(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】電解コンデンサ用電解液及び電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
H01G 9/035 20060101AFI20231114BHJP
H01G 9/145 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
H01G9/035
H01G9/145
(21)【出願番号】P 2020534669
(86)(22)【出願日】2019-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2019029822
(87)【国際公開番号】W WO2020027124
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2018145466
(32)【優先日】2018-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】黒田 宏一
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-203827(JP,A)
【文献】特開平03-257811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/035
H01G 9/145
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒、溶質、有機物で表面修飾した無機酸化物コロイド粒子、及びシランカップリング剤又はシリル化剤を含
み、
前記シランカップリング剤又は前記シリル化剤の前記溶媒に対する添加量が0.05以上0.40mol/kg以下であること、
を特徴とする電解コンデンサ用電解液。
【請求項2】
前記シランカップリング剤又は前記シリル化剤は、下記一般式(化1)で表されること、
を特徴とする請求項1記載の電解コンデンサ用電解液。
【化1】
[式中、X
1は、炭素数が1~20のアルキル基、アルケニル基、アリール基またはアラルキル基であり、その水素の一部がカルボキシル基、エステル基、アミド基、シアノ基、ケトン基、ホルミル基、エーテル基、水酸基、アミノ基、メルカプト基、スルフィド基、スルホキシド基、スルホン基、イソシアネート基、ウレイド基、エポキシ基で置換されていてもよい炭化水素基(-R)である。X
2~X
4はアセトキシ基、炭素数1~5のアルコキシ基又はアルキル基であって、X
2~X
4の少なくとも2個以上はアルコキシ基である。]
【請求項3】
前記一般式(化1)で表されるシリル化剤又はシランカップリング剤は、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポシキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン及び3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランの群から選ばれる1種以上であること、
を特徴とする請求項1又は2記載の電解コンデンサ用電解液。
【請求項4】
前記無機酸化物コロイド粒子はシリカであること、
を特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の電解コンデンサ用電解液。
【請求項5】
前記有機物で表面修飾した無機酸化物コロイド粒子1gに対する前記シランカップリング剤又は前記シリル化剤の添加量は、0.76×10
-3mol以上であること、
を特徴とする請求項
1乃至4の何れかに記載の電解コンデンサ用電解液。
【請求項6】
前記溶媒は、主としてエチレングリコールを含むこと、
を特徴とする請求項
1乃至5記載の何れかに記載の電解コンデンサ用電解液。
【請求項7】
請求項
1乃至6の何れかに記載の電解コンデンサ用電解液を備えること、
を特徴とする電解コンデンサ。
【請求項8】
一対の電極箔を備え、
前記シランカップリング剤又は前記シリル化剤の一部は、前記電極箔の表面に存在し、
前記有機物で表面修飾した無機酸化物コロイド粒子の一部は、前記電極箔の表面に存在する前記シランカップリング剤又は前記シリル化剤を介して前記電極箔に近接していること、
を特徴とする請求項
7記載の電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解コンデンサ用電解液及び電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサは、タンタルあるいはアルミニウム等のような弁作用金属を陽極箔及び陰極箔として備えている。陽極箔は、弁作用金属を焼結体あるいはエッチング箔等の形状にすることで拡面化され、拡面化された表面に誘電体酸化皮膜層を有する。陽極箔と陰極箔の間には電解液が介在する。電解液は、陽極箔の凹凸面に密接し、真の陰極として機能する。
【0003】
電解液は、陽極箔の誘電体酸化皮膜層と陰極箔との間に介在し、陽極箔と陰極箔との間で電子の授受を行う。そのため、電解液の電気伝導率及び温度特性等は、インピーダンス、誘電損失(tanδ)及び等価直列抵抗(ESR)等の電解コンデンサの電気的特性に大きな影響を及ぼす。また、電解液は、陽極箔に形成された誘電体酸化皮膜の劣化や損傷等の劣化部を修復する化成性を有し、電解コンデンサの漏れ電流(LC)や寿命特性への影響を及ぼす。
【0004】
従って、電解コンデンサには少なくとも高電気伝導率の電解液が適当であるが、電解液の電気伝導率を高めると火花電圧が低下する傾向があり、電解コンデンサの耐電圧特性が損なわれる虞がある。安全性の観点から、電解コンデンサに定格電圧を超える異常電圧が印加されるような過酷な条件下であっても、ショートや発火を起こさぬよう高い耐電圧を有することが望ましい。
【0005】
そこで、高電気伝導率を維持しつつ耐圧向上を図るべく、電解液に種々の無機酸化物コロイド粒子を添加する試みがなされている(特許文献1参照)。無機酸化物コロイド粒子は、典型的にはシリカコロイド粒子であるが、シリカ以外にもジルコニア、チタニア、アルミノシリケート、アルミノシリケート被覆シリカ等も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら無機酸化物コロイド粒子を含有した電解液では、時間の経過とともに無機酸化物コロイド粒子の沈殿や凝集が起こり、電解液のゲル化が確認された。そして、この現象に伴い耐電圧の低下が確認された。即ち、無機酸化物コロイド粒子のゲル化や沈殿を抑制して安定的にコロイド状態を保つことが耐電圧向上に対する課題となる。特に、有機物で表面修飾した無機酸化物コロイド粒子がゲル化や沈殿を起こしにくいことが確認されているが、電解液の溶媒としてエチレングリコールを選択した場合であっても、安定的なコロイド状態の更なる長時間持続が望まれている。また、本発明者らの研究により、電解液に有機物で表面修飾した無機酸化物コロイド粒子が含まれている場合、誘電体酸化皮膜が溶解されることが確認された。誘電体酸化皮膜が溶解されてしまうと、長時間経過後の電解コンデンサの諸特性や寿命特性に影響を与えてしまう。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、耐電圧を向上し、その耐電圧を長時間持続する電解コンデンサ用電解液及び電解コンデンサを提供することにある。さらに、電極箔の誘電体酸化皮膜の溶解を抑制することにより、電解コンデンサの特性変化を抑制し、寿命特性を良好とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明に係る電解コンデンサ用電解液は、溶媒、溶質、有機物で表面修飾した無機酸化物コロイド粒子、及びシランカップリング剤又はシリル化剤を含むこと、を特徴とする。
【0010】
前記シリル化剤又は前記シランカップリング剤は、下記一般式(化1)で表されるようにしてもよい。
【化1】
[式中、X
1は、炭素数が1~20のアルキル基、アルケニル基、アリール基またはアラルキル基であり、その水素の一部がカルボキシル基、エステル基、アミド基、シアノ基、ケトン基、ホルミル基、エーテル基、水酸基、アミノ基、メルカプト基、スルフィド基、スルホキシド基、スルホン基、イソシアネート基、ウレイド基、エポキシ基で置換されていてもよい炭化水素基(-R)である。X
2~X
4はアセトキシ基、炭素数1~5のアルコキシ基又はアルキル基であって、X
2~X
4の少なくとも2個以上はアルコキシ基である。]
【0011】
前記一般式(化1)で表されるシリル化剤又はシランカップリング剤は、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポシキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン及び3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランの群から選ばれる1種以上であるようにしてもよい。
【0012】
前記無機酸化物コロイド粒子はシリカであるようにしてもよい。
【0013】
前記シランカップリング剤又は前記シリル化剤の前記溶媒に対する添加量が0.05以上0.40mol/kg以下であるようにしてもよい。
【0014】
前記有機物で表面修飾した無機酸化物コロイド粒子1gに対する前記シリル化剤又はシランカップリング剤の添加量は、0.76×10-3mol以上であるようにしてもよい。
【0015】
前記溶媒は、主としてエチレングリコールを含むようにしてもよい。
【0016】
また、この電解コンデンサ用電解液を備える電解コンデンサも本発明の一態様である。その電解コンデンサは、一対の電極箔を備え、前記シリル化剤又は前記シランカップリング剤の一部は、前記電極箔の表面に存在し、前記有機物で表面修飾した無機酸化物コロイド粒子の一部は、前記電極箔の表面に存在する前記シリル化剤又は前記シランカップリング剤を介して前記電極箔に近接しているようにしてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、長期間安定的にコロイド状を維持し、高い耐電圧を長期間維持できる。さらに、電極箔の誘電体酸化皮膜の溶解を抑制し、水和劣化反応を抑制することにより、電解コンデンサの諸特性の変化を抑制し、長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】陰極箔の誘電体酸化皮膜の耐電圧測定結果を示すグラフである。
【
図2】陽極箔の誘電体酸化皮膜の耐電圧測定結果を示すグラフである。
【
図4】電解コンデンサの静電容量の時間変化を示すグラフである。
【
図5】電解コンデンサの静電容量の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態に係る電解液及び電解コンデンサについて説明する。電解コンデンサは、静電容量により電荷の蓄電及び放電を行う受動素子である。電解コンデンサは、陽極箔と陰極箔をセパレータを介して対向させたコンデンサ素子を有し、コンデンサ素子には電解液が含浸されている。陽極箔と陰極箔は表面に多孔質構造を有し、少なくとも陽極箔の多孔質構造部分には誘電体酸化皮膜層が形成されている。電解液は、陽極箔と陰極箔の間に介在し、陽極箔の誘電体酸化皮膜層に密接し、箔の電界を伝達する真の陰極となる。セパレータは、陽極箔と陰極箔のショートを防止し、また電解液を保持する。
【0020】
陽極箔及び陰極箔は、弁作用金属を材料とする長尺の箔体である。弁作用金属は、アルミニウム、タンタル、ニオブ、酸化ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス及びアンチモン等である。純度は、陽極箔に関して99.9%程度以上が望ましく、陰極に関して99%程度以上が望ましいが、ケイ素、鉄、銅、マグネシウム、亜鉛等の不純物が含まれていても良い。
【0021】
陽極箔及び陰極箔は、弁作用金属の粉体を焼結した焼結体、又は延伸された箔にエッチング処理を施したエッチング箔であり、多孔質構造は、トンネル状のピット、海綿状のピット、又は密集した粉体間の空隙により成る。多孔質構造は、典型的には、塩酸等のハロゲンイオンが存在する酸性水溶液中で直流又は交流を印加する直流エッチング又は交流エッチングにより形成され、若しくは芯部に金属粒子等を蒸着又は焼結することにより形成される。陰極箔は、陽極箔と比べて電解コンデンサの静電容量に対する表面積の影響が少ないため、多孔質構造による表面粗さは小さくともよい。
【0022】
誘電体酸化皮膜層は、典型的には、陽極箔の表層に形成される酸化皮膜であり、陽極箔がアルミニウム製であれば多孔質構造部分を酸化させた酸化アルミニウム層である。この誘電体酸化皮膜層は、硼酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、アジピン酸アンモニウム等の酸あるいはこれらの酸の水溶液等のハロゲンイオン不在の溶液中で電圧印加する化成処理により形成される。陰極箔に誘電体酸化皮膜層を設けてもよい。
【0023】
セパレータは、クラフト、マニラ麻、エスパルト、ヘンプ、レーヨン等のセルロースおよびこれらの混合紙、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、それらの誘導体などのポリエステル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ビニロン系樹脂、脂肪族ポリアミド,半芳香族ポリアミド,全芳香族ポリアミド等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、トリメチルペンテン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、アクリル樹脂等が挙げられ、これらの樹脂を単独で又は混合して用いることができる。
【0024】
電解液は、溶媒に対して溶質を溶解し、また溶媒に添加剤が添加された混合液である。添加剤としては、少なくとも、有機物で表面修飾した無機酸化物コロイド粒子(以下、有機修飾コロイド粒子と称する)、及びシランカップリング剤又はシリル化剤(以下、総称してシランカップリング剤という)が電解液に添加される。
【0025】
無機酸化物コロイド粒子としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化アンチモン、アルミノシリケート、シリカジルコニア、チタニアジルコニア、アルミノシリケートで被覆されたシリカ、シリカジルコニアで被覆されたシリカ等、又はこれらの混合物が挙げられる。これら無機酸化物コロイド粒子のうち、シリル化処理の容易さやコロイド粒子の安定性、耐電圧の向上効果の観点から特にシリカ、アルミノシリケート、又はアルミノシリケートで被覆されたシリカが好ましい。
【0026】
無機酸化物コロイド粒子の表面を修飾する有機物は、無機酸化物コロイド粒子の表面水酸基と置換され、無機酸化物コロイド粒子同士の凝集を抑制するものであり、例えばシリル化剤、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、アルコール類、ラテックスなどの各種高分子化合物等である。シリル化剤又はシランカップリング剤は、下記一般式(化2)で表される。
【化2】
[式中、X
1は、炭素数が1~20のアルキル基、アルケニル基、アリール基またはアラルキル基であり、その水素の一部がカルボキシル基、エステル基、アミド基、シアノ基、ケトン基、ホルミル基、エーテル基、水酸基、アミノ基、メルカプト基、スルフィド基、スルホキシド基、スルホン基、イソシアネート基、ウレイド基、エポキシ基で置換されていてもよい炭化水素基(-R)である。X
2~X
4はアセトキシ基、炭素数1~5のアルコキシ基又はアルキル基であって、X
2~X
4の少なくとも2個以上はアルコキシ基である。]
【0027】
X1の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、デシル基、オクタデシル基などのアルキル基類;ビニル基、アリル基などのアルケニル基類;フェニル基、ナフチル基、スチリル基などのアリール基類;ベンジル基、フェネチル基などのアラルキル基類などの炭化水素基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ビニルオキシ基、フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのオキシ炭化水素基あるいは水酸基を挙げることができる。さらに、置換基を有する場合の例として、3-メタクリロキシプロピル基、3-アクリロキシプロピル基などのアクリル基類;3-グリシドキシプロピル基、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基などのエポキシ基類;3-アミノプロピル基、N-フェニル-3-アミノプロピル基、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピル基などのアミノ基類;3-メルカプトプロピル基などのメルカプト基類;3-イソシアネートプロピル基などのイソシアネート基類;3-ウレイドプロピル基などのウレイド基などを挙げることができる。X2~X4の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基類;メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、デシル基、オクタデシル基などのアルキル基類;アセトキシ基を挙げることができ、X2~X4の少なくとも2個以上はアルコキシ基である。
【0028】
これらの組み合わせの中でもメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリアルコキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシランなどが好ましい。
【0029】
チタネート系カップリング剤の具体例としては、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルピロホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルピロホスフェート)オキシアセテートチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクロイルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、イソプロピルトリ(N-アミノエチルアミノエチル)チタネートなどが挙げられる。
【0030】
アルミニウム系カップリング剤の具体例としては、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムビス(エチルアセトアセテート)モノアセチルアセトネートなどが挙げられる。アルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、iso-プロパノール、n-ブタノール、アミルアルコール、4-メチル-2-ペンタノール、n-ヘプタノール、n-オクタノール、2-エチルヘキサノール、ノナノール、デカノール、トリデカノール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-ブトキシエタノール、3-メトキシブタノール、3-メチル-3-メトキシブタノール、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。
【0031】
これらのシリル化剤、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、アルコール類、各種高分子化合物などの表面修飾に用いる有機物は、単独でまたは複数の組み合わせで用いることができる。
【0032】
有機修飾コロイド粒子と共に電解液に添加されるシランカップリング剤も上記一般式(化2)で表される。無機酸化物コロイド粒子の表面を修飾する有機物とシランカップリング剤は同じものを用いてもよく、異なるものを用いてもよい。この有機修飾コロイド粒子とシランカップリング剤は、電解液のゲル化及びコロイド粒子の凝集を抑制し、有機修飾コロイド粒子の添加により向上した電解コンデンサの耐電圧を維持させる。シランカップリング剤の前記溶媒1kgに対する添加量は、0.05以上0.40mol/kg以下であることが好ましい。この範囲であると、電解液のゲル化やコロイド粒子の凝集は長期間抑制され、有機修飾コロイド粒子が長期間安定的に分散する。但し、シランカップリング剤の添加量が過大であると、ゲル化及び凝集は抑制できるものの、その効果は低下する。従って、0.40mol/kg以上を添加する場合には、電解コンデンサの他の諸特性とのバランスを考慮することが好ましい。
【0033】
凝集抑制及び耐電圧維持の理由は、このメカニズムに限られないが、次の通り推測される。まず、有機修飾コロイド粒子は、有機物で表面修飾していない無機酸化物コロイド粒子よりも分散安定性が高く、電解液のゲル化を抑制する。そのため、有機修飾コロイド粒子の添加により向上した耐電圧を長期間維持することが可能である。さらに本願では有機修飾コロイド粒子のみならず、シランカップリング剤も併せて使用する。シランカップリング剤と併用することにより、有機修飾コロイド粒子同士の間にシランカップリング剤が介在し、有機修飾コロイド粒子の凝集抑制効果をさらに高めることができる。従って、電解液に有機修飾コロイド粒子とシランカップリング剤の両方を添加することで、電解液のゲル化及びコロイド粒子の凝集が抑制され、高い耐電圧が維持される。
【0034】
また、発明者らの鋭意研究の結果、有機修飾コロイド粒子は陽極箔及び陰極箔の誘電体酸化皮膜の溶解に影響を与えるとの知見を得た。更に、有機修飾コロイド粒子とシランカップリング剤の両方を電解液に添加すれば、陽極箔及び陰極箔の誘電体酸化皮膜の溶解が抑制され、静電容量の変化が抑制されるとの知見を得た。静電容量の変化抑制の観点では、有機修飾コロイド粒子1gに対するシランカップリング剤の添加量は、0.76×10-3mol以上が好ましく、2.27×10-3mol以上であると飛躍的に高まり特に好ましい。更に、7.57×10-3mol以上であると、有機修飾コロイド粒子が添加されていない状態と同程度まで静電容量の変化を抑制できる。
【0035】
これも推測であり、このメカニズムに限られないが、溶解抑制及び静電容量の変化抑制の効果は次の理由によると考えられる。即ち、有機修飾コロイド粒子表面には水酸基が残存していると考えられる。有機修飾コロイド粒子表面の水酸基は、電解液中の水分を引き寄せる。従って、有機修飾コロイド粒子が電極箔の近傍に存在すると、有機修飾コロイド粒子表面の水酸基によって引き寄せられた水分が誘電体酸化皮膜に近づきやすく、誘電体酸化皮膜を溶解し、誘電体酸化皮膜を通過して弁作用金属に至り、弁作用金属を水和劣化させる。しかし、この電解コンデンサの誘電体酸化皮膜にはシランカップリング剤が吸着している。そのため、有機修飾コロイド粒子と電極箔との間に一定の距離を保つことができ、有機修飾コロイド粒子表面の水酸基やこれに引き寄せられた水分が電極箔に近づきにくく、水和劣化を抑制することが可能である。
【0036】
上述したとおり、本願の電解コンデンサは、電極箔にシランカップリング剤が吸着して電極箔の表面に存在することにより誘電体酸化皮膜の溶解を抑制し、さらにその電極箔に吸着したシランカップリング剤を介して有機修飾コロイド粒子が電極箔に近接することにより耐電圧が向上する。また、有機修飾コロイド粒子同士の間にシランカップリング剤が介在し、有機修飾コロイド粒子の凝集を抑制する。
【0037】
この有機修飾コロイド粒子およびシランカップリング剤とともに使用される溶媒はプロトン性の有機極性溶媒又は非プロトン性の有機極性溶媒の何れでもよい。プロトン性の有機極性溶媒として、一価アルコール類、及び多価アルコール類、オキシアルコール化合物類などが代表として挙げられる。非プロトン性の有機極性溶媒としては、スルホン系、アミド系、ラクトン類、環状アミド系、ニトリル系、オキシド系などが代表として挙げられる。
【0038】
一価アルコール類としては、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロブタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類およびオキシアルコール化合物類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メトキシプロピレングリコール、ジメトキシプロパノール等が挙げられる。スルホン系としては、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、スルホラン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホラン等が挙げられる。アミド系としては、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-エチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-エチルアセトアミド、N,N‐ジエチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリックアミド等が挙げられる。ラクトン類、環状アミド系としては、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、イソブチレンカーボネート、イソブチレンカーボネート等が挙げられる。ニトリル系としては、アセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリル、グルタロニトリル等が挙げられる。オキシド系としてはジメチルスルホキシド等が挙げられる。溶媒として、これらが単独で用いられてもよく、また2種類以上を組み合わせても良い。また、溶媒として水を含んでもよい。
【0039】
特に、エチレングリコール又はエチレングリコールを主体として他の溶媒と混合して成る溶媒を用いた場合は、この有機修飾コロイド粒子とシランカップリング剤を添加すると、ゲル化抑制及び凝集抑制の効果が非常に高く、好適な組み合わせである。
【0040】
電解液に含まれる溶質としては、通常電解コンデンサ用電解液に用いられる、有機酸、無機酸ならびに有機酸と無機酸との複合化合物の少なくとも1種の塩を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
有機酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、アジピン酸、安息香酸、トルイル酸、エナント酸、マロン酸、1,6-デカンジカルボン酸、1,7-オクタンジカルボン酸、アゼライン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸等のカルボン酸、フェノール類、スルホン酸が挙げられる。また、無機酸としては、ホウ酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、炭酸、ケイ酸等が挙げられる。有機酸と無機酸の複合化合物としては、ボロジサリチル酸、ボロジ蓚酸、ボロジグリコール酸等が挙げられる。
【0042】
また、有機酸、無機酸、ならびに有機酸と無機酸の複合化合物の少なくとも1種の塩として、アンモニウム塩、四級アンモニウム塩、四級化アミジニウム塩、アミン塩、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。四級アンモニウム塩の四級アンモニウムイオンとしてはテトラメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム等が挙げられる。四級化アミジニウムとしては、エチルジメチルイミダゾリニウム、テトラメチルイミダゾリニウムなどが挙げられる。アミン塩のアミンとしては、一級アミン、二級アミン、三級アミンが挙げられる。一級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミンなど、二級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、エチルメチルアミン、ジブチルアミンなど、三級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、エチルジメチルアミン、エチルジイソプロピルアミン等が挙げられる。
【0043】
特に、アンモニウム塩、アミン塩が好ましい。アンモニウム塩は、電解液の比抵抗が低くなるため、電解コンデンサの低ESR化が可能である。アミン塩を用いると、アミン塩による水和抑制効果が得られるため、電解コンデンサの長寿命化につながる。さらにアミン塩のなかでも、耐電圧と比抵抗とのバランスに優れる二級アミンが特に好ましい。
【0044】
また、電解液には他の添加剤として、有機修飾コロイド粒子、シリル化剤又はシランカップリング剤以外のものをさらに添加してもよい。例えば、ポリアルキレンポリオール、ホウ酸、ホウ酸と多糖類(マンニット、ソルビットなど)との錯化合物、ホウ酸と多価アルコール(エチレングリコール、マンニトール、ソルビトール)との錯化合物、ホウ酸エステルなどのホウ酸化合物、ニトロ化合物(o-ニトロ安息香酸、m-ニトロ安息香酸、p-ニトロ安息香酸、o-ニトロフェノール、m-ニトロフェノール、p-ニトロフェノール、m-ニトロアセトフェノン、p-ニトロベンジルアルコールなど)、リン酸、リン酸エステルなどのリン化合物が挙げられる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0046】
(ゲル化の評価1)
下記表1の通り、比較例1乃至3及び実施例1乃至7の電解液を作製した。
(表1)
【0047】
電解液の溶媒はエチレングリコールと水の混合液とし、溶質はアゼライン酸アンモニウムとし、添加剤としてp-ニトロベンジルアルコールを添加した。比較例1の電解液の組成は以上の通りであるが、比較例2の電解液には、無機酸化物コロイド粒子であるシリカを更に添加した。比較例3及び実施例1乃至7の電解液には、有機修飾コロイド粒子として有機修飾シリカを添加した。この有機修飾シリカは、シリカの表面を3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランにて修飾したものである。更に実施例1乃至7の電解液には、シランカップリング剤として3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン(信越シリコーン製 KBM-402)を添加した。各組成比は重量%で表1に示す通りである。また、溶媒1kgに対するシランカップリング剤の添加量および有機修飾シリカ1gに対するシランカップリング剤の添加量についても表1に記載した。ここで、溶媒とはエチレングリコールと水の総量である。
【0048】
作製した電解液の比抵抗も表1に示す。比抵抗は30℃で測定を行った。
【0049】
この比較例1乃至比較例3及び実施例1乃至7の電解液についてゲル化の状況を確認する放置試験を行った。その結果も表1に示す。放置試験では、各電解液がゲル化するまでの時間を計測した。各電解液をアンプル管に入れ、125℃で保持し、最大2300時間の間、各測定時間においてゲル化しているか目視にて確認した。電解液を収容したアンプル管を傾けても内容物に流動性がない状態をゲル化とした。表1に記載の時間は、ゲル化したことを確認した時間を記載しており、ゲル化した時間ではなく、またハイフン(-)印は2300時間経過でゲル化が観察されなかった場合に記している。
【0050】
更に各電解液をコンデンサ素子に含浸させた後、有底筒状の外装ケースに収納し、封口ゴムで封止した。陽極箔は、アルミニウム箔をエッチング処理により拡面化され、次いで化成処理により誘電体酸化皮膜層が形成される。また、アルミニウム箔をエッチング処理により拡面化し、アルミニウム製の陰極箔を作製した。作製した陽極箔および陰極箔に電極引き出し手段を接続し、セルロース系セパレータを介在させて巻回することで、コンデンサ素子を作製した。これによって、コンデンサ素子寸法が径10mm及び長さ25mmの巻回型の電解コンデンサが得られた。この比較例1乃至3及び実施例1乃至7の電解コンデンサに対して耐電圧試験を行った。その結果も表1に示す。耐電圧試験では、125℃で耐圧を測定した。
【0051】
表1に示すように、主溶媒がエチレングリコールであると、シリカを添加した比較例2の電解液は2時間でゲル化してしまった。比較例3の電解液は、主溶媒がエチレングリコールであり、有機修飾シリカが添加されており、比較例2と比べてゲル化の時間は長くなったが、それでも250時間でゲル化してしまった。
【0052】
一方、表1に示すように、主溶媒がエチレングリコールであっても、有機修飾シリカとシランカップリング剤が添加された実施例1乃至7の電解液は、ゲル化に到る時間が長時間化した。特に、シランカップリング剤の添加量を溶媒に対して0.40mol/kg以下に抑えた実施例1乃至4及び実施例6の電解液は、2300時間の観察中、ゲル化に到ることがなかった。即ち、有機修飾シリカとシランカップリング剤が添加された電解液は、ゲル化が抑制されていることが確認され、特にシランカップリング剤が溶媒の総量に対して0.40mol/kg以下であると、ゲル化は飛躍的に抑制できることが確認された。
【0053】
次に表1に示すように、主溶媒がエチレングリコールであっても、有機修飾シリカが添加されている場合には、電解コンデンサの耐電圧が向上することが確認された。従って、電解液に有機修飾シリカを添加することにより耐電圧が向上し、さらにシランカップリング剤を添加することで、電解液のゲル化を抑制することが確認された。
【0054】
(ゲル化の評価2)
下記表2の通り、比較例4乃至7及び実施例8乃至9の電解液を作製した。表1と同様に、ゲル化の状況を確認する放置試験および125℃で測定した耐電圧の結果も示す。
【0055】
【0056】
比較例4、比較例5、実施例8は、溶質としてアゼライン酸ジエチルアミンを用いたこと以外は各々比較例1、比較例3、実施例1と同様とした。比較例6、比較例7、実施例9は、溶質としてアゼライン酸トリエチルアミンを用いたこと以外は各々比較例1、比較例3、実施例1と同様とした。
【0057】
表2の結果より、溶質の塩基成分としてジエチルアミン又はトリエチルアミンを用いた場合にも、有機修飾シリカとシランカップリング剤が添加された実施例8乃至9の電解液はゲル化に到る時間が長時間化した。また、有機修飾シリカが添加されることにより、電解コンデンサの耐電圧が向上することも確認された。
【0058】
実施例1および実施例8乃至9の比抵抗を比較すると、実施例1が最も小さいことが確認された。塩基成分としてアンモニアを用いることにより、比抵抗が小さくなり、その結果、電解コンデンサのESRが小さくなると予測される。
【0059】
実施例1および実施例8乃至9の耐電圧を比較すると、実施例1が最も耐電圧が高く、塩基成分としてアンモニアを用いることにより耐電圧が高くなることが確認された。また、実施例8および実施例9は、耐電圧は同等であるが、比抵抗は実施例8のほうが小さいことが確認された。このことから、アミン塩のなかでも二級アミンであるジエチルアミンは、耐電圧と比抵抗とのバランスに優れることがわかる。
【0060】
(ゲル化の評価3)
下記表3の通り、実施例10乃至12の電解液を作製した。表1と同様に、ゲル化の状況を確認する放置試験および125℃で測定した耐電圧の結果も示す。
【0061】
【0062】
実施例10乃至12は有機修飾シリカ1gに対するシランカップリング剤の添加量を実施例2と同等とし、シランカップリング剤の種類を変更した。実施例10は3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン製 KBM-403)、実施例11は2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(信越シリコーン製 KBM-303)、実施例12はN-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン(信越シリコーン製 KBM-602)を用いた。
【0063】
実施例10乃至実施例12より、シランカップリング剤を変更しても、耐電圧が良好であり、電解液がゲル化しなかったことが確認された。実施例2および実施例10乃至12の比抵抗と耐電圧とのバランスから考慮すると、シランカップリング剤として3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランが好ましく、特に3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランが好ましいことが確認された。
【0064】
(静電容量の評価)
まず、比較例1、比較例3及び実施例1の電解コンデンサを150℃の高温環境下で300時間の間、無負荷で放置した。これら電解コンデンサを分解し、陰極箔及び陽極箔を水で洗浄し、各々の誘電体酸化皮膜の耐電圧測定を行った。その結果を
図1及び
図2に示す。
図1は縦軸が誘電体酸化皮膜の耐電圧(V vs.Pt)であり、
図2は縦軸が誘電体酸化皮膜の耐電圧(V)であり、両図とも横軸は時間であり、
図1は陰極箔の結果、
図2は陽極箔の結果を示す。
【0065】
図1に示すように、比較例3の陰極箔に比べて実施例3の陰極箔は立ち上がり電圧が高い。ここで、有機修飾シリカおよびシランカップリング剤を含まない比較例1は0.1Vvs.Pt程度の立ち上がり電圧を示しているが、有機修飾シリカのみを含む比較例3は立ち上がり電圧が-0.5Vvs.Pt程度まで下がり、比較例1に比べ0.6V程度の誘電体酸化皮膜の溶解が見られる。一方、実施例3は-0.35Vvs.Ptと、比較例3に比べ皮膜耐圧があり、誘電体酸化皮膜の溶解が抑制されていることがわかった。
【0066】
また、
図2に示すように、実施例3の陽極箔に比べて比較例3の陽極箔は電圧上昇が緩やかであり、実施例3の陽極箔は比較例1の陽極箔と同じような挙動を示した。この理由としては、有機修飾シリカのみを含む比較例3の陽極箔は誘電体酸化皮膜が溶解され、電圧上昇が緩やかになったと考えられる。一方、有機修飾シリカとシランカップリング剤が添加された実施例3の陽極箔は誘電体酸化皮膜の溶解が抑制され、有機修飾シリカとシランカップリング剤を含まない比較例1の陽極箔と同じような挙動を示したと考えられる。
【0067】
誘電体酸化皮膜層の溶解を裏付けるべく、比較例1、比較例3及び実施例3の電解コンデンサの漏れ電流(LC)を測定した。漏れ電流は、電解コンデンサを作製した初期の段階と、150℃、300時間及び無負荷で放置した高温試験後に測定された。印加電圧は200Vとし、30秒後の漏れ電流値を測定した。その結果を下表4に示す。
【0068】
【0069】
表4に示すように、比較例1、比較例3及び実施例3の電解コンデンサの初期の漏れ電流は全て同等であった。しかし、高温試験後の漏れ電流は比較例3が最も大きかった。これは、高温試験により比較例3の陽極箔の誘電体酸化皮膜が溶解したために、漏れ電流が大きくなったと考えられる。一方、実施例3の高温試験後の漏れ電流は、比較例3の約半分程度に抑えられており、有機修飾シリカとシランカップリング剤を用いることで誘電体酸化皮膜の溶解が抑制されていることが確認された。
【0070】
また、比較例1、比較例3及び実施例3の電解コンデンサを150℃の高温環境下で300時間の間、無負荷で放置した。これら電解コンデンサを分解し、水で洗浄した陽極箔の表面状態を、走査型電子顕微鏡(以下SEMと称する。JSM-7800FPrime、日本電子株式会社製)により5,000倍にて観察した。そのSEM観察において撮影した写真を
図3に示す。
図3の(a)は比較例1の写真であり、(b)は比較例3の写真であり、(c)は実施例3の写真である。
【0071】
図3に示すように、比較例3の陽極箔は、エッチングピットが見えなくなった部分が多くなっている。一方、実施例3の陽極箔は、比較例1の陽極箔の表面状態に近く、エッチングピットが鮮明に残っている。この結果は、比較例3の陽極箔の誘電体酸化皮膜層の溶解や誘電体酸化皮膜へ何らかの物質が堆積したことを示している。
【0072】
誘電体酸化皮膜層の溶解及び物質の堆積を更に裏付けるべく、SEM観察を行った比較例1、比較例3及び実施例3の陽極箔の表面の元素分析を行った。元素分析はエネルギー分散型X線分光器(EDS)にて行った。その結果を表5に示す。表5において各数値は、各元素の存在比率(質量%)を示す。
【0073】
【0074】
表5に示すように、比較例1及び実施例3の陽極箔表面のケイ素の検出量は微量であったに対し、比較例3の陽極箔はケイ素が多量に検出された。即ち、有機修飾シリカのみを電解液に添加すると、ケイ素化合物が陽極箔の表面に付着していることが確認された。以上により、有機修飾コロイド粒子は陽極箔に何らかの影響を及ぼすのに対し、有機修飾シリカおよびシランカップリング剤を併用することにより、陽極箔の誘電体酸化皮膜へ有機修飾シリカが影響することを抑制し、陽極箔の表面状態の変化を抑制していることが見出された。
【0075】
有機修飾コロイド粒子が誘電体酸化皮膜の溶解に影響を与えることが確認されたことを踏まえ、次に、比較例1、比較例3及び実施例1乃至7の電解コンデンサの初期の静電容量(Cap)を測定後、150℃の温度環境下で無負荷放置し、各時間経過後に静電容量を測定して静電容量の時間変化を算出した。静電容量の時間変化を表6、
図4に示す。表6は、初期の静電容量に対する各時間経過後の変化率(ΔCap(%))を示す表であり、
図4は、各々、縦軸がΔCapで横軸が時間のグラフである。尚、ΔCapは、下記式1で算出した。式1中、時間経過後の静電容量とは、110時間経過後、200時間経過後及び300時間経過後の静電容量である。
(式1)
【0076】
【0077】
表6、
図4に示すように、有機修飾シリカのみを添加した比較例3の電解コンデンサは、有機修飾シリカ及びシランカップリング剤を添加していない比較例1の電解コンデンサと比して、静電容量の変化が大きかった。しかし、シランカップリング剤も加えた実施例1乃至7の電解コンデンサは、比較例3と比して、静電容量の変化が抑制されている。
【0078】
また、有機修飾シリカ1gに対するシランカップリング剤の添加量が0.76×10-3molである実施例1に比べて、同添加量が2.27×10-3molである実施例2は、ΔCapが約66%程度(表5中300h後の数値により計算)に抑えられており、同添加量が大きくなるほど抑制効果は上がっている。そして、有機修飾シリカ1gに対するシランカップリング剤の添加量が7.57×10-3molである実施例5の電解コンデンサは、比較例1と同等程度まで静電容量の変化が抑えられている。
【0079】
これにより、有機修飾コロイド粒子とシランカップリング剤の両方を添加すると、静電容量の変化を抑制できることが確認された。有機修飾コロイド粒子1gに対するシランカップリング剤の添加量が0.76×10-3mol以上であると静電容量の変化を抑制でき、2.27×10-3mol以上であると、静電容量の変化が飛躍的に抑えられ、そして、有機修飾コロイド粒子1gに対するシランカップリング剤の添加量が7.57×10-3mol以上であると、有機修飾コロイド粒子を添加していない場合と同程度にまで静電容量の変化を抑制できることが確認された。
【0080】
次に、比較例4乃至7及び実施例8乃至9の電解コンデンサの初期の静電容量(Cap)を測定後、150℃の温度環境下で無負荷放置し、各時間経過後に静電容量を測定して静電容量の時間変化を算出した。静電容量の時間変化を表7、
図5に示す。表7は、初期の静電容量に対する各時間経過後の変化率(ΔCap(%))を示す表であり、
図5は、各々、縦軸がΔCapで横軸が時間のグラフである。尚、ΔCapは、下記式2で算出した。式2中、時間経過後の静電容量とは、110時間経過後、200時間経過後及び300時間経過後の静電容量である。
(式2)
【0081】
【0082】
表7より、溶質の塩基成分としてジエチルアミンやトリエチルアミンを用いた場合であっても、有機修飾シリカとシランカップリング剤を併用した実施例8乃至9は、実施例1と同様に静電容量の変化を抑制していることが確認された。また、実施例1および実施例8乃至9を対比すると、300時間後のΔCapの値が、実施例1は24.7%、実施例8は4.3%、実施例9は4.3%であった。この結果より、溶質としてアンモニウム塩を用いるよりも、ジエチルアミン塩やトリエチルアミン塩などのアミン塩を用いたほうが静電容量の変化率は小さく、寿命特性が良好であることがわかった。