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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】空気調和装置および空気調和方法
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/84 20180101AFI20231114BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20231114BHJP
   F24F 11/74 20180101ALI20231114BHJP
【FI】
F24F11/84
F25B1/00 304Z
F25B1/00 383
F25B1/00 381D
F24F11/74
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020035070
(22)【出願日】2020-03-02
(65)【公開番号】P2021139512
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006611
【氏名又は名称】株式会社富士通ゼネラル
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 光哉
(72)【発明者】
【氏名】竹内 博俊
(72)【発明者】
【氏名】近藤 将弘
(72)【発明者】
【氏名】島野 太貴
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 達朗
【審査官】町田 豊隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-013307(JP,A)
【文献】特開平04-139358(JP,A)
【文献】特開2017-083043(JP,A)
【文献】特開2001-241799(JP,A)
【文献】特開平01-179856(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03051218(EP,A1)
【文献】特開2002-013784(JP,A)
【文献】特開平09-236299(JP,A)
【文献】特開平11-241869(JP,A)
【文献】特開2015-090227(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/84
F25B 1/00
F24F 11/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
室外機と、前記室外機と冷媒配管で接続された複数台の室内機と、前記複数台の室内機の各々に対応して備えられた膨張弁とを有し、前記複数台の室内機のうち、少なくとも1台の運転中の室内機を停止するとともに、少なくとも1台の停止中の室内機の運転を開始する、停止室内機ローテーション制御を行う空気調和装置であって、
停止室内機ローテーション制御を行う場合に、前記膨張弁の開度の変化速度を、使用者によるリモコン操作時における前記膨張弁の開度の変化速度よりも遅くする一方で、
停止室内機ローテーション制御以外によって前記室内機の運転と停止とを切り替える場合には、前記膨張弁の開度の変化速度を低下させることなく通常の速度を維持する制御部を有する、
ことを特徴とする空気調和装置。
【請求項2】
前記制御部は、停止室内機ローテーション制御によって前記室内機を停止する場合には、前記膨張弁の閉弁速度を、停止室内機ローテーション制御以外によって前記室内機を停止する場合の前記膨張弁の閉弁速度よりも遅くし、
停止室内機ローテーション制御によって前記室内機の運転を開始する場合には、前記膨張弁の開弁速度を、停止室内機ローテーション制御以外によって前記室内機の運転を開始する場合の前記膨張弁の開弁速度よりも遅くすることを特徴とする請求項1に記載の空気調和装置。
【請求項3】
前記膨張弁は、ステッピングモータにパルス信号を加えることで動作し、
前記制御部は、前記室内機の前記膨張弁の口径に応じて、前記膨張弁の励磁速度を変えることを特徴とする請求項1または2に記載の空気調和装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記室内機の前記膨張弁の制御に伴う冷媒流量の平均変化速度に基づき、前記膨張弁ごとの励磁速度を決定することを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の空気調和装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記膨張弁を前記閉弁速度により閉弁させる際に、前記膨張弁を有する室内機のファンの回転数を段階的に低下させることを特徴とする請求項2に記載の空気調和装置。
【請求項6】
室外機と、前記室外機と冷媒配管で接続された複数台の室内機と、前記複数台の室内機の各々に対応して備えられた膨張弁とを有し、前記複数台の室内機のうち、少なくとも1台の運転中の室内機を停止するとともに、少なくとも1台の停止中の室内機の運転を開始する、停止室内機ローテーション制御を行う空気調和装置が、
停止室内機ローテーション制御を行う場合に、前記膨張弁の開度の変化速度を、使用者によるリモコン操作時における前記膨張弁の開度の変化速度よりも遅くする一方で、
停止室内機ローテーション制御以外によって前記室内機の運転と停止とを切り替える場合には、前記膨張弁の開度の変化速度を低下させることなく通常の速度を維持する制御工程を含む、
ことを特徴とする空気調和方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室外機と冷媒配管で接続された複数台の室内機を制御する空気調和装置および空気調和方法に関する。
【背景技術】
【0002】
室内機を複数台備えるマルチ型空気調和装置において、環境性および安全性の観点から省冷媒化が求められている。省冷媒化を実現するために冷媒充填量を削減すると、室内機の台数や配管長に対して循環する冷媒量が不足することがある。この場合、空気調和装置は、十分な冷媒量を確保するために、運転の必要性の低い室内機を停止する、あるいは、室内機配管を遮断することがある。
【0003】
具体的には、従来技術として、冷媒充填量が制限された空気調和装置において、全ての室内機の要求能力の合算値である合計要求能力が閾要求能力を超えた場合に、各室内機の最大能力の合算値と閾要求能力の差分に相当する台数の室内機を停止し、当該停止室内機を所定時間毎に変更する停止室内機ローテーション制御を実行する技術(例えば、特許文献1参照)がある。
【0004】
このように、使用者が室内機の運転を指示しているにも関わらず、一部の室内機の運転を停止させ、当該停止室内機を特定の条件によって順番に変更する停止室内機ローテーション制御は、ピーク消費電力量を低減するためのデマンド制御システム(例えば、特許文献2参照)などでも行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-13307号公報
【文献】特開2016-56986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、マルチ型空気調和装置において、使用者が室内機に運転を指示している場合、通常は室内機の検出する空間の温度(室内温度)が設定温度に達するまでは運転を続ける。一方、上記従来技術の停止室内機ローテーション制御では、使用者の居室空間の室内温度が設定温度に達していない温度で、室内機が停止する。ここで、室内機が停止する直前までは、室内機から冷風(冷房時)または温風(暖房時)が吹き出され、使用者の周囲を流れるため、居室空間の全体温度は設定温度に達していないながらも、使用者は一定の快適性を得ることできる。しかし、停止室内機ローテーション制御によって室内機が停止することで、冷風または温風が突然吹き出されなくなり、使用者の周囲の温度が急激に変動することがあった。すなわち、室内機が冷房運転を行っていた場合には、温度が急激に上昇し、暖房運転を行っていた場合には、温度が急激に低下する。これにより、使用者の周囲の温度は、設定温度に達していない温度、すなわち使用者にとって不快な温度になる。このように、使用者の周囲の温度が、使用者にとって快適な温度と不快な温度との間で急激に変動することにより、使用者が違和感を覚え、空気調和装置の異常と誤認することがあった。このような問題点は、室内機の能力(冷房能力あるいは暖房能力)が高い程、顕著となる。
【0007】
開示の技術は、かかる点に鑑みてなされたものであって、使用者の周囲の温度が、急激に変動することに起因して使用者が空気調和装置の異常と誤認することを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の空気調和装置は、室外機と、上記室外機と冷媒配管で接続された複数台の室内機と、上記複数台の室内機の各々に対応して備えられた膨張弁とを有し、上記複数台の室内機のうち、少なくとも1台の運転中の室内機(運転室内機)を停止するとともに、少なくとも1台の停止中の室内機(停止室内機)の運転を開始する、停止室内機ローテーション制御を行う空気調和装置であって、停止室内機ローテーション制御を行う場合に、上記膨張弁の開度の変化速度を、停止室内機ローテーション制御以外によって上記室内機の運転と停止とを切り替える場合の上記膨張弁の開度の変化速度よりも遅くする。
【発明の効果】
【0009】
開示の空気調和装置および空気調和方法は、使用者の周囲の温度の急激な変化に起因して使用者が空気調和装置の異常と誤認することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一実施形態における、空気調和装置の説明図であり、(A)は冷媒回路図、(B)は室外機制御部および室内機制御部のブロック図である。
図2図2は、本発明の一実施形態における、室内機および室外機の設置状態を表す図面である。
図3図3は、本発明の一実施形態における、膨張弁制御の処理のフローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面に基づいて詳細に説明する。実施形態としては、1台の室外機に20台の室内機が並列に接続され、各室内機をローテーションさせて冷房運転あるいは暖房運転が行える空気調和装置を例に挙げて説明する。尚、本発明は以下の実施形態に限定されることはなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々変形することが可能である。例えば、室内機の台数は、2台以上であれば20台以外でもよい。
【実施例
【0012】
図1(A)および図2に示すように、本実施形態における空気調和装置1は、空調空間である部屋300の屋外に設置される1台の室外機2と、部屋300に設置され、室外機2に既設の液管8およびガス管9と電気配線10で並列に接続された能力が同じである20台の室内機5a~5tを備えている。具体的には、液管8の一端は室外機2の閉鎖弁25に接続され、液管8の他端は分岐して各室内機5a~5tの液管接続部53a~53tに接続されている。ガス管9の一端は室外機2の閉鎖弁26に接続され、ガス管9の他端は分岐して各室内機5a~5tのガス管接続部54a~54tに接続されている。このように室外機2と20台の室内機5a~5tが接続されて、空気調和装置1の冷媒回路100が構成されている。また、電気配線10の一端は後述する室外機2の通信部230に接続され、電気配線10の他端は分岐して後述する各室内機5a~5tの通信部430a~430tに接続されている。
【0013】
尚、図1(A)では、20台の室内機5a~5tのうち、室内機5a、室内機5b、および、室内機5tのみを示している。また、上記冷媒回路100には、HFO1234yf、R32、あるいはこれらを含む混合冷媒等の、GWPが低い可燃性冷媒が用いられる。そして、以下に説明する室外機2および20台の室内機5a~5tは、各々が可燃性冷媒に対応するように設計されたものである。つまり、空気調和装置1は、元々はR410A等の不燃性冷媒に対応した室外機(以降、旧室外機と記載)と20台の室内機(以降、旧室内機と記載)が液管8およびガス管9で接続されて構成されていたものから、可燃性冷媒に対応し各々の能力は旧室外機および旧室内機と同じである室外機2と20台の室内機5a~5tに置き換え、液管8およびガス管9を流用して室外機2と20台の室内機5a~5tを接続した冷媒回路100に可燃性冷媒を充填したものである。
【0014】
<室外機の構成>
まずは、室外機2について説明する。室外機2は、圧縮機21と、四方弁22と、室外熱交換器23と、室外膨張弁24と、液管8の一端が接続された閉鎖弁25と、ガス管9の一端が接続された閉鎖弁26と、アキュムレータ28と、室外ファン27を備えている。そして、室外ファン27を除くこれら各装置が以下で詳述する各冷媒配管で相互に接続されて、冷媒回路100の一部をなす室外機冷媒回路20を構成している。
【0015】
圧縮機21は、インバータにより回転数が制御される図示しないモータによって駆動されることで、運転容量を可変できる能力可変型圧縮機である。圧縮機21の冷媒吐出側は、後述する四方弁22のポートaに吐出管41で接続されており、また、圧縮機21の冷媒吸入側は、アキュムレータ28の冷媒流出側に吸入管42で接続されている。
【0016】
四方弁22は、冷媒の流れる方向を切り換えるための弁であり、a、b、c、dの4つのポートを備えている。ポートaは、上述したように圧縮機21の冷媒吐出側に吐出管41で接続されている。ポートbは、室外熱交換器23の一方の冷媒出入口に冷媒配管43で接続されている。ポートcは、アキュムレータ28の冷媒流入側に冷媒配管46で接続されている。そして、ポートdは、閉鎖弁26に室外機ガス管45で接続されている。
【0017】
室外熱交換器23は、冷媒と、後述する室外ファン27の回転により室外機2の内部に取り込まれた外気を熱交換させるものである。室外熱交換器23の一方の冷媒出入口は、上述したように四方弁22のポートbに冷媒配管43で接続され、他方の冷媒出入口は室外機液管44で閉鎖弁25に接続されている。
【0018】
室外膨張弁24は室外機液管44に設けられている。室外膨張弁24は電子膨張弁であり、空気調和装置1が暖房運転を行っている場合すなわち室外熱交換器23が蒸発器として機能する場合は、後述する吐出温度センサ33で検出した圧縮機21の吐出温度に応じてその開度が調整されることで、吐出温度が性能上限値を超えないようにしている。また、空気調和装置1が冷房運転を行っている場合すなわち室外熱交換器23が凝縮器として機能する場合は、その開度が全開とされる。
【0019】
室外ファン27は樹脂材で形成されており、室外熱交換器23の近傍に配置されている。室外ファン27は、図示しないファンモータによって回転することで図示しない吸込口から室外機2の内部へ外気を取り込み、室外熱交換器23において冷媒と熱交換した外気を図示しない吹出口から室外機2の外部へ放出する。
【0020】
アキュムレータ28は、上述したように、冷媒流入側が四方弁22のポートcに冷媒配管46で接続されるとともに、冷媒流出側が圧縮機21の冷媒吸入側に吸入管42で接続されている。アキュムレータ28は、冷媒配管46からアキュムレータ28の内部に流入した冷媒をガス冷媒と液冷媒に分離してガス冷媒のみを圧縮機21に吸入させる。
【0021】
以上説明した構成の他に、室外機2には各種のセンサが設けられている。図1(A)に示すように、吐出管41には、圧縮機21から吐出される冷媒の圧力を検出する吐出圧力センサ31と、圧縮機21から吐出される冷媒の温度を検出する吐出温度センサ33が設けられている。冷媒配管46におけるアキュムレータ28の冷媒流入口近傍には、圧縮機21に吸入される冷媒の圧力を検出する吸入圧力センサ32と、圧縮機21に吸入される冷媒の温度を検出する吸入温度センサ34が設けられている。
【0022】
室外機液管44における室外熱交換器23と室外膨張弁24との間には、室外熱交換器23に流入する冷媒の温度あるいは室外熱交換器23から流入する冷媒の温度を検出するための熱交温度センサ35が設けられている。そして、室外機2の図示しない吸込口付近には、室外機2の内部に流入する外気の温度、すなわち外気温度を検出する外気温度センサ36が備えられている。
【0023】
また、室外機2には、室外機制御部200が備えられている。室外機制御部200は、室外機2の図示しない電装品箱に格納されている制御基板に搭載されている。図1(B)に示すように、室外機制御部200は、CPU210と、記憶部220と、通信部230と、センサ入力部240とを備えている。
【0024】
記憶部220は、ROMやRAMで構成されており、室外機2の制御プログラムや各種センサからの検出信号に対応した検出値、圧縮機21や室外ファン27の制御状態等を記憶している。通信部230は、室内機5a~5cとの通信を行うインターフェイスである。センサ入力部240は、室外機2の各種センサでの検出結果を取り込んでCPU210に出力する。
【0025】
CPU210は、前述した室外機2の各センサでの検出結果をセンサ入力部240を介して取り込む。また、CPU210は、室内機5a~5tから送信される後述する制御信号を通信部230および電気配線10を介して取り込む。CPU210は、取り込んだ検出結果や制御信号に基づいて、圧縮機21や室外ファン27の駆動制御を行う。また、CPU210は、取り込んだ検出結果や制御信号に基づいて、四方弁22の切り換え制御を行う。さらには、CPU210は、取り込んだ検出結果や制御信号に基づいて、室外膨張弁24の開度調整を行う。
【0026】
<室内機の構成>
次に、20台の室内機5a~5tについて説明する。20台の室内機5a~5tは、室内熱交換器51a~51tと、室内膨張弁52a~52tと、分岐した液管8の他端が接続された液管接続部53a~53tと、分岐したガス分管9a~9cの他端が接続されたガス管接続部54a~54tと、室内ファン55a~55tを備えている。そして、室内ファン55a~55tを除くこれら各装置が以下で詳述する各冷媒配管で相互に接続されて、冷媒回路100の一部をなす室内機冷媒回路50a~50tを構成している。
【0027】
以下に、20台の室内機5a~5tの構成について詳細に説明する。尚、室内機5a~5tは全て構成が同じであるため、以下の説明では室内機5aを例に挙げて詳細な説明を行い、その他の室内機5b~5tについては詳細な説明を省略する。また、図1では、室内機5aの構成装置に付与した番号の末尾をaからb~tにそれぞれ変更したものが、室内機5aの構成装置と対応する室内機5b~5tの構成装置となる。
【0028】
室内熱交換器51aは、冷媒と、後述する室内ファン55aの回転により図示しない吸込口から室内機5aの内部に取り込まれた室内空気を熱交換させるものであり、一方の冷媒出入口が液管接続部53aに室内機液管71aで接続され、他方の冷媒出入口がガス管接続部54aに室内機ガス管72aで接続されている。室内熱交換器51aは、室内機5aが冷房運転を行う場合は蒸発器として機能し、室内機5aが暖房運転を行う場合は凝縮器として機能する。尚、液管接続部53aやガス管接続部54aは、各冷媒配管が溶接やフレアナット等により接続されている。
【0029】
室内膨張弁52aは、室内機液管71aに設けられている。室内膨張弁52aは電子膨張弁であり、室内熱交換器51aが蒸発器として機能する場合すなわち室内機5aが冷房運転を行う場合は、その開度は、室内熱交換器51aの冷媒出口(ガス管接続部54a側)での冷媒過熱度が目標冷媒過熱度となるように調整される。また、室内膨張弁52aは、室内熱交換器51aが凝縮器として機能する場合すなわち室内機5aが暖房運転を行う場合は、その開度は、室内熱交換器51aの冷媒出口(液管接続部53a側)での冷媒過冷却度が目標冷媒過冷却度となるように調整される。ここで、目標冷媒過熱度や目標冷媒過冷却度とは、室内機5aで十分な冷房能力あるいは暖房能力を発揮するのに必要な冷媒過熱度および冷媒過冷却度である。尚、室内膨張弁52aは、ステッピングモータにパルス信号を加えることで動作するものとしてもよい。また、ステッピングモータに加えるパルス信号のパルス数で膨張弁の開度が設定されるものとしてもよい。
【0030】
室内ファン55aは樹脂材で形成されており、室内熱交換器51aの近傍に配置されている。室内ファン55aは、図示しないファンモータによって回転することで、図示しない吸込口から室内機5aの内部に室内空気を取り込み、室内熱交換器51aにおいて冷媒と熱交換した室内空気を図示しない吹出口から室内へ放出する。
【0031】
以上説明した構成の他に、室内機5aには各種のセンサが設けられている。室内機液管71aにおける室内熱交換器51aと室内膨張弁52aとの間には、室内熱交換器51aに流入あるいは室内熱交換器51aから流出する冷媒の温度を検出する液側温度センサ61aが設けられている。室内機ガス管72aには、室内熱交換器51aから流出あるいは室内熱交換器51aに流入する冷媒の温度を検出するガス側温度センサ62aが設けられている。室内機5aの図示しない吸込口付近には、室内機5aの内部に流入する室内空気の温度、すなわち吸込温度を検出する吸込温度センサ63aが備えられている。
【0032】
また、室内機5aには、室内機制御部400aが備えられている。室内機制御部400aは、室内機5aの図示しない電装品箱に格納された制御基板に搭載されており、図1(B)に示すように、CPU410aと、記憶部420aと、通信部430aと、センサ入力部440aを備えている。
【0033】
記憶部420aは、ROMやRAMで構成されており、室内機5aの制御プログラムや各種センサからの検出信号に対応した検出値、使用者による空調運転に関する設定情報等を記憶する。通信部430aは、室外機2および他の室内機5b、5cとの通信を行うインターフェイスである。センサ入力部440aは、室内機5aの各種センサでの検出結果を取り込んでCPU410aに出力する。
【0034】
CPU410aは、前述した室内機5aの各センサでの検出結果をセンサ入力部440aを介して取り込む。また、CPU410aは、使用者が図示しないリモコンを操作して設定した運転情報やタイマー運転設定等を含んだ信号を図示しないリモコン受光部を介して取り込む。また、CPU410aは、運転開始/停止信号や運転情報(要求能力や設定温度、室内温度等)を含んだ制御信号を、通信部430aおよび電気配線10を介して室外機2に送信するとともに、室外機2が検出した吐出圧力等の情報を含む制御信号を通信部430aおよび電気配線10を介して室外機2から受信する。CPU410aは、取り込んだ検出結果やリモコンおよび室外機2から送信された信号に基づいて、室内膨張弁52aの開度調整や、室内ファン55aの駆動制御を行う。
【0035】
尚、以上説明した室外機制御部200と室内機制御部400a~400tとで、本発明の制御部が構成される。
【0036】
<空気調和装置の配置>
以上説明した空気調和装置1が、図2に示す部屋300に設置されている。室外機2が部屋300の屋外に配置されており、20台の室内機5a~5tが部屋300に設置されている。部屋300の一壁面には、左右方向に渡って配置される窓310が設けられている。また、部屋300の窓310が設けられる壁面に対向する壁面の一部に出入口320が設けられている。20台の室内機5a~5tは、部屋300の左右方向に略等間隔で4台並べて配置されるとともに、窓310から出入口320に向かう方向に略等間隔で5台並べて配置されている。つまり、部屋300には、左右方向に並べた室内機4台でなる列が、窓310から出入口320に向かう方向に5列並べられる形で室内機5a~5tが配置されている。
【0037】
より詳細には、窓310に一番近い列には、室内機5a~5dの4台の室内機が配置されている。この室内機5a~5dで構成される列を以降はAグループとする。Aグループの次の列つまりAグループの出入口320側の列には、室内機5e~5hの4台の室内機が配置されている。この室内機5e~5hで構成される列を以降はBグループとする。以下、出入口320に向かう順に、室内機5i~5lの4台の室内機が配置された列、室内機5m~5pの4台の室内機が配置された列、室内機5q~5tの4台の室内機が配置された列があり、各列を順にCグループ、Dグループ、Eグループとする。
【0038】
<空気調和装置の動作>
次に、本実施形態における空気調和装置1の空調運転時の冷媒回路100における冷媒の流れや各部の動作について、図1(A)を用いて説明する。尚、以下の説明では、空気調和装置1が冷房運転を行う場合でありかつ全ての室内機5a~5tが運転する場合について説明し、暖房運転を行う場合については詳細な説明を省略する。また、図1(A)における矢印は冷房運転時の冷媒の流れを示している。
【0039】
図1に示すように、空気調和装置1が冷房運転を行う場合、室外機制御部200のCPU210は、四方弁22を実線で示す状態、すなわち、四方弁22のポートaとポートbが連通するよう、また、ポートcとポートdが連通するよう、切り換える。これにより、冷媒回路100は、室外熱交換器23が凝縮器として機能するとともに室内熱交換器51a~51tが蒸発器として機能する冷房サイクルとなる。
【0040】
圧縮機21から吐出された高圧の冷媒は、吐出管41を流れて四方弁22に流入し、四方弁22から冷媒配管43を流れて室外熱交換器23に流入する。室外熱交換器23に流入した冷媒は、室外ファン27の回転により室外機2の内部に取り込まれた外気と熱交換を行って凝縮する。室外熱交換器23から室外機液管44に流出した冷媒は、室外膨張弁24で減圧され閉鎖弁25を介して液管8に流出する。
【0041】
液管8を流れる冷媒は液管接続部53a~53tを介して室内機5a~5tに流入する。室内機5a~5tに流入した冷媒は室内機液管71a~71tを流れ、室内膨張弁52a~52tを通過して減圧される。減圧された冷媒は室内熱交換器51a~51tに流入し、室内ファン55a~55tの回転により室内機5a~5tの内部に取り込まれた室内空気と熱交換を行って蒸発する。このように、室内熱交換器51a~51tが蒸発器として機能し、室内熱交換器51a~51tで冷媒と熱交換を行った室内空気が図示しない吹出口から室内に吹き出されることによって、室内機5a~5tが設置された室内の冷房が行われる。
【0042】
室内熱交換器51a~51tから流出した冷媒は室内機ガス管72a~72tを流れ、ガス管接続部54a~54tを介してガス管9に流出する。ガス管9を流れて閉鎖弁26を介して室外機2に流入した冷媒は、室外機ガス管45、四方弁22、冷媒配管46、アキュムレータ28、吸入管42の順に流れ、圧縮機21に吸入されて再び圧縮される。
【0043】
尚、空気調和装置1が暖房運転を行う場合、CPU210は、四方弁22を破線で示す状態、すなわち、四方弁22のポートaとポートdが連通するよう、また、ポートbとポートcが連通するように切り換える。これにより、冷媒回路100は、室外熱交換器23が蒸発器として機能するとともに各室内機5a~5tの室内熱交換器51a~51tが凝縮器として機能する暖房サイクルとなる。
【0044】
<停止室内機ローテーション制御の動作>
ところで、空気調和装置1が冷房運転あるいは暖房運転を行うときは、各室内機5a~5tにおいて、室内機制御部400a~400tのCPU410a~410tは、使用者が決定した設定温度と吸込温度センサ63a~63tで検出しセンサ入力部440a~440tを介して取り込んだ室内温度の温度差を算出し、この温度差に基づく各室内機5a~5tの要求能力を通信部430a~430tを介して室外機2に送信する。
【0045】
一方、通信部230を介して各室内機5a~5tの要求能力を受信した室外機制御部200のCPU210は、各室内機5a~5tの要求能力の合算値である合計要求能力を算出し、算出した合計要求能力を達成するのに必要な量の冷媒を冷媒回路100に循環させるための圧縮機21の回転数を決定する。そして、CPU210は、決定した回転数で圧縮機21を駆動制御する。
【0046】
前述したように、本実施形態の空気調和装置1は、元々は不燃性冷媒に対応した旧室外機と20台の旧室内機が液管8およびガス管9で接続されて構成されていたものから、可燃性冷媒に対応し各々の能力は旧室外機および旧室内機と同じである室外機2と20台の室内機5a~5tに置き換え、液管8およびガス管9を流用して室外機2と20台の室内機5a~5tを接続した冷媒回路100に可燃性冷媒を充填したものである。
【0047】
旧室外機を室外機2に置き換えるとともに20台の旧室内機を室内機5a~5tに置き換えて可燃性冷媒を冷媒回路100に充填するときは、その充填量が旧冷媒を使用していたときより少なくなる場合がある。これは、IEC60335-2-40やISO5149といった規格で、不燃性冷媒に比べて可燃性冷媒や微燃性冷媒の許容される充填量(以降、最大充填量と記載)が少なくなるためである。この最大充填量は、例えば、ISO5149では、換気扇やガス漏れセンサを設置する等の部屋における冷媒濃度の管理に対する手当を行っていれば、部屋の大きさに関わらず許容される充填量として定められているものが該当し、不燃性冷媒では冷媒の種類によらず150kgであるのに対し、可燃性冷媒や微燃性冷媒では各冷媒の発火下限濃度に応じた量とされ、一例としてR32冷媒では約60kgとされている。
【0048】
このため、空気調和装置1が旧室外機と20台の旧室内機で構成されて旧冷媒を用いていたときは、各室内機において各室内機の最大能力が要求されても、各室内機で要求された最大能力を合算した能力が発揮できる冷媒充填量とされていたものをリプレイスにより可燃性冷媒あるいは微燃性冷媒に置き換えると、規制充填量まで充填しても旧冷媒と比べて充填量が少なくなって各室内機で最大能力を発揮できない恐れがある。例えば、全ての旧室内機で最大能力が要求された場合の合計要求能力を100としたときに、この合計要求能力より最大充填量と規制充填量の差分の冷媒充填量の分だけ低い合計要求能力(以降、閾要求能力と記載。例えば、80)しか発揮できない。
【0049】
そこで、上記のように不燃性冷媒から可燃性冷媒に置き換えた空気調和装置1において、室内機5a~5tの合計要求能力が閾要求能力を超えたときは、各室内機の最大能力の合算値と閾要求能力の差分に相当する台数の室内機を停止させることで、運転している室内機で最大能力に発揮させることが考えられる。例えば、本実施形態の空気調和装置1において、閾要求能力が各室内機の最大能力の合算値の80%とされている場合に、全ての室内機5a~5tで最大能力が要求されたときは、20台の室内機5a~5tのうちいずれか4台の室内機を停止させればよい。
【0050】
しかし、上述したように4台の室内機を停止させるときに、常に室内機5a~5tのうちの特定の4台の室内機を停止すると、停止室内機が受け持つ空調空間つまりは部屋300における停止室内機の下方の室内温度が上昇あるいは低下して設定温度との温度差が運転している室内機が受け持つ空調空間と比べて大きくなる、つまり、停止室内機が受け持つ空調空間の空調環境が悪化するので、当該空調空間に存在する使用者に不快感を与える恐れがあった。
【0051】
そこで、本実施形態の空気調和装置1では、各室内機5a~5tの合計要求能力が閾要求能力を超えた場合は、室内機5a~5tのうち閾要求能力に対応する台数である16台の室内機を運転し残る4台の室内機を停止する。そして、停止する4台の室内機を定期的に変更する停止室内機ローテーション制御を行う。
【0052】
具体的には、室外機制御部200のCPU210は、各室内機5a~5tから取り込んだ要求能力の合計が閾要求能力を超えた場合、まず、Eグループの室内機5q~5tを所定時間(例えば、20分間)停止する。所定時間が経過すれば、CPU210は、Eグループの室内機5q~5tを起動するとともにDグループの室内機5m~5pを所定時間停止する。以降、Cグループ、Bグループ、Aグループの順に各グループの室内機を所定時間ずつ停止し、Aグループの室内機5a~5dを所定時間停止した後は再びEグループの室内機5q~5tを所定時間停止する。尚、上記所定時間は、予め試験等を行って定められたものであり、この時間室内機が停止しても当該室内機が受け持つ空調空間の空調環境が極端に悪化(例えば、設定温度と室内温度の温度差が6℃以上となる)しないことが確認できている時間である。
【0053】
ここで、停止させる列をE、D、C、B、Aの順としている理由は次の通りである。図2に示すように、Aグループの室内機5a~5dは大きな空調負荷となる窓310の近傍に設置されているため、これら室内機5a~5dを停止した際に室内機5a~5dが受け持つ空調空間における室内温度の上昇あるいは低下の速度は、他の列を構成する室内機が受け持つ空調空間と比べて早くなる。そして、室内温度の上昇あるいは低下の速度は、窓310から離れるほど遅くなり、窓310から一番遠い場所に配置されるEグループの室内機5q~5tが受け持つ空調空間における室内温度の上昇あるいは低下の速度は、他の列を構成する室内機が受け持つ空調空間と比べて遅くなる。
【0054】
冷房運転中に停止室内機ローテーション制御を行うとき、窓310の影響を受けるAグループの室内機5a~5dから停止させると、室内機5a~5dが受け持つ空調空間における室内温度が短時間で大きく上昇あるいは低下し、当該空調空間の空調環境が悪化して使用者に多大な不快感を与える恐れがある。一方、Eグループから停止させ始めて順次Aグループに向かう方に停止させる室内機を変えていくと、Aグループの室内機5a~5dが停止するまでに、部屋300全体がある程度暖められているあるいは冷やされているため、Aグループの室内機5a~5dが停止したとき当該空調空間の空調環境がさほど悪化せずに使用者の不快感を低減できる。
【0055】
尚、室内機5a~5tの合計要求能力が閾要求能力を超えたときに、停止室内機を設けるのではなく全ての室内機5a~5tを運転し、各室内機5a~5tで発揮する能力を、閾要求能力を室内機5a~5tの台数(本実施形態では20台)で割った値つまり最大能力より低い能力に抑えることも考えられる。しかし、このように全ての室内機5a~5tで発揮される能力を最大能力より低い能力に抑えると、最大能力を要求している使用者に不快感を与える恐れがある。
【0056】
また、全ての室内機5a~5tの室内熱交換器51a~51tにガス冷媒と液冷媒が存在することとなるので、暖房運転時に室内熱交換器にガス冷媒のみが存在する停止室内機がある場合や、冷房運転時に室内熱交換器に冷媒が略存在しない停止室内機がある場合と比べて空気調和装置1全体の冷媒循環量が減少し、室内機5a~5tで発揮される能力の合算値が停止室内機が存在する場合と比べて小さくなる恐れがある。
【0057】
以上説明した理由により、室内機5a~5tの合計要求能力が閾要求能力を超えたときは、全ての室内機5a~5tを運転するより、各室内機の最大能力の合計値と閾要求能力の差分に相当する台数の室内機を停止させる方が、室内機5a~5tで発揮される能力の合算値を大きくできる。
【0058】
以上説明したように、本実施形態の空気調和装置1は、全ての室内機5a~5tの合計要求能力が閾要求能力を超えたときに、閾要求能力に対応する台数の室内機を停止するとともに停止する室内機を所定時間毎に交代させる停止室内機ローテーション制御を行う。このため、冷媒回路100に充填する冷媒が可燃性冷媒となって充填量が減少し、これに起因して空気調和装置1で発揮できる合計要求能力が低下しても、使用者の不快感を低減できる。
【0059】
尚、以上説明した実施形態では、停止室内機ローテーション制御を行う際に、各グループを構成する室内機の停止時間を一律に所定時間としているが、窓310による空調負荷の影響を一倍大きく受けるAグループの室内機5a~5dの停止時間を5分、次に窓310に近いBグループの室内機5e~5hの停止時間を10分、というように、窓310による空調負荷の影響を一番大きく受けるAグループの室内機5a~5dの停止時間を一番短くし、窓310から離れていくにつれて順次停止時間を長くしてもよい。このように停止室内機ローテーション制御を行えば、窓310に近いAグループの室内機5a~5dが停止する時間を短くできるので、室内機5a~5dが受け持つ空調空間の空調環境の悪化を最小限とでき、当該空調空間に存在する使用者の不快感をより低減できる。
【0060】
<空気調和装置による膨張弁制御処理>
以上説明したように、本実施形態の空気調和装置1は、室外機2と冷媒配管で接続された複数台の室内機5a~5tのうち、停止室内機を定期的に変更する停止室内機ローテーション制御を行う。この時、空気調和装置1は、複数台の室内機5a~5tのうち、少なくとも1台の運転室内機を停止するとともに、少なくとも1台の停止室内機の運転を開始する。つまり、空気調和装置1は、停止室内機ローテーション制御を行う時、少なくとも2台の室内機の運転と停止とを切り替える。ここで、空気調和装置1は、室内機の運転と停止とを、停止室内機ローテーション制御によって切り替える場合に、膨張弁の開度の変化速度を、停止室内機ローテーション制御以外によって上記室内機の運転と停止とを切り替える場合(例えば、リモコンからの指示)の膨張弁の開度の変化速度よりも遅くする。
ここで、膨張弁の開度は膨張弁のパルス数とおおよそ比例関係とみなせることから、膨張弁の開度の変化速度は、単位時間にステッピングモータに加えるパルス信号のパルス数、すなわち励磁速度で制御できる。励磁速度の単位はpps(pulse per second)で表される。例えば、空気調和装置1は、停止室内機ローテーション制御以外によって室内機の運転と停止を切り替える場合の励磁速度が100ppsである時、停止室内機ローテーション制御によって上記室内機の運転と停止とを切り替える場合の励磁速度を10ppsと、10分の1にすることで、膨張弁の開度の変化速度もおおよそ10分の1にすることができる。
【0061】
ここで、上記膨張弁の開度の変化速度は、膨張弁を開く速度である開弁速度と、膨張弁を閉じる速度である閉弁速度である。開弁速度は、例えば、室内機5a~5tの停止時の膨張弁の開度から、室内機5a~5tの運転を開始する時に設定する所定の運転初期開度に設定する時の膨張弁の開度の変化速度である。閉弁速度は、例えば、室内機5a~5tを停止する直前の膨張弁開度から、室内機5a~5tを停止した時に設定する所定の停止開度に設定する時の膨張弁の開度の変化速度である。
【0062】
上記のように、室内機の運転と停止とを停止室内機ローテーション制御によって切り替える場合に、膨張弁の開度の変化速度を遅くすることで、当該室内機を流れる冷媒の流量の変化が遅くなるため、室内機の能力の変化が遅くなる。これにより、使用者の周囲の温度が、使用者にとって快適な温度と不快な温度との間で急激に変動することを防止できる。特に、設定温度と室内温度の乖離が大きい場合には、温度が急激に変化することがあるが、このような場合でも、急激な温度変化を抑制できる。したがって、使用者が違和感を覚え、空気調和装置1の異常と誤認することを防止できる。
【0063】
また、空気調和装置1において、室内機制御部400a~400tは、停止室内機ローテーション制御によって室内機を停止する場合には、膨張弁の閉弁速度を、停止室内機ローテーション制御以外によって上記室内機を停止する場合の膨張弁の閉弁速度よりも遅くしてもよい。これに対し、停止室内機ローテーション制御によって室内機の運転を開始する場合には、室内機制御部400a~400tは、膨張弁の開弁速度を、停止室内機ローテーション制御以外によって上記室内機の運転を開始する場合の膨張弁の開弁速度よりも遅くしてもよい。
【0064】
ここで、上記室内機を停止する場合には、使用者の周囲の温度が、使用者にとって快適な温度から不快な温度に急激に変化することを防止でき、上記室内機の運転を開始する場合には、使用者にとって不快な温度から快適な温度に急激に変化することを防止できる。これにより、使用者の居室空間の温度が設定温度に達していないにも関わらず、室内機が停止したこと、および、停止していたことを、使用者が認識しにくくなる。したがって、使用者が違和感を覚え、空気調和装置1の異常と誤認することをさらに防止できる。
【0065】
以上の説明では、能力が同じである20台の室内機5a~5tを例として説明したが、本発明の実施はこれに限らない。例えば、室内機5a~5tの能力がそれぞれ異なり、搭載されている膨張弁の口径が異なる場合、空気調和装置1において、室内機制御部400a~400tは、室内機5a~5tの膨張弁の口径に応じて、上記膨張弁の励磁速度を変えてもよい。ここで、上記膨張弁の励磁速度は、例えば、膨張弁の口径がφ1.5mmの場合には10ppsであり、膨張弁の口径がφ2.1mmの場合には5ppsである。
【0066】
膨張弁の口径に拘らず全ての室内機5a~5tに対して同じ励磁速度とすると、パルス当たりの開度の変化量の大きい大口径の膨張弁を有する室内機の方が、小口径の膨張弁を有する室内機に比べて、単位時間当たりの能力の変化量が大きくなってしまう。そこで、空気調和装置1は、上述したように、膨張弁の口径が大きい室内機ほど、膨張弁の励磁速度を遅くする。これにより、各室内機5a~5t間で、運転の開始時または停止時における単位時間当たりの能力の変化量の差が低減される。したがって、大口径の膨張弁を有する室内機の単位時間当たりの能力の変化量が、小口径の膨張弁を有する室内機の単位時間当たりの能力の変化量に近づくため、使用者にとって、より違和感の少ない停止室内機ローテーション制御が可能となり、使用者が空気調和装置1の異常と誤認することをさらに防止できる。
【0067】
また、空気調和装置1において、室内機制御部400a~400tは、室内機5a~5tの膨張弁の制御に伴う冷媒流量の平均変化速度に基づき、上記膨張弁ごとの励磁速度を決定してもよい。例えば、空気調和装置1は、膨張弁の励磁速度を決定する際に、室内機5a~5tを停止する時の膨張弁の開度の変化に伴う冷媒流量の平均変化速度が、各室内機5a~5t間で同一となるように、膨張弁ごとの励磁速度を決定する。ここで、例えば、冷媒流量の平均変化速度をA(L/s2)、膨張弁が全開である時の単位時間あたりの冷媒流量をG(L/s)、膨張弁の励磁速度をV(pps)、膨張弁が全開である時のパルス数をP(p)とした時、A=G×V/Pとすることができる。
【0068】
例えば、室内機を停止する際に、各室内機5a~5tの能力の差を考慮することなく、膨張弁52a~52tごとの励磁速度を決定すると、単位時間当たりの能力の変化量にばらつきが生じてしまう。そこで、空気調和装置1は、上述したように、冷媒流量の平均変化速度が、各室内機5a~5t間で同一となるように、膨張弁52a~52tごとの励磁速度を決定する。これにより、各室内機5a~5t間で、運転の開始時または停止時における単位時間当たりの能力の変化量の差が低減され、膨張弁の口径によらず単位時間当たりの能力の変化量が同等となる。したがって、使用者にとって、より違和感の少ない停止室内機ローテーション制御が可能となり、使用者が空気調和装置1の異常と誤認することをさらに防止できる。
【0069】
更に、空気調和装置1において、室内機制御部400a~400tは、膨張弁を上記閉弁速度により閉弁させる際に、上記膨張弁を有する室内機のファンの回転数を段階的に低下させてもよい。例えば、空気調和装置1は、室内機を停止する際に、膨張弁52a~52tの閉弁を開始するのと同時に室内ファン55a~55tの回転数を下げ始め、膨張弁52a~52tの閉弁が完了すると同時に室内ファン55a~55tを完全に停止させる。これにより、使用者の周囲の空気の流動する量が徐々に低下するため、室内ファン55a~55tを即座に停止する場合に比べ、使用者の周囲の温度の変化を更に緩やかにすることができる。その結果、使用者の違和感を更に軽減することが可能となり、使用者が空気調和装置1の異常と誤認することをさらに防止できる。
【0070】
以上、冷媒充填量が制限された空気調和装置を例として、室内機5a~5tにおける停止室内機ローテーション制御の一例について説明したが、本発明はこれに限らない。例えば、ピーク消費電力量を低減するためのデマンド制御として、停止室内機ローテーション制御を行うものであってもよい。
【0071】
<空気調和装置の膨張弁制御フロー>
図3は、本発明の一実施形態における、膨張弁制御の処理のフローを示すフローチャートである。
【0072】
まずS1では、各室内機制御部400a~400tのCPU410a~410tは、各室内機5a~5tへの制御指示の有無を判定する。ここで、制御指示とは各室内機5a~5tの運転と停止を切り替える指示である。また、制御指示は、室外機制御部200のCPU210からの通信部230を介して送られる場合や、使用者のリモコン操作により図示しない受光部を介して送られる場合などがある。該判定の結果、制御指示がある場合(S1;Yes)には、次のS2へ進み、制御指示がない場合(S1;No)には、上記制御指示を待機する。
【0073】
S2では、CPU410a~410tは、上記制御指示の内容を判定する。具体的には、CPU410a~410tは、上記制御指示が、室内機5a~5tに対する停止の指示か否かを判定する。該判定の結果、上記制御指示が停止の指示である場合(S2;Yes)には、CPU410a~410tは、上記制御指示が、室外機制御部200のCPU210で決定される停止室内機ローテーション制御によるものか、停止室内機ローテーション制御以外によるもの(例えば、使用者によるリモコン操作)かを、判定する(S3)。なお、S2において、上記制御指示が停止の指示でない場合(S2;No)には、後述するS6に進む。
【0074】
上記S3の判定の結果、上記制御指示が停止室内機ローテーション制御によるものである場合(S3;Yes)には、CPU410a~410tは、対応する室内機5a~5tの膨張弁52a~52tの閉弁速度を遅く、すなわち低い値に設定する(S4)。このとき、設定される閉弁速度は、停止室内機ローテーション制御以外の場合と比較して低い値であればよいが、例えば、膨張弁52a~52tの口径、あるいは、冷媒流量の平均変化速度を基に、決定されるものとしてもよい。
【0075】
S5では、CPU410a~410tは、S4で低く設定された閉弁速度により、対応する室内機5a~5tの膨張弁52a~52tの閉弁(所定の停止開度に設定)を開始させる。一方、上記S3における判定の結果、上記制御指示が停止室内機ローテーション制御によるものでない場合(S3;No)には、CPU410a~410tは、閉弁速度を低下させることなく、通常の速度で、膨張弁52a~52tの閉弁を開始させる。
【0076】
以上、室内機5a~5tを停止する場合について説明したが、運転を開始する場合についても同様の制御処理が実行される。図3のステップS6~S9の各処理は、上述したステップS2~S5の各処理にそれぞれ対応する。
【0077】
S6では、CPU410a~410tは、上記制御指示の内容を判定する。具体的には、CPU410a~410tは、上記制御指示が、室内機5a~5tに対する運転の開始の指示か否かを判定する。該判定の結果、上記制御指示が運転の開始の指示である場合(S6;Yes)には、CPU410a~410tは、上記制御指示が、停止室内機ローテーション制御によるものか、停止室内機ローテーション制御以外によるもの(例えば、使用者によるリモコン操作)かを、判定する(S7)。なお、S6において、上記制御指示が運転の開始の指示でない場合(S6;No)には、S1に戻る。
【0078】
上記S7の判定の結果、上記制御指示が停止室内機ローテーション制御によるものである場合(S7;Yes)には、CPU410a~410tは、対応する室内機5a~5tの膨張弁52a~52tの開弁速度を遅く、すなわち低い値に設定する(S8)。このとき、設定される開弁速度は、停止室内機ローテーション制御以外の場合と比較して低い値であればよいが、例えば、膨張弁52a~52tの口径、あるいは、冷媒流量の平均変化速度を基に、決定されるものとしてもよい。
【0079】
S9では、CPU410a~410tは、S8で低い値に設定された開弁速度により、対応する室内機5a~5tの膨張弁52a~52tの開弁(所定の運転初期開度に設定)を開始させる。一方、上記S7における判定の結果、上記制御指示が停止室内機ローテーション制御によるものでない場合(S7;No)には、CPU410a~410tは、開弁速度を低下させることなく、通常の速度で、膨張弁52a~52tの開弁を開始させる。
【0080】
以上説明したように、本実施形態の空気調和装置1は、室内機の運転と停止とを、停止室内機ローテーション制御によって切り替える場合に、膨張弁の開度の変化速度を、停止室内機ローテーション制御以外によって上記室内機の運転と停止とを切り替える場合の膨張弁の開度の変化速度よりも遅くする。こうすることで、当該室内機を流れる冷媒の流量の変化が遅くなるため、室内機の能力の変化が遅くなる。これにより、使用者の周囲の温度が、使用者にとって快適な温度と不快な温度との間で急激に変動することを防止できる。したがって、使用者が違和感を覚え、空気調和装置1の異常と誤認することを防止できる。
【0081】
また、空気調和装置1において、室内機制御部400a~400tは、停止室内機ローテーション制御によって上記室内機を停止する場合には、上記膨張弁の閉弁速度を、停止室内機ローテーション制御以外によって上記室内機を停止する場合の上記膨張弁の閉弁速度よりも遅くしてもよい。これに対し、停止室内機ローテーション制御によって上記室内機の運転を開始する場合には、室内機制御部400a~400tは、上記膨張弁の開弁速度を、停止室内機ローテーション制御以外によって上記室内機の運転を開始する場合の上記膨張弁の開弁速度よりも遅くしてもよい。これにより、使用者の居室空間の温度が設定温度に達していないにも関わらず、室内機が停止したこと、および、停止していたことを、使用者が認識しにくくなる。したがって、使用者が違和感を覚え、空気調和装置1の異常と誤認することをさらに防止できる。
【0082】
また、空気調和装置1において、室内機制御部400a~400tは、室内機5a~5tの膨張弁の口径に応じて、上記膨張弁の励磁速度を変えてもよい。これにより、各室内機5a~5t間で、運転の開始時または停止時における単位時間当たりの能力の変化量の差が低減され、大口径の膨張弁を有する室内機の単位時間当たりの能力の変化量が、小口径の膨張弁を有する室内機の単位時間当たりの能力の変化量に近づくため、使用者にとって、より違和感の少ない停止室内機ローテーション制御が可能となり、使用者が空気調和装置1の異常と誤認することをさらに防止できる。
【0083】
また、空気調和装置1において、室内機制御部400a~400tは、室内機5a~5tの膨張弁の制御に伴う冷媒流量の平均変化速度に基づき、上記膨張弁ごとの励磁速度を決定してもよい。これにより、各室内機5a~5t間で、運転の開始時または停止時における単位時間当たりの能力の変化量の差が低減され、膨張弁の口径によらず単位時間当たりの能力の変化量が同等となるため、使用者にとって、より違和感の少ない停止室内機ローテーション制御が可能となり、使用者が空気調和装置1の異常と誤認することをさらに防止できる。
【0084】
更に、空気調和装置1において、室内機制御部400a~400tは、膨張弁を上記閉弁速度により閉弁させる際に、上記膨張弁を有する室内機のファンの回転数を段階的に低下させてもよい。こうすることで、使用者の周囲の空気の流動する量が徐々に低下するため、室内ファン55a~55tを即座に停止する場合に比べ、使用者の周囲の温度の変化を更に緩やかにすることができる。その結果、使用者の違和感を更に軽減することが可能となり、使用者が空気調和装置1の異常と誤認することをさらに防止できる。
【符号の説明】
【0085】
1 空気調和装置
2 室外機
5a~5t 室内機
8 液管
9 ガス管
10 電気配線
63a~63t 吸込温度センサ
100 冷媒回路
200 室外機制御部
210 CPU
220 記憶部
230 通信部
300 部屋
310 窓
320 出入口
400a~400t 室内機制御部
410a~410t CPU
430a~430t 通信部
440a~440t センサ入力部
図1
図2
図3