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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】駆動力伝達装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16D 27/115 20060101AFI20231114BHJP
【FI】
F16D27/115 A
F16D27/115 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020044395
(22)【出願日】2020-03-13
(65)【公開番号】P2021143749
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小久保 直之
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-129574(JP,A)
【文献】実開昭50-149766(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 27/02-27/118
F16D 27/14
F16H 48/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸方向に延びる複数の内周スプライン突起からなる内周スプライン部を内周面に有する外側回転部材と、
前記外側回転部材と同軸上で相対回転可能に支持配置され、前記回転軸方向に延びる複数の外周スプライン突起からなる外周スプライン部を外周面に有する内側回転部材と、
前記内周スプライン部に軸方向移動可能に係合する外側クラッチプレート、及び前記外周スプライン部に軸方向移動可能に係合する内側クラッチプレートを有し、前記外側回転部材と前記内側回転部材とをトルク伝達可能に連結するメインクラッチと、
前記外側回転部材の内側に収容された第1カム部材及び第2カム部材を有し、前記第1カム部材を前記第2カム部材に対して相対回転させることにより、前記第2カム部材に前記メインクラッチを押圧する押圧力を発生させるカム機構と、
前記メインクラッチと軸方向に並ぶと共に、前記外側回転部材と前記第1カム部材との間に配置された複数の透磁性クラッチプレートからなるパイロットクラッチと、
前記メインクラッチと前記パイロットクラッチとの間に軸方向移動可能に配置されたアーマチャと、
磁力によって前記アーマチャに前記パイロットクラッチを押圧する押圧力を発生させる電磁コイルと、を備え、
前記内周スプライン部は、前記外側クラッチプレートが係合する第1領域と、前記第1領域よりも前記パイロットクラッチ側の第2領域とを有し、当該第2領域に前記アーマチャが係合し、
前記複数の内周スプライン突起のうち一部の内周スプライン突起は、前記第1領域側から前記第2領域側を指向する規制面を有し、
前記アーマチャは、前記規制面に当接することにより前記第1領域側への移動が規制されており、
前記一部の内周スプライン突起は、前記規制面の前記回転軸方向における位置が異なる複数の内周スプライン突起を含む、
駆動力伝達装置。
【請求項2】
前記アーマチャは、前記複数の内周スプライン突起に係合する複数の係合突起を外周端部に有すると共に、前記規制面の少なくとも一部と前記回転軸方向に対向する壁部が設けられており、
前記アーマチャの前記外側回転部材に対する周方向の位置を変更することにより、前記壁部が前記規制面に当接する前記回転軸方向における位置が変化する、
請求項1に記載の駆動力伝達装置。
【請求項3】
前記複数の透磁性クラッチプレートは、前記外側回転部材に係合する外側の透磁性クラッチプレートと、前記第1カム部材に係合する内側の透磁性クラッチプレートとを含み、
前記アーマチャの前記外側回転部材に対する周方向の位置を変更することにより、前記壁部が前記規制面に当接する前記回転軸方向における位置が、一枚の前記外側の透磁性クラッチプレート及び一枚の前記内側の透磁性クラッチプレートからなる一組の透磁性クラッチプレートの厚みの整数倍で変化する、
請求項2に記載の駆動力伝達装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の駆動力伝達装置の製造方法であって、
前記透磁性クラッチプレートの枚数が少ないほど前記アーマチャが前記パイロットクラッチ側で前記規制面に当接するように、前記透磁性クラッチプレートの枚数に応じて前記アーマチャの前記外側回転部材に対する周方向の位置を変更する、
駆動力伝達装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の駆動源の駆動力を伝達する駆動力伝達装置、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、駆動源の駆動力が常に伝達される主駆動輪と、車両状態に応じて駆動源の駆動力が伝達される補助駆動輪とを備えた四輪駆動車には、補助駆動輪に伝達される駆動力の大きさを調節可能な駆動力伝達装置を備えたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の駆動力伝達装置は、内周面に複数の内周スプライン突起からなる内周スプライン部を有する有底円筒状のハウジングと、外周面に複数の外周スプライン突起からなる外周スプライン部を有するインナシャフトと、内周スプライン部に係合する複数のメインアウタクラッチプレート及び外周スプライン部に係合する複数のメインインナクラッチプレートを有するメインクラッチと、一対のカム部材を相対回転させることによりメインクラッチを押圧する押圧力を発生させるカム機構と、カム機構に一対のカム部材を相対回転させる回転力を付与する電磁クラッチ機構とを備えている。
【0004】
電磁クラッチ機構は、電磁コイルと、内周スプライン部に係合する複数のパイロットアウタクラッチプレート及びアーマチャと、一対のカム部材のうち一方のカム部材に係合する複数のパイロットインナクラッチプレートとを有しており、複数のパイロットアウタクラッチプレート及びパイロットインナクラッチプレートを透過した磁束によってアーマチャが電磁コイル側に向かって軸方向に移動することにより、複数のパイロットアウタクラッチプレート及びパイロットインナクラッチプレートが押圧されて摩擦力を発生させる。
【0005】
また、特許文献1に記載の駆動力伝達装置は、内周スプライン部を構成する複数の内周スプライン突起のうち一部の内周スプライン突起にアーマチャと軸方向に対向する端面が形成されており、この端面にアーマチャが当接することによってアーマチャのメインクラッチ側への軸方向移動が規制されている。これにより、電磁コイルの非通電時におけるアーマチャの軸方向位置を、電磁コイルの通電開始時にアーマチャを確実に吸引可能な適切な範囲に制限することができ、カム機構を確実に作動させることが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-253654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、電磁クラッチ機構の透磁性クラッチプレート(パイロットインナクラッチプレート及びパイロットアウタクラッチプレート)の枚数は、駆動力伝達装置が搭載される車両の車種や型式あるいは仕様等によって変わる場合がある。この場合において、透磁性クラッチプレートの枚数ごとにアーマチャが当接する内周スプライン突起の端面の位置を変えた複数種類のハウジングを用意することとすれば、ハウジングの製造コストや管理コストが増大してしまう。
【0008】
そこで、本発明は、一種類のハウジングを用いながら、電磁クラッチ機構の透磁性クラッチプレートの枚数が変わっても、電磁コイルの非通電時におけるアーマチャの軸方向位置を適切な範囲に制限することができる駆動力伝達装置、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記の目的を達成するため、回転軸方向に延びる複数の内周スプライン突起からなる内周スプライン部を内周面に有する外側回転部材と、前記外側回転部材と同軸上で相対回転可能に支持配置され、前記回転軸方向に延びる複数の外周スプライン突起からなる外周スプライン部を外周面に有する内側回転部材と、前記内周スプライン部に軸方向移動可能に係合する外側クラッチプレート、及び前記外周スプライン部に軸方向移動可能に係合する内側クラッチプレートを有し、前記外側回転部材と前記内側回転部材とをトルク伝達可能に連結するメインクラッチと、前記外側回転部材の内側に収容された第1カム部材及び第2カム部材を有し、前記第1カム部材を前記第2カム部材に対して相対回転させることにより、前記第2カム部材に前記メインクラッチを押圧する押圧力を発生させるカム機構と、前記メインクラッチと軸方向に並ぶと共に、前記外側回転部材と前記第1カム部材との間に配置された複数の透磁性クラッチプレートからなるパイロットクラッチと、前記メインクラッチと前記パイロットクラッチとの間に軸方向移動可能に配置されたアーマチャと、磁力によって前記アーマチャに前記パイロットクラッチを押圧する押圧力を発生させる電磁コイルと、を備え、前記内周スプライン部は、前記外側クラッチプレートが係合する第1領域と、前記第1領域よりも前記パイロットクラッチ側の第2領域とを有し、当該第2領域に前記アーマチャが係合し、前記複数の内周スプライン突起のうち一部の内周スプライン突起は、前記第1領域側から前記第2領域側を指向する規制面を有し、前記アーマチャは、前記規制面に当接することにより前記第1領域側への移動が規制されており、前記一部の内周スプライン突起は、前記規制面の前記回転軸方向における位置が異なる複数の内周スプライン突起を含む、駆動力伝達装置を提供する。
【0010】
また、本発明は上記の目的を達成するため、上記の駆動力伝達装置の製造方法であって、前記透磁性クラッチプレートの枚数が少ないほど前記アーマチャが前記パイロットクラッチ側で前記規制面に当接するように、前記透磁性クラッチプレートの枚数に応じて前記アーマチャの前記外側回転部材に対する周方向の位置を変更する、駆動力伝達装置の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る駆動力伝達装置及びその製造方法によれば、一種類のハウジングを用いながら、電磁クラッチ機構の透磁性クラッチプレートの枚数が変わっても、電磁コイルの非通電時におけるアーマチャの軸方向位置を適切な範囲に制限することができ、ハウジングの製造コストや管理コストの増大を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る駆動力伝達装置が搭載された四輪駆動車の概略の構成例を示す概略構成図である。
図2】駆動力伝達装置の構成例を示す断面図である。
図3】(a)は、駆動力伝達装置のフロントハウジングを示す斜視図であり、(b)は(a)の一部を拡大して示す拡大図である。
図4】(a)は、フロントハウジングの内面を平面状に展開した展開図であり、(b)は、パイロットクラッチが2枚のパイロットアウタクラッチプレートと1枚のパイロットインナクラッチプレートとからなる場合の駆動力伝達装置の一部の断面図である。
図5】(a)は、アーマチャを示す平面図であり、(b)は(a)の一部を拡大して示す拡大図である。
図6】(a)は、第2の実施の形態に係るフロントハウジング21を示す斜視図であり、図6(b)は図6(a)の部分拡大図である。
図7】(a)は、第2の実施の形態に係るフロントハウジングをリヤハウジング側から軸方向に見てメインカムと共に示す構成図である。(b)は、(a)に示すフロントハウジングに組み付けられるアーマチャを示す平面図である。(c)は、壁部が第1規制面に当接するようにアーマチャが組み付けられた状態を示す説明図であり、(d)は、壁部が第2規制面に当接するようにアーマチャが組み付けられた状態を示す説明図である。
図8】(a)は、第3の実施の形態に係るフロントハウジングの構成図である。(b)は、このフロントハウジングに組み付けられるアーマチャを示す平面図である。
図9】(a)は、第4の実施の形態に係るフロントハウジングの構成図である。(b)は、このフロントハウジングに組み付けられるアーマチャを示す平面図である。
図10】(a)は、第5の実施の形態に係るフロントハウジングの構成図である。(b)は、このフロントハウジングに組み付けられるアーマチャを示す平面図である。
図11】(a)は、第6の実施の形態に係るフロントハウジングの構成図である。(b)は、このフロントハウジングに組み付けられるアーマチャを示す平面図である。
図12】(a)は、第7の実施の形態に係るフロントハウジングの構成図である。(b)は、このフロントハウジングに組み付けられるアーマチャを示す平面図である。
図13】(a)は、第8の実施の形態に係るフロントハウジングの構成図である。(b)は、このフロントハウジングに組み付けられるアーマチャを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態について、図1乃至図5を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0014】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る駆動力伝達装置が搭載された四輪駆動車の概略の構成例を示す概略構成図である。この四輪駆動車1は、駆動源であるエンジン102と、トランスミッション及びフロントデファレンシャルを有するトランスアクスル103と、ドライブシャフト104によってトランスアクスル103から駆動力が伝達される一対の前輪105と、一対の後輪106と、リヤディファレンシャルキャリア107と、プロペラシャフト108と、駆動力伝達装置2と、駆動力伝達装置2を制御する制御装置10とを備えている。
【0015】
駆動力伝達装置2は、エンジン102から一対の後輪106に至る駆動力伝達経路に配置され、車体101にリヤディファレンシャルキャリア107を介して支持されている。リヤディファレンシャルキャリア107には、リヤディファレンシャル109、及び駆動力伝達装置2からリヤディファレンシャル109に駆動力を伝達するドライブピニオンシャフト110が収容されている。そして、駆動力伝達装置2は、プロペラシャフト108とドライブピニオンシャフト110とをトルク伝達可能に連結し、この連結状態においてエンジン102の駆動力をリヤディファレンシャル109及びドライブシャフト111を介して一対の後輪106に伝達し得るように構成されている。
【0016】
制御装置10は、例えば一対の前輪105と一対の後輪106との回転速差や、運転者によるアクセルペダルの踏込量等に応じて駆動力伝達装置2に電流を供給する。駆動力伝達装置2は、制御装置10から電流の供給を受け、この電流に応じた駆動力をプロペラシャフト108からドライブピニオンシャフト110に伝達する。
【0017】
図2は、駆動力伝達装置2の構成例を示す断面図である。図2において、回転軸線Oよりも上側は駆動力伝達装置2の作動状態(トルク伝達状態)を、下側は駆動力伝達装置2の非作動状態(トルク非伝達状態)を、それぞれ示す。以下、回転軸線Oに平行な方向を軸方向という。
【0018】
駆動力伝達装置2は、フロントハウジング21及びリヤハウジング22からなるハウジング20と、ハウジング20と同軸上で相対回転可能に支持配置された筒状のインナシャフト23と、ハウジング20とインナシャフト23との間に配置されたメインクラッチ3と、メインクラッチ3を押圧するスラスト力を発生させるカム機構4と、制御装置10から電流の供給を受けてカム機構4を作動させる電磁クラッチ機構5とを備えている。ハウジング20は、本発明の外側回転部材の一例であり、インナシャフト23は、本発明の内側回転部材の一例である。
【0019】
フロントハウジング21は、アルミニウム合金をダイキャスト成形してなり、円筒状の筒部21aと底部21bとを一体に有する有底円筒状のハウジング部材である。筒部21aの開口端部における内面には、雌ねじ部21cが形成されている。フロントハウジング21の底部21bには、プロペラシャフト108(図1参照)が例えば十字継手を介して連結される。また、フロントハウジング21は、軸方向に延びる複数の内周スプライン突起211からなる内周スプライン部210を内周面に有している。
【0020】
リヤハウジング22は、鉄等の磁性材料からなる第1環状部材221、第1環状部材221の内周側に溶接等により一体に結合されたオーステナイト系ステンレス等の非磁性材料からなる第2環状部材222、及び第2環状部材222の内周側に溶接等により一体に結合された鉄等の磁性材料からなる第3環状部材223からなる。第1環状部材221と第3環状部材223との間には、電磁コイル6を収容する環状の収容空間22aが形成されている。また、第1環状部材221の外周面には、フロントハウジング21の雌ねじ部21cに螺合する雄ねじ部221aが形成されている。
【0021】
インナシャフト23は、玉軸受24及び針状ころ軸受25によってハウジング20の内周側に支持されている。また、インナシャフト23は、軸方向に延びる複数の外周スプライン突起231からなる外周スプライン部230を外周面に有している。また、インナシャフト23の一端部における内面には、ドライブピニオンシャフト110(図1参照)の一端部が相対回転不能に嵌合されるスプライン嵌合部232が形成されている。
【0022】
メインクラッチ3は、軸方向に沿って交互に配置された複数のメインアウタクラッチプレート31及び複数のメインインナクラッチプレート32を有しており、ハウジング20とインナシャフト23とをトルク(駆動力)伝達可能に連結する。メインアウタクラッチプレート31は、本発明の外側クラッチプレートの一例であり、メインインナクラッチプレート32は、本発明の内側クラッチプレートの一例である。
【0023】
メインアウタクラッチプレート31は、フロントハウジング21と共に回転し、メインインナクラッチプレート32は、インナシャフト23と共に回転する。メインアウタクラッチプレート31とメインインナクラッチプレート32との摩擦摺動は、ハウジング20とインナシャフト23との間に封入された図略の潤滑油によって潤滑され、摩耗や焼き付きが抑制されている。
【0024】
メインアウタクラッチプレート31は、金属からなる円環板状であり、フロントハウジング21の内周スプライン突起211に係合する複数の係合突起311を外周端部に有している。メインアウタクラッチプレート31は、係合突起311が内周スプライン突起211に係合することにより、フロントハウジング21との相対回転が規制され、かつフロントハウジング21に対して軸方向に移動可能である。また、メインアウタクラッチプレート31には、メインインナクラッチプレート32との対向面に、潤滑油を流動させる図略の油溝が形成されている。
【0025】
メインインナクラッチプレート32は、インナシャフト23の外周スプライン突起231に係合する複数の係合突起321を内周端部に有している。また、メインインナクラッチプレート32は、係合突起321が外周スプライン突起231に係合することにより、インナシャフト23との相対回転が規制され、かつインナシャフト23に対して軸方向に移動可能である。
【0026】
メインインナクラッチプレート32は、金属からなる円環板状の基材331と、基材331の両側面にそれぞれ張り付けられた摩擦材332とを有している。基材331には、摩擦材332が貼着された部分よりも内側に、潤滑油を流通させる複数の油孔333が形成されている。摩擦材332は、例えばペーパー摩擦材又は不織布からなり、メインアウタクラッチプレート31と対向する部分に貼着されている。
【0027】
カム機構4は、電磁クラッチ機構5を介してハウジング20の回転力を受ける第1カム部材としてのパイロットカム41と、メインクラッチ3を軸方向に押圧する第2カム部材としてのメインカム42と、パイロットカム41とメインカム42との間に配置された複数の球状のカムボール43とを有し、ハウジング20の内側に収容されている。
【0028】
メインカム42は、メインクラッチ3を押圧する押圧部材であり、メインクラッチ3の一端におけるメインインナクラッチプレート32に接触してメインクラッチ3を押圧する環板状の押圧部421と、押圧部421よりもメインカム42の内周側に設けられたカム部422とを一体に有している。押圧部421には油孔420が複数箇所に形成されている。メインカム42は、押圧部421の内周端部に形成されたスプライン係合部421aがインナシャフト23の外周スプライン突起231に係合してインナシャフト23との相対回転が規制されている。また、メインカム42は、インナシャフト23に形成された段差面23aとの間に配置されたリターンスプリングとしての皿ばね44により、メインクラッチ3から軸方向に離間するように付勢されている。
【0029】
パイロットカム41は、メインカム42に対して相対回転する回転力を電磁クラッチ機構5から受けるスプライン突起411を外周端部に有している。パイロットカム41とリヤハウジング22の第3環状部材223との間には、スラスト針状ころ軸受45が配置されている。パイロットカム41とメインカム42のカム部422との対向面には、周方向に沿って軸方向の深さが変化する複数のカム溝41a,422aがそれぞれ形成されている。カムボール43は、パイロットカム41のカム溝41aとメインカム42のカム溝422aとの間に配置されている。
【0030】
カム機構4は、パイロットカム41をメインカム42に対して相対回転させることにより、メインカム42にメインクラッチ3を軸方向に押圧する押圧力を発生させる。メインクラッチ3は、カム機構4から押圧力を受けてメインアウタクラッチプレート31とメインインナクラッチプレート32とが摩擦接触し、メインアウタクラッチプレート31とメインインナクラッチプレート32との間に発生する摩擦力によって駆動力を伝達する。
【0031】
電磁クラッチ機構5は、ハウジング20とパイロットカム41との間に配置された複数のパイロットアウタクラッチプレート51及び複数のパイロットインナクラッチプレート52からなるパイロットクラッチ50と、通電により磁力を発生させる電磁コイル6と、電磁コイル6への通電により発生する磁力に応動してパイロットクラッチ50を軸方向に押圧するアーマチャ7とを有して構成されている。図2の図示例では、パイロットクラッチ50が3枚のパイロットアウタクラッチプレート51と2枚のパイロットインナクラッチプレート52とからなる。パイロットクラッチ50及びアーマチャ7は、メインクラッチ3と軸方向に並んで配置されている。アーマチャ7は、メインクラッチ3とパイロットクラッチ50との間に配置されている。
【0032】
電磁コイル6は、エナメル線からなる巻線61を樹脂からなる封止材62で封止してなり、磁性材料からなる環状のヨーク60に保持されてリヤハウジング22の収容空間22aに収容されている。ヨーク60は、玉軸受26によってリヤハウジング22の第3環状部材223に支持されている。電磁コイル6には、電線611を介して制御装置10からの電流が励磁電流として供給され、磁力によってアーマチャ7にパイロットクラッチ50を押圧する押圧力を発生させる。
【0033】
複数のパイロットアウタクラッチプレート51及び複数のパイロットインナクラッチプレート52は、アーマチャ7とリヤハウジング22との間に、軸方向に沿って交互に配置されている。パイロットアウタクラッチプレート51及びパイロットインナクラッチプレート52は、それぞれが透磁性を有する磁性金属からなる環状の透磁性クラッチプレートである。パイロットアウタクラッチプレート51は、本発明の「外側の透磁性クラッチプレート」に相当し、パイロットインナクラッチプレート52は、本発明の「内側の透磁性クラッチプレート」に相当する。以下、パイロットアウタクラッチプレート51とパイロットインナクラッチプレート52とを総称して「パイロットクラッチプレート」という場合がある。
【0034】
パイロットアウタクラッチプレート51において第2環状部材222と軸方向に並ぶ部位には、磁束の短絡を防ぐための複数の円弧状のスリット501が形成されている。また、パイロットインナクラッチプレート52において第2環状部材222と軸方向に並ぶ部位には、磁束の短絡を防ぐための複数の円弧状のスリット502が形成されている。
【0035】
パイロットアウタクラッチプレート51は、フロントハウジング21の内周スプライン突起211に係合する複数の係合突起511を外周端部に有しており、ハウジング20に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能である。パイロットインナクラッチプレート52は、パイロットカム41のスプライン突起411に係合する複数の係合突起521を内周端部に有しており、パイロットカム41に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能である。なお、パイロットアウタクラッチプレート51とパイロットインナクラッチプレート52との摩擦摺動も、メインクラッチ3と同様に、潤滑油によって潤滑される。
【0036】
アーマチャ7は、鉄等の磁性材料からなる環状の部材であり、円環状の本体部71と、本体部71の外縁から径方向外方に突出して設けられた複数の係合突起72とを一体に有している。アーマチャ7は、複数の係合突起72がフロントハウジング21の内周スプライン突起211に係合しており、ハウジング20に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能である。
【0037】
内周スプライン部210は、メインアウタクラッチプレート31が係合する第1領域210aと、第1領域210aよりもパイロットクラッチ50側の第2領域210bとを有している。第2領域210bには、複数のパイロットアウタクラッチプレート51及びアーマチャ7が係合する。第1領域210aは、第2領域210bよりもフロントハウジング21の底部21b側に設けられている。
【0038】
上記のように構成された駆動力伝達装置2は、電磁コイル6に電流が供給されることにより磁路Gに磁束が発生し、アーマチャ7が磁力によってリヤハウジング22側に引き寄せられ、パイロットアウタクラッチプレート51とパイロットインナクラッチプレート52とが摩擦接触する。これにより、制御装置10から供給される電流に応じた回転力がパイロットカム41に伝達され、パイロットカム41がメインカム42に対して相対回転し、カムボール43がカム溝41a,422aを転動する。そして、このカムボール43の転動によってメインカム42にメインクラッチ3を軸方向に押圧する押圧力が発生し、複数のメインアウタクラッチプレート31と複数のメインインナクラッチプレート32との間に摩擦力が発生する。この摩擦力により、プロペラシャフト108からドライブピニオンシャフト110に駆動力が伝達される。
【0039】
ところで、後輪106側に伝達すべき駆動力の最大値であるトルク容量は、駆動力伝達装置2が搭載される車両の車種や型式あるいは仕様等によって様々である。そして、必要なトルク容量ごとに例えばフロントハウジング21の大きさを異ならせることとすれば、フロントハウジング21を成形するための金型を多数用意しなければならず、製造コストや管理コストが増大してしまう。
【0040】
そこで、フロントハウジング21を共通とし、パイロットクラッチ50のパイロットクラッチプレート(パイロットアウタクラッチプレート51及びパイロットインナクラッチプレート52)の枚数を変えることによりトルク容量を変えることが考えられる。パイロットクラッチ50のクラッチプレートの枚数を変えれば、電磁コイル6に供給される電流が同じでもパイロットカム41に伝達されるトルクが変わり、メインカム42がメインクラッチ3を押圧する押圧力が変化する。すなわち、パイロットクラッチ50のクラッチプレートの枚数を多くすればトルク容量が大きくなり、クラッチプレートの枚数を少なくすればトルク容量が小さくなる。
【0041】
しかし、パイロットクラッチ50のクラッチプレートの枚数を変える場合、クラッチプレートの枚数が少ないと、電磁コイル6の非通電時においてアーマチャ7がリヤハウジング22から軸方向に離れたときにとリヤハウジング22とアーマチャ7との間の隙間が大きくなってしまい、電磁コイル6に通電した際にアーマチャ7をリヤハウジング22側に吸引できないおそれがある。この対策のため、例えばパイロットクラッチ50のクラッチプレートの枚数に応じた軸方向の適宜の位置にアーマチャ7の軸方向移動を規制する規制部材を取り付けることが考えられるが、この場合には部品点数及び組み付け工数の増大を招来してしまう。
【0042】
そこで、本実施の形態では、複数の内周スプライン突起211のうち一部の内周スプライン突起211に第1領域210a側から第2領域210b側を指向してアーマチャ7と軸方向に対向する端面である規制面を設け、この規制面への当接によってアーマチャ7の第1領域210a側への移動を規制すると共に、軸方向における規制面の位置を複数段階とし、アーマチャ7のハウジング20に対する周方向の位置を変えることによってアーマチャ7が規制面に当接する位置が変わるようにフロントハウジング21を構成している。図2では、この規制面のうちの一つを符号211aで図示している。
【0043】
図3(a)は、フロントハウジング21を示す斜視図であり、図3(b)は、図3(a)の一部を拡大して示す拡大図である。図4(a)は、フロントハウジング21の内面を平面状に展開して示す展開図である。図4(b)は、パイロットクラッチ50が2枚のパイロットアウタクラッチプレート51と1枚のパイロットインナクラッチプレート52とからなる場合の駆動力伝達装置2の一部を示す断面図である。図5(a)は、アーマチャ7を軸方向から見て示す平面図であり、図5(b)は、図5(a)の一部を拡大して示す拡大図である。
【0044】
本実施の形態では、32本の内周スプライン突起211がフロントハウジング21の内面に設けられており、このうち24本の内周スプライン突起211が第1領域210a及び第2領域210bの全体にわたって形成され、他の8本の内周スプライン突起211は第1領域210aのみに設けられている。また、この8本の内周スプライン突起211のうち、4本の内周スプライン突起211は、図4に示す軸方向の第1位置Pに規制面211aを有しており、他の4本の内周スプライン突起211は、図4に示す軸方向の第2位置Pに規制面211bを有している。すなわち、第1領域210aのみに設けられた一部(24本)の内周スプライン突起211は、規制面211a,211bの軸方向における位置が互いに異なる複数の内周スプライン突起211を含んでいる。
【0045】
以下、第1位置Pにおける規制面211aを第1規制面211aといい、第2位置Pにおける規制面211bを第2規制面211bという。本実施の形態では、第1規制面211aが形成された4本の内周スプライン突起211のうち2本ずつの内周スプライン突起211が隣り合って配置され、第2規制面211bが形成された4本の内周スプライン突起211のうち2本ずつの内周スプライン突起211が隣り合って配置されている。第2位置Pは、第1位置Pよりもリヤハウジング22側に位置しており、第2規制面211bが形成された4本の内周スプライン突起211は、第1規制面211aが形成された4本の内周スプライン突起211よりも軸方向に長く形成されている。
【0046】
また、内周スプライン部210には、内周スプライン突起211が設けられていない欠歯部210cが周方向の複数箇所に形成されている。これらの欠歯部210cは、フロントハウジング21の底部21bに設けられた複数の潤滑油流入路212にそれぞれ連通している。本実施の形態では、フロントハウジング21の4箇所に欠歯部210c及び潤滑油流入路212が周方向等間隔に設けられている。潤滑油流入路212は、複数のメインアウタクラッチプレート31のうち最も底部21bにあたるメインアウタクラッチプレート31が当接する当接面21dから軸方向に窪むように形成されており、潤滑油流入路212の内径側の一部は当接面21dよりも径方向内側に開口している。
【0047】
また、フロントハウジング21の底部21bには、図2に示すように、駆動力伝達装置2の組み立て後にハウジング20内に潤滑油を注入するための注入孔213、及び潤滑油の注入時にハウジング20内の空気を排出するための空気孔214が形成されている。注入孔213から注入された潤滑油は、潤滑油流入路212及び欠歯部210cを流動してハウジング20内に導入される。注入孔213及び空気孔214は、ハウジング20内に潤滑油を注入した後に、栓体271,272によってそれぞれ閉塞されている。
【0048】
アーマチャ7は、第2領域210bにおける複数の内周スプライン突起211に係合する複数の係合突起72を外周端部に有すると共に、周方向の一部には、複数の係合突起72の間を埋めるようにして第1規制面211a又は第2規制面211bと軸方向に対向する壁部73が設けられている。壁部73は、第1規制面211aの少なくとも一部、又は第2規制面211bの少なくとも一部と軸方向に対向する。本実施の形態では、アーマチャ7に四つの壁部73が設けられており、このうち二つずつの壁部73が一つの係合突起72を周方向に挟むように配置されている。当該二つの壁部73と、これらの壁部73を挟む三つの係合突起72は、アーマチャ7の外周端部において周方向に延びる幅広突起74を構成する。本実施の形態では、アーマチャ7が二つの幅広突起74を有しており、これらの幅広突起74がアーマチャ7の直径方向における互いに反対側の端部に設けられている。
【0049】
アーマチャ7は、駆動力伝達装置2の組み立て時においてハウジング20に対する周方向の位置が変わることにより、壁部73が第1規制面211a又は第2規制面211bに当接する軸方向の位置が変化する。つまり、駆動力伝達装置2の組み立て時においてアーマチャ7のハウジング20に対する周方向の位置を変更することにより、壁部73が第1規制面211a又は第2規制面211bに当接する軸方向の位置が変化する。換言すれば、第1規制面211a又は第2規制面211bの何れかに対して選択的に壁部73を対向させるように組み付けが可能であり、この選択に応じて壁部73の軸方向移動が規制される位置が変化する。具体的には、壁部73が第1規制面211aに対向するようにアーマチャ7がフロントハウジング21に組み付けられた場合には、アーマチャ7の第1領域210a側への移動が第1位置Pに規制され、壁部73が第2規制面211bに対向するようにアーマチャ7がフロントハウジング21に組み付けられた場合には、アーマチャ7の第1領域210a側への移動が第2位置Pに規制される。
【0050】
このため、例えばパイロットクラッチ50が3枚のパイロットアウタクラッチプレート51と2枚のパイロットインナクラッチプレート52とを有する場合にはアーマチャ7の軸方向移動を第1位置Pに規制し、パイロットクラッチ50が2枚のパイロットアウタクラッチプレート51と1枚のパイロットインナクラッチプレート52とを有する場合にはアーマチャ7の軸方向移動を第2位置Pに規制することで、何れの場合でも電磁コイル6に通電した際に磁力によって吸引可能な範囲にアーマチャ7の軸方向位置を制限することができる。なお、第1位置Pと第2位置Pとの間隔は、1枚のパイロットアウタクラッチプレート51と1枚のパイロットインナクラッチプレート52との厚みの合算値に相当する寸法、すなわち一組のパイロットアウタクラッチプレート51及びパイロットインナクラッチプレート52の厚みに設定される。
【0051】
駆動力伝達装置2の製造時には、パイロットクラッチ50のクラッチプレート(パイロットアウタクラッチプレート51及びパイロットインナクラッチプレート52)の枚数が少ないほどアーマチャ7がパイロットクラッチ50側で規制面(第1規制面211a又は第2規制面211b)に当接するように、パイロットクラッチ50のクラッチプレートの枚数に応じてアーマチャ7のフロントハウジング21に対する周方向の位置を変更する。
【0052】
以上のように、本実施の形態によれば、一種類のハウジング20を用いながらも、パイロットクラッチ50が3枚のパイロットアウタクラッチプレート51と2枚のパイロットインナクラッチプレート52とを有する場合、及びパイロットクラッチ50が2枚のパイロットアウタクラッチプレート51と1枚のパイロットインナクラッチプレート52とを有する場合の何れの場合にも、電磁コイル6の非通電時におけるアーマチャ7の軸方向位置を適切な範囲に制限することができる。換言すれば、パイロットアウタクラッチプレート51及びパイロットインナクラッチプレート52の枚数が変わっても、同一形状のハウジング20を用いて部品を共通化することができる。これにより、ハウジング20の製造コストや管理コストの増大を抑制することが可能となる。
【0053】
[第2の実施の形態]
次に、図6及び図7を参照し、第2の実施の形態について説明する。図6(a)は、第2の実施の形態に係るフロントハウジング21を示す斜視図であり、図6(b)は図6(a)の部分拡大図である。図7(a)は、リヤハウジング22側から軸方向に見たフロントハウジング21をメインカム42と共に示す構成図である。図7(b)は、図7(a)に示すフロントハウジング21に組み付けられるアーマチャ7を示す平面図である。図7(c)は、壁部73が第1規制面211aに対向するようにアーマチャ7が組み付けられた状態を示す説明図であり、図7(d)は、壁部73が第2規制面211bに対向するようにアーマチャ7が組み付けられた状態を示す説明図である。図7(a)では、第1規制面211a及び第2規制面211bをクロスハッチングで示している。図7(c),(d)では、アーマチャ7の輪郭を仮想線(二点鎖線)で示している。
【0054】
なお、図6及び図7ならびに後述する図8乃至図13において、第1の実施の形態で説明したものと共通する構成要素については、第1の実施の形態で用いたものと同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0055】
本実施の形態に係るフロントハウジング21は、第1の実施の形態と同様に、フロントハウジング21が32本の内周スプライン突起211を有し、このうち4本の内周スプライン突起211に第1規制面211aが形成され、他の4本の内周スプライン突起211に第2規制面211bが形成されているが、第1規制面211aが形成された内周スプライン突起211と第2規制面211bが形成された内周スプライン突起211とが、4箇所の欠歯部210cのそれぞれを挟んで隣り合うように配置されている。
【0056】
アーマチャ7は、第1の実施の形態と同様、二つの幅広突起74を有し、それぞれの幅広突起74が二つの壁部73を有している。図7(c)に示すように、二つの壁部73のうち一方の壁部73が第1規制面211aと軸方向に向かい合うようにアーマチャ7が組み付けられると、アーマチャ7の第1領域210a側への移動が第1位置P図4参照)に規制される。また、図7(d)に示すように、他方の壁部73が第2規制面211bと軸方向に向かい合うようにアーマチャ7が組み付けられると、アーマチャ7の第1領域210a側への移動が第2位置P図4参照)に規制される。これにより、第2の実施の形態によっても、第1の実施の形態と同様の作用及び効果が得られる。
【0057】
[第3の実施の形態]
次に、図8を参照し、第3の実施の形態について説明する。図8(a)は、第3の実施の形態に係るフロントハウジング21をメインカム42と共にリヤハウジング22側から見た状態を示す構成図である。図8(b)は、図8(a)に示すフロントハウジング21に組み付けられるアーマチャ7を示す平面図である。
【0058】
第2の実施の形態では、32本の内周スプライン突起211のうち4本の内周スプライン突起211に第1規制面211aが形成され、他の4本の内周スプライン突起211に第2規制面211bが形成された場合について説明したが、第3の実施の形態では、32本の内周スプライン突起211のうち2本の内周スプライン突起211に第1規制面211aが形成され、他の2本の内周スプライン突起211に第2規制面211bが形成されている。また、第1規制面211aが形成された内周スプライン突起211と第2規制面211bが形成された内周スプライン突起211とは、欠歯部210cを挟んで隣り合うように配置されている。アーマチャ7は、第1の実施の形態と同様に二つの幅広突起74を有し、それぞれの幅広突起74が二つの壁部73を有している。
【0059】
この第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態の効果に加え、第1規制面211a又は第2規制面211bが形成された内周スプライン突起211の本数が少ないので、第2領域210bにおいてパイロットアウタクラッチプレート51の係合突起511が係合する内周スプライン突起211の本数を増やすことができ、内周スプライン突起211とパイロットアウタクラッチプレート51との係合部における強度や耐摩耗性を向上させることが可能となる。
【0060】
[第4の実施の形態]
次に、図9を参照し、第4の実施の形態について説明する。図9(a)は、第4の実施の形態に係るフロントハウジング21をメインカム42と共にリヤハウジング22側から見た状態を示す構成図である。図9(b)は、図9(a)に示すフロントハウジング21に組み付けられるアーマチャ7を示す平面図である。
【0061】
第1乃至第3の実施の形態では、アーマチャ7が二つの幅広突起74を有し、それぞれの幅広突起74が二つの壁部73を有している場合について説明したが、第4の実施の形態では、アーマチャ7が四つの幅広突起74を有し、それぞれの幅広突起74が二つの壁部73を有している。フロントハウジング21は、第2の実施の形態と同様に構成されている。
【0062】
この第4の実施の形態によれば、アーマチャ7が四つの幅広突起74を有し、これらの幅広突起74の壁部73が四つの第1規制面211a又は四つの第2規制面211bに当接するので、第1規制面211a又は第2規制面211bに当接したときのアーマチャ7の姿勢をより安定させることが可能となる。
【0063】
[第5の実施の形態]
次に、図10を参照し、第5の実施の形態について説明する。図10(a)は、第5の実施の形態に係るフロントハウジング21をメインカム42と共にリヤハウジング22側から見た状態を示す構成図である。図10(b)は、図10(a)に示すフロントハウジング21に組み付けられるアーマチャ7を示す平面図である。
【0064】
第1乃至第4の実施の形態では、フロントハウジング21に対するアーマチャ7の軸方向の位置が第1規制面211aに当接する場合と第2規制面211bに当接する場合との2段階で規制される場合について説明したが、本実施の形態では、フロントハウジング21に対するアーマチャ7の軸方向の位置が4段階で規制される。すなわち、本実施の形態では、フロントハウジング21の32本の内周スプライン突起211が、第1規制面211aが形成された2本の内周スプライン突起211と、第2規制面211bが形成された2本の内周スプライン突起211と、第3規制面211cが形成された2本の内周スプライン突起211と、第4規制面211dが形成された2本の内周スプライン突起211とを含んでいる。
【0065】
また、本実施の形態では、第1規制面211aが形成された内周スプライン突起211と第2規制面211bが形成された内周スプライン突起211とが4箇所の欠歯部210cのうち2箇所の欠歯部210cを挟んで隣り合うように配置され、第3規制面211cが形成された内周スプライン突起211と第4規制面211dが形成された内周スプライン突起211とが他の2箇所の欠歯部210cを挟んで隣り合うように配置されている。アーマチャ7は、第1の実施の形態と同様に形成されている。
【0066】
第1規制面211a、第2規制面211b、第3規制面211c、及び第4規制面211dは、それぞれ軸方向の異なる位置でアーマチャ7の壁部73に当接する。第3規制面211cは、第1規制面211aよりも第1領域210a側に形成され、第4規制面211cは、第3規制面211cよりもさらに第1領域210a側に形成されている。このため、例えばパイロットクラッチ50が4枚のパイロットアウタクラッチプレート51と3枚のパイロットインナクラッチプレート52とからなる場合にはアーマチャ7の壁部73が第3規制面211cと対向するように組み付けを行い、パイロットクラッチ50が5枚のパイロットアウタクラッチプレート51と4枚のパイロットインナクラッチプレート52とからなる場合にはアーマチャ7の壁部73が第4規制面211dと対向するように組み付けを行うことにより、これらの各場合においてもアーマチャ7の軸方向位置の規制を適切に行うことができる。このように、本実施の形態では、壁部73が規制面(第1規制面211a、第2規制面211b、第3規制面211c、又は第4規制面211d)に当接する軸方向における位置が、一組のパイロットクラッチプレートの厚みの整数倍で変化する。
【0067】
[第6の実施の形態]
次に、図11を参照し、第6の実施の形態について説明する。図11(a)は、第6の実施の形態に係るフロントハウジング21をメインカム42と共にリヤハウジング22側から見た状態を示す構成図である。図11(b)は、図11(a)に示すフロントハウジング21に組み付けられるアーマチャ7を示す平面図である。
【0068】
第1乃至第5の実施の形態では、フロントハウジング21に複数の欠歯部210cが形成された場合について説明したが、本実施の形態ならびに後述する第7及び第8の実施の形態では、フロントハウジング21に欠歯部210cが設けられていない。このため、ハウジング20内に潤滑油を注入する際には、主としてメインインナクラッチプレート32の基材331に形成された油孔333及びメインカム42の押圧部421に形成された油孔420を潤滑油が流動する。
【0069】
本実施の形態では、フロントハウジング21に36本の内周スプライン突起211が設けられ、このうち2本の内周スプライン突起211に第1規制面211aが形成され、他の2本の内周スプライン突起211に第2規制面211bが形成されている。第1規制面211a又は第2規制面211bが形成された4本の内周スプライン突起211は、フロントハウジング21の周方向に等間隔に配置されている。
【0070】
また、上記の各実施の形態では、アーマチャ7の幅広突起74が二つの壁部73を有する場合について説明したが、本実施の形態ならびに後述する第7及び第8の実施の形態では、図11(b)に示すように、複数の幅広突起74それぞれ一つの壁部73を有している。本実施の形態では、アーマチャ7が二つの幅広突起74を有している。
【0071】
本実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様、パイロットクラッチ50におけるパイロットアウタクラッチプレート51及びパイロットインナクラッチプレート52の枚数が変わっても同一形状のハウジング20を用いて部品を共通化することができる他、第1の実施の形態に比較して第2領域210bにおいてパイロットアウタクラッチプレート51の係合突起511が係合する内周スプライン突起211の本数を増やすことができ、内周スプライン突起211とパイロットアウタクラッチプレート51との係合部における強度や耐摩耗性を向上させることが可能となる。
【0072】
[第7の実施の形態]
次に、図12を参照し、第7の実施の形態について説明する。図12(a)は、第7の実施の形態に係るフロントハウジング21をメインカム42と共にリヤハウジング22側から見た状態を示す構成図である。図12(b)は、図12(a)に示すフロントハウジング21に組み付けられるアーマチャ7を示す平面図である。
【0073】
第6の実施の形態では、フロントハウジング21が36本の内周スプライン突起211を有し、このうち2本の内周スプライン突起211に第1規制面211aが形成され、他の2本の内周スプライン突起211に第2規制面211bが形成された場合について説明したが、本実施の形態では、3本の内周スプライン突起211に第1規制面211aが形成され、他の3本の内周スプライン突起211に第2規制面211bが形成されている。第1規制面211a又は第2規制面211bが形成された6本の内周スプライン突起211は、フロントハウジング21の周方向に等間隔に配置されている。アーマチャ7は、それぞれが一つの壁部73を有する三つの幅広突起74を周方向等間隔に有している。
【0074】
この第7の実施の形態によれば、アーマチャ7の壁部73が3箇所で第1規制面211a又は第2規制面211bに当接するので、第1規制面211a又は第2規制面211bに当接したときのアーマチャ7の姿勢をより安定させることが可能となる。
【0075】
[第8の実施の形態]
次に、図13を参照し、第8の実施の形態について説明する。図13(a)は、第8の実施の形態に係るフロントハウジング21をメインカム42と共にリヤハウジング22側から見た状態を示す構成図である。図13(b)は、図13(a)に示すフロントハウジング21に組み付けられるアーマチャ7を示す平面図である。アーマチャ7は、第6の実施の形態と同様に構成されている。
【0076】
本実施の形態では、フロントハウジング21に形成された36本の内周スプライン突起211のうち、2本の内周スプライン突起211に第1規制面211aが形成され、他の2本の内周スプライン突起211に第2規制面211bが形成され、さらに他の2本の内周スプライン突起211に第3規制面211cが形成されている。第1規制面211a、第2規制面211b、又は第3規制面211cが形成された6本の内周スプライン突起211は、フロントハウジング21の周方向に等間隔に配置されている。第1規制面211a、第2規制面211b、及び第3規制面211cは、それぞれ軸方向の異なる位置でアーマチャ7の壁部73に当接し、アーマチャ7の軸方向位置を規制する。第3規制面211cは、例えばパイロットクラッチ50が4枚のパイロットアウタクラッチプレート51と3枚のパイロットインナクラッチプレート52とからなる場合にアーマチャ7の壁部73と当接する。このように、本実施の形態では、壁部73が規制面(第1規制面211a、第2規制面211b、又は第3規制面211c)に当接する軸方向における位置が、一組のパイロットクラッチプレートの厚みの整数倍で変化する。
【0077】
本実施の形態によれば、第6の実施の形態と同様の効果に加え、フロントハウジング21に対するアーマチャ7の軸方向の位置をパイロットアウタクラッチプレート51及びパイロットインナクラッチプレート52の枚数に応じて3段階で規制することができる。
【0078】
(付記)
以上、本発明を第1乃至第8の実施の形態に基づいて説明したが、これらの実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0079】
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で、一部の構成を省略し、あるいは構成を追加もしくは置換して、適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0080】
2…駆動力伝達装置
20…ハウジング(外側回転部材)
210…内周スプライン部
210a…第1領域
210b…第2領域
211…内周スプライン突起
211a…第1規制面
211b…第2規制面
211c…第3規制面
211d…第4規制面
23…インナシャフト
230…外周スプライン部
231…外周スプライン突起
3…メインクラッチ
31…メインアウタクラッチプレート(外側クラッチプレート)
32…メインインナクラッチプレート(内側クラッチプレート)
4…カム機構
41…パイロットカム(第1カム部材)
42…メインカム(第2カム部材)
50…パイロットクラッチ
51…パイロットアウタクラッチプレート(透磁性クラッチプレート)
52…パイロットインナクラッチプレート(透磁性クラッチプレート)
7…アーマチャ
72…係合突起
73…壁部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13