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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】車椅子固定装置
(51)【国際特許分類】
   A61G 3/08 20060101AFI20231114BHJP
【FI】
A61G3/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020139911
(22)【出願日】2020-08-21
(65)【公開番号】P2022035522
(43)【公開日】2022-03-04
【審査請求日】2022-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】小出 彩友美
(72)【発明者】
【氏名】平川 智也
(72)【発明者】
【氏名】川上 渉
【審査官】寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04805954(US,A)
【文献】特開2018-102728(JP,A)
【文献】米国特許第05344265(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
設置対象物のフロア面から上方に突出する形状のフック部材を有し、前記フック部材に車椅子の下部の固定バーが突き当たる態様で前記車椅子が移動したときに、前記固定バーによって前記フック部材が押されて回動することで前記固定バーが前記フック部材に係止される車椅子固定装置において、
前記フック部材によって前記固定バーを係止していない非ロック状態における前記フック部材の突出方向の位置を、前記車椅子の移動に際して前記固定バーに突き当たる位置である待機位置と、前記固定バーに突き当たらない位置である退避位置と、に切り替える切替部を有する
ことを特徴とする車椅子固定装置。
【請求項2】
前記車椅子固定装置は、前記待機位置および前記退避位置の一方から他方に切り替える際に操作される切替操作部を有し、
前記切替操作部は、前記車椅子の移動時において同車椅子の乗員の手が届く位置に設けられている
請求項1に記載の車椅子固定装置。
【請求項3】
前記切替部は、レバー部の操作を通じて前記待機位置と前記退避位置とを切り替える構造の作動機構であり、
前記切替操作部は、リンク機構を介して前記レバー部に連結されている
請求項2に記載の車椅子固定装置。
【請求項4】
前記車椅子固定装置は、前記フック部材による前記固定バーの係止を解除する際に操作される解除操作部を有し、
前記解除操作部は、前記フック部材によって前記固定バーを係止したロック状態において前記車椅子の乗員の手が届く位置に設けられている
請求項1~3のいずれか一項に記載の車椅子固定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車椅子固定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車椅子を所定位置に固定する固定装置としては、特許文献1などが公知である。
特許文献1に記載の固定装置は、設置対象物(具体的には、車両)のフロアに取り付けられており、フロア面よりも上方に突出する固定用のフック部材を有している。また、車椅子の下部には幅方向に延びる固定用の固定バーが設けられている。そして、固定装置に車椅子を固定する際には、固定装置のフック部材に車椅子の固定バーを突き当てるように車椅子が移動される。これにより、固定バーがフック部材に引っ掛けられて、車椅子が固定装置に固定されるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-102728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記固定装置では、固定装置のフック部材に車椅子の固定バーが突き当たるように、同フック部材がフロア面よりも上方に突出した状態になっている。このフック部材は、車椅子の固定に際しては有用であるものの、車椅子が固定装置に固定されていない非ロック状態での車椅子の移動に際して邪魔になるおそれがある。こうしたフック部材を有する固定装置では、同フック部材によって車椅子の移動が制限されてしまう。
【0005】
本発明は、そうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、非ロック状態における高い自由度での車椅子の移動を実現できる車椅子固定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための車椅子固定装置は、設置対象物のフロア面から上方に突出する形状のフック部材を有し、前記フック部材に車椅子の下部の固定バーが突き当たる態様で前記車椅子が移動したときに前記固定バーを係止する態様で前記フック部材を動作させる車椅子固定装置において、前記フック部材によって前記固定バーを係止していない非ロック状態における前記フック部材の突出方向の位置を、前記車椅子の移動に際して前記固定バーに突き当たる位置である待機位置と、前記固定バーに突き当たらない位置である退避位置と、に切り替える切替部を有する。
【0007】
上記構成によれば、車椅子が車椅子固定装置に固定されていない非ロック状態においては、フック部材の突出方向位置を待機位置にすることにより、車椅子の移動を通じて同車椅子の固定バーを車椅子固定装置のフック部材に突き当てることが可能な状態にすることができる。そのため、車椅子の固定バーをフック部材に突き当てる態様で同車椅子を移動させることにより、ロック部によってフック部材を動作させて、固定バーをフック部材によって係止させることができる。これにより、車椅子を車椅子固定装置に固定することができる。しかも、非ロック状態においてフック部材の突出方向位置を退避位置にすることにより、車椅子を移動させた場合であっても、車椅子の固定バーが車椅子固定装置のフック部材に突き当たらない状態にすることができる。これにより、車椅子の移動に際してフック部材が邪魔になることが抑えられるため、非ロック状態における高い自由度での車椅子の移動を実現することができる。
【0008】
上記車椅子固定装置は、前記待機位置および前記退避位置の一方から他方に切り替える際に操作される切替操作部を有し、前記切替操作部は、前記車椅子の移動時において同車椅子の乗員の手が届く位置に設けられていることが好ましい。
【0009】
上記構成によれば、車椅子の乗員が自ら切替操作部を操作することによって、フック部材の突出方向位置を、車椅子固定装置への車椅子の固定が可能になる待機位置にしたり、高い自由度での車椅子の移動が可能になる退避位置にしたりすることができる。これにより、車椅子の固定や移動に際して介助者が必要になる状況を少なくすることができるため、使い勝手のよい装置にすることができる。
【0010】
上記装置において、前記切替部は、レバー部の操作を通じて前記待機位置と前記退避位置とを切り替える構造の作動機構であり、前記切替操作部は、リンク機構を介して前記レバー部に連結されていることが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、手動操作によって操作部に付与する動力(いわゆる人力)のみによって、リンク機構および作動機構を作動させて、待機位置と退避位置との切り替えを行うことができる。これにより、車椅子固定装置の設置要件に電源が含まれなくなるため、高い自由度で車椅子固定装置を設置することができる。
【0012】
前記車椅子固定装置は、前記フック部材による前記固定バーの係止を解除する際に操作される解除操作部を有し、前記解除操作部は、前記フック部材によって前記固定バーを係止したロック状態において前記車椅子の乗員の手が届く位置に設けられていることが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、車椅子が車椅子固定装置に固定されているロック状態において、車椅子の乗員が自ら解除操作部を操作することによって、車椅子固定装置による車椅子のロックを解除することができる。これにより、車椅子の固定や移動に際して介助者が必要になる状況を、より少なくすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、車椅子固定装置が非ロック状態であるときにおいて高い自由度での車椅子の移動を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】車両に設置された状態の一実施形態の車椅子固定装置の側面図。
図2】同車椅子固定装置の(a)は平面図であり、(b)は側面図。
図3】車椅子の側面図。
図4】待機状態の車椅子固定装置の平面図。
図5】待機状態の車椅子固定装置の側面図。
図6】ロック状態の車椅子固定装置の平面図。
図7】ロック状態の車椅子固定装置の側面図。
図8】待機状態のときの係止片およびその周辺の(a)は平面図であり、(b)は側面図。
図9】ロック状態のときの係止片およびその周辺の(a)は平面図であり、(b)は側面図。
図10】待機状態のときの操作バーの操作状態を示す略図。
図11】ロック状態のときの操作バーの操作状態を示す略図。
図12】ロック状態のときのフック部材およびその周辺の構造を示す略図。
図13】ロック解除時におけるフック部材およびその周辺の構造を示す略図。
図14】ロック解除時における車椅子固定装置の平面図。
図15】ロック解除時における操作バーの操作状態を示す略図。
図16】切替部およびその周辺の平面図。
図17】待機状態のときの切替部の作動状態を示す側面図。
図18】退避状態のときの切替部の作動状態を示す側面図。
図19】退避状態のときの回動片およびその周辺の構造を示す略図。
図20】車両に設置された退避状態の車椅子固定装置の側面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、車椅子固定装置の一実施形態について説明する。
図1および図2に示すように、本実施形態の車椅子固定装置10は、車両(車室11内)に車椅子12を固定するための装置であり、車両のフロア13に設けられている。本実施形態では、車両が設置対象物に相当する。
【0017】
図3に示すように、車椅子固定装置10による固定対象の車椅子12は、その下部に設けられて幅方向に延びる固定バー12Aを有している。
図1および図2に示すように、車椅子固定装置10は、車椅子12の固定バー12Aを引っ掛けて固定する一対のフック部材21を有している。一対のフック部材21は、車両の前後方向および上下方向に延びる板状をなしており、車幅方向に間隔を置いて設けられている。フック部材21の前端部分(図2(b)の左側の端部)は回転可能に支持されている。フック部材21を回転させることによって、同フック部材21の後端を上下方向に往復移動させることが可能になっている。フック部材21の後端は、下方側の部分ほど前方側の位置になるように傾斜した傾斜面21Aになっている。フック部材21の後部には、上記傾斜面21Aの前方側において同傾斜面21Aに隣接する部分に、下端において開口する態様で切り欠かれた形状の切り欠き部21Bが設けられている。フック部材21の後方側(図1の右側)の部分における上部は、車両のフロア面から上方に突出した状態になっており、詳しくは車椅子固定装置10の他の部分よりも上方に突出した状態になっている。
【0018】
本実施形態の車椅子固定装置10は、基本的には、以下のように作動する。
先ず、図1中に矢印Aで示すように、車椅子12(詳しくは、その固定バー12A)を車椅子固定装置10の上方において前方に移動させると、車椅子12の固定バー12Aが車椅子固定装置10のフック部材21の後端の傾斜面21Aに突き当たるようになる。車椅子12をさらに前方に進めると、図1中に矢印Bで示すように、フック部材21の後端が固定バー12Aに乗り上げる態様で同フック部材21が回動して、フック部材21の後部が上方に持ち上げられる。そして、フック部材21の後端(傾斜面21A)が固定バー12Aを乗り越えると、図1中に矢印Cで示すように、同固定バー12Aがフック部材21の切り欠き部21Bの内部に進入する態様で同フック部材21の後部が降下する。これにより、車椅子固定装置10のフック部材21(詳しくは、切り欠き部21B)に車椅子12の固定バー12Aが係止される。
【0019】
本実施形態の車椅子固定装置10は、車椅子12を固定した状態になったときに、フック部材21が動かないようにロックすることが可能になっている。
図4および図5に示すように、車椅子固定装置10は、車幅方向および前後方向に延びる板状のベースプレート22を有している。ベースプレート22には、上下方向および前後方向に延びる板状のインナープレート23およびアウタープレート24が立設されている。これらインナープレート23およびアウタープレート24は、フック部材21を間に挟む態様で、一対のフック部材21に対して各別に設けられている。フック部材21の前端部分は、これらインナープレート23およびアウタープレート24に、回転可能に取り付けられている。
【0020】
フック部材21、インナープレート23、およびアウタープレート24は、それぞれ前後方向に延びる貫通孔(ガイド孔21C,23A,24A)を有している。フック部材21のガイド孔21C(詳しくは、開口部分)は、後部よりも前部が幅広の段差形状をなしている。また、フック部材21のガイド孔21Cの後部は、後方に向かうほど幅狭のテーパ形状になっている。
【0021】
車椅子固定装置10は、ロックレバー25を有している。ロックレバー25は、一対のフック部材21に対して各別に設けられている。各ロックレバー25は、対応するフック部材21のガイド孔21C、インナープレート23のガイド孔23A、およびアウタープレート24のガイド孔24Aに挿通されている。ロックレバー25は、各ガイド孔21C,23A,24Aによって案内される範囲で、前後方向に移動可能になっている。
【0022】
車椅子固定装置10によって車椅子12が固定されていない非ロック状態、詳しくはフック部材21によって固定バー12Aが係止されていない状態(図4および図5に示す状態)では、ロックレバー25は、ガイド孔21C,23A,24Aにおける前側に移動した状態になっている。このとき、ロックレバー25とフック部材21のガイド孔21Cとの隙間が大きい状態になるため、この隙間の分だけフック部材21の回動が許容されるようになる。これにより、フック部材21の後端の傾斜面21Aに車椅子12の固定バー12Aが押し付けられたときに、フック部材21を上方に持ち上げることが可能になっている。
【0023】
一方、図6および図7に示すように、車椅子固定装置10では、車椅子12を固定する際に、ロックレバー25が後方側に移動するようになっている。このとき、ロックレバー25は、アウタープレート24のガイド孔24Aの上部内面とフック部材21のガイド孔21Cの下部内面との間に挟まれた状態になる。これにより、ロックレバー25の上面がアウタープレート24のガイド孔24Aの上部内面に当接してロックレバー25の上方への移動が規制された状態になるとともに、このロックレバー25の下面がフック部材21のガイド孔21Cの下部内面に当接してフック部材21の上方への移動が規制された状態になる。このようにして、フック部材21の切り欠き部21Bに車椅子12の固定バー12Aが係合した状態になると、その状態を保持するべくフック部材21の上方への移動が規制されるようになる。
【0024】
次に、ロックレバー25を作動させるための構造について説明する。
図2(a)および図4に示すように、ベースプレート22の後方側の部分には、可動ベース30および操作バー50が配置されている。可動ベース30はベースプレート22の上方に配置されており、操作バー50は可動ベース30に固定されている。操作バー50における上記可動ベース30よりも後方側の部分は前後方向に延びている。操作バー50の前後方向における中間部分には、長穴状の貫通孔51が設けられている。そして、この貫通孔51に挿通された状態で、ピン部材52がベースプレート22に固定されている。車椅子固定装置10では、ピン部材52の中心線を傾動軸とする態様で、可動ベース30および操作バー50が傾動可能になっている。また、操作バー50の長穴状の貫通孔51とベースプレート22に固定されたピン部材52との係合を通じて、可動ベース30および操作バー50は前後方向にスライド移動可能になっている。
【0025】
図4に示すように、可動ベース30の前端には、前後方向に延びる操作アーム31が固定されている。この操作アーム31は、可動ベース30の前端から前方に突出する形状をなしている。
【0026】
一対のロックレバー25には、それぞれリンク機構60が連結されている。各リンク機構60は、第1リンクアーム61、第2リンクアーム62、および第3リンクアーム63によって構成されている。第1リンクアーム61の一端61Aは、ベースプレート22に相対回転可能に取り付けられている。第1リンクアーム61には、上下方向に延びる円柱状のリンクピン61Bが突設されている。このリンクピン61Bの外周面には、可動ベース30に一体の操作アーム31の先端部分が接触した状態になっている。また、第3リンクアーム63の一端63Aは、ベースプレート22に回転可能に取り付けられている。第3リンクアーム63の他端には前記ロックレバー25が固定されている。さらに、第2リンクアーム62の一端は第1リンクアーム61に連結されており、第2リンクアーム62の他端は第3リンクアーム63に連結されている。この第2リンクアーム62によって第1リンクアーム61と第3リンクアーム63とが連動する態様で連結されている。
【0027】
各リンク機構60では、第3リンクアーム63の回動部分に設けられたばね部材(図示略)により、第1リンクアーム61が回転方向における一方(図4の反時計回り方向)に常時付勢された状態になっている。そして、ばね部材の付勢力による第1リンクアーム61の回転動作を規制する態様で、同第1リンクアーム61のリンクピン61Bに可動ベース30に一体の操作アーム31の先端部分が接触している。
【0028】
本実施形態では、操作アーム31を移動させることによって、操作アーム31とリンクピン61Bとの接触を維持する態様で第1リンクアーム61が回転するようになるため、リンク機構60が作動して、第3リンクアーム63ともどもロックレバー25も作動するようになる。
【0029】
図4に示すように、車椅子固定装置10によって車椅子12が固定されていない非ロック状態では、操作バー50の延設方向と前後方向とが一致した状態になっている。そして、この状態での操作アーム31と第1リンクアーム61のリンクピン61Bとの接触位置によってリンク機構60の作動状態、ひいてはロックレバー25の作動位置が定まる。このときにはロックレバー25は前方側の位置になる。
【0030】
本実施形態では、車椅子固定装置10によって車椅子12が固定されたロック状態になると、ベースプレート22に対して可動ベース30および操作バー50が回転するようになっている。図6に示すように、このとき可動ベース30に一体の操作アーム31も移動するため、操作アーム31と第1リンクアーム61のリンクピン61Bとの接触位置が変化してリンク機構60が作動することにより、ロックレバー25は後方側の位置になる。
【0031】
このように本実施形態の車椅子固定装置10は、非ロック状態およびロック状態のいずれであるかによって定まる可動ベース30および操作バー50の回動位置に応じて、ロックレバー25の前後方向位置が定まる構造になっている。
【0032】
次に、車椅子固定装置10がロック状態になったときに、可動ベース30および操作バー50を回動させるための構造について説明する。
図4および図8に示すように、ベースプレート22に立設された一対のアウタープレート24には、それぞれ係止片70および回動片71が取り付けられている。これら係止片70および回動片71は、いずれもアウタープレート24の車幅方向における内側の面に沿って延びる板状をなしている。
【0033】
図8(a)および図8(b)に示すように、係止片70は、アウタープレート24に相対回動可能に取り付けられている。これにより係止片70の後方側の部分は上下方向に揺動可能になっている。係止片70の回動部分に設けられたばね部材(図示略)により、同係止片70は後方側の部分を降下させる方向(図8(b)の時計回り方向)に常時付勢された状態になっている。係止片70は、その上部において車幅方向の内側に突出する係止突起71Aを有している。回動片71は、係止片70よりも車幅方向の内側に配置されている。回動片71は、後方側に向けて開いた二股形状をなしており、二股形状における又部分が係止片70に相対回転可能に取り付けられている。
【0034】
本実施形態では、回動片71の後方側の部分を持ち上げるように同回動片71を回転させた場合に、回動片71が所定回転位置になると、回動片71の上面が係止片70の係止突起71Aに突き当たるようになっている。したがって、回動片71の上面が係止片70の係止突起71Aから離間した状態になる回転位相、具体的には回動片71の後方側の部分が下方に位置する回転位相においては、回動片71を係止片70とは別に回転させることが可能になっている。一方、回動片71の上面が係止片70の係止突起71Aに当接した状態になる回転位相、具体的には回動片71の後方側の部分が比較的上方に位置する回転位相においては、同回動片71を係止片70ともども回転させることが可能になっている。
【0035】
図2(a)に示すように、操作バー50とベースプレート22との間には、ばね部材53が設けられている。このばね部材53の付勢力によって、操作バー50および可動ベース30をベースプレート22に対して一方向(図2(b)における反時計回り方向)に相対回転させる態様で、同操作バー50は常時付勢されている。また、可動ベース30は各係止片70の下方にあたる位置において延在する形状の係止プレート部32を有している。各係止プレート部32には、前後方向に延びる係止穴33が設けられている。
【0036】
非ロック状態では、図8(a)および図8(b)に示すように、係止片70の後方部分の下端が係止穴33に嵌まった状態になっている。本実施形態では、図10に示すように、ばね部材53(図2(b)参照)によって操作バー50および可動ベース30が回動方向に常時付勢されている。とはいえ本実施形態では、図2(b)および図8に示すように、ベースプレート22(詳しくは、アウタープレート24)に取り付けられた係止片70と可動ベース30の係止穴33との係合を通じて、ベースプレート22に対する可動ベース30の相対回動が規制された状態になっている。これにより、ロックレバー25は前方側の位置(図4に示す位置)で保持されている。
【0037】
本実施形態では、車椅子12の固定に際して固定バー12Aが車椅子固定装置10の上方において前方に移動すると、図9(a)および図9(b)に示すように、同固定バー12Aが二股形状の回動片71(図9(b)中に二点鎖線で示す)の内部に進入するようになる。そして、車椅子12をさらに前方に進めると、固定バー12Aによって回動片71の二股部分の内面上部が押圧されて、回動片71が係止片70ともども後方側の部分を持ち上げるように回動するようになる(図9中に実線で示す)。その結果、係止片70の後方部分の下端が可動ベース30の係止穴33から脱出した状態になる。これにより、ベースプレート22に取り付けられた係止片70と可動ベース30の係止穴33との係合が解除されるため、ベースプレート22に対する可動ベース30の相対回動の規制が解除される。そのため、図11に示すように、ばね部材53の付勢力によって操作バー50が可動ベース30(図6)ともども相対回動して、ロックレバー25は後方側の位置(図6および図7に示す位置)になる。
【0038】
次に、車椅子固定装置10による車椅子12の固定を解除するための構造について説明する。
図4図6および図12に示すように、一対のフック部材21には、それぞれローラ部26が設けられている。ローラ部26はフック部材21の側面から車幅方向における内方側に突出している。ローラ部26の突端には円板状のローラ26Aが回転可能に取り付けられている。ローラ26Aは、その回転中心が車幅方向に延びる態様で設けられている。
【0039】
一方、可動ベース30の前部には、上面が斜め上方に向けて延びる形状の傾斜壁部34が一体に設けられている。詳しくは、傾斜壁部34の上面は、上方に向かうほど後方側に位置する傾斜面になっている。この傾斜壁部34は、フック部材21に取り付けられたローラ26Aの後方側に配置されている。
【0040】
そして、図13および図14に示すように、操作バー50が可動ベース30ともども前方に移動すると、フック部材21のローラ26Aが傾斜壁部34の上面に乗り上げることによって、フック部材21が上方に持ち上げられるようになる。これにより、車椅子12の固定バー12Aがフック部材21の切り欠き部21Bから脱出可能な状態になる。
【0041】
図10に示すように、操作バー50の長穴状の貫通孔51とベースプレート22に固定されたピン部材52との係合を通じて、可動ベース30および操作バー50は前後方向にスライド移動可能になっている。本実施形態では、ベースプレート22にL字状で延びる凹部27が設けられるとともに、操作バー50に下方に突出する凸部54が設けられている。そして、ベースプレート22の凹部27に操作バー50の凸部54が嵌まった状態になっている。本実施形態では、ベースプレート22の凹部27によって操作バー50の凸部54が案内される態様で、ベースプレート22に対して操作バー50が移動する構造になっている。操作バー50とベースプレート22との間には、前述のように操作バー50を車幅方向に付勢する前記ばね部材53と、操作バー50を後方側に常時付勢するばね部材55(図2(b)参照)とが設けられている。
【0042】
車椅子固定装置10によって車椅子12が固定されていない非ロック状態(図4および図5に示す状態)においては、操作バー50は、ばね部材55の付勢力によって後方側の位置になる。このとき、図10に示すように、操作バー50の凸部54はベースプレート22のL字状の凹部27における角部27Aに位置した状態になる。
【0043】
車椅子固定装置10によって車椅子12が固定されたロック状態(図6および図7に示す状態)においては、操作バー50は、ばね部材53の付勢力によって車幅方向に回動した位置になる。このとき、図11に示すように、操作バー50の凸部54は、車幅方向に移動して、ベースプレート22のL字状の凹部27の一方の端部27Bに位置した状態になる。
【0044】
そして、車椅子固定装置10による車椅子12の固定を解除する際には、先ず、図15中に矢印Dで示すように、ばね部材53の付勢力に抗して、操作バー50を可動ベース30ともども車幅方向に回動させる。こうした操作バー50の回動操作は、操作バー50の凸部54がベースプレート22のL字状の凹部27の一方の端部27B(図11に示す位置)から角部27A(図10に示す位置)まで移動することによって許容される。この操作により、可動ベース30(図4)と一体の操作アーム31が回動して、リンク機構60が作動するため、ロックレバー25が前方に移動するようになる。その結果、ロックレバー25によるフック部材21の移動規制が解除されて、同フック部材21の後方側の部分の上方への移動が許容された状態(非ロック状態)になる。
【0045】
次に、図15中に矢印Eで示すように、ばね部材55の付勢力に抗して、操作バー50(および可動ベース30)を前方に移動させる。こうした操作バー50の操作は、操作バー50の凸部54がベースプレート22のL字状の凹部27の角部27A(図10に示す位置)から前端27C(図15に示す位置)まで移動することによって許容される。この操作により、図13および図14に示すように、フック部材21のローラ26Aが傾斜壁部34の上面に乗り上げて同フック部材21が上方に持ち上げられるようになる。その結果、車椅子12の固定バー12Aがフック部材21の切り欠き部21Bから後方に脱出可能な状態になる。
【0046】
そして、この状態で、図13中に矢印Fで示すように、車椅子12を後退させて同車椅子12の固定バー12Aをフック部材21の切り欠き部21Bから脱出させることにより、車椅子固定装置10による車椅子12の固定が解除される。
【0047】
このとき固定バー12Aが回動片71から離間するため、回動片71および係止片70は、係止片70の回動部分に設けられたばね部材の付勢力によって、後方側の部分が下方に移動する態様で回転するようになる。その結果、図8に示すように、係止片70の後方部分の下端が係止穴33に嵌まった状態になる。これにより、ベースプレート22に対する可動ベース30および操作バー50の回動が規制された状態になるため、以後において車椅子固定装置10は非ロック状態で保持されるようになる。
【0048】
その後において、操作バー50を前方に移動させる操作を解除すると、ばね部材55の付勢力によって操作バー50は後方側に移動するようになる。この操作バー50の移動は、操作バー50の凸部54がベースプレート22のL字状の凹部27の前端27C(図15に示す位置)から角部27A(図10に示す位置)まで移動することによって許容される。
【0049】
本実施形態では、車椅子12の固定を解除する際に操作バー50を操作するための操作子として、足による操作が可能な足踏み操作部56と、手による操作が可能な解除操作部14とを有している。
【0050】
図1および図2に示すように、足踏み操作部56は上部に足を置くことの可能な板状をなしており、操作バー50の後端に固定されている。本実施形態では、この足踏み操作部56を介助者が足によって操作することによって、操作バー50を操作することが可能になっている。具体的には、足踏み操作部56を車幅方向にスライド移動させた後に前方にスライド移動させることにより、車椅子12の固定を解除することができる。
【0051】
解除操作部14は、車室11の内壁における車椅子固定装置10の側方にあたる位置、詳しくは、車椅子12を車椅子固定装置10に固定した状態において同車椅子12の乗員の手が届く位置に設けられている。解除操作部14は、具体的には、車椅子12に着座した状態の乗員の上半身の側方にあたる位置に設けられている。解除操作部14には操作バー50を操作するための操作紐15の一端(自由端15A)が固定されている。
【0052】
図2(a)に示すように、操作紐15の他端(固定端15B)はベースプレート22に固定されている。また、操作紐15は2つのローラ15C,15Dに巻き掛けられた状態になっている。第1ローラ15Cは、操作紐15の固定端15Bの後方にあたる位置に、操作バー50と一体に移動する態様で設けられている。第2ローラ15Dは、ベースプレート22における第1ローラ15Cよりも前方側の位置であり、且つ、同第1ローラ15Cよりも車幅方向の外方側の位置に設けられている。これにより、操作紐15は、固定端15B側の部分が平面視でZ字状をなすように延びている。具体的には、操作紐15は、固定端15Bから第1ローラ15Cまでは後方に向けて延びており、同第1ローラ15Cから第2ローラ15Dまでは操作バー50から離間する態様で斜め前方に向けて延びており、第2ローラ15Dからは後方に向けて延びている。
【0053】
こうした操作紐15が配設されているため、解除操作部14が引っ張り操作されたときには、操作紐15から第1ローラ15Cに対して車幅方向に押す力と前方に押す力とが作用するようになる。そのため、解除操作部14を把持した状態で引っ張り操作することにより、操作紐15が第1ローラ15Cを車幅方向に押す力を利用して同第1ローラ15Cと一体の操作バー50を車幅方向に回動させた後に、操作紐15が第1ローラ15Cを前方に押す力を利用して操作バー50を前方にスライド移動させるといったように操作バー50が作動するようになる。これにより車椅子12の固定を解除することができる。
【0054】
本実施形態によれば、操作バー50を回動させた後に前方に移動させるといった一連の操作を、解除操作部14を引っ張り操作するといった簡単なワンアクション操作によって実現することができる。しかも、そうした解除操作部14が車椅子12の乗員の手が届く位置に設けられているため、車椅子12の乗員が自ら解除操作部14を操作することによって、車椅子固定装置10による車椅子12のロックを解除することができる。これにより、車椅子12の固定や移動に際して介助者が必要になる状況を少なくすることができるため、車椅子固定装置10を使い勝手のよい装置にすることができる。
【0055】
本実施形態の車椅子固定装置10は、車椅子12の移動の邪魔になることを回避するために、フック部材21および回動片71を一時的に下方に退避させる切替部80を有している。
【0056】
図2、および図16図18に示すように、切替部80は、連動して作動する第1可動部材81および第2可動部材82を有する作動機構によって構成されている。
第1可動部材81は、一対の第1プレート83を有する。第1プレート83は、2本のアーム部分(操作足部83A、フック足部83B)を有するV字状をなしている。第1プレート83は、V字状の又にあたる部分が、アウタープレート24の外面に回転可能に取り付けられている。各第1プレート83は、アウタープレート24の外方側の面に沿って延びて、同アウタープレート24に対して回転可能になっている。
【0057】
第1プレート83の操作足部83Aの先端には、連結バー84が固定されている。この連結バー84によって一対の第1プレート83の操作足部83A同士が一体に連結されている。この連結バー84は、ベースプレート22の下方において車幅方向に延びている。本実施形態では、連結バー84がレバー部に相当する。
【0058】
第1プレート83のフック足部83Bは上記操作足部83Aよりも後方側において延びている。フック足部83Bの先端には第1支持棒85が固定されている。この第1支持棒85は車幅方向の内方に向けて突出する形状をなしている。第1支持棒85の外面はフック部材21の下端面に接触した状態になっている。本実施形態の切替部80においては、第1支持棒85によって、フック部材21の下部が支持されている。フック足部83Bは、延設方向における中間部分において車幅方向の外方に向けて突出する形状の突起86を有している。
【0059】
第2可動部材82は、一対の第2プレート87を有する。第2プレート87は前後方向に延びる帯状をなしている。各第2プレート87の前端部分は、第1プレート83のフック足部83Bの延設方向における中間部分に回転可能に取り付けられている。本実施形態では、第2プレート87を第1プレート83(詳しくは、フック足部83B)に取り付ける位置が、フック足部83Bの突起86よりも前方側の位置になっている。第2プレート87は、第1プレート83のフック足部83Bの外面に沿って延びて同第1プレート83に対して回転可能になっている。
【0060】
各第2プレート87の後方側の端部には、第2支持棒88が固定されている。第2支持棒88は、車幅方向の内方に向けて突出する形状をなしている。第2支持棒88の外面は、回動片71の下端面に接触した状態になっている。本実施形態では、この第2支持棒88によって、回動片71の下部が支持されている。
【0061】
第2プレート87の延伸方向における中間部分の下端には、切り欠き部89が設けられている。本実施形態では、第1プレート83のフック足部83Bの後方側の部分を持ち上げるように第1可動部材81を回転させた場合に、フック足部83Bが所定回転位置になると、フック足部83Bの突起86が第2プレート87の切り欠き部89に嵌まるようになっている。
【0062】
したがって、第1プレート83の突起86が第2プレート87の切り欠き部89から離間した状態になる回転位相、具体的には第1プレート83のフック足部83Bの後方側の部分(第1支持棒85)が下方に位置する回転位相においては、第1プレート83を第2プレート87とは別に回転させることが可能になる。一方、第1プレート83の突起86が第2プレート87の切り欠き部89に嵌まった状態になる回転位相、具体的には第1プレート83のフック足部83Bの後方側の部分(第1支持棒85)が上方に位置する回転位相においては、同第1プレート83を第2プレート87ともども回転させることが可能になる。
【0063】
図1図2、および図16に示すように、本実施形態の車椅子固定装置10は、切替部80を操作するための操作子として、切替操作部16を有している。
切替操作部16は、車室11の内壁における車椅子固定装置10の側方にあたる位置、詳しくは、車椅子12の移動時において同車椅子12の乗員の手が届く位置に設けられている。切替操作部16は、具体的には、車椅子12に着座した状態の乗員の上半身の側方にあたる位置に設けられている。切替操作部16には切替部80(詳しくは、第1可動部材81の連結バー84)を操作するための操作紐90の一端(自由端90A)が固定されている。操作紐90の他端(固定端90B)は切替部80の連結バー84に固定されている。操作紐90の固定端90B側の部分は連結バー84から後方に向けて延びている。操作紐90の途中には、位置調整機構部91が設けられている。この位置調整機構部91は、ノックカム機構によって構成されており、以下のように作動する。
【0064】
切替操作部16が引っ張り操作されて操作紐90の自由端90A側の部分が引っ張られると、操作紐90の途中に設けられた位置調整機構部91が作動して、操作紐90の固定端90B側の部分が所定量だけ引き込まれる。このときには図17に示すように、第1可動部材81は後方側に回動した位置(待機位置)になる。
【0065】
また、切替操作部16が再度引っ張り操作されて操作紐90の自由端90A側の部分が引っ張られると、位置調整機構部91が作動して、この場合には操作紐90の固定端90B側の部分が所定量だけ送り出される。このときには図18に示すように、第1可動部材81が前方側に回動した位置(退避位置)になる。
【0066】
本実施形態では、こうした位置調整機構部91が設けられているため、切替操作部16を引っ張り操作する度に、第1可動部材81の回動位置が「退避位置」および「待機位置」の一方から他方に切り替えられるようになっている。なお本実施形態では、操作紐90および位置調整機構部91が、切替操作部16と連結バー84とを連結するリンク機構に相当する。
【0067】
そして、図17に示すように、切替操作部16の操作を通じて第1可動部材81の回動位置が「待機位置」になると、車椅子固定装置10は、車椅子12の固定が可能な状態(待機状態)になる。
【0068】
具体的には、第1プレート83のフック足部83Bの後方側の部分を持ち上げるように第1可動部材81が回転するため、同フック足部83Bの第1支持棒85によってフック部材21が持ち上げられた状態になる。本実施形態では、このときフック部材21の後方側の端部(詳しくは、その上部)が、車椅子12の固定バー12Aが通過する軌跡(図17中に一点鎖線で示す)よりも上方に位置するようになっている。なお、車椅子12の固定バー12Aの路面からの高さは、車椅子12の機種やタイヤの状態などに応じて異なる。本実施形態では、そうした固定バー12Aの高さの違いを考慮した上で待機位置や退避位置が定められている。
【0069】
また、このとき第1可動部材81の突起86と第2可動部材82の切り欠き部89とが係合して、第1可動部材81とともに第2可動部材82も回転するため、同第2可動部材82の第2支持棒88によって回動片71が持ち上げられた状態になる。本実施形態では、このとき回動片71の後方側の端部(詳しくは、その上部)も、車椅子12の固定バー12Aが通過する軌跡よりも上方に位置するようになっている。
【0070】
これにより、車椅子12(詳しくは、その固定バー12A)を車椅子固定装置10の上方において前方に移動させた場合において、車椅子12の固定バー12Aがフック部材21の後端の傾斜面21Aに突き当たる状態(図1に示す状態)になるとともに、同固定バー12Aが二股形状の回動片71の内部に進入する状態になる。このようにして、フック部材21や回動片71の突出方向位置を上方の位置(待機位置)にすることにより、車椅子12の移動を通じて同車椅子12の固定バー12Aをフック部材21や回動片71に突き当てることが可能な状態にすることができる。この場合には、車椅子固定装置10が車椅子12を固定することの可能な状態(待機状態)になる。
【0071】
一方、図18に示すように、切替操作部16の操作を通じて第1可動部材81の回動位置が「退避位置」になると、車椅子固定装置10は、車椅子12の移動の邪魔にならない状態(退避状態)になる。
【0072】
具体的には、第1プレート83のフック足部83Bの後方側の部分を降下させるように第1可動部材81が回転するため、同フック足部83Bの第1支持棒85によって支持されているフック部材21も降下した状態になる。本実施形態では、このときフック部材21の後方側の端部(詳しくは、その上部)が、車椅子12の固定バー12Aが通過する軌跡(図18中に一点鎖線で示す)よりも下方に位置するようになっている。
【0073】
また、このとき第2プレート87の後方側の部分を降下させるように第2可動部材82が回転するため、図18および図19に示すように、同第2プレート87の第2支持棒88によって支持されている回動片71も降下した状態になる。本実施形態では、ベースプレート22における第2支持棒88の下方にあたる部分にストッパ部28(図18)が突設されており、このストッパ部28に第2支持棒88が当接することによって第2可動部材82の回動が停止するようになっている。そのため、この場合には、ストッパ部28によって第2可動部材82(詳しくは、第2支持棒88)の下部が支持された状態になるとともに、第2支持棒88によって回動片71の下部が支持された状態になる。本実施形態では、このとき回動片71の後方側の端部(詳しくは、その上部)が、車椅子12の固定バー12Aが通過する軌跡よりも下方に位置するようになっている。
【0074】
これにより、図20に示すように、車椅子12(詳しくは、その固定バー12A)を車椅子固定装置10の上方において前方に移動させた場合において同固定バー12Aに接触しない下方側の位置(退避位置)に、フック部材21や回動片71を退避させることができる。そのため、車椅子12を移動させた場合であっても、車椅子12の固定バー12Aが車椅子固定装置10のフック部材21や回動片71に突き当たらない状態にすることができる。これにより、車椅子12の移動に際してフック部材21が邪魔になることが抑えられるため、車椅子固定装置10の上方を通過する態様での車椅子12の移動が可能になる。したがって、非ロック状態における高い自由度での車椅子12の移動を実現することができる。
【0075】
以上説明したように、本実施形態によれば、以下に記載する効果が得られる。
(1)フック部材21や回動片71の突出方向位置を上方の位置(待機位置)にすることにより、車椅子12の移動を通じて固定バー12Aをフック部材21や回動片71に突き当てることが可能な状態にすることができる。この場合には、車椅子固定装置10を、車椅子12の固定が可能な待機状態にすることができる。しかも、フック部材21や回動片71の突出方向位置を下方側の位置(退避位置)にすることにより、それらフック部材21や回動片71を、車椅子12を移動させた場合に固定バー12Aに接触しない位置に退避させることができる。これにより、非ロック状態における高い自由度での車椅子12の移動を実現することができる。
【0076】
(2)切替操作部16が、車椅子12の移動時において同車椅子12の乗員の手が届く位置に設けられている。そのため、車椅子12の乗員が自ら切替操作部16を操作することによって、フック部材21や回動片71の突出方向位置を、車椅子固定装置10への車椅子12の固定が可能になる待機位置にしたり、高い自由度での車椅子12の移動が可能になる退避位置にしたりすることができる。これにより、車椅子12の固定や移動に際して介助者が必要になる状況を少なくすることができるため、車椅子固定装置10を使い勝手のよい装置にすることができる。
【0077】
(3)フック部材21や回動片71の突出方向位置を待機位置と退避位置とに切り替えるための構造を、連結バー84の操作を通じて作動する作動機構からなる切替部80と、操作紐90および位置調整機構部91によって構成されたリンク機構とによって実現した。そのため、手動操作によって切替操作部16に付与する動力(いわゆる人力)のみによって、切替部80およびリンク機構を作動させて、待機位置と退避位置との切り替えを行うことができる。これにより、車椅子固定装置10の設置要件に電源が含まれなくなるため、高い自由度で車椅子固定装置10を設置することができる。
【0078】
(4)解除操作部14が、車椅子12を車椅子固定装置10に固定した状態において同車椅子12の乗員の手が届く位置に設けられている。そのため、車椅子12の乗員が自ら解除操作部14を操作することによって、車椅子固定装置10による車椅子12のロックを解除することができる。これにより、車椅子12の固定や移動に際して介助者が必要になる状況を、より少なくすることができる。
【0079】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0080】
・車椅子12の固定解除のために操作バー50を操作する装置や、待機状態と退避状態との切り替えのために切替部80を操作する装置を、電動式の装置によって実現するようにしてもよい。こうした電動式の装置は、上記実施形態の車椅子固定装置10の可動部材(操作紐15,90、操作バー50、連結バー84など)を作動させるための電動アクチュエータを追加する等して、容易に実現することができる。
【0081】
・解除操作部14や切替操作部16を設ける位置は任意に変更することができる。例えば、解除操作部14や切替操作部16を天井から垂れ下がる態様で配設したり、フロア13に立設された操作盤に設けたりすることができる。この場合においても、解除操作部14は、車椅子固定装置10に車椅子12がロックされた状態で同車椅子12の乗員の手が届く位置に設けられることが好ましい。また切替操作部16は、車室11内における車椅子12の移動時において同車椅子12の乗員の手が届く位置に設けられることが好ましい。
【0082】
・解除操作部14および足踏み操作部56の一方を省略してもよい。
・連結バー84と切替操作部16とを連結するリンク機構(上記実施形態では、操作紐90および位置調整機構部91)の構造は、連結バー84を後方に移動させるための操作紐と前方に移動させるための操作紐とを有する構造を採用するなど、任意に変更することができる。
【0083】
・切替部80の構造は、待機位置と退避位置とを切り替えることの可能な構造であれば、任意に変更可能である。例えば各可動部材81,82の形状や構造を、適宜変更することができる。
【0084】
・上記実施形態にかかる車椅子固定装置を、バスなどの大型の車両に、前後方向や車幅方向に並ぶように複数設置することができる。上記車椅子固定装置は、車椅子の移動の邪魔にならない退避状態にすることができるため、車椅子の動線上に配置することが可能である。したがって、上記構成のように同一の車両に複数の車椅子固定装置が設置される場合であっても、それら車椅子固定装置を高い自由度で容易に配置することができる。
【0085】
・上記実施形態にかかる車椅子固定装置の設置対象物としては、福祉車両やバスなどの車両の他に、電車や船舶などの各種乗り物を挙げることができ、映画館やスタジアムなどの各種施設を挙げることもできる。
【符号の説明】
【0086】
10…車椅子固定装置
11…車室
12…車椅子
12A…固定バー
13…フロア
14…解除操作部
16…切替操作部
21…フック部材
80…切替部
84…連結バー
90…操作紐
91…位置調整機構部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20