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特許7384088ガーネット型固体電解質セパレータ及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】ガーネット型固体電解質セパレータ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20231114BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20231114BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20231114BHJP
   C04B 35/50 20060101ALI20231114BHJP
   C04B 35/488 20060101ALI20231114BHJP
   H01M 10/052 20100101ALN20231114BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M10/0562
H01B1/08
C04B35/50
C04B35/488
H01M10/052
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020053382
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021093344
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2019223210
(32)【優先日】2019-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 真祈
(72)【発明者】
【氏名】太田 慎吾
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-199539(JP,A)
【文献】特開2019-033053(JP,A)
【文献】特開2017-157394(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/06
H01M 10/0562
H01B 1/08
C04B 35/50
C04B 35/488
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガーネット型固体電解質を含むガーネット型固体電解質焼結体と、
前記ガーネット型固体電解質焼結体の少なくとも一方の表面に存在する炭素濃化層と、
該炭素濃化層の表面から深さ10μmの位置までの範囲であって、前記ガーネット型固体電解質焼結体の内部に存在する炭素濃化部と、を備え、
EDXにより算出される前記炭素濃化層の表面の組成において、炭素濃度が6.8質量%以上である、
ガーネット型固体電解質セパレータ。
【請求項2】
ガーネット型固体電解質が(Li7-3Y-Z,Al)(La)(Zr2-Z,M)O12(M=Nb、Taからなる群より選ばれる少なくとも1つ以上の元素。Y、Zは、0≦Y<0.22、0≦Z≦2の範囲の任意の数である。)である、請求項1に記載のガーネット型固体電解質セパレータ。
【請求項3】
前記炭素濃化層の表面のXPSスペクトルにおいて、LiCOのピークが存在する、請求項1又は2に記載のガーネット型固体電解質セパレータ。
【請求項4】
EDXにより算出される前記炭素濃化層の表面の組成において、質量基準で炭素/酸素比が0.17以上であり、炭素/ジルコニウム比が0.23以上である、請求項1~のいずれか1項に記載のガーネット型固体電解質セパレータ。
【請求項5】
前記ガーネット型固体電解質セパレータを前記炭素濃化部が露出するように厚さ方向に割断したときの、EDXにより算出される割断面の組成において、前記炭素濃化層の表面から深さ10μmの位置まで範囲であって、前記ガーネット型固体電解質焼結体の内部の平均炭素濃度が10質量%以上である、請求項1~のいずれか1項に記載のガーネット型固体電解質セパレータ。
【請求項6】
前記平均炭素濃度が20質量%以上である、請求項に記載のガーネット型固体電解質セパレータ。
【請求項7】
ガーネット型固体電解質焼結体の表面に酸素元素を含む溶媒を接触させる溶媒接触工程と、
前記溶媒接触工程後に、前記表面を450℃以上700℃未満の温度で加熱する加熱工程と、
を有する、ガーネット型固体電解質セパレータの製造方法。
【請求項8】
前記溶媒がアルコールである、請求項に記載のガーネット型固体電解質セパレータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願はガーネット型固体電解質セパレータ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体リチウムイオン電池において、従来からセパレータの材料にガーネット型固体電解質を使用することが検討されている。
【0003】
特許文献1には、ガーネット型酸化物固体電解質焼結体をセパレータとした酸化物全固体電池が開示されている。
特許文献2には、ガーネット型固体電解質を含む固体電解質基板の表面に、薄い炭酸リチウム層を被覆することで短絡を抑制する技術が開示されている。具体的には、次の事項が記載されている。固体電解質の結晶粒径を10μm以下とする。これにより、固体電解質表面の凹凸が軽減し、比表面積が向上するため、端子間の距離の不均一による短絡が抑制され、界面抵抗を軽減することができる。界面抵抗が軽減することで局所への電流の集中により短絡を抑制することができる。また、固体電解質基板に100nm以下の厚さの炭酸リチウム層を形成する。これにより、固体電解質基板の穴や傷を埋め、短絡をより抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-142432号公報
【文献】特開2017-199539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に記載されているように、固体電解質層の表面に炭酸リチウム層を被覆することで、確かに短絡は抑制される。しかしながら、この効果は限定的であり、4mA/cm以上の高い電流密度で数十分以上に亘って電流を流し、金属リチウムの溶解析出を繰り返すような条件においては、短絡を抑制しきれない。よって、特許文献2に記載されている発明では、短絡耐性についてまだまだ改善の余地があった。
【0006】
そこで、上記実情を鑑み、本願では短絡耐性の高いガーネット型固体電解質セパレータ及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、ガーネット型固体電解質焼結体の表面に炭素濃化層を設け、さらに表面付近の内部に炭素濃化部を備えることで、さらに短絡耐性が向上されることを知見した。当該知見に基づいて、本願では上記課題を解決するための以下の手段を開示する。
【0008】
すなわち、本願は上記課題を解決するための1つの手段として、ガーネット型固体電解質を含み、少なくとも一方の表面に炭素濃化層が存在するとともに、該表面から深さ10μmの位置までの範囲に炭素濃化部が存在している、ガーネット型固体電解質セパレータを開示する。
【0009】
上記ガーネット型固体電解質セパレータにおいて、ガーネット型固体電解質は(Li7-3Y-Z,Al)(La)(Zr2-Z,M)O12(M=Nb、Taからなる群より選ばれる少なくとも1つ以上の元素。Y、Zは、0≦Y<0.22、0≦Z≦2の範囲の任意の数である。)であることが好ましい。また、ガーネット型固体電解質セパレータの表面のXPSスペクトルにおいて、LiCOのピークが存在することが好ましい。EDXにより算出される上記表面の組成は、炭素濃度が6.8質量%以上であることが好ましい。若しくは、EDXにより算出される上記表面の組成は、質量基準で炭素/酸素比が0.17以上であり、炭素/ジルコニウム比が0.23以上であることが好ましい。さらに、ガーネット型固体電解質セパレータを炭素濃化部が露出するように厚さ方向に割断したときの、EDXにより算出される割断面の組成において、上記表面から深さ10μmの位置まで範囲の平均炭素濃度が10質量%以上であることが好ましい。より好ましくは平均炭素濃度が20質量%以上である。
【0010】
また、本願は上記課題を解決するための1つの手段として、ガーネット型固体電解質焼結体の表面に酸素元素を含む溶媒を接触させる溶媒接触工程と、溶媒接触工程後に、上記表面を炭素濃化層の生成温度以上の温度で加熱する加熱工程と、を有する、ガーネット型固体電解質セパレータの製造方法を開示する。
【0011】
上記ガーネット型固体電解質セパレータの製造方法において、溶媒はアルコールであることが好ましい。また加熱工程において、上記表面を450℃以上700℃未満の温度で加熱することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、従来技術に比べて限界電流密度が高く、短絡耐性に優れたガーネット型固体電解質セパレータを提供することができる。また、当該ガーネット型固体電解質セパレータの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】セパレータの割断面の表面付近に着目した模式図である。
図2】製造方法10のフローチャートである。
図3】炭素が濃化する推定メカニズムを説明する図である。
図4】実施例1、比較例1、2のXPSスペクトル(O-1s)である。
図5】実施例1、比較例1、2のXPSスペクトル(C-1s)である。
図6】比較例1に係るセパレータの割断面のSEM像である。
図7】比較例2に係るセパレータの割断面のSEM像である。
図8】実施例1に係るセパレータの割断面のSEM像である。
図9】比較例1に係るセパレータの割断面の平均炭素濃度をSEM-EDXにより算出した結果である。
図10】比較例2に係るセパレータの割断面の平均炭素濃度をSEM-EDXにより算出した結果である。
図11】比較例3に係るセパレータの割断面の平均炭素濃度をSEM-EDXにより算出した結果である。
図12】実施例1に係るセパレータの割断面の平均炭素濃度をSEM-EDXにより算出した結果である。
図13】実施例2に係るセパレータの割断面の平均炭素濃度をSEM-EDXにより算出した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、数値A及びBについて「A~B」という表記は「A以上B以下」を意味するものとする。かかる表記において数値Bのみに単位を付した場合には、当該単位が数値Aにも適用されるものとする。
【0015】
[ガーネット型固体電解質セパレータ]
本開示のガーネット型固体電解質セパレータは、ガーネット型固体電解質を含み、少なくとも一方の表面に炭素濃化層が存在するとともに、該表面から深さ10μmの位置までの範囲に炭素濃化部が存在していることを特徴としている。
【0016】
本開示のガーネット型固体電解質セパレータは、上記の特徴を有することにより、従来よりも高い限界電流密度を有し、優れた短絡耐性を示す。
【0017】
以下、それぞれの構成について説明する。
【0018】
(ガーネット型固体電解質)
本開示において、ガーネット型固体電解質とはLiイオン伝導性を有し、少なくともLiを含み、Li12の化学組成で表される、ガーネット型の結晶構造を有する固体電解質である。ここで、XはAの価数をa、Bの価数をbとしたとき、X=24-3a-2bの関係を満たす。このようなガーネット型固体電解質としては、例えば、LLZと呼ばれる(Li7-3Y-Z,Al)(La)(Zr2-Z,M)O12(M=Nb、Taからなる群より選ばれる少なくとも1つ以上の元素。Y、Zは、0≦Y<0.22、0≦Z≦2の範囲の任意の数である。)を挙げることができる。LLZとしては、公知の組成のものを採用することができる。例えば、代表的な組成としてLiLaZr12を挙げることができる。
【0019】
ガーネット型固体電解質の含有量は、ガーネット型固体電解質セパレータを100質量%としたとき、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。ガーネット型固体電解質の含有量が50質量%未満であると、リチウムイオン伝導性が低下する場合がある。ガーネット型固体電解質の含有量の上限は特に限定されず、99質量%以下としてもよい。
【0020】
(炭素濃化層)
本開示のガーネット型固体電解質セパレータは少なくとも一方の表面に炭素濃化層を備えている。「炭素濃化層」とは、炭素元素濃度がその他の部分よりも高い領域が層状に存在している部分を指す。炭素濃化層はガーネット型固体電解質セパレータの両方の表面に備えられていてもよい。ここで、「表面」とはガーネット型固体電解質セパレータをリチウムイオン電池に使用したときに、正極層又は負極層に接する又は対向する面を意味する。
【0021】
炭素濃化層はLiCO(炭酸リチウム)を主体としていることが好ましい。「主体としている」とは、炭素濃化層におけるLiCOの含有量が50質量%以上である。好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上である。LiCOの含有量の上限は特に限定されず、炭素濃化層は全てLiCOからなっていてもよい。
【0022】
ガーネット型固体電解質セパレータは、表面に炭素濃化層を備えることにより、短絡耐性を向上することができる。これは、固体電解質焼結体の表面に存在するマイクロクラック等の欠陥が炭素濃化層によって被覆されているため、当該欠陥を起点とするリチウムの析出、進展を抑制できると考えられるためである。
【0023】
炭素濃化層の厚さは特に限定されないが、上記の効果が十分に奏される厚さであることが好ましい。これは、次のとおりXPS(X線光電子分光法)及び/又はEDX(エネルギー分散型X線分析)の分析結果から判断することができる。
【0024】
炭素濃化層を有する表面をXPSで分析する場合、XPSスペクトルにおいてLiCOのピークが存在することが好ましい。XPSスペクトルにおいてLiCOのピークの存在が確認できることは、炭素濃化層がピークを確認できる程度の厚さを有していることを示すものであるからである。XPSスペクトルにおいてLiCOのピークの存在が確認できれば、炭素濃化層の厚さが上記の効果を奏するのに十分であると判断することができる。LiCOのピークは、例えばXPSのO1sスペクトルにおいて531.5±0.3eV付近に存在し、及びC1sスペクトルにおいて289.6±0.5eV付近に存在する。
【0025】
炭素濃化層を有する表面をEDXで分析する場合、EDXにより算出される表面組成の炭素濃度が6.8質量%以上であることが好ましく、7.3質量%以上であることがより好ましい。表面組成の炭素濃度が6.8質量%以上であると、炭素濃化層の厚さが上記の効果を奏するのに十分であると判断することができる。表面組成の炭素濃度の上限は特に限定されないが、炭素濃度が15.5質量%未満であることが好ましく、9.4以下であることがより好ましい。表面組成の炭素濃度が15.5質量%以上であると、炭素濃化層が厚くなりすぎ、ガーネット型固体電解質セパレータの界面抵抗が増加する虞がある。
【0026】
ここで、EDXは測定条件が分析結果に影響を与える場合がある。そこで、次のように規格化した値を用いてもよい。すなわち、EDXにより算出させる表面組成において、質量比で炭素/酸素比が0.17以上であることが好ましく、炭素/ジルコニウム比が0.23以上であることが好ましい。質量比の上限は特に限定されないが、炭素/酸素比は0.24未満であることが好ましく、0.19以下であることがより好ましい。また、炭素/ジルコニウム比は1.2未満であることが好ましく、0.37以下であることがより好ましい。
【0027】
EDXとしては、SEM(走査型電子顕微鏡)を併用したSEM-EDXを用いることができる。
【0028】
(炭素濃化部)
本開示のガーネット型固体電解質セパレータは、表面(炭素濃化層が形成されている側の表面)から深さ10μmの位置までの範囲に炭素濃化部が存在している。
【0029】
「表面から深さ10μmの位置まで」とは、ガーネット型固体電解質セパレータの厚さ方向の範囲を定めるものであり、ガーネット型固体電解質セパレータを電池に使用する場合の積層方向の範囲を定めるものである。厚さ方向の範囲は上記のとおり、表面から10μmの位置までの範囲である。
「炭素濃化部」とは、炭素元素濃度がその他の部分よりも高い領域であり、LiCOを主体としていることが好ましい。炭素濃化部の有無はSEM像等により特定することができる。炭素濃化部はガーネット型固体電解質セパレータの表面付近(表面から深さ10μmの範囲)に存在する欠陥(固体電解質間の隙間等)に形成される。通常、原料である固体電解質焼結体はこのような欠陥を多数有するため、本開示における炭素濃化部は表面付近に多数点在して形成されている。
【0030】
本開示のガーネット型固体電解質セパレータは、炭素濃化部が表面から深さ10μmの位置までの範囲に炭素濃化部が存在することにより、限界電流密度を向上し、短絡耐性を向上することができる。これは、リチウムの析出、進展の起点となる欠陥に炭素濃化部が形成されていることにより、リチウムデンドライトの進展が抑制されると考えられるためである。
【0031】
ここで、炭素濃化部は上記のとおりガーネット型固体電解質セパレータの表面付近に多数点在して形成されている。このように炭素濃化部が多数点在していることはSEM像等により特定することができるが、定量化することは難しい。そこで、本願では、EDXから算出される平均炭素濃度から、炭素濃化部の分布の度合いを定量することとした。EDXとしては例えばSEM-EDXを用いることができる。
【0032】
具体的には次のように行う。まず、ガーネット型固体電解質セパレータを炭素濃化部が露出するように厚さ方向に割断する。一般的に、セラミックスは不純物濃度が高い部分からから破断する傾向にある。ガーネット型固体電解質セパレータにあっては、炭素濃化部が不純物に該当するため、通常の割断方法で炭素濃化部を露出するように割断することができる。割断方法としては、例えば、セパレータの表面をエタノールに浸漬する方法等で、表面に存在するLiを除去したのち、表面にダイヤモンドペン等で線状痕を付与し、これに沿って劈開させる方法等で行うことができる。
このような割断方法を用いると、炭素濃化部が露出するように割断されるので、表面の炭素濃度と表面付近の割断面の炭素濃度とは差異が生じ得る。そのため、表面よりも表面付近の割断面の炭素濃度の方が高くなる傾向にある。
【0033】
次に割断面に対してEDXにより面分析を行う。図1に割断面の表面付近に着目した模式図を示した。図1の紙面上下方向が厚さ方向であり、紙面左右方向が厚さ方向に直交する方向である。Aは炭素濃化層であり、Bは炭素濃化部である。破線で示す範囲Cが面分析の測定範囲である。Oは測定範囲の中心点であり、中心点とは測定範囲の厚さ方向及び厚さ方向に直交する方向の長さをそれぞれ垂直に2等分する直線の交点である。
【0034】
面分析は、中心点が表面から深さ10μmまでの範囲に含まれているように行う。また、表面から深さ10μmまでの範囲に対する厚さ方向の測定範囲の割合が60%以上となるように測定する。表面から10μmまでの範囲のみについて面分析を行うことが困難であるためである。ただし、精度を向上する観点から、好ましくは上記測定領域の割合が70%以上となるように測定することであり、より好ましくは上記測定領域の割合が80%以上となるように測定することであり、さらに好ましくは上記測定領域の割合が90%以上となるように測定することである。ここで、表面から深さ10μmまでの範囲について、2以上の面分析を行ってもよい。その場合は、厚さ方向の測定範囲の合計から上記の割合を算出する。面分析の厚さ方向の範囲は5~10μmとする。面分析の厚さ方向に直交する方向の範囲については特に限定されないが、例えば25~30μmとする。
【0035】
このような面分析は、例えば次のように行う。すなわち、割断面の厚さ方向について8.7±5μmの範囲、厚さ方向に直交する方向について25μmの範囲を設定して面分析を行う。この場合、厚さ方向における表面から10μmの位置までの範囲のうち、63%を分析するように設定されている。
【0036】
上記の測定条件を満たすようにEDXを用いて、割断面について面分析を行うことで、表面から深さ10μmの位置まで範囲の平均炭素濃度を算出することができる。表面から深さ10μmまでの範囲について2以上の面分析を行った場合は、得られた結果の平均値を表面から深さ10μmの位置まで範囲の平均炭素濃度とする。ここで、本明細書における「平均炭素濃度」とは、EDXにより算出される炭素、ジルコニウム、及び酸素の合計の質量に対する炭素の質量の割合(質量比で炭素/(炭素+ジルコニウム+酸素))を意味する。
【0037】
また、平均炭素濃度を算出する際に次の事情を考慮して算出してもよい。後述するように、本開示のガーネット型固体電解質セパレータの製造方法では、炭素濃化層等の生成の材料となる溶媒をガーネット型固体電解質焼結体に接触させている。このようにしてガーネット型固体電解質セパレータを製造している場合、平均炭素濃度は表面から内部に向けて減少する傾向になる。このような傾向は、ガーネット型固体電解質セパレータの割断面に対して、複数箇所について面分析を行うことで特定することができる。よって、割断面の平均炭素濃度について特定の傾向がみられるようであれば、それを考慮して平均炭素濃度を算出してよい。例えば、表面から深さ10μmの位置まで範囲のうち、60%以上を含むように測定された平均炭素濃度値と、深さ10μm以上の範囲で適宜設定(適宜設定する値は10μmに近い方がよい)して測定された平均炭素濃度値とが、比例関係にあると仮定して、表面から深さ10μmの位置までの範囲の平均炭素濃度を計算してもよい。
【0038】
このようにして、表面から深さ10μmの位置まで範囲の平均炭素濃度を算出することができる。好ましい平均炭素濃度は次のとおりである。すなわち、EDXにより算出される割断面の組成において、表面から深さ10μmの位置まで範囲の平均炭素濃度は10質量%以上であることが好ましい。平均炭素濃度が10質量%以上であると、セパレータの限界電流密度を向上し、短絡耐性を向上することができる。より好ましくは、平均炭素濃度が20質量%以上である。平均炭素濃度の上限は特に限定されず、平均炭素濃度が40質量%以下でとしてもよい。平均炭素濃度が40質量%を超えている場合は、表面付近のセパレータ内部に炭素濃化部が多量に形成されていることを示すものである。このように炭素濃化部が多量に形成されていると、ガーネット型固体電解質セパレータの強度が低下し、割れ等を引き起こす問題が生じる。
【0039】
また、表面から深さ10μmの位置まで範囲の平均炭素濃度が、深さ10μmを超える範囲の平均炭素濃度の倍以上であることが好ましい。これにより内部に比べて表面付近に炭素濃化部が多数点在することとなるため、短絡耐性が向上する。ここで、深さ10μmを超える範囲の平均炭素濃度とは、深さ10μmを超える範囲に中心点が含まれるように面分析を行ったときの平均炭素濃度であり、2以上面分析を行った場合は、得られた平均炭素濃度の平均値である。深さ10μmを超える範囲の平均炭素濃度を算出する際は測定範囲の中心点が10μm超50μm以下の範囲に含まれるように面分析を行う。
【0040】
(ガーネット型固体電解質セパレータ)
以上、本開示のガーネット型固体電解質セパレータについて説明した。上記に説明したとおり、本開示のガーネット型固体電解質セパレータは表面に炭素濃化層を有し、さらに表面付近の内部に炭素濃化部が存在している。これにより、相乗的に限界電流密度を向上することができるため、優れた短絡耐性を示すことができる。
【0041】
本開示のガーネット型固体電解質セパレータは、全固体電池用のセパレータとして用いることができる。例えば、リチウムイオン全固体電池のセパレータとして好適に用いることができる。
【0042】
[ガーネット型固体電解質セパレータの製造方法]
次に上記したガーネット型固体電解質セパレータの製造方法について説明する。上記したガーネット型固体電解質セパレータの製造方法は特に限定されるものではないが、本願では次の製造方法を開示する。
【0043】
すなわち、ガーネット型固体電解質焼結体の表面に酸素元素を含む溶媒を接触させる溶媒接触工程と、溶媒接触工程後に、上記表面を炭素濃化層の生成温度以上の温度で加熱する加熱工程と、を有する、ガーネット型固体電解質セパレータの製造方法を開示する。
【0044】
以下、本開示のガーネット型固体電解質セパレータの製造方法について、一実施形態であるガーネット型固体電解質セパレータの製造方法10(以下、「製造方法10」ということがある)を用いて説明する。図2は製造方法10のフローチャートである。
【0045】
図2のとおり、製造方法10は溶媒接触工程S1と加熱工程S2とを備えている。
【0046】
(溶媒接触工程S1)
溶媒接触工程S1は、ガーネット型固体電解質焼結体の表面に酸素元素を含む溶媒を接触させる工程である。ガーネット型固体電解質焼結体の表面に酸素元素を含む溶媒を接触させることにより、後述する加熱工程S2において、ガーネット型固体電解質と溶媒とが反応し、LiCOを析出させることができる。LiCOが表面で析出すると炭素濃化層となり、表面付近の内部で析出すると炭素濃化部となる。
【0047】
ガーネット型固体電解質焼結体は、ガーネット型固体電解質を主体とする焼結体である。具体的には、ガーネット型固体電解質を50質量%以上含むものであり、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上含むものである。ガーネット型固体電解質の含有量の上限は特に限定されず、ガーネット型固体電解質焼結体がガーネット型固体電解質のみからなっていてもよい。このようなガーネット型固体電解質焼結体は公知の方法により作製することができる。例えば、ガーネット型固体電解質含む焼結体材料をアルゴン雰囲気下、400℃~500℃の条件で焼結することにより作製することができる。
【0048】
酸素元素を含む溶媒は、酸素元素を含み、且つ、後述する加熱工程S2においてLiCOを析出させることが可能な溶媒であれば特に限定されない。例えば、水等の極性溶媒やアルコール、ワックス等の炭素元素を含む材料を溶解した酸素元素を含む溶媒(ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、エーテル類(ジエチルエーテル、ジブチルエーテル等)等)を挙げることができる。ガーネット型固体電解質焼結体への浸水性の観点から、好ましくは水又はアルコールである。より好ましくはアルコールである。水よりもアルコールの方が、穏やかにLiCO生成反応が進むためである。水を用いるとガーネット型固体電解質焼結体中のリチウムイオンが水中に溶出し、水素イオンに置換されて、リチウムイオン伝導度を低下させる虞がある。アルコールとしては、メタノールやエタノール、プロパノール、ブタノール等を挙げることができる。好ましくはエタノールである。
【0049】
ガーネット型固体電解質焼結体の表面に上記溶媒を接触させる方法は特に限定されないが、例えばピペット等を用いて上記溶媒を滴下して、表面に含浸させる方法を挙げることができる。また、ガーネット型固体電解質焼結体の表面を上記の溶媒に浸漬させてもよい。表面への上記溶媒の接触は、表面の少なくとも一部でもよいが、表面全体に上記溶媒を接触させることが好ましい。
【0050】
ガーネット型固体電解質焼結体の表面に接触させる上記溶媒の量は、加熱工程S2において、炭素濃化層及び炭素濃化部が適切に生成するようを適宜設定する。溶媒の種類によって必要な量が異なる場合があるためである。
【0051】
また、溶媒接触工程S1において、ガーネット型固体電解質焼結体の表面に上記溶媒に接触させるとともに表面を研磨(湿式研磨)してもよい。これにより、表面を平滑にすることができ、炭素濃化層の厚さも均一にすることができる。研磨にはサンドペーパー等を用いることができる。
【0052】
(加熱工程S2)
加熱工程S2は、溶媒接触工程S1後に行うものであり、ガーネット型固体電解質焼結体の表面を炭素濃化層の生成温度以上の温度で加熱する工程である。溶媒接触工程S1により、上記の溶媒がガーネット型固体電解質焼結体の表面及び表面付近の欠陥(焼結欠陥、ミクロボイド、ミクロクラック)に浸漬しているため、加熱工程S2により当該表面を加熱することで、ガーネット型固体電解質焼結体の表面に炭素濃化層を形成し、表面付近の内部に炭素濃化部を形成することができる。
【0053】
ここで、本発明者らは、炭素濃化層及び炭素濃化部は次のような炭素が濃化するメカニズムによって形成していると推定している。図3に溶媒としてエタノールを用いた場合の模式図を示した。上記したようにガーネット型固体電解質焼結体の表面及び表面付近の内部には欠陥(連通孔等)が存在する。そのため、(a)溶媒接触工程S1により当該欠陥にエタノールが接触し、(b)浸透する。また、(c)エタノール中に残留する水分に大気中のCOが吸収される。そして、(d)加熱工程S2により当該表面を加熱することで、ガーネット型固体電解質焼結体、水及びCOの反応が促進されLiCOが生成し、それにより炭素が濃化する。かかるメカニズムにより炭素濃化層及び炭素濃化部が形成すると考えられる。なお、上述したように、炭素が濃化した部分は割れやすいため、(e)EDX測定の際に行う割断はこのような部分を起点に割れる傾向にある。
【0054】
加熱工程S2における加熱温度は、炭素濃化層の生成温度以上の温度であれば特に限定されないが、反応を促進する観点から450℃以上が好ましい。ただし、反応速度が速すぎると、生成する炭素濃化層が厚くなりすぎ、電池作成の際にセパレータと負極との界面形成が困難となる。また、炭素濃化層に多数の凹凸が生じてしまい好ましくない。そのため、加熱温度は700℃未満であることが好ましく、550℃以下であることがより好ましい。
【0055】
加熱工程S2における加熱時間は特に限定されず、加熱温度に従って適宜設定する。例えば、15分~1時間の間に設定することが好ましい。
加熱工程S2の加熱方法は特に限定されないが、例えばホットプレート等を用いて行うことができる。加熱雰囲気は大気雰囲気中でもよい。
【0056】
以上の工程を備えることにより、本開示のガーネット型固体電解質セパレータを製造することができる。
【実施例
【0057】
以下、実施例を用いて本開示のガーネット型固体電解質セパレータについてさらに説明する。
【0058】
[ガーネット型固体電解質セパレータの作製]
ガーネット型固体電解質セパレータの基礎となる焼結体にLLZ焼結体を用いた。LLZ焼結体は豊島製作所製であり、φ11.2mm×t3mmの円盤形状である。組成はLi6.6LaZr1.6Ta0.412であり、相対密度が97%以上である。このLLZ焼結体に対し以下の表面処理を行い、実施例1~3及び比較例1~4に係るガーネット型固体電解質セパレータを作製した。
【0059】
比較例1に係るセパレータは、アルゴン雰囲気下において上記のLLZ焼結体の一方の表面全体を#2000のサンドペーパーで研磨することにより作製した。
比較例2に係るセパレータは、大気中で上記のLLZ焼結体の一方の表面全体を#2000のサンドペーパーで研磨した後、大気中で450℃のホットプレートにて当該表面を15分間加熱し、その後放冷することにより作製した。
比較例3に係るセパレータは、上記のLLZ焼結体の一方の表面全体に対し、大気中でエタノールを滴下しながら#2000のサンドペーパーで研磨し、その後大気中で400℃のホットプレートにて当該表面を10分間加熱し、その後放冷することにより作製した。
実施例1に係るセパレータは、上記のLLZ焼結体の一方の表面全体に対し、大気中でエタノールを滴下しながら#2000のサンドペーパーで研磨し、その後大気中で450℃のホットプレートにて当該表面を15分間加熱し、その後放冷することにより作製した。
実施例2に係るセパレータは、上記のLLZ焼結体の一方の表面全体に対し、大気中でエタノールを滴下しながら#2000のサンドペーパーで研磨し、その後大気中で550℃のホットプレートにて当該表面を1時間加熱し、その後放冷することにより作製した。
実施例3に係るセパレータは、上記のLLZ焼結体の一方の表面全体に対し、大気中で水を滴下しながら#2000のサンドペーパーで研磨し、その後大気中で550℃のホットプレートにて当該表面を1時間加熱し、その後放冷することにより作製した。
比較例4に係るセパレータは、上記のLLZ焼結体の一方の表面全体に対し、大気中でエタノールを滴下しながら#2000のサンドペーパーで研磨し、その後大気中で700℃のホットプレートにて当該表面を1時間加熱し、その後放冷することにより作製した。
【0060】
[評価]
(限界電流密度の測定)
実施例1、2及び比較例1~4に係るセパレータそれぞれについて、上記の処理を行った面に金属リチウム箔(厚さ50μm)を接着し、他方の面に銅箔(厚さ10μm)を接着し、実施例1、2及び比較例1~4に係る評価用電池(ハーフセル)を作製した。
【0061】
次に、上記において作製した評価用電池それぞれに対して、積層方向の上下面からφ11.28mmの鉄製ピン2本を用いて、200~300kgfの荷重をかけて拘束し、電気化学評価装置(北斗電工製 充放電評価システム)に接続した状態で60℃に加温した。
そして、評価用電池に対し、低電流モードで±0.1mA/cm、±0.25mA/cm、±0.4mA/cm、±0.5mA/cm、±1mA/cm、±2mA/cm、±4mA/cm、±8mA/cm、±16mA/cmの順に段階的に上昇させながら、それぞれの電流モードについて1hずつ通電し、その際の電圧を測定した。電圧値が0V近くに急激に減少した時点で短絡したと判断し、その時点における限界電流密度(CCD:Critical Current Density)を、短絡した時点よりも1段低い電流密度とした。結果を表1に示した。ここで、実施例1及び比較例1、3はそれぞれ4例ずつ、実施例2及び比較例2はそれぞれ2例ずつ行った。また、比較例4はLLZ焼結体表面の炭素濃化層が厚く、金属Liとの界面形成が困難であったため測定できなかった。
【0062】
【表1】
【0063】
表1の結果のとおり、比較例1~3の限界電流密度は2mA/cm以下であったが、実施例1の限界電流密度は最大で8mA/cm、実施例2の限界電流密度は最大で4mA/cmであった。この結果から、実施例1、2は比較例1~3に比べて限界電流密度が高く、優れた短絡耐性を示すといえる。
【0064】
(XPSによる表面分析)
実施例1及び比較例1、2に係るセパレータについて、処理を行った側の表面をXPSによって測定した。XPS装置はアルバックファイ製PHI-5000 VersaProve IIを用いた。得られたスペクトル(O-1sスペクトル及びC-1sスペクトルを図4、5に示した。
【0065】
図4、5から、実施例1、比較例2のXPSスペクトルにおいて、明瞭なLiCOのピークが観測された。よって、実施例1、比較例2に係るセパレータ表面にはLiCOの層(炭素濃化層)が存在していると考えられ、さらに当該炭素濃化層はXPSで観測できる程度以上の厚みを持っているものであると考えられる。一方で、比較例1にはLiCOのピークが観測できなかった。
【0066】
(EDXによる表面分析)
実施例1~3及び比較例1~4に係るセパレータについて、処理を行った側の表面をSEM-EDXによって測定し、表面組成(質量%)を算出した。SEMは日立ハイテクノロジーズ製SU-8000を用いた。EDXは堀場製作所製X-max 80mmを用いて、加速電圧を5kVとして測定した。測定は任意の3領域で行い、炭素、酸素、ジルコニウムの含有量を算出した。表2、3に結果を示した。
【0067】
表2は実施例1及び比較例1、2の結果について詳細に説明したものである。元素比較は平均値に基づいて算出している。
表3は実施例1~3及び比較例1~4について、表面処理の条件と表面組成の結果とを比較できるように掲載したものである。表3の炭素濃度、C/Zr比、C/O比は表2と同様に、平均値に基づいて算出されている。
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
表2より、比較例1の炭素濃度よりも比較例2の炭素濃度の方が高く、比較例2の炭素濃度よりも実施例1の炭素濃度の方が高いことが分かった。表面組成における炭素濃度はLiCO由来であると考えられるため、炭素濃度が高いほど炭素濃化層が厚いと考えられる。規格化した炭素/ジルコニウム比、及び炭素/酸素比からも、同様の傾向が読み取れる。
このことから、LLZ焼結体の表面に対して、溶媒を接触させてから加熱処理を行うことにより、より厚みを持った炭素濃化層を形成することができると考えられる。
【0071】
次に、表3の結果から表面処理の条件について検討した。実施例1~3より、溶媒としては水及びアルコールの何れも用いることができることが確認できた。また、加熱温度については、450℃~550℃の範囲では特に問題が起こらないことが確認できた。一方で、比較例3は400℃で加熱処理されており、炭素濃度が実施例に比べて低かった。そのため炭素濃化層の厚みが十分でなく、表1の通り限界電流密度が低かったと考えられる。また、比較例4では700℃で加熱処理を行っているため、実施例よりも炭素濃度は高いが、表面に多数の凹凸を有する炭素濃化層が生成したため、電池の使用には適さなかった。
【0072】
(SEM-EDXによる割断面分析)
実施例1及び比較例1、2に係るセパレータを割断し、その割断面についてSEM-EDXによる分析を行った。割断は、セパレータ表面にダイヤモンドペンを用いて線状痕を付与し、当該線状痕を挟んでセパレータ両端をプライヤーで保持し、曲げ応力を付加して線状痕に沿って劈開させる方法で行った。図6図8に実施例1及び比較例1、2に係るセパレータの表面(金属Li箔/LLZ(セパレータ)界面)付近のSEM像を示した。図6は比較例1のSEM像であり、図7は比較例2のSEM像であり、図8は実施例1のSEM像である。
【0073】
図6図8より、比較例1、2のSEM像には軽元素を示す黒い領域は少ないが、実施例1のSEM像では表面付近に黒い領域が集中していることが確認できた。このことから、実施例1のセパレータの表面付近に何らかの元素が濃化していると考えられる。セパレータの作製方法から、セパレータ内部にもLiCOが生成していると推測できるため、黒い領域は炭素が濃化した領域であると予想される。そこで、実施例1、2及び比較例1~3に係るセパレータの割断面に対してEDXを用いて炭素濃度を算出した。
【0074】
EDXによる分析は、2視野ずつ、且つ断面を数個の領域に分けてそれぞれ面分析を行い、測定領域の平均炭素濃度(質量%)を算出した。比較例1の面分析はセパレータの厚さ方向10μm、厚さ方向に直交する方向25μmの範囲で行った。比較例2、3及び実施例1、2の面分析はセパレータの厚さ方向5μm、厚さ方向に直交する方向25μmの範囲で行った。結果には厚さ方向における分析範囲の中心点の位置を記載した。また、平均炭素濃度は、表面付近(表面から深さ10μmの位置までの範囲)と、内部(表面から深さ10μmを超える範囲)との領域を分けて算出し、各領域において2以上測定した場合は、それらの平均値を各領域における平均炭素濃度とした。
【0075】
比較例1では表面から中心点までの距離8.3μm、18μm、29μm、41μm、53μm、66μmの位置において面分析を行った。比較例2では、表面から中心点までの距離3.75μm、9.67μm、16.1μm、22.1μm、29.1μm、36.1μm、42.9μm、49.7μmの位置において面分析を行った。比較例3では、表面から中心点までの距離2.46μm、6.93μm、11.7μm、16.48μm、21.10μm、25.48μm、30.12μmの位置において面分析を行った。実施例1では、表面から中心点までの距離2.46μm、6.93μm、11.7μm、16.5μm、21.2μm、25.5μm、30.1μmの位置において面分析を行った。実施例2では、表面から中心点までの距離2.41μm、7.04μm、11.9μm、16.9μm、22.2μm、28.0μm、34.4μmの位置において面分析を行った。
結果を図9図13に示した。図9は比較例1の結果であり、図10は比較例2の結果であり、図11は比較例3の結果であり、図12は実施例1の結果であり、図13は実施例2の結果である。
【0076】
図9によれば、比較例1の表面付近の平均炭素濃度は8.92%であり、内部の平均炭素濃度は6.15%であった。図10によれば、比較例2の表面付近の平均炭素濃度は3.62%であり、内部の平均炭素濃度は2.55%であった。このように比較例1、2の平均炭素濃度は、表面付近と内部との間に大きな違いはなかった。これに対し、図11によれば、比較例3の表面付近の平均炭素濃度は9.67%であり、内部の平均炭素濃度は3.08%であった。このように比較例3は内部の平均炭素濃度に比べて表面付近の平均炭素濃度が大きいことから、表面付近で炭素元素が濃化していることが確認できた。しかし、後述する実施例1、2に比べてまだまだ小さい値であった。
【0077】
一方で、図12、13によれば、実施例1、2では平均炭素濃度について、表面付近と内部との間に大きな違いがあり、平均炭素濃度は表面に近いほど高いことが分かった。具体的には実施例1における表面付近の平均炭素濃度は49.3%、内部の平均炭素濃度は10.3%であり、実施例2における表面付近の平均炭素濃度は22.4%、内部の平均炭素濃度は8.46%であった。これらの結果から、SEM像において観測された黒い領域は炭素が濃化した領域であると考えられ、また先の結果を考慮すると、この炭素はLiCO由来であると考えられる。また、表面付近の平均炭素濃度が10%以上、好ましくは20%以上であると優れた短絡耐性を示すものと考えられる。
【0078】
(考察)
以上の結果から、ガーネット型固体電解質セパレータの表面付近はLiCO由来の炭素に富む組織であることが分かった。セラミックスのような脆性材料は、表面にある微細な凹部やクラックを起点に亀裂が進展して割断されることが知られている。従って、割断面の表面付近には焼結時に生じたボイドやクラックといった欠陥が露出していると考えられる。実施例1ではこのような欠陥にLiCOが多く分布していることから(図8)、表面処理の際にエタノールが欠陥部に浸透し、熱処理によってエタノールとガーネット型固体電解質とが反応することにより、LiCOが生成したと考えられる。
そして、LiCOは金属リチウムとのぬれ性が極めて低いため、欠陥部を覆う炭酸リチウムがリチウムデンドライトの進展を妨げることで、短絡耐性が向上したと考えられる(表1)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13