(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】トロリ線検測装置及びトロリ線検測方法
(51)【国際特許分類】
G01B 11/02 20060101AFI20231114BHJP
G01B 11/00 20060101ALI20231114BHJP
B60M 1/28 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
G01B11/02 H
G01B11/00 C
B60M1/28 R
(21)【出願番号】P 2020048517
(22)【出願日】2020-03-19
【審査請求日】2022-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山本 大樹
(72)【発明者】
【氏名】川畑 匠朗
【審査官】山▲崎▼ 和子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-223882(JP,A)
【文献】特開2020-037356(JP,A)
【文献】特開2019-078716(JP,A)
【文献】特開2019-028861(JP,A)
【文献】特開2015-137871(JP,A)
【文献】特開2017-215743(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
21/00-21/32
B60M 1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トロリ線を撮像するラインセンサを備え、当該ラインセンサにより撮像された画像を入力画像としてこれを基に前記トロリ線を検測する、トロリ線検測装置であって、
前記入力画像を時系列的に並べてラインセンサ画像を生成する、ラインセンサ画像生成部と、
前記ラインセンサ画像と、当該ラインセンサ画像内の各画素に対する、当該画素が前記トロリ線の摩耗領域に該当するか否かの正解値とを学習データとして、セマンティックセグメンテーションにより深層学習された学習モデルと、
当該学習モデルに対し、前記ラインセンサ画像を入力し、当該ラインセンサ画像内の各画素に対して、当該画素が前記摩耗領域に該当するか否かを推論し、前記摩耗領域を抽出した摩耗領域抽出画像を生成する、摩耗領域抽出部と、
当該摩耗領域抽出画像を基に、前記トロリ線の残存直径の算出、偏位の算出、過剰摩耗の判定のいずれかまたはいずれかの組み合わせを実行する、トロリ線検測部と、
を備え
、
前記正解値は、当該正解値に対応する前記ラインセンサ画像の画素が、前記摩耗領域、き電線、及び吊架線を含む分類区分のいずれに該当するかを示すものであり、
前記摩耗領域抽出部は、前記学習モデルに対し、前記ラインセンサ画像を入力し、当該ラインセンサ画像内の各画素に対して、当該画素がどの前記分類区分に該当するかを推論することで、当該画素が前記摩耗領域に該当するか否かを推論する、トロリ線検測装置。
【請求項2】
前記ラインセンサ画像生成部は、
前記入力画像を時系列的に並べた整列画像から、前記入力画像が時系列的に並べられた方向に延在する線条物を抽出する、線条物抽出部と、
前記整列画像から、抽出された前記線条物を含むように画像を切り出し、当該画像を、前記ラインセンサ画像として出力する、画像切り出し部と、
を備える、請求項1に記載のトロリ線検測装置。
【請求項3】
前記分類区分は、更に、前記摩耗領域に隣接する前記トロリ線の側面領域
を含み、
前記摩耗領域抽出部は、前記学習モデルに対し、前記ラインセンサ画像を入力し、当該ラインセンサ画像内の各画素に対して、当該画素が前記摩耗領域、前記側面領域、
前記き電線、前記吊架線、及
び他の領域
を含むいずれ
かの領域に該当するか否かを推論し、
前記トロリ線検測部は、前記側面領域の有無により、前記トロリ線が過剰に摩耗しているか否かを判定する、請求項1または2に記載のトロリ線検測装置。
【請求項4】
トロリ線を撮像するラインセンサにより撮像された画像を入力画像としてこれを基に前記トロリ線を検測する、トロリ線検測方法であって、
前記入力画像を時系列的に並べてラインセンサ画像を生成し、
前記ラインセンサ画像と、当該ラインセンサ画像内の各画素に対する、当該画素が前記トロリ線の摩耗領域に該当するか否かの正解値
であって、当該正解値に対応する前記ラインセンサ画像の画素が、前記摩耗領域、き電線、及び吊架線を含む分類区分のいずれに該当するかを示すものである、前記正解値と
、を学習データとして、セマンティックセグメンテーションにより深層学習された学習モデルに対し、前記ラインセンサ画像を入力し、当該ラインセンサ画像内の各画素に対して、
当該画素がどの前記分類区分に該当するかを推論することで、当該画素が前記摩耗領域に該当するか否かを推論し、前記摩耗領域を抽出した摩耗領域抽出画像を生成し、
当該摩耗領域抽出画像を基に、前記トロリ線の残存直径の算出、偏位の算出、過剰摩耗の判定のいずれかまたはいずれかの組み合わせを実行する、トロリ線検測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トロリ線検測装置及びトロリ線検測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気鉄道車両は、線路上を走行するに際し、線路の上方に設けられたトロリ線からパンタグラフ等の集電装置を介して給電されることで、動力を得る。電気鉄道車両が通過するたびに、集電装置がトロリ線の下面に対して滑動する。このため、電気鉄道車両を継続して運用すると、トロリ線は徐々に摩耗し、最終的には破断する。したがって、トロリ線には摩耗限界が設定されており、トロリ線の残存直径が管理値を下回った場合には、トロリ線は新品に交換される。
一方、集電装置の接触部も摩耗するため、接触部が一か所に集中しないように、トロリ線はレール直角方向にジグザグに偏位させて設置しており、この偏位量も管理されている。
これらの、トロリ線の検査測定を作業員が手作業で行うには、多大な手間を要する。したがって、トロリ線の自動検測装置やシステムが、運用されている。
【0003】
上記のような装置においては、電気鉄道車両の上方に、トロリ線の下側に位置する摩耗領域を照射する照明と、当該照明により照射された摩耗領域を撮像するラインセンサが設けられることがある。ラインセンサは、上向きに、走査線がトロリ線を横切るように設けられ、ラインセンサにより撮像された画像を時系列的に並べてラインセンサ画像が生成される。このラインセンサ画像に画像処理を適用した上で、例えばトロリ線の高さや太さ等のトロリ線の仕様に関する既知のデータを用いることで、トロリ線の偏位や残存直径が計算される。
例えば、特許文献1に、上記のような装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような装置においては、ラインセンサは上向きに設けられているため、ラインセンサ画像中の背景には、基本的には空が写されるが、場合によっては周囲の建築物や樹木など、空以外の物体が写り込むことがある。
また、トロリ線を撮像する時間帯に依存して、背景の輝度値が大きく変動する。例えば、晴れた昼間であれば輝度値は高くなるが、曇りであると輝度値は低くなるし、夜間やトンネル内等では輝度値は更に低下する。
【0006】
このように、ラインセンサ画像の背景の輝度値や、空以外の物体の写り込みの程度が、上記装置を実行させる線路区間や天候に依存して大きく異なる。
摩耗領域を正確に抽出するためには、基本的には、このような背景の影響を考慮し、処理対象となる画像に適した画像処理アルゴリズムやパラメータを、適宜選択するのが望ましい。
しかし、作業員が画像を都度確認して、これに適する画像処理アルゴリズムやパラメータを選択するのは、大きな工数を要する。
トロリ線を、容易に、かつ撮像環境の影響を低減して精度よく検測することが望まれている。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、ラインセンサにより撮像された画像を基にトロリ線を検測するに際し、検測を容易に、かつ撮像環境の影響を低減して精度よく実行可能な、トロリ線検測装置及びトロリ線検測方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。すなわち、本発明は、トロリ線を撮像するラインセンサを備え、当該ラインセンサにより撮像された画像を入力画像としてこれを基に前記トロリ線を検測する、トロリ線検測装置であって、前記入力画像を時系列的に並べてラインセンサ画像を生成する、ラインセンサ画像生成部と、前記ラインセンサ画像と、当該ラインセンサ画像内の各画素に対する、当該画素が前記トロリ線の摩耗領域に該当するか否かの正解値とを学習データとして、セマンティックセグメンテーションにより深層学習された学習モデルと、当該学習モデルに対し、前記ラインセンサ画像を入力し、当該ラインセンサ画像内の各画素に対して、当該画素が前記摩耗領域に該当するか否かを推論し、前記摩耗領域を抽出した摩耗領域抽出画像を生成する、摩耗領域抽出部と、当該摩耗領域抽出画像を基に、前記トロリ線の残存直径の算出、偏位の算出、過剰摩耗の判定のいずれかまたはいずれかの組み合わせを実行する、トロリ線検測部と、を備える、トロリ線検測装置を提供する。
【0009】
また、本発明は、トロリ線を撮像するラインセンサにより撮像された画像を入力画像としてこれを基に前記トロリ線を検測する、トロリ線検測方法であって、前記入力画像を時系列的に並べてラインセンサ画像を生成し、前記ラインセンサ画像と、当該ラインセンサ画像内の各画素に対する、当該画素が前記トロリ線の摩耗領域に該当するか否かの正解値とを学習データとして、セマンティックセグメンテーションにより深層学習された学習モデルに対し、前記ラインセンサ画像を入力し、当該ラインセンサ画像内の各画素に対して、当該画素が前記摩耗領域に該当するか否かを推論し、前記摩耗領域を抽出した摩耗領域抽出画像を生成し、当該摩耗領域抽出画像を基に、前記トロリ線の残存直径の算出、偏位の算出、過剰摩耗の判定のいずれかまたはいずれかの組み合わせを実行する、トロリ線検測方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ラインセンサにより撮像された画像を基にトロリ線を検測するに際し、検測を容易に、かつ撮像環境の影響を低減して精度よく実行可能な、トロリ線検測装置及びトロリ線検測方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態におけるトロリ線検測装置が搭載された電気鉄道車両の走行環境を示す説明図である。
【
図3】上記トロリ線検測装置のラインセンサにより撮像された画像を基に生成された、ラインセンサ画像の例である。
【
図4】上記トロリ線検測装置の、学習モデルの学習時に使用される教師画像の説明図である。
【
図6】上記トロリ線検測装置の、トロリ線偏位算出部の説明図である。
【
図7】上記トロリ線検測装置の、トロリ線残存直径算出部の説明図である。
【
図8】上記トロリ線検測装置を用いて動作される、トロリ線検測方法のフローチャートである。
【
図9】上記実施形態の第1変形例に関するトロリ線検測装置のブロック図である。
【
図10】上記第1変形例に関するトロリ線検測装置において、二値化処理後の画像の説明図である。
【
図11】上記第1変形例に関するトロリ線検測装置において、二値化処理後の画像において領域選択を行った状態の説明図である。
【
図12】上記第1変形例に関するトロリ線検測装置において、選択された領域をラインセンサ画像に適用した状態の説明図である。
【
図13】上記第1変形例に関するトロリ線検測装置において、選択された領域でラインセンサ画像を切り出した状態の説明図である。
【
図14】上記第1変形例に関するトロリ線検測装置を用いて動作される、トロリ線検測方法のフローチャートである。
【
図15】上記実施形態の第2変形例に関するトロリ線検測装置のブロック図である。
【
図16】上記第2変形例に関するトロリ線検測装置において、学習モデルによって出力された画像の説明図である。
【
図17】上記第2変形例に関するトロリ線検測装置を用いて動作される、トロリ線検測方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施形態におけるトロリ線検測装置20が搭載された、トロリ線の検測を行う検査車両1の走行環境を示す説明図である。
検査車両1は、地面に敷設された一対の線路2上を走行する。線路2の側には、線路2に沿って間隔をおいて、複数の電柱3が立設されている。電柱3にはビーム5や曲引き金具6が設けられている。ビーム5の上方には、検査車両1に電力を供給するための電力線であるき電線4が、線路2の延びる方向Rに沿って延在し、ビーム5に支持されて設けられている。ビーム5や曲引き金具6の下側には、同様に線路2の延びる方向Rに沿って延在するように、次に説明するトロリ線9を吊架する吊架線7が、ビーム5や曲引き金具6に支持されて設けられている。吊架線7には、線路2の延びる方向Rに略一定の間隔をおいて、複数のハンガ8が吊架されて設けられている。
トロリ線9は、これら複数のハンガ8に、一定の張力を有するように吊架されて、吊架線7の下側に、吊架線7と略平行となるように設けられている。トロリ線9には、図示されないき電分岐線によって、き電線4から電力が供給される。
検査車両1の上面1aには、パンタグラフ等の集電装置1bが設けられており、検査車両1が走行中に集電装置1bがトロリ線9に接触することで、トロリ線9から検査車両1に電力が供給される。
【0013】
トロリ線9が線路2と、平面視したときに平行に設けられていると、集電装置1bのトロリ線9と接する部分が限定されるため、集電装置1bの限られた部分が偏って摩耗し損傷するおそれがある。これを防ぐため、トロリ線9は線路2の延びる方向Rに沿って、緩やかにジグザグに蛇行するように設けられている。トロリ線9においては、この蛇行により生じる、一対の線路2間の中心に対するトロリ線9の左右の偏りである偏位が、厳重に管理されている。
【0014】
検査車両1をはじめとした電気鉄道車両が通過するたびに、集電装置1bがトロリ線9の下面に対して滑動する。このため、電気鉄道車両を継続して運用すると、トロリ線9は徐々に摩耗し、最終的には破断する。したがって、トロリ線9には摩耗限界が設定されており、トロリ線9の残存直径が管理値を下回った場合には、トロリ線9は新品に交換される。
本実施形態におけるトロリ線検測装置20は、トロリ線9の残存直径や偏位を測定することで、トロリ線9を検測する。
図2は、トロリ線検測装置20のブロック図である。
図1、
図2に示されるように、トロリ線検測装置20は、照明21、ラインセンサ22、及び制御装置23を備えている。
【0015】
照明21は、検査車両1の上面1aに、光を上方に向けて照射するように設けられている。次に説明するラインセンサ22によってトロリ線9を撮像した際に、トロリ線9の下側の、集電装置1bが滑動することによりトロリ線9が摩耗して平面状に形成された摩耗領域が、照明21の光を反射することにより、明るい領域として表示されるように撮像される。
【0016】
ラインセンサ22は、照明21と同様に、検査車両1の上面1aに設けられている。ラインセンサ22は、縦方向に1画素、横方向に複数の、例えば8192画素の画素数で構成される画像を撮像するカメラである。本実施形態においては、ラインセンサ22は、グレースケールの画像を撮像するため、各画素は1つの輝度値を有している。
ラインセンサ22は、鉛直方向上向きに、かつ走査線22aの方向22bが線路2の延びる方向Rに直交して、図示されない枕木の延在する方向と同一となるように設けられている。これにより、ラインセンサ22の走査線22aがトロリ線9を横切るようになっている。
ラインセンサ22は、検査車両1の走行中に、短い時間間隔をおいて連続的に、トロリ線9を撮像する。ラインセンサ22により撮像された画像は、入力画像として、制御装置23に送信される。
【0017】
制御装置23は、例えばパーソナルコンピュータ等の情報処理装置である。制御装置23は、検査車両1に搭載されている。
検査車両1は、ラインセンサ画像生成部30、摩耗領域抽出部31、及びトロリ線検測部32を備えている。摩耗領域抽出部31は、学習部35と補間処理部37を備えている。学習部35は、後に説明する学習モデル40と、学習データ記憶部36を備えている。トロリ線検測部32は、トロリ線偏位算出部38とトロリ線残存直径算出部39を備えている。
これら制御装置23の構成要素のうち、学習データ記憶部36以外は、例えば上記の各情報処理装置内のCPUにより実行されるソフトウェア、プログラムであってよい。また、学習データ記憶部36は、上記各情報処理装置内外に設けられた半導体メモリや磁気ディスクなどの記憶装置により実現されていてよい。
【0018】
ラインセンサ画像生成部30は、ラインセンサ22から入力画像を受信し、これを縦方向に時系列的に、例えば1000ラインを並べた整列画像を生成し、これをラインセンサ画像とする。
図3は、ラインセンサ画像50の説明図である。ラインセンサ画像50において、横方向Xは、ラインセンサ22の走査線22aの方向22bであり、縦方向Yは、時系列の方向、すなわち入力画像が並べられる方向である。
【0019】
図3に示されるラインセンサ画像50には、最も手前に、トロリ線9が撮像されている。トロリ線9は新品の状態においては略円形の断面を有しており、その下側が集電装置1bの滑動によって削られて、平面状の摩耗領域9aとなっている。摩耗領域9aには、照明21により光が照射されるため、明るく撮像されている。トロリ線9の、摩耗領域9aの両側には、摩耗領域9aの幅方向端部から外側へと湾曲しながら上方へと続くトロリ線9の表面が、側面領域9bとして撮像されている。すなわち、この側面領域9bは、トロリ線9の、集電装置1bが滑動、摺動しない、非摺動面である。
図3のラインセンサ画像50においては、トロリ線9が曲引き金具6により屈曲する部分が撮像されている。
トロリ線9の奥には、吊架線7が撮像されている。吊架線7のさらに奥には、き電線4と、これらを支持するビーム5、曲引き金具6が撮像されている。ビーム5と曲引き金具6は、ラインセンサ22の撮像間隔の影響で、実際よりも細く撮像されている。
トロリ線9、吊架線7、き電線4、ビーム5、及び曲引き金具6の背景として、空10が撮像されている。
【0020】
ラインセンサ画像生成部30は、このような整列画像であるラインセンサ画像50を生成し、摩耗領域抽出部31へと送信する。
【0021】
摩耗領域抽出部31の学習部35は、ラインセンサ画像50を受信し、ラインセンサ画像50内の各画素に対して、当該画素が摩耗領域9aに該当するか否かを推論し、摩耗領域9aを抽出する。この推論を効果的に行うために、学習部35は機械学習器を備えており、この機械学習器を深層学習して学習モデル40を生成する。学習部35は、実際に摩耗領域9aを抽出する処理を行う際には、この学習が完了した学習モデル40を使用して、入力されたラインセンサ画像50内の各画素に対して、当該画素が摩耗領域9aに該当するか否かを推論する。
すなわち、機械学習器は、人工知能ソフトウェアの一部であるプログラムモジュールとして利用される、適切な学習パラメータが学習された学習モデル40を生成するものである。
以下、説明を簡単にするため、学習部35が備えている機械学習器と、これが学習されて生成される学習モデルをともに、同じ符号を付して、学習モデル40と呼称する。
【0022】
学習モデル40の学習前の時点において、学習データ記憶部36には、多くのラインセンサ画像50が、学習データとして格納されている。
学習データ記憶部36に保存された各ラインセンサ画像50は、この学習モデル40の深層学習における、入力画像として使用される。学習モデル40が、入力されたラインセンサ画像50に対して深層学習するためには、深層学習の目標となる、ラインセンサ画像50に対応する教師データが必要である。
【0023】
各ラインセンサ画像50に対応する教師データは、ラインセンサ画像50内の各画素に対する、当該画素が摩耗領域9aに該当するか否かの正解値である。より詳細には、正解値は、学習画像45内の各画素に対応して表示される物が、摩耗領域9aか、またはそれ以外のものであるかとして大別される分類区分のいずれに該当するかを示すものである。
特に本実施形態においては、各画素に対して、当該画素が摩耗領域9aに該当するか否かを示す値である摩耗領域値、及び当該画素が摩耗領域9a以外のものに該当するか否かを示す値である背景値の、2つの値の組み合わせが正解値となる。摩耗領域値、背景値には、画素が分類区分内の各要素に該当する場合には例えば1が、該当しない場合には例えば0が、設定される。したがって、各画素に対して、各要素が0または1の、摩耗領域値、背景値の組み合わせである(摩耗領域値、背景値)が正解値となる。
例えば、
図3において摩耗領域9aに該当する画素の正解値は、(1、0)となり得る。摩耗領域9a以外に該当する画素の正解値は、(0、1)となり得る。
【0024】
各分類区分に固有の色を対応づけた際に、各画素を、対応する正解値が該当する分類区分の色で着色した画像を、以下、教師画像と呼称する。すなわち、教師画像は、ラインセンサ画像50と同等の解像度を備えており、各画素は、ラインセンサ画像50において当該画素に対応する画素に表示される物体が該当する分類区分に対応した色を有している。
図4は、教師画像51の説明図である。ラインセンサ画像50の、摩耗領域9aに相当する領域は白く、及び摩耗領域9a以外に相当する背景領域11は黒く、それぞれ着色されている。
教師画像51は、ラインセンサ画像50に対応付けられて、ラインセンサ画像50とあわせて学習データとして、学習データ記憶部36に保存されている。
【0025】
学習部35の学習モデル40は、上記のような学習データにより深層学習される。
図5は、学習モデル40の模式的なブロック図である。本実施形態においては、学習モデル43は、全層畳み込みネットワークにより実現されて、セマンティックセグメンテーションにより、入力された画像内の各画素が異常に該当するか否かを推論するように、学習されている。
学習モデル40は、複数の畳み込み層41a、41b、41cを備えた畳み込み処理部41と、複数の逆畳み込み層42c、42b、42aを備えた逆畳み込み処理部42を備えている。
【0026】
摩耗領域抽出部31は、学習データ記憶部36からラインセンサ画像50を取得し、初段の畳み込み層41aへと入力する。
畳み込み層41aは、図示されない所定の数のフィルタを備えている。学習モデル40は、これらのフィルタを用いて畳み込みフィルタ処理を実行し、フィルタの数に応じた特徴マップを生成する。
畳み込み層41aにおいて生成された特徴マップは、次段の畳み込み層41bの入力画像となる。
畳み込み層41b、41cにおいても同様に畳み込みフィルタ処理が実行され、特徴マップが生成される。畳み込み層41cにおいて生成された特徴マップは、逆畳み込み処理部42の逆畳み込み層42cへの入力となる。
【0027】
逆畳み込み処理部42は、畳み込み処理部41と対称的な構造となっている。すなわち、ラインセンサ画像50は畳み込み処理部41により低次元に圧縮されたが、逆畳み込み処理部42においては、低次元に圧縮された状態から拡大し、復元されるように動作する。より詳細には、畳み込み層41cに対応する逆畳み込み処理を実行する逆畳み込み層42c、畳み込み層41bに対応する逆畳み込み処理を実行する逆畳み込み層42b、及び畳み込み層41aに対応する逆畳み込み処理を実行する逆畳み込み層42aを順に経ることで、出力データが生成される。
【0028】
学習モデル40は、出力データとして、教師データと同様な要領で、ラインセンサ画像50内の各画素が分類区分の各々に該当し得る確率を出力する。例えば、ある画素に対し、当該画素が摩耗領域9aに該当する確率が0.8、摩耗領域9a以外に該当する確率が0.2であると、学習モデル40が推論した場合、当該画素に対して(0.8、0.2)の値の組み合わせが出力される。
出力データに基づき、
図4に示される教師画像51と同様に表現した画像を、以下、推論結果画像52と呼称する。すなわち、推論結果画像52は、推論結果の各々に関する情報を、これに対応する画素の位置に、色として反映して配置した画像であり、
図4に示されるように、各画素が、当該画素に対応する出力値に含まれる複数の確率値の中で、最も高い値の確率に対応する分類区分に対応した色を有するようになっている。
【0029】
上記のように各畳み込み層41a、41b、41cの各々において生成された特徴マップは、画像内の物体の位置のずれや大きさの違いの影響を受けにくいものとなっている。換言すれば、畳み込み処理部41により生成された特徴マップにおいては、物体の位置に関する情報の多くが失われている。
ここで、各逆畳み込み層42c、42b、42aにおいては、上記のように対応する畳み込み層41c、41b、41aに対応する処理を実行するとともに、各畳み込み層41c、41b、41aにおける処理データを使用することによって、各畳み込み層41a、41b、41cにおいて失われた位置情報を補完している。これにより、逆畳み込み処理部42から出力された推論結果画像52は、位置情報が画素単位で復元されたものとなっている。
【0030】
学習モデル40では、推論結果画像52における各画素に関する推論結果が、入力されたラインセンサ画像50に対応する教師データの正解値に近い値となるように、機械学習が行われる。このために、学習部35は、入力されたラインセンサ画像50に対応する教師画像51を学習データ記憶部36から取得し、教師画像51内の正解値と推論結果画像52の値を画素単位で比較して、例えば各画素間のこれらの差分の2乗誤差をコスト関数として計算する。
その上で、このコスト関数を小さくするように、誤差逆伝搬法等により、各フィルタの重みの値等を調整することで、学習モデル40が機械学習される。
結果として、例えば、
図3において摩耗領域9aに該当する画素の、教師画像51上での正解値は(1、0)であるため、出力データの当該画素に対応する出力値としては、1番目の摩耗領域9aに該当する確率値が他よりも1に近く、他の確率値が1番目の確率値よりも0に近い値の組み合わせとなり得る。
このように、学習が終了した学習モデル40は、何らかの画像が入力画像として入力された際に、入力画像内の各画素に対し、当該画素が分類区分の各々に該当し得る確率を出力する。
【0031】
実際にトロリ線9を検測する際には、摩耗領域抽出部31は、上記のように機械学習された学習モデル40に対し、ラインセンサ画像生成部30によって生成されたラインセンサ画像50を入力し、推論結果画像52を生成する。
補間処理部37は、推論結果画像52に対し、画像を縦方向Yに膨張、収縮させることで、縦方向Yに近接して分断されて表されている摩耗領域9aをつなぎ合わせる、クロージング処理を実行する。
このようにして、摩耗領域抽出部31は、ラインセンサ画像50を基に、摩耗領域9aが抽出された摩耗領域抽出画像を生成し、トロリ線検測部32に送信する。
【0032】
トロリ線検測部32のトロリ線偏位算出部38は、摩耗領域抽出画像を受信し、これを基に、トロリ線9の偏位を計算する。
図6は、偏位の算出原理の説明図である。
トロリ線偏位算出部38は、摩耗領域9aの重心座標d(単位:画素)を計算する。トロリ線偏位算出部38は、この重心座標と、事前に設定されたパラメータである、線路2からラインセンサ22のセンサ面22cまでの距離hs(mm)、ラインセンサ22のレンズの焦点距離f(mm)、ラインセンサ22のセンサ面22cの長さs(mm)、ラインセンサ22の画素数p(画素)、及び、本トロリ線検測装置20以外の他の測定装置により計算された、線路2からトロリ線9までの距離h(mm)を用いて、偏位D(単位:mm)を、次式により計算する。
【数1】
【0033】
トロリ線偏位算出部38は、上記のようにトロリ線9の偏位を計算し、トロリ線9が、摩耗領域抽出画像に対応する実際の場所において許容される偏位の範囲内に位置しているか否かを判定する。
トロリ線9が許容される偏位の範囲内に位置していない場合は異常であると判断し、記録する。
【0034】
トロリ線残存直径算出部39は、摩耗領域抽出画像を受信し、これを基に、トロリ線9の残存直径を算出する。
図7は、残存直径の算出原理の説明図である。
本実施形態においては、トロリ線9の残存直径、すなわち摩耗後のトロリ線9の高さを、残存直径として計算する。
トロリ線残存直径算出部39は、摩耗領域9aの摩耗面幅w(画素)を計算する。トロリ線残存直径算出部39は、摩耗領域9aの重心座標d(画素)と摩耗面幅w(画素)を基に、トロリ線9の実際の摩耗面幅W(mm)を計算する。トロリ線9の残存直径Dr(mm)は、この摩耗面幅W(mm)と、トロリ線9の半径を用いて、次式により表される。
【数2】
【0035】
トロリ線残存直径算出部39は、上記のようにトロリ線9の残存直径を計算し、残存直径が管理値を下回っていないか判定する。
残存直径が管理値を下回っている場合は異常であると判断し、その旨を記録する。
【0036】
次に、
図1~
図7、及び
図8を用いて、上記のトロリ線検測装置20を用いたトロリ線検測方法を説明する。
図8は、本実施形態におけるトロリ線検測方法のフローチャートである。
【0037】
まず、ラインセンサ画像50と、当該ラインセンサ画像50内の各画素に対する、当該画素がトロリ線9の摩耗領域9aに該当するか否かの正解値とを学習データとして、セマンティックセグメンテーションにより、学習モデル40を深層学習する。
実際にトロリ線9を検測する際には、処理が開始されると(ステップS1)、ラインセンサ画像生成部30は、ラインセンサ22から入力画像を受信し、これを基にラインセンサ画像50を生成し、摩耗領域抽出部31へと送信する。
摩耗領域抽出部31は、ラインセンサ画像50を受信し、学習が終了した学習モデル40にラインセンサ画像50を入力し、ラインセンサ画像50内の各画素に対して、当該画素が摩耗領域9aに該当するか否かを推論して、推論結果画像52を生成する(ステップS9)。
補間処理部37は、推論結果画像52に対してクロージング処理を実行する(ステップS11)。
このようにして、摩耗領域抽出部31は、ラインセンサ画像50を基に、摩耗領域9aが抽出された摩耗領域抽出画像を生成し、トロリ線検測部32に送信する。
【0038】
トロリ線検測部32のトロリ線偏位算出部38は、摩耗領域抽出画像を受信し、これを基に、トロリ線9の偏位を計算する(ステップS15)。
また、トロリ線検測部32のトロリ線残存直径算出部39は、摩耗領域抽出画像を基に、トロリ線9の残存直径を算出する(ステップS17)。
【0039】
次に、上記のトロリ線検測装置20及びトロリ線検測方法の効果について説明する。
【0040】
本実施形態におけるトロリ線検測装置20は、トロリ線9を撮像するラインセンサ22を備え、ラインセンサ22により撮像された画像を入力画像としてこれを基にトロリ線9を検測する、トロリ線検測装置20であって、入力画像を時系列的に並べてラインセンサ画像50を生成する、ラインセンサ画像生成部30と、ラインセンサ画像50と、当該ラインセンサ画像50内の各画素に対する、当該画素がトロリ線9の摩耗領域9aに該当するか否かの正解値とを学習データとして、セマンティックセグメンテーションにより深層学習された学習モデル40と、学習モデル40に対し、ラインセンサ画像50を入力し、ラインセンサ画像50内の各画素に対して、当該画素が摩耗領域9aに該当するか否かを推論し、摩耗領域9aを抽出した摩耗領域抽出画像を生成する、摩耗領域抽出部31と、摩耗領域抽出画像を基に、トロリ線9の残存直径の算出と偏位の算出を実行する、トロリ線検測部32と、を備える。
また、本実施形態におけるトロリ線検測方法は、トロリ線9を撮像するラインセンサ22により撮像された画像を入力画像としてこれを基にトロリ線9を検測する、トロリ線検測方法であって、入力画像を時系列的に並べてラインセンサ画像50を生成し、ラインセンサ画像50と、当該ラインセンサ画像50内の各画素に対する、当該画素がトロリ線9の摩耗領域9aに該当するか否かの正解値とを学習データとして、セマンティックセグメンテーションにより深層学習された学習モデル40に対し、ラインセンサ画像50を入力し、ラインセンサ画像50内の各画素に対して、当該画素が摩耗領域9aに該当するか否かを推論し、摩耗領域9aを抽出した摩耗領域抽出画像を生成し、摩耗領域抽出画像を基に、トロリ線9の残存直径の算出と偏位の算出を実行する。
上記のような構成、方法によれば、学習モデル40は、ラインセンサ画像50と、当該ラインセンサ画像50内の各画素に対する、当該画素がトロリ線9の摩耗領域9aに該当するか否かの正解値とを学習データとして、セマンティックセグメンテーションにより深層学習されている。この学習モデル40を用いて、ラインセンサ画像50内の各画素に対して、当該画素が摩耗領域9aに該当するか否かが推論される。
すなわち、ラインセンサ画像50の各画素に対して、画素単位で摩耗領域9aに該当するか否かが推論されるため、摩耗領域9aに関する正確な情報を、摩耗領域抽出部31が出力可能である。
また、学習モデル40はセマンティックセグメンテーションにより、摩耗領域9aの特徴を把握するように学習されているため、摩耗領域9aの抽出に際し、ラインセンサ22によって撮像された天候や時間等の撮像環境の影響を受けにくい。
したがって、トロリ線9の検測、本実施形態においては残存直径と偏位の算出を、撮像環境の影響を低減して、精度よく行うことができる。
また、学習モデル40は、一旦適切に学習されると、再学習や特段のパラメータ設定等を行う必要なく、使用することができる。特に、上記のように学習モデル40による摩耗領域9aの抽出は撮像環境の影響を受けにくいため、撮像環境に応じて処理内容を変更したりする必要がない。したがって、トロリ線検測装置20の運用が容易であり、トロリ線9を容易に検測可能となる。
【0041】
[実施形態の第1変形例]
次に、
図9~
図14を用いて、上記実施形態として示したトロリ線検測装置20及びトロリ線検測方法の第1変形例を説明する。
図9は、本変形例に関するトロリ線検測装置のブロック図である。
図10は、本変形例に関するトロリ線検測装置において、二値化処理後の画像の説明図である。
図11は、本変形例に関するトロリ線検測装置において、二値化処理後の画像において領域選択を行った状態の説明図である。
図12は、本変形例に関するトロリ線検測装置において、選択された領域をラインセンサ画像に適用した状態の説明図である。
図13は、本変形例に関するトロリ線検測装置において、選択された領域でラインセンサ画像を切り出した状態の説明図である。
図14は、本変形例に関するトロリ線検測装置を用いて動作される、トロリ線検測方法のフローチャートである。本変形例におけるトロリ線検測装置20Aは、上記実施形態のトロリ線検測装置20とは、ラインセンサ画像生成部30Aが、線条物抽出部60、二値化部61、及び画像切り出し部62を備えている点が異なっている。
本変形例のラインセンサ画像生成部30Aにおいては、上記実施形態において
図3を用いて示した、ラインセンサ22からの入力画像を時系列に並べた整列画像をラインセンサ画像として摩耗領域抽出部31に送付しない。ラインセンサ画像生成部30Aは、この整列画像に対し、線条物抽出部60、二値化部61、及び画像切り出し部62により更なる処理を適用して、ラインセンサ画像を生成する。
【0042】
線条物抽出部60は、
図3に示される整列画像に対し、例えば画像を収縮、膨張させてオープニングした後に、膨張収縮させる元となる画像を減算するGSTH(グレースケールトップハット)処理を適用することで、横方向Xに延在している線条物を抽出する。
その後、二値化部61において、線条物とそれ以外の領域の各々に関するクラス内分散とクラス間分散の分散比が最大となるように、画像に応じて二値化の閾値を決定する、判別分析二値化処理により、二値化処理を行う。
図10には、この二値化後の画像である二値化画像65が示されている。本変形例においては、線条物が白く、線条物以外の領域が黒くなるように、二値化画像65が生成されている。
【0043】
画像切り出し部62は、二値化画像65に対し、白い領域を囲繞するような領域R1を、特に横方向Xに白い領域と領域R1の外縁との間に十分な間隔を有するように、設定する。そして、画像切り出し部62は、
図12に示されるように、整列画像に対し、二値化画像65に対して設定された領域R1を、二値化画像65と同一の部分に設け、整列画像の当該領域R1内の部分を切り出すことで、
図13に示されるようなラインセンサ画像66を生成する。
本変形例においては、このように摩耗領域9aに相当する部分が切り出されて横方向Xの解像度が小さくなった画像をラインセンサ画像66として、学習モデル40の学習や、トロリ線9の検測処理が実行される。
【0044】
本変形例のトロリ線検測装置20Aを用いて動作される、トロリ線検測方法においては、
図14に示されるように、線条物を抽出する処理(ステップS3)、二値化処理(ステップS5)、及び整列画像からラインセンサ画像66を切り出す処理(ステップS7)が、
図8に示される上記実施形態のトロリ線検測方法に追加されている。
【0045】
本変形例のトロリ線検測装置20Aにおいては、ラインセンサ画像生成部30Aは、入力画像を時系列的に並べた整列画像から、入力画像が時系列的に並べられた方向Yに延在する線条物を抽出する、線条物抽出部60と、整列画像から、抽出された線条物を含むように画像を切り出し、当該画像を、ラインセンサ画像66として出力する、画像切り出し部62と、を備える。
上記実施形態の構成においては、摩耗領域9aの幅が、ラインセンサ画像50の横方向Xの幅に対して小さくなりがちである。特に学習モデル40においては畳み込み処理が行われているが、このような幅が小さな部分は畳み込み処理によりつぶれて消失することがある。したがって、学習モデル40の学習精度や、摩耗領域9aの推論精度が向上しにくい場合がある。
これに対し、本変形例においては、トロリ線9の近傍を切り出すことにより、横方向Xの幅に対する摩耗領域9aの幅の比が大きくなる。このような、切り出された画像を学習モデル40の学習、及び学習モデル40による推論に用いることにより、学習モデル40の学習精度や、摩耗領域9aの推論精度が向上する。
本変形例が、既に説明した実施形態と同様な他の効果を奏することは言うまでもない。
【0046】
[実施形態の第2変形例]
次に、
図15~
図17を用いて、上記実施形態として示したトロリ線検測装置20及びトロリ線検測方法の第2変形例を説明する。
図15は、本変形例に関するトロリ線検測装置のブロック図である。
図16は、本変形例に関するトロリ線検測装置において、学習モデルによって出力された画像の説明図である。
図17は、本変形例に関するトロリ線検測装置を用いて動作される、トロリ線検測方法のフローチャートである。本変形例におけるトロリ線検測装置20Bは、上記第1変形例のトロリ線検測装置20Aの更なる変形例であり、トロリ線検測装置20Aとは、トロリ線検測部32Bが、トロリ線9の残存直径と偏位の算出に加え、過剰摩耗の判定を行う点が異なっている。
【0047】
本変形例においては、トロリ線検測装置20Bは、トロリ線9の摩耗が進行し、摩耗領域9aの高さが、トロリ線9の中心を超えた上方の位置、例えば
図7にH1として示される位置となるまで、過剰に摩耗した、過剰摩耗を判定する。
トロリ線9の摩耗領域9aの高さがトロリ線9の中心を超えない場合においては、ラインセンサ画像は、例えば
図3に示されるように、摩耗領域9aの両側方に、摩耗領域9aに沿って、摩耗領域9aの幅方向端部から外側へと湾曲しながら上方へと続くトロリ線9の表面が、側面領域9bとして撮像される。これに対し、トロリ線9の摩耗領域9aの高さがトロリ線9の中心を超えて過剰摩耗していると、ラインセンサ22はトロリ線9を下方から撮像するため、ラインセンサ画像においては摩耗領域9aの両側方に側面領域9bが撮像されない。
トロリ線検測装置20Bは、この側面領域9bの有無を判定して、トロリ線9が過剰に摩耗しているか否かを判定する。
【0048】
これに対応するため、本変形例における学習モデル40Bにおいて、学習時に適用される正解値は、当該正解値に対応するラインセンサ画像の画素が、摩耗領域9a、側面領域9b、他の架線領域12、及び背景領域11を含む分類区分のいずれに該当するかを示すものとなっている。これにより、学習モデル40Bは、各画素が摩耗領域9a、側面領域9b、他の架線領域12、及び背景領域11のいずれに該当するかを推論した、推論結果画像52Bを出力するように、学習されている。
【0049】
この推論結果画像52Bに対して、補間処理部37によってクロージング処理が実行されて、摩耗領域抽出画像が生成される。
本変形例のトロリ線検測部32Bは、トロリ線摩耗進行度判定部70を備えている。トロリ線摩耗進行度判定部70は、摩耗領域抽出画像を受信して、摩耗領域9aの周囲に側面領域9bがあるか否かを判断し、無い場合には、トロリ線9が過剰に摩耗していると判定する。
【0050】
本変形例のトロリ線検測装置20Bを用いて動作される、トロリ線検測方法においては、
図17に示されるように、トロリ線9の過剰摩耗を判定する処理(ステップS13)が、
図14に示される上記第1変形例のトロリ線検測方法に追加されている。
【0051】
本変形例のトロリ線検測装置20Bにおいては、正解値は、当該正解値に対応するラインセンサ画像の画素が、摩耗領域9a、摩耗領域9aに隣接するトロリ線9の側面領域9b、及び摩耗領域9aと側面領域9b以外の他の領域11、12を含む分類区分のいずれに該当するかを示すものであり、摩耗領域抽出部31Bは、学習モデル40Bに対し、ラインセンサ画像を入力し、当該ラインセンサ画像内の各画素に対して、当該画素が摩耗領域9a、側面領域9b、及び他の領域11、12のいずれに該当するか否かを推論し、トロリ線検測部32Bは、側面領域9bの有無により、トロリ線9が過剰に摩耗しているか否かを判定する。
側面領域9bの幅は微小なものとなりがちであり、通常の画像処理において側面領域9bの有無を正確に判定することは難しい。
これに対し、本変形例においては、学習モデル40Bがセマンティックセグメンテーションにより側面領域9bの領域を推論し、この結果を基にトロリ線検測部32Bがトロリ線9の過剰摩耗を判定するため、精度よく側面領域9bを抽出することができる。したがって、正確に、過剰摩耗の判定を行うことができる。
本変形例が、既に説明した実施形態と同様な他の効果を奏することは言うまでもない。
【0052】
なお、本発明のトロリ線検測装置及びトロリ線検測方法は、図面を参照して説明した上述の実施形態及び各変形例に限定されるものではなく、その技術的範囲において他の様々な変形例が考えられる。
【0053】
例えば、上記実施形態及び第1変形例においては、トロリ線検測装置はトロリ線偏位算出部38とトロリ線残存直径測定部39の双方を備え、トロリ線9の残存直径と偏位の双方を算出するように構成されていた。また、上記第2変形例においては、トロリ線検測装置は、トロリ線偏位算出部38とトロリ線残存直径測定部39に加えてトロリ線摩耗進行度判定部70を備え、トロリ線9の残存直径の算出、偏位の算出、及び過剰摩耗の判定を実行していた。
トロリ線検測装置の構成はこれに限られない。例えば、トロリ線検測装置は、トロリ線偏位算出部38、トロリ線残存直径算出部39、及びトロリ線摩耗進行度判定部70のいずれかを1つだけ備え、トロリ線9の残存直径の算出、偏位の算出、及び過剰摩耗の判定のいずれか1つのみを実行してもよい。あるいは、トロリ線検測装置は、トロリ線偏位算出部38とトロリ線摩耗進行度判定部70を備え、偏位の算出と過剰摩耗の判定を行うように構成されていてもよい。または、トロリ線検測装置は、トロリ線残存直径算出部39とトロリ線摩耗進行度判定部70を備え、残存直径の算出と過剰摩耗の判定を行うように構成されていてもよい。
【0054】
また、上記実施形態及び第1変形例においては、分類区分は、摩耗領域9aと背景領域11に対応して設けられ、摩耗領域抽出部31は、ラインセンサ画像の各画素がこれら2つの分類区分のいずれに該当するかをセマンティックセグメンテーションにより推論することで、摩耗領域9aを抽出した。
同様に、第2変形例においては、分類区分は、摩耗領域9a、側面領域9b、及び他の領域11、12に対応して設けられ、摩耗領域抽出部31Bは、ラインセンサ画像の各画素がこれら複数の分類区分のいずれに該当するかをセマンティックセグメンテーションにより推論することで、摩耗領域9aを抽出した。
分類区分の設定は、上記に限られない。例えば、分類区分は、入力画像内に撮像される物体の種類に応じて設けられていてもよい。
例えば、分類区分を、
図3に示される全ての物体の種類、例えば摩耗領域9a、側面領域9b、き電線4、ビーム5、曲引き金具6、吊架線7、及びその他の領域の各々に対応付けて設けても構わない。あるいは、これらに加えて、
図3には示されていない、背景として撮像される可能性のある物体、例えば建築構造物、トンネル、鉄塔、樹木、空等の各々に対応付けるように、分類区分を更に細分化して設けても構わない。
上記実施形態及び各変形例においては、十分な精度で摩耗領域9aが抽出されることが確認されている。しかし、上記のように、分類区分をより細分化することにより、摩耗領域9a以外の他の物体の各々が、これに対応する分類区分に分類されるため、他の物体が誤って摩耗領域9aとして判定されることが抑制され、結果として摩耗領域9aの抽出精度が更に向上する。
あるいは、分類区分をこのように細分化しなくとも、例えば摩耗領域9aと誤認される可能性が高い物体に対してのみ、分類区分を設けるようにしてもよい。例えば、摩耗領域9aとき電線4、及び吊架線7は、ラインセンサ画像の縦方向Yに延在する線条物であるという同一の特徴を有するため、き電線4や吊架線7が誤って摩耗領域9aとして抽出される可能性もある。このような場合においては、複数の分類区分を、摩耗領域9a、き電線4、吊架線7と他の物体の各々に対応して設けてもよい。
このように、効果的に摩耗領域9aを抽出するに際し、複数の分類区分は、状況に応じ、どのように設けられても構わない。
以上記載したような形態においては、正解値は、当該正解値に対応するラインセンサ画像の画素が、入力画像内に撮像される物体の種類に応じて設けられた分類区分のいずれに該当するかを示すものであり、分類区分は摩耗領域9aを含み、摩耗領域抽出部は、学習モデルに対し、ラインセンサ画像を入力し、当該ラインセンサ画像内の各画素に対して、当該画素がどの分類区分に該当するかを推論する。
このような構成によれば、摩耗領域9aの抽出精度を向上することができる。
【0055】
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態及び各変形例で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 検査車両
9 トロリ線
9a 摩耗領域
9b 側面領域
11 背景領域(他の領域)
12 他の架線領域(他の領域)
20、20A、20B トロリ線検測装置
21 照明
22 ラインセンサ
23 制御装置
30、30A ラインセンサ画像生成部
31、31B 摩耗領域抽出部
32、32B トロリ線検測部
35 学習部
36 学習データ記憶部
37 補間処理部
38 トロリ線偏位算出部
39 トロリ線残存直径算出部
40、40B 学習モデル
50、66 ラインセンサ画像
60 線条物抽出部
61 二値化部
62 画像切り出し部
70 トロリ線摩耗進行度判定部