(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】ガラスフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 33/03 20060101AFI20231114BHJP
C03B 17/06 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
C03B33/03
C03B17/06
(21)【出願番号】P 2020006738
(22)【出願日】2020-01-20
【審査請求日】2022-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100129148
【氏名又は名称】山本 淳也
(72)【発明者】
【氏名】山城 陸
(72)【発明者】
【氏名】森 弘樹
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/079343(WO,A1)
【文献】特表2018-522801(JP,A)
【文献】特開2019-104660(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B33/00-35/26
C03B17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形装置によって帯状のガラスフィルムを成形する成形工程と、搬送装置によって前記ガラスフィルムを横搬送方向に沿って搬送する搬送工程と、を備えるガラスフィルムの製造方法において、
前記搬送工程は、前記ガラスフィルムの幅方向の端部を非製品部として除去する切断工程と、前記非製品部を廃棄する廃棄工程と、を備え、
前記廃棄工程では、前記ガラスフィルムの長手方向に沿って前記非製品部に生じる割れを前記非製品部の幅方向の外端部に進展するように誘導部材によって誘導することを特徴とするガラスフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記誘導部材は、ローラを含む請求項1に記載のガラスフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記誘導部材は、前記非製品部に前記割れが発生したときに、前記非製品部に接触する請求項1又は2に記載のガラスフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記誘導部材は、前記非製品部に前記割れが発生したときに、前記非製品部から離れた待機位置から前記非製品部に向かって移動する請求項1から3のいずれか一項に記載のガラスフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記成形工程によって成形された前記ガラスフィルムの搬送方向を縦方向から前記横搬送方向に変換する方向変換工程を備える請求項1から4のいずれか一項に記載のガラスフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記成形装置は、オーバーフローダウンドロー法を実行する長尺状の成形体を備え、
前記成形体は、前記成形体の長手方向に沿って長尺状に構成されるオーバーフロー溝と、前記成形体の前記長手方向の一端部側から前記オーバーフロー溝に溶融ガラスを供給する供給部と、を備え、
前記オーバーフロー溝は、その長手方向における第一端部と第二端部とを備え、
前記第一端部は、前記供給部側に位置しており、
前記ガラスフィルムは、前記オーバーフロー溝の前記第一端部から溢れ出た溶融ガラスによって成形される前記幅方向の一端部と、前記オーバーフロー溝の前記第二端部から溢れ出た溶融ガラスによって成形される前記幅方向の他端部と、を含み、
前記非製品部は、前記ガラスフィルムの前記幅方向の前記一端部を含む第一非製品部と、前記ガラスフィルムの前記幅方向の前記他端部を含む第二非製品部と、を含み、
前記誘導部材は、前記第一非製品部に発生する前記割れを誘導する第一誘導部材と、前記第二非製品部に発生する前記割れを誘導する第二誘導部材と、を含み、
前記第一誘導部材の数は、前記第二誘導部材の数よりも多い請求項1から5のいずれか一項に記載のガラスフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスフィルムを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、急速に普及しているスマートフォンやタブレット型PC等のモバイル端末は、薄型、軽量であることが求められるため、これらの端末に組み込まれるガラス基板にも薄板化に対する要請が高まっているのが現状である。このような現状の下、フィルム状にまで薄板化(例えば、厚みが300μm以下)されたガラス基板であるガラスフィルムが開発、製造されるに至っている。
【0003】
例えば特許文献1には、オーバーフローダウンドロー法によりガラスフィルムを製造する方法が開示されている。この製造方法は、成形部によって帯状の母材ガラスフィルム(ガラスリボン)を成形する成形工程と、横搬送部によって母材ガラスフィルムを搬送方向に沿って搬送しつつ、製品となる部分(以下「製品ガラスフィルム」という)と、非製品部とに分断する搬送工程と、巻取部によって製品ガラスフィルムをロール状に巻き取る巻取工程とを備える。
【0004】
横搬送部には、母材ガラスフィルムを製品ガラスフィルムと非製品部とに分断する切断装置が設けられている。この切断装置によって母材ガラスフィルムを切断することにより形成される帯状の非製品部は、母材ガラスフィルムの幅方向の端部(耳部)を含む不要部分である。この非製品部は、横搬送部による搬送の途中で廃棄される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようにガラスフィルムを製造する場合において、搬送中の非製品部に割れが発生する場合がある。以下、この割れの発生の態様について、
図9を参照しつつ説明する。
図9は、母材ガラスフィルムを、製品ガラスフィルムと非製品部とに分断した状態を示す平面図である。
【0007】
母材ガラスフィルムG1は、幅方向の端部Ga,Gbを有している。母材ガラスフィルムG1は、搬送装置101によって、横搬送方向GXに沿って搬送される。母材ガラスフィルムG1は、この搬送の途中で、切断装置102により製品ガラスフィルムG2と非製品部Gcとに分断される。製品ガラスフィルムG2は、搬送装置101の下流側に配置される巻取装置103によってロール状に巻き取られる。非製品部Gcは、その搬送途中において、製品ガラスフィルムG2の搬送経路から逸れ、折割等の工程を伴って廃棄される。
【0008】
割れCRは、非製品部Gcの最も下流側の端部(先端部)に発生し得る。この割れCRは、放置していると、
図9において矢印Aで示すように、上流側(横搬送方向GXとは逆の方向)に直線状に進展する場合がある。
【0009】
非製品部Gcに生じた割れCRが上流側に進展していくと、母材ガラスフィルムG1の切断部位にまで到達し得る。さらに放置すると、割れCRが成形工程にまで到達する場合もある。
【0010】
このため、従来のガラスフィルムの製造方法では、非製品部に発生した割れにより、母材ガラスフィルムの切断が阻害され、或いは成形工程における母材ガラスフィルムの製造に支障を来すおそれがあった。
【0011】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、ガラスフィルムの幅方向の端部を切断することにより形成される非製品部に発生する割れの進展を抑制することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記の課題を解決するためのものであり、成形装置によって帯状のガラスフィルムを成形する成形工程と、搬送装置によって前記ガラスフィルムを横搬送方向に沿って搬送する搬送工程と、を備えるガラスフィルムの製造方法において、前記搬送工程は、前記ガラスフィルムの幅方向の端部を非製品部として除去する切断工程と、前記非製品部を廃棄する廃棄工程と、を備え、前記廃棄工程では、前記ガラスフィルムの長手方向に沿って前記非製品部に生じる割れを前記非製品部の幅方向の外端部に進展するように誘導部材によって誘導することを特徴とする。
【0013】
かかる構成によれば、廃棄工程において非製品部に発生した割れを誘導部材によって当該非製品部の外端部に進展させることができる。これにより、成形工程に向かう割れの進展を抑制することが可能になる。
【0014】
前記誘導部材は、ローラを含んでもよい。非製品部に接触した際に誘導部材を回転させることで、割れの上流側への進展を抑制しつつ、非製品部を好適に搬送することができる。
【0015】
前記誘導部材は、前記非製品部に前記割れが発生したときに、前記非製品部に接触してもよい。これにより、非製品部に割れが発生していない状態において、当該非製品部に抵抗を加えることなく、当該非製品部を好適に搬送し、廃棄することができる。
【0016】
前記誘導部材は、前記非製品部に前記割れが発生したときに、前記非製品部から離れた待機位置から前記非製品部に向かって移動することができる。これにより、非製品部に割れが発生した際に、誘導部材を当該非製品部に確実に接触させることができる。
【0017】
本発明に係るガラスフィルムの製造方法は、前記成形工程によって成形された前記ガラスフィルムの搬送方向を縦方向から前記横搬送方向に変換する方向変換工程を備えてもよい。
【0018】
本発明に係るガラスフィルムの製造方法において、前記成形装置は、オーバーフローダウンドロー法を実行する長尺状の成形体を備え、前記成形体は、前記成形体の長手方向に沿って長尺状に構成されるオーバーフロー溝と、前記成形体の前記長手方向の一端部側から前記オーバーフロー溝に溶融ガラスを供給する供給部と、を備え、前記オーバーフロー溝は、その長手方向における第一端部と第二端部とを備え、前記第一端部は、前記供給部側に位置しており、前記ガラスフィルムは、前記オーバーフロー溝の前記第一端部から溢れ出た溶融ガラスによって成形される前記幅方向の一端部と、前記オーバーフロー溝の前記第二端部から溢れ出た溶融ガラスによって成形される前記幅方向の他端部と、を含み、前記非製品部は、前記ガラスフィルムの前記幅方向の前記一端部を含む第一非製品部と、前記ガラスフィルムの前記幅方向の前記他端部を含む第二非製品部と、を含み、前記誘導部材は、前記第一非製品部に発生する前記割れを誘導する第一誘導部材と、前記第二非製品部に発生する前記割れを誘導する第二誘導部材と、を含み、前記第一誘導部材の数は、前記第二誘導部材の数よりも多くてもよい。第一非製品部に割れが発生し易いところ、第一誘導部材の設置数を多くすることで、より確実に、第一非製品部に発生する割れを外端部に進展させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ガラスフィルムの幅方向の端部を切断することにより形成される非製品部に発生する割れの進展を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係るガラスフィルムの製造方法の第一実施形態を示す側面図である。
【
図2】ガラスフィルムの製造方法を示す平面図である。
【
図3】ガラスフィルムの製造方法における成形工程を示す正面図である。
【
図4】ガラスフィルムの製造方法における搬送工程を示す側面図である。
【
図5】ガラスフィルムの製造方法における廃棄工程を示す平面図である。
【
図6】ガラスフィルムの製造方法における廃棄工程を示す側面図である。
【
図7】ガラスフィルムの製造方法における廃棄工程を示す平面図である。
【
図8】第二実施形態に係るガラスフィルムの製造方法を示す平面図である。
【
図9】従来のガラスフィルムの製造方法を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
図1乃至
図7は、本発明に係るガラスフィルムの製造方法の第一実施形態を示す。
【0022】
図1及び
図2は、本方法に使用されるガラスフィルム(ガラスロール)の製造装置の全体構成を示す。製造装置1は、溶融ガラスから帯状の母材ガラスフィルム(ガラスリボン)G1を成形する成形装置2と、母材ガラスフィルムG1の進行方向を変換する方向変換装置3と、母材ガラスフィルムG1を横搬送方向GXに沿って搬送する横搬送装置4と、母材ガラスフィルムG1の幅方向端部Ga,Gbの不要部分(耳部)を除去してなる製品ガラスフィルムG2をロール状に巻き取ってガラスロールGRを形成する巻取装置5と、を備える。
【0023】
なお、本実施形態において、製品ガラスフィルムG2の厚みは、300μm以下とされ、好ましくは100μm以下とされる。
【0024】
図1乃至
図3に示すように、成形装置2は、オーバーフローダウンドロー法を実行する長尺状で断面視略楔形状の成形体6と、成形体6の直下に配置されて、成形体6から溢出した溶融ガラスを表裏両側から挟むエッジローラ7と、エッジローラ7の直下に配備されるアニーラ8とを備える。
【0025】
成形体6は、当該成形体6の上部に形成されるオーバーフロー溝9と、溶融ガラスの流れを規制するガイド部10a,10bと、成形体6の長手方向の一端部側からオーバーフロー溝9に溶融ガラスを供給する供給部11と、を備える。
【0026】
オーバーフロー溝9は、成形体6の長手方向に沿って長尺状に構成される。オーバーフロー溝9は、底面9aと、長手方向における第一端部9b及び第二端部9cと、を備える。底面9aは、第一端部9bから第二端部9cに向かうにつれて、その深さが徐々に浅くなる傾斜面として構成される。第一端部9bは、供給部11側に位置する端部である。第二端部9cは、第一端部9bよりも供給部11から離れた位置にある。
【0027】
ガイド部10a,10bは、オーバーフロー溝9の第一端部9bに対応する第一ガイド部10aと、オーバーフロー溝9の第二端部9cに対応する第二ガイド部10bとを含む。第一ガイド部10aは、オーバーフロー溝9の第一端部9bから溢れ出た溶融ガラスの流れを規制する。第二ガイド部10bは、オーバーフロー溝9の第二端部9cから溢れ出た溶融ガラスの流れを規制する。
【0028】
供給部11は、オーバーフロー溝9の第一端部9bに連結されている。供給部11は、例えば白金又は白金合金により管状に構成される。
【0029】
成形装置2は、成形体6のオーバーフロー溝9の上方から溢流した溶融ガラスを、各ガイド部10a,10bによって規制しつつ、成形体6の両側面に沿ってそれぞれ流下させ、成形体6の下端で合流させ、フィルム状に成形する。エッジローラ7は、溶融ガラスの幅方向収縮を規制して所定幅の母材ガラスフィルムG1とする。アニーラ8は、母材ガラスフィルムG1に対して除歪処理を施すためのものである。このアニーラ8は、上下方向複数段に配設されたアニーラローラ8aを有する。
【0030】
アニーラ8の下方には、母材ガラスフィルムG1を表裏両側から挟持する支持ローラ12が配設されている。支持ローラ12とエッジローラ7との間、または支持ローラ12と何れか一箇所のアニーラローラ8aとの間には、母材ガラスフィルムG1を薄肉にすることを助長するための張力が付与されている。
【0031】
方向変換装置3は、母材ガラスフィルムG1の進行方向を縦方向から横搬送方向GXへと変換する。方向変換装置3は、支持ローラ12の下方位置に設けられている。方向変換装置3は、母材ガラスフィルムG1を案内する複数のガイドローラ3aを備える。複数のガイドローラ3aは、母材ガラスフィルムG1の搬送方向を変更すべく、湾曲状に配列されている。
【0032】
図3に示すように、母材ガラスフィルムG1は、成形体6のオーバーフロー溝9の第一端部9bから溢れ出た溶融ガラスによって成形される幅方向の一端部Gaと、オーバーフロー溝9の第二端部9cから溢れ出た溶融ガラスによって成形される幅方向の他端部Gbとを含む。
【0033】
横搬送装置4は、母材ガラスフィルムG1の進行方向において、方向変換装置3の下流側に配置されている。横搬送装置4は、第一搬送装置13と、第二搬送装置14と、第三搬送装置15とを有する。第一搬送装置13は、方向変換装置3の下流側に配置されている。第二搬送装置14は、第一搬送装置13の下流側に配置されている。第三搬送装置15は、第二搬送装置14の下流側に配置されている。
【0034】
第一搬送装置13及び第二搬送装置14は、例えばベルトコンベアにより構成されるが、これに限らず、ローラコンベアその他の各種コンベアにより構成されてもよい。第一搬送装置13は、コンベアベルト13aを備える。コンベアベルト13aは、方向変換装置3を通過した母材ガラスフィルムG1を横搬送方向GXに沿って下流側の第二搬送装置14へと連続的に搬送する。
【0035】
第二搬送装置14は、コンベアベルト14aと、母材ガラスフィルムG1の幅方向端部(耳部)Ga,Gbを非製品部Gc1,Gc2として切断する切断装置16と、非製品部Gc1,Gc2に発生する割れCRの進展の方向を規制する誘導部材17a,17bと、を備える。
【0036】
コンベアベルト14aは、母材ガラスフィルムG1を当該コンベアベルト14aの中途部へと搬送し、この中途部において、母材ガラスフィルムG1を切断することにより形成される製品ガラスフィルムG2及び非製品部Gc1,Gc2を下流側へと搬送する。
【0037】
切断装置16は、例えばレーザ割断により母材ガラスフィルムG1を切断するが、この切断態様に限定されない。切断装置16は、一対のレーザ照射装置16aと、当該レーザ照射装置16aの下流側に配置される一対の冷却装置16bとを含む。切断装置16は、搬送される母材ガラスフィルムG1の所定部位に各レーザ照射装置16aからレーザ光を照射して加熱した後、冷却装置16bから冷媒を放出して当該加熱部位を冷却する。
【0038】
誘導部材17a,17bは、母材ガラスフィルムG1の幅方向の一端部Gaを含む第一非製品部Gc1に対応する第一誘導部材17aと、母材ガラスフィルムG1の幅方向の他端部Gbを含む第二非製品部Gc2に対応する第二誘導部材17bとを含む。
【0039】
誘導部材17a,17bは、ローラにより構成されるが、この構成に限定されるものではない。各誘導部材17a,17bは、切断装置16の下流側に配置されている。また、各誘導部材17a,17bは、非製品部Gc1,Gc2に割れCRが発生したときに、当該非製品部Gc1,Gc2に接触するように、コンベアベルト14aの上方に配置されている。各誘導部材17a,17bは、移動機構により上下方向及び水平方向に移動可能に構成される。
【0040】
第三搬送装置15は、製品ガラスフィルムG2を固定保持した状態で、下流側に搬送する。第三搬送装置15は、例えばコンベアベルト15aを有する吸着コンベアにより構成される。
【0041】
本実施形態において、「固定保持」とは、第三搬送装置15による製品ガラスフィルムG2の搬送中に、コンベアベルト15aと製品ガラスフィルムG2における搬送中の部位との両者が相対移動しないことを意味する。すなわち、製品ガラスフィルムG2が固定保持された状態において、コンベアベルト15aの表面と、当該表面に接触する製品ガラスフィルムG2の下面の一部とは、搬送中に相対移動しない。
【0042】
コンベアベルト15aには、当該コンベアベルト15aを厚み方向に貫通した多数の吸着用孔(図示省略)が形成されている。また、コンベアベルト15aの内周側には、真空ポンプ等と接続された負圧発生装置(図示省略)が配置されている。負圧発生装置は、吸着用孔を介して製品ガラスフィルムG2を吸着するための負圧を発生させる。
【0043】
これにより、コンベアベルト15aの表面は、製品ガラスフィルムG2の下面を吸着により固定保持する。コンベアベルト15aに吸着された状態の製品ガラスフィルムG2は、当該コンベアベルト15aの送り速度と同一の搬送速度の下で、搬送経路の下流側に搬送されていく。
【0044】
製品ガラスフィルムG2は、第三搬送装置15の固定保持によって、第二搬送装置14と第三搬送装置15の間に領域では弛んだ状態で搬送され、第三搬送装置15と巻取装置5との間ではその長手方向に張力が付与された状態で搬送される。
【0045】
巻取装置5は、第三搬送装置15の下流側に設置されている。巻取装置5は、巻取ローラ18と、この巻取ローラ18を回転駆動するモータ(図示省略)と、巻取ローラ18に保護シートPSを供給する保護シート供給部19とを有する。巻取装置5は、保護シート供給部19から保護シートPSを製品ガラスフィルムG2に重ね合わせつつ、モータにより巻取ローラ18を回転させることで、製品ガラスフィルムG2をロール状に巻き取る。巻き取られた製品ガラスフィルムG2は、ガラスロールGRとして構成される。
【0046】
以下、上記構成の製造装置1を使用してガラスフィルムG1,G2(ガラスロールGR)を製造する方法について説明する。本方法は、母材ガラスフィルムG1を成形する成形工程と、各ガラスフィルムG1,G2を搬送する搬送工程と、製品ガラスフィルムG2をロール状に巻き取る巻取工程と、を備える。
【0047】
成形工程では、成形装置2における成形体6のオーバーフロー溝9の上方から溢流した溶融ガラスを両側面に沿ってそれぞれ流下させ、下端で合流させて当該溶融ガラスをフィルム状に成形する。この際、溶融ガラスの幅方向収縮をエッジローラ7により規制して所定幅の母材ガラスフィルムG1とする。その後、母材ガラスフィルムG1に対してアニーラ8により除歪処理を施す。母材ガラスフィルムG1は、支持ローラ12によって付与される張力の作用により、所定の厚みに形成される。
【0048】
搬送工程では、成形工程によって成形された母材ガラスフィルムG1の搬送方向を方向変換装置3によって縦方向から横搬送方向GXに変換する(方向変換工程)。さらに、搬送工程では、母材ガラスフィルムG1を第一搬送装置13及び第二搬送装置14によって搬送し、製品ガラスフィルムG2を第二搬送装置14及び第三搬送装置15によって搬送する。
【0049】
搬送工程は、母材ガラスフィルムG1を製品ガラスフィルムG2と非製品部Gc1,Gc2とに分断する切断工程と、非製品部Gc1,Gc2を廃棄する廃棄工程とを備える。
【0050】
図4に示すように、切断工程では、第二搬送装置14のコンベアベルト14aによって母材ガラスフィルムG1を下流側に送りつつ、切断装置16において、レーザ照射装置16aからレーザ光を母材ガラスフィルムG1の一部に照射して加熱する。その後、加熱した部位に冷却装置16bによって冷媒を吹き付ける。これにより、母材ガラスフィルムG1に熱応力が生じる。母材ガラスフィルムG1には、予め初期クラックが形成されており、切断装置16は、このクラックを熱応力によって進展させる。これにより、母材ガラスフィルムG1から製品ガラスフィルムG2と非製品部Gc1,Gc2とが形成される。
【0051】
母材ガラスフィルムG1の一端部Gaは、切断後に第一非製品部Gc1の幅方向の外端部Gdとなって当該第一非製品部Gc1に残存する。また、母材ガラスフィルムG1の他端部Gbは、切断後に第二非製品部Gc2の幅方向の外端部Gdとなって当該第二非製品部Gc2に残存する。
【0052】
廃棄工程において、非製品部Gc1,Gc2は、第二搬送装置14によって下流側に搬送される。その後、非製品部Gc1,Gc2は、製品ガラスフィルムG2の搬送経路から下方に離脱し、廃棄に適した長さに切断される。この廃棄のための切断は、非製品部Gc1,Gc2の上面側を凸に湾曲させ、曲げ応力を付与することで実行される。本実施形態では、非製品部Gc1,Gc2の切断を容易にするため、廃棄に適した長さ毎に非製品部Gc1,Gc2の外端部Gdに対して上面側から加傷部材(図示省略)により傷を付けている。これにより、この傷を起点として非製品部Gc1,Gc2を切断(破断)しやすくなる。加傷部材としては、ダイヤモンド砥石やダイヤモンドチップ、サンドペーパー等を使用できる。
【0053】
非製品部Gc1,Gc2には、上記の切断の際に、当該非製品部Gc1,Gc2の先端部Ge(切断によって形成される端部)に割れCRが発生する場合がある。廃棄工程では、この割れCRが上流側に進展して切断装置16による母材ガラスフィルムG1の切断位置に到達しないように、誘導部材17a,17bによって当該割れCRの進展の方向を規制する(誘導工程)。
【0054】
具体的には、誘導部材17a,17bは、非製品部Gc1,Gc2に生じる割れCRを、当該非製品部Gc1,Gc2の幅方向の外端部Gdに進展するように誘導する。
【0055】
以下、第一非製品部Gc1に割れCRが発生し、当該割れCRを第一誘導部材17aによって誘導する場合を例として説明する。
【0056】
図5に示すように、第一非製品部Gc1の先端部Geに生じた割れCRは、第一非製品部Gc1の長手方向に沿って、上流側に向かって直線的に進展しようとする。
【0057】
割れCRが横搬送方向GXとは逆の方向に進展する過程において、非製品部Gc1,Gc2の一部がコンベアベルト15aから浮き上がる現象が本発明者らにより確認されている。すなわち、
図6に示すように、第一非製品部Gc1に割れ
CRが発生すると、当該割れ
CRの上流側への進展に伴って、当該第一非製品部Gc1の一部が上昇し(コンベアベルト14aから離れ)、第一誘導部材17aに接触する。
【0058】
このため、第一誘導部材17aは、割れCRが発生していない状態において、第一非製品部Gc1に接触せず、当該第一非製品部Gc1を通過させることができ、割れCRが発生した場合にのみ、当該第一非製品部Gc1に接触することができる。
【0059】
図6に示すように、第一誘導部材17aは、第一非製品部Gc1から離れた待機位置(二点鎖線で示す位置)から、割れCRが進展している第一非製品部Gc1に接触可能な位置(誘導位置)に向かって下方に移動することができる。第一誘導部材17aの移動は、第一非製品部Gc1に割れCRが発生した場合に、当該第一非製品部Gc1の一部の浮き上がりをセンサにより検出し、この検出に応じて移動機構を動作させることより実現できる。或いは、第一非製品部Gc1に割れCRが発生した場合に、監視者が移動機構を操作することによって第一誘導部材17aを待機位置から第一非製品部Gc1に向かって移動させてもよい。
【0060】
上記の第一誘導部材17aの移動態様に限らず、第一非製品部Gc1の一部が浮き上がった場合に接触可能な位置(
図6において実線で示す第一誘導部材17aの位置)に当該第一誘導部材17aを位置決めしておいてもよい。これにより、第一誘導部材17aを移動させることなく、割れCRが進行している第一非製品部Gc1に当該第一誘導部材17aを接触させることができる。
【0061】
第一非製品部Gc1の一部が第一誘導部材17aに接触すると、当該第一非製品部Gc1の一部に当該第一誘導部材17aによる押圧力が作用する。これにより、第一非製品部Gc1における割れCRの進行方向が変更される。
【0062】
図7に示すように、割れCRは、第一誘導部材17aに到達するまでは第一非製品部Gc1の長手方向に沿って直線状に進行するが、第一誘導部材17aを通過した後に進行方向を変える。すなわち、割れCRは、第一誘導部材17aと重なるように上流側に通過した後に、第一非製品部Gc1の外端部Gdに向かって進行する。割れCRが外端部Gdに到達すると、第一非製品部Gc1の一部が分断され、割れCRの進展は終了する。その後、割れCRの存在しない第一非製品部Gc1が第一誘導部材17aの上流側から下流側へと通過する。なお、各誘導部材17a,17bは、平面視において、各非製品部Gc1,Gc2の外端部Gdと重ならないように、幅方向において各外端部Gdから離れた位置に配置されることが好ましい(
図7参照)。
【0063】
巻取工程では、保護シート供給部19から保護シートPSを製品ガラスフィルムG2に供給しつつ、第三搬送装置15によって搬送された製品ガラスフィルムG2を巻取装置5の巻取ローラ18にてロール状に巻き取る。所定長さの製品ガラスフィルムG2を巻取ローラ18により巻き取ることで、ガラスロールGRが完成する。
【0064】
以上説明した本実施形態に係るガラスフィルムG1,G2の製造方法によれば、廃棄工程において、非製品部Gc1,Gc2に割れCRが発生した場合に、誘導部材17a,17bによって当該割れCRを非製品部Gc1,Gc2の外端部Gdに進展させることができる。これにより、割れCRの進展を限定的に抑制し、当該割れCRが廃棄工程よりも上流側の切断工程や成形工程に進展することを防止できる。
【0065】
図8は、本発明に係るガラスフィルムの製造方法の第二実施形態を示す。本実施形態では、第二搬送装置14における誘導部材17a,17bの構成が第一実施形態と異なる。
【0066】
本実施形態に係る製造装置1では、第一誘導部材17aの数が第二誘導部材17bの数よりも多い。すなわち、第二誘導部材17bは一個のローラにより構成されるが、第一誘導部材17aは、横搬送方向GXにおいて離間された二個のローラを含む。供給部11側である第一非製品部Gc1に割れCRが発生し易いことが、経験的に分かっている。割れCRが発生し、割れCRが1つ目(横搬送方向GXにおいて下流側)の第一誘導部材17aを通過した後で、割れCRを外端部Gdに誘導しきれなかったとしても、2つ目(横搬送方向GXにおいて上流側)の第一誘導部材17aを通過することで、割れCRを外端部Gdに誘導させることができる。
【0067】
なお、本発明は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、上記した作用効果に限定されるものでもない。本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0068】
上記の実施形態では、誘導部材17a,17bをローラにより構成した例を示したが、本発明はこの構成に限定されるものではない。誘導部材17a,17bは、例えば、棒材、板材、ピストンその他の非製品部Gc1,Gc2に接触可能な部材により構成され得る。
【0069】
上記の実施形態では、一個または二個の第一誘導部材17a、及び一個の第二誘導部材17bを例示したが、各誘導部材17a,17bの数は、上記実施形態に限定されない。
【符号の説明】
【0070】
2 成形装置
4 横搬送装置
6 成形体
9 オーバーフロー溝
9b オーバーフロー溝の第一端部
9c オーバーフロー溝の第二端部
11 供給部
17a 第一誘導部材
17b 第二誘導部材
CR 割れ
G1 母材ガラスフィルム
Ga 母材ガラスフィルムの幅方向の一端部
Gb 母材ガラスフィルムの幅方向の他端部
G2 製品ガラスフィルム
Gc1 第一非製品部
Gc2 第二非製品部
Gd 非製品部の外端部
GX 横搬送方向