(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物およびそれからなる成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 101/02 20060101AFI20231114BHJP
C08L 51/04 20060101ALN20231114BHJP
C08L 25/04 20060101ALN20231114BHJP
【FI】
C08L101/02
C08L51/04
C08L25/04
(21)【出願番号】P 2021558593
(86)(22)【出願日】2021-09-21
(86)【国際出願番号】 JP2021034503
(87)【国際公開番号】W WO2022065274
(87)【国際公開日】2022-03-31
【審査請求日】2022-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2020161903
(32)【優先日】2020-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】和泉 隆太郎
(72)【発明者】
【氏名】長谷 隆行
【審査官】南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/072299(WO,A1)
【文献】特開2015-024548(JP,A)
【文献】特開2020-045473(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(A)、変性ポリオレフィン系樹脂(B)、変性ポリオルガノシロキサン(C)およびポリテトラフルオロエチレン(D)を配合してなる熱可塑性樹脂組成物であって、熱可塑性樹脂(A)は変性ポリオレフィン系樹脂(B)を除く熱可塑性樹脂であり、熱可塑性樹脂(A)が
スチレン系樹脂
であり、
変性ポリオレフィン系樹脂(B)が酸無水物変性ポリプロピレン系樹脂であり、変性ポリオルガノシロキサン(C)が脂環式エポキシ変性シリコーンオイルであり、熱可塑性樹脂(A)と変性ポリオレフィン系樹脂(B)の合計100質量部に対して、変性ポリオレフィン系樹脂(B)が0.1質量部以上かつ5質量部以下、変性ポリオルガノシロキサン(C)が0.5質量部以上かつ5質量部以下、ポリテトラフルオロエチレン(D)が1質量部以上かつ10質量部以下である熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
熱可塑性樹脂(A)と変性ポリオレフィン系樹脂(B)の合計を100質量部として、変性ポリオレフィン系樹脂(B)と変性ポリオルガノシロキサン(C)の質量部の積(B)×(C)が7以下である請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
変性ポリオレフィン系樹脂(B)の重量平均分子量が100,000以上である請求項1
または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂、変性ポリオレフィン系樹脂、変性ポリオルガノシロキサンおよびポリテトラフルオロエチレンを特定の割合で組み合わせた、撥水性、撥油性および成形品外観が優れた熱可塑性樹脂組成物およびそれからなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、熱可塑性樹脂を用いた水回り用途等の成形品において、水汚れや油汚れが付着し難くい機能や、容易に付着汚れを除去できる機能等の防汚性ニーズが高まっている。防汚性を付与する手段としては成形品表面の撥水性や撥油性を向上させることが有効であり、優れた防汚性を付与するためには撥水性と撥油性の両立が必須である。
【0003】
特許文献1では熱可塑性樹脂と、少なくとも1個の水酸基を有するシリコーン化合物と、該水酸基と反応する二重結合を少なくとも1個有する炭化水素化合物とを反応させてなる変性シリコーン化合物、および/または側鎖に官能基をもつポリオレフィン系樹脂と、該ポリオレフィン系樹脂のもつ官能基と反応しうる官能基をもつシリコーン化合物とを反応させてなる変性シリコーン化合物からなる剥離性、撥水性に優れた合成樹脂成形品が提案されている。
【0004】
特許文献2では、ゴム質重合体存在下に、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル単量体、その他の共重合可能なビニル系単量体からなる単量体混合物をグラフト共重合体してなるグラフト共重合体と、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル単量体およびその他の共重合可能なビニル系単量体からなる単量体混合物を共重合してなるビニル系共重合体と、エポキシ基、カルボキシル基および酸無水物から選ばれる少なくとも1種の反応基を含有する変性ビニル共重合体と、エポキシ基、カルボキシル基および酸無水物から選ばれる少なくとも1種の反応基を含有する変性ポリオルガノシロキサンからなる撥水性熱可塑性樹脂組成物が提案されている。
【0005】
特許文献3では、共役ジエン系ゴム質重合体および/またはアクリル系ゴム質重合体からなるゴム質重合体存在下に芳香族ビニル化合物、または芳香族ビニル化合物および該芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体からなるビニル系単量体を重合してなるゴム強化スチレン系樹脂、および/または、該ビニル系単量体のスチレン系(共)重合体からなるスチレン系樹脂、オレフィン系樹脂5~90質量%、および芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロックと共役ジエン化合物から主としてなる重合体ブロックとを含有するブロック共重合体およびその水素添加物から選ばれた少なくとも1種のブロック共重合体からなる熱可塑性樹脂組成物からなることを特徴とする自動車内装部品が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平2-202553号公報
【文献】特開平10-316833号公報
【文献】特開2011-168186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の合成樹脂成形品は、官能基を有するシリコーン化合物および官能基を有するポリオレフィン系樹脂等によって、剥離性、撥水性を高めているが、撥油性に関する記載は無く、効果的に防汚性を発現できないおそれがある。特許文献2に記載の撥水性熱可塑性樹脂組成物は、ビニル系共重合体をベースに反応基を有するビニル系共重合体と反応基を有する変性ポリオルガノシロキサンにより撥水性を高めているが、撥油性に関する記載が無く、効果的に防汚性を発現できないおそれがある。特許文献3に記載の自動車内装部品はスチレン系樹脂およびオレフィン系樹脂に加えて、ポリテトラフルオロエチレンやシリコーンオイルの配合について記載されているが、撥水性および撥油性に関して各々成分の併用および相乗効果については記載が無く、効果的に防汚性を発現できないおそれがある。
【0008】
本発明は、熱可塑性樹脂、変性ポリオレフィン系樹脂、変性ポリオルガノシロキサンおよびポリテトラフルオロエチレンを特定の割合で組み合わせることで、撥水性および撥油性を両立させ、かつ成形品外観が優れた熱可塑性樹脂組成物およびその成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の熱可塑性樹脂組成物は次の構成を有する。すなわち、
熱可塑性樹脂(A)、変性ポリオレフィン系樹脂(B)、変性ポリオルガノシロキサン(C)およびポリテトラフルオロエチレン(D)を配合してなる熱可塑性樹脂組成物であって、熱可塑性樹脂(A)は変性ポリオレフィン系樹脂(B)を除く熱可塑性樹脂であり、熱可塑性樹脂(A)がスチレン系樹脂であり、変性ポリオレフィン系樹脂(B)が酸無水物変性ポリプロピレン系樹脂であり、変性ポリオルガノシロキサン(C)が脂環式エポキシ変性シリコーンオイルであり、熱可塑性樹脂(A)と変性ポリオレフィン系樹脂(B)の合計100質量部に対して、変性ポリオレフィン系樹脂(B)が0.1質量部以上かつ5質量部以下、変性ポリオルガノシロキサン(C)が0.5質量部以上かつ5質量部以下、ポリテトラフルオロエチレン(D)が1質量部以上かつ10質量部以下である熱可塑性樹脂組成物、である。
【0010】
本発明の成形品は次の構成を有する。すなわち、上記熱可塑性樹脂組成物からなる成形品、である。
【0011】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と変性ポリオレフィン系樹脂(B)の合計を100質量部として、変性ポリオレフィン系樹脂(B)と変性ポリオルガノシロキサン(C)の質量部の積(B)×(C)が7以下であることが好ましい。
【0012】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)がスチレン系樹脂である。
【0013】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、変性ポリオレフィン系樹脂(B)が酸無水物変性ポリプロピレン系樹脂である。
【0014】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、変性ポリオレフィン系樹脂(B)の重量平均分子量が100,000以上であることが好ましい。
【0015】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、変性ポリオルガノシロキサン(C)が脂環式エポキシ変性シリコーンオイルである。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、撥水性と撥油性を両立させることで優れた防汚性を有し、かつ成形品外観が優れた熱可塑性樹脂組成物およびその成形品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態における熱可塑性樹脂組成物(以下、「樹脂組成物」と記載する場合がある)は、前述の熱可塑性樹脂(A)、変性ポリオレフィン系樹脂(B)、変性ポリオルガノシロキサン(C)およびポリテトラフルオロエチレン(D)を含有する。以下これら各成分について説明する。
【0018】
<熱可塑性樹脂(A)>
本発明に用いる熱可塑性樹脂(A)は変性ポリオレフィン系樹脂(B)を除く熱可塑性樹脂であり、熱可塑性樹脂(A)がスチレン系樹脂であり、優れた撥水性および撥油性は変性ポリオレフィン系樹脂(B)、変性ポリオルガノシロキサン(C)およびポリテトラフルオロエチレン(D)によって達成されるものであり、熱可塑性樹脂(A)としては変性ポリオレフィン系樹脂(B)を除く熱可塑性樹脂である。スチレン系樹脂以外に、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、含ハロゲン系樹脂、アクリル系樹脂から選ばれる少なくとも1種が本発明の効果を損なわない範囲で含まれても良い。
【0019】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、架橋ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、ブロックコポリマーポリプロピレン、アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン、ポリブテン、シクロオレフィンポリマー、ポリ-3-メチル-1-ブテン、ポリ-3-メチル-1-ペンテン、ポリ-4-メチル-1-ペンテン等のα-オレフィン重合体、エチレン-プロピレンのブロック又はランダム共重合体、エチレン-メチルメタクリレート共重合体、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-一酸化炭素-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-ブチルアクリレート共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のα-オレフィン共重合体、ポリフルオロオレフィン、さらにポリオレフィン系熱可塑性エラストマーの少なくとも1種が挙げられる。
【0020】
スチレン系樹脂としては、例えば、芳香族ビニル系単量体単独共重合体、芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体との共重合体、ゴム質重合体の存在下に、少なくとも芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体を含有するビニル系単量体混合物をグラフト重合して得られるグラフト共重合体、芳香族ビニル系単量体と他の単量体、例えば、無水マレイン酸、N-フェニルマレイミド、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、メタクリル酸グリシジル等との共重合体が挙げられ、例えば、ポリスチレン(PS)樹脂、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル-スチレン(AS)樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン(MBS)樹脂、メタクリル酸メチル-アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(MABS)樹脂、スチレン-無水マレイン酸-N-フェニルマレイミド樹脂、スチレン-アクリロニトリル-N-フェニルマレイミド樹脂、α-メチルスチレン-スチレン-アクリロニトリル-ブタジエン、アクリレート-スチレン-アクリロニトリル(ASA)樹脂、スチレン-無水マレイン酸(SMA)樹脂、メタクリレート-スチレン(MS)樹脂、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)樹脂、アクリロニトリル-エチレンプロピレンゴム-スチレン(AES)樹脂、スチレン-ブタジエン-ブチレン-スチレン(SBBS)樹脂、等の熱可塑性樹脂、並びに、これらのブタジエンあるいはイソプレンの二重結合を水素添加したスチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS)樹脂、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン(SEPS)樹脂、スチレン-エチレン-プロピレン(SEP)樹脂、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレン(SEEPS)樹脂等の水素添加スチレン系エラストマー樹脂等の少なくとも1種が挙げられる。
【0021】
ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート等のポリアルキレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリアルキレンナフタレート等の芳香族ポリエステル、ポリテトラメチレンテレフタレート等の直鎖ポリエステル及び、ポリヒドロキシブチレート、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリ乳酸、ポリリンゴ酸、ポリグリコール酸、ポリジオキサン、ポリ(2-オキセタノン)等の分解性脂肪族ポリエステルなどの少なくとも1種が挙げられる。
【0022】
ポリエーテル系樹脂としては、例えば、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエステルアミド等の少なくとも1種が挙げられる。
【0023】
ポリカーボネート系樹脂としては、例えば、ポリカーボネート、分岐ポリカーボネート等の少なくとも1種が挙げられる。
【0024】
ポリアミド系樹脂としては、アミノカルボン酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸とを重縮合してなる樹脂である。ポリアミド樹脂の原料としては、例えば、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸などのアミノカルボン酸、ε-カプロラクタム、ω-ラウロラクタムなどのラクタム、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、5-メチルノナメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどの芳香族ジアミン、アミノメチルシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、アミノエチルピペラジンなどの脂環族ジアミン、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸などを挙げることができる。上記のポリアミド樹脂のうち2種以上を用いてもよい。
【0025】
含ハロゲン系樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、塩化ゴム、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-エチレン共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン-酢酸ビニル三元共重合体、塩化ビニル-アクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル-マレイン酸エステル共重合体、塩化ビニル-シクロヘキシルマレイミド共重合体等の少なくとも1種が挙げられる。
【0026】
アクリル系樹脂としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル(メタクリル酸メチルの単独重合体)、メタクリル酸メチルとメタクリル酸メチル以外の他のアクリルモノマーとの共重合体、メタクリル酸メチルとアクリルモノマー以外の他のビニル系モノマーとの共重合体等の少なくとも1種が挙げられる。
【0027】
また、他の熱可塑性樹脂としては、例えば、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴム、スチレン-ブタジエン共重合ゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム等のゴム質重合体、ポリエステル系エラストマー、ニトリル系エラストマー、ナイロン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー等のエラストマーであってもよく、これらを併用してもよい。
【0028】
本発明に用いる熱可塑性樹脂(A)としては、成形性の観点から少なくとも1種のスチレン系樹脂を含むことが好ましく、さらに耐衝撃性の観点から、少なくとも1種のゴム強化スチレン系樹脂を含むことがより好ましい。
【0029】
ゴム強化スチレン系樹脂の例としては、ゴム質重合体の存在下に、少なくとも芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体を含有するビニル系単量体混合物をグラフト共重合して得られるグラフト共重合体と、少なくとも芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体を含有するビニル系単量体混合物を共重合して得られるビニル系共重合体とを混合した樹脂組成物が特に好ましく挙げられる。その場合、ゴム質重合体としては、例えば、ポリブタジエン、ポリ(ブタジエン-スチレン)(SBR)、ポリ(ブタジエン-アクリロニトリル)(NBR)、ポリアクリル酸ブチル、ポリイソプレン、ポリ(ブタジエン-アクリル酸ブチル)、ポリ(ブタジエン-メタクリル酸メチル)、ポリ(アクリル酸ブチル-メタクリル酸メチル)、ポリ(ブタジエン-アクリル酸エチル)、エチレン-プロピレンラバー、ポリ(エチレン-イソプレン)、ポリ(エチレン-アクリル酸メチル)、天然ゴムなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。なかでも、耐衝撃性をより向上させる観点から、ポリブタジエン、SBR、NBR、ポリアクリル酸ブチル、エチレン-プロピレンラバー、天然ゴムが好ましい。
【0030】
また、グラフト共重合体を構成するゴム質重合体および後述するビニル系単量体混合物の総量に対して、ゴム質重合体の含有量は、20~80重量%が好ましい。ゴム質重合体の含有量が20重量%以上であれば、成形品の耐衝撃性をより向上させることができる。ゴム質重合体の含有量は35重量%以上がより好ましい。一方、ゴム質重合体の含有量が80重量%以下であれば、熱可塑性樹脂組成物の成形性をより向上させることができる。ゴム質重合体の含有量は65重量%以下がより好ましい。
【0031】
ゴム質重合体の重量平均粒子径は、特に制限はないが、成形品の耐衝撃性を向上させる観点から、0.1μm以上が好ましく、0.15μm以上がより好ましい。一方、成形品の耐衝撃性、流動性、外観性を向上させる観点から、1.5μm以下が好ましく、1.0μm以下がより好ましい。
【0032】
ここで、ゴム質重合体の重量平均粒子径は、ゴム質重合体ラテックスを水媒体で希釈、分散させ、レーザ散乱回折法粒度分布測定装置“LS 13 320”(ベックマン・コールター(株))により測定した粒子径分布から算出することができる。
【0033】
芳香族ビニル系単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン、o-メチルスチレン、ビニルトルエン、t-ブチルスチレンなどが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。これらの中でも、熱可塑性樹脂組成物の流動性および成形品の剛性をより向上させる観点から、スチレンが好ましい。
【0034】
ビニル系単量体混合物中の芳香族ビニル系単量体の含有量は、熱可塑性樹脂組成物の流動性および成形品の剛性をより向上させる観点から、ビニル系単量体混合物の合計100重量%中、60重量%以上が好ましく、65重量%以上がより好ましい。一方、ビニル系単量体混合物中の芳香族ビニル系単量体の含有量は、流動性、成形品の耐衝撃性を向上させる観点から、85重量%以下が好ましく、80重量%以下がより好ましい。
【0035】
シアン化ビニル系単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリルなどが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。これらの中でも、成形品の耐薬品性および耐衝撃性をより向上させる観点から、アクリロニトリルが好ましい。
【0036】
ビニル系単量体混合物中のシアン化ビニル系単量体の含有量は、成形品の耐薬品性および耐衝撃性をより向上させる観点から、ビニル系単量体混合物の合計100重量%中、15重量%以上が好ましく、20重量%以上がより好ましい。一方、ビニル系単量体混合物中のシアン化ビニル系単量体の含有量は、成形品の色調を安定させる観点から、35重量%以下が好ましく、30重量%以下がより好ましい。
【0037】
グラフト共重合体は、グラフト共重合体約1gにアセトン80mlを加え、70℃の湯浴中で3時間還流し、この溶液を13,000r.p.mで20分間遠心分離した後、不溶分を濾過し、80℃で5時間減圧乾燥することによって、アセトン不溶分を分離することができる。アセトン不溶分はゴム質重合体とゴム質重合体にグラフト共重合した、少なくとも芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体からなるビニル系共重合体である。得たアセトン不溶分を200℃に設定した加熱プレスにて、厚み30±5μmのフィルムとし、FT-IR分析を行う。FT-IRチャートに現れる下記ピークの強度比からシアン化ビニル系単量体単位の含有量とその重量を定量することができる。
【0038】
芳香族ビニル系単量体単位:ベンゼン核の振動に帰属される1605cm-1のピーク
シアン化ビニル系単量体単位:-C≡N伸縮に帰属される2240cm-1のピーク
また、これらと共重合可能な他の単量体は、前述の芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体以外のビニル系単量体であって、特に制限はない。具体的には、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体、不飽和脂肪酸、アクリルアミド系単量体、マレイミド系単量体などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
【0039】
不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体としては、例えば、炭素数1~6のアルコールとアクリル酸またはメタクリル酸とのエステルが好ましい。炭素数1~6のアルコールとアクリル酸またはメタクリル酸とのエステルは、さらに水酸基やハロゲン基などの置換基を有してもよい。炭素数1~6のアルコールとアクリル酸またはメタクリル酸とのエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6-ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5-テトラヒドロキシペンチル、(メタ)アクリル酸グリシジルなどが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。なお、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸またはメタクリル酸を示す。
【0040】
不飽和脂肪酸としては、例えば、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、ブテン酸、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。
【0041】
アクリルアミド系単量体としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチルアクリルアミド等が挙げられる。
【0042】
マレイミド系単量体としては、例えば、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-ブチルマレイミド、N-ヘキシルマレイミド、N-オクチルマレイミド、N-ドデシルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド等が挙げられる。
【0043】
グラフト共重合体のアセトン可溶分の重量平均分子量は、特に制限はないが、50,000~300,000が好ましい。グラフト共重合体のアセトン可溶分の重量平均分子量が50,000以上であれば、成形品の耐薬品性をより向上させることができる。一方、グラフト共重合体のアセトン可溶分の重量平均分子量が300,000以下であれば、流動性をより向上させることができるが、200,000以下がより好ましい。
【0044】
アセトン可溶分の重量平均分子量が50,000~300,000の範囲にあるグラフト共重合体は、例えば、後述する開始剤や連鎖移動剤を用いること、重合温度を後述の好ましい範囲にすることなどにより、容易に製造することができる。
【0045】
ここで、グラフト共重合体のアセトン可溶分の重量平均分子量は、グラフト共重合体からアセトン不溶分を濾過した濾液をロータリーエバポレーターで濃縮することにより採取したアセトン可溶分約0.03gをテトラヒドロフラン約15gに溶解した約0.2重量%の溶液を用いて測定したGPCクロマトグラムから、ポリスチレンを標準物質として換算することにより求めることができる。なお、GPC測定は、下記条件により測定することができる。
測定装置:Waters2695
カラム温度:40℃
検出器:RI2414(示差屈折率計)
キャリア溶離液流量:0.3ml/分(溶媒:テトラヒドロフラン)
カラム:TSKgel SuperHZM-M(6.0mmI.D.×15cm)、TSKgel SuperHZM-N(6.0mmI.D.×15cm)直列(いずれも東ソー(株)製)。
【0046】
グラフト共重合体のグラフト率には特に制限はないが、成形品の耐衝撃性を向上させる観点から、10~100%が好ましい。
【0047】
ここで、グラフト共重合体のグラフト率は、以下の方法により求めることができる。まず、グラフト共重合体約1g(m:サンプル重量)にアセトン80mLを加え、70℃の湯浴中で3時間還流し、この溶液を13,000r.p.mで20分間遠心分離した後、不溶分を濾過し、アセトン不溶分を得る。得られたアセトン不溶分を80℃で5時間減圧乾燥させ、その重量(n)を測定し、下記式よりグラフト率を算出する。ここで、Xはグラフト共重合体のゴム質重合体含有率(%)である。
【0048】
グラフト率(%)={[(n)-((m)×X/100)]/[(m)×X/100]}×100。
【0049】
グラフト共重合体の製造方法に特に制限はなく、乳化重合法、懸濁重合法、連続塊状重合法、溶液連続重合法等の任意の方法を用いることができる。乳化重合法または塊状重合法が好ましく、ゴム質重合体の粒子径を所望の範囲に容易に調整することができること、重合時の除熱により重合安定性を容易に調整することができることから、乳化重合法がより好ましい。
【0050】
グラフト共重合体を乳化重合法により製造する場合、ゴム質重合体とビニル系単量体混合物の仕込み方法は、特に限定されない。例えば、これら全てを初期一括仕込みしてもよいし、共重合体組成の分布を調整するために、ビニル系単量体混合物の一部を連続的に仕込んでもよいし、ビニル系単量体混合物の一部または全てを分割して仕込んでもよい。ここで、ビニル系単量体混合物の一部を連続的に仕込むとは、ビニル系単量体混合物の一部を初期に仕込み、残りを経時的に連続して仕込むことを意味する。また、ビニル系単量体混合物の一部または全てを分割して仕込むとは、ビニル系単量体混合物の一部または全てを、初期仕込みより後の時点で仕込むことを意味する。
【0051】
グラフト共重合体を乳化重合法により製造する場合、乳化剤として各種界面活性剤を添加してもよい。各種界面活性剤としては、カルボン酸塩型、硫酸エステル塩型、スルホン酸塩型などのアニオン系界面活性剤が特に好ましく使用される。これらを2種以上組み合わせてもよい。なお、ここで言う塩としては、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0052】
カルボン酸塩型の乳化剤としては、例えば、カプリル酸塩、カプリン酸塩、ラウリル酸塩、ミスチリン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、オレイン酸塩、リノール酸塩、リノレン酸塩、ロジン酸塩、ベヘン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩などが挙げられる。
【0053】
硫酸エステル塩型の乳化剤としては、例えば、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンラウリル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩などが挙げられる。
【0054】
スルホン酸塩型の乳化剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩縮合物などが挙げられる。
【0055】
グラフト共重合体を乳化重合法により製造する場合、必要により開始剤を使用してもよい。開始剤としては、過酸化物、アゾ系化合物、水溶性の過硫酸カリウムなどが挙げられる。これらを2種以上組み合わせてもよい。また、開始剤は、レドックス系でも使用される。
【0056】
過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルイソプロピルカルボネート、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルパーオクテート、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロへキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロへキサン、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートなどが挙げられる。なかでも、クメンハイドロパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロへキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロへキサンが特に好ましく用いられる。
【0057】
アゾ系化合物としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2-フェニルアゾ-2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル、2-シアノ-2-プロピルアゾホルムアミド、1,1’-アゾビスシクロヘキサン-1-カーボニトリル、アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’-アゾビスイソブチレート、1-t-ブチルアゾ-2-シアノブタン、2-t-ブチルアゾ-2-シアノ-4-メトキシ-4-メチルペンタンなどが挙げられる。なかでも、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、1,1’-アゾビスシクロヘキサン-1-カーボニトリルが特に好ましく用いられる。
【0058】
グラフト共重合体を製造するために用いられる開始剤の添加量は、特に制限はないが、グラフト共重合体のアセトン可溶分の重量平均分子量および分散度を前述の範囲に調整しやすいという観点からゴム質重合体とビニル系単量体混合物の合計100重量部に対して、0.1~0.5重量部が好ましい。
【0059】
グラフト共重合体を製造する場合、連鎖移動剤を使用してもよい。連鎖移動剤を使用することにより、グラフト共重合体のアセトン可溶分の重量平均分子量、分散度、グラフト率を所望の範囲に容易に調整することができる。
【0060】
連鎖移動剤としては、例えば、n-オクチルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、n-テトラデシルメルカプタン、n-オクタデシルメルカプタンなどのメルカプタン、テルピノレンなどのテルペンなどが挙げられる。これらを2種以上組み合わせてもよい。なかでも、n-オクチルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタンが好ましく用いられる。
【0061】
グラフト共重合体を製造するために用いられる連鎖移動剤の添加量は、特に制限はないが、グラフト共重合体の重量平均分子量およびグラフト率を前述の範囲に調整しやすいという観点から、ゴム質重合体とビニル系単量体混合物の合計100重量部に対して0.05重量部以上が好ましく、0.2重量部以上がより好ましい。一方、0.7重量部以下が好ましく、0.6重量部以下がより好ましい。
【0062】
グラフト共重合体を乳化重合法により製造する場合、重合温度に特に制限はないが、グラフト共重合体の重量平均分子量および分散度、グラフト率を前述の範囲に調整しやすいという観点、乳化安定性の観点から40~70℃が好ましい。
【0063】
グラフト共重合体を乳化重合法により製造する場合、グラフト共重合体ラテックスに凝固剤を添加して、グラフト共重合体を回収することが一般的である。凝固剤としては、酸または水溶性塩が好ましく用いられる。
【0064】
酸としては、例えば、硫酸、塩酸、リン酸、酢酸などが挙げられる。水溶性塩としては、例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化バリウム、塩化アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムアンモニウム、硫酸アルミニウムカリウム、硫酸アルミニウムナトリウムなどが挙げられる。これらを2種以上組み合わせてもよい。成形品の色調を向上させる観点からは、熱可塑性樹脂組成物中に乳化剤を残存させないことが好ましく、乳化剤としてアルカリ脂肪酸塩を用い、酸凝固することが好ましい。
【0065】
ビニル系共重合体は、少なくとも芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体を含有するビニル系単量体混合物を共重合して得られるものであり、各々の単量体組成比が異なる2種以上の共重合体の組み合わせでもよく、重量平均分子量の異なる2種以上の共重合体の組み合わせでもよい。
【0066】
芳香族ビニル系単量体としては、前述の通りグラフト共重合体で用いる芳香族ビニル系単量体として例示したものが挙げられ、スチレンが好ましく、 シアン化ビニル系単量体としては、前述の通りグラフト共重合体で用いるシアン化ビニル系単量体として例示したものが挙げられ、アクリロニトリルが好ましい。
【0067】
ビニル系単量体混合物中の芳香族ビニル系単量体の含有量は、熱可塑性樹脂組成物の流動性および成形品の剛性をより向上させる観点から、ビニル系単量体混合物の合計100重量%中、60重量%以上が好ましく、65重量%以上がより好ましい。一方、ビニル系単量体混合物中の芳香族ビニル系単量体の含有量は、流動性、成形品の耐衝撃性を向上させる観点から、80重量%以下が好ましく、75重量%以下がより好ましい。
【0068】
ビニル系単量体混合物中のシアン化ビニル系単量体の含有量は、成形品の耐薬品性および耐衝撃性をより向上させる観点から、ビニル系単量体混合物の合計100重量%中、20重量%以上が好ましく、25重量%以上がより好ましい。一方、ビニル系単量体混合物中のシアン化ビニル系単量体の含有量は、成形品の色調を安定させる観点から、40重量%以下が好ましく、35重量%以下がより好ましい。
【0069】
また、これらと共重合可能な他の単量体は、前述の芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体以外のビニル系単量体であって、特に制限はない。具体的には、ビニル系単量体混合物において他の単量体として例示したものが挙げられる。
【0070】
ビニル系共重合体の重量平均分子量は、特に制限はないが、100,000~250,000が好ましい。ビニル系共重合体の重量平均分子量が100,000以上であれば、成形品の耐薬品性および耐衝撃性をより向上させることができる。一方、ビニル系共重合体の重量平均分子量が250,000以下であれば、流動性をより向上させることができる。
【0071】
ビニル系共重合体の製造方法に特に制限はなく、懸濁重合法、乳化重合法、塊状重合法、溶液重合法等の任意の方法を用いることができる。なかでも、重合制御の容易さ、後処理の容易さおよび生産性の観点から、塊状重合、懸濁重合が好ましい。
【0072】
<変性ポリオレフィン系樹脂(B)>
本発明に用いる変性ポリオレフィン系樹脂(B)としては、撥水性、撥油性の観点からオレフィンの単量体はプロピレンである。この場合、変性ポリオレフィン系樹脂(B)は、変性ポリプロピレン系樹脂となる。必要に応じて、4-メチル-1、4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、7-メチル-1、6-オクタジエン、1,9-デカジエン等の非共役ジエン等の単量体を用いることができる。変性ポリオレフィン系樹脂(B)の変性官能基としては、酸無水物基であり、無水マレイン酸基が好ましい。
【0073】
本発明の熱可塑性樹脂組成物における変性ポリオレフィン系樹脂(B)の配合量は、熱可塑性樹脂(A)と変性ポリオレフィン系樹脂(B)の合計100質量部に対して、0.1質量部以上かつ5質量部以下である。変性ポリオレフィン系樹脂(B)の配合量が0.1質量部未満であると、撥水性、撥油性に劣り、5質量部を超えると熱可塑性樹脂(A)と変性ポリオルガノシロキサン(C)との相溶性を阻害し、変性ポリオルガノシロキサン(C)起因による外観不良が生じるおそれがある。さらに変性ポリオレフィン樹脂(B)と変性ポリオルガノシロキサン(C)の質量部の積(B)×(C)が7以下であることが好ましく、撥水性、撥油性の観点から1~7であることがより好ましい。変性ポリオレフィン樹脂(B)と変性ポリオルガノシロキサン(C)の質量部の積(B)×(C)が上記好ましい範囲の場合、外観不良を生じるおそれはない。変性ポリオレフィン系樹脂(B)の重量平均分子量としては、10,000以上が好ましく、100,000以上がより好ましい。変性ポリオレフィン系樹脂(B)の重量平均分子量が上記好ましい範囲の場合、熱可塑性樹脂(A)との相溶性が良好で、外観不良を生じるおそれはない。変性ポリオレフィン系樹脂(B)の重量平均分子量は高温GPC法によって測定することができる。
【0074】
<変性ポリオルガノシロキサン(C)>
本発明に用いる変性ポリオルガノシロキサン(C)としては、脂環式エポキシ変性シリコーンオイルである。変性ポリオルガノシロキサン(C)の粘度は特に制限無いが、ブリードアウト抑制および加工性の観点から10~30,000cStのものが好ましく、100~20,000cStのものが特に好ましい。本発明の熱可塑性樹脂組成物における変性ポリオルガノシロキサン(C)の配合量は、熱可塑性樹脂(A)と変性ポリオレフィン系樹脂(B)の合計100質量部に対して、0.5質量部以上かつ5質量部以下である。変性ポリオルガノシロキサン(C)の配合量が0.5質量部未満であると、撥水性、撥油性に劣り、5質量部を超えると過剰な変性ポリオルガノシロキサン(C)によって外観不良が生じるおそれがある。
【0075】
<ポリテトラフルオロエチレン(D)>
本発明に用いるポリテトラフルオロエチレン(D)としては、示差走査熱量測定(DSC)法による数平均分子量が20万以下であるものが好ましい。数平均分子量が20万以上であると、溶融混練時にポリテトラフルオロエチレンが繊維化することで、著しい粘度上昇を生じ、わずかなポリテトラフルオロエチレン添加量増加においてでも溶融混練や成形加工が困難となる。さらに、著しく光沢が低下するため、外観が大きく損なわれる。ポリテトラフルオロエチレン(D)の数平均分子量は、示差走査熱量測定において、室温より380℃まで昇温速度10℃/minにて昇温し、その後10℃/minで冷却したときの結晶化熱ΔHcに基づいて以下式1より算出される。
【0076】
(式1)Mn=2.1×1010×ΔHc-5.16
Mn:数平均分子量、ΔHc:DSC結晶化熱(cal/g)
ポリテトラフルオロエチレン(D)は、示差走査熱量測定(DSC)法による数平均分子量が20万以下のものであれば、粉体であっても、水分散体であってもよい。 さらに成形品外観性の観点から、ポリテトラフルオロエチレン(D)の平均一次粒子径は5μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましい。本発明の熱可塑性樹脂組成物におけるポリテトラフルオロエチレン(D)の配合量は、熱可塑性樹脂(A)と変性ポリオレフィン系樹脂(B)の合計100質量部に対して、1質量部以上かつ10質量部以下である。ポリテトラフルオロエチレン(D)の配合量が1質量部未満であると、撥水性、撥油性に劣り、10質量部を超えると、熱可塑性樹脂(A)および変性ポリオレフィン系樹脂(B)と変性ポリオルガノシロキサン(C)との相溶性を阻害し、変性ポリオルガノシロキサン(C)起因による外観不良が生じるおそれがある。また、ポリテトラフルオロエチレン(D)そのものの外観影響が増加し、外観不良を生じるおそれがある。本発明の熱可塑性樹脂組成物には、さらに必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で、ガラス繊維、シリカ、シリコーンパウダー、ガラスパウダー、ガラスビーズ、ガラスフレーク、アルミナ、アルミナ繊維、炭素繊維、黒鉛繊維、ステンレス繊維、ウィスカ、チタン酸カリ繊維、ワラステナイト、アスベスト、ハードクレー、焼成クレー、タルク、カオリン、マイカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化アルミニウムおよび鉱物などの無機充填材;ヒンダードフェノール系、含硫黄化合物系または含リン有機化合物系などの酸化防止剤;フェノール系、アクリレート系などの熱安定剤;ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系またはサリシレート系などの紫外線吸収剤;ヒンダードアミン系光安定剤;高級脂肪酸、酸エステル、酸アミド系または高級アルコールなどの滑剤および可塑剤;モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミド、エチレンワックス、未変性シリコーンオイル、シリコーンガムなどの離型剤;各種難燃剤;難燃助剤;亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤;リン酸、リン酸1ナトリウム、無水マレイン酸、無水コハク酸などの中和剤;核剤;アミン系、スルホン酸系、ポリエーテル系などの帯電防止剤;カーボンブラック、顔料、染料などの着色剤などを配合することができる。
【0077】
次に、本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法について説明する。本発明の熱可塑性樹脂組成物は、例えば、前述の熱可塑性樹脂(A)、変性ポリオレフィン系樹脂(B)、変性ポリオルガノシロキサン(C)およびポリテトラフルオロエチレン(D)の他に、必要に応じてその他成分を溶融混練することにより得ることができる。本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関しては特に制限はなく、熱可塑性樹脂組成物を構成する各成分を、混合機を用いて混合する方法や、これらを均一に溶融混練する方法などが挙げられる。混合機としては、例えば、V型ブレンダー、スーパーミキサー、スーパーフローターおよびヘンシェルミキサーなどが挙げられる。溶融混練機としては、例えば、ニーダー、一軸または二軸押出機などが挙げられる。溶融混練温度は200~300℃が好ましく、230~290℃がより好ましい。得られた熱可塑性樹脂組成物は、ペレタイザによりペレット化して用いられることが一般的である。
【0078】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、任意の成形方法により成形することができる。成形方法としては、例えば、射出成形、押出成形、インフレーション成形、ブロー成形、真空成形、圧縮成形、ガスアシスト成形などが挙げられ、射出成形が好ましく用いられる。射出成形時のシリンダー温度は210~300℃が好ましく、金型温度は30~80℃が好ましい。
【実施例】
【0079】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。まず、実施例における評価方法について説明する。
【0080】
(1)水接触角(撥水性)
80℃の温度の熱風乾燥機中で3時間乾燥した熱可塑性樹脂組成物のペレットを、シリンダー温度250℃に設定した東芝機械(株)製射出成形機EC75-SXで射出成形し、得た平面な試験片(長さ120mm、幅100mm、厚さ3mm)を、室温23℃湿度50%環境下で240時間放置した後、下記条件にて試験片表面における着滴から5秒後の水接触角を求めた。
【0081】
機器:協和界面科学(株)製 DMo-501
傾斜:0°
液滴量:2μL
解析方法:液滴法、θ/2法。
【0082】
測定雰囲気:23℃湿度50%環境下
(2)オレイン酸接触角(撥油性)
80℃の温度の熱風乾燥機中で3時間乾燥した熱可塑性樹脂組成物のペレットを、シリンダー温度250℃に設定した前記射出成形機EC75-SXで射出成形し、得た平面な試験片(長さ120mm、幅100mm、厚さ3mm)を、室温23℃湿度50%環境下で240時間放置した後、下記条件にて試験片表面における着滴から5秒後のオレイン酸接触角を求めた。
【0083】
機器:協和界面科学(株)製 DMo-501
傾斜:0°
液滴量:1μL
解析方法:液滴法、θ/2法。
【0084】
測定雰囲気:23℃湿度50%環境下
(3)成形品外観
80℃の温度の熱風乾燥機中で3時間乾燥した熱可塑性樹脂組成物のペレットを、シリンダー温度250℃に設定した前記射出成形機EC75-SXで射出成形し、得た平面な試験片(長さ120mm、幅100mm、厚さ3mm)表面において、目視でスジやフローマーク等の外観不良が視認されなければ「可」、視認された場合は「不可」とした。
【0085】
[熱可塑性樹脂(A)の製造]
撹拌翼を備えた内容量20m3の反応器に、ポリブタジエンラテックス(ゴムの重量平均粒子径0.30μm、ゲル含有率85%)60重量部(固形分換算)、純水120重量部、ラウリン酸ナトリウム0.4重量部、ブドウ糖0.2重量部、ピロリン酸ナトリウム0.2重量部、硫酸第一鉄0.01重量部を仕込み、窒素置換後、60℃に温調し、撹拌しながら、スチレン6.6重量部、アクリロニトリル2.6重量部およびt-ドデシルメルカプタン0.046重量部の単量体混合物を30分間かけて初期添加した。
【0086】
次いで、クメンハイドロパーオキサイド0.36重量部、乳化剤であるラウリン酸ナトリウム1.5重量部および純水25重量部の開始剤混合物を5時間かけて連続滴下した。同時に並行して、スチレン22.2重量部、アクリロニトリル8.6重量部およびt-ドデシルメルカプタン0.154重量部の単量体混合物を3時間かけて連続追滴下した。単量体混合物滴下後、2時間、開始剤混合物のみを連続滴下し、その後重合を終了させた。得られたグラフト共重合体ラテックスを1.5重量%硫酸で凝固した後、水酸化ナトリウムで中和し、洗浄、遠心分離、乾燥して、パウダー状のグラフト共重合体(a)を得た
このグラフト共重合体のグラフト率は36%、アセトン可溶分の重量平均分子量は81,000、アクリロニトリル単量体単位の平均含有量は28重量%であった。
【0087】
20Lのオートクレーブにメタクリル酸メチル-アクリルアミド二元共重合体水溶液6重量部、純水150重量部を入れて400rpmで攪拌し、系内を窒素ガスで置換した。70℃まで昇温後、アクリロニトリル28.9重量部、スチレン11.1重量部、アゾビスイソブチロニトリル0.32重量部、t-ドデシルメルカプタン0.063重量部およびn-オクチルメルカプタン0.094重量部の単量体混合物を、反応系を攪拌しながら30分かけて添加し、重合反応を開始した。単量体混合物を添加後、1時間経過したところで、スチレンを供給ポンプを使用して15重量部添加した。その後、30分間隔でスチレンを1回あたり15重量部として3回を反応容器に添加した。全ての単量体の添加後60分かけて100℃に昇温した。到達後30分間100℃に維持した後、冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行って、ビーズ状のビニル系共重合体(b)を得た。重量平均分子量は320,000、アクリロニトリル単量体単位の平均含有量は27重量%であった。
【0088】
さらに、単量体蒸気の蒸発乾留用コンデンサーおよびヘリカルリボン翼を有する2m3の完全混合型重合槽と、単軸押出機型予熱機と、2軸押出機型脱モノマー機からなる連続式塊状重合装置を用いて、以下の方法によりビニル系共重合体(c)の製造を実施した。スチレン72重量部、アクリロニトリル28重量部、n-オクチルメルカプタン0.30重部および1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.014重量部からなる単量体混合物を、150kg/時で完全混合型重合槽に連続的に供給し、重合温度を130℃、槽内圧を0.08MPaに保ちながら連続塊状重合させた。完全混合型重合槽出口における重合反応混合物の重合率は65±3%に制御した。重合反応混合物を単軸押出機型予熱機により予熱した後、2軸押出機型脱モノマー機に供給し、未反応単量体を2軸押出機型脱モノマー機のベント口から減圧蒸発回収した。回収した未反応単量体は、連続的に完全混合型重合槽へ還流させた。その後、溶融混練物をストランド状に吐出させ、カッターにより切断してペレット状のビニル系共重合体(c)を得た。得られたビニル系共重合体(c)の重量平均分子量は120,000であった。また、アクリロニトリル単量体単位の平均含有量は28重量%であった。
【0089】
グラフト共重合体(a)23質量%、ビニル系共重合体(b)20質量%、ビニル系共重合体(c)57質量%をスクリュー径40mmのベント付単軸押出機((株)池貝製FS40)を用いて、シリンダー設定温度250℃、スクリュー回転数80rpmの条件で溶融混練し、熱可塑性樹脂(A)のペレットを得た。
【0090】
[変性ポリオレフィン系樹脂(B)]
理研ビタミン(株)製無水マレイン酸変性ポリプロピレン「MG-670P(重量平均分子量:約17万)」を使用した。
【0091】
比較例として日本ポリプロ(株)製未変性ポリプロピレン「MA3U(重量平均分子量:約17万)」を使用した。
【0092】
[変性ポリオルガノシロキサン(C)]
ダウ・東レ(株)製、脂環式エポキシ変性シリコーンオイル「BY16-839」を使用した。
【0093】
比較例として、ダウ・東レ(株)製未変性シリコーンオイル「SH200CV 10,000cSt」を使用した。
【0094】
[ポリテトラフルオロエチレン(D)]
スリーエム社製3MTMダイニオンTMPTFEマイクロパウダー「TF9207Z」を使用した。
【0095】
以下、実施例および比較例について説明する。
【0096】
(実施例、比較例)
上記した熱可塑性樹脂(A)、変性ポリオレフィン系樹脂(B)、変性ポリオルガノシロキサン(C)およびポリテトラフルオロエチレン(D)を、表1または表2に示した質量部数で配合し、スクリュー径30mmのベント付二軸押出機((株)池貝製PCM30)を用いて、シリンダー設定温度260℃、スクリュー回転数250rpmの条件で溶融混練し、樹脂組成物のペレットを得た。前述の通り、所定の条件で成形した試験片について、目視にて外観を確認し、水接触角およびオレイン酸接触角を求めた。評価結果を表1および表2に示す。
【0097】
【0098】
【0099】
表1の評価結果から、本発明の実施形態における熱可塑性樹脂組成物(実施例1~8)は、いずれも撥水性、撥油性および成形品外観が均衡して優れていることが分かる。
【0100】
一方、表2の評価結果から、比較例1は変性ポリオレフィン系樹脂(B)が非含有であることで撥油性に劣り、比較例2は変性ポリオルガノシロキサン(C)が非含有であることで撥水性および撥油性に劣り、比較例3はポリテトラフルオロエチレン(D)が非含有であることで撥油性に劣り、比較例1~3の結果から、変性ポリオレフィン系樹脂(B)、変性ポリオルガノシロキサン(C)およびポリテトラフルオロエチレン(D)併用による相乗効果によって優れた撥水性および撥油性が発現することが明らかである。比較例4では変性ポリオルガノシロキサン(C)含有量が少ないことで撥水性および撥油性に劣った。比較例5~7では変性ポリオレフィン樹脂(B)と変性ポリオルガノシロキサン(C)の質量部の積(B)×(C)が7を超えたため外観不良が生じた。比較例8ではポリテトラフルオロエチレン(D)含有量が少なく撥水性および撥油性に劣った。比較例9ではポリテトラフルオロエチレン(D)含有量が過剰であることにより外観不良が生じた。比較例10では変性ポリオレフィン系樹脂(B)の代わりに未変性ポリオレフィン系樹脂を使用したことで、相溶性が悪化し外観不良が生じた。比較例11では変性ポリオルガノシロキサン(C)の代わりに未変性ポリオルガノシロキサンを使用したことで撥水性および撥油性が劣った。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、任意の形状の成形品として広く用いることができる。成形品としては、例えば、フィルム、シート、繊維、布、不織布、射出成形品、押出成形品、真空圧空成形品、ブロー成形品、他の材料との複合体などが挙げられる。本発明の成形品は、特に制限は無いが、撥水性および撥油性が極めて高いことからキッチン部品・用具、洗面部品・用具、浴室部品・用具、屋外部品・用具等、水や油と接触する頻度の多い用途や、文具、雑貨、化粧品容器等、人の手に触れる機会が多く、指紋が付きやすい用途等に特に好ましく用いることができる。