(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】異常要因判定装置、車両用制御装置、および車両用制御システム
(51)【国際特許分類】
H01F 7/18 20060101AFI20231114BHJP
F16H 61/12 20100101ALI20231114BHJP
F16K 31/06 20060101ALI20231114BHJP
B60K 6/445 20071001ALI20231114BHJP
B60K 6/547 20071001ALI20231114BHJP
B60W 20/50 20160101ALI20231114BHJP
B60W 10/10 20120101ALN20231114BHJP
【FI】
H01F7/18 K
F16H61/12 ZHV
F16K31/06 320A
B60K6/445
B60K6/547
B60W20/50
B60W10/10 900
(21)【出願番号】P 2020103626
(22)【出願日】2020-06-16
【審査請求日】2022-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】田端 淳
(72)【発明者】
【氏名】奥田 弘一
(72)【発明者】
【氏名】今村 健
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 慎一
(72)【発明者】
【氏名】藤井 広太
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/031677(WO,A1)
【文献】特開2015-137744(JP,A)
【文献】特開2016-065551(JP,A)
【文献】特開平09-053696(JP,A)
【文献】特開2013-204785(JP,A)
【文献】特開2018-146090(JP,A)
【文献】国際公開第2017/131134(WO,A1)
【文献】特許第6705546(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0014561(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0040949(US,A1)
【文献】特開平08-291877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 7/18
F16H 61/12
F16K 31/06
B60K 6/445
B60K 6/547
B60W 20/50
B60W 10/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁アクチュエータを備えた車両に適用され、
実行装置と、記憶装置と、を備え、
前記記憶装置には、写像を規定するデータである写像データが記憶されており、
前記写像は、前記電磁アクチュエータに実際に流れる電流を示す変数である電流変数を入力変数に含み、前記電磁アクチュエータを備えた車載装置の異常要因を示す変数である要因変数を出力変数に含み、
前記実行装置は、
前記車両に搭載されているセンサの検出値に基づき前記入力変数の値を取得する取得処理と、
前記入力変数の値を前記写像に入力することによって前記出力変数の値を算出する算出処理と、を実行
し、
前記車載装置は、前記車両に搭載される回転機の回転軸の回転速度と駆動輪の回転速度との変速比を可変とする変速装置であり、
前記電磁アクチュエータは、前記変速装置のソレノイドバルブを含み、
前記入力変数としての電流変数は、前記変速装置による変速比の切り替え期間において前記ソレノイドバルブに流れる電流を示す変数を含み、
前記記憶装置には、前記変速比の切り替えの種類に応じた互いに異なる複数の写像データが記憶されており、
前記算出処理は、前記出力変数の値を算出するための前記写像を規定する前記写像データとして、前記複数の写像データのうちの前記入力変数とされる前記電流変数のサンプリング期間における前記変速比の切り替えに対応する前記写像データを選択する選択処理を含む異常要因判定装置。
【請求項2】
電磁アクチュエータを備えた車両に適用され、
実行装置と、記憶装置と、を備え、
前記記憶装置には、写像を規定するデータである写像データが記憶されており、
前記写像は、前記電磁アクチュエータに実際に流れる電流を示す変数である電流変数を入力変数に含み、前記電磁アクチュエータを備えた車載装置の異常要因を示す変数である要因変数を出力変数に含み、
前記実行装置は、
前記車両に搭載されているセンサの検出値に基づき前記入力変数の値を取得する取得処理と、
前記入力変数の値を前記写像に入力することによって前記出力変数の値を算出する算出処理と、を実行
し、
前記車載装置は、前記車両に搭載される回転機の回転軸の回転速度と駆動輪の回転速度との変速比を可変とする変速装置であり、
前記電磁アクチュエータは、前記変速装置のソレノイドバルブを含み、
前記入力変数としての電流変数は、前記変速装置による変速比の切り替え期間において前記ソレノイドバルブに流れる電流を示す変数を含み、
前記記憶装置には、前記駆動輪に加わるトルクを示す変数であるトルク変数毎に互いに異なる複数の写像データが記憶されており、
前記取得処理は、前記トルク変数の値を取得する処理を含み、
前記算出処理は、前記出力変数の値を算出するための前記写像を規定する前記写像データとして、前記複数の写像データのうちの前記取得処理によって取得された前記トルク変数の値に対応する前記写像データを選択する選択処理を含む異常要因判定装置。
【請求項3】
電磁アクチュエータを備えた車両に適用され、
実行装置と、記憶装置と、を備え、
前記記憶装置には、写像を規定するデータである写像データが記憶されており、
前記写像は、前記電磁アクチュエータに実際に流れる電流を示す変数である電流変数を入力変数に含み、前記電磁アクチュエータを備えた車載装置の異常要因を示す変数である要因変数を出力変数に含み、
前記実行装置は、
前記車両に搭載されているセンサの検出値に基づき前記入力変数の値を取得する取得処理と、
前記入力変数の値を前記写像に入力することによって前記出力変数の値を算出する算出処理と、を実行
し、
前記車載装置は、前記車両に搭載される回転機の回転軸の回転速度と駆動輪の回転速度との変速比を可変とする変速装置であり、
前記電磁アクチュエータは、前記変速装置のソレノイドバルブを含み、
前記入力変数としての電流変数は、前記変速装置による変速比の切り替え期間において前記ソレノイドバルブに流れる電流を示す変数を含み、
前記写像に一度に入力される前記入力変数としての前記電流変数には、前記変速装置による変速比の今回の切り替え期間における前記ソレノイドバルブに流れる電流を示す変数に加えて、過去において同一の切り替えがなされたときに前記ソレノイドバルブに流れた電流を示す変数が含まれる異常要因判定装置。
【請求項4】
電磁アクチュエータを備えた車両に適用され、
実行装置と、記憶装置と、を備え、
前記記憶装置には、写像を規定するデータである写像データが記憶されており、
前記写像は、前記電磁アクチュエータに実際に流れる電流を示す変数である電流変数を入力変数に含み、前記電磁アクチュエータを備えた車載装置の異常要因を示す変数である要因変数を出力変数に含み、
前記実行装置は、
前記車両に搭載されているセンサの検出値に基づき前記入力変数の値を取得する取得処理と、
前記入力変数の値を前記写像に入力することによって前記出力変数の値を算出する算出処理と、を実行
し、
前記車載装置は、前記車両に搭載される回転機の回転軸の回転速度と駆動輪の回転速度との変速比を可変とする変速装置であり、
前記電磁アクチュエータは、前記変速装置のソレノイドバルブを含み、
前記入力変数としての電流変数は、前記変速装置による変速比の切り替え期間において前記ソレノイドバルブに流れる電流を示す変数を含み、
前記要因変数は、前記変速装置の作動油に気泡が含まれることによる前記ソレノイドバルブの制御性の低下、前記ソレノイドバルブに一時的に異物が混入して当該ソレノイドバルブの動作に一時的に生じる異常である一時ステック異常、および前記ソレノイドバルブに異物が混入して当該ソレノイドバルブの動作が定常的に異常となる定常ステック異常が含まれる異常要因判定装置。
【請求項5】
前記電流変数は、前記切り替え期間において前記ソレノイドバルブに流れる電流の検出値と電流指令値とのずれ量を示す変数を含む請求項1
~4のいずれか1項に記載の異常要因判定装置。
【請求項6】
電磁アクチュエータを備えた車両に適用され、
実行装置と、記憶装置と、を備え、
前記記憶装置には、写像を規定するデータである写像データが記憶されており、
前記写像は、前記電磁アクチュエータに実際に流れる電流を示す変数である電流変数を入力変数に含み、前記電磁アクチュエータを備えた車載装置の異常要因を示す変数である要因変数を出力変数に含み、
前記実行装置は、
前記車両に搭載されているセンサの検出値に基づき前記入力変数の値を取得する取得処理と、
前記入力変数の値を前記写像に入力することによって前記出力変数の値を算出する算出処理と、を実行
し、
前記車載装置は、前記車両に搭載される回転機の回転軸の回転速度と駆動輪の回転速度との変速比を可変とする変速装置であり、
前記電磁アクチュエータは、前記変速装置のソレノイドバルブを含み、
前記入力変数としての電流変数は、前記変速装置による変速比の切り替え期間において前記ソレノイドバルブに流れる電流を示す変数を含み、
前記実行装置は、
前記変速比の切り替えがなされる期間における前記変速装置の入力軸の回転速度と基準となる回転速度との乖離度合いが所定以上となること条件に、前記変速装置に異常が生じたと判定する異常判定処理と、
報知装置を操作して前記異常が生じた旨を報知する報知処理と、を実行し、
前記取得処理は、前記異常判定処理によって異常が生じたと判定されたときの前記切り替えがなされる期間における前記入力変数の値を取得する処理を含む車両用制御装置。
【請求項7】
前記実行装置は、前記算出処理の算出結果を前記記憶装置に記憶する記憶処理を実行する請求項
6記載の車両用制御装置。
【請求項8】
電磁アクチュエータを備えた車両に適用され、
実行装置と、記憶装置と、を備え、
前記記憶装置には、写像を規定するデータである写像データが記憶されており、
前記写像は、前記電磁アクチュエータに実際に流れる電流を示す変数である電流変数を入力変数に含み、前記電磁アクチュエータを備えた車載装置の異常要因を示す変数である要因変数を出力変数に含み、
前記実行装置は、
前記車両に搭載されているセンサの検出値に基づき前記入力変数の値を取得する取得処理と、
前記入力変数の値を前記写像に入力することによって前記出力変数の値を算出する算出処理と、を実行
し、
前記車載装置は、前記車両に搭載される回転機の回転軸の回転速度と駆動輪の回転速度との変速比を可変とする変速装置であり、
前記電磁アクチュエータは、ソレノイドバルブを含み、
前記写像は、第1写像であり、
前記写像データは、第1写像データであり、
前記取得処理は、第1取得処理であり、
前記算出処理は、第1算出処理であり、
前記実行装置は、前記変速比の切り替えがなされていないときに解放状態となっている摩擦係合要素の解放および締結を切り替えるための前記ソレノイドバルブに当該摩擦係合要素が締結状態とならない範囲で前記ソレノイドバルブを振動させるべく当該ソレノイドバルブに電流を流すディザ制御処理を実行し、
前記記憶装置には、前記ディザ制御処理がなされているときの前記電流変数を入力変数に含み、前記ソレノイドバルブの異常の有無を示す変数である異常変数を出力変数に含む第2写像を規定する第2写像データが記憶されており、
前記実行装置は、
前記ディザ制御処理の実行時における前記電流変数の値を取得する第2取得処理と、
前記第2取得処理によって取得された前記電流変数の値を前記第2写像に入力して前記出力変数の値を算出する第2算出処理と、を実行する車両用制御装置。
【請求項9】
前記実行装置は、前記第2算出処理による算出結果を前記車両の外部に通知する通知処理を実行する請求項
8記載の車両用制御装置。
【請求項10】
請求項
6~9のいずれか1項に記載の車両用制御装置における前記実行装置および前記記憶装置を備え、
前記実行装置は、前記車両に備えられている第1実行装置と、前記車両に備えられていない第2実行装置とを含み、
前記第1実行装置は、前記電磁アクチュエータに実際に流れる電流に関する前記センサの検出値に基づくデータを送信するデータ送信処理を実行し、
前記第2実行装置は、前記データ送信処理によって送信されたデータを受信するデータ受信処理および前記算出処理を実行する車両用制御システム。
【請求項11】
前記第2実行装置は、複数の前記車両の前記電流変数の値に基づき前記算出処理を実行するものであり、
前記算出処理の出力変数の値が妥当でない旨の情報を取得するフィードバック処理と、
前記フィードバック処理によって妥当でない旨の情報を取得する場合、前記写像データを更新する更新処理と、を実行する請求項1
0記載の車両用制御システム。
【請求項12】
前記第2実行装置は、前記算出処理による算出結果を送信する結果送信処理を実行し、
前記第1実行装置は、前記結果送信処理によって送信された前記算出結果を受信する結果受信処理を実行する請求項1
0または11記載の車両用制御システム。
【請求項13】
請求項1
0~12記載のいずれか1項に記載の車両用制御システムにおける前記第1実行装置を備える車両用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常要因判定装置、車両用制御装置、および車両用制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば下記特許文献1には、リニアソレノイドに流れる電流に基づき、リニアソレノイドに異常があるか否かを判定する装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ただし、異常が生じた場合、異常が生じた箇所の詳細を特定するには、リニアソレノイド駆動装置を分解する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段およびその作用効果について記載する。
1.電磁アクチュエータを備えた車両に適用され、実行装置と、記憶装置と、を備え、前記記憶装置には、写像を規定するデータである写像データが記憶されており、前記写像は、前記電磁アクチュエータに実際に流れる電流を示す変数である電流変数を入力変数に含み、前記電磁アクチュエータを備えた車載装置の異常要因を示す変数である要因変数を出力変数に含み、前記実行装置は、前記車両に搭載されているセンサの検出値に基づき前記入力変数の値を取得する取得処理と、前記入力変数の値を前記写像に入力することによって前記出力変数の値を算出する算出処理と、を実行する異常要因判定装置である。
【0006】
電磁アクチュエータを備えた車載部品に異常が生じる場合、電磁アクチュエータに実際に流れる電流の挙動に影響する傾向がある。しかも、車載部品の互いに異なる異常要因同士で、電流の挙動が異なる傾向がある。上記構成では、その点に鑑み、電流変数を入力変数に含んで且つ要因変数を出力変数に含む写像を用いて、要因変数の値を算出する。これにより、異常が生じた詳細な箇所を特定することが可能となる。
【0007】
2.前記車載装置は、前記車両に搭載される回転機の回転軸の回転速度と駆動輪の回転速度との変速比を可変とする変速装置であり、前記電磁アクチュエータは、前記変速装置のソレノイドバルブを含み、前記入力変数としての電流変数は、前記変速装置による変速比の切り替え期間において前記ソレノイドバルブに流れる電流を示す変数を含む上記1記載の異常要因判定装置である。
【0008】
変速比の切り替え期間においてソレノイドバルブに流れる電流は、ソレノイドバルブの動作に依存する。そのため、ソレノイドバルブに流れる電流を示す変数を写像への入力変数に含めることにより、異常箇所の詳細を特定できる。
【0009】
3.前記電流変数は、前記切り替え期間において前記ソレノイドバルブに流れる電流の検出値と電流指令値とのずれ量を示す変数を含む上記2記載の異常要因判定装置である。
ソレノイドバルブに流れる電流の指令値が変更される場合、ソレノイドバルブに流れる電流の挙動は、電流指令値が変更されるがゆえに変更前とは異なったものとなる。これに対し、上記構成では、電流変数をずれ量を示す変数とすることにより、電流指令値が変更されることによる電流変数の値の変化を抑制できる。
【0010】
4.前記記憶装置には、前記変速比の切り替えの種類に応じた互いに異なる複数の写像データが記憶されており、前記算出処理は、前記出力変数の値を算出するための前記写像を規定する前記写像データとして、前記複数の写像データのうちの前記入力変数とされる前記電流変数のサンプリング期間における前記変速比の切り替えに対応する前記写像データを選択する選択処理を含む上記2または3記載の異常要因判定装置である。
【0011】
変速比に応じて適切な変速制御が異なることから、変速比に応じて電流の挙動も異なり得る。そのため、変速比の切り替えの種類にかかわらず単一の写像を用いる場合には、写像に対する要求が大きくなる。そこで上記構成では、変速比の切り替えの種類毎に異なる写像データを用意し、該当する写像データを用いて出力変数の値を算出することにより、各写像の学習に用いる訓練データの数が小さい割に高精度な学習をしたり、入力変数の次元が小さい割に出力変数の値を高精度に算出したり、構造が簡素な割に出力変数の値を高精度に算出したりすることができる。
【0012】
5.前記記憶装置には、前記駆動輪に加わるトルクを示す変数であるトルク変数毎に互いに異なる複数の写像データが記憶されており、前記取得処理は、前記トルク変数の値を取得する処理を含み、前記算出処理は、前記出力変数の値を算出するための前記写像を規定する前記写像データとして、前記複数の写像データのうちの前記取得処理によって取得された前記トルク変数の値に対応する前記写像データを選択する選択処理を含む上記2~4のいずれか1つに記載の異常要因判定装置である。
【0013】
駆動輪に加わるトルクに応じて変速装置内に加わるトルクが異なることから、適切な変速制御が異なる。そのため、トルクに応じて電流の挙動も異なったものとなる傾向がある。そのため、トルクにかかわらず単一の写像を用いる場合には、写像に対する要求が大きくなる。そこで上記構成では、トルク毎に異なる写像データを用意し、該当する写像データを用いて出力変数の値を算出することにより、各写像の学習に用いる訓練データの数が小さい割に高精度な学習をしたり、入力変数の次元が小さい割に出力変数の値を高精度に算出したり、構造が簡素な割に出力変数の値を高精度に算出したりすることができる。
【0014】
6.前記写像に一度に入力される前記入力変数としての前記電流変数には、前記変速装置による変速比の今回の切り替え期間における前記ソレノイドバルブに流れる電流を示す変数に加えて、過去において同一の切り替えがなされたときに前記ソレノイドバルブに流れた電流を示す変数が含まれる上記2~5のいずれか1つに記載の異常要因判定装置である。
【0015】
上記構成では、過去において同一の切り替えがなされたときにソレノイドバルブに流れた電流を示す変数をも入力変数に加えることにより、電流の挙動の履歴、傾向を踏まえて要因変数の値を算出できる。
【0016】
7.前記要因変数は、前記変速装置の作動油に気泡が含まれることによる前記ソレノイドバルブの制御性の低下、前記ソレノイドバルブに一時的に異物が混入して当該ソレノイドバルブの動作に一時的に生じる異常である一時ステック異常、および前記ソレノイドバルブに異物が混入して当該ソレノイドバルブの動作が定常的に異常となる定常ステック異常が含まれる上記2~6のいずれか1つに記載の異常要因判定装置である。
【0017】
上記3つの異常のそれぞれでソレノイドバルブに流れる電流の挙動は顕著な違いを示す傾向がある。そのため、上記構成によれば、電流変数の値に基づき上記3つの異常のいずれに該当するかを高精度に判定できる。
【0018】
8.上記2~7のいずれか1つに記載の異常要因判定装置における前記実行装置および前記記憶装置を備え、前記実行装置は、前記変速比の切り替えがなされる期間における前記変速装置の入力軸の回転速度と基準となる回転速度との乖離度合いが所定以上となること条件に、前記変速装置に異常が生じたと判定する異常判定処理と、報知装置を操作して前記異常が生じた旨を報知する報知処理と、を実行し、前記取得処理は、前記異常判定処理によって異常が生じたと判定されたときの前記切り替えがなされる期間における前記入力変数の値を取得する処理を含む車両用制御装置である。
【0019】
上記構成では、異常判定処理によって異常が生じたと判定されたときの入力変数の値に基づき要因変数の値を算出することにより、異常判定処理によって判定された異常の要因を詳細に判定できる。
【0020】
9.前記実行装置は、前記算出処理の算出結果を前記記憶装置に記憶する記憶処理を実行する上記8記載の車両用制御装置である。
上記構成では、記憶装置に算出結果が記憶されることから、報知処理を受けてユーザが車両をたとえば修理工場等に持ち込んだ際、その車両に対していかなる処置をするかを判断する主体が、記憶装置に記憶された算出結果に基づいて処置を決めることができる。
【0021】
10.上記1~7のいずれか1項に記載の異常要因判定装置における前記実行装置および前記記憶装置を備え、前記車載装置は、前記車両に搭載される回転機の回転軸の回転速度と駆動輪の回転速度との変速比を可変とする変速装置であり、前記電磁アクチュエータは、ソレノイドバルブを含み、前記写像は、第1写像であり、前記写像データは、第1写像データであり、前記取得処理は、第1取得処理であり、前記算出処理は、第1算出処理であり、前記実行装置は、前記変速比の切り替えがなされていないときに解放状態となっている摩擦係合要素の解放および締結を切り替えるための前記ソレノイドバルブに当該摩擦係合要素が締結状態とならない範囲で前記ソレノイドバルブを振動させるべく当該ソレノイドバルブに電流を流すディザ制御処理を実行し、前記記憶装置には、前記ディザ制御処理がなされているときの前記電流変数を入力変数に含み、前記ソレノイドバルブの異常の有無を示す変数である異常変数を出力変数に含む第2写像を規定する第2写像データが記憶されており、前記実行装置は、前記ディザ制御処理の実行時における前記電流変数の値を取得する第2取得処理と、前記第2取得処理によって取得された前記電流変数の値を前記第2写像に入力して前記出力変数の値を算出する第2算出処理と、を実行する車両用制御装置である。
【0022】
上記構成では、解放状態となっている摩擦係合要素を駆動するソレノイドバルブに流れる電流に基づき同ソレノイドバルブに異常があるか否かを示す異常変数の値を算出する。そのため、変速制御に異常が生じる以前に異常の有無を判定できる。
【0023】
11.前記実行装置は、前記第2算出処理による算出結果を前記車両の外部に通知する通知処理を実行する上記10記載の車両用制御装置である。
上記構成では、第2算出処理による算出結果を車両の外部に通知することにより、車両内での実際の変速制御において異常が検知される以前に、異常が生じる予兆に関する情報等を車両の外部に通知できる。
【0024】
12.上記8~11のいずれか1つに記載の車両用制御装置における前記実行装置および前記記憶装置を備え、前記実行装置は、前記車両に備えられている第1実行装置と、前記車両に備えられていない第2実行装置とを含み、前記第1実行装置は、前記電磁アクチュエータに実際に流れる電流に関する前記センサの検出値に基づくデータを送信するデータ送信処理を実行し、前記第2実行装置は、前記データ送信処理によって送信されたデータを受信するデータ受信処理および前記算出処理を実行する車両用制御システムである。
【0025】
上記構成では、車両の外部の第2実行装置が算出処理を実行することから、第1実行装置が算出処理を実行する場合と比較して、第1実行装置の演算負荷を軽減できる。
13.前記第2実行装置は、複数の前記車両の前記電流変数の値に基づき前記算出処理を実行するものであり、前記算出処理の出力変数の値が妥当でない旨の情報を取得するフィードバック処理と、前記フィードバック処理によって妥当でない旨の情報を取得する場合、前記写像データを更新する更新処理と、を実行する上記12記載の車両用制御システムである。
【0026】
上記構成では、複数の車両のそれぞれに関する出力変数の値が妥当でない場合、写像データを更新する。そのため、単一の車両の出力変数の値のみを扱う場合と比較して、更新のためのデータ量を増加させやすく、ひいては写像データを実際の車両の走行において出力変数の値をより高精度に算出するデータとすることができる。
【0027】
14.前記第2実行装置は、前記算出処理による算出結果を送信する結果送信処理を実行し、前記第1実行装置は、前記結果送信処理によって送信された前記算出結果を受信する結果受信処理を実行する上記12または13記載の車両用制御システムである。
【0028】
15.上記12~14記載のいずれか1つに記載の車両用制御システムにおける前記第1実行装置を備える車両用制御装置である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】第1の実施形態にかかる車両の駆動系および制御装置の構成を示す図。
【
図2】同実施形態にかかる制御装置が実行する処理を示すブロック図。
【
図3】同実施形態にかかる制御装置が実行する処理の手順を示す流れ図。
【
図4】同実施形態にかかる吹き量を示すタイムチャート。
【
図5】同実施形態にかかる制御装置が実行する処理の手順を示す流れ図。
【
図6】(a)~(d)は、同実施形態にかかる変速時の電流および回転速度の挙動と異常要因との関係を示すタイムチャート。
【
図8】第2の実施形態にかかるシステムの構成を示す図。
【
図9】(a)および(b)は、同実施形態にかかるシステムが実行する処理の手順を示す流れ図。
【
図10】同実施形態にかかる出力変数を定義する図。
【
図11】第3の実施形態にかかるシステムの構成を示す図。
【
図12】(a)および(b)は、同実施形態にかかるシステムが実行する処理の手順を示す流れ図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
<第1の実施形態>
以下、第1の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1に示すように、内燃機関10のクランク軸12には、動力分割装置20が機械的に連結されている。動力分割装置20は、内燃機関10、第1モータジェネレータ22、および第2モータジェネレータ24の動力を分割する。動力分割装置20は、遊星歯車機構を備えており、遊星歯車機構のキャリアCにクランク軸12が機械的に連結されており、サンギアSに、第1モータジェネレータ22の回転軸22aが機械的に連結されており、リングギアRに、第2モータジェネレータ24の回転軸24aが機械的に連結されている。なお、第1モータジェネレータ22の端子には、第1インバータ23の出力電圧が印加される。また、第2モータジェネレータ24の端子には、第2インバータ25の出力電圧が印加される。
【0031】
動力分割装置20のリングギアRには、第2モータジェネレータ24の回転軸24aに加えて、さらに、変速装置26を介して駆動輪30が機械的に連結されている。
また、キャリアCには、オイルポンプ32の従動軸32aが機械的に連結されている。オイルポンプ32は、オイルパン34内のオイルを潤滑油として動力分割装置20に循環させたり、同オイルを作動油として変速装置26に吐出したりするポンプである。なお、オイルポンプ32から吐出された作動油は、変速装置26内の油圧制御回路28によってその圧力が調整されて作動油として利用される。油圧制御回路28は、複数のソレノイドバルブ28aを備えており、それら各ソレノイドバルブ28aの通電によって、作動油の流動状態や作動油の油圧を制御する回路である。
【0032】
制御装置40は、内燃機関10を制御対象とし、その制御量であるトルクや排気成分比率等を制御すべく、内燃機関10の各種操作部を操作する。また、制御装置40は、第1モータジェネレータ22を制御対象とし、その制御量であるトルクや回転速度等を制御すべく、第1インバータ23を操作する。また、制御装置40は、第2モータジェネレータ24を制御対象とし、その制御量であるトルクや回転速度等を制御すべく、第2インバータ25を操作する。
【0033】
制御装置40は、上記制御量を制御する際、クランク角センサ50の出力信号Scrや、第1モータジェネレータ22の回転軸22aの回転角を検知する第1回転角センサ52の出力信号Sm1、第2モータジェネレータ24の回転軸24aの回転角を検知する第2回転角センサ54の出力信号Sm2を参照する。また、制御装置40は、油温センサ56によって検出されるオイルの温度である油温Toilや、車速センサ58によって検出される車速SPD、アクセルセンサ62によって検出されるアクセルペダル60の操作量であるアクセル操作量ACCP、電流センサ64によって検出されるソレノイドバルブ28aを流れる電流Iを参照する。なお、電流センサ64は、実際には、複数のソレノイドバルブ28aの各々の電流を検出する複数の専用のセンサを含む。
【0034】
制御装置40は、CPU42、ROM44、電気的に書き換え可能な不揮発性メモリである記憶装置46、および周辺回路48を備えており、それらがローカルネットワーク49を介して通信可能とされている。ここで、周辺回路48は、内部の動作を規定するクロック信号を生成する回路や、電源回路、リセット回路等を含む。制御装置40は、ROM44に記憶されたプログラムをCPU42が実行することにより制御量を制御する。
【0035】
図2に、制御装置40が実行する処理の一部を示す。
図2に示す処理は、ROM44に記憶されたプログラムをCPU42がたとえば所定周期で繰り返し実行することにより実現される。
【0036】
変速比指令値設定処理M10は、変速比の切り替え期間におけるアクセル操作量ACCPおよび車速SPDに基づき、変速比の指令値である変速比指令値Vsft*を設定する処理である。油圧指令値設定処理M12は、変速比の切り替え時において、アクセル操作量ACCPと、油温Toilと、変速比指令値Vsft*および切替変数ΔVsftとに基づき、切替に用いられるソレノイドバルブ28aによって調整される油圧の指令値のベース値である油圧指令値P0*を設定する処理である。ここで切替変数ΔVsftは、変速比の切り替えがアップシフトであるかダウンシフトであるかを示す。したがって、変速比指令値Vsft*が3速を示して且つ切替変数ΔVsftがアップシフトである場合、変速の種類が、3速から4速への切り替えであることを示す。油圧指令値設定処理M12は、アクセル操作量ACCPと、変速の種類と、油温Toilとを入力変数とし、油圧指令値P0*を出力変数とするマップデータがROM44に予め記憶された状態でCPU42により油圧指令値P0*をマップ演算することにより実現される。なお、マップデータとは、入力変数の離散的な値と、入力変数の値のそれぞれに対応する出力変数の値と、の組データである。また、マップ演算は、たとえば、入力変数の値がマップデータの入力変数の値のいずれかに一致する場合、対応するマップデータの出力変数の値を演算結果とするのに対し、一致しない場合、マップデータに含まれる複数の出力変数の値の補間によって得られる値を演算結果とする処理とすればよい。
【0037】
詳しくは、油圧指令値P0*は、
図2に示すフェーズ1、フェーズ2、およびフェーズ3のそれぞれにおけるものである。ここで、フェーズ1は、変速比の切り替え指令が出てから予め定められた所定時間が経過するまでの期間である。フェーズ2は、トルク相の終了までの期間であり、フェーズ3は、変速比の切り替えの完了までの期間である。なお、フェーズ3については、マップデータの出力変数の値は、実際には油圧指令値P0*の上昇速度とする。
【0038】
学習補正量算出処理M14は、第2モータジェネレータ24の回転軸24aの回転速度Nm2と基準となる回転速度Nm2*との差である吹き量ΔNm2に基づき、油圧指令値P0*を補正する補正量ΔPを算出する処理である。ここで、吹き量ΔNm2が、油圧指令値P0*を定めるアクセル操作量ACCPおよび変速の種類によって定まる領域における変速比の切り替え期間における量の場合、補正量ΔPは、その領域における量とされる。また、回転速度Nm2は、CPU42により、第2回転角センサ54の出力信号Sm2に基づき算出される。また、CPU42は、基準となる回転速度Nm2を、変速比指令値Vsft*、切替変数ΔVsft、および車速SPDを入力として設定する。この処理は、変速比指令値Vsft*、切替変数ΔVsftおよび車速SPDを入力変数とし、基準となる回転速度Nm2*を出力変数とするマップデータがROM44に予め記憶された状態で、CPU42によって回転速度Nm2*をマップ演算することにより実現できる。
【0039】
補正処理M16は、油圧指令値P0*に補正量ΔPを加算することによって油圧指令値P*を算出する処理である。
電流変換処理M18は、油圧指令値P*をソレノイドバルブ28aに流れる電流の指令値(電流指令値I*)に変換する処理である。
【0040】
制御装置40は、変速比指令値Vsft*の値が変化する場合、電流指令値I*を
図2に示すようにフェーズ毎に変化させることによって摩擦係合要素を解放状態から締結状態に切り替える。なお、締結状態から解放状態に切り替えられる摩擦係合要素に対応する油圧指令値や電流指令値についても、上記同様のマップデータに基づくマップ演算とすればよい。
【0041】
図3に、制御装置40が実行する処理の手順を示す。
図3に示す処理は、ROM44に記憶されたプログラムをCPU42がたとえば所定周期でくり返し実行することにより実現される。なお、以下では、先頭に「S」が付与された数字によって各処理のステップ番号を表現する。
【0042】
図3に示す一連の処理において、CPU42は、まず、変速比の切り替え制御時であるか否かを判定する(S10)。そしてCPU42は、切り替え制御時であると判定する場合(S10:YES)、アクセル操作量ACCP、変速比指令値Vsft*、切替変数ΔVsft、および油温Toilを取得する(S12)。また、CPU42は、今回の切り替えに伴って解放状態から締結状態に切り替えられる摩擦係合要素の切り替え用のソレノイドバルブ28aに流れる電流Iと電流指令値I*との差である電流偏差ΔIを算出し、記憶装置46に記憶させる(S14)。
【0043】
次にCPU42は、変速指令が出されてから所定期間が経過したか否かを判定する(S16)。ここで所定期間は、変速制御が完了するのに想定される時間の最大値に応じて設定されている。そして、CPU42は、所定期間が未だ経過していないと判定する場合(S16:NO)、第2モータジェネレータ24の回転軸24aの回転速度Nm2と基準となる回転速度Nm2*との差の絶対値が閾値ΔNm2th以上となる状態が所定時間継続したか否かを判定する(S20)。この処理は、変速制御に異常が生じたか否かを判定する処理である。
【0044】
すなわち、変速制御に異常が生じる場合、変速装置26の入力側の回転速度が大きく吹きあがる事態等が生じることから、
図4に一点鎖線にて示すように、クランク軸12の回転速度NEや第2モータジェネレータ24の回転軸24aの回転速度Nm2が吹きあがる現象が生じる。なお、
図4には、回転速度NE,Nm1,Nm2,トルク指令値Trqm1*,Trqm2*の推移とともに、作動油圧Pc2,Pc1とそれらの指令値Pc2*,Pc1*との推移を示している。ここで、回転速度NEは、クランク軸12の回転速度であり、回転速度Nm1は、第1モータジェネレータ22の回転軸22aの回転速度である。また、トルク指令値Trqm1*は、第1モータジェネレータ22に対するトルク指令値であり、トルク指令値Trqm2*は、第2モータジェネレータ24に対するトルク指令値である。また、作動油圧Pc2および作動油圧Pc1は、
図4に示す変速において想定している摩擦係合要素のうちの締結側の要素の作動油圧および解放側の要素の作動油圧である。
【0045】
指令値Pc2*,Pc1*は、変速装置26の入力側の回転速度が吹きあがる等の現象が生じることを抑制するように設定されている。そしてその設定によって、変速時の基準となる回転速度Nm2*が定まっている。
【0046】
図3に戻り、CPU42は、所定時間以上継続したと判定する場合(S20:YES)、異常がある旨の仮判定をする(S22)。
CPU42は、S22の処理を完了する場合や、S20の処理において否定判定する場合には、S14の処理に戻る。
【0047】
一方、CPU42は、所定期間が経過したと判定する場合(S16:YES)、変速が未完了であるか否かを判定する(S18)。ここでCPU42は、実際の変速比が変速比指令値Vsft*となっていない場合に変速が未完了と判定すればよい。CPU42は、変速が未完了と判定する場合(S18:YES)、異常がある旨判定する(S24)。
【0048】
一方、CPU42は、変速が完了していると判定する場合(S18:NO)、仮異常判定がなされたか否かを判定する(S25)。そしてCPU42は、仮異常判定がなされたと判定する場合(S25:YES)、カウンタCを「1」だけインクリメントする(S26)。そしてCPU42は、カウンタCの値が「1」よりも大きい所定値Cth以上であるか否かを判定する(S28)。CPU42は、所定値Cth以上であると判定する場合(S28:YES)、異常判定をする(S24)。そして、CPU42は、変速比を所定の変速比に固定するフェールセーフ処理を実行する(S30)。ここでの所定の変速比は、異常が生じたときに締結状態とされるべきだった摩擦係合要素を解放状態とする変速比である。
【0049】
また、CPU42は、
図1に示す表示器70を操作して異常がある旨の視覚情報を表示器70に表示させる報知処理を実行する(S32)。そしてCPU42は、異常判定がなされた旨を示すデータと、異常が生じたときのアクセル操作量ACCP、変速比指令値Vsft*、切替変数ΔVsftおよび油温Toilとを記憶装置46に記憶する(S34)。
【0050】
なお、CPU42は、S34の処理を完了する場合や、S10,S25,S28の処理において否定判定する場合には、
図3に示す一連の処理を一旦終了する。
図5に、制御装置40が実行する別の処理の手順を示す。
図5に示す処理は、ROM44に記憶されたプログラムをCPU42がたとえば所定周期で繰り返し実行することにより実現される。
【0051】
図5に示す一連の処理において、CPU42は、まず
図3の処理によって異常判定がなされたか否かを判定する(S40)。そしてCPU42は異常判定がなされたと判定する場合(S40:YES)、
図3のS34の処理において記憶装置46に記憶したアクセル操作量ACCP、変速比指令値Vsft*、および切替変数ΔVsftを読み出す(S42)。そしてCPU42は、異常が生じたときのアクセル操作量ACCPと変速の種類とに基づき、
図1に示す記憶装置46に記憶されている写像データDMの中から該当する写像データDMを選択して読み出す(S44)。すなわち、記憶装置46には、
図2に示した油圧指令値設定処理M12が油圧指令値P0*を定めるアクセル操作量ACCPおよび変速の種類に応じて分割された領域A1,A2,…,A7,B1,…のそれぞれに対応した各別の写像データDMが記憶されている。
【0052】
次にCPU42は、
図3のS14の処理において記憶した電流偏差ΔIの時系列データである電流偏差ΔI(1),ΔI(2),…,ΔI(n)を読み出す(S46)。電流偏差ΔI(1),ΔI(2),…,ΔI(n)は、異常がある旨判定された際の変速比の切り替え期間における電流偏差ΔIの時系列データである。電流偏差ΔIの時系列データは、異常の要因と相関を有するデータである。
【0053】
図6に、変速時における電流I、作動油圧Pc2、および基準となる回転速度Nm2*を回転速度Nm2が上回る量である吹き量ΔNm2の推移を示す。なお、
図6(a)~
図6(d)のそれぞれの右側には、吹き量ΔNm2の6個のサンプリング値を示している。ここで、
図6(a)は、正常時の推移例であり、
図6(b)~
図6(d)が異常時の推移例である。
【0054】
詳しくは、
図6(b)は、ソレノイドバルブ28aにエアが混入し、フィードバック制御によって作動油圧Pc2の制御に異常が生じることによって、回転速度Nm2が正常時とは異なる挙動を示す例を示している。この際の実電流の挙動は、正常時とは異なっている。また、
図6(c)は、ソレノイドバルブ28aに異物が混入し、一時的にバルブが動作しなくなる異常である一時ステックが生じた場合を示している。その場合、作動油圧Pc2の上昇が一時的に鈍ることに起因して、吹き量ΔNm2が閾値Nm2thを一旦超える。また、この際の電流Iの挙動は、
図6(b)の場合とは異なっている。
図6(d)は、ソレノイドバルブ28aに異物が混入し、バルブが定常的に動作しなくなる異常である完全ステックが生じた場合を示している。その場合、作動油圧Pc2が低いために摩擦係合要素を締結状態とすることができず、吹き量ΔNm2が閾値Nm2thを超える状態が継続する。そしてその場合の電流Iの挙動も
図6(b)とは異なっている。
【0055】
図5に戻り、CPU42は、異常が生じたと判定されるよりも前において、異常が生じたときと同一の変速比の切り替えがなされていた期間において
図3のS14の処理において記憶した電流偏差ΔIの時系列データである電流偏差ΔI(-p+1),ΔI(-p+2),…,ΔI(-p+n)を読み出す(S48)。なお、ここで「異常が生じたときと同一の変速比の切り替え」とは、変速の種類およびアクセル操作量ACCPが、
図2に示した油圧指令値P0*の設定に用いる領域A1,A2,…のうち異常が生じたときと同一の領域にある場合を意味することとする。なお、さらに異常が生じたときとの油温Toilの差の絶対値が所定値以下である旨の条件を加えることがより望ましい。
【0056】
次にCPU42は、S44の処理によって選択した写像データDMによって規定される写像への入力変数x(1)~x(2n)に、S46,S48の処理によって取得した時系列データを代入する(S50)。すなわち、「i=1~n」として、入力変数x(i)に、電流偏差ΔI(i)を代入し、入力変数x(n+i)に、電流偏差ΔI(-p+i)を代入する。
【0057】
次にCPU42は、S44の処理によって選択した写像データDMによって規定される写像に入力変数x(1)~x(2n)の値を代入することによって、出力変数y(1),y(2),…,y(q)の値を算出する(S52)。
【0058】
本実施形態では、写像として関数近似器を例示し、詳しくは、中間層が1層の全結合順伝搬型のニューラルネットワークを例示する。具体的には、S50の処理により値が代入された入力変数x(1)~x(2n)とバイアスパラメータであるx(0)とが、係数wFjk(j=1~m,k=0~2n)によって規定される線形写像にて変換された「m」個の値のそれぞれが活性化関数fに代入されることによって、中間層のノードの値が定まる。また、係数wSijによって規定される線形写像によって中間層のノードの値のそれぞれが変換された値のそれぞれが活性化関数gに代入されることによって、出力変数y(1),y(2),y(3),…の値が定まる。なお、本実施形態では、活性化関数fとして、ハイパボリックタンジェントを例示する。また、活性化関数gとして、ソフトマックス関数を例示する。
【0059】
図7に示すように、出力変数y(1),y(2),y(3),…は、異常の要因を特定する要因変数となっている。
図7には、出力変数y(1)が、
図6(b)に示したエア混入が生じた確率を示し、出力変数y(2)が
図6(c)に示した一時ステックが生じた確率を示し、出力変数y(3)が
図6(d)に示した完全ステックが生じた確率を示す。
【0060】
図5に戻り、CPU42は、出力変数y(1)~y(q)のうちの最大値ymaxを選択する(S54)。そしてCPU42は、出力変数y(1)~y(q)のうちの最大値ymaxと等しい出力変数に基づき、異常の要因を特定し、要因の特定結果を記憶装置46に記憶する(S56)。たとえばCPU42は、出力変数y(1)の値が最大値ymaxに等しい場合、異常判定がなされた要因がエア混入が生じたためであることを記憶装置46に記憶する。
【0061】
なお、CPU42はS56の処理が完了する場合や、S40の処理によって否定判定する場合には、
図5に示す一連の処理を一旦終了する。
なお、写像データDMのそれぞれは、車両VCの出荷前において、試作車等を運転することによって得られる電流偏差ΔIと実際の異常の有無を示すデータとを訓練データとして学習された学習済みモデルである。
【0062】
ここで、本実施形態の作用および効果について説明する。
CPU42は、変速比の切り替え期間における回転速度Nm2と基準となる回転速度Nm2*との差の絶対値が閾値ΔNm2th以上であることに基づき、変速制御に異常が生じたか否かを判定する。CPU42は、異常が生じたと判定する場合、フェールセーフ処理をするとともにユーザに異常が生じた旨報知する。また、CPU42は、異常が生じたと判定する場合、そのときの電流Iに基づき異常の要因を特定する。このように電流Iの挙動を参照することにより、異常の要因を特定することができる。
【0063】
以上説明した本実施形態によれば、さらに以下に記載する作用および効果が得られる。
(1)写像への入力変数を、電流Iとする代わりに電流偏差ΔIとした。本実施形態の場合、補正量ΔPに基づき油圧指令値P0*が補正されることから、アクセル操作量ACCPおよび変速の種類によって区画される領域が同一であっても、電流指令値I*が補正量ΔPに応じて変化する。また、アクセル操作量ACCPおよび変速の種類によって区画される領域が同一であって且つ油温Toilが同一であっても、マップ演算によって電流指令値I*が変動する。そのため、電流Iの挙動は、電流指令値I*に応じて変動するものの、これは、異常と直接関係しない。そのため、電流Iを用いる代わりに電流偏差ΔIを用いることにより、電流指令値I*の変化によって入力変数xが変化することを抑制できる。このように、異常の要因となる情報を特徴量として加工して写像への入力とすることにより、出力変数の値をより高精度に算出することが可能となる。
【0064】
(2)変速の種類に応じて出力変数を算出するために利用する写像データDMを選択した。ここで、変速の種類に応じて適切な制御が異なることから、変速比に応じて電流Iの挙動も異なり得る。そのため、変速の種類にかかわらず単一の写像を用いる場合には、写像に対する要求が大きくなる。これに対し本実施形態では、変速の種類毎に異なる複数の写像データを用意し、該当する写像データを用いて出力変数の値を算出する。これにより、各写像の学習に用いる訓練データの数が小さい割に高精度な学習をしたり、入力変数の次元が小さい割に出力変数の値を高精度に算出したり、構造が簡素な割に出力変数の値を高精度に算出したりすることができる。
【0065】
(3)アクセル操作量ACCPに応じて出力変数を算出するために利用する写像データDMを選択した。ここで、アクセル操作量ACCPは、駆動輪30に加わるトルクと正の相関を有する。一方、駆動輪30に加わるトルクに応じて変速装置26に加わるトルクが異なることから、変速比の切り替え期間において適切な制御が異なる。そのため、アクセル操作量ACCPに応じて電流の挙動も異なったものとなる。そのため、アクセル操作量ACCPにかかわらず単一の写像を用いる場合には、写像に対する要求が大きくなる。これに対し本実施形態では、アクセル操作量ACCP毎に異なる写像データを用意し、該当する写像データを用いて出力変数の値を算出する。これにより、各写像の学習に用いる訓練データの数が小さい割に高精度な学習をしたり、入力変数の次元が小さい割に出力変数の値を高精度に算出したり、構造が簡素な割に出力変数の値を高精度に算出したりすることができる。
【0066】
(4)写像に一度に入力される入力変数に、変速装置26による変速比の今回の切り替え期間における電流偏差ΔI(1)~ΔI(n)に加えて、過去において同一の切り替えがなされたときの電流偏差ΔI(-p+1)~ΔI(-p+n)を含めた。これにより、電流の挙動の履歴、傾向を踏まえて要因変数の値を算出できる。
【0067】
(5)変速比の切り替えがなされる期間における回転速度Nm2と基準となる回転速度Nm2*との乖離度合いが所定以上となること条件に、変速装置26に異常が生じたと判定し、異常が生じたと判定されたときの電流偏差ΔIに基づき出力変数y(1)~y(q)の値を算出した。これにより、異常が生じたと判定される場合に、その要因を詳細に判定できる。
【0068】
(6)CPU42は、出力変数y(1)~y(q)の値を算出すると、そのうちの最大値に基づき特定した要因を記憶装置46に記憶した。これにより、報知処理を受けてユーザが車両をたとえば修理工場等に持ち込んだ際、その車両にいかなる処置を施すかを判断する主体が、記憶装置46に記憶された算出結果に基づいて処置を決めることができる。すなわち、たとえばエア混入の場合には、作動油に含まれる消泡剤等の劣化が進んでいるかを検査し、作動油の劣化の場合には変速装置26を分解することなく、作動油の交換を提案できる。また、たとえば一時ステックの場合、動作確認をし、正常に動作するのであれば、変速装置26を分解することなく、一時ステックによって一時的に生じた異常である旨、ユーザに説明できる。
【0069】
<第2の実施形態>
以下、第2の実施形態について、第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0070】
図8に、本実施形態にかかるシステムの構成を示す。なお、
図8において
図1に示した部材に対応する部材については、便宜上同一の符号を付してその説明を省略する。
図8に示すように、車両VC(1)の記憶装置46には、写像データDMに加えて、予兆検知データDPDが記憶されている。また、制御装置40は、通信機47を備えており、通信機47によって外部のネットワーク80を介してデータ解析センター90と通信可能となっている。
【0071】
データ解析センター90は、複数の車両VC(1),VC(2),…から送信されるデータをビッグデータDBとして収集し解析する。データ解析センター90は、CPU92、ROM94、記憶装置96および通信機97を備えており、それらがローカルネットワーク99を介して通信可能とされている。なお、記憶装置96は、電気的に書き換え可能な不揮発性の装置であり、ビッグデータDBを記憶している。
【0072】
本実施形態では、変速制御に異常が生じる以前において、変速装置26の異常の予兆を検知し、データ解析センター90に予兆の検知結果を送信する。
図9に、
図8に示したシステムによって実行される上記予兆の検知結果の授受に関する処理の手順を示す。特に
図9においては、第1クラッチに関連する部分の異常の予兆の検知結果の授受に関する処理の手順を示す。他のクラッチやブレーキに関連する部分の異常の予兆の検知結果の授受に関する処理については、
図9の処理と同様であることから、その記載を省略する。
【0073】
詳しくは、
図9(a)に示す処理は、ROM44に記憶されたプログラムをCPU42がたとえば所定周期でくり返し実行することにより実現される。また、
図9(b)に示す処理は、ROM94に記憶されたプログラムをCPU92がたとえば所定周期でくり返し実行することにより実現される。
【0074】
図9(a)に示す一連の処理において、CPU42は、まず変速比指令値Vsft*を取得する(S60)。次にCPU42は、変速比指令値Vsft*に基づき、現在の変速比が第1クラッチを解放状態に維持する変速比であるか否かを判定する(S62)。そしてCPU42は、第1クラッチを解放状態とするものであると判定する場合(S62:YES)、油圧制御回路28の該当するソレノイドバルブ28aの通電電流を微小に増減させる制御であるディザ制御を実行する(S64)。ディザ制御は、ソレノイドバルブ28aを微小に振動させるだけの通電電流を流す処理であるが、その振動の振幅は、第1クラッチ自体が変位しない範囲のものである。
【0075】
次にCPU42は、該当するソレノイドバルブ28aの電流Iを検出する(S66)。次にCPU42は、後述のS70の処理が完了してからディザ制御の連続した実行期間が所定期間となったか否かを判定する(S68)。そしてCPU42は、所定期間が経過したと判定する場合(S68:YES)、所定期間においてS66の処理によって検出した時系列データである電流I(1),I(2),…I(n)を、
図8に示す記憶装置46に記憶されている予兆検知データDPDによって規定される写像の入力変数x(1)~x(n)に代入する(S70)。
【0076】
そしてCPU42は、予兆検知データDPDによって規定される写像に入力変数x(1)~x(n)の値を代入することによって、出力変数z(1),z(2),…,z(p)の値を算出する(S72)。
【0077】
本実施形態では、写像として関数近似器を例示し、詳しくは、中間層が1層の全結合順伝搬型のニューラルネットワークを例示する。具体的には、S70の処理により値が代入された入力変数x(1)~x(n)とバイアスパラメータであるx(0)とが、係数wOjk(j=1~m,k=0~n)によって規定される線形写像にて変換された「m」個の値のそれぞれが活性化関数hに代入されることによって、中間層のノードの値が定まる。また、係数wTijによって規定される線形写像によって中間層のノードの値のそれぞれが変換された値のそれぞれが活性化関数uに代入されることによって、出力変数z(1),z(2),z(3),…の値が定まる。なお、本実施形態では、活性化関数hとして、ハイパボリックタンジェントを例示する。また、活性化関数uとして、ソフトマックス関数を例示する。
【0078】
図10に示すように、出力変数z(1)は、正常である確率を示す変数であり、出力変数z(2)は、エア混入が生じている確率を示す変数であり、出力変数z(3)は、一時ステックが生じている確率を示す変数である。
【0079】
図9に戻り、CPU42は、出力変数z(1),z(2),z(3),…の値のうちの最大値zmaxを抽出する(S74)。そしてCPU42は、出力変数z(1)の値が最大値zmaxに等しいか否かを判定する(S76)。この処理は、第1クラッチに関する部分が正常であるか否かを判定する処理である。CPU42は、出力変数z(1)以外のいずれかが最大値zmaxとなると判定する場合(S76:NO)、通信機47を操作して変速制御時に異常が生じる予兆がある旨およびその異常の種類を特定する情報を送信する(S78)。
【0080】
なお、CPU42は、S78の処理が完了する場合や、S76の処理において肯定判定する場合、さらにはS62,S68の処理において否定判定する場合には、
図9(a)に示す一連の処理を一旦終了する。
【0081】
これに対し、データ解析センター90のCPU92は、予兆の検知結果の通知があるか否かを判定し(S80)、あると判定する場合(S80:YES)、その検知結果を記憶装置96にビッグデータDBとして記憶する(S82)。なお、CPU92は、S82の処理が完了する場合や、S80の処理において否定判定する場合には、
図9(b)に示す一連の処理を一旦終了する。
【0082】
なお、予兆検知データDPDは、車両VC(1),VC(2),…の出荷前において、試作車等を用いた運転の際に収集される電流Iの時系列データのうち変速が正常になされる前の時系列データと、変速制御に異常が生じる直前の時系列データとを訓練データとして学習がなされた学習済みモデルである。
【0083】
このように、本実施形態によれば、クラッチやブレーキが解放されている状態において該当するソレノイドバルブの通電電流を増減させるディザ制御を実行し、そのときのソレノイドバルブの通電電流の挙動に基づき、変速制御に異常が生じる予兆があるか否かを判定する。そして予兆が検知された場合には、その検知結果をデータ解析センター90に提供することにより、データ解析センター90では、複数の車両VC(1),VC(2),…の予兆検知結果を収集することができる。これにより、その後に実際に異常が生じた旨の判定結果を併せ収集することにより、いかなる挙動がその後の異常につながるかをビッグデータDBに基づき解析することができる。なお、その結果、予兆の検知結果が適切でないと判定される場合には、予兆検知データDPDを再学習すればよい。また、予兆検知データDPDによる予兆検知結果の信頼性が高い場合には、変速制御に実際に異常が生じる前に異常が生じそうなことをユーザに通知することもできる。
【0084】
<第3の実施形態>
以下、第3の実施形態について、第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0085】
図11に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、
図11において、
図8に示した部材に対応する部材については、便宜上同一の符号を付している。
図11に示すように、本実施形態では、写像データDMや予兆検知データDPDをデータ解析センター90の記憶装置96に記憶する。
【0086】
図12に、
図11に示したシステムが実行する、出力変数y(1),y(2),…に基づく異常の要因の判定処理の手順を示す。
詳しくは、
図12(a)に示す処理は、ROM44に記憶されたプログラムをCPU42がたとえば所定周期でくり返し実行することにより実現される。また、
図12(b)に示す処理は、ROM94に記憶されたプログラムをCPU92がたとえば所定周期でくり返し実行することにより実現される。なお、
図12に示す処理において、
図5に示した処理に対応する処理については、便宜上同一のステップ番号を付与してその説明を省略する。以下では、出力変数y(1),y(2),…に基づく異常の要因の判定処理の時系列に沿って
図12に示す一連の処理を説明する。
【0087】
図12(a)に示すように、制御装置40のCPU42は、S40,S42,S46,S48の処理を実行すると、通信機47を操作することによって、S42,46,S48の処理で読み出したデータを車両VC(1)の識別記号とともに送信する(S90)。
【0088】
これに対し
図12(b)に示すように、データ解析センター90のCPU92は、S90の処理によって送信されたデータと識別記号とを受信する(S100)。そして、CPU92は、受信したデータを用いてS44,S50~S54の処理を実行する。そしてCPU92は、通信機97を操作してS100の処理によって受信したデータの送信元に出力変数y(1)~y(q)のうちの最大値ymaxとなる変数に基づく異常要因の判定結果に関するデータを送信するとともに、そのデータを記憶装置96に記憶する(S102)。
【0089】
これに対し、
図12(a)に示すように、CPU42は、S102の処理によって送信された判定結果に関するデータを受信する(S92)。そしてCPU42は、判定結果を記憶装置46に記憶する(S94)。
【0090】
なお、CPU42は、S94の処理を完了する場合や、S40の処理において否定判定する場合には、
図12(a)に示す一連の処理を一旦終了する。
これにより、ユーザが
図3のS32の報知処理に応じて車両VC(1)を修理工場に持ち込んだ際、修理工場では、記憶装置46にアクセスすることにより、異常の要因について知ることができる。ただし、たとえば一時ステックとの判定結果が記憶されているにもかかわらず、変速制御の異常が解消していない場合等においては、修理工場において異常要因を特定する。そして、判定結果が妥当でないことが判明する場合、修理工場からデータ解析センター90にその旨のフィードバックがなされる。
【0091】
これに対し
図12(b)に示すように、データ解析センター90のCPU92は、フィードバックがなされたか否かを判定する(S104)。そしてCPU92は、なされたと判定する場合(S104:YES)、誤判定をしたときの入力変数x(1)~x(2n)の値を入力した際の写像データDMによって規定される写像の出力変数の値が、フィードバックによって通知された正しい異常要因を示すように写像データDMを更新する(S106)。
【0092】
なお、CPU92は、S106の処理を完了する場合や、S104の処理において否定判定する場合には、
図12(b)に示す一連の処理を一旦終了する。ちなみに、出力変数z(1),z(2),…の値を算出する処理についても、
図12に示す処理と同様に実行することができるため、その説明を省略する。
【0093】
このように、本実施形態によれば、S52の処理を車両VC(1)の外部で行うことにより、CPU42の演算負荷を軽減できる。また、S52~S54の処理による要因の判定結果が誤っている場合、写像データDMを更新することができる。特に、車両VC(1),VC(2),…の出荷後に、様々なユーザによって様々な運転状況において生じた異常に対して写像データDMによって規定される写像を用いた要因の判定結果を検証することができる。
【0094】
<対応関係>
上記実施形態における事項と、上記「課題を解決するための手段」の欄に記載した事項との対応関係は、次の通りである。以下では、「課題を解決するための手段」の欄に記載した解決手段の番号毎に、対応関係を示している。[1]異常要因判定装置は、
図1および
図8の制御装置40や、
図11のデータ解析センター90に対応する。電磁アクチュエータは、ソレノイドバルブ28aに対応する。実行装置は、
図1および
図8のCPU42およびROM44や、
図11のCPU92およびROM94に対応する。記憶装置は、
図1および
図8の記憶装置46や、
図11の記憶装置96に対応する。電流変数は、電流偏差ΔIに対応する。異常要因判定装置が制御装置40に対応する場合、取得処理は、S46,S48の処理に対応し、異常要因判定装置がデータ解析センター90に対応する場合、取得処理は、S100の処理に対応する。算出処理は、S52の処理に対応する。[2]S10の処理を設けていることに対応する。[3]電流偏差ΔIに対応する。[4,5]選択処理は、S44の処理に対応する。[6]「過去において同一の切り替えがなされたときに前記ソレノイドバルブに流れた電流を示す変数」は、電流偏差ΔI(-p+1),ΔI(-p+2),…,ΔI(-p+n)に対応する。[7]
図7に対応する。[8]車両用制御装置は、
図1および
図8に記載の制御装置40に対応する。異常判定処理は、S24の処理に対応する。報知処理は、S32の処理に対応する。[9]記憶処理は、S56の処理に対応する。[10]第1写像データは、写像データDMに対応する。第2写像データは、予兆検知データDPDに対応する。第2取得処理は、S66の処理に対応する。第2算出処理は、S72の処理に対応する。[11]通知処理は、S78の処理に対応する。[12]第1実行装置は、
図11のCPU42およびROM44に対応し、第2実行装置は、CPU92およびROM94に対応する。データ送信処理は、S90の処理に対応する。データ受信処理は、S100の処理に対応する。[13]フィードバック処理は、S104の処理に対応する。更新処理は、S106の処理に対応する。[14]結果送信処理は、S102の処理に対応し、結果受信処理は、S92の処理に対応する。[15]車両用制御装置は、
図11の制御装置40に対応する。
【0095】
<その他の実施形態>
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0096】
「選択処理について」
・上記実施形態では、駆動輪30に加わるトルクを示す変数であるトルク変数を、アクセル操作量ACCPとしたが、これに限らない。たとえば、アクセル操作量ACCPから定まる駆動トルクの指令値を算出することとし、駆動トルクの指令値によってトルク変数を構成してもよい。
【0097】
・上記実施形態では、トルク変数および変速の種類に応じた互いに異なる複数の写像データDM(A1),DM(A2),…を備えて、それらのうちの1つを選択して出力変数y(1),y(2),…の値の算出に用いる写像データとする処理を例示したが、これに限らない。たとえば、変速の種類によらずにトルク変数に応じた互いに異なる複数の写像データを備えて、トルク変数に応じてそれらのうちの1つを選択して出力変数y(1),y(2),…の値の算出に用いる写像データとしてもよい。またたとえば、トルク変数によらずに変速の種類に応じた互いに異なる複数の写像データを備えて、変速の種類に応じてそれらのうちの1つを選択して出力変数y(1),y(2),…の値の算出に用いる写像データとしてもよい。
【0098】
・選択処理としては、トルク変数と変速の種類との2つの変数のうちの少なくとも1つに応じて、互いに異なる複数の写像データのうち1つを選択する処理に限らない。たとえば、油温Toilに応じて、互いに異なる複数の写像データのうち1つを選択する処理であってもよい。これは、トルク変数および変速の種類によらずに油温Toilに応じた互いに異なる複数の写像データを備えて実現できる。もっとも、トルク変数および変速の種類の2つの変数のうちの少なくとも1つの変数と油温Toilとに応じた互いに異なる複数の写像データを備えて、それらに応じて、互いに異なる複数の写像データのうち1つを選択する処理としてもよい。
【0099】
・領域毎の写像データとしては、油圧指令値が異なる値に設定される領域毎のデータに限らない。たとえば油圧指令値が共通である領域を複数に分割してそれら分割した領域毎に互いに異なる写像データを備えてもよい。その場合、写像がより限定された状況において適切な出力変数の値を出力するように学習するのみでよいことから、たとえば中間層の層数が小さい割に出力変数の値を高精度に算出したり、入力変数の次元が小さい割に出力変数の値を高精度に算出したりすることが可能となる。
【0100】
・写像データDMを領域毎の複数のデータにて構成することは必須ではない。換言すれば、選択処理を実行することは必須ではない。
「指令値について」
・上記実施形態では、油圧指令値をアクセル操作量ACCPと変速の種類と油温Toilとに応じて定めたが、これに限らない。たとえば、それら3つの変数に関しては、それらのうちの2つのみに基づき分割される領域毎に油圧指令値を定めてもよい。またとえば、それら3つの変数に関しては、それらのうちの1つのみに基づき分割される領域毎に油圧指令値を定めてもよい。
【0101】
・油圧の指令値を学習処理によって補正することは必須ではない。
「写像への入力変数について」
・上記実施形態では、写像データDMによって規定される写像への入力変数としての電流変数として電流偏差ΔIを例示したが、これに限らない。たとえば、電流I自体であってもよい。その場合であっても、たとえば「指令値について」の欄に記載したように学習処理によって油圧指令値が補正されず且つ、「選択処理について」の欄に記載したように、アクセル操作量ACCP、変速の種類および油温Toilに応じた互いに異なる複数の写像データを備えるなら、電流I自体によって出力変数の値を高精度に算出できる。もっとも、電流I自体を用いる場合に、任意の写像データが利用される領域で油圧指令値が変化する量が小さいことは必須ではない。
【0102】
・上記実施形態では、写像データDMによって規定される写像への入力変数としての電流変数を、異常時の時系列データと、異常が生じる直前の1度の変速期間における時系列データとによって構成したが、これに限らない。たとえば、異常時の時系列データと異常が生じる前であって直近よりも過去における1度の変速期間における時系列データとによって構成してもよい。またたとえば、異常時の時系列データと異常が生じる前の複数の変速期間における時系列データとによって構成してもよい。
【0103】
・写像データDMによって規定される写像への入力変数としての電流変数に、異常が生じる前の変速期間における時系列データを含めることは必須ではない。
・写像データDMによって規定される写像への入力変数に、補正量ΔPを含めてもよい。
【0104】
・写像データDMによって規定される写像への入力変数に、吹き量ΔNm2を含めてもよい。
・写像データDMによって規定される写像への入力変数に、油温Toilを含めてもよい。
【0105】
・予兆検知データDPDによって規定される写像への入力変数に、油温Toilを含めてもよい。
「写像データDMについて」
・写像データDMによって規定されるニューラルネットワークとしては、全結合順伝播型のニューラルネットワークに限らず、たとえば回帰結合型ニューラルネットワーク(Recurrent Neural Network)等であってもよい。もっとも、ニューラルネットワークに限らず、たとえば線形回帰モデルを用いてもよい。
【0106】
「予兆検知データDPDについて」
・予兆検知データDPDによって規定されるニューラルネットワークとしては、全結合順伝播型のニューラルネットワークに限らず、たとえば回帰結合型ニューラルネットワーク(Recurrent Neural Network)等であってもよい。もっとも、ニューラルネットワークに限らず、たとえば線形回帰モデルを用いてもよい。
【0107】
「報知処理について」
・上記実施形態では、表示器70を報知装置として、異常が生じた旨の視覚情報を表示する処理を例示したが、これに限らない。たとえば、スピーカを報知装置として、異常が生じた旨の聴覚情報を出力する処理としてもよい。
【0108】
「記憶処理について」
・上記実施形態では、出力変数の算出結果を記憶する記憶装置を、写像データDMが記憶されている記憶装置と同一としたが、これに限らない。
【0109】
・車両VC内で出力変数y(1),y(2),…の値を算出する場合であっても、記憶処理を実行することは必須ではない。たとえば、記憶処理を実行しない代わりに、算出結果を車両VCの製造メーカやデータ解析センター90等に送信する処理を実行してもよい。
【0110】
「通知処理について」
・上記実施形態では、異常の予兆を検知する場合、複数の車両VC(1),VC(2),…からのデータであるビッグデータDBを記憶したデータ解析センター90に、その旨を通知したが、これに限らない。たとえば、データ解析センター90と車両VC(1),VC(2),…の製造メーカとが異なる場合において、製造メーカに通知してもよい。またたとえば、車両VC(1)の販売店に通知してもよい。
【0111】
「出力変数の用途について」
(a)出力変数y(1),y(2),…の用途について
・上記実施形態では、修理工場に車両VCが持ち込まれた際の部品交換の有無の判定等に出力変数y(1),y(2),…の値を用いたが、これに限らない。たとえば車両VCの製造メーカにおいて、製品の改良を行う際のフィードバック情報として利用してもよい。
【0112】
(b)ディザ制御処理時の電流波形に基づく出力変数の用途について
・上記実施形態では、出力変数z(1),z(2),…を異常が生じる予兆をとらえる目的で利用したが、これに限らない。たとえば、出力変数z(1),z(2),…の中に完全ステックを含めるなどして、最大値zmaxが完全ステックに対応する出力変数の値と等しい場合、S30の処理やS32の処理を実行してもよい。もっとも、それらの処理に限らず、たとえばS34の処理を実行してもよい。
【0113】
「車両用制御システムについて」
・上記第3の実施形態では、出力変数y(1),y(2),…の値と出力変数z(1),z(2),…の値との双方を、データ解析センター90によって算出したが、これに限らない。たとえば、出力変数y(1),y(2),…の値についてはデータ解析センター90によって算出し、出力変数z(1),z(2),…の値については車両VC内で算出してもよい。
【0114】
・上記実施形態では、写像データDMを更新することを狙いの1つとして、出力変数y(1),y(2),…,z(1),z(2),…の値をデータ解析センター90によって算出したが、これに限らない。たとえば、写像データDMを更新しない場合であっても、車両VCの外部で出力変数y(1),y(2),…,z(1),z(2),…の値を算出するなら、CPU42の演算負荷を軽減できる。
【0115】
・データ解析センター90に送信されるデータである、電流センサの検出値に基づくデータとしては、電流偏差ΔIのように入力変数x(1),x(2),…とされるデータに限らない。たとえば、電流Iであってもよい。その場合であっても、たとえばアクセル操作量ACCP、変速の種類、油温Toil等、電流指令値I*を算出するうえで必要な変数の値をデータ解析センター90に送信することにより、データ解析センター90において電流偏差ΔIを算出することができる。
【0116】
・車両VCが、出力変数y(1),y(2),…の値を算出するために必要なセンサの検出値に基づくデータを送信する送信先としては、出力変数y(1),y(2),…の値を算出する処理を実行する主体に限らない。たとえば、ビッグデータDBを記憶するデータセンターと、出力変数y(1),y(2),…の値を算出する解析センターとを別とし、車両VCからデータセンターに、センサの検出値に基づくデータを送信してもよい。その場合、データセンターから解析センターに、受信したデータ等を送信すればよい。
【0117】
・車両VCが、出力変数y(1),y(2),…の値を算出するために必要なセンサの検出値に基づくデータを送信する送信先としては、複数の車両VC(1),VC(2),…からのデータを扱う主体に限らない。たとえば車両VCのユーザの携帯端末であってもよい。
【0118】
・車両VCが、出力変数z(1),z(2),…の値を算出するために必要なセンサの検出値に基づくデータを送信する送信先としては、複数の車両VC(1),VC(2),…からのデータを扱う主体に限らない。たとえば車両VCのユーザの携帯端末であってもよい。
【0119】
「実行装置について」
・実行装置としては、CPU42(92)とROM44(94)とを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。たとえば、上記実施形態においてソフトウェア処理されたものの少なくとも一部を、ハードウェア処理するたとえばASIC等の専用のハードウェア回路を備えてもよい。すなわち、実行装置は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)上記処理の全てを、プログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶するROM等のプログラム格納装置とを備える。(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置およびプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える。(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備える。ここで、処理装置およびプログラム格納装置を備えたソフトウェア実行装置や、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。
【0120】
「電磁アクチュエータについて」
・電磁アクチュエータとしては、変速装置26のソレノイドバルブに限らない。変速装置26以外の車載電磁アクチュエータであっても、その異常箇所の詳細を特定するうえでは上記写像を利用することが有効である。
【0121】
「車両について」
・車両としては、シリーズ・パラレルハイブリッド車に限らない。たとえばシリーズハイブリッド車や、パラレルハイブリッド車であってもよい。なお、車載回転機として、内燃機関とモータジェネレータとを備えるものにも限らない。たとえば内燃機関を備えるもののモータジェネレータを備えない車両であってもよく、またたとえばモータジェネレータを備えるものの内燃機関を備えない車両であってもよい。
【符号の説明】
【0122】
10…内燃機関
20…動力分割装置
22…第1モータジェネレータ
24…第2モータジェネレータ
26…変速装置
28…油圧制御回路
28a…ソレノイドバルブ
40…制御装置
80…ネットワーク
90…データ解析センター