(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】軸受装置の診断装置
(51)【国際特許分類】
F16N 29/00 20060101AFI20231114BHJP
F16N 29/04 20060101ALI20231114BHJP
F16N 31/00 20060101ALI20231114BHJP
F16C 17/24 20060101ALI20231114BHJP
F16C 41/00 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
F16N29/00 B
F16N29/04
F16N31/00 B
F16C17/24
F16C41/00
(21)【出願番号】P 2020049750
(22)【出願日】2020-03-19
【審査請求日】2022-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128509
【氏名又は名称】絹谷 晴久
(74)【代理人】
【識別番号】100119356
【氏名又は名称】柱山 啓之
(72)【発明者】
【氏名】長田 英樹
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-049795(JP,A)
【文献】実開昭56-163707(JP,U)
【文献】特開平02-204147(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 17/24
F16C 41/00
F16N 29/00
F16N 29/04
F16N 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯車と、前記歯車を回転可能に支持するすべり軸受と、前記すべり軸受の軸受面に潤滑油を供給する油路とを備えた軸受装置の診断装置であって、
前記軸受面に供給される前の潤滑油の温度を検出する第1温度センサと、
前記軸受面を通過した後の潤滑油の温度を検出する第2温度センサと、
前記第1温度センサおよび前記第2温度センサによりそれぞれ検出された温度の差が所定のしきい値以上であり、かつ、その状態が所定時間以上継続したときに、前記軸受装置を異常と判断するように構成された診断ユニットと、
を
備え、
前記第2温度センサは、前記軸受面を通過した後に滴下する潤滑油に接触するような位置に配置されている
ことを特徴とする軸受装置の診断装置。
【請求項2】
前記軸受装置は、内燃機関の動力伝達機構に設けられる
請求項
1に記載の軸受装置の診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は軸受装置の診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば内燃機関においては、クランクシャフトからカムシャフトに動力を伝達する動力伝達機構が設けられる。そしてこの動力伝達機構が歯車式である場合、動力伝達機構には、歯車と、歯車を回転可能に支持するすべり軸受と、すべり軸受の軸受面に潤滑油を供給する油路とを備えた軸受装置が設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
軸受装置に潤滑不良による異常が生じると、歯車がすべり軸受に焼き付く等の故障に至る可能性がある。こうした故障に至る前に、軸受装置の異常を即座に検出することが望まれる。
【0005】
そこで本開示は、かかる事情に鑑みて創案され、その目的は、軸受装置の異常を即座に検出することができる軸受装置の診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一の態様によれば、
歯車と、前記歯車を回転可能に支持するすべり軸受と、前記すべり軸受の軸受面に潤滑油を供給する油路とを備えた軸受装置の診断装置であって、
前記軸受面に供給される前の潤滑油の温度を検出する第1温度センサと、
前記軸受面を通過した後の潤滑油の温度を検出する第2温度センサと、
前記第1温度センサおよび前記第2温度センサによりそれぞれ検出された温度の差が所定のしきい値以上であり、かつ、その状態が所定時間以上継続したときに、前記軸受装置を異常と判断するように構成された診断ユニットと、
を備えたことを特徴とする軸受装置の診断装置が提供される。
【0007】
好ましくは、前記第2温度センサは、前記軸受面を通過した後に滴下する潤滑油に接触するような位置に配置されている。
【0008】
好ましくは、前記軸受装置は、内燃機関の動力伝達機構に設けられる。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、軸受装置の異常を即座に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本開示の実施形態を説明する。なお本開示は以下の実施形態に限定されない点に留意されたい。
【0012】
図1は、本実施形態に係る軸受装置の診断装置を示す概略図である。軸受装置は内燃機関(エンジンともいう)に適用され、特に、内燃機関においてクランクシャフトからカムシャフトに動力を伝達する動力伝達機構に適用される。本実施形態において、内燃機関は車両用ディーゼルエンジンであり、車両はトラック等の大型車両である。しかしながら、車両および内燃機関の種類、用途等は特に限定されない。
【0013】
便宜上、前後左右上下の各方向を図示する通り定義する。但しこれら各方向が説明の便宜上定められたものに過ぎない点に留意されたい。本実施形態の場合、これら各方向は車両およびエンジンの各方向と一致する。
【0014】
軸受装置1は、エンジンブロック2の後面部に設けられる。エンジンブロック2には、シリンダブロック、クランクケースおよびシリンダヘッドが含まれ、本実施形態の軸受装置1はクランクケースに設けられる。軸受装置1は、歯車3と、歯車3を回転可能に支持するすべり軸受4と、すべり軸受4の軸受面5に潤滑油(一部を符号Oで示す)を供給する油路6とを備える。
【0015】
歯車3は、本実施形態の場合アイドルギアであり、駆動力伝達方向上流側の上流側歯車7と、下流側の下流側歯車8との間に噛合され、配置されている。
【0016】
すべり軸受4は、ブッシュとも称される略円柱状の部材であり、歯車3の中心部に挿通される。すべり軸受4は、前後方向に延びる中心軸Cを有すると共に、その外周側の軸受面5により、歯車3の内周面9を回転可能にかつラジアル方向に支持する。これら軸受面5および内周面9により軸受部10が形成される。すべり軸受4は、その中心部に挿通されるボルト11によりエンジンブロック2の後面部に固定される。なおすべり軸受4とエンジンブロック2には、すべり軸受4をボルト11で固定する際にすべり軸受4を回り止めする係合部(例えば溝と突起)が設けられる。
【0017】
すべり軸受4の前端部には、歯車3の前面部3Aをスラスト方向に支持する鍔部12が一体に形成されている。またボルト11とすべり軸受4の間には、歯車3の後面部3Bをスラスト方向に支持するワッシャ13が介設されている。
【0018】
油路6は、エンジンブロック2の内部に形成されたブロック内油路14と、すべり軸受4の内部に形成された軸受内油路15とを備える。ブロック内油路14の潤滑油流れ方向上流側には潤滑油溜めとしてのオイルギャラリ16が設けられ、ブロック内油路14にはオイルギャラリ16から潤滑油が供給される。オイルギャラリ16はエンジンブロック2(例えばクランクケース)の内部に形成されている。
【0019】
軸受内油路15は、L字状に形成され、その上流端がブロック内油路14に接続されると共に、その下流端が軸受面5上で開放されている。これにより、オイルギャラリ16からブロック内油路14に供給された潤滑油が、軸受内油路15を流れ、軸受部10に供給される。そして軸受部10が潤滑油により潤滑される。
【0020】
その後潤滑油は、前側の鍔部12と、歯車3の前面部3Aとの間のスラスト摺動部を潤滑し、その後、歯車3の前面部3Aを伝わって流れ落ち、符号Oで示す如く下方に滴下される。また潤滑油は、後側のワッシャ13と、歯車3の後面部3Bとの間のスラスト摺動部を潤滑し、その後、歯車3の後面部3Bを伝わって流れ落ち、上流側歯車7との噛合部に供給されたり、下方に滴下されたりする。
【0021】
一方、診断装置50は、軸受面5に供給される前の潤滑油の温度を検出する第1温度センサ51と、軸受面5を通過した後の潤滑油の温度を検出する第2温度センサ52と、軸受装置1が異常か否かを判定する診断ユニットとを備える。診断ユニットは、本実施形態の場合、エンジンを制御するための電子制御ユニット(ECU(Electronic Control Unit)という)100により構成される。ECU100は、第1温度センサ51および第2温度センサ52によりそれぞれ検出された温度の差が所定のしきい値以上であり、かつ、その状態が所定時間以上継続したときに、軸受装置1を異常と判断するように構成されている。
【0022】
第1温度センサ51は、オイルギャラリ16に設置され、オイルギャラリ16内の潤滑油の温度を検出する。第2温度センサ52は、軸受部10より下方の位置に配置され、詳しくは、軸受部10と前側のスラスト摺動部との潤滑を終え歯車3の前面部3Aから滴下する潤滑油Oに接触するような位置に配置されている。すなわち第2温度センサ52は、歯車3の前面部3Aの真下に配置されている。なお第2温度センサ52は軸状に形成され、中心軸Cに垂直な向きで配置されて、図外の位置でエンジンブロック2に支持される。
【0023】
これら第1温度センサ51および第2温度センサ52はECU100に接続される。またECU100には、車両のユーザー等に対して警告を行うための警告装置53も接続されている。警告装置53は、警告灯、アラーム、情報ディスプレイ等の任意のデバイスで構成することができる。
【0024】
さて、軸受装置1に潤滑不良による異常が生じると、歯車3がすべり軸受4に焼き付く等の故障に至る可能性がある。こうした故障に至る前に、軸受装置1の異常を即座に検出することが望まれる。
【0025】
詳しくは、軸受装置1の軸受部10に潤滑不良が生じる原因として、例えば、劣化した潤滑油の使用、あるいは歯車3を介して駆動される被駆動部品(補機等)の故障がある。かかる潤滑不良が生じると、軸受部10における潤滑油の量が少なくなり、軸受部10の摺動抵抗が高くなり、また、軸受部10が発熱してその温度が上昇する。すると、歯車3がすべり軸受4に焼き付く故障に至る可能性がある。またこの焼き付きにより、エンジン自体が過負荷により故障する可能性もある。
【0026】
いずれにしても、歯車3が焼き付くとエンジンを分解整備したり、最悪エンジンを交換したりしなければならない重度の故障に陥る。本実施形態はこうした重度の故障に至る前に、軸受装置1の異常を予防保全的に即座に検出し、これを以て重度の故障に至る確率を大幅に低減するものである。
【0027】
軸受部10の潤滑不良が生じると、第1温度センサ51により検出された第1温度T1に対し、第2温度センサ52により検出された第2温度T2が大きく上昇する。軸受部10を通過して第2温度センサ52に滴下した潤滑油が正常時よりも高温だからである。よって本実施形態では、第1温度T1と第2温度T2の差すなわち温度差ΔT=T2-T1が所定のしきい値ΔTs以上であるときに、焼き付きの前兆があると判断し、このことを、軸受装置1を異常と判断するための第1条件としている。
【0028】
一方、異常でないにも拘わらず何等かの原因で一時的に温度差ΔTがしきい値ΔTs以上に達することがある。本実施形態ではこうした場合に誤判定しないよう、温度差ΔTがしきい値ΔTs以上の状態が所定時間以上継続することを、軸受装置1を異常と判断するための第2条件としている。
【0029】
温度差のしきい値ΔTsは、例えば、軸受部10の潤滑不良が生じたときに実験的に求められる温度差ΔTの最小値と等しい値に設定されている。また所定時間は、例えば、軸受部10の潤滑不良が生じてないのに温度差ΔTが一時的にしきい値ΔTs以上となる時間であって、実験的に求められる時間の最大値に等しい値に設定されている。
【0030】
次に、
図2を参照して、本実施形態の診断のルーチンを説明する。図示するルーチンはECU100により所定の演算周期τ毎に繰り返し実行される。
【0031】
ステップS101において、ECU100は、第1温度センサ51および第2温度センサ52によりそれぞれ検出された第1温度T1および第2温度T2の値を取得する。
【0032】
ステップS102において、ECU100は、これら第1温度T1および第2温度T2の値から温度差ΔT=T2-T1を算出する。
【0033】
ステップS103において、ECU100は、算出した温度差ΔTが所定のしきい値ΔTs以上か否かを判断する。
【0034】
しきい値ΔTs以上の場合、ECU100はステップS104に進み、内蔵タイマの値(タイマ値)TMをカウントアップする。
【0035】
次いでステップS105において、ECU100は、タイマ値TMが、前記所定時間に相当する所定値TMs以上か否かを判断する。
【0036】
所定値TMs以上の場合、ECU100はステップS106に進み、軸受装置1を異常と判断し、警告装置53を起動(オン)してルーチンを終える。これにより車両のユーザー等に点検整備を促すことができる。
【0037】
車両のユーザー等が、警告に反応して即座に点検整備を実施することにより、歯車3が実際に焼き付く前に、異常原因を調べて取り除くことができる。よって重度の故障に至る前にその原因を解消でき、重度の故障が発生する確率を大幅に低減することができる。
【0038】
一方、ステップS105においてタイマ値TMが所定値TMs未満である場合、ECU100はそのままルーチンを終える。これによりタイマ値TMは現状の値に保持される。
【0039】
また、ステップS103において温度差ΔTがしきい値ΔTs未満の場合、ECU100は、ステップS107に進んでタイマ値TMをリセットした後、ルーチンを終える。
【0040】
カウントアップ中のタイマ値TMが所定値TMs以上となる前に、ステップS103において温度差ΔTがしきい値ΔTs未満となり、タイマ値TMがリセットされる場合がある。この場合とは、軸受装置1が正常なのに何等かの原因で温度差ΔTが一時的にしきい値ΔTs以上となり、その後しきい値ΔTs未満に復帰した場合に該当する。そのためこの場合には、誤判定を防止すべくタイマ値TMをリセットしてタイマ値TMのカウントアップも停止する。
【0041】
なおステップS106を実行しない場合、ECU100は実質的に、軸受装置1を異常でない、すなわち正常と判断することとなる。
【0042】
このように本実施形態によれば、軸受装置1の異常を即座に検出することができる。そしてその異常に起因して重度の故障に発展するのを予め防止することができる。
【0043】
以上、本開示の実施形態を詳細に述べたが、本開示の実施形態および変形例は他にも様々考えられる。
【0044】
(1)例えば軸受装置は、内燃機関の動力伝達装置以外の部位に適用されてもよく、内燃機関以外の機械装置に適用されてもよい。
【0045】
(2)第1温度センサ51および第2温度センサ52の温度検出箇所は上記に限られない。例えば第1温度センサ51は、オイルギャラリ16とブロック内油路14を接続する油路の潤滑油の温度を検出してもよく、ブロック内油路14または軸受内油路15の潤滑油の温度を検出してもよい。また第2温度センサ52は、回転する歯車3から飛散した潤滑油Oに接触してその潤滑油Oの温度を検出してもよい。第2温度センサ52は任意の高さ位置に配置可能であり、また、歯車3の前方または後方の位置に配置してもよい。
【0046】
本開示の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本開示の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本開示に含まれる。従って本開示は、限定的に解釈されるべきではなく、本開示の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 軸受装置
3 歯車
4 すべり軸受
5 軸受面
6 油路
51 第1温度センサ
52 第2温度センサ
100 電子制御ユニット(ECU)
O 潤滑油