(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】ポリイミド前駆体、ポリイミド、ポリイミド樹脂膜、およびフレキシブルデバイス
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20231114BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
C08G73/10
C08J5/18 CFG
(21)【出願番号】P 2019559125
(86)(22)【出願日】2019-10-24
(86)【国際出願番号】 JP2019041645
(87)【国際公開番号】W WO2020095693
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2022-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2018211149
(32)【優先日】2018-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 昭典
(72)【発明者】
【氏名】宮内 拓也
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 大地
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105461923(CN,A)
【文献】国際公開第2013/047451(WO,A1)
【文献】特開平04-036321(JP,A)
【文献】特開2013-256666(JP,A)
【文献】特開2015-141303(JP,A)
【文献】特許第6292351(JP,B2)
【文献】特開2018-048307(JP,A)
【文献】特開2010-254947(JP,A)
【文献】特開2018-122582(JP,A)
【文献】特開2010-108725(JP,A)
【文献】特開2013-080876(JP,A)
【文献】特開2016-162403(JP,A)
【文献】特開2015-229691(JP,A)
【文献】特開2017-020039(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G73、C08J5/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される構造および一般式(2)で表される構造単位を含む、
ことを特徴とするポリイミド前駆体。
【化1】
(一般式(1)中、R
1およびR
2は、各々独立に、炭素数1~20の一価の有機基を示す。ただし、R
1およびR
2の少なくとも1つは、芳香族基を含む。mは、
2以上200以下の整数を示す。)
【化2】
(一般式(2)中、R
3は、一般式(3)で表される二価の有機基を示す。R
4は、芳香族テトラカルボン酸残基を示す。X
1およびX
2は、各々独立に、水素原子、炭素数1~10の一価の有機基または炭素数1~10の一価のアルキルシリル基を示す。)
【化3】
【請求項2】
当該ポリイミド前駆体全体の量を100質量%とした場合、前記一般式(1)で表される構造を0.1質量%以上30質量%以下含む、
ことを特徴とする請求項1に記載のポリイミド前駆体。
【請求項3】
当該ポリイミド前駆体に含まれる全ジアミン残基中、前記一般式(3)で表される二価の有機基の構造単位を30mol%以上含む、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のポリイミド前駆体。
【請求項4】
当該ポリイミド前駆体に含まれる全酸二無水物残基中、フルオレン骨格を有する酸無水物残基を5mol%以上55mol%以下含む、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載のポリイミド前駆体。
【請求項5】
下記一般式(4)で表される化合物の残基を含む、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載のポリイミド前駆体。
【化4】
(一般式(4)中、複数のR
5は、それぞれ独立に、単結合又は炭素数1~10の二価の有機基である。複数のR
6およびR
7は、それぞれ独立に、炭素数1~3の一価の脂肪族炭化水素基、または炭素数6~10の芳香族基である。Lは、アミノ基もしくはその反応性誘導体または酸二無水物構造もしくはその反応性誘導体を含む基である。yは、1以上199以下の整数である。)
【請求項6】
前記一般式(4)で表され且つyが1以上20以下である化合物の残基と、前記一般式(4)で表され且つyが21以上60以下である化合物の残基とを両方含む、
ことを特徴とする請求項5に記載のポリイミド前駆体。
【請求項7】
下記一般式(9)で表されるジアミンの残基を含む、
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか一つに記載のポリイミド前駆体。
【化5】
(一般式(9)中、R
8は、置換又は非置換のフェニル基である。sは、1以上4以下の整数を示す。)
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一つに記載のポリイミド前駆体をイミド化してなる、
ことを特徴とするポリイミド。
【請求項9】
一般式(1)で表される構造および一般式(14)で表される構造単位を含む、
ことを特徴とするポリイミド。
【化6】
(一般式(1)中、R
1およびR
2は、各々独立に、炭素数1~20の一価の有機基を示す。ただし、R
1およびR
2の少なくとも1つは、芳香族基を含む。mは、
2以上200以下の整数を示す。)
【化7】
(一般式(14)中、R
3は、一般式(3)で表される二価の有機基を示す。R
4は、芳香族テトラカルボン酸残基を示す。)
【化8】
【請求項10】
当該ポリイミド全体の量を100質量%とした場合、前記一般式(1)で表される構造を0.1質量%以上30質量%以下含む、
ことを特徴とする請求項9に記載のポリイミド。
【請求項11】
当該ポリイミドに含まれる全ジアミン残基中、前記一般式(3)で表される二価の有機基の構造単位を30mol%以上含む、
ことを特徴とする請求項9または10に記載のポリイミド。
【請求項12】
請求項8~11のいずれか一つに記載のポリイミドを含む、
ことを特徴とするポリイミド樹脂膜。
【請求項13】
密度が、1.20g/cm
3以上1.43g/cm
3以下である、
ことを特徴とする請求項12に記載のポリイミド樹脂膜。
【請求項14】
面内/面外複屈折が0.01以下である、
ことを特徴とする請求項12または13に記載のポリイミド樹脂膜。
【請求項15】
黄色度が3以下である、
ことを特徴とする請求項12~14のいずれか一つに記載のポリイミド樹脂膜。
【請求項16】
請求項12~15のいずれか一つに記載のポリイミド樹脂膜を備える、
ことを特徴とするフレキシブルデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド前駆体、ポリイミド、ポリイミド樹脂膜、およびフレキシブルデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
有機フィルムは、ガラスに比べて屈曲性に富み、割れにくく、軽量といった特長を有する。最近では、フラットパネルディスプレイの基板を有機フィルムに替えることで、フラットパネルディスプレイをフレキシブル化する動きが活発化している。
【0003】
有機フィルムに用いられる樹脂としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、アクリル、エポキシ、シクロオレフィンポリマーなどが挙げられる。これらのうち、ポリイミドは、高耐熱性樹脂であることから、ディスプレイ基板として適している。しかしながら、一般的なポリイミド樹脂は、高い芳香環密度により、茶色又は黄色に着色し、可視光線領域での透過率が低く、透明性が要求される分野に用いることは困難であった。
【0004】
このようなポリイミド樹脂の透明性を向上するという課題に対して、特許文献1には、脂環式酸二無水物と水酸基とを有するアミン、具体的には2,2-ビス[3-(3-アミノベンズアミド)-4-ヒドロキシフェニル]ヘキサフルオロプロパン(HFHA)を用いたポリイミド樹脂膜が、高い耐熱性および光透過性を有するものとして開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、空気中で焼成を行って得られる透明ポリイミド樹脂膜を用いてフレキシブルなタッチパネルを得る手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2013/24849号
【文献】国際公開第2018/84067号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、高い透明性と低い面内/面外複屈折とを有するポリイミドが開示されている。しかし、特許文献1に記載のポリイミドでは、ポリイミド樹脂膜を製膜するためにイナートオーブンで長い時間をかけて焼成を行う必要があるため、ポリイミド樹脂膜の製膜に多大なコストおよび時間がかかるという問題があった。
【0008】
また、特許文献2には、空気中で30分間焼成を行うことで透明なポリイミド樹脂膜が得られる旨の開示がある。しかし、特許文献2に記載の透明ポリイミド樹脂膜は、ガラス転移温度が220℃~230℃程度の樹脂膜であり、タッチパネルやディスプレイ等のデバイスに用いられる樹脂膜としてはガラス転移温度が低いという問題があった。ガラス転移温度が低いポリイミド樹脂膜をデバイスに用いる場合、例えば、タッチパネルの信頼性を向上させるべく、ポリイミド樹脂膜上に無機膜を形成した後にタッチパネルやカラーフィルタを形成すると、無機膜にシワが発生し、表面平滑性が低下する。
【0009】
このように、現状では、透明性が高く、ガラス転移温度が高く、面内/面外複屈折が低く、さらに良好な基板密着性を有するポリイミドを効率よく得る方法は知られていない。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、透明性が高く、ガラス転移温度が高く、面内/面外複屈折が低く、支持基板との密着性が良好なポリイミドを効率よく得ることができるポリイミド前駆体を提供することを第1の目的とする。また、本発明は、このようなポリイミド前駆体を用いて得られるポリイミド、ポリイミド樹脂膜、およびフレキシブルデバイスを提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るポリイミド前駆体は、一般式(1)で表される構造および一般式(2)で表される構造単位を含む、ことを特徴とする。
【0012】
【化1】
(一般式(1)中、R
1およびR
2は、各々独立に、炭素数1~20の一価の有機基を示す。mは、1以上200以下の整数を示す。)
【0013】
【化2】
(一般式(2)中、R
3は、一般式(3)で表される二価の有機基を示す。R
4は、芳香族テトラカルボン酸残基を示す。X
1およびX
2は、各々独立に、水素原子、炭素数1~10の一価の有機基または炭素数1~10の一価のアルキルシリル基を示す。)
【0014】
【0015】
また、本発明に係るポリイミド前駆体は、上記の発明において、当該ポリイミド前駆体全体の量を100質量%とした場合、前記一般式(1)で表される構造を0.1質量%以上30質量%以下含む、ことを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係るポリイミド前駆体は、上記の発明において、当該ポリイミド前駆体に含まれる全ジアミン残基中、前記一般式(3)で表される二価の有機基の構造単位を30mol%以上含む、ことを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係るポリイミド前駆体は、上記の発明において、当該ポリイミド前駆体に含まれる全酸二無水物残基中、フルオレン骨格を有する酸無水物残基を5mol%以上55mol%以下含む、ことを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係るポリイミド前駆体は、上記の発明において、下記一般式(4)で表される化合物の残基を含む、ことを特徴とする。
【0019】
【化4】
(一般式(4)中、複数のR
5は、それぞれ独立に、単結合又は炭素数1~10の二価の有機基である。複数のR
6およびR
7は、それぞれ独立に、炭素数1~3の一価の脂肪族炭化水素基、または炭素数6~10の芳香族基である。Lは、アミノ基もしくはその反応性誘導体または酸二無水物構造もしくはその反応性誘導体を含む基である。yは、1以上199以下の整数である。)
【0020】
また、本発明に係るポリイミド前駆体は、上記の発明において、前記一般式(4)で表され且つyが1以上20以下である化合物の残基と、前記一般式(4)で表され且つyが21以上60以下である化合物の残基とを両方含む、ことを特徴とする。
【0021】
また、本発明に係るポリイミド前駆体は、上記の発明において、下記一般式(9)で表されるジアミンの残基を含む、ことを特徴とする。
【0022】
【化5】
(一般式(9)中、R
8は、置換又は非置換のフェニル基である。sは、1以上4以下の整数を示す。)
【0023】
また、本発明に係るポリイミドは、上記の発明のいずれか一つに記載のポリイミド前駆体をイミド化してなる、ことを特徴とする。
【0024】
また、本発明に係るポリイミドは、一般式(1)で表される構造および一般式(14)で表される構造単位を含む、ことを特徴とする。
【0025】
【化6】
(一般式(1)中、R
1およびR
2は、各々独立に、炭素数1~20の一価の有機基を示す。mは、1以上200以下の整数を示す。)
【0026】
【化7】
(一般式(14)中、R
3は、一般式(3)で表される二価の有機基を示す。R
4は、芳香族テトラカルボン酸残基を示す。)
【0027】
【0028】
また、本発明に係るポリイミドは、上記の発明において、当該ポリイミド全体の量を100質量%とした場合、前記一般式(1)で表される構造を0.1質量%以上30質量%以下含む、ことを特徴とする。
【0029】
また、本発明に係るポリイミドは、上記の発明において、当該ポリイミドに含まれる全ジアミン残基中、前記一般式(3)で表される二価の有機基の構造単位を30mol%以上含む、ことを特徴とする。
【0030】
また、本発明に係るポリイミド樹脂膜は、上記の発明のいずれか一つに記載のポリイミドを含む、ことを特徴とする。
【0031】
また、本発明に係るポリイミド樹脂膜は、上記の発明において、密度が、1.20g/cm3以上1.43g/cm3以下である、ことを特徴とする。
【0032】
また、本発明に係るポリイミド樹脂膜は、上記の発明において、面内/面外複屈折が0.01以下である、ことを特徴とする。
【0033】
また、本発明に係るポリイミド樹脂膜は、上記の発明において、黄色度が3以下である、ことを特徴とする。
【0034】
また、本発明に係るフレキシブルデバイスは、上記の発明のいずれか一つに記載のポリイミド樹脂膜を備える、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、空気中で短時間加熱することで、透明性が高く、ガラス転移温度が高く、面内/面外複屈折が低く、支持基板との密着性が良好なポリイミドを効率よく得ることができるポリイミド前駆体を提供することができる。本発明のポリイミド前駆体から得られるポリイミドおよびポリイミド樹脂膜は、フレキシブルデバイス、例えばタッチパネル、カラーフィルタ等のディスプレイ用のフレキシブル基板として好適に用いることができる。このようなフレキシブル基板を用いることで、高精彩で信頼性の高いフレキシブルディスプレイ(フレキシブルデバイスの一例)の作製が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係るポリイミド樹脂膜を含むカラーフィルタの一構成例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明を実施するための形態を図面と共に詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により本発明が限定されるものではない。また、以下の説明において参照する各図は、本発明の内容を理解でき得る程度に形状、大きさ、および位置関係を概略的に示してあるに過ぎない。すなわち、本発明は各図で例示された形状、大きさ、および位置関係のみに限定されるものではない。
【0038】
<ポリイミド前駆体>
本発明の実施の形態に係るポリイミド前駆体は、一般式(1)で表される構造および一般式(2)で表される構造単位を含むものである。
【0039】
【0040】
一般式(1)中、R1およびR2は、各々独立に、炭素数1~20の一価の有機基を示す。mは、1以上200以下の整数を示す。
【0041】
【0042】
一般式(2)中、R3は、一般式(3)で表される二価の有機基を示す。R4は、芳香族テトラカルボン酸残基を示す。X1およびX2は、各々独立に、水素原子、炭素数1~10の一価の有機基または炭素数1~10の一価のアルキルシリル基を示す。
【0043】
【0044】
なお、「炭素数1~10」は、「炭素数1以上、炭素数10以下」を示す。本発明における同様の記載は、同様の意味を示す。
【0045】
本発明の実施の形態に係るポリイミド前駆体は、一般式(1)で表される構造と、一般式(2)で表される構造単位とを含むことで、以下のような効果を奏する。すなわち、このポリイミド前駆体を空気中で短時間加熱することで、透明性が高く、ガラス転移温度(Tg)が高く、面内/面外複屈折が低く、基板密着力が良好なポリイミドを効率よく得ることができる。
【0046】
一般式(2)で表される構造単位は、本発明の実施の形態に係るポリイミド前駆体において、繰り返される化合物の構造単位である。以下、この構造単位は、「繰り返し構造単位」または単に「繰り返し単位」と適宜称される。このことは、一般式(2)で表される構造単位に限らず、一般式(2)以外の一般式で表される構造単位についても同様である。
【0047】
本発明の実施の形態に係るポリイミド前駆体は、ポリイミドを構成する酸二無水物残基およびジアミン残基のうち少なくとも一つの中に、一般式(1)で表される構造を有する。これにより、ポリイミド前駆体から得られるポリイミドとガラス支持基板との密着力が向上する。これは、一般式(1)で表される構造とガラス表面に存在するシラノール基とが水素結合を形成することで、強い相互作用が生まれることに起因すると考えられる。
【0048】
R1およびR2における炭素数1~20の一価の有機基としては、炭化水素基、アルコキシ基、エポキシ基等を挙げることができる。R1およびR2における炭化水素基としては、炭素数1~20のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数6~20のアリール基等が挙げられる。
【0049】
炭素数1~20のアルキル基としては、炭素数1~10のアルキル基であることが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。炭素数3~20のシクロアルキル基としては、炭素数3~10のシクロアルキル基であることが好ましく、具体的には、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。炭素数6~20のアリール基としては、炭素数6~12のアリール基であることが好ましく、具体的には、フェニル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0050】
R1およびR2におけるアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基、フェノキシ基、プロペニルオキシ基およびシクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0051】
一般式(1)におけるR1およびR2は、炭素数1~3の一価の脂肪族炭化水素基、または炭素数6~10の芳香族基であることが好ましい。なぜならば、ポリイミド前駆体組成物の保存安定性が良好であり、かつ、得られるポリイミドが高い耐熱性を有するからである。ここで、炭素数1~3の一価の脂肪族炭化水素は、好ましくはメチル基である。炭素数6~10の芳香族基は、好ましくはフェニル基である。
【0052】
一般式(1)におけるR1およびR2の少なくとも1つは、芳香族基を含むことが好ましい。なぜならば、一般式(1)で表される構造を有することに起因する相分離が抑制され、透明性の高いポリイミドを得ることができるからである。この場合、一般式(1)で表される構造中の全てのR1およびR2のうち、炭素数1~3の脂肪族炭化水素基のモル数M1と炭素数6~10の芳香族基のモル数M2との比(但し、M1+M2=100)は、好ましくはM1:M2=90~10:10~90であり、より好ましくはM1:M2=85~15:15~85であり、さらに好ましくはM1:M2=85~30:15~70である。この比が上記範囲にあると、相分離によるポリイミドのヘイズ発生を抑制でき、透明性の高いポリイミド樹脂膜を得ることができる。
【0053】
本発明の実施の形態に係るポリイミド前駆体は、当該ポリイミド前駆体全体の量を100質量%とした場合、一般式(1)で表される構造を0.1質量%以上30質量%以下含むことが好ましい。また、当該ポリイミド前駆体において、一般式(1)で表される構造は、5質量%以上25質量%以下含まれることが好ましく、8質量%以上23質量%以下含まれることがより好ましく、10質量%以上22質量%以下含まれることがさらに好ましい。
【0054】
ポリイミド前駆体中に含まれる一般式(1)で表される構造の割合が上記範囲内であると、得られるポリイミドの白濁、ガラス転移温度の低下、加熱時の発ガス量の増加を抑制することができる。
【0055】
一般式(1)中のmは、1以上200以下の整数であり、好ましくは2以上150以下の整数であり、より好ましくは5以上100以下の整数であり、さらに好ましくは10以上60以下の整数である。この整数mが上記範囲内である場合、ポリイミドとガラス基板との密着性を向上させることができる。また、ポリイミド樹脂膜が白濁したり、ポリイミド樹脂膜の機械強度が低下したりすることを抑制し、さらには、ポリイミド樹脂膜の残留応力を低減することができる。
【0056】
本発明において、「残留応力」とは、樹脂組成物をガラス基板等の基板上に塗布して膜を形成した後の膜内部に残っている応力のことをいい、膜に生じ得る「反り」の目安となる。具体的には、下記実施例に記載の方法で測定することができる。
【0057】
本発明の実施の形態に係るポリイミド前駆体は、上述したように一般式(1)で表される構造を含むものであり、下記一般式(4)で表される化合物の残基を含むことが好ましい。このようなポリイミド前駆体は、一般式(4)で表される化合物をモノマー成分の1つとして用いることにより得られる。
【0058】
【0059】
一般式(4)中、複数のR5は、それぞれ独立に、単結合または炭素数1~10の二価の有機基である。複数のR6およびR7は、それぞれ独立に、炭素数1~3の一価の脂肪族炭化水素基、または炭素数6~10の芳香族基である。Lは、アミノ基もしくはその反応性誘導体または酸二無水物構造もしくはその反応性誘導体を含む基である。yは、1以上199以下の整数である。この整数yは、1以上100以下であることが好ましく、1以上60以下であることがより好ましい。
【0060】
一般式(4)において、R5における炭素数1~10の二価の有機基としては、炭素数1~10のアルキレン基、炭素数3~10のシクロアルキレン基、炭素数6~10のアリーレン基等が挙げられる。炭素数1~10のアルキレン基としては、メチレン基、ジメチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられる。炭素数3~10のシクロアルキレン基としては、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロヘプチレン基等が挙げられる。炭素数6~10のアリーレン基としては、炭素数6~10の芳香族基が好ましく、フェニレン基、ナフチレン基等が挙げられる。R5における炭素数1~10の二価の有機基としては、それらの中でも、炭素数1~10の二価の脂肪族炭化水素基が好ましい。
【0061】
R6およびR7における各基の好ましい具体例としては、上記一般式(1)で表される構造中のR1およびR2における「炭素数1~3の一価の脂肪族炭化水素基」または「炭素数6~10の芳香族基」と同じものが挙げられる。
【0062】
一般式(4)中のLにおけるアミノ基の反応性誘導体としては、イソシアネート基、ビス(トリアルキルシリル)アミノ基などが挙げられる。Lがアミノ基である場合の、一般式(4)で表される化合物の残基の具体例としては、両末端アミノ変性メチルフェニルシリコーンである、X22-1660B-3(信越化学社製、数平均分子量4,400、y=39~41、フェニル基:メチル基=25:75mol%)、X22-9409(信越化学社製、数平均分子量1,340、y=10~11、フェニル基:メチル基=25:75mol%)、X22-9681(信越化学社製、数平均分子量2,840、y=25~26、フェニル基:メチル基=25:75mol%)、両末端アミノ変性ジメチルシリコーンである、X22-161A(信越化学社製、数平均分子量1,600、y=19~20)、X22-161B(信越化学社製、数平均分子量3,000、y=38~39)、KF8012(信越化学社製、数平均分子量4,400、y=57)、BY16-835U(東レダウコーニング社製、数平均分子量900、y=9~10)、サイラプレーンFM3311(チッソ社製、数平均分子量1000、y=11~12)、1,3-ビス(3-アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン(数平均分子量248.5、y=1)などが挙げられる。以下、「1,3-ビス(3-アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン」は、「SiDA」と称する。
【0063】
また、一般式(4)中のLにおける酸無水物構造の反応性誘導体としては、ジカルボン酸の酸エステル化物、ジカルボン酸の酸クロライドなどが挙げられる。Lが酸無水物構造を含む基である具体例としては、下記式で表される基等が挙げられる。
【0064】
【0065】
Lが酸無水物構造を含む基である場合の、一般式(4)で表される化合物の具体例としては、X22-168AS(信越化学社製、数平均分子量1,000)、X22-168A(信越化学社製、数平均分子量2,000)、X22-168B(信越化学社製、数平均分子量3,200)、X22-168-P5-B(信越化学社製、数平均分子量4,200、y=34~38、フェニル基:メチル基=25:75mol%)、DMS-Z21(ゲレスト社製、数平均分子量600~800、y=3~6)などが挙げられる。
【0066】
ポリイミド前駆体の分子量向上の観点、ポリイミド前駆体と溶媒とからなるワニスの白濁を回避するという観点、コストの観点および得られるポリイミドの耐熱性の観点から、一般式(4)中のLは、アミノ基であることがより好ましい。
【0067】
また、本発明の実施の形態に係るポリイミド前駆体は、一般式(4)で表され且つyが1以上20以下である化合物の残基(以下、「一般式(4)で表される第1の化合物の残基」と称する)と、一般式(4)で表され且つyが21以上60以下である化合物の残基(以下、「一般式(4)で表される第2の化合物の残基」と称する)とを両方含むことが好ましい。当該ポリイミド前駆体が一般式(4)で表される第1の化合物の残基を含むことにより、支持基板との密着性が良好であり且つヘイズが小さく透明性が良好なポリイミドを得ることが可能となる。また、当該ポリイミド前駆体が一般式(4)で表される第2の化合物の残基を含むことにより、支持基板との密着が良好であり且つガラス転移温度が高く、残留応力が小さく、破断伸度に優れたポリイミドを得ることが可能となる。したがって、当該ポリイミド前駆体が一般式(4)で表される第1の化合物の残基と第2の化合物の残基とを両方含むことにより、支持基板との密着性が良好で、透明性が高く、ガラス転移温度が高く、残留応力が小さく、破断伸度に優れたポリイミドを得ることができる。
【0068】
一般式(4)中のyは、例えば、以下の式により算出することができる。一般式(4)で表される化合物が、「両末端がアミノプロピル基であり且つ一般式(4)中のR6およびR7のすべてがメチル基またはフェニル基となっている化合物である」という条件を満足する場合、下記の式が成立する。
y={(一般式(4)で表される化合物の数平均分子量)-(両末端基(アミノプロピル基)の分子量=116.2)+(酸素原子の原子量=16.0)}/{(一般式(4)中のR6およびR7が共にメチル基である場合の繰り返し構造単位の分子量=74.15)×(メチル基のmol%)×0.01+(一般式(4)中のR6およびR7が共にフェニル基である場合の繰り返し構造単位の分子量=198.29)×(フェニル基のmol%)×0.01}-1
【0069】
一方、一般式(2)中、X1およびX2における炭素数1~10の一価の有機基としては、炭素数1~10の一価の炭化水素基を挙げることができる。炭素数1~10の一価の炭化水素基としては、炭素数1~10のアルキル基等が挙げられる。炭素数1~10のアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
【0070】
また、X1およびX2における炭素数1~10の一価のアルキルシリル基としては、炭素数1~10のアルキル基が結合した一価のシリル基が挙げられる。炭素数1~10の一価のアルキルシリル基としては、具体的には、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基等が挙げられる。
【0071】
一般式(2)中、R3は、上述したように一般式(3)で表される二価の有機基であり、好ましくはジアミン残基である。R4は、芳香族テトラカルボン酸またはその誘導体の残基である。R4の炭素数は、6~40であることが好ましい。
【0072】
R3を与えるジアミンとしては、例えば、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(6FODA)、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニルエーテルが挙げられる。
【0073】
一般式(2)中のR3は、一般式(3)で表される構造を有するジアミン残基である場合、当該ジアミン残基の構造の中心に柔軟なエーテル結合を有する。このため、本発明の実施の形態に係るポリイミド前駆体をイミド化して得られるポリイミドの配向を抑制することができ、この結果、面内/面外複屈折の小さいポリイミド樹脂膜を得ることができる。さらに、上記R3としてのジアミン残基は、求電子性の官能基であるトリフルオロメチル基を有する。このため、ポリイミド前駆体における分子内および分子間の電子移動が抑制され、透明性の高いポリイミド樹脂膜を得ることが可能である。
【0074】
本発明の実施の形態に係るポリイミド前駆体は、当該ポリイミド前駆体に含まれる全ジアミン残基中、一般式(3)で表される二価の有機基の構造単位を30mol%以上含むことが好ましく、50mol%以上含むことがさらに好ましい。なお、当該構造単位の含有率の上限は、特に限定されないが、100mol%以下であることが好ましい。
【0075】
一般式(2)中のR4を与えるテトラカルボン酸としては、例えば、ピロメリット酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル、2,2-ビス(4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル)プロパン、9,9-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]フルオレン、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸などが挙げられる。
【0076】
これらのテトラカルボン酸は、そのまま使用してもよいし、酸無水物、活性エステル、活性アミドなどのテトラカルボン酸誘導体の状態で使用してもよい。これらのテトラカルボン酸誘導体のうち、酸無水物は、重合時に副生成物が生じないため、好ましく用いられる。また、これらのテトラカルボン酸誘導体は、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0077】
また、一般式(2)におけるR4は、下記一般式(5)で表される四価の有機基であることが好ましい。
【0078】
【0079】
一般式(5)において、Y1は、直接結合であるか、酸素原子、硫黄原子、スルホニル基およびハロゲン原子からなる群より選ばれる1種以上で置換されていてもよい炭素数1~3の二価の有機基であるか、または、エステル結合、アミド結合、カルボニル基、スルフィド結合および芳香族環を有する炭素数1~20の有機基からなる群より選ばれる二価の架橋構造である。
【0080】
一般式(5)で表される構造を与える化合物として、例えば、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル、9,9-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]フルオレン、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸などが挙げられる。
【0081】
一般式(2)におけるR4は、なかでも、一般式(6)で表される構造、一般式(7)で表される構造、および一般式(8)で表される構造の中から選ばれる1種以上の構造を含む芳香族テトラカルボン酸残基であることが特に好ましい。当該R4が一般式(6)で表される構造を含むことで、ガラス転移温度が高いポリイミドを得ることができる。また、当該R4が一般式(7)で表される構造を含むことで、透明性が高く、面内/面外複屈折が小さく、ガラス転移温度が高いポリイミドを得ることができる。また、当該R4が一般式(8)で表される構造を含むことで、透明性が高く、面内/面外複屈折が小さいポリイミドを得ることができる。
【0082】
【0083】
本発明の実施の形態に係るポリイミド前駆体は、当該ポリイミド前駆体に含まれる全酸二無水物残基中、フルオレン骨格を有する酸無水物残基を5mol%以上55mol%以下含むことが好ましく、10mol%以上45mol%以下含むことが更に好ましい。これにより、より面内/面外複屈折の小さいポリイミドを得ることができる。フルオレン骨格を有する酸無水物残基の構造としては、上記一般式(7)で表される構造などが挙げられる。
【0084】
また、本発明の実施の形態に係るポリイミド前駆体は、一般式(9)で表されるジアミンの残基を含むことが好ましい。
【0085】
【0086】
一般式(9)中、R8は、置換又は非置換のフェニル基である。sは、1以上4以下の整数を示す。
【0087】
R8は、フェニル基、又はフェニル基で置換されたフェニル基であることが好ましい。例えば、R8は、フェニル基又はビフェニル基である。
【0088】
一般式(9)で表されるジアミンは、必ずカルボキシル基を含む構造である。このため、一般式(9)で表されるジアミンの残基を含むポリイミド前駆体では、分子間で強固に水素結合を形成して分子間相互作用が強まる。このようなポリイミド前駆体を用いることにより、ガラス転移温度が高く、機械強度に優れたポリイミドを得ることが可能になる。
【0089】
一般式(9)で表されるジアミンには、例えば、下記一般式(10)で表されるものがある。
【0090】
【0091】
一般式(10)で表されるジアミンは、具体的には、3,5-ジアミノ安息香酸、3,4-ジアミノ安息香酸、2,3-ジアミノ安息香酸、又は2,6-ジアミノ安息香酸である。本発明において、一般式(9)で表されるジアミンは、一般式(10)で表される、これらジアミンの具体例に限定されない。
【0092】
本発明の実施の形態に係るポリイミド前駆体は、当該ポリイミド前駆体全体の量を100mol%とした場合、一般式(9)で表されるジアミンの残基を1mol%以上50mol%以下含むことが好ましい。また、当該ポリイミド前駆体は、一般式(9)で表されるジアミンの残基を、5mol%以上40mol%以下含むことがより好ましく、10mol%以上35mol%以下含むことがさらに好ましい。
【0093】
本発明の実施の形態に係るポリイミド前駆体は、トリアミン骨格を含んでもよい。トリアミンは、3つのアミノ基を有しており、3つのテトラカルボン酸二無水物成分と結合することにより分岐状の分子鎖を形成する。トリアミン骨格は、ポリアミック酸の分子鎖に分岐構造を導入し、分岐ポリアミック酸を形成する。それにより、ポリイミド前駆体が溶解したワニスの粘度を向上させることが可能となり、スリットで塗布を行った際の膜厚均一性を高めることができる。また、分岐構造を有するポリイミド前駆体から得られるポリイミドの分子量は、分岐構造が無いものに比べて大きくなるため、機械強度に優れたポリイミド樹脂膜を得ることが可能である。このようなトリアミン骨格を有するポリイミド前駆体は、トリアミン化合物を重合成分の1つとして用いることで、得ることができる。
【0094】
トリアミン化合物の具体例のうち、脂肪族基を有さないものとして、2,4,4’-トリアミノジフェニルエーテル(TAPE)、1,3,5-トリス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(1,3,5-TAPOB)、1,2,3-トリス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(1,2,3-TAPOB)、トリス(4-アミノフェニル)アミン、1,3,5-トリス(4-アミノフェニル)ベンゼン、3,4,4’-トリアミノジフェニルエーテル等を挙げることができる。また、脂肪族基を有するトリアミン化合物の具体例として、トリス(2-アミノエチル)アミン(TAEA)、トリス(3-アミノプロピル)アミン等を挙げることができる。
【0095】
上述したように、トリアミンは、ポリイミド樹脂の分子鎖において、架橋構造の分岐を構成することになる。このトリアミンが熱分解してしまうと、ポリイミド樹脂の架橋構造が失われてしまうため、トリアミン成分としては、脂肪族基を有さず、熱分解しにくい成分を用いることが好ましい。つまり、2,4,4’-トリアミノジフェニルエーテル(TAPE)、1,3,5-トリス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(1,3,5-TAPOB)、1,2,3-トリス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(1,2,3-TAPOB)等を用いることが好ましい。
【0096】
また、本発明の実施の形態に係るポリイミド前駆体は、テトラアミン骨格を含んでもよい。テトラアミンは、4つのアミノ基を有しており、4つのテトラカルボン酸二無水物成分と結合することにより分岐状の分子鎖を形成する。テトラアミン骨格は、ポリアミック酸の分子鎖に分岐構造を導入し、分岐ポリアミック酸を形成する。それにより、ポリイミド前駆体が溶けたワニスの粘度を向上させることが可能となり、スリットで塗布を行った際の膜厚均一性を高めることができる。また、分岐構造を有するポリイミド前駆体から得られるポリイミドの分子量は、分岐構造が無いものに比べて大きくなるため、機械強度に優れたポリイミドを得ることが可能である。さらに、テトラアミン骨格を含むことでポリイミドのガラス転移温度を向上させることができる。これは、テトラカルボン酸二無水物とテトラアミンとを反応させた場合に、一部、耐熱性の高いベンゾイミダゾール構造が生成するためと考えられる。このようなテトラアミン骨格を有するポリイミド前駆体は、テトラアミン化合物を重合成分の1つとして用いることで、得ることができる。
【0097】
テトラアミン化合物の具体例として、1,2,4,5-テトラアミノベンゼン、3,3’,4,4’-テトラアミノビフェニル、3,3’,4,4’-テトラアミノジフェニルスルホン、3,3’,4,4’-テトラアミノジフェニルエーテル、3,3’,4,4’-テトラアミノジフェニルスルフィド、2,3,6,7-テトラアミノナフタレン、1,2,5,6-テトラアミノナフタレンなどを挙げることができる。あるいは、テトラアミン化合物の具体例として、これらの多価アミン化合物またはジアミン化合物に含まれる芳香族環に結合する水素の一部を炭化水素やハロゲンで置換した化合物を挙げることができる。
【0098】
テトラアミン成分としては、上記のトリアミンと同様に、脂肪族基を有さず、熱分解しにくい成分を用いることが好ましく、さらには、透明性を向上させることから、電子求引基を有することが好ましい。つまり、3,3’,4,4’-テトラアミノジフェニルスルホン等を用いることが好ましい。
【0099】
本発明において、電子求引基は、ハメット(Hammett)の置換基定数(パラ位,σp)が通常0より大きく、0.01以上であることが好ましく、0.1以上であることがさらに好ましく、0.5以上であることが特に好ましい。ハメットの置換基定数は、例えば日本化学会編、「化学便覧」、改訂第5版、第II分冊、丸善株式会社、2004年2月、380頁に記載されている。電子求引基の例としては、ハロゲン原子、シアノ基、水素原子若しくは置換基を有するカルボニル基、ニトロ基、トリフルオロメチル基のようなパーフルオロアルキル基、スルホニル基、等が挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、臭素原子、塩素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0100】
本発明の実施の形態に係るポリイミド前駆体は、本発明の効果を妨げない範囲で、上述した構造単位以外である他の構造単位を含んでもよい。他の構造単位としては、ポリアミド酸の脱水閉環体であるポリイミド、ポリヒドロキシアミドの脱水閉環体であるポリベンゾオキサゾール等が挙げられる。
【0101】
他の構造単位に用いられる酸二無水物としては、国際公開第2017/099183号に記載の芳香族酸二無水物、脂環式酸二無水物又は、脂肪族酸二無水物が挙げられる。他の構造単位に用いられるジアミン化合物としては、国際公開第2017/099183号に記載の芳香族ジアミン、脂環式ジアミン又は、脂肪族ジアミンが挙げられる。
【0102】
また、本発明の実施の形態に係るポリイミド前駆体は、当該ポリイミド前駆体に含まれる構造単位(例えば一般式(2)で表される構造単位)の一部がイミド化していてもよい。当該ポリイミド前駆体の一部をイミド化することで、当該ポリイミド前駆体を含有する樹脂溶液の室温保管時の粘度安定性を向上させることができる。当該ポリイミド前駆体のイミド化率の範囲としては、1%以上50%以下が、溶液への溶解性、粘度安定性の観点から好ましい。このイミド化率の下限は、より好ましくは5%以上である。また、このイミド化率の上限は、より好ましくは30%以下である。
【0103】
一部がイミド化したポリイミド前駆体としては、例えば、一般式(11)で表される繰り返し単位を有する樹脂、一般式(12)で表される繰り返し単位を有する樹脂、及び一般式(13)で表される繰り返し単位を有する樹脂が挙げられる。
【0104】
【0105】
一般式(11)~(13)中、R9は、二価の有機基を示す。R10は、四価の有機基を示す。W1およびW2は、各々独立に、水素原子、炭素数1~10の一価の有機基または炭素数1~10の一価のアルキルシリル基を示す。R9の二価の有機基としては、上述のジアミン残基と同様である。R10の四価の有機基としては、上述のテトラカルボン酸残基と同様である。
【0106】
本発明の実施の形態に係るポリイミド前駆体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10,000~1,000,000であり、より好ましくは10,000~500,000であり、さらに好ましくは20,000~400,000である。当該ポリイミド前駆体の数平均分子量(Mn)は、5,000~1,000,000であり、好ましくは5,000~500,000であり、特に好ましくは15,000~300,000である。当該ポリイミド前駆体の重量平均分子量および数平均分子量が上記範囲内である場合、得られるポリイミド樹脂の塗膜の平坦性を悪化させることなく、キュア後に得られるポリイミド樹脂膜の強度を高めることが可能である。
【0107】
なお、本発明において、重量平均分子量、数平均分子量および分子量分布は、TOSOH製DP-8020型GPC装置(ガードカラム:TSK guard colomn ALPHA カラム:TSK-GEL α-M、展開溶剤:N,N’-ジメチルアセトアミド(DMAc)、0.05M-LiCl、0.05%リン酸添加)を用いて測定した値である。
【0108】
本発明の実施の形態に係るポリイミド前駆体は、末端が末端封止剤によって封止されたものであってもよい。当該ポリイミド前駆体の末端に末端封止剤を反応させることで、当該ポリイミド前駆体の分子量を好ましい範囲に調整できる。当該ポリイミド前駆体における末端のモノマーがジアミン化合物である場合は、このジアミン化合物のアミノ基を封止するために、ジカルボン酸無水物、モノカルボン酸、モノカルボン酸クロリド化合物、モノカルボン酸活性エステル化合物、二炭酸ジアルキルエステルなどを末端封止剤として用いることができる。当該ポリイミド前駆体における末端のモノマーが酸二無水物である場合は、この酸二無水物の酸無水物基を封止するために、モノアミン、モノアルコールなどを末端封止剤として用いることができる。
【0109】
<ポリイミド前駆体組成物>
本発明の実施の形態に係るポリイミド前駆体は、適当な成分と混合することによってポリイミド前駆体組成物とすることができる。このポリイミド前駆体組成物に含まれていてもよい成分としては、特に限定されないが、溶媒、紫外線吸収剤、カップリング剤、熱架橋剤、無機フィラー、界面活性剤、内部剥離剤、着色剤等が挙げられる。
【0110】
(溶媒)
ポリイミド前駆体組成物に含まれる溶媒としては、特に制限はなく、公知のものを用いることができる。例えば、この溶媒として、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルイソブチルアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、γ-ブチロラクトン、乳酸エチル、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N’-ジメチルプロピレンウレア、1,1,3,3-テトラメチルウレア、ジメチルスルホキシド、スルホラン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、水や、国際公開第2017/099183号に記載の溶剤などが挙げられる。これらは、単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。上記溶媒は、これらの中でも、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒を含むことが好ましく、N-メチル-2-ピロリドンを含むことが特に好ましい。
【0111】
ポリイミド前駆体組成物における溶媒の含有量の下限は、ポリイミド前駆体の100重量部に対して、好ましくは200重量部以上であり、より好ましくは300重量部以上である。当該溶媒の含有量の上限は、好ましくは2,000重量部以下であり、より好ましくは1,500重量部以下である。当該溶媒の含有量が200重量部以上2,000重量部以下の範囲であれば、ポリイミド前駆体組成物の濃度および粘度は塗布に適した濃度および粘度となる。この結果、スリットコーターでポリイミド前駆体組成物の塗布を行った際に良好な膜厚均一性を得ることができる。
【0112】
(界面活性剤)
本発明の実施の形態に係るポリイミド前駆体組成物は、界面活性剤を含有していてもよい。当該界面活性剤としては、フロラード(商品名、住友3M社製)、メガファック(商品名、DIC社製)、スルフロン(商品名、旭硝子社製)等のフッ素系界面活性剤があげられる。また、当該界面活性剤としては、KP341(商品名、信越化学工業社製)、ポリフロー、グラノール(商品名、共栄社化学社製)、BYK(ビック・ケミー社製)等の有機シロキサン界面活性剤が挙げられる。また、当該界面活性剤としては、エマルミン(三洋化成工業社製)等のポリオキシアルキレンラウリエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテルおよびポリオキシエチレンセチルエーテル界面活性剤が挙げられる。さらに、当該界面活性剤としては、ポリフロー(商品名、共栄社化学社製)等のアクリル重合物界面活性剤が挙げられる。ポリイミド前駆体組成物に含まれる界面活性剤の含有量は、ポリイミド前駆体の100重量部に対し、0.001重量部以上1重量部以下であることが好ましい。
【0113】
(カップリング剤)
本発明の実施の形態に係るポリイミド前駆体組成物は、基材との接着性向上のため、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等のカップリング剤を添加することができる。上記カップリング剤としては、公知のものを用いることができる。また、上記カップリング剤は、2種以上を併用してもよい。ポリイミド前駆体組成物に含まれるカップリング剤の含有量は、ポリイミド前駆体の100重量%に対して、0.01重量%以上、2重量%以下であることが好ましい。
【0114】
(紫外線吸収剤)
本発明の実施の形態に係るポリイミド前駆体組成物は、紫外線吸収剤を含有していてもよい。ポリイミド前駆体組成物が紫外線吸収剤を含有することにより、ポリイミド前駆体組成物から得られるポリイミドが長期間、太陽光に晒された際の当該ポリイミドの透明性や機械特性などの物性低下が大きく抑制される。
【0115】
上記紫外線吸収剤としては、特に限定はなく公知のものを使用できるが、透明性および非着色性の観点から、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、トリアジン系化合物が好ましく用いられる。
【0116】
ポリイミド前駆体組成物に含まれる紫外線吸収剤の含有量は、ポリイミド前駆体の100重量部に対し、0.1重量部以上10重量部以下であることが好ましい。ポリイミド前駆体組成物が上記範囲内で紫外線吸収剤を含有することにより、得られるポリイミドの透明性を損なうことなく、当該ポリイミドの耐光性を向上させることができる。
【0117】
<ポリイミド前駆体の製造方法>
ポリイミド前駆体は、ポリアミド酸やポリアミド酸エステル、ポリアミド酸シリルエステルなどに例示されるように、ジアミン化合物とテトラカルボン酸又はその誘導体との重合反応により合成することができる。テトラカルボン酸の誘導体としては、例えば、テトラカルボン酸の酸無水物、活性エステル、活性アミドが挙げられる。上記重合反応の反応方法は、目的のポリイミド前駆体が製造できれば特に制限はなく、公知の反応方法を用いることができる。
【0118】
上記重合反応の具体的な反応方法としては、所定量のジアミン成分および溶媒を全て、反応器に仕込み、この溶媒中にジアミン成分を溶解させた後、所定量の酸二無水物成分を、この反応容器に仕込み、室温~120℃で0.5~30時間撹拌するという方法などが挙げられる。このような反応方法で得られたポリイミド前駆体は、前述の溶媒、界面活性剤、内部離型剤、カップリング剤等の成分を適宜添加してポリイミド前駆体組成物にしてもよい。
【0119】
上記のようにして得られたポリイミド前駆体またはポリイミド前駆体組成物中の水分率は、0.05質量%以上3.0質量%以下であることが好ましい。当該水分率が前述の範囲内であることにより、ポリイミド前駆体またはポリイミド前駆体組成物の粘度保存安定性を向上させることができる。ここでいう水分率は、対象とする溶液の液温を23℃に調節し、この液温の溶液についてカールフィッシャー法で測定した値を指す。カールフィッシャー法で水分率を測定するには、カールフィッシャー水分率滴定装置(例えば「MKS-520」(商品名、京都電子工業社製)など)を用い、「JIS K0068(2001)」に基づき、容量滴定法により、水分率測定を行う。
【0120】
<ポリイミド>
本発明の実施の形態に係るポリイミドは、上記ポリイミド前駆体をイミド化してなるものである。また、上記ポリイミド前駆体組成物は、本発明の実施の形態に係るポリイミド前駆体に前述の溶媒等の成分を添加してなるものであり、当該ポリイミド前駆体を含んでいる。すなわち、本発明の実施の形態に係るポリイミドは、上記ポリイミド前駆体組成物をイミド化することによって合成することも可能である。以下では、一例として、ポリイミド前駆体をイミド化してなるポリイミドについて説明する。
【0121】
イミド化の方法は特に制限されないが、本発明におけるイミド化の方法としては、加熱によるイミド化や化学イミド化が挙げられる。中でも、得られるポリイミドの耐熱性および可視光領域での透明性の観点から、加熱によるイミド化が好ましい。
【0122】
加熱によるイミド化では、ポリイミド前駆体を180℃以上550℃以下の範囲で加熱してポリイミドに変換することが好ましい。以下、加熱によるイミド化は、熱イミド化と適宜称する。熱イミド化を行う工程は、熱イミド化工程と適宜称する。ポリイミド前駆体の溶液から塗膜を形成して当該ポリイミド前駆体を熱イミド化する場合、熱イミド化工程は、ポリイミド前駆体の塗膜から溶媒を蒸発させる工程(以下、乾燥工程と適宜称する)の後に何らかの工程を経てから行われても構わない。
【0123】
乾燥工程では、具体的にはポリイミド前駆体の塗膜を真空乾燥や加熱乾燥すればよいが、イミド化後のポリイミド樹脂膜の透明性を考慮すると、白濁なく溶媒を蒸発させることが好ましい。乾燥工程において、ポリイミド前駆体の塗膜の乾燥には、ホットプレート、オーブン、赤外線、真空チャンバーなどを使用する。乾燥のための加熱の温度は、被加熱体の種類や目的により様々であり、室温から170℃の範囲で1分から数時間行うことが好ましい。室温とは、通常20~30℃であるが、好ましくは25℃である。さらに、乾燥工程は、同一の条件、又は異なる条件で複数回行ってもよい。
【0124】
熱イミド化工程の雰囲気は、特に限定されず、空気でも窒素やアルゴン等の不活性ガスでもよい。本発明の実施の形態に係るポリイミド前駆体は、酸化に対する耐性が高い。このため、熱イミド化工程では、オーブンを用いて大気雰囲気下で30分~2時間、当該ポリイミド前駆体の塗膜を加熱することにより、透明なポリイミド樹脂膜を得ることができる。
【0125】
また、熱イミド化のための加熱温度に到達するまでに要する時間は、特に限定されず、製造ラインの加熱形式にあわせた昇温方法を選択することができる。例えば、オーブン内にて、基材上に形成されたポリイミド前駆体の塗膜を、室温から熱イミド化のための加熱温度まで5~120分かけて昇温しながら加熱してもよい。あるいは、予め180℃以上550℃以下の範囲に昇温されたオーブン内に、基材上に形成されたポリイミド前駆体の塗膜をそのまま投入して加熱してもよい。また、当該ポリイミド前駆体の塗膜は、必要に応じて、減圧下にて加熱してもよい。
【0126】
上述した実施の形態では、ポリイミド前駆体をイミド化してなるポリイミドを例示したが、本発明はこれに限定されず、ポリイミド前駆体組成物をイミド化することによってポリイミドを得ることも可能である。例えば、上述した熱イミド化工程および乾燥工程における「ポリイミド前駆体」を「ポリイミド前駆体組成物」に置き換えて、これらの各工程を行うことにより、目的のポリイミドを得ることが可能である。
【0127】
本発明の実施の形態に係るポリイミドは、一般式(1)で表される構造および一般式(14)で表される構造単位を含むポリイミドとして表すこともできる。
【0128】
【0129】
一般式(1)中、R1およびR2は、各々独立に、炭素数1~20の一価の有機基を示す。mは、1以上200以下の整数を示す。
【0130】
【0131】
一般式(14)中、R3は、一般式(3)で表される二価の有機基を示す。R4は、芳香族テトラカルボン酸残基を示す。
【0132】
【0133】
一般式(1)、(14)におけるR1~R4についての詳細は、上述したポリイミド前駆体に関して説明した内容と同じである。
【0134】
このポリイミドは、当該ポリイミド全体の量を100質量%とした場合、一般式(1)で表される構造を0.1質量%以上30質量%以下含むことが好ましい。また、このポリイミドは、当該ポリイミドに含まれる全ジアミン残基中、一般式(3)で表される二価の有機基の構造単位を30mol%以上含むことが好ましい。
【0135】
<ポリイミド樹脂膜>
本発明の実施の形態に係るポリイミド樹脂膜は、上述した本発明の実施の形態に係るポリイミドを含む膜である。以下、本発明の実施の形態に係るポリイミド樹脂膜は、「ポリイミド樹脂膜」と適宜略記する。
【0136】
本発明において、ポリイミド樹脂膜は、例えば、以下の方法で得ることができる。ポリイミド樹脂膜を形成する方法としては、本発明の実施の形態に係るポリイミド前駆体を基板上に塗布して塗膜を形成する塗膜形成工程、当該塗膜から溶媒を蒸発させる乾燥工程、および、ポリイミド前駆体をイミド化するイミド化工程等を含む方法が挙げられる。
【0137】
ポリイミド樹脂膜を形成する方法では、塗膜形成工程において、上記ポリイミド前駆体を基板上に塗布することにより、ポリイミド前駆体の塗膜が形成される。このポリイミド前駆体を基板上に塗布して塗膜を形成する方法としては、ロールコート法、スピンコート法、スリットコート法、およびドクターブレード、コーターなどを用いて塗布する方法等が挙げられる。なお、塗膜形成工程では、塗布の繰り返しにより、塗膜の厚みや表面平滑性などを制御してもよい。中でも、塗膜の表面平滑性および膜厚均一性の観点から、スリットダイコート法が好ましい。
【0138】
塗膜の厚さは、所望の用途に応じて適宜選択され、特に限定されないが、例えば1~500μmであり、好ましくは2~250μmであり、特に好ましくは5~125μmである。基板としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム、ポリブチレンテレフタレート(PBT)フィルム、シリコンウエハ、ガラスウエハ、オキサイドウエハ、ガラス基板、Cu基板およびSUS板などが挙げられる。中でも、表面平滑性、加熱時の寸法安定性の観点から、ガラス基板が好ましい。ガラス基板を構成するガラスとしては、寸法安定性の観点から、無アルカリガラスが特に好ましい。
【0139】
ついで、乾燥工程において、基板上の塗膜から溶媒を蒸発させることにより、この塗膜を乾燥する。具体的には、この乾燥工程では、この塗膜を真空乾燥や加熱乾燥すればよいが、イミド化後のポリイミド樹脂膜の透明性を考慮すると、白濁なく溶媒を蒸発させることが好ましい。乾燥工程における塗膜の乾燥には、ホットプレート、オーブン、赤外線、真空チャンバーなどを使用する。
【0140】
乾燥のための加熱の温度は、塗膜等の被加熱体の種類や目的により様々であり、室温から170℃の範囲で1分から数時間行うことが好ましい。室温とは、通常20~30℃であるが、好ましくは25℃である。さらに、乾燥工程は、同一の条件、又は異なる条件で複数回行ってもよい。
【0141】
その後、イミド化工程において、基板上の塗膜中のポリイミド前駆体がイミド化され、これにより、基板上にポリイミド樹脂膜が形成される。以上の各工程を経て得られたポリイミド樹脂膜は、基板から剥離して用いることができるし、あるいは剥離せずにそのまま用いることもできる。
【0142】
上述のようにして得られるポリイミド樹脂膜の厚みは、所望の用途に応じて適宜選択されるが、好ましくは1~100μmであり、より好ましくは5~30μmであり、特に好ましくは7~20μmである。
【0143】
上述した実施の形態では、ポリイミド前駆体の塗膜をイミド化してなるポリイミド樹脂膜を例示したが、本発明はこれに限定されず、ポリイミド前駆体組成物の塗膜をイミド化することによってポリイミド樹脂膜を得ることも可能である。例えば、上述した熱イミド化工程等の各工程における「ポリイミド前駆体」を「ポリイミド前駆体組成物」に置き換えて上記各工程を行うことにより、目的のポリイミド樹脂膜を得ることが可能である。
【0144】
上述のようにして得られるポリイミド樹脂膜(すなわち本発明の実施の形態に係るポリイミド樹脂膜)のガラス転移温度は、240℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましい。
【0145】
また、本発明の実施の形態に係るポリイミド樹脂膜の密度は、1.20g/cm3以上1.43g/cm3以下であることが好ましく、1.23g/cm3以上1.40g/cm3以下であることがさらに好ましい。ポリイミド樹脂膜の密度は、分子間相互作用と相関があり、分子間相互作用が強いと密度が高くなる。従って、ポリイミド樹脂膜の密度が高い場合、ガラス転移温度の高いポリイミド樹脂膜を得ることが可能である。一方、分子間相互作用が弱い場合は分子間に空隙ができるため、面内/面外複屈折の小さいポリイミド樹脂膜を得ることができる。加えて、この空隙によって内部応力が緩和されるため、ポリイミド樹脂膜によって構成される基板の反りを抑制することが可能である。よって、ポリイミド樹脂膜の密度が1.20g/cm3以上1.43g/cm3以下である場合、分子間相互作用が好ましい範囲にあるため、ガラス転移温度が高く、面内/面外複屈折が小さく、基板の反りを抑制し得るポリイミド樹脂膜を得ることができる。
【0146】
また、本発明の実施の形態に係るポリイミド樹脂膜の面内/面外複屈折は、0.01以下であることが好ましく、0.005以下であることがさらに好ましい。ポリイミド樹脂膜の面内/面外複屈折が0.01以下であることにより、斜め方向から見た場合の色ずれを防いだり、円偏光フィルムを用いた時の外光反射を抑制したりすることができる。
【0147】
また、本発明の実施の形態に係るポリイミド樹脂膜の黄色度は、3以下であることが好ましい。ポリイミド樹脂膜の黄色度が3以下であることにより、黄色味を抑えたフレキシブル基板を形成することができる。延いては、このフレキシブル基板を用いることにより、黄色味を抑えたフレキシブルデバイスの作製が可能である。
【0148】
<用途>
本発明の実施の形態に係るポリイミド前駆体、ポリイミドおよびそれを含むポリイミド樹脂膜は、電子デバイスに使用することができる。より具体的には、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、タッチパネル、電子ペーパー、カラーフィルタ、マイクロLEDディスプレイといった表示デバイス、太陽電池、CMOSなどの受光デバイス等に使用することができる。これらの電子デバイスは、フレキシブルデバイスであることが好ましい。本発明の実施の形態に係るフレキシブルデバイスは、前述のポリイミド樹脂膜を備える。前述のポリイミド樹脂膜は、当該フレキシブルデバイス等の電子デバイスにおける基板、特にフレキシブル基板として、好ましく用いられる。
【実施例】
【0149】
以下、実施例等をあげて本発明を説明するが、本発明は、下記の実施例等によって限定されるものではない。まず、下記の実施例および比較例で用いた材料、行った測定および評価等について説明する。
【0150】
<材料>
酸二無水物として、以下に示すものが適宜用いられる。
ODPA:3,3’,4,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物
BPAF:9,9-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]フルオレン二酸無水物
X-22-168-P5-B:両末端カルボン酸無水物変性メチルフェニルシリコーンオイル(信越化学社製、数平均分子量4,200、y=34~38、フェニル基:メチル基=25:75mol%)
CBDA:シクロブタンテトラカルボン酸二無水物
【0151】
ジアミン化合物として、以下に示すものが適宜用いられる。
6FODA:ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル
CHDA:trans-1,4-ジアミノシクロへキサン
TFMB:2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン
SiDA:1,3-ビス(3-アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン
X-22-9409:両末端アミン変性メチルフェニルシリコーンオイル(信越化学社製、数平均分子量1,340、y=10~11、フェニル基:メチル基=25:75mol%)
X22-1660B-3:両末端アミン変性メチルフェニルシリコーンオイル(信越化学社製、数平均分子量4,400、y=39~41、フェニル基:メチル基=25:75mol%)
【0152】
溶剤として、以下に示すものが適宜用いられる。
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
GBL:γ-ブチロラクトン
MMBAc:3-メトキシ-3-メチル-1-ブチルアセテート
【0153】
<評価>
(第1項目:ポリイミド樹脂膜(第1のガラス基板上)の作製)
第1項目では、ポリイミド樹脂膜(第1のガラス基板上)の作製方法について説明する。第1項目でのポリイミド樹脂膜の作製では、下記の各実施例および各比較例で作製したワニスを、100mm×100mm×0.5mm厚の無アルカリガラス基板(旭硝子社製 AN-100)に、ミカサ株式会社製のスピンコーター(MS-A200)を用いてキュア後の膜厚が10±0.5μmになるように塗布した。その後、ホットプレートを用いて、ワニスの塗膜のプリベークを行った。ホットプレートは、予め120℃に加熱したものを用い、6分かけてワニスの塗膜の乾燥を行った。このようにして得られたプリベーク膜に対し、オーブン(「IHPS-222」;エスペック社製)を用いて、空気中、240℃で60分間キュアを行い、これにより、上記無アルカリガラス基板(第1のガラス基板)上にポリイミド樹脂膜を作製した。
【0154】
(第2項目:ポリイミド樹脂膜(剥離膜)の作製)
第2項目では、ポリイミド樹脂膜(剥離膜)の作製方法について説明する。第2項目でのポリイミド樹脂膜の作製では、上記第1項目で示したポリイミド樹脂膜(第1のガラス基板上)を、その四辺の端から1cmの部分に片刃で切れ込みを入れ、60℃に温めた温水に60分間浸した。その後、このポリイミド樹脂膜を第1のガラス基板から剥離し、これにより、剥離膜としてのポリイミド樹脂膜を得た。
【0155】
(第3項目:ポリイミド樹脂膜(第2のガラス基板上)の作製)
第3項目では、ポリイミド樹脂膜(第2のガラス基板上)の作製方法について説明する。第3項目でのポリイミド樹脂膜の作製では、第2のガラス基板として50mm×50mm×1.1mm厚のガラス基板(テンパックス)を用いたこと以外は、上記第1項目と同様にして、第2のガラス基板上にポリイミド樹脂膜を作製した。
【0156】
(第4項目:ポリイミド樹脂膜(第3のガラス基板上)の作製)
第4項目では、ポリイミド樹脂膜(第3のガラス基板上)の作製方法について説明する。第4項目でのポリイミド樹脂膜の作製では、下記の各実施例および各比較例で作製したワニスを、第3のガラス基板である730mm×920mm×0.5mm厚のガラス基板(旭硝子社製AN-100)に、スリットコーター(東レエンジニアリング社製)を用いてキュア後の膜厚が10±0.5μmになるように塗布した。その後、加熱式真空乾燥機、ホットプレートを用いて、ワニスの塗膜のプリベークを行った。加熱式真空乾燥機は、上板を60℃、下板を40℃に加熱し、150秒かけて60Paまで内部圧力が下がる条件でワニスの塗膜の乾燥を行った。ホットプレートは、予め120℃に加熱したものを用い、6分かけてワニスの塗膜の乾燥を行った。このようにして得られたプリベーク膜に対し、オーブンを用いて、空気中、240℃で60分間キュアを行い、これにより、第3のガラス基板上にポリイミド樹脂膜を作製した。
【0157】
(第5項目:ポリイミド樹脂膜(シリコン基板上)の作製)
第5項目では、ポリイミド樹脂膜(シリコン基板上)の作製方法について説明する。第5項目でのポリイミド樹脂膜の作製では、下記の各実施例および各比較例で作製したワニスを、6インチのシリコン基板上に、東京エレクトロン社製の塗布現像装置(Mark-7)を用いてキュア後の膜厚が10±0.5μmになるようにスピン塗布した。その後、このシリコン基板上のワニスの塗膜に対し、Mark-7のホットプレートを用いて120℃×6分のプリベーク処理を行った。このようにして得られたプリベーク膜に対し、オーブンを用いて、空気中、240℃で60分間キュアを行い、これにより、シリコン基板上にポリイミド樹脂膜を作製した。
【0158】
(第6項目:密度の測定)
第6項目では、ポリイミド樹脂膜の密度の測定について説明する。第6項目での密度の測定では、上記第2項目で示したポリイミド樹脂膜(剥離膜)を40mm×40mmの大きさに切って測定サンプルとし、比重測定キット(AD-1653-BM、エーアンドディー社製)を用い、室温25℃、相対湿度65%の雰囲気でアルキメデス法によって測定サンプルの密度の測定を行った。この際、測定サンプルを浸漬する浸漬液は、水とした。密度の測定は、一つの測定サンプルについて2回行い、その平均値を測定サンプルの密度(g/cm3)とした。
【0159】
(第7項目:面内/面外複屈折の測定)
第7項目では、ポリイミド樹脂膜の面内/面外複屈折の測定について説明する。第7項目での面内/面外複屈折の測定では、プリズムカプラー(METRICON社製、PC2010)を用い、波長632.8nmのTE屈折率(n(TE))およびTM屈折率(n(TM))を測定した。n(TE)、n(TM)は、それぞれポリイミド樹脂膜面に対して、平行方向、垂直方向の屈折率である。面内/面外複屈折は、n(TE)とn(TM)との差(n(TE)-n(TM))として計算した。なお、この測定には、上記第2項目で示したポリイミド樹脂膜(剥離膜)を用いた。また、面内/面外複屈折については、以下の評価方法で、秀、優良、良、不良の判定を行った。
秀(A):面内/面外複屈折が0.0021未満
優良(B):面内/面外複屈折が0.0021以上0.0030未満
良(C):面内/面外複屈折が0.0030以上0.0050未満
不良(D):面内/面外複屈折が0.0050以上
【0160】
(第8項目:黄色度の測定)
第8項目では、ポリイミド樹脂膜の黄色度の測定について説明する。第8項目での黄色度の測定では、カラーメーター(SM-T45、スガ試験機社製)を用いてポリイミド樹脂膜の黄色度の測定を行った。光源にはC光源を用い、黄色度の測定は透過光モードで行った。なお、この測定には、上記第3項目で示したポリイミド樹脂膜(第2のガラス基板上)を用いた。
【0161】
(第9項目:ヘイズ値の測定)
第9項目では、ポリイミド樹脂膜のヘイズ値の測定について説明する。第9項目でのヘイズ値の測定では、直読ヘーズコンピュータ(スガ試験機社製 HGM2DP、C光源)を用い、上記第3項目で示したポリイミド樹脂膜(第2のガラス基板上)のヘイズ値(%)を測定した。なお、各々の値としては、3回測定の平均値を用いた。
【0162】
(第10項目:1%重量減少温度(Td1)の測定)
第10項目では、ポリイミド樹脂膜の1%重量減少温度の測定について説明する。第10項目での1%重量減少温度の測定では、熱重量測定装置(島津製作所社製 TGA-50)を用いて窒素気流下で測定を行った。昇温方法は、以下の条件にて行った。第1段階で、昇温レート3.5℃/minで150℃まで昇温してポリイミド樹脂膜の試料の吸着水を除去し、第2段階で、降温レート5℃/minで室温まで冷却した。第3段階で、昇温レート10℃/minで本測定を行い、ポリイミド樹脂膜の1%熱重量減少温度を求めた。なお、この測定には、上記第2項目で示したポリイミド樹脂膜(剥離膜)を用いた。
【0163】
(第11項目:ガラス転移温度(Tg)の測定)
第11項目では、ポリイミド樹脂膜のガラス転移温度の測定について説明する。第11項目でのガラス転移温度の測定では、熱機械分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製 EXSTAR6000TMA/SS6000)を用いて、窒素気流下で測定を行った。昇温方法は、以下の条件にて行った。第1段階で、昇温レート5℃/minで150℃まで昇温してポリイミド樹脂膜の試料の吸着水を除去し、第2段階で、降温レート5℃/minで室温まで空冷した。第3段階で、昇温レート5℃/minで本測定を行い、この試料のガラス転移温度を求めた。なお、この測定には、上記第2項目で示したポリイミド樹脂膜(剥離膜)を用いた。
【0164】
(第12項目:破断伸度の測定)
第12項目では、ポリイミド樹脂膜の破断伸度の測定について説明する。第12項目での破断伸度の測定では、上記第2項目で示したポリイミド樹脂膜(剥離膜)を幅1cm、長さ9cmの短冊状に切断して試料とし、テンシロン(オリエンテック社製 RTM-100)を用いて試料を引っ張り、破断伸度の測定を行なった。この際、試料の引っ張りは、当該試料の初期長さを50mmとし、室温23.0℃および湿度45.0%RHの環境下において引張速度50mm/分で行った。破断伸度の測定は、一つのポリイミド樹脂膜の検体毎に10枚の試料について行ない、これら10枚の試料の測定結果のうち上位5点の平均値を破断伸度として求めた。また、破断伸度については、以下の評価方法で、秀、優良、良、不良の判定を行った。
秀(A):破断伸度が40%以上
優良(B):破断伸度が25%以上40%未満
良(C):破断伸度が10%以上25%未満
不良(D):破断伸度が10%未満
【0165】
(第13項目:残留応力の測定)
第13項目では、ポリイミド樹脂膜の残留応力の測定について説明する。第13項目での残留応力の測定では、ケーエルエー・テンコール社製の薄膜応力測定装置(FLX-3300-T)を用いて測定を行った。この測定には、上記第5項目で示したポリイミド樹脂膜(シリコン基板上)を用いた。この際、当該ポリイミド樹脂膜を、測定前に窒素雰囲気下、150℃で30分間加熱することで脱水ベークし、その後、窒素雰囲気下で30℃まで冷却し、30℃における乾燥後の当該ポリイミド樹脂膜の残留応力を測定した。
【0166】
(第14項目:基板反りの測定)
第14項目では、基板反りの測定について説明する。第14項目での基板反りの測定では、ミツトヨ社製の精密石定盤(1000mm×1000mm)の上に、試験板を当該試験板のガラスと精密石定盤とが接するように載せた。この際、試験板は、上記第4項目で示したポリイミド樹脂膜(第3のガラス基板上)とした。その後、試験板の4辺の各中点および各頂点の計8箇所について、精密石定盤から試験板が浮いている量(距離)を、隙間ゲージを用いて測定し、これらの平均値を試験板の反り量、すなわち基板反りの量とした。なお、この測定は、室温23℃および湿度55%の環境下で行った。また、基板反りについて、以下の評価方法で、秀、優良、良、不良の判定を行った。
秀(A):基板反りが0.21mm未満
優良(B):基板反りが0.21mm以上0.28mm未満
良(C):基板反りが0.28mm以上0.35mm未満
不良(D):基板反りが0.35mm以上
【0167】
(第15項目:基板密着力の測定(90°ピール試験))
第15項目では、基板密着力の測定について説明する。第15項目での基板密着力の測定では、上記第1項目で示したポリイミド樹脂膜(第1のガラス基板上)を10mm幅、100mm長に切り出して測定サンプルとし、この測定サンプルに対し、ホットプレートを用いて120℃×6分の脱水ベーク処理を行った後、引張速度50mm/minの条件で90°ピール試験を行った。この90°ピール試験においては、JIS C6481(1996、プリント配線板用銅張積層版試験法)に準拠した密着性試験機(山本鍍金試験器社製)を用いて、測定サンプルにおける第1のガラス基板に対するポリイミド樹脂膜の90°ピール強度(N/cm)を測定した。また、ポリイミド樹脂膜の基板密着力については、上記90°ピール強度の測定結果をもとに、以下の評価方法で、秀、優良、良、不良の判定を行った。
秀(A):90°ピール強度が1.5N/cm以上
優良(B):90°ピール強度が1.0N/cm以上1.5N/cm未満
良(C):90°ピール強度が0.5N/cm以上1.0N/cm未満
不良(D):90°ピール強度が0.5N/cm未満
【0168】
(第16項目:積層体の作製および外観確認)
第16項目では、積層体の作製および外観確認について説明する。第16項目での積層体の作製および外観確認では、上記第4項目で示したポリイミド樹脂膜(第3のガラス基板上)上に、SiON膜(製膜温度:240℃、膜厚:100nm)をプラズマCVDで製膜した。これにより、当該ポリイミド樹脂膜とSiON膜との積層体を作製した。その後、光学顕微鏡(Nikon社製、OPTIPHOT300)を用いて、倍率50倍で当該積層体の外観確認を行った。また、この作製後の積層体の外観確認については、以下の評価方法で、秀、優良、良、不良の判定を行った。
秀(A):積層体の全面でシワが見られず、積層体の表面が平滑
優良(B):積層体の一部にシワの発生が見られるが、シワの発生箇所の面積が積層体全面の5%以下
良(C):積層体の一部にシワの発生が見られるが、シワの発生箇所の面積が積層体全面の15%以下
不良(D):シワの発生箇所の面積が積層体全面の30%超
【0169】
(第17項目:積層体を用いたカラーフィルタの作製)
第17項目では、ポリイミド樹脂膜を含む積層体を用いたカラーフィルタの作製について説明する。第17項目でのカラーフィルタの作製では、以下に示す方法により、樹脂ブラックマトリクスの作製および着色層の作製を行い、これらの工程を経て、目的とするカラーフィルタを作製した。
【0170】
(製造例1:樹脂ブラックマトリクスの作製)
製造例1では、上記第16項目で示した積層体のSiON膜上に、黒色顔料を分散したポリアミック酸からなる黒色樹脂組成物(樹脂ブラックマトリクス用のもの)をスピン塗布し、この黒色樹脂組成物の塗膜をホットプレートで130℃、10分間乾燥して、黒色の樹脂塗膜を形成した。続いて、上記黒色の樹脂塗膜の上にポジ型フォトレジスト(シプレー社製、“SRC-100”)をスピン塗布し、このポジ型フォトレジストを、ホットプレートで120℃、5分間プリベークし、超高圧水銀灯を用いて100mJ/cm2(i線換算)の条件で紫外線照射してマスク露光した。その後、2.38%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を用いて、このポジ型フォトレジストの現像と上記黒色の樹脂塗膜のエッチングとを同時に行い、これにより、上記黒色の樹脂塗膜のパターンを形成した。その後、このポジ型フォトレジストをメチルセロソルブアセテートで剥離し、パターン化した黒色の樹脂塗膜をオーブンで240℃、60分間加熱することによってイミド化して、ポリイミド樹脂にカーボンブラックを分散した樹脂ブラックマトリクスを形成した。製造例1では、以上のようにして、パターン加工された樹脂ブラックマトリクスを上記積層体のSiON膜上に備える樹脂積層体を得た。この樹脂ブラックマトリクスの厚さを測定したところ、1.4μmであった。
【0171】
(製造例2:着色層の作製)
製造例2では、上記製造例1において作製した、樹脂ブラックマトリクスがパターン加工された樹脂積層体に、アクリル樹脂感光性赤レジストを、熱処理後のブラックマトリクス開口部での膜厚が2.0μmになるようにスピン塗布し、ホットプレートで100℃、10分間プリベークした。これにより、赤色着色層を得た。次に、紫外線露光機(PLA-5011 キャノン社製)を用い、ブラックマトリクス開口部と樹脂ブラックマトリクス上の一部の領域とにおけるアクリル樹脂感光性赤レジストを、アイランド状に光が透過するクロム製フォトマスクを介して、100mJ/cm2(i線換算)の条件で露光した。この露光後のアクリル樹脂感光性赤レジストを、0.2%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液からなる現像液に浸漬することによって現像した。続いて、上記赤色着色層を、純水洗浄後、230℃のオーブンで30分間加熱処理し、これにより、赤色画素を作製した。これと同様にして、アクリル樹脂感光性緑レジストからなる緑色画素と、アクリル樹脂感光性青レジストからなる青色画素とを作製した。この結果、目的とするカラーフィルタを得た。続いて、熱処理後の着色層部での厚さが2.5μmになるようにスピナーの回転数を調整し、これらの画素および樹脂ブラックマトリクスの上に透明樹脂組成物を塗布した。その後、この透明樹脂組成物の塗膜を230℃のオーブンで30分間加熱処理し、これにより、オーバーコート層を作製した。
【0172】
図1は、本発明の実施の形態に係るポリイミド樹脂膜を含むカラーフィルタの一構成例を示す断面模式図である。
図1に示すように、このカラーフィルタ6は、ポリイミド樹脂膜1と、ガスバリア層2とを備える。ポリイミド樹脂膜1は、本発明の実施の形態に係るポリイミド樹脂膜の一例であり、例えば、上述した第1項目~第5項目のうちの何れか一つで示される方法によって作製される。ガスバリア層2は、酸素等のガスからポリイミド樹脂膜1を保護する層であり、例えば、上述した第16項目に示されるSiON膜によって構成される。
図1に示すように、ガスバリア層2は、ポリイミド樹脂膜1の上に形成される。これらのポリイミド樹脂膜1およびガスバリア層2は、上述した第16項目に示される積層体を構成する。
【0173】
また、
図1に示すように、カラーフィルタ6は、ガスバリア層2の上に、ブラックマトリクス3と、赤色画素4Rと、緑色画素4Gと、青色画素4Bと、オーバーコート層5とを備える。ブラックマトリクス3は、例えば上述した製造例1に示される方法により、ガスバリア層2の上に形成される樹脂ブラックマトリクスである。赤色画素4Rは、赤の着色画素である。緑色画素4Gは、緑の着色画素である。青色画素4Bは、青の着色画素である。これらの赤色画素4R、緑色画素4Gおよび青色画素4Bは、例えば、上述した製造例2に示される方法によって各々形成される。オーバーコート層5は、ブラックマトリクス3、赤色画素4R、緑色画素4Gおよび青色画素4Bを覆う層であり、例えば、上述した製造例2に示される方法によって形成される。
【0174】
(第18項目:ブラックマトリクスおよび着色画素の剥がれ確認)
第18項目では、ブラックマトリクスおよび着色画素の剥がれ確認について説明する。第18項目でのブラックマトリクスおよび着色画素の剥がれ確認では、上記第17項目で示したカラーフィルタのブラックマトリクスおよび着色画素の外観(剥がれの有無)を、光学顕微鏡(Nikon社製、OPTIPHOT300)を用いて倍率50倍で確認した。また、これらの剥がれ確認については、以下の評価方法で、秀、優良、良、不良の判定を行った。
秀(A):ブラックマトリクスおよび着色画素の剥れ無し
優良(B):ブラックマトリクスおよび着色画素の一部に剥がれ有り(ブラックマトリクスおよび着色画素の全体に対する当該剥がれの割合:5%未満)
良(C):ブラックマトリクスおよび着色画素の一部に剥がれ有り(ブラックマトリクスおよび着色画素の全体に対する当該剥がれの割合:5%超15%未満)
不良(D):ブラックマトリクスおよび着色画素の一部に剥がれ有り(ブラックマトリクスおよび着色画素の全体に対する当該剥がれの割合:15%以上)
【0175】
(実施例1)
実施例1では、乾燥窒素気流下、200mL4つ口フラスコに、6FODA(12.60g(37.5mmol))と、X-22-9409(4.48g(3.35mmol))と、ODPA(12.79g(41.2mmol))と、NMP(100g)とを入れて、80℃で加熱撹拌した。5時間後、冷却してワニスとした。
【0176】
(実施例2)
実施例2では、乾燥窒素気流下、200mL4つ口フラスコに、6FODA(15.29g(45.5mmol))と、SiDA(0.15g(0.60mmol))と、ODPA(14.43g(46.5mmol))と、NMP(100g)とを入れて、80℃で加熱撹拌した。5時間後、冷却してワニスとした。
【0177】
(実施例3)
実施例3では、乾燥窒素気流下、200mL4つ口フラスコに、6FODA(12.75g(37.9mmol))と、X-22-1660B-3(1.78g(0.40mmol))と、X-22-9409(2.70g(2.02mmol))と、ODPA(12.64g(40.8mmol))と、NMP(100g)とを入れて、80℃で加熱撹拌した。5時間後、冷却してワニスとした。
【0178】
(実施例4)
実施例4では、乾燥窒素気流下、200mL4つ口フラスコに、6FODA(12.81g(38.1mmol))と、X-22-1660B-3(2.30g(0.52mmol))と、X-22-9409(2.16g(1.61mmol))と、ODPA(12.61g(40.6mmol))と、NMP(100g)とを入れて、80℃で加熱撹拌した。5時間後、冷却してワニスとした。
【0179】
(実施例5)
実施例5では、乾燥窒素気流下、200mL4つ口フラスコに、6FODA(12.84g(38.2mmol))と、X-22-1660B-3(3.50g(0.80mmol))と、X-22-9409(1.07g(0.80mmol))と、ODPA(12.46g(40.2mmol))と、NMP(100g)とを入れて、80℃で加熱撹拌した。5時間後、冷却してワニスとした。
【0180】
(実施例6)
実施例6では、乾燥窒素気流下、200mL4つ口フラスコに、6FODA(8.78g(26.1mmol))と、BAFL(4.14g(11.9mmol))と、X-22-1660B-3(3.48g(0.79mmol))と、X-22-9409(1.06g(0.79mmol))と、ODPA(12.40g(40.0mmol))と、NMP(100g)とを入れて、80℃で加熱撹拌した。5時間後、冷却してワニスとした。
【0181】
(実施例7)
実施例7では、乾燥窒素気流下、200mL4つ口フラスコに、6FODA(12.87g(38.3mmol))と、X-22-1660B-3(2.25g(0.51mmol))と、X-22-9409(0.68g(0.51mmol))と、ODPA(8.62g(27.8mmol))と、BPAF(5.46g(11.9mmol))と、NMP(100g)とを入れて、80℃で加熱撹拌した。5時間後、冷却してワニスとした。
【0182】
(実施例8)
実施例8では、乾燥窒素気流下、200mL4つ口フラスコに、6FODA(12.01g(35.8mmol))と、X-22-1660B-3(3.45g(0.78mmol))と、X-22-9409(1.05g(0.78mmol))と、ODPA(8.18g(26.4mmol))と、BPAF(5.18g(11.3mmol))と、NMP(100g)とを入れて、80℃で加熱撹拌した。5時間後、冷却してワニスとした。
【0183】
(実施例9)
実施例9では、乾燥窒素気流下、200mL4つ口フラスコに、6FODA(7.87g(23.4mmol))と、3,5-DABA(2.54g(16.7mmol))と、X-22-1660B-3(3.48g(0.79mmol))と、X-22-9409(1.06g(0.79mmol))と、ODPA(9.14g(29.5mmol))と、BPAF(5.79g(12.6mmol))と、NMP(100g)とを入れて、80℃で加熱撹拌した。5時間後、冷却してワニスとした。
【0184】
(実施例10)
実施例10では、乾燥窒素気流下、200mL4つ口フラスコに、6FODA(10.06g(29.9mmol))と、3,5-DABA(1.20g(7.87mmol))と、X-22-1660B-3(3.46g(0.79mmol))と、X-22-9409(1.06g(0.79mmol))と、ODPA(8.63g(27.8mmol))と、BPAF(5.47g(11.9mmol))と、NMP(100g)とを入れて、80℃で加熱撹拌した。5時間後、冷却してワニスとした。
【0185】
(実施例11)
実施例11では、乾燥窒素気流下、200mL4つ口フラスコに、6FODA(11.11g(33.0mmol))と、3,5-DABA(0.59g(3.84mmol))と、X-22-1660B-3(3.38g(0.77mmol))と、X-22-9409(1.03g(0.77mmol))と、ODPA(8.43g(27.2mmol))と、BPAF(5.34g(11.6mmol))と、NMP(100g)とを入れて、80℃で加熱撹拌した。5時間後、冷却してワニスとした。
【0186】
(実施例12)
実施例12では、乾燥窒素気流下、200mL4つ口フラスコに、6FODA(11.15g(33.2mmol))と、X-22-1660B-3(4.66g(1.06mmol))と、X-22-9409(1.42g(1.06mmol))と、ODPA(7.74g(25.0mmol))と、BPAF(4.90g(10.7mmol))と、NMP(100g)とを入れて、80℃で加熱撹拌した。5時間後、冷却してワニスとした。
【0187】
(実施例13)
実施例13では、乾燥窒素気流下、200mL4つ口フラスコに、6FODA(10.38g(30.9mmol))と、X-22-1660B-3(5.75g(1.31mmol))と、X-22-9409(1.75g(1.31mmol))と、ODPA(7.34g(23.7mmol))と、BPAF(4.65g(10.2mmol))と、NMP(100g)とを入れて、80℃で加熱撹拌した。5時間後、冷却してワニスとした。
【0188】
(実施例14)
実施例14では、乾燥窒素気流下、200mL4つ口フラスコに、6FODA(9.61g(28.6mmol))と、X-22-1660B-3(6.83g(1.55mmol))と、X-22-9409(2.08g(1.55mmol))と、ODPA(6.95g(22.4mmol))と、BPAF(4.40g(9.60mmol))と、NMP(100g)とを入れて、80℃で加熱撹拌した。5時間後、冷却してワニスとした。
【0189】
(実施例15)
実施例15では、乾燥窒素気流下、200mL4つ口フラスコに、6FODA(13.15g(39.1mmol))と、X-22-9409(1.07g(0.80mmol))と、ODPA(12.26g(39.5mmol))と、X-22-168-P5-B(3.39g(0.81mmol))と、NMP(100g)とを入れて、80℃で加熱撹拌した。5時間後、冷却してワニスとした。
【0190】
(実施例16)
実施例16では、乾燥窒素気流下、200mL4つ口フラスコに、6FODA(13.22g(39.3mmol))と、ODPA(11.98g(38.6mmol))と、X-22-168-P5-B(4.67g(1.11mmol))と、NMP(100g)とを入れて、80℃で加熱撹拌した。5時間後、冷却してワニスとした。
【0191】
(実施例17)
実施例17では、乾燥窒素気流下、200mL4つ口フラスコに、6FODA(12.95g(38.5mmol))と、X-22-1660B-3(4.53g(1.03mmol))と、ODPA(12.39g(40.0mmol))と、NMP(100g)とを入れて、80℃で加熱撹拌した。5時間後、冷却してワニスとした。
【0192】
(比較例1)
比較例1では、乾燥窒素気流下、200mL4つ口フラスコに、TFMB(12.31g(38.4mmol))と、X-22-9409(4.48g(3.34mmol))と、ODPA(13.09g(42.2mmol))と、NMP(100g)とを入れて、80℃で加熱撹拌した。5時間後、冷却してワニスとした。
【0193】
(比較例2)
比較例2では、乾燥窒素気流下、200mL4つ口フラスコに、6FODA(15.46g(46.0mmol))と、ODPA(14.41g(46.4mmol))と、NMP(100g)とを入れて、80℃で加熱撹拌した。5時間後、冷却してワニスとした。
【0194】
(比較例3)
比較例3では、乾燥窒素気流下、200mL4つ口フラスコに、6FODA(15.58g(46.3mmol))と、X-22-9409(4.46g(3.33mmol))と、CBDA(9.84g(50.2mmol))と、NMP(100g)とを入れて、80℃で加熱撹拌した。5時間後、冷却してワニスとした。
【0195】
実施例1~17および比較例1~3の各ワニスを用いて、上記第1項目~第18項目に示したように、ポリイミド樹脂膜、これを含む積層体およびカラーフィルタの作製と、これらに関する測定および評価とを行った。これら実施例1~17および比較例1~3の結果は、表1~4に示す。なお、実施例1~17および比較例1~3において合成した各ワニスは、各々、孔径1μmの四フッ化エチレン製樹脂(PTFE)製フィルタで濾過して用いた。ただし、比較例2においては、基板反りが大きいことから、ポリイミド樹脂膜上にSiON膜を製膜することができなかったため、積層体形成後以降の評価は実施できなかった。
【0196】
表1~4に示すように、本発明の実施例1~17においては、対象とする評価の全てについて不良という結果は無かった。一方、本発明に対する比較例1~3においては、対象とする評価の少なくとも一つが不良という結果であった。具体的には、比較例1における面内/面外複屈折の評価と、比較例2における基板反りの評価および基板密着力の評価と、比較例3における破断伸度の評価および積層体形成後の外観評価とについて、不良という結果であった。特に、比較例1においては、直線性の高いTFMBを用いたため、ポリイミドの配向が進み、得られるポリイミド樹脂膜の面内/面外複屈折が大きくなったと考えられる。比較例3においては、脂環式酸二無水物であるCBDAを用いたため、大気雰囲気下でキュアを行った際に酸化分解が進み、黄変したものと考えられる。
【0197】
【0198】
【0199】
【0200】
【産業上の利用可能性】
【0201】
以上のように、本発明に係るポリイミド前駆体、ポリイミド、ポリイミド樹脂膜、およびフレキシブルデバイスは、透明性が高く、ガラス転移温度が高く、面内/面外複屈折が低く、支持基板との密着性が良好なポリイミドの効率よい提供、このポリイミドを用いたポリイミド樹脂膜およびフレキシブルデバイスの提供に適している。
【符号の説明】
【0202】
1 ポリイミド樹脂膜
2 ガスバリア層
3 ブラックマトリクス
4R 赤色画素
4G 緑色画素
4B 青色画素
5 オーバーコート層
6 カラーフィルタ