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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】スラグ材の製造方法およびスラグ材
(51)【国際特許分類】
   C04B 5/00 20060101AFI20231114BHJP
   C21C 5/28 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
C04B5/00 B
C21C5/28 D
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022049826
(22)【出願日】2022-03-25
(65)【公開番号】P2022155534
(43)【公開日】2022-10-13
【審査請求日】2022-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2021058064
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】矢埜 泰武
(72)【発明者】
【氏名】加藤 裕介
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 克則
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-315296(JP,A)
【文献】特開2002-277176(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B5/00-5/06
C21C5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融状態の製鋼スラグを、溶融状態から1200℃までの温度域における冷却速度が1000℃/h~400℃/hであり、1000℃から600℃までの温度域における冷却速度が300℃/h以下となるように前記製鋼スラグを冷却し、
1200℃から1000℃までの温度域における保持時間T1が下記(1)式を満たすように前記製鋼スラグを冷却する、粒径5mm以上のスラグ材の製造方法。
T1≦-7.5×[f-CaO]+69.5・・・(1)
上記(1)式において、T1は保持時間(h)であり、[f-CaO]は、前記製鋼スラグにおけるf-CaOの含有量(質量%)である。
【請求項2】
溶融状態の製鋼スラグを、溶融状態から1200℃までの温度域における冷却速度が1000℃/h~400℃/hであり、1000℃から600℃までの温度域における冷却速度が300℃/h以下となるように前記製鋼スラグを冷却し、
1200℃から1000℃までの温度域における保持時間T2が下記(2)式を満たすように前記製鋼スラグを冷却する、粒径5mm以上のスラグ材の製造方法。
T2≦-5.5×[f-CaO計算値]+70.0・・・(2)
上記(2)式において、T2は保持時間(h)であり、f-CaO計算値は、下記(3)式で算出される値である。
f-CaO計算値=[T-CaO]-(1.87×[SiO]+0.70×[Fe]+1.10×[Al]+1.18×[P])・・・(3)
上記(3)式において、[]は各化合物の含有量(質量%)であり、T-CaOは、CaO、CaCO、Ca(OH)等のCaとOを有する全ての化合物中のCaをCaOに換算したものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融状態の製鋼スラグの温度を制御しながら冷却して水和膨張による粉化が抑制されたスラグ材を製造するスラグ材の製造方法およびスラグ材に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼業では高炉、予備処理プロセス、転炉、電気炉等からスラグが副生される。これらスラグの内、予備処理プロセス、転炉、電気炉から副生されるものを製鋼スラグという。製鋼工程では溶銑中に含まれる燐や珪素などを除去するため、副原料として多量の石灰が使用される。このため、製鋼スラグ中には未溶解の石灰や冷却時に晶出した石灰が遊離CaO(以下、f-CaOと記載する。)として残留している。このf-CaOは水和反応によってCa(OH)となり、約2倍程度に体積膨張する。このため、f-CaOを多量に含む製鋼スラグが水と接触するとf-CaOの水和膨張によって粉化する。
【0003】
製鋼スラグから製造されるスラグ材の用途として路盤材やコンクリート用細骨材があるが、これら用途においてf-CaOの水和膨張により路盤の隆起やコンクリートに亀裂が生じるという問題がある。そこで、従来、膨張崩壊の原因となるf-CaOを低減するための処理が行われており、その方法として下記(1)ないし(3)の方法が知られている。
【0004】
(1)エージング処理
エージング処理とは、製鋼スラグに含まれるf-CaOを水和反応によりCa(OH)に変化させて安定化させる方法である。エージング処理には、製鋼スラグをヤードに野積みして行う大気エージングが知られている。また、特許文献1には水蒸気を用いてf-CaOの水和反応を促進させる蒸気エージングが開示されている。
【0005】
(2)風砕
風砕とは、溶融状態の製鋼スラグに高圧の空気を吹き付けて急冷することで製鋼スラグを粒状にする処理である。特許文献2には、溶融スラグを風砕して冷却固化させる際に、スラグ中のFeO等が空気で酸化されてFeとなり、これとf-CaOとが反応してダイカルシウムフェライト(2CaO・Fe)が形成され、これにより、f-CaOが低減することが開示されている。
【0006】
(3)改質処理
改質処理とは、特許文献3に開示されているように、溶融状態のスラグにSiOやAlを含む改質剤を添加し、さらに酸素を吹き込むことによって製鋼スラグを改質する方法である。この方法により、f-CaOを水和膨張しない安定鉱物相に変化(改質)させることができる。また、非特許文献1には、スラグヤードでの製鋼スラグの冷却速度を速めることf-CaOの結晶サイズが微細化され、これにより製鋼スラグの粉化が抑制されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-227490号公報
【文献】特開2015-189601号公報
【文献】特開2017-141148号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】馬越幹男、外2名、「製鋼系スラグの凝固組織と風化崩壊性」、久留米工業高等学校紀要、第1第2号、p57-64
【文献】乾道春、他2名、「製鋼スラグ中のフリーCaO分析方法の標準化」、ふぇらむ、日本鉄鋼協会、Vol.19(2014) No.8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示された蒸気エージング法は粉化を抑制する効果はあるもののエージング処理工程等が追加されることになるので、スラグ材を製造するための工程が増えるという課題があった。また、特許文献2に開示された風砕は、短時間でスラグ中のFeOを酸化し、f-CaOを低減させることができるが、風砕を行うための新たな設備を導入する必要があるという課題があった。特許文献3に開示された改質処理は、f-CaOを固定化できるものの、スラグ量が増加するという課題があった。さらに、非特許文献1で粉化を抑制できるとされる冷却速度200℃/minは、スラグヤード上では実現不可能な冷却速度である。本発明は、このような従来技術の課題を鑑みてなされたものであり、新たな設備を導入することなく、且つ、スラグ量を増加させることなく水和膨張による粉化が抑制されたスラグ材の製造方法およびスラグ材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
[1]溶融状態の製鋼スラグを、溶融状態から1200℃までの温度域における冷却速度が1000℃/h~400℃/hであり、1000℃から600℃までの温度域における冷却速度が300℃/h以下となるように前記製鋼スラグを冷却し、1200℃から1000℃までの温度域における保持時間T1が下記(1)式を満たすように前記製鋼スラグを冷却する、粒径5mm以上のスラグ材の製造方法。
T1≦-7.5×[f-CaO]+69.5・・・(1)
上記(1)式において、T1は保持時間(h)であり、[f-CaO]は、前記製鋼スラグにおけるf-CaOの含有量(質量%)である。
[2]溶融状態の製鋼スラグを、溶融状態から1200℃までの温度域における冷却速度が1000℃/h~400℃/hであり、1000℃から600℃までの温度域における冷却速度が300℃/h以下となるように前記製鋼スラグを冷却し、1200℃から1000℃までの温度域における保持時間T2が下記(2)式を満たすように前記製鋼スラグを冷却する、粒径5mm以上のスラグ材の製造方法。
T2≦-5.5×[f-CaO計算値]+71.0・・・(2)
上記(2)式において、T2は保持時間(h)であり、f-CaO計算値は、下記(3)式で算出される値と、X線回折で推定した含有f-CaO推定値と、X線回折とリートベルト解析で推定した含有f-CaO推定値とのうちのいずれか1つである。
f-CaO計算値=[T-CaO]-(1.87×[SiO]+0.70×[Fe]+1.10×[Al]+1.18×[P])・・・(3)
上記(3)式において、[]は各化合物の含有量(質量%)であり、T-CaOは、CaO、CaCO、Ca(OH)等のCaとOを有する全ての化合物中のCaをCaOに換算したものである。
[3]粒径が50μm以上の結晶粒の含有率が5質量%以下であり、蒸気処理後の粒径2.36mm未満の粉の発生率が5質量%以下である粒径5mm以上のスラグ材。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るスラグ材の製造方法では、溶融状態の製鋼スラグをf-CaOの含有量に応じた冷却速度で冷却することで水和膨張による粉化が抑制されたスラグ材を製造できる。このため、本発明に係るスラグ材の製造方法を実施することで、新たな設備や工程を追加することなく、且つ、スラグ量を増加させることなく粉化が抑制されたスラグ材の製造が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】表1におけるf-CaOの含有量と1200℃から1000℃までの保持時間との関係を示すグラフである。
図2】表1におけるf-CaO計算値と1000℃以上1200℃以下での保持時間との関係を示すグラフである。
図3】スラグ材断面のSEM-EDX画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、製鋼スラグの粉化現象に関わっていると考えられるスラグヤードでの製鋼スラグの温度履歴を調査した。例えば、溶銑の脱炭工程で副生される脱炭スラグは、転炉で処理後、スラグヤードに運ばれて約1650℃で放流され、冷却される。このように、現状のスラグヤードにおいて、製鋼スラグは1200℃から1000℃までの温度域で長時間保持されている。
【0014】
本発明者らは、製鋼スラグの1200℃から1000℃までの温度域での保持時間が長くなると、f-CaO相の固溶度の変化に伴い生成するf-CaO結晶の結晶サイズが大きくなり、これにより、水和膨張によって製鋼スラグが粉化し易くなる現象を見出した。そこで、本実施形態に係る製鋼スラグの製造方法では、製鋼スラグの温度域を、溶融状態から凝固するまでの温度域(溶融状態から1200℃まで)と、凝固後のある程度高温の温度域(1200℃~1000℃)と、それ以下の温度域(1000℃~600℃)との3つに分け、溶融状態の製鋼スラグをf-CaOの含有量に応じた冷却速度で冷却することで、水和膨張による粉化が抑制されたスラグ材が製造できることを見出して本発明を完成させた。以下、本発明を発明の実施形態を通じて説明する。
【0015】
本実施形態に係るスラグ材の製造方法では、製鋼スラグのf-CaOの含有量に応じた冷却速度でスラグヤードの製鋼スラグを冷却する。製鋼スラグの冷却は、製鋼スラグの温度域を3つに分け、それぞれの温度域で製鋼スラグの冷却速度を制御する。3つの温度域は、溶融状態から凝固するまでの温度域(溶融状態から1200℃まで)、凝固後のある程度高温の温度域(1200℃~1000℃)およびそれ以下の温度域(1000℃~600℃)である。
【0016】
3つの温度域のうち、溶融状態から1200℃までの温度域における冷却速度は1000℃/h~400℃/hであり、1000℃から600℃までの温度域における冷却速度が300℃/h以下となるように製鋼スラグを冷却する。溶融状態から凝固するまでの温度域(溶融状態から1200℃まで)において冷却速度を1000℃/h~400℃/hとすることで、水冷等により生じるスラグ表面のクラックを最小限にとどめる。また、1200℃~1000℃の温度域では、製鋼スラグのf-CaOの含有量に応じた冷却速度で製鋼スラグを冷却し、当該製鋼スラグの保持時間を制御する。具体的には、1200℃から1000℃までの温度域における保持時間T1が下記(1)式を満たすように製鋼スラグを冷却する。これにより、水和膨張による粉化が抑制された製鋼スラグが製造できる。
【0017】
T1≦-7.5×[f-CaO]+69.5・・・(1)
上記(1)式において、T1は保持時間(h)であり、[f-CaO]は、製鋼スラグにおけるf-CaOの含有量(質量%)である。
【0018】
一方、製鋼スラグのf-CaOの含有量は測定するのに時間がかかるので、製鋼スラグの成分が変動する場合にはf-CaOの含有量に替えてf-CaO計算値や、X線回折で推定したf-CaOの含有量の推定値や、X線回折とリートベルト解析によるf-CaOの含有量の推定値等を用いてもよい。f-CaO計算値は、トータルCaO(T-CaO)からSiO、Fe、Al、および、Pと化合物を生成すると予想される成分を差し引いた値であり、f-CaOの含有量と必ずしも一致しないもののf-CaOの含有量を示す指標として用いることができる。T-CaO、SiO、Fe、Al、Pの含有量は、蛍光X線分析器などを用いて短時間で測定できる。
【0019】
製鋼スラグのf-CaOの含有量に代えてf-CaO計算値を用いる場合には、1200℃から1000℃までの温度域における保持時間T2が下記(2)式を満たすように製鋼スラグを冷却する。
【0020】
T2≦-5.5×[f-CaO計算値]+70.0・・・(2)
上記(2)式において、T2は保持時間(h)であり、f-CaO計算値は下記(3)式で算出される値(質量%)である。
【0021】
f-CaO計算値=[T-CaO]-(1.87×[SiO]+0.70×[Fe]+1.10×[Al]+1.18×[P])・・・(3)
上記(3)式において、[]は製鋼スラグの各化合物の含有量(質量%)であり、T-CaOは、CaO、CaCO、Ca(OH)等のCaとOを有する全ての化合物中のCaをCaOに換算したものである。
【0022】
製鋼スラグのT-CaO、SiO、Fe、Al、および、Pの含有量は、蛍光X分析器を用いて測定できる。また、製鋼スラグのf-CaOの含有量は、非特許文献2に記載されたエチレングリコール法(EG法)等で測定できる。
【0023】
600℃から常温までの温度域は、f-CaO結晶の成長などの相が変化する速度が遅いので、製鋼スラグの冷却速度は50℃/h未満であってもよい。本実施形態に係るスラグ材の製造方法における製鋼スラグの温度は、スラグヤードに放流された製鋼スラグのスラグ厚み方向および水平方向の中央位置の温度である。製鋼スラグの温度は、熱電対を用いて測定できる。但し、必ずしも毎回測温しなくてもよく、スラグ厚、強制冷却の有無、スラグヤードの材質(スラグ質の土間か、鋼質のパンか、など)などの冷却速度に影響する諸条件が変化した際に、スラグ厚の中央位置の温度を熱電対により測温しながら冷却条件を定めればよく、これらの条件が同じと見做せる場合には同じ冷却条件で冷却してよい。
【0024】
製鋼スラグの冷却速度は、スラグ厚、強制冷却の有無およびスラグヤードの材質(スラグ質の土間、鋼質のパン等)に影響を受ける。例えば、製鋼スラグの冷却速度を速める場合には、スラグ厚が薄くなるようにスラグヤードに放流し、さらに散水による強制冷却を行えばよい。また、地面から隔離させた鋼質のパンをスラグヤードに設置し、このパン上に製鋼スラグを放流し、冷却することで製鋼スラグの冷却速度を速めることができる。さらに、気流中にスラグを流下させて液滴化しつつ強制冷却する風砕と呼ばれる冷却方法を用いることで、極めて高速に製鋼スラグを冷却できる。
【0025】
次に、上記(1)式および(2)式を求めるために実施した粒径5mm以上のスラグ材の製造実験について説明する。スラグ材の製造実験は、下記1~3の手順で実施した。
1.成分組成が異なる11種の溶融状態の転炉脱炭スラグを準備した。
2.各転炉脱炭スラグの1200℃から1000℃までの温度域における保持時間を変えて冷却しスラグ材を製造した。なお、溶融状態から1200℃までの温度域は450℃/hの冷却速度で冷却した。また、1000℃から600℃までの温度域は55℃/hの冷却速度で冷却した。600℃から常温までの温度域は20℃/hの冷却測定で冷却した。
3.製造されたスラグ材の粉化度合いを確認した。
スラグ材の製造実験における1000℃以上1200℃以下の温度域での保持時間と、f-CaOの含有量、f-CaO計算値の値、粉化度合いの確認結果を下記表1に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
製造されたスラグ材の粉化度合いは、製造されたスラグ材を蒸気処理(100℃、常圧、48時間)し、蒸気処理後のスラグ材を目開き2.36mmの篩を用いて篩分けることで確認した。スラグ材全体の質量と2.36mmの篩目を通過したものとの質量比が50質量%以上のスラグ材の粉化度合いを「高」とし、50質量%~5質量%のスラグ材の粉化度合いを「中」とし、5%未満のスラグ材の粉化度合いを「低」とした。なお、蒸気処理(100℃、常圧、48時間)は、スラグ材の粉化を加速して評価する手段であって、この条件は常温常圧の湿潤状態における2年間に相当する。
【0028】
図1は、表1におけるf-CaOの含有量と1200℃から1000℃までの保持時間との関係を示すグラフである。図1において横軸はf-CaOの含有量(質量%)であり、縦軸は1000℃以上1200℃以下の温度域での保持時間(h)である。
【0029】
表1の製造例1と製造例11との比較、および、製造例4と製造例11との比較から、製鋼スラグのf-CaOの含有量が同じであれば、1200℃から1000℃までの保持時間を短くすることで水和膨張による粉化が抑制されたスラグ材が製造できることが確認された。また、図1から下記(1)式を満たすように製鋼スラグを冷却することで製造されるスラグ材の粉化度合いが「低」となることがわかる。これらの結果から、製鋼スラグのf-CaOの含有量に応じて1200℃から1000℃までの保持時間T1が下記(1)式を満たすように製鋼スラグを冷却すれば、水和膨張による粉化が抑制されたスラグ材の製造が実現できることがわかる。
【0030】
T1≦-7.5×[f-CaO]+69.5・・・(1)
上記(1)式において、T1は保持時間(h)であり、[f-CaO]は、製鋼スラグのf-CaOの含有量(質量%)である。
【0031】
なお、図1からf-CaOの含有量に応じて1200℃から1000℃までの保持時間T1が下記(4)式および(5)式を満たすように製鋼スラグを冷却することがより好ましい。下記(4)式および(5)式を満たすように製鋼スラグを1200℃から1000℃まで冷却することで、製造されるスラグ材の粉化度合いを「低」にできる。
【0032】
T1≦-4.6×[f-CaO]+44.0・・・(4)
[f-CaO]≦8.5・・・(5)
上記(4)、(5)式において、T1は保持時間(h)であり、[f-CaO]は、製鋼スラグにおけるf-CaOの含有量(質量%)である。
【0033】
図2は、表1におけるf-CaO計算値と1000℃以上1200℃以下での保持時間との関係を示すグラフである。図2において横軸はf-CaO計算値(質量%)であり、縦軸は1000℃以上1200℃以下の温度域での保持時間(h)である。
【0034】
図2に示すようにf-CaO計算値が同じであれば、1200℃から1000℃までの保持時間を短くすることで水和膨張による粉化が抑制されたスラグ材が製造でき、下記(2)式を満たすように製鋼スラグを冷却することで製造されるスラグ材の粉化度合いが「低」となることがわかる。この結果から、製鋼スラグのf-CaO計算値に応じて、1200℃から1000℃までの保持時間T2が下記(2)式を満たすように製鋼スラグを冷却すれば、水和膨張による粉化が抑制されたスラグ材の製造が実現できることがわかる。
【0035】
T2≦-5.5×[f-CaO計算値]+70.0・・・(2)
上記(2)式において、T2は保持時間(h)であり、f-CaO計算値は下記(3)式で算出される値(質量%)である。
【0036】
f-CaO計算値=[T-CaO]-(1.87×[SiO]+0.70×[Fe]+1.10×[Al]+1.18×[P])・・・(3)
上記(3)式において、[]は製鋼スラグの各化合物の含有量(質量%)であり、T-CaOは、CaO、CaCO、Ca(OH)等のCaとOを有する全ての化合物中のCaをCaOに換算したものである。
【0037】
なお、図2からf-CaOの含有量に応じて1200℃から1000℃までの保持時間T2が下記(6)式および(7)式を満たすように製鋼スラグを冷却することがより好ましい。下記(6)式および(7)式を満たすように製鋼スラグを1200℃から1000℃まで冷却することで、製造されるスラグ材の粉化度合いを「低」にできる。
【0038】
T2≦-3.4×[f-CaO計算値]+43.0・・・(6)
f-CaO計算値≦11.0・・・(7)
上記(6)、(7)式において、T2は保持時間(h)であり、f-CaO計算値は上記(3)式で算出される値(質量%)である。
【0039】
このように、本実施形態に係るスラグ材の製造方法では、各温度域での製鋼スラグの冷却速度を調整するだけで、新たな設備や工程を必要としない。さらに、製鋼スラグに改質剤等を添加することもないので、本実施形態に係るスラグ材の製造方法を実施することで、新たな設備や工程を追加することなく、且つ、スラグ量を増加させることなく粉化が抑制されたスラグ材の製造が実現できることがわかる。
【0040】
図3は、スラグ材断面のSEM-EDX画像である。図3(a)は、上記(1)式を満足しないT1=-7.5×[f-CaO]+80の冷却条件で製鋼スラグを1200℃から1000℃まで冷却して製造したスラグ材の断面画像である。図3(a)のスラグ材は、上記(1)式を満足しないように冷却されたので、蒸気処理(100℃、常圧、48時間)後のスラグ材全体の質量と2.36mmの篩目を通過したものとの質量比が50質量%以上となった。
【0041】
図3(b)は、上記(1)式を満足するT1=-7.5×[f-CaO]+58の冷却条件で製鋼スラグを1200℃から1000℃まで冷却して製造したスラグ材の断面画像である。図3(b)のスラグ材は、上記(1)式を満足するように冷却されたので、蒸気処理(100℃、常圧、48時間)後のスラグ材全体の質量と2.36mmの篩目を通過したものとの質量比、あるいは、粒径が2.36mm未満の粉の発生率が5質量%以下となった。図3(a)、(b)に示したSEM-EDX画像おいて、白い部分は主相である2CaO・SiOを示し、灰色の部分はその他のスラグ相を示す。また、図3(a)のみに存在する黒い部分は亀裂によって生じた空隙を示す。
【0042】
図3(a)では、粒径が50μm以上である結晶粒の面積が全体に対して5%以上観察されたことから、粒径が50μm以上の結晶粒の含有割合は5質量%以上であると考えられる。一方、図3(b)では、観察された粒径が50μm以上である結晶粒の面積が全体の5%以下であったことから、粒径が50μm以上の結晶粒の含有割合は5質量%以下であると考えられる。これらの結果から、上記(1)式を満足する冷却条件で冷却され、水和膨張が抑制されるスラグ材は、粒径が50μm以上の結晶粒の含有割合が5質量%以下のスラグ材であることがわかる。一方、上記(1)式を満足しない冷却条件で冷却され、水和膨張が抑制されないスラグ材は、粒径が50μm以上の結晶粒の含有割合が5質量%以上のスラグ材であることがわかる。
図1
図2
図3