(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】蛍光標識用色素および蛍光標識剤
(51)【国際特許分類】
C09B 47/30 20060101AFI20231114BHJP
C09B 47/067 20060101ALI20231114BHJP
C09B 47/18 20060101ALI20231114BHJP
C09B 47/24 20060101ALI20231114BHJP
C09B 57/00 20060101ALI20231114BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20231114BHJP
G01N 21/78 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
C09B47/30 CSP
C09B47/067
C09B47/18
C09B47/24
C09B57/00 Z
C09K11/06
G01N21/78 C
(21)【出願番号】P 2021164190
(22)【出願日】2021-10-05
【審査請求日】2023-08-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山本 竜太郎
(72)【発明者】
【氏名】皆嶋 英範
(72)【発明者】
【氏名】河内 寛明
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-163439(JP,A)
【文献】特開2019-172826(JP,A)
【文献】特開2020-177014(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B 47/00,57/00
C09K 11/00
G01N 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水溶性の蛍光標識用色素を含む蛍光標識剤(ただし、色素と、水溶性樹脂と、水とを含む蛍光標識剤用色素組成物であって、水溶性樹脂が、イオン性官能基を有する重合性不飽和単量体由来の構成単位(A)、およびアルキル基を有する重合性不飽和単量体由来の構成単位(B)を含有することを特徴とする蛍光標識剤用色素組成物を除く。)であって、
前記蛍光標識用色素を有機溶媒に溶解させた色素溶液をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に対して添加した色素分散液(色素分散液I)において形成される色素分散体の平均粒子径が500nm以下であり、
前記蛍光標識用色素の、下記式(I)により算出される吸光度維持率が0.5以上であ
り、蛍光標識用色素が、下記一般式(1)で表される蛍光標識剤。
式(I) 吸光度維持率=A
1/A
0
式(I)中、A
0は蛍光標識用色素を有機溶媒に溶解させた色素溶液(色素溶液I)の最大吸収波長における吸光度を表し、A
1は蛍光標識用色素溶液をPBSに添加した色素分散液(色素分散液II)の最大吸収波長における吸光度を表す。ただし、色素溶液Iと色素分散液IIの色素濃度は同一である。
一般式(1):
Q-Z-L
1
-L
2
-L
3
(式中、Qは、蛍光標識用色素の残基を表す。
Zは、直接結合、置換もしくは無置換のアルキレン基、又は、置換もしくは無置換のアリーレン基を表す。
L
1
は、直接結合、-O-、-OP(=O)R
1
-、-OC(=O)-、-OS(=O)
2
-、-OSiR
2
R
3
-、-C(=O)-、又は-C(=O)NH-を表す。
L
2
は、炭素数が1~10である、置換もしくは無置換のアルキレン基を表す。
L
3
は、-COOM
1
、-NR
4
R
5
、-N
+
R
6
R
7
R
8
、-OM
2
、又は-P(=
O)(OM
3
)OM
4
を表す。
前記R
1
は、水素原子、水酸基、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
前記R
2
及びR
3
は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
前記R
4
~R
8
は、それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基を表す。
前記M
1
、M
2
、M
3
、及びM
4
は、それぞれ独立に、水素原子、又は1価のカチオンを表す。)
【請求項2】
蛍光標識用色素が、フタロシアニン類又はボロンジピロメテン類である、請求項1に記載の蛍光標識剤。
【請求項3】
蛍光標識用色素が、フタロシアニン類である、請求項2に記載の蛍光標識剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光標識用色素及びそれを含有する蛍光標識剤に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオイメージングは、タンパク質や細胞、組織などを可視化する技術であり、生体内分子・細胞機能の解明や創薬の研究等、生物学、医学の研究領域で幅広く活用されている。
中でも蛍光バイオイメージング法は、現象の動的な観察、多色観察、高感度観察が可能なイメージング法である。さらに、近年では、蛍光バイオイメージング法は非侵襲的に診断可能なイメージング法として注目されており、患者への負担が少ない画像診断や手術中のリアルタイム診断など臨床現場における応用が期待されている。
【0003】
例えば特許文献1には、フタロシアニン骨格を用いた蛍光標識用色素が記載されている。
【0004】
例えば特許文献2には、ボロンジピロメテン(BODIPY)骨格を用いた蛍光標識用色素が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2004/038378号
【文献】特開2019-172826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び特許文献2に記載の蛍光標識用色素を用いて蛍光バイオイメージングを行う場合には、蛍光標識用色素単体で使用することはできず、特定の生体組織と特異的に結合するような生体組織認識物質(抗原、ビオチン等)と、蛍光標識用色素とをあらかじめ結合させ使用する必要がある。このような蛍光標識用色素の前処理は、評価サンプル数が膨大なハイスループットスクリーニングにおいては、労力と実験時間の大幅な増加につながる。
そこで本発明が解決しようとする課題は、生体組織認識物質との結合が不要な蛍光標識用色素を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、上記課題を解決するための優れた特性を有する蛍光標識用色素を見出し、本発明をなしたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、下記の手段によって解決された。
[I]蛍光標識用色素を有機溶媒に溶解させた色素溶液をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に対して添加した色素分散液(色素分散液I)において形成される色素分散体の平均粒子径が500nm以下であり、
下記式(I)により算出される吸光度維持率が0.5以上である蛍光標識用色素。
式(I) 吸光度維持率=A1/A0
式(I)中、A0は蛍光標識用色素を有機溶媒に溶解させた色素溶液(色素溶液I)の最大吸収波長における吸光度を表し、A1は蛍光標識用色素溶液をPBSに添加した色素分散液(色素分散液II)の最大吸収波長における吸光度を表す。ただし、色素溶液Iと色素分散液IIの色素濃度は同一である。
【0009】
[II]フタロシアニン類又はボロンジピロメテン類である、[I]に記載の蛍光標識用色素。
【0010】
[III]下記一般式(1)で表される[I]又は[II]に記載の蛍光標識用色素。
一般式(1):
Q-Z-L1-L2-L3
(式中、Qは、蛍光標識用色素の残基を表す。
Zは、直接結合、置換もしくは無置換のアルキレン基、又は、置換もしくは無置換のアリーレン基を表す。
L1は、直接結合、-O-、-OP(=O)R1-、-OC(=O)-、-OS(=O)2-、-OSiR2R3-、-C(=O)-、又は-C(=O)NH-を表す。
L2は、置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のアリーレン基、及び置換もしくは無置換の複素環基からなる群から選択される1種の基、又はこれらの基を組み合わせてなる基を表す。
L3は、-COOM1、-NR4R5、-N+R6R7R8、-OM2、又は-P(=O)(OM3)OM4を表す。
前記R1は、水素原子、水酸基、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
前記R2及びR3は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
前記R4~R8は、それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基を表す。
前記M1、M2、M3、及びM4は、それぞれ独立に、水素原子、又は1価のカチオンを表す。)
【0011】
[IV] 上記[I]~[III]のいずれかに記載の蛍光標識用色素を含有する蛍光標識剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施形態によれば、蛍光標識用色素と生体組織認識物質との結合処理を必要としない、蛍光バイオイメージングに適した蛍光標識用色素を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は蛍光標識用色素7を20μM含む色素溶液7をジメチルスルホキシドおよびPBSで10倍希釈した時の吸収スペクトルである。
【
図2】
図2は比較化合物2を20μM含む色素溶液26をジメチルスルホキシドおよびPBSで10倍希釈した時の吸収スペクトルである。
【
図3】
図3は蛍光標識用色素7を用いて細胞染色した時の蛍光顕微鏡観察画像である(倍率:40倍、蛍光取り込み時間:1秒)。
【
図4】
図4は比較化合物2を用いて細胞染色した時の蛍光顕微鏡観察画像である(倍率:40倍、蛍光取り込み時間:1秒)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。但し、本発明の実施形態は、以下の記載に限定されず様々な実施形態を含む。
【0015】
本発明の一実施形態である蛍光標識用色素は、
蛍光標識用色素を有機溶媒に溶解させた色素溶液をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に対して添加した色素分散液(色素分散液I)において形成される色素分散体の平均粒子径が500nm以下であり、
下記式(I)により算出される吸光度維持率が0.5以上である蛍光標識用色素。
式(I) 吸光度維持率=A1/A0
式(I)中、A0は蛍光標識用色素を有機溶媒に溶解させた色素溶液(色素溶液I)の最大吸収波長における吸光度を表し、A1は蛍光標識用色素溶液をPBSに添加した色素分散液(色素分散液II)の最大吸収波長における吸光度を表す。ただし、色素溶液Iと色素分散液IIの色素濃度は同一である。
【0016】
上記本発明の蛍光標識用色素が、上記効果を奏する理由は、発明者らの検討によれば以下の通りと推察される。
本発明の一実施形態である蛍光標識用色素は、優れた細胞質染色色素として好適に利用できる。これは、本発明の蛍光標識用色素有機溶媒に溶解させた色素溶液をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に添加した色素分散液(色素分散液I)において、生じた色素分散体の平均粒子径が500nm以下であることに起因して、エンドサイトーシス機構による細胞膜透過が起きやすくなったためであると考えられる。ここで、色素分散体とは、媒体中に完全溶解せずに分散した状態の色素であって、複数の色素分子が弱い分子間力によって集合し、一つの粒子単位として行動している状態を意味する。
よって本発明では、PBSに分散させた時に形成する色素分散体の平均粒子径が500nm以下である蛍光標識用色素は細胞染色性が高く、細胞染色に好適に利用できる。
【0017】
色素分散液Iに含まれる色素分散体の平均粒子径は、500nm以下であり、400nm以下が好ましく、さらに200nm以下がより好ましい。
【0018】
色素分散液Iに含まれる色素の平均粒子径は、以下のようにして測定した。
蛍光標識用色素を可溶な有機溶媒に20μMになるように溶かし、これをPBSで10倍希釈し2μMの色素分散液Iを調製した。この色素分散液Iについての粒度分布を粒度分布測定装置(スペクトリス株式会社製、ゼータサイザーナノ ZSP)にて測定した。平均粒子径の測定は25℃の条件下で行うことが好ましい。
【0019】
平均粒子径の値としては、Z平均粒子径、数平均粒子径、体積平均粒子径、面積平均粒子径等の値を採用することができるが、本実施例では、動的光散乱法により測定したZ平均粒子径を色素分散液Iに含まれる色素分散体の平均粒子径とした。
【0020】
また、色素分散液の蛍光標識用色素の吸光度が低くなると、励起光の吸収率が低下するため、細胞染色時の蛍光強度は低下すると考えられる。よって本発明では、蛍光標識用色素を有機溶媒に溶解させた時の吸光度A0とPBSに分散させた時の吸光度A1の比(吸光度維持率)が高いほど、細胞染色時の蛍光強度が高く、蛍光標識用色素として好適に利用できる。
【0021】
蛍光標識用色素が可溶な有機溶媒としては、水と任意に混和可能な有機溶媒が好ましく、特にジメチルスルホキシド、エタノールが好ましい。
【0022】
式(I)により算出される吸光度維持率0.5以上であり、0.6以上が好ましく、0.7以上がより好ましい。
【0023】
式(I)により算出される吸光度維持率は、以下のようにして算出した。
蛍光標識用色素を、可溶な有機溶媒に2μMになるように溶かし、色素溶液Iを調製した。色素溶液Iの吸収スペクトルを分光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製、U-4100)を用いて測定し、最大吸収波長における吸光度A0を決定した。
また、蛍光標識用色素を、可溶な有機溶媒に20μMになるように溶かし、さらにこれをPBSで10倍希釈し、2μMの色素分散液IIを調製した。色素分散液IIの吸収スペクトルを分光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製、U-4100)を用いて測定し、最大吸収波長における吸光度A1を決定した。吸光度の測定は25℃の条件下で行うことが好ましい。
【0024】
本明細書において蛍光標識用色素とは、紫外領域から近赤外領域の光(例えば、波長560~900nmの光)を照射した際に蛍光を発する色素であり、公知の化合物であってよい。蛍光標識用色素を構成する蛍光色素としては、特に限定されないが、例えば、フルオレセイン類、ローダミン類、クマリン類、シアニン類、フタロシアニン類、ジケトピロロピロール類、ボロンジピロメテン(BODIPY)類、キサンテン類、ピレン類、メロシアニン類、ぺリレン類、アクリジン類、スチルベン類、ピロメテン類、アクリジン類、ポルフィリン類及びウンべリフェロン類等の色素が挙げられる。
【0025】
本発明の一実施形態である蛍光標識用色素は、下記一般式(1)で表される蛍光標識用色素であることが好ましい。
一般式(1):
Q-Z-L1-L2-L3
(式中、Qは、蛍光標識用色素の残基を表す。
Zは、直接結合、置換もしくは無置換のアルキレン基、又は、置換もしくは無置換のアリーレン基を表す。
L1は、直接結合、-O-、-OP(=O)R1-、-OC(=O)-、-OS(=O)2-、-OSiR2R3-、-C(=O)-、又は-C(=O)NH-を表す。
L2は、置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のアリーレン基、及び置換もしくは無置換の複素環基からなる群から選択される1種の基、又はこれらの基を組み合わせてなる基を表す。
L3は、-COOM1、-NR4R5、-N+R6R7R8、-OM2、又は-P(=O)(OM3)OM4を表す。
前記R1は、水素原子、水酸基、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
前記R2及びR3は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
前記R4~R8は、それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基を表す。
前記M1、M2、M3、及びM4は、それぞれ独立に、水素原子、又は1価のカチオンを表す。)
【0026】
上記実施形態の蛍光標識用色素において、「-Z-L1-L2-L3」は、親水基を有する置換基であり、リン脂質における親水基との静電的な相互作用によって、リン脂質に対する蛍光標識用色素の透過性を高めることができる。上記置換基の具体的な構成は以下のとおりである。
【0027】
Zは、直接結合、置換もしくは無置換のアルキレン基、又は、置換もしくは無置換のアリーレン基を表す。一実施形態において、Zは、直接結合であることが好ましい。
【0028】
L1は、直接結合、-O-、-OP(=O)R1-、-OC(=O)-、-OS(=O)2-、-OSiR2R3-、-C(=O)-、又は-C(=O)NH-を表す。一実施形態において、R1は、-OP(=O)R1-、-OS(=O)2-、-OSiR2R3-であることが好ましい。
【0029】
L2は、置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のアリーレン基、及び、置換もしくは無置換の複素環基からなる群から選択される1種の基、又はこれらの基を組み合わせてなる基を表す。一実施形態において、L2は、置換もしくは無置換のアルキレン基、又は、置換もしくは無置換のアリーレン基であることが好ましく、又は、置換もしくは無置換のアルキレン基であることがより好ましい。一実施形態において、L2は、アルキレン基であることが好ましい。アルキレン基の主鎖の炭素数は1~10であることが好ましい。
【0030】
L3は、-COOM1、-NR4R5、-N+R6R7R8、-OM2、又は-P(=O)(OM3)OM4を表す。一実施形態において、R3は、-COOM1、-OM2、又は-P(=O)(OM3)OM4であることが好ましい。
【0031】
上記において、R1は、水素原子、水酸基、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。一実施形態において、R1は、水素原子、水酸基、置換もしくは無置換のアルキル基、又は無置換のアリール基であることが好ましい。
【0032】
R2及びR3は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。一実施形態において、R2及びR3は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、又は無置換のアリール基であることが好ましい。上記アルキル基は、炭素数1~5の直鎖又は分岐のアルキル基であることがより好ましい。
【0033】
R4~R8は、それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、又は、置換もしくは無置換のアリール基を表す。一実施形態において、R4~R8は、それぞれ独立に、水素原子、又は置換もしくは無置換のアルキル基であることが好ましい。アルキル基は、炭素数1~5の直鎖又は分岐のアルキル基であることがより好ましい。
【0034】
M1、M2、M3、及びM4は、それぞれ独立に、水素原子、又は1価のカチオンを表す。1価のカチオンとしては、例えば、アルカリ金属、及び4級アミン等が挙げられる。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、及びセシウム等が挙げられる。一実施形態において、M1、M2、M3、及びM4は、それぞれ、水素原子であることが好ましい。
【0035】
一実施形態である蛍光標識用色素を構成する蛍光色素は、蛍光色素が発する蛍光の生体透過性の観点から、フタロシアニン類またはBODIPY類が好ましい。また、耐光性の観点からフタロシアニン類が好ましい。
【0036】
一実施形態において、下記一般式(2)で表されるフタロシアニンを蛍光標識用色素として好適に使用することができる。上記蛍光標識用色素を構成する蛍光色素が、下記一般式(2)で表される化合物を含む場合、色素の骨格に由来して、イン・ビトロ及びイン・ビボでのバイオイメージングに適した波長(例えば、650~900nm)での発光を容易に得ることができる。
【0037】
【0038】
X1~X16は、それぞれ独立に、水素原子、又は、-Z-L1-L2-L3、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換の複素環基、-AB、-COOM5からなる群から選択される置換基を表す。
上記において、M5は、それぞれ独立に、1価のカチオンを表す。1価のカチオンとしては、例えば、水素原子、アルカリ金属、及び4級アミン等が挙げられる。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、及びセシウム等が挙げられる。
【0039】
一実施形態において、X1~X16の少なくとも1つ、好ましくは4つ以上は、上記置換基であることが好ましい。一実施形態において、色素骨格に対する上記置換基は、それぞれ独立して、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は-ABであることが好ましい。
【0040】
上記式-ABにおいて、Aは、第16族元素を表す。第16族元素としては、酸素、硫黄、セレン、及びテルル等が挙げられる。一実施形態において、Aは、酸素、硫黄、又はセレンであることが好ましい。合成の容易さ、及び安定性の点から、酸素、又は硫黄がより好ましい。蛍光強度の点から、酸素がさらに好ましい。Bは、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。一実施形態において、Bは、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、又は置換もしくは無置換のアリール基であることが好ましい。したがって、一実施形態において、-ABは、-OR、-OAr、-SR、又は-SArであることが好ましい。ここで、Rはアルキル基を表し、Arはアリール基を表す。細胞膜透過性の観点から、-ABは-OR又は-SRであることが好ましく、さらに上記アルキル基は、炭素数1~5の直鎖又は分岐のアルキル基であることがより好ましい。
【0041】
Yは、2価~5価の金属原子を表し、kは整数である。Yが2価の金属原子である場合のkは0であり、Yが3価の金属原子である場合のkは1であり、Yが4価または5価の金属原子である場合のkは2である。2価の金属原子としては、Mg、Cu、Zn等が挙げられる。3価の金属原子としては、Al、Ga、In等が挙げられる。4価の金属原子としては、Si、Mn、Sn、Cr、Zr等が挙げられる。5価の金属原子としては、P等が挙げられる。蛍光強度の観点からは、Yは、Mg、Zn、Al、Si、又はPであることが好ましく、さらに耐光性の観点からAl、又はSiが好ましい。
【0042】
一実施形態において、X1~X16は、隣接する置換基同士が互いに連結して、環を形成してもよい。上記環の構造は、シクロアルキル、シクロアルケン、アリール、ヘテロアリールのいずれであってもよく、フタロシアニン骨格における芳香環との縮合環を形成する。上記環の構造は、さらに置換基を有してもよく、非置換であってもよい。環の構造を形成する炭素数は、2~30であってよく、4~6の範囲が好ましい。環は、5員環又は6員環であることが好ましい。
一実施形態において、隣接する置換基同士が互いに連結してフェニレン基を形成することが好ましい。この場合、フタロシアニン骨格における芳香環と結合し、ナフタレン構造が形成される。他の実施形態において、隣接する置換基同士が互いに連結して窒素原子を含む環を形成してもよい。この場合、フタロシアニン骨格における芳香環と結合し、例えば、イミダゾール構造が形成される。上記ナフタレン構造又はイミダゾール構造などの環構造は、さらにアルキル基又はアリール基などの置換基を有してもよい。
【0043】
X17は、-Z-L1-L2-L3、水酸基、ハロゲン元素、置換または無置換のアルコキシ基、置換または無置換のアリールオキシ基、-OP(=O)V1V2、-OC(=O)V3、-OS(=O)2V4、-OSiV5V6V7を表す。一実施形態において、X17は、-Z-L1-L2-L3、又は水酸基であることが好ましい。Z、L1、L2、及びL3は、先に説明したとおりである。
【0044】
上記において、V1及びV2は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
V3は、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
V4は、水酸基、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
V5~V7は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
【0045】
一実施形態において、下記一般式(3)又は(4)で表されるボロンジピロメテンを蛍光標識用色素として好適に使用することができる。上記蛍光標識用色素を構成する蛍光色素が、下記一般式(3)又は(4)で表される化合物を含む場合、色素の骨格に由来して、イン・ビトロ及びイン・ビボでのバイオイメージングに適した波長(例えば、650~900nm)での発光を容易に得ることができる。
【0046】
【0047】
式中、X18~X25は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基を表す。前記X18とX19、X19とX20、X22とX23、X23とX24は互いに協働して、イオウ、酸素、窒素及びリンから成る群より選ばれる少なくとも1個のヘテロ原子を含む5員若しくは6員のヘテロ環を形成するか、炭素原子のみからなる6員のベンゼン環を形成してもよい。形成した環上の置換基は-Z-L1-L2-L3、水素原子、又はハロゲン原子より選ばれるいずれかを有する。Z、L1、L2、及びL3は、先に説明したとおりである。
一実施形態において、X18とX19、X23とX24を縮環させ、5員のヘテロ環、又は6員のベンゼン環を有することが好ましい。また、一実施形態において、X18とX19、X23とX24を縮環させ、酸素原子を含む5員のヘテロ環を有することが好ましい。
【0048】
前記W1~W4はそれぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、複素環基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルケニル基、又はアルキニル基を表し、これらは置換基を有していてもよく、W1とW2およびW3とW4は互いに連結して環を形成してもよい。一実施形態において、W1~W4はハロゲン原子であることが好ましい。
【0049】
前記Qは炭素原子又は窒素原子を表す。ただし、Qが窒素原子の場合にはR4およびR8は存在しない。一実施形態において、Qは炭素原子であることが好ましい。
【0050】
ここで、上記X1~X25、V1~V7、R1~R4及びW1~W4におけるアルキル基は、それぞれ独立して選択される。アルキル基は、置換基を有しても、非置換であってもよい。
アルキル基としては、直鎖状または分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基、イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、2-エチルヘキシル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、sec-ペンチル基、tert-ペンチル基、tert-オクチル基、及びネオペンチル基等を挙げることができる。アルキル基の炭素数は、1~30の範囲内であることが好ましい。上記炭素数は、1~20の範囲がより好ましく、1~5の範囲がさらに好ましい。
【0051】
上記アルキル基における置換基としては、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、水酸基、アミノ基、ニトロ基、ホルミル基、シアノ基、カルボキシル基等の他、上述したアルキル基、後述するアリール基、シクロアルキル基、複素環基が挙げられる。また、構造の一部が、アミド結合(-NHCO-)、エステル結合(-COO-)、エーテル結合(-O-)、ウレア結合(-NHCONH-)、又はウレタン結合(-NHCOO-)で置換されている場合、その置換部分も「置換基」とみなす。
【0052】
したがって、置換アルキル基としては、上記の置換基で置換されたアルキル基を意味する。置換アルキル基は、一つ又は二つ以上の置換基で置換されたアルキル基であってもよい。例えば、ハロゲン原子で置換されたアルキル基の具体例としては、トリフルオロメチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、-(CF2)4CF3、-(CF2)5CF3、-(CF2)6CF3、-(CF2)7CF3、-(CF2)8CF3、トリクロロメチル基、2,2-ジブロモエチル基等を挙げることができる。
【0053】
アミド結合で置換されたアルキル基の具体例としては、-CH2-CH2-CH2-NHCO-CH2-CH3、-CH2-CH(-CH3)-CH2-NHCO-CH2-CH3、-CH2-CH2-CH2-NHCO-CH2-CH3、-CH2-CH2-CH2-CH2-NHCO-CH2-CH(CH2-CH3)-CH2-CH2-CH2-CH3、-(CH2)5-NHCO-(CH2)11-CH3、-CH2-CH2-CH2-C(-NHCO-CH2-CH3) 3等を挙げることができる。アミド結合で置換されたアルキル基の炭素数は、2~30の範囲内であることが好ましい。上記炭素数は、2~10の範囲がより好ましく、2~5の範囲がさらに好ましい。
【0054】
エステル結合で置換されたアルキル基の具体例としては、-CH2-CH2-CH2-COO-CH2-CH3、-CH2-CH(-CH3)-CH2-COO-CH2-CH3、-CH2-CH2-CH2-OCO-CH2-CH3、-CH2-CH2-CH2-CH2-COO-CH2-CH(CH2-CH3)-CH2-CH2-CH2-CH3、-(CH2)5-COO-(CH2)11-CH3、-CH2-CH2-CH2-CH-(COO-CH2-CH3) 2等を挙げることができる。エステル結合で置換されたアルキル基の炭素数は、2~30の範囲内であることが好ましい。上記炭素数は、2~10の範囲がより好ましく、2~5の範囲がさらに好ましい。
【0055】
エーテル結合で置換されたアルキル基の具体例としては、-CH2-O-CH3、-CH2-CH2-O-CH2-CH3、-CH2-CH2-CH2-O-CH2-CH3、-(CH2-CH2-O)n-CH3(ここでnは1から8の整数である)、-(CH2-CH2-CH2-O)m-CH3(ここでmは1から5の整数である)、-CH2-CH(CH3)-O-CH2-CH3-、-CH2-CH-(OCH3)2等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。エーテル結合で置換されたアルキル基の炭素数は、2~30の範囲内であることが好ましい。上記炭素数は、2~10の範囲がより好ましく、2~5の範囲がさらに好ましい。
【0056】
ウレア結合(-NHCONH-)で置換されたアルキル基の具体例としては、-CH2-NHCONH-CH3、-CH2-CH2-NHCONH-CH2-CH3、-CH2-CH2-CH2-NHCONH-CH2-CH3、-(CH2-CH2-NHCONH)n-CH3(ここでnは1から8の整数である)、-(CH2-CH2-CH2-NHCONH)m-CH3(ここでmは1から5の整数である)、-CH2-CH(CH3)-NHCONH-CH2-CH3-、-CH2-CH-(NHCONHCH3)2等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。エーテル結合で置換されたアルキル基の炭素数は、2~30の範囲内であることが好ましい。上記炭素数は、2~10の範囲がより好ましく、2~5の範囲がさらに好ましい。
【0057】
ウレタン結合で置換されたアルキル基の具体例としては、-CH2-CH2-CH2-NHCOO-CH2-CH3、-CH2-CH(-CH3)-CH2-NHCOO-CH2-CH3、-CH2-CH2-CH2-NHCOO-CH2-CH3、-CH2-CH2-CH2-CH2-NHCOO-CH2-CH(CH2-CH3)-CH2-CH2-CH2-CH3、-(CH2)5-NHCOO-(CH2)11-CH3、-CH2-CH2-CH2-CH-(NHCOO-CH2-CH3) 2等を挙げることができる。エステル結合で置換されたアルキル基の炭素数は、2~30の範囲内であることが好ましい。上記炭素数は、2~10の範囲がより好ましく、2~5の範囲がさらに好ましい。
【0058】
アミド結合(-NHCO-)、エステル結合(-COO-)、およびエーテル結合(-O-)、ウレア結合(-NHCONH-)、ウレタン結合(-NHCOO-)のうち2種以上の置換基で置換されたアルキル基の具体例としては、-CH2-CH2-NHCO-CH2-CH2-O-CH2-CH(CH2-CH3)-CH2-CH2-CH2-CH3、-CH2-CH2-COO-CH2-CH2-O-CH2-CH2-NHCOO-CH2-CH(CH2-CH3)-CH2-CH2-CH2-CH3、-CH2-CH2-NHCO―CH2(OCO-CH2)-CH2-を挙げることができる。アミド結合(-NHCO-)、エステル結合(-COO-)、エーテル結合(-O-)、ウレア結合(-NHCONH-)、およびウレタン結合(-NHCOO-)のうち2種以上の置換基で置換されたアルキル基の炭素数は、3~30の範囲内であることが好ましい。上記炭素数は、3~10の範囲がより好ましく、3~5の範囲がさらに好ましい。
【0059】
上記X1~X25、V1~V7、R1~R8及びW1~W4におけるアリール基は、それぞれ独立して選択される。アリール基は、置換基を有しても、非置換であってもよい。
アリール基としては、単環、又は縮合多環のアリール基が挙げられる。例えば、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、p-ビフェニル基、m-ビフェニル基、2-アントリル基、9-アントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、9-フェナントリル基、2-フルオレニル基、3-フルオレニル基、9-フルオレニル基、1-ピレニル基、2-ピレニル基、3-ペリレニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、4-メチルビフェニル基、ターフェニル基、4-メチル-1-ナフチル基、4-tert-ブチル-1-ナフチル基、4-ナフチル-1-ナフチル基、6-フェニル-2-ナフチル基、10-フェニル-9-アントリル基、スピロフルオレニル基、2-ベンゾシクロブテニル基等が挙げられる。アリール基の炭素数は6~18の範囲内であることが好ましい。上記炭素数は、6~10の範囲がより好ましい。
置換アリール基の置換基としては、上記アルキル基における置換基として例示した置換基と同じであってよい。
【0060】
上記X1~X16におけるシクロアルキル基は、それぞれ独立して選択される。シクロアルキル基は、置換基を有しても、非置換であってもよい。シクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロへキシル基、2,5-ジメチルシクロペンチル基、4-tert-プチルシクロヘキシル基等が挙げられる。また、シクロアルキル基の炭素数は3~12の範囲内であることが好ましい。上記炭素数は3~6の範囲内であることがより好ましい。置換シクロアルキル基の置換基は、上記アルキル基における置換基として例示した置換基と同じであってよい。
【0061】
上記X1~X16及びW1~W4におけるアルケニル基は、それぞれ独立して選択される。アルケニル基は、置換基を有しても、非置換であってもよい。アルケニル基としては、直鎖状または分岐鎖状のアルケニル基が挙げられる。アルケニル基は、一般的に、その構造内に一つの二重結合を有する基を指すが、本明細書において、アルケニル基は、その構造内に複数の二重結合を有してもよい。アルケニル基の具体例としては、ビニル基、1-プロペニル基、アリル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、イソプロペニル基、イソブテニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、1-ヘキセニル基、2-ヘキセニル基、3-ヘキセニル基、4-ヘキセニル基、1,3-ブタジエニル基等を挙げることができる。アルケニル基の炭素数は、2~18の範囲内であることが好ましい。上記炭素数は、2~10であることがより好ましく、2~5であることがさらに好ましい。置換アルケニル基の置換基としては、上記アルキル基における置換基として例示した置換基と同じであってよい。
【0062】
上記R2、R3、X1~X24、V3~V7及びW1~W4における複素環基は、それぞれ独立して選択される。複素環基は、置換基を有しても、非置換であってもよい。
複素環基としては、脂肪族複素環基や芳香族複素環基が挙げられる。具体例としては、ピリジル基、ピラジル基、ピペリジノ基、ピラニル基、モルホリノ基、アクリジニル基等が挙げられる。また、下記構造式で表される基も挙げられる。複素環基の炭素数(環を構成する炭素数)は、4~12であることが好ましい。環員数は、5~13であることが好ましい。
【0063】
【0064】
置換複素環基の置換基としては、上記アルキル基における置換基として例示した置換基と同じであってよい。置換複素環基は、例えば、複素環基3-メチルピリジル基、N-メチルピペリジル基、N-メチルピローリル基等が挙げられる。
【0065】
上記X17、R1、V1、W1~W4におけるアルコキシ基は、それぞれ独立して選択される。アルコキシ基は、置換基を有しても、非置換であってもよい。
アルコキシ基としては、直鎖状または分岐鎖状のアルコキシル基が挙げられる。具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ネオペンチルオキシ基、2,3-ジメチル-3-ペンチルオキシ基、n-へキシルオキシ基、n-オクチルオキシ基、ステアリルオキシ基、2-エチルへキシルオキシ基等が挙げられる。アルコキシル基の炭素数は1~6の範囲内であることが好ましい。
置換アルコキシル基の置換基としては、上記アルキル基における置換基として例示した置換基と同じであってよい。
【0066】
置換アルコキシ基の置換基としては、上記アルキル基における置換基として例示した置換基と同じであってよい。置換アルコキシ基の具体例としては、トリクロロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基、2,2,2-トリフルオロエトキシ基、2,2,3,3-テトラフルオロプロポキシ基、2,2-ビス(トリフルオロメチル)プロポキシ基、2-エトキシエトキシ基、2-ブトキシエトキシ基、2-ニトロプロポキシ基、ベンジルオキシ基等が挙げられる。
【0067】
上記X17、R1、V1、W1~W4におけるアリールオキシ基は、それぞれ独立して選択される。アリールオキシ基は、置換基を有しても、非置換であってもよい。
アリールオキシ基としては、単環または縮合多環のアリールオキシ基が挙げられる。具体例としては、フェノキシ基、p-メチルフェノキシ基、ナフチルオキシ基、アンスリルオキシ基等が挙げられる。アリールオキシ基は、単環のアリールオキシ基が好ましい。また、炭素数6~12のアリールオキシ基が好ましい。
【0068】
置換アリールオキシ基の置換基としては、上記アリール基における置換基として例示した置換基と同じであってよい。置換アリールオキシ基として、例えば、p-ニトロフェノキシ基、p-メトキシフェノキシ基、2,4-ジクロロフェノキシ基、ペンタフルオロフェノキシ基、2-メチル-4-クロロフェノキシ基等が挙げられる。
【0069】
上記Z、及びL2におけるアルキレン基は、それぞれ独立して選択される。アルキレン基は、置換基を有しても、非置換であってもよい。アルキレン基としては、上記アルキル基から一つの水素原子を除いた二価の基が挙げられる。置換もしくは無置換のアルキレン基の具体例としては、-CH2-CH2-、-CH2-CH2-CH2-NHCO-CH2-CH2-、-CH2-CH2-CH2-OCO-CH2-CH2-、-CH2-CH2-CH2-O-CH2-CH2-等が挙げられる。
【0070】
上記Z、及びL2におけるアリーレン基は、それぞれ独立して選択される。アリーレン基は、置換基を有しても、非置換であってもよい。アリーレン基としては、アリール基から一つの水素原子を除いた二価の基が挙げられる。アリーレン基は、炭素数6~10の範囲であることが好ましい。一実施形態において、アリーレン基は、フェニレン基、またはナフチレン基であってよい。置換もしくは無置換のアリーレン基の具体例としては、下記構造式で表される基が挙げられる。
【0071】
【0072】
W1~W4におけるアルキニル基は、それぞれ独立して選択される。アルキニル基は、置換基を有しても、非置換であってもよい。アルキニル基としては、直鎖状または分岐鎖状のアルキニル基が挙げられる。アルキニル基は、一般的に、その構造内に一つの三重結合を有する基を指すが、本明細書において、アルキニル基は、その構造内に複数の三重結合を有してもよい。アルケニル基の具体例としては、エチニル基、プロピニル基、プロパルギル基、アルコールプロパルギル基等が挙げられる。アルキニル基の炭素数は、2~5であることが好ましい。
【0073】
W1~W4におけるアルキルチオ基は、それぞれ独立して選択される。アルキルチオ基は、置換基を有しても、非置換であってもよい。アルキルチオ基としては、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基、オクチルチオ基、2-エチルヘキシルチオ基などのアルキルチオ基が挙げられる。また、アルキルチオ基の炭素数は1~5の範囲内であることが好ましい。
【0074】
置換アルキルチオ基の置換基としては、上記アルキル基における置換基として例示した置換基と同じであってよい。
【0075】
W1~W4におけるアリールチオ基は、それぞれ独立して選択される。アリールチオ基は、置換基を有しても、非置換であってもよい。アリールチオ基としては、例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基、アンスリルチオ基、フェナントリルチオ基、ピレニルチオ基などのアリールチオ基が挙げられる。また、アリールチオ基の炭素数は1~5の範囲内であることが好ましい。
【0076】
置換アリールチオ基の置換基としては、上記アルキル基における置換基として例示した置換基と同じであってよい。
【0077】
本発明の一実施形態は、上記蛍光標識用色素を含む蛍光標識剤に関する。この蛍光標識剤は、生化学研究から医療診断までの幅広い分野において、バイオイメージングでの蛍光標識のために応用可能である。例えば、遺伝子診断分野、免疫診断分野、医療開発分野、再生医療分野、環境試験分野、バイオテクノロジー分野、及び蛍光検査等の分野において、蛍光標識等の用途で使用することができる。蛍光標識対象となる生体物質としては、特に限定するものではないが、細胞、細胞小器官(オルガネラ)、エクソソーム等の細胞外小胞、リポソーム等の固体脂質ナノ粒子等が挙げられる。
【0078】
上記実施形態の蛍光標識剤において、蛍光標識用色素の濃度は特に限定されない。例えば、細胞を取り扱う場合、細胞の機能障害、及び増殖阻害等への影響を考慮すると、蛍光標識用色素の濃度は低い方が好ましい。一実施形態において、例えば、96ウェルプレートに播種した10,000cells/wellの細胞に対する上記蛍光標識用色素の濃度は、100μM以下であることが好ましい。上記濃度は、50μM以下であることがより好ましく、10μM以下であることがさらに好ましい。上記実施形態の蛍光標識用色素によれば、優れた細胞膜透過性によって、低濃度であっても高い蛍光強度でイメージングできる。そのため、例えば2μM以下の低濃度であっても、より高精度な検出を行うことができる。
【0079】
上記実施形態の蛍光標識剤は、上記実施形態の蛍光標識用色素を含有していればよいが、必要に応じて、その他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、当技術分野で周知の成分であってよい。例えば、溶剤、及び両親媒性物質等が挙げられる。
【0080】
溶剤は、水、又は有機溶剤であってよく、水がより好ましい。蛍光標識用色素の溶解性を考慮し、水と有機溶剤とを混合して使用してもよい。例えば、有機溶剤は、エタノール、又はジメチルスルホキシド(DMSO)が好ましい。
【0081】
両親媒性物質とは、一つの分子内に親水基と疎水基とを有する化合物の総称である。具体例として、界面活性剤、又はリン脂質等が挙げられる。両親媒性物質は、1類のみを使用しても、又は2種以上を混合して使用してもよい。上記実施形態の蛍光標識用色素において、両親媒性物質は、特に限定されず、近赤外領域で蛍光を発する非水溶性の蛍光色素を水に可溶化できれば、いかなる化合物でもよい。特に限定するものではないが、使用できる両親媒性物質の具体例を以下に挙げる。
【0082】
界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、及び高分子界面活性剤などを挙げることができる。
【0083】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、Tween(登録商標)20、Tween(登録商標)40、Tween(登録商標)60、及びTween(登録商標)80等のポリオキシエチレンソルビタン系脂肪酸エステル、Cremophor(登録商標)EL、及びCremophor(登録商標)RH60等のポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、Solutol(登録商標)HS 15等の12-ヒドロキシステアリン酸-ポリエチレングリコールコポリマー、並びに、Triton(登録商標)X-100、及びTriton(登録商標)X-114等のオクチルフェノールエトキシレート、などを挙げることができる。
【0084】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム等のアルキルトリメチルアンモニウム塩、塩化セチルピリジニウム等のアルキルピリジニウム塩、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、及び塩化ポリ(N,N’-ジメチル-3,5-メチレンピペリジニウム)等のアルキル四級アンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、アルキルイソキノリニウム塩、ジアルキルモリホニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアミン塩、ポリアミン脂肪酸誘導体、アミルアルコール脂肪酸誘導体、塩化ベンザルコニウム、及び塩化ベンゼトニウム、などを挙げることができる。
【0085】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホネート、デシルベンゼンスルホネート、ウンデシルベンゼンスルホネート、トリデシルベンゼンスルホネート、及びノニルベンゼンスルホネート、並びにこれらのナトリウム、カリウム及びアンモニウム塩などが挙げられる。
【0086】
高分子界面活性剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリエチレングリコール-ポリアルキル、ポリエチレングリコール-ポリ乳酸、ポリエチレングリコール-ポリカプロラクトン、ポリエチレングリコール-ポリグリコール酸、ポリエチレングリコール-ポリ(ラクチド-グリコリド)等のブロック共重合体を挙げることができる。
【0087】
一実施形態において、上記実施形態の蛍光標識剤は、両親媒性物質として上記例示した化合物の1種又は2種以上を含んでよい。しかし、上記実施形態の蛍光標識剤は、細胞膜透過性に優れるため、両親媒性物質を必要とすることなく、高い感度での検出が可能である。
【0088】
原料であるフタロニトリル誘導体が非対称の構造である場合、フタロシアニンは、置換基の位置が異なる異性体の混合物として得られる。以下、本明細書においては、フタロシアニン構造の一例のみを示すが、置換基の位置が異なる異性体を排除するものではない。
【0089】
本発明の一実施形態である蛍光標識用色素の具体例としては、以下が挙げられる。但し、本発明による蛍光標識用色素は、これらに限定されない。
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
【実施例】
【0094】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。なお、実施例中「部」とは、「質量部」を表す。
【0095】
(質量分析)
質量分析装置(TOF-MS:ブルカー・ダルトニクス社製 autoflexII)により分析した。
【0096】
<I>蛍光標識用色素
[製造例1]
<化合物A-1の製造方法>
キノリン50部と四塩化ケイ素1部との溶液に、アンモニアガスを導入し、さらに3-エトキシフタロニトリルを3部添加し、これらを180℃で7時間反応させた。この反応液を室温まで冷却した後、メタノール200部、及び10%塩酸水溶液200部を加えた。次いで、析出した固体をろ取し、水200部で固体の洗浄を行った。洗浄後の固体を80℃で乾燥させ、表2に示す化合物A-1を得た(収率80.2%)。質量分析の結果、m/z=787.54(理論値787.17)に分子イオンピークが検出され、表2に示す化合物A-1の構造を有することが同定された。
【0097】
[製造例2~6]
<化合物A-2~A-6の製造方法>
化合物A-1の製造方法で使用した3-エトキシフタロニトリルと四塩化ケイ素を、表2に示すフタロニトリル誘導体と金属源に変更した以外は、化合物A-1の製造と同様にして、表2に示す化合物A-2~A-6をそれぞれ製造した。なお、フタロニトリル誘導体、及び金属源は、化合物A-1の製造における3-エトキシフタロニトリル、及び四塩化ケイ素と同じモル量で使用した。得られた化合物A-2~A-6の構造は、質量分析によって同定し、表2に示した構造を有することが確認された。表2にマススペクトルの分析結果を示す。
【0098】
【0099】
【0100】
[製造例7]
<化合物B-1の製造方法>
キノリン50部と無水塩化アルミニウム1部との溶液に、アンモニアガスを導入し、さらに3-エトキシフタロニトリルを3.8部と4―フルオロフタロニトリルを1.1部添加した。これらを180℃で7時間反応させた。この反応液を室温まで冷却した後、メタノール200部と10%塩酸水溶液200部を加えた。次いで、析出した固体をろ取し、水200部で固体の洗浄を行った。洗浄後の固体(粗製物)を、中圧分取液体クロマトグラフ(山善製Smart Flash AKROS)を用いて精製した。得られた精製物を80℃で乾燥させ、表3に示す化合物B-1を得た(収率30.5%)。質量分析の結果、m/z=707.30(理論値707.20)に分子イオンピークが検出され、表3に示す化合物B-1の構造を有することが同定された。
【0101】
【0102】
[実施例1]
<蛍光標識用色素1の製造方法>
化合物A-1を1部と、アジピン酸0.6部とをピリジンに溶解させ、この溶液を115℃で3時間還流して反応液を得た。エバポレーターを用いて反応液からピリジンを除去した後、エタノール10部と水50部の混合溶液を加えた。次いで、析出した固体をろ取し、水50部で固体の洗浄を行った。洗浄後の固体を80℃で乾燥させ、表1に示す蛍光標識用色素1を得た(収率33.7%)。質量分析の結果、m/z=1007.54(理論値1007.33)に分子イオンピークが検出され、表1に示す蛍光標識用色素1の構造を有することが同定された。
【0103】
[実施例2~18]
<蛍光標識用色素1~5、7~11、13~20の製造方法>
蛍光標識用色素1の製造方法で使用した化合物A-1とアジピン酸を表4に示す化合物Aと軸配位子に変更した以外は、蛍光標識用色素1の製造と同様にして、表1に示す蛍光標識用色素1~5、7~11、13~20をそれぞれ製造した。なお、化合物Aは、蛍光標識用色素1の製造における化合物A-1と同じモル量で使用した。得られた蛍光標識用色素2~5の構造は、質量分析によって同定し、表1に示した構造を有することが確認された。表4にマススペクトルの分析結果を示す。
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
[実施例19]
<蛍光標識用色素6の製造方法>
蛍光標識用色素5を1部と、ヨウ化メチルを0.8部と、炭酸カリウム0.8部とをテトラヒドロフラン50部に溶解させ、この溶液を25℃で5時間反応させた。エバポレーターを用いて反応液からテトラヒドロフランを除去した後、テトラヒドロフラン20部と水60部を加えた。次いで、析出物した固体をろ取し、水60部で固体の洗浄を行った。洗浄後の固体を80℃で乾燥させ、0.21部の表1に示す蛍光標識用色素6を得た(収率33.3%)。質量分析の結果、m/z(positive)=1193.55(理論値[M-I]+=1193.42)に分子イオンピークが検出され、表1に示す蛍光標識用色素6の構造を有することが同定された。
【0109】
[実施例20]
<蛍光標識用色素12の製造方法>
蛍光標識用色素6の製造方法で使用した蛍光標識用色素5を蛍光標識用色素11に変更した以外は、蛍光標識用色素6の製造と同様にして、表1に示す蛍光標識用色素12を製造した。蛍光標識用色素11は、蛍光標識用色素6の製造における蛍光標識用色素5と同じモル量で使用した。質量分析の結果、m/z(positive)=890.11(理論値[M-I]+=890.38)に分子イオンピークが検出され、表1に示す蛍光標識用色素12の構造を有することが同定された。
【0110】
[実施例21]
<蛍光標識用色素21の製造方法>
化合物B-1を1.0部と、(2-カルボキシエチル)フェニルホスフィン酸0.6部とをジメチルスルホキシド50部に溶解させ、さらに1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン0.4部を添加した後、この溶液を90℃で8時間反応させた。この反応液を室温まで冷却した後、水100部を加えた。次いで、析出した固体をろ取し、水50部で固体の洗浄を行った。得られた固体(粗製物)を中圧分取液体クロマトグラフ(山善製Smart Flash AKROS)を用いて精製した。得られた精製物を80℃で乾燥させ、表1に示す蛍光標識用色素21を得た(収率60.1%)。質量分析の結果、m/z=901.46(理論値901.24)に分子イオンピークが検出され、表1に示す蛍光標識用色素21の構造を有することが同定された。
【0111】
[実施例22]
<蛍光標識用色素22の製造方法>
蛍光標識用色素21の製造方法で使用した(2-カルボキシエチル)フェニルホスフィン酸を、1,4-フェニレン二酢酸に変更した以外は、蛍光標識用色素21の製造と同様にして、表1に示す蛍光標識用色素22を製造した。1,4-フェニレン二酢酸は、蛍光標識用色素21の製造における(2-カルボキシエチル)フェニルホスフィン酸と同じモル量で使用した。得られた蛍光標識用色素22の構造は、質量分析によって同定し、表1に示した構造を有することが確認された。質量分析の結果、m/z=881.44(理論値881.25)に分子イオンピークが検出され、表1に示す蛍光標識用色素22の構造を有することが同定された。
【0112】
[製造例1]
<化合物C-1の製造方法>
表5のピロール-2-カルボン酸誘導体1.0部を出発原料とし、有機酸としてトリフルオロ酢酸を85.1部加えて50℃で溶解させた。さらに、使用した有機酸の酸無水物31.4部を添加した後、この溶液を90℃で6時間反応させた。この反応液を室温まで冷却した後、氷、炭酸水素ナトリウム174.2部を加えた。次いで、塩化アンモニウム44.0部を加え、析出した固体をろ取し、減圧乾燥で十分に乾かしてから、新しい反応容器に入れた。そこにトリエチルアミン2.5部とN-メチル―2―ピロリドン42.3部を加えて溶解させたのち、トリフルオロホウ素ジエチルエーテル錯体を5.2部添加し、この溶液を80℃で4時間反応させた。塩化アンモニウム5.2部を加え、酢酸エチルによる分液操作によって得られた有機相を乾燥させ、粗生成物を得た。粗製物を中圧分取液体クロマトグラフ(山善製Smart Flash AKROS)を用いて精製し、表5に示す化合物C-1を得た(収率15.0%)。質量分析の結果、m/z=525.02(理論値525.10)に分子イオンピークが検出され、表5に示す化合物C-1の構造を有することが同定された。
【0113】
【0114】
[実施例23]
<蛍光標識用色素23の製造方法>
1.0部の化合物C-1を出発原料とし、テトラヒドロフラン70.3部で溶解させ、溶液を0℃まで冷却した。さらに、3-ブロモプロピオン酸0.54部を添加し、ナトリウムヒドリド0.14部をゆっくり添加した後、この溶液を還流攪拌で4時間反応させた。この反応液を室温まで冷却した後、塩化アンモニウム水溶液で中和した。次いで、水100部を加えて、析出した固体をろ取し、減圧乾燥で十分に乾かして表3に示す蛍光標識用色素23を0.61部得た(収率50.0%)。質量分析の結果、m/z=669.42(理論値669.14)に分子イオンピークが検出され、表1に示す蛍光標識用色素23の構造を有することが同定された。
【0115】
[実施例24]
<蛍光標識用色素24の製造方法>
蛍光標識用色素23の製造方法で使用した3-ブロモプロピオン酸を(2-ブロモエチル)ホスホン酸に変更した以外は、蛍光標識用色素23の製造と同様にして、表1に示す蛍光標識用色素24を製造した。なお、(2-ブロモエチル)ホスホン酸は、蛍光標識用色素23の製造における3-ブロモプロピオン酸と同じモル量で使用した。得られた蛍光標識用色素24の構造は、質量分析によって同定し、表1に示した構造を有することが確認された。質量分析の結果、m/z=741.24(理論値741.09)に分子イオンピークが検出され、表1に示す蛍光標識用色素24の構造を有することが同定された。
【0116】
[比較例1]
<比較化合物1の製造方法>
キノリン30部と、無水塩化アルミニウム0.2部との溶液に、アンモニアガスを導入し、さらに3-(2,6-ジメチル-3-ペントキシ)フタロニトリルを1.0部添加し、この溶液を180℃で7時間反応させた。この反応液を室温まで冷却した後、メタノール200部と10%塩酸水溶液200部を加えた。次いで、析出した固体をろ取し、水200部で固体の洗浄を行った。洗浄後の固体を80℃で乾燥させ、表6に示す比較化合物1を得た(収率85.4%)。質量分析の結果、m/z=1031.45(理論値1031.52)に分子イオンピークが検出され、表6に示す比較化合物1の構造を有することが同定された。
【0117】
[比較例2]
<比較化合物2の製造方法>
比較化合物を1.0部と、トリフェニルシラノール0.35部とをジメチルスルホキシド20部に溶解させ、この溶液を80℃で8時間反応させた。この反応液を室温まで冷却した後、水50部と食塩10部を加えた。次いで、析出した固体をろ取し、水50部で固体の洗浄を行った。洗浄後の固体を80℃で乾燥させ、1.00部の表6に示す比較化合物2を得た(収率80.5%)。質量分析の結果、m/z=1271.53(理論値1271.64)に分子イオンピークが検出され、表6に示す比較化合物2の構造を有することが同定された。
【0118】
[比較例3]
比較化合物3として、Sigma Aldrichより購入した「Aluminum 1,8,15,22-tetrakis(phenylthio)-29H,31H-phthalocyanine chloride」を使用した。
【0119】
[比較例4]
比較化合物4として、化合物A-1を使用した。
【0120】
[比較例5]
比較化合物5として、化合物A-2を使用した。
【0121】
【0122】
<II>色素溶液
[実施例25]
<色素溶液1の調製>
ジメチルスルホキシド10mlに蛍光標識用色素1を0.2014mg溶解した。この溶液を孔径0.2μmのナイロン製メンブレンフィルターを用いてろ過し、色素濃度20μMの色素溶液1を調製した。
【0123】
[実施例26~48]
<色素溶液2~24の調製>
色素溶液1の調製で使用した蛍光標識用色素1を、表7に示す蛍光標識用色素と溶剤に変更した以外は、色素溶液1の調製と同様にして、色素溶液2~24をそれぞれ調製した。但し、各蛍光標識用色素は蛍光標識用色素1と同じモル量使用した。
【0124】
[比較例6~10]
<色素溶液25~29の調製>
色素溶液1の調製で使用した蛍光標識用色素1を、表7に示す蛍光標識用色素に変更した以外は、色素溶液1の調製と同様にして、色素溶液25~29をそれぞれ調製した。但し、各蛍光標識用色素は蛍光標識用色素1と同じモル量使用した。
【0125】
【0126】
<蛍光標識用色素の粒子径の測定>
各々の色素溶液をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で10倍希釈して色素濃度2μMの色素分散液Iを得た後、すぐに粒度分布測定装置(スペクトリス株式会社製、ゼータサイザーナノ ZSP)にて測定した。各蛍光標識用色素の色素分散体のZ平均粒子径を、下記の基準に基づいて判定した。判定結果を表8中の「平均粒子径」に示す。
(判定基準)
4:Z平均粒子径 100nm未満
3:Z平均粒子径 100nm以上~300nm未満
2:Z平均粒子径 300nm以上~500nm以下
1:Z平均粒子径 500nm超
【0127】
<蛍光標識用色素の吸光度維持率の測定>
各々の色素溶液をジメチルスルホキシドで10倍希釈して色素濃度2μMの色素溶液Iを得た後に、分光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製、U-4100)を用いて吸収スペクトルを測定し、最大吸収波長における吸光度A0を得た。また、各々の色素溶液をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で10倍希釈して色素濃度2μMの色素分散液IIを得た後、すぐに上記分光光度計を用いて吸収スペクトルを測定し、最大吸収波長における吸光度A1を得た。得られたA0、A1の値を用いて式(I)から吸光度維持率を算出し、下記の基準に基づいて判定した。判定結果を表8中の「吸光度維持率」に示す。
(判定基準)
4:吸光度維持率 0.8以上
3:吸光度維持率 0.8未満~0.5以上
2:吸光度維持率 0.5未満~0.3以上
1:吸光度維持率 0.3未満
【0128】
図1に、蛍光標識用色素7を20μM含む色素溶液7をジメチルスルホキシドおよびPBSで10倍希釈した時の吸収スペクトルを示す。
【0129】
図2に、比較化合物2を20μM含む色素溶液26をジメチルスルホキシドおよびPBSで10倍希釈した時の吸収スペクトルを示す。
【0130】
<III>蛍光標識剤
<蛍光標識剤の調製>
各々の色素溶液をイーグル最少必須培地で20倍希釈し、1μMの蛍光標識用色素を含む蛍光標識剤を調製した。
【0131】
<蛍光標識用色素の細胞染色性評価>
Hela細胞を96ウェルプレートに播種(1×104 cell/well)し、10%Fetal Bovine Serum(FBS)および1%ペニシリン―ストレプトマイシンを含ませたイーグル最少必須培地を用いて、インキュベーター(37℃、5%CO2含有Air、加湿環境)内で48時間培養した。その後培地を取り除き、上記にて調製した蛍光標識剤を各ウェルに添加した。これをインキュベーター内に1時間静置した後、イーグル最少必須培地で洗浄した。プレートリーダー(TECAN社製、SPARK)を用いて、780~800nmの範囲内で蛍光強度測定を行い、下記の基準に基づいて評価した。評価が2以上である蛍光標識用色素はPBS分散時の色素微粒子の粒子径が小さく、エンドサイトーシスによる細胞膜透過性が良好で、細胞質染色に適しているといえる。評価結果を表8中の「細胞染色時の蛍光強度」に示す。
(評価基準)
4:蛍光強度測定値 2000以上
3:蛍光強度測定値 2000未満~1000以上
2:蛍光強度測定値 1000未満~500以上
1:蛍光強度測定値 500未満
【0132】
図3に、蛍光標識用色素7を用いて細胞染色した時の蛍光顕微鏡観察画像を示す(倍率:40倍、蛍光取り込み時間:1秒)。
【0133】
図4に、比較化合物2を用いて細胞染色した時の蛍光顕微鏡観察画像を示す(倍率:40倍、蛍光取り込み時間:1秒)。
【0134】
上記の結果から、本発明の蛍光標識用色素はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に分散させた際に生じる色素微粒子の平均粒子径が500nm以下と小さく、また細胞染色性が高いことが確認された。一方、比較化合物1~5は、PBSに分散させたときの平均粒子径が大きく、細胞染色性が低いことが確認された。この理由として、比較化合物1~5は色素の疎水性が高いためにPBS添加時に粒子径の大きな色素分散体を形成しやすく、細胞質内への送達効率が大きく低下しているためであると考えられる。また、本発明の蛍光標識用色素は吸光度維持率が高いため、水系溶媒に分散させた場合でも励起光吸収率が低下せず、細胞染色時においても高い蛍光強度を示したと考えられる。よって本発明によれば、蛍光標識用色素を有機溶媒に溶解させた色素溶液をPBSに対して添加した色素分散液において形成される色素分散体の平均粒子径が500nm以下であり、式(I)により算出される吸光度維持率が0.5以上である蛍光標識用色素は、細胞質の染色効率が高く、細胞質染色色素として好適に利用できることを見出した。
【0135】