(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】缶用鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 9/10 20060101AFI20231114BHJP
C25D 5/16 20060101ALI20231114BHJP
C25D 5/18 20060101ALI20231114BHJP
C25D 5/26 20060101ALI20231114BHJP
C25F 3/08 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
C25D9/10
C25D5/16
C25D5/18
C25D5/26 D
C25F3/08
(21)【出願番号】P 2020205743
(22)【出願日】2020-12-11
【審査請求日】2022-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】王 家林
(72)【発明者】
【氏名】山中 洋一郎
(72)【発明者】
【氏名】川村 勇人
(72)【発明者】
【氏名】中川 祐介
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-287591(JP,A)
【文献】特開2000-248371(JP,A)
【文献】特開昭61-281899(JP,A)
【文献】特開平03-229897(JP,A)
【文献】特開昭61-264195(JP,A)
【文献】国際公開第2017/098991(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/044714(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00
C25D 9/00
C25D 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の表面に、前記鋼板側から順に、金属クロム層およびクロム水和酸化物層を有し、
前記金属クロム層の付着量が、50~200mg/m
2であり、
前記クロム水和酸化物層のクロム換算の付着量が、
32mg/m
2以上であり、
前記金属クロム層は、平板状の基部と、前記基部上に設けられた粒状突起と、を含み、
前記粒状突起の最大粒径が、100nm以下であり、
前記粒状突起の個数密度が、10個/μm
2未満である、缶用鋼板。
【請求項2】
請求項
1に記載の缶用鋼板を製造する方法であって、
鋼板に対して、六価クロム化合物およびフッ素含有化合物を含有する水溶液を用いて、陰極電解処理C1、陽極電解処理A1および陰極電解処理C2を、この順に施し、
前記陽極電解処理A1の電流密度が、10.0A/dm
2以上であり、
前記陽極電解処理A1の電気量密度が、5.0C/dm
2以上である、缶用鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記水溶液におけるCr量が、0.50mol/L以上であり、
前記水溶液におけるF量が、0.10mol/L超である、請求項
2に記載の缶用鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記陰極電解処理C2の電流密度が、20.0A/dm
2以上であり、
前記陰極電解処理C2の電気量密度が、5.0C/dm
2以上である、請求項
2または
3に記載の缶用鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記フッ素含有化合物が、前記水溶液中でフッ素イオンを遊離する化合物である、請求項
2~
4のいずれか1項に記載の缶用鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、缶用鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1~2には、「鋼板の表面に、前記鋼板側から順に、金属クロム層およびクロム水和酸化物層」を有し、更に、金属クロム層が「粒状突起」を有する缶用鋼板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/098994号
【文献】国際公開第2018/225726号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、缶用鋼板に要求される特性のレベルが高まっている。とりわけ、製缶加工後の耐食性がより良好な缶用鋼板が求められている。
そこで、本発明は、耐食性に優れる缶用鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らが鋭意検討した結果、下記構成を採用することにより、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[7]を提供する。
[1]鋼板の表面に、上記鋼板側から順に、金属クロム層およびクロム水和酸化物層を有し、上記金属クロム層の付着量が、50~200mg/m2であり、上記クロム水和酸化物層のクロム換算の付着量が、15mg/m2以上であり、上記金属クロム層は、平板状の基部と、上記基部上に設けられた粒状突起と、を含み、上記粒状突起の最大粒径が、100nm以下であり、上記粒状突起の個数密度が、10個/μm2未満である、缶用鋼板。
[2]上記クロム水和酸化物層のクロム換算の付着量が、30mg/m2超である、上記[1]に記載の缶用鋼板。
[3]上記クロム水和酸化物層のクロム換算の付着量が、32mg/m2以上である、上記[1]または[2]に記載の缶用鋼板。
[4]上記[1]~[3]のいずれかに記載の缶用鋼板を製造する方法であって、鋼板に対して、六価クロム化合物およびフッ素含有化合物を含有する水溶液を用いて、陰極電解処理C1、陽極電解処理A1および陰極電解処理C2を、この順に施し、上記陽極電解処理A1の電流密度が、10.0A/dm2以上であり、上記陽極電解処理A1の電気量密度が、5.0C/dm2以上である、缶用鋼板の製造方法。
[5]上記水溶液におけるCr量が、0.50mol/L以上であり、上記水溶液におけるF量が、0.10mol/L超である、上記[4]に記載の缶用鋼板の製造方法。
[6]上記陰極電解処理C2の電流密度が、20.0A/dm2以上であり、上記陰極電解処理C2の電気量密度が、5.0C/dm2以上である、上記[4]または[5]に記載の缶用鋼板の製造方法。
[7]上記フッ素含有化合物が、上記水溶液中でフッ素イオンを遊離する化合物である、上記[4]~[6]のいずれかに記載の缶用鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耐食性に優れる缶用鋼板およびその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】缶用鋼板の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[缶用鋼板]
図1は、缶用鋼板の一例を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、鋼板2を有する。缶用鋼板1は、更に、鋼板2の表面に、鋼板2側から順に、金属クロム層3およびクロム水和酸化物層4を有する。
金属クロム層3は、鋼板2を覆う平板状の基部3aと、基部3a上に設けられた粒状突起3bとを含む。クロム水和酸化物層4は、粒状突起3bの形状に追従するように、金属クロム層3上に配置される。
【0010】
以下、缶用鋼板の各構成について、より詳細に説明する。
【0011】
〈鋼板〉
鋼板の種類は特に限定されない。通常、容器材料として使用される鋼板(例えば、低炭素鋼板、極低炭素鋼板)を使用できる。鋼板の製造方法、材質なども特に限定されない。通常の鋼片製造工程から熱間圧延、酸洗、冷間圧延、焼鈍、調質圧延等の工程を経て製造される。
【0012】
〈金属クロム層〉
上述した鋼板の表面には、金属クロム層が配置される。金属クロムは、鋼板の表面露出を抑えて耐食性を向上させる。
【0013】
《付着量》
缶用鋼板の耐食性が優れるという理由から、金属クロム層の付着量は、50mg/m2以上であり、60mg/m2以上が好ましく、70mg/m2以上がより好ましい。付着量は、鋼板の片面当たりの付着量である(以下、同様)。
【0014】
ところで、缶用鋼板は、その表面が塗料やフィルムなどの有機樹脂で被覆された後、製缶加工される場合がある。
金属クロム量が多すぎると、有機樹脂との密着性(以下、単に「密着性」ともいう)が、製缶加工後に不十分となる場合がある。
缶用鋼板の製缶加工後の密着性が優れるという理由から、金属クロム層の付着量は、200mg/m2以下であり、180mg/m2以下が好ましく、160mg/m2以下がより好ましく、134mg/m2以下が更に好ましい。
【0015】
(付着量の測定方法)
金属クロム層の付着量、および、後述するクロム水和酸化物層のクロム換算の付着量は、次のようにして測定する。
まず、金属クロム層およびクロム水和酸化物層を形成させた缶用鋼板について、蛍光X線装置を用いて、クロム量(全クロム量)を測定する。次いで、缶用鋼板を90℃の7.5N-NaOH中に10分間浸漬させるアルカリ処理を行なってから、再び、蛍光X線装置を用いて、クロム量(アルカリ処理後クロム量)を測定する。アルカリ処理後クロム量を、金属クロム層の付着量とする。
次に、(アルカリ可溶性クロム量)=(全クロム量)-(アルカリ処理後クロム量)を計算し、アルカリ可溶性クロム量を、クロム水和酸化物層のクロム換算の付着量とする。
【0016】
このような金属クロム層は、平板状の基部と、基部上に設けられた粒状突起と、を含む。次に、金属クロム層が含むこれらの各部について、詳細に説明する。
【0017】
《基部》
金属クロム層の基部は、主に、鋼板の表面を被覆し、耐食性を向上させる。
金属クロム層の基部は、ハンドリング時に不可避的に缶用鋼板どうしが接触した際に、表層に設けられた粒状突起が基部を破壊して鋼板が露出しないように、充分な厚みを確保していることが好ましい。
缶用鋼板の耐食性が優れるという理由から、金属クロム層の基部の付着量は、30mg/m2以上が好ましく、40mg/m2以上がより好ましい。
【0018】
《粒状突起》
金属クロム層の粒状突起は、上述した基部の表面に形成されており、例えば、缶用鋼板どうしの接触抵抗を低下させて溶接性を向上させる(粒状突起がクロム水和酸化物層を破壊して、溶接電流の通電点になり、接触抵抗が大幅に低下すると考えられる)。
【0019】
また、缶用鋼板を有機樹脂で被覆した場合において、粒状突起のアンカー効果によって、その有機樹脂との密着性が良好になる。
【0020】
ところで、クロム水和酸化物層は、後述するように、耐食性などの特性を向上させる。
しかし、缶用鋼板を製缶加工する際に、粒状突起によって、クロム水和酸化物層が破壊される場合がある。この場合、製缶加工後の耐食性が不十分となり得る。
そこで、粒状突起の最大粒径を100nm以下、かつ、粒状突起の個数密度を10個/μm2未満にする。これにより、粒状突起によるクロム水和酸化物層の破壊が抑制され、製缶加工後の耐食性が優れる。
【0021】
更に、これにより、缶用鋼板の表面外観が優れる。これは、粒状突起が小径化したり少なくなったりすることで、粒状突起による可視光の乱反射が抑制されて、色調が均一になるためと考えられる。
【0022】
(最大粒径)
粒状突起の最大粒径は、上述したように100nm以下であり、缶用鋼板の表面外観がより優れるという理由から、60nm以下が好ましく、44nm以下がより好ましく、40nm以下が更に好ましく、35nm以下が特に好ましい。
下限は特に限定されず、粒状突起の最大粒径は、例えば、5nm以上である。
【0023】
(個数密度)
粒状突起の個数密度は、上述したように10個/μm2未満であり、缶用鋼板の表面外観がより優れるという理由から、8個/μm2以下が好ましく、6個/μm2以下がより好ましい。
下限は特に限定されず、粒状突起の個数密度は、例えば、1個/μm2以上である。
【0024】
(粒径および個数密度の測定方法)
金属クロム層の粒状突起の粒径および個数密度は、次のようにして求める。
まず、金属クロム層およびクロム水和酸化物層を形成させた缶用鋼板の表面に、カーボン蒸着を行ない、抽出レプリカ法によって観察用サンプルを作製する。その後、走査透過電子顕微鏡(TEM)で20,000倍にて写真を撮影する。撮影した写真について、ソフトウェア(商品名:ImageJ)を用いて二値化して画像解析を行なうことで、粒状突起の占める面積から逆算し、真円換算として粒径および個数密度を求める。最大粒径は、5視野での最大の粒径とする。個数密度は、5視野の平均とする。
【0025】
〈クロム水和酸化物層〉
クロム水和酸化物は、鋼板の表面に金属クロムと同時に析出し、耐食性を向上させる。クロム水和酸化物は、例えば、クロム酸化物およびクロム水酸化物を含む。
【0026】
《付着量》
クロム水和酸化物層は、その付着量が多いほど、製缶加工の際に粒状突起により破壊されにくく、良好な耐食性が維持されやすい。
缶用鋼板の製缶加工後の耐食性が優れるという理由から、クロム水和酸化物層のクロム換算の付着量は、15mg/m2以上であり、30mg/m2超が好ましく、32mg/m2以上がより好ましく、35mg/m2以上が更に好ましく、40mg/m2以上が特に好ましい。
【0027】
なお、クロム水和酸化物層は、缶用鋼板を有機樹脂で被覆した場合において、その有機樹脂との密着性にも寄与する。
もっとも、クロム水和酸化物層の付着量が多すぎると、有機樹脂との密着性が製缶加工後に不十分となる場合がある。
このため、缶用鋼板の製缶加工後の密着性が優れるという理由から、クロム水和酸化物層のクロム換算の付着量は、80mg/m2以下が好ましく、70mg/m2以下がより好ましく、60mg/m2以下が更に好ましい。
【0028】
クロム水和酸化物層のクロム換算の付着量の測定方法は、上述したとおりである。
【0029】
[缶用鋼板の製造方法]
次に、上述した缶用鋼板を製造する方法を説明する。
概略的には、鋼板に対して、六価クロム化合物およびフッ素含有化合物を含有する水溶液を用いて、陰極電解処理C1、陽極電解処理A1および陰極電解処理C2を、この順に施す。
【0030】
〈水溶液〉
水溶液は、少なくとも、六価クロム化合物およびフッ素含有化合物を含有する。
【0031】
六価クロム化合物としては、例えば、三酸化クロム(CrO3);二クロム酸カリウム(K2Cr2O7)などの二クロム酸塩;クロム酸カリウム(K2CrO4)などのクロム酸塩;等が挙げられる。
【0032】
フッ素含有化合物としては、水溶液中で重フッ素イオンを遊離するケイフッ化水素酸の塩(ケイフッ化ナトリウム、ケイフッ化アンモニウムなど)よりも、水溶液中でフッ素イオンを遊離する化合物の方が好ましい。金属クロムの析出効率が良好であり、クロム水和酸化物層の膜厚が均一になりやすいからである。
水溶液中でフッ素イオンを遊離する化合物としては、例えば、フッ化水素酸(HF)、フッ化カリウム(KF)、フッ化ナトリウム(NaF)などが挙げられる。
【0033】
水溶液におけるCr量は、0.30mol/L以上が好ましく、0.50mol/L以上がより好ましく、0.70mol/L以上が更に好ましい。
一方、水溶液におけるCr量は、5.00mol/L以下が好ましく、3.00mol/L以下がより好ましい。
【0034】
水溶液におけるF量は、0.10mol/L超が好ましく、0.15mol/L以上がより好ましい。
一方、水溶液におけるF量は、4.00mol/L以下が好ましく、2.00mol/L以下がより好ましい。
【0035】
水溶液は、更に、硫酸を含有してもよい。硫酸は、その一部または全部が、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸アンモニウムなどの硫酸塩であってもよい。
水溶液中のフッ素含有化合物および硫酸は、フッ化物イオン、硫酸イオンおよび硫酸水素イオンへと解離した状態で存在する。これらは、陰極電解処理および陽極電解処理において進行する、水溶液中に存在する六価クロムイオンの還元反応および酸化反応に関与する触媒として働く。
水溶液が硫酸を含有する場合、水溶液におけるSO4
2-量は、0.0001mol/L以上が好ましく、0.0003mol/L以上がより好ましく、0.0010mol/L以上が更に好ましい。
一方、このSO4
2-量は、0.1000mol/L以下が好ましく、0.0500mol/L以下がより好ましい。
【0036】
陰極電解処理C1、陽極電解処理A1、および、陰極電解処理C1においては、1種類の水溶液のみを用いてもよく、2種類以上の水溶液を併用してもよい。
水溶液の液温は、20℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましい。一方、この液温は、80℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましい。
【0037】
〈陰極電解処理C1〉
陰極電解処理C1は、金属クロムおよびクロム水和酸化物を析出させる。
このとき、適切な析出量とする観点から、陰極電解処理C1の電気量密度(電流密度と通電時間との積)は、30.0C/dm2以上が好ましく、45.0C/dm2以上がより好ましい。
一方、陰極電解処理C1の電気量密度は、70.0C/dm2以下が好ましく、55.0C/dm2以下がより好ましい。
陰極電解処理C1の電流密度(単位:A/dm2)および通電時間(単位:sec.)は、上記の電気量密度から、適宜設定される。
【0038】
〈陽極電解処理A1〉
陽極電解処理A1は、陰極電解処理C1で析出した金属クロムを溶解させて、陰極電解処理C2における金属クロム層の粒状突起の発生サイトを形成する。
このとき、陽極電解処理A1において、電流密度を10.0A/dm2以上、電気量密度を5.0C/dm2以上にする。
これにより、金属クロムの溶解が強くなり、発生サイトが減少し、粒状突起の個数密度が減少したり、粒状突起が小径化したりする。
【0039】
ところで、陽極電解処理A1では、クロム水和酸化物層も溶解する。
このとき、クロム水和酸化物層が不均一に溶解すると、続く陰極電解処理C2では、クロム水和酸化物層における局所的に溶解した部分において、優先的に金属クロムが析出して、粒状突起が形成される。この場合、粒状突起は、大径化したり、個数密度が増加したりしやすい。
しかしながら、陽極電解処理A1の電流密度および電気量密度を上記範囲にすることで、クロム水和酸化物層の不均一な溶解が抑制される。これにより、粒状突起の大径化および個数密度の増加が抑制される。
更に、その結果、クロム水和酸化物層の付着量を、十分な量にすることができる。
【0040】
陽極電解処理A1の電流密度は、上述したように10.0A/dm2以上であり、20.0A/dm2以上が好ましく、30.0A/dm2以上がより好ましい。
上限は特に限定されず、陽極電解処理A1の電流密度は、例えば、80.0C/dm2以下であり、70.0C/dm2以下が好ましい。
【0041】
陽極電解処理A1の電気量密度は、上述したように5.0C/dm2以上であり、10.0C/dm2以上が好ましく、15.0C/dm2以上がより好ましく、20.0C/dm2以上が更に好ましい。
上限は特に限定されず、陽極電解処理A1の電気量密度は、例えば、40.0C/dm2以下であり、35.0C/dm2以下が好ましい。
【0042】
陽極電解処理A1の通電時間(単位:sec.)は、上記の電流密度および電気量密度から、適宜設定される。
【0043】
〈陰極電解処理C2〉
上述したように、陰極電解処理は、金属クロムおよびクロム水和酸化物を析出させる。
特に、陰極電解処理C2は、上述した発生サイトを起点として、金属クロム層の粒状突起を生成させる。更に、陰極電解処理C2は、クロム水和酸化物層の付着量を制御する。
クロム析出反応と競合する水素発生反応を効果的に抑制し、金属クロム層およびクロム水和酸化物層を効率良く析出させるという理由から、陰極電解処理C2の電流密度は、20.0A/dm2以上が好ましく、30.0A/dm2以上がより好ましい。
一方、陰極電解処理C2の電流密度は、60.0A/dm2以下が好ましく、50.0A/dm2以下がより好ましい。
【0044】
同様の理由から、陰極電解処理C2の電気量密度は、5.0C/dm2以上が好ましく、7.0C/dm2以上がより好ましく、10.0C/dm2以上が更に好ましい。
一方、陰極電解処理C2の電気量密度は、30.0C/dm2以下が好ましく、25.0C/dm2以下がより好ましく、20.0C/dm2以下が更に好ましい。
【0045】
陰極電解処理C2の通電時間(単位:sec.)は、上記の電流密度および電気量密度から、適宜設定される。
【0046】
陰極電解処理C1、陽極電解処理A1および陰極電解処理C2は、それぞれ、連続電解処理でなくてもよい。すなわち、工業生産上、複数の電極に分けて電解することにより不可避的に無通電浸漬時間が存在する断続電解処理であってもよい。断続電解処理の場合、トータルの電気量密度が上記範囲内であることが好ましい。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0048】
〈缶用鋼板の作製〉
0.22mmの板厚で製造した鋼板(調質度:T5CA)に対して、通常の脱脂および酸洗を施した。
次いで、この鋼板に対して、下記表1に示す水溶液のいずれかを流動セルでポンプにより100mpm相当で循環させ、鉛電極を使用し、下記表2に示す条件で電解処理(陰極電解処理C1、陽極電解処理A1および陰極電解処理C2)を施した。電解処理を施さなかった場合は、下記表2に「-」を記載した。
こうして、缶用鋼板を作製した。作製後の缶用鋼板は、水洗し、ブロアを用いて室温で乾燥した。
【0049】
〈付着量ならびに粒状突起の最大粒径および個数密度〉
作製した缶用鋼板について、金属クロム層の付着量、および、クロム水和酸化物層のクロム換算の付着量(下記表3では単に「付着量」と表記)を測定した。
また、作製した缶用鋼板の金属クロム層について、粒状突起の最大粒径および個数密度を測定した。
測定方法は、いずれも上述したとおりである。結果を下記表3に示す。粒状突起が観察されなかった場合は、下記表3に「-」を記載した。
【0050】
〈評価〉
作製した缶用鋼板について、以下の評価を行なった。評価結果は下記表3に示す。
【0051】
《表面外観》
作製した缶用鋼板について、旧JIS Z 8730(1980)において規定されるハンター式色差測定に基づいて、L値を測定した。缶用鋼板ごとに、任意の10部位でL値を測定し、その平均値および標準偏差値σを求め、下記基準に従い評価した。実用上、「◎」または「○」であれば、表面外観に優れると評価できる。
◎:70≦L値の平均値、σ≦1
○:67≦L値の平均値<70、1<σ≦3
×:L値の平均値<67、3<σ
【0052】
《製缶加工後の特性》
作製した缶用鋼板を有機樹脂(延伸フィルム)で被覆してから、金属缶(シームレス缶)を作製し、耐食性および密着性を評価した。具体的には、以下のとおりである。
【0053】
(有機樹脂被覆鋼板の作製)
作製した缶用鋼板の一方の片面(金属缶の内面となる面)上に、厚さ19μmの延伸フィルム1を、他方の片面(金属缶の外面となる面)上に、厚さ13μmの延伸フィルム2を、それぞれ、ラミネートロールを介して熱圧着させた。
延伸フィルム1は、ポリエチレンテレフタレートおよびイソフタレートの共重合組成を有し、11モル%のイソフタル酸成分を含有する、延伸フィルムである。
延伸フィルム2は、ポリエチレンテレフタレートおよびイソフタレートの共重合組成を有し、12モル%のイソフタル酸成分を含有する、延伸フィルムである。延伸フィルム2は、更に、酸化チタンを含有することにより、ホワイトに着色している。
熱圧着後、直ちに水冷することにより、延伸フィルムに適度な配向状態が残るように留意しながら、有機樹脂被覆鋼板を得た。得られた有機樹脂被覆鋼板は、後述する金属缶(シームレス缶)の作製に使用した。
【0054】
(金属缶の作製)
得られた有機樹脂被覆鋼板を、その両面にパラフィンワックスを塗布してから、直径143mmの円形に打ち抜いた。円形に打ち抜かれた有機樹脂被覆鋼板を用いて、定法に従い、径91mm、高さ36mmの絞りカップを作製した。
次いで、作製した絞りカップを、同時絞りしごき加工を2回繰り返すことによって、径が小さく高さの大きいカップに成形した。得られたカップの諸特性を、以下に示す。
カップ径:52.0mm
カップ高さ:111.7mm
元板厚に対する板厚減少率(缶側壁部):30%
得られたカップをドーミング成形した後、延伸フィルムの歪みを除去するために、220℃で60秒間の熱処理を実施した。続いて、カップの開口端をトリミング加工してから、曲面印刷した。その後、直径が50.8mmとなるようにネックイン加工し、更に、フランジ加工をした。こうして、200mL用の金属缶(シームレス缶)を得た。
【0055】
(耐食性)
得られたシームレス缶の缶側壁部を、試験片として切り出した。試験片の端部を、テープで被覆した。その後、試験片における缶下部から50mmの部分に、カッターを用いて、長さ4cmのクロスカットを入れた。クロスカットを入れた試験片を、市販のコーヒー(商品名:Blendy・ボトルコーヒー低糖、味の素ゼネラルフーズ社製)に浸漬し、37℃に保持した状態で、4週間経過させた。その後、クロスカット部からの変色の広がり(片側あたり)を測定し、下記基準に従い評価した。実用上、「◎◎」、「◎」または「○」であれば、耐食性に優れると評価できる。
◎◎:0.3mm未満
◎:0.3mm以上0.5mm未満
○:0.5mm以上1mm未満
△:1mm以上2mm未満
×:2mm以上
【0056】
(密着性)
得られたシームレス缶の缶側壁部の外面(缶上部から15mmの部分)に、直線状の切れ目を入れた。その後、引張試験機を用いて、延伸フィルムを缶高さ方向(180度方向)に引き剥がし、その際の最大引張強さを測定し、下記基準に従い評価した。実用上、「◎」または「○」であれば、密着性に優れると評価できる。
◎:3.0N/15mm以上
○:0.5N/15mm以上3.0N/15mm未満
×:0.5N/15mm未満
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
〈評価結果まとめ〉
上記表3に示す結果は、以下のとおりであった。
【0061】
《比較例1~4の説明》
クロム水和酸化物層の付着量が15mg/m2未満である比較例1は、製缶加工後の耐食性が不十分であった。
クロム水和酸化物層の付着量が15mg/m2未満であり、粒状突起の最大粒径が100nm超であり、かつ、粒状突起の個数密度が10個/μm2以上である比較例2~4は、製缶加工後の耐食性が不十分であった。
【0062】
《実施例1~20の説明》
クロム水和酸化物層の付着量が15mg/m2以上であり、粒状突起の最大粒径が100nm以下であり、かつ、粒状突起の個数密度が10個/μm2未満である実施例1~20の缶用鋼板は、比較例1~4と比較して、製缶加工後の耐食性に優れていた。
更に、実施例1~20の缶用鋼板は、表面外観に優れ、かつ、製缶加工後の密着性も良好であった。
【0063】
金属クロム層の付着量が134mg/m2以下である各実施例(実施例8を除く)は、これを満たさない実施例9、15および18よりも製缶加工後の密着性がより良好であった。
【0064】
クロム水和酸化物層の付着量が32mg/m2以上である実施例6~8、11、14、17および20は、これを満たさない各実施例と比較して、製缶加工後の耐食性がより良好であった。
このうち、実施例7~8は、製缶加工後の耐食性が更に良好であった。
ただし、製缶加工後の密着性については、実施例8よりも、クロム水和酸化物層の付着量が少ない実施例7の方が良好であった。
【0065】
粒状突起の最大粒径が44nm以下であり、かつ、粒状突起の個数密度が6個/μm2以下である各実施例は、これらのいずれか一方または両方を満たさない実施例4、9、12、15、18および19と比較して、表面外観がより良好であった。
【符号の説明】
【0066】
1:缶用鋼板
2:鋼板
3:金属クロム層
3a:基部
3b:粒状突起
4:クロム水和酸化物層