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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】積層型コイル部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/04 20060101AFI20231114BHJP
   H01F 17/00 20060101ALI20231114BHJP
   H01F 27/29 20060101ALI20231114BHJP
   H01F 1/34 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
H01F17/04 F
H01F17/00 D
H01F27/29 123
H01F1/34 140
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021098892
(22)【出願日】2021-06-14
(65)【公開番号】P2022190526
(43)【公開日】2022-12-26
【審査請求日】2023-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】比留川 敦夫
(72)【発明者】
【氏名】越路 健二郎
(72)【発明者】
【氏名】高井 駿
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-123616(JP,A)
【文献】特開2020-194811(JP,A)
【文献】特開2018-165397(JP,A)
【文献】特開2017-149610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/12- 1/38
H01F 1/44- 3/14
H01F 17/00-21/12
H01F 27/00
H01F 27/02
H01F 27/06
H01F 27/08
H01F 27/23-27/26
H01F 27/28-27/29
H01F 27/30
H01F 27/32
H01F 27/36
H01F 27/42
H01F 30/00-38/12
H01F 38/16
H01F 38/42-41/04
H01F 41/08
H01F 41/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の絶縁層が積層方向に積層されてなり内部にコイルが設けられた積層体と、前記積層体の表面に設けられて前記コイルに電気的に接続された外部電極とを有し、
前記積層体は、長さ方向に相対する第1端面及び第2端面と、前記長さ方向に直交する高さ方向に相対する第1主面及び第2主面と、前記長さ方向及び前記高さ方向に直交する幅方向に相対する第1側面及び第2側面と、を有し、
前記外部電極は、前記積層体の前記第1端面の少なくとも一部から前記第1主面の一部にわたって延在する第1外部電極と、前記積層体の前記第2端面の少なくとも一部から前記第1主面の一部にわたって延在する第2外部電極とを有し、
前記積層体の積層方向及び前記コイルのコイル軸が前記第1主面に平行であり、
前記絶縁層は、少なくともFe、Ni、Zn及びCuを含むスピネル構造の磁性相と、少なくともSiを含む非磁性相とを有しており、
前記磁性相を構成する結晶粒子の粒子径D50及びD90を、前記結晶粒子の面積円相当径の累積分布において個数基準でそれぞれ累積50%及び90%となる面積円相当径とすると、
前記粒子径D50は、50nm以上、750nm以下であり、
前記粒子径D90は、200nm以上、1500nm以下であることを特徴とする積層型コイル部品。
【請求項2】
Cu-Kα1線を用いたX線回折により得られる前記磁性相の(642)面に起因する回折ピークの半値幅は、0.2°以上、0.5°以下である請求項1に記載の積層型コイル部品。
【請求項3】
前記絶縁層は、
BをBに換算して2重量%以上11重量%以下、
SiをSiOに換算して18重量%以上66重量%以下、
FeをFeに換算して13重量%以上52重量%以下、
NiをNiOに換算して1重量%以上7重量%以下、
ZnをZnOに換算して4重量%以上16重量%以下、
CuをCuOに換算して1重量%以上5重量%以下、含有する請求項1又は2に記載の積層型コイル部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層型コイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数の絶縁層が積層されてなり、内部にコイルを内蔵する積層体と、外部電極とを備える積層型コイル部品が開示されている。
この積層型コイル部品は、高周波特性に優れるものとされており、40GHz、50GHzでの透過係数S21が特定の値以上であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-186255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年の電気機器の通信速度の高速化、及び、通信容量の大容量化に応じて、積層型コイル部品にはさらなる高周波帯(例えば、60GHz以上のGHz帯)での高周波特性が充分であることが求められている。
特許文献1に記載された積層型コイル部品は、その絶縁層の材料としてフェライト材料を使用している。フェライト材料は比誘電率が15程度と高いために、フェライト材料を使用した積層型コイル部品は周波数60GHz付近の領域での損失が大きく、さらなる高周波特性の改良が望まれていた。
【0005】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、優れた高周波特性を有する積層型コイル部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の積層型コイル部品は、複数の絶縁層が積層方向に積層されてなり内部にコイルが設けられた積層体と、上記積層体の表面に設けられて上記コイルに電気的に接続された外部電極とを有し、上記積層体は、長さ方向に相対する第1端面及び第2端面と、上記長さ方向に直交する高さ方向に相対する第1主面及び第2主面と、上記長さ方向及び上記高さ方向に直交する幅方向に相対する第1側面及び第2側面と、を有し、上記外部電極は、上記積層体の上記第1端面の少なくとも一部から上記第1主面の一部にわたって延在する第1外部電極と、上記積層体の上記第2端面の少なくとも一部から上記第1主面の一部にわたって延在する第2外部電極とを有し、上記積層体の積層方向及び上記コイルのコイル軸が上記第1主面に平行であり、上記絶縁層は、少なくともFe、Ni、Zn及びCuを含むスピネル構造の磁性相と、少なくともSiを含む非磁性相とを有しており、上記磁性相を構成する結晶粒子の粒子径D50及びD90を、上記結晶粒子の面積円相当径の累積分布において個数基準でそれぞれ累積50%及び90%となる面積円相当径とすると、上記粒子径D50は、50nm以上、750nm以下であり、上記粒子径D90は、200nm以上、1500nm以下であることを特徴とする積層型コイル部品。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、優れた高周波特性を有する積層型コイル部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の積層型コイル部品の一例を模式的に示す斜視図である。
図2図2は、本発明の積層型コイル部品の一例を模式的に示す断面図である。
図3図3は、図2に示す積層型コイル部品を構成する絶縁層の様子を模式的に示す分解斜視模式図である。
図4図4は、図2に示す積層型コイル部品を構成する絶縁層の様子を模式的に示す分解平面模式図である。
図5図5は、実施例4及び比較例2で作製した試料のX線回析パターンを示す。
図6図6は、透過係数S21を測定する方法を模式的に示す図である。
図7図7は、実施例1、4、6及び比較例2で作製した試料の透過係数S21を示すグラフである。
図8図8は、磁性相と非磁性相の合計体積に対する磁性相の体積比率が異なる試料の比誘電率の実測値と理論値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の積層型コイル部品について説明する。
しかしながら、本発明は、以下の構成及び態様に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい構成及び態様を2つ以上組み合わせたものもまた本発明である。
【0010】
図1は、本発明の積層型コイル部品の一例を模式的に示す斜視図である。
図1に示す積層型コイル部品1は、積層体10と第1外部電極21と第2外部電極22とを備えている。積層体10は、6面を有する略直方体形状である。積層体10の構成については後述するが、複数の絶縁層が積層方向に積層されてなり、内部にコイルが設けられている。第1外部電極21及び第2外部電極22は、それぞれ、コイルに電気的に接続されている。
【0011】
本明細書における積層型コイル部品及び積層体では、長さ方向、高さ方向、幅方向を、図1におけるx方向、y方向、z方向とする。ここで、長さ方向(x方向)と高さ方向(y方向)と幅方向(z方向)は互いに直交する。
長さ方向(x方向)は積層方向と平行な方向である。
【0012】
図1に示すように、積層体10は、長さ方向(x方向)に相対する第1端面11及び第2端面12と、長さ方向に直交する高さ方向(y方向)に相対する第1主面13及び第2主面14と、長さ方向及び高さ方向に直交する幅方向(z方向)に相対する第1側面15及び第2側面16とを有する。
【0013】
図1には示されていないが、積層体10は、角部及び稜線部に丸みが付けられていることが好ましい。角部は、積層体の3面が交わる部分であり、稜線部は、積層体の2面が交わる部分である。
【0014】
第1外部電極及び第2外部電極は、積層体の端面の少なくとも一部から積層体の主面にわたって延在する外部電極である。
図1に示す積層型コイル部品1では、第1外部電極21は、積層体10の第1端面11の一部を覆い、かつ、第1端面11から延伸して第1主面13の一部を覆って配置されている。
第1外部電極21は、第1端面11のうち、第1主面13と交わる稜線部を含む領域を覆っている。
【0015】
なお、図1では、積層体10の第1端面11を覆う部分の第1外部電極21の高さは一定であるが、積層体10の第1端面11の一部を覆う限り、第1外部電極21の形状は特に限定されない。例えば、積層体10の第1端面11において、第1外部電極21は、端部から中央部に向かって高くなる山なり形状であってもよい。また、積層体10の第1主面13を覆う部分の第1外部電極21の長さは一定であるが、積層体10の第1主面13の一部を覆う限り、第1外部電極21の形状は特に限定されない。例えば、積層体10の第1主面13において、第1外部電極21は、端部から中央部に向かって長くなる山なり形状であってもよい。
【0016】
図1に示すように、第1外部電極21は、さらに、第1端面11及び第1主面13から延伸して、第1側面15の一部及び第2側面16の一部を覆って配置されていてもよい。この場合、第1側面15及び第2側面16を覆う部分の第1外部電極21は、いずれも、第1端面11と交わる稜線部及び第1主面13と交わる稜線部に対して斜めに形成されていることが好ましい。なお、第1外部電極21は、第1側面15の一部及び第2側面16の一部を覆って配置されていなくてもよい。
【0017】
図1に示す積層型コイル部品1では、第2外部電極22は、積層体10の第2端面12の一部を覆い、かつ、第2端面12から延伸して第1主面13の一部を覆って配置されている。
第1外部電極21と同様、第2外部電極22は、第2端面12のうち、第1主面13と交わる稜線部を含む領域を覆っている。
【0018】
第1外部電極21と同様、積層体10の第2端面12の一部を覆う限り、第2外部電極22の形状は特に限定されない。例えば、積層体10の第2端面12において、第2外部電極22は、端部から中央部に向かって高くなる山なり形状であってもよい。また、積層体10の第1主面13の一部を覆う限り、第2外部電極22の形状は特に限定されない。例えば、積層体10の第1主面13において、第2外部電極22は、端部から中央部に向かって長くなる山なり形状であってもよい。
【0019】
第1外部電極21と同様、第2外部電極22は、さらに、第2端面12及び第1主面13から延伸して、第1側面15の一部及び第2側面16の一部を覆って配置されていてもよい。この場合、第1側面15及び第2側面16を覆う部分の第2外部電極22は、いずれも、第2端面12と交わる稜線部及び第1主面13と交わる稜線部に対して斜めに形成されていることが好ましい。なお、第2外部電極22は、第1側面15の一部及び第2側面16の一部を覆って配置されていなくてもよい。
【0020】
以上のように第1外部電極21及び第2外部電極22が配置されているため、積層型コイル部品1を基板上に実装する場合には、積層体10の第1主面13が実装面となる。
【0021】
また、図1に示す形態とは異なり、第1外部電極が、積層体の第1端面の全部を覆い、かつ、第1端面から延伸して第1主面の一部、第2主面の一部、第1側面の一部、及び、第2側面の一部を覆っていてもよい。
また、第2外部電極が、積層体の第2端面の全部を覆い、かつ、第2端面から延伸して第1主面の一部、第2主面の一部、第1側面の一部、及び、第2側面の一部を覆っていてもよい。
この場合、積層体の第1主面、第2主面、第1側面及び第2側面のいずれかが実装面となる。
【0022】
本発明の積層型コイル部品のサイズは特に限定されないが、0603サイズ、0402サイズ又は1005サイズであることが好ましい。
【0023】
絶縁層は、少なくともFe、Ni、Zn及びCuを含むスピネル構造の磁性相と、少なくともSiを含む非磁性相とを有する。
積層型コイル部品を構成する絶縁層に、少なくともSiを含む非磁性相が含まれることによって、絶縁層の誘電率を低下させることができる。絶縁層の誘電率が低下することによって、積層型コイル部品のLC共振に起因する損失が小さくなる。具体的には、LC共振に起因する透過係数S21の落ち込みが高周波方向へシフトし、例えば周波数60GHzまでの領域での透過係数S21を良好なものとすることができる。そのため、本発明の積層型コイル部品は、優れた高周波特性を有する積層型コイル部品となる。
【0024】
また、積層型コイル部品を構成する絶縁層に、少なくともSiを含む非磁性相が含まれることによって、積層体の焼成段階において、磁性材料の粒成長(ネッキング)が非磁性材料によって阻害され、磁性相を構成する結晶粒子の粒子径が小さくなる。磁性相を構成する結晶粒子の粒子径が小さくなることによって、絶縁層の比誘電率は、磁性相及び非磁性相の体積割合から算出される理論的な比誘電率に比べてより低下すると考えられる。すなわち、磁性相を構成する結晶粒子の粒子径が小さいこともまた、積層型コイル部品の高周波特性の向上に寄与すると考えられる。
【0025】
より具体的には、磁性相を構成する結晶粒子の粒子径D50及びD90を、結晶粒子の面積円相当径の累積分布において個数基準でそれぞれ累積50%及び90%となる面積円相当径とすると、本発明の積層型コイル部品では、粒子径D50は、50nm以上、750nm以下であり、粒子径D90は、200nm以上、1500nm以下である。
磁性相を構成する結晶粒子の粒子径D50及びD90が上記範囲を満たす場合、優れた高周波特性を実現することができ、例えば周波数60GHzまでの領域での透過係数S21を良好なものとすることができる。
【0026】
磁性相を構成する結晶粒子の粒子径D50が50nm未満であると、積層体の強度が低下することがある。
同様に、磁性相を構成する結晶粒子の粒子径D90が200nm未満であると、積層体の強度が低下することがある。
磁性相を構成する結晶粒子の粒子径D50が750nmを超えると、例えば周波数60GHzまでの領域での透過係数S21が不充分なものとなることがある。
同様に、磁性相を構成する結晶粒子の粒子径D90が1500nmを超えると、例えば周波数60GHzまでの領域での透過係数S21が不充分なものとなることがある。
【0027】
粒子径D50は、80nm以上、400nm以下であることが好ましく、150nm以上、300nm以下であることがより好ましい。
粒子径D90は、250nm以上、700nm以下であることが好ましく、350nm以上、550nm以下であることがより好ましい。
【0028】
粒子径D50と粒子径D90の差(D90-D50)は特に限定されないが、100nm以上、800nm以下であることが好ましく、150nm以上、300nm以下であることがより好ましく、200nm以上、250nm以下であることがさらに好ましい。
両者の差が小さいほど絶縁層の誘電率をより低下させることができる。
【0029】
透過係数S21は、入力信号に対する透過信号の電力の比から求められる。透過係数S21は、基本的に無次元量であるが、通常、常用対数をとってdB単位で表される。
周波数毎の透過係数S21は、ネットワークアナライザを用いて、積層型コイル部品への入力信号と透過信号の電力を測定することにより求められる。周波数を変化させて透過係数S21を求めることにより、周波数毎の透過係数S21を求めることができる。
透過係数S21の測定装置の具体例については、実施例の項目で説明する。
【0030】
上述のように絶縁層の比誘電率を理論的な比誘電率に比べて低下させる観点からは、磁性相を構成する結晶粒子に含まれる結晶子も小さいことが好ましい。
ここで、結晶子のサイズ(結晶子径)は、X線回折による回折ピークの幅からScherrerの式に基づいて算出でき、回折ピークがよりブロードになるほど当該結晶粒子を構成する結晶子のサイズ(結晶子径)はより小さくなる。
したがって、絶縁層の比誘電率を低下させて優れた高周波特性を実現する観点からは、磁性相の回折ピークの半値幅は大きいことが好ましい。
【0031】
より具体的には、Cu-Kα1線を用いたX線回折により得られる磁性相の(642)面、すなわち上記スピネル構造の(642)面に起因する回折ピークの半値幅は、0.2°以上、0.5°以下であることが好ましい。
磁性相の(642)面に起因する回折ピークの半値幅が0.2°以上、0.5°以下であると、少なくともFe、Ni、Zn及びCuを含むスピネル構造の磁性相のみから絶縁層が構成される場合に比べて、磁性相を構成する結晶粒子に含まれる結晶子をより小さくすることができ、絶縁層の比誘電率を理論的な比誘電率に比べて低下させることができると考えられる。
【0032】
磁性相の(642)面に起因する回折ピークの半値幅が0.2°未満であると、例えば周波数60GHzまでの領域での透過係数S21が不充分なものとなることがある。
磁性相の(642)面に起因する回折ピークの半値幅が0.5°を超えると、積層体の強度が低下したり、透磁率が低下し、その結果透過係数S21が不十分なものになることがある。
【0033】
磁性相の(642)面に起因する回折ピークの半値幅は、0.3°以上、0.45°以下であることが好ましく、0.35°以上、0.40°以下であることがより好ましい。
【0034】
磁性相は、スピネル構造をもつ磁性材料を有する相であり、磁性相は、少なくともFe、Ni、Zn及びCuを含む。磁性相は、スピネル構造をもつ磁性材料のみからなる相であってもよい。
磁性相は、Co、Bi、Sn、Mn等をさらに含んでいてもよい。
【0035】
スピネル構造をもつ磁性材料は、Ni-Cu-Zn系フェライト材料であることが好ましく、磁性相は、Ni-Cu-Zn系フェライト材料で構成されることが好ましい。磁性相がNi-Cu-Zn系フェライト材料で構成されることにより、積層型コイル部品のインダクタンスが高まる。
【0036】
Ni-Cu-Zn系フェライト材料は、Co、Bi、Sn、Mn等の添加物や、不可避不純物をさらに含んでいてもよい。
【0037】
また、磁性相は、元素分析した場合にFe、Ni、Zn及びCuを含む相である。また、磁性相は、元素分析した場合にCo、Bi、Sn、Mn等をさらに含む相であってもよい。
【0038】
磁性相は、Fe換算で40mol%以上、49.5mol%以下のFeと、ZnO換算で2mol%以上、35mol%以下のZnと、CuO換算で6mol%以上、13mol%以下のCuと、NiO換算で10mol%以上、45mol%以下のNiと、を含むことが好ましい。
【0039】
非磁性相は、非磁性材料を有する相であり、少なくともSiを含む。非磁性相は、非磁性材料のみからなる相であってもよい。
非磁性相を構成する非磁性材料としては、ガラス材料、フォルステライト(2MgO・SiO)、ウィルマイト[aZnO・SiO(aは、1.8以上、2.2以下)]等が挙げられる。
なお、本明細書において、「少なくともSiを含む非磁性相」とは、Siを含む相のみから構成されていてもよいし、Siを含む相と、Siを含まない相とから構成されていてもよい。Siを含まない相としては、例えばSiを含まない結晶相等が挙げられる。
【0040】
非磁性相は、ガラス材料を含むことが好ましい。非磁性相がガラス材料を含むと、積層体の焼成段階において磁性材料の粒成長(ネッキング)を効果的に阻害し、磁性相を構成する結晶粒子の粒子径を小さくすることができる。
【0041】
ガラス材料としては、ホウケイ酸ガラスが好ましい。
ホウケイ酸ガラスは、SiをSiOに換算して70重量%以上、85重量%以下、BをBに換算して10重量%以上、25重量%以下、アルカリ金属AをAOに換算して0.5重量%以上、5重量%以下、AlをAlに換算して0重量%以上、5重量%以下の割合で含むことが好ましい。アルカリ金属AとしてはK、Na等が挙げられる。
【0042】
非磁性相は、フィラーとして、フォルステライト(2MgO・SiO)、石英(SiO)等をさらに含んでいてもよい。
【0043】
磁性相及び非磁性相については、以下のようにして区別することができる。まず、積層型コイル部品の積層体に対して、積層方向に沿う断面を研磨により露出させた後、走査型透過電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析(STEM-EDX)で元素マッピングを行う。そして、Fe元素、Ni元素、Zn元素及びCu元素が存在する領域を磁性相、磁性相以外の領域を非磁性相として、両相を区別する。
なお、積層方向に沿う断面は、後述する図2に示すような断面である。
【0044】
非磁性相を構成する非磁性材料は、磁性相を構成する磁性材料よりも誘電率が低いことが好ましい。
磁性材料の比誘電率は、例えば14.0以上、15.5以下であってもよい。
非磁性材料の比誘電率は、磁性材料の比誘電率より低いことが好ましく、例えば7.0以下であることが好ましく、5.0以下であることがより好ましい。非磁性材料の比誘電率の下限は特に限定されないが、例えば3.5以上であってもよい。
【0045】
磁性材料の比誘電率、及び、非磁性材料の比誘電率を特定するためには、上記の元素マッピングにより磁性相を構成する磁性材料の構造式を特定し、非磁性相を構成する非磁性材料の構造式を特定する。そして、公知のデータベースから、当該構造式となる化合物の比誘電率を求める。この手順により磁性材料の比誘電率及び非磁性材料の比誘電率をそれぞれ特定することができる。
また、磁性材料を所定の形状に成形した誘電率測定用試料を作製し、これに電極を形成した後所定の条件で比誘電率を測定してもよい。同様に、非磁性材料を所定の形状に成形した誘電率測定用試料を作製して非磁性材料の比誘電率を測定してもよい。
【0046】
磁性相及び非磁性相の合計体積に対する非磁性相の体積割合は、50体積%以上、90体積%以下であることが好ましく、60体積%以上、90体積%以下であることがより好ましく、70体積%以上、90体積%以下であることがさらに好ましい。
【0047】
磁性相及び非磁性相の合計体積に対する非磁性相の体積割合は、以下のようにして定められる。まず、積層型コイル部品を構成する積層体に対して、積層方向に対して直交方向における中央部まで研磨を施すことにより、積層方向に沿う断面を露出させる。
次に、露出した断面の中央付近において50μm角の領域を3箇所抽出した後、走査型透過電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析で元素マッピングを行うことにより、上述したように磁性相と非磁性相とを区別する。そして、上述した3箇所の各領域について、得られた元素マッピング画像から、磁性相及び非磁性相の合計面積に対する非磁性相の面積割合を、画像解析ソフトにより測定する。その後、これらの面積割合の測定値から平均値を算出し、この平均値を、磁性相及び非磁性相の合計体積に対する非磁性相の体積割合とする。
【0048】
また、非磁性相の合計体積に対するフォルステライトの体積割合が2体積%以上、8体積%以下であることが好ましい。
フォルステライトに含まれる元素であるMg元素が存在する領域をフォルステライトが存在する領域として区別し、非磁性相の面積に対するフォルステライトが存在する領域の面積割合を測定することにより、非磁性相に含まれるフォルステライトの体積割合を求めることができる。
非磁性相の2体積%以上、8体積%以下がフォルステライトであると、積層体の強度が向上する。
【0049】
絶縁層は、BをBに換算して2重量%以上11重量%以下、SiをSiOに換算して18重量%以上66重量%以下、FeをFeに換算して13重量%以上52重量%以下、NiをNiOに換算して1重量%以上7重量%以下、ZnをZnOに換算して4重量%以上16重量%以下、CuをCuOに換算して1重量%以上5重量%以下、含有することが好ましい。
【0050】
絶縁層の組成は、誘導結合プラズマ発光/質量分光法(ICP-AES/MS)による分析を行うことにより確認される。
【0051】
続いて、積層型コイル部品を構成する積層体が内蔵するコイルの例について説明する。
コイルは、絶縁層とともに積層方向に積層された複数のコイル導体が電気的に接続されることにより形成される。
【0052】
図2は、本発明の積層型コイル部品の一例を模式的に示す断面図であり、図3は、図2に示す積層型コイル部品を構成する絶縁層の様子を模式的に示す分解斜視模式図であり、図4は、図2に示す積層型コイル部品を構成する絶縁層の様子を模式的に示す分解平面模式図である。
図2は、絶縁層、コイル導体及び連結導体、並びに、積層体の積層方向を模式的に示すものであり、実際の形状及び接続等を厳密には表していない。例えば、コイル導体はビア導体を介して接続されている。
【0053】
図2に示すように、積層型コイル部品1は、絶縁層とともに積層された複数のコイル導体32が電気的に接続されることにより形成されるコイル30を内蔵する積層体10と、コイル30に電気的に接続される第1外部電極21及び第2外部電極22を備える。
積層体10には、コイル導体32が配置された領域と、第1連結導体41又は第2連結導体42が配置された領域とが存在する。積層体10の積層方向、及び、コイル30の軸方向(図2中、コイル軸Aを示す)は、第1主面13に対して平行である。
【0054】
図3及び図4に示すように、積層体10は、図2中の絶縁層31として、絶縁層31aと、絶縁層31bと、絶縁層31cと、絶縁層31dと、を有している。積層体10は、図2中の絶縁層35aとして、絶縁層35aと、絶縁層35aと、絶縁層35aと、絶縁層35aと、を有している。積層体10は、図2中の絶縁層35bとして、絶縁層35bと、絶縁層35bと、絶縁層35bと、絶縁層35bと、を有している。
【0055】
コイル30は、図2中のコイル導体32として、コイル導体32aと、コイル導体32bと、コイル導体32cと、コイル導体32dと、を有している。
【0056】
コイル導体32a、コイル導体32b、コイル導体32c、及び、コイル導体32dは、各々、絶縁層31a、絶縁層31b、絶縁層31c、及び、絶縁層31dの主面上に配置されている。
【0057】
コイル導体32a、コイル導体32b、コイル導体32c、及び、コイル導体32dの長さは、各々、コイル30の3/4ターンの長さである。つまり、コイル30の3ターンを構成するためのコイル導体32の積層数は4である。積層体10においては、コイル導体32a、コイル導体32b、コイル導体32c、及び、コイル導体32dが1つの単位(3ターン分)として繰り返し積層されている。
【0058】
コイル導体32aは、ライン部36aと、ライン部36aの端部に配置されるランド部37aと、を有している。コイル導体32bは、ライン部36bと、ライン部36bの端部に配置されるランド部37bと、を有している。コイル導体32cは、ライン部36cと、ライン部36cの端部に配置されるランド部37cと、を有している。コイル導体32dは、ライン部36dと、ライン部36dの端部に配置されるランド部37dと、を有している。
【0059】
絶縁層31a、絶縁層31b、絶縁層31c、及び、絶縁層31dには、各々、ビア導体33a、ビア導体33b、ビア導体33c、及び、ビア導体33dが積層方向に貫通するように配置されている。
【0060】
コイル導体32a及びビア導体33a付きの絶縁層31aと、コイル導体32b及びビア導体33b付きの絶縁層31bと、コイル導体32c及びビア導体33c付きの絶縁層31cと、コイル導体32d及びビア導体33d付きの絶縁層31dとは、1つの単位(図3及び図4中の点線で囲まれた部分)として繰り返し積層されている。これにより、コイル導体32aのランド部37aと、コイル導体32bのランド部37bと、コイル導体32cのランド部37cと、コイル導体32dのランド部37dとは、ビア導体33a、ビア導体33b、ビア導体33c、及び、ビア導体33dを介して接続される。つまり、積層方向に隣り合うコイル導体のランド部は、ビア導体を介して互いに接続される。
【0061】
以上により、積層体10に内蔵されるソレノイド状のコイル30が構成される。
【0062】
積層方向から平面視したとき、コイル導体32a、コイル導体32b、コイル導体32c、及び、コイル導体32dで構成されるコイル30は、円形状であってもよいし、多角形状であってもよい。積層方向から平面視したとき、コイル30が多角形状である場合、多角形の面積相当円の直径をコイル30のコイル径とし、多角形の重心を通り積層方向に延伸する軸をコイル30のコイル軸とする。
【0063】
絶縁層35a、絶縁層35a、絶縁層35a、及び、絶縁層35aには、各々、ビア導体33pが積層方向に貫通するように配置されている。絶縁層35a、絶縁層35a、絶縁層35a、及び、絶縁層35aの主面上には、ビア導体33pに接続されるランド部が配置されていてもよい。
【0064】
ビア導体33p付きの絶縁層35aと、ビア導体33p付きの絶縁層35aと、ビア導体33p付きの絶縁層35aと、ビア導体33p付きの絶縁層35aとは、コイル導体32a及びビア導体33a付きの絶縁層31aと重なるように積層されている。これにより、ビア導体33p同士がつながって第1連結導体41を構成し、第1連結導体41が第1端面11に露出する。その結果、第1外部電極21とコイル30(コイル導体32a)とが、第1連結導体41を介して互いに接続される。
【0065】
第1連結導体41は、第1外部電極21とコイル30との間を直線状に接続することが好ましい。第1連結導体41が第1外部電極21とコイル30との間を直線状に接続するとは、積層方向から平面視したとき、第1連結導体41を構成するビア導体33p同士が重なっていることを意味し、ビア導体33p同士は厳密に直線状に並んでいなくてもよい。
【0066】
絶縁層35b、絶縁層35b、絶縁層35b、及び、絶縁層35bには、各々、ビア導体33qが積層方向に貫通するように配置されている。絶縁層35b、絶縁層35b、絶縁層35b、及び、絶縁層35bの主面上には、ビア導体33qに接続されるランド部が配置されていてもよい。
【0067】
ビア導体33q付きの絶縁層35bと、ビア導体33q付きの絶縁層35bと、ビア導体33q付きの絶縁層35bと、ビア導体33q付きの絶縁層35bとは、コイル導体32d及びビア導体33d付きの絶縁層31dと重なるように積層されている。これにより、ビア導体33q同士がつながって第2連結導体42を構成し、第2連結導体42が第2端面12に露出する。その結果、第2外部電極22とコイル30(コイル導体32d)とが、第2連結導体42を介して互いに接続される。
【0068】
第2連結導体42は、第2外部電極22とコイル30との間を直線状に接続することが好ましい。第2連結導体42が第2外部電極22とコイル30との間を直線状に接続するとは、積層方向から平面視したとき、第2連結導体42を構成するビア導体33q同士が重なっていることを意味し、ビア導体33q同士は厳密に直線状に並んでいなくてもよい。
【0069】
なお、第1連結導体41を構成するビア導体33pと第2連結導体42を構成するビア導体33qとの各々にランド部が接続されている場合、第1連結導体41及び第2連結導体42の形状は、ランド部を除いた形状を意味する。
【0070】
図3及び図4では、コイル30の3ターンを構成するためのコイル導体32の積層数が4である場合、すなわち、繰り返し形状が3/4ターン形状である場合を例示したが、コイルの1ターンを構成するためのコイル導体32の積層数は特に限定されない。
例えば、コイルの1ターンを構成するためのコイル導体の積層数が2、すなわち、繰り返し形状が1/2ターン形状であってもよい。
【0071】
積層方向から平面視したときに、コイルを構成するコイル導体は互いに重なることが好ましい。また、積層方向から平面視したとき、コイルの形状は円形であることが好ましい。なお、コイルがランド部を含む場合には、ランド部を除いた形状(すなわちライン部の形状)をコイルの形状とする。
また、連結導体を構成するビア導体にランド部が接続されている場合には、ランド部を除いた形状(すなわちビア導体の形状)を連結導体の形状とする。
【0072】
なお、図3に示すコイル導体は、繰り返しパターンが円形となるような形状であるが、繰り返しパターンが四角形等の多角形となるようなコイル導体であってもよい。
また、コイル導体の繰り返し形状は3/4ターン形状ではなく、1/2ターン形状であってもよい。
【0073】
第1外部電極及び第2外部電極は、各々、単層構造であってもよいし、複層構造であってもよい。
【0074】
第1外部電極及び第2外部電極が、各々、単層構造である場合、各外部電極の構成材料としては、例えば、銀、金、銅、パラジウム、ニッケル、アルミニウム、これらの金属の少なくとも1種を含有する合金等が挙げられる。
【0075】
第1外部電極及び第2外部電極が、各々、複層構造である場合、各外部電極は、積層体の表面側から順に、例えば、銀を含む下地電極層と、ニッケル被膜と、スズ被膜と、を有していてもよい。
【0076】
図2図3及び図4に示すような構成の積層型コイル部品において、積層型コイル部品のサイズが0603サイズである場合、高周波特性をさらに向上させるためには、以下のように設計することが好ましい。
【0077】
コイルのターン数は、33ターン以上、42ターン以下であることが好ましい。ターン数がこの程度であると、コイル導体間のトータルの静電容量を低減することができるため、透過係数S21を良好な範囲にすることができる。
また、コイル長が0.49mm以上、0.55mm以下であることが好ましい。
【0078】
コイル導体の幅は、45μm以上、75μm以下であることが好ましい。コイル導体の幅は図2に両矢印Wで示す寸法である。
コイル導体の厚みは、3.5μm以上、6.0μm以下であることが好ましい。コイル導体の厚みは図2に両矢印Tで示す寸法である。
コイル導体間の距離は、3.0μm以上、5.0μm以下であることが好ましい。コイル導体間の距離は図2に両矢印Dで示す寸法である。
【0079】
コイル導体のランド部の直径は、30μm以上、50μm以下であることが好ましい。コイル導体のランド部の直径は図4に両矢印Rで示す寸法である。
【0080】
積層体の第1主面が実装面である場合、積層体の第1主面を覆う部分の第1外部電極の長さ、第2外部電極の長さは、それぞれ0.20mm以下であることが好ましい。また、0.10mm以上であることが好ましい。
積層体の第1主面を覆う部分の第1外部電極の長さ、第2外部電極の長さは、図2に両矢印Eで示す寸法である。
【0081】
また、本発明の積層型コイル部品を構成する絶縁層の比誘電率は、4.0以上、10.0以下であることが好ましく、4.0以上、8.0以下であることがより好ましく、4.0以上、7.0以下であることがさらに好ましい。
積層型コイル部品を構成する絶縁層の比誘電率は以下のようにして測定できる。
絶縁層を所定の形状(例えば円板状)に成形した誘電率測定用試料を作製する。これの両面に電極を形成した後、インピーダンスアナライザ(例えばアジレント・テクノロジー社製、E4991A)を使用し、周波数1MHzの条件下で誘電率を測定する。
【0082】
また、本発明の積層型コイル部品を構成する絶縁層の透磁率は、1.5以上、25.0以下であることが好ましく、1.7以上、8.5以下であることがより好ましく、2.5以上、5.0以下であることがさらに好ましい。
積層型コイル部品を構成する絶縁層の透磁率は以下のようにして測定できる。
絶縁層を所定の形状(例えばリング状)に成形した透磁率測定用試料を作製する。これを透磁率測定冶具に収容した後、インピーダンスアナライザ(例えばアジレント・テクノロジー社製、E4991A)を使用し、周波数1MHzの条件下で透磁率を測定する。
【0083】
本発明の積層型コイル部品は、例えば、以下の方法で製造される。
【0084】
<磁性材料作製工程>
Fe、ZnO、CuO、及び、NiOを所定の比率になるように秤量する。各酸化物には、不可避不純物が含まれていてもよい。次に、これらの秤量物を湿式で混合した後、粉砕することにより、スラリーを作製する。この際、Mn、Bi、Co、SiO、SnO等の添加剤を添加してもよい。そして、得られたスラリーを乾燥させた後、仮焼成する。仮焼成温度については、例えば、700℃以上、800℃以下とする。仮焼成時間については、例えば、2時間以上、5時間以下とする。このようにして、磁性材料として、粉末状のフェライト材料を作製する。
【0085】
フェライト材料は、40mol%以上、49.5mol%以下のFeと、2mol%以上、35mol%以下のZnOと、6mol%以上、13mol%以下のCuOと、10mol%以上、45mol%以下のNiOと、を含むことが好ましい。
【0086】
<非磁性材料作製工程>
非磁性材料の粉末を秤量する。ホウケイ酸ガラスとしてカリウム等のアルカリ金属、ホウ素、ケイ素、アルミニウムを所定の割合で含有するガラス粉末を準備する。また、フィラーとして、フォルステライト粉末を準備する。フィラーとして、石英粉末をさらに準備してもよい。
【0087】
ホウケイ酸ガラスは、SiをSiOに換算して70重量%以上、85重量%以下、BをBに換算して10重量%以上、25重量%以下、アルカリ金属AをAOに換算して0.5重量%以上、5重量%以下、AlをAlに換算して0重量%以上、5重量%以下の割合で含むことが好ましい。
【0088】
<グリーンシート作製工程>
磁性材料及び非磁性材料を所定の比率になるように秤量する。次に、これらの秤量物と、ポリビニルブチラール系樹脂等の有機バインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤と、等を混合した後、粉砕することにより、スラリーを作製する。そして、得られたスラリーをドクターブレード法等で、所定の厚みのシート状に成形した後、所定の形状、例えば矩形状に打ち抜くことにより、グリーンシートを作製する。
グリーンシートの厚さは20μm以上、30μm以下であることが好ましい。
【0089】
磁性材料と非磁性材料の合計体積に対する非磁性材料の体積割合が、50体積%以上、90体積%以下となるように磁性材料と非磁性材料の体積割合を調整して混合することが好ましく、60体積%以上、90体積%以下となるように磁性材料と非磁性材料の体積割合を調整して混合することがより好ましく、70体積%以上、90体積%以下となるように磁性材料と非磁性材料の体積割合を調整して混合することがさらに好ましい。
【0090】
<導体パターン形成工程>
まず、グリーンシートの所定の箇所にレーザー照射を行うことにより、ビアホールを形成する。
【0091】
次に、銀ペースト等の導電性ペーストを、スクリーン印刷法等により、ビアホールに充填しつつグリーンシートの表面に塗工する。これにより、グリーンシートに対して、ビア導体用導体パターンをビアホールに形成しつつ、ビア導体用導体パターンに接続されたコイル導体用導体パターンを表面上に形成する。このようにして、グリーンシートにコイル導体用導体パターン及びビア導体用導体パターンが形成されたコイルシートを作製する。コイルシートについては複数枚作製し、各コイルシートに対して、図3及び図4に示したコイル導体に相当するコイル導体用導体パターンと、図3及び図4に示したビア導体に相当するビア導体用導体パターンとを形成する。
【0092】
また、銀ペースト等の導電性ペーストを、スクリーン印刷法等により、ビアホールに充填することにより、グリーンシートにビア導体用導体パターンが形成されたビアシートを、コイルシートとは別に作製する。ビアシートについても複数枚作製し、各ビアシートに対して、図3及び図4に示したビア導体に相当するビア導体用導体パターンを形成する。
【0093】
<積層体ブロック作製工程>
コイルシート及びビアシートを、図3及び図4に相当する順序で積層方向に積層した後、熱圧着することにより、積層体ブロックを作製する。
【0094】
<積層体・コイル作製工程>
まず、積層体ブロックをダイサー等で所定の大きさに切断することにより、個片化されたチップを作製する。
【0095】
次に、個片化されたチップを焼成する。焼成温度については、例えば、900℃以上、920℃以下とする。また、焼成時間については、例えば、2時間以上、4時間以下とする。900℃以上、920℃以下のトップ温度での酸素濃度については、例えば、0.01体積%以上、0.5体積%以下とする。トップ温度での酸素濃度を0.01体積%以上、0.5体積%以下とすることで、磁性相を構成する結晶粒子の粒成長を抑制でき、焼成後の磁性相を構成する結晶粒子の粒子径を小さくできる。
【0096】
個片化されたチップを焼成することにより、コイルシート及びビアシートのグリーンシートは、絶縁層となる。その結果、複数の絶縁層が、積層方向、ここでは、長さ方向に積層されてなる積層体が作製される。積層体には、磁性相と非磁性相とが形成される。
【0097】
個片化されたチップを焼成することにより、コイルシートのコイル導体用導体パターン及びビア導体用導体パターンは、各々、コイル導体及びビア導体となる。その結果、複数のコイル導体が積層方向に積層されつつ、ビア導体を介して電気的に接続されてなるコイルが作製される。
【0098】
以上により、積層体と、積層体の内部に設けられたコイルとが作製される。絶縁層の積層方向とコイルのコイル軸の方向とは、積層体の実装面である第1主面に平行になり、ここでは、長さ方向に沿って平行になる。
【0099】
個片化されたチップを焼成することにより、ビアシートのビア導体用導体パターンは、ビア導体となる。その結果、複数のビア導体が長さ方向に積層されつつ電気的に接続されてなる、第1連結導体及び第2連結導体が作製される。第1連結導体は、積層体の第1端面から露出することになる。第2連結導体は、積層体の第2端面から露出することになる。
【0100】
積層体に対しては、例えば、バレル研磨を施すことにより、角部及び稜線部に丸みを付けてもよい。
【0101】
<外部電極形成工程>
まず、銀及びガラスフリットを含む導電性ペーストを、積層体の第1端面及び第2端面に塗工する。次に、得られた各塗膜を焼き付けることにより、積層体の表面上に下地電極層を形成する。より具体的には、積層体の第1端面から、第1主面、第1側面、及び、第2側面の各面の一部にわたって延在する下地電極層を形成する。また、積層体の第2端面から、第1主面、第1側面、及び、第2側面の各面の一部にわたって延在する下地電極層を形成する。各塗膜の焼き付け温度については、例えば、800℃以上、820℃以下とする。
【0102】
その後、電解めっき等により、各下地電極層の表面上に、ニッケル被膜とスズ被膜とを順に形成する。
【0103】
このようにして、第1連結導体を介してコイルに電気的に接続された第1外部電極と、第2連結導体を介してコイルに電気的に接続された第2外部電極とを形成する。
以上により、積層型コイル部品が製造される。
【実施例
【0104】
以下、本発明の積層型コイル部品をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0105】
[実施例1~6、及び、比較例1~2]
実施例1~6、及び、比較例1~2の積層型コイル部品用の積層体を、以下の方法で製造した。
【0106】
<磁性材料作製工程>
Feが48.0mol%、ZnOが30.0mol%、NiOが14.0mol%、CuOが8.0mol%の比率になるように、主成分を秤量した。次に、これらの秤量物と、純水と、分散剤とを、PSZメディアとともにボールミルに入れて混合した後、粉砕することにより、スラリーを作製した。そして、得られたスラリーを乾燥させた後、800℃で2時間仮焼成した。このようにして、磁性材料として、粉末状のフェライト材料を作製した。
【0107】
<非磁性材料作製工程>
Si、B、K、Alを所定の割合で含むホウケイ酸ガラス粉末と、フィラーとしてのフォルステライト粉末及び石英粉末とを準備した。ホウケイ酸ガラス粉末とフォルステライト粉末と石英粉末とを、重量比でホウケイ酸ガラス:フォルステライト:石英=72:4:24の割合となるように秤量した。次に、これらの秤量物と、純水と、分散剤とを、PSZメディアとともにボールミルに入れて混合した後、粉砕することにより、スラリーを作製した。そして、得られたスラリーを乾燥させることで、粉末状の非磁性材料を作製した。
【0108】
<グリーンシート作製工程>
磁性材料及び非磁性材料の体積割合が、後に示す表1及び表2の通りになるように、磁性材料及び非磁性材料を秤量した。次に、これらの秤量物と、有機バインダとしてのポリビニルブチラール系樹脂と、有機溶剤としてのエタノール及びトルエンとを、PSZメディアとともにボールミルに入れて混合した後、粉砕することにより、スラリーを作製した。そして、得られたスラリーをドクターブレード法で、所定の厚みのシート状に成形した後、所定の形状に打ち抜くことにより、グリーンシートを作製した。
【0109】
<導体パターン形成工程>
銀粉末と有機ビヒクルを含む内部導体用の導電性ペーストを準備した。
グリーンシートの所定箇所にビアホールを形成し、導電性ペーストを充填してビア導体を形成した後、コイル導体パターンを印刷し、コイルシートを得た。
別途、グリーンシートの所定箇所にレーザーを照射することにより、ビアホールを形成した。ビアホールに導電性ペーストを充填してビア導体を形成してビアシートを得た。
【0110】
<積層体ブロック作製工程>
コイルシート及びビアシートを、図3及び図4に相当する順序で積層方向に積層した後、熱圧着することにより、積層体ブロックを作製した。
【0111】
<積層体・コイル作製工程>
積層体ブロックをダイサーで切断して個片化することにより、個片化されたチップを作製した。続いて、個片化されたチップを焼成して積層体とした。焼成は、トップ温度を920℃とし、4時間保持した。この間、酸素濃度を0.1体積%とした。降温は、大気雰囲気とした。積層体には、磁性相であるフェライト相と、非磁性相とが形成された。
【0112】
<外部電極形成工程>
銀粉末とガラスフリットを含有する外部電極用の導電性ペーストを塗膜形成槽に流し込み、所定厚みの塗膜が形成されるようにした。この塗膜に、積層体の外部電極を形成する箇所を浸漬した。
浸漬後、800℃程度の温度で焼き付けることで、外部電極の下地電極層を形成した。下地電極層の厚みは略5μmとした。
続いて、電解めっきで、下地電極層の上にニッケル被膜及びスズ被膜を順次形成して、外部電極を形成した。
【0113】
以上により、実施例1~6、及び、比較例1~2の積層型コイル部品を製造した。
作製した積層型コイル部品のサイズは、長さ方向における寸法が0.6mm、高さ方向における寸法が0.3mm、幅方向における寸法が0.3mmであった。
なお、実施例1~6は磁性材料と非磁性材料の混合割合を変更した組成であり、比較例1は磁性材料を使用していない組成であり、比較例2は非磁性材料を使用していない組成である。
【0114】
また、作製したグリーンシートから、焼成後の寸法が外径10mm、厚み0.5mm程度である円板状試料と、焼成後の寸法が外径20mm、内径12mm、厚み1.5mmであるリング状試料とを作製した。焼成は、上述のようにトップ温度を920℃とし、4時間保持した。この間、酸素濃度を0.1体積%とした。降温は、大気雰囲気とした。
【0115】
<組成の測定>
円板状試料を用い、誘導結合プラズマ発光/質量分光法(ICP-AES/MS)を用いて分析し、組成を確認した。結果を下記表1に示した。
なお、表1では、KO、B、SiO、Al、MgO、Fe、NiO、ZnO、及び、CuOの合計を100重量%としたときの各成分の組成を示した。
【0116】
【表1】
【0117】
<比誘電率の測定>
円板状試料の両面に電極を形成し、インピーダンスアナライザ(アジレント・テクノロジー社製、E4991A)を使用し、測定周波数1MHzで比誘電率εを測定した。結果を下記表2に示した。
【0118】
<透磁率の測定>
リング状試料を透磁率測定冶具(アジレント・テクノロジー社製、16454A-s)に収容し、インピーダンスアナライザ(アジレント・テクノロジー社製、E4991A)を使用し、測定周波数1MHzで透磁率μを測定した。結果を下記表2に示した。
【0119】
<粒子径D50及びD90の測定>
作製した積層型コイル部品を、第2主面が露出するように垂直に立て、積層型コイル部品の周りを樹脂で固めた。その後、研磨機で積層型コイル部品の高さ方向の略中央部まで研磨を行った。得られた断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を倍率10000倍で撮影し、画像処理ソフトを用いて磁性相を構成する結晶粒子のD50及びD90を求めた。結果を下記表2に示した。
なお、D50、D90は、結晶粒子の面積円相当径の累積分布において個数基準でそれぞれ累積50%及び90%となる面積円相当径である。
また、SEM写真では、磁性相が相対的に暗く、非磁性相が相対的に明るいため、所定の閾値によりSEM写真を二値化して磁性相を構成する結晶粒子のみを抽出し、それらの粒子径(面積円相当径)を評価した。
【0120】
<X線回析>
作製した円板状試料を粉砕して粉末として、X線回折評価を行い、磁性相の(642)面に起因する回折ピークの半値幅を測定した。なお、X線源はCu-Kα1線を用いた。
図5は、実施例4及び比較例2で作製した試料のX線回析パターンを示す。
図5に示すように、磁性相の(642)面に起因する回折ピークの半値幅として、角度(2θ)=86~87°の間に現れるスピネル構造の(642)面の回折ピークの半値幅を測定した。
結果を下記表2に示した。
【0121】
【表2】
【0122】
<透過係数S21の測定>
図6は、透過係数S21を測定する方法を模式的に示す図である。
図6に示すように、信号経路61とグランド導体62を設けた測定用治具60に作製した積層型コイル部品1をはんだ付けした。積層型コイル部品1の第1外部電極21が信号経路61に接続され、第2外部電極22がグランド導体62に接続される。
【0123】
ネットワークアナライザ63を用いて、試料への入力信号と透過信号の電力を求め、周波数を変化させて透過係数S21を測定した。ネットワークアナライザ63には、信号経路61の一端と他端が接続される。
図7は、実施例1、4及び6と、比較例2とで作製した積層型コイル部品の透過係数S21を示すグラフである。
なお、透過係数S21は、0dBに近いほど損失が少ないことを示す。
【0124】
図7に示す通り、実施例1、4及び6で製造した積層型コイル部品は、比較例2で製造した積層型コイル部品と比較して、60GHzといった高周波帯での透過係数S21が大きく、優れた高周波特性を有していた。
これは、積層型コイル部品を構成する絶縁層に、少なくともSiを含む非磁性相が含まれることによって絶縁層の誘電率が低下し、積層型コイル部品のLC共振に起因する損失が小さくなったためと考えられる。
【0125】
<比誘電率の実測値と理論値の評価>
磁性相と非磁性相の合計体積に対する磁性相の体積比率を変化させて上述のように円板状試料を作製し、上述の方法により比誘電率を測定した。また、磁性相と非磁性相の混合比率から対数混合則により比誘電率の理論値を計算した。その結果を図8に示す。
図8は、磁性相と非磁性相の合計体積に対する磁性相の体積比率が異なる試料の比誘電率の実測値と理論値を示すグラフである。
図8に示されるように、比誘電率は、理論値に比べ実測値が3~6%低くなった。これは、磁性相と非磁性相が混在することによって、磁性相の結晶粒子の粒子径が小さくなったためと考えられる。
このように、磁性相の結晶粒子の粒子径が小さくなることに起因する比誘電率の低下もまた、積層型コイル部品の高周波特性の向上に寄与したと考えられる。
【0126】
本発明によれば、透磁率μが1.5~25、比誘電率εが4~10であり、高周波での透過係数S21が良好な積層型コイル部品が得られる。
【符号の説明】
【0127】
1 積層型コイル部品
10 積層体
11 第1端面
12 第2端面
13 第1主面
14 第2主面
15 第1側面
16 第2側面
21 第1外部電極
22 第2外部電極
30 コイル
31、31a、31b、31c、31d、35a、35a、35a、35a、35a、35b、35b、35b、35b、35b 絶縁層
32、32a、32b、32c、32d コイル導体
33a、33b、33c、33d、33p、33q ビア導体
36a、36b、36c、36d ライン部
37a、37b、37c、37d ランド部
41 第1連結導体
42 第2連結導体
60 測定用治具
61 信号経路
62 グランド導体
63 ネットワークアナライザ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8