(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】セルロース系イオン交換膜及びその製造方法、エキソソーム精製用のデバイス、並びにエキソソームの精製方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/22 20060101AFI20231114BHJP
C12M 3/06 20060101ALI20231114BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20231114BHJP
C12M 1/26 20060101ALI20231114BHJP
C12N 5/00 20060101ALI20231114BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
C08J5/22 104
C08J5/22 CEP
C12M3/06
C12M1/00 A
C12M1/26
C12N5/00
G01N33/50 Z
(21)【出願番号】P 2022517116
(86)(22)【出願日】2021-04-23
(86)【国際出願番号】 JP2021016532
(87)【国際公開番号】W WO2021215539
(87)【国際公開日】2021-10-28
【審査請求日】2022-08-01
(31)【優先権主張番号】P 2020077436
(32)【優先日】2020-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】檜垣 綾乃
(72)【発明者】
【氏名】白馬 弘文
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-527617(JP,A)
【文献】特表平08-503161(JP,A)
【文献】国際公開第2017/154951(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02、5/12-5/22
C12M 1/00-3/10
C12N 1/00-7/08
G01N 33/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系ポリマーの2位、3位および6位のいずれかの水酸基またはアセチル基の少なくとも一部が正電荷を有する化合物で置換された、セルロース系イオン交換膜
であって、
最小孔径が50nm~600nmであり、
細孔径が30nm以上の細孔の比表面積が8m
2
/g以上であり、
平均厚みが10μm~1000μmであり、
pH6.5~7.5の範囲で測定したゼータ電位が10mV~70mVであり、
エキソソーム吸着用である、
セルロース系イオン交換膜。
【請求項2】
前記正電荷を有する化合物は、第3級アミンおよび/または第4級アンモニウムである、請求項1に記載のセルロース系イオン交換膜。
【請求項3】
イオン交換容量が0.1meq/g~0.9meq/gである、請求項1
又は2に記載のセルロース系イオン交換膜。
【請求項4】
前記イオン交換膜は、一方の表面から他方の表面に向かって細孔径が増大する非対称構造である、請求項1~
3のいずれか1項に記載のセルロース系イオン交換膜。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のセルロース系イオン交換膜を含む、エキソソーム精製用のデバイス。
【請求項6】
セルロース系ポリマーを含む多孔質基材膜を製造した後、2位、3位および6位のいずれかの水酸基またはアセチル基の少なくとも一部を正電荷を有する化合物に置換する、請求項1~
4のいずれか1項に記載のセルロース系イオン交換膜の製造方法。
【請求項7】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のセルロース系イオン交換膜または請求項
5に記載のデバイスを用いて、エキソソームを含む試料を膜透過させることにより前記エキソソームを吸着させる工程、前記膜に洗浄液を接触させて不純物を除去する工程、前記膜に溶離液を接触させて前記エキソソームを脱着させる工程、を含む、エキソソームの精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エキソソームを高純度に精製するためのイオン交換膜に関する。
【背景技術】
【0002】
エキソソームは、動物、植物、菌類等の真核細胞により放出される、直径約30-150nmの細胞外小胞であり、体液中にてタンパク質、mRNA、miRNA等を内包して伝播する等、細胞間の情報伝達に重要な機能を示すことが知られている。近年、癌の転移の亢進、癌の増悪にエキソソームが関与していることが示唆されており、癌由来のエキソソームから発現するmiRNAを腫瘍マーカーとする、癌の進行の予測、転移、予後を確認するバイオマーカー等、エキソソームに注目した診断用マーカーが開発されている。
【0003】
また、エキソソームは、生体から分離精製することで、細胞内の核酸、タンパク質等を内包する生物由来の輸送体として、ドラッグ・デリバリー・システム(DDS)への応用が期待されている。それ故、高純度にエキソソームを分離精製する技術が求められている。
【0004】
エキソソームを分離精製する方法として、遠心分画法、密度勾配遠心法等の超遠心法、ポリエチレングリコール等のポリマーを用いた沈殿法、サイズ排除クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー等のクロマトグラフィー法が挙げられる。一般的な方法としては、超遠心分離法が挙げられ、密度勾配遠心によって高純度のエキソソームが得られる場合がある。しかしながら、超遠心分離法は、遠心過程においてエキソソームの構造変化、破壊による品質の低下、回収率が低い等の問題がある。
【0005】
上記の超遠心法以外の分離精製法として、フィルターを用いたろ過法が知られている。該方法は、エキソソームの分離に適した膜孔径を持つろ過膜を用いることで、夾雑物とエキソソームの分離を行うことができるため、超遠心法よりも簡便に行うことができる。しかしながら、フィルター表面では夾雑物により目詰まりが生じるため大量の分離精製には不向きであり、またフィルターに捕捉されたエキソソームを回収することが困難である。
【0006】
フィルターからエキソソームを高純度で回収する方法として、特許文献1では、多孔質体からなる孔空き基盤を用いる分離回収方法が開示されている。当該発明は、エキソソームを高い捕捉率で回収できるが、回収工程では、超音波振動の付与、電場印加または圧力印加が必要である。
【0007】
また、エキソソームを高純度で回収する方法として、抗体をコートした磁性ビーズを用いる方法、ペプチドを担持した磁性ビーズを用いる方法が知られている(特許文献2、3)。磁性ビーズを用いる場合、磁性材料の原料コストがかかり、回収方法にも制限が生じる。
【0008】
また、特許文献4では、イオン交換基を有するセルロース膜が開示されている。当該イオン交換膜は、酢酸セルロース多孔質膜をアルカリ等で加水分解し、続いて、ジエチルアミノエチル基(DEAE基)等のカチオン性基を導入した膜として開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2017/154951号パンフレット
【文献】特開2017-067706号公報
【文献】国際公開第2019/039179号パンフレット
【文献】特開平7-081022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記技術的問題を解決することを目的とするものであり、その目的は、エキソソームを高純度かつ低コストに分離精製できるイオン交換膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意検討した結果、以下に示す手段により上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
1. セルロース系ポリマーの2位、3位および6位のいずれかの水酸基またはアセチル基の少なくとも一部が正電荷を有する化合物で置換された、セルロース系イオン交換膜。
2. 前記正電荷を有する化合物は、第3級アミンおよび/または第4級アンモニウムである、1に記載のセルロース系イオン交換膜。
3. 最小孔径が50nm~600nmである、1または2に記載のセルロース系イオン交換膜。
4. イオン交換容量が0.03meq/g~0.9meq/gである、1~3のいずれかに記載のセルロース系イオン交換膜。
5. 平均厚みが10μm~1000μmである、1~4のいずれかに記載のセルロース系イオン交換膜。
6. pH6.5~7.5の範囲で測定したゼータ電位が10mV~70mVである、1~5のいずれか1頁に記載のセルロース系イオン交換膜。
7. 細孔径が30nm以上の細孔の比表面積が8m2/g以上である、1~6のいずれか1項に記載のセルロース系イオン交換膜。
8. 前記イオン交換膜は、一方の表面から他方の表面に向かって細孔径が増大する非対称構造である、1~7のいずれかに記載のセルロース系イオン交換膜。
9. 1~8のいずれかに記載のセルロース系イオン交換膜を含む、エキソソーム精製用のデバイス。
10. セルロース系ポリマーを含む多孔質基材膜を製造した後、2位、3位および6位のいずれかの水酸基またはアセチル基の少なくとも一部を正電荷を有する化合物に置換する、1~7のいずれかに記載のセルロース系イオン交換膜の製造方法。
11. 1~7のいずれかに記載のセルロース系イオン交換膜または9に記載のデバイスを用いて、エキソソームを含む試料を膜透過させることにより前記エキソソームを吸着させる工程、前記膜に洗浄液を接触させて不純物を除去する工程、前記膜に溶離液を接触させて前記エキソソームを脱着させる工程、を含む、エキソソームの精製方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のイオン交換膜は、膜厚方向において、一方の表面から他方の表面に向かって孔径が拡大または縮小する、いわゆる非対称構造を有することで、生体液に含まれるサイズの大きなアポトーシス小体等の夾雑物の膜透過性を制御しながら、直径30-150nmのエキソソームの分離性を高めることができる。さらには、正電荷基を含有することで、負電荷性のエキソソームを静電的に捕捉することができ、培養上清から簡便かつ高純度にエキソソームを分離精製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明のイオン交換膜を用いたエキソソーム分離の概念を示す模式図である。
【
図2】製造例1の多孔質基材膜の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図3】本発明のイオン交換膜の走査型電子顕微鏡の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、セルロース系ポリマーの2位、3位および6位のいずれかの水酸基またはアセチル基の少なくとも一部が正電荷を有する化合物で置換された、セルロース系イオン交換膜である。
【0016】
本発明において、セルロース系ポリマーとしては、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートラウレート、セルロースアセテートオレート、及びセルロースアセテートステアレート等が挙げられるが、正電荷を有する化合物の導入のしやすさの面からセルロースアセテートを用いるのが好ましい。セルロースアセテートは、酢化度、分子量が異なるものが市販されており、酢化度が52~62程度のセルロースアセテートまたはセルローストリアセテートを用いるのがより好ましい。
【0017】
本発明において、正電荷を有する化合物としては、下記式(I)で表される第3級アミンまたは下記式(II)で表される第4級アンモニウム化合物を用いるのが好ましい。式中、R1~R3は同一または異なる水素原子、もしくは炭素数1~10の直鎖あるいは分岐状アルキル基を示し、メチレン基のnは1~5の整数を示す。式中、Xは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子、トシラート、トリフラート、メシラート等のスルホン酸エステル等の脱離基、アルコキシシリル、シラノール等のシリル基、エポキシド基、イソシアネート基、カルボン酸基からなる群から選ばれる1種以上を示す。正電荷を有する化合物は、何れの置換基Xを用いてもよいが、原料の入手のしやすさの面からは、Xが塩素、シリル基、エポキシド基を有する化合物が好ましい。
【0018】
【0019】
【0020】
本発明において、セルロース系イオン交換膜は、一方の表面から他方の表面に向かって細孔径がほぼ一定である、いわゆる均質膜でもよいし、一方の表面から他方の表面に向かって連続または不連続に細孔径が変化する、いわゆる非対称膜でもよい。また、前記イオン交換膜の最小孔径は50nm~600nmであるのが好ましい。非対称膜において、最小孔径層は、いずれかの表面近傍にあるのが好ましい。最小孔径が大きいと、膜面および/または細孔表面へのエキソソームの接触確率が低下し、被処理液中のエキソソームの吸着率が低くなることがある。また、細胞屑やアポトーシス小胞を除去することができないことがある。一方、最小孔径が小さいと、膜内部に入り込んだエキソソームの回収率が低下するとか、回収に時間を要することがある。したがって、最小孔径は55nm~400nmがより好ましく、60nm~300nmがさらに好ましい。なお、最小孔径は、後述するようにポリスチレン粒子分散液を用いて測定したときに、阻止率が80%以上となるポリスチレン粒子径をイオン交換膜の最小孔径とする。
【0021】
また、前記イオン交換膜の表面(最小孔径層を有しない側の表面)の平均孔径は、100nm以上5000nm以下であるのが好ましい。表面の平均孔径が小さいと、処理速度が遅くなることがある。また、表面の平均孔径が大きいと、膜に吸着されずに漏出するエキソソーム量が多くなり回収率が低下することがある。また、表面の平均孔径が小さすぎても大きすぎてもデプスろ過の効果を発揮できないことがある。なお、表面の平均孔径は、後述するように、膜の表面(一方の表面および他方の表面)を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて倍率1000~20,000倍で撮影した写真に基づいて、画像処理ソフトImage Jにより算出することができる。
【0022】
本発明において、被処理液は、クロスフローで処理してもよいし、デッドエンドで処理してもよい。また、非対称膜を用いる場合、大孔径側に被処理液を導入してもよいし、小孔径側に導入してもよい。たとえば、培養上清など、固形成分濃度が低く、エキソソーム濃度が高い生体試料では、
図1に示すように、孔径が大きい面を一次側、孔径が小さい面を二次側とすることで、生体試料を膜にロードしてエキソソームを膜に荷電吸着させる際にも、吸着したエキソソームにより膜の細孔が詰まることを防ぐことができる。一方、血清、血漿、尿や乳など、エキソソーム濃度に対して固形成分濃度が比較的高い生体試料では、孔径が小さい面を一次側、孔径が大きい面を二次側とすることで、表層ろ過により夾雑物を除去することができ、細孔の完全閉塞による膜の詰まりを防止することができる(
図1参照)。
【0023】
本発明において、セルロース系イオン交換膜のイオン交換容量は、0.05meq/g~1.5meq/gであることが好ましい。イオン交換容量が小さいと、膜のゼータ電位が安定して十分な値を発現できず、エキソソームのような拡散係数の小さい精製対象物質では、サンプル中の粒子を十分に膜に引き寄せることができず、吸着量が小さくなり、大容量のデバイスが必要となる。一方、イオン交換容量が大きいと、膜の強度が不足することがある場合や、膜の単位体積当たりの吸着量が大きくなりすぎて膜詰まりが発生する場合がある。なお、3級アミン化合物を使用する場合は、イオン交換容量は、膜重量当たり0.03meq/g~0.9meq/gであるのが好ましい。また、第4級アンモニウム化合物を使用する場合は、イオン交換容量は、膜重量当たり0.03meq/g~0.4meq/gであるのが好ましい。
【0024】
本発明において、セルロース系イオン交換膜の形態は、平膜であってもよいし、中空糸膜であってもよいが、膜の厚みは10μm~1000μmであるのが好ましい。膜の厚みが薄いと、膜の強度が不足し製膜やデバイス作製における取扱い上の問題を生ずることがある。一方、膜の厚みが厚いと、エキソソームの回収に時間を要するとか、回収率が低下することがある。したがって、膜の厚みは10μm~500μmがより好ましく、10μm~300μmがさらに好ましい。また、中空糸膜の場合、内径は50μm~1000μmが好ましい。内径が小さいと、中空部を流れる液体の剪断応力が大きくなるため、エキソソームにダメージを与えることがある。一方、内径が大きいと、デバイスあたりの膜面積が小さくなることがある。したがって、内径は100μm~700μmがより好ましく、100μm~500μmがさらに好ましい。
【0025】
本発明において、セルロース系イオン交換膜のゼータ電位は、pH6.5~7.5の条件にて10mV~70mVの範囲が好ましく、15mV~65mVの範囲がより好ましく、20mV~60mVがさらに好ましい。ゼータ電位が10mVより低い膜では、拡散係数の低いエキソソームに対する吸着力が弱く、十分な吸着性が得られないことがある。ゼータ電位が70mVより高い膜では、膜強度の低下が起こる場合があり、また、エキソソームのような粒子を精製対象とする場合、膜単位体積あたりの吸着量が大きすぎると、膜詰まりを起こす場合がある。前記セルロース系イオン交換膜のゼータ電位は、平板ゼータ電位測定用セルを用いて測定することができる。
【0026】
本発明において、セルロース系イオン交換膜の比表面積は、細孔径が30nm以上の細孔の比表面績の合計が8m2/g以上が好ましく、15m2/g以上がより好ましく、20m2/g以上がさらに好ましい。比表面積が小さいと、エキソソームの十分な吸着量を得られないことがある。比表面積は一般的に、ガス吸着法や水銀圧入法により測定される。ガス吸着法では、およそ2nm以下のマイクロポアおよび2nm~50nmのメソポアの比表面積を検出できるのに対し、水銀圧入法ではメソポアおよび50nm以上のマクロポアを検出することができる。比表面積は、エキソソームの吸着量を確保するために大きい方がよいが、エキソソームは、細孔径が30nm未満のポア内部には入り込めないので、膜の単位体積あたりのエキソソームの吸着量を大きくするためには、細孔径が30nm以上のメソポアおよびマクロポアから成る比表面積が十分大きい必要がある。なお、細孔の比表面積は大きすぎて問題となることはないが、150m2/g以下が好ましく、120m2/g以下がより好ましい。
【0027】
また、イオン交換膜の気孔率は40%以上であるのが好ましい。気孔率が小さすぎると、エキソソームが吸着する領域が少なくなり、逆に気孔率が大きすぎると、膜の強度が保てなくなることがある。したがって、気孔率は45%以上90%以下がより好ましく、50%以上85%以下がさらに好ましく、55%以上85%以下がさらにより好ましい。
【0028】
本発明のイオン交換膜をエキソソームの分離精製に用いる際には、ゼータ電位、比表面積、および気孔率等を特定の範囲に調整するのが好ましい。エキソソームは、前記したように大きさが30nm~150nmであり、表面に負電荷を有する細胞外小胞である。例えば、生体試料や細胞培養上清中のエキソソームを効率よく吸脱着させる場合に、細孔が小さすぎると(マイクロポアが多すぎると)細孔内にエキソソームが入り込まないため膜面積(比表面積)を大きくしても吸着領域(吸着容量)を稼ぐことができない。また、細孔が大きすぎると(マクロポアが多すぎると)、膜表面とエキソソームとの距離が遠すぎて電気的な吸引力が働きにくくなるとか、直径が150nmを超える細胞外小胞が細孔内に入り込み、目的のエキソソームの吸着効率が低下することがある。一方、イオン交換膜は、ある程度マイクロポアを有する方がよい場合がある。生体試料や細胞培養上清中には、種々の小分子量物質が多く含まれており、これらの中には電荷を有する物質も数多くある。このような小分子量物質をマイクロポア内に吸着させることにより、メソポアやマクロポアの吸着部位をエキソソームの吸着に有効に利用することが可能となる。細孔径が30nm未満の細孔の比表面積は30m2/g以上80m2/g以下が好ましい。
【0029】
以下、本発明のセルロース系イオン交換膜の製造について説明する。
【0030】
本発明において、イオン交換膜の製造は、イオン交換基を導入したポリマーを用いて製膜してもよいし、セルロース系多孔質基材膜を製造した後にイオン交換基を導入してもよい。後者の例として、セルロース系ポリマーを含む多孔質基材膜を製造した後、2位、3位および6位のいずれかの水酸基またはアセチル基の少なくも一部を正電荷を有する化合物に置換することにより、セルロース系イオン交換膜を得る方法について説明する。
【0031】
本発明において、セルロース系ポリマーを含む多孔質基材膜は、セルロース系ポリマーを溶媒および非溶媒と混合して製膜溶液を作製した後、中空状に吐出させ、空気中で乾燥する方法(乾式法)、凝固浴中に導き凝固させる方法(湿式法)、温度を急激に変化させる方法(熱誘起型相分離法)、延伸法等用いることができる。いずれの方法を用いてもよいが、製膜溶液の吐出後に凝固浴中で凝固させる乾湿式法が製膜管理の容易性や複雑な設備が不要であることなどから好ましい。他方、平膜は、セルロース系ポリマーを溶媒に溶解し、溶液をガラス等の基材へ均一に塗布し、凝固液へ浸漬して凝固させた後、洗浄、必要により乾燥することにより多孔質基材膜を作製することができる。製膜溶液中のセルロース系ポリマーの濃度としては、5wt%~40wt%の範囲が好ましく、より好ましくは10wt%~35wt%の範囲である。
【0032】
製膜溶液の調製に用いる溶媒としては、セルロース系ポリマーが溶解する溶媒であれば制限はないが、商業的に入手しやすく、製膜時に適度な粘性を有するγ-ブチロラクトン、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド等の極性溶媒が好ましい。前記溶媒は、そのまま単独で用いてもよいが、混合して用いてもよい。また、必要により、水、グリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール(200、400)等の非溶媒を添加してもよい。製膜溶液中の溶媒と非溶媒の混合比(溶媒/非溶媒)は、90/10~10/90が好ましい。
【0033】
本発明において、凝固液は、溶媒、非溶媒および水からなる混合液を用いるのが好ましい。また、凝固液中の溶媒/非溶媒比は、製膜溶液中の溶媒/非溶媒比に合わせるのが好ましい。製膜溶液と凝固液の溶媒/非溶媒比を合わせることにより、連続製膜時にも凝固液の組成変動を抑えることができる。平膜の場合、N-メチルピロリドンと水の混合溶液の重量比が30:70~50:50の範囲が好ましく、より好ましくは40:60~50:50の範囲内である。凝固浴をこのような組成とすることで、凝固浴に最初に接する側の膜表面の孔径が、基材との接触面側の膜表面の孔径よりも大きくなり、厚み方向に対して非対称構造が形成される。凝固浴中のN-メチルピロリドンの濃度が25%以上30%未満であると、凝固浴に最初に接する側の膜面の孔径が、基材との接触面側の膜表面の孔径と等しくなり、膜の非対称構造が緩和される傾向にある。さらに、凝固浴中のN-メチルピロリドンの濃度が25%未満となると、凝固浴に最初に接する側の膜面に、明確な孔のない緻密層が形成されやすくなる。凝固液の温度は、5~60℃が好ましい。
【0034】
得られた多孔質基材膜は、温水で洗浄して過剰の溶媒等を除去する。洗浄後の多孔質基材膜は、水中で保存してもよいし、細孔内にグリセリン水溶液等の細孔保持剤を充填した後、乾燥してもよい。
【0035】
前記得られた多孔質基材膜は、次にイオン交換基を導入する処理を行う。具体的には、脱アセチル化処理を行った後、水酸基への荷電付与処理を行う。一例として、セルロース系多孔質基材膜の水酸基に正電荷性基を置換してカチオン性セルロース膜(イオン交換膜)を作製する方法としては、前記セルロース系多孔質基材膜をアルカリ存在下で非溶解性溶媒中に浸漬し、正電荷を有する化合物の溶液を滴下して、加熱条件下で反応させ、アルコールでクエンチすることで作製することができる。
【0036】
前記非溶解性溶媒としては、セルロース系多孔質基材膜が溶解しない溶媒であり、正電荷を有する化合物が溶解する溶媒であれば特に制限はない。例えば、水、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)等が好例であり、原料の溶解性に応じて単独または混合して使用してもよい。
【0037】
脱アセチル化に用いるアルカリとしては、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化セシウム等の水酸化物、及び炭酸塩、有機アミン等を用いることができる。その中でも工業的に安価な水酸化ナトリウムを用いるのが好ましい。使用するアルカリの濃度としては、0.05質量%~5.0質量%の範囲が好ましい。また、膜重量に対し1.0質量%~10.0質量%の範囲が好ましい。アルカリの濃度が低いと、荷電基の導入量を増やすことができず、単位容積あたりのエキソソーム吸着量を大きくすることができない。一方、アルカリの濃度が高いと、膜の膨潤度が大きくなるため、荷電基導入後のイオン交換膜において基材膜の構造(細孔径)や物性(膜強度)を保持できなくなってしまう。したがって、アルカリの濃度は0.1~2.5質量%がより好ましく、0.2~2.0質量%がさらに好ましい。
【0038】
上記反応温度としては、50~80℃が好ましく、より好ましくは50~70℃である。反応温度が低いと、反応不足により、正電荷基の置換率の低下が起こる場合がある。反応温度が高い場合、膜が熱変形する場合がある。
【0039】
上記正電荷を有する化合物の添加量によって、セルロース膜に対する荷電基付与量を制御することができる。例えば、エポキシ基含有の3級アミン化合物を使用する場合、非溶解性溶媒中の上記3級アミン化合物の濃度は、0.01mоl/L~3.0mоl/Lの範囲が好ましく、0.02mоl/L~1.5mоl/Lの範囲がより好ましい。この場合、イオン交換容量は、セルロース膜重量当たり0.05meq/g~0.9meq/gに相当する。エポキシ基含有の上記第4級アンモニウム化合物を使用する場合、非溶解性溶媒中の上記4級アミン化合物の濃度は、0.01mоl/L~1.0mоl/Lの範囲が好ましく、より好ましくは0.02mоl/L~0.5mоl/Lの範囲である。この場合、イオン交換容量は、セルロース膜重量当たり0.05meq/g~0.4meq/gに相当する。正電荷の荷電基付与量が多すぎると、ポリマー1分子あたりの正電荷基の含有量が高くなるため、水溶性が高くなり、水中での膜強度が弱くなる場合がある。また、正電荷の荷電基付与量が小さすぎると、エキソソームの捕捉効率が低くなる場合がある。
【0040】
本発明において、イオン交換膜は、被処理液を導入するための導入口と、イオン交換処理された被処理液を排出するための排出口と、を備えた容器内に収められたデバイスの形態とすることが好ましい。このデバイスは、イオン交換膜で仕切られた第1室と第2室とを有し、第1室に導入された被処理液はイオン交換膜を透過して第2室に移動する。この際、被処理液中のエキソソームは、イオン交換膜の表面および細孔表面に吸着される。
【0041】
本発明において、イオン交換膜を用いてエキソソームを分離精製する方法として、セルロース系イオン交換膜に、エキソソームを含む試料(被処理液)を透過させて前記エキソソームを吸着させる工程、前記セルロース系イオン交換膜に洗浄液を接触させて不純物を除去する工程、前記セルロース系イオン交換膜に溶離液を接触させて前記エキソソームを脱着させる工程、を経るのが好ましい。
【0042】
エキソソームを含む試料(被処理液)としては、特に限定されるものではないが、培養上清(細胞培養液)、血液(血清、血漿)、尿、髄液、リンパ液、腹水、乳などの他、ホモジナイズ抽出液などを対象とすることができる。
【0043】
セルロース系イオン交換膜に、エキソソームを吸着させる条件は特に限定されず、エキソソームを含む被処理液を前述したようなクロスフローろ過またはデッドエンドろ過で前記イオン交換膜に接触させればよい。本発明において、エキソソームは、その表面負電荷により正電荷を有するイオン交換膜(アニオン交換膜)に荷電吸着するメカニズムを利用するが、ろ過速度が速すぎると、前記膜の内部を通過するエキソソームにダメージを与えることがあるので、0.3mL/min/cm2~100mL/min/cm2とするのが好ましい。
【0044】
エキソソームを吸着させた前記イオン交換膜には、被処理液に含まれる不純物(荷電吸着や疎水性相互作用により吸着するタンパク質等)も吸着されるため、回収されたエキソソームの純度を高めるために洗浄処理を行うのが好ましい。洗浄処理に用いる洗浄液としては、緩衝液または低濃度の生理食塩水を含む緩衝液を用いるのが好ましい。緩衝液は、例えば、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等が挙げられる。
【0045】
洗浄して不純物を除去したイオン交換膜は、次にイオン交換膜に吸着したエキソソームを溶出するために溶離液に接触させる処理を行う。イオン交換膜に荷電吸着したエキソソームは、塩濃度やpHを変化させることにより容易に脱離させることができる。溶離液として塩溶液を用いる場合は、塩化ナトリウム水溶液を用いるのが好ましい。塩化ナトリウム水溶液を用いる場合、生体の電解質濃度に近い濃度範囲であればよく、例えば0.1mоl/L~1.5mol/Lの範囲が好ましい。塩濃度が低いと、エキソソームを溶出させることができないことがある。また、塩濃度が高いと、洗浄で除去しきれなかった不純物が溶出して回収したエキソソームの純度が低下することがある。エキソソームの回収率は、70%以上であるのが好ましい。
【実施例】
【0046】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0047】
[多孔質基材膜の作製]
(製造例1)
セルロースアセテート(シグマアルドリッチ社製、分子量5000、置換度2.45)11質量%、γ-ブチロラクトン(ナカライテスク社製)53質量%、N-メチルピロリドン(以下、NMPと略すことがある)(ナカライテスク社製)36質量%を均一に溶解し、製膜溶液を作製した。製膜溶液を2時間脱気後、室温、相対湿度62%の条件下で、隙間を0.2mmに設定したアプリケーターを用いて上記溶液をガラス板のうえに均一に広げた。ガラス板ごと凝固液(NMP/水(RO水)=48/52)へ静かに投入し、凝固させた。凝固が完了した後、凝固液から膜を引き上げ、水洗して多孔質基材膜1を得た。
【0048】
(製造例2)
凝固液のNMP/水(RO水)の混合比として、55/45を用いた以外は、製造例1記載の方法により多孔質基材膜2を得た。
【0049】
(製造例3)
凝固液のNMP/水(RO水)の混合比として、60/40を用いた以外は、製造例1記載の方法により多孔質基材膜3を得た。
【0050】
[イオン交換膜の作製]
(実施例1)
上記製造例1で得られた多孔質基材膜1を0.4質量%水酸化ナトリウム水溶液に室温で4時間浸漬し、脱アセチル処理を実施した。得られた膜に対し、膜重量に対し5質量%の水酸化ナトリウムを触媒とし、水酸化ナトリウム濃度が0.3質量%となるように水を加え、膜を浸漬させた。グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド(GTMAC、東京化成社)の仕込量を0.15mol/Lとし、65℃で4時間反応させて膜をカチオン化し、イオン交換膜1を作製した。
【0051】
(実施例2)
上記製造例2で得られた多孔質基材膜2を用いた以外は、実施例1と同様の方法によりイオン交換膜2を作製した。
【0052】
(実施例3)
上記製造例3で得られた多孔質基材膜3を用いた以外は、実施例1と同様の方法によりイオン交換膜3を作製した。
【0053】
(実施例4)
グリシジルトリメチルアンモニウムクロリドの仕込量を、0.23mol/Lとした以外は、実施例1と同様の方法によりイオン交換膜4を作製した。
【0054】
(実施例5)
グリシジルトリメチルアンモニウムクロリドの代わりに、N,N-ジエチル-N-グリシジルアミン(DOA、Enamine社)を用いた以外は、実施例1と同様の方法によりイオン交換膜5を作製した。
【0055】
(実施例6)
製造例1で得られた多孔質基材膜を6質量%水酸化ナトリウム水溶液(20℃)で膨潤させた後、水酸化ナトリウムとN,N-ジエチル-N-グリシジルアミンの重量比が4:7、水酸化ナトリウムとN,N-ジエチル-N-グリシジルアミンの合計重量の水溶液濃度が4質量%の浴に入れ、浴温度75℃で20分間反応させた。反応終了後、脱イオン水で洗浄して乾燥させ、イオン交換膜6を得た。
【0056】
(粒子の阻止率評価)
多孔質基材膜およびイオン交換膜の阻止率をポリスチレン粒子の分散液を用いて評価した。種々のサイズのポリスチレン粒子を0.01質量%、Tween(登録商標)20水溶液中に分散させた溶液を、操作圧10kPaで膜を透過させて、透過液を得た。もとの溶液および透過液中のポリスチレン粒子濃度を250nmの吸光度で測定して、下記式により阻止率を算出した。
阻止率(%)={1-(Ca-Cb)/Ca}×100
Ca:もとの溶液のポリスチレン粒子濃度
Cb:透過液のポリスチレン粒子濃度
粒子径が79、132、208、262、313、420、460、616nmのポリスチレンを用いて阻止率の測定を行い、阻止率が80%になるポリスチレン粒子径を最小孔径とした。
製造例1~3で作製した各多孔質基材膜の阻止率を表1に示す。
【0057】
【0058】
(膜の構造観察)
上記得られた膜をSEM用試料台に乗せて室温で乾燥させ、プラチナ蒸着し、走査型電子顕微鏡(日立製 SU-1500)で観察した。
【0059】
(膜の大孔径側の平均孔径の測定)
10000倍で観察した膜の前記表面SEM画像について、大孔径側の平均孔径を以下の手順で測定した。画像処理ソフトImageJ上で画像を開き、ツールバーから直線ツールを用いてスケールバーの範囲に線を引き、Analyze>Set Scaleを選択し、「Known Distance」にスケールバーの長さ、「Unit of length」に単位を入力した.Image>Adjust>Auto Thresholdにて、MethodのモードをDefaultに設定し、OKを選択して二値化した。Analyze>Set Measurementsにて、「Feret‘s diameter」にチェックが入っていることを確認し、OKを押した。Analyze>Analayze Particlesにて,「Size(pixel^2)」を0-Imfinityとし、「Display results」「Exclude on edges」「Include holes」の各ボックスにチェックが入っていることを確認してOKを選択して、Results画面にてフェレ径の測定データを得た。15ピクセル以下のノイズを消去するため、15ピクセルに相当する長さをFeret径と同じ単位で計算し、それ以下の値は消去して、フェレ径の平均値を算出した。
【0060】
(イオン交換容量の測定)
イオン交換容量測定は、下記の通り測定した。0.1質量%のブロモフェノールブルー(BPB)水溶液を調製し、膜を1時間浸漬させて染色した。染色後の膜を水洗したあと、8質量%塩化ナトリウム水溶液に浸漬させて膜に吸着していたBPBを溶出させた。BPBが溶出した8%塩化ナトリウム水溶液の590nm吸光度を測定し、カチオン化膜に吸着していたモル数を算出した。
【0061】
(ゼータ電位の測定)
膜のゼータ電位は、ゼータサイザーナノZS(Malvern社製)に平板ゼータ電位測定用セル(ZEN1020)を取り付け、pH6.5~7.5のイオン交換水中にて酸化アルミニウム粒子の移動度を測定し、算出した。
【0062】
(比表面積、および気孔率の測定)
比表面積および気孔率は、細孔分布測定装置[オートポアV9620(マイクロメリティクス社製)]を用いて、以下の条件にて測定した。
試料0.06~0.08gを標準セル(容積6mL)に採り、初期圧2.2kPa(細孔直径約560μm相当)の条件で測定した。水銀パラメータは、装置デフォルトの水銀接触角130.0degrees、水銀表面張485.0dynes/cmに設定した。細孔分布は、サンプル内に浸透した水銀のLog微分体積の推移を細孔径に対してプロットし、細孔分布曲線を得た。また、DA(Dubinin-Astakhov)法により得られた細孔容積から気孔率を求めた。
比表面積は、各モード径Dに対する細孔容積Vを測定し、それぞれのモード径Dに対する比表面積Sを下記式から求め、0.03μm~500μm範囲の総和から全比表面積を算出した。
S=4V/D
【0063】
(培養上清を用いたエキソソームの回収)
HEK-293細胞の培養液を低速度遠心し、遊離細胞を除去した得られた上清液を得た。実施例および比較例で得られた膜(直径25mm)をホルダーに固定し、培養上清液を透過速度2mL/minの速度で透過させた。続いて、トリスリン酸緩衝液(5mL)を通液し、膜内部の不純物を除去した後に、0.8Mの塩化ナトリウム水溶液(10mL)を通液させた。通液後の塩化ナトリウム水溶液中のエキソソームの回収率は、ナノ粒子解析システム(ナノサイト、Malvern Panalytical)で処理前後の10nm~900nmの粒子数を測定することで求めた。HEK-293細胞由来の上清には、エキソソームが2×109個/mlの濃度で含まれていた。
【0064】
(比較例1)
製造例1の多孔質基材膜1を用いて、エキソソームの回収テストを実施した。
【0065】
(比較例2)
HEK-293細胞由来の培養液を低速度遠心し、遊離細胞を除去した得られた上清液を得た。上清液を150,000×gで3時間、超遠心を行い、ペレットをトリス緩衝液に再懸濁した。
【0066】
(比較例3)
非溶解性溶媒を水:DMSO=1:1とし、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリドの仕込量を6mol/Lとした以外は、実施例1と同様の方法によりイオン交換膜を作製した。
【0067】
(比較例4)
多孔質基材膜としてアドバンテック社(C300A047A)を用いた以外は、実施例1と同様の方法によりイオン交換膜を作製した。
【0068】
(比較例5)
グリシジルトリメチルアンモニウムクロリドの仕込量を、0.01mol/Lとした以外は、実施例1と同様の方法によりイオン交換膜を作製した。
【0069】
実施例1-6および比較例1、3、4、5で得られた膜を用いた各種試験結果および比較例2で得られた結果を表2にまとめた。
【0070】
【0071】
表2の結果から明らかなように、実施例のイオン交換膜は、細孔構造(マイクロポア~マクロポア)と非対称性のバランスに優れ、かつ適正なイオン交換容量を有しているため、高いエキソソーム回収率を示すことが分かった。また、
図2に示される通り、製造例1の多孔質基材膜は、基台面側と空気面側で孔径が異なり、膜断面方向で細孔径が変化する非対称構造が確認された。また、
図3から明らかなように、本発明においては荷電基を導入する前後において、膜構造に膨潤等の大きな変化がないことがわかる(
図3)。一方、比較例1の多孔質基材膜1は、エキソソームの膜への吸着量が少ないためか、回収率が低い結果となった。比較例3の膜は、イオン交換容量が大きすぎて膜形状を維持することができなかった。比較例4の膜は、メソポア~マクロポアの比率(比表面積)が低すぎるためか、十分なエキソソームの回収率を得ることができなかった。比較例5の膜は、イオン交換容量およびゼータ電位が低すぎるためか、十分なエキソソームの
回収率を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明により、生体試料中に含まれるエキソソームを、簡便かつ低コストに精製分離することが可能となる。
【符号の説明】
【0073】
1・・・イオン交換膜
2・・・不純物(大)
3・・・エキソソーム
4・・・不純物(小)