(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】廃棄物焼却装置及び廃棄物焼却方法
(51)【国際特許分類】
F23G 5/50 20060101AFI20231114BHJP
【FI】
F23G5/50 C
F23G5/50 G ZAB
F23G5/50 Q
F23G5/50 L
(21)【出願番号】P 2020040541
(22)【出願日】2020-03-10
【審査請求日】2022-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】薄木 太一
(72)【発明者】
【氏名】中山 剛
(72)【発明者】
【氏名】狩野 真也
(72)【発明者】
【氏名】田口 昇
【審査官】大谷 光司
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-211136(JP,A)
【文献】特開2018-155411(JP,A)
【文献】特開2017-187228(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23G 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄物焼却炉の燃焼室の天井もしくは側壁に、離間して配設された少なくとも2つの赤外線カメラを備えたステレオカメラ装置と、
前記ステレオカメラ装置により撮像された廃棄物層の熱画像から得られる廃棄物層表面での輝度値にもとづいて廃棄物層の層表面の形状を検出する層表面検出手段と、
前記層表面検出手段により検出された層表面の形状から廃棄物層の層高さを求め、前記層高さにもとづいて廃棄物の燃え切り点位置を決定する燃え切り点位置決定手段と、
前記燃え切り点位置決定手段により決定された前記燃え切り点位置にもとづいて前記廃棄物焼却炉の操作端における操作量を制御する制御装置と、を備え、
前記燃え切り点位置決定手段は、廃棄物の燃焼室内での移動方向において層高さが所定の閾値となる位置を特定位置として検出し、前記移動方向の最上流側にある前記特定位置を前記燃え切り点位置と決定する
廃棄物焼却装置。
【請求項2】
前記層表面検出手段により検出された、火格子よりも上方に位置する受床上に堆積した廃棄物層の層表面の形状にもとづいて、前記受床と前記火格子との間の段差を形成する落下壁より上方で前記落下壁より下流側にせり出した廃棄物のせり出し量を決定する廃棄物せり出し量決定手段を、さらに備え、
前記制御装置は、前記燃え切り点位置と、前記廃棄物のせり出し量と、にもとづいて操作端の操作量を制御する
請求項1に記載の廃棄物焼却装置。
【請求項3】
さらに、前記層表面検出手段で検出された層表面の形状から、廃棄物の移動方向、前記移動方向に対して直角な炉幅方向の両方向での任意位置における廃棄物層の層高さを求め、前記層高さを前記移動方向および前記炉幅方向の両方向で積分して廃棄物体積を決定する廃棄物体積決定手段を備え、
前記制御装置は、前記燃え切り点位置と、前記廃棄物体積と、にもとづいて操作端の操作量を制御する
請求項1に記載の廃棄物焼却装置。
【請求項4】
さらに、前記廃棄物焼却炉へ投入される廃棄物の嵩密度を決定する廃棄物嵩密度決定手段を備え、
前記制御装置は、前記燃え切り点位置と、前記廃棄物体積と、前記廃棄物の嵩密度と、にもとづいて操作端の操作量を制御する
請求項
3に記載の廃棄物焼却装置。
【請求項5】
さらに、前記廃棄物体積および廃棄物についての既知の性状から廃棄物熱量を算出する廃棄物熱量算出手段を備え、
前記制御装置は、前記燃え切り点位置と、
前記廃棄物体積と、前記廃棄物熱量と、にもとづいて操作端の操作量を制御する
請求項
3に記載の廃棄物焼却装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記燃え切り点位置より下流側の廃棄物の総体積に応じて、前記下流側の廃棄物の位置に供給される燃焼用空気の配分量を増減させる
請求項3~5のいずれか1項に記載の廃棄物焼却装置。
【請求項7】
前記廃棄物焼却炉の操作端における操作量は、廃棄物を移動させる火格子速度、燃焼室への廃棄物の単位時間当りの供給量、燃焼室への燃焼用空気供給量、燃焼用空気の温度、前記火格子の下方への燃焼用空気の量について前記廃棄物の移動方向での位置における配分量のうちの少なくとも1つである
請求項1
~5の
いずれか1項に記載の廃棄物焼却装置。
【請求項8】
廃棄物焼却炉の燃焼室の天井もしくは側壁に離間して配設された少なくとも2つの赤外線カメラを備えたステレオカメラ装置により撮像された廃棄物層の熱画像から得られる廃棄物層表面での輝度値にもとづいて廃棄物層の層表面の形状を検出し、検出された層表面の形状から廃棄物層の層高さを求め、前記層高さにもとづいて廃棄物の燃え切り点位置を決定し、決定された燃え切り点位置にもとづいて
前記廃棄物焼却炉の操作端における操作量を制御し、燃え切り点位置の決定は、廃棄物の燃焼室内での移動方向において層高さが所定の閾値となる位置を特定位置として検出し、前記移動方向の最上流側にある前記特定位置を前記燃え切り点位置と定めることにより行われる
廃棄物焼却方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は廃棄物焼却装置及び廃棄物焼却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
火格子式廃棄物焼却炉において、火格子上での廃棄物の燃焼状態を安定した状態に保つためには、廃棄物の燃焼状態を把握することが重要であり、火格子上の廃棄物の移動方向先方(下流側)に赤外線カメラを設置し、火格子上の廃棄物についての熱画像情報から燃焼状態を得ることで、廃棄物焼却炉の操作端を制御することが、例えば、特許文献1にて知られている。
【0003】
特許文献1では、単一の赤外線カメラで、火格子上の廃棄物についての熱画像情報を炎越しに得ている。この単一の赤外線カメラによる撮像は、廃棄物の移動方向先方位置から行われており、この移動方向での撮像対象位置の特定が困難であり熱画像は二次元表現にとどまるので、廃棄物の上記移動方向での燃え切り点位置を含む燃焼状態を三次元で把握することができなかった。したがって、廃棄物の量と供給している燃焼空気のバランスを最適に制御することができず、燃焼が不安定(温度・組成変動大、蒸発量変動大、CO増加、NOx増加など)になる懸念があった。
【0004】
そこで、特許文献2では、火格子式焼却炉(ストーカ炉)の火格子上の廃棄物の移動方向先方位置にて、火炎の波長を除去する光学フィルターを有したカメラを上記移動方向に対し直角な炉幅方向で離間した二位置に配することとしたステレオカメラを設置し、廃棄物(被燃焼物)または灰を撮像して撮像データの輝度値にもとづいて燃え切り点位置を導出し、廃棄物の供給量や移送量を調整する方式が提案されている。
【0005】
特許文献2では、上記撮像データの輝度値にもとづき、最大輝度値の所定範囲(例えば最大輝度値の9割以上の輝度値の範囲)以上を燃焼領域としてとらえ、廃棄物の移動方向での所定範囲以上と所定範囲以下との境界位置を燃え切り点位置と判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6429039号
【文献】特開2018-155411
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、このような判定を行う特許文献2では、廃棄物の一部に燃え残りが発生した場合、この燃え残りの輝度値に反応して燃え切り点位置を誤判定する懸念がある。例えば、燃焼領域よりも移動方向先方(下流側)にて炉幅方向での一部の範囲に燃え残りが存在していて、この燃え残りの部分の輝度値が上述の最大輝度値の所定範囲内にある場合、燃え残りが存在している上記移動方向での位置を燃え切り点の位置であると判定してしまう可能性がある。
【0008】
このように、特許文献2では、燃え残りが存在する場合は、その燃え残りの位置を燃え切り点位置として判定してしまうが、燃焼制御上においてはこの位置を燃え切り点位置と判定するのは適切ではなく、炉幅方向における大部分の廃棄物の燃焼領域が終了する位置を燃え切り点位置と判定することが望ましい。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、廃棄物層の正確な燃え切り点位置を決定して、操作端の操作量を適切に制御できる廃棄物焼却装置および廃棄物焼却方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題は、本発明の次の廃棄物焼却装置および廃棄物焼却方法により解決される。
【0011】
<廃棄焼却装置>
廃棄物焼却炉の燃焼室の天井もしくは側壁に、離間して配設された少なくとも2つの赤外線カメラを備えたステレオカメラ装置と、前記ステレオカメラ装置により撮像された廃棄物層の熱画像から得られる廃棄物層表面での輝度値にもとづいて廃棄物層の層表面の形状を検出する層表面検出手段と、前記層表面検出手段により検出された層表面の形状から廃棄物層の層高さを求め、前記層高さにもとづいて廃棄物の燃え切り点位置を決定する燃え切り点位置決定手段と、前記燃え切り点位置決定手段により決定された前記燃え切り点位置にもとづいて前記廃棄物焼却炉の操作端における操作量を制御する制御装置と、を備え、前記燃え切り点位置決定手段は、廃棄物の燃焼室内での移動方向において層高さが所定の閾値となる位置を特定位置として検出し、前記移動方向の最上流側にある前記特定位置を前記燃え切り点位置と決定する廃棄物焼却装置。
【0012】
本発明において、さらに、前記層表面検出手段で検出された層表面の形状から、廃棄物の移動方向、前記移動方向に対して直角な炉幅方向の両方向での任意位置における廃棄物層の層高さを求め、前記層高さを前記移動方向および前記炉幅方向の両方向で積分して廃棄物体積を決定する廃棄物体積決定手段を備え、前記制御装置は、前記燃え切り点位置と、前記廃棄物体積と、にもとづいて操作端の操作量を制御することができる。
【0013】
本発明において、さらに、前記廃棄物焼却炉へ投入される廃棄物の嵩密度を決定する廃棄物嵩密度決定手段を備え、前記制御装置は、前記燃え切り点位置と、前記廃棄物体積と、前記廃棄物の嵩密度と、にもとづいて操作端の操作量を制御することができる。
【0014】
本発明において、さらに、前記層表面検出手段により検出された、火格子よりも上方に位置する受床上に堆積した廃棄物の層表面の形状にもとづいて、前記受床と前記火格子との間の段差を形成する落下壁より上方で前記落下壁より下流側にせり出した廃棄物のせり出し量を決定する廃棄物せり出し量決定手段を備え、前記制御装置は、前記燃え切り点位置と、前記廃棄物のせり出し量と、にもとづいて操作端の操作量を制御することができる。
【0015】
本発明において、さらに、前記廃棄物体積および廃棄物についての既知の性状から廃棄物熱量を算出する廃棄物熱量算出手段を備え、前記制御装置は、前記燃え切り点位置と、前記廃棄物熱量と、にもとづいて操作端の操作量を制御することができる。
【0016】
本発明において、前記廃棄物焼却炉の操作端における操作量は、廃棄物を移動させる火格子速度、燃焼室への廃棄物の単位時間当りの供給量、燃焼室への燃焼用空気供給量、燃焼用空気の温度、前記火格子の下方への燃焼用空気の量について前記廃棄物の移動方向での位置における配分量のうちの少なくとも1つであることができる。
【0017】
本発明において、前記制御装置は、前記燃え切り点位置より下流側の廃棄物の総体積に応じて、前記下流側の廃棄物の位置に供給される燃焼用空気の配分量を増減させることができる。
【0018】
<廃棄物焼却方法>
廃棄物焼却炉の燃焼室の天井もしくは側壁に離間して配設された少なくとも2つの赤外線カメラを備えたステレオカメラ装置により撮像された廃棄物層の熱画像から得られる廃棄物層表面での輝度値にもとづいて廃棄物層の層表面の形状を検出し、検出された層表面の形状から廃棄物層の層高さを求め、前記層高さにもとづいて廃棄物の燃え切り点位置を決定し、決定された燃え切り点位置にもとづいて廃棄物焼却炉の操作端における操作量を制御し、燃え切り点位置の決定は、廃棄物の燃焼室内での移動方向において層高さが所定の閾値となる位置を特定位置として検出し、前記移動方向の最上流側にある前記特定位置を前記燃え切り点位置と定めることにより行われる廃棄物焼却方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、廃棄物層の正確な燃え切り点位置を決定して、操作端の操作量を適切に制御できる廃棄物焼却装置および廃棄物焼却方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態としての廃棄物焼却炉の概要構成図である。
【
図2】
図1の廃棄物焼却炉の要部を示す図で、(A)は縦断面図であり、(B)は平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を添付図面にもとづき説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶものである。
【0022】
まずは、本発明の一実施形態の火格子式廃棄物焼却炉の基本構成、そして作用について説明する。
【0023】
図1は本発明の一実施形態に係る火格子式廃棄物焼却炉の概要構成を示している。この実施形態において、燃焼室内での廃棄物の移動方向(
図1にて左右に延びる炉長方向)における燃焼室の上流側(
図1にて左側)を前方、下流側を後方とする。
【0024】
本実施形態に係る火格子式廃棄物焼却炉1(以下、「焼却炉1」という)は、
図1に見られるように、燃焼室2と、この燃焼室2での廃棄物の移動方向における上流側(
図1の左側)の上方に配置され、廃棄物を燃焼室2内に投入するためのシュート4と、シュート4の上端に開口形成された廃棄物投入口3と、燃焼室2の廃棄物の移動方向の下流側(
図1の右側)の上方に連設される廃熱ボイラ(図示せず)とを備えている。シュート4の下端に位置する受床4aには、受床4a上の廃棄物を燃焼室2に向け下流側へ押し出す給塵機5(例えばプッシャ)が設けられている。受床4aは燃焼室2内の後述する火格子6よりも上方に位置している。また、受床4aと火格子6との間には落下壁19が垂立しており、この落下壁19によって段差が形成されている。そして、落下壁19から火格子6に向かって廃棄物Wが落下すると、火格子6上に廃棄物Wの層が形成される。
【0025】
燃焼室2の底部には、
図1に見られるように、廃棄物を移動させながら燃焼させる火格子(ストーカ)6が設けられている。この火格子6は、廃棄物投入口3に近い方から、すなわち、上流側から乾燥火格子6a、燃焼火格子6b、後燃焼火格子6cの順に設けられていて、乾燥火格子6aの上と燃焼火格子6bの上に廃棄物Wの層が形成されている。これらの火格子6a~6cは、駆動機構(図示せず)により連動して廃棄物を下流側へ搬送するようになっている。
【0026】
乾燥火格子6aでは主として廃棄物の乾燥と着火が行われる。燃焼火格子6bでは主として廃棄物の熱分解、部分酸化が行われ、熱分解により発生した可燃性ガスと固形分の燃焼が行われ、可燃性ガスが燃焼する際に火炎を形成する。以下、火格子上で廃棄物が火炎をともなって燃焼している領域を「燃焼領域」という。後燃焼火格子6c上では、残った廃棄物中の固形分の未燃分を完全に燃焼させる。廃棄物中の固形分が燃焼する際には火炎は発生せず熾燃焼する。完全に燃焼した後の燃焼灰は、灰排出口7より排出される。
【0027】
燃焼室2内の乾燥火格子6a、燃焼火格子6b及び後燃焼火格子6cの下部には、それぞれ風箱8a,8b,8cから成る風箱8が設けられている。後述の燃焼用一次空気吹込手段に設けられたブロワ9により供給される燃焼用一次空気Pは、燃焼用一次空気供給管10を通って各風箱8a,8b,8cに供給され、各火格子6a,6b,6cを通って燃焼室2内に供給される。なお、火格子6の下方から供給される燃焼用一次空気Pは、火格子6a,6b,6c上の廃棄物の乾燥及び燃焼に使われるほか、火格子6a,6b,6cの冷却作用、廃棄物の攪拌作用を有する。燃焼用一次空気供給管10には、燃焼用一次空気Pを加熱する加熱装置11と、燃焼用一次空気Pの供給量を調整するための複数のダンパが設けられている。具体的には、燃焼用一次空気供給管10は、
図1に示されるように、風箱8a,8b,8cのそれぞれに対応する位置で3つの分岐供給管10a,10b,10cに分岐しており、ダンパは、分岐供給管10a,10b,10cよりも上流側における燃焼用一次空気供給管10に大元のダンパ12cとして、また、分岐供給管10a,10bにそれぞれ個別のダンパ12a,12bとして設けられている。ダンパ12a,12b,12cはそれぞれ独立して開度の調整が可能となっている。
【0028】
燃焼室2の下流側における出口には廃熱ボイラ(図示せず)が連設され、廃熱ボイラの入口近傍が燃焼室2から排出されるガス中の可燃性ガスの未燃分(未燃ガス)を燃焼する二次燃焼室20となっている。廃熱ボイラの一部である二次燃焼室20内で二次燃焼用ガスが吹き込まれ、未燃ガスが二次燃焼し、この二次燃焼の後に燃焼排ガスは廃熱ボイラで熱回収され、その結果、蒸気が発生する。この蒸気は発電機での発電に用いられる。熱回収された後、廃熱ボイラから排出された燃焼排ガスは、図示しない排ガス処理装置系で消石灰等による酸性ガスの除去が行われ、さらに図示しない除塵装置に送られ、反応生成物、ダストなどが回収される。除塵装置で除塵され、無害化された後の燃焼排ガスは、図示しない誘引ファンにより誘引され、煙突から大気中に放出される。
【0029】
このような基本構成である焼却炉1は、本実施形態では、廃棄物の燃焼を安定させるための焼却炉1の操作条件の制御対象である操作端として、廃棄物投入口3から投入された廃棄物を火格子6へ送り出す給塵機5、燃焼室2内で廃棄物を下流側へ送る火格子6、火格子6の下方から燃焼用一次空気Pを炉内へ供給する燃焼用一次空気吹込手段(具体的には後述の加熱装置11およびダンパ12a~12c等)を備える。焼却炉1には、これらの操作端を制御するのに必要な情報の取得のために、上流側での受床4a上の廃棄物及び火格子6上の廃棄物を撮像するステレオカメラ装置13が設けられている。ステレオカメラ装置13には、後述の層表面検出手段14、燃え切り点位置決定手段15及び廃棄物体積決定手段16が接続されている。さらに、廃棄物体積決定手段16には、焼却炉1の操作端における操業条件を制御する制御装置17が接続されている。本実施形態では、焼却炉1、ステレオカメラ装置13、層表面検出手段14、燃え切り点位置決定手段15、廃棄物体積決定手段16及び制御装置17によって、廃棄物焼却装置が構成されている。
【0030】
本実施形態では、焼却炉1は、既述したように燃焼用一次空気Pを吹き込む燃焼用一次空気吹込手段を操作端の1つとして備えている。燃焼用一次空気吹込手段は、燃焼用一次空気供給管10と、燃焼用一次空気供給管10にそれぞれ設けられたブロワ9、加熱装置11、ダンパ12a~12cとを有している。燃焼用一次空気吹込手段は、空気供給源(図示せず)からの燃焼用一次空気Pを、燃焼用一次空気供給管10を経て、乾燥火格子6a、燃焼火格子6b及び後燃焼火格子6cのそれぞれの風箱8a,8b,8cに分岐供給管10a,10b,10cから送り込むようになっている。
【0031】
燃焼室2内に供給される燃焼用一次空気Pの供給量は総量をダンパ12cで調整し、乾燥火格子6a、燃焼火格子6b、後燃焼火格子6cへの分配量の調整はダンパ12a,12bの開度により調整される。燃焼用一次空気Pの温度は、加熱装置11における、ボイラで発生させた蒸気との熱交換条件の制御により調整される。なお、風箱8a,8b,8c及び燃焼用一次空気Pを供給するための燃焼用一次空気供給管10等の構成は図示したものに限定されず、焼却炉の規模、形状、用途等により適宜選択され得る。
【0032】
燃焼室2の下流側の側壁2aには、
図2(B)に見られるように、ステレオカメラ装置13が配設されている。ステレオカメラ装置13は、本実施形態では、炉幅方向(
図1,
図2(A)は紙面に直角な方向)で離間した位置に配された赤外線カメラ13a,13bを有している。ステレオカメラ装置13は、燃焼室2の側壁2aに設けられた監視窓に近接して炉外に配設されてもよいし、水冷構造を有して炉内に配設されてもよい。ステレオカメラ装置13の各赤外線カメラ13a,13bは、炉の上下方向そして炉幅方向(紙面に対して直角方向)に拡がる撮像視野を有している。各赤外線カメラ13a,13bは、その撮像視野の範囲が受床4a上と火格子6上の廃棄物を含むように設定されており、この廃棄物を撮像することによりサーモグラフィ情報を熱画像情報として取得する。なお、廃棄物から放射される赤外線の波長は、空間における高温ガスそして火炎から放射される赤外線の波長とは異なるので、赤外線カメラ13a,13bでは、測定する赤外線波長を適切に選定することにより、撮像視野内に火炎が存在していても廃棄物のみについての熱画像情報を得ることができる。
【0033】
次に、ステレオカメラ装置13の赤外線カメラ13a,13bについて、その配置を示す
図2(A),(B)にもとづき、詳述する。
図2(A),(B)において、方向を明確にするために、立体座標軸x,y,zが設定してあり、炉幅方向をx、火格子6上の廃棄物の移動方向をy(下流向きを正)、高さ方向をz(上向きを正)としている。
【0034】
赤外線カメラ13a,13bは、炉幅方向xで距離d(
図2(B)参照)だけ離間した二位置で、燃焼室2の側壁2aに設けられている。赤外線カメラ13a,13bは、いずれも、高さ方向で角度α(
図2(A)参照)の撮像視野、炉幅方向で角度β(
図2(B)参照)の撮像視野をもっている。2つの赤外線カメラ13a,13bは、距離dだけ離間して位置しているので、両赤外線カメラ13a,13bをステレオカメラとして用いて、廃棄物Wの層の表面上の任意の特定位置M(
図2(B)参照)を、炉幅方向x、移動方向y、高さ方向zの3方向で特定できる。本実施形態では、移動方向yでの各位置について、二次元の熱画像、すなわち炉幅方向xおよび上下方向zの2方向の成分をもつ熱画像が得られる。なお、本実施形態では、ステレオカメラ装置13は2つの赤外線カメラを有しているが、赤外線カメラの数はこれに限られず3つ以上であってもよい。
【0035】
層表面検出手段14は、赤外線カメラ13a,13bにより撮像された廃棄物層の熱画像から、廃棄物層表面での輝度値を検出し、さらに、検出した輝度値にもとづいて廃棄物層の層表面の形状を検出する。燃え切り点位置決定手段15は、層表面検出手段14により検出された廃棄物層表面の形状から廃棄物層の層高さを求める。通常、廃棄物層の層表面の形状は、移動方向yにおいてのみならず、炉幅方向xにおいても一定でない。本実施形態では、燃え切り点位置決定手段15は、移動方向yの任意位置における炉幅方向xでの層高さの平均値を、その任意位置での層高さとして求める。
【0036】
次に、燃え切り点位置決定手段15は、層高さにもとづいて廃棄物の燃え切り点位置を決定する。通常、燃焼室2内の廃棄物層は、乾燥火格子6a、燃焼火格子6b、後燃焼火格子6cを経て、すなわち上流側から下流側へ向けて、徐々に体積が減少していく。したがって、廃棄物の燃焼が完了したと考えられる所定の厚み(層高さ)を予め設定しておくことにより、火格子6上の廃棄物層の形状から燃え切り点を推定することが可能となる。本実施形態では、燃焼が完了したと考えられる廃棄物の層高さが所定の閾値として設定されており、燃え切り点位置決定手段15は、廃棄物の燃焼室2内での移動方向yにおいて層高さが所定の閾値と等しい位置を特定位置(
図2(A),(B)では「y
1」で示されている)として検出し、移動方向yの最上流側にある特定位置を燃え切り点位置と決定する。したがって、所定の閾値と等しい特定位置が移動方向yで複数存在する場合には、そのうちの最上流側の特定位置が燃え切り点位置と決定され、その燃え切り点位置よりも下流側に位置する廃棄物は燃え残りとして扱われる。
【0037】
廃棄物体積決定手段16は、層表面検出手段14で検出された層表面の形状から、移動方向y、炉幅方向xでの任意位置における、高さ方向zでの位置、換言すると廃棄物層の層高さ(
図2(A)では「h」で示されている)を求める。次に、廃棄物体積決定手段16は、この廃棄物層表面高さを移動方向yでの燃焼領域の範囲(
図2(A)では「k」で示されている)および炉幅方向xでの全範囲(
図2(B)では「x
0」で示されている)にわたって積分して実質的な廃棄物体積を算出(決定)する。ここで、距離kは、火格子6の上流端(受床4aの下流端)から燃え切り点位置(移動方向yでの位置y
1)までの距離である。また、廃棄物体積決定手段16による廃棄物体積の算出方法は上述のような積分に限られず、例えば、燃焼領域における廃棄物層の層高さの平均値(
図2(A)では「h
m」で示されている)を求め、これに、炉幅方向xでの全範囲における距離x
0および移動方向yの距離kを乗じることにより、実質的な廃棄物体積を算出してもよい。
【0038】
制御装置17は、燃え切り点位置決定手段15により決定された燃え切り点位置と、廃棄物体積決定手段16により決定された廃棄物体積とにもとづいて、焼却炉1の操作端における操作量を制御する。
【0039】
本実施形態では、制御装置17に操作量を制御される操作端は、既述したように、火格子6、給塵機5、加熱装置11、ダンパ12a~12cである。また、火格子6に関する操作量は火格子の往復動の速度(火格子速度)、ひいては火格子6上の廃棄物の下流側へ向けた移動量である。給塵機5に関する操作量は、給塵機5の往復動の速度および移動量、ひいては燃焼室2への廃棄物の単位時間当りの供給量である。加熱装置11に関する操作量は、燃焼用一次空気の温度、ひいては加熱装置11における燃焼用一次空気とボイラで発生させた蒸気との熱交換条件である。ダンパ12a~12cに関する操作量は、各ダンパ12a,12b,12cの開度、ひいては燃焼室2への燃焼用一次空気の供給量および火格子6a,6bへ吹き込まれる燃焼用一次空気の配分量である。
【0040】
制御装置17は、燃え切り点位置決定手段15により決定された燃え切り点位置と、廃棄物体積決定手段16により決定された火格子6上の廃棄物の体積および廃棄物層の形状にもとづいて、各操作端の操作量を制御する。具体的には、制御装置17は、火格子6上の廃棄物の体積が増加した場合には、燃焼室2への廃棄物の供給量を減少させるべく、給塵機5や火格子6の速度を減速させたり、給塵機5の往復動の移動量を減少させたり、廃棄物の燃焼を促進すべく、ダンパ12cの開度を大きくして燃焼用一次空気の供給量を増加させたり、加熱装置11を通過する蒸気量を増加させて燃焼用一次空気の温度を昇温させたりする。一方、制御装置17は、火格子6上の廃棄物の体積が減少した場合には、給塵機5や火格子6の速度を増速させたり、給塵機5の往復動の移動量を増加させたり、ダンパ12cの開度を小さくしたり、燃焼用一次空気の温度を降温させたりする。
【0041】
また、燃え切り点位置が所定の基準位置よりも上流側に遷移した場合、全体的に廃棄物の量が少なくなっていることが推測されるため、制御装置17は、火格子6の速度(送り速度)を増速する操作を行う。火格子6の速度を増速させた場合、そのままでは廃棄物層の層高さが急に低くなってしまうため、給塵機5の速度(給塵速度)を増速させる制御を行う。また、燃え切り点位置が上流に遷移した場合、火格子6上の廃棄物はカロリー(熱量)が高く燃えやすい性状であることが推測されるため、火格子6の下方からの燃焼用空気の供給量(送風量)を全体的に低下させることが望ましい。また、廃棄物の過剰燃焼を防ぐため燃焼用空気の温度を低下させることも有効である。
【0042】
一方、燃え切り点位置が所定の基準位置よりも下流側に遷移した場合、制御装置17は、上流に遷移した場合とは逆の動作が行われるように操作端の操作量を制御する。また、燃え切り点位置が下流側へ極端に遷移している場合には、火格子6を大幅に減速もしくは停止し、未燃廃棄物の発生を防ぐことが有効である。このとき、火格子6が停止したまま給塵速度を調整しないでおくと、乾燥火格子6a上に大量の廃棄物が堆積してしまうため、給塵機5も減速もしくは停止させる必要がある。また、未燃廃棄物の発生を防ぐため、後燃焼火格子6cの下方からの燃焼用空気の供給量(送風量)のみを増加させる操作も有効である。
【0043】
また、本実施形態では、制御装置17は、廃棄物体積決定手段16から火格子6上の廃棄物層の形状についての情報を得ており、この情報にもとづいた廃棄物の移動方向yにおける廃棄物の分布に応じて、ダンパ12a,12bのそれぞれの開度を別個に独立して調整することにより、移動方向yでの位置における燃焼用一次空気の配分量を調整する。例えば、乾燥火格子6a上に大量の廃棄物が存在し、この乾燥火格子6a上における廃棄物層高さ、換言すると廃棄物体積が増加した場合には、ダンパ12a,12bのうち乾燥火格子6aに対応するダンパ12aの開度を大きくして燃焼用一次空気の供給量を増加させる、もしくは加熱装置11により燃焼用空気温度を昇温させることにより、乾燥火格子6a上での廃棄物の乾燥を促進することができる。
【0044】
また、廃棄物体積決定手段16が、燃え切り点位置より下流側の廃棄物、すなわち燃え残りに相当する廃棄物の総体積を求め、制御装置17が、その総体積に応じて、この燃え残りの廃棄物の位置に供給される燃焼用空気の配分量を増減させるようにダンパ12a,12bの開度を調整するようになっていてもよい。この結果、適切な燃焼用空気の空気量のもとで燃え残りの廃棄物の燃焼を促進することができる。また、変形例として、燃え残りの廃棄物の総体積が所定の閾値を超えていることを条件として、制御装置17が燃焼用空気の配分量を増加させるようになっていてもよい。
【0045】
既述した特許文献2では、火格子上の廃棄物層の輝度値の取得により廃棄物層高さを算出することについては言及されているものの、火格子上の廃棄物の体積を算出することについては言及されていない。また、仮に体積を算出しようとしても、既述の通り、特許文献2では、燃え切り点位置を正確に把握することが難しいので、正確な廃棄物の体積を算出できない。したがって、廃棄物層の燃焼状態を把握することができず、焼却炉における操作端の操作量を適切に制御できないおそれがある。これに対して、本実施形態では、廃棄物層の体積および形状にもとづいて操作端を制御することにより、より適切な燃焼制御を実現できる。
【0046】
本実施形態では、制御装置17は、燃え切り点位置と、火格子6上の廃棄物の体積および廃棄物層の形状にもとづいて、各操作端を制御することとしたが、さらに、焼却炉へ投入される廃棄物の嵩密度を決定する廃棄物嵩密度決定手段(図示せず)を設けて、制御装置17が燃え切り点位置と、火格子上の廃棄物層の体積および形状と、廃棄物の嵩密度とにもとづいて操作端の操作量を制御するようにしてもよい。この場合、廃棄物嵩密度決定手段は、例えば、廃棄物投入口3へ廃棄物を投入するためのバケット(図示せず)に設けられており、廃棄物の投入の際に、このバケット内の廃棄物の体積、重量を測定し、測定された体積および重量から嵩密度を決定(算出)する。このように廃棄物の嵩密度も考慮して操作端が制御されることにより、実情に即した、より適切な燃焼制御を実現できる。
【0047】
また、層表面検出手段14により検出された、受床4a上に堆積した廃棄物の層表面の形状にもとづいて、落下壁19より下流側にせり出した廃棄物のせり出し量(
図2(A)にて「δ」で示されている)を決定(算出)する廃棄物せり出し量決定手段(図示せず)を設けて、この廃棄物のせり出し量も考慮して操作端の操作量を制御するようにしてもよい。
【0048】
例えば、仮に廃棄物の性状が不均一である場合、受床4a上にて廃棄物が給塵機5の押出力により押し固められるだけで火格子上に供給されない場合がある。火格子上に廃棄物が供給されない状態(いわゆる「ゴミ枯れ」)が続くと、燃焼室内で燃焼する廃棄物の量が不足し、例えば排ガス温度低下、排ガス中のCO濃度上昇等を引き起こす原因となり、安定燃焼が阻害されるという問題がある。一方、上述の状態で給塵機5の運転を継続すると、ある時点で、押し固められた廃棄物が塊となって火格子上に一気に落下してしまい(いわゆる「ドカ落ち」)、その場合には、火格子上の廃棄物の量が急激に増加し、乾燥終了後に一気に廃棄物の燃焼が開始されるので、例えば排ガス温度上昇、排ガス中のCO濃度、NOx濃度上昇等を引き起こす原因となり、やはり安定燃焼が阻害されるという問題がある。
【0049】
廃棄物の移動方向yにおける落下壁19からの廃棄物のせり出し量が大きくなっている場合、その状態は、上述のゴミ枯れが生じていることを意味し、また、上述のドカ落ちが間もなく生じ得ることも意味している。したがって、廃棄物せり出し量決定手段によって落下壁19からの廃棄物のせり出し量を決定(算出)することにより、この決定されたせり出し量の大小(例えば、閾値として設定されたせり出し量に対する大小)から、ゴミ枯れが生じているかどうかを検知でき、さらには、ドカ落ちがいつ頃生じそうであるかを予測することができる。このように制御装置17がせり出し量にもとづいて操作端の操作量を制御することにより、ゴミ枯れおよびドカ落ちを考慮した適切な燃焼制御を行うことができる。特に、乾燥火格子4a上の廃棄物の量がゴミ枯れおよびドカ落ちの影響で大きく増減するので、例えば、乾燥火格子4aに対応するダンパ12aの開度を調整して、乾燥火格子4aに吹き込まれる燃焼用一次空気の供給量を調整することが有効である。
【0050】
また、廃棄物体積および廃棄物についての既知の性状から廃棄物の熱量を算出する廃棄物熱量算出手段(図示せず)を設けて、算出した廃棄物の熱量も考慮して操作端の操作量を制御するようにしてもよい。ここで、「廃棄物についての既知の性状」とは、例えば、廃棄物の水分率や嵩密度等が挙げられる。このように廃棄物の性状にもとづく熱量も考慮して操作端が制御されることにより、実情に即した、より適切な燃焼制御を実現できる。
【0051】
なお、一般に、廃棄物の熱量(カロリー)は、廃棄物に含まれる水分率と高い相関関係がある。低カロリーの廃棄物は水分率が高いので、燃焼室内の火格子上に供給されてから乾燥し燃焼するまでの時間が長くなる。そのため、ステレオカメラで撮像した画像において輝度値の変化が緩慢になる傾向がある。逆に、高カロリーの廃棄物は水分率が低いので、乾燥速度が早く、撮像された画像において輝度値がすぐに上昇する傾向がある。この傾向を利用すれば、ステレオカメラにより撮像された廃棄物層の熱画像から、廃棄物層表面の熱量を推定することができる。
【0052】
さらに、廃棄物がシュートに投入された際に検出される嵩密度も考慮することにより、廃棄物層の熱量推定の精度をさらに高めることができる。嵩密度は、高水分率の低カロリーの廃棄物では高くなり、低水分率の高カロリーの廃棄物では低くなる傾向があるため、シュート内で廃棄物が降下する時間差を考慮することで、既知の嵩密度とステレオカメラによる廃棄物層のカロリーとの対応関係を把握し、廃棄物層の熱量推定の際にこの対応関係も考慮することで、熱量推定の精度が向上する。
【符号の説明】
【0053】
1 廃棄物焼却炉
2 燃焼室
2a 側壁
13 ステレオカメラ装置
13a,13b 赤外線カメラ
14 層表面検出手段
15 燃え切り点位置決定手段
16 廃棄物体積決定手段
17 制御装置
x 炉幅方向
y (廃棄物の)移動方向
y1 燃え切り点位置