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特許7384160情報処理装置、情報処理方法及びプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 34/10 20160101AFI20231114BHJP
【FI】
A61B34/10
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020532196
(86)(22)【出願日】2019-06-04
(86)【国際出願番号】 JP2019022227
(87)【国際公開番号】W WO2020021870
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-04-19
(31)【優先権主張番号】P 2018140669
(32)【優先日】2018-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮本 敦史
(72)【発明者】
【氏名】草島 直紀
(72)【発明者】
【氏名】木村 亮太
(72)【発明者】
【氏名】本郷 一生
【審査官】山口 賢一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0200140(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 34/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1時点でのスレーブ装置の動作実行部の状態を示す装置状態情報と、操作される前記スレーブ装置の状態を示すスレーブ状態情報とを含む装置側情報に基づく前記動作実行部に対する動作要求と、前記第1時点の後で前記動作要求を受信する第2時点までの間で更新された装置側情報と、に基づいて、前記動作要求の実行を制御する動作要求確認部と、
前記スレーブ装置についての環境モデル、前記更新されたスレーブ状態情報及び前記更新された装置状態情報を用いて、仮想スレーブ環境を再構成する仮想スレーブ環境再構成部を有し、
前記動作要求確認部は、前記仮想スレーブ環境での前記動作要求のシミュレーション結果に基づいて前記動作要求の実行を制御する情報処理装置。
【請求項2】
前記動作要求確認部は、前記動作要求の前記シミュレーション結果が前記動作実行部が処置を施す対象の安全性を害するものである場合に、前記動作要求を実行しない請求項に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記更新された装置側情報に基づいて、前記動作実行部の動作を停止させるか否かの検知を行う動作停止検知部をさらに有する請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記仮想スレーブ環境での前記動作実行部当該動作実行部が処置を施す対象との間の関係に基づいて、前記動作実行部の動作を停止させるか否かの検知を行う動作停止検知部をさらに有する請求項に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記装置側情報の更新周期は、前記動作要求の受信間隔よりも短い請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項6】
記装置状態情報は、前記動作実行部の位置及び動作状態を示し、
前記スレーブ状態情報は、前記動作実行部が処置を施す対象である患者の患部の状態及び生体情報を含む、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項7】
コンピュータが、
第1時点でのスレーブ装置の動作実行部の状態を示す装置状態情報と、操作される前記スレーブ装置の状態を示すスレーブ状態情報とを含む装置側情報に基づく前記動作実行部に対する動作要求と、前記第1時点の後で前記動作要求を受信する第2時点までの間で更新された装置側情報と、に基づいて、前記動作要求の実行を制御し、
前記スレーブ装置についての環境モデル、前記更新されたスレーブ状態情報及び前記更新された装置状態情報を用いて、仮想スレーブ環境を再構成し、
さらに、前記仮想スレーブ環境での前記動作要求のシミュレーション結果に基づいて前記動作要求の実行を制御する情報処理方法。
【請求項8】
コンピュータに、
第1時点でのスレーブ装置の動作実行部の状態を示す装置状態情報と、操作される前記スレーブ装置の状態を示すスレーブ状態情報とを含む装置側情報に基づく前記動作実行部に対する動作要求と、前記第1時点の後で前記動作要求を受信する第2時点までの間で更新された装置側情報と、に基づいて、前記動作要求の実行を制御し、
前記スレーブ装置についての環境モデル、前記更新されたスレーブ状態情報及び前記更新された装置状態情報を用いて、仮想スレーブ環境を再構成し、
さらに、前記仮想スレーブ環境での前記動作要求のシミュレーション結果に基づいて前記動作要求の実行を制御する機能を実現させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、情報処理装置、情報処理方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
マスタスレーブ制御方式で遠隔地に存在するスレーブ装置を制御するシステムで、スレーブ装置の動作をシミュレーションするシミュレーション装置を介在させる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2017-510826号公報
【文献】特開平7-84640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来技術では、シミュレーション装置でスレーブ装置についての仮想環境を生成し、マスタ装置側に提示するものである。そのため、遠隔地に存在するスレーブ装置に対して動作要求を実行した結果の安全性については考慮されていないという問題点があった。
【0005】
そこで、本開示では、マスタスレーブ制御方式で情報処理装置を介して操作対象の装置を制御可能な場合に、操作対象の装置の動作の安全性を確認することができる情報処理装置、情報処理方法及びプログラムを提案する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示によれば、第1時点での装置の状態を示す装置状態情報と、操作される対象の状態を示す対象状態情報とを含む装置側情報に基づく前記装置に対する動作要求と、前記第1時点の後で前記動作要求を受信する第2時点までの間で更新された装置側情報と、に基づいて、前記動作要求の実行を制御する動作要求確認部を有する情報処理装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、マスタスレーブ制御方式で情報処理装置を介して操作対象の装置を制御可能な場合に、操作対象の装置の動作の安全性を確認することができる。なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本開示中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の一実施形態にかかる情報処理装置が適用される遠隔操作システムの概略構成の一例を示す図である。
図2】本開示の実施形態にかかる遠隔操作システムの機能構成を模式的に示すブロック図である。
図3】スレーブ環境観測装置での処理手順の一例を示すフローチャートである。
図4】スレーブ装置での処理手順の一例を示すフローチャートである。
図5】シミュレーション装置での情報処理方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図6】マスタ装置での処理手順の一例を示すフローチャートである。
図7】実施形態による遠隔操作システムでの情報処理方法の手順の一例を示すシーケンス図である。
図8A】患者の患部とスレーブ装置の動作実行部との位置関係を模式的に示す図である。
図8B】患者の患部とスレーブ装置の動作実行部との位置関係を模式的に示す図である。
図8C】患者の患部とスレーブ装置の動作実行部との位置関係を模式的に示す図である。
図8D】患者の患部とスレーブ装置の動作実行部との位置関係を模式的に示す図である。
図9】シミュレーション装置での動作要求確認処理の詳細を説明する図である。
図10A】実施形態による遠隔操作システムにおける情報の流れの一例を模式的に示す図である。
図10B】実施形態による遠隔操作システムにおける情報の流れの一例を模式的に示す図である。
図10C】実施形態による遠隔操作システムにおける情報の流れの一例を模式的に示す図である。
図11】実施形態による情報処理装置の機能を実現するコンピュータの一例を示すハードウェア構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本開示の実施形態について図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の各実施形態において、同一の部位には同一の符号を付することにより重複する説明を省略する。
【0010】
[実施形態に係るシステムの構成]
図1は、本開示の一実施形態にかかる情報処理装置が適用される遠隔操作システムの概略構成の一例を示す図である。なお、以下では、遠隔操作システム1として、操作者である執刀医71が処理対象である患者72に対して遠隔操作で処置を施す遠隔医療システムを例に挙げて説明する。
【0011】
遠隔操作システム1は、マスタコンソール10と、マスタ装置20と、スレーブ装置30と、スレーブ環境観測装置40と、シミュレーション装置50と、を備える。マスタコンソール10およびマスタ装置20は、例えば通信線60を介して接続される。マスタ装置20とシミュレーション装置50とは、第1ネットワーク61を介して接続される。スレーブ装置30とスレーブ環境観測装置40とシミュレーション装置50とは、第2ネットワーク62を介して接続される。マスタ装置20およびマスタコンソール10は、スレーブ装置30、スレーブ環境観測装置40およびシミュレーション装置50に対して遠隔地に設置される。例えば、マスタ装置20およびマスタコンソール10は、スレーブ装置30、スレーブ環境観測装置40およびシミュレーション装置50が設置される建物とは異なる建物に設置される。
【0012】
第2ネットワーク62は、第1ネットワーク61に対して通信の遅延が小さい、安定したネットワークが用いられる。例えば、第2ネットワーク62は、第1ネットワーク61に比して更新周期が早いネットワークである。第1ネットワーク61は、例えば、Ethernet(登録商標)を含むLAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)またはインタネットなどである。第2ネットワーク62は、FA(Factory Automation)ネットワークで使用されるリアルタイムネットワーク、第5世代(5G)無線通信方式のネットワークなどである。これによって、シミュレーション装置50と、スレーブ装置30およびスレーブ環境観測装置40と、の間では、更新周期が短く、低遅延の通信が実現される。
【0013】
マスタコンソール10は、マスタ装置20に接続され、手術を施行する執刀医71のためのユーザインターフェース機能を実現する入出力装置である。マスタコンソール10は、例えば、執刀医71がスレーブ環境を把握するための立体視ディスプレイ、又は情報を提示するためのインジケータなどの表示装置と、ハプティックデバイス、フットペダル、緊急停止ボタンなどの入力装置と、を含む。を有する。執刀医71には、手術を受ける患者72の患部の仮想対象環境である仮想スレーブ環境が提示され、執刀医71は提示された情報を基に次の動作要求を行う。
【0014】
マスタ装置20は、マスタコンソール10と遠隔のシミュレーション装置50及びスレーブ装置30とを連携させる装置である。マスタ装置20は、シミュレーション装置50からの情報に基づいて仮想スレーブ環境を再構成し、マスタコンソール10から入力されたスレーブ装置30への動作要求をシミュレーション装置50またはスレーブ装置30へと送信する。マスタ装置20は、緊急停止などの予め定められた動作要求は直接にスレーブ装置30へと送信し、それ以外の動作要求は、シミュレーション装置50へと送信する。
【0015】
スレーブ装置30は、マスタ装置20又はシミュレーション装置50からの動作要求にしたがって、患者72に対して処理を行う動作実行部を有する装置である。動作実行部は、ステージまたはアームのような駆動される機械である。また、アームの先端には、操作のためのグリッパ、レーザ照射のためのツールなどが設けられる。動作実行部は、用途別に複数設けられてもよい。また、スレーブ装置30は、動作実行部の状態であるスレーブ動作情報を検知部(センサ)で観測し、シミュレーション装置50に送信する。スレーブ動作情報は、装置状態情報の一種である。
【0016】
スレーブ環境観測装置40は、患者72の状態又は患者72の患部の状態であるスレーブ環境情報を観測し、シミュレーション装置50に送信する。スレーブ環境観測装置40は、スレーブ装置30から独立して設置されてもよいし、スレーブ装置30に装着されていてもよい。このようなスレーブ環境観測装置40として、患者72、特に術野を撮像するカメラ、患者72の微小な位置を撮像する顕微鏡、患者72の生体情報を計測する生体情報計測部などがある。生体情報は、例えば、血圧、心拍数、血流量などである。スレーブ装置30に装着されているスレーブ環境観測装置40として、スレーブ装置30のツールの先端の触覚センサまたは力センサなどがある。スレーブ環境情報は、操作される対象の状態を示す対象状態情報の一種である。なお、装置側情報は、装置状態情報と対象状態情報とを含む情報である。
【0017】
マスタ装置20とスレーブ装置30との間は、ユニラテラル制御系であってもよいし、バイラテラル制御系であってもよい。バイラテラル制御系の場合には、スレーブ環境観測装置40の構成によっては、マスタコンソール10の入力装置に、処理対象を動作実行部で操作した場合の力覚および触覚が、ハプティックデバイスを通して、執刀医71に提示される。
【0018】
シミュレーション装置50は、スレーブ装置30からのスレーブ動作情報と、スレーブ環境観測装置40からのスレーブ環境情報と、を含む装置側情報を用いて、シミュレーションによって処理対象についての仮想スレーブ環境を生成する。仮想スレーブ環境は、術野の状態変化とスレーブ装置30の位置とを含む。シミュレーション装置50は、生成した仮想スレーブ環境を用いて、仮想スレーブ環境を生成した時点でスレーブ装置30の動作を停止した方がよいかを判定し、動作を停止した方がよい場合には、患者72が安全な状態となるようにスレーブ装置30を制御する。また、シミュレーション装置50は、マスタ装置20からの動作要求を受信すると、その時点で最新の仮想スレーブ環境を用いて動作要求のシミュレーションを行い、患者72に対する安全性が確認された後に、スレーブ装置30に動作要求を送信する。また、安全性が確認されない場合には、患者72が安全な状態となるように、スレーブ装置30を制御する。この他に、シミュレーション装置50は、生成した仮想スレーブ環境について、前回の生成した仮想スレーブ環境からの差分情報を生成し、差分情報とスレーブ動作情報とをマスタ装置20に対して送信する。これによって、シミュレーション装置50からマスタ装置20に送信するデータを削減することができ、第1ネットワーク61での通信遅延を減少させ、また、通信周期を増加させることができる。
【0019】
このように、シミュレーション装置50は、仮想スレーブ環境を時間遅延なくシミュレートするために非常に演算性能が高いCPU(Central Processing Unit)/GPU(Graphics Processing Unit)が搭載されていることが望ましい。また、シミュレーション装置50は、上記したように、マスタ装置20とは第1ネットワーク61で接続され、スレーブ装置30とは第2ネットワーク62で接続されているので、マスタ装置20よりもスレーブ装置30との通信が低遅延であり、接続が安定している。シミュレーション装置50は、スレーブ装置30と隣接して設置されていてもよいが、上記の条件を満たせばサーバルーム又はエッジクラウドに設置されていてもよい。
【0020】
つぎに、遠隔操作システム1を構成する各装置の機能について、詳細に説明する。図2は、本開示の実施形態にかかる遠隔操作システムの機能構成を模式的に示すブロック図である。マスタコンソール10は、情報提示部11と、操作入力部12と、を備える。
【0021】
情報提示部11は、患者72の術野に関する情報を執刀医71に対して提示する表示装置である。患者72の術野に関する情報は、例えば、マスタ装置20で再構成した仮想スレーブ環境又は患者72の術野を撮像した映像である。情報提示部11は、これらを両方同時に表示してもよいし、いずれか一方を表示してもよい。情報提示部11によって術野を撮像した映像が表示される場合には、スレーブ環境観測装置40で撮像した部分の情報しか提示されない。一方、情報提示部11によって仮想スレーブ環境が表示される場合には、患者72の術野の情報を3次元空間で再構成したものであるので、角度を変えて表示させたり、近くに寄って表示させたりすることができる。また、情報提示部11は、対象である患者72の解剖学的な情報又は患部若しくは治療に関する情報を、術野に関する情報にオーバーレイして表示してもよい。
【0022】
操作入力部12は、患者72への処理を行うにあたって、スレーブ装置30に対する動作要求を行う入力装置である。
【0023】
マスタ装置20は、通信部21と、スレーブ環境モデル記憶部22と、仮想スレーブ環境再構成部23と、を備える。通信部21は、シミュレーション装置50又はスレーブ装置30との間で通信を行う。通信部21は、例えばマスタコンソール10での入力内容をスレーブ装置30への動作要求として、シミュレーション装置50又はスレーブ装置30に送信する。通信部21は、マスタコンソール10から緊急停止の指示が入力されると、緊急停止要求をスレーブ装置30へと送信する。通信部21は、マスタコンソール10からの緊急停止以外の指示が入力されると、通常の動作要求として、スレーブ装置30ではなくシミュレーション装置50へと送信する。
【0024】
スレーブ環境モデル記憶部22は、仮想スレーブ環境再構成部23で仮想スレーブ環境を再構成する場合に、シミュレーション装置50との間で共有しているスレーブ環境モデルを記憶する。スレーブ環境モデルは、仮想現実の術野を再構成する際に、CT(Computerized Tomography)装置などの3次元断層画像取得装置で取得した患者72の身体データなどから加工したモデル情報である。
【0025】
仮想スレーブ環境再構成部23は、スレーブ環境モデル記憶部22に記憶されているスレーブ環境モデルに、シミュレーション装置50からの差分情報及びスレーブ動作情報を用いて、仮想スレーブ環境を再構成する。なお、この明細書では、仮想スレーブ環境の再構成には、差分情報及びスレーブ動作情報を用いた更新も含まれるものとする。ここで再構成された仮想スレーブ環境は、マスタコンソール10の情報提示部11に出力される。
【0026】
スレーブ環境観測装置40は、環境観測部41と、通信部42と、を備える。環境観測部41は、スレーブ環境である患者72の状態であるスレーブ環境情報を観測する観測装置である。スレーブ環境は、対象である患者72の視覚的な情報と、非視覚的な情報と、を含む。視覚的な情報としては、患者72の見た目の様子、患部の様子などを例示することができる。視覚的な情報を取得する環境観測部41は、例えば、患者72の術野を撮像するカメラなどである。非視覚的な情報としては、患者72の血圧、心拍数などを例示することができる。非視覚的な情報を取得する環境観測部41は、例えば、血圧計、心拍計などである。
【0027】
通信部42は、環境観測部41によって観測されたスレーブ環境情報を、シミュレーション装置50に送信する。
【0028】
スレーブ装置30は、通信部31と、動作要求実行部32と、を備える。通信部31は、マスタ装置20又はシミュレーション装置50との間で通信を行う。例えば、通信部31は、マスタ装置20又はシミュレーション装置50から緊急停止要求を含む動作要求を受信する。また、通信部31は、スレーブ装置30の動作実行部の状態であるスレーブ動作情報を、動作実行部に設けられた検知部から取得して、シミュレーション装置50に送信する。スレーブ動作情報は、動作実行部の位置及び動作状態であり、例えば動作実行部がアームである場合には、アームの角度、アームの先端の患部からの距離などである。
【0029】
シミュレーション装置50は、マスタ通信部51と、スレーブ通信部52と、スレーブ環境モデル記憶部53と、仮想スレーブ環境再構成部54と、差分情報抽出部55と、動作停止検知部56と、動作要求確認部57と、安全状態移行部58と、を備える。
【0030】
マスタ通信部51は、マスタ装置20との間で通信を行う。すなわち、マスタ通信部51は、マスタ装置20からの緊急停止要求以外の動作要求を受信する。また、マスタ通信部51は、スレーブ動作情報及び差分情報をマスタ装置20に送信する。
【0031】
スレーブ通信部52は、スレーブ装置30およびスレーブ環境観測装置40との間で通信を行う。すなわち、スレーブ通信部52は、スレーブ環境観測装置40からのスレーブ環境情報と、スレーブ装置30からのスレーブ動作情報と、を受信する。スレーブ通信部52は、安全状態移行部58で安全状態への移行が必要であると判定された場合に、動作切り替え指示をスレーブ装置30に送信する。また、スレーブ通信部52は、動作要求確認部57で動作要求に対する安全性が確認できた場合に、スレーブ装置30に対して動作要求を送信する。
【0032】
スレーブ環境モデル記憶部22は、仮想スレーブ環境再構成部54で仮想スレーブ環境を再構成する場合に、マスタ装置20との間で共有しているスレーブ環境モデルを記憶する。
【0033】
仮想スレーブ環境再構成部54は、スレーブ環境モデル記憶部22に記憶されているスレーブ環境モデルに、スレーブ装置30からのスレーブ動作情報及びスレーブ環境観測装置40からのスレーブ環境情報を用いて、仮想スレーブ環境を再構成する。仮想スレーブ環境再構成部54は、仮想対象環境再構成部に対応する。
【0034】
差分情報抽出部55は、マスタ装置20とシミュレーション装置50との間で予めモデル情報が共有されている場合に、直前の時刻から現在の時刻で仮想スレーブ環境が時系列変化した差分情報を抽出し、マスタ装置20に送信する。具体的には、差分情報抽出部55は、仮想スレーブ環境再構成部54で再構成された第1仮想スレーブ環境と、第1仮想スレーブ環境の前に仮想スレーブ環境再構成部54で再構成された第2仮想スレーブ環境と、の差分を差分情報として抽出する。差分情報は、マスタ通信部51を介してマスタ装置20へと送信される。
【0035】
動作停止検知部56は、仮想スレーブ環境再構成部54で仮想スレーブ環境が再構成された場合に、スレーブ装置30の動作を停止させる状況の発生を検知する。動作停止検知部56は、例えば、再構成された仮想スレーブ環境から、スレーブ装置30が動作を停止する条件を示す動作停止条件を満たすかを判定し、動作停止条件を満たす場合に、停止条件発生通知を安全状態移行部58に通知する。また、動作停止検知部56は、停止条件発生通知をマスタ装置20にマスタ通信部51を介して通知する。
【0036】
動作停止条件として、例えば、スレーブ装置30の動作実行部が動作要求通りに動作していないこと、スレーブ装置30の動作実行部が患者72の患部以外の場所を侵襲していること、患部付近が極度に変形しているなど通常状態から逸脱していること、患者72の生体情報が想定範囲を超えていること、などを例示することができる。患者72の生体情報は、例えば、心拍、血圧、血中酸素濃度、出血などである。
【0037】
動作要求確認部57は、マスタ装置20から動作要求を受けた場合に、動作要求を受けた時点で再構成されている仮想スレーブ環境を用いて、動作要求についてシミュレーションを実行し、患者72の安全性を確認する。患者72の安全性の確認は、安全判断基準を用いて行われる。安全判断基準として、例えば、スレーブ装置30の動作実行部が事前設定された位置、速度、加速度の範囲内で動作すること、スレーブ装置30の動作実行部が事前設定された力の範囲で患部に接触すること、スレーブ装置30の動作実行部の動作によって患部付近が極度に変形しないこと、などを例示することができる。
【0038】
動作要求確認部57は、シミュレーションの結果、患者72の安全性が確認された場合に、マスタ装置20からの動作要求をスレーブ通信部52を介してスレーブ装置30へと送信する。また、動作要求確認部57は、シミュレーションの結果、患者72の安全性が確認されなかった場合に、マスタ装置20からの動作要求をスレーブ装置30へと送信せず、停止条件発生通知を安全状態移行部58に通知する。さらに、動作要求確認部57は、停止条件発生通知をマスタ装置20にマスタ通信部51を介して通知する。
【0039】
安全状態移行部58は、動作停止検知部56又は動作要求確認部57から停止条件発生通知を受けると、スレーブ装置30に安全を確保するための動作を実行させる動作切り替え指示を送信する。動作切り替え指示は、マスタ装置20からの動作要求に従った処理から、患者72の安全性を確保するための動作への切り替えを実行する指示である。動作切り替え指示は、患者72に対するスレーブ装置30の動作実行部の位置などによって内容が異なる。例えば、動作実行部が患者72から離れた場所に位置している場合には、その状態のまま停止させる。また、例えば、動作実行部が患者72に接触している場合には、動作実行部を患者72から離した後に停止させる。
【0040】
[実施形態に係る処理手順]
つぎに、遠隔操作システム1を構成するスレーブ環境観測装置40、スレーブ装置30、シミュレーション装置50及びマスタ装置20での処理について説明する。
【0041】
図3は、スレーブ環境観測装置での処理手順の一例を示すフローチャートである。スレーブ環境観測装置40の環境観測部41は、患者72についての情報であるスレーブ環境情報を取得する(ステップS11)。スレーブ環境情報は、上記したように患者72の患部の撮像データ、患者72の血圧、心拍数などの生体情報などである。その後、通信部42は、取得したスレーブ環境情報をシミュレーション装置50に送信する(ステップS12)。以上の処理が、遠隔操作システム1が稼働している間実行される。
【0042】
図4は、スレーブ装置での処理手順の一例を示すフローチャートである。まず、スレーブ装置30の通信部31は、動作実行部に含まれる検知部から動作実行部についての動作状態を示すスレーブ動作情報を取得し(ステップS31)、スレーブ動作情報をシミュレーション装置50に送信する(ステップS32)。
【0043】
ついで、動作要求実行部32は、マスタ装置20から緊急停止要求を受信したかを判定する(ステップS33)。緊急停止要求を受信した場合(ステップS33でYesの場合)には、動作要求実行部32は、動作実行部の緊急停止を実行する(ステップS34)。これによって、スレーブ装置30は、動作を停止し、処理が終了する。
【0044】
一方、緊急停止要求を受信しなかった場合(ステップS33でNoの場合)には、動作要求実行部32は、シミュレーション装置50から動作切り替え指示を受信したかを判定する(ステップS35)。動作切り替え指示を受信している場合(ステップS35でYesの場合)には、動作要求実行部32は、スレーブ装置30の動作を安全状態へと移行させる処理を実行する(ステップS36)。安全状態への移行処理として、例えばスレーブ装置30の動作実行部の停止、または動作実行部が患者72に接触しない位置への退避などが例示される。そして、処理が終了する。
【0045】
また、動作切り替え指示を受信していない場合(ステップS35でNoの場合)には、動作要求実行部32は、動作要求を受信したかを判定する(ステップS37)。動作要求を受信している場合(ステップS37でYesの場合)には、動作要求実行部32は、動作要求を実行する(ステップS38)。その後、又はステップS37で動作要求を受信していない場合(ステップS37でNoの場合)には、ステップS31へと処理が戻る。
【0046】
図5は、シミュレーション装置での情報処理方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。まず、シミュレーション装置50のスレーブ通信部52は、スレーブ装置30からスレーブ動作情報を受信し(ステップS51)、スレーブ環境観測装置40からスレーブ環境情報を受信する(ステップS52)。その後、仮想スレーブ環境再構成部54は、受信したスレーブ動作情報及びスレーブ環境情報を含む装置側情報を用いて仮想現実の仮想スレーブ環境を再構成する(ステップS53)。このとき、スレーブ環境モデル記憶部53にスレーブ環境モデルが記憶されている場合には、スレーブ環境モデルも用いられる。
【0047】
その後、動作停止検知部56は、再構成された仮想スレーブ環境を用いて、スレーブ装置30の動作を停止させる必要があるかを判定する動作停止検知処理を実行する(ステップS54)。例えば、動作停止検知部56は、仮想スレーブ環境が動作停止条件を満たすかを判定することによって、スレーブ装置30の動作の停止の要否を判定する。その結果、スレーブ装置30の動作を停止させる必要がない場合(ステップS55でNoの場合)には、差分情報抽出部55は、再構成した仮想スレーブ環境と、その前に再構成した仮想スレーブ環境と、の差分情報を抽出する(ステップS56)。その後、マスタ通信部51は、スレーブ動作情報及び差分情報をマスタ装置20に送信する(ステップS57)。
【0048】
ついで、マスタ通信部51は、マスタ装置20から動作要求を受信したかを判定する(ステップS58)。マスタ装置20から動作要求を受信した場合(ステップS58でYesの場合)には、動作要求確認部57は、現在の仮想スレーブ環境、すなわちステップS53で再構成された仮想スレーブ環境に対して、受信した動作要求のシミュレーションを実行する(ステップS59)。そして、動作要求確認部57は、シミュレーションの結果、動作要求の安全性を確認できたかを判定する(ステップS60)。例えば、動作要求確認部57は、シミュレーションの結果が安全判断基準を満たすかを判定することによって、動作要求の安全性を判定する。
【0049】
動作要求の安全性を確認できた場合(ステップS60でYesの場合)には、スレーブ通信部52は、マスタ装置20から受信した動作要求をスレーブ装置30に送信する(ステップS61)。その後、又はステップS58でマスタ装置20から動作要求を受信していない場合(ステップS58でNoの場合)には、処理がステップS51へと戻る。
【0050】
動作要求の安全性を確認できなかった場合(ステップS60でNoの場合)、あるいは、ステップS55で動作を停止させる必要がある場合(ステップS55でYesの場合)には、安全状態移行部58は動作切り替え指示をスレーブ装置30に送信する(ステップS62)。また、安全状態移行部58は、スレーブ装置30の動作を停止したことをマスタ装置20に通知する(ステップS63)。そして、処理が終了する。
【0051】
このように、動作要求を受信した時点で最新の仮想スレーブ環境を用いて動作要求の実行をシミュレーションし、その結果に基づいて、動作要求をスレーブ装置30へと渡すか否かを制御する。これによって、マスタコンソール10で指示した時は安全であった動作要求をシミュレーション装置で受信した時に安全性が確認できないものに変わった場合に、マスタ装置20の操作者である執刀医71の確認を得ることなく、処理を中断させることができる。これによって、実空間でも患者72の安全性を確保することができる。
【0052】
図6は、マスタ装置での処理手順の一例を示すフローチャートである。まず、マスタ装置20の通信部21は、シミュレーション装置50から差分情報と、スレーブ動作情報と、を受信する(ステップS71)。ついで、仮想スレーブ環境再構成部23は、受信したスレーブ動作情報及び差分情報を用いて、仮想現実の仮想スレーブ環境を再構成する(ステップS72)。このとき、スレーブ環境モデル記憶部22にスレーブ環境モデルが記憶されている場合には、スレーブ環境モデルも用いられる。
【0053】
ついで、マスタコンソール10の情報提示部11は、再構成した仮想スレーブ環境を表示する(ステップS73)。操作者である執刀医71は、情報提示部11で表示された仮想スレーブ環境を見ながら、操作入力部12を操作する。マスタ装置20の通信部21は、マスタコンソール10の操作入力部12から緊急停止要求の送信が要求されたかを判定する(ステップS74)。
【0054】
緊急停止要求の送信が要求された場合(ステップS74でYesの場合)には、通信部21は、緊急停止要求をスレーブ装置30に送信し(ステップS75)、処理が終了する。
【0055】
また、緊急停止要求の送信が要求されていない場合(ステップS74でNoの場合)には、通信部21は、マスタコンソール10の操作入力部12から動作要求の送信が要求されたかを判定する(ステップS76)。動作要求の送信が要求された場合(ステップS76でYesの場合)には、通信部21は、動作要求をシミュレーション装置50に送信する(ステップS77)。
【0056】
その後、又は動作要求の送信が要求されていない場合(ステップS76でNoの場合)には、ステップS71に処理が戻る。
【0057】
つぎに、遠隔操作システム1を構成するスレーブ環境観測装置40、スレーブ装置30、シミュレーション装置50、マスタ装置20およびマスタコンソール10間での処理の流れについて説明する。図7は、実施形態による遠隔操作システムでの情報処理方法の手順の一例を示すシーケンス図である。図8A図8Dは、患者の患部とスレーブ装置の動作実行部との位置関係を模式的に示す図である。図9は、シミュレーション装置での動作要求確認処理の詳細を説明する図である。
【0058】
まず、時刻t1で、スレーブ環境観測装置40は、患者72の状態を観測し、また、スレーブ装置30は、動作実行部の状態を観測(取得)する。例えば、図9のスレーブ環境331に示されるスレーブ装置30の動作実行部35と患者72の患部721の状態が取得される。スレーブ環境情報として、患部721の形状が取得され、スレーブ動作情報として、動作実行部35の先端位置、速度などが取得される。
【0059】
そして、スレーブ装置30は第2ネットワーク62を介してスレーブ動作情報をシミュレーション装置50に送信し、スレーブ環境観測装置40は第2ネットワーク62を介してスレーブ環境情報をシミュレーション装置50に送信する(図7のSQ11)。
【0060】
その後、シミュレーション装置50では、受信したスレーブ動作情報及びスレーブ環境情報を用いて、図9に示されるように仮想スレーブ環境710t1を再構成する(図7のSQ12)。上記したように、患者72のスレーブ環境モデルが存在する場合には、スレーブ環境モデルを基に、スレーブ動作情報及びスレーブ環境情報を用いて、仮想スレーブ環境が再構成される。
【0061】
その後、シミュレーション装置50は、再構成した仮想スレーブ環境と、その前に再構成した仮想スレーブ環境との差分である差分情報を抽出する(図7のSQ13)。ここでは、差分情報は、例えば時刻t1の仮想スレーブ環境710t1と図示していない時刻t0の仮想スレーブ環境との差分となる。
【0062】
また、シミュレーション装置50は、再構成した仮想スレーブ環境を用いて、動作停止検知処理を行う(図7のSQ14)。動作停止検知処理の一例が図8A図8Dに示されている。例えば、図8Aは、スレーブ装置30の動作実行部35は、これより前に受けた動作要求の通りの位置に存在し、患者72の患部721は、動作実行部35に侵襲されていない状態が示されている。このように、動作実行部35が動作要求通りに動作しており、動作実行部35が患者72の患部721以外の場所に侵襲しておらず、患部721付近が極度に変形していない、通常状態にある場合には、動作停止の条件を満たさないので、そのままスレーブ装置30の動作が続行される。
【0063】
図8Bは、スレーブ装置30の動作実行部35が動作要求通りに動作していない場合の一例を示し、図8Cは、スレーブ装置30の動作実行部35が動作要求通りに動作していないとともに、動作実行部35が患者72の患部721以外の場所722に侵襲している場合の一例を示している。また、図8Dは、患部721付近が極度に変形しており、通常状態から逸脱している場合の一例を示している。これらの図8B図8Dに該当する場合には、シミュレーション装置50は、動作停止の条件を満たすので、スレーブ装置30を安全状態へと移行させる。なお、ここでは、図8Aに示されるように、スレーブ装置30は動作停止の条件を満たさなかったものとする。
【0064】
図7に戻り、シミュレーション装置50は、第1ネットワーク61を介してスレーブ動作情報及び差分情報をマスタ装置20へと送信する(図7のSQ15)。そして、マスタ装置20は、受信したスレーブ動作情報及び差分情報を用いて仮想スレーブ環境を再構成し(図7のSQ16)、マスタコンソール10に情報を提示する(図7のSQ17)。図9に示されるように、マスタコンソール10の情報提示部11に仮想スレーブ環境710t1が表示される。
【0065】
患部721は時々刻々と変化し、スレーブ装置30の動作実行部35は、動作要求された状態に移行するまでに時間を要する。そのため、スレーブ装置30およびスレーブ環境観測装置40では、例えば所定の周期でスレーブ動作情報及びスレーブ環境情報を取得し、シミュレーション装置50に送信している(図7のSQ21)。ここでは、図9の時刻t2のスレーブ環境332に示されるスレーブ装置30の動作実行部35と患者72の患部721の状態が、スレーブ環境情報およびスレーブ動作情報として取得され、シミュレーション装置50に送信される。
【0066】
その後、シミュレーション装置50では、時刻t2でのスレーブ動作情報及びスレーブ環境情報を用いて、図9に示されるように、仮想スレーブ環境710t2を再構成する(図7のSQ22)。第1ネットワーク61の更新周期は、第2ネットワーク62の更新周期よりも長いという前提であるので、この仮想スレーブ環境710t2は、マスタ装置20へと送信されない。また、シミュレーション装置50は、再構成した仮想スレーブ環境710t2を用いて、動作停止検知処理を行う(図7のSQ23)。ここでも、スレーブ装置30は動作停止の条件を満たさなかったものとする。
【0067】
一方、執刀医71は、SQ17でマスタコンソール10に表示された仮想スレーブ環境710t1を見て、時刻t3で操作を行うことになる(図7のSQ18)。執刀医71によるマスタコンソール10の操作入力部12の操作が、動作要求としてマスタ装置20からシミュレーション装置50へと送信される(図7のSQ31)。例えば、図9で、執刀医71は、情報提示部11に表示された仮想スレーブ環境710t1を見ながら、動作実行部35を所望の位置へと移動させるように操作入力部12を操作すると、動作要求150が生成される。
【0068】
シミュレーション装置50では、動作要求を受信すると、受信した動作要求をスレーブ装置30で実行したときに、患者72に対して安全性を確保できるかの確認を行う(図7のSQ32)。ここで、動作要求は、時刻t2よりも後に受信したものとする。
【0069】
図9に示されるように、執刀医71による動作要求は、時刻t1における仮想スレーブ環境710t1に基づいて出されたものであるが、シミュレーション装置50が動作要求150を受信するまでの間に仮想スレーブ環境710t2に更新されている。そのため、本実施形態では、シミュレーション装置50は、仮想スレーブ環境710t1ではなく、仮想スレーブ環境710t2を用いて、安全性の確認の処理を行うことになる。安全性の確認の処理では、仮想スレーブ環境710t1の再構成の後で、動作要求150を受信した時点までの間に再構成された仮想スレーブ環境710ti(iは2以上の自然数)を用いることができる。ただし、動作要求150を受信した時点で最新の仮想スレーブ環境(この場合には仮想スレーブ環境710t2)を用いることが望ましい。
【0070】
例えば、動作要求150を受信した時点で最新の仮想スレーブ環境710t2を用いずに、動作要求150の送信時にマスタ装置20が使用した仮想スレーブ環境710t1を用いてシミュレーション装置50がシミュレーションを行った場合を考える。
【0071】
時刻t1から時刻t2の間に、患者72の患部721の形状が急激に変化してしまったものとする。この場合、時刻t1の仮想スレーブ環境710t1を用いて動作要求についてのシミュレーションを行うと、シミュレーション装置50上では、安全性に問題がないと判定される。しかし、上記したように、時刻t2での患部721の形状の急激な変化によって、実際に動作要求150を実行した場合には、急激に形状が変化した患部721によって、動作実行部35が接触してしまう。つまり、意図しない患部に動作実行部35が接触してしまい、安全性が損なわれてしまう可能性が高くなる。
【0072】
一方、動作要求150を受信した時点で最新の仮想スレーブ環境710t2を用いて、動作要求150についてのシミュレーションを行うと、仮想スレーブ環境710t2には、既に患部721の形状の急激な変化が反映されている。そして、動作実行部35についての動作要求150を実行すると、急激に形状が変化した患部721を動作実行部35が侵襲してしまう結果が得られる。つまり、安全性が確保できないと判定される。その結果、シミュレーション装置50は、マスタ装置20へ確認することなく、また患者72に対して動作要求150を実行する前に、安全状態への移行措置を取ることができる。
【0073】
なお、ここでは、例として患部721の急激な形状の変化を例に挙げたが、スレーブ装置30の動作実行部35が事前に設定された位置、速度、加速度の範囲内で動作しない場合、動作実行部35が事前に設定された力の範囲で患部721に接触しない場合、シミュレーション装置50とマスタ装置20との間の通信が切断した場合でも同様に、患者72に対して動作要求を実行する前に、安全状態への移行措置を取ることができる。
【0074】
図7に戻り、シミュレーション装置50は、SQ32で安全性の確認ができた場合に、安全性が確認された動作要求をスレーブ装置30に対して送信する(図7のSQ33)。そして、スレーブ装置30は、動作要求を実行する(図7のSQ34)。以上が、マスタ装置20が動作要求を送信した時の基になる仮想スレーブ環境と、シミュレーション装置50が動作要求を受信した時の最新の仮想スレーブ環境と、が異なる場合の安全性を確認する処理である。図示していないが、SQ32で安全性の確認ができなかった場合には、シミュレーション装置50は動作切り替え指示をスレーブ装置30へと送信し、安全状態への移行処理が実行される。
【0075】
図10A図10Cは、実施形態による遠隔操作システムにおける情報の流れの一例を模式的に示す図である。動作停止検知処理又は動作要求確認処理で、安全状態への移行がなされない場合には、図10Aに示されるように、スレーブ環境観測装置40、スレーブ装置30、シミュレーション装置50及びマスタ装置20との間で、情報のやり取りがされる。すなわち、スレーブ環境観測装置40からはスレーブ環境情報401がシミュレーション装置50へと送信され、スレーブ装置30からはスレーブ動作情報301がシミュレーション装置50へと送信される。シミュレーション装置50からは、差分情報及びスレーブ動作情報501がマスタ装置20へと送信される。一方、マスタ装置20からは、緊急停止要求以外の動作要求101がシミュレーション装置50へと送信される。シミュレーション装置50からは、安全性が確認された動作要求101がスレーブ装置30へと送信される。
【0076】
一方、図10Bに示されるように、シミュレーション装置50は、マスタ装置20との間の通信が切断されたり、通信遅延に起因する状況変化が生じたりした場合には、シミュレーション装置50は、安全状態移行指示をスレーブ装置30へと送信する。
【0077】
また、図10Cに示されるように、マスタ装置20は、緊急停止要求102が出された場合には、シミュレーション装置50を経由せず、直接にスレーブ装置30へと送信する。スレーブ装置30の動作実行部の動作の停止に関しては、シミュレーション装置50によって安全性を確認しなくても、安全に処理を停止させることができるからである。
【0078】
なお、上記した説明では、遠隔操作システム1として、執刀医71が患者72に対して遠隔で処置を行う遠隔医療システムを例に挙げた。しかし、本実施形態がこれに限定されるものではなく、安全性を担保したいアプリケーションに有用である。例えば、遠隔からの介護、介助をサービスロボットによって実施する場合、あるいは遠隔からモバイルロボットを操作する場合などが例示される。より具体的には、橋梁点検又は原子力発電所のような人が行けない場所でのインフラ点検又は作業、災害時の人命救助のための遠隔がれき撤去のような作業、採鉱所又は工事現場での作業などにも適用することができる。さらに、陳列、清掃又は警備といった店舗での作業支援、料理又は洗い物といった生活支援など、完全自動化が困難で遠隔から人による操作が必要な場面にも適用することができる。スレーブ装置30は、アーム型、車輪走行型、飛行(ドローン)型など用途に適した形態を取り得る。
【0079】
実施形態では、シミュレーション装置50は、処理対象についての第1スレーブ環境情報と、スレーブ装置30の動作実行部についての第1スレーブ動作情報と、に基づいてマスタ装置20で生成されたスレーブ装置30への動作要求を受信する。シミュレーション装置50は、第1スレーブ環境情報と第1スレーブ動作情報の受信後で、動作要求の受信前までの間で更新された第2スレーブ環境情報と第2スレーブ動作情報とに基づいて、動作要求を行うようにした。これによって、動作要求の基になった第1スレーブ環境情報と第1スレーブ動作情報の受信後に生じた処理対象又はスレーブ装置30の異変を検知することができる。その結果、動作要求の実行が異変によって処理対象への安全の確保が難しい場合には、動作要求を出さずに、安全状態への移行を指示することができる。つまり、安全性が確認された動作要求のみが実行されるため、通信遅延などの要因でマスタ装置20側では検知できない危険をシミュレーション装置50で回避することができる。また、シミュレーション装置50とスレーブ装置30との間で、自律的に安全性を確保することができる。
【0080】
これによって、マスタ装置20からの動作要求がスレーブ装置30に届くまでの時間遅延と、スレーブ装置30側の環境変化をマスタ装置20側にフィードバックする際の時間遅延と、が発生する環境でも、制御の安定性と作業環境の安全性を担保することができる。特に、外科治療において、遠隔地からの処置によって精密な術具操作を行いながら患者を不用意に傷つけないことが可能になる。また、物理的に遠く離れたマスタ装置20とスレーブ装置30との間の通信状態が不安定であっても、スレーブ装置30とシミュレーション装置50との間で危険を検知して、安全状態へと移行することができる。
【0081】
また、シミュレーション装置50は、スレーブ環境情報とスレーブ動作情報とに基づいて、仮想スレーブ環境を再構成し、仮想スレーブ環境で動作要求をシミュレーションする。これによって、動作要求によって生じる現象を高精度で予測することができる。
【0082】
さらに、マスタ装置20は、緊急停止要求などの一部の要求を、シミュレーション装置50を中継せずにスレーブ装置30に直接送信する。これによって、シミュレーション装置50での緊急停止要求に対するシミュレーションが行われないので、マスタ装置20側からの危険回避動作をより早くスレーブ装置30に送信することができる。
【0083】
また、マスタ装置20は、スレーブ環境情報とスレーブ動作情報とを用いて、仮想現実の仮想スレーブ環境を再構成する。これによって、マスタ装置20に操作しやすい自由視点の画像を提示することができる。また、事前にモデル化されたスレーブ環境モデルがマスタ装置20とシミュレーション装置50との間で共有されていることで、シミュレーション装置50は、再構成した仮想スレーブ環境と、その前に再構成した仮想スレーブ環境との間の差分情報をマスタ装置20側に送信すればよい。その結果、実行中の通信データを削減することができる。
【0084】
なお、上述した遠隔操作システム1のスレーブ装置30において、動作実行部に対して1つの動作要求実行部32が設けられる構成でもよいし、複数の動作実行部に対して1つの動作要求実行部32が設けられる構成でもよい。すなわち、遠隔操作システム1に、動作実行部と動作要求実行部32とが1対1で対応付けられたスレーブ装置30が複数設けられてもよいし、1つの動作要求実行部32に複数の動作実行部が対応付けられた1台のスレーブ装置30が設けられてもよい。また、上記した説明では、遠隔操作システム1にシミュレーション装置50が1台設けられる場合を説明したが、複数のシミュレーション装置50が設けられてもよい。
【0085】
[ハードウェア構成]
図11は、実施形態による情報処理装置の機能を実現するコンピュータの一例を示すハードウェア構成図である。上述してきた実施形態でのマスタ装置20、シミュレーション装置50等の情報処理装置は、コンピュータ1000によって実現される。コンピュータ1000は、CPU1100、RAM1200、ROM(Read Only Memory)1300、HDD(Hard Disk Drive)1400、通信インターフェイス1500、及び入出力インターフェイス1600を有する。コンピュータ1000の各部は、バス1050によって接続される。
【0086】
CPU1100は、ROM1300又はHDD1400に格納されたプログラムに基づいて動作し、各部の制御を行う。例えば、CPU1100は、ROM1300又はHDD1400に格納されたプログラムをRAM1200に展開し、各種プログラムに対応した処理を実行する。
【0087】
ROM1300は、コンピュータ1000の起動時にCPU1100によって実行されるBIOS(Basic Input Output System)等のブートプログラム、及びコンピュータ1000のハードウェアに依存するプログラム等を格納する。
【0088】
HDD1400は、CPU1100によって実行されるプログラム、及び、このプログラムによって使用されるデータ等を非一時的に記録する、コンピュータが読み取り可能な記録媒体である。具体的には、HDD1400は、プログラムデータ1450の一例である本開示に係る情報処理プログラムを記録する記録媒体である。
【0089】
通信インターフェイス1500は、コンピュータ1000が外部ネットワーク1550(例えばインターネット)と接続するためのインターフェイスである。例えば、CPU1100は、通信インターフェイス1500を介して、他の機器からデータを受信したり、CPU1100が生成したデータを他の機器へ送信したりする。
【0090】
入出力インターフェイス1600は、入出力デバイス1650とコンピュータ1000とを接続するためのインターフェイスである。例えば、CPU1100は、入出力インターフェイス1600を介して、キーボード又はマウス等の入力デバイスからデータを受信する。また、CPU1100は、入出力インターフェイス1600を介して、ディスプレイ、スピーカ又はプリンタ等の出力デバイスにデータを送信する。また、入出力インターフェイス1600は、所定の記録媒体(メディア)に記録されたプログラム等を読み取るメディアインターフェイスとして機能してもよい。メディアとは、例えばDVD(Digital Versatile Disc)、PD(Phase change rewritable Disk)等の光学記録媒体、MO(Magneto-Optical disk)等の光磁気記録媒体、テープ媒体、磁気記録媒体、または半導体メモリ等である。
【0091】
例えば、コンピュータ1000が実施形態に係るシミュレーション装置50として機能する場合、コンピュータ1000のCPU1100は、RAM1200上にロードされた情報処理プログラムを実行することにより、仮想スレーブ環境再構成部54、差分情報抽出部55、動作停止検知部56、動作要求確認部57、安全状態移行部58の機能を実現する。また、HDD1400には、本開示に係る情報処理プログラム、スレーブ環境モデル記憶部53内のデータが格納される。なお、CPU1100は、プログラムデータ1450をHDD1400から読み取って実行するが、他の例として、外部ネットワーク1550を介して、他の装置からこれらのプログラムを取得してもよい。
【0092】
なお、本明細書に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものでは無く、また他の効果があってもよい。
【0093】
なお、本技術は以下のような構成も取ることができる。
(1)
第1時点での装置の状態を示す装置状態情報と、操作される対象の状態を示す対象状態情報とを含む装置側情報に基づく前記装置に対する動作要求と、前記第1時点の後で前記動作要求を受信する第2時点までの間で更新された装置側情報と、に基づいて、前記動作要求の実行を制御する動作要求確認部を有する情報処理装置。
(2)
前記対象についての環境モデル、前記更新された対象状態情報及び前記更新された装置状態情報を用いて、仮想対象環境を再構成する仮想対象環境再構成部をさらに有し、
前記動作要求確認部は、前記仮想対象環境での前記動作要求のシミュレーション結果に基づいて前記動作要求の実行を制御する(1)に記載の情報処理装置。
(3)
前記動作要求確認部は、前記動作要求の前記シミュレーション結果が前記対象の安全性を害するものである場合に、前記動作要求を実行しない(2)に記載の情報処理装置。
(4)
前記更新された装置側情報に基づいて、前記装置の動作を停止させるか否かの検知を行う動作停止検知部をさらに有する(1)~(3)のいずれかに記載の情報処理装置。
(5)
前記仮想対象環境での前記装置と前記対象との間の関係に基づいて、前記装置の動作を停止させるか否かの検知を行う動作停止検知部をさらに有する(2)に記載の情報処理装置。
(6)
前記装置側情報の更新周期は、前記動作要求の受信間隔よりも短い(1)~(5)のいずれかに記載の情報処理装置。
(7)
前記対象は、患者であり、
前記装置は、前記患者に対して処置を施す動作実行部であり、
前記装置状態情報は、前記動作実行部の位置及び動作状態を示し、
前記対象状態情報は、前記患者の患部の状態及び生体情報である(1)~(6)のいずれかに記載の情報処理装置。
(8)
第1時点での装置の状態を示す装置状態情報と、操作される対象の状態を示す対象状態情報とを含む装置側情報に基づく前記装置に対する動作要求と、前記第1時点の後で前記動作要求を受信する第2時点までの間で更新された装置側情報と、に基づいて、前記動作要求の実行を制御する情報処理方法。
(9)
コンピュータに、
第1時点での装置の状態を示す装置状態情報と、操作される対象の状態を示す対象状態情報とを含む装置側情報に基づく前記装置に対する動作要求と、前記第1時点の後で前記動作要求を受信する第2時点までの間で更新された装置側情報と、に基づいて、前記動作要求の実行を制御する機能を実現させるためのプログラム。
【符号の説明】
【0094】
1 遠隔操作システム
10 マスタコンソール
11 情報提示部
12 操作入力部
20 マスタ装置
21,31,42 通信部
22,53 スレーブ環境モデル記憶部
23,54 仮想スレーブ環境再構成部
30 スレーブ装置
32 動作要求実行部
35 動作実行部
40 スレーブ環境観測装置
41 環境観測部
50 シミュレーション装置
51 マスタ通信部
52 スレーブ通信部
55 差分情報抽出部
56 動作停止検知部
57 動作要求確認部
58 安全状態移行部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図9
図10A
図10B
図10C
図11