(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】塗装システムおよび塗装方法
(51)【国際特許分類】
B05B 12/00 20180101AFI20231114BHJP
B05B 5/025 20060101ALI20231114BHJP
B05B 16/60 20180101ALI20231114BHJP
B05D 1/02 20060101ALI20231114BHJP
B05D 1/36 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
B05B12/00 A
B05B5/025 A
B05B16/60
B05D1/02 B
B05D1/36 Z
(21)【出願番号】P 2020095191
(22)【出願日】2020-06-01
【審査請求日】2022-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷 真二
(72)【発明者】
【氏名】沼里 亮
(72)【発明者】
【氏名】田中 一基
(72)【発明者】
【氏名】木村 拓史
【審査官】大塚 美咲
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-323272(JP,A)
【文献】特開2004-290892(JP,A)
【文献】特開昭63-200862(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0220249(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 12/00
B05B 5/025
B05B 16/60
B05D 1/02
B05D 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗装物における上部の領域を塗装する第1塗装ロボットと、前記被塗装物における前記上部の領域よりも下側の領域を塗装する第2塗装ロボットとを有する塗装ユニットを備え、前記被塗装物
が水平方向に移動可能となっていると共に、
前記第1塗装ロボットと前記第2塗装ロボットとが前記被塗装物の移動方向に沿って並べられて配設されており、前記各塗装ロボットから前記被塗装物に向けて塗料を吹き付けて当該被塗装物を塗装する塗装システムにおいて、
前記第1塗装ロボットは、
塗装室の床部に固定されて該床部から上方に延びる支柱に取り付けられた第1ロボットベースと、該第1ロボットベース上に稼働可能に取り付けられた第1ロボットアームとを備え、前記第2塗装ロボットは、
前記塗装室の床部に固定されて該床部から上方に延びる支柱に取り付けられた第2ロボットベースと、該第2ロボットベース上に稼働可能に取り付けられた第2ロボットアームとを備えており、
前記被塗装物の移動方向に沿い且つ鉛直方向に延在する仮想平面を基準面とした場合に、
前記塗装ユニットは、前記基準面を挟んで両側に配設されており、これら塗装ユニットそれぞれにおける各塗装ロボットのうち前記被塗装物の移動方向の上流側に位置する各塗装ロボット同士が前記基準面を挟んで互いに対向するように配設されており、また、これら塗装ユニットそれぞれにおける各塗装ロボットのうち前記被塗装物の移動方向の下流側に位置する各塗装ロボット同士が前記基準面を挟んで互いに対向するように配設されており、
前記基準面に対して一方側に配設された前記塗装ユニットにあっては、前記第1塗装ロボットが前記被塗装物の上面における前記一方側の領域を、前記第2塗装ロボットが前記被塗装物における前記一方側の側面をそれぞれ塗装し、前記基準面に対して他方側に配設された前記塗装ユニットにあっては、前記第1塗装ロボットが前記被塗装物の上面における前記他方側の領域を、前記第2塗装ロボットが前記被塗装物における前記他方側の側面をそれぞれ塗装するようになっており、
前記基準面に対して一方側に配設された前記塗装ユニット、および 前記基準面に対して他方側に配設された前記塗装ユニットそれぞれにあっては、前記第1ロボットベースと前記基準面との間の距離
が、前記第2ロボットベースと前記基準面との間の距離よりも短く設定されており、前記第1ロボットベースの配設高さ位置
が、前記第2ロボットベースの配設高さ位置よりも上方に設定されていて、前記第1ロボットベースの下側には、前記第2ロボットアームが通過するロボットアーム通過範囲が設けられて
おり、
更に、前記基準面に対して一方側に配設された前記塗装ユニットにあっては、前記第1塗装ロボットが、前記被塗装物の移動方向に沿って並べられた前記各塗装ロボットのうちの当該移動方向の下流側に位置する塗装ロボットとなっており、前記第2塗装ロボットが、前記被塗装物の移動方向に沿って並べられた前記各塗装ロボットのうちの当該移動方向の上流側に位置する塗装ロボットとなっており、
前記基準面に対して他方側に配設された前記塗装ユニットにあっては、前記第1塗装ロボットが、前記被塗装物の移動方向に沿って並べられた前記各塗装ロボットのうちの当該移動方向の上流側に位置する塗装ロボットとなっており、前記第2塗装ロボットが、前記被塗装物の移動方向に沿って並べられた前記各塗装ロボットのうちの当該移動方向の下流側に位置する塗装ロボットとなっていることを特徴とする塗装システム。
【請求項2】
請求項1記載の塗装システムにおいて、
前記第1塗装ロボットの稼働および前記第2塗装ロボットの稼働を共に制御する単一の制御装置を備えていることを特徴とする塗装システム。
【請求項3】
請求項2記載の塗装システムにおいて、
前記被塗装物の搬送経路および前記塗装ユニットが収容され且つ外部と遮断される塗装用空間を構成する塗装ブースを備えており、前記制御装置は、前記塗装ブースの外部に配設されていることを特徴とする塗装システム。
【請求項4】
請求項1、2または3記載の塗装システムにおいて、
前記第1ロボットアームおよび前記第2ロボットアームは共に前記被塗装物に向けて塗料を吹き付けるスプレーガンを搭載しており、前記各スプレーガンのうち少なくとも一方は、塗料を静電微粒化して該塗料を前記被塗装物に向けて吹き付けるよう構成されていることを特徴とする塗装システム。
【請求項5】
請求項1~4のうち何れか一つに記載の塗装システムを使用した塗装方法であって、
前記被塗装物が水平方向に移動すると共に、前記被塗装物における上部の領域を前記第1塗装ロボットによって塗装し、前記被塗装物における前記上部の領域よりも下側の領域を前記第2塗装ロボットによって塗装することを特徴とする塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車の車体等の被塗装物を塗装する塗装システムおよび該塗装システムを使用した塗装方法に係る。特に、本発明は、所定の基準面に対して同じ側に少なくとも2台の塗装ロボットを備えた塗装システムおよび塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体等の被塗装物に対して霧状の塗料を吹き付けることで塗装する塗装システムとして特許文献1に開示されているものが知られている。この特許文献1の塗装システムは、被塗装物の搬送経路に沿って複数台の塗装ロボットを配置すると共に、各塗装ロボットの配設高さ位置を上下方向でオフセットさせている。具体的な一例として、被塗装物の上面を塗装する第1塗装ロボットと、被塗装物の側面を塗装する第2塗装ロボットとを備えさせ、第1塗装ロボットの配設高さ位置を第2塗装ロボットの配設高さ位置よりも高い位置に設定すると共に、第1塗装ロボットの配設位置を第2塗装ロボットの配設位置よりも外側(搬送経路から遠い側)に設定することが開示されている。つまり、この特許文献1では、被塗装物において搬送経路の中央部に近い領域(例えば被塗装物の上面の中央部)を塗装する塗装ロボット(前記第1塗装ロボット)と、被塗装物において搬送経路の中央部から遠い領域(例えば被塗装物の側面)を塗装する塗装ロボット(前記第2塗装ロボット)とを併用することで被塗装物の各領域(被塗装物の上面や側面)を塗装するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に塗装ロボットは、ロボットベースと、該ロボットベース上に搭載され搬送経路上の被塗装物に向けて延在するロボットアームとを備えている。そして、特許文献1に開示されているように、被塗装物において搬送経路の中央部に近い領域を塗装する第1塗装ロボットと、被塗装物において搬送経路の中央部から遠い領域を塗装する第2塗装ロボットとを併用する場合、第1塗装ロボットにあっては、ロボットアームを長くして、ロボットアーム先端に設けられたスプレーガンが被塗装物の上面の中央部まで届くようにしておく必要がある。しかしながら、ロボットアームを長くした場合には、第1塗装ロボットが大型化してしまい、塗装システムの大型化を招いてしまうことになる。塗装システムの大型化は、設備費用やランニングコストの高騰に繋がるため好ましくない。
【0005】
ロボットアームを長くすることを避けるための手段として、第1塗装ロボットのロボットベースの位置を搬送経路に近い位置に設定しておくことが考えられる。しかし、この場合、単に第1塗装ロボットのロボットベースの位置を搬送経路に近い位置に設定しただけでは、第2塗装ロボットのロボットアームの可動範囲が第1塗装ロボットによって制限される(第1塗装ロボットに干渉しないようにするために可動範囲が制限されてしまう)可能性があり、被塗装物の側面の塗装に悪影響を与えてしまう可能性がある。
【0006】
このように、搬送経路に沿って複数台の塗装ロボットを配置した塗装システムにあっては、塗装ロボットの小型化とロボットアームの可動範囲の拡大とを両立することが難しかった。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、塗装ロボットの小型化とロボットアームの可動範囲の拡大とを両立することができる塗装システムおよび該塗装システムを使用した塗装方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するための本発明の解決手段は、被塗装物における上部の領域を塗装する第1塗装ロボットと、前記被塗装物における前記上部の領域よりも下側の領域を塗装する第2塗装ロボットとを有する塗装ユニットを備え、前記被塗装物が水平方向に移動可能となっていると共に、前記第1塗装ロボットと前記第2塗装ロボットとが前記被塗装物の移動方向に沿って並べられて配設されており、前記各塗装ロボットから前記被塗装物に向けて塗料を吹き付けて当該被塗装物を塗装する塗装システムを前提とする。そして、この塗装システムは、前記第1塗装ロボットが、塗装室の床部に固定されて該床部から上方に延びる支柱に取り付けられた第1ロボットベースと、該第1ロボットベース上に稼働可能に取り付けられた第1ロボットアームとを備え、前記第2塗装ロボットが、前記塗装室の床部に固定されて該床部から上方に延びる支柱に取り付けられた第2ロボットベースと、該第2ロボットベース上に稼働可能に取り付けられた第2ロボットアームとを備えており、前記被塗装物の移動方向に沿い且つ鉛直方向に延在する仮想平面を基準面とした場合に、前記塗装ユニットは、前記基準面を挟んで両側に配設されており、これら塗装ユニットそれぞれにおける各塗装ロボットのうち前記被塗装物の移動方向の上流側に位置する各塗装ロボット同士が前記基準面を挟んで互いに対向するように配設されており、また、これら塗装ユニットそれぞれにおける各塗装ロボットのうち前記被塗装物の移動方向の下流側に位置する各塗装ロボット同士が前記基準面を挟んで互いに対向するように配設されており、前記基準面に対して一方側に配設された前記塗装ユニットにあっては、前記第1塗装ロボットが前記被塗装物の上面における前記一方側の領域を、前記第2塗装ロボットが前記被塗装物における前記一方側の側面をそれぞれ塗装し、前記基準面に対して他方側に配設された前記塗装ユニットにあっては、前記第1塗装ロボットが前記被塗装物の上面における前記他方側の領域を、前記第2塗装ロボットが前記被塗装物における前記他方側の側面をそれぞれ塗装するようになっており、前記基準面に対して一方側に配設された前記塗装ユニット、および 前記基準面に対して他方側に配設された前記塗装ユニットそれぞれにあっては、前記第1ロボットベースと前記基準面との間の距離が、前記第2ロボットベースと前記基準面との間の距離よりも短く設定されており、前記第1ロボットベースの配設高さ位置が、前記第2ロボットベースの配設高さ位置よりも上方に設定されていて、前記第1ロボットベースの下側には、前記第2ロボットアームが通過するロボットアーム通過範囲が設けられており、更に、前記基準面に対して一方側に配設された前記塗装ユニットにあっては、前記第1塗装ロボットが、前記被塗装物の移動方向に沿って並べられた前記各塗装ロボットのうちの当該移動方向の下流側に位置する塗装ロボットとなっており、前記第2塗装ロボットが、前記被塗装物の移動方向に沿って並べられた前記各塗装ロボットのうちの当該移動方向の上流側に位置する塗装ロボットとなっており、前記基準面に対して他方側に配設された前記塗装ユニットにあっては、前記第1塗装ロボットが、前記被塗装物の移動方向に沿って並べられた前記各塗装ロボットのうちの当該移動方向の上流側に位置する塗装ロボットとなっており、前記第2塗装ロボットが、前記被塗装物の移動方向に沿って並べられた前記各塗装ロボットのうちの当該移動方向の下流側に位置する塗装ロボットとなっていることを特徴とする。
【0009】
この特定事項により、塗装システムによる被塗装物の塗装作業に当たっては、被塗装物における上部の領域を第1塗装ロボットによって塗装すると共に、被塗装物における前記上部の領域よりも下側の領域を第2塗装ロボットによって塗装することになる。この際、第1塗装ロボットの第1ロボットベース(第2塗装ロボットの第2ロボットベースよりも基準面との間の距離が短く設定された第1ロボットベース)の配設高さ位置よりも下方に第2ロボットベースが位置する第2塗装ロボットは、第1ロボットベースの下側に設けられたロボットアーム通過範囲を第2ロボットアームが通過しながら被塗装物における下側の領域(第1塗装ロボットの塗装領域よりも下側の領域)を塗装していく。つまり、第1ロボットベースの位置を搬送経路に近い位置(第2ロボットベースの位置よりも基準面に近い位置)に設定しながらも、第2ロボットアームが第1塗装ロボットに干渉することなく可動範囲が十分に確保された状態で第1塗装ロボットの塗装領域よりも下側の領域を塗装していくことになる。即ち、第1ロボットベースの位置を基準面に近い位置に設定して被塗装物との間の距離を短くすることで第1ロボットアームの長さを短くしながらも、第2ロボットアームの可動範囲を十分に確保することができる。このため、塗装ロボット(特に、第1塗装ロボット)の小型化とロボットアーム(特に、第2ロボットアーム)の可動範囲の拡大とを両立することができる。その結果、塗装ロボットの小型化に伴う塗装システムの小型化を図ることができ、設備費用やランニングコストの低廉化を図ることができる。また、塗装システムの小型化によりCO2削減効果を発揮させることもできる。また、第2ロボットアームの可動範囲の拡大により、被塗装物における下側の領域(第1塗装ロボットの塗装領域よりも下側の領域)に対する塗装を良好に行うことができる。また、被塗装物において、基準面に対して一方側の領域および他方側の領域それぞれを各塗装ユニットの各塗装ロボットによって良好に塗装することが可能になり、被塗装物における塗装面を良好に仕上げることができる。
【0010】
また、前記第1塗装ロボットの稼働および前記第2塗装ロボットの稼働を共に制御する単一の制御装置を備えていてもよい。
【0011】
これによれば、各塗装ロボットそれぞれの稼働を個別に制御する複数の制御装置を備えさせた場合に比べて、制御ユニット(制御装置を含む塗装ロボット制御のためのユニット)全体としての小型化を図ることができ、塗装システムの小型化に寄与させることができる。
【0012】
また、前記被塗装物の搬送経路および前記塗装ユニットが収容され且つ外部と遮断される塗装用空間を構成する塗装ブースを備えており、前記制御装置が、前記塗装ブースの外部に配設された構成とされていてもよい。
【0013】
これによれば、塗装ブースの内部に制御装置を配設する場合に比べて塗装ブースに必要な内部空間の縮小化を図ることができる。一般に、塗装ブースにあっては、該塗装ブースの内部での塗料粒子の流れが良好に得られる気流(未塗着の塗料粒子の拡散を抑制するための気流)が発生するように空調が行われているが、塗装ブースの内部空間が縮小化されることで、この気流を発生させる空間を小さくでき、この気流を発生させるための空調装置の小型化や消費エネルギの削減を図ることができる。
【0014】
また、前記第1ロボットアームおよび前記第2ロボットアームは共に前記被塗装物に向けて塗料を吹き付けるスプレーガンを搭載しており、前記各スプレーガンのうち少なくとも一方が、塗料を静電微粒化して該塗料を前記被塗装物に向けて吹き付けるよう構成されていてもよい。
【0015】
これによれば、被塗装物に対する塗料の塗着効率の向上を図ることができ、被塗装物に向けて吹き付けた塗料が跳ね返ってくる範囲を縮小化できる。このため、跳ね返ってくる塗料が塗装ロボットに付着しないように該塗装ロボットを被塗装物から大きく離れた位置に配設しておく必要がなくなり、塗装ロボットの配設位置を被塗装物に近い位置に設定することが可能になる。その結果、被塗装物と塗装ユニットとの相対的な移動の方向に対して直交する水平方向での塗装システムの小型化を図ることができ、設備費用やランニングコストの低廉化を図ることができる。また、塗装システムの小型化によりCO2削減効果を発揮させることもできる。
【0018】
また、前述した塗装システムを使用した塗装方法も本発明の技術的思想の範疇である。つまり、前記被塗装物と前記塗装ユニットとが水平方向に沿って相対的に移動すると共に、前記被塗装物における上部の領域を前記第1塗装ロボットによって塗装し、前記被塗装物における前記上部の領域よりも下側の領域を前記第2塗装ロボットによって塗装するものである。
【0019】
この塗装方法によっても、前述したように、第1ロボットベースの位置を基準面に近い位置に設定して被塗装物との間の距離を短くすることで第1ロボットアームの長さを短くしながらも、第1ロボットベースの下側に第2ロボットアームが通過するロボットアーム通過範囲を設けたことにより第2ロボットアームの可動範囲を十分に確保することができる。このため、塗装ロボットの小型化とロボットアームの可動範囲の拡大とを両立することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、被塗装物における上部の領域を塗装する第1塗装ロボットの第1ロボットベースと基準面(被塗装物と塗装ユニットとの相対的な移動の方向に沿い且つ鉛直方向に延在する仮想平面)との間の距離を、被塗装物における前記上部の領域よりも下側の領域を塗装する第2塗装ロボットにおける第2ロボットベースと基準面との間の距離よりも短く設定すると共に、第1ロボットベースの下側に、第2塗装ロボットの第2ロボットアームが通過するロボットアーム通過範囲を設けている。これにより、第1塗装ロボットの第1ロボットアームの長さを短くしながらも、第2ロボットアームの可動範囲を十分に確保することができる。その結果、塗装ロボットの小型化とロボットアームの可動範囲の拡大とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】第1実施形態に係る塗装システムを示す平面図である。
【
図2】第1実施形態に係る塗装システムを示す正面図である。
【
図3】塗装ロボットに備えられたスプレーガンを示す断面図である。
【
図4】スプレーガンの回転ヘッドの先端を示す斜視図である。
【
図5】塗料の静電微粒化を説明するための模式図である。
【
図6】塗装システムにおける制御系の概略構成を示すブロック図である。
【
図7】第1ロボットアームおよび第2ロボットアームの可動範囲を説明するための平面図である。
【
図8】各スプレーガンの可動範囲を説明するための正面図である。
【
図9】第2実施形態に係る塗装システムを示す平面図である。
【
図10】第2実施形態に係る塗装システムを示す正面図である。
【
図11】第3実施形態に係る塗装システムを示す平面図である。
【
図12】第4実施形態に係る塗装システムを示す平面図である。
【
図13】第5実施形態に係る塗装システムを示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。以下の第1~第4の各実施形態では、自動車の車体を塗装する塗装システムおよび該塗装システムを使用した塗装方法として本発明を適用した場合について説明する。また、第5実施形態では、車体以外の被塗装物に対して塗装を行う塗装システムについて説明する。
【0023】
-第1実施形態-
まず、第1実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る塗装システムPSを示す平面図である。また、
図2は、本実施形態に係る塗装システムPSを示す正面図(
図1における矢印II方向から見た図)である。これらの図に示すように、塗装システムPSは、塗装ブース100を備えていると共に、この塗装ブース100の内部に複数の塗装ユニットPU1,PU2,PU3,PU4が設置されている。また、塗装ブース100の両外側(水平方向の両外側)に補助ブース201,202が設置されている。
【0024】
なお、
図1および
図2において、X方向が塗装システムPSの幅方向であり、Y方向が塗装システムPSの長さ方向(被塗装物としての車体150の搬送方向)であり、Z方向が塗装システムPSの高さ方向(上下方向)である。
【0025】
前記塗装ブース100には、車体150を搬送するための搬送装置5が備えられている。また、この搬送装置5の両側(搬送方向に直交する方向での両側)にそれぞれ2つの塗装ユニットPU1,PU2,PU3,PU4が設置されている。
【0026】
図1に矢印Aで示すように車体150が搬送される場合(
図1中の上側から下側に向けて搬送装置5によって車体150が搬送される場合)、搬送方向の下流側に位置する各塗装ユニットPU1,PU2(より具体的には、各塗装ユニットPU1,PU2を構成する各塗装ロボット1A,1B)は車体150の前側半分の塗装を主に行うものである。つまり、搬送方向に向かって左側(
図1における右側)に位置する塗装ユニットPU1(以下、第1塗装ユニットPU1という)は、車体150のエンジンフードの左半分、左側フロントフェンダ、左側フロントドア、ルーフの左側の前半分の塗装を主に行う。また、搬送方向に向かって右側(
図1における左側)に位置する塗装ユニットPU2(以下、第2塗装ユニットPU2という)は、車体150のエンジンフードの右半分、右側フロントフェンダ、右側フロントドア、ルーフの右側の前半分の塗装を主に行う。
【0027】
一方、搬送方向の上流側に位置する各塗装ユニットPU3,PU4(より具体的には、各塗装ユニットPU3,PU4を構成する各塗装ロボット1A,1B)は車体150の後側半分の塗装を主に行うものである。つまり、搬送方向に向かって左側(
図1における右側)に位置する塗装ユニットPU3(以下、第3塗装ユニットPU3という)は、車体150の左側リヤフェンダ、左側リヤドア、ルーフの左側の後半分の塗装を主に行う。また、搬送方向に向かって右側(
図1における左側)に位置する塗装ユニットPU4(以下、第4塗装ユニットPU4という)は、車体150の右側リヤフェンダ、右側リヤドア、ルーフの右側の後半分の塗装を主に行う。
【0028】
各塗装ユニットPU1~PU4の構成は互いに同一である。
図2では、第1塗装ユニットPU1および第2塗装ユニットPU2のみを示している。
【0029】
以下、本実施形態に係る塗装システムPSを構成している塗装ブース100、塗装ユニットPU1~PU4および補助ブース201,202について説明する。
【0030】
(塗装ブース)
塗装ブース100は車体150に対する塗装を行うための設備である。塗装ブース100は、各塗装ユニットPU1~PU4が設置される塗装室(塗装用空間)2と、塗装室2の上方に配置された給気室3と、塗装室2の下方に配置された回収室4と、車体150を搬送する前記搬送装置5とを備えている。
【0031】
塗装室2は、支持フレーム6によって支持され、下方に回収室4を配置するための空間が確保されている。塗装室2の天井部21の一部には、空気を導入するための導入口21aが形成され、塗装室2の床部22の一部には、空気を排出するための排出口22aが形成されている。導入口21aにはフィルタ23が設けられ、排出口22aには格子板24が設けられている。フィルタ23は、塗装室2に導入される空気中の塵埃などを取り除くために設けられている。
【0032】
給気室3は、換気用の空気を塗装室2に供給するために設けられている。この給気室3は、給気ダクト7が接続され、空調機(図示省略)からの温度および湿度が調整された空気が給気ダクト7を介して流入されるようになっている。給気室3は、給気ダクト7から流入する空気を整流する機能を有し、内部空間に風量調整機構31が設けられている。このため、給気室3の内部空間が風量調整機構31により上流側空間3aと下流側空間3bとに仕切られている。上流側空間3aが給気ダクト7に連通され、下流側空間3bが導入口21aのフィルタ23を介して塗装室2に連通されている。風量調整機構31は、車体150の周囲の風量が予め設定された値になるように、給気室3での風量を調整するように構成されている。
【0033】
回収室4は、塗装室2から排出される空気中の塗料粒子を回収するために設けられている。この回収室4は、排気ダクト8が接続され、その排気ダクト8を介して外部に連通されている。回収室4は、内部空間にフィルタ41および風量調整機構42が設けられている。このため、回収室4の内部空間がフィルタ41および風量調整機構42により上流側空間4aと下流側空間4bとに仕切られている。フィルタ41が風量調整機構42の上側に配置され、フィルタ41が上流側空間4aに臨み、風量調整機構42が下流側空間4bに臨んでいる。上流側空間4aが排出口22aの格子板24を介して塗装室2に連通され、下流側空間4bが排気ダクト8に連通されている。フィルタ41は、薄型の乾式フィルタであり、空気中の塗料粒子を取り除くために設けられている。風量調整機構42は、車体150の周囲の風量が予め設定された値になるように、回収室4での風量を調整するように構成されている。
【0034】
搬送装置5は、塗装室2に車体150を搬入するとともに、塗装室2から車体150を搬出するために設けられている。この搬送装置5は、例えば、車体150を
図2の紙面に対する手前側に搬送するように構成されている。
【0035】
本実施形態の塗装ブース100は、塗装室2内の所定領域Riに給気室3から回収室4に向かう空気が流れるとともに、塗装室2内の所定領域外Roに給気室3から回収室4に向かう空気が流れないように構成されている。所定領域Riは、塗装室2内において車体150が通過する通過領域Rpおよびその通過領域Rpの周囲(塗装時に車体150に未塗着の塗料粒子が浮遊する範囲)を含む領域である。所定領域外Roは、塗装室2内における所定領域Ri以外の領域であり、所定領域Riに対して幅方向(X方向)の外側に配置されている。
【0036】
具体的には、塗装室2の導入口21aは、車体150の通過領域Rpと対応するように配置されている。導入口21aの幅(X方向の長さ)は、車体150の幅よりも大きくされるとともに、塗装室2の幅よりも小さくされている。例えば、導入口21aの幅は、車体150の幅および塗装時に車体150に未塗着の塗料粒子(オーバースプレーミスト)が浮遊する範囲などに基づいて設定されている。即ち、導入口21aの幅は、空気が流れない所定領域外Roを形成しながら、空気が流れる所定領域Riにオーバースプレーミストの発生範囲が含まれるように設定されている。なお、導入口21aは、塗装室2の長さ方向(Y方向)における全長に設けられている。
【0037】
また、塗装室2の排出口22aは、車体150の通過領域Rpと対応するように配置されている。排出口22aの幅(X方向の長さ)は、例えば導入口21aの幅と同じにされている。また、排出口22aの幅は、空気が流れない所定領域外Roを形成しながら、空気が流れる所定領域Riにオーバースプレーミストの発生範囲が含まれるように設定されている。なお、排出口22aは、塗装室2の長さ方向における全長に設けられている。
【0038】
このとき、導入口21aから排出口22aに向かう空気は、導入口21aの幅方向の一方端部と排出口22aの幅方向の一方端部とを結ぶ二点鎖線Laと、導入口21aの幅方向の他方端部と排出口22aの幅方向の他方端部とを結ぶ二点鎖線Lbとの間の空間を主に通過するようになる。このため、所定領域Riは、例えば、二点鎖線LaおよびLbの間の空間を含み、その空間に空気流の広がり分を加えた領域である。
【0039】
(塗装ユニット)
各塗装ユニットPU1~PU4は、それぞれ2台の塗装ロボット1A,1Bを備えている。つまり、塗装システムPSは8台の塗装ロボット1A,1B,…を備えた構成となっている。これら塗装ロボット1A,1B,…は、エア駆動式の多関節ロボットで成り、互いに同一の構成であって、塗料を微粒化して車体150に塗布するように構成されている。また、各塗装ロボット1A,1B,…は、塗料を微粒化するスプレーガン11A,11Bと、スプレーガン11A,11Bを移動させるロボットアーム12A,12Bと、ロボットアーム12A,12Bを支持するロボットベース13A,13Bと、該ロボットベース13A,13Bが取り付けられる支柱14A,14Bとを含んでいる。支柱14A,14Bは、塗装室2の床部22から上方に延びるように形成されている。
【0040】
各塗装ユニットPU1~PU4それぞれに備えられた2台の塗装ロボット1A,1Bは互いに設置状態が異なっており、それに伴って役割も異なっている。各塗装ユニットPU1~PU4それぞれに備えられた塗装ロボット1A,1Bとしては、主に車体150の上部の領域を塗装する第1塗装ロボット1Aと、主に車体150の側部から下部に亘る領域を塗装する第2塗装ロボット1Bとなっている。例えば、第1塗装ユニットPU1および第2塗装ユニットPU2にあっては、第1塗装ロボット1Aが車体150のルーフおよびエンジンフードの塗装を主に行うのに対し、第2塗装ロボット1Bが車体150のフロントフェンダおよびフロントドアの塗装を主に行う。
【0041】
以下では、第1塗装ロボット1Aのロボットアーム12Aを第1ロボットアーム12Aと呼び、第2塗装ロボット1Bのロボットアーム12Bを第2ロボットアーム12Bと呼ぶこととする。また、第1塗装ロボット1Aのロボットベース13Aを第1ロボットベース13Aと呼び、第2塗装ロボット1Bのロボットベース13Bを第2ロボットベース13Bと呼ぶこととする。
【0042】
本実施形態にあっては、各塗装ユニットPU1~PU4それぞれにおける第1塗装ロボット1Aおよび第2塗装ロボット1Bの配設位置として、
図1に示すように、第1塗装ロボット1Aが、第2塗装ロボット1Bよりも車体150の搬送方向の下流側(
図1における下側)に配設されている。
【0043】
そして、本実施形態の特徴の一つとして、各塗装ユニットPU1~PU4それぞれにおける第1塗装ロボット1Aの支柱14Aの設置位置は、第2塗装ロボット1Bの支柱14Bの設置位置よりも搬送装置5に近い位置に設定されている。言い換えると、搬送装置5による車体150の搬送方向に沿い且つ鉛直方向に延在する仮想平面(車体150の中心を通る仮想平面)を基準面Lとした場合に、各塗装ユニットPU1~PU4それぞれにおける第1塗装ロボット1Aの支柱14Aの設置位置と基準面Lとの間の距離(水平方向での距離)は、第2塗装ロボット1Bの支柱14Bの設置位置と基準面Lとの間の距離よりも短く設定されている。この支柱14A,14Bの設置位置として具体的に、第1塗装ロボット1Aの支柱14Aの設置位置は、前記排出口22aに対して僅かに幅方向の外側に配置されている。即ち、支柱14Aは、平面的に見て導入口21aおよび排出口22aと重ならない位置(導入口21aおよび排出口22aに対してずれた位置)に配置されている。これに対し、第2塗装ロボット1Bの支柱14Bの設置位置は、前記排出口22aに対して所定寸法だけ幅方向の外側に配置されている。つまり、第1塗装ロボット1Aの支柱14Aの設置位置よりも外側に配置されている。即ち、各塗装ロボット1A,1B(基準面Lに対して同じ側に配置されている各塗装ロボット1A,1B)それぞれの支柱14A,14Bは、何れも平面的に見て導入口21aおよび排出口22aと重ならない位置(導入口21aおよび排出口22aに対してずれた位置)に配置されて、所定領域外Roに配置されており、且つ第2塗装ロボット1Bの支柱14Bの設置位置の方が、第1塗装ロボット1Aの支柱14Aの設置位置よりも外側に設定されている。
【0044】
前述したように各塗装ロボット1A,1Bは支柱14A,14Bの上端にロボットベース(第1ロボットベースおよび第2ロボットベース)13A,13Bが取り付けられているため、前述のように各支柱14A,14Bの設置位置を設定したことにより、各塗装ユニットPU1~PU4それぞれにおける第1ロボットベース13Aと基準面Lとの間の距離は、第2ロボットベース13Bと基準面Lとの間の距離よりも短く設定されていることになる。
【0045】
また、本実施形態のもう一つの特徴として、各塗装ユニットPU1~PU4それぞれにおける第1塗装ロボット1Aの支柱14Aの高さ寸法は第2塗装ロボット1Bの支柱14Bの高さ寸法よりも長く設定されている。このため、第1ロボットベース13Aの配設高さ位置は、第2ロボットベース13Bの配設高さ位置よりも上方に設定されている。その結果、第1ロボットアーム12Aの設置位置も第2ロボットアーム12Bの設置位置よりも高い位置となり、第1塗装ロボット1Aは車体150の上部の領域を塗装する役割を果たし、第2塗装ロボット1Bは、第1塗装ロボット1Aの塗装領域よりも下側の領域を塗装する役割を果たすことになる。特に、第1塗装ロボット1Aは車体150のルーフを塗装することから、このルーフの中央部(車幅方向の中央部)を塗装することになり、その結果、第1塗装ロボット1Aによって塗装される車体150の被塗装領域(特にルーフ)は、第2塗装ロボット1Bによって塗装される車体150の被塗装領域よりも基準面Lに近い領域を含んでいることになる。
【0046】
このようにして各塗装ロボット1A,1Bが設置されているため、
図2に示すように、第1塗装ユニットPU1および第2塗装ユニットPU2の第1塗装ロボット1A,1A同士は、幅方向において車体150の通過領域Rpを挟んで対向するように配置され、同様に、第1塗装ユニットPU1および第2塗装ユニットPU2の第2塗装ロボット1B,1B同士も、幅方向において車体150の通過領域Rpを挟んで対向するように配置されている。また、第3塗装ユニットPU3および第4塗装ユニットPU4の第1塗装ロボット1A,1A同士も、幅方向において車体150の通過領域Rpを挟んで対向するように配置され、同様に、第3塗装ユニットPU3および第4塗装ユニットPU4の第2塗装ロボット1B,1B同士も、幅方向において車体150の通過領域Rpを挟んで対向するように配置されている。
【0047】
また、各塗装ロボット1A,1Bは、支柱14A,14Bの幅寸法(X方向の寸法)に対して、ロボットベース13A,13Bの幅寸法が長く設定されている。また、ロボットベース13A,13Bの幅方向の外側端と支柱14A,14Bの幅方向の外側端とが位置合わせされた状態で、ロボットベース13A,13Bは支柱14A,14Bの上部に取り付けられている。つまり、ロボットベース13A,13Bは、支柱14A,14Bの上部から幅方向の中央側に向かって延在している。このため、ロボットベース13A,13Bにおけるこの延在部分の下側の領域には支柱14A,14Bが存在しておらず、第1塗装ロボット1Aにあっては、この延在部分の下側の範囲(空間)が、塗装作業時における第2ロボットアーム12Bの通過範囲(本発明でいうロボットアーム通過範囲)MSとして確保されている。具体的に、第1ロボットベース13Aの配設高さ位置は車体150のフェンダの上端よりも上側に配設されており、これによって前記通過範囲MSがフェンダの上側まで拡大された構成となっている。
【0048】
ここで、各塗装ロボット1A,1Bに備えられたスプレーガン11A,11Bについて説明する。各塗装ロボット1A,1Bのスプレーガン11A,11Bの構成は互いに同一であるので、ここでは、第1塗装ロボット1Aに備えられたスプレーガン11Aを代表して説明する。
【0049】
図3はスプレーガン11Aを示した断面図である。
図4はスプレーガン11Aの回転ヘッド51の先端を示した斜視図である。
図5は塗料の静電微粒化を説明するための模式図である。
【0050】
スプレーガン11Aは、回転ヘッド51から糸状の塗料P1を放出し、その糸状の塗料P1が静電微粒化されることにより、塗料粒子(微粒化された塗料)P2を形成して車体150に塗着させるように構成されている。
【0051】
このスプレーガン11Aは、
図3に示すように、回転ヘッド51と、回転ヘッド51を回転させるエアモータ(図示省略)と、回転ヘッド51の外周面を覆うキャップ52と、回転ヘッド51に塗料を供給する塗料供給管53と、回転ヘッド51に負の高電圧を印加するための電圧発生器54(
図5を参照)とを含んでいる。
【0052】
回転ヘッド51は、液体の塗料が供給され、その塗料を遠心力によって放出するように構成されている。回転ヘッド51では、ハブ511が取り付けられることにより塗料空間Sが形成され、その塗料空間Sに塗料供給管53から塗料が供給されるようになっている。ハブ511の外縁部には、塗料空間Sから塗料を流出させるための複数の流出孔511aが形成されている。
【0053】
そして、回転ヘッド51の流出孔511aに対する径方向の外側には、塗料が遠心力により拡散される拡散面51aが形成されている。拡散面51aは、回転ヘッド51の先端側に向けて拡径するように形成され、流出孔511aから流出した塗料を膜状にするように構成されている。また、拡散面51aの外縁部51bには、
図4に示すように、膜状の塗料を糸状にして放出するための溝部51cが形成されている。なお、
図3では見やすさを考慮して溝部51cの図示を省略している。
【0054】
溝部51cは、軸方向から見た場合に、径方向に延びるように形成されるとともに、周方向に複数設けられている。即ち、溝部51cは、拡散面51aの外縁部51bに、その拡散面51aの傾斜方向に延びるように形成されている。この溝部51cは、回転ヘッド51の径方向の外側端部まで達するように形成されている。このため、回転ヘッド51の先端が外周面側から見て凹凸状になっている。
【0055】
このスプレーガン11Aでは、
図5に示すように、電圧発生器54により回転ヘッド51に負の高電圧が印加され、回転ヘッド51の溝部51cから放出される糸状の塗料P1が帯電されており、その帯電電荷による反発力を利用して糸状の塗料P1が分裂されて塗料粒子P2になる。即ち、回転ヘッド51の溝部51cから放出される糸状の塗料P1が静電微粒化されて塗料粒子P2になる。つまり、塗装ロボット1A,1Bでは、シェーピングエアを吐出するエア吐出部が設けられていないため、シェーピングエアによらず塗料粒子P2が形成されるようになっている。従って、塗装ロボット1A,1Bでは、シェーピングエアレスの静電微粒化方式であり、シェーピングエアによる塗料粒子の舞い上がりが発生しないことから、オーバースプレーミストの発生が抑制されるとともに、そのオーバースプレーミストの発生範囲が狭くされている。
【0056】
また、塗装ブース100には、各塗装ロボット1A,1Bのスプレーガン11A,11Bに装填される図示しない塗料カートリッジを収容するカートリッジストッカ205(206)が備えられている。カートリッジストッカ205(206)に収容されている各塗料カートリッジとしては、塗装システムPSでの塗装に使用される塗料の種類に応じた複数種類が存在している。そして、スプレーガン11A,11Bに装填されている塗料カートリッジの塗料残量が少なくなった場合や、塗装システムPSでの塗装作業の終了後、次に塗装システムPSに搬入されてくる車体150の塗装に使用する塗料の種類が変更(例えば色替え)される場合には、スプレーガン11A,11Bに装填される塗料カートリッジを交換するべく、カートリッジストッカ205(206)から所望の塗料カートリッジがスプレーガン11A,11Bに向けて搬送されるようになっている。この塗料カートリッジの搬送は、例えば図示しない搬送ロボットによって行われる。
【0057】
なお、詳細については割愛するが、このカートリッジストッカ205(206)には、収容されている各塗料カートリッジに所定の塗料を個別に注入(供給)するための塗料供給配管が接続されており、カートリッジストッカ205(206)に収容されている塗料カートリッジに対し、次回の塗装時に使用される塗料が注入されるようになっている。
【0058】
(補助ブース)
補助ブース201,202は、塗装ブース100の両外側(水平方向の両外側)に配設されている。ここでは、
図2における右側に位置する補助ブース201を第1補助ブースと呼び、
図2における左側に位置する補助ブース202を第2補助ブースと呼ぶこととする。
【0059】
これら補助ブース201,202は、フレーム203,204によって囲まれた空間として構成されている。各補助ブース201,202には、塗装ユニットPU1~PU4に備えられた各機器を制御するための制御装置303A,303B,303C,303Dが備えられている。つまり、第1塗装ユニットPU1に備えられた各機器を制御するための第1制御装置303Aと、第3塗装ユニットPU3に備えられた各機器を制御するための第3制御装置303Cとが第1補助ブース201に配設されている。また、第2塗装ユニットPU2に備えられた各機器を制御するための第2制御装置303Bと、第4塗装ユニットPU4に備えられた各機器を制御するための第4制御装置303Dとが第2補助ブース202に配設されている。本実施形態では、各制御装置303A~303Dがフレーム203,204の側面(補助ブース201,202の内側を向く側面)に支持されている。
【0060】
このように、各塗装ユニットPU1~PU4それぞれに対応して制御装置303A~303Dが備えられている。そして、各塗装ユニットPU1~PU4それぞれには2台の塗装ロボット1A,1Bが備えられている。このため、各制御装置303A~303Dそれぞれは2台の塗装ロボット1A,1Bを共に制御する機能を有している。言い換えると、各制御装置303A~303Dは、それぞれ第1塗装ロボット1Aの稼働および第2塗装ロボット1Bの稼働を共に制御する単一(各塗装ユニットPU1~PU4毎に単一)の制御装置303A(303B,303C,303D)となっている。前述したように各塗装ロボット1A,1B,…は、エア駆動式の多関節ロボットであるため、各制御装置303A,303B,303C,303Dは、それぞれ塗装ロボット1A(1B)を制御するための空圧盤を備えた構成となっている。また、各制御装置303A,303B,303C,303Dは、それぞれ回路基板を備えていてもよい。
【0061】
(制御系の構成)
次に、塗装ユニットの制御系について説明する。
図6は、本実施形態に係る塗装システムPSにおける制御系の概略構成を示すブロック図である。この
図6に示すように、塗装システムPSの制御系は、塗装システムPSを統括的に制御する中央処理装置300、始動スイッチ301、搬送装置コントローラ302、前記第1~第4の制御装置303A~303D、前記第1~第4の塗装ユニットPU1~PU4が、指令信号等の各種信号の送受信が可能に電気的に接続された構成となっている。
【0062】
始動スイッチ301は、作業者の操作に応じて中央処理装置300に塗装システムPSの始動指令信号を送信する。この始動指令信号を受信することによって塗装システムPSが始動(起動)し、後述する塗装動作が開始されることになる。
【0063】
搬送装置コントローラ302は、搬送装置5による車体150の搬送を制御する。具体的には、車体150が塗装ブース100の所定位置(
図1に示す位置)に到達するまで搬送装置5を作動させ、この時点から車体150の搬送速度を所定速度(塗装動作に適して予め設定された速度)で移動させていく。そして、車体150の塗装が終了した所定時間の経過後に搬送装置5を車体搬出用の速度で塗装ブース100から次のステーションに向けて搬送させると共に、次の塗装対象である車体150が塗装ブース100に向けて搬送されるように搬送装置5を作動させる。
【0064】
各制御装置303A~303Dは、中央処理装置300からの指令信号を受け、それに従って、各塗装ユニットPU1~PU4に制御指令信号を出力する。つまり、第1制御装置303Aは第1塗装ユニットPU1の各塗装ロボット(第1塗装ロボット1Aおよび第2塗装ロボット1B)に制御指令信号を、第2制御装置303Bは第2塗装ユニットPU2の各塗装ロボット1A,1Bに制御指令信号を、第3制御装置303Cは第3塗装ユニットPU3の各塗装ロボット1A,1Bに制御指令信号を、第4制御装置303Dは第4塗装ユニットPU4の各塗装ロボット1A,1Bに制御指令信号をそれぞれ出力する。そして、この制御指令信号を受けた各塗装ユニットPU1~PU4の各塗装ロボット1A,1Bは、予め行われたティーチングの情報に従って、車体150に対する塗装を行っていく。
【0065】
(塗装時の動作)
次に、塗装システムPSにおける塗装動作(塗装方法)について説明する。なお、この塗装動作は塗装室2内が無人の状態で行われる。
【0066】
まず、始動スイッチ301が操作されることに伴って塗装システムPSが始動する。この塗装システムPSの始動に伴い、塗装動作の開始前に、温度および湿度が調整された空気が空調機(図示省略)から給気ダクト7を介して給気室3に流入される。給気室3では風量調整機構31によって風量が調整され、その空気が導入口21aのフィルタ23を介して塗装室2に導入される。
【0067】
塗装室2では、給気室3から回収室4に向かう空気が所定領域Riに流れる。即ち、導入口21aから排出口22aへと下方に向かう空気の流れ(ダウンフロー)が所定領域Riに形成される。
【0068】
そして、塗装室2の所定領域Riを通過した空気は、排出口22aの格子板24を介して回収室4に排出される。回収室4では風量調整機構42によって風量が調整され、その空気が排気ダクト8を介して外部に放出される。
【0069】
次に、搬送装置コントローラ302からの指令信号によって搬送装置5が作動し、塗装対象となる車体150を塗装ブース100の所定位置(
図1に示す位置)に到達するまで移動させ、この車体150を所定速度で搬送しながら、各制御装置303A~303Dからの指令信号に従って各塗装ユニットPU1~PU4の各塗装ロボット1A,1Bが稼働して車体150に対して塗装が行われる。
【0070】
この車体150の塗装に当たっては、車体150における上部の領域を、各塗装ユニットPU1~PU4の各第1塗装ロボット1Aによって塗装すると共に、車体150における前記上部の領域よりも下側の領域を、各塗装ユニットPU1~PU4の各第2塗装ロボット1Bによって塗装することになる。具体的には、第1塗装ユニットPU1および第2塗装ユニットPU2における第1塗装ロボット1A,1Aが車体150のルーフの前半分およびエンジンフードの塗装を主に行い、第1塗装ユニットPU1および第2塗装ユニットPU2における第2塗装ロボット1B,1Bが車体150のフロントフェンダおよびフロントドアの塗装を主に行う。また、第3塗装ユニットPU3および第4塗装ユニットPU4における第1塗装ロボット1A,1Aが車体150のルーフの後半分の塗装を主に行い、第3塗装ユニットPU3および第4塗装ユニットPU4における第2塗装ロボット1B,1Bが車体150のリヤフェンダおよびリヤドアの塗装を主に行う。各塗装ロボット1A,1Bによる塗装動作では、当該塗装ロボット1A,1Bが受け持つ被塗装領域に対向しながらスプレーガン11A,11Bが所定の軌道(ティーチングの情報に従った所定の軌道)を移動するように各塗装ロボットアーム12A,12Bが稼働しながら車体150を塗装していくことになる。
【0071】
この際、第1ロボットベース13Aの配設高さ位置よりも下方に第2ロボットベース13Bが位置する第2塗装ロボット1Bにおける第2ロボットアーム12Bは、第1ロボットベース13Aの下側に設けられた通過範囲MSを通過しながら第1塗装ロボット1Aの塗装領域よりも下側の領域を塗装していく。
図7は、塗装時における各塗装ロボット1A,1Bのロボットアーム12A,12Bの可動範囲(ロボットアーム12A,12Bの基端位置を基点としたロボットアーム12A,12Bの可動範囲であって各スプレーガン11A,11Bの可動範囲を含む)を説明するための平面図である。また、
図8は、塗装時における各塗装ロボット1A,1Bのスプレーガン11A,11Bの可動範囲を説明するための正面図である。図中の破線の内側の領域がそれぞれの可動範囲を表している。これら
図7および
図8に示すように、第2ロボットアーム12Bの可動範囲やスプレーガン11Bの可動範囲としては、第1塗装ロボット1Aのロボットベース13Aの下側に設けられている通過範囲MSが含まれており、この通過範囲MSを第2ロボットアーム12Bやスプレーガン11Bが通過しながら車体150における下側の領域(第1塗装ロボット1Aの塗装領域よりも下側の領域)を塗装していくことになる。
【0072】
このようにして、第1ロボットベース13Aの位置が搬送経路に近い位置(第2ロボットベース13Bの位置よりも基準面Lに近い位置)に設定されていても、第2ロボットアーム12Bは第1塗装ロボット1Aに干渉することなく可動範囲が十分に確保された状態で第1塗装ロボット1Aの塗装領域よりも下側の領域を塗装していくことになる。
【0073】
塗装動作として、より具体的には、各塗装ロボット1A,1Bでは、シェーピングエアレスの静電微粒化方式で塗装が行われる。具体的には、
図5に示すように、電圧発生器54により回転ヘッド51に負の高電圧が印加されるとともに、車体150が接地された状態で、エアモータ(図示省略)により回転ヘッド51が回転される。なお、回転ヘッド51と車体150との距離は、ロボットアーム12A,12Bによって調整される。また、
図3に示すように、塗料供給管53から塗料空間Sに液体の塗料が供給され、その塗料が遠心力により流出孔511aから流出される。
【0074】
そして、流出孔511aから流出した塗料は、遠心力により拡散面51aに沿って径方向の外側に流れる。その拡散面51aに沿って流れる塗料は膜状になり、外縁部51bに到達して複数の溝部51c(
図4を参照)に供給される。各溝部51c内の塗料は隣接する溝部51c内の塗料と分離されており、この溝部51cを通過する塗料は糸状になり、回転ヘッド51の径方向の外側端部(回転ヘッド51の外周面に現れた溝部51c)から放出される。
【0075】
回転ヘッド51から放出された糸状の塗料P1は、
図5に示すように、静電微粒化されて塗料粒子P2が形成される。回転ヘッド51と車体150との間には電界が形成されており、負に帯電された塗料粒子P2が車体150に引き寄せられる。このため、塗料粒子P2が車体150に塗着され、車体150の表面上に塗装膜(図示省略)が形成される。
【0076】
また、各塗装ロボット1A,1Bでは、
図1に示すように、スプレーガン11A,11Bにより塗装を行いながら、ロボットアーム12A,12Bによりスプレーガン11A,11Bを車体150の表面に沿って移動させる。このため、各塗装ロボット1A,1Bが分担する車体150の表面の各領域に対して塗装が行われる。これにより、車体150の表面の全体が塗装される。
【0077】
この塗装時には、車体150に未塗着の塗料粒子(オーバースプレーミスト)が発生する。このオーバースプレーミストの発生範囲は、所定領域Riに含まれている。従って、塗装時に発生するオーバースプレーミストは、ダウンフローにより下方に運ばれ、回収室4に排出される。回収室4では、フィルタ41によりオーバースプレーミストが回収される。即ち、車体150に未塗着の塗料粒子がフィルタ41によって空気から取り除かれ、排気ダクト8に送り出される空気が浄化される。
【0078】
このようにして車体150の表面の全体が塗装されて塗装動作が完了すると、搬送装置5によって車体150が塗装ブース100から搬出され、次の塗装対象である車体150が塗装ブース100に搬入されて同様の塗装動作が行われることになる。この新たな車体150に対する塗装動作の開始に伴い、スプレーガン11A,11Bに装填されている塗料カートリッジの塗料残量が少なくなった場合や、車体150の塗装に使用する塗料が変更される場合には、スプレーガン11A,11Bに装填される塗料カートリッジを交換するべく、カートリッジストッカ205,206から所望の塗料カートリッジがスプレーガン11A,11Bに向けて搬送されることになる。
【0079】
(実施形態の効果)
以上説明したように本実施形態によれば、車体150における上部の領域を塗装する第1塗装ロボット1Aの第1ロボットベース13Aと基準面Lとの間の距離を、車体150における前記上部の領域よりも下側の領域を塗装する第2塗装ロボット1Bにおける第2ロボットベース13Bと基準面Lとの間の距離よりも短く設定すると共に、第1ロボットベース13Aの下側に、第2塗装ロボット1Bの第2ロボットアーム12Bが通過する通過範囲MSを設けるようにしている。つまり、第1ロボットベース13Aの位置を搬送装置5に近い位置(第2ロボットベース13Bの位置よりも基準面Lに近い位置)に設定しながらも、第2ロボットアーム12Bが第1塗装ロボット1Aに干渉することなく可動範囲が十分に確保された状態で第1塗装ロボット1Aの塗装領域よりも下側の領域が塗装できるようにしている。即ち、第1ロボットベース13Aの位置を基準面Lに近い位置に設定して車体150との間の距離を短くすることで第1ロボットアーム12Aの長さを短くしながらも、第2ロボットアーム12Bの可動範囲を十分に確保することができるようにしている。このため、塗装ロボット(特に、第1塗装ロボット1A)の小型化とロボットアーム(特に、第2ロボットアーム12B)の可動範囲の拡大とを両立することができる。その結果、塗装ロボットの小型化に伴う塗装システムPSの小型化を図ることができ、設備費用やランニングコストの低廉化を図ることができる。また、塗装システムPSの小型化によりCO2削減効果を発揮させることもできる。また、第2ロボットアーム12Bの可動範囲の拡大により、第1塗装ロボット1Aの塗装領域よりも下側の領域に対する塗装を良好に行うことができる。また、第1ロボットアーム12Aの長さを短くできることで、前述したように各塗装ロボット1A,1Bを同一構成のものとすることができ、これによっても設備費用の低廉化を図ることができる。
【0080】
また、本実施形態では、第2ロボットアーム12Bが、第1ロボットベース13Aの下側に設けられた通過範囲MSを通過することで、第1塗装ロボット1Aとの干渉を回避できるようにしているため、塗装室2の長さ方向(Y方向)における第1塗装ロボット1Aの配設位置と第2塗装ロボット1Bの配設位置とを近付けることができる。このため、塗装ブース100に必要な内部空間の縮小化を図ることができる。前述したように、塗装ブース100にあっては、該塗装ブース100の内部での塗料粒子の流れが良好に得られるように気流としてダウンフローが形成されているが、塗装ブース100の内部空間が縮小化されることで、このダウンフローを発生させる空間を小さくでき、このダウンフローを発生させるための空調装置の小型化や消費エネルギの削減を図ることができる。
【0081】
また、本実施形態では、第1塗装ロボット1Aの稼働および第2塗装ロボット1Bの稼働を共に制御する単一の制御装置303A(303B,303C,303D)を備えさせている。このため、各塗装ロボット1A,1Bそれぞれの稼働を個別に制御する複数の制御装置を備えさせた場合に比べて、制御ユニット(制御装置303A~303Dを含む塗装ロボット制御のためのユニット)全体としての小型化を図ることができ、塗装システムPSの小型化に寄与させることができる。
【0082】
また、本実施形態では、各制御装置303A~303Dを、塗装ブース100の外部に配設された補助ブース201,202に収容している。このため、塗装ブース100の内部に制御装置を配設する場合に比べて塗装ブース100に必要な内部空間の縮小化を図ることができる。これによっても前述したダウンフローを発生させる空間を小さくでき、このダウンフローを発生させるための空調装置の小型化や消費エネルギの削減を図ることができる。
【0083】
また、本実施形態に係る塗装システムPSは、基準面Lを挟んで両側に複数の塗装ユニットPU1~PU4を配設した構成となっている。このため、車体150において、基準面Lに対して一方側の領域および他方側の領域それぞれを各塗装ユニットPU1~PU4の各塗装ロボット1A,1B,…によって良好に塗装することが可能になり、車体150における塗装面を良好に仕上げることができる。
【0084】
また、本実施形態では、各スプレーガン11A,11Bが、塗料を静電微粒化して車体150に向けて塗料を吹き付けるようにしている。このため、車体150に対する塗料の塗着効率の向上を図ることができ、車体150に向けて吹き付けた塗料が跳ね返ってくる範囲を縮小化できる。このため、跳ね返ってくる塗料が塗装ロボット1A,1Bに付着しないように該塗装ロボット1A,1Bを車体150から大きく離れた位置に配設しておく必要がなくなり、塗装ロボット1A,1Bの配設位置を車体150に近い位置に設定することが可能になる。その結果、塗装システムPSの幅方向の長さを短くして塗装システムPSの小型化を図ることができる。また、塗装システムPSの小型化によりCO2削減効果を発揮させることもできる。
【0085】
-第2実施形態-
次に、第2実施形態について説明する。本実施形態は、各塗装ユニットPU1~PU4それぞれにおける各塗装ロボット1A,1Bの配置形態が前記第1実施形態のものと異なっている。
【0086】
図9は、本実施形態に係る塗装システムPSを示す平面図である。また、
図10は、本実施形態に係る塗装システムPSを示す正面図である。これらの図に示すように、本実施形態に係る塗装システムPSにおける各塗装ユニットPU1~PU4それぞれにあっては、第1塗装ロボット1Aおよび第2塗装ロボット1Bの配設位置として、第1塗装ロボット1Aが、第2塗装ロボット1Bよりも車体150の搬送方向の上流側に配設されている。そして、本実施形態にあっても、前述した第1実施形態の場合と同様に、各塗装ユニットPU1~PU4それぞれにおける第1塗装ロボット1Aの支柱14Aの設置位置と基準面Lとの間の距離が、第2塗装ロボット1Bの支柱14Bの設置位置と基準面Lとの間の距離よりも短く設定されている。また、第1ロボットベース13Aの配設高さ位置は、第2ロボットベース13Bの配設高さ位置よりも上方に設定されており、これによって、第1ロボットベース13Aの下側に設けられた範囲が、塗装作業時における第2ロボットアーム12Bの通過範囲MSとして確保されている。
【0087】
このため、本実施形態にあっても、第1ロボットベース13Aの位置を基準面Lに近い位置に設定して車体150との間の距離を短くすることで第1ロボットアーム12Aの長さを短くしながらも、第2ロボットアーム12Bの可動範囲を十分に確保することができる。その結果、塗装ロボット(特に、第1塗装ロボット1A)の小型化とロボットアーム(特に、第2ロボットアーム12B)の可動範囲の拡大とを両立することができる。
【0088】
-第3実施形態-
次に、第3実施形態について説明する。前述した各実施形態では、搬送装置5によって車体150が搬送されながら塗装動作が行われるものとしていた。本実施形態では、それに代えて、各塗装ユニットPU1~PU4が水平方向に沿って移動しながら塗装動作を行うようにしたものである。
【0089】
図11は、本実施形態に係る塗装システムPSを示す平面図である。この
図11に示すように、本実施形態では、各塗装ユニットPU1~PU4における第1塗装ロボット1Aおよび第2塗装ロボット1Bの配設位置として、第1塗装ロボット1Aが、第2塗装ロボット1Bよりも車体150の搬送方向の下流側に配設されたもの(前記第1実施形態の場合と同様の配置形態)に対し、各塗装ロボット1A,1Bがレール15A,15B上を移動自在となっている(
図11における矢印Bを参照)。具体的な一例としては、各塗装ロボット1A,1Bの支柱14A,14Bの下部に配設された図示しない車輪がレール15A,15B上を走行可能に載置され、該車輪に走行用の動力を付与する電動モータが備えられた構成となっている。その他の構成は前述した各実施形態と同様である。
【0090】
本実施形態における塗装動作にあっては、搬送装置5の作動によって車体150が塗装ブース100の所定位置(
図11に示す位置)に到達した時点で搬送装置5が停止し、この状態で、各塗装ロボット1A,1Bがレール15A,15B上を走行しながら(例えば車体150の前側から後側に向けて走行しながら)、各制御装置303A~303Dからの指令信号に従って各塗装ユニットPU1~PU4の各塗装ロボット1A,1Bが稼働して車体150に対して塗装が行われることになる。
【0091】
本実施形態にあっても前述した各実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0092】
-第4実施形態-
次に、第4実施形態について説明する。本実施形態も、各塗装ユニットPU1~PU4が水平方向に沿って移動しながら塗装動作を行うようにしたものである。
【0093】
図12は、本実施形態に係る塗装システムPSを示す平面図である。この
図12に示すように、本実施形態では、各塗装ユニットPU1~PU4における第1塗装ロボット1Aおよび第2塗装ロボット1Bの配設位置として、第1塗装ロボット1Aが、第2塗装ロボット1Bよりも車体150の搬送方向の上流側に配設されたもの(前記第2実施形態の場合と同様の配置形態)に対し、前述した第3実施形態と同様に、各塗装ロボット1A,1Bがレール15A,15B上を移動自在となっている(
図12における矢印Bを参照)。その他の構成は前述した各実施形態と同様である。また、本実施形態における塗装動作は、前述した第3実施形態と同様である。
【0094】
本実施形態にあっても前述した各実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0095】
-第5実施形態-
次に、第5実施形態について説明する。前述した各実施形態は、被塗装物を車体150とし、第1塗装ロボット1Aがルーフ等の水平面を塗装する場合を例に挙げて説明した。本実施形態は、これに代えて、第1塗装ロボット1Aおよび第2塗装ロボット1Bが何れも鉛直面を塗装する場合であって、第1塗装ロボット1Aが塗装を行う領域が、第2塗装ロボット1Bが塗装を行う領域よりも上方にある場合である。
【0096】
図13は、本実施形態に係る塗装システムPSを示す正面図である。この
図13に示すように、本実施形態における被塗装物151は、本体部151aと、該本体部151aの上面から上方に突出した突出部151bとを備え、本体部151aの幅寸法が突出部151bの幅寸法よりも長くなっている。そして、本体部151aの側面が第2塗装ロボット1Bによって塗装され、突出部151bの側面が第1塗装ロボット1Aによって塗装されるようになっている。
【0097】
本実施形態にあっても前述した各実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0098】
-他の実施形態-
なお、本発明は、前記各実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲および該範囲と均等の範囲で包含される全ての変形や応用が可能である。
【0099】
例えば、前記第1~第4実施形態では、被塗装物が車体150である例を示し、前記第5実施形態では、本体部151aと突出部151bとを備えた被塗装物151に対して塗装を行う場合を示したが、これら以外の被塗装物に対して塗装を行う場合にも本発明は適用が可能である。
【0100】
また、前記各実施形態では、8台の塗装ロボット1A,1B,…を備えた塗装システムPSを例に挙げて説明したが、塗装ロボット1A,1B,…の台数はこれに限定されるものではない。また、前記各実施形態では、一つの塗装システムPSが2台の塗装ロボット1A,1Bを備えた場合について説明したが、一つの塗装システムPSに3台以上の塗装ロボットが備えられていてもよい。この場合にも、塗装システムPSを構成する3台以上の塗装ロボットのうちの少なくとも2台の関係としては、本発明に係る関係(第1ロボットベース13Aと基準面Lとの間の距離が、第2ロボットベース13Bと基準面Lとの間の距離よりも短く設定され、第1ロボットベース13Aの下側に、第2ロボットアーム12Bが通過する通過範囲MSを設けた構成)を有していることになる。
【0101】
また、前記各実施形態では、被塗装物(車体150または被塗装物151)と各塗装ユニットPU1~PU4とが相対的に移動しながら塗装を行うものとしていた。本発明はこれに限らず、被塗装物150,151と各塗装ユニットPU1~PU4とが相対的に移動することなく塗装を行うものに対しても適用することが可能である。
【0102】
また、前記各実施形態では、第1塗装ユニットPU1および第2塗装ユニットPU2における第1塗装ロボット1A,1A同士が通過領域Rpを挟んで対向され、第2塗装ロボット1B,1B同士も通過領域Rpを挟んで対向された構成としていた。同様に、第3塗装ユニットPU3および第4塗装ユニットPU4における第1塗装ロボット1A,1A同士が通過領域Rpを挟んで対向され、第2塗装ロボット1B,1B同士も通過領域Rpを挟んで対向された構成としていた。本発明はこれに限らず、第1塗装ロボット1A,1A同士が通過領域Rpを挟んで対向しない構成や、第2塗装ロボット1B,1B同士が通過領域Rpを挟んで対向しない構成であってもよい。例えば、第1塗装ユニットPU1および第3塗装ユニットPU3が前記第1実施形態におけるレイアウト(第1塗装ロボット1Aが、第2塗装ロボット1Bよりも車体150の搬送方向の下流側に配設されたレイアウト;
図1を参照)とされ、第2塗装ユニットPU2および第4塗装ユニットPU4が前記第2実施形態におけるレイアウト(第1塗装ロボット1Aが、第2塗装ロボット1Bよりも車体150の搬送方向の上流側に配設されたレイアウト;
図9を参照)とされた構成であってもよい。また、第1塗装ユニットPU1および第3塗装ユニットPU3が前記第2実施形態におけるレイアウト(第1塗装ロボット1Aが、第2塗装ロボット1Bよりも車体150の搬送方向の上流側に配設されたレイアウト)とされ、第2塗装ユニットPU2および第4塗装ユニットPU4が前記第1実施形態におけるレイアウト(第1塗装ロボット1Aが、第2塗装ロボット1Bよりも車体150の搬送方向の下流側に配設されたレイアウト)とされた構成であってもよい。これによれば、各第1塗装ロボット1A,1A同士がルーフの中央部等を塗装する際に干渉してしまう可能性を低減できる。
【0103】
また、前記各実施形態において、塗料は、水性塗料であってもよいし、溶剤系塗料であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明は、車体の上部の領域を塗装する第1塗装ロボットと、車体における前記上部の領域よりも下側の領域を塗装する第2塗装ロボットとが、所定の基準面に対して同じ側に配置された塗装ユニットを複数備えた塗装システムに適用可能である。
【符号の説明】
【0105】
1A 第1塗装ロボット
1B 第2塗装ロボット
5 搬送装置
11A,11B スプレーガン
12A 第1ロボットアーム
12B 第2ロボットアーム
13A 第1ロボットベース
13B 第2ロボットベース
15A,15B レール
100 塗装ブース
150 車体(被塗装物)
151 被塗装物
303A~303D 制御装置
PS 塗装システム
PU1~PU4 塗装ユニット
L 基準面
MS 通過範囲(ロボットアーム通過範囲)