(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】制御装置、制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 13/02 20060101AFI20231114BHJP
【FI】
G05B13/02 Z
(21)【出願番号】P 2020016848
(22)【出願日】2020-02-04
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】丹下 吉雄
【審査官】田中 友章
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-075805(JP,A)
【文献】特開平06-214609(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッチプロセスの所定の期間における制御量の統計量を所定の目標値に追従させる制御装置であって、
前記所定の期間の開始時点と、前記所定の期間の終了時点と、前記所定の目標値とを入力する入力部と、
前記開始時点から現時点までの前記制御量の観測値に基づいて、前記開始時点から前記現時点までの暫定的な統計量を示す暫定統計量を算出する暫定統計量計算部と、
前記暫定統計量と前記所定の目標値とに基づいて、前記現時点から前記終了時点までの期間を示す残期間における目標値である残期間目標値を算出する目標値計算部と、
前記残期間目標値に追従するように前記制御量を制御する制御部と、
を有
し、
前記目標値計算部は、
前記残期間の長さが所定の値よりも短い場合、前記残期間目標値として、1つ前の制御周期で算出された残期間目標値を算出する、制御装置。
【請求項2】
前記統計量は、前記所定の期間における制御量の平均値であり、
前記目標値計算部は、
前記所定の目標値と前記所定の期間の長さとの積から、前記暫定統計量と前記開始時点から前記現時点までの期間の長さとの積を減算した値を、前記残期間で除算することで、前記残期間目標値を算出する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記統計量は、前記所定の期間における制御量の積算値であり、
前記目標値計算部は、
前記所定の目標値から前記暫定統計量を減算した値を、前記残期間で除算することで、前記残期間目標値を算出する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項4】
前記目標値計算部は、
所定の上下限値制約の下で前記残期間目標値を算出する、請求項1乃至3の何れか一項に記載の制御装置。
【請求項5】
前記暫定統計量計算部と前記目標値計算部と前記制御部とは、予め設定された
前記制御周期毎に、前記暫定統計量の算出と前記残期間目標値の算出と前記制御量の制御とをそれぞれ実行
する、請求項1乃至4の何れか一項に記載の制御装置。
【請求項6】
前記制御部は、
モデル予測制御又はPID制御により前記制御量を制御する、請求項1乃至5の何れか一項に記載の制御装置。
【請求項7】
バッチプロセスの所定の期間における制御量の統計量を所定の目標値に追従させる制御装置が、
前記所定の期間の開始時点と、前記所定の期間の終了時点と、前記所定の目標値とを入力する入力手順と、
前記開始時点から現時点までの前記制御量の観測値に基づいて、前記開始時点から前記現時点までの暫定的な統計量を示す暫定統計量を算出する暫定統計量計算手順と、
前記暫定統計量と前記所定の目標値とに基づいて、前記現時点から前記終了時点までの期間を示す残期間における目標値である残期間目標値を算出する目標値計算手順と、
前記残期間目標値に追従するように前記制御量を制御する制御手順と、
を実行
し、
前記目標値計算手順は、
前記残期間の長さが所定の値よりも短い場合、前記残期間目標値として、1つ前の制御周期で算出された残期間目標値を算出する、制御方法。
【請求項8】
バッチプロセスの所定の期間における制御量の統計量を所定の目標値に追従させる制御装置に、
前記所定の期間の開始時点と、前記所定の期間の終了時点と、前記所定の目標値とを入力する入力手順と、
前記開始時点から現時点までの前記制御量の観測値に基づいて、前記開始時点から前記現時点までの暫定的な統計量を示す暫定統計量を算出する暫定統計量計算手順と、
前記暫定統計量と前記所定の目標値とに基づいて、前記現時点から前記終了時点までの期間を示す残期間における目標値である残期間目標値を算出する目標値計算手順と、
前記残期間目標値に追従するように前記制御量を制御する制御手順と、
を実行させ
、
前記目標値計算手順は、
前記残期間の長さが所定の値よりも短い場合、前記残期間目標値として、1つ前の制御周期で算出された残期間目標値を算出する、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置、制御方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
化学、医薬品、鉄鋼、鋳造、食品、半導体等の分野の製造プロセスでは、原料や材料、中間製品等の一定量を製造単位としてまとめて、製造単位毎に繰り返し製造処理を行って製品を製造する。このような製造プロセスはバッチプロセスと呼ばれる。
【0003】
バッチプロセスでは1バッチの間に製造される製品間で製品品質のばらつきを抑制することはもちろんのこと、複数のバッチ間で製品品質のばらつきを抑制することも重要である。このため、バッチプロセスの安定化や品質向上を目的とした様々な制御手法が従来から提案されている(例えば、特許文献1-3等を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-324006号公報
【文献】特表2013-505489号公報
【文献】特開2013-69094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、バッチプロセスの品質向上のためにはバッチプロセスの制御量を瞬時で制御するだけでなく、バッチ期間全体にわたって制御する必要がある。すなわち、バッチプロセスの制御量を各時刻で目標値に追従させるだけでなく、バッチ期間全体にわたって制御量を目標値に追従させる必要がある。しかしながら、従来の制御手法ではバッチ期間全体にわたる制御が考慮されていなかった。
【0006】
本発明の一実施形態は、上記の点に鑑みてなされたもので、バッチ期間全体にわたる制御量も考慮しながら、バッチプロセスを制御することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、一実施形態に係る制御装置は、バッチプロセスの所定の期間における制御量の統計量を所定の目標値に追従させる制御装置であって、前記所定の期間の開始時点と、前記所定の期間の終了時点と、前記所定の目標値とを入力する入力部と、前記開始時点から現時点までの前記制御量の観測値に基づいて、前記開始時点から前記現時点までの暫定的な統計量を示す暫定統計量を算出する暫定統計量計算部と、前記暫定統計量と前記所定の目標値とに基づいて、前記現時点から前記終了時点までの期間を示す残期間における目標値である残期間目標値を算出する目標値計算部と、前記残期間目標値に追従するように前記制御量を制御する制御部と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
バッチ期間全体にわたる制御量も考慮しながら、バッチプロセスを制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第一の実施形態に係る制御装置の機能構成の一例を示す図である。
【
図2】バッチ目標値と平均制御量の一例を説明するための図である。
【
図3】暫定バッチ平均制御量と残バッチ目標値の一例を説明するための図である。
【
図4】第一の実施形態に係る暫定バッチ平均制御量の算出処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5】第一の実施形態に係る残バッチ目標値の算出処理の一例を示すフローチャートである。
【
図6】第二の実施形態に係る制御装置の機能構成の一例を示す図である。
【
図7】バッチ目標値と積算制御量の一例を説明するための図である。
【
図8】暫定バッチ積算制御量と残バッチ目標値の一例を説明するための図である。
【
図9】第二の実施形態に係る暫定バッチ積算制御量の算出処理の一例を示すフローチャートである。
【
図10】第二の実施形態に係る残バッチ目標値の算出処理の一例を示すフローチャートである。
【
図11】実施例1におけるステップ応答を説明するための図である。
【
図12】従来技術による制御結果を説明するための図(実施例1)である。
【
図13】実施例1における制御結果を説明するための図である。
【
図14】従来技術による制御結果を説明するための図(実施例2)である。
【
図15】実施例2における制御結果を説明するための図である。
【
図17】一実施形態に係る制御装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について説明する。以降で説明する各実施形態では、バッチ期間全体にわたる制御量も考慮しながら、バッチプロセスを制御することができる制御装置10について説明する。なお、以降の各実施形態に係る制御装置10は、バッチプロセスを制御する各種コントローラ(例えば、PLC(Programmable Logic Controller)、DCS(Distributed Control System)、パーソナルコンピュータや組み込み機器上で実装されるコントローラ等)である。また、当該制御装置10は、任意の製品又は半製品等を製造する任意のバッチプロセスの制御に用いることが可能である。
【0011】
[第一の実施形態]
まず、本発明の第一の実施形態について説明する。第一の実施形態では、バッチ期間における制御量の平均値を所定の目標値(以下、「バッチ目標値」という。)に追従させる場合について説明する。
【0012】
<制御装置10の機能構成>
第一の実施形態に係る制御装置10の機能構成について、
図1を参照しながら説明する。
図1は、第一の実施形態に係る制御装置10の機能構成の一例を示す図である。
【0013】
図1に示すように、本実施形態に係る制御装置10は、機能部として、バッチ目標設定部101と、暫定バッチ制御量計算部102と、目標値更新部103と、下位自動制御部104と、計測部105と、タイマ106とを有する。これら各機能は、例えば、制御装置10にインストールされた1以上のプログラムがCPU(Central Processing Unit)に実行させる処理により実現される。
【0014】
バッチ目標設定部101は、バッチ期間の開始時刻を示すバッチ開始時刻tbgnと、バッチ期間の終了時刻を示すバッチ終了時刻tendと、バッチ目標値SVaveとを入力(設定)する。バッチ目標値SVaveは、バッチ期間における制御量の平均値(以下、「平均制御量」という。)の目標値である。なお、バッチ開始時刻tbgn、バッチ終了時刻tend及びバッチ目標値SVaveはメモリ等に格納される。
【0015】
暫定バッチ制御量計算部102は、現在時刻tとバッチ開始時刻tbgnとバッチ終了時刻tendと現在時刻tにおける制御量y(t)とを入力して、バッチ開始時刻tbgnから現在時刻tまでの制御量の暫定的な平均値を示す暫定バッチ平均制御量ytmp(t)を算出する。なお、制御量y(t)は、計測部105によって計測(観測)された、時刻tにおける制御対象プラント20の制御量である。制御対象プラント20は制御装置10の制御対象となる任意のプラント(又は、プラントを構成する設備、装置、機器等)のことであり、バッチプロセスにより所定の製品又は半製品等を製造する。
【0016】
目標値更新部103は、現在時刻tとバッチ開始時刻tbgnとバッチ終了時刻tendとバッチ目標値SVaveと暫定バッチ平均制御量ytmp(t)とを入力して、現在時刻tからバッチ終了時刻tendまでの期間Trest(以下、「残バッチ期間」という。)における目標値を示す残バッチ目標値rb(t)を算出する。
【0017】
下位自動制御部104は、例えばPID(Proportional-Integral-Differential)制御やモデル予測制御等の既知の制御手法により、目標値更新部103によって算出された残バッチ目標値rb(t)に制御量を追従させるような操作量u(t)を制御対象プラント20に出力する。これにより、この操作量u(t)によって制御対象プラント20が操作される。
【0018】
計測部105は、制御対象プラント20の制御量yを計測(観測)する。なお、制御対象プラント20の制御量yは、操作量uだけでなく、外乱vにも影響される。外乱vとは制御対象プラント20の制御量に影響を与える外的な要因のことであり、例えば、制御量yが温度である場合には、外乱vとしては外気温等が挙げられる。
【0019】
タイマ106は、予め設定された制御周期Tc毎に、計測部105と暫定バッチ制御量計算部102と目標値更新部103と下位自動制御部104とを動作させる。これにより、制御周期Tc毎に、制御量y(t)の観測と、暫定バッチ平均制御量ytmp(t)の算出と、残バッチ目標値rb(t)の算出と、操作量u(t)の出力とが繰り返し実行される。
【0020】
ここで、本実施形態に係るバッチ目標値SV
aveと平均制御量の一例を
図2に示す。
図2に示すように、平均制御量は、バッチ期間(つまり、バッチ開始時刻t
bgnからバッチ終了時刻b
endまでの期間)における制御量yの平均値である。本実施形態では、バッチ期間における制御対象プラント20の平均制御量をバッチ目標値SV
aveに追従させることを目的とする。これを実現するために、本実施形態に係る制御装置10は、制御周期T
c毎に、暫定バッチ平均制御量y
tmp(t)を用いて残バッチ目標値r
b(t)を算出し、この残バッチ目標値r
b(t)に制御量を追従させるように制御対象プラント20を制御する。
【0021】
暫定バッチ平均制御量y
tmp(t)と残バッチ目標値r
b(t)の一例を
図3に示す。
図3に示すように、暫定バッチ平均制御量y
tmp(t)はバッチ開始時刻t
bgnから現在時刻tまでの制御量の暫定的な平均値であり、残バッチ目標値r
b(t)は残バッチ期間T
restにおける目標値である。なお、
図3に示す例では、バッチ開始時刻t
bgnからバッチ終了時刻t
endまでの暫定バッチ平均制御量y
tmp(t)と残バッチ目標値r
b(t)と制御量y(t)とが示されている。
【0022】
<暫定バッチ平均制御量の算出処理>
次に、本実施形態に係る暫定バッチ平均制御量y
tmp(t)を算出する処理について、
図4を参照しながら説明する。
図4は、第一の実施形態に係る暫定バッチ平均制御量の算出処理の一例を示すフローチャートである。
【0023】
暫定バッチ制御量計算部102は、現在時刻tがバッチ期間内(つまり、tbgn≦t≦tend)であるか否かを判定する(ステップS11)。
【0024】
上記のステップS11で現在時刻tがバッチ期間内でないと判定された場合(ステップS11でNO)、暫定バッチ制御量計算部102は、ytmp(1)←y(t),n←1と暫定バッチ平均制御量を初期化する(ステップS12)。ここで、nは計算回数を表すインデックスである。
【0025】
一方で、上記のステップS11で現在時刻tがバッチ期間内であると判定された場合(ステップS11でYES)、暫定バッチ制御量計算部102は、
【0026】
【数1】
と暫定バッチ平均制御量y
tmpを更新する(ステップS13)。すなわち、暫定バッチ制御量計算部102は、バッチ開始時刻t
bgnから現在時刻tまでの制御量の平均値を暫定バッチ平均制御量y
tmp(t)=y
tmp(n+1)とする。これにより、バッチ期間内の現在時刻tにおける暫定バッチ平均制御量y
tmp(t)が算出される。
【0027】
<残バッチ目標値の算出処理>
次に、本実施形態に係る残バッチ目標値r
b(t)を算出する処理について、
図5を参照しながら説明する。
図5は、第一の実施形態に係る残バッチ目標値の算出処理の一例を示すフローチャートである。
【0028】
目標値更新部103は、現在時刻tがバッチ期間内(つまり、tbgn≦t≦tend)であるか否かを判定する(ステップS21)。
【0029】
上記のステップS21で現在時刻tがバッチ期間内でないと判定された場合(ステップS21でNO)、目標値更新部103は、rb(t)←SVaveと残バッチ目標値を初期化する(ステップS22)。
【0030】
一方で、上記のステップS21で現在時刻tがバッチ期間内であると判定された場合(ステップS21でYES)、目標値更新部103は、Trest=tend-tにより残バッチ期間Trestを計算する(ステップS23)。
【0031】
次に、目標値更新部103は、残バッチ期間Trestの長さがバッチ期間(tend-tbgn)の長さに対して所定の割合以上(例えば、10%以上)である場合、
【0032】
【数2】
と残バッチ目標値r
b(t)を更新する。一方で、目標値更新部103は、残バッチ期間T
restの長さがバッチ期間の長さに対して所定の割合未満である場合、r
b(t)←r
b(t-T
c)と残バッチ目標値r
b(t)を更新する(言い換えれば、残バッチ目標値r
b(t)をそのままとし、更新しない。)(ステップS24)。これにより、バッチ期間内の現在時刻tにおける残バッチ目標値r
b(t)が算出される。
【0033】
なお、上記の割合は任意の値に設定することが可能である。残バッチ期間Trestの長さがバッチ期間の長さに対して所定の割合未満である場合に残バッチ目標値rb(t)を更新しない理由は、上記の数2の分母がTrestであり、その値が0に近いと残バッチ目標値rb(t)が不安定になるためである。この不安定性を回避する他の方法として、上記の割合を設定する以外に、他の方法(例えば、残バッチ目標値rb(t)に上下限制約を設定する等)が用いられてもよい。
【0034】
[第二の実施形態]
次に、本発明の第二の実施形態について説明する。第二の実施形態では、バッチ期間における制御量の積算値を所定のバッチ目標値に追従させる場合について説明する。なお、第二の実施形態では、主に、第一の実施形態との相違点について説明し、第一の実施形態と同一の構成要素についてはその説明を省略する。
【0035】
<制御装置10の機能構成>
第二の実施形態に係る制御装置10の機能構成について、
図6を参照しながら説明する。
図6は、第二の実施形態に係る制御装置10の機能構成の一例を示す図である。
【0036】
図6に示すように、本実施形態に係る制御装置10は、機能部として、バッチ目標設定部101と、暫定バッチ制御量計算部102と、目標値更新部103と、下位自動制御部104と、計測部105と、タイマ106とを有する。これらの各機能部のうち、バッチ目標設定部101、暫定バッチ制御量計算部102及び目標値更新部103が第一の実施形態と異なる。
【0037】
バッチ目標設定部101は、バッチ開始時刻tbgnと、バッチ終了時刻tendと、バッチ目標値SVintとを入力(設定)する。バッチ目標値SVintは、バッチ期間における制御量の積算値(以下、「積算制御量」という。)の目標値である。なお、バッチ開始時刻tbgn、バッチ終了時刻tend及びバッチ目標値SVintはメモリ等に格納される。
【0038】
暫定バッチ制御量計算部102は、現在時刻tとバッチ開始時刻tbgnとバッチ終了時刻tendと現在時刻tにおける制御量y(t)とを入力して、バッチ開始時刻tbgnから現在時刻tまでの制御量の暫定的な積算値を示す暫定バッチ積算制御量ytmp(t)を算出する。
【0039】
目標値更新部103は、現在時刻tとバッチ開始時刻tbgnとバッチ終了時刻tendとバッチ目標値SVintと暫定バッチ積算制御量ytmp(t)とを入力して、残バッチ期間Trestにおける目標値を示す残バッチ目標値rb(t)を算出する。
【0040】
ここで、本実施形態に係るバッチ目標値SV
intと積算制御量の一例を
図7に示す。
図7に示すように、積算制御量は、バッチ期間における制御量yの積算値(つまり、制御周期T
c毎の制御量yを足し合わせた値)である。本実施形態では、バッチ期間における制御対象プラント20の積算制御量をバッチ目標値SV
intに追従させることを目的とする。これを実現するために、本実施形態に係る制御装置10は、制御周期T
c毎に、暫定バッチ積算制御量y
tmp(t)を用いて残バッチ目標値r
b(t)を算出し、この残バッチ目標値r
b(t)に制御量を追従させるように制御対象プラント20を制御する。
【0041】
暫定バッチ積算制御量y
tmp(t)と残バッチ目標値r
b(t)の一例を
図8に示す。
図8に示すように、暫定バッチ積算制御量y
tmp(t)はバッチ開始時刻t
bgnから現在時刻tまでの制御量の暫定的な積算値であり、残バッチ目標値r
b(t)は残バッチ期間T
restにおける目標値である。なお、
図8に示す例では、バッチ開始時刻t
bgnからバッチ終了時刻t
endまでの暫定バッチ積算制御量y
tmp(t)と残バッチ目標値r
b(t)と制御量y(t)とが示されている。
【0042】
<暫定バッチ積算制御量の算出処理>
次に、本実施形態に係る暫定バッチ積算制御量y
tmp(t)を算出する処理について、
図9を参照しながら説明する。
図9は、第二の実施形態に係る暫定バッチ積算制御量の算出処理の一例を示すフローチャートである。
【0043】
暫定バッチ制御量計算部102は、現在時刻tがバッチ期間内であるか否かを判定する(ステップS31)。
【0044】
上記のステップS31で現在時刻tがバッチ期間内でないと判定された場合(ステップS31でNO)、暫定バッチ制御量計算部102は、ytmp(1)←0,n←1と暫定バッチ積算制御量を初期化する(ステップS32)。
【0045】
一方で、上記のステップS31で現在時刻tがバッチ期間内であると判定された場合(ステップS31でYES)、暫定バッチ制御量計算部102は、ytmp(n+1)←ytmp(n)+y(t)・ΔT,n←n+1と暫定バッチ積算制御量を更新する(ステップS33)。ここで、ΔTは暫定バッチ積算制御量の更新周期であり、例えば、ΔT=Tcとすればよい。これにより、バッチ期間内の現在時刻tにおける暫定バッチ積算制御量ytmp(t)=ytmp(n+1)が算出される。
【0046】
<残バッチ目標値の算出処理>
次に、本実施形態に係る残バッチ目標値r
b(t)を算出する処理について、
図10を参照しながら説明する。
図10は、第二の実施形態に係る残バッチ目標値の算出処理の一例を示すフローチャートである。
【0047】
目標値更新部103は、現在時刻tがバッチ期間内であるか否かを判定する(ステップS41)。
【0048】
上記のステップS41で現在時刻tがバッチ期間内でないと判定された場合(ステップS41でNO)、目標値更新部103は、
【0049】
【数3】
と残バッチ目標値を初期化する(ステップS42)。すなわち、目標値更新部103は、バッチ目標値SV
intをバッチ期間t
end-t
bgnで割った平均値を、残バッチ目標値r
b(t)の初期値とする。
【0050】
一方で、上記のステップS41で現在時刻tがバッチ期間内であると判定された場合(ステップS41でYES)、目標値更新部103は、Trest=tend-tにより残バッチ期間Trestを計算する(ステップS43)。
【0051】
次に、目標値更新部103は、残バッチ期間Trestの長さがバッチ期間(tend-tbgn)の長さに対して所定の割合以上(例えば、10%以上)である場合、
【0052】
【数4】
と残バッチ目標値r
b(t)を更新する。一方で、目標値更新部103は、残バッチ期間T
restの長さがバッチ期間の長さに対して所定の割合未満である場合、r
b(t)←r
b(t-T
c)と残バッチ目標値r
b(t)を更新する(言い換えれば、残バッチ目標値r
b(t)をそのままとし、更新しない。)(ステップS44)。これにより、バッチ期間内の現在時刻tにおける残バッチ目標値r
b(t)が算出される。
【0053】
なお、上記の割合は任意の値に設定することが可能である。また、残バッチ期間Trestの長さがバッチ期間の長さに対して所定の割合未満である場合に残バッチ目標値rb(t)を更新しない理由は、上記の数4の分母がTrestであり、その値が0に近いと残バッチ目標値rb(t)が不安定になるためである。この不安定性を回避する他の方法として、上記の割合を設定する以外に、他の方法(例えば、残バッチ目標値rb(t)に上下限制約を設定する等)が用いられてもよい。
【0054】
[実施例1]
次に、実施例1について説明する。実施例1では、第一の実施形態に係る制御装置10によって制御対象プラント20を制御する場合について説明する。
【0055】
まず、実施例1における制御対象プラント20のステップ応答を
図11に示す。つまり、実施例1における制御対象プラント20は、単位ステップ入力に対して、或る程度オーバーシュートして一定値に落ち着くプラントである。
【0056】
また、実施例1では、バッチ開始時刻tbgn=0、バッチ終了時刻tend=40、バッチ目標値Save=10と設定した。
【0057】
このとき、制御量の目標値として固定目標値r=10を用いて、従来技術であるモデル予測制御により制御対象プラント20を制御した場合の制御結果を
図12(a)~
図12(d)に示す。
図12(a)は制御量と固定目標値、
図12(b)は外乱、
図12(c)は操作量を示している。一方で、
図12(d)は、バッチ目標値S
aveと、制御量から算出した暫定バッチ平均制御量y
tmpとを示している。なお、第一の実施形態に係る制御装置10による制御と比較するために、既知のモデル予測制御でも暫定バッチ平均制御量y
tmpを算出した。
【0058】
図12(a)に示すように制御量は固定目標値に追従しているものの、
図12(d)に示すようにバッチ終了時刻t
end付近で差Δ
1が生じており、従来技術では、バッチ期間における制御量の平均値がバッチ目標値S
aveに到達できていないことがわかる。
【0059】
次に、第一の実施形態に係る制御装置10により制御対象プラント20を制御した場合の制御結果を
図13(a)~
図13(d)に示す。
図13(a)は制御量と残バッチ目標値と比較用の固定目標値を示している。また、
図13(b)は外乱、
図13(c)は操作量を示している。一方で、
図13(d)は、バッチ目標値S
aveと暫定バッチ平均制御量y
tmpとを示している。
【0060】
図13(a)に示すように、残バッチ目標値は固定目標値r=10よりも高い値となっており、制御量の変化や外乱による影響を受けて変動している。また、
図13(d)に示すように、バッチ終了時刻t
end付近で暫定バッチ平均制御量y
tmpがバッチ目標値S
aveに一致している。これにより、第一の実施形態に係る制御装置10は、従来技術と比べて、バッチ期間全体にわたってバッチプロセスの品質を向上できていることがわかる。
【0061】
[実施例2]
次に、実施例2について説明する。実施例2では、第二の実施形態に係る制御装置10によって制御対象プラント20を制御する場合について説明する。なお、制御対象プラント20は実施例1と同様であるものとする。
【0062】
実施例2では、バッチ開始時刻tbgn=0、バッチ終了時刻tend=40、バッチ目標値Sint=400と設定した。
【0063】
このとき、制御量の目標値として固定目標値r=10(つまり、バッチ目標値S
int=400をバッチ期間t
end-t
bgn=40で割った値)を用いて、従来技術であるモデル予測制御により制御対象プラント20を制御した場合の制御結果を
図14(a)~
図14(d)に示す。
図14(a)は制御量と固定目標値、
図14(b)は外乱、
図14(c)は操作量を示している。一方で、
図14(d)は、バッチ目標値S
intと、制御量から算出した暫定バッチ積算制御量y
tmpとを示している。なお、第二の実施形態に係る制御装置10による制御と比較するために、既知のモデル予測制御でも暫定バッチ積算制御量y
tmpを算出した。
【0064】
図14(a)に示すように制御量は固定目標値に追従しているものの、
図14(d)に示すようにバッチ終了時刻t
end付近で差Δ
2が生じており、従来技術では、バッチ期間における制御量の積算値がバッチ目標値S
intに到達できていないことがわかる。
【0065】
次に、第二の実施形態に係る制御装置10により制御対象プラント20を制御した場合の制御結果を
図15(a)~
図15(d)に示す。
図15(a)は制御量と残バッチ目標値と比較用の固定目標値を示している。また、
図14(b)は外乱、
図14(c)は操作量を示している。一方で、
図14(d)は、バッチ目標値S
intと暫定バッチ積算制御量y
tmpとを示している。
【0066】
図15(a)に示すように、残バッチ目標値は固定目標値r=10よりも高い値となっており、制御量の変化や外乱による影響を受けて変動している。また、
図15(d)に示すように、バッチ終了時刻t
end付近で暫定バッチ積算制御量y
tmpがバッチ目標値S
intに一致している。これにより、第二の実施形態に係る制御装置10は、従来技術と比べて、バッチ期間全体にわたってバッチプロセスの品質を向上できていることがわかる。
【0067】
[応用例]
ここで、第一の実施形態及び第二の実施形態を組み合わせた応用例について説明する。例えば、
図16に示すように、制御対象プラント20の理想的な運転が、バッチ開始時刻t
bgnから或る時刻t
1までは或る一定変化率で制御量yが変化し、時刻t
1から或る時刻t
2までは一定の制御量yであり、時刻t
2からバッチ終了時刻t
endまでは或る一定変化率で制御量yが変化するものであったとする。このとき、バッチ開始時刻t
bgnから時刻t
1までの期間を1つのバッチ期間として第二の実施形態に係る制御装置10を適用し、時刻t
1から時刻t
2までの期間を1つのバッチ期間として第一の実施形態に係る制御装置10を適用し、時刻t
2からバッチ終了時刻t
endまでの期間を1つのバッチ期間として第二の実施形態に係る制御装置10を適用することが可能である。
【0068】
[制御装置10のハードウェア構成]
次に、上述した第一の実施形態又は第二の実施形態に係る制御装置10のハードウェア構成について、
図17を参照しながら説明する。
図17は、一実施形態に係る制御装置10のハードウェア構成の一例を示す図である。
【0069】
図17に示すように、一実施形態に係る制御装置10は、ハードウェアとして、入力装置201と、表示装置202と、外部I/F203と、通信I/F204と、ROM(Read Only Memory)205と、RAM(Random Access Memory)206と、CPU207と、補助記憶装置208とを有する。これら各ハードウェアは、バス209により相互に通信可能に接続されている。
【0070】
入力装置201は、例えば、各種ボタンやタッチパネル、キーボード、マウス等であり、制御装置10に各種の操作を入力するのに用いられる。表示装置202は、例えば、ディスプレイ等であり、制御装置10による各種の処理結果を表示する。なお、制御装置10は、入力装置201及び表示装置202の少なくとも一方を有していなくてもよい。
【0071】
外部I/F203は、外部装置とのインタフェースである。外部装置には、例えば、記録媒体203a等がある。制御装置10は、外部I/F203を介して、記録媒体203aの読み取りや書き込み等を行うことができる。記録媒体203aには、例えば、SDメモリカード(SD memory card)やUSB(Universal Serial Bus)メモリ、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)等がある。なお、制御装置10が有する各機能部を実現する1以上のプログラムは、記録媒体203aに格納されていてもよい。
【0072】
通信I/F204は、制御装置10が他の装置又は機器(例えば、制御対象プラント20等)とデータ通信を行うためのインタフェースである。なお、制御装置10が有する各機能部を実現する1以上のプログラムは、通信I/F204を介して、所定のサーバ装置等から取得(ダウンロード)されてもよい。
【0073】
ROM205は、電源を切ってもデータを保持することができる不揮発性の半導体メモリである。RAM206は、プログラムやデータを一時保持する揮発性の半導体メモリである。CPU207は、例えば、補助記憶装置208やROM205等からプログラムやデータをRAM206上に読み出して、各種処理を実行する演算装置である。
【0074】
補助記憶装置208は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等であり、プログラムやデータを格納している不揮発性のメモリである。補助記憶装置208に格納されているプログラムやデータには、例えば、制御装置10が有する各機能部を実現する1以上のプログラムや基本ソフトウェアであるOS(Operating System)、OS上で動作する各種アプリケーションプログラム等がある。
【0075】
一実施形態に係る制御装置10は、
図17に示すハードウェア構成を有することにより、上述した各種処理を実現することができる。なお、
図17では、制御装置10が1台のコンピュータで実現されている場合のハードウェア構成例を示したが、これに限られず、制御装置10は複数台のコンピュータで実現されていてもよい。
【0076】
[まとめ]
以上のように、第一の実施形態及び第二の実施形態に係る制御装置10は、バッチ期間における制御量の平均値又は積算値(統計量の一例)を制御周期Tc毎に都度計算し、これらの平均値又は積算値により目標値を制御周期Tc毎に都度更新する。これにより、オンライン制御において、バッチ期間全体にわたってバッチプロセスの品質を向上させることが可能となる。
【0077】
第一の実施形態及び第二の実施形態に係る制御装置10は、任意のバッチプロセスにより所定の製品又は半製品等を製造する制御対象プラント20を制御する場合に適用することが可能である。例えば、化学反応を開始してから終了するまでの全期間にわたって反応した分子の全体の混合物を製品とするプラント等に適用することができる。特に、第一の実施形態又は第二の実施形態に係る制御装置10を用いることで、例えば、容器全体で分子が対流したり、撹拌されたりするために瞬時で温度等の制御量を制御するだけでは不十分であるような場合に、バッチ期間全体の品質向上に寄与することができる。
【0078】
また、第一の実施形態及び第二の実施形態に係る制御装置10が有する下位自動制御部104は、例えばPID制御やモデル予測制御等の既知の制御手法で実現することができる。このため、例えば、既設のPLCやDCS等のコントローラを用いて制御装置10を構成することで、第一の実施形態又は第二の実施形態に係る制御装置10を容易かつ低コストで実現することができる。
【0079】
なお、バッチプロセスでは理想的なバッチ時系列(このバッチ時系列は「ゴールデンバッチ」とも呼ばれる。)に沿うように運転が調整されることがある。したがって、バッチ目標値SVave又はSVintはゴールデンバッチを参照して決定されてもよい。
【0080】
また、第一の実施形態及び第二の実施形態に係る制御装置10は、例えば、従来技術による制御を一定時間の間行った後に、第一の実施形態又は第二の実施形態に係る制御装置10による制御が行なわれるような形態で利用されてもよい。
【0081】
本発明は、具体的に開示された上記の各実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更、既知の技術との組み合わせ等が可能である。
【符号の説明】
【0082】
10 制御装置
20 制御対象プラント
101 バッチ目標設定部
102 暫定バッチ制御量計算部
103 目標値更新部
104 下位自動制御部
105 計測部
106 タイマ