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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】熱可塑性ウレタン樹脂成型物
(51)【国際特許分類】
   C08L 75/04 20060101AFI20231114BHJP
   C08L 51/08 20060101ALI20231114BHJP
   C08F 283/12 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
C08L75/04
C08L51/08
C08F283/12
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020021698
(22)【出願日】2020-02-12
(65)【公開番号】P2020132876
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2022-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2019025022
(32)【優先日】2019-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226666
【氏名又は名称】日信化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 健太郎
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-138242(JP,A)
【文献】特開2018-115263(JP,A)
【文献】特開2002-020438(JP,A)
【文献】国際公開第2019/082882(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 75/00-75/16
C08L 51/00-51/10
C08F 290/00-290/14
C08F 283/00-283/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)熱可塑性ウレタン樹脂:80~99.9質量%、
(II)下記一般式(1)で示される重量平均分子量1,000~200,000のオルガノポリシロキサン(A)と、
【化1】
…(1)
(式中、R1は、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基であり、R2は、互いに独立に、炭素数2~6のアルケニル基、又は、炭素原子に結合する水素原子の一部がメルカプト基、ビニル基、アクリロキシ基もしくはメタクリロキシ基で置換されている炭素数1~6のアルキル基であり、R3はフェニル基である。Xは互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基、又はヒドロキシル基であり、Yは互いに独立に、Xで定義される基、又は-[O-Si(X)2d-Xで示される基であり、X及びYで示される基のうち少なくとも2個はヒドロキシル基であり、Zは互いに独立に、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基又はヒドロキシル基である。aは0以上の数であり、bはa~f合計数に対し11.0~91.4999%となる正数であり、cはa~fの合計数に対し0.0001~5%となる正数であり、eはa~fの合計数に対する割合が8.5~60.0%となる数であり、fはa~fの合計数に対し0~24.0%となる正数であり、dは0~10の正数である。)
アクリル酸エステル単位又はメタクリル酸エステル単位(B)とを有するものであって、これらの成分の質量比が(A):(B)=50:50~90:10の割合であるシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂:0.1~20質量%
を含有することを特徴とする樹脂成型物。
【請求項2】
上記樹脂成型物が、射出成型物又は押出成型物である請求項1記載の樹脂成型物。
【請求項3】
上記一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサン中のジフェニルシロキサン量(e)が8.5質量%以上60.0質量%以下である請求項1又は2記載の樹脂成型物。
【請求項4】
上記一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサンの重量平均分子量が1,500~8,000である請求項1~3のいずれか1項記載の樹脂成型物。
【請求項5】
上記(I)成分である熱可塑性ウレタン樹脂が、ポリエステル系、ポリエーテル系又はポリカーボネート系のウレタン樹脂である請求項1~4のいずれか1項記載の樹脂成型物。
【請求項6】
2mm厚みの樹脂成型物または200μm厚みの樹脂成型物のヘイズ値が85%以下である請求項1~5のいずれか1項記載の樹脂成型物。
【請求項7】
上記樹脂成型物がペレットの形態である請求項1~6のいずれか1項記載の樹脂成型物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項記載の樹脂成型物の製造方法であって、上記(II)成分であるシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂を得る工程において、
(i)上記一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサン100質量部に対して、
(ii)アクリル酸エステル単量体又はメタクリル酸エステル単量体10~100質量部、及び
(iii)必要により、これと共重合可能な官能基含有単量体0.01~20質量部を混合し、該混合物を乳化グラフト共重合させる工程を含む樹脂成型物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂を含有する熱可塑性ウレタン樹脂組成物からなる熱可塑性ウレタン樹脂成型物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来よりウレタン樹脂成型物は、文具、玩具、家電、カーシート、家具、衣料、靴、カバン、サニタリー用品、屋外用テント類などの用途に幅広く使用されている。これらの用途で使用する場合、ウレタン樹脂成型物は優れた触感、滑性を有すると共に、生産性を考慮すると成型時の離型性が必要となる。
【0003】
しかしながら、ウレタン樹脂を単独で使用すると摺動性等が不足し、耐摩耗性などが要求される分野に対して十分に対応できないことも多く、更なる性能向上が求められていた。
【0004】
また、ウレタン樹脂成型物の耐摩耗性や滑性を改善する方法としては、該樹脂成型物を製造する際にウレタン樹脂にシリコーンオイルやシリコーンパウダー等のシリコーン成分を練り込むことが知られている。例えば、特開2007-138326号公報(特許文献1)には、アクリル-シリコーン共重合体粒子をウレタン系エラストマーに混練し、合成皮革の耐摩耗性の改善に成功している。しかしながら、この場合、シリコーン粉体をウレタン樹脂に練り込むため、製造工程が複雑となる。また、耐摩耗性能を出すためにはアクリル-シリコーン共重合体粒子の添加量を多くする必要があり、該添加量が多いと透明性を維持することができない。
【0005】
これを解決するために、天然皮革や合成皮革などの皮革表面に樹脂等をコーティングする方法がある。特開2007-314919号公報(特許文献2)には、水性ポリウレタン樹脂に架橋剤とポリエーテル変性シリコーンとを添加した表面仕上げ剤を人工皮革に塗工することで耐摩耗性を向上させることが開示されている。しかしながら、この場合には、表面仕上げ剤の親水性が強くなるため、例えばコーヒー等の濃色飲料や液体が付着した際に、皮革に液色が移ってしまい、或いは、衣服が擦れた際に、皮革に繊維の色が移るなど、皮革表面の防汚性がなくなることが懸念される。
【0006】
上記の問題点を解決するために、例えば、特開2002-363403号公報(特許文献3)では、特定のポリオレフィン樹脂とフッ素系やシリコーン系の潤滑剤とを併用することで、摺動性向上を試みる提案がある。しかし、この技術では、変性ポリオレフィン樹脂との併用が必須であり、またポリアミド樹脂への添加量も多いため、相溶しにくく、界面剥離を起こしやすい問題がある。更に、フッ素系やシリコーン系の潤滑剤をブレンドしているために相溶性が悪く、界面剥離を起こしやすく、成形が難しいという点で改良の余地があった。
【0007】
更に、皮革の防汚性を改善する方法として、皮革表面に樹脂等をコーティングする方法が知られている。特開2010-241963号公報(特許文献4)では、アクリル樹脂、アクリルシリカ樹脂、アクリルポリシロキサン樹脂等の樹脂とシリコーン系触感剤等とを配合し、天然皮革に塗工することが開示されている。また、特開2008-308785号公報(特許文献5)には、ウレタン樹脂からなる合成皮革の表面にシリコーン樹脂皮膜を形成することが開示されている。しかし、シリコーン樹脂は屈折率が低く、ウレタン樹脂や塩化ビニル樹脂とは屈折率が大きく離れており、皮膜が濁り白化してしまうことが課題となる。本発明者も、特開2016-138242号公報(特許文献6)に記載された発明において、シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂エマルジョンでの検討を実施し、白化の問題が起こらないことを開示している。しかし、最近では人工皮革自体の軽量化(薄膜化)が進んでおり、強度を保つためコーティング剤の厚みを増したり、耐摩耗性を向上させるためにシリコーン量を増やしたりしている。その際、外観が白化してしまうという問題が生じている。
【0008】
特開2003-082227号公報(特許文献7)や特開2004-107526号公報(特許文献8)には、シリコーン樹脂を含有するポリアミド組成物を開示している。また、特開2001-261919号公報(特許文献9)では、オルガノポリシロキサンゴム成分とポリアルキル(メタ)アクリレート成分とからなる複合ゴムに少なくとも1種類のビニル重合体がグラフト重合された複合ゴム系グラフト共重合体に、シリコーン系オイル又はオレフィン系オイルを混合した摺動性改質剤を、熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーに配合することが開示されている。しかしながら、この技術では、シリコーン系オイル又はオレフィン系オイルをブレンドしているため相溶性が悪くなり、界面剥離を起こしやすい、成形が難しいという点で改良の余地があった。
【0009】
また、特開2015-224252号公報(特許文献10)には、シリコーンアクリルグラフト共重合物にシリコーンオイルを混合して摩擦係数の低減や耐摩耗性の向上を狙った技術が提案されている。しかし、この技術では、シリコーンアクリルグラフト共重合物に添加したシリコーンオイルはジメチルシロキサンのみの組成であり、樹脂とは混ざり難く、その結果、表面に多くのブリードが生じてしまい、むしろタック感が出て摩擦係数の低減や耐摩耗性を十分に改善できておらず、上記の添加成分を各種樹脂に練りこんだ際、樹脂成形物としての透明性を大きく阻害してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2007-138326号公報
【文献】特開2007-314919号公報
【文献】特開2002-363403号公報
【文献】特開2010-241963号公報
【文献】特開2008-308785号公報
【文献】特開2016-138242号公報
【文献】特開2003-082227号公報
【文献】特開2004-107526号公報
【文献】特開2001-261919号公報
【文献】特開2015-224252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、耐摩耗性、防汚性を有し、かつ白化防止機能を有するシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂を含有する熱可塑性ウレタン樹脂組成物からなる熱可塑性ウレタン樹脂成型物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、特に熱可塑性ウレタン樹脂とジメチルジフェニルシロキサンとを有するシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂とを配合し、これらの樹脂組成物を射出成型又は押出成型することにより、得られた樹脂成形物が耐摩耗性及び離型性を有し、かつ透明性を良好に維持できることを見出した。この樹脂成形物は、シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂にシリコーンオイルを混合した場合よりも相溶性を改善し、界面剥離を減少させ、耐摩耗性等のトライボロジー特性を持たせたウレタン樹脂組成物からなる樹脂成型物であることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0013】
従って、本発明は、下記の熱可塑性ウレタン樹脂成型物を提供する。
1.(I)熱可塑性ウレタン樹脂:80~99.9質量%、
(II)下記一般式(1)で示される重量平均分子量1,000~200,000のオルガノポリシロキサン(A)と、
【化1】
…(1)
(式中、R1は、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基であり、R2は、互いに独立に、炭素数2~6のアルケニル基、又は、炭素原子に結合する水素原子の一部がメルカプト基、ビニル基、アクリロキシ基もしくはメタクリロキシ基で置換されている炭素数1~6のアルキル基であり、R3はフェニル基である。Xは互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基、又はヒドロキシル基であり、Yは互いに独立に、Xで定義される基、又は-[O-Si(X)2d-Xで示される基であり、X及びYで示される基のうち少なくとも2個はヒドロキシル基であり、Zは互いに独立に、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基又はヒドロキシル基である。aは0以上の数であり、bはa~f合計数に対し11.0~91.4999%となる正数であり、cはa~fの合計数に対し0.0001~5%となる正数であり、eはa~fの合計数に対する割合が8.5~60.0%となる数であり、fはa~fの合計数に対し0~24.0%となる正数であり、dは0~10の正数である。)
アクリル酸エステル単位又はメタクリル酸エステル単位(B)とを有するものであって、これらの成分の質量比が(A):(B)=50:50~90:10の割合であるシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂:0.1~20質量%
を含有することを特徴とする樹脂成型物。
2.上記樹脂成型物が、射出成型物又は押出成型物である上記1記載の樹脂成型物。
3.上記一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサン中のジフェニルシロキサン量(e)が8.5質量%以上60.0質量%以下である上記1又は2記載の樹脂成型物。
4.上記一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサンの重量平均分子量が1,500~8,000である上記1~3のいずれかに記載の樹脂成型物。
5.上記(I)成分である熱可塑性ウレタン樹脂が、ポリエステル系、ポリエーテル系又はポリカーボネート系のウレタン樹脂である上記1~4のいずれかに記載の樹脂成型物。
6.2mm厚みの樹脂成型物または200μm厚みの樹脂成型物のヘイズ値が85%以下である上記1~5のいずれかに記載の樹脂成型物。
7.上記樹脂成型物がペレットの形態である上記1~6のいずれかに記載の樹脂成型物。
8.上記1~7のいずれかに記載の樹脂成型物の製造方法であって、上記(II)成分であるシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂を得る工程において、
(i)上記一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサン100質量部に対して、
(ii)アクリル酸エステル単量体又はメタクリル酸エステル単量体10~100質量部、及び
(iii)必要により、これと共重合可能な官能基含有単量体0.01~20質量部を混合し、該混合物を乳化グラフト共重合させる工程を含む樹脂成型物の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の樹脂成型物は、優れた耐摩耗性、防汚性を有し、白化を防止して機能を光透過性が良好な成型物である。また、本発明の樹脂成型物は、シリコーンアクリルグラフト共重合物の添加成分をウレタン樹脂に練り込んだものであるため、その製造において作業面・環境面での利点が大きい。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、下記成分(I)及び(II)
(I)熱可塑性ウレタン樹脂と
(II)シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂
とを含有する樹脂成型物である。
【0016】
(I)熱可塑性ウレタン樹脂は、ポリイソシアネートとポリオールとの反応物であり、該ポリオールとしてポリエーテル系、ポリカーボネート系、ポリエステル系等を用いた各種水溶性ウレタン樹脂が挙げられる。この場合、上記(I)熱可塑性ウレタン樹脂は、硬度(ショアA)80以上、好ましくは95以下であるものを用いるとよい。
【0017】
上記熱可塑性ウレタン樹脂の配合量は、樹脂組成物全量に対して80~99.9質量%であり、好ましくは90~95質量%である。上記熱可塑性ウレタン樹脂が80質量%未満であると、樹脂成型物の耐摩耗性等の被膜特性が非常に悪くなり、99.9質量%を超えると表面が滑らかでないために触感が悪くなる。
【0018】
(II)シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂は、後述する一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサン(A)と、アクリル酸エステル単位又はメタクリル酸エステル単位(B)とを有するものであり、これらの成分の質量比が(A):(B)=50:50~90:10の割合である。
【0019】
上記(II)シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂として、好ましくは、(i)後述する一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサンと、(ii)(メタ)アクリル酸エステル単量体と、(iii)これと共重合可能な官能基含有単量体との混合物とを、乳化グラフト重合させて得られるものである。
【0020】
上記(II)シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂(エマルジョン)は、(i)成分100質量部に対して、(ii)成分が10~100質量部、(iii)成分が0.01~20質量部を用いて得ることが好ましく、特に上記(ii)成分は40~100質量部、上記(iii)成分は0.01~5質量部であることが好ましい。
【0021】
ここで、上記(i)オルガノポリシロキサンは、下記一般式(1)で示される。
【化2】
…(1)
【0022】
ここで、上記式中、R1は、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基であり、フェニル基は除かれる。R1の1価炭化水素基として具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基、ビニルフェニル基等のアルケニルアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、ビニルベンジル基、ビニルフェニルプロピル基等のアルケニルアラルキル基などや、これらの基の水素原子の一部又は全部がフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、アクリロキシ基、メタクリロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アミノ基、アルキル又はアルコキシもしくは(メタ)アクリロキシ置換アミノ基などで置換されたものが挙げられる。R1として好ましくは、メチル基である。
【0023】
上記式中、R2としては、メルカプト基、アクリロキシ基もしくはメタクリロキシ基で置換された炭素数1~6のアルキル基、又はビニル基である。この置換されたアルキル基として具体的には、メルカプトプロピル基、アクリロキシプロピル基、メタクリロキシプロピル基、ビニル基等が好ましい。
【0024】
上記式中、R3は互いに独立したフェニル基であり、オルガノポリシロキサンのジフェニルシロキサンの質量は下記のように求めた。上記(1)式で示されるオルガノポリシロキサンをヘキサンに任意の量で溶解し、分光光度計の264.0nmの波長における吸光度から検量線を作成した。エマルジョンの水分を十分に飛ばしたオイルをヘキサンに溶解し、その濃度と検量線からジフェニルシロキサンの含有質量を求めた。白化抑制と表面活性付与とのバランスの点から、ジフェニルシロキサンの含有質量は、8.5~60.0質量%であり、好ましくは20~55質量%である。
【0025】
上記式中、Xは同一又は異種の置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、または炭素数1~20のアルコキシ基又はヒドロキシル基であり、非置換もしくは置換の炭素数1~20の1価炭化水素基としては、R1で例示したものと同様のものを例示できる。炭素数1~20のアルコキシ基として具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基、テトラデシルオキシ基等が挙げられる。Xとしては、好ましくはヒドロキシル基、メチル基、ブチル基、フェニル基である。
【0026】
上記式中、Yは、Xまたは-[O-Si(X)2d-Xで示される同一又は異種の基である。dは0~10の正数であり、好ましくは0~5の正数である。
【0027】
上記式中、Zは炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基又はヒドロキシル基であり、好ましくはヒドロキシル基又はメチル基である。
【0028】
aは0以上の数であり、bはa~f合計数に対し11.0~91.5%となる正数であり、cはa~fの合計数に対し0.0001~5%となる正数であり、eはa~fの合計数に対する割合が8.5~60.0%となる数であり、好ましくは20~55%である。fはa~fの合計数に対し0~24.0%となる数であり、好ましくは3~15%である。
【0029】
上記(i)オルガノポリシロキサンの重量平均分子量については、上記a~fで示されるシロキサン単位の個数(モル数)が上記範囲を満たす値であれば、特に制限されない。上記オルガノポリシロキサンは重量平均分子量1,000~200,000を有することが好ましく、より好ましくは1,500~150,000、さらに好ましくは3,000~100,000である。この重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレンを標準物質として測定される値である。
【0030】
このような(i)オルガノポリシロキサンは、エマルジョンの形態で使用されることが好ましく、市販品を使用してもよいし、合成してもよい。合成する場合は、公知の乳化重合法で実施でき、例えばフッ素原子、(メタ)アクリロキシ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基を有してもよい環状オルガノシロキサンあるいはα,ω-ジヒドロキシシロキサンオリゴマー、α,ω-ジアルコキシシロキサンオリゴマー、アルコキシシラン等と、ジフェニルジアルキルシロキサン、および下記一般式(2)で示されるシランカップリング剤を、アニオン系界面活性剤を用いて水中に乳化分散させた後、必要に応じて酸等の触媒を添加して重合反応を行うことにより容易に合成することができる。
4 (4-g-h)5 hSi(OR6g (2)
(式中、R4は重合性二重結合を有する1価有機基、特にアクリロキシ基又はメタクリロキシ基置換の炭素数1~6のアルキル基を示す。R5は炭素数1~4のアルキル基、R6は炭素数1~4のアルキル基で、gは2~3、hは0~1の整数を示し、g+h=2~3である。)
【0031】
上記環状オルガノシロキサンとしては、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)、1,1-ジエチルヘキサメチルシクロテトラシロキサン、フェニルヘプタメチルシクロテトラシロキサン、1,1-ジフェニルヘキサメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラシクロヘキシルテトラメチルシクロテトラシロキサン、トリス(3,3,3-トリフロロプロピル)トリメチルシクロトリシロキサン、1,3,5,7-テトラ(3-メタクリロキシプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(3-アクリロキシプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(3-カルボキシプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(3-ビニロキシプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(p-ビニルフェニル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ[3-(p-ビニルフェニル)プロピル]テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(N-アクリロイル-N-メチル-3-アミノプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(N,N-ビス(ラウロイル)-3-アミノプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン等が例示される。好ましくは、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサンが用いられる。
【0032】
上記ジフェニルジアルキルシロキサン等のジフェニル成分を有するシリコーン成分としては、信越化学工業社製のKF-50、KF-53、X-21-3265、KF-54、KF-56、HIVAC F-4、HIVAC F-5、東レ・ダウコーニング社製 SH510、SH550、SH710、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製TSF-4300、TSF-437、TSF-431などが挙げられる。
【0033】
上記シランカップリング剤としては、具体的にはビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシランなどのビニルシラン類;γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリイソプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリブトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジイソプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジブトキシシランなどのアクリルシラン類;γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプトシラン類等が挙げられる。又はこれらを縮重合したオリゴマーはアルコールの発生が抑えられより好ましい場合がある。ここで、(メタ)アクリロキシは、アクリロキシ又はメタクリロキシを示す。これらシランカップリング剤は、全シロキサン100質量部に対し0.01~20質量部使用することが好ましく、0.01~5質量部の使用が更に好ましい。
【0034】
上記シランカップリング剤を共重合することにより、下記式中、cの単位を有するオルガノポリシロキサンとなり、(ii)アクリル酸エステル単量体又はメタクリル酸エステル単量体や(iii)上記(ii)と共重合可能な官能基含有単量体とをグラフトさせる効果が得られる。
【化3】
…(1)
【0035】
上記共重合の際に用いる重合触媒としては、公知の重合触媒を使用すればよい。中でも強酸が好ましく、塩酸、硫酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、クエン酸、乳酸、アスコルビン酸が例示される。好ましくは乳化能を持つドデシルベンゼンスルホン酸である。
酸触媒の使用量としては、オルガノポリシロキサンの全量100質量部に対して0.01~10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.2~2質量部である。
【0036】
また、上記重合する際の界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤として、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸ナトリウム、ジアルキルコハク酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸、N-アシルアミノ酸塩、N-アシルタウリン塩、脂肪族石けん、アルキルりん酸塩等が挙げられるが、中でも水に溶けやすく、ポリエチレンオキサイド鎖を持たないものが好ましい。更に好ましくは、N-アシルアミノ酸塩、N-アシルタウリン塩、脂肪族石けん及びアルキルりん酸塩であり、特に好ましくは、アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸ナトリウムラウリル硫酸ナトリウムである。なお、アニオン系界面活性剤の配合量は、環状オルガノシロキサン100質量部に対して0.1~20質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~10質量部である。
【0037】
重合温度は50~75℃が好ましく、重合時間は10時間以上が好ましく、15時間以上が更に好ましい。更に、重合後に5~30℃で10時間以上熟成させることが特に好ましい。
【0038】
本発明に用いる(ii)アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル(以下、(メタ)アクリル酸エステルということがある。)は、ヒドロキシル基、アミド基、カルボキシル基等の官能基を持たないアクリル酸エステル単量体又はメタクリル酸エステル単量体を指し、炭素数1~10のアルキル基を有するアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルが好ましく、更にはアクリル成分のポリマーのガラス転移温度(以下、Tgということがある)が40℃以上、好ましくは60℃以上になる単量体が好ましい。この単量体としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。なお、Tgの上限は、好ましくは200℃以下、更に好ましくは150℃以下である。ガラス転移温度は、JIS K7121に基づき測定できる。
【0039】
(ii)成分と共重合可能な官能基含有単量体(iii)としては、カルボキシル基、アミド基、水酸基、ビニル基、アリル基等を含む不飽和結合を有する単量体であり、具体的には、メタクリル酸、アクリル酸、アクリルアマイド、メタクリル酸アリル、メタクリル酸ビニル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピルが挙げられ、これらを共重合することで相溶性を向上させることが可能となる。
【0040】
本発明の(II)シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂は、上記のようにして得られた(i)オルガノポリシロキサンに(ii)(メタ)アクリル酸エステル単量体と(iii)これと共重合可能な官能基含有単量体との混合物を、乳化グラフト重合させて得られるものである。
【0041】
上記グラフト重合させる際、上記式(1)のオルガノポリシロキサンと(メタ)アクリル酸エステル単量体との質量比(式(1)のオルガノポリシロキサンと(メタ)アクリル単位との質量比)は50:50~90:10であり、好ましくは50:50~80:20である。上記オルガノポリシロキサン成分が50より少ないと、熱可塑性ウレタン樹脂に配合した場合、滑り性が出ないという不具合がある。上記オルガノポリシロキサン成分が90より多いと、相溶性が悪くなるため、透明性が落ち、場合によっては層間剥離を起こしてしまう。
【0042】
ここで使用されるラジカル開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過硫酸水素水、t-ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素が挙げられる。必要に応じ、酸性亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、L-アスコルビン酸、酒石酸、糖類、アミン類等の還元剤を併用したレドックス系も使用することができる。
【0043】
既にオルガノポリシロキサンエマルジョン中に含まれている界面活性剤で十分にグラフト重合可能ではあるものの、安定性向上の目的として、アニオン系界面活性剤として、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸ナトリウム、N-アシルアミノ酸塩、N-アシルタウリン塩、脂肪族石けん、アルキルりん酸塩等を添加することができる。また、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル等のノニオン系乳化剤を添加することもできる。
【0044】
(i)成分に対する(ii)及び(iii)成分のグラフト重合温度は25~55℃が好ましく、25~40℃が更に好ましい。また重合時間は2~8時間が好ましく、3~6時間が更に好ましい。
【0045】
更に、グラフトポリマーの分子量、グラフト率を調整するために連鎖移動剤を添加することができる。
【0046】
こうして得られたシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂(II)は、エマルジョン形態として、ベースとなる(i)オルガノポリシロキサンに対して、(ii)及び(iii)成分の単量体がランダムにグラフトされているポリマーである。
【0047】
上記シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂(II)のエマルジョンの平均粒子径は、0.1μm(100nm)~1.0μm(1000nm)が好ましい。さらに好ましくは0.1μm~0.5μmである。なお、平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置によって測定することができる。
【0048】
上記シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂(II)が樹脂組成物に占める配合量は、熱可塑性ウレタン樹脂に対して0.1~20質量%であり、好ましくは0.5~10質量%である。上記シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂(II)が0.1質量%未満であると離型性において全く改善が見られなくなり、20質量%を超えると白化する上に滑り性も低下してしまう。
【0049】
得られた上記シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂(II)のエマルジョンは塩析後の乾燥、及びスプレードライ乾燥などを行い、粉体化している。
【0050】
得られた上記粉体を熱可塑性ウレタン樹脂とドライブレンド(例えば、ロール、ニーダー、バンバリミキサー、プラストミル、押出し機等)で混練した後、押出成形または射出成形し、所望の形状になるように成型される。なお、熱可塑性ウレタン樹脂は、ペレットまたは粉体状態のものに予め加工されたものでもよい。成形温度は、樹脂混合物が溶融する温度以上の温度でよく、好ましくは設定温度180~250℃で成形すればよい。例えば、ラボプラストミル(東洋精機製作所製)の2軸押出機を用いてストランドダイよりペレットを得る。そのペレットを用い、180~250℃の温度で80tfの小型の射出成型機(日精樹脂工業社製)により、3cm×3cm×2mmの射出成型片を成型する。また同様に、ラボプラストミルの2軸押出機を用いてTダイより約200μmのフィルムを成型する。このとき、樹脂成型物には透明性が求められるが、2mm厚みの樹脂成型物のヘイズ値も200μm厚みの樹脂成型物のヘイズ値も85%以下であることが好ましい。85%を超えると、目視での透明性が全く感じられなくなり、例えば基材の色・柄などが全く見えなくなるといった不具合が生じる場合がある。なお、成型物の厚みについては適宜調整すればよく、例えば、10μm~10mmの範囲内で種々の厚さに成型することができる。
【0051】
また、本発明の樹脂成型物には、性能に影響を与えない範囲で、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、帯電防止剤、可塑剤、難燃剤、他の樹脂等を添加してもよい。
【0052】
本発明の樹脂成型物は、特に用途が限定されるものではないが、ウレタン樹脂成型物は、文具、玩具、家電、カーシート、家具、衣料、靴、カバン、サニタリー用品、屋外用テント類の材料になる。
【実施例
【0053】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において、部及び%はそれぞれ質量部、質量%を示す。
【0054】
〈シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂の製造例および比較製造例〉
[製造例1]
ジフェニルジメチルシロキサン600g(信越化学工業社製「KF-54」)、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン9.6g(信越化学工業社製「KBM-502」)、50%アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸ナトリウム24g(ぺレックスSS-L、花王社製)を純水45gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、水490gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、55℃で10~20時間重合反応を行った後、10℃で10~20時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液12gでpHを中性付近に中和した。このエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分(固形分)が51.2%で、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものである。ジフェニルシロキサン量を測定したところ、54.1%であった。重量平均分子量(Mw)は表1に示す。ここにメタクリル酸メチル(MMA)261g、アクリル酸ブチル(BA)9g、を3~5時間かけて滴下しながら30℃で過酸化物と還元剤でレドックス反応を行うことでシリコーン樹脂成分(オルガノポリシロキサン成分)へのアクリルグラフト共重合し、不揮発分44.8%のシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂エマルジョンを得た。これを噴霧乾燥(入口温度150℃)することで揮発分1.0%まで揮発させて樹脂粉体を得ることができた。
【0055】
[製造例2]
ジフェニルジメチルシロキサン600g(信越化学工業社製KF-54)、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン0.6g(信越化学工業社製「KBM-502」)、50%アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸ナトリウム24g(ぺレックスSS-L、花王社製)を純水45gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、水490gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、55℃で10~20時間重合反応を行った後、10℃で10~20時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液12gでpHを中性付近に中和した。このエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分(固形分)が51.5%で、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものである。ジフェニルシロキサン量を測定したところ、54.8%であった。ここにメタクリル酸メチル(MMA)261g、アクリル酸ブチル(BA)9gを3~5時間かけて滴下しながら30℃で過酸化物と還元剤でレドックス反応を行うことでシリコーン樹脂成分へのアクリルグラフト共重合し、不揮発分45.2%のシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂エマルジョンを得た。これを噴霧乾燥することで揮発分1.0%まで揮発させて樹脂粉体を得ることができた。
【0056】
[製造例3]
オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)300g、ジフェニルジメチルシロキサン300g(信越化学工業社製)、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン0.6g(信越化学工業社製「KBM-502」)、50%アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸ナトリウム24g(ぺレックスSS-L、花王社製)を純水100gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、水400gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、55℃で10~20時間重合反応を行った後、10℃で10~20時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液12gでpHを中性付近に中和した。このエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分(固形分)が47.5%で、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものである。ジフェニルシロキサン量を測定したところ、28.0%であった。ここにメタクリル酸メチル(MMA)250g、を3~5時間かけて滴下しながら30℃で過酸化物と還元剤でレドックス反応を行うことでシリコーン樹脂成分へのアクリルグラフト共重合し、不揮発分44.6%のシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂エマルジョンを得た。これを噴霧乾燥することで揮発分0.9%まで揮発させて樹脂粉体を得ることができた。
【0057】
[製造例4]
ジフェニルジメチルシロキサン600g(信越化学工業社製KF-54)、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン9.6g(信越化学工業社製「KBM-502」)、50%アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸ナトリウム48g(ぺレックスSS-L、花王社製)を純水45gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、水400gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、さらにスターバーストを用いて100MPa×2パス行い、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、55℃で10~20時間重合反応を行った後、10℃で10~20時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液12gでpHを中性付近に中和した。このエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分(固形分)が51.5%で、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものである。ジフェニルシロキサン量を測定したところ、54.1%であった。ここにメタクリル酸メチル(MMA)270g、を3~5時間かけて滴下しながら30℃で過酸化物と還元剤でレドックス反応を行うことでシリコーン樹脂成分へのアクリルグラフト共重合し、不揮発分45.0%のシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂エマルジョンを得た。これを噴霧乾燥することで揮発分1.1%まで揮発させて樹脂粉体を得ることができた。
【0058】
[製造例5]
オクタメチルシクロテトラシロキサン360g、ジフェニルジメチルシロキサン240g(信越化学工業社製KF-54)、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン0.6g(信越化学工業社製「KBM-502」)、50%アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸ナトリウム24g(ぺレックスSS-L、花王社製)を純水45gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、水400gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、55℃で10~20時間重合反応を行った後、10℃で10~20時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液12gでpHを中性付近に中和した。このエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分(固形分)が46.2%で、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものである。ジフェニルシロキサン量を測定したところ、54.1%であった。ここにメタクリル酸メチル(MMA)157gを3~5時間かけて滴下しながら30℃で過酸化物と還元剤でレドックス反応を行うことでシリコーン樹脂成分へのアクリルグラフト共重合し、不揮発分45.1%のシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂エマルジョンを得た。これを噴霧乾燥することで揮発分1.0%まで揮発させて樹脂粉体を得ることができた。
【0059】
[比較製造例1]
オクタメチルシクロテトラシロキサン600g、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン0.6g(信越化学工業社製「KBM-502」)、ラウリル硫酸ナトリウム6gを純水54gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、水470gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、55℃で24時間重合反応を行った後、0℃で24時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液12gで中性付近に中和した。ここにメタクリル酸メチル(MMA)232gを3~5時間かけて滴下しながら30℃で過酸化物と還元剤でレドックス反応を行うことでシリコーン樹脂成分へのアクリルグラフト共重合し、不揮発分44.8%のシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂エマルジョンを得た。これを噴霧乾燥することで揮発分1.2%まで揮発させて樹脂粉体を得ることができた。
【0060】
[比較製造例2]
ジフェニルジメチルシロキサン600g(信越化学工業社製KF-54)、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン0.6g(信越化学工業社製「KBM-502」)、50%アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸ナトリウム24g(ぺレックスSS-L、花王社製)を純水45g、及びドデシルベンゼンスルホン酸5gを純水45gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、水490gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、55℃で24時間重合反応を行った後、0℃で24時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液12gで中性付近に中和した。エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものである。ジフェニルシロキサン量を測定したところ、54.1%であった。ここにMMA944gを3~5時間かけて滴下しながら30℃で過酸化物と還元剤でレドックス反応を行うことでシリコーン樹脂成分へのアクリルグラフト共重合し、不揮発分44.8%のシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂エマルジョンを得た。これを噴霧乾燥することで揮発分1.1%まで揮発させて樹脂粉体を得ることができた。
【0061】
[比較製造例3]
オクタメチルシクロテトラシロキサン550g、ジフェニルジメチルシロキサン50g(信越化学工業社製KF-54)γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン0.6g(信越化学工業社製「KBM-502」)、50%アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸ナトリウム24g(ぺレックスSS-L、花王社製)を純水45gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、水490gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、55℃で10~20時間重合反応を行った後、10℃で10~20時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液12gでpHを中性付近に中和した。このエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分(固形分)が45.2%で、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものである。ジフェニルシロキサン量を測定したところ、7.3%であった。ここにメタクリル酸メチル(MMA)232gを3~5時間かけて滴下しながら30℃で過酸化物と還元剤でレドックス反応を行うことでシリコーン樹脂成分へのアクリルグラフト共重合し、不揮発分45.1%のシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂エマルジョンを得た。これを噴霧乾燥することで揮発分0.9%まで揮発させて樹脂粉体を得ることができた。
【0062】
<固形分の測定方法>
各例の樹脂エマルジョン(試料)約1gをアルミ箔製の皿に正確に量り取り、約105℃に保った乾燥器に入れ、1時間加熱後、乾燥器から取り出してデシケーターの中にて放冷し、試料の乾燥後の重さを量り、次式により蒸発残分を算出した。
【数1】
R:蒸発残分(%)
W:乾燥前の試料を入れたアルミ箔皿の質量(g)
L:アルミ箔皿の質量(g)
T:乾燥後の試料を入れたアルミ箔皿の質量(g)
アルミ箔皿の寸法:70φ×12h(mm)
【0063】
<エマルジョンの平均粒子径の測定方法>
(株)堀場製作所製レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(LA950V2)を用いて、各例の樹脂エマルジョンの粒子径を測定した。
【0064】
【表1】
【0065】
〔実施例1~7、比較例1~6〕
ラボプラストミル(東洋精機製作所製)にストランドダイを使用して、熱可塑性ウレタン樹脂(製品名「エラストランET-597-10」または「ミラクトランXN-2001」)と、製造例・比較製造例のシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂粉体を表2の割合で配合し、200℃の成形温度で樹脂ペレットを作成した。その後、該樹脂ペレットを用いて小型射出成型機(2cm×2cm×2mmの金型)で加熱加工し、下記表2に示すように実施例1~7,比較例1~6の実施例樹脂成型物を得た。
【0066】
【表2】
【0067】
・製品名「エラストランET-597-10」
BASF社製の熱可塑性ポリウレタン(ポリエステル系)、ショアA硬度「97」
・製品名「ミラクトランXN-2001」
東ソー社製の熱可塑性ポリウレタン(ポリカーボネート系)、ショアA硬度「85」
【0068】
得られた各例の樹脂成型物について、ヘイズ値および離型性を下記のとおり評価した。
【0069】
<ヘイズ値>
ヘイズメーターとして、NDH7000(日本電色工業社製)を用い、各例の樹脂成型物のヘイズ値を測定した。
【0070】
<離型性>
金型温度60℃で冷却を行い、10回中、何回で突出しピン(エジェクタピン)のみで金型から成形物を離型したかを%で表した(例えば、10回中、8回ピンで離型した場合は「80%」と表示する。)。なお、突出しピンは、金型に内蔵されている。
【0071】
〔実施例8~14、比較例7~12〕
ラボプラストミル(東洋精機製作所製)にTダイを使用して、熱可塑性ウレタン樹脂(製品名「エラストランET-597-10」または「ミラクトランXN-2001」)と、製造例・比較製造例のシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂粉体を表3の割合で配合し、約200℃の成形温度で約200μmの実施例8~14,比較例7~12の樹脂成型物(フィルム)を作成した。
【0072】
【表3】
【0073】
<ヘイズ値の測定>
ヘイズメーターとして、NDH7000(日本電色工業社製)を用い、上記各例のヘイズ値を測定した。
【0074】
<静・動摩擦係数>
HEIDON TYPE-R(新東科学社製)で測定し、摩擦力から摩擦係数を測定した。この測定は直線摺動式に基づく。200gの金属圧子を塗膜に垂直に接触させ、3cm/分で移動させた時の摩擦力から摩擦係数を算出した。