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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】異常検知装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20231114BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20231114BHJP
   G01M 17/007 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
F02D45/00 345
F02D45/00 372
G01H17/00 C
G01M17/007 H
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020001570
(22)【出願日】2020-01-08
(65)【公開番号】P2021110597
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北畑 剛
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 賢治
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-098245(JP,A)
【文献】特開2013-67242(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
G01H 17/00
G01M 17/007
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを有する駆動装置を備える車両に搭載される異常検知装置であって、
前記エンジンを始動した際に前記エンジンを収容するエンジンルーム内の音圧レベルの最大値を評価値設定すると共に最新に設定した前記評価値から前回に前記エンジンを始動した際の前記評価値を減じて差分値を演算する、処理を前記エンジンを始動したごとに実行する演算部と、
前記差分値が負の第1閾値以下になったときには、前記エンジンの初期馴染みが完了したと判定し、その後に、前記差分値が正の第2閾値以上に至ったときには、前記駆動装置に異常が発生したと判定する判定部と、
を備える異常検知装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の技術としては、エンジンの始動に用いられるスタータの異常を検出する車載診断装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この車載診断装置では、スタータが稼働している期間のエンジン音を集音し、今回集音したエンジン音の騒音レベルが閾値以上のときには、異常が発生していると判定する。閾値としては、異常が発生しないときの騒音レベル(正常時騒音レベル)にマージン(異音判定閾値)を加えた値が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-98245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エンジンなどの駆動源を有する駆動装置では、製造後の動作回数が少ないとき(初期馴染み完了前)には、動作音が大きくなりやすい。上述の車載診断装置では、エンジンが初期馴染み完了前のときに、異常が発生していると誤判定してしまう可能性がある。
【0005】
本発明の異常検知装置は、駆動装置の異常を誤判定するのを抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の異常検知装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の異常検知装置は、
駆動源を有する駆動装置を備える車両に搭載される異常検知装置であって、
前記駆動源の回転数の急変条件が成立したときに、前記駆動装置の動作音に基づいて評価値を設定し、最新に設定した前記評価値から過去に設定した前記評価値に基づく比較値を減じて差分値を演算する演算部と、
前記差分値が負の第1閾値以下になった後に、前記差分値が正の第2閾値以上に至ったときには、前記駆動装置に異常が発生したと判定する判定部と、
を備えることを要旨とする。
【0008】
この本発明の異常検知装置では、駆動源の回転数の急変条件が成立したときに、駆動装置の動作音に基づいて評価値を設定し、最新に設定した評価値から過去に設定した評価値に基づく比較値を減じて差分値を演算する。そして、差分値が負の第1閾値以下になった後に、差分値が正の第2閾値以上に至ったときには、初期馴染みが完了して駆動装置に異常が発生したと判定する。差分値が負の第1閾値以下になったときには、駆動装置の動作音が安定したと推定される。したがって、差分値が負の第1閾値以下になった後に正の第2閾値以上に至ったときに異常判定することにより、駆動装置の初期馴染みの完了前に異常を誤判定するのを抑制することができる。
【0009】
本発明の異常検知装置において、前記急変条件は、アクセル操作量の急増および/または急減を含むものとしてもよい。また、前記駆動源は、エンジンを有し、前記急変条件は、前記エンジンの始動および/または停止を含むものとしてもよい。さらに、前記車両は、前記駆動源に接続された変速機を有し、前記急変条件は、前記変速機の変速段の変更を含むものとしてもよい。
【0010】
本発明の異常検知装置において、前記評価値は、前記急変条件が成立しているときの前記駆動装置の動作音の音圧レベルの最大値としてもよい。また、前記評価値は、前記急変条件が成立しているときの前記駆動装置の動作音の音圧レベルの時間積分値としてもよい。
【0011】
本発明の異常検知装置において、前記比較値は、前回に設定した前記評価値としてもよい。また、前記比較値は、過去に設定した前記評価値の移動平均値としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施例としての異常検知装置を搭載するハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
図2】HVECU70により実行される処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。
図3】エンジン22を始動した際の音圧レベルSPLの様子の一例を示す説明図である。
図4】評価値Esおよび差分値ΔEsの様子を模式的にを示す説明図である。
図5】エンジン22を停止する際の音圧レベルSPLの様子の一例を示す説明図である。
図6】アクセルペダル83をオンオフする際の音圧レベルSPLの様子の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例
【0014】
図1は、本発明の一実施例としての異常検知装置を搭載するハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図1に示すように、エンジン22と、プラネタリギヤ30と、モータMG1,MG2と、インバータ41,42と、バッテリ50と、有段変速機60と、ハイブリッド用電子制御ユニット(以下、「HVECU」という)70とを備える。実施例では、「異常検知装置」としては、主としてHVECU70が相当する。
【0015】
エンジン22は、ガソリンや軽油などを燃料として動力を出力する内燃機関として構成されており、ダンパ28を介してプラネタリギヤ30のキャリヤに接続されている。このエンジン22は、エンジン用電子制御ユニット(以下、「エンジンECU」という)24により運転制御されている。ダンパ28は、スプリングと摩擦材とで構成されている。
【0016】
エンジンECU24は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROMや、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポート、通信ポートを備える。エンジンECU24には、エンジン22を運転制御するのに必要な各種センサからの信号、例えば、エンジン22のクランクシャフト26の回転位置を検出するクランクポジションセンサ23からのクランク角θcrなどが入力ポートを介して入力されている。エンジンECU24からは、エンジン22を運転制御するための各種制御信号が出力ポートを介して出力されている。エンジンE
CU24は、クランクポジションセンサ23からのクランク角θcrに基づいてエンジン22の回転数Neを演算している。エンジンECU24は、HVECU70と通信ポートを介して接続されている。
【0017】
プラネタリギヤ30のサンギヤには、モータMG1の回転子が接続されている。プラネタリギヤ30のリングギヤには、有段変速機60の入力軸が接続されている。プラネタリギヤ30のキャリヤには、上述したように、ダンパ28を介してエンジン22のクランクシャフト26が接続されている。
【0018】
モータMG1は、例えば同期発電電動機として構成されており、上述したように、回転子がプラネタリギヤ30のサンギヤに接続されている。モータMG2は、例えば同期発電電動機として構成されており、回転子が有段変速機60の入力軸に接続されている。インバータ41,42は、モータMG1,MG2の駆動に用いられると共に電力ライン54を介してバッテリ50に接続されている。電力ライン54には、平滑用のコンデンサ57が取り付けられている。モータMG1,MG2は、モータ用電子制御ユニット(以下、「モータECU」という)40によってインバータ41,42の図示しない複数のスイッチング素子がスイッチング制御されることにより、回転駆動される。
【0019】
モータECU40は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROMや、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポート、通信ポートを備える。モータECU40には、モータMG1,MG2を駆動制御するのに必要な各種センサからの信号、例えば、モータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの回転位置θm1,θm2や、モータMG1,MG2の各相に流れる電流を検出する電流センサ45u,45v,46u,46vからの相電流Iu1,Iv1,Iu2,Iv2、モータMG2の温度を検出する温度センサ47からのモータMG2の温度Tm2などが入力ポートを介して入力されている。モータECU40からは、インバータ41,42の複数のスイッチング素子へのスイッチング制御信号などが出力ポートを介して出力されている。モータECU40は、回転位置検出センサ43,44からのモータMG1,MG2の回転子の回転位置θm1,θm2に基づいてモータMG1,MG2の電気角θe1,θe2や角速度ωm1,ωm2、回転数Nm1,Nm2を演算している。モータECU40は、HVECU70と通信ポートを介して接続されている。
【0020】
バッテリ50は、例えばリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池として構成されており、電力ライン54に接続されている。このバッテリ50は、バッテリ用電子制御ユニット(以下、「バッテリECU」という)52により管理されている。
【0021】
バッテリECU52は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROMや、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポート、通信ポートを備える。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な各種センサからの信号が入力ポートを介して入力されている。バッテリECU52に入力される信号としては、例えば、バッテリ50の端子間に取り付けられた電圧センサ51aからのバッテリ50の電圧Vbや、バッテリ50の出力端子に取り付けられた電流センサ51bからのバッテリ50の電流Ib、バッテリ50に取り付けられた温度センサ51cからのバッテリ50の温度Tbを挙げることができる。バッテリECU52は、電流センサ51bからのバッテリ50の電流Ibの積算値に基づいて蓄電割合SOCを演算している。蓄電割合SOCは、バッテリ50の全容量に対するバッテリ50から放電可能な電力量の割合である。バッテリECU52は、HVECU70と通信ポートを介して接続されている。
【0022】
有段変速機60は、有段変速機60の入力軸の動力を複数段階(例えば、4段階や5段階、6段階など)に変速して駆動輪39a,39bにデファレンシャルギヤ38を介して接続された駆動軸36(有段変速機60の出力軸)に伝達する変速機として構成されている。
【0023】
HVECU70は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROMや、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポート、通信ポートを備える。HVECU70には、各種センサからの信号が入力ポートを介して入力されている。HVECU70に入力される信号としては、例えば、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号や、シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSPを挙げることができる。また、アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accや、ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP、車速センサ88からの車速Vも挙げることができる。さらに、有段変速機60の入力軸の回転数を検出する回転数センサから(図示省略)の有段変速機60の回転数Ninや、有段変速機60の出力軸の回転数を検出する回転数センサからの有段変速機60の出力軸の回転数Noutも挙げることができる。加えて、エンジン22などを収容するエンジンルーム内に取り付けられた集音センサ25からの音圧レベルSPLも挙げることができる。HVECU70からは、有段変速機60への制御信号などが出力ポートを介して出力されている。HVECU70は、上述したように、エンジンECU24やモータECU40、バッテリECU52と通信ポートを介して接続されている。
【0024】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20では、HVECU70とエンジンECU24とモータECU40との協調制御により、エンジン22の運転を伴って走行するハイブリッド走行モード(HV走行モード)や、エンジン22の運転を伴わずに走行する電動走行モード(EV走行モード)で走行するように、エンジン22とモータMG1,MG2と有段変速機60とが制御される。
【0025】
エンジン22およびモータMG1,MG2の制御は、基本的には、以下のように行なわれる。HV走行モードでは、HVECU70は、最初に、アクセル開度Accと車速Vと有段変速機60の変速段Gsとに基づいて有段変速機60の入力軸に要求される要求トルクTin*を設定する。続いて、要求トルクTin*と有段変速機60の入力軸の回転数Ninとバッテリ50の蓄電割合SOCとに基づいて車両(エンジン22)に要求される要求パワーPe*を設定し、エンジン22から要求パワーPe*が出力されると共に要求トルクTin*が有段変速機60の入力軸に出力されるように、エンジン22の目標回転数Ne*や目標トルクTe*、モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*を設定する。そして、エンジン22の目標回転数Ne*や目標トルクTe*をエンジンECU24に送信すると共に、モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*をモータECU40に送信する。エンジンECU24は、エンジン22が目標回転数Ne*および目標トルクTe*に基づいて運転されるようにエンジン22の運転制御(吸入空気量制御や燃料噴射制御、点火制御など)を行なう。モータECU40は、モータMG1,MG2がトルク指令Tm1*,Tm2*で駆動されるようにモータMG1,MG2の駆動制御(詳細には、インバータ41,42の複数のスイッチング素子のスイッチング制御)を行なう。このHV走行モードでは、要求パワーPe*が停止閾値以下に至るなどエンジン22の停止条件が成立すると、エンジン22の運転を停止して、EV走行モードに移行する。エンジン22の停止処理は、エンジン22の燃料噴射制御や点火制御を停止し、モータMG1によりエンジン22の回転数Neを低下させることにより行なわれる。
【0026】
EV走行モードでは、HVECU70は、最初に、HV走行モードと同様に要求トルクTin*を設定する。続いて、モータMG1のトルク指令Tm1*に値0を設定すると共に、要求トルクTin*が有段変速機60の入力軸61に出力されるようにモータMG2のトルク指令Tm2*を設定する。そして、モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*をモータECU40に送信する。モータECU40によるモータMG1,MG2の駆動制御については上述した。このEV走行モードでは、上述の要求パワーPe*が始動閾値以上に至るなどエンジン22の始動条件が成立すると、エンジン22を始動して、HV走行モードに移行する。エンジン22の始動処理は、モータMG1によりエンジン22をクランキングし、エンジン22の回転数Neが始動閾値以上に至ると、エンジン22の燃料噴射制御や点火制御を開始することにより行なわれる。
【0027】
有段変速機60の制御は、基本的には、以下のように行なわれる。HVECU70は、アクセル開度Accと車速Vとに基づいて有段変速機60の目標変速段Gs*を設定し、有段変速機60の変速段Gsが目標変速段Gs*となるように有段変速機60を制御する。
【0028】
次に、こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20に搭載されるHVECU70(異常検知装置)の動作、特に、駆動装置に異常が発生したか否かを判定する際の動作について説明する。実施例では、駆動装置としては、主として、エンジン22とプラネタリギヤ30とモータMG1,MG2と有段変速機60とが相当する。図2は、HVECU70により実行される処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、エンジン22の回転数NeやモータMG1の急変条件が成立したときに実行される。実施例では、エンジン22の回転数NeやモータMG1の回転数Nm1の急変条件として、エンジン22を始動した条件を用いるものとした。
【0029】
図2の処理ルーチンが実行されると、HVECU70は、最初に、評価値Esなどのデータを入力する(ステップS100)。ここで、評価値Esは、エンジン22を始動した際のエンジンルーム内の音圧レベルSPLの最大値が入力される。
【0030】
図3は、エンジン22を始動した際の音圧レベルSPLの様子の一例を示す説明図である。図中、実線は、駆動装置(例えば、エンジン22など)に異常が生じていない場合の様子を示し、破線は、駆動装置に異常が生じている場合の様子を示す。図示するように、モータMG1によるエンジン22のモータリングを開始すると(時刻t11)、エンジン22の回転数NeやモータMG1の回転数Nm1が増加すると共に、エンジンルーム内の音圧レベルSPLも増加する。続いて、エンジン22の回転数Neが始動閾値以上に至って点火制御を開始すると(時刻t12)、エンジン22で爆発燃焼が行なわれてエンジン22のトルクが増加する。エンジン22に異常が生じていない場合、図3の実線に示すように、エンジン22の回転数NeやモータMG1の回転数Nm1は、エンジン22の点火開始後に増加してから略一定になる。このとき、音圧レベルSPLは比較的小さい値に抑えられる。一方、エンジン22に異常が生じている場合、図3の破線に示すように、エンジン22の回転数NeやモータMG1の回転数Nm1は、エンジン22の点火開始後にある程度脈動してから略一定になる。このとき、音圧レベルSPLは比較的大きい値で脈動する。実施例では、エンジン22の回転数NeやモータMG1の回転数Nm1が増加を開始してから略一定になるまでのうちの少なくとも一部を含む時間Δt1(例えば、時刻t12~t13や、時刻t11~t13)の音圧レベルSPLの最大値を評価値Esとして設定するものとした。したがって、評価値Esには、実線の場合、音圧レベルE1が設定され、破線の場合、音圧値E2が設定される。
【0031】
図2の処理ルーチンの説明に戻る。ステップS100でデータが入力されると、最新に取得した評価値Esから前回にエンジン22を始動した際の評価値(前回Es)を減じて差分値ΔEsを演算する(ステップS110)。差分値ΔEsを演算すると、初期馴染みフラグFの値を調べる(ステップS120)。ここで、初期馴染みフラグFは、エンジン22やダンパ28が初期馴染みの完了後であるか否かを示すフラグである。
【0032】
初期馴染みフラグFが値0のときには、初期馴染みの完了前であると判断し、差分値ΔEsを閾値ΔEref1と比較する(ステップS130)。ここで、閾値ΔEref1は、初期馴染みが完了したか否かを判定するための負の閾値であり、実験や解析により定められる。差分値ΔEsが閾値ΔEref1よりも大きいときには、初期馴染みが完了していないと判断し、初期馴染みフラグFを値0に保持して、本ルーチンを終了する。一方、差分値ΔEsが閾値ΔEref1以下のときには、初期馴染みが完了したと判断し、初期馴染みフラグFを値1に更新して(ステップS140)、本ルーチンを終了する。
【0033】
ステップS120で初期馴染みフラグFが値1のときには、初期馴染みの完了後であると判断し、差分値ΔEsを閾値ΔEref2と比較する(ステップS150)。ここで、閾値ΔEref2は、駆動装置に異常が発生したか否かを判定するための正の閾値であり、実験や解析により定められる。差分値ΔEsが閾値ΔEref2未満のときには、駆動装置に異常が発生したと判定することなく、本ルーチンを終了する。
【0034】
ステップS150で差分値ΔEsが閾値ΔEref2以上のときには、駆動装置に異常が発生したと判定し(ステップS160)、その旨を管理システム(例えば、ハイブリッド自動車20と通信可能なクラウドサーバ)に報知して(ステップS170)、本ルーチンを終了する。これにより、初期馴染みの完了後に駆動装置の異常の発生を判定するため、駆動装置の初期馴染みの完了前に駆動装置の異常を誤判定するのを抑制することができる。また、駆動装置に異常が発生した旨を管理システムに報知することにより、特にハイブリッド自動車20がカーシェアリングシステムに用いられる場合、ハイブリッド自動車20の所有者等が、車両故障の前兆になる駆動装置の異常を管理システムから認識することができる。そして、ハイブリッド自動車20を業者に持ち込んでメンテナンスを行なうなど適切な処置を行なうことができる。以下、差分値ΔEsを閾値ΔEref1,ΔEref2と比較することにより駆動装置の異常の有無を判定する理由について説明する。
【0035】
図4は、評価値Esおよび差分値ΔEsの様子を模式的に示す説明図である。図4の横軸は、エンジン22の始動回数を示す。図示するように、初期馴染みの完了前には(~回数N1)、評価値Esは略一定の大きい値になり、差分値ΔEsは略値0になる。初期馴染みが完了すると(回数N1)、評価値Esは減少傾向になり、差分値ΔEsは値0よりも小さい閾値ΔEref1以下になり、その後に評価値Esは略一定の小さい値になり、差分値ΔEsは略値0になる。初期馴染みが完了した後に、駆動装置に異常が発生すると(回数N2)、評価値Esは増加傾向になり、差分値ΔEsは値0よりも大きい閾値ΔEref2以上になる。評価値Esは、異常発生時(回数N2~)だけでなく初期馴染みの完了前(~回数N1)にも比較的大きい値になるため、評価値Esと閾値との比較では初期馴染みの完了前と異常発生時とを適切に切り分けることが困難である。これに対して、差分値ΔEsは、初期馴染みの完了前(~回数N1)には大きい値になりにくく、駆動装置に異常が発生する際には大きい値になるため、差分値ΔEsと正の閾値との比較により初期馴染みの完了前と駆動装置の異常発生時とを切り分けることができる。
【0036】
以上説明した実施例の異常検知装置では、エンジン22の始動後に、駆動装置の音圧レベルSPLに基づいて評価値Esを設定し、最新に設定した評価値Esから前回に設定した評価値(前回Es)を減じて差分値ΔEsを演算する。そして、差分値ΔEsが負の閾値ΔEref1以下になった後に、差分値ΔEsが正の閾値ΔEref2以上に至ったときには、初期馴染みが完了した後に駆動装置に異常が発生したと判定する。差分値ΔEsが負の閾値ΔEref1以下になったときには、駆動装置の音圧レベルSPLが安定したと推定される。したがって、差分値ΔEsが負の閾値ΔEref1以下になった後に正の閾値ΔEref2以上に至ったときに異常判定することにより、駆動装置の初期馴染みの完了前に異常を誤判定するのを抑制することができる。
【0037】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22の回転数NeやモータMG1の回転数Nm1の急変条件としてエンジン22を始動した条件を用いるものとした。しかし、エンジン22やモータMG1の回転数Neの急変条件として、エンジン22を停止した条件や、アクセル開度Accが急増した条件、アクセル開度Accが急減した条件、有段変速機60の変速段Gsを変更した条件などを用いるものとしてもよい。アクセル開度Accの急増や急減は、アクセル開度Accの単位時間当たりの増加量や減少量が閾値よりも大きいことを意味する。以下、各条件ついて説明する。
【0038】
エンジン22の回転数NeやモータMG1の回転数Nm1の急変条件としてエンジン22を停止した条件を用いる場合について説明する。図5は、エンジン22を停止した際の音圧レベルSPLの様子の一例を示す説明図である。図中、実線は、駆動装置(例えば、エンジン22など)に異常が生じていないときの様子を示し、破線は、駆動装置に異常が生じているときの様子を示す。図5に示すように、駆動装置に異常が生じているか否かにより、エンジン22の回転数NeやモータMG1の回転数Nm1が減少を開始してから略一定になるまでの間の音圧レベルSPLが異なる。このため、エンジン22の回転数NeやモータMG1の回転数Nm1が減少を開始してから略一定になるまでのうちの少なくとも一部を含む時間Δt2(例えば、時刻t22~t23や、時刻t21~t23)の音圧レベルSPLの最大値を評価値Esとして設定し、図2の処理ルーチンで用いるものとしてもよい。これにより、実施例と同様の効果を奏することができる。なお、閾値ΔEref1,ΔEref2は、適宜設定される。
【0039】
エンジン22の回転数NeやモータMG1の回転数Nm1の急変条件としてアクセル開度Accが急増した条件や急減した条件を用いる場合について説明する。図6は、アクセル開度Accが急増したり急減したりする際の音圧レベルSPLの様子の一例を示す説明図である。図中、実線は、駆動装置に異常が生じていないときの様子を示し、破線は、駆動装置に異常が生じているときの様子を示す。図6に示すように、駆動装置に異常が生じているか否かにより、エンジン22やモータMG1の回転数Ne,回転数Nm1が増加や減少を開始してから略一定になって安定するまでの間の音圧レベルSPLが異なる。このため、エンジン22の回転数NeやモータMG1の回転数Nm1が増加や減少を開始してから略一定になって安定するまでのうちの少なくとも一部を含む時間Δt3(例えば、時刻t32~t33や、時刻t31~t33)や時間Δt4(例えば、時刻t34~t35や、時刻t34~t36)の音圧レベルSPLの最大値を評価値Esとして設定し、図2の処理ルーチンで用いるものとしてもよい。これにより、実施例と同様の効果を奏することができる。なお、閾値ΔEref1,ΔEref2は、適宜設定される。
【0040】
エンジン22の回転数NeやモータMG1の回転数Nm1の急変条件として有段変速機60の変速段Gsを変更した条件を用いる場合について説明する。有段変速機60の変速段Gsを変更すると、有段変速機60の入力軸の回転数Ninが変化することから、エンジン22の回転数NeやモータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2も変化する。駆動装置に異常が生じているか否かにより、このときの音圧レベルSPLが異なると想定されることから、このときの音圧レベルSPLの最大値を評価値Esとして設定し、図2の処理ルーチンで用いるものとしてもよい。これにより、実施例と同様の効果を奏することができる。なお、閾値ΔEref1,ΔEref2は、適宜設定される。
【0041】
エンジン22の回転数NeやモータMG1の回転数Nm1の急変条件として各条件を用いる場合について説明したが、各条件ごとに音圧レベルSPLが異なると想定されるから、各条件ごとに、最新の評価値Esと前回の評価値(前回Es)との差分ΔEsを用いて、初期馴染みの完了の有無や駆動装置の異常の有無を判定するのが好ましい。
【0042】
実施例のハイブリッド自動車20では、評価値Esは、音圧レベルSPLの最大値としたが、音圧レベルSPLの時間積分値としてもよい。
【0043】
実施例のハイブリッド自動車20では、比較値は、前回に設定した評価値(前回Es)としたが、過去に設定した評価値Es(過去)の移動平均値としてもよい。
【0044】
実施例では、エンジン22とプラネタリギヤ30とモータMG1,MG2と有段変速機60とを備えるハイブリッド自動車20の形態とした。しかし、駆動源を有する駆動装置を備える車両であればよいから、ハイブリッド自動車20のうち有段変速機60を備えない構成や、シリーズハイブリッド自動車、走行用のモータを備えずにエンジンからの動力だけを用いて走行する通常の自動車、エンジンを備えずにモータからの動力だけを用いて走行する電気自動車などの形態としてもよい。
【0045】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、HVECU70が「演算部」および「判定部」に相当する。
【0046】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0047】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、異常検知装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0049】
20 ハイブリッド自動車、22 エンジン、23 クランクポジションセンサ、24
エンジンECU、25 集音センサ、26 クランクシャフト、28 ダンパ、30 プラネタリギヤ、36 駆動軸、38 デファレンシャルギヤ、39a,39b 駆動輪、40 モータECU、41,42 インバータ、43,44 回転位置検出センサ、45u,45v,46u,46v 電流センサ、50 バッテリ、51a 電圧センサ、51b 電流センサ、51c 温度センサ、52 バッテリECU、54 電力ライン、57 コンデンサ、60 有段変速機、70 HVECU、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、MG1,MG2 モータ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6