができる。