(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】内燃機関の失火判定装置
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20231114BHJP
F02D 29/06 20060101ALI20231114BHJP
B60K 6/445 20071001ALI20231114BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20231114BHJP
B60W 20/15 20160101ALI20231114BHJP
【FI】
F02D45/00 368Z
F02D45/00 362
F02D29/06 D
B60K6/445 ZHV
B60W10/06 900
B60W20/15
(21)【出願番号】P 2020132407
(22)【出願日】2020-08-04
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【氏名又は名称】河野 努
(72)【発明者】
【氏名】杉本 仁己
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-171075(JP,A)
【文献】特開平2-227741(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランクシャフトの回転速度である第1の回転速度を取得する第1の回転速度取得部と、
前記クランクシャフトに対してダンパを介して駆動輪側に接続されたシャフトの回転速度に関する第2の回転速度を取得する第2の回転速度取得部と、
前記シャフトと連動するモータを制御する制御装置から前記第2の回転速度を直接取得する第1の経路と前記制御装置から他の制御装置を経由して前記第2の回転速度を取得する第2の経路のうち
、送信される信号の位相バラツキが小さい経路を通信の信頼性が高いと判定する通信経路信頼性判定部と、
前記第1の経路と前記第2の経路のうち、前記通信経路信頼性判定部が判定した通信の信頼性の高い経路を選択する通信経路選択部と、
前記第1の回転速度と、前記通信経路選択部が選択した経路から取得した前記第2の回転速度とに基づいて、前記ダンパのねじれにより生じる共振が前記第1の回転速度に対して及ぼす共振影響成分を算出する共振影響成分算出部と、
前記第1の回転速度から前記共振影響成分を減算して得られる失火判定用回転速度に基づいて前記内燃機関の失火判定を行う失火判定部と、
を備える、内燃機関の失火判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の失火判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関とねじれ要素を介して内燃機関に接続される電動機とを有するハイブリッド車両において、ねじれ要素のねじれにより生じる共振が内燃機関の回転速度に対して及ぼす共振影響成分と内燃機関の回転速度とを用いて内燃機関の失火を判定することが公知である(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
上記特許文献に記載された技術では、ハイブリッド用電子制御ユニット(HV-ECU)がモータECUからモータの回転速度を取得し、モータの回転速度からねじれ要素であるダンパの後段回転速度を計算している。そして、エンジンECUがハイブリッド用電子制御ユニットからダンパ後段回転速度を取得し、ダンパ後段回転速度に基づいて共振影響成分を算出し、共振影響成分とエンジン回転速度とに基づいて内燃機関の失火を判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された方法では、エンジンECUがダンパ後段回転速度を取得するにあたり、モータECUとハイブリッド用電子制御ユニットを経由して信号が送られる。このため、上記方法には、それぞれのECU間の通信遅れや各ECUで行われる処理によってエンジンECUに入力されるダンパ後段回転速度の信号の位相にバラツキが生じる問題がある。そして、ダンパ後段回転速度の信号の位相にバラツキが生じると、信号としての信頼性が確保できないため、共振影響成分が正しく算出されず、失火検出の精度が低下する虞がある。
【0006】
そこで、本発明は、失火判定の精度低下を抑制することが可能な内燃機関の失火判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の要旨は以下のとおりである。
【0008】
(1)内燃機関のクランクシャフトの回転速度である第1の回転速度を取得する第1の回転速度取得部と、
クランクシャフトに対してダンパを介して駆動輪側に接続されたシャフトの回転速度に関する第2の回転速度を取得する第2の回転速度取得部と、
シャフトと連動するモータを制御する制御装置から第2の回転速度を直接取得する第1の経路と制御装置から他の制御装置を経由して第2の回転速度を取得する第2の経路のうち通信の信頼性の高い経路を選択する通信経路選択部と、
第1の回転速度と、通信経路選択部が選択した経路から取得した第2の回転速度とに基づいて、ダンパのねじれにより生じる共振が第1の回転速度に対して及ぼす共振影響成分を算出する共振影響成分算出部と、
第1の回転速度から共振影響成分を減算して得られる失火判定用回転速度に基づいて内燃機関の失火判定を行う失火判定部と、
を備える、内燃機関の失火判定装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、失火判定の精度低下を抑制することが可能な内燃機関の失火判定装置を提供することが可能になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態におけるハイブリッド自動車の構成の概略を示す模式図である。
【
図3】エンジンECUのプロセッサの機能ブロックを示す模式図である。
【
図4】エンジンECUが所定の制御周期毎に行う処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る幾つかの実施形態について図を参照しながら説明する。しかしながら、これらの説明は、本発明の好ましい実施形態の単なる例示を意図するものであって、本発明をこのような特定の実施形態に限定することを意図するものではない。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態におけるハイブリッド自動車20の構成の概略を示す模式図である。ハイブリッド自動車20の基本的な構成は前述した特許文献1に記載されたものと同様であるため、ここではハイブリッド自動車20の構成の概要を説明する。ハイブリッド自動車20は、エンジン22と、エンジン22の出力軸としてのクランクシャフト26にねじれ要素としてのダンパ28を介して接続された3軸式の動力分配統合機構30と、動力分配統合機構30に接続された発電可能なモータジェネレータMG1と、動力分配統合機構30に接続されたリングギヤ軸32aに取り付けられた減速ギヤ35と、この減速ギヤ35に接続されたモータジェネレータMG2と、車両全体をコントロールするハイブリッド用電子制御ユニット(HV-ECU(Electronic Control Unit))70とを備える。
【0013】
ハイブリッド自動車20は、HV-ECU70の他にも、エンジンECU100、モータECU(MG-ECU)40、バッテリECU(BAT-ECU)50などの複数のECUを備える。これらの複数のECU、バッテリ、および各種センサ類は、コントローラエリアネットワーク(Controller Area Network (CAN))、イーサネット(登録商標)(Ethernet(登録商標))といった規格に準拠した車内ネットワークを介して互いに通信可能に接続される。
【0014】
エンジン22は、エンジンECU100により制御される。エンジンEUC100には、エンジン22の状態を検出する種々のセンサでの検出内容を示す信号が入力される。センサでの検出内容として、たとえば、クランクシャフト26の回転位置(クランク角CA)を検出するクランクポジションセンサからのクランクポジションが挙げられる。エンジンEUC100は、HV-ECU70からの制御信号によりエンジン22を運転制御するとともに、必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータをHV-ECU70に出力する。
【0015】
動力分配統合機構30は、サンギヤ31と、リングギヤ32と、ピニオンギヤ33と、キャリア34とを備える。動力分配統合機構30は、モータジェネレータMG1が発電機として機能するときには、キャリア34から入力されるエンジン22からの動力をサンギヤ31側とリングギヤ32側にそのギヤ比に応じて分配し、モータジェネレータMG1が電動機として機能するときには、キャリア34から入力されるエンジン22からの動力とサンギヤ31から入力されるモータジェネレータMG1からの動力を統合してリングギヤ32側に出力する。リングギヤ32に出力された動力は、リングギヤ軸32aからギヤ機構60およびデファレンシャルギヤ62を介して、最終的には車両の駆動輪63a,63bに出力される。
【0016】
モータジェネレータMG1,MG2は、いずれもモータECU40より駆動制御される。モータECU40には、モータジェネレータMG1,MG2を駆動制御するために必要な信号が入力される。この信号には、たとえば、モータジェネレータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの信号などが含まれる。モータECU40は、回転位置検出センサ43,44からの信号に基づいて所定時間ごとにモータジェネレータMG1,MG2の回転速度Nm1,Nm2を計算する。また、モータECU40は、HV-ECU70からの制御信号によってモータジェネレータMG1,MG2を駆動制御するとともに、必要に応じてモータジェネレータMG1,MG2の運転状態に関するデータをHV-ECU70に出力する。
【0017】
モータジェネレータMG1,MG2は、インバータ41,42を介してバッテリ50と電力のやりとりを行なう。インバータ41,42とバッテリ50とは電力ライン54によって接続されている。バッテリ50は、バッテリECU52により管理され、モータジェネレータMG1,MG2のいずれかから生じた電力や不足する電力により充放電される。
【0018】
エンジンECU100は、前述した特許文献1と同様の手法を用い、キャリア軸34aの回転速度であるダンパ後段回転速度Ndとエンジン回転速度から、ダンパ28のねじれにより生じる共振がエンジン22の回転速度に対して及ぼす共振影響成分を計算し、共振影響成分とエンジン回転速度とを用いて失火判定を行う。ここで、ダンパ28のねじれに基づく共振によってエンジン回転速度は上下に変動する。共振影響成分は、この共振によるエンジン回転速度の変動分に相当する成分である。ダンパ後段回転速度Ndは、モータジェネレータMG1,MG2の回転速度Nm1,Nm2と動力分配統合機構30のギヤ比ρ(サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)と減速ギヤ35のギヤ比Grとを用いて、以下の式(1)から算出される。
【0019】
Nd=[Nm2・Gr+ρ・Nm1]/(1+ρ) ・・(1)
【0020】
本実施形態では、ハイブリッド自動車20が備える複数のECUが車内ネットワークを介して互いに通信可能に接続されている。このため、エンジンECU100がダンパ後段回転速度Ndを取得する経路として、モータECU40から直接取得する経路(第1の経路)と、モータECU40からHV-ECU70を経由して取得する経路(第2の経路)の2系統が適用可能である。
【0021】
第1の経路または第2の経路を経由してダンパ後段回転速度NdがエンジンECU100に送信される際には、それぞれの経路で信号に位相バラツキ(位相遅れ)が発生する場合がある。特に、車両の運転中においては、バス負荷の変動に応じて、それぞれの経路の信号の位相バラツキが変化する場合がある。そして、ダンパ後段回転速度Ndの信号の位相にバラツキが生じると、信号としての信頼性が確保できなくなり、失火検出の精度が低下する可能性がある。
【0022】
このため、本実施形態では、第1の経路と第2の経路のうち、より信頼性の高い信号が得られる経路が選択可能とされている。これにより、エンジンECU100は、より信頼性の確保されたダンパ後段回転速度の信号を得ることができるため、失火判定を高精度に行うことが可能となる。また、例えば一方の経路の通信に異常が発生した場合であっても、他方の経路の通信を使用することにより共振影響成分を算出することができる。また、特にエンジンECU100が第1の経路からダンパ後段回転数を直接取得した場合は、複数のECUを介在した通信の回数やECU内の制御処理回数が減ることによって、より信頼性の確保されたダンパ後段回転速度信号を得ることができる。
【0023】
また、本実施形態では、初期設定において、エンジンECU100がダンパ後段回転速度Nd経路を取得する経路は、適合者が第1の経路と第2の経路のいずれかに設定することができる。例えばハイブリッド自動車20を出荷する前に第1の経路と第2の経路のいずれの信頼性が高いかを測定等により判定しておき、信頼性が高い経路が初期設定で選択される。
【0024】
この際、初期設定された経路の情報は、通信選択定数(NDSELECT)として、エンジンECU100のメモリ120に記憶される。第1の経路が初期設定で選択されている場合はNDSELECTの値が“1”とされ、第2の経路が初期設定で選択されている場合はNDSELECTの値が“0”とされる。適合者は、初期設定において、第1の経路と第2の経路のどちらの通信の信頼性が高いかを考慮した上で、より信頼性の高い経路を選択することができる。これにより、ダンパ後端回転速度Ndの取得方法として、第1の経路を介した直接通信か、第2の経路によるHV-ECU70を経由した通信かを、エンジンECU100内に定義された定数値(NDSELECT)によって自由に選択することが可能とされている。
【0025】
図2は、エンジンECU100の構成を示す模式図である。エンジンECU100は、内燃機関の失火判定装置の一態様である。エンジンECU100は、プロセッサ110と、メモリ120と、通信インターフェース130とを有する。プロセッサ110は、1個または複数個のCPU(Central Processing Unit)及びその周辺回路を有する。プロセッサ110は、論理演算ユニット、数値演算ユニットあるいはグラフィック処理ユニットといった他の演算回路をさらに有していてもよい。メモリ120は、例えば、揮発性の半導体メモリ及び不揮発性の半導体メモリを有し、本実施形態に係る処理に関連するデータを必要に応じて記憶する。通信インターフェース130は、エンジンECU100を車内ネットワークに接続するためのインターフェース回路を有する。
【0026】
図3は、エンジンECU100のプロセッサ110の機能ブロックを示す模式図である。エンジンECU100のプロセッサ110は、エンジン回転速度取得部111と、通信経路信頼性判定部112と、通信経路選択部113と、ダンパ後段回転速度取得部114と、共振影響成分算出部115と、失火判定部116と、を有している。プロセッサ10が有するこれらの各部は、例えば、プロセッサ110上で動作するコンピュータプログラムにより実現される機能モジュールである。つまり、プロセッサ110の機能ブロックは、プロセッサ110とこれを機能させるためのプログラム(ソフトウェア)から構成される。また、そのプログラムは、エンジンECU100が備えるメモリ120または外部から接続される記録媒体に記録されていてもよい。あるいは、プロセッサ110が有するこれらの各部は、プロセッサ110に設けられる専用の演算回路であってもよい。
【0027】
プロセッサ110のエンジン回転速度取得部111は、クランクポジションセンサ140からの整形波に基づいて、クランクシャフト26が30度回転するごとの回転速度をエンジン22の回転速度Neとして取得する。
【0028】
プロセッサ110の通信経路信頼性判定部112は、モータECU40からダンパ後段回転速度Ndを取得する2系統の経路のうち、モータECU40から直接取得する第1の経路と、モータECU40からHV-ECU70を経由して取得する第2の経路のうち、いずれの経路の通信の信頼性が高いかを判定する。
【0029】
経路の通信の信頼性は、受信するデータの位相バラツキに基づいて判定される。ECU間で通信を行う場合、通常は通信に位相遅れが生じることを想定して、想定した位相遅れを考慮して受信した信号の処理が行われる。しかし、例えば車内ネットワークのバス負荷等に応じて位相にバラツキが生じ、実際に発生する位相遅れが想定していた位相遅れから逸脱してしまうと、ダンパ後段回転速度Ndの信号としての信頼性が確保できなくなる。通信経路信頼性判定部112は、第1の経路および第2の経路から送信されるデータの位相バラツキを監視し、第1の経路または第2の経路のうち、位相バラツキが小さい経路を信頼性が高いと判定する。なお、ECU間の通信の位相バラツキを判定するために、例えば判定用の信号が一方のECUから他方のECUに送信され、これに基づいて位相バラツキが判定されてもよい。
【0030】
このように、通信経路信頼性判定部112が、第1の経路および第2の経路から送信される信号の位相バラツキを常に監視することで、バス負荷の変動などに応じてそれぞれの経路の位相バラツキが動的に変動した場合などにおいても、いずれの経路の通信の信頼性が高いかがリアルタイムに判定される。
【0031】
また、通信経路信頼性判定部112は、第1の経路または第2の経路において、受信すべきデータが一定時間内に到達しない場合は、その経路に断線などの通信不良が生じていると判定することができる。
【0032】
なお、経路の通信の信頼性の判定はHV-ECU70が行ってもよく、その場合、通信経路信頼性判定部112は、HV-ECU70から取得した判定結果に基づいて信頼性の判定を行う。
【0033】
プロセッサ110の通信経路選択部113は、エンジンECU100がダンパ後段回転速度Ndを取得する経路として、通信経路信頼性判定部112が判定した通信の信頼性が高い方の経路を選択する。上述したように、通信経路信頼性判定部112はいずれの経路の通信の信頼性が高いかをリアルタイムで判定するため、通信経路選択部113は、通信の信頼性が高い方の経路を動的に切り換えて選択することができる。
【0034】
また、プロセッサ110の通信経路選択部113は、エンジンECU100がダンパ後段回転速度Ndを取得する経路として、通信選択定数(NDSELECT)に基づいて、第1の経路および第2の経路のいずれかを選択することもできる。したがって、通信経路選択部113は、第1の経路と第2の経路のうち、位相バラツキに応じて通信の信頼性が高い方の経路を動的に切り換えて選択することができるとともに、通信選択定数(NDSELECT)に基づいて、予め信頼性が高い経路として判定されている経路を選択することができる。
【0035】
プロセッサ110のダンパ後段回転速度取得部114は、通信経路選択部113が選択した経路からダンパ後段回転速度Ndを取得する。ダンパ後段回転速度Ndは、モータECU40が回転速度Nm1,Nm2に基づいて上述した式(1)から算出し、モータECU40から通信経路選択部113が選択した経路を経由してエンジンECU100に送信される。なお、第1の経路から取得したダンパ後段回転速度NdをNdmgと称し、第2の経路から取得したダンパ後段回転速度NdをNdhvと称することとする。
【0036】
なお、第2の経路からダンパ後段回転速度Ndが取得される場合、HV-ECU70がダンパ後段回転速度Ndを算出してもよい。この場合、HV-ECU70は、回転速度Nm1,Nm2をモータECU40から受信し、ダンパ後段回転速度Ndを算出する。算出されたダンパ後段回転速度Ndは、HV-ECU70からエンジンECU100に送信される。
【0037】
また、ダンパ後段回転速度Ndは、エンジンECU100が算出してもよい。この場合、エンジンECU100のプロセッサ110のダンパ後段回転速度取得部114が、通信経路選択部113が選択した経路から回転速度Nm1,Nm2を取得し、回転速度Nm1,Nm2からダンパ後段回転速度Ndを算出する。
【0038】
プロセッサ110の共振影響成分算出部115は、共振影響成分を算出する。共振影響成分算出部115が共振影響成分を算出する処理は、前述した特許文献1に記載された手法と同様に行われるので、ここでは概要を説明する。共振影響成分算出部115は、エンジン22の回転速度Neとダンパ後段回転速度Ndとを用いてダンパ28のねじれ角θdを計算し、ダンパ28のバネ定数Kとダンパ28よりエンジン22側の慣性モーメントJとの比である定数関係値(K/J)と計算したねじれ角θdとを用いてダンパ28の共振によるエンジン22の回転速度に与える影響として低周波ノイズを含むノイズ含有共振影響成分Ndenを計算する。そして、共振影響成分算出部115は、ノイズ含有共振影響成分Ndenの低周波ノイズを除去するためハイパスフィルタをノイズ含有共振影響成分Ndenに施して共振影響成分Ndeを算出する。なお、ダンパ後段回転速度取得部114が、通信経路選択部113が選択した経路から回転速度Nm1,Nm2を取得した場合において、共振影響成分算出部115が回転速度Nm1,Nm2からダンパ後段回転速度Ndを算出してもよい。
【0039】
プロセッサ110の失火判定部116は、共振影響成分Ndeとエンジン回転速度Neに基づいてエンジン22の失火判定を行う。失火判定部116によるエンジン22の失火判定も前述した特許文献1に記載された手法と同様に行われるので、ここでは概要を説明する。失火判定部116は、クランクポジションセンサ140により検出され計算された回転速度、即ち、ダンパ28のねじれに基づく共振の影響を受けた回転速度であるエンジン22の回転速度Neからダンパ28のねじれに基づく共振の影響の成分である共振影響成分Ndeを減じて失火判定用回転速度Njを算出する。そして、失火判定部116は、失火判定用回転速度Njからクランクシャフト26が30度回転するのに要する30度回転所要時間T30を算出する。そして、失火判定部116は、圧縮行程の上死点から30度後と90度後の30度回転所要時間T30の差分を所要時間差分TD30として計算し、所要時間差分TD30の値が正常に燃焼している場合と失火している場合とで異なることに基づき、失火判定を行う。
【0040】
次に、
図4のフローチャートに基づいて、エンジンECU100が行う処理について説明する。
図4は、エンジンECU100が所定の制御周期毎に行う処理を示すフローチャートである。先ず、メモリ120に記憶されている通信選択係数(NDSELECT)が取得される(ステップS10)。次に、プロセッサ110の通信経路選択部113が、NDSELECT=1であるか否かを判定する(ステップS12)。
【0041】
ステップS12でNDSELECT=1の場合は、初期設定において、エンジンECU100がダンパ後段回転速度Nd経路を取得する経路が第1の経路に設定されている。このため、プロセッサ110の通信経路選択部113は、ダンパ後段回転速度Nd経路を取得する経路として第1の経路を選択する。次に、プロセッサ110の通信経路信頼性判定部112が、第1の経路の通信が正常であるか否か、すなわちモータECU40とエンジンECU100との間の通信が正常であるか否かを判定する(ステップS14)。より具体的には、通信経路信頼性判定部112は、第1の経路における通信の位相バラツキが所定範囲内であれば第1の経路の通信が正常であると判定し、第1の経路における通信の位相バラツキが所定範囲を超えていれば第1の経路の通信が正常でないと判定する。
【0042】
ステップS14で第1の経路の通信が正常である場合、プロセッサ110のダンパ後段回転速度取得部114が第1の経路からダンパ後段回転速度Nd(=Ndmg)を取得する(ステップS16)。次に、プロセッサ110の共振影響成分算出部115が、ダンパ後段回転速度Nd(=Ndmg)とエンジン22の回転速度Neから共振影響成分を算出する(ステップS18)。次に、プロセッサ110の失火判定部116がエンジン回転速度Neと共振影響成分Ndeからエンジンの失火判定を行う(ステップS20)。ステップS20の後は本制御周期における処理が終了する。
【0043】
また、ステップS12でNDSELECT=0の場合は、初期設定において、エンジンECU100がダンパ後段回転速度Nd経路を取得する経路が第2の経路に設定されている。このため、プロセッサ110の通信経路選択部113は、ダンパ後段回転速度Ndを取得する経路として第2の経路を選択する。次に、プロセッサ110の通信経路信頼性判定部112は、第2の経路の通信が正常であるか否か、すなわち、モータECU40とHV-ECU70との間の通信が正常であり且つHV-ECU70とエンジンECU100との間の通信が正常であるか否かを判定する(ステップS22)。より具体的には、通信経路信頼性判定部112は、第2の経路における通信の位相バラツキが所定範囲内であれば第2の経路の通信が正常であると判定し、第2の経路における通信の位相バラツキが所定範囲を超えていれば第2の経路の通信が正常でないと判定する。
【0044】
また、ステップS14で第1の経路の通信が正常でない場合も、通信経路信頼性判定部112は、上記と同様に第2の経路の通信が正常であるか否かを判定する(ステップS22)。
【0045】
ステップS22で第2の経路の通信が正常である場合、プロセッサ110の通信経路選択部113は、ダンパ後段回転速度Nd経路を取得する経路として第2の経路を選択する。そして、プロセッサ110のダンパ後段回転速度取得部114が第2の経路からダンパ後段回転速度Nd(=Ndhv)を取得する(ステップS24)。次に、プロセッサ110の共振影響成分算出部115が、ダンパ後段回転速度Nd(=Ndhv)とエンジン22の回転速度Neから共振影響成分を算出する(ステップS18)。次に、プロセッサ110の失火判定部116がエンジン回転速度Neと共振影響成分Ndeからエンジンの失火判定を行う(ステップS20)。
【0046】
また、ステップS22で第2の経路の通信が正常でない場合、プロセッサ110の通信経路信頼性判定部112が第1の経路の通信が正常であるか否かを判定する(ステップS26)。なお、第1の経路の通信が正常であるか否かの判定は、ステップS14と同様に行われる。
【0047】
ステップS26で第1の経路の通信が正常である場合、プロセッサ110の通信経路選択部113は、ダンパ後段回転速度Nd経路を取得する経路として第1の経路を選択する。そして、プロセッサ110のダンパ後段回転速度取得部114が第1の経路からダンパ後段回転速度Nd(=Ndmg)を取得する(ステップS28)。次に、プロセッサ110の共振影響成分算出部115が、ダンパ後段回転速度Nd(=Ndmg)とエンジン22の回転速度Neから共振影響成分を算出する(ステップS18)。次に、プロセッサ110の失火判定部116がエンジン回転速度Neと共振影響成分Ndeからエンジンの失火判定を行う(ステップS20)。
【0048】
また、ステップS26で第1の経路の通信が正常でない場合、第1の経路と第2の経路の双方の通信が正常ではないため、ダンパ後段回転速度Ndに基づく失火判定の精度が低下することが想定される。したがって、この場合は失火検出を禁止する(ステップS30)。ステップS30の後は本制御周期における処理が終了する。
【0049】
なお、ステップS14からステップS22を経由してステップS26へ進んだ場合は、ステップS14で既に第1の経路の通信が正常でないと判定されているため、ステップS26の判定を行うことなくステップS22からステップS30へ進んでもよい。換言すれば、ステップS26の判定は、ステップS12からステップS22を経由してステップS26へ進んだ場合にのみ行われてもよい。
【0050】
また、ステップS30へ進んだ場合、すなわち、第1の経路と第2の経路の双方の通信が正常でない場合は、失火判定を禁止せずに、前述した特許文献1に記載された手法と同様に、失火判定し難い閾値を用いて失火判定を行ってもよい。
【0051】
以上のように、
図4の処理によれば、第1の経路の通信が正常であり且つ第2の経路の通信が正常でない場合は第1の経路からダンパ後段回転速度Ndが取得される。また、第2の経路の通信が正常であり且つ第1の経路の通信が正常でない場合は第2の経路からダンパ後段回転速度Ndが取得される。したがって、第1の経路と第2の経路のうち、位相バラツキがより小さく、より通信の信頼性の高い経路からダンパ後段回転速度Ndが取得されるので、ダンパ後段回転速度Ndを用いた失火判定の精度が大幅に向上される。
【0052】
なお、
図4では、第1の経路と第2の経路のうち、位相バラツキがより小さく、より通信の信頼性の高い経路からダンパ後段回転速度Ndが取得されるものとしたが、第1の経路と第2の経路のうち、断線などの通信不良が生じていない経路からダンパ後段回転速度Ndが取得されるようにしてもよい。この場合は、ステップS14、ステップS24、ステップS26において、通信の位相バラツキが所定範囲を超えているか否かを判定する代わりに、受信すべきデータが一定時間内に到達しないか否かに基づいて経路に断線などの通信不良が生じているか否かを判定すればよい。
【0053】
また、上述したように、ダンパ後段回転速度Ndは、エンジンECU100が算出してもよい。この場合、
図4のステップ16、ステップS24、ステップS28において、ダンパ後段回転速度取得部114が、通信経路選択部113が選択した経路からモータジェネレータMG1,MG2の回転速度Nm1,Nm2を取得し、回転速度Nm1,Nm2からダンパ後段回転速度Ndを算出する。また、共振影響成分算出部115が回転速度Nm1,Nm2からダンパ後段回転速度Ndを算出してもよい。このように、エンジンECU100が第1の経路と第2の経路のうち通信の信頼性の高い経路から取得する回転速度は、ダンパ後段回転速度Ndのみならず、モータジェネレータMG1,MG2の回転速度Nm1,Nm2を含むものであってもよい。
【0054】
以上説明したように本実施形態によれば、モータECU40からダンパ後段回転速度Ndを直接取得する第1の経路と、モータECU40からHV-ECU70を経由してダンパ後段回転速度Ndを取得する第2の経路のうち、信頼性が高い経路からダンパ後段回転速度Ndが取得される。したがって、ダンパ後段回転速度Ndの信号の位相のバラツキが抑制されるため、失火判定の精度が向上される。
【符号の説明】
【0055】
22 エンジン
26 クランクシャフト
28 ダンパ
34a キャリア軸
40 モータECU
70 ハイブリッド用電子制御ユニット
100 エンジンECU
110 プロセッサ
111 エンジン回転速度取得部
113 通信経路選択部
114 ダンパ後段回転速度取得部
115 共振影響成分算出部
116 失火判定部